説明

受光装置、レーザレーダ装置および乗り物

【課題】測定精度の低下または対象物の誤検出が十分に防止された受光装置およびそれを備えたレーザレーダ装置ならびにそのレーザレーダ装置を備えた乗り物を提供する。
【解決手段】APD81にバイアス電圧Vbaが印加される。APD81に光が入射すると、APD81には入射光量Pに応じた電流が流れる。コンデンサ83はAPD81の出力電流の直流成分を除去し、入射光電流Iを出力する。I−V変換回路84は入射光電流Iを入射光電圧Vに変換する。増幅回路85は入射光電圧Vを増幅し、受光パルスVを出力する。反転増幅回路86は受光パルスVを反転増幅し、反転増幅電圧Viaを出力する。半波整流回路87は反転増幅電圧Viaを半波整流し、ノイズレベルVnDCを出力する。バイアス制御回路88はノイズレベルVnDCに基づいてバイアス電圧Vbaを負帰還で制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を受光する受光装置およびそれを備えたレーザレーダ装置ならびにそのレーザレーダ装置を備えた乗り物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両から対象物までの距離を測定するために、種々の車両用のレーザレーダが提案されている。レーザレーダでは、送光部から対象物にレーザ光が照射され、対象物からの反射光が受光部で受光される。送光部によるレーザ光の発射から受光部による反射光の受光までに要した時間を測定することにより対象物までの距離が算出される。
【0003】
このようなレーザレーダでは、太陽光等の外来光が受光部に入射すると、測定精度が低下する。そこで、特許文献1に記載の車両用レーザレーダでは、送光から受光までの時間差により対象物までの距離を計測するとともに、受光部の受光信号における外来光による直流変動分を検出し、計測された距離を直流変動分に基づいて補正している。
【特許文献1】特開平5−119147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来のレーザレーダでは、外来光が高周波成分を含む場合には、受光部の受光信号に高周波のノイズ成分が重畳される。それにより、受光信号のS/N(信号対雑音比)が低下する。また、外来光によるノイズ成分が対象物からの反射光による成分と誤判定される可能性がある。その結果、距離の測定精度の低下または対象物の誤検出が生じることがある。例えば、車両が夕陽に向かって走行する場合には、レーザレーダの受光部に強い外来光が入射する。このような場合には、距離の測定精度の低下または対象物の誤検出が顕著となる。
【0005】
本発明の目的は、測定精度の低下または対象物の誤検出が十分に防止された受光装置およびそれを備えたレーザレーダ装置ならびにそのレーザレーダ装置を備えた乗り物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1の発明に係る受光装置は、送光装置により発射されて検出対象物で反射されたレーザ光を受ける受光装置であって、検出対象物で反射されたレーザ光を受けるアバランシェフォトダイオードと、アバランシェフォトダイオードにバイアス電圧を印加するバイアス印加回路と、アバランシェフォトダイオードの出力電流を、直流成分が除去された電圧に変換する変換部とを備え、バイアス印加回路は、変換部により得られる電圧においてレーザ光に起因するパルス成分とは逆極性の成分を整流することによりノイズレベルを生成する整流部と、整流部により生成されたノイズレベルに基づいてバイアス電圧を負帰還で制御するバイアス制御回路とを含むアバランシェフォトダイオードにバイアス電圧を印加するバイアス印加回路とを備え、バイアス印加回路は、アバランシェフォトダイオードの出力電流を直流成分が除去された電圧に変換する変換部と、変換部により得られる電圧においてレーザ光に起因するパルス成分とは逆極性の高周波成分を整流することによりノイズレベルを生成する整流部と、整流部により生成されたノイズレベルに基づいてバイアス電圧を負帰還で制御するバイアス制御回路とを含むものである。
【0007】
その受光装置においては、バイアス印加回路によりアバランシェフォトダイオードにバイアス電圧が印加される。検出対象物で反射されたレーザ光がアバランシェフォトダイオードにより受光される。アバランシェフォトダイオードの出力電流は、変換部により直流成分が除去された電圧に変換される。
【0008】
ここで、変換部により得られる電圧には、レーザ光に起因するパルス成分および外来光に起因するノイズ成分が含まれる。この電圧からは直流成分が除去されているので、高周波のノイズ成分は正負に変化する。
【0009】
変換部により得られる電圧においてレーザ光に起因するパルス成分とは逆極性の成分が整流部により整流されることによりノイズレベルが生成される。それにより、高周波のノイズ成分がレーザ光に起因するパルス成分の影響を受けることなくノイズレベルとして正確に検出される。
【0010】
さらに、整流部により生成されたノイズレベルに基づいてバイアス電圧がバイアス制御回路により負帰還で制御される。この場合、ノイズレベルが高くなると、アバランシェフォトダイオードに印加されるバイアス電圧が低下する。それにより、アバランシェフォトダイオードの増倍率が低下し、変換部により得られる電圧が低下する。その結果、変換部により得られる電圧に含まれるノイズ成分が低減される。
【0011】
また、環境温度が変動すると、アバランシェフォトダイオードの増倍率が変動し、変換部により得られる電圧が変動する。この場合も、変換部により得られる電圧においてレーザ光に起因するパルス成分とは逆極性の成分が整流部により整流されることによりノイズレベルが生成される。それにより、環境温度の変動によるノイズ成分がレーザ光に起因するパルス成分の影響を受けることなくノイズレベルとして正確に検出される。さらに、整流部により生成されたノイズレベルに基づいてバイアス電圧がバイアス制御回路により負帰還で制御される。その結果、アバランシェフォトダイオードの増倍率の変動が抑制される。
【0012】
このようにして、検出対象物で反射されたレーザ光に起因する成分に影響を受けることなくノイズ成分を十分に低減することができる。したがって、レーザ光に起因するパルス成分を正確に検出することができる。その結果、変換部により得られる電圧に基づいて検出対象物に関する情報を高精度で測定することができるとともに、検出対象物の誤検出の発生を防止することができる。
