説明

反射膜およびその作製方法および照明装置

【課題】 保護膜を設ける場合において、反射率を高く維持でき(反射率の低下を有効に防止でき)、また、耐熱性が高い反射膜およびそれを用いた照明装置を提供する。
【解決手段】 本発明の反射膜は、所定の基板21上に、銀膜または銀合金膜23が形成され、銀膜または銀合金膜23上に保護膜としてチタン膜またはチタン合金膜24が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射膜およびその作製方法および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は照明装置(より具体的には、ヘッドランプ(車両用灯具))の構成例を示す図である。図1を参照すると、この照明装置は、レンズカバー40とランプボディー50によって形成された灯室60内に、光源(光源バルブ)30と、該光源30の周囲に配置したリフレクター20とを備え、光源30からリフレクター20の方向に向かって出射された光Lをリフレクター20で反射させてレンズカバー40を介して灯具の前方に照射するものである。10は、リフレクター20とランプボディー50の間の装飾を目的に配置されたエクステンションリフレクターである。
【0003】
ところで、リフレクター20(すなわち反射膜)は、従来では図2に示す様に、合成樹脂基板101の表面にアクリル系樹脂のアンダーコート102が塗布され、反射面として機能するアルミ膜103が蒸着またはスパッタ法で成膜され、その後、プラズマCVD法で酸化シリコン膜の保護膜または塗装法でアクリル系の保護膜104が成膜されているものが一般に知られている。ここで、アルミ蒸着反射面は、可視光全域で約85〜90%の反射率が得られることから、自動車,自動二輪車などの車両用灯具に広く利用されている。しかし、光源から出射された光の10〜15%がロスしているため、更に効率良い反射材料が求められていた。
【0004】
屋内照明器具や液晶バックライトの反射板として反射率が約95%をもつ銀蒸着膜が開発され、車両用灯具への反射材料として検討されている。しかし、銀は化学的に不安定なため、大気中の亜硫酸ガス,水分,酸素,硫化水素等と容易に反応して、褐色や黒色の硫化銀や酸化銀等に変化し、変色し易いという問題があった。
【0005】
これまで、銀の保護膜としての用途として、例えば特許文献1,特許文献2に示されているようなアクリル系の樹脂材料やシリコン樹脂のトップコートが報告されているが、反射率が低下してしまうことや、耐久性の問題から、自動車などの用途に実用化されていない。
【特許文献1】特開2006−86095号公報
【特許文献2】特開2000−106018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来では、反射率の高い銀膜や銀合金膜を使用しても、保護膜(トップコート)に樹脂材料を使用していたので、樹脂材料による吸収や散乱によって反射率が低下してしまうという問題があった。
【0007】
また、保護膜に樹脂を使用していたので、リフレクターの耐熱性が樹脂材の耐熱性に律速するという問題があった。すなわち、プロジェクター型や、高光量の光源や、光源と反射面が近い場合、反射面が高温(例えば200℃以上)になるため樹脂材料の劣化や使用する材料の制限等が生じる。
【0008】
また、樹脂材料は塗装法で処理するため塗布面にゴミが付着し易く、歩留まりが上がりにくいという問題があった。
【0009】
また、保護膜に樹脂材料を使用するので、有機溶剤工程が必要となり(塗装には溶媒として有機溶剤を使用する必要があり)、環境面及び作業者の健康面に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0010】
本発明は、保護膜を設ける場合において、反射率を高く維持でき(反射率の低下を有効に防止でき)、また、耐熱性が高い反射膜およびそれを用いた照明装置を提供することを目的としている。
【0011】
