説明

半導体製造用粘着フィルム及びその製造方法

【課題】QFN等の半導体パッケージを封止する際に、リードフレームのアウターリード部を保護する粘着フィルムにおいて、リードフレームから粘着フィルムを剥離するときの糊残りを防止する。
【解決手段】半導体製造工程においてリードフレームに貼り付けて使用される、少なくとも耐熱性フィルムと粘着剤層からなる半導体製造用粘着フィルムであって、耐熱性フィルムの接触角法により求められる表面自由エネルギーが、90〜160mN/mであることを特徴とする半導体製造用粘着フィルムにより、上解決できる。粘着フィルムは、ポリイミド等の耐熱性フィルムをプラズマ処理又はコロナ処理し、その後、粘着剤層を積層することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体パッケージを製造する際にリードフレームに貼り付け使用する剥離可能な半導体製造用粘着フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化・軽量化のニーズに伴い、そこに内蔵される電子部品についても小型化、高密度実装化が求められている。それを受けて、従来使用されてきた周辺端子型パッケージのSOP(Small Outline Package)、QFP(Quad Flat Package)に変わって、エリアアレイ実装型パッケージBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)そしてシステム実装型のSIP(System In Package)、MCP(Multi Chip Package)と発展している。CSPの中でQFN(Quad Flat No Leaded Package)はQFPの小型化、低背化を目的として開発されたパッケージであり、QFPと同等の製造技術が使用でき、携帯電話を始めとする携帯用電子機器で広く採用されている。QFNはアウターリードを封止領域配置することにより、パッケージの裏面にて外部接続でき、QFPに比べて小型化できる。一方、封止領域にアウターリード部があることから、封止樹脂がまわり込む、いわゆるモールドフラッシュという不具合を起こす。これを防ぐために封止時にリードフレームのアウターリード部を粘着フィルムにて保護することが有効である。
【0003】
係る観点から、QFN等の半導体パッケージに使用される各種粘着シートが提案されている。例えば、耐熱性フィルム上にシリコーン系粘着剤よりなる接着剤層を設けてなり、180℃で1時間加熱したときの重量減少が5%以下である半導体装置組立用マスクシートが提案されている(特許文献1)。しかしながら、そこに開示されたマスクシートでは、ダイアタッチ、ワイヤボンディング、樹脂封止等の加熱工程で高温に加熱された後、リードフレームから引き剥がされる際に接着剤がリードフレームに残るという糊残りの問題が起こりやすく、そのため、これらの加熱工程での加熱温度や時間に制約が生じるという問題があった。
【0004】
また、モールドフラッシュを起こさず、糊残りを防止する試みとして、基材層と、離型剤を含有する粘着剤層から構成される耐熱性粘着テープ及びそれを用いた半導体装置の製造方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、そこに開示された粘着テープでも、基材層の表面自由エネルギーには何ら関心が払われておらず、そのためモールドフラッシュを完全に防止することが困難であると同時に、離型剤によるリードフレームの汚染という問題があった。
【0005】
また、これらの問題を解決する試みとして、接着剤層に熱可塑性ポリイミドを含有する半導体装置製造用接着シートが提案されている(特許文献3)。しかしながら、そこに開示された接着シートは、リードフレームに貼りつける際に加熱圧着が必要であり、そのため、特殊な貼り合わせ装置が必要となるとともに、貼り合わせ後の寸法ずれや反り等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−275435号公報
【特許文献2】特開2005−209936号公報
【特許文献3】特開2003−188334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の技術における問題点を鑑みなされたもので、すなわち半導体の組立工程に際して、室温で貼り付けが可能で、モールドフラッシュを防止し、剥離時の糊残りのない半導体製造用粘着フィルムとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の半導体製造用粘着フィルムが提供される。