【0013】
(2)変換部は、アバランシェフォトダイオードの出力電流の直流成分を除去する除去回路と、除去回路の出力電流を電圧に変換する電流電圧変換回路と、電流電圧変換回路の出力電圧を増幅する増幅回路とを含んでもよい。
【0014】
この場合、除去回路によりアバランシェフォトダイオードの出力電流の直流成分が除去される。それにより、外来光に起因する高周波のノイズ電流は正負に変化する。直流成分が除去された出力電流は電流電圧変換回路により電圧に変換され、増幅回路により増幅される。それにより、増幅回路の出力電圧はレーザ光に起因するパルス成分および正負に変化する高周波のノイズ成分を含む。整流部およびバイアス制御回路によりバイアス電圧が負帰還で制御されることにより、増幅回路の出力電圧のノイズ成分が低減される。
【0015】
(3)整流部は、変換部により得られる電圧を反転増幅する反転増幅回路と、反転増幅回路の出力電圧の正の成分を半波整流することによりノイズレベルを生成する半波整流回路とを含んでもよい。
【0016】
この場合、反転増幅回路の出力電圧に含まれるレーザ光に起因するパルス成分は負極性となる。それにより、反転増幅回路の出力電圧の正の成分を半波整流することによりレーザ光に起因するパルス成分の影響を受けずにノイズ成分に対応するノイズレベルを正確に生成することができる。
【0017】
(4)バイアス制御回路は、整流部により生成されるノイズレベルの反転成分を基準バイアス電圧に加算することによりバイアス電圧を生成してもよい。
【0018】
この場合、ノイズ成分が大きくなると、ノイズレベルの反転成分は低くなり、ノイズ成分が小さくなると、ノイズレベルの反転成分は高くなる。それにより、ノイズレベルの反転成分を基準バイアス電圧に加算することによりバイアス電圧を負帰還で制御することができる。
【0019】
(5)アバランシェフォトダイオードは、送光装置により発射されたレーザ光の一部を受けるように配置されてもよい。
【0020】
この場合、変換部により得られる電圧には、送光装置により発射されたレーザ光の一部に起因するパルス成分が含まれる。それにより、送光装置により発射されたレーザ光に起因するパルス成分および検出対象物で反射されたレーザ光に起因するパルス成分を正確に検出することができる。その結果、変換部により得られる電圧に含まれるパルス成分に基づいて検出対象物までの距離を高精度で測定することができるとともに、検出対象物の誤検出の発生を防止することができる。
【0021】
(6)第2の発明に係るレーザレーダ装置は、レーザ光を発射する送光装置と、光を受ける受光装置とを備え、受光装置は、送光装置により発射されて検出対象物で反射されたレーザ光を受けるアバランシェフォトダイオードと、アバランシェフォトダイオードにバイアス電圧を印加するバイアス印加回路と、アバランシェフォトダイオードの出力電流を、直流成分が除去された電圧に変換する変換部とを含み、バイアス印加回路は、変換部により得られる電圧においてレーザ光に起因するパルス成分とは逆極性の成分を整流することによりノイズレベルを生成する整流部と、整流部により生成されたノイズレベルに基づいてバイアス電圧を負帰還で制御するバイアス制御回路とを含むものである。
【0022】
そのレーザレーダ装置においては、送光装置によりレーザ光が発射され、受光装置により光が受光される。受光装置のバイアス印加回路によりアバランシェフォトダイオードにバイアス電圧が印加される。検出対象物で反射されたレーザ光がアバランシェフォトダイオードにより受光される。アバランシェフォトダイオードの出力電流は、変換部により直流成分が除去された電圧に変換される。
【0023】
ここで、変換部により得られる電圧には、レーザ光に起因するパルス成分および外来光に起因するノイズ成分が含まれる。この電圧からは直流成分が除去されているので、高周波のノイズ成分は正負に変化する。
【0024】
変換部により得られる電圧においてレーザ光に起因するパルス成分とは逆極性の成分が整流部により整流されることによりノイズレベルが生成される。それにより、高周波のノイズ成分がレーザ光に起因するパルス成分の影響を受けることなくノイズレベルとして正確に検出される。
【0025】
さらに、整流部により生成されたノイズレベルに基づいてバイアス電圧がバイアス制御回路により負帰還で制御される。この場合、ノイズレベルが高くなると、アバランシェフォトダイオードに印加されるバイアス電圧が低下する。それにより、アバランシェフォトダイオードの増倍率が低下し、変換部により得られる電圧が低下する。その結果、変換部により得られる電圧に含まれるノイズ成分が低減される。
【0026】
また、環境温度が変動すると、アバランシェフォトダイオードの増倍率が変動し、変換部により得られる電圧が変動する。この場合も、変換部により得られる電圧においてレーザ光に起因するパルス成分とは逆極性の成分が整流部により整流されることによりノイズレベルが生成される。それにより、環境温度の変動によるノイズ成分がレーザ光に起因するパルス成分の影響を受けることなくノイズレベルとして正確に検出される。さらに、整流部により生成されたノイズレベルに基づいてバイアス電圧がバイアス制御回路により負帰還で制御される。その結果、アバランシェフォトダイオードの増倍率の変動が抑制される。
【0027】
このようにして、検出対象物で反射されたレーザ光に起因する成分に影響を受けることなくノイズ成分を十分に低減することができる。したがって、レーザ光に起因するパルス成分を正確に検出することができる。その結果、変換部により得られる電圧に基づいて検出対象物に関する情報を高精度で測定することができるとともに、検出対象物の誤検出の発生を防止することができる。
【0028】
(7)受光装置のアバランシェフォトダイオードは、送光装置により発射されたレーザ光の一部を受けるように配置され、受光装置の変換部により得られる電圧において送光装置により発射されたレーザ光に起因するパルス成分および検出対象物で反射されたレーザ光に起因するパルス成分の時間間隔に基づいて送光装置から検出対象物までの距離を算出する距離算出部をさらに備えてもよい。
【0029】
この場合、送光装置により発射されたレーザ光に起因するパルス成分および検出対象物で反射されたレーザ光に起因するパルス成分を正確に検出することができる。したがって、送光装置により発射されたレーザ光に起因するパルス成分および検出対象物で反射されたレーザ光に起因するパルス成分の時間間隔に基づいて送光装置から検出対象物までの距離を高精度で測定することができるとともに、検出対象物の誤検出の発生を防止することができる。