また、反射膜の作製中にゴミが付着しにくく(歩留りが高く)、また、有機溶剤工程が不要な反射膜の作製方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、所定の基板上に、銀膜または銀合金膜が形成され、銀膜または銀合金膜上に保護膜としてチタン膜またはチタン合金膜が形成されていることを特徴とする反射膜である。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の反射膜において、銀膜または銀合金膜は膜厚が50nm乃至500nmであり、チタン膜またはチタン合金膜は膜厚が0.1nm乃至2nmであることを特徴としている。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、所定の基板上に銀膜または銀合金膜をスパッタリング法により成膜し、次いで、チタン膜またはチタン合金膜をスパッタリング法により成膜することを特徴とする反射膜の作製方法である。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、所定の基板上に、銀膜または銀合金膜が形成され、銀膜または銀合金膜上にサイアロン(一般式(Si(6−Z)Al(8−Z) 0<Z≦4.2))が形成されていることを特徴とする反射膜である。
【0016】
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載の反射膜において、銀膜または銀合金膜は膜厚が50nm乃至500nmであり、サイアロンは膜厚が0.5nm乃至10nmであることを特徴としている。
【0017】
また、請求項6記載の発明は、所定の基板上に銀膜または銀合金膜をスパッタリング法により成膜し、次いで、サイアロンをスパッタリング法により成膜することを特徴とする反射膜の作製方法である。
【0018】
また、請求項7記載の発明は、光源と、光源の周囲に設けられたリフレクターとを有し、該リフレクターには、請求項1または請求項2または請求項4または請求項5の反射膜が用いられることを特徴とする照明装置である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1,請求項2記載の発明によれば、所定の基板上に、銀膜または銀合金膜が形成され、銀膜または銀合金膜上に保護膜としてチタン膜またはチタン合金膜が形成されているので、保護膜を設ける場合においても、反射率を高く維持でき(反射率の低下を有効に防止でき)、また、耐熱性が高い反射膜を提供することができる。
【0020】
また、請求項3記載の発明によれば、所定の基板上に銀膜または銀合金膜をスパッタリング法により成膜し、次いで、チタン膜またはチタン合金膜をスパッタリング法により成膜するので、反射膜の作製中にゴミが付着しにくく(歩留りが高く)、また、有機溶剤工程が不要となる。
【0021】
また、請求項4,請求項5記載の発明によれば、所定の基板上に、銀膜または銀合金膜が形成され、銀膜または銀合金膜上にサイアロン(一般式(Si(6−Z)Al(8−2) 0<Z≦4.2))が形成されているので、保護膜を設ける場合においても、反射率を高く維持でき(反射率の低下を有効に防止でき)、また、耐熱性が高い反射膜を提供することができる。
【0022】
また、請求項6記載の発明によれば、所定の基板上に銀膜または銀合金膜をスパッタリング法により成膜し、次いで、サイアロンをスパッタリング法により成膜するので、反射膜の作製中にゴミが付着しにくく(歩留りが高く)、また、有機溶剤工程が不要となる。
【0023】
また、請求項7記載の発明によれば、光源と、光源の周囲に設けられたリフレクターとを有し、該リフレクターには、請求項1または請求項2または請求項4または請求項5の反射膜が用いられるので、リフレクターとしての品質を高く維持でき、高品質の照明装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図3は本発明に係る第1の実施形態の反射膜の構成例を示す図である。図3を参照すると、この反射膜は、所定の基板21上に、銀膜または銀合金膜23が形成され、銀膜または銀合金膜23上に保護膜としてチタン膜またはチタン合金膜24が形成されている。
【0026】
ここで、所定の基板21には、樹脂基板,金属基板,ガラス基板などを用いることができる。
【0027】
また、銀膜または銀合金膜23は膜厚が50nm乃至500nmであるのが良く、チタン膜またはチタン合金膜24は膜厚が0.1nm乃至2nmであるのが良い。
