説明

吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁

【課題】作動流体として水を使用する場合であっても内部漏れがなく、しかも高速作動、省電力化を可能としつつも、騒音、弁部の摩耗、作動流体の脈動の軽減を図ることができる、吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁を提案する。
【解決手段】電磁弁のボディ1内に、アクチュエータへつながる空間領域Kと、バイパス経路17を備えた第2の空間領域Kとを形成し、第1の空間領域Kに、ポペット5を配置し、第2の空間領域Kに、パイロット弁8を配置する。ポペット5に、その先端部、後端部に開孔端を有し、パイロット弁8の駆動により作動流体の流れを生じさせポペット5の先端、後端の圧力均衡を崩して該ポペット5を弁座から離反させて第1の空間領域Kと作動流体送給経路16とを連通させる少なくとも一本の胴部貫通経路5cを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポペットをパイロット弁によって作動させて作動流体をアクチュエータへと送給する、吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁に関するものであり、該電磁弁の駆動中において発生が不可避な騒音、ポペットの摩耗、作動流体の脈動、内部漏れ等を効果的に軽減しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
駆動システムを作動させるための作動流体(圧力媒体)としては従来、鉱物油等の油が使用されてきたが、近年では、システムの安全性や環境保護に対する要求や規制がより厳しくなる傾向にあり、油漏れによる環境汚染や火災等の危険性を回避すべく、水を作動流体とする水圧システムの開発が望まれている。
【0003】
水は鉱物油とは物性が大きく異なるため、機器の性能や耐久性に関し解決すべき問題を多々含んでいるが、最新の材料技術や加工技術、設計等の工夫により水圧ポンプ、水圧用アクチュエータ、水圧サーボ弁の如き水圧機器への適用が可能であると考えられており、水圧システムの実用化への取り組みが積極的に進められている。
【0004】
作動流体として油を使用する電磁弁としては、低電力化のためにバランスピストンを配置した構造のものが知られている。かかる構造のものは、供給側経路とつながるPポートと送給側経路につながるAポートを有する二方向油圧電磁弁であって、高速で作動させることができるとともに内部漏れも非常に少ない利点があり、油圧システムの制御において幅広く使用されている。
【0005】
ところで、上記従来の電磁弁は、作動流体を水とする水圧システムに適用した場合、弁体が閉塞位置にあるにもかかわらず供給圧力が一定の値(2MPa程度)を超えるとAポートから相当量の水が漏れ出てしまうのが避けられない不具合があった。
【0006】
これは、バランスピストンにはシール部材としてのOリングが配置されておらず、水は油に比較して粘度が低いためであると考えられるが、上記の電磁弁は、このような内部漏れの回避は勿論のこと、高速作動性や錆び、潤滑、キャビテーション壊食などの問題をも考慮することが不可欠であって、従来の電磁弁を単に水圧用として使用することは今のところ難しい状況にあった。
【0007】
この点に関する先行技術としては、電磁弁のボディ内に第1の空間領域、第2の空間領域をそれぞれ設け、第1の空間領域に、スプリングを介して弾性支持された主弁(ポペット)を配置し、第2の空間領域に補助弁(ボール弁)を配置し、補助弁の作動(PWM制御)にてバルブシートの通路を開閉させ、それに伴う第1の空間領域内の圧力変化に追随させて主弁のバルブシートを開閉することで作動流体をアクチュエータへ送給する構造になる2段式電磁弁が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
