説明

可変圧縮比内燃機関の制御システム

【課題】可変圧縮比機構を備えた内燃機関において、フューエルカット制御の実行停止後の機関負荷がその実行開始前の機関負荷よりも低下した際の機械圧縮比の変更の応答遅れを抑制する。
【解決手段】フューエルカット制御の実行中に該制御の実行停止後の機関負荷が該制御の実行開始前の機関負荷よりも低いことが予測された場合、フューエルカット制御の実行中に機械圧縮比を予め上昇させておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変圧縮比機構を備えた内燃機関の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に関する技術として、ピストンが上死点に位置する時の気筒内の容積(燃焼室容積)とピストンが下死点に位置する時の気筒内の容積との比(機械圧縮比)を変更する可変圧縮比機構が知られている。可変圧縮比機構を備えた内燃機関では、機関負荷が低いときは機関負荷が高いときに比べて機械圧縮比を高くする。これにより、内燃機関の出力性能や燃費性能の向上を図ることが出来る。
【0003】
また、近年では、可変圧縮比機構と、燃焼室容積と吸気弁が閉弁した時の気筒内の容積との比(有効圧縮比)を変更する可変動弁機構とを備えた高膨張比内燃機関が提案されている(例えば、特許文献1参照)。高膨張比内燃機関では、内燃機関の機関負荷が比較的低いときに、機械圧縮比を高めつつ有効圧縮比を低下させることにより膨脹比を高める高膨張比運転が行われる。これによって、低負荷運転時における熱効率をより向上させることが出来る。
【0004】
一方、内燃機関においては、減速運転時に燃料噴射を停止させる、所謂フューエルカット制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−303423号公報
【特許文献2】特開2004−239147号公報
【特許文献3】特開2002−089302号公報
【特許文献4】特開2005−163648号公報
【特許文献5】特開2005−147105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フューエルカット制御が実行された場合においては、該制御の実行停止後の機関負荷が該制御の実行開始前の機関負荷よりも低くなる場合がある。この場合、可変圧縮比機構を備えた内燃機関においては、フューエルカット制御の実行停止後の機械圧縮比を該制御の実行開始前の機械圧縮比よりも高くする必要がある。しかしながら、機械圧縮比の変更は燃焼室容積を変化させることで行われるため、機械圧縮比を所望の値まで変更するためにはある程度の時間が必要となる。
【0007】
このように、機械圧縮比の変更に応答遅れが生じると、この間は機械圧縮比を可変とすることによる性能向上の利益を十分に得ることが困難となる虞がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、可変圧縮比機構を備えた内燃機関において、フューエルカット制御の実行停止後の機関負荷がその実行開始前の機関負荷よりも低下した際の機械圧縮比の変更の応答遅れを抑制することが出来る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フューエルカット制御の実行中に該制御の実行停止後の機関負荷が該制御の
実行開始前の機関負荷よりも低いことが予測された場合、フューエルカット制御の実行中に機械圧縮比を予め上昇させておくものである。
【0010】
より詳しくは、本発明に係る可変圧縮比内燃機関の制御システムは、
機械圧縮比を変更する可変圧縮比機構と、
減速運転時にフューエルカット制御を実行するフューエルカット制御実行手段と、
フューエルカット制御の実行中に該制御の実行停止後の機関負荷を予測する予測手段と、を備え、
前記予測手段によって予測されたフューエルカット制御の実行停止後の機関負荷が該制御の実行開始前の機関負荷よりも低い場合、該制御の実行中に機械圧縮比を上昇させておくことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、フューエルカット制御の実行が停止した時点で、既に機械圧縮比が上昇している。従って、機械圧縮比の変更の応答遅れを抑制することが出来る。
【0012】
本発明においては、機関負荷が所定負荷より高いときは機械圧縮比を所定の低圧縮比に制御し、機関負荷が該所定負荷以下のときは機械圧縮比を所定の高圧縮比に制御することを前提としてもよい。このとき、所定の低圧縮比及び高圧縮比は実験等に基づいて予め定められた値である。
【0013】
