説明

半導体装置

【課題】高温動作時のボンディングワイヤと電極パッドとの接合領域の信頼性を向上させる。
【解決手段】半導体装置100は、半導体チップ102、半導体チップ102に設けられ、Alを主成分としCuをさらに含むAlCuパッド107、および、半導体チップ102の外部に設けられたインナーリード117と半導体チップ102とを接続するとともに、Cuを主として含む接続部材であるCuPワイヤ111を備え、実質的にハロゲンを含まない封止樹脂115により封止されている。AlCuパッド107とCuPワイヤ111の接続領域に、AlとCu組成比が異なる複数の合金層が設けられ、合金層が、CuAl2層と、CuAl2層とCuPワイヤ111との間に設けられるとともにCuAl2層よりもAl組成比が相対的に低い層とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に、半導体チップの電極パッドと、ボンディングワイヤ等の接続部材との接合部分が封止樹脂により封止された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップ上の電極パッドとリードフレームとをワイヤボンディング等の接続部材により接続し、封止樹脂で封止する半導体装置として、特許文献1(特開昭64−37044号公報)および2(特開平1−187832号公報)に記載のものがある。
【0003】
特許文献1に記載の半導体装置では、アルミニウム(Al)・シリコン(Si)合金からなる配線に、金(Au)線がボンディングされている。
また、同文献には、樹脂封止型半導体装置を200℃以上の高温に放置すると、AuワイヤとAl電極パッドの接合部に剥離が生じ接続不良が生じること、および、同様の現象が、Auワイヤの場合だけでなく、銅(Cu)ワイヤとAl電極との間にも発生することが記載されている。
また、この現象には、熱劣化によって封止樹脂中に発生する遊離性ハロゲン値が関係すること、また、難燃化剤として使用する臭素化エポキシ樹脂を高純度化し、熱分解によって発生する遊離性臭素化合物を低減することにより、改善可能であることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、Cuワイヤによるボンディング技術が記載されている。同文献には、電極パッドの硬度を高める観点で、Alを主成分とする電極パッドに比較的高い割合でCuを添加することが記載されている。具体的には、主成分をAlとする電極パッドにCuを2〜12%添加し、ビッカース硬度(Vickers hardness)値を70〜100としている。また、同文献には、電極パッドの硬度がAlパッドより高いため、Cuワイヤのボンディング時に圧着部が剥離しないこと、電極パッドの下層に加わる衝撃が小さくなり絶縁膜にクラック等の損傷が発生しないことが記載されている。
【特許文献1】特開昭64−37044号公報
【特許文献2】特開平1−187832号公報
【非特許文献1】Hyoung-Joon Kim他8名、「Effects of Cu/Al Intermetallic Compound (IMC) on Copper Wire and Aluminum Pad Bondability」IEEE Transactions on Components and Packaging Technologies、Vol. 26、NO. 2、June、2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が上記特許文献1および2に記載の技術について検討したところ、高温で動作させた際の電極パッドとボンディングワイヤとの接合信頼性の点で、なおも改善の余地があることが明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、高温での長時間動作における信頼性を向上させるべく検討を行った。その結果、封止樹脂中の少なくとも一部の領域に臭素(Br)を含む樹脂組成物が使用されている構成から、Brを実質的に含まない構成とするとともに、電極パッドおよびボンディングワイヤ等の接続部材として、それぞれ特定の材料を選択することにより、高温動作時の信頼性を向上させることができることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明によれば、
半導体チップと、
前記半導体チップに設けられ、Alを主成分としCuをさらに含む電極パッドと、
前記半導体チップの外部に設けられた接続端子と前記半導体チップとを接続するとともに、Cuを主として含む接続部材と、
を備え、
前記接続部材と前記電極パッドとの接続領域に、AlとCuの組成比が異なる複数のCuおよびAlの合金層が設けられ、
前記CuおよびAlの合金層が、
CuAl2層と、
前記CuAl2層と前記接続部材との間に設けられるとともに前記CuAl2層よりもAl組成比が相対的に低い層と、
を含み、
前記電極パッドと前記接続部材とが、実質的にハロゲンを含まない封止樹脂により封止された、半導体装置が提供される。
【0008】
本発明の半導体装置においては、接続部材がCuを主として含み、電極パッドがAlを主成分としCuをさらに含み、さらに、封止樹脂が実質的にハロゲンを含まない構成となっている。そして、接続部材と電極パッドとの接続領域に、AlとCuの組成比が異なる複数のCuAl合金層が設けられているため、これらの相乗効果により、高温動作時の接続部材と電極パッドとの接合領域における不良の発生を抑制し、信頼性を安定的に向上させることができる。
また、接続部材の材料をAuとした場合に比べて、電気的特性を向上させ、また、製造コストを大幅に低減することができる。
また、ボンディングワイヤ以外の接続部材を用いた場合にも、接続部材と電極パッドとの接合領域における不良の発生を抑制できる。
【0009】
本発明において、接続部材は、接続端子と半導体チップとを電気的に接続する部材であればよく、具体的には、ワイヤ、ボール、リボン状の接続部材等が挙げられる。
【0010】
また、本明細書において、封止樹脂がハロゲンを実質的に含まないとは、封止樹脂を構成する組成物中の樹脂や、難燃剤等の添加剤のいずれも、ハロゲンが意図的に添加された構成でないことをいい、封止樹脂組成物の製造過程で不可避的に含まれるものは許容される。その場合にも、樹脂組成物中のハロゲン濃度は、各ハロゲン元素についてたとえば1000ppm以下、好ましくは100ppm以下である。
