説明

同期電動機の制御装置

【課題】動作回転数範囲に共振周波数があっても安定して動作することが可能な同期電動機の制御装置を得る。
【解決手段】同期電動機10の巻線に流れる少なくとも2相の電流の検出値と周波数指令の積算によって得られる位相とから求めた周波数補正量を入力として、軸共振周波数とその前後の周波数成分のみを減衰させるノッチフィルタ12を介して、新たな周波数補正量を算出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インバータ等の電力変換器を用いて、同期電動機の巻線に印加する電圧とその周波数とを制御する位置センサレスの同期電動機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の同期電動機の簡単な位置センサレス制御として、例えば、特許文献1や、非特許文献1に記載されているようなV/F一定制御と、特許文献2や、非特許文献2に記載されているような一次磁束一定制御がよく知られている。
【0003】
これらの従来の同期電動機の制御では、同期電動機の巻線に流れる少なくとも2相の電流の検出値と周波数指令の積算によって得られる位相とから求めた周波数補正量を周波数指令に帰還することで、速度制御系を安定化し、負荷変動時の脱調を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−236694号公報
【特許文献2】特開2000−262088号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】伊東淳一、豊崎次郎、大沢博共著、「永久磁石同期電動機のV/f制御の高性能化」、電学論D、122巻3号、平成14年、253−259
【非特許文献2】瓜田英明、山村直紀、常広譲共著、「同期機駆動用汎用インバータについて」、電学論D、119巻5号、平成11年、707−712
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回転子の位置検出器は機器の小形化を妨げる大きな要因になるだけでなく、回転子の位置検出器の信号を伝える複数本の配線や受信回路が必要であるため、信頼性、作業性、価格等に問題点があった。
【0007】
また、位置検出器を用いずに電動機の電圧や電流の情報から間接的に回転子の位置を演算する方法は、複雑かつ高速な演算処理が必要なので、制御装置が高価になるという問題点があった。
【0008】
従来の周波数補正を有するV/F一定制御や一次磁束一定制御は、制御が簡単なため制御装置を安価にすることができるが、同期電動機の動作回転数範囲に回転子とその支持系の共振周波数がある場合には、共振周波数付近で同期電動機への供給電力が増加し、周波数補正が逆に共振点通過動作を妨げ、目標回転数まであげられないという問題点があった。
【0009】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、動作回転数範囲に共振周波数があっても安定して動作することが可能な同期電動機の制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る同期電動機の制御装置は、周波数指令を演算する周波数指令演算手段と、前記周波数指令から周波数補正値を差し引いて新たな周波数指令を生成する加減算手段と、前記新たな周波数指令に基づいて電圧指令を演算する電圧指令演算手段と、前記新たな周波数指令を積算して位相情報を出力する積算手段と、前記位相情報に基づいて、前記電圧指令を3相電圧指令に変換するdq/3相変換手段と、前記3相電圧指令からゲート駆動指令を生成するPWM手段と、前記ゲート駆動指令に基づき同期電動機の巻線に印加する電圧とその周波数とを制御して前記同期電動機を駆動するインバータと、前記位相情報に基づいて、前記同期電動機の巻線に流れる電流を2軸電流成分に変換する3相/dq変換手段と、前記2軸電流成分の一方であるq軸電流から、前記同期電動機の回転子の共振周波数とその前後の周波数成分のみを減衰させるノッチフィルタと、前記ノッチフィルタの出力信号から直流成分を除去するハイパスフィルタと、前記ハイパスフィルタの出力信号にゲインを乗じて前記周波数補正値を出力する比例増幅器とを備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る同期電動機の制御装置によれば、同期電動機の動作回転数範囲に回転子とその支持系の共振周波数があっても、周波数指令が振動しないため、安定に共振周波数を通過することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る同期電動機