【0028】
また、銀膜または銀合金膜23は、基板21上に直接形成されても良いし、あるいは図4に示すように、基板21上に形成されたアンダーコート(例えばアクリル系樹脂のアンダーコート)22上に形成されても良い。
【0029】
このような構成の反射膜では、保護膜にチタン膜またはチタン合金膜を使用するので、反射率を高く維持することができる。すなわち、保護膜に樹脂材料を使用すると吸収や散乱により反射率が5〜10%低下してしまうが、銀膜または銀合金膜上に形成されるチタン膜またはチタン合金膜は、超薄膜のものにすることができるため、銀膜または銀合金膜の反射率を低下させることなく、銀膜または銀合金膜の当初の反射率を保つことができる。
【0030】
また、保護膜に金属膜を使用するので、耐熱性が高い。すなわち、プロジェクター型や高光量の光源を使用するリフレクターの場合、または、光源と反射面が近いなどの場合には、反射面が高温(例えば200℃以上)になるため、保護膜に樹脂材料を使用すると、樹脂材料の劣化や使用する材料の制限等が生じるが、本発明では、保護膜に金属膜であるチタン膜またはチタン合金膜を使用するので、樹脂に比べて、高温になるリフレクターへの使用も可能となる。
【0031】
すなわち、本発明の上述した第1の実施形態の反射膜は、例えば図1の照明装置(ヘッドランプ)のリフレクター20に用いられる。この場合、本発明の上述した第1の実施形態の反射膜は、反射率を高く維持でき、また、耐熱性が高いので、リフレクターとしての品質を高く維持でき、高品質の照明装置を提供することができる。
【0032】
また、図3,図4の構成の反射膜は、全ての成膜をスパッタリング法で行なうことができる。すなわち、所定の基板上に銀膜または銀合金膜をスパッタリング法により成膜し、次いで、チタン膜またはチタン合金膜をスパッタリング法により成膜することができる。
【0033】
具体的には、例えば合成樹脂材料21にアンダーコート22を塗布し、その表面に銀23をスパッタ法にて成膜する。その後、同様にスパッタ法でチタン24を成膜する。銀23の膜厚は50nm以上あれば良いが、好ましくは50nm〜500nmの範囲にあるのが良い。銀は、純銀が95%以上含まれた材料であれば良く、銅,パラジウム,ネオジウム,金,ビスマス,インジウム,マグネシウム等含んだ銀合金材料を使用することも可能である。また、チタン24は、膜厚が0.1nm以上あれば良いが、好ましくは0.1〜2nmの範囲にあるのが良い。使用するチタン24は、チタン合金を使用することも可能であり、50%以上チタンを含めば使用可能である。
【0034】
全ての成膜をスパッタリング法で行なう上記のような作製方法では、成膜中にゴミが付着しにくく、歩留まりが高い。すなわち、スパッタ法で保護膜を成膜できるため、従来の塗装工程に比べて、ゴミが付着しにくく歩留まりが向上する。
【0035】
また、ドライプロセス成膜のため有機溶剤工程が不要となる。すなわち、保護膜をスパッタリング法で行うので、有機溶剤を使用する塗装法に比べて、環境負荷が少なく、作業者の健康面からもメリットがある。
【0036】
反射膜の第1の作製例として、図5に示すようなスパッタ装置を使って基板上に銀およびチタンを成膜した。すなわち、真空槽6の中には、銀ターゲット1と、チタンターゲット2と、これらの上部に位置決めされた基板ホルダー4と、基板ホルダー4を回転させる回転軸5とが設けられている。ここで、基板ホルダー4には、BMC(Bulk Molding Compound)樹脂基板3が取り付けてられている。
【0037】
このような装置において、真空槽内7を4×10E−3Paに排気後、アルゴンガスを100ccm導入し、樹脂基板3を銀ターゲット1上に移動させ、初めに銀のスパッタを行った。スパッタ時間は約60秒間であった。次に基板をチタンターゲット2上に移動させ、チタンをスパッタした。スパッタ時間は5秒間であった。銀ターゲット1、チタンターゲット2に供給された電力は、それぞれ、1KW、0.1KWであった。
【0038】
成膜した金属の膜厚は、銀が150nm、チタンが1nmであった。
【0039】
