説明

合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法

【課題】中間膜廃材に含まれる無機粒子を再利用できるほどの品質で回収する方法を提供すること。
【解決手段】中間膜に特定の機能を与える無機粒子を、高圧の流体中にて中間膜樹脂を溶解もしくは分解させることにより、中間膜樹脂から分離することを特徴とする合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法に関し、特に、合わせガラス用中間膜から性能を劣化させることなく、かつ純度の高い状態で無機粒子を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板の間に可塑化ポリビニルブチラール樹脂等の熱可塑性樹脂シートからなる合わせガラス用中間膜を挟み、互いに接着させて得られる合わせガラスは、ガラスに物体が衝突したとき等のガラスの飛散、ガラスによる人体、器具等への障害を防止するため又は防犯用として自動車、航空機、建築物等の窓ガラスとして広く使用されている。
【0003】
ここで、合わせガラス用中間膜には、遮熱性能、導電性能、熱伝導性能、紫外線遮蔽性能、着色性能、耐湿性能といった機能を与えるために、それぞれの機能にあわせた無機粒子を中間膜中に含有させている。
近年、資源のリサイクルが注目されており合わせガラスも回収を行い、再利用を図ることが検討されている。そこで、廃棄された合わせガラスから回収した中間膜廃材から有効な資源を回収する検討が進められている。また、中間膜の製造工程中に生じた中間膜廃材から資源を回収することも検討されている。
【0004】
合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法としては、例えば、合わせガラスをガラスと中間膜に分離した後、中間膜を燃焼させ樹脂分を除去して灰分から無機粒子を回収する方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、
1)無機粒子が金属粒子や金属成分を含む粒子である場合は、燃焼により酸化数、酸素欠損量が変化する原因となるといった問題がある。特に、中間膜に含まれる遮熱微粒子は粒子が酸化されると、たちまち赤外線遮蔽率が大幅に低下するためこの方法では回収が難しいといった問題があった。また、中間膜に含まれる着色顔料粒子は酸化されると色変化を起こすことがある。
2)透明性が要求されるため、合わせガラス用中間膜には数nm〜数百nm(一次粒子径)の微小な無機粒子を含有させる必要があるが、燃焼により無機粒子は化学結合でいったん粗大化してしまうため、中間膜用材料として再度利用できる程度の大きさまで回収された粗大な無機粒子を微粉砕することは困難であった。
3)不純物が粒子内部に取り込まれさらには粒子内部に拡散してしまうため、純度の高い無機粒子を汚染することなく回収することは困難であった。また、燃焼により生じた不純物は有色であることが多く無機粒子の色変化の原因となりやすいため、透明性や適正な色調が重視される合わせガラス用途に不純物により着色された無機粒子を再利用することは困難であった。
【0005】
また、別の方法としては、例えば、有機溶剤を用いて合わせガラスを構成する中間膜を有機溶剤に溶解させてガラスと分離した後、有機溶剤に溶解した溶解液から無機粒子を回収する方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、
1)溶剤を大量使用するため作業場所には防爆発設備を必要があった。
2)無機粒子は本来有機溶剤との親和性が低く、それゆえに粒子同士が二次凝集を起こし無機粒子が凝集塊として回収されるといった問題点があった。
【0006】
しかしながら、中間膜廃材に含まれる無機粒子を再利用できるほどの品質で回収する技術は確立されていない。また、回収された無機粒子を他の用途に転用するにも性能が劣化するため転用可能な用途は限られていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑み、無機粒子を、合わせガラス用中間膜から性能を劣化させることなく、かつ純度の高い状態で回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、中間膜に特定の機能を与える無機粒子を、高圧の流体中にて中間膜樹脂を溶解もしくは分解させることにより、中間膜樹脂から分離することを特徴とする合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法である。
【0009】
以下に本発明を詳述する。
【0010】
(無機粒子)
本発明における中間膜に特定の機能を与える無機粒子は、遮熱性能、導電性能、熱伝導性能、紫外線遮蔽性能、着色性能、耐湿性能といった機能を与える無機粒子であれば特に限定されないが、例えば、中間膜に遮熱性能を与える遮熱微粒子があげられる。具体的には錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)やインジウムドープ酸化亜鉛(IZO)等の異元素を含有する酸化亜鉛粒子、無水アンチモン酸亜鉛、六ホウ化ランタン等の六ホウ化化合物粒子が挙げられる。
【0011】
また、例えば、中間膜に導電性能を与える無機粒子があげられる。具体的には、アルミニウムや銅等の金属微粒子、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)やインジウムドープ酸化亜鉛(IZO)のような異元素を含有する酸化亜鉛粒子が挙げられる。