の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る同期電動機の制御装置において一定加速度で同期電動機を運転したときの回転数とq軸電流を示すタイミングチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1に係る同期電動機の制御装置のノッチフィルタの周波数伝達特性を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る同期電動機の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係る同期電動機の制御装置のゲイン記憶手段のゲインテーブル(周波数−ゲイン)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の同期電動機の制御装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0014】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る同期電動機の制御装置について図1から図3までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る同期電動機の制御装置の構成を示すブロック図である。なお、以降では、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0015】
図1において、この発明の実施の形態1に係る同期電動機の制御装置は、周波数指令を演算する周波数指令演算手段1と、周波数指令から周波数補正値を差し引いて新たな周波数指令を生成する加減算手段2と、新たな周波数指令に基づいて電圧指令を演算する電圧指令演算手段3と、新たな周波数指令に基づいて補正電圧指令を演算する電圧指令補正演算手段4と、電圧指令と補正電圧指令を加算する加算手段5と、新たな周波数指令を積算して位相情報θを出力する積算手段6と、位相情報θに基づいて、加算された電圧指令を3相電圧指令に変換するdq/3相変換手段7と、3相電圧指令からゲート駆動指令を生成するPWM手段8と、ゲート駆動指令に基づき同期電動機10の巻線に印加する電圧とその周波数とを制御して同期電動機10を駆動するインバータ9と、位相情報θに基づいて、同期電動機10の巻線に流れる電流を2軸電流成分に変換する3相/dq変換手段11と、軸共振周波数とその前後の周波数成分のみを減衰させるノッチフィルタ12と、直流成分を除去するハイパスフィルタ13と、ゲインを乗じて周波数補正値を出力する比例増幅器14とが設けられている。
【0016】
つぎに、この実施の形態1に係る同期電動機の制御装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0017】
まず、周波数指令演算手段1は、同期電動機10を駆動する周波数指令を演算する。同期電動機10の巻線に流れる2相以上の電流をCTにより検出し、3相/dq変換手段11は、位相情報θに基づいて、検出した電流を2軸電流成分に変換する。ノッチフィルタ12は、2軸電流成分の一方(q軸電流Iq)を入力信号として、同期電動機10の回転子(図示せず)の共振周波数とその前後の周波数を減衰させる。ハイパスフィルタ13は、ノッチフィルタ12の出力信号から直流成分を除去する。比例増幅器14は、ハイパスフィルタ13の出力信号にゲインを乗じて周波数補正値を出力する。
【0018】
加減算手段2は、周波数指令演算手段1の周波数指令から、比例増幅器14の周波数補正値を差し引いて、新たな周波数指令を生成するようにしている。積算手段6は、新たな周波数指令を積算して位相情報θを出力する。
【0019】
電圧指令演算手段3は、新たな周波数指令に基づいて電圧指令を演算する。また、電圧指令補正演算手段4は、新たな周波数指令に基づいて補正電圧指令を演算する。加算手段5は、電圧指令演算手段3からの電圧指令と、電圧指令補正演算手段4からの補正電圧指令を加算する。
【0020】
dq/3相変換手段7は、位相情報θに基づいて、加算された電圧指令を3相電圧指令に変換する。PWM手段8は、この3相電圧指令からゲート駆動指令を生成する。インバータ9は、ゲート駆動指令に基づき同期電動機10の巻線に印加する電圧とその周波数とを制御して同期電動機10を駆動する。
【0021】
図2は、この発明の実施の形態1に係る同期電動機の制御装置において一定加速度で同期電動機を運転したときの回転数とq軸電流を示すタイミングチャートである。
【0022】