上記2段式電磁弁は、作動流体として水を用いた場合においても内部漏れがなく、しかも、高速で作動させることができる利点があり、水圧システムを容易に構築できる可能性を有しているが、この種の電磁弁は、主弁が往復動する際に、その後端が補助弁のバルブシートの背面に衝突して騒音を発するのが不可避であるばかりでなく、それに伴う弁部の摩耗も著しいうえ、作動流体の脈動の発生も避け難い不具合があり未だ改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003─156170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、作動流体として水を使用する場合であっても内部漏れがなく、しかも高速作動、省電力化を可能としつつも、騒音、弁部の摩耗、作動流体の脈動の軽減を図ることができる吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ソレノイド、コア及びヨークとの組み合わせからなる駆動系にてパイロット弁を駆動することによってボディ内に配置したポペットを作動させてアクチュエータへつながる経路を開閉制御する二段式電磁弁であって、
前記ボディ内に、作動流体供給経路とアクチュエータへつながる作動体送給経路とを合流させる第1の空間領域と、前記作動流体供給経路につながるバイパス経路を備えた第2の空間領域とをそれぞれ形成する仕切り壁を設け、
前記第1の空間領域に、アクチュエータに向けて作動流体を送給する送給口を有するバルブシートと、前記作動流体の供給口を有し一端を前記バルブシートに連結し他端を前記仕切り壁に連結したスリーブと、前記スリーブ内で弾性部材を介して往復移動可能に支持され初期姿勢において前記バルブシートの送給口を閉塞するポペットを配置し、
前記第2の空間領域に、スプリングを介して弾性支持され前記駆動系にて駆動されるパイロット弁を配置し、
前記仕切り壁に、前記第1の空間領域につながる細径の入側通路と、前記第2の空間領域につながり該パイロット弁の駆動によって開通可能な細径の出側通路と、前記入側通路及び前記出側通路にそれぞれつながりその相互間にて容積の拡大された空間領域を形成する空隙部を設け、
前記ポペットに、その先端部、後端部に開孔端を有し、前記パイロット弁の駆動により作動流体の流れを誘導し該ポペットの先端、後端の圧力均衡を崩して該ポペットを弁座から離反させて第1の空間領域と作動流体送給経路とを連通させる少なくとも一本の胴部貫通経路(制御絞り)を形成したことを特徴とする吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁であり、前記入側通路(絞り)、出側通路(絞り)及び空隙部とによって圧力振動を軽減するための吸振器が構成される。
【0012】
上記ポペットの胴部の外表面には、該胴部を周回する少なくとも一つの環状溝(ラビリンス溝)を設けることができる。
【発明の効果】
【0013】
電磁弁のボディ内を仕切り壁により第1の空間領域と、第2の空間領域とに区分し、前記第1の空間領域に、アクチュエータに向けて作動流体を送給する送給口を有するバルブシートと、前記作動流体の供給口を有し一端を前記バルブシートに連結し他端を前記仕切り壁に連結したスリーブと、前記スリーブ内で弾性部材を介して往復移動可能に支持され初期姿勢において前記バルブシートの送給口を閉塞するポペットを配置し、前記第2の空間領域に、スプリングを介して弾性支持され前記駆動系にて駆動されるパイロット弁を配置するとともに該第2の空間領域と前記作動流体送給経路とをバイパス経路を介して連結したため、作動流体として水を用いた場合であっても内部漏れが全くなく、しかも高速で作動させることが可能となり、水圧システムの構築が容易になる。
【0014】
作動流体として水を適用することができるので電気駆動や油圧駆動の電磁弁と異なり耐火性、耐熱性に優れ、とくに油圧駆動式のものにおいて懸念された環境汚染を効果的に回避することが可能であり、食品加工産業、防災産業、半導体産業はもとより、農業機械や水中機械を扱う産業などにおいて幅広く適用し得る。
【0015】
仕切り壁に、入側通路(絞り)、出側通路(絞り)と、これらの通路につながりその相互間にて容積の拡大された空間領域を形成する空隙部を設けて吸振器を構成することにより主弁として機能するポペットが作動しても制御室(第1の空間領域のポペットの後端部側に形成される空間)の圧力振動が減衰されるため該ポペットが穏やかに変位(ストロークエンド及び弁座におけるポペットの急激な衝突が避けられる。)し、駆動条件によってはストロークエンド、先端部での衝突を避けることができる結果、作動音の低減、摩耗の軽減し得るとともに作動流体の脈動も小さくなる。
【0016】
