説明

半導体装置および半導体装置の製造方法

【課題】半導体素子が繰り返し高温で動作してヒートサイクルを受ける場合も、封止樹脂に亀裂が生じたり、基板から剥離を起こしたりし難い信頼性の高い半導体装置を提供する。
【解決手段】絶縁基板の片面に表面電極パターンが、および絶縁基板の他の面に裏面電極パターンが、それぞれ形成された半導体素子基板と、表面電極パターンの、絶縁基板とは反対側の面に接合材を介して接合された半導体素子と、この半導体素子および表面電極パターンを覆う第一の封止樹脂と、絶縁基板の表面で、少なくとも表面電極パターンまたは裏面電極パターンが形成されていない部分と第一の封止樹脂とを覆う第二の封止樹脂と、を備え、第二の封止樹脂の弾性率は、第一の封止樹脂の弾性率よりも小さいとともに、第一の封止樹脂の半導体素子に対応する中央部分が周辺部分よりも厚みが厚くなるように段差を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置、特に高温で動作する半導体装置の実装構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業機器や電鉄、自動車の進展に伴い、それらに使用される半導体素子の使用温度も上昇している。近年、高温でも動作する半導体素子の開発が精力的に行われ、半導体素子の小型化や高耐圧化、高電流密度化が進んでいる。特に、SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体は、Si半導体よりもバンドギャップが大きく、半導体装置の高耐圧化、小型化、高電流密度化、高温動作が期待されている。このような特徴を持つ半導体素子を装置化するためには、半導体素子が150℃以上の高温で動作する場合も、接合材のクラックや配線の劣化を抑えて半導体装置の安定な動作を確保する必要がある。
【0003】
一方、半導体装置において半導体素子を樹脂で封止する方法として、特許文献1には、ダム材を用いて半導体素子の周囲を囲い、その内側を部分的に樹脂封止する方法が提案されている。また、特許文献2には、半導体素子を覆う樹脂が流れ広がるのを防止するために、半導体素子の周囲に流れ止めシートを設ける方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−124401号公報
【特許文献2】特開昭58−17646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている方法では、半導体素子がSiCなどの材料のワイドバンドギャップ半導体素子になって、これまで以上に高温で動作したり、これに対応してヒートサイクル試験の温度が高温になったりすると、封止樹脂に亀裂が生じたり、基板から剥離を起こしたりして、半導体装置の信頼性を損ねる課題があった。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、半導体素子が繰り返し高温で動作してヒートサイクルを受ける場合も、封止樹脂に亀裂が生じたり、基板から剥離を起こしたりし難い信頼性の高い半導体装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、絶縁基板の片面に表面電極パターンが、および絶縁基板の他の面に裏面電極パターンが、それぞれ形成された半導体素子基板と、表面電極パターンの、絶縁基板とは反対側の面に接合材を介して接合された半導体素子と、この半導体素子および表面電極パターンを覆う第一の封止樹脂と、絶縁基板の表面で、少なくとも表面電極パターンまたは裏面電極パターンが形成されていない部分と第一の封止樹脂とを覆う第二の封止樹脂と、を備え、第二の封止樹脂の弾性率は、第一の封止樹脂の弾性率よりも小さいとともに、第一の封止樹脂の半導体素子に対応する中央部分が周辺部分よりも厚みが厚くなるように段差を設けたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る半導体装置は上記のように構成されているため、高温動作時に、弾性率
が小さい第二の封止樹脂において応力が緩和されるとともに、第一の封止樹脂の端部での応力集中が緩和され、封止樹脂に亀裂が生じたり、基板から剥離を起こしたりし難く、高温動作による動作不良を起こし難い信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1による半導体装置の基本構造を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による半導体装置の基本構造を、部品の一部を取り除いて示す上面図である。
