説明

吐出パターン生成方法及びインキ吐出装置及びそれを用いて製造するカラーフィルタ及び有機機能性素子

【課題】インキ吐出装置でノズルの進行方向に発生するたて筋状の色ムラを抑止して、ノズル使用の偏りを低減することを課題とする。
【解決手段】X×Y個のセルを有する基板、位置(u,v)のセルに吐出するべきインキの量Cuvを吐出パターンとしてメモリーに保持する手段及び前記基板上のセルと複数のノズルを備えたノズルヘッドを位置あわせをした上で、前記吐出パターンに基づいて前記ノズルからインキを吐出する機構を具備するインキ吐出装置における前記吐出パターンCuvの生成方法であって、ノズルの吐出量の単位をd、muvを|Cuv|<d×muvを満たす正の整数とした場合に、p=|Cuv|/(d×muv)を成功の確率、muvを試みの回数とするベルヌーイ試行を行い成功の回数がnである時、当初のCuvをCuv’=(Cuvの符号)n×dに置換することを特徴とする吐出パターン生成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク吐出装置がムラの目立たないパターンを形成するために使用するインキ吐出の量に関するデータの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイに使用するカラーフィルタ基板のサイズは年々大型化が進んでいる。従来では、顔料分散レジストを用いてフォトリソグラフィー工程を繰り返す工法が主流であったが、カラーフィルタの低価格化を図るために、近年は、カラーフィルタの各着色層を同時に形成できるインクジェット法(以下、インキ吐出法と記す)も有力な方法とみなされつつある。
【0003】
インキ吐出法においては、基板上で吐出された異色のインキが交じり合わないように、基板表面は隔壁で区画するのが一般的である。その開口部(以下、セルと記す)に、ノズルヘッドのノズルからカラーフィルタの各色に対応する着色インクが吐出される。このとき、各セルに吐出されるインクの充填量のバラツキが小さいほどカラーフィルタの色ムラが低減され、高品質なカラーフィルタを製造できると信じられている。
【0004】
一方、カラーフィルタのパターンピッチは、それが内蔵される画像表示装置等の高解像度化と大容量化にあわせて、年々微細化する傾向にある。したがって、インキ吐出装置で塗工するセルサイズも小容量になるため、個々のノズル及びそれらを束ねたノズルヘッドからのインキの吐出量を、ヘッド全体で均一になるように高い精度で制御する必要がある。その上で高速化に関しては、各色ごとのノズルヘッドを備え、それらをさらに複数セット積み重ねることがなされている。
【0005】
しかしながら、それぞれのノズルから吐出されるインキ量には、バラツキがあるので、多数を束ねてノズルヘッドとしても、吐出量に差が出ることは避けられない。個々のノズルから吐出されるインク量がごく微小量であって、各セルに割り当てられるノズルの数も数個と少ないため、バラツキは相対的に大きいものとなる。
【0006】
一般には、それぞれのノズルヘッド対し同量のインクが充填されるので、異なるノズルヘッドに属するノズルから同じ回数のインクを吐出したとしても、インクのセル内充填量はノズルヘッドごとに差が生じる。そして、ノズルヘッドごとに吐出されるインキの量は一定のばらつきを持って固定されているとみなせる。この状態はノズルヘッドの進行方向でかなりの程度維持される。
【0007】
仮に3色のノズルヘッドを1セットとして、複数セットを備えるインキ吐出装置であると、同一ノズルヘッドセットによりインキが吐出された連続したセル(以下、セルラインと記す)の総液量と、異なるノズルヘッドセットにより形成されたセルラインでの総液量に差が生じる。この結果、ノズルヘッドが移動し、しかる後一旦吐出を終了し、横方向に移動して再吐出動作を繰り返すと、視覚的に周期性のある色ムラとして見えるという問題がある。
【0008】
上記のムラは、予め基板上に隔壁を形成した、その開口部に1層あるいは複数の有機機能層を積層する有機EL素子、または有機太陽電池等の有機機能性素子を、インキ吐出して製造する際にも生じる。例えば、有機EL素子においては、インキ吐出装置から正孔輸送材料、発光材料の機能性インクを吐出すると、全体として発光ムラの目立った画質の低
い有機EL素子となってしまう。
