周波数選択性を有する混合器
【課題】
大きな乗算信号を取り出すことが可能で、さらに受信用バンドパスフィルタ機能を有した混合器を提供することを主目的とする。
【解決手段】
磁化固定層、磁化自由層、および前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、高周波信号S1およびローカル信号S2を入力したときに磁気抵抗効果によって当該両信号S1,S2を乗算して電圧信号(乗算信号)S4を生成する磁気抵抗効果素子2から得た乗算信号は、共振特性の強度に応じて増減し、共振周波数f0と両信号S1,S2のそれぞれ周波数f1、f2が一致するときに最大強度を示し、共振周波数f0から周波数f1、f2の両方またはいずれか一つが離れると減衰する。あたかもバンドパスフィルタを挿入したときと同じ効果があり、磁場印加部3による磁場を制御することで、所望のバンドパスフィルタを有する周波数変換装置を提供できる。
大きな乗算信号を取り出すことが可能で、さらに受信用バンドパスフィルタ機能を有した混合器を提供することを主目的とする。
【解決手段】
磁化固定層、磁化自由層、および前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、高周波信号S1およびローカル信号S2を入力したときに磁気抵抗効果によって当該両信号S1,S2を乗算して電圧信号(乗算信号)S4を生成する磁気抵抗効果素子2から得た乗算信号は、共振特性の強度に応じて増減し、共振周波数f0と両信号S1,S2のそれぞれ周波数f1、f2が一致するときに最大強度を示し、共振周波数f0から周波数f1、f2の両方またはいずれか一つが離れると減衰する。あたかもバンドパスフィルタを挿入したときと同じ効果があり、磁場印加部3による磁場を制御することで、所望のバンドパスフィルタを有する周波数変換装置を提供できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子を用いて乗算信号を生成する混合器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信に割り当てられる周波数帯域は飽和しつつある。その対策として「無線オポチュニスティックシステム(radio-opportunistic)」、または「コグニティブ通信」と呼ばれる動的割り当ての概念が研究されている。その原理は周波数スペクトルを解析し、混み合う占有周波数帯域を避け、新たに利用可能な非占有周波数帯域を識別し判断し、通信手法を移行することに本質がある。しかしながら、この動的周波数割り当てを実現するためには、超広帯域の発振器やチューナブルフィルタが必要とされる。
【0003】
一般に携帯端末器の受信性能(感度及び選択性)は周波数選択性を有する周波数選択性減衰器(バンドパスフィルタ)と混合器で決まる。特に周波数帯域を有効に利用し、省エネルギーで遠隔無線通信を実現させるためには高いQ値(Q値とは振動の状態を表し、この値が高いほど振動が安定である。)を持つバンドパスフィルタが望まれる。チューナブルフィルタになる要件として、フィルタの中心周波数が移動でき、且つ、通過帯域を広げたり、狭めたりすることを行なう制御が必要となる。既存のSAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波素子の意味であり、詳細は圧電体の表面を伝播する弾性表面波を利用したフィルタ素子)、BAW(Bulk Acoustic Wave:バルク弾性波と呼ばれる圧電膜自体の共振振動を利用したフィルタ素子)などの振動型共振子では目下実現不可能ではあるものの、携帯端末器に入るようなコンパクトなチューナブルバンドパスフィルタは実現できていない。
【0004】
一方で、磁気抵抗効果素子として磁化固定層と磁化自由層との間に非磁性材料で形成されたスペーサー層を介在させて構成されたTMR(Tunnel Magnetoresistive)素子が知られている。このTMR素子では、電流を流したときにスピン偏極電子が流れて、磁化自由層内に蓄積されるスピン偏極電子の数に応じて磁化自由層の磁化の向き(電子スピンの向き)が変化する。一定の磁場内に配置された磁化自由層では、その磁化の向きを変更しようとしたときに、磁場によって拘束される安定な方向へ復元するように電子スピンに対してトルクが働き、特定の力で揺らされたときに、スピン歳差運動と呼ばれる振動が発生する。
【0005】
近年、TMR素子等の磁気抵抗効果素子に対して高い周波数の交流電流を流した場合において、磁化自由層に流れる交流電流の周波数と磁化の向きに戻ろうとするスピン歳差運動の振動数とが一致したときに、強い共振が発生する現象(スピントルク強磁性共鳴)が発見された(非特許文献1参照)。また、磁気抵抗効果素子に外部から静磁界を印加し、かつこの静磁界の方向を磁化固定層の磁化の方向に対して層内で所定角度傾けた状態では、磁気抵抗効果素子は、RF電流(スピン歳差運動の振動数(共振周波数)と一致する周波数のRF電流)が注入されたときに、注入されたRF電流の振幅の2乗に比例する直流電圧をその両端に発生させる機能、つまり、2乗検波機能(スピントルクダイオード効果)を発揮することが知られている。また、この磁気抵抗効果素子の2乗検波出力は、所定の条件下において半導体pn接合ダイオードの2乗検波出力を上回ることが知られている(非特許文献2参照)。
【0006】
本願出願人は、磁気抵抗効果素子の2乗検波機能に着目して、低いローカルパワーで作動可能な混合器への用途を検討し、既に提案している(特許文献1参照)。磁気抵抗効果素子の混合器は、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部を備え、第1高周波信号S1およびローカル用の第2高周波信号S2を入力したとき、磁気抵抗効果によって乗算信号S4を生成する。しかしながら、乗算信号S4は50Ω整合回路のままでは著しく減衰してしまうことから、前記乗算信号S4に対するインピーダンスが、前記第1高周波信号S1および前記第2高周波信号S2に対するインピーダンスよりも高くなるようにするため、インピーダンス回路(フィルタまたはコンデンサまたはアクティブ素子)を、第1高周波信号S1と第2高周波信号S2を伝送する入力伝送路と前記磁気抵抗効果素子の間に配設することを提案した(特許文献2参照)。
【0007】
上述のような磁気抵抗効果素子の混合器の現象が知られつつも、このような現象を工業的に利用できる高周波デバイスは知られておらず、発見の応用が期待されていた。本願出願人は、磁気抵抗効果素子の2乗検波機能において、共振特性に応じて乗算信号出力が増減し、周波数的な選択性機能があることを知り得たが、高いQ値が得られず、周波数選択範囲がかなり広いため、工業的な応用が見出せなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature, Vol.438,17 November, 2005, pp.339-342
【非特許文献2】まぐね, Vol.2,No.6, 2007, pp.282-290
【特許文献1】特開2009−246615号公報
【特許文献2】特開2010−278713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願出願人が上記の混合器について継続して検討を行った結果、この混合器では、磁気抵抗効果による2乗検波出力(混合器における乗算信号の信号レベル)は、磁気抵抗効果素子の共振特性に大きく依存していることが分かった。そして、共振特性のQ値を高めることで、乗算信号のレベル増大が期待されると共に、工業的応用のため周波数選択性を高めたフィルタ性能も望まれていた。しかし、高精度な受信用バンドパスフィルタ機能を有する混合器は得られていないという課題があった。
【0010】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、乗算信号の出力の低下を回避しつつ、Q値100以上の共振特性を持つことによる周波数選択性減衰器(以下、バンドパスフィルタとも言う)の機能を有する混合器を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく本発明に係る混合器は、磁化固定層、磁化自由層、および前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、第1高周波信号S1およびローカル用の第2高周波信号S2を入力したときに、磁気抵抗効果によって当該両高周波信号を乗算して乗算信号を生成する磁気抵抗効果素子と、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部とを備えるとともに、前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0をローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2に一致させ、かつ第1高周波信号S1の周波数f1は、周波数f2の近傍に設定されたときの前記乗算信号の最大強度と、周波数f2から離れたときの前記乗算信号の減衰域とを用いることによって、前記乗算信号に対する周波数選択性を有する、周波数選択性減衰器を備えるように構成されている。
【0012】
また、本発明に係る混合機は、前記磁場印加部より一定磁場を印加することで前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0を固定し、ローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2を前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0の近傍に設定するとともに、第1高周波信号S1の周波数f1が周波数f2の近傍に設定されたときの前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0から当該高周波信号の周波数f1かつ周波数f2が離れる際に、前記乗算信号の減衰域を用いて、前記乗算信号に対する周波数選択性を有する、周波数選択性減衰器を備える様に構成されている。
【0013】
また、本発明に係る混合器は、前記磁場印加部より発生する磁場が前記磁気抵抗効果素子の磁化自由層に対して膜面方向から膜面法線方向に5°〜175°傾けた角度の範囲になるように磁気抵抗効果素子と磁場印加部とが配置されている。
【0014】
また、本発明に掛かる混合器は、前記乗算信号に対するインピーダンスが前記第1高周波信号および前記第2高周波信号に対するインピーダンスよりも高く、かつ前記第1高周波信号および前記第2高周波信号を伝送する入力伝送路と前記磁気抵抗効果素子との間に配設されたインピーダンス回路とを備え、前記インピーダンス回路は、前記第1高周波信号およびローカル用の前記第2高周波信号の各周波数を通過帯域に含み、かつ前記乗算信号の周波数を減衰帯域に含む第1フィルタで構成され、前記第1フィルタは自己共振周波数帯域が前記通過帯域に規定されている容量性素子またはアクティブ素子で構成され、前記乗算信号を入力して出力伝送路に当該出力伝送路の特性インピーダンスと整合する出力インピーダンスで出力すると共に、入力インピーダンスが当該入力インピーダンスよりも高い値に規定されたインピーダンス回路を備える様に構成されている。