図2において、(a)は同期電動機10の回転子の回転数、(b)は同期電動機10のq軸電流をそれぞれ示している。同期電動機10の巻線に流れる電流は、同期電動機10の回転子の共振周波数を超えるときに生じる回転子軸振動の影響によって図2(b)の破線丸内に示すように大きくなる。図2(b)は、同期電動機10のq軸電流を示しており、共振周波数を超えるときに電流が振動する。
【0023】
図1において、ノッチフィルタ12が無い場合が従来例に相当するが、ノッチフィルタ12が無い場合には、q軸電流をハイパスフィルタ13と比例増幅器14を介して周波数補正量を得ることになり、前述の共振周波数が周波数補正量に重畳することになる。
【0024】
一般に、回転子の共振周波数における振動の大きさは加速時間に依存することが知られており、加速時間が長いと共振による振動が大きく成長し、逆に短いと振動は小さくなる。このため、回転子の共振周波数はできるだけ早く通過させることが望まれるが、ノッチフィルタ12が無い場合には、周波数補正量に共振周波数成分の振動が重畳するため、周波数指令と周波数補正値との差から得られる新たな周波数指令の積算によって得られる位相情報θと、周波数指令と周波数補正値との差から得られる新たな周波数指令に基づき算出される電圧指令が振動することになり、最悪の場合、同期電動機10の回転子が脱調してしまう。
【0025】
図3は、この発明の実施の形態1に係る同期電動機の制御装置のノッチフィルタの周波数伝達特性を示す図である。
【0026】
同期電動機10の回転子の共振周波数に合わせてノッチフィルタ12の減衰周波数を設定することで、図2(a)及び(b)に示したような同期電動機10の回転子の回転数が回転子の共振周波数を通過するときの同期電動機10への電流振動が周波数補正値に重畳するのを防止できる。
【0027】
このようにすることで、同期電動機10の動作回転数範囲に同期電動機10の回転子の共振周波数があっても、周波数指令が振動しないようにできるため、安定に共振周波数を通過することが可能になる。
【0028】
また、同期電動機10の回転子の回転数が回転子の共振周波数を通過するとき、同期電動機10の巻線の電流振動によって電圧が不足し、同期電動機10の回転子の共振周波数を超えるのに必要な電流が得られずに脱調することがある。
【0029】
このような場合、同期電動機10の回転子の共振周波数とその前後の周波数において、同期電動機10の共振周波数を越えるのに必要な電圧(補正電圧指令)を予め電圧指令補正演算手段4に設定しておけば、同期電動機10の動作回転数範囲に同期電動機10の回転子の共振周波数があっても、トルク不足により脱調せずに、安定に共振周波数を通過することが可能になる。
【0030】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る同期電動機の制御装置について図4及び図5を参照しながら説明する。図4は、この発明の実施の形態2に係る同期電動機の制御装置の構成を示すブロック図である。
【0031】
図4において、この発明の実施の形態2に係る同期電動機の制御装置は、上記の実施の形態1に係る同期電動機の制御装置と同じもの(ノッチフィルタ12を除く)と、ゲイン記憶手段15と、乗算手段16とが設けられている。
【0032】
つぎに、この実施の形態2に係る同期電動機の制御装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0033】
図5は、この発明の実施の形態2に係る同期電動機の制御装置のゲイン記憶手段のゲインテーブル(周波数−ゲイン)を示す図である。
【0034】
比例増幅器14は、3相/dq変換手段11によって2軸電流成分に分離して得られた2軸電流成分の一方であるq軸電流Iqを、ハイパスフィルタ13を介して入力し、周波数補正値を出力する。ゲイン記憶手段15は、図5に示すように、周波数指令が共振周波数に近づくにつれてゲイン値が小さくなるように予め設定しておいたゲインテーブルから、現在の周波数指令に対応するゲイン値を求めて出力する。
【0035】
乗算手段16は、比例増幅器14からの周波数補正値と、ゲイン記憶手段15からのゲイン値とを乗算する。すなわち、周波数指令演算手段1からの周波数指令に応じて周波数補正量の比例ゲインを変更するようにしたものである。そして、加減算手段2は、周波数指令演算手段1の周波数指令から乗算手段16の乗算結果を差し引いて、前述の新たな周波数指令を生成するようにしている。
【0036】
ノッチフィルタ12は、減衰させたい共振周波数の数が多かったり、急峻に共振周波数のゲインを落としたりしなければならない場合、ディジタルフィルタを高次数にする必要がある。次数が多くなると積和演算の回数が増え、演算処理装置の処理負荷が大きくなり、高価で高性能な演算処理装置を用いる必要がある。
