説明

半導体装置

【課題】スイッチング素子のターンオン直後における、過電流保護回路の誤動作防止と過電流検出遅れ防止とを両立させる。
【解決手段】半導体装置は、スイッチング素子1のセンス端子に流れるセンス電流を電圧(センス電圧)に変換するセンス抵抗4と、センス電圧が閾値を越えたときにスイッチング素子1の保護動作を行う過電流保護回路3とを備える。過電流保護回路3は、上記閾値を、第1基準電圧VREF1またはそれよりも低い第2基準電圧VREF2に切り替えることができる。過電流保護回路3は、スイッチング素子1が定常状態のときは、上記閾値を第2基準電圧VREF2とし、スイッチング素子1のターンオン直後のミラー期間のときは、上記閾値を第1基準電圧VREF1に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体スイッチング素子の過電流保護機能を有する半導体装置に関し、特に、ターンオン直後のミラー期間が存在する半導体スイッチング素子の過電流保護回路の誤動作防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」という)を備えるインバータ等の半導体装置としては、スイッチング素子に流れる主電流が一定レベルを超えると、スイッチング素子を遮断するなどの保護動作を行うことによって、スイッチング素子を保護する過電流保護回路を有するものがある。
【0003】
スイッチング素子に流れる主電流の検出方法には、スイッチング素子の主電極にシャント抵抗を接続させるなどして検出する直接的方法と、スイッチング素子と並列に接続した電流検出用の素子(セル)に主電流の一部を分流させ、その分流した電流(センス電流)を検出する間接的方法とがある。電流検出用素子(電流センス素子)を用いる方式は、シャント抵抗を用いる方式と比較すると、シャント抵抗による電力損失が無く、また小型化が可能であるという利点がある。
【0004】
一般に、電流センス素子を用いる方式を採用した半導体装置では、スイッチング素子の主電流に対するセンス電流の比率(分流比)が、約1/1000〜1/100000となるように、電流センス素子の寸法および電気的特性が設定される。センス電流は、抵抗等を用いて電圧(センス電圧)に変換され、過電流保護回路に入力される。過電流保護回路は、センス電圧が所定の閾値を越えた場合にスイッチング素子に過電流が流れたと判定し、スイッチング素子を遮断するなどの保護動作を行うことで、スイッチング素子の損傷を防止する。過電流保護回路が保護動作を開始するスイッチング素子の主電流の値を、短絡保護トリップレベル(以下「SCトリップレベル」)と呼ぶ。
【0005】
下記の特許文献1には、素子温度に合わせてSCトリップレベルを調整することが可能な半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−206348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IGBTやMOSFET等のスイッチング素子のターンオン直後には、ゲート電流がゲート・エミッタ間を充電する以外にゲート・コレクタ間容量を充電するためにゲート・エミッタ間電圧が一定となる「ミラー期間」と呼ばれる期間がある。
【0008】
スイッチング素子を流れる主電流に対するセンス電流の分流比は常に一定であることが望ましいが、スイッチング素子がミラー期間中の状態と、スイッチング素子の定常状態とでは分流比が異なり、一般に、ミラー期間中は電流センス素子に流れるセンス電流が大きくなる(つまり分流比が大きくなる)。よってミラー期間中は、過電流保護回路に入力されるセンス電圧も増加することになる。
【0009】
この現象は、特に、スイッチング素子がオフしたときに誘導性の負荷にフリーホイール電流(還流電流)を流し続けるためのフリーホイールダイオード(FWD)が、スイッチング素子に接続されている場合に問題となる。すなわち、誘導性の負荷とフリーホイールダイオードとの間にフリーホイール電流が流れている状態で、スイッチング素子がターンオンすると、その直後のミラー期間には、スイッチング素子にフリーホイール電流とほぼ同じ大きさの電流が流れる。ミラー期間では、電流センス素子に流れるセンス電流は定常状態よりも大きいため、スイッチング素子に流れる電流がSCトリップレベル以下であっても、センス電圧が閾値を越えてしまうことによる過電流の誤検出が生じ、それに起因して過電流保護回路の誤動作が生じる。