上記の場合、機関負荷が所定負荷より高いときにフューエルカット制御の実行が開始され、尚且つ、フューエルカット制御の実行中に予測手段によって予測された該制御の実行停止後の機関負荷が所定負荷以下の場合に、該制御の実行中に機械圧縮比を前記所定の高圧縮比まで上昇させる。
【0014】
本発明において、吸気弁のバルブタイミングを変更する可変動弁機構を更に備えた場合、フューエルカット制御の実行中に機械圧縮比を上昇させておく際に、吸気弁の閉弁時期を遅角させることで有効圧縮比を低下させておいてもよい。
【0015】
これによれば、フューエルカット制御の実行停止後、直ちに高膨張比運転を行うことが可能となる。
【0016】
本発明においては、可変圧縮比内燃機関がハイブリッドシステムに一の駆動源として適用されたものであることを前提としてもよい。この場合、ハイブリッドシステムは、モータージェネレータとバッテリとを更に有する。
【0017】
モータージェネレータは、他の駆動源であって尚且つ減速運転時には回生を行う。また、バッテリは、モータージェネレータによる回生によって生じた電力を蓄電すると共に該モータージェネレータに電力を供給する。そして、該ハイブリッドシステムでは、減速運転終了後において、バッテリの蓄電量が所定値以上の場合、該バッテリからモータージェネレータに電力を供給してモータによるアシストを行う。
【0018】
モータによるアシストが行われると、その分内燃機関の機関負荷が低下する。そこで、上記の場合、予測手段は、フューエルカット制御の実行停止時におけるハイブリッドシステム全体に要求される出力の予測値とバッテリの蓄電量の予測値とに基づいて、該制御の実行停止後の機関負荷を予測してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、可変圧縮比機構を備えた内燃機関において、フューエルカット制御の実行停止後の機関負荷がその実行開始前の機関負荷よりも低下した際の機械圧縮比の変更
の応答遅れを抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1に係る内燃機関およびその吸排気系の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1に係る、フューエルカット制御実行時におけるアクセル開度、機関負荷、シリンダブロック位置及び機械圧縮比の推移を示すタイミングチャートである。
【図3】実施例1に係る機械圧縮比制御及びフューエルカット制御のフローを示すフローチャートである。
【図4】実施例2に係る内燃機関およびその吸排気系の概略構成を示す図である。
【図5】実施例2に係る機械圧縮比制御、フューエルカット制御及び吸気弁バルブタイミング制御のフローを示すフローチャートである。
【図6】実施例3に係る内燃機関およびその吸排気系、駆動系の概略構成を示す図である。
【図7】実施例3に係る、フューエルカット制御実行時におけるアクセル開度、要求総出力、バッテリのSOC、機関負荷、シリンダブロック位置及び機械圧縮比の推移を示すタイミングチャートである。
【図8】実施例3に係る機械圧縮比制御及びフューエルカット制御のフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0022】
<実施例1>
(概略構成)
図1は、本発明の第一の実施例に係る内燃機関およびその吸排気系の概略構成を示す図である。内燃機関1は、4つの気筒2を有する車両駆動用のガソリンエンジンである。
【0023】
気筒2内にはピストン3が摺動自在に設けられている。気筒2内上部の燃焼室には吸気ポート4と排気ポート5とが接続されている。吸気ポート4および排気ポート5の燃焼室への開口部は、それぞれ吸気弁6および排気弁7によって開閉される。
【0024】
また、内燃機関1には、点火プラグ10及び燃料噴射弁11が設けられている。点火プラグ10は気筒2内の燃焼室において混合気に点火する。燃料噴射弁11は吸気ポート4内に燃料を噴射する。
【0025】
吸気ポート4には吸気通路8が接続されている。排気ポート5には排気通路9が接続されている。吸気通路8にはスロットル弁13が設けられている。排気通路には、三元触媒等によって構成される排気浄化装置14が設けられている。
【0026】
また、本実施例に係る内燃機関1は、シリンダブロック21をクランクケース22に対して上下方向に移動させる可変圧縮比機構15を備えている。シリンダブロック21がクランクケース22に対して上下方向に移動すると燃焼室容積が変化し、それによって機械圧縮比が変化する。例えば、シリンダブロック21が上方に移動すると、燃焼室容積が増加して機械圧縮比が低下する。
【0027】
以上述べたように構成された内燃機関1には電子制御ユニット(ECU)20が併設されている。ECU20には、クランクポジションセンサ16及びアクセル開度センサ17が電気的に接続されている。これらの出力信号がECU20に入力される。
