説明

可動構造体、それを用いた光走査ミラー及び可動構造体の製造方法

【課題】可動構造体において、ヒンジの強度や剛性を確保しつつ、可動板の共振周波数を大幅に低くする。
【解決手段】光走査ミラー1は、シリコン層210−酸化膜220−金属層230の3層基板200から形成されている。シリコン層210には、可動板50が、第1ヒンジ5により固定フレーム4に揺動可能に軸支されるように形成されている。可動板50の下方には、酸化膜220と金属層230により構成された金属構造体9が可動板50と一体に揺動可能に形成されている。金属構造体9が設けられていることにより、金属構造体9を含む可動板50の第1ヒンジ5回りの慣性モーメントが大きくなっている。従って、第1ヒンジ5の強度や剛性を確保しつつ、可動板50の共振周波数を大幅に低くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒンジに軸支され揺動可能に構成された可動板を有する可動構造体とそれを用いた光走査ミラー及び可動構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばバーコードリーダやプロジェクタ等の光学機器として、ミラー面が設けられた可動板を揺動させて、そのミラー面に入射した光ビーム等をスキャンする光走査ミラーを用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。光走査ミラーとしては、例えば、マイクロマシニング技術を用いて成形される可動構造体を有する小型のものが知られている。このような可動構造体は、光走査ミラーとして用いられるときにミラー面が形成される可動板と、可動板を支持する固定フレームとを有している。可動板と固定フレームとは互いにヒンジにより連結されている。可動板は、例えば、可動板と固定フレームとの間に形成された互いに噛み合う一対の櫛歯電極により駆動される。櫛歯電極は、例えば互いの電極が数μm程度の間隔で噛み合うように形成されており、互いの電極間に電圧が印加されることにより静電力を発生する。可動板は、櫛歯電極が発生する駆動力により、ヒンジを捻りながら固定フレームに対し回動し、ヒンジを軸として揺動する。
【0003】
ところで、例えば2軸に揺動し2次元に光を走査可能な光走査ミラー等においては、走査線の数を増加させて高解像度の走査を行うため、一方の軸についての揺動の共振周波数を低くしたいという要望がある。揺動の共振周波数を低くする方法としては、ヒンジを細くするなどしてヒンジのねじり方向のばね定数を小さくすることが考えられる。しかしながら、ヒンジを細くすると、ヒンジの強度が不足し、光走査ミラーの耐衝撃性が損なわれる。また、ヒンジの剛性も不足するため、可動板が揺動以外の方向にも変位しやすくなり、正確に光走査を行うことができなくなる場合がある。
【0004】
なお、特許文献1には、可動板に例えば樹脂製の質量片を設けて、可動板の揺動の共振周波数を調整可能にすることが開示されている。しかしながら、このような質量片を設けて可動板の共振周波数を低くしようとすると、可動板の慣性モーメントを十分に大きくするために必要な質量片の体積が大きくなり過ぎ、光走査ミラーの小型化が困難になるという問題がある。
【特許文献1】特開2004−219889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、ヒンジの強度や剛性を確保しつつ、可動板の共振周波数を大幅に低くすることができる可動構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、可動板と、それぞれ前記可動板に一端部が接続され前記可動板の1つの揺動軸を構成する一対のヒンジと、前記一対のヒンジのそれぞれの他端部が接続されており前記ヒンジを支持する固定フレームとを備え、前記可動板が、前記一対のヒンジをねじりながら前記固定フレームに対して揺動可能に構成されている可動構造体において、前記可動板の厚み方向の下面には、前記可動板の前記一対のヒンジ回りの慣性モーメントを大きくするために、金属膜又は金属構造体が形成されているものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記金属膜又は金属構造体の形状は、前記一対のヒンジにより構成される前記可動板の揺動軸を通り前記可動板に垂直な平面に対して対称であるものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、前記可動板の上面から前記金属膜又は金属構造体の下端部までの当該可動板の厚み方向の寸法は、前記可動板の上面から前記固定フレームの下端部までの寸法より短いものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、前記可動板の前記一対のヒンジ回りの慣性モーメントが所望の値となるように、前記可動板の上面から前記金属膜又は金属構造体の下端部までの当該可動板の厚み方向の寸法が設定されているものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、前記可動板の前記一対のヒンジ回りの慣性モーメントが所望の値となるような位置に、前記金属膜又は金属構造体が配置されているものである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項の発明において、前記金属層は、ポーラス構造であるものである。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか一項の発明において、前記金属層は、前記可動板に対し略垂直にスリットが設けられることにより形成された柱状構造を有しているものである。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1乃至請求項7記載のいずれか一項に記載の可動構造体を有し、前記可動板の上面に、入射した光を反射するミラー面を設けたものである。