【0010】
従来、この誤動作を防止する方法としては、過電流保護回路にミラー期間の長さに相当する時定数のローパスフィルタを設ける方法や、ミラー期間中、過電流保護回路に入力されるセンス電圧をマスクする方法(Leading Edge Blanking)などが用いられていた。
【0011】
しかし、これらの誤動作防止方法では、スイッチング素子がターンオンした直後のミラー期間中は、過電流保護回路が動作しない、あるいは動作開始に遅れが生じる。そのため、例えば3相インバータのHブリッジでの上下アーム短絡や負荷短絡のように、スイッチング素子のターンオン直後から過電流が流れるような異常時に、過電流検出および保護動作が遅れる問題が生じる。
【0012】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、スイッチング素子のターンオン直後における、過電流保護回路の誤動作防止と過電流検出遅れ防止とを両立可能な半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る半導体装置は、スイッチング素子と、前記スイッチング素子に流れる主電流を分流したセンス電流を電圧に変換したセンス電圧を生成する受動素子と、前記センス電圧が閾値を越えたときに前記スイッチング素子の保護動作を行う保護回路と、前記スイッチング素子がターンオンした直後の一定期間、前記センス電圧が前記閾値に達しにくくする誤動作防止手段とを備え、前記誤動作防止手段は、前記一定期間の間、前記受動素子が生成する、前記センス電流に対する前記センス電圧の大きさを小さくすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過電流検出信号をマスクすることなく、ローパスフィルタを省略あるいはローパスフィルタの時定数を小さくしても、スイッチング素子のターンオン直後における過電流の誤検出を防止でき、過電流保護回路の誤動作が防止される。つまり、過電流保護回路の誤動作を防止しつつ、過電流検出の遅れを短縮させることが可能である。従って、スイッチング素子のターンオン直後から過電流が流れるような異常が生じた場合でも、スイッチング素子の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】誘導性負荷が接続したIGBTにおけるターンオン時のセンス電圧の変化を説明するための図である。
【図2】実施の形態1に係る半導体装置の構成図である。
【図3】ブリッジ接続したIGBTの上下アーム短絡時のセンス電圧の変化を説明するための図である。
【図4】実施の形態2に係る半導体装置の構成図である。
【図5】実施の形態3に係る半導体装置の構成図である。
【図6】実施の形態4に係る半導体装置の構成図である。
【図7】実施の形態5に係る半導体装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施の形態1>
まず、スイッチング素子のミラー期間に生じる上記の問題について、具体的に説明する。図1に、誘導性負荷が接続したIGBTのターンオン時における、ゲート・エミッタ間電圧VGE、コレクタ・エミッタ間電圧VCE、コレクタ電流ICおよびセンス電圧VS(IGBTの電流センス素子に流れたセンス電流を抵抗素子を用いて電圧に変換したもの)の挙動の一例を示す。この例は、電流定格300AのIGBTに、ターンオン直後から約260Aのコレクタ電流ICが流れた場合の様子である。
【0017】
IGBTのゲートに入力される駆動信号が立ち上がると、ゲート・エミッタ間電圧VGEが上昇してIGBTがターンオンするが、その直後にゲート・エミッタ間電圧VGEが一時的に一定となる期間が存在する。図1においては、IGBTのターンオン直後に、約2.4μsの期間、ゲート・エミッタ間電圧VGEが約10.8Vに維持されている。この期間が「ミラー期間」である。図1では、コレクタ電流ICがIGBTのターンオン直後のリンギングの後はほぼ一定であるにも関わらず、センス電圧VSはリンギングの後、0.5V程度になり、ミラー期間の後に低下することが観察される。
【0018】
このセンス電圧VSの上昇は、IGBTのターンオン直後に過電流の誤検出を引き起こし、過電流保護回路を誤動作させる原因となる。図1の例において、過電流保護回路が保護動作を開始するセンス電圧VSの閾値が0.5V以下に設定されていた場合、コレクタ電流ICが定格以下であるにも関わらず、過電流保護回路がIGBTの保護動作を開始してしまう。