【0011】
本明細書において、電極パッドがAlを主成分とするとは、たとえば電極パッド全体に対してAlを50重量%以上含むことをいう。
また、本明細書において、接続部材がCuを主として含むとは、たとえば接続部材全体に対してCuを50重量%以上含むことをいう。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、高温動作時の接続部材と電極パッドとの接合領域の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、共通の構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。また、以下においては、ボンディングパッドと半導体チップとを電気的に接続する接続部材がボンディングワイヤである場合を例に説明する。
【0014】
まず、本発明の理解のために、課題を解決するための手段の項で記載した従来の半導体装置における高温動作時の故障メカニズムについて説明する。
【0015】
図5は、検討に用いた半導体装置の構成を示す断面図である。図5に示した半導体装置200は、シリコン基板(不図示)上に、配線層と層間絶縁膜等とが積層した多層膜(不図示)が設けられた構成である。多層膜(不図示)上の所定の位置に、Alパッド207が設けられ、Alパッド207の側面全面および上面の一部をポリイミド膜209が被覆している。ポリイミド膜209からの露出部においては、Alパッド207の上面にCuワイヤ211が接続されている。Alパッド207の接続部分であるCuワイヤ211の先端はCuボール213となっており、Cuボール213とAlパッド207とが接合されている。ポリイミド膜209の上面全面に、臭素化エポキシ樹脂を含む樹脂組成物により構成される封止樹脂215が設けられ、Alパッド207とCuボール213との接合部分が被覆されている。
【0016】
図5に示した半導体装置200について、高温保存時の接合不良の原因を検討した。
具体的には、複数の半導体装置200を作製し、175℃で2350時間保存した。保存後、半導体装置200を常温まで冷却して、Alパッド207とCuボール213との接合部分のSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行った。また、保存中に、一部の半導体装置200を取り出して常温まで冷却し、接合部分の様子を観察した。
【0017】
図6〜図8は、Alパッド207とCuワイヤ211先端に設けられたCuボール213との接合部205の構造を示す断面図である。図6(a)は、高温保存前の様子を示す図である。また、図6(b)、図7(a)、図7(b)、図8(a)の順に保存時間が長くなり、図8(b)は、保存後の様子を示す図である。
【0018】
図6(a)に示したように、高温保存前の初期的な接合部には、0.2μm程度のCuAl合金層が形成されている。
これを高温で保存すると、接合部における相互拡散により、Cuワイヤ211側からAlパッド207側に向かってCuリッチな層からAlリッチな層となる複数の合金層が形成され、Cu側すなわちCuボール213の底部にCu3Al2が生成する(図6(b))。また、封止樹脂215中の臭素化エポキシ樹脂に由来する臭素イオン(Br-)がCuボール213の外周部から接合部に入り込む(図7(a))。Cu3Al2は、入り込んだBr-による腐食を受け、臭化アルミニウムAlBr3が形成される(図7(b))。AlBr3が形成されることにより、合金層中のCuが押し出される結果、AlBr3の内部にCuが孤立して残存する領域が形成される(図8(a))。AlBr3は、高抵抗であるため、この高抵抗層の形成によりオープン不良が生じる原因となる(図8(b))。また、AlBr3は、融点が97.5℃と低いため、常温では体積が減少し、AlBr3層からボイドまたはクラックが生じる原因となる。
【0019】
以上の解析結果から、Cuワイヤ211と臭素化エポキシ樹脂を含む封止樹脂215を用いた半導体装置200を高温保存すると不良が発生することが見出された。
そこで、以下、AlBr3の形成反応の進行およびそれに伴う不良の発生が抑制される装置構成の例を説明する。
【0020】
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態の半導体装置の構成を示す断面図である。また、図2は、図1の半導体装置100の電極パッドとボンディングワイヤとが接合された領域の周辺の構成を拡大して示す断面図である。
【0021】
図1および図2に示した半導体装置100は、半導体チップ102、半導体チップ102に設けられ、Alを主成分としCuをさらに含む電極パッド(AlCuパッド107)、および、半導体チップ102の外部に設けられた接続端子(インナーリード117)と半導体チップ102とを接続するとともに、Cuを主として含む接続部材であるワイヤ(CuPワイヤ111)を備える。CuPワイヤ111は、CuおよびP(燐)から構成される。CuPワイヤ111の先端部はボール状のCuPボール113となっている。AlCuパッド107とCuPワイヤ111とが、実質的にハロゲンを含まない封止樹脂115により封止されている。なお、本明細書において、構成元素がAlおよびCuである電極パッドを、単に「AlCuパッド107」とも呼ぶ。また、構成元素がCuおよびPであるワイヤおよびボールを、それぞれ単に「CuPワイヤ」および「CuPボール」とも呼ぶ。
【0022】
また、半導体装置100においては、リードフレーム121上に半導体チップ102が設けられ、これらが封止樹脂115により封止されている。リードフレーム121の側方にリードフレーム119が設けられている。リードフレーム119の一部はインナーリード117として封止樹脂115に封止されている。
【0023】
