説明

可変油圧システム

【課題】ボア内に摺動可能に内装された可動部材が背圧室からの油圧の印加態様に応じて変位することにより開弁圧を切り替えるリリーフ弁を備えた可変油圧システムにおいて開弁圧の切り替え動作の信頼性を向上することができる可変油圧システムを提供することを目的とする。
【解決手段】背圧室35における油圧の印加態様の切り替えにより開弁圧の圧力段を切り替えて供給対象への供給圧を変更する可変油圧システムであって、開弁圧を規定するリリーフ弁20は、スリーブ26をその軸方向及び周方向に摺動可能に内装したボア23と、スリーブ26の外周面に凹設されて、背圧室35の昇圧によるスリーブ26の変位によりポンプの吸入側と背圧室35とを連通させるリターン通路26Eを備え、リターン通路26Eがそれに流れるオイルによりスリーブ26をその周方向に回転させるかたちに構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開弁圧を可変とするリリーフ弁を備えた可変油圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に供給されるオイルの圧力を可変とする可変油圧システムとしては、例えば特許文献1のように開弁圧が2段階に制御されるリリーフ弁を備えた可変油圧システムが知られている。こうしたリリーフ弁が搭載された可変油圧システムにおいては、高い供給圧が必要とされない機関運転状態である例えば機関始動時にリリーフ弁の開弁圧が低圧段に設定され、これによりオイルポンプの負荷が低減されて燃費の向上が実現可能となる。近年では、こうした可変油圧システムの1つとして、オイルの流通経路を切り替える切り替え弁を通じてリリーフ弁の開弁圧を低圧段と低圧段よりも高い高圧段との2段階に切り替える可変油圧システムが開発されるに至っている。このような可変油圧システムの一例を以下に説明する。図8は、こうした可変油圧システムの概略構成をリリーフ弁の断面構造とともに示したものである。なお、図8は、機関停止時における状態を示したものである。
【0003】
図8に示されるように、可変油圧システム50においては、オイルの供給対象としての内燃機関の各部位とオイルパン51との間を連結する供給通路52の途中に、オイルを吸引して吐出する機関駆動式のポンプ53と、該ポンプ53の吸入側でオイルに含まれる比較的大きな異物を取り除くオイルストレーナ54とが設けられている。この供給通路52の途中には、ポンプ53の吐出側と吸入側とに接続されるリリーフ通路55が設けられており、そのリリーフ通路55の途中には、ポンプ53から吐出されたオイルの圧力が所定の開弁圧以上になるとオイルの一部をポンプ53の吸入側に逃がすリリーフ弁60が設けられている。
【0004】
リリーフ弁60を構成する弁本体61には、一方向に延びる円形孔であるボア61aが、その一端がリリーフ通路55の吸入側に接続されて、またその他端が閉止部材62により閉口されるかたちに設けられている。ボア61aはリリーフ通路55に接続された入口通路64から閉止部材62に向けてその内径が大きくなる多段状をなしており、その底部をなす閉止部材62は入口通路64に延びる円柱状の閉止部62aがボア61aの周面から離間するかたちをなしている。そしてこれら入口通路64、閉止部材62及びボア61aに囲まれるかたちで収容室63が構成されている。
【0005】
上記ボア61aの長手方向の中央付近には、その長手方向と交差した方向に延びる出口通路65が、その一端が上記収容室63に接続されて、またその他端がリリーフ通路55の吐出側に接続されるかたちに設けられている。このボア61aの内部には、閉止部62aが嵌入される円筒形状をなしたスリーブ66が入口通路64と閉止部材62との間で摺動可能に内装されている。このスリーブ66がボア61a内を摺動する間、閉止部62aはスリーブ66内に嵌入され続けて、スリーブ66と閉止部材62との間にこれらとボア61aとに囲まれるかたちで背圧室71が形成され続ける。
【0006】
こうした構成からなる背圧室71は、背圧通路72とその接続先である切り替え弁73とを介し、ポンプ53の吐出側及びポンプ53の吸入側に接続されている。そして背圧室71の接続先が切り替え弁73によりポンプ53の吐出側に切り替えられると、ポンプ53の吐出側からのオイルが背圧室71に供給されて背圧室71の圧力が昇圧され、スリーブ66の長手方向の一端が収容室63の入口通路64側の端に当接する位置である低圧段制御位置へ変位する。これに対して背圧室71の接続先が切り替え弁73によりポンプ5
3の吸入側に切り替えられると、背圧室71のオイルの一部がポンプ53の吸入側へ排出されて背圧室71の圧力が降圧され、スリーブ66の長手方向の他端が収容室63の閉止部材62側の端に当接する位置である高圧段制御位置へ移動する。
【0007】
上記スリーブ66の内部には、その入口通路64側から閉止部62a側に広がるかたちの多段円形孔である弁体摺動孔68が設けられ、この弁体摺動孔68の内部には、有蓋円筒状の弁体67が弁体摺動孔68の中心軸方向に摺動可能に内装されている。この弁体67と閉止部62aとの間には、弁体67を入口通路64の側へ付勢する付勢ばね70が設けられている。またスリーブ66の周壁における長手方向の中央付近には、前記出口通路65と連通するリリーフ孔69が設けられている。そして入口通路64からのオイルの圧力が弁体摺動孔68を通じて弁体67に作用すると、この弁体67は、弁体摺動孔68内の油圧に基づく力とこれに抗した付勢ばね70の付勢力とに応じてリリーフ孔69を横切る範囲で弁体摺動孔68の軸方向に沿って変位する。
【0008】
こうした構成からなるリリーフ弁60によれば、弁体67がリリーフ孔69を開通するか否か、つまりオイルがリリーフされるか否かが、上記弁体67の位置とリリーフ孔69(スリーブ66)の位置とにより規定されることとなる。言い換えれば、上記弁体67の位置を規定する油圧が開弁圧であるか否かに応じて、オイルがリリーフされるか否かが切り替わり、さらに上記スリーブ66の位置を規定する背圧室71の油圧の印加状態が2段階であることから、上述の開弁圧が2段階に切り替えられることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−4141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した可変油圧システム50においてリリーフ弁60の開弁圧が高圧段から低圧段に切り替わる際には、背圧室71にオイルが流入してこうしたオイルに混入する気泡や異物までもが背圧室71へと運ばれることとなる。その一方で、リリーフ弁60の開弁圧が低圧段から高圧段に切り替わる際には、背圧室71からオイルが排出されるものの、背圧室71における圧力の変動分だけしか背圧室71でオイルが流動し得ない。そのため、上述のような気泡や異物の大半が背圧室71に一旦入り込んだ場合には、オイルの停滞と背圧室71の複雑な構造とが相まってこれらを排出させ難くし、結果としてこうした気泡や異物が背圧室71に蓄積され続けることとなってしまう。
【0011】