【0009】
単純なインキ吐出量のバラツキ、あるいは上記のような問題の解決のため、ノズルごとの吐出量バラツキを抑える目的で、ノズルごとに駆動電圧値を変更できる回路装置を組み込み、理想吐出量と実際の吐出量を比較し、吐出量を調整した上で使用することにより色ムラを低減する方法が開示されている(特許文献1)。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、ノズルごとに駆動電圧値を変更し、補正するには、各ノズルのバラツキの程度、隣接ノズルが同時タイミングで吐出している場合、または吐出していない場合では吐出量が異なるというクロストークの影響等を、全て把握する必要がある。このため、何回も吐出し、その都度に測定を行い、各ノズルの吐出バラツキが無くなるまで作業をするため、膨大な時間や材料を浪費する問題があった。
【0011】
インキ吐出装置に関わる別の問題は、個々のセルに割り当てられるノズルの使用頻度に関するものである。ノズルが偏って使用されると寿命が短くなるということである。使用するノズルは、セルのサイズとピッチ、最小のインキ吐出量及び全吐出量等で決まるものであるが、必ずしも領域的に割り当てられたノズル全部が使用できるわけではないし、最適であるわけでもない。一般的に言って、過使用によるノズル詰まりなど長期の安定使用を考慮すると、恣意的に選択するのではなく何らかの法則性に基づいて等しく使用されるのが望ましい。
【特許文献1】特開2004−90621号公報
【非特許文献1】「確率論とその応用I」第VI章、W.フェラー著、紀伊国屋書店、1971年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の点に鑑み、本発明はまず、複数の隣接するノズルから吐出されるインキの量が、ノズルの進行方向で一定となることによって生じるたて筋状の色ムラを除去するために、インキ吐出の量にバラツキを付与する方法の提供を第一の課題とする。しかし、本発明の方法は、前述したようにそれぞれのノズルの吐出量を電気的に調整するだけではなく、より容易に短時間で達成する方法の提供である。第二の課題は、セルに割り当てられたノズルを満遍なく効率的に使用し、ノズルヘッドとして長期間安定して使用できる方法の提供である。これらが達成されたインキ吐出装置を用いて、ぎらつき感のない高品質のカラーフィルター及び有機機能性素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を達成するための第一の発明は、隔壁によりX行、Y列に区分されたX×Y個のセルを有する基板、位置(u,v)のセルに吐出するべきインキの量Cuvを吐出パターンとしてメモリーに保持する手段及び前記基板上のセルと複数のノズルを備えたノズルヘッドを位置あわせをした上で、前記吐出パターンCuvに基づいて前記ノズルからインキを吐出する機構を具備するインキ吐出装置における前記吐出パターンCuvの生成方法であって、ノズルの吐出量の単位をd、muvを|Cuv|<d×muvを満たす正の整数とした場合に、p=|Cuv|/(d×muv)を成功の確率、muvを試みの回数とするベルヌーイ試行を行い成功の回数がnである時、当初のCuvをCuv’=(Cuvの符号)n×dに置換することを特徴とする吐出パターン生成方法である。(但し、u、vは1≦u≦X、1≦v≦Yを満たす正の整数)。
【0014】
このパターン生成方法によって、セルごとにインキ吐出量の原データを変調すると、ノズルヘッドの進行方向に延びるセルライン内において、隣接するセルごとに吐出するべき
インキの量にバラツキを付与できる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1記載の置換されたインキの量Cuv’を、当該セルにインキを吐出するためのk個のノズルの吐出量Cuv’(γ)として振り分ける吐出パターン生成方法であって、ノズルの吐出量の単位をd、muvを|Cuv’|<k×d×muvを満たす最小の正の整数とした場合に、p=|Cuv|/(k×d×muv)を成功の確率、muvを試みの回数とするベルヌーイ試行を行い成功の回数がnである時、Cuv’(γ)=(Cuvの符号)n×dとすることを特徴とする吐出パターン生成方法である。(但し、γ=1,2、・・・、k)。