【0015】
本発明に係る混合器によれば、磁気抵抗効果による2乗検波動作(混合動作)で生じる乗算信号は共振特性に応じた信号強度を示し、共振特性が最大になるところと同じ周波数位置に、乗算信号の最大となる減衰曲線となり得る。この減衰曲線の存在は混合器の入力端子または出力端子のいずれかにバンドパスフィルタを挿入したときと同じ効果を有する。
【0016】
本発明に係る混合器によれば、前記磁場印加部より発生する磁場が前記磁気抵抗効果素子の磁化自由層に対して膜面方向から膜面法線方向に5°〜175°傾けた角度の範囲になるように磁場を印加することで、磁気抵抗効果素子は高いQ値の共振特性を得ることができると共に乗算信号を大きく取り出すことができる。乗算信号の持つ減衰曲線は幅狭くなり、従ってバンドパスフィルタ機能の周波数選択性が向上する。
【0017】
本発明に係る混合器において、磁気抵抗効果素子に対して低いインピーダンスのインピーダンス回路を介して減衰の少ない状態で第1高周波信号および第2高周波信号を出力することができるため、混合器のローカル用の第2高周波信号をより少ない電力駆動で第1高周波信号と乗算して、乗算信号を出力することができる結果、一層の省電力化を図ることができる。また、磁気抵抗効果素子によって発生される乗算信号の周波数帯域においてはインピーダンス回路が高いインピーダンスとなるため、磁気抵抗効果素子によって発生される乗算信号の低下(減衰)を回避することができる。
【0018】
また、本発明に係る混合器において、第1高周波信号および第2高周波信号の各周波数を通過帯域に含み、かつ磁気抵抗効果素子によって発生される乗算信号の周波数を減衰帯域に含む第1フィルタでインピーダンス回路を構成したことにより、第1フィルタはパッシブ素子で構成することができるため、インピーダンス回路をアクティブ素子で構成する場合と比較して、一層の省電力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】周波数変換装置100の構成を示す構成図である。
【図2】混合器1の等価回路図である。
【図3】混合器1を評価する評価治具を含む評価系の構成図である。
【図4】膜面方向に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の共振特性と、膜面法線方向に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の共振特性との関係を表した図である。
【図5】磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の共振特性とその共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とのスペクトル図を表し、f2は4GHzに固定し、f1に3GHz、3.5GHz、4GHz、4.5GHzの近傍値を取った関係を示している。
【図6】磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の共振特性とその共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とのスペクトル図を表し、f1とf2にそれぞれ3GHzと3.05GHz、3.5GHzと3.55GHz、4GHzと4.05GHz、4.5GHzと4.55GHzを取った関係を示している。
【図7a】3GHz信号S1および3.05GHzローカル信号S2のスペクトル図である。
【図7b】3GHz信号S1および3.05GHzローカル信号S2を入力したときの電圧信号(乗算信号)S4のスペクトル図である。
【図8a】3.5GHz信号S1および3.55GHzローカル信号S2のスペクトル図である。
【図8b】3.5GHz信号S1および3.55GHzローカル信号S2を入力したときの電圧信号(乗算信号)S4のスペクトル図である。
【図9a】4GHz信号S1および4.05GHzローカル信号S2のスペクトル図である。
【図9b】4GHz信号S1および4.05GHzローカル信号S2を入力したときの電圧信号(乗算信号)S4のスペクトル図である。
【図10a】4.5GHz信号S1および4.55GHzローカル信号S2のスペクトル図である。
【図10b】4.5GHz信号S1および4.55GHzローカル信号S2を入力したときの電圧信号(乗算信号)S4のスペクトル図である。
【図11】磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの信号S1の周波数に対する電圧信号(乗算信号)S4の減衰曲線(バンドパスフィルタ)のスペクトル図である。
【図12】磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の持つバンドパスフィルタと混合器の機能を示す等価回路図である。
【図13】磁気抵抗効果素子2(TMR素子)近傍の斜視図である。
【図14】本発明の面内方向に磁化された磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21、磁化固定層23の磁化方向の向きである。
【図15a】磁気抵抗効果素子2に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21、磁化固定層23の磁化方向の向きである。
【図15b】磁気抵抗効果素子2に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21、磁化固定層23の磁化方向の向きである。
【図16】本発明の面直方向に磁化された磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21、磁化固定層23の磁化方向の向きである。
【図17】本発明の面直方向に磁化された磁気抵抗効果素子2の図1におけるW−W線断面図である。
【図18】磁気抵抗効果素子2と底部磁性体32f、32gの近傍の斜視図である。
【図19】インピーダンス回路4のインピーダンス特性図を示す概念図である。
【図20】インピーダンス回路4を構成するハイパスフィルタのインピーダンス特性図を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、混合器および周波数変換装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
最初に、混合器1、および混合器1を含む周波数変換装置100の構成について、図面を参照して説明する。なお、一例として周波数変換装置100を受信装置RXに適用した例を挙げて説明する。
【0022】
図1に示す周波数変換装置100は、アンテナ101と共に受信装置RXを構成する。周波数変換装置100は、アンテナ101から出力されるRF信号SRFを受信する受信装置RXの高周波段に配置されて、RF信号SRFの周波数f1を乗算信号S3の所望の周波数に変換する機能を有している。一例として周波数変換装置100は、混合器1と共に、アンプ11、信号生成部12、フィルタ13および出力端子14a,14b(以下、特に区別しないときには出力端子14ともいう)を備えている。アンプ11は、RF信号SRFを入力すると共に増幅して、信号S1(第1高周波信号)として出力する。信号生成部12は、いわゆる局部発振器として機能して、周波数がf2のローカル信号(第2高周波信号)S2を生成する。信号生成部12は、一例として、−15dBm±5dBmのローカル信号S2を生成して出力する。また、このようにして出力された信号S1およびローカル信号S2は、特性インピーダンスが50Ωに規定された信号伝送路(例えばマイクロストリップライン。以下、「伝送路」ともいう)L1を介してインピーダンス回路4に伝送される。
【0023】
混合器1は、磁気抵抗効果素子2、磁場印加部3、インピーダンス回路4およびインピーダンス変換回路5を備え、アンプ11から出力された信号S1(周波数f1)と、信号生成部12によって生成されるローカル信号S2(周波数f2)とを乗算して、乗算信号としての出力信号S5を出力する。この場合、出力信号S5には、周波数f1,f2の信号、および周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・などの各乗算信号が含まれている。なお、信号生成部12については、周波数変換装置100にとって必須の構成ではなく、RF信号SRFと共に周波数変換装置100の外部から入力する構成とすることもできる。また、図1に示す混合器1は、図2に示すような等価回路で表される。
【0024】
本実施例として図3に示す評価治具ECを用いて、混合器1において発生する電圧信号S4についての評価を行った。この評価治具ECは、信号S1を生成して出力するネットワークアナライザ(アジレント社製:型名8720ES)51と、ローカル信号S2を生成して出力する信号生成部12としての信号発生器(アジレント社製:型名83620B)と、ネットワークアナライザ51および信号生成部12と同軸ケーブルで接続されると共に伝送路L1に接続されて、各信号S1,S2を伝送路L1に入力するBNC端子52と、マイクロストリップラインで形成されてBNC端子52およびコンデンサ4a接続する伝送路L1と、コンデンサ4a(TDK社製:1005型チップコンデンサ(4pF))と、マイクロストリップラインで形成されてコンデンサ4aおよび磁気抵抗効果素子2を接続する伝送路Lmと、伝送路Lmおよびグランドプレーン53間にボンディングワイヤ54によって接続された磁気抵抗効果素子2と、伝送路Lmに接続されたλ/4スタブライン55およびこのλ/4スタブライン55に接続された扇型のλ/4スタブ56でカットフィルタに形成されて電圧信号S4を出力するフィルタ13とを備えて構成されている。ここで、λはローカル信号S2(周波数f2)の波長である。磁気抵抗効果素子2で発生する信号に含まれている上記の各周波数成分のうち、周波数成分f1,f2は他の周波数成分(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・と比較して、かなりレベルの大きい信号であるため、減衰させる必要がある。この場合、信号S1の周波数f1はローカル信号S2の周波数f2の近傍である。したがって、ローカル信号S2を減衰させる共振器の長さλ/4は、両周波数成分f1,f2を減衰させる長さとして有効な長さに規定されている。
【0025】
この評価治具ECに設置された磁気抵抗効果素子2は、磁場印加部3より膜面法線方向の磁化成分が与えられるように構成されている。図4は磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して膜面方向に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の共振特性のスペクトル図と、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して膜面法線方向に磁場Hを印加したときのそれぞれの磁気抵抗効果素子2の共振特性のスペクトル図を比較したものであるが、膜面法線方向に磁場Hを印加したとき高いQ値の共振特性が得られ、大きな乗算信号を出力することができる。さらに、磁場印加部3より発生する磁場Hが磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して膜面方向から膜面法線方向に5°〜175°傾けた角度の範囲になるように調整されることで、さらに磁気抵抗効果素子2は高いQ値100以上の共振特性が得られ、最大の乗算信号の出力を得ることができる。この高いQ値100以上は受信性能(感度及び周波数選択性)を多いに向上させることができ、バンドパスフィルタ機能を有する混合器として使用できる。