こうして蓄積される気泡や異物の一部は、スリーブ66の外周面とボア61aの内周面とのクリアランスにオイルとともに運ばれてスリーブ66の摺動を不安定にさせる要因となるばかりか、さらにはスリーブ66の外周面とボア61aの内周面とを異物によって固着させてしまう虞もある。またこうした異物が入り込まない場合であっても、低圧段制御位置と高圧段制御位置との間をスリーブ66が往復移動する構造となっているために、スリーブ66の往復移動が繰り返されるに連れてスリーブ66の外周面とボア61aの内周面とに偏磨耗が発生し、こうした偏磨耗によってスリーブ66の円滑な往復運動が妨げられる虞がある。なお、このような開弁圧の切り替えに関わる信頼性の低下は、上述した構成に限られた問題ではなく、背圧室への油圧の印加態様に応じて変位する可動部材がボア内に備えられた構成からなる可変油圧システムにおいて、一般に生じ得る問題である。
【0012】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、ボア内に摺動可能に内装された可動部材が背圧室からの油圧の印加態様に応じて変位することにより開弁圧を切り替えるリリーフ弁を備えた可変油圧システムにおいて開弁圧の切り替え動作の信頼性を
向上することができる可変油圧システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、背圧室から印加される油圧に応じた軸方向の変位により開弁圧を変更させる円柱状の可動部材を有してポンプの吐出側に設けられたリリーフ弁と、前記背圧室における油圧の印加態様を切り替える切り替え弁とを備え、前記印加態様の切り替えにより前記開弁圧の圧力段を切り替えて供給対象への供給圧を変更する可変油圧システムであって、前記リリーフ弁は、前記可動部材をその軸方向及び周方向に摺動可能に内装するボアと、前記可動部材の外周面及び前記ボアの内周面のいずれか一方に凹設されて、前記背圧室の昇圧による前記可動部材の変位により前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通させるリターン通路とを備え、前記リターン通路は、該リターン通路におけるオイルの流動が前記可動部材を周方向に回転させるかたちに構成されたことを要旨とする。
【0014】
背圧室における油圧の印加態様が切り替えられることによりリリーフ弁の開弁圧が切り替えられる可変油圧システムにおいては、背圧室にオイルが流入して背圧室が昇圧される際にこうしたオイルに混入する気泡や異物までもが背圧室へと運ばれることとなる。その一方で、背圧室からオイルが排出されて背圧室が降圧される際には、背圧室における圧力変動分だけしか背圧室でオイルが流動し得ないために、上述のようにして背圧室へ運ばれた気泡や異物の多くがこの背圧室に蓄積され続けることとなってしまう。こうして蓄積される気泡や異物の一部は、上述したように背圧室における油圧を受ける可動部材とそれを囲うボアとの間のクリアランスに侵入して可動部材の摺動そのものを不安定にさせるばかりか、可動部材の外周面とボアの内周面とを異物によって固着させてしまう虞もある。これに加え、たとえ上述した異物がクリアランスに入り込まない場合であっても、開弁圧が切り替えられるたびに可動部材が軸方向へ摺動する構成となっているために、可動部材の外周面とボアの内周面とに偏磨耗が発生し、こうした偏磨耗によって可動部材の円滑な軸方向への摺動が妨げられる虞もある。
【0015】
この点、請求項1に記載の発明によれば、背圧室が昇圧されるときにリターン通路が開通していることから、背圧室へ運ばれた気泡や異物は、その背圧室を流通し続けるオイルとともに背圧室からポンプの吸入側へ排出されることとなる。そのうえリターン通路にオイルが流れる際には、それに流れるオイルにより可動部材そのものが周方向へ回転することとなり、可動部材の外周面又はボアの内周面に対してその周方向にリターン通路が回転することとなる。それゆえ、たとえ可動部材とボアとの間のクリアランスに気泡や異物が侵入したとしても、こうした気泡や異物は回転するリターン通路に順次捕らわれるかたちとなり、これによりポンプの吸入側へ排出されることとなる。しかも可動部材の外周面がボアの内周面に対して回転することから、上述した偏摩耗も軽減されることとなる。
【0016】
また上述の構成によれば背圧室の昇圧を受けてリターン通路が開通するといった構成であるため、開弁圧の切り替えに必要とされる背圧室の昇圧が上記リターン通路の開通に先駆けて開始されることとなり、その結果、背圧室が昇圧され始めた状態からリターン通路が開通することとなる。それゆえ背圧室の昇圧直前などに背圧室とリターン通路とが連通したのでは背圧室へ供給されるオイルがリターン通路から流出し易くなってしまい、背圧室が昇圧され難くなるといった状態までもが回避されることとなり、背圧室における油圧の印加態様の切り替えが円滑に実行されることとなる。よって上述した構成によれば、開弁圧の切り替え動作の信頼性が向上されることとなる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記リターン通路の流路方向が前記軸方向と交差する方向であることを要旨とする。
請求項2に記載の発明によれば、リターン通路におけるオイルが流れる方向である流路
方向が軸方向と交差するため、こうしたリターン通路にオイルが流れる際には、粘性流体であるオイルが及ぼす粘性応力が流路方向、つまり軸方向と交差する方向に安定して作用することとなる。それゆえ、こうしたリターン通路にオイルが流れる場合には、可動部材に対してその周方向への回転力が高い再現性の下で与えられることとなる。その結果、リリーフ弁内に侵入する気泡や異物の排出効果や上述した偏摩耗の軽減効果がより確実に発現されることとなる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記可動部材の周壁に出口を有して前記ポンプの吐出側からのオイルを前記ポンプの吸入側へリリーフするリリーフ孔と、前記ポンプの吸入側と前記リリーフ孔の出口とを前記ボアの内面の全周にわたる開口を介して連通する出口通路とを備えたことを要旨とする。
【0019】