【0014】
請求項9の発明は、シリコン層−酸化膜層−金属層を有する3層基板を作製し、前記シリコン層を深掘りエッチングすることにより、当該シリコン層に、可動板と、それぞれ前記可動板に一端部が接続され前記可動板の1つの揺動軸を構成する一対のヒンジと、前記一対のヒンジのそれぞれの他端部が接続されており前記ヒンジを支持する固定フレームとを形成する第1工程と、前記金属層をウェットエッチング又はドライエッチングすることにより、前記可動板の下方の金属層に、前記可動板の前記一対のヒンジ回りの慣性モーメントを大きくするための構造体を形成する第2工程とを有するものである。
【0015】
請求項10の発明は、請求項9の発明において、前記3層基板は、シリコン層と酸化膜層を有する基板に金属メッキを行うことにより作製されるものである。
【0016】
請求項11の発明は、請求項9の発明において、前記3層基板は、共晶接合、ガラス接合、及び樹脂接合のうち少なくとも1つの接合方法を用いて作製されるものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、金属膜又は金属構造体を可動板と一体に回動するように配置して可動板の一対のヒンジ回りの慣性モーメントを大きくするので、ヒンジの強度及び剛性を確保しつつ、可動板の共振周波数を低くすることができる。密度が高い金属膜又は金属構造体を用いて慣性モーメントを大きくすることができるので、可動構造体を小型化することができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、金属膜又は金属構造体の重心の位置は、ヒンジにより構成される揺動軸付近に位置するので、可動板がヒンジ回りにスムーズに揺動する。
【0019】
請求項3の発明によれば、可動構造体を基板等に実装した状態で、金属膜又は金属構造体が実装面上に接触しないので、可動板がヒンジ回りに揺動可能である。従って、固定フレームの下方に設けるスペーサを薄くするか省くことができ、可動構造体の実装高さを低くすることができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、可動板及び金属膜又は金属構造体のヒンジ回りの共振周波数を、所望の値に容易に設定することができる。比重が大きい金属膜又は金属構造体を用いるので、共振周波数をより広い範囲で設定することが可能になる。
【0021】
請求項5の発明によれば、上述と同様に、可動板及び金属膜又は金属構造体のヒンジ回りの共振周波数を、より広い範囲で、所望の値に容易に設定することができる。
【0022】
請求項6の発明によれば、金属層と可動板が設けられている層との熱膨張率が異なる場合でも、ポーラス構造により金属層の内部に発生する応力が一様に緩和されるので、可動構造体の変形が小さくなる。
【0023】
請求項7の発明によれば、金属層と可動板が設けられている層との熱膨張率が異なる場合でも、スリットが形成されていることにより金属層の内部に発生する応力が緩和されるので、可動構造体の変形が小さくなる。
【0024】
請求項8の発明によれば、上述と同様に、光走査ミラーの耐衝撃性を保ちつつ、ミラー面の揺動の共振周波数を低くし、且つ、光走査ミラーを小型化することができる。
【0025】
請求項9の発明によれば、可動板の下面に金属製の構造体を設けた可動構造体を、エッチング等の簡易な工程により容易に作製することができ、可動構造体の製造コストを低減することができる。また、小型の可動構造体を比較的精度良く作製することができるので、可動構造体の製造時の良品率が高くなる。
【0026】
請求項10の発明によれば、金属メッキを行って容易に3層基板を作製することができるので、可動構造体の製造コストをさらに低減することができる。
【0027】
請求項11の発明によれば、確実且つ容易に3層基板を作製することができるので、可動構造体の製造コストをさらに低減することができる。また、厚い金属層を有する3層基板を作製することができるので、当該金属層を適宜加工し可動構造体を作製することにより、可動板のヒンジ回りの共振周波数を大幅に低くすることができ、また、可動板の共振周波数をより広い範囲で設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1(a)、(b)、図2、及び図3は、本実施形態に係る光走査ミラー(可動構造体)の一例を示す。光走査ミラー1は、例えば、バーコードリーダ、外部のスクリーン等に画像を投影するプロジェクタ装置、又は光スイッチ等の光学機器に搭載される小型のものであり、外部の光源等(図示せず)から入射する光ビーム等をスキャン動作させる機能を有している。
【0029】
先ず、光走査ミラー1の構成について以下に説明する。図1(a)に示すように、光走査ミラー1は、導電性を有するシリコン層210と金属層230とをシリコンの酸化膜(酸化膜層)220を介して接合して成る、3層基板200から構成されている。酸化膜220は絶縁性を有しているので、シリコン層210と金属層230とは互いに絶縁されている。シリコン層210の厚みは、例えば30μm程度であり、金属層230の厚みは、例えば400μm程度である。また、3層基板200の上面の一部には、シリコン層210と金属層230との間の酸化膜220と同様の酸化膜220が形成されている(図3に図示)。光走査ミラー1は、例えば、上面視で一辺が数mm程度の略正方形又は略矩形である直方体状の素子であり、金属層230の下面側に接合された例えばガラス基板製のスペーサ110を介して、基板B等に実装される。