【0026】
図5は、磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の共振特性とその共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とのスペクトル図を表している。磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0をローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2に一致させ、かつ第1高周波信号S1の周波数f1は、通常は周波数f2の近傍の周波数に設定されるようにしたとき乗算信号は最大強度となり、第1高周波信号S1の周波数f1が周波数f2から離れるときに、共振特性の減少に伴い、乗算信号は徐々に減衰する減衰域を有する。磁気抵抗効果素子2による当該周波数変換動作に伴い、減衰動作、則ちバンドパスフィルタを挿入したことと同じ効果(本発明における周波数選択性減衰器)を有する。なお、磁気抵抗効果素子2で発生する2乗検波出力としての乗算信号の各周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・を生成するが、図5では(f1+f2),(f1−f2)のみを示している。
【0027】
図6は、磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の共振特性とその共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とスペクトル図を表している。磁場印加強さを一定にすることにより、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0を固定し、その共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とのスペクトル図を複数表記しているが、f1とf2、f1´とf2´、f1´´とf2´´、f1´´´とf2´´´にはそれぞれ3GHzと3.05GHz、3.5GHzと3.55GHz、4GHzと4.05GHz、4.5GHzと4.55GHzを取った関係を示している。特に、第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)との間では一定の周波数差を持たせることで、前記乗算信号の(f1−f2)のスペクトル図が同じ位置に出現するように設定されている。磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0から離れるとき、前記乗算信号は徐々に減衰する減衰域を有する。磁気抵抗効果素子2による当該周波数変換動作に伴い、減衰動作、則ちバンドパスフィルタを挿入したことと同じ効果(本発明における周波数選択性減衰器)を有する。なお、磁気抵抗効果素子2で発生する2乗検波出力としての乗算信号の各周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・を生成するが、図6では磁気抵抗効果素子2で発生する2乗検波出力としての乗算信号(f1−f2)のみを示している。
【0028】
本実施例の評価治具ECを用いた評価によれば、図7aに示すように、信号レベルが−15dBmの信号S1(周波数f1=3.05GHz)、および信号レベルが−15dBmのローカル信号S2(周波数f2=3.0GHz)を入力したときに、磁気抵抗効果素子2は、図7bに示すように、伝送路Lmのインピーダンスが高い値に維持されていることと相俟って、信号レベル(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)が−65dBmの電圧信号S4を発生させることができる。
【0029】
同様に、同評価具ECを用いて、図8aに示すように信号レベルが−15dBmの信号S1(周波数f1=3.55GHz)、および信号レベルが−15dBmのローカル信号S2(周波数f2=3.5GHz)を入力したときに、図8bに示すように信号レベル(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)が−50dBmの電圧信号S4を発生させることができる。
【0030】
同様に、同評価具ECを用いて、図9aに示すように信号レベルが−15dBmの信号S1(周波数f1=4.05GHz)、および信号レベルが−15dBmのローカル信号S2(周波数f2=4.0GHz)を入力したときに、図9bに示すように信号レベル(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)が−42dBmの電圧信号S4を発生させることができる。
【0031】
同様に、同評価具ECを用いて、図10aに示すように信号レベルが−15dBmの信号S1(周波数f1=4.55GHz)、および信号レベルが−15dBmのローカル信号S2(周波数f2=4.5GHz)を入力したときに、図10bに示すように信号レベル(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)が−50dBmの電圧信号S4を発生させることができる。
【0032】
上記のように信号S1(周波数f1)およびローカル信号S2(周波数f2)のそれぞれf1、f2をそれぞれ3GHzと3.05GHz、3.5GHzとt3.55GHz、4GHzと4.05GHz、4.5GHzと4.55GHzに設定したとき、電圧信号S4(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)のスペクトル図に表れたピーク高さをプロットしたグラフが図11である。この電圧信号S4の大きさの変化は、磁気抵抗効果素子2の共振特性のレベルに応じた周波数選択性を持っている。本例によれば、磁気抵抗効果素子2の共振特性の周波数ピーク4GHzにあるとき、第1高周波信号S1およびローカル用の第2高周波信号S2が同じ4GHz近傍を入力するとき、電圧信号S4は最大強度を示し、第1高周波信号S1およびローカル用の第2高周波信号S2が4GHzから離れると減衰する。4GHzに最大強度ピークを持つようなバンドパスフィルタを入れたときと同じ効果がある。この磁気抵抗効果素子2による2乗検波動作(混合動作)によって生じるバンドパスフィルタ特性は磁気抵抗効果素子2の共振特性のQ値と乗算信号のレベルに大きく影響する。磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して膜面法線方向に掛かるように構成されていることで、高いQ値の共振特性が得られて上記バンドパスフィルタ特性は通過帯域の狭いものができる。特に無線通信のバンドフィルタに適用するため、磁気抵抗効果素子2の2乗検波動作(混合器動作)におけるバンドパスフィルタはQ値100以上の通過帯域の狭いものが必須である。
【0033】
図12は磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときに、磁気抵抗効果素子2に内在するバンドパスフィルタ7と混合器8を示す等価回路図である。第1高周波信号S1の入力端子に当たるRF In、ローカル用の第2高周波信号S2の入力端子に当たるLo In、乗算信号の出力端子に当たるIF Outを分けているが、磁気抵抗効果素子の場合、RF InとLo InとIF Outの3つの入出力端子は1本の信号線に束ねられている。
【0034】
図12のバンドパスフィルタ7(本発明における周波数選択性減衰器)は、磁気抵抗効果素子2の共振特性の最大強度と減衰域は、その共振周波数f0内における第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)との周波数位置によって決まる。一般の混合器は乗算信号が動作周波数領域内で平坦な特性を持ち、乗算信号を一定の大きさで出力する。図12は、磁気抵抗効果素子2の乗算信号の生成に関係して、バンドパスフィルタ7と平坦な特性を持つ混合器8の組み合わせによる等価回路を表している。
【0035】
次に、本発明の実施の形態に係る磁気抵抗効果素子2について、磁性層膜面に対して面内方向に磁化された磁化自由層21、磁化固定層23を含むTMR素子の構成を図13,図14に示されている。具体的には、磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21、スペーサー層22、磁化固定層23および反強磁性層24を備え、この順に積層された状態で、上部電極25と下部電極26との間に、磁化自由層21がキャップ層25aと一つのビアを通じて上部電極25に接続され、かつ反強磁性層24がキャップ層26aと他のもう一つのビアを通じて下部電極26に接続された状態で配設されている。但し、上部電極25と下部電極26に接続されるビアは図1で図示していない。この場合、磁化自由層21は、強磁性材料で感磁層として構成されている。スペーサー層22は、非磁性スペーサー層であって、絶縁性を有する非磁性材料で構成されて、トンネルバリア層として機能する。なお、スペーサー層22は、通常1nm以下の厚みで形成される。また、下部電極26はグランドに接続されている。磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21と磁化固定層23の材料として、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)などの磁性金属と、その磁性合金からなるもので、さらに磁性合金にB(ボロン)を混入して飽和磁化を下げた合金などがある。
【0036】
磁化固定層23は、一例として、図13に示すように、磁化方向が固定された強磁性層(第2磁性層)23a、Ru(ルテニウム)などの金属からなる非磁性層23b、および磁化方向が強磁性層23aと逆向きとなるように固定された他の強磁性層(第1磁性層)23cとを備え、強磁性層23cが反強磁性層24の上部に位置するように各層がこの順に積層されて構成されている。一例として、磁化固定層23の積層構成はCoFe(コバルト鉄)−Ru(ルテニウム)−CoFe(コバルト鉄)の多層膜などが使用できる。
【0037】
磁気抵抗効果素子2に関して、磁化自由層21の共鳴運動をより大きく起こり易くするためには、その大きさを200nm角よりも小さくし、素子抵抗値も高周波伝送回路との整合を取るため直流抵抗値において、50Ωに近付けることが好ましい。トンネルバリア層22は、単結晶MgOx(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOx(0<x<1)層(以下、「MgO層」と称する。)により形成されていることが好ましい。 さらにトンネルバリア層22とBCC構造(体心立方格子構造:Body-Centered Cubic lattice)を有する磁化自由層21との間にCoFeB(コバルト鉄ボロン)の界面層(図においては省略されている)と、トンネルバリア層22とBCC構造を有する磁化固定層23との間にCoFeB(コバルト鉄ボロン)の界面層(図においては省略されている)とを設けることによりコヒーレントトンネル効果が期待でき、高い磁気抵抗変化率が得られることで好ましい。