[1]半導体製造工程においてリードフレームに貼り付けて使用される、少なくとも耐熱性フィルムと粘着剤層からなる半導体製造用粘着フィルムであって、
前記耐熱性フィルムの接触角法により求められる表面自由エネルギーが、90〜160mN/mであることを特徴とする半導体製造用粘着フィルム。
【0009】
[2]水、ジヨードメタン及びエチレングリコールを用いた接触角法により求められる、前記耐熱性フィルムの表面自由エネルギーの分散成分が10〜30mN/m、双極子成分が40〜110mN/m、水素結合成分が20〜40mN/mであることを特徴とする[1]記載の半導体製造用粘着フィルム。
【0010】
[3]前記耐熱性フィルムが、50℃〜200℃の平均の線膨張係数が10〜50ppm/Kで、厚さ5〜100μmの芳香族ポリイミドフィルムであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の半導体製造用粘着フィルム。
【0011】
[4]前記耐熱性フィルムが、プラズマ処理もしくはコロナ処理の少なくとも一つの表面処理を施したものであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の半導体製造用粘着フィルム。
【0012】
[5]前記粘着剤層が、厚さ1〜50μmの過酸化物硬化型または付加反応硬化型のいずれかのシリコーン系粘着剤組成物からなる粘着剤層であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の半導体製造用粘着フィルム。
【0013】
[6]前記粘着剤層が、50〜200℃の間の熱重量減少率が5%以下であることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の半導体製造用粘着フィルム。
【0014】
[7]接触角法により求められる表面自由エネルギーが90〜160mN/mである耐熱性フィルム上に、プライマー層を介して粘着剤層が形成されていることを特徴とする[1]ないし[6]のいずれかに記載の半導体製造用粘着フィルム。
【0015】
[8]前記プライマー層がポリオルガノシロキサンを含み、付加反応または縮合反応のいずれかにより硬化させたものであることを特徴とする[7]に記載の半導体製造用粘着フィルム。
【0016】
[9]前記プライマー層の厚みが0.01〜5.0μmであることを特徴とする[7]又は[8]に記載の半導体製造用粘着フィルム。
【0017】
また、以下の半導体製造用粘着フィルムの製造方法も本発明の一つである。
[10]半導体製造工程においてリードフレームに貼り付けて使用される、耐熱性フィルムと粘着剤層から少なくともなる半導体製造用粘着フィルムの製造方法であって、
前記耐熱性フィルムの、接触角法により求められる表面自由エネルギーを、予め90〜160mN/mとし、
その後に粘着剤層を形成させることを特徴とする半導体製造用粘着フィルムの製造方法。
【0018】
[11]耐熱性フィルムにプラズマ処理もしくはコロナ処理を施すことにより、接触角法により求められる表面自由エネルギーを90〜160mN/mとすることを特徴とする[10]に記載の半導体製造用粘着フィルムの製造方法。
【0019】
[12]表面自由エネルギーを予め90〜160mN/mとした耐熱性フィルム上に、プライマー層を形成後、更に粘着剤層を形成することを特徴とする[10]又は[11]に記載の半導体製造用粘着フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の[1]、[2]によれば、耐熱性フィルムの表面自由エネルギーおよびその分散成分、双極子成分、水素結合成分を、適正な範囲にコントロールすることにより、室温でリードフレームに貼り付け可能な粘着剤を用いても、モールドフラッシュや糊残り等の不具合の虞のない半導体製造用粘着フィルムを与える。
【0021】
本発明の[3]によれば、耐熱性フィルムに、50℃〜200℃の平均線膨張係数が10〜50ppm/Kであり、厚さ5〜100μmの芳香族ポリイミドフィルムを用いることにより、本発明の半導体製造用粘着フィルムをリードフレームに貼り付けて半導体を製造する際の、ワイヤボンディングや樹脂封止等の熱工程における反りや変形といった不具合が発生する虞が少なくなる。
【0022】