【0030】
図1(a)に示すように、光走査ミラー1は、上面視で略矩形形状であり上面にミラー面20が形成されたミラー部2と、ミラー部2の周囲を囲むように略矩形の環状に形成された可動フレーム3と、可動フレーム3の周囲を囲むように形成され、光走査ミラー1の側周部となる固定フレーム4とを有している。可動フレーム3と固定フレーム4とは、互いに並んで1つの軸を成すように、固定フレーム4の互いに対向する2側面から各面に直交するように形成された梁状の一対の第1ヒンジ5により連結されている。一方、ミラー部2と可動フレーム3とは、第1ヒンジ5の長手方向と直交する方向に、互いに並んで1つの軸を成すように形成された梁状の一対の第2ヒンジ6により連結されている。第1ヒンジ5及び第2ヒンジ6は、それらそれぞれが成す軸が、上面視でミラー部2の重心位置を通過するように形成されている。第1ヒンジ5及び第2ヒンジの幅寸法は、例えば、それぞれ、5μm程度、30μm程度である。ミラー部2は、第2ヒンジ6を揺動軸として、可動フレーム3に対して揺動可能に可動フレーム3に支持されている。一方、可動フレーム3は、第1ヒンジ5を揺動軸として、固定フレーム4に対して揺動可能に固定フレーム4に支持されている。すなわち、この光走査ミラー1において、ミラー部2と可動フレーム3とが、第1ヒンジ5により構成される軸回りに、固定フレーム4に対し揺動可能な可動板50を構成している。ミラー部2は、第1ヒンジ5と第2ヒンジ6とによりそれぞれ構成される2つの揺動軸回りに、2次元的に揺動可能に構成されている。図1(b)に示すように、可動フレーム3の下面には、可動フレーム3に接合され、可動フレーム3と一体に揺動可能に金属構造体9が設けられている。また、固定フレーム4には、3つの電圧印加部10a,10b,10cが設けられている。以下、第2ヒンジ6の長手方向をX方向と称し、第1ヒンジ5の長手方向をY方向と称し、X方向とY方向に直交する垂直な方向をZ方向と称する。なお、ミラー部2、ミラー面20、又は可動フレーム3等の形状は、矩形に限られず、円形等他の形状であってもよい。
【0031】
この光走査ミラー1は、例えば静電力を駆動力としてミラー部2を揺動させるものである。可動フレーム3と固定フレーム4との間の第1ヒンジ5が形成されていない部位には、第1櫛歯電極7が形成されており、ミラー部2と可動フレーム3との間の第2ヒンジ6が形成されていない部位には、第2櫛歯電極8が形成されている。第1櫛歯電極7は、可動フレーム3のうちX方向に略直交する2側面にそれぞれ櫛歯形状に形成された電極3bと、固定フレーム4のうち電極3bに対向する部位にそれぞれ形成された電極4aとが、一対に互いに噛み合うように配置されて構成されている。第2櫛歯電極8は、ミラー部2のうちY方向に略直交する2側面にそれぞれ櫛歯形状に形成された電極2aと、可動フレーム3のうち電極2aに対向する部位にそれぞれ櫛歯形状に形成された電極3aとが、一対に互いに噛み合うように配置されて構成されている。第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8において、電極3b,4a間の隙間や、電極2a,3a間の隙間は、例えば、2μm乃至5μm程度の大きさとなるように構成されている。第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8は、それぞれの電極3b,4a間、又は電極2a,3a間に電圧が印加されることにより、電極3b,4a間、又は電極2a,3a間に、互いに引き合う方向に作用する静電力を発生する。
【0032】
ミラー部2、可動フレーム3、固定フレーム4等は、3層基板200を、後述するようにマイクロマシニング技術等を用いて加工することにより形成されている。以下に、光走査ミラー1の各部位について、3層基板200の各層の構造も含めて説明する。
【0033】
ミラー部2及び可動フレーム3は、シリコン層210に形成されている。ミラー面20は、例えばアルミニウム製の薄膜であり、ミラー部2の上面に外部から入射する光ビームを反射可能に形成されている。ミラー面20の材質はアルミニウムに限られず、例えば、用いる光ビームの種類に応じて、適宜適当な金属の金属膜をミラー面として用いることができる。ミラー部2は、第2ヒンジ6を通る垂直平面(zx平面に平行な平面)に対し略対称形状に形成されており、第2ヒンジ6回りにスムーズに揺動するように構成されている。図3に示すように、可動フレーム3には、シリコン層210に、シリコン層210の上端から下端まで連通し、酸化膜220に到達するような溝形状の空隙を構成するトレンチ101aが形成されている。トレンチ101aが形成されていることにより、可動フレーム3は、第1ヒンジ5の一方と接続され電極3a及び電極3bと一体となる部位と、2つの第2ヒンジ6を支持する軸支部3c及び軸支部3cに導通部3dを介して接続され、第1ヒンジ5の他方に軸支される軸支部3eから成る部位と、導通部3dにミラー部2の中央部に関し上面視で略点対称となる形状に形成された3つのバランス部3fとの5つの部位に分割されている。トレンチ101aは、シリコン層210を分離しているので、これらの5つの部位は、互いに絶縁されている。なお、バランス部3fは、形成されていなくてもよい。
【0034】