【0019】
図2は、実施の形態1に係る半導体装置の構成図である。当該半導体装置は、スイッチング素子1、駆動回路2、過電流保護回路3、センス抵抗4およびローパスフィルタ5を備えている。
【0020】
本実施の形態では、スイッチング素子1として、電流センス素子を内蔵したIGBT11を用いている。電流センス素子の出力端子(センス端子)には、IGBT11のコレクタ電流(主電流)に比例したセンス電流が流れる。
【0021】
センス抵抗4は、IGBT11のセンス端子とエミッタ端子との間に接続され、センス電流を電圧(センス電圧)に変換する受動素子である。なお、センス抵抗4の抵抗値RSは、従来の半導体装置が備えるセンス抵抗と同等とする。
【0022】
センス電圧は、抵抗51およびコンデンサ52から成るローパスフィルタ5を通して過電流保護回路3に入力される。ローパスフィルタ5の時定数は、リンギングの周期以上とし、且つ、スイッチング素子1のミラー期間よりも充分に短く、望ましくはミラー期間の1/2以下とする。具体的には、例えば、スイッチング素子1と組み合わせて使用するフリーホイールダイオード(不図示)のリカバリ時間と同程度とするとよい。ローパスフィルタ5によりリンギングを除去したセンス電圧を過電流保護回路3に供給し、リンギングによる誤動作を防止する。
【0023】
駆動回路2は、外部から入力される制御信号である入力信号VINに基づいて、IGBT11のゲートに入力する駆動信号を生成する。ここで、スイッチング素子1は、入力信号VINがHレベルのときオンし、入力信号VINがLレベルのときオフにするように制御されるものと仮定する。
【0024】
入力信号VINは、過電流保護回路3を通して駆動回路2に供給される。過電流保護回路3は、センス電圧に基づいてスイッチング素子1に流れる主電流をモニタしており、通常は入力信号VINを駆動回路2に伝達するが、スイッチング素子1に過電流が流れた(主電流がSCトリップレベルを超えた)ことが検出されると、駆動回路2への入力信号VINの供給を停止してスイッチング素子1を遮断するなど所定の保護動作を行う。
【0025】
過電流保護回路3は、制御部31、コンパレータ32、遅延回路33、切替器34、抵抗35,36および基準電圧源37から構成される。抵抗35,36の直列回路は、基準電圧源37に並列接続されており、抵抗35,36間の接続ノード38には、基準電圧源37が出力する第1基準電圧VREF1を、抵抗35,36で分圧した第2基準電圧VREF2が出力される。以下、抵抗35,36間の接続ノード38を「分圧基準点」と称す。
【0026】
コンパレータ32の非反転入力端子(+端子)には、ローパスフィルタ5を介してセンス電圧が入力される。コンパレータ32の反転入力端子(−端子)には、基準電圧源37または分圧基準点38が選択的に接続される。分圧基準点38から出力される第2基準電圧VREF2は、基準電圧源37が出力する第1基準電圧VREF1を抵抗35,36の分圧比で分圧したものなので、第1基準電圧VREF1よりも低い。分圧基準点38から出力される第2基準電圧VREF2は、スイッチング素子1にSCトリップレベルに相当する主電流が流れたときに現れるセンス電圧の値(つまり、従来の半導体装置の過電流保護回路が保護動作を開始する閾値と同等)に設定される。基準電圧源37が出力する第1基準電圧VREF1は、ミラー期間においてスイッチング素子1にSCトリップレベルに相当する主電流が流れたときに現れるセンス電圧の値(つまり、従来の半導体装置の過電流保護回路が保護動作を開始する閾値に対して、ミラー期間において増大したセンス電流(分流比)を考慮して大きくした値)に設定される。
【0027】
コンパレータ32の−端子に、基準電圧源37を接続させるか分圧基準点38を接続させるかの切り替えは、切替器34によって行われ、その動作は遅延回路33により制御される。遅延回路33は、切替器34を制御して、入力信号VINの立ち上がりからその後所定の遅延時間を経過するまでの期間にのみ、コンパレータ32の−端子にコンパレータ32の−端子に基準電圧源37を接続させ、それ以外の期間はコンパレータ32の−端子に分圧基準点38を接続させる。
【0028】
遅延回路33に設定される上記の遅延時間は、スイッチング素子1のミラー期間の長さと同等、あるいはそれ以上に設定される。本実施の形態では、ミラー期間と同等の遅延時間が遅延回路33に設定されているものとする。