【図3】この発明の実施の形態1による半導体装置の別の基本構造を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1による半導体装置の効果を説明する図である。
【図5】この発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法を示す第一の模式図である。
【図6】この発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法を示す第二の模式図である。
【図7】この発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法に用いる区画壁を示す斜視図である。
【図8】この発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法に用いる第一の封止樹脂副部枠を示す斜視図である。
【図9】この発明の実施の形態3による半導体装置の製造方法を示す第一の模式図である。
【図10】この発明の実施の形態3による半導体装置の製造方法を示す第二の模式図である。
【図11】この発明の実施の形態4による半導体装置の製造方法に用いる半導体素子基板を示す図である。
【図12】この発明の実施の形態4による半導体装置の製造方法を示す第一の模式図である。
【図13】この発明の実施の形態4による半導体装置の製造方法を示す第二の模式図である。
【図14】この発明の実施の形態4による半導体装置の製造方法を示す第三の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による半導体装置の基本構造を示す断面図、図2は封止樹脂、配線、および端子を取り除いて示す本発明の実施の形態1による半導体装置の基本構造の上面図である。図1は、図2のA−A位置に相当する位置で切断した断面図であり、封止樹脂、配線および端子を含めて示している。絶縁基板1の上面に表面電極パターン2、裏面に裏面電極パターン3が貼られた半導体素子基板4の表面電極パターン2の表面に半導体素子5、6がはんだなどの接合材7で固着されている。ここで、例えば半導体素子5は大電流を制御するMOSFETのような電力用半導体素子であり、半導体素子6は例えば電力用半導体素子5に並列に設けられる還流用のダイオードである。半導体素子基板4は裏面電極パターン3側がベース板10にはんだなどの接合材70で固着されており、このベース板10が底板となり、ベース板10とケース側板11とでケースが形成される。第一の封止樹脂12が、半導体素子5、6と表面電極パターン2を覆うように設けられている。また、半導体素子基板4の絶縁基板1が露出する部分、および第一の封止樹脂12を含めて、ケース内のものを覆うように第二の封止樹脂120が設けられている。表面電極パターン2および各半導体素子には各半導体素子の電極などを外部に電気接続するための配線13が接続され、配線13が端子14に接続されている。
【0011】
半導体素子基板4は、絶縁基板1の上面に表面電極パターン2、裏面に裏面電極パターン3が貼られたものであるが、絶縁基板1は、これら表面電極パターン2と裏面電極パターン3で完全に覆われておらず、半導体素子基板4単体では絶縁基板1が露出している部分がある。本実施の形態1では、この半導体素子基板4において、表面電極パターン2も裏面電極パターン3も貼られていない部分、すなわち絶縁基板1が露出している部分は、絶縁基板1の表面が直接第二の封止樹脂120で覆われている。ここで、第二の封止樹脂120は第一の封止樹脂12よりも弾性率が小さい低弾性の樹脂である。また、少なくとも表面電極パターン2も裏面電極パターン3も貼られていない部分は、絶縁基板1の表面が直接第二の封止樹脂120で覆われていなければならないが、表面電極パターン2の表面の一部が第二の封止樹脂120で覆われていても構わない。
【0012】