半導体チップ102は、たとえばシリコン基板101上に縦型パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor、不図示)が形成され、その上に配線層と層間絶縁膜等とが積層した多層膜103が設けられた構成である。多層膜103上の所定の位置に、AlCuパッド107が設けられ、AlCuパッド107の側面全面および上面の一部をポリイミド膜109が被覆している。ポリイミド膜109に設けられた開口部において、AlCuパッド107の上面が露出している。AlCuパッド107の露出部とインナーリード117とが、CuPワイヤ111により電気的に接続されている。CuPワイヤ111の一方の端部はCuPボール113となっており、CuPボール113とAlCuパッド107とが接合されている。CuPボール113とAlCuパッド107との接合領域においては、CuPボール113の底部にCuAl合金層105が存在する(図2)。AlCuパッド107とCuPボール113との接合部分は封止樹脂115により被覆されている。
【0024】
このような構成の半導体装置100において、CuPワイヤ111およびCuPボール113は、Cuを主として含む導電材料、ここではCuPにより構成される。CuPワイヤ111中のPの含有量は、CuPワイヤ111全体に対してたとえば0.01重量%以上とする。こうすることで、ワイヤボンディング時のCu酸化物の形成をさらに効果的に抑制することができるため、接合部の抵抗の増加を抑制することができる。
また、CuPワイヤ111中のPの含有量は、たとえば0.03重量%以下とする。こうすることにより、ワイヤの導電性をさらに向上させることができる。CuPのさらに具体的な組成としては、Cu濃度が99.97重量%、P濃度が0.03重量%(300ppm)であるCuPからなる態様が挙げられる。
【0025】
CuPワイヤ111のワイヤ径φは、AlCuパッド107の大きさやAlCuパッド107の集積度等に応じて設定できる。具体的には、CuPワイヤ111のワイヤ径を20μm以上70μm以下とすることができる。20μm以上とすることにより、AlCuパッド107との接続信頼性をさらに向上させることができる。また、70μm以下とすることにより、AlCuパッド107の配置をさらに狭ピッチ化してAlCuパッド107とインナーリード117とをさらに高密度で接続することができる。
【0026】
また、AlCuパッド107との接合部において、CuPワイヤ111にCuPボール113が形成されている。
図2に示したように、断面視において、CuPボール113に、該ボールの中心から外側に向かってボールの厚さが増加する肩部131が設けられている。
肩部131と水平面とのなす角は、たとえば4度以上8度以下である。この角が小さすぎると、接合時に、CuPワイヤ111をキャピラリで支持することが困難になる懸念がある。また、この角が大きすぎると、一つのCuPワイヤ111がボンディングされる2箇所のボンディング箇所のうち、2箇所目をボンディングする際に、キャピラリがCuPワイヤ111にめり込んでしまい、CuPワイヤ111が損傷する懸念がある。
また、AlCuパッド107との接合部において、CuPボール113の底面はたとえば平坦面となっている。
【0027】
AlCuパッド107は、Alを主成分とし、Cuをさらに含む電極パッドの一例である。
AlCuパッド107全体に対するAlの割合は、たとえば50.0重量%以上99.9重量%以下であり、Cuの割合がたとえば0.1重量%以上10.0重量%以下である。電極パッドの硬さを増し、ワイヤボンディング時の電極パッドの損傷を抑制する観点では、Cuの割合をたとえば0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上とする。また、膜応力の増加を抑制する観点では、Cuの割合をたとえば10.0重量%以下、好ましくは5.0重量%以下、さらに好ましくは3.0重量%以下とする。
なお、AlCuパッド107がAlおよびCuからなる場合、AlCuパッド107全体に対するAlの割合は、さらに具体的には90.0重量%以上99.9重量%以下である。
【0028】
また、AlCuパッド107中のCu含量が低すぎると、AlCuパッド107が柔らかすぎてボンディング時に下層に損傷を与えたり、初期の合金層の形成が不均一になり接合安定性が低下したりする懸念がある。一方、AlCuパッド107中のCu含量が高すぎると、AlCuパッド107とCuPワイヤ111との接合強度が低下する懸念がある。超音波ボンディングでは、超音波によりワイヤの金属とパッドの金属が擦り合わされ、それらの接合面で相対すべりが発生し、生成された新生面同士が密着することにより、異種金属間の凝着が活発に進行し、異種金属同士が接合される。AlCuパッド107中のCu含量が高くなるにつれて、AlCuパッド107が硬くなり、ボンディング時に新生面が形成されにくくなるため、接合強度が低下する恐れがある。このため、接合強度と接合安定性のバランスの観点から、AlCuパッド107中のCu含量は、0.1重量%以上2重量%未満とすることが好ましく、0.2重量%以上1重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0029】
CuPワイヤ111が接続された領域におけるAlCuパッド107の厚さは、たとえば、CuPワイヤ111が接続されていない領域におけるAlCuパッド107の厚さの1/4以上、好ましくは1/2以上である。CuPワイヤ111が接続された領域におけるAlCuパッド107の厚さが小さすぎると、AlCuパッド107の下層が劣化する懸念がある。なお、CuPワイヤ111が接続された領域におけるAlCuパッド107の厚さの上限に特に制限はなく、たとえばCuPワイヤ111が接続されていない領域における厚さ以下である。
【0030】
また、半導体装置100は、AlCuパッド107とCuPボール113との接続領域に、CuとAlとの合金層(CuAl合金層105)を有する。本明細書において、CuおよびAlの合金層を、単に「CuAl合金層」とも呼ぶ。CuAl合金層は、CuおよびAlの組成比が各種のものを含む。Alは、AlCuパッド107中に含まれる主成分の金属である。
また、AlとCuとの合金層の面積が、AlCuパッド107とCuPワイヤ111との接続部分の面積の50%以上を占める。
【0031】
CuAl合金層105は、接合時の加熱によりAlCuパッド107中のAlとCuPボール113中のCuとが拡散して生じた層状の領域であり、CuとAlとを主として含む。ここで、CuとAlとを主として含むとは、CuAl合金層105全体に対してCuの含有量とAlの含有量との合計が50重量%より大きいことをいう。