本発明の[4]によれば、プラズマ処理もしくはコロナ処理した耐熱性フィルムを用いることにより、耐熱性フィルムの表面自由エネルギーを容易に適正な範囲にコントロールすることができ、モールドフラッシュや糊残りといった不具合の虞のない半導体製造用粘着フィルムを容易に得ることができる。
【0023】
本発明の[5]によれば、粘着剤層として、厚さ1〜50μmの、過酸化物硬化型または付加反応硬化型のいずれかのシリコーン系粘着剤組成物からなる粘着剤層を用いており、モールドフラッシュや糊残り防止に効果のある粘着剤層の形成を容易に行うことができる。
【0024】
本発明の[6]によれば、50〜200℃の間の熱重量減少率が5%以下である粘着剤層を用いており、本発明の半導体製造用粘着フィルムの耐熱性が向上し、モールドフラッシュや糊残りといった不具合の虞がなく、より信頼性の高い、半導体を製造することが可能となる。
【0025】
本発明の[7]によれば、表面自由エネルギーが適正な範囲にコントロールされた耐熱性フィルムに、プライマー層を形成し、更に粘着剤層を形成しており、粘着剤層の耐熱性フィルムへの接着力が向上し、糊残りの虞がなく、粘着剤層形成の際のはじきやピンホールといった欠陥の発生の虞が少ない、半導体製造用粘着フィルムを得ることができる。
【0026】
本発明の[8]によれば、プライマー層が付加反応または縮合反応により硬化するポリオルガノシロキサンを含んでおり、粘着剤層の耐熱性フィルムへの接着力がより向上する。
【0027】
本発明の[9]によれば、プライマー層の厚みを0.01〜5μmとしており、はじきや塗りムラのない均一な厚みのプライマー層の形成が容易となる。
【0028】
本発明の[10」から[12]によれば、モールドフラッシュや糊残り防止に効果のある半導体製造用粘着フィルムを容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の半導体製造用粘着フィルムについて、詳細に説明する。
本発明の半導体製造用粘着フィルム(以下、単に「粘着フィルム」とも記す)は、半導体製造工程においてリードフレームに貼り付けて使用される、少なくとも耐熱性フィルムと粘着剤層からなる半導体製造用粘着フィルムであって、前記耐熱性フィルムの接触角法により求められる表面自由エネルギーが、90〜160mN/mとされているものである。
【0030】
本発明の粘着フィルムに使用される耐熱性フィルムの厚みは特に制限されないが、5〜200μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは10〜100μmであり、更に好ましくは15〜75μmである。耐熱性フィルムの厚みが5μm未満であると、耐熱性フィルム上に粘着剤層を形成するのが困難となるとともに、本発明の粘着フィルムをリードフレームに貼り付けて、更にモールド樹脂で封止した際に、粘着フィルムのしわや伸びといった問題が発生するおそれがある。また、耐熱性フィルムの厚みが200μm超の場合、剛性が高くなり、リードフレームへの貼り付けを行い難くなり、また経済的にも不利となるおそれがある。
【0031】
また、半導体製造工程において、粘着フィルムはダイアタッチ工程、ワイヤボンディング工程および樹脂封止工程等で高温雰囲気に曝されるが、耐熱性フィルムの線膨張係数がリードフレームと大きく異なると、このような高温雰囲気に曝された後室温に戻した場合、反りが発生し、モールド金型の位置決めピンにリードフレームをセットできず、位置ずれ不良を起こすという問題が生じるおそれがある。従って、本発明に使用される耐熱性フィルムの50〜200℃における平均の線膨張係数は、10〜50ppm/Kであることが好ましく、より好ましくは12〜30ppm/Kである。
【0032】
なお、本発明の粘着フィルムに使用される耐熱性フィルムとは、そのガラス転移温度が100℃以上もしくはガラス転移温度を有さないプラスチックフィルムであり、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン等のプラスチックフィルムが挙げられ、耐熱性の観点から、ポリイミドフィルムが好ましい。
【0033】
本発明に使用される耐熱性フィルムは、接触角法により求められる表面自由エネルギーが、90〜160mN/mであることを特徴としており、好ましくは100〜160mN/mである。
【0034】
フィルムの表面自由エネルギーは、以下の原理及び方法で求めることができる。
本発明において、耐熱性フィルムの固体表面自由エネルギーγSは、表面自由エネルギーの分散成分γSd、双極子成分γSp及び水素結合成分γShの和、γSd+γSp+γShとして表わされる。液滴が固体表面上で接触角