【0038】
磁気抵抗効果素子2の面内方向に磁化された磁化自由層21、磁化固定層23は、膜面に対して法線方向の外部磁場を印加される影響で、図15a、図15bのように磁化方向が曲げられている。図15aは面直磁場Hが印加されないとき膜面に対して平行に近い磁化状態にあったが、面直磁場Hが印加されたとき磁化自由層21の磁化は面内方向から法線方向に強く曲げられている。図15bは面直磁場Hが印加されないとき膜面に対して反平行に近い磁化状態にあったが、面直磁場Hが印加されたとき磁化自由層21の磁化は面内方向から法線方向に強く曲げられている。
【0039】
次に、本発明の実施の形態に係る磁気抵抗効果素子2について、磁性層膜面に対して法線方向に磁化された磁化自由層21を含むTMR素子(但し、磁化固定層23は磁性層膜面に対して面内方向に磁化されている)の構成を図16に示す。具体的には、磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21、スペーサー層22および磁化固定層23を備え、この順に積層された状態で、上部電極25と下部電極26との間に、磁化自由層21が右部電極26に接続され、かつ磁化固定層23が左部電極25に接続された状態で配設されている。この場合、磁化自由層21は、強磁性材料で感磁層として構成されている。スペーサー層22は、非磁性スペーサー層であって、絶縁性を有する非磁性材料で構成されて、トンネルバリア層として機能する。なお、スペーサー層22は、通常1nm以下の厚みで形成される。また、下部電極25はグランドに接続されている。
【0040】
前記磁気抵抗効果素子2の磁性層膜面に対して法線方向に磁化された磁化自由層21について説明する。磁化自由層21は、磁性層膜面に対して法線方向に高い保磁力を持つ磁性材料に対して、組成比の調整、不純物の添加、厚さの調整などを行って保磁力を下げる。一例として、CoFeB(コバルト鉄ボロン)などの磁気異方性エネルギー密度が小さい磁性材料から構成してもよい。磁化自由層21の共鳴運動をより大きく起こり易くするためには、その大きさを200nm角よりも小さくし、素子抵抗値も高周波伝送回路との整合を取るため直流抵抗値において、50Ωに近付けることが好ましい。トンネルバリア層22は、単結晶MgOx(001)が好ましく、トンネルバリア層22と磁化自由層21との間にはコヒーレントトンネル効果が期待できるように調整することで高い磁気抵抗変化率が得られることでより好ましい。
【0041】
磁場印加部3は、図1に示すように、磁場発生用配線31、磁気ヨーク32および電流供給部33を備えている。磁場発生用配線31は、図17に示すように、上部電極25を介して磁気抵抗効果素子2の上方に配設されている。磁気ヨーク32は、頂部磁性体32a、側面部磁性体32b,32c、下部磁性体32d,32e、および底部磁性体32f,32gを備えている。この場合、頂部磁性体32aは、磁場発生用配線31の上方に配設されている。側面部磁性体32bは、磁場発生用配線31の一方の側方(一例として、図17では右側方)に配設されて、頂部磁性体32aに接続されている。また、側面部磁性体32cは、磁場発生用配線31の他方の側方(一例として、図17では左側方)に配設されて、頂部磁性体32aに接続されている。下部磁性体32dは、磁気抵抗効果素子2の一方の側方(一例として、図17では右側方)に配設されて、側面部磁性体32bに接続されている。また、下部磁性体32eは、磁気抵抗効果素子2の他方の側方(一例として、図17では左側方)に配設されて、側面部磁性体32cに接続されている。この構成により、下部磁性体32e、側面部磁性体32c、頂部磁性体32a、側面部磁性体32bおよび下部磁性体32dは、この順に連結されて全体として短冊状に形成され、かつ図1に示すように磁場発生用配線31を跨ぐようにして磁気抵抗効果素子2の上方に配設されている。
【0042】
底部磁性体32fは、図17に示すように、下部磁性体32dに接続された状態で下部磁性体32dの下方に配設されている。また、底部磁性体32fは、その磁気抵抗効果素子2方向の端部側が、磁気抵抗効果素子2の上部電極25および下部電極26間にこれらと絶縁された状態で進入すると共に、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21における一方の側面近傍に達している。底部磁性体32gは、下部磁性体32eに接続された状態で下部磁性体32eの下方に配設されている。また、底部磁性体32eも、その磁気抵抗効果素子2方向の端部側が、上部電極25および下部電極26間にこれらと絶縁された状態で進入すると共に、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21における他方の側面近傍に達している。
【0043】
磁気ヨーク32は、上記の構成により、磁場発生用配線31に電流Iが流れたときに磁場発生用配線31の周囲に発生する磁界に対する閉磁路を形成して、図17に示すように、この閉磁路のギャップとなる部位(一対の底部磁性体32f,32g間の隙間)に配設された磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して磁場Hを印加する。なお、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21と上部電極25との間を電気的に接続するためキャップ層25a及び一つのビアが存在し、かつ反強磁性層24と下部電極26との間を電気的に接続するためキャップ層26aともう一つのビアが存在する。また、本例では、上述した磁場印加部3の磁場発生用配線31および磁気ヨーク32は、公知の半導体製造プロセスを利用して、シリコンウエハ上に形成される。同様に、磁気抵抗効果素子2は公知の半導体製造プロセスを利用してシリコンウエハ上に形成されるが、1つの素子ごとに切り出される。磁気抵抗効果素子2は、磁気ヨーク32の底部磁性体32f、32g間の隙間に設置する。図18のθに示すように磁場Hの方向と磁化自由層21の膜面方向の傾き角度θが増減するように回転させることで、相対的な角度に傾けることができる。磁化自由層21に対して、膜面法線方向の磁化成分を与えることで、磁気抵抗効果素子2の持つ共振特性のQ値を高めることができるように設置されている。
【0044】
電流供給部33は、頂部磁性体32aの両側から延出する磁場発生用配線31の各端部に接続されて、磁場発生用配線31に電流Iを供給する。また、電流供給部33は、この電流Iの電流値を変更可能に構成されている。したがって、磁場印加部3は、電流供給部33から出力される電流Iの電流値を変更することにより、磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hの強さを変更することで、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0を変更可能となっている。なお、本例では、磁気ヨーク32内を通過する磁場発生用配線31の数は1つに形成されているが、磁場発生用配線31をコイル状に形成して、磁気ヨーク32内を通過する磁場発生用配線31の数を複数とする構成を採用することにより、磁場Hの強さを強めることもできる。
【0045】
次に、インピーダンス回路4は後述する電圧信号(乗算信号)S4に対するインピーダンス(入出力間のインピーダンス)が信号S1,S2に対するインピーダンス(入出力間のインピーダンス)よりも高く、かつ上記した特性インピーダンスが50Ωに規定された伝送路(入力伝送路)L1と、磁気抵抗効果素子2に接続されて特性インピーダンスが50Ωに規定された伝送路Lmとの間に形成された僅かな長さのギャップを跨ぐようにして両伝送路L1,Lm間に配設されている。この場合、インピーダンス回路4は、伝送路L1を介して伝送された信号S1,S2に対するインピーダンスが伝送路L1の特性インピーダンス(50Ω)よりも低く、その低いインピーダンスを介して伝送路L1から伝送路Lmに信号S1,S2を出力する。つまり、インピーダンス回路4は、信号S1,S2を含む周波数帯域の信号に対しては、入出力間のインピーダンスが低いインピーダンス素子として機能して、これらの信号S1,S2を、その振幅をできる限り減衰させないようにして通過させる。また、インピーダンス回路4は、磁気抵抗効果素子2において発生する2乗検波出力(乗算信号であって、周波数(f1±f2)の電圧信号S4)の信号に対しては、磁気抵抗効果素子2側から見たインピーダンス(入出力間のインピーダンス)が伝送路L1,Lmの特性インピーダンス(50Ω)よりも高いインピーダンス(好ましくは、500Ω以上のインピーダンス)となるように規定されている。
【0046】
混合器1では、後述するように、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0をローカル信号S2の周波数f2に一致させ、かつ信号S1の周波数f1は、通常は周波数f2の近傍の周波数に設定される。したがって、インピーダンス回路4は、一例として、図19に示すようなインピーダンス特性を備えた帯域通過型フィルタ(バンドパスフィルタ)、または図20に示すような高周波通過型フィルタ(ハイパスフィルタ)で構成することができる。この場合、この帯域通過型フィルタは、同19または図20に示すように、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0(ローカル信号S2の周波数f2)、および信号S1の周波数f1を通過帯域に含み、かつ磁気抵抗効果素子2で発生する2乗検波出力としての乗算信号の各周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・を減衰帯域に含むインピーダンス特性に規定されている。また、インピーダンス回路4は、例えば、カップリングコンデンサを有して構成されて、磁気抵抗効果素子2において発生する2乗検波出力の直流成分のアンプ11側や信号生成部12への漏れ出しを阻止する機能も備えている。
【0047】
インピーダンス変換回路5は、一例として演算増幅器5aを用いて構成されている。本例では、演算増幅器5aは、その一方の入力端子が上部電極25に接続され、他方の入力端子がグランドに接続されて、差動増幅器として機能する。これにより、演算増幅器は、コンデンサ4aを介して信号S1およびローカル信号S2が入力されることに起因して磁気抵抗効果素子2の両端間に発生する電圧信号S4を入力し、その電圧信号S4を増幅して出力信号S5として出力伝送路L2(以下では、「伝送路L2」ともいう。例えば、マイクロストリップライン)に出力する。また、演算増幅器5aは、一般的に入力インピーダンスは極めて高く、また出力インピーダンスは十分に低いという特性を有している。したがって、この構成により、演算増幅器5aは、磁気抵抗効果素子2の両端間に発生する電圧信号S4を、出力インピーダンスよりも高い入力インピーダンスで入力し、入力した電圧信号S4を出力信号S5に増幅して、低インピーダンスで出力するため、インピーダンス変換部として機能する。この場合、演算増幅器5aは、出力伝送路L2の特性インピーダンスと整合する出力インピーダンスで出力信号S5を出力する。フィルタ13は、一例として帯域通過型フィルタ(BPF:第2フィルタ)で構成されると共に伝送路L2に配設されて、出力信号S5から所望の周波数の信号のみを通過させることで、乗算信号S3として出力端子14に出力する。具体的には、フィルタ13は、各周波数(f1−f2),(f1+f2)のうちのいずれかの周波数(所望の周波数)の信号を通過させる。