【0030】
(8)送光装置は一定の周期でパルス状のレーザ光を発射し、レーザ光の発射周期は、レーザ光の発光時間の1000倍以上であってもよい。
【0031】
この場合、ノイズ成分の時間に比べてレーザ光に起因するパルス成分の時間が著しく短いので、レーザ光に起因するパルス成分の影響を受けずにノイズ成分を正確に検出することができる。
【0032】
(9)送光装置は、レーザ光を出射するレーザダイオードと、レーザダイオードにより出射されたレーザ光の進行方向を平面内で回転させるレーザ光回転系とを含んでもよい。
【0033】
この場合、送光装置によりレーザ光が全方位に発射されるので、レーザレーダ装置の全方位に存在する検出対象物に関する情報を高精度で測定することができる。
【0034】
(10)レーザレーダ装置は、レーザ光回転系によるレーザ光の進行方向の回転角度を検出する角度検出部と、受光装置の変換部により得られる電圧において検出対象物で反射されたレーザ光に起因するパルス成分を検出するパルス検出部と、パルス検出部によるパルス成分の検出時に角度検出部により検出されたレーザ光の進行方向の角度に基づいて検出対象物の方位を算出する方位算出部とをさらに備えてもよい。
【0035】
この場合、パルス検出部によるパルス成分の検出時に角度検出部により検出されたレーザ光の進行方向の角度に基づいて検出対象物の方位を高精度で測定することができるとともに、検出対象物の誤検出の発生を防止することができる。
【0036】
(11)第3の発明に係る乗り物は、本体部と、本体部を移動させる駆動部と、本体部に設けられる第2の発明に係るレーザレーダ装置と、レーザレーダ装置の変換部により得られる電圧に基づく情報を乗員に報知する報知部とを備えたものである。
【0037】
その乗り物においては、駆動部により移動する本体部にレーザレーダ装置が設けられる。そのレーザレーダ装置の変換部により得られる電圧に基づく情報が乗員に報知部により報知される。それにより、乗員は、乗り物の周囲における検出対象物に関する情報を得ることができる。特に、レーザレーダ装置においては、検出対象物で反射されたレーザ光に起因する成分に影響を受けることなくノイズ成分を十分に低減することができる。したがって、レーザ光に起因するパルス成分を正確に検出することができる。その結果、変換部により得られる電圧に基づいて検出対象物に関する情報を高精度で測定することができるとともに、検出対象物の誤検出の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、検出対象物で反射されたレーザ光に起因する成分に影響を受けることなくノイズ成分を十分に低減することができる。したがって、レーザ光に起因するパルス成分を正確に検出することができる。その結果、変換部により得られる電圧に基づいて検出対象物に関する情報を高精度で測定することができるとともに、検出対象物の誤検出の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(1)レーザレーダ装置の信号処理系
図1は本発明の一実施の形態に係るレーザレーダ装置の信号処理系の構成を示すブロック図である。このレーザレーダ装置は、例えば乗り物に搭載される。
【0040】
図1のレーザレーダ装置1は、検出対象物10までの距離および検出対象物10の方位を検出するために用いられる。ここで、検出対象物10の方位は、基準方向からの角度で表される。基準方向は、例えば進行方向に垂直な方向に定められる。なお、基準方向は、これに限定されず、進行方向と平行な方向でもよく、または任意の方向に定めることができる。
【0041】
送光装置70は、レーザ光を発射する。以下、送光装置70から発射されるレーザ光を発射光ELと呼ぶ。モータ30は、送光装置70からの発射光ELの方向を水平面内で360度回転させるために後述する反射鏡を回転させる。エンコーダ40は、モータ30の回転角度に対応するエンコーダパルスEPを出力するとともに、モータ30の1回転ごとに原点パルスOPを出力する。モータ回転数制御部20は、エンコーダ40から出力されるエンコーダパルスEPに基づいてモータ30の回転速度を一定に制御する。
【0042】
発光間隔パルス生成部50は、エンコーダ40から出力されるエンコーダパルスEPを逓倍することにより発光間隔パルスEIを生成する。発光トリガ生成部60は、発光間隔パルス生成部50により生成される発光間隔パルスEIに同期して発光トリガETを生成する。送光装置70は、発光間隔パルス生成部50により生成される発光トリガETに同期して発射光ELを発射する。
【0043】
受光装置80は、検出対象物10からの反射光RLを受光するとともに、送光装置70からの発射光ELおよび外来光DIを受光し、受光パルスVを出力する。
【0044】
信号処理部90は、発光トリガ生成部60により生成される発光トリガETおよび受光装置80から出力される受光パルスVに基づいて2値化信号BSを出力する。
【0045】
距離生成部100は、発光トリガ生成部60により生成される発光トリガETおよび信号処理部90から出力される2値化信号BSに基づいて距離を示す距離信号DSを生成するとともに、距離の生成を示す距離生成信号DGを出力する。
【0046】
一方、角度生成部110は、エンコーダ40から出力される原点パルスOP、発光トリガ生成部60により生成される発光トリガETおよび距離生成部100により生成される距離生成信号DGに基づいて角度を示す角度信号ASを生成する。
【0047】
レーダ画像生成部120は、距離生成部100により生成される距離信号DSおよび角度生成部110により生成される角度信号ASに基づいて後述するレーダ画像をディスプレイの画面に表示する。
【0048】
発光間隔パルス生成部50、発光トリガ生成部60、信号処理部90、距離生成部100、角度生成部110およびレーダ画像生成部120は、CPU(中央演算処理装置)およびメモリ等のハードウエアおよびプログラム等のソフトウエアにより実現される。
【0049】
なお、発光間隔パルス生成部50、発光トリガ生成部60、信号処理部90、距離生成部100、角度生成部110およびレーダ画像生成部120の一部または全てが論理回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0050】
(2)レーザレーダ装置の光学系