また、制御絞りとして機能する通路(胴部貫通経路)をポペットの内部に設けることにより、ポペットの外周面とスリーブとの間に形成される隙間(摺動隙間)を小さくすることが可能となり、その隙間からの作動流体の漏れが低減され、正確な流量制御が行える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にしたがう吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁の実施の形態をその断面について模式的に示した図である。
【図2】図1に示した高速電磁弁の要部を拡大して示した図である。
【図3】本発明にしたがう高速電磁弁の作動状況の説明図である。
【図4】本は発明に用いて好適なポペットの外観斜視図である。
【図5】本発明にしたがう高速電磁弁を使用した水圧回路を模式的に示した図である。
【図6】パイロット弁の作動遅れ特性の調査を行った結果を示したグラフである。
【図7】デューティとパイロット流量の関係を示したグラフである。
【図8】デューティとメイン流量(ポペットの流量)との関係を調査した結果を示したグラフである。
【図9】本発明にしたがう高速電磁弁のポペットの流動変動を示したグラフである。
【図10】本発明にしたがう高速電磁弁の作動流体の漏れ状況を調査した結果を示したグラフである。
【図11】本発明にしたがう高速電磁弁を作動させた場合におけるポペット変位を計測したグラフである。
【図12】本発明にしたがう高速電磁弁を作動させた場合における平均流量の変化を計測したグラフである。
【図13】(a)(b)は、本発明に適用して好適なポペットを示した図であり、(a)は断面図であり、(b)は外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明をより具体的に説明する。
図1は本発明にしたがう、吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁の実施の形態をその断面につき模式的に示したものである。
【0019】
図において1は電磁弁のボディである。ボディ1はその内部に後述するパイロット弁、主弁として機能するポペットを組み入れるための空間が設けられている。
【0020】
また、2は、ボディ1内に配置され、ボディ1内の空間を、第1の空間領域Kと、第2の空間領域Kに区分する仕切り壁である。この仕切り壁2は、下向きに開放された凹所を有する壁本体2aと、この壁本体2aの下面にОリングの如きシール部材を介して合わさり該凹所を密閉して仕切り壁2の内部に空隙部2bを形成する蓋体2cから構成されている。そして該蓋体2cの中央部には、第1の空間領域Kにつながる細径の入側通路(絞り)2cが形成され、該ブロック2aの中央部には、第2の空間領域Kにつながる細径の出側通路2aが形成されていて該入側通路2c及び出側通路2aはそれぞれ空隙部2bにつながっている。ここに、入側通路2c、出側通路2a、空隙部2bは、第1の空間領域Kと第2の空間領域Kをつなぎ、ここを通して作動流体を流す導通路を形成するものであり、この導通路は、空隙部2bによってその部位の容積(体積)を拡大する空間領域を形成するようになっており、入側通路2c、出側通路2a及び空隙部2bによって吸振器を構成する。
【0021】
3は、第1の空間領域Kに配置されたバルブシートである。このバルブシート3とボディ1の内壁面との間には液密状態を保持するためOリング等のシール部材が配置されており、その中心部にはアクチュエータに向けて作動流体を送給する送給口3aが設けられている。4は、第1の空間領域Kに配置されたスリーブである。このスリーブ4は、作動流体の供給口4aを有し、一端がバルブシート3に連結され他端が仕切り壁2に連結された筒体から構成されている。
【0022】
また、5は、スリーブ4内に配置されたポペット(主弁)である。このポペット5は、スリーブ4の内壁との間で極僅かな隙間(作動流体が漏れ出てポペット5の制御性に影響を与えない程度の隙間)を形成する径からなる円柱状の胴部5aと、この胴部5aの先端に設けられバルブシート3の送給口3aに直接当接して該送給口3aを閉塞する円錐状の弁部5bとからなり、ポペット5の後端でスリーブ4及び仕切り壁2によって取り囲まれた空間を制御室Mとして構成されるものであり、該ポペット5の先端(図中下側)と後端(図中上側)の受圧面積はほぼ等しいか後端のほうが少し大きくなるように設定されている。
【0023】