金属構造体9は、可動フレーム3の下方(z方向)の酸化膜220及び金属層230により構成されている。金属構造体9には、トレンチ101aにより分割された可動フレーム3の5つの部位が共に接合されている。換言すると、金属構造体9は、可動フレーム3のうちトレンチ101aが形成されている部位の下方に、シリコン層210に接合されたまま形成されている。このように金属構造体9に5つの部位が共に接合されていることにより、可動フレーム3と金属構造体9とが、第1ヒンジ5を揺動軸として一体に揺動可能に構成されている。図1(b)に示すように、本実施形態において、金属構造体9は、可動フレーム3の下面のうち電極3a,3bを除く部位を略覆うように、平面視で第1ヒンジ5に対し略対称形状となる環状に形成されている。また、金属構造体9の金属層230からなる部位の厚みは、固定フレーム4の金属層230からなる部位の厚みと略同程度に形成されている。このように、金属構造体9は、第1ヒンジ5により構成される可動板50の揺動軸を通り可動板50に垂直な平面(y−z平面に平行な平面)に対し略対称な形状に形成されており、金属構造体9の重心の位置は、第1ヒンジ5により構成される揺動軸に平面視で略一致している。また、可動フレーム3のトレンチ101aは、バランス部3fを形成するために、第1ヒンジ5を通る垂直平面に対し略対称となる位置及び形状に設けられている。従って、金属構造体9を含む可動板50の重心の位置は、第1ヒンジ5により構成される揺動軸に、平面視で略一致している。これにより、金属構造体9を含む可動板50は、第1ヒンジ5回りにスムーズに揺動し、光走査ミラー1によるスキャンがより適正に行われる。
【0035】
固定フレーム4は、シリコン層210、酸化膜220、及び金属層230により構成されている。固定フレーム4の下面には、スペーサ110が設けられており、光走査ミラー1が例えば基板B上に実装された状態では、金属構造体9の下方にスペーサ110の厚み分の空隙ができるように構成されている。これにより、光走査ミラー1の動作時に、可動フレーム3と金属構造体9とが第1ヒンジ5回りに揺動可能とされている。
【0036】
固定フレーム4の上面には、3つの電圧印加部10a,10b,10cが、互いに並んで形成されている。固定フレーム4には、トレンチ101aと同様に、シリコン層210を複数の部位に分割するように、トレンチ101bが形成されている。図2において、シリコン層210の互いに電気的に絶縁されている部位には、それぞれ互いに異なる模様を付して示す。トレンチ101bは、固定フレーム4のシリコン層210を、電圧印加部10a,10b,10cとそれぞれ略同電位となる、互いに絶縁された3つの部位に分割している。このうち、電圧印加部10aと同電位となる部位は、第1ヒンジ5のうち、可動フレーム3のうち軸支部3eに接続された、電圧印加部10aから離れた一方の部位を支持する軸支部4dを有している。電圧印加部10aと軸支部4dとは、トレンチ101bが形成されていることにより幅が細く形成された導通部4eにより接続されている。また、電圧印加部10bと略同電位となる部位は、第1ヒンジ5の他方を支持する軸支部4fを有している。電圧印加部10cと略同電位となる部位は、固定フレーム4のうち電圧印加部10a,10bと同電位となる上記の2つの部位を除いた部位であり、この部位に電極4aが形成されている。本実施形態では、上記のようにトレンチ101a,101bが形成されていることにより、シリコン層210には、電圧印加部10aが形成され電極2aと略同電位となる部位と、電圧印加部10bが形成され可動フレーム3側の電極3a,3bと略同電位となる部位と、電圧印加部10cが形成され固定フレーム4側の電極4aと略同電位となる部位との、3つの部位が設けられている。各電圧印加部10a,10b,10cは、外部から電位を変更可能であり、これらの各電圧印加部10a,10b,10cの電位を変更することにより、第1櫛歯電極7と第2櫛歯電極8を駆動して光走査ミラー1を駆動可能である。なお、シリコン層210の下方には酸化膜220及び金属層230が接合されており、トレンチ101bはシリコン層210にのみ形成されているので、固定フレーム4全体は一体に構成されている。
【0037】
次に、光走査ミラー1の動作について説明する。第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8は、それぞれ、いわゆる垂直静電コムとして動作し、ミラー部2は、第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8が所定の駆動周波数で駆動力を発生することにより駆動される。第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8は、例えば、電極3a,3bが基準電位に接続された状態で、電極2a、及び電極4aの電位をそれぞれ周期的に変化させることにより駆動され、静電力を発生する。この光走査ミラー1においては、第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8それぞれが、例えば矩形波形状の電圧が印加されて周期的に駆動力を発生するように構成されている。
【0038】