上述したようにリターン通路にオイルが流れる場合、可動部材の回転にともなって、リリーフ通路を構成するリリーフ孔も周方向に回転することとなる。このようにして回転するリリーフ孔の出口が可動部材の周面あるいはボアの内面により一時的に閉ざされる期間があっては、その期間においてポンプの吐出側における過剰なオイルがリリーフされ難くなり、リリーフ弁そのもののリリーフ機能が損なわれてしまう。この点、請求項3に記載の発明によれば、ポンプの吸入側に連通する出口通路がボアの内面に周方向の全体にわたる開口を有していることから、たとえ可動部材が周方向に回転したとしても、常にリリーフ孔の出口と出口通路とが連通することとなり、リリーフ弁のリリーフ機能が常に保たれることとなる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記可動部材の外周面の全周にわたる凹部に出口を有して前記ポンプの吐出側からのオイルを前記ポンプの吸入側へリリーフするリリーフ孔と、前記可動部材の凹部に連通する開口を前記ボアの内面に有して前記ポンプの吸入側と連通する出口通路とを備えたことを要旨とする。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、可動部材の外周面の全周にわたる凹部にリリーフ孔の出口が設けられていることから、たとえ可動部材が回転したとしても、この凹部を通じてリリーフ孔と出口通路とが常に連通することとなり、リリーフ弁のリリーフ機能が常に保たれることとなる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、前記可動部材が、前記ボア内に内装されて前記開弁圧の圧力段に応じて規定された第1の位置と第2の位置との間で変位するスリーブであり、前記背圧室は、前記スリーブにおける摺動方向の一端部により前記ボア内に画成されて、前記スリーブが前記第1の位置から前記第2の位置へ変位することによりその容積が拡大して、前記第2の位置から前記第1の位置へ変位することによりその容積が縮小するかたちに構成されており、前記リターン通路は、前記スリーブが前記第2の位置であることにより前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通することを要旨とする。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、スリーブが第2の位置に配置されるときに、開弁圧の圧力段の切り替えが完了し、かつリターン通路が開通することとなる。こうした可変油圧システムにおいて可動部材が第2の位置へと移動するとき、その可動部材は背圧室における油圧を受けて移動するため、仮に背圧室とポンプの吸入側とが常に連通したのでは、リリーフ弁の開弁圧が切り替わるべく背圧室にオイルが供給されたとしても背圧室内のオイルの一部が常にポンプの吸入側へ流出してしまうため、背圧室における油圧が昇圧され難くなってしまう。この点、請求項5に記載の発明によれば、可動部材が第2の位置に配置された場合に背圧室とポンプの吸入側とが連通する態様でリターン通路が構成されているため、背圧室における油圧がすばやく昇圧されることとなり、開弁圧の切り替えに対する可動部材の応答性が損なわれることもない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる可変油圧システムの概略構成をリリーフ弁の断面を中心に示した概略構成図。
【図2】スリーブの側面構造を示す側面図。
【図3】オイルがリターン通路を流れる際のスリーブの動作を説明するための説明図。
【図4】リリーフ弁の開弁圧が低圧段に選択されている場合における図であって、(a)閉弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心にオイルの流れを示した図、(b)開弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心にオイルの流れを示した図。
【図5】リリーフ弁の開弁圧が高圧段に選択されている場合における図であって、(a)閉弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心にオイルの流れを示した図、(b)開弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心にオイルの流れを示した図。
【図6】リターン通路をボアの内面に設けた場合の一例を示す弁本体の断面図。
【図7】(a)(b)(c)変更例におけるリターン通路の形状を示すスリーブの側面図。
【図8】従来の可変油圧システムの概略構成をリリーフ弁の断面を中心に示した概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本実施形態にかかる可変油圧システムを具体化した一実施形態について図1〜図5を参照して説明する。図1は、可変油圧システムの概略構成をリリーフ弁の断面を中心に示した概略構成図であり、オイルの供給対象である機関が始動前の状態を示している。
【0026】
図1に示されるように、可変油圧システム10には、オイルパン11に貯留されているオイルを内燃機関の各部位に対して供給する供給通路12が設けられている。供給通路12の途中には、オイルを吸引して吐出する機関駆動式のポンプ13が設けられており、また供給通路12の吸入側の端部には、オイルに含まれる比較的大きな不純物を取り除くオイルストレーナ14が設けられている。そして内燃機関の機関運転にともなってポンプ13が駆動されると、オイルパン11に貯留されたオイルがこのポンプ13により吸い上げられて、供給通路12から内燃機関の各部位、例えばオイルの圧力により駆動される油圧駆動式の各種装置にオイルが供給され、さらには機関出力を取り出すためのピストンに対してそのオイルが噴射されて同ピストンを冷却するピストンジェット機構及び機関の被潤滑部等にオイルが供給されることとなる。この供給通路12の途中には、ポンプ13の吐出側と吸入側とに接続されたリリーフ通路15が設けられており、同リリーフ通路15の途中には、ポンプ13から吐出されたオイルの圧力が所定の開弁圧以上になるとそのオイルの一部を逃がすリリーフ弁20が設けられている。
【0027】
リリーフ弁20を構成する弁本体21の一端部(図1における下端部21B)には、同弁本体21の下側面に開口を有した円形孔であるボア23が設けられている。このボア23の開口は固定部材22によって閉口されており、これによりボア23の内部空間に相当する収容室が弁本体21内に画成されている。この収容室を構成する固定部材22には、ボア23の径よりも小さい径からなりボア23の内部へ突出する略円柱状の弁体支持部22Aがボア23と同一軸線上に設けられている。そしてこの弁体支持部22Aの外周面とボア23の内面との間には、これらの間の距離が略等しくなるかたちに、ボア23の内面の全周にわたる間隙が形成されている。また弁体支持部22Aの外周面の一部には、その径方向に突出するストッパ22Bが設けられている。以下、上述したボア23の中心軸Cに沿った方向を軸方向という。
【0028】
弁本体21の他端部(図1における上端部21A)には、上述したボア23の径よりも
小さい径からなる入口通路24がボア23と同一軸線上に設けられている。ポンプ13の吐出側に接続されたリリーフ通路15と上述した収容室とは、この入口通路24を介して連通している。またボア23における軸方向の中央位置付近には、軸方向に幅広な出口通路25がボア23の内面の全周にわたり開口するかたちに設けられている。ポンプ13の吸入側に接続されたリリーフ通路15と上述した収容室とは、この出口通路25を介して連通している。
【0029】