【0037】
この実施の形態2によれば、予め記憶させておいたゲインテーブルから周波数指令に対応するゲインを取り出し、これを周波数補正値に乗じるだけなので、ノッチフィルタ12のような積和演算回数の増加という問題は生じない。
【0038】
また、ノッチフィルタ12のように積和演算処理が多くないこと、フィルタ処理による位相遅れの増加が無いため、上記の実施の形態1よりも性能の低い演算装置で位相遅れの小さいより安定な制御が可能になる。
【符号の説明】
【0039】
1 周波数指令演算手段、2 加減算手段、3 電圧指令演算手段、4 電圧指令補正演算手段、5 加算手段、6 積算手段、7 dq/3相変換手段、8 PWM手段、9 インバータ、10 同期電動機、11 3相/dq変換手段、12 ノッチフィルタ、13 ハイパスフィルタ、14 比例増幅器、15 ゲイン記憶手段、16 乗算手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数指令を演算する周波数指令演算手段と、
前記周波数指令から周波数補正値を差し引いて新たな周波数指令を生成する加減算手段と、
前記新たな周波数指令に基づいて電圧指令を演算する電圧指令演算手段と、
前記新たな周波数指令を積算して位相情報を出力する積算手段と、
前記位相情報に基づいて、前記電圧指令を3相電圧指令に変換するdq/3相変換手段と、
前記3相電圧指令からゲート駆動指令を生成するPWM手段と、
前記ゲート駆動指令に基づき同期電動機の巻線に印加する電圧とその周波数とを制御して前記同期電動機を駆動するインバータと、
前記位相情報に基づいて、前記同期電動機の巻線に流れる電流を2軸電流成分に変換する3相/dq変換手段と、
前記2軸電流成分の一方であるq軸電流から、前記同期電動機の回転子の共振周波数とその前後の周波数成分のみを減衰させるノッチフィルタと、
前記ノッチフィルタの出力信号から直流成分を除去するハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタの出力信号にゲインを乗じて前記周波数補正値を出力する比例増幅器と
を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
【請求項2】
周波数指令を演算する周波数指令演算手段と、
前記周波数指令から周波数補正値を差し引いて新たな周波数指令を生成する加減算手段と、
前記新たな周波数指令に基づいて電圧指令を演算する電圧指令演算手段と、
前記新たな周波数指令を積算して位相情報を出力する積算手段と、
前記位相情報に基づいて、前記電圧指令を3相電圧指令に変換するdq/3相変換手段と、
前記3相電圧指令からゲート駆動指令を生成するPWM手段と、
前記ゲート駆動指令に基づき同期電動機の巻線に印加する電圧とその周波数とを制御して前記同期電動機を駆動するインバータと、
前記位相情報に基づいて、前記同期電動機の巻線に流れる電流を2軸電流成分に変換する3相/dq変換手段と、
前記2軸電流成分の一方であるq軸電流から直流成分を除去するハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタの出力信号に第1のゲインを乗じて前記周波数補正値を出力する比例増幅器と、
周波数が共振周波数に近づくにつれて第2のゲインが小さくなるように予め設定されたゲインテーブルから、前記周波数指令演算手段からの周波数指令に対応する第2のゲインを求めて出力するゲイン記憶手段と、
前記比例増幅器からの周波数補正値に、前記ゲイン記憶手段からの第2のゲインを乗算して前記加減算手段へ出力する乗算手段と
を備えたことを特徴とする同期電動機の制御装置。
【請求項3】
前記新たな周波数指令に基づいて、前記同期電動機の回転子の共振周波数とその前後の周波数において、前記共振周波数を越えるのに必要な補正電圧指令を演算する電圧指令補正演算手段と、
前記電圧指令と前記補正電圧指令を加算する加算手段とをさらに備え、
前記dq/3相変換手段は、前記位相情報に基づいて、前記加算手段により加算された電圧指令を3相電圧指令に変換する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の同期電動機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−234528(P2011−234528A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103273(P2010−103273)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】