上述のように形成されたミラー部2や可動フレーム3は、一般に多くの場合、その成型時に内部応力等が生じることにより、静止状態でも厳密には水平姿勢ではなく、きわめて僅かであるが傾いている。そのため、例えば第1櫛歯電極7が駆動されると、静止状態からであっても、ミラー部2に略垂直な方向の駆動力が加わり、ミラー部2が、第2ヒンジ6を回転軸として第2ヒンジ6を捻りながら回動する。そして、第2櫛歯電極8の駆動力を、ミラー部2が電極2a,3aが完全に重なりあうような姿勢になったときに解除すると、ミラー部2は、その慣性力により、第2ヒンジ6を捻りながら回動を継続する。そして、ミラー部2の回動方向への慣性力と、第2ヒンジ6の復元力とが等しくなったとき、ミラー部2のその方向への回動が止まる。このとき、第2櫛歯電極8が再び駆動され、ミラー部2は、第2ヒンジ6の復元力と第2櫛歯電極8の駆動力により、それまでとは逆の方向への回動を開始する。ミラー部2は、このような第2櫛歯電極8の駆動力と第2ヒンジ6の復元力による回動を繰り返して、第2ヒンジ6回りに揺動する。可動フレーム3も、ミラー部2の回動時と略同様に、第1櫛歯電極7の駆動力と第1ヒンジ5の復元力による回動を繰り返し、第1ヒンジ5回りに、金属構造体9と一体に揺動する。このように可動フレーム3が揺動するとき、金属構造体9を含む可動板50が一体として揺動するため、ミラー部2の姿勢が変化する。これにより、ミラー部2は、2次元的な揺動を繰り返す。
【0039】
第2櫛歯電極8は、ミラー部2と第2ヒンジ6により構成される振動系の共振周波数の略2倍の周波数の電圧が印加されて駆動される。また、第1櫛歯電極7は、ミラー部2、可動フレーム3及び金属構造体9と第1ヒンジ5とにより構成される振動系の共振周波数の略2倍の周波数の電圧が印加されて駆動される。これにより、ミラー部2が共振現象を伴って駆動され、その揺動角が大きくなる。なお、第1櫛歯電極7や第2櫛歯電極8の電圧の印加態様や駆動周波数は、上述に限られるものではなく、例えば、駆動電圧が正弦波形で印加されるように構成されていてもよい。また、電極3a,3bの電位が、電極2a及び電極4aの電位と共に変化するように構成されていてもよい。
【0040】
本実施形態において、金属構造体9は、可動板50の第1ヒンジ5回りの慣性モーメントを大きくするために設けられている。光走査ミラー1において、金属構造体9を含む可動板50又はミラー部2を一様の厚さの直方体で近似した場合、金属構造体9を含む可動板50の揺動の共振周波数や、ミラー部2の揺動の共振周波数は、それぞれ、第1ヒンジ5又は第2ヒンジ6のばね定数をK、金属構造体9を含む可動板50又はミラー部2の質量をm、可動板50又はミラー部2のそれぞれの回転軸に直交する方向の辺の長さをL、金属構造体9を含む可動板50又はミラー部2の揺動の慣性モーメントをiとすると、次式のように表される。
【0041】
【数1】

【0042】
上記数式から分かるように、可動板50の可動フレーム3は、金属構造体9と一体に回動するので、第1ヒンジ5回りに回動する部位の質量が、金属構造体9が設けられていない場合と比べて増加する。そのため、ミラー部2の第2ヒンジ6回りの慣性モーメントと比べて、可動板50の第1ヒンジ5回りの慣性モーメントが大幅に大きくなる。また、上記数式から分かるように、上面視で第1ヒンジ5の片側部の金属構造体9の重心の位置が第1ヒンジ5から離れるほど、金属構造体9を含む可動板50の第1ヒンジ5回りの慣性モーメントが大きくなる。本実施形態では、このことを利用し、金属構造体9の位置は、金属構造体9を含む可動板50の第1ヒンジ5回りの慣性モーメントが、第1ヒンジ5のばね定数や、ミラー部2の第2ヒンジ5回りの共振周波数等を鑑みて設定された所望の値となるように設定されている。なお、金属構造体9の位置の設定にあっては、可動板50の上面から金属構造体9の下端部までの厚み方向(z方向)の寸法(以下、金属構造体9の厚み方向寸法と称する)が可動板50の上面から固定フレーム4の下端部までの厚み方向の寸法と同じようになるように構成していることを前提にして金属構造体9の位置を定めればよい。
【0043】
ここで、金属構造体9としては、例えば、タングステン合金を用いることが望ましい。すなわち、本実施形態において、可動板50を構成するシリコン層210と金属構造体9を構成する金属層230との材質が異なるところ、互いの熱膨張率の差が小さい方が、温度の変化に伴う変形が小さくなる。また、上述より、密度が高い方が、同じ体積で可動板50の共振周波数を下げる効果が大きくなる。そこで、例えば、金、銀、銅、スズ、モリブデン、ロジウム等の金属と比較して、密度が高く、且つ、シリコン層210を構成するシリコンの熱膨張率(2.4[10−6/K]程度)と熱膨張率が近い(4.5[10−6/K]程度)材料であるタングステンを含む合金を金属構造体9の材質として選択するのが好適である。本実施形態においては、例えば、後述のように、ニッケル−タングステン(Ni−W)合金を、めっき法により金属層230として形成する。このとき、金属層230をいわゆるポーラスめっきとして形成することにより、金属層230を、微細な空孔を多数含むように形成している。このように金属層230を多数の空孔を含むポーラス構造とすることにより、金属層230とシリコン層210との熱膨張率が異なることにより金属層230の内部に応力が生じても、その応力が一様に緩和される。そのうえ、金属層230は、比較的シリコン層210と熱膨張率が近いニッケル−タングステン合金により構成されているので、温度変化に伴い光走査ミラー1の変形が大きくなることを防止することができる。
【0044】
以下に、図4乃至図10を参照し、光走査ミラー1の製造工程について説明する。なお、図4乃至図10は、図3に示した部位と略同一の部位についての断面図である。本実施形態において、光走査ミラー1は、基本的に、3層基板200を作製し、そのシリコン層210に可動板50等を形成する第1工程と、可動板50の下方の金属層230に、金属構造体9を形成する第2工程とを経て製造される。
【0045】