このように構成されたボア23の内部には、軸方向に沿って延びる円筒状の可動部材であるスリーブ26が軸方向及び周方向に沿って摺動可能に同一軸線上に内装されている。このスリーブ26の軸方向の長さは、収容室の同じく軸方向の長さよりも短く形成されており、またスリーブ26における下端部は、上述した弁体支持部22Aの外周面とボア23の内面との間の間隙に嵌装されている。つまり弁体支持部22Aの外周面とボア23の内面との間の隙間は、上記スリーブ26の下端面である背圧面26Cによってその軸方向の領域が区画されている。そして、これら弁体支持部22Aの外周面、ボア23の内面、及びスリーブ26の背圧面26Cに囲まれるかたちの背圧室35が、軸方向への拡縮が可能な態様でボア23の全周にわたる上記の隙間に画成されている。
【0030】
中心軸Cを挟んで前記ストッパ22Bと対向する位置には、ボア23の内面に開口して上記背圧室35に連通する導出入孔36が弁本体21に内設されている。この導出入孔36には、一端が切り替え弁40に接続された導出入通路41の他端が接続されている。切り替え弁40には、上記導出入通路41の他、ポンプ13の吐出側における供給通路12に接続された導入通路42と、ポンプ13の吸入側に接続された排出通路43とがそれぞれ接続されている。そして切り替え弁40が切り替え動作を実行することによって、導出入通路41(背圧室35)の接続先が導入通路42と排出通路43とに切り替えられることとなる。こうした切り替え弁40の切り替え動作は、切り替え弁40に電気的に接続された電子制御装置45によって内燃機関の機関運転状態に応じて実行される。切り替え弁40は例えば三方電磁弁であって、この切り替え弁40に対して通電がなされると、導出入通路41を通じて背圧室35に連通する通路が導入通路42に選択され、背圧室35における油圧が昇圧することとなる。また切り替え弁40に対する通電が遮断されると、導出入通路41を通じて背圧室35に連通する通路が排出通路43に選択され、背圧室35における油圧が降圧することとなる。本実施形態における可変油圧システム10においては、このようにして背圧室35への油圧の印加態様が切り替えられる。
【0031】
上述したスリーブ26の内部には、同スリーブ26の軸方向を貫通する多段の円形孔が、スリーブ26の上端部26Aが厚肉となるかたちに設けられており、スリーブ26の上端部26Aには、入口通路24の径よりも小さな孔径を有する入口連通孔28が設けられている。こうした構成からなるスリーブ26は、入口通路24の径と入口連通孔28の径との差に応じた油圧を入口通路24からその上端部26Aに受けることとなり、またこの油圧と相対向するかたちに、背圧室35における油圧を背圧面26Cに受けることとなり、これら上端部26Aに作用する力と背圧面26Cに作用する力との差に応じてスリーブ26そのものが軸方向に沿って摺動することとなる。
【0032】
詳述すると、切り替え弁40の切り替え動作により背圧室35と導入通路42とが連通する場合には、背圧室35における油圧が昇圧されて、スリーブ26そのものが軸方向に沿って押し上げられることとなる。このようなスリーブ26そのものの上動は、背圧室35における油圧の昇圧が収まること、またはスリーブ26そのものが機械的に係止されることにより規制される。ちなみに、上述した構成からなるリリーフ弁20においては、スリーブ26の上端部26Aが入口通路24に係止されるかたちでスリーブ26の上動が規制されることとなる。以下、スリーブ26の上端部26Aと入口通路24とが当接するスリーブ26の位置を、第2の位置としての低圧段制御位置という。
【0033】
これに対して、切り替え弁40の切り替え動作により背圧室35と排出通路43とが連通する場合には、背圧室35における油圧が降圧されて、スリーブそのものが軸方向に沿って押し下げられることとなる。このようなスリーブ26そのものの下動は、背圧室35における油圧の降圧が収まること、またはスリーブ26そのものが機械的に係止されることにより規制される。ちなみに、上述した構成からなるリリーフ弁20においては、スリーブ26の背圧面26Cが固定部材22のストッパ22Bに係止されるかたちでスリーブ26の下動が規制されることとなる。そしてスリーブ26の下動が規制された状態にあっては、ストッパ22Bの周方向に画成された背圧室35が導出入孔36のみと連通することとなる。その結果、背圧室35におけるオイルが同背圧室35の縮小分だけ導出入孔36を通してポンプ13の吸入側に流れることとなる。以下、背圧面26Cとストッパ22Bとが当接するスリーブ26の位置を、第1の位置としての高圧段制御位置という。
【0034】
スリーブ26の周壁において出口通路25と対向する部分には、出口通路25における軸方向の幅よりも小さい径を有するリリーフ孔29がスリーブ26の周壁を貫通するかたちに設けられている。このリリーフ孔29はスリーブ26の変位とともに軸方向に変位するオイルの通路であり、スリーブ26の全ての移動範囲において出口通路25と連通する位置に設けられている。そしてスリーブ26が低圧段制御位置に配置されるときには、このリリーフ孔29がその移動範囲において弁体支持部22Aから最も遠ざかることとなり、またスリーブ26が高圧段制御位置に配置されるときには、このリリーフ孔29がその移動範囲において弁体支持部22Aに最も近づくこととなる。さらに、図2に示されるように、上記リリーフ孔29は、スリーブ26の外周面の全周にわたって設けられた凹部26Dの底面に開口するかたちで設けられている。この凹部26Dは、スリーブ26が低圧段制御位置に配置されているときに、弁本体21の出口通路25と相対向するかたちで設けられている。
【0035】
またスリーブ26の外周面であって、上記凹部26Dの下側である下端部26Bには、スリーブ26が低圧段制御位置に配置されているときに背圧室35と出口通路25とが連通するかたちで、軸方向に延びる螺旋状のリターン通路26Eが凹設されている。このリターン通路26Eにおける出口通路25側の開口は、スリーブ26が高圧段制御位置から低圧段制御位置まで移動する過程において、スリーブ26が低圧段制御位置に配置される状態で出口通路25と連通する位置に設けられ、スリーブ26が低圧段制御位置に配置される状態ではその開口が全開するかたちに設けられている。またこのリターン通路26Eにおける背圧室35側の開口は、スリーブ26の背圧面26Cに設けられており、こうした構成によりリターン通路26Eと背圧室35との連通が常に維持されている。なお、このリターン通路26Eは、出口通路25におけるその開口面積が背圧室35における導出入孔36の開口面積よりも小さくなるかたちに形成されている。
【0036】
そしてスリーブ26が低圧段制御位置に配置された状態にあっては、導出入孔36、背圧室35、及び出口通路25がリターン通路26Eを介して連通することとなる。その結果、背圧室35においては、オイルの一部がこのリターン通路26Eを通じて出口通路25に流出するとともに、導入通路42、導出入通路41、導出入孔36を通じてその流出した分のオイルが順次供給されることとなる。これにより、切り替え弁40からのオイルが背圧室35を通じて出口通路25へと流通することとなり、背圧室35及び導出入通路41に入り込んでしまった気泡や異物が出口通路25へと排出されることとなる。それゆえ、背圧室35に運び込まれた気泡や異物は、こうしたオイルの流動によって背圧室35に停滞し難くなる。
