説明

可変バルブタイミング制御装置及び方法

【課題】過給機を搭載したエンジンにおいて、急激なオーバーラップ量の変動が伴う運転状態の遷移が生じた場合でも、効率的な運転状態を実現可能な可変バルブタイミング制御装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明の可変バルブタイミング制御装置(22)は、過給機(10)を搭載した内燃機関(1)の運転状態に応じて吸気バルブ(14)と排気バルブ(16)とのバルブオーバーラップ量を可変制御するものであり、特に、バルブオーバーラップ量を規定する制御パラメータ(例:エンジン回転数やアクセル開度など)の変動を検出するための検出部(21)と、該変動量が所定値より大きい場合にバルブタイミングの変化速度又は変化量を制限する制限手段とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機を搭載した内燃機関の運転状態に応じて吸気バルブと排気バルブとのバルブオーバーラップ量を可変制御する可変バルブタイミング制御装置及び方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジンは吸気系から取り込んだ吸気を吸気バルブを介して燃焼室に流入させ、燃焼室で燃焼後、その排気を排気バルブを介して排気系から外部に排出される。吸気バルブと排気バルブとの開閉タイミングは、可変バルブタイミング機構によって可変制御されるが、排気バルブの閉時期より吸気バルブの開時期を速く設定することにより、バルブオーバーラップ期間を設け、吸排気効率を向上させることが一般的に行われている。
【0003】
このバルブオーバーラップ期間(オーバーラップ量)は、エンジンの運転状態に応じて、ECUのようなコントローラによって、最適な値になるように可変制御される。例えば、エンジンの運転状態が低速高負荷領域(エンジン回転速度が低く、エンジン負荷が高い領域)に移行した場合、オーバーラップ量を拡大して吸排気量を増大することにより、体積効率を向上させ、出力トルクの増大を図ることがある。特許文献1には、このような場合に燃料噴射タイミングを吸気工程に設定することで、燃費悪化を防止しつつ、エンジン出力を効果的に向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−190514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的な可変バルブタイミング制御では、吸排気バルブのオーバーラップ量は、エンジンの運転状態に応じて規定されており、この対応関係は予めマップとしてメモリ等の記憶手段にECUなどのコントローラが参照可能に格納されている。図3は、エンジンの運転状態とオーバーラップ量との間の対応関係を規定するマップの一例であり、この例ではエンジンの運転状態を規定する制御パラメータとしてエンジン回転数Neと体積効率Ecとを採用している。尚、図3では、オーバーラップ量が等しい点を等高線的に示している。
【0006】
図3(a)は、各運転状態において最適燃費が得られるようにオーバーラップ量を規定した場合のマップである。この場合、等しいオーバーラップ量を示す等高線は、エンジン特性に応じた形状を有しており、運転領域によって等高線同士の間隔に大きなバラツキがある。仮にこのようなマップに従ってバルブタイミング制御を実行すると、等高線同士の間隔が狭い領域を遷移する際に、オーバーラップ量が急激に変化してしまう。その結果、燃焼室に吸入される空気量が不安定となり、当該吸入空気量に基づいて設定される点火時期や燃料噴射量も精度良く制御することが困難になってしまうという問題がある。このような問題に鑑み、実際のバルブタイミング制御では、図3(b)に示すように、等高線同士の間隔のバラツキが少なくなるように補正されたマップが採用されている。
【0007】
しかしながら、図3(b)に示すマップに従ったバルブタイミング制御は、図3(a)に示す理想的なマップ(本来のマップ)と異なっているため、最適な制御からかけ離れてしまう場合がある。例えば図3(a)及び(b)に示す点Aでは、同じ運転状態であってもバルブオーバーラップ量が異なり、最適なエンジン制御ができなくなってしまう。
【0008】