【0032】
図3は、CuAl合金層105の構成をさらに具体的に示す断面図である。図3に示したように、CuAl合金層105は、AlとCuの組成比が異なる複数のCuおよびAlの合金層(CuAl合金層)からなる。複数のCuAl合金層は、CuPボール113側からAlCuパッド107側に向かって、Cuの組成比が相対的に減少し、Alの組成比が相対的に増加する順で段階的に形成されている。つまり、CuAl合金層105には、CuPボール113側からAlCuパッド107側に向かってCuの組成比が相対的に減少しAlの組成比が相対的に増加するように、複数の合金層がグラデーション状に設けられている。
【0033】
複数の合金層は、具体的には、CuAl2層と、CuAl2層とCuPボール113との間に設けられるとともにCuAl2層よりもAl組成比が相対的に低い層とを含む。CuAl2層よりもAl組成比の低い層は、たとえば、CuとAlの組成物が1:1のCuAl層と、CuAl層とCuPボール113との間に設けられるとともにCuAl層よりもAl組成比が相対的に低い層とを含む。
【0034】
図3の例では、図中上からCuPボール113(Cu層)から、Cu9Al4またはCu3Al2層、CuAl層、CuAl2層、AlCuパッド107(Al層)の順に積層されている。
このように、CuAl合金層105は、たとえばCuとAlの金属間化合物から構成された層であり、たとえばCuAl2層を含む。また、CuAl合金層105が、さらにCuAl層と、Cu9Al4層またはCu3Al2層とを含んでもよい。
【0035】
CuAl合金層105を構成する各層の厚さに特に制限はないが、たとえば200〜300nm程度である。また、図3に示したように、CuAl合金層105を構成する各層の界面が凹凸面であってもよい。また、平面視において凹凸面が接合領域の面内全体にわたって形成されていてもよい。
【0036】
なお、図2および図3においては、CuAl合金層105が、CuPボール113の底部に明確に出現している構成を例示したが、半導体装置100は、加熱によりCuPボール113の少なくとも一部にCuAl合金層105が明確に出現するような構成であればよく、使用前の半導体装置100においては、CuAl合金層105が必ずしも明確な層状になっていなくてもよい。使用前の半導体装置100中において、CuAl合金層105が明確な層状となっていない場合にも、半導体装置100が使用されて、CuPボール113とAlCuパッド107との接続領域の近傍が加熱されると、CuAl合金層105がより一層明確に出現する。
【0037】
封止樹脂115は、実質的にハロゲンを含まない。さらに具体的には、封止樹脂115は、ハロゲンおよびアンチモンを実質的に含まない樹脂組成物により構成される耐熱性の樹脂である。封止樹脂115中に不可避的に含まれるハロゲンの濃度は、各ハロゲン元素についてたとえば1000ppm以下、好ましくは100ppm以下である。また、封止樹脂115中のハロゲン濃度の合計についても、たとえば1000ppm以下であり、100ppm以下であることが好ましい。
また、封止樹脂115中の樹脂は、分子骨格中にハロゲン基を実質的に含まない高分子化合物からなる。たとえば封止樹脂115中の樹脂は、分子骨格中にBr基を実質的に含まない高分子化合物からなる。封止樹脂115は、一種類の樹脂を含んでもよいし、複数種類の樹脂を含んでいてもよい。
さらに、封止樹脂115は、樹脂以外の成分、たとえば難燃剤等の添加剤中にもハロゲン化物を含まない。
【0038】
このような樹脂組成物として、具体的には、金属水和物等の代替難燃剤使用樹脂を含む樹脂組成物;
樹脂組成物全体に対して溶融球状シリカ等の充填剤をたとえば80重量%以上、好ましくは85重量%以上含む高フィラー充填樹脂組成物;ならびに
フェノール系樹脂、エポキシ樹脂等の難燃性骨格を有する高分子化合物を含む樹脂組成物;
が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。
【0039】
金属水和物として、さらに具体的には、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等が挙げられる。その他の代替難燃剤として、さらに具体的には、無機リンや有機リン系化合物が挙げられる。また、金属水和物と分子骨格中にハロゲン基を実質的に含まない高分子化合物とを組み合わせて用いてもよい。
【0040】
難燃性骨格を有する高分子化合物のうち、難燃性骨格を有するフェノール系樹脂としては、たとえば、分子中にビフェニル誘導体またはナフタレン誘導体を含むノボラック構造のフェノール系樹脂が挙げられる。さらに具体的には、
フェノールビフェニレンアラルキル型樹脂、フェノールフェニレンアラルキル型樹脂、フェノールジフェニルエーテルアラルキル型樹脂等のフェノールアラルキル型樹脂;
ビスフェノールフルオレン含有フェノールノボラック型樹脂;
ビスフェノールS含有フェノールノボラック型樹脂;
ビスフェノールF含有フェノールノボラック型樹脂;
ビスフェノールA含有フェノールノボラック型樹脂;
ナフタレン含有フェノールノボラック型樹脂;
アントラセン含有フェノールノボラック型樹脂;
フルオレン含有フェノールノボラック型樹脂;および
縮合多環芳香族型フェノール系樹脂;
が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。
【0041】
また、難燃性骨格を有するエポキシ樹脂としては、たとえば、分子中にビフェニル誘導体またはナフタレン誘導体を含むノボラック構造のエポキシ樹脂が挙げられる。さらに具体的には、
フェノールビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールジフェニルエーテルアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;
ビスフェノールフルオレン含有ノボラック型エポキシ樹脂;
ビスフェノールS含有ノボラック型エポキシ樹脂;
ビスフェノールF含有ノボラック型エポキシ樹脂;
ビスフェノールA含有ノボラック型エポキシ樹脂;
ナフタレン含有ノボラック型エポキシ樹脂;