第一の封止樹脂としては、例えばエポキシ樹脂を用いるが、これに限定するものではなく、所望の弾性率と耐熱性を有している樹脂であれば用いることが出来る。例えばエポキシ樹脂の他に、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、等が好適に用いられる。また、第一の封止樹脂12は、半導体素子5や半導体素子6が動作中に高温となった場合でも、熱応力により表面電極パターン2との間の接合材7が剥がれないように半導体素子5や半導体素子6を押さえつける機能を持たせている。このため、ある程度固い、すなわち弾性率が高い樹脂を用いる必要がある。そして、第一の封止樹脂12における半導体素子5や半導体素子6が設置されている中央部分121は、周辺部分よりも厚みが厚くなるよう、段差を有する段組み構造が形成されている。この部分の厚みを厚くすることで、半導体素子5や6を押さえつける力がより強くなり、接合材7の剥がれをより抑制することができる。
【0013】
第二の封止樹脂120には、例えばシリコーン樹脂を用いるが、これに限定するものではなく、ウレタン樹脂やアクリル樹脂なども用いる事ができる。また、Al2O3、SiO2など
のセラミック粉を添加して用いることもできるが、これに限定するものではなく、AlN、BN、Si3N4、ダイアモンド、SiC、B2O3などを添加しても良く、シリコーン樹脂やアクリル
樹脂などの樹脂製の粉を添加しても良い。粉形状は、球状を用いることが多いが、これに限定するものではなく、破砕状、粒状、リン片状、凝集体などを用いても良い。粉体の充填量は、必要な流動性や絶縁性や接着性が得られる量であれば良い。ただし、第二の封止樹脂120の弾性率は、第一の封止樹脂12の弾性率よりも小さくなければならない。
【0014】
図3は、本発明の実施の形態1による半導体装置の、図1とは別の基本構造を示す断面図である。図3において、図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。図1においては、第一の封止樹脂12の段組み構造とした中央部分121も、周辺部分と同じ樹脂により形成した。これに対し、図3においては、第一の封止樹脂12を、主たる部分である第一の封止樹脂主部122と、段組み構造を形成する第一の封止樹脂副部123とで異なる樹脂で形成している。この場合も、第二の封止樹脂120は、第一の封止樹脂主部122の樹脂および第一の封止樹脂副部123の樹脂よりも弾性率が小さい樹脂でなければならない。
【0015】
本発明は、本実施の形態1のみならず他の実施の形態においても、電力用半導体素子として、150℃以上で動作する半導体素子に適用すると効果が大きい。特に、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)系材料またはダイアモンドといった材料で形成された、珪素(Si)に比べてバンドギャップが大きい、いわゆるワイドバンドギャップ半導体に適用すると効果が大きい。また、図2では、一つのモールドされた半導体装置に半導体素子が4個しか搭載されていないが、これに限定するものではなく、使用される用途に応じて必要な個数の半導体素子を搭載することができる。
【0016】
表面電極パターン2、裏面電極パターン3、ベース板10および端子14は、通常銅を
用いるが、これに限定するものではなく、アルミや鉄を用いても良く、これらを複合した材料を用いても良い。また表面は、通常、ニッケルメッキを行うが、これに限定するものではなく、金や錫メッキを行っても良く、必要な電流と電圧を半導体素子に供給できる構造であれば構わない。また、銅/インバー/銅などの複合材料を用いても良く、SiCAl、CuMoなどの合金を用いても良い。また、端子14及び表面電極パターン2は、封止樹脂に埋設されるため、樹脂との密着性を向上させるため表面に微小な凹凸を設けても良く、化学的に結合するようにシランカップリング剤などで接着補助層を設けても良い。
【0017】
半導体素子基板4は、Al2O3、SiO2、AlN、BN、Si3N4などのセラミックの絶縁基板1に
、銅やアルミの表面電極パターン2および裏面電極パターン3を設けてあるものを指す。半導体素子基板4は、放熱性と絶縁性を備えることが必要であり、上記に限らず、セラミック粉を分散させた樹脂硬化物、あるいはセラミック板を埋め込んだ樹脂硬化物のような絶縁基板1に、表面電極パターン2および裏面電極パターン3を設けたものでも良い。また、絶縁基板1に使用するセラミック粉は、Al2O3、SiO2、AlN、BN、Si3N4などが用いら
れるが、これに限定するものではなく、ダイアモンド、SiC、B2O3、などを用いても良い