【0029】
コンパレータ32の出力は、+端子に入力されるセンス電圧が−端子の電圧(第1基準電圧VREF1あるいは第2基準電圧VREF2)よりも低いときはL(Low)レベルになり、センス電圧が−端子の電圧を超えるとH(High)レベルになる。コンパレータ32の出力は、制御部31の動作制御に用いられる。
【0030】
制御部31には、入力信号VINが入力されており、コンパレータ32の出力がLレベルの場合には、入力信号VINを駆動回路2へと伝達する。しかし、コンパレータ32の出力がHレベルになると、制御部31は、スイッチング素子1に過電流が流れたと判断し、駆動回路2に対しスイッチング素子1を遮断させる信号を出力して、スイッチング素子1を保護する。
【0031】
図2の半導体装置においては、センス電圧がコンパレータ32の−端子の電圧よりも低い場合、過電流保護回路3の制御部31が入力信号VINを駆動回路2へと伝達するので、スイッチング素子1は入力信号VINに従って動作する。また、センス電圧がコンパレータ32の−端子の電圧以上になると、過電流保護回路3の制御部31によって、スイッチング素子1の保護動作が行われる。
【0032】
コンパレータ32の−端子の電圧は、過電流保護回路3がスイッチング素子1の保護動作を開始するセンス電圧の閾値となるが、その閾値は、切替器34によって切り替えられる。つまり、入力信号VINの立ち上がりからの一定期間(遅延回路33に設定された遅延時間に相当)は、閾値は第1基準電圧VREF1になり、それ以外の期間では、閾値は第2基準電圧VREF2になる。
【0033】
本実施の形態において、第2基準電圧VREF2は第1基準電圧VREF1よりも低く、遅延回路33の遅延時間はスイッチング素子1のミラー期間の長さと同等に設定される。そのため、図2の半導体装置では、過電流保護回路3がスイッチング素子1の保護動作を開始するセンス電圧の閾値が、スイッチング素子1のターンオン直後のミラー期間中にだけ、高く設定されることになる。
【0034】
その結果、スイッチング素子1のミラー期間の間、センス電圧が過電流保護回路3の保護動作が開始される閾値に達しにくくなる。従って、ミラー期間中にスイッチング素子1の主電流に対するセンス電流の分流比が変化してセンス電流が大きくなりセンス電圧が上昇しても、それが原因で過電流保護回路3が誤動作することを防止できる。
【0035】
例えば、スイッチング素子1を構成するIGBT11が、ターンオン時に図1に示した挙動をとる場合、第1基準電圧VREF1を0.7V、第2基準電圧VREF2を0.5V、遅延回路33の遅延時間を2.4μs以上にそれぞれ設定する。その場合、スイッチング素子1のミラー期間中、過電流保護回路3が保護動作を開始するセンス電圧の閾値が、従来の半導体装置の場合よりも高い0.7Vとなるため、過電流保護回路3の誤動作が防止される。しかも、ミラー期間中においても、第1基準電圧VREF1に対応する閾値で保護動作が可能である。
【0036】
またミラー期間が終了してスイッチング素子1が定常状態となると、その閾値が、従来の半導体装置の場合と同等の0.5Vに下がるため、従来と同様の保護動作が可能である。
【0037】
本実施の形態の半導体装置では、ローパスフィルタ5の時定数はミラー期間の長さよりも充分短く設定されており、また、過電流保護回路3に入力するセンス電圧をミラー期間中にマスクする方法も用いていないため、過電流保護回路3の動作に遅れが生じることも防止される。また、単一の基準電圧源37のみ設けてこれを分圧する構成としているため複数の基準電圧源が不要であり、回路の単純化が可能である。
【0038】
図3は、図1の測定に用いたものと同じIGBT(電流定格300A)をブリッジ接続し、上アームと下アームのIGBTを同時にオンして短絡(上下アーム短絡)を発生させたときの、IGBTにおけるゲート・エミッタ間電圧VGE、コレクタ・エミッタ間電圧VCE、コレクタ電流ICおよびセンス電圧VSの挙動の一例を示す。コレクタ電流ICの増大に伴い、センス電圧VSは最大で3.5Vまで増加している。
【0039】
図3は、過電流保護回路に入力するセンス電圧をミラー期間中(2.4μm)にマスクする手法を用いた場合の例であり、IGBTのターンオンにより上下アーム短絡が生じて過電流が流れても、過電流保護回路が保護動作を開始するまでに2.4μmの遅れが生じる。
【0040】