【0016】

請求項1に記載の方法で各セルに割り当てられた吐出すべきのインキの総量を、この方法で当該セルに属するノズルに割り当てると、ノズルを満遍なく偏りがなく使用することができる。
【0017】
請求項3の発明は、上記の成功の回数を計算する際に使用する乱数は、一様乱数R(j)(0≦R(j)<1)かもしくは前記一様乱数の長周期成分を補正した乱数であることを特徴とするものである。
【0018】
この発明によって、セル数(画素数)が多く数百万個以上の一様乱数を使用する場合、一様乱数に周期性が生じることによる不具合を回避できる。一様乱数の長周期成分を補正することで、インキ吐出量分布にも周期性がなくなるため、ぎらつき感のない自然な液晶表示を実現できる。
【0019】
請求項4の発明は、吐出パターンCuvは、列単位で一定であることを特徴とする上記の吐出パターン生成方法である。
【0020】
請求項5の発明は、吐出パターンCuvは、インキ吐出量の理想値と実測値の差分を列単位で算出したものであることを特徴とする上記の吐出パターン生成方法である。
【0021】
請求項4及び請求項5の発明は、最初のインキ吐出に必要な初期データとしての吐出パターンCuvを、列方向に特殊であるが現実的なデータに限定するもので、特に実測した吐出量データを採用することで速やかに吐出量にバラツキを付与できる。また、理想的な吐出量分布に速やかに到達できる。
【0022】
請求項6の発明は、上記の吐出パターン変換方法を具備することを特徴とするインキ吐出装置である。
【0023】
請求項7の発明は、本発明になるインキ吐出装置で製造したことを特徴とするカラーフィルタである。
【0024】
請求項8の発明は、本発明になるインキ吐出装置で製造したことを特徴とする有機機能性素子である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、インキ吐出量がヘッドの進行方向で一定になることで必然的に発生するたて筋の色ムラを、インキ吐出量を進行方向にそって意識的にばバラツキを付与するため完全に目立たなくすることができる。また、短時間に容易に理想的なインキ吐出量分布に到達することが可能である。別の効果は、インキが吐出するノズルを統計的操作により偏りがないように使用するので、長時間安定して使用することができる。これらのことに
よって、色ムラ及びぎらつき感のないカラーフィルタあるいは発光ムラのない有機機能性素子を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
まず、本発明が係わるインキ吐出装置の概略構成について図1、その他図2乃至図4を用いて本発明を詳しく説明する。図1は、インキ吐出装置の全体構成を模式的に示したものである。インキ吐出装置は、多数の吐出用ノズル5を複数列規則的(図2)に配置したノズルヘッド1を複数個配列したヘッドユニット2を備える。カラーフィルタを形成するためには、色(例えば、赤、青、緑)ごとにノズルヘッド1を割り当て、この3ヘッドを1ユニットとして数ユニット併置もしくは積み重ねた状態で使用される。
【0027】
基板置き台3は、主走査方向(Y)11と直行する副走査方向(X)12に移動可能であり、さらにθ方向(YZ面内)に回転可能である。θ方向に回転可能なため、基板置き台の上に置かれた基板の隔壁とヘッドユニット2を平行に合わせることができ、副走査方向12に動作させることでヘッドユニット2の幅でインキ吐出を行うことができる。Y方向にヘッドユニット2を所定距離をインキ吐出した後に、副主走査方向(X)12に基板置き台3を移動してさらにインキ吐出を行うことで、必要な部分すべてにインキを吐出する。基板置き台3は、吸着機構(図示せず)を備えており、基板はしっかりと固定されている。
【0028】
インキ吐出装置は、ヘッドユニットを駆動し制御する中枢部としてヘッド制御部4を備える。ヘッド制御部4は、装置各部を駆動するのに必要な情報として、(a)吐出パターン情報及び(b)ノズルヘッドパラメータ情報を有する。吐出パターン情報部(a)はヘッドやノズルの位置に関わる情報とノズルのインキ吐出量に関わる情報からなっている。
【0029】
位置に関わる情報は、インキが吐出される基板に関する情報(隔壁のピッチ、配色パターン等)、各ヘッドに属するノズルの配置に関する情報(図2のノズルの2次元ピッチ等)、ヘッドの相対的位置関係及び基板の移動の仕方に関する情報等である。