。また、シリコーン樹脂やアクリル樹脂などの樹脂製の粉を用いても良い。粉形状は、球状を用いることが多いが、これに限定するものではなく、破砕状、粒状、リン片状、凝集体などを用いても良い。粉体の充填量は、必要な放熱性と絶縁性が得られる量が充填されていれば良い。絶縁基板1に用いる樹脂は、通常エポキシ樹脂が用いられるが、これに限定するものではなく、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などを用いても良く、絶縁性と接着性を兼ね備えた材料であれば構わない。
【0018】
配線13は、アルミまたは金でできた、断面が円形の線体を用いるが、これに限定するものではなく、例えば断面が方形の銅板を帯状にしたものを用いても良い。半導体素子に接続される配線13は、半導体素子の電流密度などにより、必要な本数を設けることができる。また、配線13は、銅や錫などの金属片を溶融金属で接合しても良く、必要な電流と電圧を半導体素子に供給できる構造であれば構わない。
【0019】
本発明の実施の形態1による半導体装置の動作は以下のようである。半導体素子が高温で動作すると、半導体素子の周囲にある第一の封止樹脂12や半導体素子基板4が熱膨張し、半導体素子が動作を止めると、熱収縮が起こる。すなわちヒートサイクルが生じる。第一の封止樹脂12は、半導体素子基板4の材料のうち、表面電極パターン2や裏面電極パターン3の材料(例えば銅)の線膨張率に近い線膨張率となるように調整されているため、絶縁基板1とは線膨張率が異なる。従来の半導体装置では、半導体素子基板4の表面電極パターン2や裏面電極パターン3が形成されていない部分は、第一の封止樹脂12と絶縁基板1が直接接しているため、ヒートサイクルを繰り返すうちに、両者の線膨張率の違いにより、第一の封止樹脂12と絶縁基板1との接触部分で、第一の封止樹脂12の剥離や亀裂が発生し、半導体装置の信頼性を著しく低下させていた。しかしながら、図1や図3に示す本発明の実施の形態1による半導体装置では、半導体素子基板4単体において、少なくとも表面電極パターン2または裏面電極パターン3が形成されず絶縁基板1が露出している部分は、第一の封止樹脂12よりも弾性率が低い樹脂の第二の封止樹脂120で覆われている。このため、ヒートサイクルが生じた場合、第一の封止樹脂12よりも低弾性、すなわち軟らかい第二の封止樹脂120の部分で、膨張係数の違いにより発生する応力が緩和され、第一の封止樹脂12の剥離や亀裂が生じ難く、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【0020】
さらに、第一の封止樹脂12における、半導体素子5や6が設置されている中央部分121は、周辺部分よりも厚みが厚くなるよう、第一の封止樹脂12に段差を有する段組み構造を形成したため、半導体素子5や6を押さえつける力が強く、接合材7の剥がれを抑制することができる。これとともに、段差を有する段組み構造を形成したことにより、第一の封止樹脂12と表面電極パターン2とが接する部分の、第一の封止樹脂12の端部、すなわち図1においてEで示す点における第一の封止樹脂12に発生するせん断応力が緩和される。このE点は、剥離の起点となる点であるから、この点において、せん断応力が緩和されるので剥離が生じ難くなる。
【0021】
図4は、図1に示すE点におけるせん断応力を解析により求めた結果を示す図である。●印を結ぶ線Bは、第一の封止樹脂に段差を設けない、厚みが均一の場合の、第一の封止樹脂の厚みによる、図1のE点に相当する部分に発生するせん断応力の変化を示す。一方、図4においてCで示す点は、図1の本発明の実施の形態1による構造において、d1で示す厚みを2.5mmとし、d2で示す厚みを1.5mmとしたときの、E点に発生するせん断応力を示すものである。図4では、せん断応力の数値は、線Bの厚み1mmの場合を1として規格化して示している。図4から、中央部分の厚みd1が2.5mmの場合、段差を設けて周辺の厚みd2を1.5mmとしたことにより、E点に発生するせん断応力が大幅に減少することが解る。この場合、解析により、段差の角の部分であるF点に応力が集中することも判明した。すなわち、従来、剥離の起点となる部分に集中して発生していた応力が、段差を設けることにより、剥離には直接関係しない、段差の角部に移動したことになる。このように、本発明によれば、半導体素子の部分での第一の封止樹脂12の厚みを確保することにより半導体素子5や半導体素子6と表面電極パターン2を接合する接合材7の剥離を抑えるとともに、第一の封止樹脂12に段差を設けたことにより、第一の封止樹脂12と表面電極パターン2の間の剥離も抑制する効果が得られたのである。
【0022】
実施の形態2.