それに対し、本実施の形態の半導体装置では、ミラー期間中、過電流保護回路3が保護動作を開始するセンス電圧の閾値が高くなるが、センス電圧を用いた過電流の検出動作は継続して行われる。図3の例において、本実施の形態の半導体装置の構成が採られ第1基準電圧VREF1が0.7Vに設定されていれば、過電流保護回路3が過電流を検出するのはIGBTのターンオン(アーム短絡開始)から800ns後となり、この時点から保護動作が開始され、コレクタ電流ICが大きく増大する前にスイッチング素子1を保護することができる。つまりセンス電圧をマスクする手法に比べ、保護動作が行われるまでの時間を1.6μs短縮でき、スイッチング素子1に流れる過電流を抑制し、スイッチング素子1の保護性能を著しく向上することができる。
【0041】
なお、スイッチング素子1は、IGBTに限らず、MOSFETなど、ミラー期間を有するスイッチング素子であればよい。また、スイッチング素子1は、シリコン(Si)を用いて形成したものに限らず、例えば窒化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)系材料、ダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ半導体を用いて形成したものでもよい。ワイドバンドギャップ半導体を用いたスイッチング素子を用いることによって、半導体装置の高耐電圧化、低損失化および高耐熱化を実現できる。
【0042】
<実施の形態2>
図4は、実施の形態2に係る半導体装置の構成図である。図4においては、図2に示したものと同様の機能を有する要素には同一符号を付している。
【0043】
本実施の形態では、過電流保護回路3のコンパレータ32の−端子には、基準電圧VREFを出力する基準電圧源37が接続される。つまり過電流保護回路3が保護動作を開始する閾値は、基準電圧VREFに固定される。基準電圧VREFの値は、スイッチング素子1にSCトリップレベルに相当する主電流が流れたときに現れるセンス電圧の値(つまり従来の半導体装置の過電流保護回路が保護動作を開始する閾値と同等)に設定される。
【0044】
IGBT11のセンス端子に接続されるセンス抵抗として、抵抗41,42の直列回路が用いられる。抵抗41の抵抗値RS1と抵抗42の抵抗値RS2との和は、従来の半導体装置が備えるセンス抵抗と同等に設定される。また抵抗42には、開閉器6が並列接続されており、開閉器6がオンすると抵抗42の両端がショートされるように構成されている。
【0045】
開閉器6の動作は、遅延回路33によって制御される。遅延回路33は、入力信号VINの立ち上がりからその後所定の遅延時間を経過するまでの期間にのみ、開閉器6をオンにし、それ以外の期間は開閉器6をオフにする。遅延回路33に設定される上記の遅延時間は、スイッチング素子1のミラー期間の長さと同等、あるいはそれ以上に設定される。本実施の形態では、ミラー期間と同等の遅延時間が遅延回路33に設定されているものとする。
【0046】
図4の半導体装置においては、コンパレータ32の+端子に入力されるセンス電圧が基準電圧VREFよりも低い場合は、過電流保護回路3の制御部31が入力信号VINを駆動回路2へと伝達し、スイッチング素子1は入力信号VINに従って動作する。また、センス電圧が基準電圧VREF以上になると、過電流保護回路3の制御部31によって、スイッチング素子1の保護動作が行われる。
【0047】
図4の半導体装置では、コンパレータ32の+端子に入力されるセンス電圧を発生するセンス抵抗の抵抗値が、開閉器6によって切り替えられる。つまり、入力信号VINの立ち上がりからの一定期間(遅延回路33に設定された遅延時間に相当)は、開閉器6がオンするので、センス抵抗は抵抗41のみとなり、その抵抗値はRS1となる。一方、それ以外の期間では、開閉器6がオンするため、センス抵抗は抵抗41,42の直列回路となり、その抵抗値はRS1+RS2となる。
【0048】
本実施の形態では、遅延回路33の遅延時間はスイッチング素子1のミラー期間の長さと同等に設定されているため、図4の半導体装置では、スイッチング素子1のターンオン直後のミラー期間中にだけ、センス抵抗の抵抗値が、従来の半導体装置の場合よりも小さく設定される。開閉器6により抵抗42をショートする構成であり、開閉器6がオンまたはオフする過渡動作中においてもセンス抵抗の抵抗値が不安定になることが無いため、過電流保護回路3による安定した保護動作が可能である。
【0049】