【0037】
そのうえ、このリターン通路26Eにおいては、その出口通路25における開口面積が背圧室35における導出入孔36の開口面積よりも小さくなるかたちに設けられているこ
とから、そのリターン通路26Eの開口部分が出口通路25に対する大きな流路抵抗として作用することとなり、背圧室35からのオイルの流出量が制限されて背圧室35における油圧が概ね維持されることにもなる。つまり低圧段制御位置に配置されたスリーブ26に対しては軸方向の上方への力が背圧室35から作用し続けることとなり、リターン通路26Eが開通した状態であれ、その位置が低圧段制御位置に保持されることとなる。
【0038】
なお、背圧室35と出口通路25とを連通させるリターン通路26Eは、高圧段制御位置から低圧段制御位置へとスリーブ26が移動する過程において、同スリーブ26が低圧段制御位置に配置されるときに出口通路25と連通するかたちで設けられている。ここで、背圧室35と出口通路25とが常に連通するかたちで仮にリターン通路26Eが設けられた場合には、背圧室35に供給されたオイルが随時出口通路25に流出してしまうために、背圧室35における油圧が昇圧され難くなってしまう。その結果、切り替え弁40の切り替えに対するスリーブ26の応答性が低下してしまい、スリーブ26が低圧段制御位置へすばやく移動し難くなる虞がある。この点、本実施形態においては、スリーブ26が低圧段制御位置に配置される直前までは背圧室35から出口通路25にオイルが流出しないため、背圧室35に供給されるオイルによって背圧室35の圧力がすばやく昇圧されることとなる。これにより、リリーフ弁20の開弁圧が高圧段から低圧段に切り替わる際におけるスリーブ26の応答性が向上されることとなり、スリーブ26をすばやく、かつ確実に低圧段制御位置へと導くことができる。
【0039】
そしてスリーブ26が高圧段制御位置に配置された状態にあっては、リターン通路26Eにおける出口通路25側の開口がボア23の内面によって閉鎖されることとなる。その結果、背圧室35と出口通路25との間が非連通となり、ストッパ22Bの周方向に画成された背圧室35が導出入孔36のみと連通することとなる。その結果、背圧室35におけるオイルが同背圧室35の縮小分だけ導出入孔36を通してポンプ13の吸入側に流れることとなる。
【0040】
ここで、上述したように低圧段制御位置と高圧段制御位置との間をスリーブ26が往復移動する過程においては、こうした往復運動が繰り返されることにより、スリーブ26と弁本体21との間に偏磨耗が生じる虞がある。こうした偏磨耗が生じると、スリーブ26が往復運動する際にその磨耗した部分がスリーブ26の移動を妨げることになってしまい、スリーブ26の円滑な往復運動が実現され難くなる。
【0041】
この点、本実施形態においては、図4に示されるように、スリーブ26の外周面に凹設されたリターン通路26Eが軸方向に延びる螺旋状をなしており、リターン通路26Eにおいてオイルが流れる方向である流路方向が、スリーブ26における外周面の接線方向のベクトル成分を含むこととなる。こうしたリターン通路26Eにオイルが流れる場合にあっては、オイルの流れの中におかれた物体であるリターン通路26E(スリーブ26)の各側面に関して、粘性流体であるオイルが及ぼす粘性応力が上記流路方向に作用することとなる。それゆえ、こうしたリターン通路26Eにオイルが流れる場合には、スリーブ26に対してその周方向への回転力が与えられることとなる。そして上述した構成においてはスリーブ26がその周方向へ摺動可能に内装されていることから、リリーフ弁20の開弁圧が低圧段であるときには、スリーブ26がその周方向へ回転することになる。さらに開弁圧が低圧段から高圧段へ切り替わる場合にあっても、スリーブ26がその回転運動の慣性によって回転しながら軸方向の下方へ摺動することになる。
【0042】
ゆえに低圧段制御位置と高圧段制御位置との間をスリーブ26が往復移動する過程においては、こうしたスリーブ26の回転によりスリーブ26の外周面とボア23の内面とが相対的に回転することとなり、スリーブ26と弁本体21との間における偏磨耗が抑えられることとなる。これのみならず、たとえスリーブ26の外周面とボア23の内周面との
間のクリアランスに気泡や異物が侵入したとしても、こうした気泡や異物は、ボア23の内面に沿って回転するリターン通路26Eに順次捕らわれるかたちとなり、これによりポンプ13の吸入側へ排出されることとなり、クリアランス中においても気泡や異物が停滞し難くなる。
【0043】
なお、こうしたスリーブ26の回転によって出口通路25とリリーフ孔29とが一時的に非連通となってしまう期間があっては、その期間においてリリーフ通路15が閉鎖されてしまうこととなり、リリーフ弁20の機能そのものが失われてしまうことになる。また開弁圧が低圧段に切り替えられた状態において出口通路25とリターン通路26Eとが一時的に非連通となってしまう期間があっては、その期間においてリターン通路26Eをオイルが流通しなくなり、背圧室35に送り込まれた気泡や異物の排出効率が低下してしまい、またスリーブ26と弁本体21との間における偏磨耗の抑制効果までも低下してしまうこととなる。
【0044】
この点、本実施形態においては、ボア23の内面の全周にわたり出口通路25が開口するかたちで弁本体21が構成されており、さらにスリーブ26の外周面に凹設された凹部26Dにリリーフ孔29が開口するかたちでスリーブ26が構成されている。こうすることにより、たとえスリーブ26が回転する状態にあっても、出口通路25とリリーフ孔29とが常にその連通を維持することが可能となり、リリーフ孔29から流出するオイルの流路が常に確保されることとなる。同様に、開弁圧が低圧段に切り替えられた状態であれば、出口通路25とリターン通路26Eとが常にその連通を維持することが可能となり、背圧室35と出口通路25との間にオイルの流路が確保されることとなる。その結果、リリーフ弁20のリリーフ機能が安定して発現されることとなり、また気泡や異物の排出効率や偏磨耗の抑制効果が確実に発現されることとなる。
【0045】
こうした構成からなるスリーブ26の内部には、有蓋円筒状をなしてその外周面により上記リリーフ孔29を閉鎖可能にする弁体27がスリーブ26に対して相対的に軸方向及び周方向に沿って摺動可能に内装されている。この弁体27は、同じくスリーブ26の内部に内装された付勢ばね30を介して弁体支持部22Aに連結されており、この付勢ばね30の付勢力によって上側へ付勢されている。こうした構成からなる弁体27は、入口連通孔28における油圧に基づいて同弁体27を押し下げる力を受け、また付勢ばね30の縮み量に応じた付勢力に基づいて同弁体27を押し上げる力を受けることとなる。つまり油圧に基づく力が大きくなるほど弁体27は弁体支持部22Aに近づくこととなり、油圧に基づく力が小さくなるほど弁体27は弁体支持部22Aから遠ざかることとなる。
【0046】