【0048】
次に、混合器1の混合動作および周波数変換装置100の周波数変換動作について説明する。一例として、アンテナ101を介して受信したRF信号SRF(周波数f1=4.05GHz)が入力され、信号生成部12はローカル信号S2(周波数f2=4.0GHz(<f1))を生成するものとする。また、インピーダンス回路4は最もコストの安いチップコンデンサ4aを使用し、その通過帯域内に、両信号S1,S2の周波数f1,f2が含まれているものとする。また、図12に示すように磁気抵抗効果素子2の共振特性は、ローカル信号S2の周波数f2においてピークを示すのが好ましい。このため、電流供給部33から磁場発生用配線31に供給する電流Iの電流値は、共振周波数f0をローカル信号S2の周波数f2に一致させる磁場Hを磁気抵抗効果素子2に印加し得る値に規定されているものとする。また、ローカル信号S2は、磁気抵抗効果素子2に対して共振を発生させ得る電流を供給可能な電力(例えば−15dBm±5dBm)に規定されているものとする。また、混合器1による混合動作によって差動増幅部5から出力される出力信号S5には、各信号S1,S2の周波数成分(f1,f2)、および各乗算信号の周波数成分((f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・)が含まれているが、これらの周波数成分のうちの所望の周波数成分(周波数成分(f1+f2)または周波数成分(f1−f2)。本例では一例として低域の周波数成分(f1−f2))を通過させ、これ以外の周波数の信号の通過を阻止し得るようにフィルタ13が構成されているものとする。この場合、フィルタ13は、帯域通過型フィルタで構成されているが、低域通過型フィルタであってもよい。
【0049】
この周波数変換装置100では、電流供給部33から電流Iが供給されている状態(磁気抵抗効果素子2に磁場Hが印加されている状態)において、信号生成部12から混合器1にローカル信号S2(周波数f2)が入力されている。このとき、ローカル信号S2はインピーダンス回路4(コンデンサ4a)を極めて減衰の少ない状態で通過して磁気抵抗効果素子2に出力される。また、ローカル信号S2はその周波数f2が磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0と一致させ、且つそのローカル信号S2の電力が磁気抵抗効果素子2に対して最大共振を発生するように設定されている。このとき、アンテナ101からアンプ11にRF信号SRF(周波数f1)が入力され、アンプ11が信号S1の出力を開始すると、磁気抵抗効果素子2は、2つの信号S1,S2に対して2乗検波動作を実行する。このとき、信号S1は、インピーダンス回路4(コンデンサ4a)で反射することなく極めて減衰の少ない状態で通過して磁気抵抗効果素子2に出力される。
【0050】
この場合、磁気抵抗効果素子2は、共振状態において半導体pn接合ダイオードと比較して僅かな順方向電圧で2乗検波動作(整流作用)を発揮するため、磁気抵抗効果素子2は、この順方向電圧を磁気抵抗効果素子2に発生させるためのローカル信号S2の電力が半導体pn接合ダイオードを使用したときに必要とされる電力(例えば10dBm)よりも少ない状態であっても2乗検波動作を実行し、信号S1およびローカル信号S2を乗算して、その両端間に電圧信号S4を発生させる。この際に、磁気抵抗効果素子2において直流電圧が生成されたとしても、コンデンサ4aが、その直流電圧のアンテナや信号生成部12への漏れ出しを阻止して(直流をカットして)、磁気抵抗効果素子2を保護すると共にアンテナや信号生成部12を保護する。
【0051】
また、磁気抵抗効果素子2による2乗検波動作(混合動作)によって生成される電圧信号S4は、上記したように2つの周波数成分(f1+f2,f1−f2)を含む種々の周波数成分で構成されているが、これらの周波数成分はコンデンサ4aの通過帯域を外れた減衰帯域に含まれる周波数成分である。このため、これら周波数成分(f1+f2,f1−f2)についてのコンデンサ4a(つまり、インピーダンス回路4)のインピーダンスは、信号S1(周波数f1)およびローカル信号S2(周波数f2)についてのコンデンサ4aのインピーダンスよりも大きな値となる。特に、本例の周波数変換装置100において出力される乗算信号S3と同じ周波数(f1−f2=50MHz)の周波数成分についてのコンデンサ4aのインピーダンスは、1000Ωを超える高い値となる。また、上記したように、磁気抵抗効果素子2に接続されているインピーダンス変換回路5を構成する演算増幅器5aの入力インピーダンスも極めて高い値(通常は、数百KΩ以上)となっている。したがって、磁気抵抗効果素子2によって電圧信号S4が出力される伝送路Lmのインピーダンスが高い値(1000Ωを超える値)であるため、磁気抵抗効果素子2は、上記したように、レベルの大きな電圧信号S4を発生して伝送路Lmに出力する。
【0052】
このように、この混合器1および周波数変換装置100では、伝送路L1と磁気抵抗効果素子2との間に配設されたインピーダンス回路4が、伝送路L1を介して入力した信号S1(周波数f1)およびローカル信号S2(周波数f2)に対しては伝送路L1の特性インピーダンスよりも低い自身のインピーダンスを介して磁気抵抗効果素子2に出力することで、磁気抵抗効果素子2に減衰の少ない状態で出力すると共に、磁気抵抗効果素子2によって発生される電圧信号(乗算信号)S4の周波数帯域においては、信号S1,S2に対するインピーダンスよりも高い出力インピーダンスとなるように規定されている。したがって、この混合器1および周波数変換装置100によれば、磁気抵抗効果素子2に対して減衰の少ない状態で信号S1およびローカル信号S2を出力することができるため、より少ない電力のローカル信号S2で信号S1とローカル信号S2とを混合(乗算)して、言い換えれば、ローカル信号S2をより少ない電力駆動で信号S1と乗算して、乗算信号S3(周波数成分(f1−f2))を出力することができる結果、一層の省電力化を図ることができる。また、磁気抵抗効果素子2によって発生される電圧信号(乗算信号)S4の周波数帯域においてインピーダンス回路4が高いインピーダンスとなるため、磁気抵抗効果素子2によって発生される電圧信号(乗算信号)S4の低下(減衰)を回避することもできる結果、乗算信号S3の出力の低下も回避することができる。
【0053】
なお、上記の構成に限定されず、種々の構成を採用することもできる。例えば、磁気抵抗効果素子2としてMgO−TMR素子などのTMR素子を使用した例について上記したが、CPP−GMR(Current-Perpendicular-to-Plane giant magnetoresistance)素子などの他の磁気抵抗効果素子を使用することもできる。スペーサー層22の材料として絶縁体や金属や半導体を用いることができる。例えば、絶縁体としてMgO、Al2O3、TiOを用いることができる。又、金属としてはCu、Ag、Au、Cr又はこれらのうち少なくとも1つ以上の元素を含む合金材料を用いることもできる。又、半導体として酸化物半導体が上げられるが、一例として酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)を用いることもできる。なお、半導体を用いたスペーサー層の膜は、第1と第2の非磁性膜(Cu、Ag、Au、Cr、Znのいずれか1つの金属またはその合金からなる)の間に上記酸化物半導体を挟んで構成される。
【0054】
また、上記の例では、磁場印加部3から磁気抵抗効果素子2に印加される磁場Hの強さを変更可能な構成を採用しているが、ローカル信号S2の周波数f2が固定であるときには、磁場印加部3が発生させる磁場Hの強さも固定でよいため、例えば永久磁石などで構成して磁場の強さを一定に維持する構成を採用することもできる。この構成によれば、磁場印加部3を簡易な構造とすることができるため、製品コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 混合器
2 磁気抵抗効果素子
3 磁場印加部
4 インピーダンス回路
4a コンデンサ
5 インピーダンス変換回路
5a 演算増幅器
6 磁気抵抗効果素子の共振特性
6a 膜面方向の磁場Hの印加による磁気抵抗効果素子の共振特性
6b 膜面法線方向の磁場Hの印加による磁気抵抗効果素子の共振特性
7 バンドパスフィルタ
8 混合器
11 RFアンプ
12 ローカル用の信号生成部
13 フィルタ
21 磁化自由層
22 スペーサー層
23 磁化固定層
100 周波数変換装置
H 磁場
SRF RF信号
S1 信号
S2 ローカル信号
S3 乗算信号
S4 磁気抵抗効果素子より出力された乗算信号
S5 磁気抵抗効果素子より出力され、後段アンプで電力増幅された乗算信号
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子を用いて乗算信号を生成する混合器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信に割り当てられる周波数帯域は飽和しつつある。その対策として「無線オポチュニスティックシステム(radio-opportunistic)」、または「コグニティブ通信」と呼ばれる動的割り当ての概念が研究されている。その原理は周波数スペクトルを解析し、混み合う占有周波数帯域を避け、新たに利用可能な非占有周波数帯域を識別し判断し、通信手法を移行することに本質がある。しかしながら、この動的周波数割り当てを実現するためには、超広帯域の発振器やチューナブルフィルタが必要とされる。
【0003】
一般に携帯端末器の受信性能(感度及び選択性)は周波数選択性を有する周波数選択性減衰器(バンドパスフィルタ)と混合器で決まる。特に周波数帯域を有効に利用し、省エネルギーで遠隔無線通信を実現させるためには高いQ値(Q値とは振動の状態を表し、この値が高いほど振動が安定である。)を持つバンドパスフィルタが望まれる。チューナブルフィルタになる要件として、フィルタの中心周波数が移動でき、且つ、通過帯域を広げたり、狭めたりすることを行なう制御が必要となる。既存のSAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波素子の意味であり、詳細は圧電体の表面を伝播する弾性表面波を利用したフィルタ素子)、BAW(Bulk Acoustic Wave:バルク弾性波と呼ばれる圧電膜自体の共振振動を利用したフィルタ素子)などの振動型共振子では目下実現不可能ではあるものの、携帯端末器に入るようなコンパクトなチューナブルバンドパスフィルタは実現できていない。
【0004】