従って、ミラー期間中にスイッチング素子1の主電流に対するセンス電流の分流比が変動してセンス電流が大きくなっても、センス電圧の上昇は小さく抑えられる。つまり、ミラー期間の間、センス電圧が過電流保護回路3の保護動作が開始される閾値に達しにくくなり、過電流保護回路3の誤動作を防止できる。
【0050】
またミラー期間が終了してスイッチング素子1が定常状態となると、センス抵抗の抵抗値は従来の半導体装置の場合と同等になるので、従来と同様の保護動作が可能である。
【0051】
本実施の形態の半導体装置においても、ローパスフィルタ5の時定数はミラー期間の長さよりも充分短く設定されており、また、過電流保護回路3に入力するセンス電圧をミラー期間中にマスクする方法も用いていないため、過電流保護回路3の動作に遅れが生じることも防止される。
【0052】
なお、図4では開閉器6を抵抗42に並列接続させているが、開閉器6を抵抗41に並列接続させても同様の効果が得られる。
【0053】
<実施の形態3>
図5は、実施の形態3に係る半導体装置の構成図である。当該半導体装置の構成は、図4の構成に対し、開閉器6に代えて抵抗42にコンデンサ7を並列接続させ、遅延回路33を省略したものである。
【0054】
抵抗41,42およびコンデンサ7から成る回路の時定数は、スイッチング素子1のミラー期間長と同等、あるいはそれ以上に設定される。本実施の形態では、その時定数がミラー期間長と同等に設定されているものとする。
【0055】
図5の半導体装置では、実施の形態2と同様に、スイッチング素子1のターンオン直後のミラー期間中にだけ、コンデンサ7がショート状態となるため、センス抵抗の抵抗値が、従来の半導体装置の場合よりも小さい値(RS1)になる。
【0056】
従って、ミラー期間中にスイッチング素子1の主電流に対するセンス電流の分流比が変動してセンス電流が大きくなっても、センス電圧の上昇は小さく抑えられる。つまり、ミラー期間の間、センス電圧が過電流保護回路3の保護動作が開始される閾値に達しにくくなり、過電流保護回路3の誤動作を防止できる。ミラー期間中においても、センス抵抗の抵抗値がRS1であるときに対応する保護動作が可能である。
【0057】
またミラー期間が終了してスイッチング素子1が定常状態となると、センス抵抗の抵抗値は従来の半導体装置の場合と同等の値(RS1+RS2)になるので、従来と同様の保護動作が可能である。
【0058】
本実施の形態の半導体装置においても、ローパスフィルタ5の時定数はミラー期間の長さよりも充分短く設定されており、また、過電流保護回路3に入力するセンス電圧をミラー期間中にマスクする方法も用いていないため、過電流保護回路3の動作に遅れが生じることも防止される。
【0059】
<実施の形態4>
実施の形態2,3では、スイッチング素子1のミラー期間にセンス抵抗の抵抗値を小さくすることによって、過電流保護回路3に入力されるセンス電圧を小さくし、過電流保護回路3の誤動作を防止したが、他の手法によってミラー期間のセンス電圧を小さくしてもそれと同様の効果を得ることができる。
【0060】
図6は、実施の形態4に係る半導体装置の構成図である。当該半導体装置のセンス抵抗は、実施の形態1(図2)と同様に、1つのセンス抵抗4である。また過電流保護回路3の構成は、実施の形態2(図4)と同様である。また本実施の形態の半導体装置は、センス抵抗4の一端に、センス電流をバイアスする補正電流IAを供給する補正電流発生回路8を備えており、補正電流IAの大きさは、過電流保護回路3の遅延回路33によって制御される。
【0061】
遅延回路33は、入力信号VINの立ち上がりからその後所定の遅延時間を経過するまでの期間にのみ、補正電流発生回路8がセンス抵抗4へ供給する補正電流IAを小さくさせる。遅延回路33に設定される上記の遅延時間は、スイッチング素子1のミラー期間の長さと同等、あるいはそれ以上に設定される。
【0062】
本実施の形態では、ミラー期間と同等の遅延時間が遅延回路33に設定されているものとする。またセンス抵抗4の抵抗値RSは、補正電流IAが大きい状態において、IGBT11にSCトリップレベルに相当する主電流が流れたときに、コンパレータ32の+端子に入力されるセンス電圧が基準電圧VREFと等しくなるように設定される。
【0063】
図6の半導体装置では、コンパレータ32の+端子に入力されるセンス電圧の大きさは、補正電流IAの大きさによって変化する。つまり、入力信号VINの立ち上がりからの一定期間(遅延回路33に設定された遅延時間に相当)は、補正電流IAが小さくなるのでセンス電圧は小さくなる。一方、それ以外の期間では、補正電流IAが大きくなるのでセンス電圧は大きくなる。