また、反射膜の第2の作製例として、同様に、図5に示すようなスパッタ装置を使って基板上に銀およびチタンを成膜した。すなわち、基板ホルダー4にBMC樹脂基板3を取り付け、真空槽内7を4×10E−3Paに排気後、アルゴンガスを100ccm導入し、樹脂基板3を銀ターゲット1上に移動させスパッタを行った。スパッタ時間は約60秒間であった。次に基板をチタンターゲット2上に移動させチタンをスパッタした。スパッタ時間は10秒間であった。銀ターゲット1、チタンターゲット2に供給された電力は、それぞれ、1KW、0.1KWであった。
【0040】
成膜した金属の膜厚は、銀が150nm、チタンが2nmであった。
【0041】
第1の作製例,第2の作製例で成膜した膜の耐候評価試験を行った。その結果を次表(表1)に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1では、比較のため、保護膜が設けられていない純銀膜、市販の銀合金膜(銅,パラジウム添加)の結果も入れてある。表1から、本発明の反射膜(第1,第2の作製例)は、各評価試験共、性能が向上していることがわかる。
【0044】
また、表2には、耐硫化性試験後の波長550nmの光に対する反射率(%)の測定結果が示されている。
【0045】
【表2】

【0046】
なお、表2には、比較のため、保護膜のない純銀膜、市販の銀合金膜(銅,パラジウム添加)の反射率測定結果も入れた。表2から、本発明の反射膜(第1,第2の作製例)は、耐硫化性試験後に反射率の低下はほとんど見られず、代表的な可視域中心波長550nmの反射率は初期値をほぼ維持した。一方、保護膜のない純銀膜は、耐硫化性試験後に、銀表面が硫化して黒色に変化し、550nmの反射率は5%に低下した。また、銀合金(銅、パラジウム)は純銀膜ほどではないが、反射率が25%まで低下しているため、実用上は保護膜なしでは使用できない。
【0047】
なお、上述の説明では、銀膜または銀合金膜23をスパッタリング法を用いて成膜したが、真空蒸着法,イオンプレーティング法を使用して成膜することも可能である。また、基板21に使用したアンダーコート22は、必要に応じて使用すれば良く、前述したようにアンダーコート22を使用しないで、樹脂基板21に直接、銀膜または銀合金膜23,チタン膜またはチタン合金膜24を成膜することも可能である。
【0048】
また、図6は本発明に係る第2の実施形態の反射膜の構成例を示す図である。なお、図6において、図3,図4と同様の箇所には同じ符号を付している。図6を参照すると、この反射膜は、所定の基板21上に、銀膜または銀合金膜23が形成され、銀膜または銀合金膜23上に保護膜としてサイアロン(Sialon)25が形成されている。
【0049】
ここで、サイアロン25は、一般式(Si(6−Z)Al(8−Z) 0<Z≦4.2)の組成範囲で形成されている。サイアロンは、窒化シリコンにAlと酸素が置換型に固溶した固溶体で、窒化シリコンと同じ結晶構造を持つが、窒化シリコンよりも安定性,機械的強度が高い。
【0050】
サイアロンは特に、SiOx等に比べて結晶構造が緻密で、ガスバリア性が高く保護膜としての機能も高い。可視光全波長域において透明性が高く、反射膜に成膜しても反射率が低下せず、光沢色が変化する事も無い。サイアロンは、スパッタリング法を用いて高速,簡便に成膜することができ、他の保護膜に比較して成膜の安定性や経済性に優れている。
【0051】
また、所定の基板21には、樹脂基板,金属基板,ガラス基板などを用いることができる。
【0052】
また、銀膜または銀合金膜23は膜厚が50nm乃至500nmであるのが良く、サイアロン25は膜厚が0.5nm乃至10nmであるのが良い。
【0053】
また、銀膜または銀合金膜23は、基板21上に直接形成されても良いし、あるいは図7に示すように、基板21上に形成されたアンダーコート(例えばアクリル系樹脂のアンダーコート)22上に形成されても良い。
【0054】
このような構成の反射膜では、所定の基板21上に、銀膜または銀合金膜23が形成され、銀膜または銀合金膜23上に保護膜としてサイアロン25が形成されているので、ガスバリア性が高く(保護膜としての機能が高く)、また、銀膜または銀合金膜の反射率を低下させることなく、銀膜または銀合金膜の当初の反射率を維持することができる。
【0055】