図2(a)は図1のレーザレーダ装置1の光学系の構成を示す模式図、図2(b)はレーザレーダ装置1の反射鏡250の構成を示す斜視図である。
【0051】
図2(a)において、円筒状の保持体200の底部の中心に送光装置70が取り付けられる。送光装置70は、レーザダイオード(以下、LDと呼ぶ)71および保持部材72からなる。LD71は、レーザ光を鉛直上方に出射するように保持部材72により保持される。本実施の形態では、LD71として、例えば波長870nmの近赤外パルスレーザが用いられる。
【0052】
保持体200の内部には、中心に開口部を有する反射鏡210が水平面に対して45度の角度で傾斜するように取り付けられる。保持体200の側壁には、受光装置80が設けられる。受光装置80は、アバランシェフォトダイオード(以下、APDと呼ぶ)81、保持部材81aおよび後述する複数の回路からなる。APD81は、光軸が水平方向を向くように保持部材81aにより保持される。
【0053】
保持体200の内部で反射鏡210の上方には、投受光レンズ220が取り付けられる。投受光レンズ220の中心軸は鉛直方向を向いている。
【0054】
保持体200の上端部の内周面には、複数のベアリング230を介して保護カバー240が鉛直方向の軸の周りで回転可能に取り付けられる。図2(b)に示すように、保護カバー240に反射鏡250が鉛直方向に対して45度の角度で傾斜するように固定される。保護カバー240は、反射鏡250に入射する光が減衰することを防止するために設けられる。
【0055】
図2(a)において、保持体200の上端部の外周面から水平方向に突出するようにモータ保持部201が一体的に形成される。モータ30は、回転軸が鉛直方向を向くようにモータ保持部201に保持される。モータ30の回転軸にはプーリ31が取り付けられる。プーリ31と保護カバー240とはベルト32により連結されている。モータ30の回転に伴って保護カバー240が回転する。それにより、反射鏡250が水平面に対して45度傾斜した状態で鉛直方向の軸の周りで回転する。
【0056】
送光装置70のLD71から鉛直上方に出射されるレーザ光(発射光EL)は、反射鏡210の開口部および投受光レンズ220を透過し、反射鏡250により反射され、水平方向に進行する。モータ30により反射鏡250が回転することにより、発射光ELの進行方向は鉛直方向の軸を中心として360度回転する。
【0057】
検出対象物10からの反射光RLは、反射鏡250により下方に反射され、投受光レンズ220により集光される。集光された反射光RLは、反射鏡210により反射され、受光装置80のAPD81に入射する。また、外来光DIも、同様に、反射鏡250により下方に反射され、投受光レンズ220により集光される。集光された外来光は、反射鏡210により反射され、受光装置80のAPD81に入射する。この場合、LD71からの発射光ELの一部は投受光レンズ220の表面で乱反射され、APD81に入射する。
【0058】
(3)レーザレーダ装置の動作
図3は図1のレーザレーダ装置1の動作を説明するためのタイミング図である。以下、図3を参照しながら図1のレーザレーダ装置1の動作を説明する。
【0059】
図3の横軸は時間である。1段目および2段目に原点パルスOPおよびエンコーダパルスEPが示される。また、3段目〜5段目には発光間隔パルスEI、発光トリガETおよび発光パルスEmがそれぞれ示されている。発光間隔パルスEI、発光トリガETおよび発光パルスEmは、エンコーダパルスEPに比べて時間軸上で拡大されている。さらに、6段目および7段目には受光パルスVおよび2値化信号BSがそれぞれ示されている。受光パルスVおよび2値化信号BSは、発光パルスEmに比べて時間軸上でさらに拡大されている。
【0060】
図1のモータ30が所定角度回転するごとに、エンコーダ40はエンコーダパルスEPを出力する。本実施の形態では、エンコーダパルスEPは、モータ30が6°回転するごとに生成される。したがって、モータ30が1回転すると、エンコーダ40は60個のエンコーダパルスEPを生成する。また、モータ30が1回転するごとに、エンコーダ40は原点パルスOPを出力する。したがって、原点パルスOPの周期T1はモータ30の1回転の周期に相当する。本実施の形態では、エンコーダ40は、60個のエンコーダパルスEPの生成ごとに原点パルスOPを生成する。
【0061】
モータ回転数制御部20は、エンコーダパルスEPに応答してモータ30の回転数を一定に制御する。この場合、モータ回転数制御部20は、原点パルスOPの周期T1が一定になるようにモータ30を制御する。
【0062】
発光間隔パルス生成部50は、エンコーダパルスEPを逓倍することにより発光間隔パルスEIを生成する。本実施の形態では、発光間隔パルスEIの周期T2はエンコーダパルスEPの周期の20倍である。ここで、発光間隔パルスEIの周期T2の間にモータ30が回転する角度(以下、単位角度と呼ぶ)をΔθとする。本実施の形態では、単位角度Δθは0.3°である。この場合、発光間隔パルスEIは、モータ30が0.3°回転するごとに生成される。以下、発光間隔パルスEIの周期T2を発光間隔T2と呼ぶ。
【0063】
発光トリガ生成部60は、発光間隔パルスEIの立ち上がりに同期して立ち下がる発光トリガETを生成する。
【0064】
送光装置70は、発光トリガETの立ち下りに同期して立ち上がる発光パルスEmを生成し、発光パルスEmに同期してレーザ光を発射光ELとし発射する。これにより、モータ30が単位角度Δθ回転するごとに、発射光ELが発射される。
【0065】
送光装置70のLD71からの発射光ELは、検出対象物10に照射される。一部の発射光ELは、受光装置80のAPD81に入射する。したがって、送光装置70からの発射光ELが受光装置80により受光された後、検出対象物10からの反射光RLが受光装置80により受光される。この場合、受光装置80による発射光ELの受光時点から反射光RLの受光時点までの時間がレーザレーダ装置1から検出対象物10までの距離に比例する。
【0066】
発光間隔T2は、送光装置70のLD71の発光時間(発光パルスEmの幅)の1000倍以上100000倍以下であることが好ましい。例えば、LD71の発光時間が10nsである場合には、発光間隔T2は10μs以上1ms以下であることが好ましい。
【0067】
上記のように、受光装置80のAPD81には、送光装置70からの発射光EL、検出対象物10からの反射光RLおよび外来光DIが入射する。後述するように、受光装置80から出力される受光パルスVにおいて外来光DIに起因するノイズ成分が低減される。したがって、受光装置80から出力される受光パルスVには、発射光ELのパルス成分および反射光RLのパルス成分が含まれる。