こうした構成からなる可変油圧システム10においては、弁体27がリリーフ孔29を開通するか否か、つまりオイルがリリーフされるか否かが、弁体27とリリーフ孔29との相対位置により規定されることとなる。つまり弁体27の位置を規定する油圧が開弁圧であるか否かに応じて、オイルがリリーフされるか否かが切り替わり、さらにリリーフ孔29の位置を規定する背圧室35の油圧の印加状態が2段階であることから、上述の開弁圧が2段階に切り替えられることとなる。
【0047】
詳述すると、スリーブ26が低圧段制御位置に配置される場合には、ポンプ13の吐出側における油圧が低圧段の開弁圧に到達するまで、弁体27がリリーフ孔29を閉鎖し続けることとなる。そしてポンプ13の吐出側における油圧が低圧段の開弁圧に到達すると、付勢ばね30の縮み量が相対的に小さい状況で弁体27がリリーフ孔29を開通することとなる。一方、スリーブ26が高圧段制御位置に配置される場合には、ポンプ13の吐出側における油圧が高圧段の開弁圧に到達するまで、弁体27がリリーフ孔29を閉鎖し続けることとなる。つまりポンプ13の吐出側における油圧がたとえ低圧段の開弁圧になったとしても、付勢ばね30の縮み量が小さいために、弁体27がリリーフ孔29を閉鎖
し続けることとなる。そしてポンプ13の吐出側における油圧が高圧段の開弁圧に到達すると、付勢ばね30の縮み量が相対的に大きい状況で弁体27がリリーフ孔29を開通することとなる。
【0048】
次に、可変油圧システム10におけるリリーフ弁20の作動態様について説明する。
まず、リリーフ弁20の開弁圧が低圧段に選択されている場合について図4を参照して説明する。図4(a)に、閉弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心にした可変油圧システム10の概略構成を示す。図4(b)に、開弁状態にあるリリーフ弁20の断面構造を中心にした可変油圧システム10の概略構成を示す。
【0049】
図4(a)に示されるように、機関運転状態に基づいて電子制御装置45によって切り替え弁40に対して通電がなされると、導出入通路41と導入通路42とが連通し、ポンプ13から吐出されたオイルの一部が、導入通路42、導出入通路41、及び導出入孔36を通じて背圧室35に供給される。背圧室35にオイルが供給されると背圧室35における油圧は入口通路24における油圧と略等しい圧力まで昇圧されて、スリーブ26の背圧面26Cには、背圧室35における油圧に相当する力が作用する。この際、スリーブ26においてはその上端部26Aよりも下端部26Bの方が大きな外径を有していることから、スリーブ26の上端部26Aにおける受圧面積よりも下端部26Bの受圧面積である背圧面26Cの面積の方が大きく、これにより、スリーブ26の上端部26Aに作用する同スリーブ26を軸方向下方へ押し下げる力よりもスリーブ26を軸方向上方に押し上げる力が大きくなり、スリーブ26を軸方向上方に押し上げる合力F1が同スリーブ26に作用することとなる。こうした合力F1をスリーブ26が受けることにより、スリーブ26は軸方向上方に移動して低圧段制御位置に変位する。
【0050】
この際、上述したように、スリーブ26が低圧段制御位置に配置されるときにリターン通路26Eが開通して、切り替え弁40からのオイルが背圧室35を通じて出口通路25へと流通することとなり、背圧室35及び導出入通路41に入り込んでしまった気泡や異物が出口通路25へと排出されることとなる。またリターン通路26Eの開口部分が出口通路25に対する大きな流路抵抗として作用することとなり、リターン通路26Eが開通した状態であれ、その位置が低圧段制御位置に保持されることとなる。そのうえ、こうしたリターン通路26Eにオイルが流れることにより、スリーブ26がその周方向へ回転することになり、偏磨耗の抑制効果が発現されることとなる。
【0051】
このような状態では、機関回転速度の上昇にともなってポンプ13の吐出側における油圧が昇圧されると、弁体27を軸方向の下方へと押し下げる力が大きくなり、その結果、弁体27が軸方向の下方へ変位することとなる。そして図4(b)に示されるように、ポンプ13の吐出側の油圧が低圧段の開弁圧になると、弁体27は、入口通路24、入口連通孔28、リリーフ孔29、及び出口通路25を連通する位置に変位する。これにより、ポンプ13の下流側における過剰なオイルがリリーフ通路15を通じてポンプ13の上流側にリリーフされ、ポンプ13の吐出側の油圧が低圧段に保持されることとなる。こうした状態にあっては、リリーフ孔29の位置がその移動範囲の中で相対的に軸方向の上側にあることから、付勢ばね30の縮み量が相対的に小さい状況でオイルがリリーフされることとなり、その結果、ポンプ13の吐出側の油圧が低圧段に制御されることとなる。
【0052】
なお、上述したように、本実施形態のリリーフ弁20においては、こうした弁体27とスリーブ26とが相対的にその周方向に摺動可能に構成されているため、スリーブ26が低圧段制御位置に配置される期間では弁体27を囲うスリーブ26がその周方向への回転を継続しているものの、弁体27の変位に伴うリリーフ孔29の開閉がこうしたスリーブ26の回転に拘わらず円滑に実施されることとなる。
【0053】
次に、リリーフ弁20の開弁圧が高圧段に選択されている場合について図5を参照して説明する。図5(a)に、閉弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心に可変油圧システム10の概略構成を示す。図5(b)に、開弁状態にあるリリーフ弁20の断面構造を中心に可変油圧システム10の概略構成を示す。
【0054】
機関運転状態に基づきリリーフ弁20の開弁圧が低圧段から高圧段に切り替わる際には、まず電子制御装置45によって切り替え弁40に対する通電が遮断される。切り替え弁40に対する通電が遮断されると、図5(a)に示されるように、導出入通路41と導入通路42とが非連通となり背圧室35へのオイルの供給が禁止されるとともに、導出入通路41と排出通路43とが連通することとなる。これにより背圧室35における油圧が降圧されてスリーブ26を押し上げる力よりもスリーブ26を押し下げる力の方が大きくなり、スリーブ26には軸方向の下方に押し下げる合力F2がスリーブ26に作用することとなる。こうした合力F2をスリーブ26が受けることにより、スリーブ26は低圧段制御位置から軸方向の下方へ変位して、こうしたスリーブ26の変位によってリターン通路26Eを通じた背圧室35と出口通路25との連通が遮断されることとなる。またスリーブ26の変位によってリリーフ孔29が弁体27よりも軸方向の下方に移動してリリーフ通路15が遮断されるとともに、こうしたスリーブ26と弁体27との相対的な変位を経て、スリーブ26の上端部26Aに弁体27が当接することとなる。
【0055】
そしてこうしたリリーフ通路15の遮断によってポンプ13の吐出側における油圧が昇圧されると、付勢ばね30の付勢力に抗して弁体27が軸方向の下方にさらに変位することとなり、これに追従するかたちでスリーブ26も軸方向の下方へとさらに変位して、やがて高圧段制御位置に配置されることとなる。こうした低圧段制御位置から高圧段制御位置への変位によって背圧室35の容積が縮小されると、背圧室35及び導出入通路41に内在していたオイルがその縮小された容積の分だけ排出通路43を通じてリリーフ通路15へと排出されることとなる。またスリーブ26が低圧段制御位置から高圧段制御位置へ変位する期間においても、スリーブ26がその回転運動の慣性によって回転しながら軸方向の下方へ摺動することになり、偏磨耗の抑制効果が発現されることとなる。