図5、図6は、本発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法を示す模式図である。図5、図6において、図1、図3と同一符号は同一または相当する部分を示す。あらかじめ、図7および図8の斜視図で示すようなエポキシ樹脂製の区画壁124、および第一の封止樹脂副部となる第一の封止樹脂副部枠125を形成しておく。まず、半導体素子基板4に半導体素子5、6及びベース板10をはんだにて接合する。その後、区画壁124を設置・熱硬化して半導体素子基板4の表面電極パターン2に接合する(図5(A)、図5(B))。区画壁124の表面電極パターン2への接合は、例えばエポキシ樹脂を接着剤として用いる。また、区画壁124は、樹脂が半硬化したBステージ状態の組成物を用い、表面電極パターン2に密着させ加熱してCステージ化して接合することで形成することも可能である。ここでいうBステージとは、熱硬化性樹脂の反応の中間的な段階であって、材料は加熱により軟化して膨張するが、ある種の液体と接触しても、完全には溶融又は溶解しない段階を示し、Cステージとは硬化の最終段階となった樹脂の状態を示す。従って、区画壁としての形状は維持するが、加熱による溶融とCステージ化によって表面電極パターンに接合することが出来る樹脂の状態を示す。なお、区画壁124を構成する樹脂のCステージ化は、以下に示す第一の封止樹脂12を構成した段階までに完了していればよく、例えば区画壁124を表面電極パターン2に接合する段階で完了していてもよい。
【0023】
次に、端子14が設けられたケース側板11をベース板10に取り付け、必要な配線13を施す(図5(C))。次に、区画壁124の内部にエポキシ樹脂をポッティングして第一の封止樹脂主部122を形成し、第一の封止樹脂副部枠125を取り付け熱硬化させる(図6(A)、図6(B))。ここで、第一の封止樹脂副部枠125は、取り付けられた場合に配線13を邪魔する部分がある場合は、図8に示すように、この部分に切欠き127を設ければ良い。また、第一の封止樹脂主部122に沈み込まないよう、例えば足128を設けても良い。その後、耐熱性シリコーンゲルをケース内部に満たし、熱硬化して第二の封止樹脂120を形成し(図6(C))、半導体装置を完成させる。本実施の形態2の製造方法で製造した半導体装置にあっては、エポキシ樹脂で形成された区画壁124、第一の封止樹脂主部122、第一の封止樹脂副部枠125が、図1で示した構造の半導体装置の第一の封止樹脂12を構成する。
【0024】
本実施の形態2による半導体装置の製造方法の場合、区画壁124と第一の封止樹脂副部枠125を別に事前に製造しておけるため、生産性が向上できる。また、区画壁124の設置は半導体素子実装後に行えるため、半導体素子の設置における生産性の向上も期待される。なお、区画壁124は、第一の封止樹脂12の一部を構成するため、表面電極パターン2の線膨張率に近い線膨張率となるように調整されている。区画壁124は、半導体素子基板4の表面電極パターン2上に存在しており、絶縁基板1と区画壁124の線膨張率の差に起因するはく離やクラック等が生じないため半導体装置の信頼性が向上する。さらに、第一の封止樹脂12全体は、半導体素子近傍の中央部分が厚く、周辺部分は樹脂厚が薄い、段差を有する構造である。このため、実施の形態1において説明したように、半導体素子基板4の表面電極パターン2端部と第一の封止樹脂12(本実施の形態2においては、区画壁124)界面に生じるひずみ応力が低減され、表面電極パターン/樹脂界面でのはく離が抑制でき、半導体装置の信頼性が向上する。
【0025】
実施の形態3.
図9、図10は、本発明の実施の形態2による半導体装置の製造方法を示す模式図である。図9、図10において、図1、図3、図5、図6と同一符号は同一または相当する部分を示す。まず、上治具21と下治具22で構成される分割式の治具を用いてエポキシ樹脂製の区画壁124を半導体素子基板4に形成する(図9(A))。この区画壁124を形成した半導体素子基板4に半導体素子5、6及びベース板10をはんだにて接合する(図9(B))。次に、端子14が設けられたケース側板11をベース板10に取り付け、必要な配線13を施す(図9(C))。次に、区画壁124の内部に第一の封止樹脂主部122となるエポキシ樹脂をポッティングする(図10(A))。その後、形成した第一の封止樹脂主部122の上部に第一の封止樹脂副部123をさらにポッティングし、熱硬化させて半導体素子の上部のみ第一の封止樹脂12の厚みを厚くする(図10(B))。その後、耐熱性シリコーンゲルをケース内部に満たし熱硬化して第二の封止樹脂120を形成して(図10(C))、半導体装置が出来上がる。本実施の形態3の製造方法で製造した半導体装置にあっては、区画壁124、第一の封止樹脂主部122、第一の封止樹脂副部123が、図1で示した構造の半導体装置の第一の封止樹脂12を構成する。