【0068】
信号処理部90は、単位時間Δtごとに受光パルスVのレベルを予め定められたしきい値と比較することにより2値化信号を生成する。この2値化信号は、受光パルスVのレベルがしきい値よりも高いときに論理値“1”となり、受光パルスVのレベルがしきい値以下のときに論理値“0”となる。例えば、信号処理部90は、1nsごとに論理値“1”および論理値“0”を判定する。さらに、信号処理部90は、2値化信号において連続する複数の論理値“1”からなる各ブロックのうち中央位置の論理値“1”を維持し、他の論理値“1”を論理値“0”に置き換えることにより2値化信号BSを生成する。図3においては、2値化信号BSの論理値“1”が黒で塗りつぶされた太線で表されている。
【0069】
距離生成部100は、発光トリガETに応答して、2値化信号BSの隣り合う論理値“1”の時間間隔T3に基づいてレーザレーダ装置1から検出対象物10までの距離を算出し、算出された距離を示す距離信号DSを生成する。
【0070】
具体的には、発光トリガETの生成時の論理値“1”から次の論理値“1”までの論理値の個数をmとし、光の速度をcとすると、レーザレーダ装置1から検出対象物10までの距離Dは次式により算出される。
【0071】
D=Δt・m・c/2
角度生成部110は、原点パルスOP、発光トリガETおよび距離生成信号DGに基づいて角度θ[°]を算出し、角度θを表す角度信号ASを生成する。
【0072】
具体的には、角度生成部110は、原点パルスOPに応答して角度θを0°にリセットし、発光トリガETごとに角度θに単位角度Δθを積算する。距離生成部100により距離生成信号DGが与えられたときに、角度生成部110は、角度θを示す角度信号ASを出力する。
【0073】
(4)受光装置80の構成
図4は図1の受光装置80の構成を示すブロック図である。
【0074】
図4に示すように、受光装置80は、APD81、抵抗82、コンデンサ83、I−V(電流−電圧)変換回路84、増幅回路85、反転増幅回路86、半波整流回路87およびバイアス制御回路88を含む。反転増幅回路86、半波整流回路87およびバイアス制御回路88がバイアス印加回路810を構成する。
【0075】
APD81はノードN1とノードN2との間に接続される。抵抗82はノードN2と接地端子との間に接続される。コンデンサ83はノードN2とI−V変換回路84との間に接続される。
【0076】
ノードN1にはバイアス制御回路88からバイアス電圧Vbaが出力される。それにより、APD81にバイアス電圧Vbaが印加される。APD81に印加されるバイアス電圧Vbaが増加するとAPD81の増倍率は増加し、APD81に印加されるバイアス電圧Vbaが減少するとAPD81の増倍率は減少する。
【0077】
APD81に光が入射すると、APD81には入射光量Pに応じた電流が流れる。コンデンサ83は、APD81の出力電流の高周波成分を通過させる。それにより、APD81の出力電流の直流成分が除去される。以下、コンデンサ83の出力電流を入射光電流Iと呼ぶ。
【0078】
I−V変換回路84は、入射光電流Iを入射光電圧Vに変換する。増幅回路85は、入射光電圧Vを増幅し、受光パルスVを出力する。反転増幅回路86は、受光パルスVを反転増幅し、反転増幅電圧Viaを出力する。半波整流回路87は、反転増幅電圧Viaを半波整流し、ノイズレベルVnDCを出力する。バイアス制御回路88は、ノイズレベルVnDCに基づいてバイアス電圧VbaをノードN1に出力する。受光装置80の各部の構成および動作の詳細については後述する。
【0079】
図5は受光装置80から出力される受光パルスVおよび信号処理部90により生成される2値化信号BSを示す波形図であり、(a)は受光パルスVに外来光DIによるノイズ成分が重畳された場合を示し、(b)は受光パルスVのノイズ成分が低減された場合を示す。図5の横軸は時間である。
【0080】
図5(a),(b)に示すように、受光パルスVのレベルをしきい値THと比較することにより2値化信号BSが得られる。これにより、発射光ELによるパルスPeおよび反射光RLによるパルスPrが生成される。発射光ELによるパルスPeおよび反射光RLによるパルスPrに基づいてレーザレーダ装置1から検出対象物10までの距離が算出される。
【0081】
図5(a)に示すように、受光パルスVに外来光DIによるノイズ成分が重畳された場合には、発射光ELによるパルスPeおよび反射光RLによるパルスPrに加えてノイズ成分によるパルスPn1〜Pn4が生成される。この場合、パルスPn1,Pn4により距離の算出精度が悪化し、パルスPn2,Pn3により検出対象物の誤検出が発生する。
【0082】
本実施の形態では、受光装置80においてAPD81のバイアス電圧Vbaが制御されることにより、図5(b)に示すように、受光パルスVに重畳されるノイズ成分が低減される。それにより、発射光ELによるパルスPeおよび反射光RLによるパルスPrのみが生成される。
【0083】
その結果、距離の算出精度が向上するとともに、検出対象物の誤検出の発生が防止される。
【0084】
(5)受光装置80の各部の動作
以下、図6〜図11を参照しながら受光装置80の各部の動作を説明する。
【0085】
図6はAPD81の動作を説明するための図である。図6の(a)はAPD81の機能を示すブロック図、(b)はAPD81への入射光量を示す波形図、(c)はコンデンサ83から出力される入射光電流を示す波形図である。
【0086】
APD81には、バイアス電圧Vbaが印加される。ここで、APD81の増倍率Mは、次式で表される。
【0087】
M=f(Vba
上式において、f(Vba)は増加関数である。送光装置70からの発射光ELおよび検出対象物10からの反射光RLと共に外来光DIがAPD81に入射すると、APD81にはその入射光量Pおよび増倍率Mで決まる入射光電流が流れる。コンデンサ83によりAPD81の入射光電流の直流成分が除去される。それにより、コンデンサ83からは次式で表される入射光電流Iが出力される。
【0088】
=f(M,P)
上式の関数f(M,P)は次式で表される。
【0089】
(M,P)=k(1/2){f(Vba)}1+X
上式において、kは比例定数であり、Xは過剰雑音指数である。
【0090】