を保って平衡に達しているとすると、非特許文献1にある拡張Fowkes理論によれば数式1が成り立つ。ここでγLは液体の表面自由エネルギーであり、表面自由エネルギーの分散成分γLd、双極子成分γLp及び水素結合成分γLhの和、γLd+γLp+γLhとして表わされる。
【0035】
【数1】


【0036】
γL、γLd、γLp、γLhが既知の3種の液体に対し接触角を測定した場合、固体の表面自由エネルギーγSは3元連立方程式から求めることができる。非特許文献1には標準液体の表面自由エネルギーが記載されており、本発明における耐熱性フィルムの表面自由エネルギーは、水の接触角

、ジヨードメタンの接触角

及びエチレングリコールの接触角

を測定し、それぞれの液体のγL、γLd、γLp、γLhの値を代入した数式2〜4を用いて表面自由エネルギーの各成分を計算した。
【0037】
【数2】

【0038】
【数3】



【0039】
【数4】


【0040】
なお、非特許文献1によると、水の表面エネルギーの分散成分、双極子成分、水素結合成分及びそれらの総和で表される表面自由エネルギーはそれぞれ、29.1mN/m、1.3mN/m、42.4mN/m及び72.8mN/mであり、ジヨードメタンの場合はそれぞれ、46.8mN/m、4.0mN/m、0、50.8mN/mであり、エチレングリコールの場合は、30.1mN/m、0、17.6mN/m、47.7mN/mである。
【0041】
【非特許文献1】日本接着協会誌8(3)、131−141(1972)
【0042】
本発明では耐熱フィルムの表面自由エネルギーを90〜160mN/mにすることにより、耐熱フィルムと粘着剤層の高い接着性が得られ、モールドフラッシュと呼ばれる半導体の封止樹脂の漏れを防ぐために粘着剤とリードフレームの密着性を高くしても、再剥離時の糊残りを防ぐことができる。耐熱フィルムの表面自由エネルギーが90mN/m未満の場合は、耐熱フィルムと粘着剤層の間での接着性が得難くなり、粘着フィルムをリードフレームから引き剥がす際の糊残りが起こりやすくなる。一方で、160mN/m以上の表面自由エネルギーを得るにはプラズマのエネルギーを極端に強くする必要があり、そのため、耐熱性フィルム表面がダメージを受け、脆弱な層を作成する要因となり好ましくない。また経済的にも不利となる。
【0043】
また、本発明においては、耐熱フィルムの表面自由エネルギーの構成因子である、双極子成分及び水素結合成分が、それぞれ40〜110mN/m、20〜40mN/mであることが好ましい。
表面自由エネルギーの双極子成分、水素結合成分がそれぞれ40mN/m、20mN/m以下の場合、その表面自由エネルギーが十分で無く、耐熱性フィルムと粘着剤層の間での接着性が得られない。また、表面自由エネルギーの双極子成分、水素結合成分がそれぞれ110mN/m以上、40mN/m以上である場合は、耐熱性フィルム表面の摩擦が大きくなり、製造工程において、しわ、静電気などの問題が生じやすくなる。
【0044】
耐熱性フィルムの表面自由エネルギーは、耐熱性フィルムにプラズマ処理もしくはコロナ処理等の表面処理を行うことにより、適宜調整することができる。特に減圧可能な低温プラズマ処理装置を用い、装置内に圧力1.0Pa〜150Paになるようにプラズマガスを導入し、0.1〜10kVの電圧を印加してグロー放電してプラズマを発生させ、発生したプラズマを耐熱フィルムに照射することで、耐熱性フィルムの表面が改質され、表面自由エネルギーを90〜160mN/mに容易にコントロールすることができる。プラズマガスとしては酸素、窒素、水、炭酸ガス、アルゴンや、それらの混合物などが使用できる。
【0045】
本発明の粘着フィルムは、表面自由エネルギーが90〜160mN/mの耐熱性フィルム上に、直接またはプライマー層を介して、粘着剤層を形成することにより得られる。
【0046】