【0064】
本実施の形態では、遅延回路33の遅延時間はスイッチング素子1のミラー期間の長さと同等に設定されているため、図6の半導体装置では、スイッチング素子1のターンオン直後のミラー期間中にだけ、センス電圧が小さく抑えられる。
【0065】
従って、ミラー期間中にスイッチング素子1の主電流に対するセンス電流の分流比が変動してセンス電流が大きくなっても、センス電圧の上昇は小さく抑えられる。つまり、ミラー期間の間、センス電圧が過電流保護回路3の保護動作が開始される閾値に達しにくくなり、過電流保護回路3の誤動作を防止できる。
【0066】
またミラー期間が終了してスイッチング素子1が定常状態となると、センス電圧は大きくなるので、従来と同様の保護動作が可能である。
【0067】
本実施の形態の半導体装置においても、ローパスフィルタ5の時定数はミラー期間の長さよりも充分短く設定されており、また、過電流保護回路3に入力するセンス電圧をミラー期間中にマスクする方法も用いていないため、過電流保護回路3の動作に遅れが生じることも防止される。
【0068】
なお、上の説明では、補正電流IAが流れる方向は、補正電流発生回路8からセンス抵抗4に向かう方向(図6の矢印の向き)としたが、その逆でもよい。補正電流IAがセンス抵抗4から補正電流発生回路8へと流れる場合は、スイッチング素子1のミラー期間だけ補正電流IAを大きくすればよい。またスイッチング素子1のミラー期間は補正電流IAをセンス抵抗4から補正電流発生回路8へと流し、それ以外の期間は補正電流IAを補正電流発生回路8からセンス抵抗4へと流すようにしてもよい。
【0069】
<実施の形態5>
図7は、実施の形態5に係る半導体装置の構成図である。当該半導体装置は、図6の構成に対し、補正電流発生回路8が出力する補正電流IAは固定値にし、補正電流発生回路8からセンス抵抗4へ供給される補正電流IAを、開閉器9によってバイパスできるように構成したものである。
【0070】
遅延回路33は、入力信号VINの立ち上がりからその後所定の遅延時間を経過するまでの期間は、開閉器9をオンにして補正電流IAをグラウンドへとバイパスさせ、補正電流IAのセンス抵抗4への供給を停止させる。遅延回路33に設定される上記の遅延時間は、スイッチング素子1のミラー期間の長さと同等、あるいはそれ以上に設定される。
【0071】
本実施の形態では、ミラー期間と同等の遅延時間が遅延回路33に設定されているものとする。またセンス抵抗4の抵抗値RSは、補正電流IAがセンス抵抗4に供給される状態(開閉器9がオフの状態)において、IGBT11にSCトリップレベルに相当する主電流が流れたときに、コンパレータ32の+端子に入力されるセンス電圧が基準電圧VREFと等しくなるように設定される。
【0072】
図7において、センス抵抗4およびコンパレータ32と開閉器9との間に接続されている抵抗10は、開閉器9がオンしたときに、センス電流が開閉器9を通してグラウンドにバイパスされることを防止するものである。なお、補正電流発生回路8が出力する補正電流IAは、素子温度によって増減する構成としてもよい。
【0073】
図7の半導体装置では、コンパレータ32の+端子に入力されるセンス電圧の大きさは、開閉器9のオン/オフによって変化する。つまり、入力信号VINの立ち上がりからの一定期間(遅延回路33に設定された遅延時間に相当)は、開閉器9がオンして補正電流IAはセンス抵抗4に供給されないので、センス電圧は小さくなる。一方、それ以外の期間では、補正電流IAがセンス抵抗4に供給されるのでセンス電圧は大きくなる。
【0074】
本実施の形態では、遅延回路33の遅延時間はスイッチング素子1のミラー期間の長さと同等に設定されているため、図7の半導体装置では、スイッチング素子1のターンオン直後のミラー期間中にだけ、センス電圧が小さく抑えられる。
【0075】
従って、ミラー期間中にスイッチング素子1の主電流に対するセンス電流の分流比が変動してセンス電流が大きくなっても、センス電圧の上昇は小さく抑えられる。つまり、ミラー期間の間、センス電圧が過電流保護回路3の保護動作が開始される閾値に達しにくくなり、過電流保護回路3の誤動作を防止できる。
【0076】
またミラー期間が終了してスイッチング素子1が定常状態となると、センス電圧は大きくなるので、従来と同様の保護動作が可能である。