入射光電流Iには、発射光ELによるパルス電流Pei、反射光RLによるパルス電流Priおよび外来光DIによるノイズ電流niが含まれる。ノイズ電流niは正負に変化する。ノイズ電流niは入射光量Pおよび増倍率Mのそれぞれが大きくなると増加する。
【0091】
図7はI−V変換回路84の動作を説明するための図である。図6の(a)はI−V変換回路84の機能を示すブロック図、(b)はI−V変換回路84に与えられる入射光電流を示す波形図、(c)はI−V変換回路84から出力される入射光電圧を示す波形図である。
【0092】
I−V変換回路84には、コンデンサ83から出力される入射光電流Iが与えられる。I−V変換回路84は、入射光電流Iを電圧に変換する。それにより、I−V変換回路84からは入射光電流Iの大きさに比例した入射光電圧Vが出力される。入射光電圧Vには、発射光ELによる正のパルス電圧Pev、反射光RLによる正のパルス電圧Prvおよび外来光DIによるノイズ電圧nvが含まれる。ノイズ電圧nvは正負に変化する。
【0093】
I−V変換回路84の入力インピーダンスをZinとし、I−V変換回路84の電圧増幅率をAv1とすると、入射光電圧Vは次式で表される。
【0094】
=Zinv1 …(1)
入射光電流Iに含まれるノイズ電流niが大きくなれば、入射光電圧Vに含まれるノイズ電圧nvは増加する。
【0095】
図8は増幅回路85の動作を説明するための図である。図8の(a)は増幅回路85の機能を示すブロック図、(b)は増幅回路85に与えられる入射光電圧を示す波形図、(c)は増幅回路85から出力される受光パルスを示す波形図である。
【0096】
増幅回路85には、I−V変換回路84から出力される入射光電圧Vが与えられる。増幅回路85は、入射光電圧Vを増幅し、受光パルスVを出力する。受光パルスVには、発射光ELによる正のパルス成分PEV、反射光RLによる正のパルス成分PRVおよび外来光DIによるノイズ成分NVが含まれる。ノイズ成分NVは正負に変化する。
【0097】
入射光電圧Vが大きくなれば、受光パルスVは増加する。増幅回路85の電圧増幅率をAv2とすると、受光パルスVは次式で表される。
【0098】
=Av2 …(2)
図9は反転増幅回路86の動作を説明するための図である。図9の(a)は反転増幅回路86の機能を示すブロック図、(b)は反転増幅回路86に与えられる受光パルスを示す波形図、(c)は反転増幅回路86から出力される反転増幅電圧を示す波形図である。
【0099】
反転増幅回路86には、増幅回路85から出力される受光パルスVが与えられる。反転増幅回路86は、受光パルスVを反転増幅し、反転増幅電圧Viaを出力する。反転増幅電圧Viaには、発射光ELによる負のパルス成分PEV、反射光RLによる負のパルス成分PRVおよび外来光DIによるノイズ成分NVが含まれる。ノイズ成分NVは正負に変化する。
【0100】
受光パルスVが大きくなれば、反転増幅電圧Viaも増加する。反転増幅回路86の電圧増幅率をAv3とすると、反転増幅電圧Viaは次式で表される。
【0101】
ia=−Av3 …(3)
図10は半波整流回路87の動作を説明するための図である。図10の(a)は半波整流回路87の機能を示すブロック図、(b)は半波整流回路87から出力されるノイズレベルを示す波形図である。
【0102】
半波整流回路87には、反転増幅回路86から出力される反転増幅電圧Viaが与えられる。半波整流回路87は、反転増幅電圧Viaを半波整流することにより反転増幅電圧Viaの実効値の直流電圧であるノイズレベルVnDCを出力する。ノイズレベルVnDCは次式で表される。
【0103】
nDC=f(Via
反転増幅電圧Viaの実効値をViaRMSとすると、上式の関数f(Via)は次式で表される。
【0104】
(Via)=ViaRMS
したがって、ノイズレベルVnDCは次式のようになる。
【0105】
nDC=ViaRMS …(4)
発射光ELによるパルス成分PEVおよび反射光RLによるパルス成分PRVは負であるため、パルス成分PEV,PRVの影響を受けることなくノイズ成分NVからノイズレベルVnDCを正確に生成することができる。
【0106】
図11はバイアス制御回路88の動作を説明するための図である。図11の(a)はバイアス制御回路88の機能を示すブロック図、(b)はバイアス制御回路88に与えられるノイズレベルを示す波形図である。
【0107】
バイアス制御回路88には、半波整流回路87から出力されるノイズレベルVnDCおよびバイアス基準電圧Vrefが与えられる。バイアス制御回路88は、ノイズレベルVnDCに比例する値とバイアス基準電圧Vrefとの加算値をバイアス電圧Vbaとして出力する。バイアス電圧Vbaは次式で表される。
【0108】
ba=f(Vref,VnDC
電圧増幅率をAv4とすると、上式の関数f(Vref,VnDC)は次式で表される。
【0109】
(Vref,VinDC)=−Av4nDC+Vref …(5)
上式(1)〜(5)からバイアス電圧Vbaは次式で表される。
【0110】
ba=−Av4v3v2v1indRMS+Vref …(6)
ここで、idRMSは入射光電流Iの実効値である。
【0111】
上式から、バイアス電圧Vbaは、外来光DIが強くなることによりノイズ電流が増加するにつれて小さくなる。それにより、増倍率Mが小さくなる。したがって、受光装置80は、外来光DIの強さに応じて増倍率Mが変化する負帰還制御回路として働く。
【0112】
(6)レーダ画像生成部120の表示
図12は図1のレーダ画像生成部120によるレーダ画像の表示例を示す模式図である。
【0113】
図1のレーダ画像生成部120は、距離生成部100により生成された距離信号DSおよび角度生成部110により生成された角度信号ASに基づいて、検出対象物10までの距離Dおよび角度θをディスプレイ350の画面上にレーダ画像として表示する。
【0114】
図12の表示例では、検出対象物が右前方の角度θの方向で距離Dの位置に存在することが画像で表示されている。実際には、角度θおよび距離Dは数値で表示される。
【0115】
(7)レーザレーダ装置1の効果
本実施の形態に係るレーザレーダ装置1では、反転増幅電圧Viaに含まれる発射光ELおよび反射光RLに起因するパルス成分PEV,PRVは負極性となり、ノイズ成分NVは正負に変化する。それにより、反転増幅電圧Viaの正の成分を半波整流することにより発射光ELおよび反射光RLに起因するパルス成分PEV,PRVの影響を受けずにノイズ成分NVに対応するノイズレベルVnDCを正確に生成することができる。また、LD71の発光間隔が発光時間に比べて十分に大きいため、ノイズレベルVnDCが発射光ELおよび反射光RLに起因するパルス成分PEV,PRVの影響をさらに受けにくい。