【0030】
インキ吐出量に関わる情報とは、ヘッドユニットに属するノズルごとにそれが吐出すべきインキの量を適当な単位で表したものである。仮に、基板上のインキを吐出する任意の領域を(X×Y)個のセルの集合とした場合、どのヘッドのどのノズルがどの位置(u、v)のセルをカバーするかは予め決められている(ここで、u=1,2、・・・、X、v=1,2、・・・、Yであって、uとvはセルの番目を示すパラメータである)。そこで、位置(u、v)のセルごとに吐出されるインキの総量をCuvとし、吐出パターン情報Cuvとする。また、セルに割り当てられるノズルの数をkとすると、Cuvは、さらにk個の情報Cuv(γ)(γ=1,2、・・・、k)に分割されてヘッド制御部のメモリーに保持される。実際には、吐出の際にヘッド制御部4から各ノズルに吐出パターン情報Cuv(γ)が転送され、それに基づいて吐出がなされる。尚、u、vの採りうる範囲については、許容範囲すべてをカバーする必要はなく、基板の一部分であっても構わない。
【0031】
ノズルヘッドパラメータ情報(b)は、ノズルヘッドごとにノズルから吐出するインキの量を制御するのに必要なものである。インキはピエゾ効果を使って放出するが、その量や強さは電圧で制御する。全てのノズルヘッドの駆動電圧を同じ値に設定すると、個々のヘッドから吐出される液量に差があるので、基板内にインクを均一に吐出することができなくなる。ノズルヘッドごとに最適の電圧値を設定し調整するするための情報である。
【0032】
さらに、本例のインキ吐出装置においては、位置情報をもとにして所定のヘッドのノズルから目標のセルにインキが滴下されたかは、備え付けのカメラによって観察できる。したがって、吐出パターンCuvとの整合性をチェックしシステムとして問題がなければ、C
uv及びCuv(γ)は実際の使用に供される。
【0033】
さて、インキ吐出装置は、電気的にインキの量を設定する場合でも、本例のようにさらにCuv(γ)を援用して設定する場合でも、稼動中は同じことを繰り返す。稼動中にフィードバックをかけて目標値に漸近させることは不可能でないが一般的にはなされない。したがって、本稼動に先立って、Cuv及びCuv(γ)を、色ムラの目立たない最適値に設定しておく必要がある。
【0034】
図3にインキが吐出される基板とノズルヘッドの移動方向を模式的に示した。ノズルヘッドがY方向11に移動するとして、下側に達するとX軸方向12にシフトして再度上側にスキャンして吐出する。すなわち、同じノズルの組がX軸方向12に場所を変えて移動していくとしてよい。その結果、離れたセルライン13、13’で吐液量のY軸方向の分布が同じになるというのが、たて筋状の色ムラ14の原因である。機械的にヘッドをシフトさせるあるいは吐液の量を変動させる、もしくはCuv(γ)のデータをバラツカせることなどで回避できる可能性もある。本発明は、次のようにして回避したものである。
【0035】
ノズルから滴下できる液滴の量は、ある範囲内で設定できるが、概ね数ピコリットルであって、あまり小さくはできない。本明細書においては、この最小値をdであらわす。吐出パターンCuv(γ)は、dを単位とした液滴の数(以下、ドロップ数と記す場合もある)でもよいし、インキの量であっても構わない。また一定の正負のオフセット値を含んだ量であっても構わない。適切なデータ処理によって駆動に適した単位に相互に変換すればよい。ノズルの数kは概ね数個である。これは、単位面積当たりのノズルの数、セルの開口面積及び先述した位置情報等に対応して決まる。
【0036】
実際の駆動時に用いる最適化された吐出パターンCuv及びCuv(γ)を決定する前の、初期データとしての吐出パターンCuvは、先述したように実際にはY方向で一定とみなされる状態であるからそのように設定する。この状態はたて筋状の色ムラのある状態であって、模式的には図4(a)で示される。もちろん、Y方向に多少のバラツキがあっても構わない。問題は同じ状態がX方向に周期的に発生することである。図4(a)のZ方向の列を形成するブロック数が、吐出パターンCuvとしてのインキの量Cuvに相当する。
【0037】