アントラセン含有ノボラック型エポキシ樹脂;
フルオレン含有ノボラック型エポキシ樹脂;および
縮合多環芳香族型エポキシ樹脂;
が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。
【0042】
なお、難燃性骨格を有する高分子化合物を含む樹脂組成物を用いることにより、代替難燃剤が添加された樹脂組成物を用いる場合に比べて、封止樹脂115と被封止部材との密着性をより一層向上させることができるため、たとえばAlCuパッド107の面積が比較的大きい場合にもより一層好適に用いることができる。
【0043】
次に、半導体装置100の製造方法を説明する。
まず、シリコン基板101上に、配線層および層間絶縁膜等が積層した多層膜103を形成する。次に、多層膜103上の所定の位置にAlCuパッド107をスパッタリング法により形成する。AlCuパッド107の膜厚は、たとえば2.5μm以上とする。つづいて、塗布法により、AlCuパッド107を覆うようにポリイミド膜109を形成する。つづいて、ポリイミド膜109をパターニングして開口部を設け、AlCuパッド107の一部を露出させる。こうして、半導体チップ102が得られる。
【0044】
得られた半導体チップ102をリードフレーム121上に設置し、AlCuパッド107とインナーリード117とをCuPワイヤ111によりワイヤボンディングする。CuPボール113はこのとき形成される。
【0045】
このとき、CuPワイヤ111を支持するキャピラリとして、端部が傾斜したものを用いる。キャピラリの傾斜角は、肩部131の形状に応じて選択されるが、たとえば4度以上8度以下とする。これにより、CuPボール113の肩部131が、CuPボール113の中心から外側に向かってAlCuパッド107の上面から遠ざかる形状に形成される。
【0046】
また、ボンディングは、ガラスチャンバ等のチャンバ内で行う。チャンバ内の雰囲気は、たとえば水素ガス(H2)5体積%、窒素ガス(N2)95体積%とする。ボンディングワイヤの材料をCuPとし、上記雰囲気中でボンディングを行うことにより、ボンディング時の酸化を抑制し、また酸化する場合にもCuPワイヤ111中のPが優先的に酸化されるため、Cu酸化物の形成を防ぎ、接合部の抵抗上昇を抑制できる。
【0047】
また、ボンディングは、たとえば以下の手順で行う。
ステップ11:CuPワイヤ111の先端に所定の径のCuPボール113を形成する、
ステップ12:CuPボール113をAlCuパッド107上面に対して実質的に垂直に降下させる、
ステップ13:CuPボール113がAlCuパッド107に接触した後、CuPボール113に付加する荷重をステップ12より減らし、超音波振動を与える。
【0048】
以上の手順中、ステップ12では、CuPボール113がキャピラリの先端の形状に沿って変形して肩部131が形成される。また、底部がAlCuパッド107に接触して平坦な接合面が形成される。ステップ12において、さらに具体的にはCuPボール113に超音波振動を与えずに、たとえば400gから1Kg程度の大荷重を0.1msecから10msec程度の時間印加して、AlCuパッド107の上部に向かってCuPボール113を垂直方向に降下させる。これにより、CuPボール113とAlCuパッド107とが接触した際に、AlCuパッド107の接触部が沈み込みすぎてパッドの厚さが薄くなりすぎたり下層の素子が劣化したりしないようにすることができる。また、CuPボール113の底面を平坦面として、接合面積を充分に確保することができる。
【0049】
また、ステップ13では、CuPボール113に与える荷重を、たとえばステップ12の1/5程度に減少させるとともに、超音波振動を与える。なお、ステップ13における荷重印加時間は、たとえば0.5msecから20msec程度とする。CuPボール113に荷重を加えつつ超音波振動を与えることにより、AlCuパッド107の上面に自然酸化膜が形成されている場合にも、自然酸化膜を除去して新生面を生じさせ、CuPボール113を新生面に接触させることができる。よって、CuPボール113とAlCuパッド107との接合信頼性を向上させることができる。また、ステップ12よりも荷重を減らして超音波振動を与えることにより、CuPボール113によってAlCuパッド107が押しのけられることを抑制し、CuPボール113が接続された領域のAlCuパッド107の厚さが、CuPボール113が接続されていない領域のAlCuパッド107の厚さの1/4以上となるようにしている。ステップ12で新生面が形成されており、荷重を減らしても十分な接合強度が得られるばかりでなく、AlCuパッド107の厚さが十分確保されているので、接合面であるCuAl合金層105が不均一な厚さになりにくい。したがって、均質なCuAl合金層105が形成でき、接合信頼性を向上できる。また、荷重を減らすことにより、下層の素子へのダメージも抑制できる。
【0050】
その後、リードフレーム121、半導体チップ102、CuPワイヤ111およびインナーリード117を封止樹脂115で封止する。以上の手順により、図1および図2に示した半導体装置100が得られる。なお、得られた半導体装置100中には、図2に示したCuAl合金層105が存在するが、その後、半導体装置100を使用することにより、CuAl合金層105がより一層明確に現れる。
【0051】
次に、半導体装置100の効果を説明する。
図1および図2に示した半導体装置100においては、AlCuパッド107にCuPワイヤ111が接合され、接合部分に、AlCuパッド107側からCuPボール113側に向かってCuAl2層およびCuAl2層よりもAl組成比が相対的に低い層がこの順に形成されている。このため、接合初期に接合領域に合金層が安定的に形成され、高温動作時の合金層の過度の成長が抑制されるとともに、高温動作時の接続信頼性に優れた構成となっている。この効果は、CuAl合金層105が組成の異なる3つ以上の層を含み、AlCuパッド107側からCuPボール113側に向かってAl組成比が減少するようにこれらの層が配置された構成において顕著に発揮される。
【0052】