ポペット5の胴部5aには、その先端部から後端部に向けて内部を貫き、電磁弁の制御絞りを形成する胴部貫通経路5cが設けられており、弁部5bには、胴部貫通経路5cの入口を形成する入側開孔端5cが、また、後端部の側壁には、胴部貫通経路5cの出口を形成する出側開孔端5cがそれぞれ形成されている。出側開孔端5cは、ポペット5の作動停止状態においてスリーブ4との間で極僅かな隙間を形成するように、図2に示すようなオーバーラップ代tを確保する位置に設けられている(オーバーラップ代tを調整することでポペット5の制御特性を変更することができる。)。胴部貫通経路5cの本体部分、入側開孔端5cの形状については、円形あるは角型(正方形や長方形等の四角)形状など任意の形状を適用することができるが、とくに、出側開孔端5cについては該出側開孔端5cを通過する作動流体の流量に比例してポペット5が変位するように角型(四角)形状とするのが望ましい。
【0024】
6は、仕切り壁2の中央部に設けられた凹所6aに着座してポペット5をスリーブ4内で往復移動可能に支持する弾性部材である。この弾性部材6によって支持されたポペット5は、バルブシート3の送給口3aを閉塞しており、これがポペット5の初期姿勢となる。
【0025】
7は、前半部が第2の空間領域Kに入り込み、後半部が第2の空間領域Kから突出した非磁性材からなるスリーブ、8は、スリーブ7の前半部の内側に配置されたパイロット弁、9は、パイロット弁8をスリーブ7内において往復移動可能に支持する弾性部材である。
【0026】
パイロット弁8は、出側通路2bにおけるパイロット流量を制御するためボール形式の例で示した弁体8aと、この弁体8aを保持しスリーブ7内で弾性部材9の付勢力に抗してスライド可能で、かつスリーブ7とともにその後端部を第2の空間領域Kから突出させたプランジャー8bからなっていて、該プランジャー8bには、その周りに作用する圧力を常に一定とする、逆T字状の貫通孔8bが形成されている。
【0027】
10は、非磁性材からなり、スリーブ7の後半部を取り囲むスペーサである。このスペーサ10は、その末端に非磁性材にて形成されたリング10aが装着されている。
【0028】
11は、スリーブ7をスぺーサ10とともにボディ1に強固にねじ止め保持する固定リング、12は、プランジャー8bの端面で隙間を隔ててリング10aに近接配置されコア、13は、コア12に連結して磁路を形成するヨーク、14は、コア12とプランジャー8bの端面で形成された隙間を取り囲むように巻き回されたソレノイドであり、このソレノイド14、コア12、ヨーク13との組み合わせにてパイロット弁8の駆動系を構成しており、この駆動系によってプランジャー8bを弁体8aとともにコア12側に適宜に繰返し吸引することで出側通路2bを開閉してパイロット流量の制御を行う。
【0029】
また、15は、第1の空間領域Kにつながり、該第1の空間領域Kに作動流体を供給する作動流体供給経路、16は作動流体供給経路15を通して供給された作動流体をアクチュータへ送給する作動流体送給経路である。この作動流体供給経路15、作動流体送給経路16は、何れも第1の空間領域Kで合流している。
【0030】
17は、第2の空間領域Kと作動流体送給経路16とをつなぐバイパス経路であり、パイロット弁8の駆動にて仕切り壁1を通り抜けた作動流体は、このバイパス経路17を通って作動流体送給経路16へと送り込まれる。
【0031】
上記の構成になる電磁弁は、パルス幅変調方式(PWM)の高速駆動専用電気回路を用いて駆動系のソレノイド14に過励磁電圧及び消磁電圧を印加することによって作動させるものであって、ソレノイド14に過励磁電圧及び消磁電圧を印加するとパイロット弁8が往復動し該パイロット弁8の弁体8aに適合する仕切り壁2の出側通路2aが開閉する。
【0032】
パイロット弁8の弁体8aの往復動において出側通路2aが開放されるとその要部を図3に示すように、ポペット5の胴部貫通経路5cを通って制御室(コントロールチャンバー)Mに向かう作動流体の流れが生じ、これによりポペット5の後端側の圧力が先端側の圧力に比べて低くなり(ポペット5の先端、後端の圧力均衡が崩れる。)、該ポペット5がバルブシート3の送給口(弁座)3aから浮き上がって開放状態となり作動流体がアクチュエータにつながる作動流体送給経路16へと流れる。
【0033】
一方、パイロット弁8の往復動において出側通路2aが閉となると、ポペット5の後端の圧力と先端の圧力が均衡状態に保たれることとなり、弾性部材6による付勢力でもってポペット5の弁部5bが送給口3aに押しつけられ作動流体のアクチュエータへの送給が停止される。