列内でバラツキを付与するとは、図4(a)の状態を、極端に示せば、同図(b)のような状態に変換することである。本発明においては、この変換にいわゆるベルヌーイ試行を採用した(非特許文献1)。以下、その手順を記す。
【0038】
初期データとしてのCuvを一度箱から取り出して元の箱に戻すことを考える。戻すに当たって、Cuvを単位の量dの板に分割してから、この板dを単位として戻すことにする(図4(a)の破線部分で1ブロックを3枚に分割した状態を示している)。dで割り切れず余りが出たときは、一単位dだけ増減するものとする。ここでdはノズルから滴下する単位の量であるが、この段階では必ずしもこれに限定する必要はない。戻すための操作(試行)の回数をmuvで表すと、muvはdと正整数muvの積が、|Cuv|より大きくなるのであれば、任意の値に設定できる(|Cuv|<d×muv)。尚、| |は絶対値記号である。
【0039】
上で定義されたCuv、d、muvを用い、実数p=|Cuv|/(d×muv)が定義できる(0≦p<1)。次に、muv回、一様乱数R(j)を発生させる(0≦R(j)<1)。このmuv個の乱数とpを比較して、乱数の方がpより小さい回数をnとする。その場合、n個のdを元の箱に戻すことにする。これは成功の確率をp、失敗の確率を(1−p)とする場合の成功確率を求めるベルヌーイ試行である。
【0040】
この手順で戻すと、元に戻る量の平均は元の値と同じn×d(=p×muv×d≒Cuv)である。最大値はd×muvであって、全体としてCuvのまわりでバラツクことになる。nの分布は次式(1)の二項分布で与えられる。
【0041】
【数1】

従って、分散などの平均量はこれから計算できる。同様な手順を所望のセルすべてで繰り返す。それによって指定されたすべてのセルに対し、X、Y方向で相関のないバラツキを付与でき、上記値でCuvを置換することで新しいインキ吐出パターンCuv’を生成できる。乱数との比較は本例のようにセルごとに行ってもよいし、セルラインごとにあるいはまったくランダムに行っても構わない。
【0042】
これが総量をほぼ一定に保ったままセルごとにバラツキを付与するための、請求項1に記載した方法である。実際には、先述したようにCuvはY方向(v方向)のセルラインで一定とみなせるので、muvもvの値にかかわらず一定であるとして構わない。しかし、必ずしもそうする必要はない。ある特有のクセがある基板と装置の組み合わせでは、実験に基づいてセル(u、v)ごとにmuv変化させてもよいし、ある方向にそって変化させてもよく、Cuvについても同様である。正整数muvの大きさについては、|Cuv|を大きく超えるように設定する必要はない。大きく設定するとバラツク幅が広がるが、バラツキすぎて視認できるようにならない範囲で適切な値に設定するのが望ましい。
【0043】
場合によっては、Cuvが負になることがある。これはインキ吐出量を減らすような場合に相当するが、Cuvの絶対値に上記の手順を適用して計算した後、最終的に負とすればよい。これが請求項1及び請求項2で絶対値を付けた理由である。尚、Cuvの符号=Cuv/|Cuv|とも書ける。
【0044】
上記のような手順でバラツキを付与されたセルごとの吐出総量を、当該セルに割り当てられたノズルに割り振る方法が請求項2の内容である。割り振り方は、基本的に上記の請求項1と同じである。請求項1との違いは、Cuvが吐出に使用するノズルの数をkとした場合に、n×d/k(≒Cuv/k)に変わるだけである。また、この場合には、dはノズルで滴下する液量の単位に設定する必要がある。さらに、正整数muvは最小値に設定するのが望ましい。振り分けはセル内のk個のノズルで行い、それを所望のすべてのセルで繰り返す必要がある。
【0045】
選択に用いる一様乱数R(j)に関しては、使用する数が膨大であるのでjが大きい場合(数百万以上)の周期性に留意する。これが請求項3の内容である。具体的には、R(j)のN個(>数百万)の乱数をNについてフーリエ変換しR(q)とする。R(q)から低波長成分(q≒0)のいくつかを取り除いた残りをR’(q)とし、これをフーリエ逆変換したものをR(j)として使用するということである。取り除く量は変動させるのが望ましい。インキ吐出に乱数に起因する周期性がなくなるので、ぎらつき感の少ないカラーフィルタが製造でき、良好な液晶表示が得られる。
【0046】