さらに、半導体装置100では、接続部分がハロゲンフリーの封止樹脂115により封止されている。このため、CuAl合金層105が封止樹脂115中のハロゲンにより腐食されることが抑制されるため、CuAl合金層105の腐食によるボイドの成長および高抵抗層の成長を抑制することができる。よって、半導体装置100は、ハロゲンを含む樹脂組成物により構成される封止樹脂を用いることが前提となっていた従来の構成に対して顕著に高温長時間動作時の接続信頼性に優れた構成となっている。
【0053】
図6から図8を参照して前述したように、電極パッドとボンディングワイヤとの接続不良は、AlBr3の形成反応等により生じると考えられるが、半導体装置100においては、電極パッド、ワイヤおよび封止樹脂としてそれぞれ特定の材料を選択して用いるとともに、電極パッドとワイヤとの接合部が複数の合金層が特定の順で配置された構成となっている。このため、これらの相乗効果により、CuPワイヤ111の径によらず、高温動作時の接合信頼性を安定的に向上させることができる。この効果は、AlCuパッド107中のCu含量を2重量%未満としたときにより一層顕著に発揮される。
また、半導体装置100は、動作温度が向上した構成となっている。また、半導体装置100においては、高温動作時などに接合領域の一部にクラックが生じた場合にも、クラックの伝播によりオープン不良が生じることを抑制できる。
【0054】
また、半導体装置100においては、電極パッドが、AlおよびCuを必須成分として含む。このため、AuまたはAu合金よりも硬い、Cuを主成分とするボンディングワイヤと接合する場合にも、接合時に電極パッドの接合領域が過度に薄化してしまうことを抑制できるため、製造歩留まりに優れた構成とすることができる。
【0055】
また、半導体装置100においては、ボンディングワイヤがCuを主成分とするため、Auワイヤを用いる場合に比べて、ワイヤの体積抵抗率をたとえば30%程度低減することができる。このため、ボンディングワイヤの導電性を向上させることができる。また、Auワイヤを用いる場合に比べて、高温保存時の金属間化合物の形成およびカーケンダルボイドの形成を抑制し、信頼性を向上させることができる。また、Auワイヤを用いる場合に比べて、材料費をたとえば50〜90%程度低減させることができるため、装置の製造コストを大幅に削減できる。
【0056】
また、ボンディングワイヤがPを含むため、ボンディングワイヤがCuを主として含む場合にも、ボンディング時のCu酸化物の形成が効果的に抑制される。よって、接合部における抵抗の増加を抑制し、導電性を向上させることができる。このため、たとえばAuワイヤを用いる場合に比べてワイヤの断面積を30%程度減少させることもできる。また、Cuのみからなるワイヤを用いる場合よりもワイヤの硬度を低下させることができるため、ボンディングの容易性を高めることができる。
【0057】
また、CuPボール113が、ボールの中心から外側に向かってせりあがった肩部131を有し、また、ボールの中心から外側に向かって厚くなる断面形状を有するため、ボンディング時の製造歩留まりをより一層向上させることができる。
【0058】
以下の実施形態においては、第一の実施形態と異なる点を中心に説明する。
(第二の実施形態)
第一の実施形態においては、電極パッドとインナーリードとがボンディングワイヤにより接続される構成の場合を例に説明したが、一方が電極パッドに接続されたボンディングワイヤの他端に接続される外部接続用端子の構成は、インナーリードである場合には限られず、他の部材とすることもできる。たとえば、半導体チップの電極パッドからプリント配線基板上に設けられた配線にワイヤボンディングされていてもよい。
【0059】
図4は、このような構成の半導体装置の構成を示す断面図である。図4に示した半導体装置110の基本構成は図1に示した半導体装置100の構成と同様であるが、リードフレーム121およびリードフレーム119に代えて、BGA基板129が設けられている点が異なる。
【0060】
BGA基板129は、半導体チップ102が設置されるプリント配線基板123と、プリント配線基板123の所定の位置に設けられた配線125と、プリント配線基板123のチップ搭載面の裏面に設けられた複数のバンプ127とを有する。CuPワイヤ111は、AlCuパッド107と配線125とに接続されている。プリント配線基板123のチップ搭載領域全体が封止樹脂115により封止されている。
【0061】
図4に示した半導体装置110においても、AlCuパッド107とCuPワイヤ111とを接続するとともに、ハロゲンを含まない難燃性の封止樹脂115が用いられるため、図1に示した半導体装置100と同様の効果が得られる。
【0062】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0063】
たとえば、以上の実施形態においては、電極パッドの材料がAlおよびCuである場合を例に説明したが、電極パッドは、Alを主成分としCuをさらに含む材料であればこれには限られず、AlSiCu等のAlを主成分としSiおよびCuをさらに含む金属としてもよい。さらに具体的には、電極パッドの材料が、Al98.5重量%、Si1.0重量%およびCu0.5重量%からなるAlSiCuであってもよい。
【0064】
また、以上の実施形態においては、AlCuパッド107に接続されるボンディングワイヤの材料が、CuPである場合を例に説明したが、ボンディングワイヤの材料は、Cuを主として含むものであればこれには限られない。たとえば、ボンディングワイヤはPを含まない材料により構成されていてもよい。
【0065】
また、以上の実施形態においては、AlCuパッド107上にポリイミド膜109が設けられた構成の半導体装置の場合を例に説明したが、ポリイミド膜109が設けられていない構成とすることもできる。
また、以上の実施形態において、AlCuパッド107の下層をなすバリア層をさらに設けてもよい。バリア層の具体例としては、TiN層、TiN層(パッド側)/Ti層(基板側)、WSi層、MoSi層、TiSi層が挙げられる。
【0066】
また、本発明の技術は、エポキシ樹脂等の樹脂により封止される種々の半導体パッケージに適用可能であり、BGAのパッケージ等、以上の実施形態に挙げた構成には限られないことはもちろんである。
【0067】