第1工程においては、先ず、酸素および水素雰囲気の拡散炉中で、シリコン層210を成すシリコン基板の上下両表面に酸化膜220を形成する(図4)。そして、その下面に下地金属をスパッタリングにより付着させ、その上で、ニッケル−タングステン合金からなる金属層230を、めっき法により生成する。これにより、シリコン層210−酸化膜220−金属層230を有する3層基板200が作製される(図5)。タングステン自体は単独では水溶液中から析出しないが、ニッケルなどの鉄系金属とは誘起共析するという特性を有しているため、このようにしてタングステンを含む金属層230を形成することができる。このとき、本実施形態では、めっき被膜中に欠陥を形成することにより、金属層230を多数の空孔を含んだ状態で形成する。なお、シリコン層210の厚みは極めて薄いため、例えば比較的厚いシリコン基板と酸化膜220と金属層230との3層を有する基板を形成した後、当該シリコン基板を研磨して所望の厚みのシリコン層210とし、3層基板200を作製してもよい。
【0046】
次に、シリコン層210の上面に形成された酸化膜220の表面のうち、可動板50や第1ヒンジ5及び第2ヒンジ6等の形状に、フォトリソグラフィにより、レジスト132bをパターニングする。その後、RIE(Reactive Ion Etching)により酸化膜220のうちレジスト132bにマスクされていない部位を除去し、シリコン層210のうち可動板50等が形成されない部位を露出させる(図6)。レジスト132bは、酸素プラズマ中で除去する。その後、シリコン層210上面には、例えばアルミニウムをスパッタリングすることにより、アルミニウム膜を形成する。アルミニウム膜は、例えば厚みが500nm程度になるように形成される。そして、フォトリソグラフィによりレジスト132cをパターニングした後にRIEを行い、アルミニウム膜のうちミラー面20及び電圧印加部10a,10b,10c以外の部位を除去する(図7)。これにより、ミラー面20及び電圧印加部10a,10b,10cが形成される。
【0047】
ミラー面20及び電圧印加部10a,10b,10cを形成した後、レジスト132cを除去し、シリコン層210上の酸化膜220等の表面にレジスト132dをパターニングする。その後、D−RIE(Deep Reactive Ion Etching)を行い、シリコン層210のうち上面が露出している部位を深掘りエッチングする。酸化膜220のエッチングレートは、シリコン層210のエッチングレートの1パーセント未満であるため、シリコン層210の表面の酸化膜220および酸化膜220はほとんどエッチングされない。これにより、シリコン層210に、可動板50、第1ヒンジ5及び第2ヒンジ6、第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8等となる形状が形成される。これと同時に、可動板50となる部位にはトレンチ101aが形成され、固定フレーム4となる部位には、トレンチ101bが形成される(図8)。レジスト132dは、酸素プラズマ中で除去しておく。
【0048】
次に、第2工程を行う。第2工程は、例えば、表面側であるシリコン層210の上面を保護のためレジスト132eで覆って行われる。第2工程では、金属層230に対して、金属構造体9及び固定フレーム4に相当する部分を残すようにウェットエッチングを行う。その後、光走査ミラー1の下方に露出する酸化膜220を、RIEにより除去する(図9)。これにより、可動板50やミラー部2が、第1ヒンジ5及び第2ヒンジ6を介して揺動可能になる。また、これにより、トレンチ101aの下方に、酸化膜220と金属層230とで構成された金属構造体9が、トレンチ101aにより絶縁分離された可動フレーム3の複数の部位が共に接合された状態で形成される。その後、レジスト132eを除去することにより、光走査ミラー1が完成する。なお、光走査ミラー1とスペーサ110とは例えば接着又は陽極接合等により接合される。そして、光走査ミラー1は、必要に応じて上面に保護基板(図示せず)等が接合されてパッケージ化された後、基板Bに実装可能になる。
【0049】
なお、第2工程において、金属層230をドライエッチングすることにより、金属層に金属構造体9及び固定フレーム4を形成してもよい。また、第1工程において、両面に酸化膜220を形成したシリコン層210に、接合面に金属メッキを形成し、そのメッキと金属層230とを接合させる共晶接合や、低融点ガラスを用いたガラス接合や、接着剤等を用いた樹脂接合により金属層230を接合して3層基板200を作製してもよい。このように3層基板200を作製することにより、容易に3層基板を作製することができ、製造コストを低減することができる。また、厚い金属層230を有する3層基板を作製することができるので、当該金属層230を適宜加工し光走査ミラー1を作製することにより、可動板50のヒンジ回りの共振周波数を大幅に低くすることができ、また、可動板50の共振周波数をより広い範囲で設定することができる。
【0050】
このように、本実施形態においては、ミラー部2の第2ヒンジ6回りの揺動の共振周波数に比べて、金属構造体9を含む可動板50の第1ヒンジ5回りの揺動の共振周波数を極めて低くすることができる。換言すると、従来の半導体構造と比較して、金属構造体9を設けることにより、可動板50の共振周波数を保ったままで光走査ミラー1の素子サイズを小さくして光走査ミラー1の製造コストを低減したり、第1ヒンジ5の幅寸法又は厚み寸法を大きくして第1ヒンジ5の強度や剛性を確保し、光走査ミラー1の耐衝撃性を向上させたり適正に光走査可能にすることができる。特に、樹脂製等の質量片を設ける場合と比較して、比較的密度が高いニッケル−タングステン合金等からなる金属構造体9を用いるので、光走査ミラー1をさらに小型化することができる。また、金属構造体9の位置を可動板50の慣性モーメントが所望の値になるように設定することにより、金属構造体9を含む可動板50の第1ヒンジ5回りの揺動の共振周波数を、光走査ミラー1として求められる仕様等に容易に合致させることができる。特に、この光走査ミラー1では、比較的密度が高いニッケル−タングステン合金を、金属構造体9として用いているので、共振周波数は、より広い範囲で設定することが可能になる。