粘着剤層は、シリコーン系、アクリル系、オレフィン系等任意の粘着剤を使用することができるが、リードフレームへの室温での貼り付けが可能であり、かつ半導体製造工程における、ダイアタッチ工程、ワイヤボンディング工程もしくは樹脂封止工程等での熱履歴に対して、分解、劣化等の変化が少なく、安定した接着力を示し、更には封止後にリードフレームから剥離した際にリードフレーム面に糊残りが起こらないようにする観点から、シリコーン系粘着剤が特に好ましい。
【0047】
シリコーン系粘着剤には架橋反応の種類により主に付加硬化型、過酸化物硬化型があり、本発明には何れのタイプも使用することができる。そのうち、ポリオルガノシロキサンにアルケニル基を導入し、架橋剤としてSiH基を導入したシロキサンを用いる付加硬化型は、硬化温度が低く、ラジカルを形成し反応する過酸化物反応型に比べ安定的に架橋しやすく有利であり、好ましい。
【0048】
粘着剤層は、50℃から200℃まで昇温した際の重量減少率が5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下であり、2%以下であることが更に好ましい。重量減少率が5%よりも大きいと、半導体製造工程においてリードフレームを汚染し、ワイヤの接合不良等の問題が生じやすくなる。
【0049】
また、粘着剤層には可塑剤、充填剤、酸化防止剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0050】
粘着剤層の厚さは1〜50μmであることが好ましく、より好ましくは3〜30μmであり、更に好ましくは5〜20μmである。粘着剤層の厚みが1μm未満の場合、リードフレーム表面の凹凸に追従することが困難となり、そのため、粘着剤とリードフレーム間で充填が出来ず、モールドフラッシュが起こりやすくなる。一方で、粘着剤層が50μm超の場合、ワイヤボンディング時の接合エネルギー損失が大きくなり、ワイヤ接合不良の原因となるとともに、リードフレームや封止樹脂への粘着力が上昇し、再剥離工程での作業性が悪くなるおそれがあり、また、経済的にも不利となる。
【0051】
耐熱性フィルムへの粘着剤層の形成は、表面自由エネルギーが90〜160mN/mの耐熱性フィルム上に直接粘着剤層を形成しても良く、またはプライマー層等を介して粘着剤層を形成しても良い。特に、表面自由エネルギーが90〜160mN/mの耐熱性フィルム上にプライマー層を形成し、その上に粘着剤層を形成することで、耐熱性フィルムと粘着剤層をより強固に接着することができ、リードフレームへの糊残りという問題をより確実に防止することができ、好ましい。
【0052】
プライマー層としてはオルガノポリシロキサンを主成分とするプライマー層を好適に用いることができる。本発明において、オルガノポリシロキサンを主成分とするプライマー層を使用する場合、例えばオルガノポリシロキサン組成物を含む溶液を耐熱性フィルムに塗布し、溶剤を乾燥後、更に加熱硬化して作成する。プライマー層の厚みは、好ましくは0.01μm〜5μm、より好ましくは0.1μm〜1μmである。プライマー層の厚みが0.01μmよりも小さいと、プライマー層を安定的に形成することが困難となるとともに、プライマー層としての接着性向上の効果を得難くなる。また、プライマー層の厚みが5μmよりも大きくなると、プライマー層の厚みが不均一となりやすく、得られる粘着フィルムの厚みムラが生じやすくなるとともに、経済的にも不利となる。
【0053】
プライマー層として好適に使用できるオルガノポリシロキサン組成物の例としては、縮合硬化型として、式(1)、式(2)の化学構造を有するオルガノポリシロキサンと、式(3)の構造を有するアルコキシシリル基とラジカル重合性不飽和基の双方を持つ単量体とメタクリル酸メチル等のラジカル重合性単量体の共重合体の混合物等が挙げられ、付加硬化型として式(4)〜式(6)の化学構造を有するオルガノポリシロキサンの混合物が挙げられる。
【0054】
【化1】