【0116】
このノイズレベルVnDCに基づいてバイアス電圧Vbaが負帰還で制御される。この場合、外来光DIに起因するノイズレベルVnDCが高くなると、APD81に印加されるバイアス電圧Vbaが低下する。それにより、APD81の増倍率Mが低下し、ノイズレベルVnDCが低下する。その結果、受光パルスVに含まれるノイズ成分NVが低減される。
【0117】
また、環境温度が変動すると、APD81の増倍率Mが変動し、受光パルスVが変動する。この場合も、受光パルスVにおいて発射光ELおよび反射光RLに起因するパルス成分PEV,PRVとは逆極性の成分が半波整流されることによりノイズレベルVnDCが生成される。それにより、環境温度の変動によるノイズ成分が発射光ELおよび反射光RLに起因するパルス成分PEV,PRVの影響を受けることなくノイズレベルVnDCとして正確に検出される。このノイズレベルVnDCに基づいてバイアス電圧Vbaが負帰還で制御される。その結果、APD81の増倍率Mの変動が抑制される。
【0118】
このようにして、発射光ELおよび反射光RLに起因するパルス成分PEV,PRVの影響を受けることなくノイズ成分NVを十分に低減することができる。したがって、発射光ELおよび反射光RLに起因するパルス成分PEV,PRVを正確に検出することができる。その結果、受光パルスVに基づいて検出対象物10の距離および角度を高精度で測定することができるとともに、検出対象物10の誤検出の発生を防止することができる。
【0119】
(8)レーザレーダ装置を備えた乗り物
次に、上記実施の形態に係るレーザレーダ装置1を備えた乗り物の例として自動二輪車について説明する。
【0120】
図13はレーザレーダ装置1を備えた自動二輪車を示す模式図である。
【0121】
図13の自動二輪車300においては、車体310の前部下方に前輪320が設けられ、後部下方に後輪330が設けられている。車体310の中央部には、ECU(電子制御装置)340が設けられている。車体310の前端部および後端部に上記実施の形態に係るレーザレーダ装置1がそれぞれ取り付けられている。
【0122】
また、車体310においてハンドル360の後方下部にディスプレイ350が設けられている。
【0123】
前端部のレーザレーダ装置1は、主として自動二輪車300の前方および側方の物体の距離および角度を測定する。後端部のレーザレーダ装置1は、主として自動二輪車300の後方および側方の物体の距離および物体の角度を測定する。前端部および後端部のレーザレーダ装置1により測定された距離および角度はECU340に与えられる。
【0124】
ECU340は、前端部および後端部のレーザレーダ装置1により測定された距離および角度をディスプレイ350にレーダ画像として表示させる。それにより、乗員は、周囲の物体までの距離および物体の方位を視覚的に認識することができる。
【0125】
(9)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0126】
上記実施の形態では、APD81がアバランシェフォトダイオードの例であり、バイアス印加回路810がバイアス印加回路の例であり、コンデンサ83およびI−V変換回路84が変換部の例であり、反転増幅回路86および半波整流回路87が整流部の例であり、バイアス制御回路88がバイアス制御回路の例である。
【0127】
また、コンデンサ83が除去回路の例であり、I−V変換回路84が電流電圧変換回路の例であり、増幅回路85が増幅回路の例である。
【0128】
さらに、距離生成部100が距離算出部の例であり、モータ30および反射鏡250がレーザ光回転系の例であり、エンコーダ40が角度検出部の例であり、信号処理部90および距離生成部100がパルス検出部の例であり、角度生成部110が方位算出部の例である。
【0129】
また、車体301が本体部の例であり、後輪330が駆動部の例であり、ディスプレイ350が報知部の例である。
【0130】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【0131】
(10)他の実施の形態
上記実施の形態では、除去回路としてコンデンサ83を用いているが、除去回路としてコンデンサ83の代わりに低域通過フィルタを用いてもよい。また、除去回路と電流電圧変換回路とが逆に設けられてもよい。
【0132】
さらに、I−V変換回路84から出力される入射光電圧Vのレベルが高い場合には、増幅回路85を設けなくてもよい。
【0133】
また、送光装置70のLD71として、種々の波長のレーザ素子を用いることができる。
【0134】
また、報知部としてディスプレイ350の代わりに音声で検出対象物10の距離および角度を報知する音声出力装置を用いてもよい。
【0135】
上記のレーザレーダ装置1は、自動二輪車に限らず、4輪の自動車、3輪の自動車、電動自転車、滑走艇、水上バイク、電動車椅子等の種々の乗り物に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、レーザ光を用いて検出対象物までの距離等の情報を測定するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明の一実施の形態に係るレーザレーダ装置の信号処理系の構成を示すブロック図である。
【図2】(a)は図1のレーザレーダ装置の光学系の構成を示す模式図、(b)はレーザレーダ装置の反射鏡の構成を示す斜視図である。
【図3】図1のレーザレーダ装置の動作を説明するためのタイミング図である。
【図4】図1の受光装置の構成を示すブロック図である。
【図5】受光装置から出力される受光パルスおよび信号処理部により生成される2値化信号を示す波形図である。
【図6】APDの動作を説明するための図である。
【図7】I−V変換回路の動作を説明するための図である。
【図8】増幅回路の動作を説明するための図である。
【図9】反転増幅回路の動作を説明するための図である。
【図10】半波整流回路の動作を説明するための図である。
【図11】バイアス制御回路の動作を説明するための図である。
【図12】図1のレーダ画像生成部によるレーダ画像の表示例を示す模式図である。
【図13】レーザレーダ装置を備えた自動二輪車を示す模式図である。
【符号の説明】