また、以上の実施形態においては、ボンディングパッドと半導体チップ中の導電部材とを接続する導電性の接続部材がボンディングワイヤである場合を例に説明したが、他に、ボールやリボン状の接続部材を用いることもできる。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
本実施例では、AlおよびCuを含む電極パッド(AlCuパッド)に、CuおよびPを含むワイヤ(CuPワイヤ)を接合し、高温保存した際の接合部の構造を解析した。電極パッドおよびワイヤの組成、ボンディング条件ならびに高温保存条件を以下に示す。
電極パッド:Al99.5重量%、Cu0.5重量%
ワイヤ:Cu99.9重量%、P0.1重量%、直径50μm
ボンディング条件:200℃、荷重100〜600g
保存条件:175℃、1000時間
【0069】
図9(a)は、保存後の接合部の構成を示す断面図であり、図9(b)は、図9(a)中の四角枠内の拡大断面図である。また、図10は、図9(b)の四角枠内をさらに拡大して示す断面図である。図9(a)および図9(b)より、電極パッドとワイヤとの間に、1.2μm程度の接合層が一様に形成されている。また、接合部における電極パッドの厚さは接合前より薄化しているものの、接合部全体にわたって電極パッドが残存している。
【0070】
また、図10より、接合層は、少なくとも3層(図10中のB層〜D層)から主に構成されていることがわかる。そこで、図10中のA層〜D層の組成をX線回折により求めた。図11(a)〜図11(d)は、それぞれ、A層〜D層の分析結果を示す図である。図19に示したAl−Cu合金の状態図(非特許文献1より)を参照すると、図11(a)〜図11(d)より、各層の組成は、それぞれ以下のとおりであった。
A層:AlOx
B層:Cu9Al4またはCu3Al2
C層:CuAl
D層:CuAl2
【0071】
一方、図9(c)は、Auワイヤ(直径50μm)をAl−Si−Cuパッド(Al98.5重量%Si1重量%、Cu0.5重量%)に接合し、175℃で500時間高温保存した後の接合部の様子を示す図である。図9(c)および図9(a)より、Cuを主成分とするワイヤおよびAlCuパッドを用いることにより、接合部における合金層の成長および合金成長に伴うボイドの発生をより効果的に抑制できることがわかる。
【0072】
(実施例2)
本実施例では、CuPワイヤとともに用いる電極パッドの材料が接合初期の合金層の形成状態に与える影響を評価した。
ワイヤとして、実施例1で用いた組成のCuPワイヤを用いた。また、電極パッドとして、実施例1で用いた組成のAlCuパッドまたはAlSiパッド(Al99重量%、Si1重量%)を用いた。
【0073】
図12(a)は、AlSiパッドを用いた試料の接合直後の接合部の構成を示す断面図であり、図12(b)は、AlCuパッドを用いた試料の接合直後の接合部の構成を示す断面図である。
図12(a)より、AlSiパッドを用いた試料では、接合直後において、接合領域内に合金層が充分に形成されていない領域が存在する。これに対し、AlCuパッドを用いた試料では、図12(b)より、接合領域全体に合金層が形成されている。
【0074】
(実施例3)
本実施例では、CuPワイヤとともに用いる電極パッドの材料が接合部の構造および高温保存耐性に与える影響を評価した。
ワイヤとして、実施例1で用いた組成のCuPワイヤを用い、電極パッド材料の異なる以下の試料を作製した。
試料1:AlSiCuパッド(Al98.5重量%、Si1重量%、Cu0.5重量%)
試料2:AlCuパッド(Al99.5重量%、Cu0.5重量%)
試料3:AlSiパッド(Al99重量%、Si1重量%)
【0075】
図13は、試料1〜3の接合直後の構成を示す図である。なお、図13には、接合強度に対応する接合部のシェア強度の測定結果を会わせて示した。シェア強度の測定方法は、パッド面から、2〜6μm上空を、金属のツールで横方向に力を加えて、せん断強度を測定する方法とした。
【0076】
図13より、構成元素としてCuを含む電極パッドを用いた場合(試料1、2)には、接合領域全体に電極パッドが残存しているのに対し、Cuを含まないAlSiパッドを用いた場合(試料3)、ボールの過度のくいこみにより、電極パッドが残存しない領域が形成されてしまうことがわかる。
【0077】
また、試料1〜3をそれぞれ15個ずつ作製し、王水剥離により電極パッド下の様子を確認したところ、試料3では15個中2個に剥離が生じていたが、試料1および2では15個いずれも剥離は生じていなかった。
【0078】
次に、試料1および2をBrフリー樹脂で封止し、200℃保存した際のトランジスタオン時の電気抵抗の変動率を測定した。あわせて、試料1および2に対応する電極パッドおよびワイヤを用い、Brを含む樹脂で封止したもの(試料4および5)についても、上記測定を行った。測定結果を図14に示す。
【0079】
図14より、Cuを含む電極パッドを用い、Brフリー樹脂で封止することにより、200℃の高温で動作させた際にも、トランジスタオン時の電気抵抗の変動率の上昇を長期間にわたって抑制することができる。
【0080】
なお、図15(a)は、試料5の175℃、2350時間保存後の接合部の構成を示す図であり、図15(b)は、図15(a)の四角枠内を拡大して示す図である。図16および図17は、図15(b)中のPoint1〜point6についてエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDS)により測定されたスペクトルを示す図である。
図15〜図17より、Brを含む樹脂を用いた場合、接合部中にBr腐食層(AlBr3層)が形成されていることがわかる。また、CuとAlの合金からCuが押し出されてAlBr3層中に残存している。
【0081】
(実施例4)
本実施例では、封止樹脂材料の影響を評価した。電極パッドおよびワイヤとして、いずれも実施例1で前述したAlCuパッドおよびCuPワイヤを用いた。ワイヤを電極パッドに接合した後、Br入り樹脂またはBrフリー樹脂で封止して、175℃で700時間保存した。
【0082】
図18(a)は、Br入り樹脂で封止した試料の保存後の構成を示す断面図であり、図18(b)は、Brフリー樹脂で封止した試料の保存後の構成を示す断面図である。