本発明の上述した第2の実施形態の反射膜は、上記のような特徴を有するので、例えば図1の照明装置(ヘッドランプ)のリフレクター20に用いられる。この場合、本発明の上述した第2の実施形態の反射膜は、反射率を高く維持でき、また、耐熱性が高いので、リフレクターとしての品質を高く維持でき、高品質の照明装置を提供することができる。
【0056】
また、図6,図7の構成の反射膜は、全ての成膜をスパッタリング法で行なうことができる。すなわち、所定の基板上に銀膜または銀合金膜をスパッタリング法により成膜し、次いで、サイアロン膜をスパッタリング法により成膜することができる。
【0057】
具体的には、例えば合成樹脂材料21にアンダーコート22を塗布し、その表面に銀23をスパッタ法にて成膜する。その後、同様にスパッタ法でサイアロン25を成膜する。銀23の膜厚は50nm以上あれば良いが、好ましくは50nm〜500nmの範囲にあるのが良い。銀は、純銀が95%以上含まれた材料であれば良く、銅,パラジウム,ネオジウム,金,ビスマス,インジウム,マグネシウム等を含んだ銀合金材料を使用することも可能である。サイアロン25は、膜厚が0.5nm以上あれば良いが、好ましくは0.5〜10nmの範囲にあるのが良い。
【0058】
全ての成膜をスパッタリング法で行なう上記のような作製方法では、成膜中にゴミが付着しにくく、歩留まりが高い。すなわち、スパッタ法で保護膜を成膜できるため、従来の塗装工程に比べて、ゴミが付着しにくく歩留まりが向上する。
【0059】
また、ドライプロセス成膜のため有機溶剤工程が不要となる。すなわち、保護膜をスパッタリング法で行うので、有機溶剤を使用する塗装法に比べて環境負荷が少なく、作業者の健康面からもメリットがある。
【0060】
また、反射膜の第3の作製例として、BMC(Bulk Molding Compound)樹脂基板上にアクリルアンダーコートを約20μm塗布し、この基板を、スパッタリング装置に入れ、銀合金膜とサイアロンの保護膜を連続成膜した。
【0061】
ここで、銀合金膜とは、DCスパッタ法で、銀合金(Bi1wt%含有)ターゲットを用い、入力電力1000W、1分、100%Ar雰囲気で、100nmの膜厚に成膜した。
【0062】
また、保護膜としてのサイアロンは、RFスパッタ法で、三菱マテリアル製サイアロン(Si5.5Al0.50.57.5)ターゲットを用い、500W、30秒、98%Ar+2%N雰囲気で、3種類の膜厚,すなわち、0.5nm、5nm、10nmの膜厚にそれぞれ成膜した。
【0063】
また、反射膜の第4の作製例として、BMC(Bulk Molding Compound)樹脂基板上にアクリルアンダーコートを約20μm塗布し、この基板を、スパッタリング装置に入れ、銀合金膜とSiOx保護膜を連続成膜した。
【0064】
ここで、銀合金膜は、DCスパッタ法で、銀合金(Bi1wt%含有)ターゲットを用い、入力電力1000W、1分、100%Ar雰囲気で、100nmの膜厚に成膜した。
【0065】
また、SiOx保護膜は、反応性DCスパッタ法で、Si(99.99%)ターゲットを用い、500W、3分、50%Ar+50%O雰囲気で、5nmの膜厚に成膜した。
【0066】
また、反射膜の第5の作製例として、BMC(Bulk Molding Compound)樹脂基板上にアクリルアンダーコートを約20μm塗布し、この基板を、スパッタリング装置に入れ、銀合金膜と窒化ケイ素保護膜を連続成膜した。
【0067】
ここで、銀合金膜は、DCスパッタ法で、銀合金(Bi1wt%含有)ターゲットを用い、入力電力1000W、1分、100%Ar雰囲気で、100nmの膜厚に成膜した。
【0068】
また、窒化ケイ素保護膜は、反応性DCスパッタ法で、Si(99.99%)ターゲットを用い、500W、1分、50%Ar+50%N雰囲気で、5nmの膜厚に成膜した。
【0069】
保護膜の性能を調べる為、第3の作製例で作製した反射膜を5%硫化アンモニウム溶液に入った容器雰囲気中に、10分放置する前と10分放置した後とでの各波長における反射率を測定した。図8には、その測定結果を示す。すなわち、図8はサイアロンの膜厚と銀の硫化の関係を示す図である。
【0070】
図8から、サイアロンの膜厚が0.5nmでは、可視光中心波長550nmの反射率低下は約8%、サイアロンの膜厚が5nmでは、可視光中心波長550nmの反射率低下は、1%以下の低下に収まった。