【0138】
1 レーザレーダ装置
10 検出対象物
20 モータ回転数制御部
30 モータ
31 プーリ
32 ベルト
40 エンコーダ
50 発光間隔パルス生成部
60 発光トリガ生成部
70 送光装置
71 レーザダイオード(LD)
72 保持部材
80 受光装置
81 アバランシェフォトダイオード(APD)
81a 保持部材
82 抵抗
83 コンデンサ
84 I−V変換回路
85 増幅回路
86 反転増幅回路
87 半波整流回路
88 バイアス制御回路
90 信号処理部
100 距離生成部
110 角度生成部
120 レーダ画像生成部
200 保持体
201 モータ保持部
210 反射鏡
220 投受光レンズ
230 ベアリング
240 保護カバー
250 反射鏡
300 自動二輪車
310 車体
320 前輪
330 後輪
340 ECU
350 ディスプレイ
EL 発射光
RL 反射光
DI 外来光
AS 角度信号
BS 2値化信号
DG 距離生成信号
DS 距離信号
EI 発光間隔パルス
EP エンコーダパルス
ET 発光トリガ
OP 原点パルス
入射光電流
受光パルス
入射光電圧
ba バイアス電圧
ia 反転増幅電圧
iaRMS 反転増幅電圧の実効値
nDC ノイズレベル
ref バイアス基準電圧
NV ノイズ成分
PEV,PRV パルス成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送光装置により発射されて検出対象物で反射されたパルス状のレーザ光を受ける受光装置であって、
前記検出対象物で反射されたレーザ光を受けるアバランシェフォトダイオードと、
前記アバランシェフォトダイオードにバイアス電圧を印加するバイアス印加回路と、
前記アバランシェフォトダイオードの出力電流を、直流成分が除去された電圧に変換する変換部とを備え、
前記バイアス印加回路は、
前記変換部により得られる電圧においてレーザ光に起因するパルス成分とは逆極性の成分を整流することによりノイズレベルを生成する整流部と、
前記整流部により生成されたノイズレベルに基づいて前記バイアス電圧を負帰還で制御するバイアス制御回路とを含むことを特徴とする受光装置。
【請求項2】
前記変換部は、
前記アバランシェフォトダイオードの出力電流の直流成分を除去する除去回路と、
前記除去回路の出力電流を電圧に変換する電流電圧変換回路と、
前記電流電圧変換回路の出力電圧を増幅する増幅回路とを含むことを特徴とする請求項1記載の受光装置。
【請求項3】
前記整流部は、
前記変換部により得られる電圧を反転増幅する反転増幅回路と、
前記反転増幅回路の出力電圧の正の成分を半波整流することにより前記ノイズレベルを生成する半波整流回路とを含むことを特徴とする請求項1または2記載の受光装置。
【請求項4】
前記バイアス制御回路は、
前記整流部により生成されるノイズレベルの反転成分を基準バイアス電圧に加算することにより前記バイアス電圧を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の受光装置。
【請求項5】
前記アバランシェフォトダイオードは、前記送光装置により発射されたレーザ光の一部を受けるように配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の受光装置。
【請求項6】
検出対象物にレーザ光を発射する送光装置と、
光を受ける受光装置とを備え、
前記受光装置は、
前記送光装置により発射されて検出対象物で反射されたレーザ光を受けるアバランシェフォトダイオードと、
前記アバランシェフォトダイオードにバイアス電圧を印加するバイアス印加回路と、
前記アバランシェフォトダイオードの出力電流を、直流成分が除去された電圧に変換する変換部とを含み、
前記バイアス印加回路は、
前記変換部により得られる電圧においてレーザ光に起因するパルス成分とは逆極性の成分を整流することによりノイズレベルを生成する整流部と、
前記整流部により生成されたノイズレベルに基づいて前記バイアス電圧を負帰還で制御するバイアス制御回路とを含むことを特徴とするレーザレーダ装置。
【請求項7】
前記受光装置の前記アバランシェフォトダイオードは、前記送光装置により発射されたレーザ光の一部を受けるように配置され、
前記受光装置の前記変換部により得られる電圧において前記送光装置により発射されたレーザ光に起因するパルス成分および前記検出対象物で反射されたレーザ光に起因するパルス成分の時間間隔に基づいて前記送光装置から検出対象物までの距離を算出する距離算出部をさらに備えたことを特徴とする請求項6記載のレーザレーダ装置。
【請求項8】
前記送光装置は一定の周期でパルス状のレーザ光を発射し、前記レーザ光の発射周期は、レーザ光の発光時間の1000倍以上であることを特徴とする請求項6または7記載のレーザレーダ装置。
【請求項9】
前記送光装置は、
レーザ光を出射するレーザダイオードと、
前記レーザダイオードにより出射されたレーザ光の進行方向を平面内で回転させるレーザ光回転系とを含むことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のレーザレーダ装置。
【請求項10】
前記レーザ光回転系によるレーザ光の進行方向の回転角度を検出する角度検出部と、
前記受光装置の前記変換部により得られる電圧において検出対象物で反射されたレーザ光に起因するパルス成分を検出するパルス検出部と、
前記パルス検出部によるパルス成分の検出時に前記角度検出部により検出されたレーザ光の進行方向の角度に基づいて検出対象物の方位を算出する方位算出部とをさらに備えたことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載のレーザレーダ装置。
【請求項11】
本体部と、
前記本体部を移動させる駆動部と、
前記本体部に設けられる請求項6〜10のいずれかに記載のレーザレーダ装置と、
前記レーザレーダ装置の前記変換部により得られる電圧に基づく情報を乗員に報知する報知部とを備えたことを特徴とする乗り物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−215878(P2008−215878A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50317(P2007−50317)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】