【0026】
第一の封止樹脂副部123は、半導体素子上部に相当する第一の封止樹脂12の中央部分の厚さを増すことができ、これによりパワーサイクル耐性を向上することができれば、材料は特に限定はされないが、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。また、第一の封止樹脂副部123は、硬化後の状態で、すなわち半導体装置が出来上がった状態において、第一の封止樹脂主部122と第一の封止樹脂副部123との線膨張率差が15ppm以内の材料を用いるのが好ましい。線膨張率差が15ppmを越えると樹脂界面ではく離やクラック等の不具合を生じる場合がある。
【0027】
さらに、第一の封止樹脂副部123は半導体素子上部に、未硬化の状態でポッティングする必要があるため、未硬化の状態においてチクソ性を有する樹脂を用いるのが好ましい。チクソ性として、チクソトロピーインデックス値(TI値)で2以上の性質を有する樹脂を用いることが好ましい。TI値が2未満だとポッティング後の形状が保持できず、段差を有する段組み構造を保持することが出来ない。ここで、TI値とは、揺変性を示す指標であり、温度一定下で攪拌するとゾル状になり、これを放置すると再びゲル状に戻る性質を示すパラメータで、異なる回転速度aとb(a>b)における粘度値の比を取る。TI値は、JIS−K−5400.4.5.3の参考試験、回転粘度計による非ニュートン性の評価に準拠した方法により測定することができる。
【0028】
本実施の形態3による半導体装置の製造方法の場合、区画壁124は半導体素子基板4
上に直接形成されるため、工数の短縮が図れ、生産性が向上できる。また、表面電極パターン2の線膨張率に近い線膨張率を有する区画壁124は半導体素子基板4の表面電極パターン2上に存在しており、絶縁基板1と区画壁124の線膨張率の差に起因するはく離やクラック等が生じないため、半導体装置の信頼性が向上する。さらに、第一の封止樹脂12全体は半導体素子近傍の中央部分が厚く、周辺部分は樹脂厚が薄い、段差を有する構造である。このため、実施の形態1において説明したように、半導体素子基板4の表面電極パターン2端部と第一の封止樹脂界面(本実施の形態3においては、区画壁124)に生じるひずみ応力が低減され、表面電極パターン/樹脂界面でのはく離が抑制でき、半導体装置の信頼性が向上する。
【0029】
なお、実施の形態2と実施の形態3の組み合わせ、すなわち図5で示した工程の後、図10で示した工程による製造方法、あるいは、図9で示した工程の後、図6で示した工程による製造方法により、本発明による半導体装置を製造することができるのは言うまでもない。
【0030】
実施の形態4.
図11〜図14は、本発明の実施の形態4による半導体装置の製造方法を示す模式図である。図11〜図14において、図1〜図10と同一符号は同一、または相当する部分を示す。まず、図11で示すような、絶縁基板1の片面に表面電極パターン2、他方の面に裏面電極パターン3、が貼りつけられた半導体素子基板4を準備する。ここで、図11(A)は半導体素子基板4の上面図、図11(B)は図11(A)のB−B位置に相当する位置で切断した断面図である。ここでは、表面電極パターン2が分離され、半導体素子基板4の周辺部分以外の部分にも表面電極パターン2が形成されず絶縁基板1が露出する露出部20を有する半導体素子基板4を例にして説明する。
【0031】
この半導体素子基板4と、テフロン(登録商標)で作製された上治具21と下治具22で構成される分割式の治具を準備する(図12(A))。上治具21には樹脂を注入するための樹脂注入穴23が設けられている。下治具22の所定の位置に半導体素子基板4を置き、位置がずれない様に上治具21を用いて蓋をし、ねじ留めや油圧プレス等の方法を用いて、後に樹脂が注入された際に上下の治具から樹脂が漏れないよう十分締め付ける(図12(B))。上治具21および下治具22は、表面電極パターン2および裏面電極パターン3の表面に樹脂が流れないよう、十分な平面度をもって作製しておく。次に半導体素子基板4を内包した治具の内部を減圧チャンバー31等を用いて10torrまで減圧する。その後、図12(B)の矢印で示すように未硬化の樹脂41を上治具21の樹脂注入穴23から約1MPaの押圧力で注入する。治具の空間部分の全部に樹脂が注入されたら、760torr(大気)に戻し、樹脂を熱硬化させる。例えば、樹脂にシリコーン樹脂である信越化学工業社製KE-1833を用いる場合は、120℃で1時間の硬化を行う。熱硬化後は、治具を室温まで冷却してから、上下の治具を分割して、基板を取り出せば、半導体素子基板4の絶縁基板1が露出していた部分が、シリコーン樹脂で被覆され、応力緩和区画壁126、および応力緩和樹脂層90が形成された基板が作製できる(図12(C))。