【0055】
【化2】








【0056】
【化3】




【0057】
【化4】







【0058】
【化5】







【0059】
【化6】







【0060】
本発明の粘着フィルムは、粘着剤層の保護やブロッキングの防止のために、剥離可能な保護フィルムをラミネートしておくことも可能である。この場合、保護フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム、アルミ箔、銅箔等の金属箔や、プラスチックフィルムと金属箔の積層フィルム等、任意の保護フィルム(セパレータ)を使用できる。また、保護フィルムの剥離を容易にするために、シリコーン系やフッ素系等の離型剤で保護フィルムの表面を処理しておいても良い。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0062】
本発明における耐熱性フィルムの線膨張係数、粘着剤の重量減少率は次のように測定される。
耐熱性フィルムの線膨張係数は熱機械分析装置(株式会社島津製作所製、TMA−60)を用いて、室温から250℃まで昇温し、更にその温度で5分間保持した後、10℃/分の速度で冷却して、降温時の200℃から50℃までの平均の線膨張率として求める。
【0063】
粘着剤の重量減少率は耐熱フィルム上に塗布し作成した粘着フィルムから、粘着剤層のみを削り取り、示差熱・熱重量同時測定装置(株式会社島津製作所製、DTG−60)を用いて、室温から250℃まで速度10/min.で昇温し、50℃〜200℃までの間の重量減少率を求める。
【0064】
また、接触角は、測定温度25℃±2℃、装置 接触角計Model:Simage02V((株)エキシマ製)を用い、ATAN1/2角法により測定した。
【0065】
[実施例1]
25μm厚のポリイミドフィルム(東レデュポン株式会社製:カプトン100EN、50〜200℃の平均線膨張係数15ppm/K)を、真空チャンバー付きのプラズマ処理装置に仕込み、4.5Paの圧力の酸素雰囲気下で、印加電圧4.5kVで減圧プラズマ処理を実施した。プラズマ処理後のポリイミドフィルムの水、ジヨードメタン及びエチレングリコールの接触角から求められる表面自由エネルギーの分散成分、双極子成分及び水素結合成分は、それぞれ17mN/m、85mN/m、36mN/mであり、表面自由エネルギーは138mN/mであった。
【0066】
前記ポリイミドフィルム上に、プライマー層としてシリコーン系縮合硬化型プライマーを乾燥後厚さ0.2〜1μmとなるように塗布し130℃で30秒熱処理した。次にプライマー層を形成したポリイミドフィルムの上に付加硬化型のシリコーン系粘着剤を乾燥後厚さ6μmとなるように塗布し、70℃で30秒、100℃で30秒、130℃で60秒熱処理を行い、更にPETセパレータを粘着剤塗布面にラミネートして、PETセパレータ付の粘着フィルムを作成した。本粘着フィルムのシリコーン系粘着剤の、50〜200℃の重量減少率は0.8wt%であった。
【0067】
次に得られた粘着フィルムを、ラミネータを用いて、パラジウムで被覆された厚さ200μmの銅板に25℃で貼り合わせ、その後、175℃で1.5時間、200℃で0.5時間、更に175℃で6時間の熱処理を実施した。熱処理後、パラジウムを被覆した銅板から粘着フィルムを90°方向に剥離し粘着力を測定したところ、粘着力は1.8N/cmであり、粘着力測定後のパラジウムで被覆された銅板への粘着フィルムからの粘着剤の移行(糊残り)は確認されなかった。
【0068】
さらに、この粘着フィルムをパラジウムめっきで被覆した銅リードフレームに25℃で貼り合わせ、175℃で1.5時間及び200℃で0.5時間の熱処理を施した後、エポキシ系封止樹脂で温度175℃、圧力 8MPa、時間2分間の条件でトランスファーモールドした。モールド後、粘着フィルムを貼り付けたアウターリード部に対するモールド樹脂の漏れを目視にて確認したところ、樹脂漏れ(モールドフラッシュ)の発生は認められなかった。
【0069】
[実施例2]
25μm厚のポリイミドフィルム(東レデュポン製:カプトン100EN)を炭酸ガス圧力20Pa下、印加電圧5.0kVの条件にて減圧プラズマ処理を実施した。プラズマ処理を実施したポリイミドフィルムの水の接触角、ジヨードメタンの接触角、エチレングリコールの接触角から求められる表面自由エネルギーの分散成分は22mN/m、双極子成分は53mN/m及び水素結合成分は27mN/mであり、表面自由エネルギーは102mN/mであった。
【0070】
以下、実施例1と同様に実施したところ、熱処理後のパラジウムを被覆した銅板と粘着フィルムとの90°方向に引き剥がした際の粘着力は1.8N/cmであり、粘着力測定後のパラジウムを被覆した銅板上での糊残りは確認されなかった。また、上記、粘着フィルムを接着したリードフレームを、175℃で1.5時間及び200℃で0.5時間の熱処理を施した後、エポキシ系封止樹脂で温度175℃、圧力 8MPa、時間2分間の条件でトランスファーモールドした。モールド後、粘着フィルムを貼り付けたアウターリード部に対するモールド樹脂の漏れを目視にて確認したところ、樹脂漏れ(モールドフラッシュ)の発生は認められなかった。
【0071】
[実施例3]
プライマーを付加硬化型に変更した以外は実施例1と同様に実施した。