【0012】
また、例えば、中間膜に熱伝導性を与える無機粒子があげられる。具体的には、酸化アルミニウムやグラファイトやカーボンブラック等の炭素系材料の微粒子が挙げられる。
【0013】
また、例えば、中間膜に紫外線吸収性を与える無機粒子があげられる。具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛や酸化セリウム等の微粒子が挙げられる。
【0014】
また、例えば、中間膜を着色する無機粒子があげられる。具体的には、酸化チタン、酸化鉄、酸化鉛、鉄−マンガン−クロム複合酸化物等の複合酸化物粒子、アルミニウム等の微粒子が挙げられる。
【0015】
また、例えば、耐湿性を高め、高湿度においても中間膜の白化を低く抑える機能を与える無機粒子があげられる。具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の微粒子が挙げられる。
【0016】
なお、回収しようとする無機粒子が、界面活性剤やシランカップリング剤やシリコン系表面処理剤等の表面処理剤で表面処理された粒子あってもかまわない。
【0017】
(中間膜樹脂の溶解もしくは分解)
本発明に用いる流体は、高圧に加圧された状態で中間膜樹脂を溶解もしくは分解できる流体であれば特に限定されないが、例えば、水、アルコール、アセトン、およびこれらと二酸化炭素とを混合した混合流体等が挙げられる。
【0018】
なお、本発明における「高圧の流体」とは、中間膜樹脂を溶解もしくは分解させることが可能な圧力に加圧された流体である。なお、中間膜樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂等さまざまであり、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。また、可塑剤により可塑化された樹脂もある。したがって、流体に必要な圧力の下限は中間膜樹脂の種類によって異なるが、常温常圧で気体である流体である場合は、0.5MPa以上の圧力の流体であることが好ましい。0.5MPa未満であると、中間膜樹脂の溶解もしくは分解に時間がかかり過ぎるので無機粒子を回収する作業としては作業効率が悪い。なお、高温に加熱すると時間を短縮できるが、加熱温度が高すぎると無機粒子が加水分解や酸化することがあるので加熱する場合は300℃以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明における「高圧の流体」は、超臨界状態又は亜臨界状態の流体は、中間膜樹脂への浸透性に極めて優れることから、超臨界状態又は亜臨界状態の流体であることが好ましい。なお、本発明における「超臨界流体」とは、臨界圧力(以下、Pcともいう)以上、かつ臨界温度(以下、Tcともいう)以上の条件の流体を意味する。また、「亜臨界流体」とは、超臨界状態以外の状態であって、反応時の圧力、温度をそれぞれP、Tとしたときに、0.5<P/Pc<1.0かつ0.5<T/Tc、又は、0.5<P/Pcかつ0.5<T/Tc<1.0の条件の流体を意味する。上記亜臨界流体の好ましい圧力、温度の範囲は、0.6<P/Pc<1.0かつ0.6<T/Tc、又は、0.6<P/Pcかつ0.6<T/Tc<1.0である。ただし、流体が水である場合には、亜臨界流体となる温度、圧力の範囲は、0.5<P/Pc<1.0かつ0.5<T/Tc、又は、0.5<P/Pcかつ0.5<T/Tc<1.0である。なお、ここで温度は摂氏を表すが、Tc又はTのいずれかが摂氏ではマイナスである場合には、上記亜臨界状態を表す式はこの限りではない。
【0020】
高圧の流体は、例えば、 オートクレーブ等の加圧装置に流体を閉じ込めて加圧することにより発生させることができる。
なお、高圧流体中に合わせガラスを浸して中間膜を溶解もしくは分解させるとともにガラスとの分離も行う方法、あらかじめ合わせガラスから中間膜を分離した後、高圧流体中に中間膜を浸す方法のいずれであってもよい。あらかじめ合わせガラスから中間膜を分離するのであれば、ハンマーでガラスを粉砕して取り除く方法、液体窒素中に浸漬させる中間膜を剥がす方法等がある。ただし、ハンマーでガラスを粉砕する場合は、ガラスの破片が中間膜に付着して残らないように、しっかりと除去しておく必要がある。
【0021】
また、合わせガラス用中間膜は、接着力調整剤;酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を含まれるが、これらは無機粒子でなければ中間膜樹脂とともに溶解もしくは分解され、無機粒子であれば回収することも可能である。
【0022】
中間膜樹脂を溶解もしくは分解させたあと加圧装置から取り出された流体には無機粒子が流体に溶解せずに含有されているので、流体との比重差を利用して沈降させるか、遠心分離、ろ過、流体を蒸発させ除去する等によって積極的に分離させることにより無機粒子を回収することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法は、合わせガラス用中間膜から性能を劣化させることなく、かつ純度の高い状態で無機粒子を回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
(実施例1〜7)
1.中間膜の作成
耐候剤、耐電防止剤、分散剤を含む可塑剤に、ビーズミルを用いて表1に記載の無機粒子を分散させた。次いで得られた可塑剤溶液を、プラストミルにてポリビニルブチラール樹脂と混合し、押出機により溶融混練し、金型よりシート状に押し出して、ポリビニルブチラール樹脂シート(PVBシート)を得た。