一方で、磁気抵抗効果素子として磁化固定層と磁化自由層との間に非磁性材料で形成されたスペーサー層を介在させて構成されたTMR(Tunnel Magnetoresistive)素子が知られている。このTMR素子では、電流を流したときにスピン偏極電子が流れて、磁化自由層内に蓄積されるスピン偏極電子の数に応じて磁化自由層の磁化の向き(電子スピンの向き)が変化する。一定の磁場内に配置された磁化自由層では、その磁化の向きを変更しようとしたときに、磁場によって拘束される安定な方向へ復元するように電子スピンに対してトルクが働き、特定の力で揺らされたときに、スピン歳差運動と呼ばれる振動が発生する。
【0005】
近年、TMR素子等の磁気抵抗効果素子に対して高い周波数の交流電流を流した場合において、磁化自由層に流れる交流電流の周波数と磁化の向きに戻ろうとするスピン歳差運動の振動数とが一致したときに、強い共振が発生する現象(スピントルク強磁性共鳴)が発見された(非特許文献1参照)。また、磁気抵抗効果素子に外部から静磁界を印加し、かつこの静磁界の方向を磁化固定層の磁化の方向に対して層内で所定角度傾けた状態では、磁気抵抗効果素子は、RF電流(スピン歳差運動の振動数(共振周波数)と一致する周波数のRF電流)が注入されたときに、注入されたRF電流の振幅の2乗に比例する直流電圧をその両端に発生させる機能、つまり、2乗検波機能(スピントルクダイオード効果)を発揮することが知られている。また、この磁気抵抗効果素子の2乗検波出力は、所定の条件下において半導体pn接合ダイオードの2乗検波出力を上回ることが知られている(非特許文献2参照)。
【0006】
本願出願人は、磁気抵抗効果素子の2乗検波機能に着目して、低いローカルパワーで作動可能な混合器への用途を検討し、既に提案している(特許文献1参照)。磁気抵抗効果素子の混合器は、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部を備え、第1高周波信号S1およびローカル用の第2高周波信号S2を入力したとき、磁気抵抗効果によって乗算信号S4を生成する。しかしながら、乗算信号S4は50Ω整合回路のままでは著しく減衰してしまうことから、前記乗算信号S4に対するインピーダンスが、前記第1高周波信号S1および前記第2高周波信号S2に対するインピーダンスよりも高くなるようにするため、インピーダンス回路(フィルタまたはコンデンサまたはアクティブ素子)を、第1高周波信号S1と第2高周波信号S2を伝送する入力伝送路と前記磁気抵抗効果素子の間に配設することを提案した(特許文献2参照)。
【0007】
上述のような磁気抵抗効果素子の混合器の現象が知られつつも、このような現象を工業的に利用できる高周波デバイスは知られておらず、発見の応用が期待されていた。本願出願人は、磁気抵抗効果素子の2乗検波機能において、共振特性に応じて乗算信号出力が増減し、周波数的な選択性機能があることを知り得たが、高いQ値が得られず、周波数選択範囲がかなり広いため、工業的な応用が見出せなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature, Vol.438,17 November, 2005, pp.339-342
【非特許文献2】まぐね, Vol.2,No.6, 2007, pp.282-290
【特許文献1】特開2009−246615号公報
【特許文献2】特開2010−278713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願出願人が上記の混合器について継続して検討を行った結果、この混合器では、磁気抵抗効果による2乗検波出力(混合器における乗算信号の信号レベル)は、磁気抵抗効果素子の共振特性に大きく依存していることが分かった。そして、共振特性のQ値を高めることで、乗算信号のレベル増大が期待されると共に、工業的応用のため周波数選択性を高めたフィルタ性能も望まれていた。しかし、高精度な受信用バンドパスフィルタ機能を有する混合器は得られていないという課題があった。
【0010】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、乗算信号の出力の低下を回避しつつ、Q値100以上の共振特性を持つことによる周波数選択性減衰器(以下、バンドパスフィルタとも言う)の機能を有する混合器を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく本発明に係る混合器は、磁化固定層、磁化自由層、および前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、第1高周波信号S1およびローカル用の第2高周波信号S2を入力したときに、磁気抵抗効果によって当該両高周波信号を乗算して乗算信号を生成する磁気抵抗効果素子と、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部とを備えるとともに、前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0をローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2に一致させ、かつ第1高周波信号S1の周波数f1は、周波数f2の近傍に設定されたときの前記乗算信号の最大強度と、周波数f2から離れたときの前記乗算信号の減衰域とを用いることによって、前記乗算信号に対する周波数選択性を有する、周波数選択性減衰器を備えるように構成されている。
【0012】
また、本発明に係る混合機は、前記磁場印加部より一定磁場を印加することで前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0を固定し、ローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2を前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0の近傍に設定するとともに、第1高周波信号S1の周波数f1が周波数f2の近傍に設定されたときの前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0から当該高周波信号の周波数f1かつ周波数f2が離れる際に、前記乗算信号の減衰域を用いて、前記乗算信号に対する周波数選択性を有する、周波数選択性減衰器を備える様に構成されている。
【0013】
また、本発明に係る混合器は、前記磁場印加部より発生する磁場が前記磁気抵抗効果素子の磁化自由層に対して膜面方向から膜面法線方向に5°〜175°傾けた角度の範囲になるように磁気抵抗効果素子と磁場印加部とが配置されている。
【0014】
また、本発明に掛かる混合器は、前記乗算信号に対するインピーダンスが前記第1高周波信号および前記第2高周波信号に対するインピーダンスよりも高く、かつ前記第1高周波信号および前記第2高周波信号を伝送する入力伝送路と前記磁気抵抗効果素子との間に配設されたインピーダンス回路とを備え、前記インピーダンス回路は、前記第1高周波信号およびローカル用の前記第2高周波信号の各周波数を通過帯域に含み、かつ前記乗算信号の周波数を減衰帯域に含む第1フィルタで構成され、前記第1フィルタは自己共振周波数帯域が前記通過帯域に規定されている容量性素子またはアクティブ素子で構成され、前記乗算信号を入力して出力伝送路に当該出力伝送路の特性インピーダンスと整合する出力インピーダンスで出力すると共に、入力インピーダンスが当該入力インピーダンスよりも高い値に規定されたインピーダンス回路を備える様に構成されている。
【0015】
本発明に係る混合器によれば、磁気抵抗効果による2乗検波動作(混合動作)で生じる乗算信号は共振特性に応じた信号強度を示し、共振特性が最大になるところと同じ周波数位置に、乗算信号の最大となる減衰曲線となり得る。この減衰曲線の存在は混合器の入力端子または出力端子のいずれかにバンドパスフィルタを挿入したときと同じ効果を有する。
【0016】
本発明に係る混合器によれば、前記磁場印加部より発生する磁場が前記磁気抵抗効果素子の磁化自由層に対して膜面方向から膜面法線方向に5°〜175°傾けた角度の範囲になるように磁場を印加することで、磁気抵抗効果素子は高いQ値の共振特性を得ることができると共に乗算信号を大きく取り出すことができる。乗算信号の持つ減衰曲線は幅狭くなり、従ってバンドパスフィルタ機能の周波数選択性が向上する。
【0017】
本発明に係る混合器において、磁気抵抗効果素子に対して低いインピーダンスのインピーダンス回路を介して減衰の少ない状態で第1高周波信号および第2高周波信号を出力することができるため、混合器のローカル用の第2高周波信号をより少ない電力駆動で第1高周波信号と乗算して、乗算信号を出力することができる結果、一層の省電力化を図ることができる。また、磁気抵抗効果素子によって発生される乗算信号の周波数帯域においてはインピーダンス回路が高いインピーダンスとなるため、磁気抵抗効果素子によって発生される乗算信号の低下(減衰)を回避することができる。
【0018】
また、本発明に係る混合器において、第1高周波信号および第2高周波信号の各周波数を通過帯域に含み、かつ磁気抵抗効果素子によって発生される乗算信号の周波数を減衰帯域に含む第1フィルタでインピーダンス回路を構成したことにより、第1フィルタはパッシブ素子で構成することができるため、インピーダンス回路をアクティブ素子で構成する場合と比較して、一層の省電力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】周波数変換装置100の構成を示す構成図である。
【図2】混合器1の等価回路図である。
【図3】混合器1を評価する評価治具を含む評価系の構成図である。
【図4】膜面方向に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の共振特性と、膜面法線方向に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の共振特性との関係を表した図である。
【図5】磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の共振特性とその共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とのスペクトル図を表し、f2は4GHzに固定し、f1に3GHz、3.5GHz、4GHz、4.5GHzの近傍値を取った関係を示している。
【図6】磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の共振特性とその共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とのスペクトル図を表し、f1とf2にそれぞれ3GHzと3.05GHz、3.5GHzと3.55GHz、4GHzと4.05GHz、4.5GHzと4.55GHzを取った関係を示している。
【図7a】3GHz信号S1および3.05GHzローカル信号S2のスペクトル図である。
【図7b】3GHz信号S1および3.05GHzローカル信号S2を入力したときの電圧信号(乗算信号)S4のスペクトル図である。
【図8a】3.5GHz信号S1および3.55GHzローカル信号S2のスペクトル図である。
【図8b】3.5GHz信号S1および3.55GHzローカル信号S2を入力したときの電圧信号(乗算信号)S4のスペクトル図である。
【図9a】4GHz信号S1および4.05GHzローカル信号S2のスペクトル図である。