【0034】
本発明にしたがう電磁弁は、上記のようにPWM搬送波の周波数を調整することで作動流体の流量制御を可能(パイロット弁8における流量に比例してポペット5の変位量も変動する特徴を有する)とする「比例ポペット型二段式高速電磁弁」を構成するものであって、パイロット弁8は小形のソレノイド14を用いて低電力で高速で作動させることが可能であり、送給口3aは、パイロット弁8の往復動に同期したポペット5の往復移動によって開閉するため、パイロット弁8が作動している限り作動流体は送給経路16へと連続的に流れ、該パイロット弁8の駆動が停止されると、ポペット5が送給口3aに確実に合致して作動流体の送給は停止する。
【0035】
また、パイロット弁8の駆動によりポペット5が往復移動する際、そのストロークエンドでその後端面が仕切り壁2の蓋体2bに衝突する一方、その先端部が弁座を構成する送給口3aに衝突し、その場合にはその時の衝突音が作動音となるが、本発明にしたがう電磁弁は吸振器を設けたことによって制御室Mにおける圧力振動が減衰されるためポペット5が穏やかに変位することとなり、パイロット弁8の駆動条件によっては該ポペット5のストロークエンドでの衝突、先端部でのバルブシート3(送給口3a)との衝突を避けることもでき、作動音の防止乃至は低減、衝突に伴う弁部5b、弁座の摩耗の軽減、さらには作動流体の脈動の軽減が図られることになる。ここに、作動流体として水を用いると、水の体積弾性係数は油の約1.4倍であり、同じ圧力変動を吸収するにしても作動流体が水である場合には、吸振器の容積(体積)を約1.4とする必要があり、電磁弁そのものの大型化が避けられないことにもなる。このため、本発明では、吸振器内の水の有効体積弾性係数を下げる手法として吸振器の耐圧強度を確保しつつその薄肉化を図って吸振器の大型化を防ぐようにする。
【0036】
図4は、ポペット5の外観を斜視図で示したものである。ポペット5の外表面には、胴部を周回する少なくとも一つの環状溝(ラビリンス溝)18を設けることが可能であり、この環状溝18によってポペット5とスリーブ7との流体固着現象及び作動不良、摩耗の防止を図ることができる。
【0037】
ポペット5については、その胴部5aに先端部から後端部に伸延する溝部(縦溝)を設けてスリーブ8との間に隙間(30μm 程度)を形成し、この隙間を制御絞りとして機能させることでポペット5の先端、後端の圧力均衡を崩すことにより該送給口3aを開放することができるが、ポペット5に、上記の如き環状溝18を一つ又は複数本設ける場合には、環状溝18とポペット5の胴部に形成した溝部が交差することになるため、作動流体の漏れ(隙間漏れ流量)が大きくなるとともに、摺動隙間の有効長が短縮される結果としてポペット5の制御性が劣化(パイロット流量に対するポペット5の応答性が低下(不感帯が大きくなる)することが懸念される。本発明にしたがう電磁弁は、胴部貫通経路5cを通して作動流体の流れを生じさせるようにしたので、作動流体の漏れ流量を少なくすることが可能となり、かつ環状溝18を設けても該通路と交差することもない。
【0038】
図5は、上掲図1に示した構成になる電磁弁を使用した水圧回路を模式的に示した図である。かかる水圧回路を用い、駆動系のソレノイド14に過励磁電圧及び消磁電圧を印加するパルス幅変調方式(PWM)の高速駆動専用電気回路にて流量制御を行い、パイロット弁8の作動遅れ特性について調査をおこなった結果を図6に示す。
【0039】
この調査は、パイロット弁8の弁体8aあるいはプランジャー8bが仕切り壁1またはコア12に接触する瞬間に大きな衝撃が発生することに着目し、かかる衝撃を衝撃センサーを用いて測定したものであり、図6より明らかな如く、オンオフ入力信号から衝撃信号が発生するまでの約1msの時間がパイロット弁8の開閉作動遅れ時間となっており、高速で作動させることが可能であることがわかる。
【0040】
また、図7はデューティ(入力信号におけるОN時間の全時間(オンオフの時間)に対する割合)とパイロット流量の関係を示したグラフである。
【0041】
図7よりパイロット弁8におけるパイロット流量は全般的にデューティとともに直線的に増加する傾向にあるのが明らかである。
【0042】
図8は、デューティとメイン流量(ポペット5の流量)との関係を調査した結果を示した図である。本発明の電磁弁は二段式の電磁弁であることから、パイロット流量に比較しメイン流量は多いが、パイロット流量の特性がそのまま反映され、図7と同じ傾向にあることが明らかである。