【0032】
この時、1か所の樹脂注入穴23から全ての空間部分に樹脂が注入されるよう、シリコーン樹脂を設ける箇所は、治具内部の空間で繋がっていなければならない。ここで、治具には、脱気用の穴を設けても良い。また、治具の壁面に、脱型性を向上させるために、離型剤を塗布しても良いことは言うまでもなく、治具の材質もテフロン(登録商標)以外の材料を用いて良い事はいうまでもない。
【0033】
次に、半導体素子基板4に半導体素子5、6及びベース板10をはんだにて接合する(図13(A))。次に、端子14が設けられたケース側板11をベース板10に取り付け、必要な配線13を施す(図13(B))。次に、応力緩和区画壁126の内部に第一の封止樹脂主部122をポッティングし、第一の封止樹脂副部枠125を取り付け熱硬化させる(図14(A)、図14(B))。その後、耐熱性シリコーンゲルをケース内部に満たし熱硬化して第二の封止樹脂主部129を形成して(図14(C))、半導体装置を完成する。
【0034】
本実施の形態4の製造方法で製造された半導体装置にあっては、第一の封止樹脂主部122と第一の封止樹脂副部枠125とで実施の形態1で説明した第一の封止樹脂12を構成する。また、応力緩和区画壁126、第二の封止樹脂主部129および応力緩和樹脂層90で実施の形態1で説明した第二の封止樹脂120を構成する。応力緩和区画壁126、第二の封止樹脂主部129および応力緩和樹脂層90、すなわち第二の封止樹脂120の樹脂材料は、第一の封止樹脂主部122および第一の封止樹脂副部枠125で構成される第一の封止樹脂12の樹脂材料よりも弾性率が小さい樹脂材料でなければならない。ヒートサイクルが生じた場合、第一の封止樹脂12よりも低弾性、すなわち軟らかい第二の封止樹脂120を構成する応力緩和区画壁126や応力緩和樹脂層90の部分で、膨張係数の違いにより発生する応力が緩和され、第一の封止樹脂12の剥離や亀裂が生じ難く、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
【0035】
さらに、第一の封止樹脂12の封止エリアは半導体素子近傍の中央部分が厚く、周辺部分は樹脂厚が薄い、段差を有する構造である。このため、実施の形態1において説明したように、半導体素子基板4の表面電極パターン2端部と封止樹脂界面に生じるひずみ応力が低減され、表面電極パターン/樹脂界面でのはく離が抑制でき、半導体装置の信頼性が向上する。
【0036】
実施の形態5.
本実施の形態5では、本発明による構造、および従来の構造の試験用の半導体装置モジュールを作製し、パワーサイクル試験およびヒートサイクル試験を行った結果を実施例として示す。
【0037】
実施例1.
図5、図6に示す本発明の半導体装置の製造方法で作製した半導体装置、および比較例の半導体装置を作製し、ヒートサイクル及びパワーサイクル実施前後でPDIV(PD Inception Voltage:部分放電開始電圧)測定を実施した。本発明の構造の半導体装置においては、区画壁、及び第一の封止樹脂副部枠、接着剤、第一の封止樹脂主部には、サンユレック製EX-550(弾性率7.0GPa)を用いた。その後、第二の封止樹脂として信越化学工業社製KE1833(弾性率3.5MPa)を用い熱硬化させてケース内部を満たした。また比較例として、特許文献1、2に開示されている構造を模擬した半導体装置、すなわち段差を有しない、第一の封止樹脂が半導体素子基板の絶縁基板が露出する部分も覆っている構造の半導体装置を作製した。
【0038】
ヒートサイクル試験は、半導体装置全体を、温度制御が可能な恒温曹に入れ、恒温曹の温度を−40℃〜150℃の間で繰り返し変化させて実施した。パワーサイクル試験は、半導体素子の温度が200℃になるまで通電し、その温度に達したら通電を止め、半導体素子の温度が120℃になるまで冷却し、冷却された後に再び通電した。PDIVは、部分放電試験機を使用して測定した。電極パターン間に電極を繋ぎ、不活性液体中25℃にて、交流周波数60Hzで昇圧し、10pC以上の部分放電が発生した時の電圧を読み取った。パワーサイクル試験およびヒートサイクル試験とも、それぞれサンプル数n=5で実施し、その平均値で評価した。
【0039】
試験結果を表1に示す。比較例ではヒートサイクル試験では150サイクル、パワーサイ
クル試験では7000サイクルであった。これは、封止樹脂厚が厚く、封止端部と電極界面で
生じる応力が大きいためであると考えられる。一方、本発明の構造の半導体装置は、パワーサイクル試験では、210000サイクル、ヒートサイクル試験では、1200サイクル以上まで改善することがわかった。本発明の構造の半導体装置によって、比較例よりも性能的に上回る特性を得ることができた。