請求項4の内容については上記に記載したので、請求項5に関わるより高品質な画質を得るための初期データの設定方法について付言する。ノズルごとの吐出量のバラツキ、クロストークの影響等によって、実際の各セルラインもしくはセルごとに吐出されたインキの総液量は、理想総液量からずれている。吐出された総液量は、実際のドロップ数を観察評価することで見積もることができる。さらに、この値を膜厚、色度、輝度などの実測値で補正することで、光学的にセルラインごともしくはセルごとの理想量を推定できる。
【0047】
そこで各セルの理想総液量と測定された量との差を当初の吐出パターンCuvとするということである。この吐出パターンCuvに請求項1の手順を適用すると、変調されたCuv
を得る。その結果と元の液量を合算して、新しいCuvとして構成する。液量が負の場合も先述のようにすれば、すべてこの手順に含まれる。これにより、速やかに理想的な吐出パターンに到達することができる。この手順を再帰的に繰り返せば理想的な吐出パターンに到達する。
【0048】
以上のように、本発明の方法によれば、ノズルごとの吐出量のバラツキを測定し、ノズルごとに吐出量を補正するといった煩雑な作業を伴わず、各セルライン間あるいは画素間の色ムラを低減することが可能となる。
【0049】
そこで次に、本発明の吐出装置によるインキ吐出の一例の説明をするが、先ず、カラーフィルタ及び有機機能性素子に共通の要素技術について説明する。
【0050】
基板は、インキが吐出される支持基板として用いるものである。目的とする光学素子により、基板の種類は異なるが、例えば、ガラス基板、石英基板、プラスチック基板、ドライフィルム等、公知の透明基板材料を使用することができる。中でもガラス基板は、カラーフィルタ、有機EL素子用途において、透明性、強度、耐熱性、耐候性において優れている。
【0051】
隔壁は、基板の表面を多数の領域に区分けすると共に、この多数の領域のそれぞれに吐出されたインクの混色を防止する機能を有するものである。混色を防止するため、隔壁には一定の撥インク作用を示すものを用いることが望ましい。例えば、撥インク剤を含む樹脂組成物により隔壁を形成する方法、樹脂組成物の隔壁にプラズマ処理を行うか隔壁を光触媒層とともに形成して撥インク性を付与する方法等を例示できる。また、ディスプレイにおいては、この隔壁に遮光性を付与することで、表示画面のコントラストを向上させることができる。隔壁は印刷法、フォトリソグラフィー法等の公知の方法により製造することができる。
【0052】
有機機能性素子の製造方法について次に説明する。有機EL素子または有機太陽電池、あるいは有機半導体を製造する場合にも、まず基板上に隔壁を形成する。インクに有機発光材料を含むものとし、本発明のインキ吐出装置を用いて基板上に所望の有機機能層を吐出して製造することができる。このインクは、有機発光材料、溶媒、樹脂バインダーを、必要に応じて含むことができる。
【0053】
有機発光材料としては、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の有機溶剤に可溶な有機発光材料や該有機発光材料をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系などの高分子有機発光材料が挙げられる。
【実施例1】
【0054】
次に、実施の一例として、カラーフィルタの製造方法を説明する。
まず、隔壁を製造する。撥インク性材料を含有した感光性樹脂組成物として、下記組成比の黒色感光性樹脂組成物を調合した。基板としては無アルカリガラス(1737:コーニング(株)製)を用い、その上にこの黒色感光性樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、温度90℃のホットプレートにて1分間プリベーク処理をして基板上に膜厚2.0μmの被膜を形成した。
【0055】
〔黒色感光性樹脂組成物の組成〕
シクロヘキサノン(沸点155.7℃) 80重量部
クレゾール−ノボラック樹脂:EP4050G(旭有機材工業(株)製) 15重量部
メラミン樹脂:MW30(三和ケミカル(株)製) 5重量部
カーボン顔料:MA−8(三菱マテリアル(株)製) 23重量部
分散剤:ソルスパース5000(ゼネカ(株)製) 1.4重量部