【0043】
図5に示した水圧回路において作動流体送給経路15に配置されたバルブの開度を調整して0〜6MPaの範囲で負荷圧力を与えたときのポペット5の流量変動を示したグラフを図9に示す。図9より明らかなように全般的に負荷圧力が大きいほど流量は少ないが、負荷圧力が1MPaの場合にはデューティが70%以下では無負荷時より多くなっていて、これは、ポペット5の先端(下部)に負荷圧力が働き該ポペット5がより開くためと想定される。
【0044】
図10は、ポペットの最大ストローク0.75mm、摺動隙間(ポペットとスリーブとの間に形成される隙間(半径))を8μm、摺動隙間の長さを6.5mmとして、胴部5aの外表面に二本の環状溝18(サイズ:幅0.5mm、深さ0.5mm)と、制御絞りを形成するための溝部(サイズ:幅0.5mm、深さ1mm)を設けたポペット(比較例)を組み入れた電磁弁(環状溝18と溝部とは交差し、オーバーラップ代は0.17mm)と、上記条件と同じになる二本の環状溝(サイズ:幅0.5mm、深さ0.5mm)を備えた上掲図1に示したようなポペット5を備えた電磁弁(胴部貫通経路の出側開孔端は幅0.4mm、長さ0.65mmの角型形状をなしポペットの後端から4.77mmの位置に設けたものを適用、適合例)につき、作動流体の漏れ(ポペットとスリーブとの間からの漏れ)状況を調査した結果を示したグラフである。
【0045】
図10より明らかなように、本発明にしたがう電磁弁においては、ポペット5とスリーブ4との間における作動流体の漏れが小さいことが明らかである。
【0046】
図11、図12は、制御室Mの体積を33cm、入側通路2c、出側通路2aを0.6mm、空隙部の体積を32cm、ポペットの最大変位を0.72mm、ポペットとスリーブとの間に形成される隙間を8μm(半径)とした電磁弁を用い、PWM(パルス幅変調方式)信号(50Hz)を入力(デューティ(比)を10%〜90%まで0.1秒間隔で断続的に増加させ、各デューティ(比)につき0.1秒間連続して信号を入力)してパイロット弁を駆動した場合におけるポペット変位及び平均流量を計測した結果を示した図である。
【0047】
図11より明らかなように、信号を連続入力している間は、デューティ(比)が10〜90%の範囲でポペットがストロークエンド(0.72mm)と弁座(0mm)の間で微小振動しており、ポペットが先端部、後端部の何れにおいても衝突しておらず、吸振器を適用することによって騒音や摩耗を抑制するのに有効であることが確認できる。
【0048】
また、ポペットの平均流量については、図12に示したように、デューティ(比)の増加に伴って平均流量も増加しており、応答性も良好であることが確かめられた。なお、図中の基準線(デューティ(比)0%と100%を結んだ線)に対してポペットの平均流量は若干多めであるが、これは、ポペットが弁座に対してオフセットした位置を中心に微小振動していることに起因していると考えられる。
【0049】
本発明にしたがう電磁弁は、その構成部材は全てステンレス鋼にて構成することが可能であり、とくにポペット5とその弁座を構成する送給口3a及びパイロット弁8の弁体8aとその弁座は熱処理したステンレス鋼を適用するのが好ましいが、めっき等の表面処理を施したものであれば炭素鋼の如き通常の鋼材でも適用可能であり、ステンレス鋼に限定されるものではない。
【0050】
ポペット5は先端部に円錐状の弁部5bを設けたものを例として示したが、胴部5aよりも細径化され先端先細り形状をなすロッド5dを設けた図13(a)(b)に示すような段付きポペット5を適用することも可能であり、このような構造にすると、ポペット5を軽量化して応答性を改善するのに有用であり、しかも、胴部貫通経路5cを加工しやすい利点がある。
【0051】
ポペット5の流量は、基本的にはパイロット弁8のパイロット流量を制御することによって制御されるが、ポペット5に設けた胴部貫通経路5cについてはパイロット流量の制御範囲に大きな影響を与えるものであって、そのサイズや開口形状、通路の本数等は、電磁弁の性能や作動流体の送給条件に応じて適宜に変更される。なお、図示の例では、胴部貫通経路5cをポペット5の後端部で屈曲させ出側開孔端5cをポペット5の側壁に形成した場合について示したが、該通路の屈曲により作動流体の流れに影響を与えることが懸念される場合には通路を湾曲させてもよい。胴部貫通経路5cは、サイズや通路の断面形状にもよるが少なくとも一本設ける。ポペット5のバランスを考慮に入れると該胴部間通路5cは、等間隔で三本設けるのが最もよい。