【表1】

【符号の説明】
【0040】
1:絶縁基板 2:表面電極パターン
3:裏面電極パターン 4:半導体素子基板
5、6:半導体素子 7、70:接合材
10:ベース板 11:ケース側板
12:第一の封止樹脂 13:配線
14:端子 120:第二の封止樹脂
121:中央部分 122:第一の封止樹脂主部
123:第一の封止樹脂副部 124:区画壁
125:第一の封止樹脂副部枠 126:応力緩和区画壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の片面に表面電極パターンが、および上記絶縁基板の他の面に裏面電極パターンが、それぞれ形成された半導体素子基板と、
上記表面電極パターンの、上記絶縁基板とは反対側の面に接合材を介して接合された半導体素子と、
この半導体素子および上記表面電極パターンを覆う第一の封止樹脂と、
上記絶縁基板の表面で少なくとも上記表面電極パターンまたは上記裏面電極パターンが形成されていない部分と、上記第一の封止樹脂とを覆う第二の封止樹脂と、を備え、
上記第二の封止樹脂の弾性率は、上記第一の封止樹脂の弾性率よりも小さいとともに、上記第一の封止樹脂の上記半導体素子に対応する中央部分が周辺部分よりも厚みが厚くなるように段差を設けたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
上記第一の封止樹脂は、少なくとも上記半導体素子全体を被覆する第一の封止樹脂主部と、この第一の封止樹脂主部に上乗せするように設けられた第一の封止樹脂副部とにより構成されたことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
上記第一の封止樹脂主部の樹脂材料と上記第一の封止樹脂副部の樹脂材料は、線膨張率の差が15ppm以下であることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
半導体素子がワイドバンドギャップ半導体により形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料またはダイアモンドの半導体であることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
請求項2に記載の半導体装置の製造方法であって、
上記半導体素子基板の周辺部であって、上記表面電極パターンが形成された側に区画壁を設ける工程と、
上記半導体素子基板の区画壁内の表面電極パターン表面に上記半導体素子を、上記半導体素子基板の裏面電極パターン表面にベース板を、それぞれ接合する工程と、
上記ベース板の周辺に、端子を有するケース側板を接合して、このケース側板と上記ベース板とでケースを構成し、上記半導体素子および上記表面電極パターンから上記端子への配線を施す工程と、
上記区画壁内を上記第一の封止樹脂主部の樹脂材料で満たし、この第一の封止樹脂主部の樹脂材料に上記第一の封止樹脂副部の樹脂材料を載置する工程と、
上記第一の封止樹脂主部の樹脂材料と、上記第一の封止樹脂副部の樹脂材料とを硬化させる工程と、
上記ケース内を上記第二の封止樹脂の樹脂材料で満たし、この第二の封止樹脂の樹脂材料を硬化させる工程と、
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項7】
上記第一の封止樹脂主部の樹脂材料は、上記第一の封止樹脂副部の樹脂材料よりも粘度が低く、上記第一の封止樹脂副部の樹脂材料はチクソ性を有することを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
上記第一の封止樹脂副部の樹脂材料は、チクソ性を示す指標であるTI値が2以上であることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
上記区画壁は、上記表面電極パターン上に設けられ、上記区画壁の弾性率は、上記第二の
封止樹脂の弾性率よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
上記区画壁は、上記半導体素子基板の周辺部の、少なくとも絶縁基板が露出する部分に設けられ、上記区画壁の弾性率は、上記第一の封止樹脂の弾性率よりも小さいことを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−16684(P2013−16684A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149054(P2011−149054)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】