特に排気タービンで吸気側のコンプレッサを駆動して過給を行う排気ターボ過給機を搭載したエンジンでは、オーバーラップ量が増加すると排気量も増加するので、それに伴い過給量(吸気量)も増加し、吸気ガスの排気側への吹き抜けが増加する。このように、ループ的に吹き抜けが増加するので、エンジンの運転状態が最適パターンから乖離し易いという問題がある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、過給機を搭載したエンジンにおいて、急激なオーバーラップ量の変動が伴う運転状態の遷移が生じた場合でも、効率的な運転状態を実現可能な可変バルブタイミング制御装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る可変バルブタイミング制御装置は上記課題を解決するために、過給機を搭載した内燃機関の運転状態に応じて吸気バルブと排気バルブとのバルブオーバーラップ量を可変制御する可変バルブタイミング制御装置において、前記バルブオーバーラップ量を規定する制御パラメータを検出するための検出部と、前記検出部によって検出された制御パラメータの変動量が所定値より大きい場合に、前記吸気バルブ及び前記排気バルブのバルブタイミングの変化速度又は変化量を制限する制限手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る可変バルブタイミング制御装置によれば、バルブオーバーラップ量を規定する制御パラメータに変動が生じた際に、当該変動量が所定値より大きい場合にバルブタイミングの変化速度又は変化量を制限することによって、運転状態が理想パターンからの乖離を抑制し、効率的な運転状態を実現することができる。
【0012】
好ましくは、前記制御パラメータは、アクセル開度によって制御されるエンジン回転数である。バルブオーバーラップ量がエンジン回転数に依存して設定されている場合、エンジン回転数を制御するためのアクセル開度をパラメータとして採用することにより、運転状態が理想パターンからの乖離を抑制し、効率的な運転状態を実現することができる。
【0013】
特に、前記内燃機関は、燃焼室内に燃料を直接噴射する直噴型ガソリンエンジンであるとよい。吸気通路(ポート)に燃料を噴射するポート噴射型エンジンの場合、吸気の排気側への吹き抜けを抑制するために、バルブオーバーラップ量が大きい運転領域が狭い傾向がある。一方、筒内に燃料を直接噴射する直噴型エンジンでは、このような吹き抜けの問題がないので、オーバーラップ量が大きい運転領域が広く設定されている傾向がある。つまり、直噴型ガソリンエンジンではバルブオーバーラップ量の変動量が大きくなりやすいため、本発明を適用することによって、運転状態が理想パターンからの乖離を抑制し、効率的な運転状態を実現できるという効果を、より効果的に享有することができる。
【0014】
本発明に係る可変バルブタイミング制御方法は上記課題を解決するために、過給機を搭載した内燃機関の運転状態に応じて吸気バルブと排気バルブとのバルブオーバーラップ量を可変制御する可変バルブタイミング制御方法において、前記バルブオーバーラップ量を規定する制御パラメータを検出する検出工程と、前記検出部によって検出された制御パラメータの変動量が所定値より大きい場合に、前記吸気バルブ及び前記排気バルブのバルブタイミングの変化速度又は変化量を制限する制限工程とを備えたことを特徴とする。
本発明に係る可変バルブタイミング制御方法は、上述の可変バルブタイミング制御装置(上記各種態様を含む)により好適に実現可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る可変バルブタイミング制御装置及び方法によれば、バルブオーバーラップ量を規定する制御パラメータに変動が生じた際に、当該変動量が所定値より大きい場合にバルブタイミングの変化速度又は変化量を制限することによって、運転状態が理想パターンからの乖離を抑制し、効率的な運転状態を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るバルブタイミング制御装置が搭載された車両の構造を示す模式図である。
【図2】本発明に係るバルブタイミング制御装置の動作を手順毎に示すフローチャート図である。
【図3】エンジンの運転状態に応じてオーバーラップ量を規定するマップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0018】
図1は、本発明に係る可変バルブタイミング制御装置が搭載された車両のエンジン周辺の構造を示す模式図である。図1において、エンジン1のシリンダヘッド2には、燃焼室3の混合気に着火するための点火プラグ4が設けられており、燃焼室3は前記シリンダヘッド2の他にピストン5とシリンダ6とから構成されている。ピストン5の上下運動はコンロッドを介して、図不示のクランクシャフトに伝達される。またエンジン1は直噴型エンジンであり、燃焼室3内には、直接燃料を噴射供給するための筒内インジェクタ7が設けられている。