熱処理後、パラジウムを被覆した銅板と粘着フィルムとの90°方向に剥離し粘着力を測定したところ、1.8N/cmであり、粘着力測定後のパラジウムを被覆した銅板上での糊残りは確認されなかった。また、粘着フィルムを接着したリードフレームを、175℃で1.5時間及び200℃で0.5時間の熱処理を施した後、エポキシ系封止樹脂で温度175℃、圧力 8MPa、時間2分間の条件でトランスファーモールドした。モールド後、粘着フィルムを貼り付けたアウターリード部に対するモールド樹脂の漏れを目視にて確認したところ、樹脂漏れ(モールドフラッシュ)の発生は認められなかった。
【0072】
[実施例4]
プライマーを塗布しなかった以外は実施例1と同様に実施した。
熱処理後、パラジウムを被覆した銅板と粘着フィルムとの90°方向に剥離し粘着力を測定したところ、1.5N/cmであり、粘着力測定後のパラジウムを被覆した銅板上での糊残りは確認されなかった。また、粘着フィルムを接着したリードフレームを、175℃で1.5時間及び200℃で0.5時間の熱処理を施した後、エポキシ系封止樹脂で温度175℃、圧力 8MPa、時間2分間の条件でトランスファーモールドした。モールド後、粘着フィルムを貼り付けたアウターリード部に対するモールド樹脂の漏れを目視にて確認したところ、樹脂漏れ(モールドフラッシュ)の発生は認められなかった。
【0073】
[実施例5]
耐熱性フィルムを50μm厚のポリイミドフィルム(東レデュポン株式会社製:Kapton200EN)に変更した以外は実施例2と同様に実施した。このポリイミドフィルムの線膨張係数は17ppm/Kであった。ポリイミドフィルムの水の接触角、ジヨードメタンの接触角、エチレングリコールの接触角から求められる表面自由エネルギーの分散成分は16mN/m、双極子成分は98mN/m及び水素結合成分は37mN/mであり、表面自由エネルギーは151mN/mであった。
【0074】
熱処理後、パラジウムを被覆した銅板と粘着フィルムとの90°方向に剥離し粘着力を測定したところ、1.6N/cmであり、粘着力測定後のパラジウムを被覆した銅板上での糊残りは確認されなかった。また、粘着フィルムを接着したリードフレームを、175℃で1.5時間及び200℃で0.5時間の熱処理を施した後、エポキシ系封止樹脂で温度175℃、圧力 8MPa、時間2分間の条件でトランスファーモールドした。モールド後、粘着フィルムを貼り付けたアウターリード部に対するモールド樹脂の漏れを目視にて確認したところ、樹脂漏れ(モールドフラッシュ)の発生は認められなかった。
【0075】
[実施例6]
耐熱性フィルムを別の25μm厚のポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製:Upilex25S)をに変更した以外は実施例2と同様に実施した。このポリイミドフィルムの線膨張係数は16ppm/Kであった。ポリイミドフィルムの水の接触角、ジヨードメタンの接触角、エチレングリコールの接触角から求められる表面自由エネルギーの分散成分は17mN/m、双極子成分は107mN/m及び水素結合成分は34mN/mであり、表面自由エネルギーは158mN/mであった。
【0076】
熱処理後、パラジウムを被覆した銅板と粘着フィルムとの90°方向に剥離し粘着力を測定したところ、1.6N/cmであり、粘着力測定後のパラジウムを被覆した銅板上での糊残りは確認されなかった。また、粘着フィルムを接着したリードフレームを、175℃で1.5時間及び200℃で0.5時間の熱処理を施した後、エポキシ系封止樹脂で温度175℃、圧力 8MPa、時間2分間の条件でトランスファーモールドした。モールド後、粘着フィルムを貼り付けたアウターリード部に対するモールド樹脂の漏れを目視にて確認したところ、樹脂漏れ(モールドフラッシュ)の発生は認められなかった。
【0077】
[比較例1]
プラズマ処理を施していない25μm厚のポリイミドフィルム(東レデュポン株式会社製、カプトン100EN)の水の接触角、ジヨードメタンの接触角、エチレングリコールの接触角から求められる表面自由エネルギーの分散成分は34mN/m、双極子成分は27mN/m及び水素結合成分は7mN/mであり、表面自由エネルギーは67mN/mであった。
次にポリイミドフィルムの上に付加硬化型のシリコーン系粘着剤を乾燥後厚さ6μmとなるように塗布し、70℃で30秒、100℃で30秒、130℃で60秒熱処理を行い、更にPETセパレータを粘着剤塗布面にラミネートして、PETセパレータ付の粘着フィルムを作成した。
この粘着フィルムをパラジウムを被覆した銅板に25℃で接着し、実施例1と同様に熱処理後粘着力を測定したところ、粘着力は1.1N/cmであり、ポリイミドフィルム上に形成した粘着剤層すべてが、パラジウムを被覆した銅板に移行していた。
【0078】
[比較例2]
25μm厚のポリイミドフィルム(東レデュポン株式会社製、カプトン100EN)を酸素ガス圧力4.5Pa下、印加電圧2.0kVの条件にて減圧プラズマ処理を実施した。プラズマ処理を実施したポリイミドフィルムの水の接触角、ジヨードメタンの接触角、エチレングリコールの接触角から求められる表面自由エネルギーの分散成分は25mN/m、双極子成分は30mN/m、水素結合成分は19mN/mであり、表面自由エネルギーは74mN/mであった。
次にポリイミドフィルムの上に付加硬化型のシリコーン系粘着剤を乾燥後厚さ6μmとなるように塗布し、70℃で30秒、100℃で30秒、130℃で60秒熱処理を行い、更にPETセパレータを粘着剤塗布面にラミネートして、PETセパレータ付の粘着フィルムを作成した。
この粘着フィルムをパラジウムで被覆した銅板に25℃で接着し、実施例1と同様に熱処理後粘着力を測定したところ、粘着力は1.1N/cmであり、ポリイミドフィルム上に形成した粘着剤層すべてが、パラジウムを被覆した銅板に移行していた。