【0056】
このような状態では、機関回転速度の上昇にともなってポンプ13の吐出側における油圧が昇圧されると、弁体27を軸方向の下方へと押し下げる力が大きくなり、その結果、弁体27が軸方向の下方へ変位することとなる。そして図5(b)に示されるように、ポンプ13の吐出側における油圧が高圧段の開弁圧になると、弁体27は、入口通路24、入口連通孔28、リリーフ孔29、及び出口通路25を連通する位置に変位する。こうした状態にあっては、リリーフ孔29の位置がその移動範囲の中で相対的に軸方向の下側にあることから、付勢ばね30の縮み量が相対的に大きい状況でオイルがリリーフされることとなり、その結果、ポンプ13の吐出側の油圧が高圧段に制御されることとなる。
【0057】
ちなみに、高圧段から低圧段への開弁圧の切り替えは、内燃機関の機関運転状態が低圧段制御に適した運転状態に移行してから実行される。つまり機関回転速度が低下してポンプ13の吐出側における油圧が低圧段の開弁圧以下になり、弁体27が軸方向の上方へ変位してリリーフ通路15が遮断されてから、低圧段への切り替えが実行されるようになっている。
【0058】
以上説明したように、本実施形態における可変油圧システムによれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態によれば、背圧室35が昇圧されるときにリターン通路26Eが開通していることから、背圧室35へ運ばれた気泡や異物は、その背圧室35を流通し続けるオイルとともに背圧室35からポンプ13の吸入側へ排出されることとなる。そのうえリターン通路26Eにオイルが流れる際には、それに流れるオイルによりスリーブ26そ
のものが周方向へ回転することとなり、ボア23の内面に対してその周方向にリターン通路26Eが回転することとなる。それゆえ、たとえスリーブ26とボア23との間のクリアランスに気泡や異物が侵入したとしても、こうした気泡や異物は回転するリターン通路26Eに順次捕らわれるかたちとなり、これによりポンプ13の吸入側へ排出されることとなる。しかもスリーブ26の外周面がボア23の内面に対して回転することから、スリーブ26やボア23に関わる偏摩耗も軽減されることとなる。
【0059】
(2)上記実施形態によれば、背圧室35の昇圧を受けてリターン通路26Eが開通するといった構成であるため、開弁圧の切り替えに必要とされる背圧室35の昇圧がリターン通路26Eの開通に先駆けて開始されることとなり、その結果、背圧室35が昇圧され始めた状態からリターン通路26Eが開通することとなる。それゆえ背圧室35の昇圧直前などに背圧室35とリターン通路26Eとが連通したのでは背圧室35へ供給されるオイルがリターン通路26Eから流出し易くなってしまい、背圧室35が昇圧され難くなるといった状態までもが回避されることとなり、背圧室35における油圧の印加態様の切り替えが円滑に実行されることとなる。よって上述した構成によれば、開弁圧の切り替え動作の信頼性が向上されることとなる。
【0060】
(3)上記実施形態によれば、リターン通路26Eが軸方向に延びる螺旋状に形成されており、リターン通路26Eにおけるオイルが流れる方向である流路方向が軸方向と交差する構成であるため、こうしたリターン通路26Eにオイルが流れる際には、粘性流体であるオイルが及ぼす粘性応力が流路方向、つまり軸方向と交差する方向に安定して作用することとなる。それゆえ、リターン通路26Eにオイルが流れる場合には、スリーブ26に対してその周方向への回転力が高い再現性の下で与えられることとなる。その結果、リリーフ弁20内に侵入する気泡や異物の排出効果や上述した偏摩耗の軽減効果がより確実に発現されることとなる。
【0061】
(4)上記実施形態によれば、ポンプ13の吸入側に連通する出口通路25がボア23の内面に周方向の全体にわたる開口を有していることから、たとえスリーブ26が周方向に回転したとしても、常にリリーフ孔29の出口と出口通路25とが連通することとなり、リリーフ弁20のリリーフ機能が常に保たれることとなる。しかもスリーブ26の外周面の全周にわたる凹部26Dにリリーフ孔29の出口が設けられていることから、たとえスリーブ26が回転したとしても、この凹部26Dを通じてリリーフ孔29と出口通路25とが常に連通することとなり、リリーフ弁20のリリーフ機能がより確実に保たれることとなる。
【0062】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態においては、背圧室35における油圧の降圧(背圧室35の縮小)とともにスリーブ26が高圧段制御位置に変位し、背圧室35における油圧の昇圧(背圧室35の拡大)とともにスリーブ26が低圧段制御位置に変位するかたちにリリーフ弁20が構成されている。これを変更して、例えばスリーブ26の上端部と入口通路24との間に背圧室が設けられ、この背圧室における油圧の降圧とともにスリーブが上動して低圧段制御位置に変位し、この背圧室における油圧の昇圧とともにスリーブが下動して高圧段制御位置に変位するかたちにリリーフ弁が構成されてもよい。こうした構成であっても、背圧室の昇圧によるスリーブの変位によりリターン通路が開通し、それにおけるオイルの流動によりスリーブが回転する上では、上述した効果と同様のものを得ることが可能となる。
【0063】
・上記実施形態においては、スリーブ26が低圧段制御位置へ変位したときに背圧室35と出口通路25とが連通する態様でリターン通路26Eが構成されている。これに限らず、背圧室35と出口通路25とが連通する状態でスリーブ26が低圧段制御位置に確実に到達するのであれば、背圧室35の昇圧によりリターン通路26Eが開通する構成であ
ってもよい。
【0064】
・上記実施形態においては、リリーフ通路15を構成するリリーフ孔29がスリーブ26の外周面の全周にわたる凹部26Dに開口を有する。こうした構成を変更して、出口通路とリリーフ孔とが一時的に非連通となってしまう期間があっても、ポンプ13の吐出側における油圧の変動がこの期間において供給対象に対し十分に小さいものであれば、スリーブ26の凹部26Dが割愛される構成であってもよい。
【0065】
・上記実施形態においては、出口通路25がボア23の内面の全周にわたる開口を有する。こうした構成を変更して、出口通路とリリーフ孔とが一時的に非連通となってしまう期間があっても、上記と同じく、ポンプ13の吐出側における油圧の変動がこの期間において供給対象に対し十分に小さいものであれば、ボア23の内面の一部分にのみ開口を有した態様で出口通路が構成されてもよい。
【0066】