【図9b】4GHz信号S1および4.05GHzローカル信号S2を入力したときの電圧信号(乗算信号)S4のスペクトル図である。
【図10a】4.5GHz信号S1および4.55GHzローカル信号S2のスペクトル図である。
【図10b】4.5GHz信号S1および4.55GHzローカル信号S2を入力したときの電圧信号(乗算信号)S4のスペクトル図である。
【図11】磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの信号S1の周波数に対する電圧信号(乗算信号)S4の減衰曲線(バンドパスフィルタ)のスペクトル図である。
【図12】磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の持つバンドパスフィルタと混合器の機能を示す等価回路図である。
【図13】磁気抵抗効果素子2(TMR素子)近傍の斜視図である。
【図14】本発明の面内方向に磁化された磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21、磁化固定層23の磁化方向の向きである。
【図15a】磁気抵抗効果素子2に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21、磁化固定層23の磁化方向の向きである。
【図15b】磁気抵抗効果素子2に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21、磁化固定層23の磁化方向の向きである。
【図16】本発明の面直方向に磁化された磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21、磁化固定層23の磁化方向の向きである。
【図17】本発明の面直方向に磁化された磁気抵抗効果素子2の図1におけるW−W線断面図である。
【図18】磁気抵抗効果素子2と底部磁性体32f、32gの近傍の斜視図である。
【図19】インピーダンス回路4のインピーダンス特性図を示す概念図である。
【図20】インピーダンス回路4を構成するハイパスフィルタのインピーダンス特性図を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、混合器および周波数変換装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
最初に、混合器1、および混合器1を含む周波数変換装置100の構成について、図面を参照して説明する。なお、一例として周波数変換装置100を受信装置RXに適用した例を挙げて説明する。
【0022】
図1に示す周波数変換装置100は、アンテナ101と共に受信装置RXを構成する。周波数変換装置100は、アンテナ101から出力されるRF信号SRFを受信する受信装置RXの高周波段に配置されて、RF信号SRFの周波数f1を乗算信号S3の所望の周波数に変換する機能を有している。一例として周波数変換装置100は、混合器1と共に、アンプ11、信号生成部12、フィルタ13および出力端子14a,14b(以下、特に区別しないときには出力端子14ともいう)を備えている。アンプ11は、RF信号SRFを入力すると共に増幅して、信号S1(第1高周波信号)として出力する。信号生成部12は、いわゆる局部発振器として機能して、周波数がf2のローカル信号(第2高周波信号)S2を生成する。信号生成部12は、一例として、−15dBm±5dBmのローカル信号S2を生成して出力する。また、このようにして出力された信号S1およびローカル信号S2は、特性インピーダンスが50Ωに規定された信号伝送路(例えばマイクロストリップライン。以下、「伝送路」ともいう)L1を介してインピーダンス回路4に伝送される。
【0023】
混合器1は、磁気抵抗効果素子2、磁場印加部3、インピーダンス回路4およびインピーダンス変換回路5を備え、アンプ11から出力された信号S1(周波数f1)と、信号生成部12によって生成されるローカル信号S2(周波数f2)とを乗算して、乗算信号としての出力信号S5を出力する。この場合、出力信号S5には、周波数f1,f2の信号、および周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・などの各乗算信号が含まれている。なお、信号生成部12については、周波数変換装置100にとって必須の構成ではなく、RF信号SRFと共に周波数変換装置100の外部から入力する構成とすることもできる。また、図1に示す混合器1は、図2に示すような等価回路で表される。
【0024】
本実施例として図3に示す評価治具ECを用いて、混合器1において発生する電圧信号S4についての評価を行った。この評価治具ECは、信号S1を生成して出力するネットワークアナライザ(アジレント社製:型名8720ES)51と、ローカル信号S2を生成して出力する信号生成部12としての信号発生器(アジレント社製:型名83620B)と、ネットワークアナライザ51および信号生成部12と同軸ケーブルで接続されると共に伝送路L1に接続されて、各信号S1,S2を伝送路L1に入力するBNC端子52と、マイクロストリップラインで形成されてBNC端子52およびコンデンサ4a接続する伝送路L1と、コンデンサ4a(TDK社製:1005型チップコンデンサ(4pF))と、マイクロストリップラインで形成されてコンデンサ4aおよび磁気抵抗効果素子2を接続する伝送路Lmと、伝送路Lmおよびグランドプレーン53間にボンディングワイヤ54によって接続された磁気抵抗効果素子2と、伝送路Lmに接続されたλ/4スタブライン55およびこのλ/4スタブライン55に接続された扇型のλ/4スタブ56でカットフィルタに形成されて電圧信号S4を出力するフィルタ13とを備えて構成されている。ここで、λはローカル信号S2(周波数f2)の波長である。磁気抵抗効果素子2で発生する信号に含まれている上記の各周波数成分のうち、周波数成分f1,f2は他の周波数成分(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・と比較して、かなりレベルの大きい信号であるため、減衰させる必要がある。この場合、信号S1の周波数f1はローカル信号S2の周波数f2の近傍である。したがって、ローカル信号S2を減衰させる共振器の長さλ/4は、両周波数成分f1,f2を減衰させる長さとして有効な長さに規定されている。
【0025】
この評価治具ECに設置された磁気抵抗効果素子2は、磁場印加部3より膜面法線方向の磁化成分が与えられるように構成されている。図4は磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して膜面方向に磁場Hを印加したときの磁気抵抗効果素子2の共振特性のスペクトル図と、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して膜面法線方向に磁場Hを印加したときのそれぞれの磁気抵抗効果素子2の共振特性のスペクトル図を比較したものであるが、膜面法線方向に磁場Hを印加したとき高いQ値の共振特性が得られ、大きな乗算信号を出力することができる。さらに、磁場印加部3より発生する磁場Hが磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して膜面方向から膜面法線方向に5°〜175°傾けた角度の範囲になるように調整されることで、さらに磁気抵抗効果素子2は高いQ値100以上の共振特性が得られ、最大の乗算信号の出力を得ることができる。この高いQ値100以上は受信性能(感度及び周波数選択性)を多いに向上させることができ、バンドパスフィルタ機能を有する混合器として使用できる。
【0026】
図5は、磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の共振特性とその共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とのスペクトル図を表している。磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0をローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2に一致させ、かつ第1高周波信号S1の周波数f1は、通常は周波数f2の近傍の周波数に設定されるようにしたとき乗算信号は最大強度となり、第1高周波信号S1の周波数f1が周波数f2から離れるときに、共振特性の減少に伴い、乗算信号は徐々に減衰する減衰域を有する。磁気抵抗効果素子2による当該周波数変換動作に伴い、減衰動作、則ちバンドパスフィルタを挿入したことと同じ効果(本発明における周波数選択性減衰器)を有する。なお、磁気抵抗効果素子2で発生する2乗検波出力としての乗算信号の各周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・を生成するが、図5では(f1+f2),(f1−f2)のみを示している。
【0027】
図6は、磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときの磁気抵抗効果素子2の共振特性とその共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とスペクトル図を表している。磁場印加強さを一定にすることにより、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0を固定し、その共振周波数f0内に第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)とのスペクトル図を複数表記しているが、f1とf2、f1´とf2´、f1´´とf2´´、f1´´´とf2´´´にはそれぞれ3GHzと3.05GHz、3.5GHzと3.55GHz、4GHzと4.05GHz、4.5GHzと4.55GHzを取った関係を示している。特に、第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)との間では一定の周波数差を持たせることで、前記乗算信号の(f1−f2)のスペクトル図が同じ位置に出現するように設定されている。磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0から離れるとき、前記乗算信号は徐々に減衰する減衰域を有する。磁気抵抗効果素子2による当該周波数変換動作に伴い、減衰動作、則ちバンドパスフィルタを挿入したことと同じ効果(本発明における周波数選択性減衰器)を有する。なお、磁気抵抗効果素子2で発生する2乗検波出力としての乗算信号の各周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・を生成するが、図6では磁気抵抗効果素子2で発生する2乗検波出力としての乗算信号(f1−f2)のみを示している。
【0028】
本実施例の評価治具ECを用いた評価によれば、図7aに示すように、信号レベルが−15dBmの信号S1(周波数f1=3.05GHz)、および信号レベルが−15dBmのローカル信号S2(周波数f2=3.0GHz)を入力したときに、磁気抵抗効果素子2は、図7bに示すように、伝送路Lmのインピーダンスが高い値に維持されていることと相俟って、信号レベル(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)が−65dBmの電圧信号S4を発生させることができる。