【0071】
これに対し、第4,第5の作製例で作製した反射膜は、5%硫化アンモニウム溶液雰囲気中に、10分放置した後は、可視光反射率がいずれも10%以下となった。なお、保護膜が設けられていない純銀膜が露出した反射膜は、5%硫化アンモニウム溶液雰囲気中に、10分放置した後は、可視光反射率が、図8に符号Bで示すように、5%以下であった。
【0072】
このことから、膜厚が0.5nm乃至10nmのサイアロン保護膜を設けることによって、反射膜の反射率を高く維持できることがわかる(特に、硫化雰囲気においても、反射率の低下を有効に防止できることがわかる)。また、耐熱性試験後においても金属光沢を維持し、サイアロン保護膜を設けると耐熱性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、自動車灯体リフレクターやエクステンションリフレクター、二輪灯体リフレクターやエクステンションリフレクター、一般照明器具のリフレクター、一般装飾品、自動車用ヘッドライト、一般照明、野外照明、バックライト照明、LED装置、ディスプレー、光ディスク等の電子機器の電極や反射鏡などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】照明装置の構成例を示す図である。
【図2】従来の反射膜の構成を示す図である。
【図3】本発明に係る第1の実施形態の反射膜の構成例を示す図である。
【図4】本発明に係る第1の実施形態の反射膜のより具体的な構成例を示す図である。
【図5】反射膜を作製するためのスパッタ装置の構成例を示す図である。
【図6】本発明に係る第2の実施形態の反射膜の構成例を示す図である。
【図7】本発明に係る第2の実施形態の反射膜のより具体的な構成例を示す図である。
【図8】サイアロンの膜厚と銀の硫化の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 銀ターゲット
2 チタンターゲット
3 樹脂基板
4 基板ホルダー
5 回転軸
10 エクステンションリフレクター
20 リフレクター
30 光源
40 レンズカバー
50 ランプボディー
60 灯室
21 所定の基板
22 アンダーコート
23 銀膜または銀合金膜
24 チタン膜またはチタン合金膜
25 サイアロン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基板上に、銀膜または銀合金膜が形成され、銀膜または銀合金膜上に保護膜としてチタン膜またはチタン合金膜が形成されていることを特徴とする反射膜。
【請求項2】
請求項1記載の反射膜において、銀膜または銀合金膜は膜厚が50nm乃至500nmであり、チタン膜またはチタン合金膜は膜厚が0.1nm乃至2nmであることを特徴とする反射膜。
【請求項3】
所定の基板上に銀膜または銀合金膜をスパッタリング法により成膜し、次いで、チタン膜またはチタン合金膜をスパッタリング法により成膜することを特徴とする反射膜の作製方法。
【請求項4】
所定の基板上に、銀膜または銀合金膜が形成され、銀膜または銀合金膜上にサイアロン(一般式(Si(6−Z)Al(8−Z) 0<Z≦4.2))が形成されていることを特徴とする反射膜。
【請求項5】
請求項4記載の反射膜において、銀膜または銀合金膜は膜厚が50nm乃至500nmであり、サイアロンは膜厚が0.5nm乃至10nmであることを特徴とする反射膜。
【請求項6】
所定の基板上に銀膜または銀合金膜をスパッタリング法により成膜し、次いで、サイアロンをスパッタリング法により成膜することを特徴とする反射膜の作製方法。
【請求項7】
光源と、光源の周囲に設けられたリフレクターとを有し、該リフレクターには、請求項1または請求項2または請求項4または請求項5の反射膜が用いられることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−191528(P2008−191528A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27604(P2007−27604)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】