・上記実施形態においては、リターン通路26Eがスリーブ26の外周面に凹設されているが、これに限らず、図6に示されるように、軸方向と交差する方向に流路方向を有したリターン通路21Cがボア23の内面に凹設される構成であってもよい。なお同図においては、低圧段制御位置に配置されているときのスリーブ26が二点鎖線で示されている。こうした構成であっても、背圧室35を通じて切り替え弁40から出口通路25へとオイルが流通することとなり、背圧室35に送り込まれた気泡や異物がポンプ13の吸入側へ排出されることとなる。そしてこうしたリターン通路を流れるオイルがスリーブ26の外周面に対して粘性応力を及ぼすこととなり、このしたオイルの流れに導かれるようにスリーブ26が回転することとなる。
【0067】
・上記実施形態においては、リターン通路26Eが軸方向に延びる螺旋状に構成されているが、これに限らず、例えば図7(a)に示されるリターン通路26Fのように、その一部が軸方向に沿う流路方向であってもよく、また例えば図7(b)に示されるリターン通路26Gのように、流路方向における断面積(流路面積)が徐々に小さくなるようなものであってもよい。さらには例えば図7(c)に示されるリターン通路26Hのように、スリーブ26の下端部26Bの一部を切り欠いたものであってもよい。これらのリターン通路においては、上述した粘性応力の他、切り欠いた部分の側壁にオイルが衝突することによっても回転力を得ることが可能である。
【0068】
つまり、流路を構成する一側面が軸方向に沿った側面である場合であれ、流路方向に沿って流路面積が異なる場合であれ、流路を構成する側面において軸方向と交差する方向へのオイルの流動が発現されるものであれば、その流路形状、流路面積、流路長等は、必要とされる回転力や背圧室35及び出口通路25の形状に応じて適宜変更可能なものである。そしてこうした構成においても上述した効果と同様の効果を得ることが可能となる。
【0069】
・上記実施形態においては、弁体支持部22Aとボア23との間の間隙(ボア23の底部に設けられた段差部)にスリーブ26の下端面である背圧面26Cが嵌装されるかたちで、その間隙に背圧室35が画成されている。これを変更して、例えば付勢ばねを介して弁体27が入口通路24に連結される構成であれば、弁体支持部22Aを固定部材22から割愛して有低円筒状のスリーブを採用することが可能にもなり、こうしたスリーブの底面と上記固定部材との間の間隙そのものによって背圧室35が構成されてもよい。こうした構成であれば、背圧室の形状に関してその簡素化が容易となり、こうした背圧室に連通するリターン通路の構成については、その設計の自由度が拡張されることにもなる。
【0070】
・上記実施形態では、円柱状の可動部材として中空である円筒状のスリーブ26に具体化されている。これに限らず、こうした円柱状の可動部材の形状としては、背圧室におけ
る油圧の印加態様に応じて開弁圧が切り替えられるべく変位可能となる構成であれば、例えば中空でないものであっても具体化することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
C…中心軸、10…可変油圧システム、11…オイルパン、12…供給通路、13…ポンプ、14…オイルストレーナ、15…リリーフ通路、20…リリーフ弁、21…弁本体、22…閉止部材、22A…弁体支持部、22B…ストッパ、23…ボア、24…入口通路、25…出口通路、26…スリーブ、26A…上端部、26B…下端部、26C…背圧面、26D…凹部、21C,26E,26F,26G,26H…リターン通路、27…弁体、28…入口連通光、29…リリーフ孔、30…付勢ばね、35…背圧室、36…導出入孔、40…切り替え弁、41…導出入通路、42…導入通路、43…排出通路、45…電子制御装置、50…可変油圧システム、51…オイルパン、52…供給通路、53…ポンプ、54…オイルストレーナ、55…リリーフ通路、60…リリーフ弁、61…弁本体、61a…ボア、62…閉止部材、62a…閉止部、63…収容室、64…入口通路、65…出口通路、66…スリーブ、67…弁体、68…弁体摺動孔、69…リリーフ孔、70…付勢ばね、71…背圧室、72…背圧通路、73…切り替え弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背圧室から印加される油圧に応じた軸方向の変位により開弁圧を変更させる円柱状の可動部材を有してポンプの吐出側に設けられたリリーフ弁と、前記背圧室における油圧の印加態様を切り替える切り替え弁とを備え、前記印加態様の切り替えにより前記開弁圧の圧力段を切り替えて供給対象への供給圧を変更する可変油圧システムであって、
前記リリーフ弁は、
前記可動部材をその軸方向及び周方向に摺動可能に内装するボアと、
前記可動部材の外周面及び前記ボアの内周面のいずれか一方に凹設されて、前記背圧室の昇圧による前記可動部材の変位により前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通させるリターン通路とを備え、
前記リターン通路は、
該リターン通路におけるオイルの流動が前記可動部材を周方向に回転させるかたちに構成されたことを特徴とする可変油圧システム。
【請求項2】
前記リターン通路の流路方向が前記軸方向と交差する方向である
ことを特徴とする請求項1に記載の可変油圧システム。
【請求項3】
前記可動部材の周壁に出口を有して前記ポンプの吐出側からのオイルを前記ポンプの吸入側へリリーフするリリーフ孔と、
前記ポンプの吸入側と前記リリーフ孔の出口とを前記ボアの内面の全周にわたる開口を介して連通する出口通路とを備えた
ことを特徴とする請求項1又は2に可変油圧システム。
【請求項4】
前記可動部材の外周面の全周にわたる凹部に出口を有して前記ポンプの吐出側からのオイルを前記ポンプの吸入側へリリーフするリリーフ孔と、
前記可動部材の凹部に連通する開口を前記ボアの内面に有して前記ポンプの吸入側と連通する出口通路とを備えた
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の可変油圧システム。
【請求項5】
前記可動部材が、前記ボア内に内装されて前記開弁圧の圧力段に応じて規定された第1の位置と第2の位置との間で変位するスリーブであり、
前記背圧室は、前記スリーブにおける摺動方向の一端部により前記ボア内に画成されて、前記スリーブが前記第1の位置から前記第2の位置へ変位することによりその容積が拡大して、前記第2の位置から前記第1の位置へ変位することによりその容積が縮小するかたちに構成されており、
前記リターン通路は、前記スリーブが前記第2の位置であることにより前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の可変油圧システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−238205(P2010−238205A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88435(P2009−88435)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】