【0077】
本実施の形態の半導体装置においても、ローパスフィルタ5の時定数はミラー期間の長さよりも充分短く設定されており、また、過電流保護回路3に入力するセンス電圧をミラー期間中にマスクする方法も用いていないため、過電流保護回路3の動作に遅れが生じることも防止される。
【0078】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 スイッチング素子、2 駆動回路、3 過電流保護回路、4 センス抵抗、5 ローパスフィルタ、6 開閉器、7 コンデンサ、8 補正電流発生回路、9 開閉器、10 抵抗、11 IGBT、31 制御部、32 コンパレータ、33 遅延回路、34 切替器、35,36 抵抗、37 基準電圧源、38 分圧基準点、41,42 抵抗、51 抵抗、52 コンデンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子に流れる主電流を分流したセンス電流を電圧に変換したセンス電圧を生成する受動素子と、
前記センス電圧が閾値を越えたときに前記スイッチング素子の保護動作を行う保護回路と、
前記スイッチング素子がターンオンした直後の一定期間、前記センス電圧が前記閾値に達しにくくする誤動作防止手段とを備え、
前記誤動作防止手段は、前記一定期間の間、前記受動素子が生成する、前記センス電流に対する前記センス電圧の大きさを小さくすることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記誤動作防止手段は、
前記センス電圧をバイアスする一定の補正電流を流す補正電流発生回路と、
前記一定期間の間、前記補正電流の供給を停止させる手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記誤動作防止手段は、
前記センス電圧をバイアスする補正電流を流す補正電流発生回路を備え、
前記補正電流発生回路は、前記一定期間の間、前記センス電圧の大きさが小さくなるように、前記補正電流を変化させることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記誤動作防止手段は、前記一定期間の間、前記受動素子の抵抗値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記受動素子は、直列接続した第1および第2の抵抗を含み、
前記誤動作防止手段は、前記一定期間の間、前記第1および第2の抵抗の片方を短絡させる手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記受動素子は、直列接続した第1および第2の抵抗ならびに当該第1および第2の抵抗の片方に並列接続したコンデンサを含み、
前記受動素子の時定数が、前記一定期間の長さに相当することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。
【請求項7】
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子に流れる主電流を分流したセンス電流を電圧に変換したセンス電圧を生成する受動素子と、
前記センス電圧が閾値を越えたときに前記スイッチング素子の保護動作を行う保護回路と、
基準電圧源と、
前記基準電圧源の発生する電圧を分圧する分圧回路と、
前記スイッチング素子がターンオンした直後の一定期間、前記保護回路の前記閾値を高くすることで、前記センス電圧が前記閾値に達しにくくする誤動作防止手段と、を備え、
前記誤動作防止手段は、前記一定期間の間以外において、前記分圧回路の発生する電圧を前記閾値とすることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
前記センス電圧は、前記スイッチング素子のミラー期間の1/2以下の時定数を有するローパスフィルタを通して前記保護回路に入力されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−77976(P2013−77976A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216533(P2011−216533)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】