【0051】
このように、ミラー部2の揺動の共振周波数に比べて可動板50の揺動の共振周波数を大幅に低くすることにより、可動板50が1往復揺動する間のミラー部2の揺動の往復回数が多くなる。従って、例えば光走査ミラー1で光線を縦横2次元走査させて画像を投影表示させるような場合に、投影画像の走査線の数を増加させ、より高解像度の画像を表示させることができる。なお、金属構造体9は、可動板50のストッパとしても機能する。すなわち、光走査ミラー1に外部から衝撃等が加わって可動板50が下方に変位しても、金属構造体9が実装面等に当接することにより、可動板50の変位が制限される。これにより、第1ヒンジ5の破損が防止され耐衝撃性が向上するという効果が生じる。
【0052】
なお、上記数式からわかるように、金属構造体9の位置に限らず、金属構造体9の厚みが大きいほど、金属構造体9を含む可動板50の第1ヒンジ5回りの慣性モーメントが大きくなる。これを鑑み、例えば、上述とは異なり、金属構造体9を可動板50に対し所定の位置に配置する必要がある場合には、可動板50の第1ヒンジ5回りの慣性モーメントが所望の値になるように金属構造体9の厚み方向寸法を調整してもよい。同様に、金属構造体9の厚み方向寸法と配置位置とを共に慣性モーメントの値を鑑みて調整したりしてもよい。このようにしても、上述と同様に、金属構造体9を含む可動板50の第1ヒンジ5回りの揺動の共振周波数を、広い範囲で、光走査ミラー1として求められる仕様等に容易に合致させることができる。
【0053】
図10は、例えば、本実施形態の一変形例に係る光走査ミラー21を示す。光走査ミラー21の可動板50には、光走査ミラー1の金属構造体9とは厚みが異なる金属構造体29が設けられており、金属構造体29の金属層230からなる部位の厚みが、固定フレーム4の金属層230からなる部位の厚みよりも薄く形成されているものである。光走査ミラー21のその他の部位の構成は光走査ミラー1と同様である。この場合、金属構造体29の質量は金属構造体9の質量よりも小さいので、光走査ミラー21の可動板50の第1ヒンジ5回りの慣性モーメントは光走査ミラー1の可動板50のそれよりも小さくなる。この光走査ミラー1では、可動板50の上面から金属構造体29の下端部までの厚み方向の寸法が、可動板50の上面から固定フレーム4の下端部までの寸法より短いので、図に示すように光走査ミラー21をそのまま基板B上に実装しても、その実装面と金属構造体29の下端部との間には空間ができる。すなわち、光走査ミラー21を基板B等の平面上に実装した状態で、金属構造体29が実装面上に接触せず、可動板50が第1ヒンジ5回りに揺動可能である。従って、スペーサ110等を固定フレーム4の下方に設ける必要が無く、光走査ミラー21の実装高さを低くすることができる。
【0054】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図11(a)、(b)は、第2実施形態に係る光走査ミラー31を示す。光走査ミラー31は、上述の第1実施形態の光走査ミラー1とは異なり、金属層230がポーラス構造ではない点と、金属層230にスリット39aが形成されており、可動フレーム3の下方に、金属構造体9に替えて、多数の柱状構造39bを有する金属構造体39が形成されている点とが相違する。図に示すように、スリット39aは、金属層230の下面全体に、格子状に、可動板50に対し略垂直に彫り込まれて形成されている。スリット39aは、例えば、上述の第1実施形態と同様に、一旦酸化膜220の下面に下面が平坦な金属層230を形成した後、その金属層230をエッチング等により彫り込むことにより形成することができる。
【0055】
このように、第2実施形態においては、金属層230の下面にスリット39aが形成されているので、シリコン層210と金属層230とで熱膨張率が異なることにより可動フレーム3や固定フレーム4において発生する応力が緩和される。特に、スリット39aが格子状に形成されていることにより、熱膨張率が異なることにより発生する応力が、可動フレーム3や固定フレーム4の全体で一様に緩和されるので、その応力による光走査ミラー31の変形をより小さくすることができる。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨を変更しない範囲で適宜に種々の変形が可能である。例えば、可動板の下面に形成する金属構造体や金属膜として用いる金属は、タングステン合金に限られず、光走査ミラーの製造方法等に応じて適宜選択することができる。また、光走査ミラーは、上記実施形態のような2軸ジンバル型のものではなく、例えばミラー面が形成された可動板を一対のヒンジで固定フレームに支持した構造を有する1軸に揺動可能なものであってもよい。この場合であっても、ヒンジの強度や剛性を確保した状態で、可動板に同様に金属膜又は金属構造体を設けて可動板のヒンジ回りの慣性モーメントを大きくしたり、可動板の揺動周波数を広い範囲で容易に調整することができる。ストッパを、可動板の揺動軸に向けて突出するように保護基板上に形成することにより、同様に、光走査ミラーの耐衝撃性を向上させることができる。
【0057】