【0019】
エンジン1の吸気系は、吸気通路8に、吸気を浄化するためのエアフィルタ9、吸気を圧縮するための排気ターボ過給機10(以下、単に「過給機10」と称する)のコンプレッサ10a、該過給機10で圧縮された空気を冷却するためのインタークーラ11、燃焼室への吸気量を制御するためのスロットルバルブ12が設置されてなる。ここでスロットルバルブ12は、後述するECU22によって、その開度を電子的に制御可能な電子制御バルブ(ETV)である。吸気通路8からの吸気は、吸気側可変バルブタイミング機構13(以下、適宜「吸気VVT13」と称する)によって開閉タイミングが制御される吸気バルブ14を介して、燃焼室3に供給される。
【0020】
燃焼室3での燃焼によって発生した排気ガスは、排気側可変バルブタイミング機構15(以下、適宜「排気VVT15」と称する)によって開閉タイミングが制御される排気バルブ16を介して、排気系に排出される。排気系は、排気通路17に、排気ガスによって駆動可能な排気タービン10b、排気ガス中に含まれる有害成分を浄化するための触媒18、及び図不示の消音用のマフラーが設定されてなる。排気ガスによって駆動された排気タービン10bの動力は、コンプレッサ10aに伝達されることにより、過給機10による吸気の圧縮が行われるようになっている。
【0021】
吸気通路8のうちエアフィルタ9の下流側には、吸気の流量を検出するための流量センサ19が設けられている。また、スロットルバルブ12にはスロットルバルブ開度を計測するためのスロットルバルブ開度センサ20が設けられている。また、ピストン5のレシプロサイクルに応じて回転駆動されるコンロッドの近傍には、コンロッドの回転角を検出することによりエンジン回転数を計測可能な回転センサ21が設けられている。これら各種センサにおける検出値は、次に説明するECU22に送信される。
【0022】
ECU22は車両全体の制御を統括するコントロールユニットであり、上記各種センサから取得した検出値に基づいて、筒内インジェクタにおける燃料噴射時期や燃料噴射量、点火プラグにおける着火時期を可変に制御する。また、ECU22は、吸気VVT13及び排気VVT15にアクセスすることにより、吸気バルブ14及び排気バルブ16の開閉度合を取得すると共に、当該開閉度合を制御可能に構成されている。
【0023】
続いて図2を参照して、ECU22による吸気VVT13及び排気VVT15に対する具体的な制御内容について説明する。図2は、ECU22による吸気VVT13及び排気VVT15に対する制御内容を手順毎に示すフローチャート図である。尚、ECU22の吸気VVT13及び排気VVT15以外に対する制御については、特段の記載が無い限り、公知の車両制御と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0024】
まずECU22は、スロットルバルブ開度センサ20にアクセスすることにより、スロットルバルブ開度を検出し、アクセル開度を検出する(ステップS101)。アクセル開度は、アクセルペダルによって制御されるスロットルバルブ開度をスロットルバルブ開度センサ20で検出することによって取得できるように構成されている。尚、本実施例では以下に説明するようにスロットルバルブ開度から対応するアクセル開度を算出して、その算出値に対して閾値との比較をすることで制御を行っているが、スロットルバルブ開度自体を閾値と比較して制御を行うようにしてもよい。尚、このアクセル開度は、本発明における「バルブオーバーラップ量を規定する制御パラメータ」の一例である。
【0025】
続いてECU22は、検出したアクセル開度の変動量APが所定値AP1以上であるか否かを判定する(ステップS102)。この所定値AP1は、バルブオーバーラップ量に急激な変動を伴うアクセル開度の変動量として、理論的、実験的或いはシミュレーション的な各種手法によって予め規定されており、ECU22がアクセル可能なメモリなどの記憶手段に記憶されているものである。
【0026】