【0028】
クランクポジションセンサ16は、内燃機関1のクランク角を検出するセンサである。また、アクセル開度センサ17は、内燃機関1を搭載した車両のアクセル開度を検出するセンサである。
【0029】
また、ECU20には、点火プラグ10、燃料噴射弁11、スロットル弁13及び可変圧縮比機構15が電気的に接続されている。ECU20によってこれらが制御される。
【0030】
(機械圧縮比制御及びフューエルカット制御)
本実施例においては、内燃機関1の機関負荷に応じて可変圧縮比機構15によって機械圧縮比が変更される。即ち、内燃機関1の機関負荷が所定負荷よりも高いときは機械圧縮比が所定の低圧縮比に制御され、機関負荷が該所定負荷以下のときは機械圧縮比が所定の高圧縮比に制御される。ここで、所定負荷、所定の低圧縮比及び高圧縮比は実験等に基づいて予め定められた値である。
【0031】
さらに、本実施例においては、アクセル開度が零となり内燃機関1の運転状態が減速運転となると、ECU20によって燃料噴射弁11からの燃料噴射が停止される、所謂フューエルカット制御が実行される。該フューエルカット制御は減速運転が終了すると停止される。
【0032】
ここで、フューエルカット制御の実行開始前と該制御の実行停止後とで機関負荷が異なる場合がある。即ち、機関負荷が所定負荷よりも高いときに減速運転となった場合であっても、該減速運転が終了する時に要求される機関負荷が所定負荷以下の場合がある。この場合、フューエルカット制御の実行開始時点では機械圧縮比は所定の低圧縮比となっているため、フューエルカット制御の実行停止後に機械圧縮比を所定の高圧縮比まで上昇させる必要がある。
【0033】
しかしながら、上記のように機械圧縮比の変更はシリンダブロック21を移動させることによって行われるため、応答遅れが大きい。そこで、本実施例では、上記の場合、フューエルカット制御の実行中に機械圧縮比を所定の高圧縮比まで予め上昇させておく。
【0034】
ここで、本実施例に係るフューエルカット制御実行時の機械圧縮比の変更タイミングについて図2に基づいて説明する。図2は、フューエルカット制御実行時におけるアクセル開度Accel、機関負荷Qe、シリンダブロック位置及び機械圧縮比εの推移を示すタイミングチャートである。尚、図2のシリンダブロック位置及び機械圧縮比εにおける破線は従来の方法で機械圧縮比を制御した場合を示している。
【0035】
図2におけるt0以前においては、内燃機関1の機関負荷Qeは所定負荷Qethよりも高くなっており、機械圧縮比εは所定の低圧縮比εlに制御されている。そして、t0のタイミングでアクセル開度Accelが零となると、フューエルカット制御の実行が開始される。つまり、内燃機関1の運転状態が減速運転となる。このとき、シリンダブロック21の位置は低圧縮比運転時のままである。
【0036】
そして、t1のタイミングで、アクセル開度Accelが増加すると、フューエルカット制御の実行が停止される。この時、内燃機関1に要求される機関負荷Qeが所定負荷Qeth以下となっている。この場合、シリンダブロック21の位置を下げて機械圧縮比εを所定の高圧縮比εhまで上昇させる必要がある。
【0037】
ここで、従来のように、t1の時点から機械圧縮比εを変更させると、その応答遅れ期間Δtdが経過するまでの間は、機械圧縮比εが機関負荷Qeに対応した値からずれた値
となる。そのため、この間においては、出力特性やエミッション特性の悪化が生じる虞がある。
【0038】
そこで、本実施例では、フューエルカット制御の実行中に該制御の実行停止後の機関負荷を予測する。この予測方法としては、カーナビゲーションシステムの情報、前方車両との車間距離及びITS(Intelligent Transport Systems)から取得される情報等に基づ
いて予測する方法を例示することが出来る。
【0039】
そして、t2のタイミングで、フューエルカット制御の実行停止後の機関負荷が所定負荷Qeth以下であることが予測されると、フューエルカット制御の実行中に、シリンダブロック21の位置が下げられ機械圧縮比εが所定の高圧縮比εhに制御される。これにより、t1以前に機械圧縮比εが所定の高圧縮比εhとなる。
【0040】
上記制御によれば、フューエルカット制御の実行停止後、直ちに高圧縮比運転が行われることになる。従って、機械圧縮比を可変とすることによる性能向上の利益を十分に得ることが可能となる。
【0041】
尚、本実施例においては、燃料噴射弁11からの燃料噴射を停止させてフューエルカット制御を実行するECU20が、本発明に係るフューエルカット制御実行手段に相当する。
【0042】
(制御フロー)
次に、本実施例に係る機械圧縮比制御及びフューエルカット制御のフローについて図3に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、ECU20によって実行される。