さらにまた、本発明は、ミラー面を有し光を走査する光走査ミラーに限られず、一対のヒンジにより固定フレームに対し揺動可能に構成された可動板を有する可動構造体に広く適用可能である。すなわち、可動板にヒンジ回りの慣性モーメントを大きくするために金属膜又は金属構造体を設けることにより、ヒンジの強度や剛性を確保しつつ、可動板の共振周波数を大幅に低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る可動構造体である光走査ミラーの一例を示す斜視図、(b)は同光走査ミラーの下面側を示す斜視図。
【図2】上記光走査ミラーの上面図。
【図3】上記光走査ミラーの図2のA−A線における断面図。
【図4】上記光走査ミラーの製造工程の第1工程における側断面図。
【図5】上記光走査ミラーの製造工程の第1工程における側断面図。
【図6】上記光走査ミラーの製造工程の第1工程における側断面図。
【図7】上記光走査ミラーの製造工程の第1工程における側断面図。
【図8】上記光走査ミラーの製造工程の第1工程における側断面図。
【図9】上記光走査ミラーの製造工程の第2工程における側断面図。
【図10】上記光走査ミラーの一変形例を示す側断面図。
【図11】(a)は本発明の第2実施形態に係る可動構造体である光走査ミラーの下面側を示す斜視図、(b)は同光走査ミラーの下面図。
【符号の説明】
【0059】
1,21,31 光走査ミラー(可動構造体)
4 固定フレーム
5 第1ヒンジ(ヒンジ)
9,29,39 金属構造体
20 ミラー面
39a スリット
39b 柱状構造
50 可動板
200 3層基板
210 シリコン層
220 酸化膜(酸化膜層)
230 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動板と、それぞれ前記可動板に一端部が接続され前記可動板の1つの揺動軸を構成する一対のヒンジと、前記一対のヒンジのそれぞれの他端部が接続されており前記ヒンジを支持する固定フレームとを備え、
前記可動板が、前記一対のヒンジをねじりながら前記固定フレームに対して揺動可能に構成されている可動構造体において、
前記可動板の厚み方向の下面には、前記可動板の前記一対のヒンジ回りの慣性モーメントを大きくするために、金属膜又は金属構造体が形成されていることを特徴とする可動構造体。
【請求項2】
前記金属膜又は金属構造体の形状は、前記一対のヒンジにより構成される前記可動板の揺動軸を通り前記可動板に垂直な平面に対して対称であることを特徴とする請求項1に記載の可動構造体。
【請求項3】
前記可動板の上面から前記金属膜又は金属構造体の下端部までの当該可動板の厚み方向の寸法は、前記可動板の上面から前記固定フレームの下端部までの寸法より短いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可動構造体。
【請求項4】
前記可動板の前記一対のヒンジ回りの慣性モーメントが所望の値となるように、前記可動板の上面から前記金属膜又は金属構造体の下端部までの当該可動板の厚み方向の寸法が設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可動構造体。
【請求項5】
前記可動板の前記一対のヒンジ回りの慣性モーメントが所望の値となるような位置に、前記金属膜又は金属構造体が配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可動構造体。
【請求項6】
前記金属層は、ポーラス構造であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の可動構造体。
【請求項7】
前記金属層は、前記可動板に対し略垂直にスリットが設けられることにより形成された柱状構造を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の可動構造体。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の可動構造体を有し、
前記可動板の上面に、入射した光を反射するミラー面を設けたことを特徴とする光走査ミラー。
【請求項9】
シリコン層−酸化膜層−金属層を有する3層基板を作製し、前記シリコン層を深掘りエッチングすることにより、当該シリコン層に、可動板と、それぞれ前記可動板に一端部が接続され前記可動板の1つの揺動軸を構成する一対のヒンジと、前記一対のヒンジのそれぞれの他端部が接続されており前記ヒンジを支持する固定フレームとを形成する第1工程と、
前記金属層をウェットエッチング又はドライエッチングすることにより、前記可動板の下方の金属層に、前記可動板の前記一対のヒンジ回りの慣性モーメントを大きくするための構造体を形成する第2工程とを有することを特徴とする可動構造体の製造方法。
【請求項10】
前記3層基板は、シリコン層と酸化膜層を有する基板に金属メッキを行うことにより作製されることを特徴とする請求項9に記載の可動構造体の製造方法。
【請求項11】
前記3層基板は、共晶接合、ガラス接合、及び樹脂接合のうち少なくとも1つの接合方法を用いて作製されることを特徴とする請求項9に記載の可動構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−85735(P2010−85735A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255074(P2008−255074)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】