アクセル開度の変動量APが所定値AP1以上である場合(ステップS102:YES)、ECU22は吸気VVT13及び排気VVT15に対して吸気バルブ14及び排気バルブ16の開度の変化速度又は変化量に制限をかける(ステップS103)。具体的には、上記背景技術で説明したように、基本的には本実施例においても、図3(a)に示すマップ(つまり、図3(b)のような補正されたマップではないマップ)に従ってバルブオーバーラップ量が規定されているが、このようなマップでは、等高線同士の間隔が狭い領域を遷移する際に、オーバーラップ量が急激に変化してしまうという問題があった。本発明ではこのような問題を解決するために、変動量APが所定値AP1より大きい場合にバルブタイミングの変化速度又は変化量を制限することによって、オーバーラップ量の急激な変化を抑制しつつ、運転状態が理想パターンからの乖離を極力抑制することによって、効率的な運転状態を実現することができる。バルブタイミングの変化速度又は変化量の制限方法としては、例えば、目標のオーバーラップ量までステップ的に制限をかけるようにするとよい。
【0027】
尚、ステップ103においてバルブタイミングの変化速度を制限するか、変化量を制限するかは、エンジン1の特性に応じていずれかを制限するように選択してもよいし、双方について所定割合で制限するようにしてもよい。
【0028】
一方、アクセル開度の変動量APが所定値AP1より小さい場合(ステップS102:NO)、ECU22はステップS103のような制限をかけることなく、処理を終了する。
【0029】
上記一連の制御は一定又は不定のタイミングで繰り返されており、バルブオーバーラップ量が急激に変動する事象が生じた際に、迅速に制限がかかるように実行されるとよい。
【0030】
以上説明したように本実施例によれば、バルブオーバーラップ量を規定する制御パラメータに変動が生じた際に、当該変動量が所定値より大きい場合にバルブタイミングの変化速度又は変化量を制限することによって、運転状態が理想パターンからの乖離を抑制し、効率的な運転状態を実現可能な可変バルブタイミング制御装置及び方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、過給機を搭載した内燃機関の運転状態に応じて吸気バルブと排気バルブとのバルブオーバーラップ量を可変制御する可変バルブタイミング制御装置及び方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
2 シリンダヘッド
3 燃焼室
4 点火プラグ
5 ピストン
6 シリンダ
7 筒内インジェクタ
8 吸気通路
9 エアフィルタ
10 排気ターボ過給機
10a コンプレッサ
10b 排気タービン
11 インタークーラ
12 スロットルバルブ
13 吸気側可変バルブタイミング機構(吸気VVT)
14 吸気バルブ
15 排気側可変バルブタイミング機構(排気VVT)
16 排気バルブ
17 排気通路
18 触媒
19 流量センサ
20 スロットルバルブ開度センサ
21 回転角センサ
22 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機を搭載した内燃機関の運転状態に応じて吸気バルブと排気バルブとのバルブオーバーラップ量を可変制御する可変バルブタイミング制御装置において、
前記バルブオーバーラップ量を規定する制御パラメータを検出するための検出部と、
前記検出部によって検出された制御パラメータの変動量が所定値より大きい場合に、前記吸気バルブ及び前記排気バルブのバルブタイミングの変化速度又は変化量を制限する制限手段と
を備えたことを特徴とする可変バルブタイミング制御装置。
【請求項2】
前記制御パラメータは、アクセル開度によって制御されるエンジン回転数であることを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関は、燃焼室内に燃料を直接噴射する直噴型ガソリンエンジンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブタイミング制御装置。
【請求項4】
過給機を搭載した内燃機関の運転状態に応じて吸気バルブと排気バルブとのバルブオーバーラップ量を可変制御する可変バルブタイミング制御方法において、
前記バルブオーバーラップ量を規定する制御パラメータを検出する検出工程と、
前記検出部によって検出された制御パラメータの変動量が所定値より大きい場合に、前記吸気バルブ及び前記排気バルブのバルブタイミングの変化速度又は変化量を制限する制限工程と
を備えたことを特徴とする可変バルブタイミング制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−241537(P2012−241537A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109626(P2011−109626)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】