【0052】
空隙部2bの容積(体積)、空隙部2bにつながる入側経路2c、出側経路2aのサイズ(開口径、長さ、断面形状、本数等)は、電磁弁の性能、ポペットのサイズ等によって適宜設定される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
作動流体として水を使用する場合であっても内部漏れがなく、しかも高速作動、省電力化を可能としつつも、騒音、弁部の摩耗、作動流体の脈動の軽減を図り得る、吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁が提供できる。
【符号の説明】
【0054】
1 ボディ
2 仕切り壁
2a 壁本体
2b 空隙部
2c 蓋体
3 バルブシート
3a 送給口
4 スリーブ
4a 供給口
5 ポペット
5a 胴部
5b 弁部
6 弾性部材
7 スリーブ
8 パイロット弁
8a 弁体
8b プランジャー
9 弾性部材
10 スペーサ
10a リング
11 固定リング
12 コア
13 ヨーク
14 ソレノイド
15 作動流体供給経路
16 作動流体送給経路
17 バイパス経路
18 環状溝(ラビリンス溝)
第1の空間領域
第2の空間領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソレノイド、コア及びヨークとの組み合わせからなる駆動系にてパイロット弁を駆動することによってボディ内に配置したポペットを作動させてアクチュエータへつながる経路を開閉制御する電磁弁であって、
前記ボディ内に、作動流体供給経路とアクチュエータへつながる作動体送給経路とを合流させる第1の空間領域と、前記作動流体供給経路につながるバイパス経路を備えた第2の空間領域とをそれぞれ形成する仕切り壁を設け、
前記第1の空間領域に、アクチュエータに向けて作動流体を送給する送給口を有するバルブシートと、前記作動流体の供給口を有し一端を前記バルブシートに連結し他端を前記仕切り壁に連結したスリーブと、前記スリーブ内で弾性部材を介して往復移動可能に支持され初期姿勢において前記バルブシートの送給口を閉塞するポペットを配置し、
前記第2の空間領域に、弾性部材を介して支持され前記駆動系にて駆動されるパイロット弁を配置し、
前記仕切り壁に、前記第1の空間領域につながる入側通路と、前記第2の空間領域につながり該パイロット弁の駆動によって開通可能な出側通路と、前記入側通路及び前記出側通路にそれぞれつながりその相互間にて容積の拡大された空間領域を形成する空隙部を設け、
前記ポペットに、その先端部、後端部に開孔端を有し、前記パイロット弁の駆動により作動流体の流れを誘導して該ポペットを弁座から離反させて第1の空間領域と作動流体送給経路とを連通させる少なくとも一本の胴部貫通経路を形成したことを特徴とする吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁。
【請求項2】
前記ポペットは、胴部の外表面を周回する少なくとも一つの環状溝を有する、請求項1記載の吸振器を備えた比例ポペット型二段式高速電磁弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−241904(P2011−241904A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114720(P2010−114720)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成21年11月18日発行 社団法人 日本フルードパワーシステム学会発行 平成21年秋季フルードパワーシステム講演会 講演論文集 第109ページ〜111ページに発表 2.平成21年11月27日公開 社団法人 日本フルードパワーシステム学会、日本機械学会主催 平成21年秋季フルードパワーシステム講演会 講演論文集 第109ページ〜111ページ、表紙、奥付のコピー・平成21年秋季フルードパワーシステム講演会にて発表に使用した資料のコピー
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000222048)東北特殊鋼株式会社 (15)
【Fターム(参考)】