【0079】
[比較例3]
プラズマ処理をしていない25μm厚のポリイミドフィルム(東レデュポン製:カプトン100EN)上に低粘着タイプのシリコーン系粘着剤(付加硬化型)を乾燥後厚さ6μmとなるように塗布し、70℃で30秒、100℃で30秒、130℃で60秒熱処理を行い、更にPETセパレータを粘着剤塗布面にラミネートして、PETセパレータ付の粘着フィルムを作成した。この粘着剤の重量減少率は0.8wt%であった。
この粘着フィルムをパラジウムで被覆した銅板に25℃で接着し、実施例1と同様に熱処理後粘着力を測定したところ、0.26N/cmであり、粘着力測定後のパラジウムを被覆した銅板に粘着フィルムの糊が移行することは無かった。しかしながら、粘着フィルムを接着したリードフレームを、175℃で1.5時間及び200℃で0.5時間の熱処理を施した後、エポキシ系封止樹脂で温度175℃、圧力 8MPa、時間2分間の条件でトランスファーモールドし、モールド後、粘着フィルムを貼り付けたアウターリード部に対するモールド樹脂の漏れを目視にて確認したところ、樹脂漏れ(モールドフラッシュ)の発生が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、QFN等の半導体パッケージの封止時に、リードフレームのアウターリード部を保護するための粘着フィルムであり、モールドフラッシュやリードフレームから再剥離する際の糊残りが起きないという優れた効果があり、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造工程においてリードフレームに貼り付けて使用される、少なくとも耐熱性フィルムと粘着剤層からなる半導体製造用粘着フィルムであって、
前記耐熱性フィルムの接触角法により求められる表面自由エネルギーが、90〜160mN/mであることを特徴とする半導体製造用粘着フィルム。
【請求項2】
水、ジヨードメタン及びエチレングリコールを用いた接触角法により求められる、前記耐熱性フィルムの表面自由エネルギーの分散成分が10〜30mN/m、双極子成分が40〜110mN/m、水素結合成分が20〜40mN/mであることを特徴とする請求項1に記載の半導体製造用粘着フィルム。
【請求項3】
前記耐熱性フィルムが、50℃〜200℃の平均の線膨張係数が10〜50ppm/Kで、厚さ5〜100μmの芳香族ポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体製造用粘着フィルム。
【請求項4】
前記耐熱性フィルムが、プラズマ処理もしくはコロナ処理の少なくとも一つの表面処理を施したものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の半導体製造用粘着フィルム。
【請求項5】
前記粘着剤層が、厚さ1〜50μmの過酸化物硬化型または付加反応硬化型のいずれかのシリコーン系粘着剤組成物からなる粘着剤層であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の半導体製造用粘着フィルム。
【請求項6】
前記粘着剤層が、50〜200℃の間の熱重量減少率が5%以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の半導体製造用粘着フィルム。
【請求項7】
接触角法により求められる表面自由エネルギーが90〜160mN/mである耐熱性フィルム上に、プライマー層を介して粘着剤層が形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の半導体製造用粘着フィルム。
【請求項8】
前記プライマー層がポリオルガノシロキサンを含み、付加反応または縮合反応のいずれかにより硬化させたものであることを特徴とする請求項7に記載の半導体製造用粘着フィルム。
【請求項9】
前記プライマー層の厚みが0.01〜5.0μmであることを特徴とする請求項7又は8に記載の半導体製造用粘着フィルム。
【請求項10】
半導体製造工程においてリードフレームに貼り付けて使用される、耐熱性フィルムと粘着剤層から少なくともなる半導体製造用粘着フィルムの製造方法であって、
前記耐熱性フィルムの、接触角法により求められる表面自由エネルギーを、予め90〜160mN/mとし、
その後に粘着剤層を形成させることを特徴とする半導体製造用粘着フィルムの製造方法。
【請求項11】
耐熱性フィルムにプラズマ処理もしくはコロナ処理を施すことにより、接触角法により求められる表面自由エネルギーを90〜160mN/mとすることを特徴とする請求項10に記載の半導体製造用粘着フィルムの製造方法。
【請求項12】
表面自由エネルギーを予め90〜160mN/mとした耐熱性フィルム上に、プライマー層を形成後、更に粘着剤層を形成することを特徴とする請求項10又は11に記載の半導体製造用粘着フィルムの製造方法。


【公開番号】特開2012−59846(P2012−59846A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200375(P2010−200375)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(592166137)河村産業株式会社 (31)
【出願人】(597066418)シーマ電子株式会社 (7)
【Fターム(参考)】