【0043】
本フローでは、先ずステップS101において、内燃機関1の機関負荷Qeが所定負荷Qethより高いか否かを判別する。ステップS101において、肯定判定された場合、次にステップS102の処理が実行される。この場合、機械圧縮比εは所定の低圧縮比εlとなっている。一方、ステップS101において、否定判定された場合、本フローの実行が一旦終了される。
【0044】
ステップS102においては、アクセル開度Acclが零になったか否か、即ち減速運転要求があった否かが判別される。ステップS102において、肯定判定された場合、次にステップS103の処理が実行され、否定判定された場合、本フローの実行が一旦終了される。
【0045】
ステップS103においては、フューエルカット制御の実行が開始される。これにより、内燃機関1の運転状態が減速運転となる。
【0046】
次に、ステップS104において、フューエルカット制御の実行停止後の機関負荷Qesが予測される。尚、本実施例においては、該ステップS104の処理を実行するECU20が、本発明に係る予測手段に相当する。
【0047】
次に、ステップS105において、ステップS104で予測された機関負荷Qesが所定負荷Qeth以下であるか否かが判別される。ステップS105において、肯定判定された場合、次にステップS106の処理が実行され、否定判定された場合、次にステップS107の処理が実行される。
【0048】
ステップS106においては、可変圧縮比機構15によって機械圧縮比εが所定の低圧
縮比εlから所定の高圧縮比εhに変更される。次に、ステップS107の処理が実行される。
【0049】
ステップS107においては、アクセル開度Acclが零より大きくなったか否か、即ち減速運転終了要求があったか否かが判別される。ステップS107において、肯定判定された場合、次にステップS108の処理が実行され、否定判定された場合、ステップS107の処理が再度実行される。
【0050】
ステップS108においては、フューエルカット制御の実行が停止される。これにより、直ちに高圧縮比運転が行われる。
【0051】
(変形例)
尚、上記においては、内燃機関1の機関負荷に応じて機械圧縮比を二段階(所定の低圧縮比又は所定の高圧縮比)に制御することとしたが、これに代えて、機関負荷が低いほど機械圧縮比が高くなるように制御してもよい。この場合、機関負荷の変化に対して機関圧縮比がリニアに変化するようにしてもよく、また、段階的に変化するようにしてもよい。
【0052】
このような場合においても、フューエルカット制御の実行中に該制御実行停止後の機関負荷を予測することが出来る。そこで、該制御実行停止後の機関負荷が該制御の実行開始前の機関負荷に比べて低くなることが予測された場合、上記と同様、フューエルカット制御実行中に機械圧縮比を予め上昇させておく。このとき、機械圧縮比の目標値をフューエルカット制御実行停止後の機関負荷の予測値に応じた値に設定する。
【0053】
これにより、フューエルカット制御の実行停止後、直ちに所望の機関圧縮比での運転が行われることになる。
【0054】
<実施例2>
本発明の第二の実施例について図4及び5に基づいて説明する。尚、ここでは上記第一の実施例と異なる点についてのみ説明する。
【0055】
(概略構成)
図4は、本実施例に係る内燃機関およびその吸排気系の概略構成を示す図である。本実施例に係る内燃機関1には、吸気弁6のバルブタイミングを変更可能な可変動弁機構18が設けられている。
【0056】
(高膨張比運転)
本実施例においては、内燃機関1の機関負荷が所定負荷以下の場合、機械圧縮比を所定の高圧縮比としつつ有効圧縮比を低下させることにより膨張比を高くする高膨張比運転が行われる。有効圧縮比は、可変動弁機構18によって吸気弁6の閉弁時期を遅角させることで低下させる。
【0057】
ここで、吸気弁6の閉弁時期を遅角させることで有効圧縮比を低下させる際にも応答遅れが生じる。そこで、本実施例においては、内燃機関1の機関負荷が所定負荷より高い時にフューエルカット制御の実行が開始され、該制御の実行停止後の機関負荷が所定負荷以下であることが予測された場合、該制御の実行中に機械圧縮比を上昇させておくと共に有効圧縮比を低下させておく。
【0058】
これによれば、フューエルカット制御の実行停止後、直ちに高膨張比運転を行うことが可能となる。その結果、高膨張比運転を行うことによる性能向上の利益を十分に得ることが出来る。
【0059】
(制御フロー)
次に、本実施例に係る機械圧縮比制御、フューエルカット制御及び吸気弁バルブタイミング制御のフローについて図5に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、ECU20によって実行される。尚、本フローは、図3に示すフローにステップS207を加えたものである。そのため、ステップS207の処理についてのみ説明し、その他のステップの処理についての説明は省略する。