ラジカル重合性を有する化合物:トリメチロールプロパントリアクリレート(大阪有機化学工業社製) 5重量部
光重合開始剤:イルガキュア369(チバスペシャリティケミカルズ(株)製)2重量部含フッ素化合物:モディパーF−600(日本油脂(株)製、質量平均分子量35000) 5重量部
である。
【0056】
続いて格子状パターンを有するフォトマスクを用いて、超高圧水銀灯により100mJ/cm2の露光処理を施し、さらに現像処理及び乾燥処理を行うことで所望の隔壁パターンを得た。セル開口部はX方向で330μm、Y方向で110μmである。セル数はX=11080、Y=1920とした。
【0057】
着色インキの調合は、下記組成物を、窒素雰囲気下でアゾビスイソブチルニトリル0.75重量部を加え、70℃5時間の条件で反応し、アクリル共重合体樹脂を製造した。
【0058】
〔着色インク組成物の組成〕
メタクリル酸 20重量部
メチルメタクリレート 10重量部
ブチルメタクリレート 55重量部
ヒドロキシエチルメタクリレート 15重量部
乳酸ブチル 300重量部
得られたアクリル共重合体樹脂が、全体に対して10重量%になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて希釈し、アクリル共重合体樹脂の希釈液を得た。
【0059】
この希釈液80.1gに対し、着色顔料19.0g、分散剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル0.9gを添加して、3本ロールにて混練し、赤色、緑色、青色の各着色ワニスを得た。なお、赤色顔料として、ピグメントレッド177を、緑色顔料としてピグメントグリーン36を、青色顔料としてピグメントブルー15を、各々使用した。
【0060】
得られた各着色ワニスに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを、その顔料濃度が12〜15重量%、粘度が15cpsになるように、各々調整して添加し、赤色、緑色及び青色の着色インキを得た。
【0061】
図1に示した構成のインキ吐出装置を用いて、着色層を形成した。ここで、各セルの理想総液量Mは420pl、単位ドロップの吐出量dは6plである。
【0062】
次に、インキ吐出装置のヘッド制御部4(図1参照)に、請求項1から請求項3に記載した各セルのドロップ数を決定するプログラムを組み込み、吐出実験を行った。セルあたりのノズルの数は8個となった。
【0063】
表1は、本発明による調整を行う前の1セル当りの平均総液量の実測値および理論総液量との差をY方向のセルラインごとに示したものである。理想総液量は、カラーフィルタにおいて所望の色度を得るために必要なセルあたりのインキ量をインキ材料に基づき算出した。また、実際に作成したカラーフィルタの色度をセルごとに測定して目標とする色度との差を求め、これを液量に換算して総液量との差を求めた。この差分と単位のドロップ
の吐出量6plとの関係により、各セルの増減ドロップ数が決まる。ここで、先述の通り、Y方向のセルラインではセルの色度がほぼ一定であったため、Cuvとmuvはセルラインで一定とした。また、本例では、セルラインごとにmuvの最小値を採用した。
【0064】
表1下段の数値は、請求項5で記載の調整を行った結果である。調整の結果、各セルラインの平均総液量は理論総液量により近づいたことが明らかである。
【0065】
ここで、表1より、セルライン2において、平均総液量と理論総液量との差分は7.1plであり、muvの最小値は2となる。この場合、成功の確率pは、p=0.5917となり、これをもとに成功回数nが2となるセル数、及びn=1となるセル数の理論値が求まる。表2はこの理論値と、本発明の方法で乱数との比較により実際に2ドロップ減らされたセル数および1ドロップ減らされたセル数を比較した表である。これにより、理論値と乱数による計算結果がほぼ一致し、結果として表1に示したとおり、理論総液量に近い平均総液量が得られたことが分かる。この調整の結果、全体として色ムラの低減されたカラーフィルタが得られた。また、乱数を用いてノズルを選択することにより、たて筋状の色ムラを軽減する効果が高まり、かつ、ヘッドの長期安定性にも効果が見られた。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