【0026】
2.合わせガラスの作製
中間膜(PVBシート)を透明な2枚のフロートガラス(縦30cm×横30cm×厚さ2.5mm)と貼り合わせて合わせガラスを得た。
【0027】
3.ガラスと中間膜の分離
得られた合わせガラスを液体窒素中に浸たすとしばらくしてガラスが中間膜から剥離した。ガラスと分離した中間膜を取り出した後、23℃、相対湿度18%の恒温恒湿下に24時間静置した。
【0028】
4.無機粒子の回収
内容積1lの攪拌装置つき耐圧容器にガラスと分離した中間膜50g、水500gを入れ密閉した後、二酸化炭素を耐圧容器に圧入した。ついで、500rpmで撹拌しながら200℃、8MPaで1時間加熱・加圧した。容器下部に沈殿した無機粒子を遠心分離器にて回収し、洗浄後、室温にて5時間真空乾燥させた。
【0029】
5.無機粒子の評価
回収した無機粒子を用いて、同じ方法で再度中間膜を作製した。
初めに作製した中間膜(オリジナル)と同じ方法で再度作製した中間膜(再生品)の性能評価結果を表1に示した。
各評価は下記に示す方法で行った。
(評価方法)
(1)可視光透過率、及び日射透過率の測定
得られた中間膜を板厚2.5mmのクリアガラスに挟んで作製した合わせガラスについて、直記分光光度計(島津製作所社製「UV3100」)を使用して、の300〜2100nmの透過率を測定し、JIS Z 8722及びJIS R 3106に従って、380〜780nmの可視光透過率及び300〜2100nmの日射透過率を求めた。
(2)紫外線透過率の測定
得られた中間膜を板厚2.5mmのクリアガラスに挟んで作製した合わせガラスについて、SAE J 1796に準拠して紫外線透過率を測定した。
(3)耐湿試験1
得られた中間膜を板厚2.5mmのクリアガラスに挟んで作製した合わせガラスについて、常温(23℃)のイオン交換水中に浸漬し、24時間後のヘイズを、積分式濁度計(東京電色社製)を用いて測定した。
(4)耐湿試験2
JIS R−3212「自動車用安全ガラス試験方法」に準拠して、合わせガラスを50℃、相対湿度95%の雰囲気に1ヶ月間放置し、その後、白化している部分の距離(白化距離)を合わせガラスの周辺から測定した。
【0030】
(比較例1〜3)
表1に記載の無機粒子を含むPVBシートからなる中間膜を、いったん合わせガラスにした後、実施例1と同様の方法でガラスと中間膜に分離した。加熱炉を用いてガラスと分離した中間膜を大気下900℃に加熱して中間膜樹脂を燃焼させ無機粒子を回収した。
回収した無機粒子を用いて、同じ方法で再度中間膜を作製した。
初めに作製した中間膜と同じ方法で再度作製した中間膜の性能評価結果を表1から表3に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
表1から表3より、実施例1〜7では、回収した無機粒子は再利用しても、初めに作製した中間膜と同等の性能が得られている。一方、燃焼法を用いた比較例1〜3では、一次粒子間の化学結合により粒子が粗大になったため、著しく合わせガラスの可視光透過率が低下が起こった。また、比較例1〜3では合わせガラスの黄色味の指標である反射イエローインデックス値が大きく変化してしまった。さらに、燃焼法を用いた比較例1は、錫ドープ酸化インジウム(ITO)粒子の酸素欠損量に変化が生じたため、赤外線透過率が上昇してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、合わせガラス用中間膜から性能を劣化させることなく、かつ純度の高い状態で無機粒子を回収する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間膜に特定の機能を与える無機粒子を、高圧の流体中にて中間膜樹脂を溶解もしくは分解させることにより、中間膜樹脂から分離することを特徴とする合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法。
【請求項2】
中間膜に特定の機能を与える無機粒子は、遮熱微粒子、紫外線遮蔽微粒子、耐湿性を向上させる金属酸化物粒子から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法。
【請求項3】
無機粒子が、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、導電性酸化亜鉛、無水アンチモン酸亜鉛、六ホウ化化合物から選ばれる1種以上の遮熱微粒子であることを特徴とする請求項2記載の合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法。
【請求項4】
無機粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムから選ばれる1種以上の紫外線遮蔽微粒子であることを特徴とする請求項2記載の合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法。
【請求項5】
無機粒子が、耐湿性を向上させる酸化ケイ素粒子であることを特徴とする請求項2記載の合わせガラス用中間膜から無機粒子を回収する方法。

【公開番号】特開2006−206654(P2006−206654A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17440(P2005−17440)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】