【0060】
本フローでは、ステップS106において、機械圧縮比εが所定の低圧縮比εlから所定の高圧縮比εhに変更された後、次にステップS207の処理が実行される。
【0061】
ステップS207においては、可変動弁機構18によって吸気弁6の閉弁時期が遅角され、これによって有効圧縮比が低められる。このとき、吸気弁6の閉弁時期の目標値は、所定の高圧縮比εhに応じて設定された一定値でもよく、また、フューエルカット制御の実行停止後の機関負荷Qesに応じて設定される値としてもよい。
【0062】
ステップS207の後、ステップS107の処理が行われる。そして、ステップS108においてフューエルカット制御の実行が停止されると、直ちに高膨張比運転が行われる。
【0063】
<実施例3>
本発明の第三の実施例について図6から8に基づいて説明する。尚、ここでは上記第一の実施例と異なる点についてのみ説明する。
【0064】
(概略構成)
本実施例は、ハイブリッドシステムに本発明が適用された場合の実施例である。 図6は、本実施例に係る内燃機関およびその吸排気系、ハイブリッドシステムの概略構成を示す図である。本実施例に係るハイブリッドシステムは、内燃機関1及びモータージェネレータ23を駆動源として備えている。
【0065】
モータージェネレータ23は、内燃機関1の出力軸と動力伝達機構(図示略)を介して連結されている。また、モータージェネレータ23にはバッテリ24が電気的に接続されている。
【0066】
そして、減速運転時にはモータージェネレータ23によってエネルギーの回生が行われ、該回生によって生じた電力がバッテリ24に蓄電される。また、バッテリ24のSOCが所定値以上の場合、該バッテリ24からモータージェネレータ23に電力が供給され、内燃機関1のアシストが行われる。
【0067】
モータージェネレータ23及びバッテリ24はECU20に電気的に接続されている。モータージェネレータ23はECU20によって制御される。また、バッテリ24のSOCがECU20に入力される。
【0068】
(フューエルカット制御実行後の機関負荷の予測方法)
ここで、本実施例に係るフューエルカット制御実行後の機関負荷の予測方法について図7に基づいて説明する。図7は、フューエルカット制御実行時におけるアクセル開度Accel、要求総出力Pall、バッテリ24のSOC、機関負荷Qe、シリンダブロック位置及び機械圧縮比εの推移を示すタイミングチャートである。
【0069】
尚、図7のバッテリ24のSOCにおけるCthは、モータージェネレータ23による
アシストが行われる閾値(所定値)を表している。また、図7の機関負荷Qeにおける実線はモータージェネレータ23によるアシストがある場合を示しており、破線はモータージェネレータ23によるアシストがない場合を示している。また、特に説明しない点は、図2に示すタイムチャートに示すものと同様の内容を示している。
【0070】
本実施例においては、t0のタイミングで内燃機関1の運転状態が減速運転となると、要求総出力Pall(内燃機関1の要求出力とモータージェネレータ23の要求出力との和)がマイナスとなる。つまり、内燃機関1においてフューエルカット制御が実行されると共にモータージェネレータ23による回生が行われる。
【0071】
モータージェネレータ23によって回生が行われるとバッテリ24が充電されるため、減速運転中(即ち、フューエルカット制御の実行中)はバッテリ24のSOCが上昇する。そして、フューエルカット制御の実行中にバッテリ24のSOCが所定値Cthを超えると、該制御の実行停止後にはt1の時点のSOCと所定値Cthとの差分ΔCに相当する電力がモータージェネレータ23に供給され、内燃機関1のアシストが行われる。
【0072】
そのため、図7に示すように、フューエルカット制御の実行開始前の要求総出力と該制御の実行停止後の要求総出力とが同一であっても、該制御実行停止後の機関負荷が該制御の実行開始前の機関負荷よりも低くなる場合がある。
【0073】
そこで、本実施例においては、フューエルカット制御の実行中に該制御停止時における要求総出力とバッテリ24のSOCとを予測する。この予測方法としては、第一の実施例におけるフューエルカット制御の実行停止後の機関負荷の予測方法と同様、カーナビゲーションシステムの情報、前方車両との車間距離及びITSから取得される情報等に基づいて予測する方法を例示することが出来る。そして、これらの値に基づいてフューエルカット制御の実行停止後の機関負荷を予測する。
【0074】
(制御フロー)