以上のように、ノズルごとの吐出量のバラツキを測定して、ノズルごとに機械的電気的に吐出量を制御することなく、短時間で各着色層のセルごとの適切な吐出量のバラツキを付与することによって、色ムラのないカラーフィルタを製造することができた。同じ手順を有機EL素子及び有機太陽電池等の有機機能性素子のインキ吐出に際し、適用することで理想とする各インキの分布を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のインキ吐出装置装置の全体構成図例を示す概略図。
【図2】ノズルヘッドの一部をノズル側正面から見た場合のノズルの配置を説明する図。
【図3】基板に対するヘッドの相対的な移動方向及び立て筋ムラの方向を模式的に説明する図。
【図4】たて筋ムラのある状態と本発明のバラツキを付与した状態を模式的に説明する図。
【符号の説明】
【0069】
1、ノズルヘッド
2、ノズルヘッドユニット
3、基板置き台
4、ヘッド制御部
5、ノズル
6、割り当てられたノズル
11、ノズルヘッドの主走査方向(Y方向)
12、ノズルヘッドの副走査方向(X方向)
13、13’、セルライン
14、たて筋状の色ムラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁によりX行、Y列に区分されたX×Y個のセルを有する基板、位置(u,v)のセルに吐出するべきインキの量Cuvを吐出パターンとしてメモリーに保持する手段及び前記基板上のセルと複数のノズルを備えたノズルヘッドを位置あわせをした上で、前記吐出パターンCuvに基づいて前記ノズルからインキを吐出する機構を具備するインキ吐出装置における前記吐出パターンCuvの生成方法であって、ノズルの吐出量の単位をd、muvを|Cuv|<d×muvを満たす正の整数とした場合に、p=|Cuv|/(d×muv)を成功の確率、muvを試みの回数とするベルヌーイ試行を行い成功の回数がnである時、当初のCuvをCuv’=(Cuvの符号)n×dに置換することを特徴とする吐出パターン生成方法。(但し、u、vは1≦u≦X、1≦v≦Yを満たす正の整数)。
【請求項2】
請求項1記載の置換されたインキの量Cuv’を、当該セルにインキを吐出するためのk個のノズルの吐出量Cuv’(γ)として振り分ける吐出パターン生成方法であって、ノズルの吐出量の単位をd、muvを|Cuv’|<k×d×muvを満たす最小の正の整数とした場合に、p=|Cuv|/(k×d×muv)を成功の確率、muvを試みの回数とするベルヌーイ試行を行い成功の回数がnである時、Cuv’(γ)=(Cuvの符号)n×dとすることを特徴とする吐出パターン生成方法。(但し、γ=1,2、・・・、k)。
【請求項3】
前記成功の回数を計算する際に使用する乱数は、一様乱数R(j)(0≦R(j)<1)かもしくは前記一様乱数の長周期成分を補正した乱数であることをを特徴とする請求項1及び請求項2に記載の吐出パターン生成方法。
【請求項4】
前記吐出パターンCuvは列単位で一定であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の吐出パターン生成方法。
【請求項5】
前記吐出パターンCuvは、インキ吐出量の理想値と実測値の差分を列単位で算出したものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の吐出パターン生成方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3に記載の吐出パターン生成方法を具備することを特徴とするインキ吐出装置。
【請求項7】
請求項6に記載のインキ吐出装置で製造したことを特徴とするカラーフィルタ。
【請求項8】
請求項6に記載のインキ吐出装置で製造したことを特徴とする有機機能性素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−198546(P2009−198546A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37090(P2008−37090)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】