図18(a)および図18(b)より、Br入り樹脂で封止した試料においては、接合領域中に腐食部が形成されているのに対し、Brフリー樹脂で封止した試料では、腐食が生じていないことがわかる。
【0083】
実施例1〜4より、Cuを含むAlパッドおよびCuを含むワイヤの接合領域に組成の異なる複数の合金層を形成し、Brレスの難燃性樹脂で封止することにより、接合領域全体にわたって初期合金層が均質に形成されるとともに高温保存中の合金層の過度の成長およびBrによる腐食を抑制することができるため、高温動作時の接続信頼性を著しく向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施形態における半導体装置の構成を示す断面図である。
【図2】図1の半導体装置の一部を拡大して示す断面図である。
【図3】実施形態における半導体装置の電極パッドとボンディングパッドの接合部周辺の構成を示す断面図である。
【図4】実施形態における半導体装置の構成を示す断面図である。
【図5】実施形態における半導体装置の構成を示す断面図である。
【図6】図5に示した半導体装置の接合部の構成を示す断面図である。
【図7】図5に示した半導体装置の接合部の構成を示す断面図である。
【図8】図5に示した半導体装置の接合部の構成を示す断面図である。
【図9】実施例における電極パッドとワイヤとの接合部の構成を示す断面図である。
【図10】実施例における電極パッドとワイヤとの接合部の構成を示す断面図である。
【図11】実施例における電極パッドとワイヤとの接合層の分析結果を示す図である。
【図12】実施例における電極パッドとワイヤとの接合部の構成を示す断面図である。
【図13】実施例における電極パッドとワイヤとの接合部の構成を示す図である。
【図14】実施例における電極パッドとワイヤとの接合部の高温保存試験結果を示す図である。
【図15】実施例における電極パッドとワイヤとの接合部の構成を示す断面図である。
【図16】実施例における電極パッドとワイヤとの接合層の分析結果を示す図である。
【図17】実施例における電極パッドとワイヤとの接合層の分析結果を示す図である。
【図18】実施例における電極パッドとワイヤとの接合部の構成を示す断面図である。
【図19】Al−Cu合金の状態図である。
【符号の説明】
【0085】
100 半導体装置
101 シリコン基板
102 半導体チップ
103 多層膜
105 CuAl合金層
107 AlCuパッド
109 ポリイミド膜
110 半導体装置
111 CuPワイヤ
113 CuPボール
115 封止樹脂
117 インナーリード
119 リードフレーム
121 リードフレーム
123 プリント配線基板
125 配線
127 バンプ
129 BGA基板
131 肩部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップと、
前記半導体チップに設けられ、Alを主成分としCuをさらに含む電極パッドと、
前記半導体チップの外部に設けられた接続端子と前記半導体チップとを接続するとともに、Cuを主として含む接続部材と、
を備え、
前記接続部材と前記電極パッドとの接続領域に、AlとCuの組成比が異なる複数のCuおよびAlの合金層が設けられ、
前記CuおよびAlの合金層が、
CuAl2層と、
前記CuAl2層と前記接続部材との間に設けられるとともに前記CuAl2層よりもAl組成比が相対的に低い層と、
を含み、
前記電極パッドと前記接続部材とが、実質的にハロゲンを含まない封止樹脂により封止された、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、CuAl2層よりもAl組成比の低い前記層が、
CuとAlの組成物が1:1のCuAl層と、
前記CuAl層と前記接続部材との間に設けられるとともに前記CuAl層よりもAl組成比が相対的に低い層と、
を含む、半導体装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置において、前記電極パッド全体に対するAlの割合が50.0重量%以上99.9重量%以下であり、前記電極パッド全体に対するCuの割合が0.1重量%以上5.0重量%以下である、半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載の半導体装置において、前記電極パッドが、構成元素としてさらにSiを含む、半導体装置。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の半導体装置において、前記接続部材が、構成元素としてさらにPを含む、半導体装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の半導体装置において、前記封止樹脂中の樹脂が、分子骨格中にBr基を実質的に含まない高分子化合物からなる、半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の半導体装置において、前記封止樹脂が、金属水和物を含む、半導体装置。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の半導体装置において、前記接続部材が接続された領域における前記電極パッドの厚さが、前記接続部材が接続されていない領域における前記電極パッドの厚さの1/4以上である、半導体装置。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の半導体装置において、
前記接続部材がワイヤであって、
前記電極パッドとの接合部において前記ワイヤにボールが形成されており、
断面視において、前記ボールに、該ボールの中心から外側に向かって前記ボールの厚さが増加する肩部が設けられた、半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図11】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−177104(P2009−177104A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28839(P2008−28839)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】