次に、本実施例に係る機械圧縮比制御、フューエルカット制御及び吸気弁バルブタイミング制御のフローについて図8に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローは、ECU20に予め記憶されており、ECU20によって実行される。尚、本フローは、図3に示すフローのステップS104をステップS304からS306に置き換えたものである。そのため、ステップS304からS306の処理についてのみ説明し、その他のステップの処理についての説明は省略する。
【0075】
本フローでは、ステップS103において、フューエルカット制御の実行が開始されると、次にステップS304の処理が実行される。ステップS304においては、フューエルカット制御の実行停止時の要求総出力Pallsが予測される。
【0076】
次に、ステップS305において、フューエルカット制御の実行停止時のSOCの値Csが予測される。
【0077】
次に、ステップS306において、ステップS304及びS305において予測された要求総出力Palls及びSOCの値Csに基づいてフューエルカット制御の実行停止後の機関負荷Qesが予測される。尚、本実施例においては、該ステップS304から306の処理を実行するECU20が、本発明に係る予測手段に相当する。
【0078】
本実施例によれば、ハイブリッドシステムに適用された内燃機関においても、第一の実施例と同様の機械圧縮比の制御を行うことが出来る。
【0079】
尚、第二の実施例に係る内燃機関がハイブリッドシステムの駆動源となった場合にも本実施例に係るフューエルカット制御実行後の機関負荷の予測方法を適用することが出来る。
【符号の説明】
【0080】
1・・・内燃機関
2・・・気筒
4・・・吸気ポート
5・・・排気ポート
11・・燃料噴射弁
15・・可変圧縮比機構
16・・クランクポジションセンサ
17・・アクセル開度センサ
18・・可変動弁機構
20・・ECU
21・・シリンダヘッド
22・・シリンダブロック
23・・モータージェネレータ
24・・バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械圧縮比を変更する可変圧縮比機構と、
減速運転時にフューエルカット制御を実行するフューエルカット制御実行手段と、
フューエルカット制御の実行中に該制御の実行停止後の機関負荷を予測する予測手段と、を備え、
前記予測手段によって予測されたフューエルカット制御の実行停止後の機関負荷が該制御の実行開始前の機関負荷よりも低い場合、該制御の実行中に機械圧縮比を上昇させておくことを特徴とする可変圧縮比内燃機関の制御システム。
【請求項2】
機関負荷が所定負荷より高いときは機械圧縮比を所定の低圧縮比に制御し、機関負荷が該所定負荷以下のときは機械圧縮比を所定の高圧縮比に制御するものであって、
機関負荷が前記所定負荷より高いときにフューエルカット制御の実行が開始され且つ前記予測手段によって予測された該制御の実行停止後の機関負荷が前記所定負荷以下の場合、該制御の実行中に機械圧縮比を前記所定の高圧縮比まで上昇させておくことを特徴とする請求項1に記載の可変圧縮比内燃機関の制御システム。
【請求項3】
吸気弁のバルブタイミングを変更する可変動弁機構を更に備え、
フューエルカット制御の実行中に機械圧縮比を上昇させておく際に、吸気弁の閉弁時期を遅角させることで有効圧縮比を低下させておくことを特徴とする請求項1又は2に記載の可変圧縮比内燃機関の制御システム。
【請求項4】
前記可変圧縮比内燃機関がハイブリッドシステムの一の駆動源であって、
該ハイブリッドシステムが、
他の駆動源であり且つ減速運転時に回生を行うモータージェネレータと、
該モータージェネレータによる回生によって生じた電力を蓄電すると共に該モータージェネレータに電力を供給するバッテリと、を更に有し、
減速運転終了後において、前記バッテリの蓄電量が所定値以上の場合、前記バッテリから前記モータージェネレータに電力を供給してモータによるアシストを行うものであって、
前記予測手段が、フューエルカット制御の実行停止時における前記ハイブリッドシステム全体に要求される出力の予測値と前記バッテリの蓄電量の予測値とに基づいて、該制御の実行停止後の機関負荷を予測することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の可変圧縮比内燃機関の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−190095(P2010−190095A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34431(P2009−34431)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】