【0029】
同様に、同評価具ECを用いて、図8aに示すように信号レベルが−15dBmの信号S1(周波数f1=3.55GHz)、および信号レベルが−15dBmのローカル信号S2(周波数f2=3.5GHz)を入力したときに、図8bに示すように信号レベル(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)が−50dBmの電圧信号S4を発生させることができる。
【0030】
同様に、同評価具ECを用いて、図9aに示すように信号レベルが−15dBmの信号S1(周波数f1=4.05GHz)、および信号レベルが−15dBmのローカル信号S2(周波数f2=4.0GHz)を入力したときに、図9bに示すように信号レベル(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)が−42dBmの電圧信号S4を発生させることができる。
【0031】
同様に、同評価具ECを用いて、図10aに示すように信号レベルが−15dBmの信号S1(周波数f1=4.55GHz)、および信号レベルが−15dBmのローカル信号S2(周波数f2=4.5GHz)を入力したときに、図10bに示すように信号レベル(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)が−50dBmの電圧信号S4を発生させることができる。
【0032】
上記のように信号S1(周波数f1)およびローカル信号S2(周波数f2)のそれぞれf1、f2をそれぞれ3GHzと3.05GHz、3.5GHzとt3.55GHz、4GHzと4.05GHz、4.5GHzと4.55GHzに設定したとき、電圧信号S4(周波数(f1−f2)=50MHzのレベル)のスペクトル図に表れたピーク高さをプロットしたグラフが図11である。この電圧信号S4の大きさの変化は、磁気抵抗効果素子2の共振特性のレベルに応じた周波数選択性を持っている。本例によれば、磁気抵抗効果素子2の共振特性の周波数ピーク4GHzにあるとき、第1高周波信号S1およびローカル用の第2高周波信号S2が同じ4GHz近傍を入力するとき、電圧信号S4は最大強度を示し、第1高周波信号S1およびローカル用の第2高周波信号S2が4GHzから離れると減衰する。4GHzに最大強度ピークを持つようなバンドパスフィルタを入れたときと同じ効果がある。この磁気抵抗効果素子2による2乗検波動作(混合動作)によって生じるバンドパスフィルタ特性は磁気抵抗効果素子2の共振特性のQ値と乗算信号のレベルに大きく影響する。磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して膜面法線方向に掛かるように構成されていることで、高いQ値の共振特性が得られて上記バンドパスフィルタ特性は通過帯域の狭いものができる。特に無線通信のバンドフィルタに適用するため、磁気抵抗効果素子2の2乗検波動作(混合器動作)におけるバンドパスフィルタはQ値100以上の通過帯域の狭いものが必須である。
【0033】
図12は磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときに、磁気抵抗効果素子2に内在するバンドパスフィルタ7と混合器8を示す等価回路図である。第1高周波信号S1の入力端子に当たるRF In、ローカル用の第2高周波信号S2の入力端子に当たるLo In、乗算信号の出力端子に当たるIF Outを分けているが、磁気抵抗効果素子の場合、RF InとLo InとIF Outの3つの入出力端子は1本の信号線に束ねられている。
【0034】
図12のバンドパスフィルタ7(本発明における周波数選択性減衰器)は、磁気抵抗効果素子2の共振特性の最大強度と減衰域は、その共振周波数f0内における第1高周波信号S1(周波数f1)とローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)との周波数位置によって決まる。一般の混合器は乗算信号が動作周波数領域内で平坦な特性を持ち、乗算信号を一定の大きさで出力する。図12は、磁気抵抗効果素子2の乗算信号の生成に関係して、バンドパスフィルタ7と平坦な特性を持つ混合器8の組み合わせによる等価回路を表している。
【0035】
次に、本発明の実施の形態に係る磁気抵抗効果素子2について、磁性層膜面に対して面内方向に磁化された磁化自由層21、磁化固定層23を含むTMR素子の構成を図13,図14に示されている。具体的には、磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21、スペーサー層22、磁化固定層23および反強磁性層24を備え、この順に積層された状態で、上部電極25と下部電極26との間に、磁化自由層21がキャップ層25aと一つのビアを通じて上部電極25に接続され、かつ反強磁性層24がキャップ層26aと他のもう一つのビアを通じて下部電極26に接続された状態で配設されている。但し、上部電極25と下部電極26に接続されるビアは図1で図示していない。この場合、磁化自由層21は、強磁性材料で感磁層として構成されている。スペーサー層22は、非磁性スペーサー層であって、絶縁性を有する非磁性材料で構成されて、トンネルバリア層として機能する。なお、スペーサー層22は、通常1nm以下の厚みで形成される。また、下部電極26はグランドに接続されている。磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21と磁化固定層23の材料として、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)などの磁性金属と、その磁性合金からなるもので、さらに磁性合金にB(ボロン)を混入して飽和磁化を下げた合金などがある。
【0036】
磁化固定層23は、一例として、図13に示すように、磁化方向が固定された強磁性層(第2磁性層)23a、Ru(ルテニウム)などの金属からなる非磁性層23b、および磁化方向が強磁性層23aと逆向きとなるように固定された他の強磁性層(第1磁性層)23cとを備え、強磁性層23cが反強磁性層24の上部に位置するように各層がこの順に積層されて構成されている。一例として、磁化固定層23の積層構成はCoFe(コバルト鉄)−Ru(ルテニウム)−CoFe(コバルト鉄)の多層膜などが使用できる。
【0037】
磁気抵抗効果素子2に関して、磁化自由層21の共鳴運動をより大きく起こり易くするためには、その大きさを200nm角よりも小さくし、素子抵抗値も高周波伝送回路との整合を取るため直流抵抗値において、50Ωに近付けることが好ましい。トンネルバリア層22は、単結晶MgOx(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOx(0<x<1)層(以下、「MgO層」と称する。)により形成されていることが好ましい。 さらにトンネルバリア層22とBCC構造(体心立方格子構造:Body-Centered Cubic lattice)を有する磁化自由層21との間にCoFeB(コバルト鉄ボロン)の界面層(図においては省略されている)と、トンネルバリア層22とBCC構造を有する磁化固定層23との間にCoFeB(コバルト鉄ボロン)の界面層(図においては省略されている)とを設けることによりコヒーレントトンネル効果が期待でき、高い磁気抵抗変化率が得られることで好ましい。
【0038】
磁気抵抗効果素子2の面内方向に磁化された磁化自由層21、磁化固定層23は、膜面に対して法線方向の外部磁場を印加される影響で、図15a、図15bのように磁化方向が曲げられている。図15aは面直磁場Hが印加されないとき膜面に対して平行に近い磁化状態にあったが、面直磁場Hが印加されたとき磁化自由層21の磁化は面内方向から法線方向に強く曲げられている。図15bは面直磁場Hが印加されないとき膜面に対して反平行に近い磁化状態にあったが、面直磁場Hが印加されたとき磁化自由層21の磁化は面内方向から法線方向に強く曲げられている。
【0039】
次に、本発明の実施の形態に係る磁気抵抗効果素子2について、磁性層膜面に対して法線方向に磁化された磁化自由層21を含むTMR素子(但し、磁化固定層23は磁性層膜面に対して面内方向に磁化されている)の構成を図16に示す。具体的には、磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21、スペーサー層22および磁化固定層23を備え、この順に積層された状態で、上部電極25と下部電極26との間に、磁化自由層21が右部電極26に接続され、かつ磁化固定層23が左部電極25に接続された状態で配設されている。この場合、磁化自由層21は、強磁性材料で感磁層として構成されている。スペーサー層22は、非磁性スペーサー層であって、絶縁性を有する非磁性材料で構成されて、トンネルバリア層として機能する。なお、スペーサー層22は、通常1nm以下の厚みで形成される。また、下部電極25はグランドに接続されている。
【0040】
前記磁気抵抗効果素子2の磁性層膜面に対して法線方向に磁化された磁化自由層21について説明する。磁化自由層21は、磁性層膜面に対して法線方向に高い保磁力を持つ磁性材料に対して、組成比の調整、不純物の添加、厚さの調整などを行って保磁力を下げる。一例として、CoFeB(コバルト鉄ボロン)などの磁気異方性エネルギー密度が小さい磁性材料から構成してもよい。磁化自由層21の共鳴運動をより大きく起こり易くするためには、その大きさを200nm角よりも小さくし、素子抵抗値も高周波伝送回路との整合を取るため直流抵抗値において、50Ωに近付けることが好ましい。トンネルバリア層22は、単結晶MgOx(001)が好ましく、トンネルバリア層22と磁化自由層21との間にはコヒーレントトンネル効果が期待できるように調整することで高い磁気抵抗変化率が得られることでより好ましい。
【0041】
磁場印加部3は、図1に示すように、磁場発生用配線31、磁気ヨーク32および電流供給部33を備えている。磁場発生用配線31は、図17に示すように、上部電極25を介して磁気抵抗効果素子2の上方に配設されている。磁気ヨーク32は、頂部磁性体32a、側面部磁性体32b,32c、下部磁性体32d,32e、および底部磁性体32f,32gを備えている。この場合、頂部磁性体32aは、磁場発生用配線31の上方に配設されている。側面部磁性体32bは、磁場発生用配線31の一方の側方(一例として、図17では右側方)に配設されて、頂部磁性体32aに接続されている。また、側面部磁性体32cは、磁場発生用配線31の他方の側方(一例として、図17では左側方)に配設されて、頂部磁性体32aに接続されている。下部磁性体32dは、磁気抵抗効果素子2の一方の側方(一例として、図17では右側方)に配設されて、側面部磁性体32bに接続されている。また、下部磁性体32eは、磁気抵抗効果素子2の他方の側方(一例として、図17では左側方)に配設されて、側面部磁性体32cに接続されている。この構成により、下部磁性体32e、側面部磁性体32c、頂部磁性体32a、側面部磁性体32bおよび下部磁性体32dは、この順に連結されて全体として短冊状に形成され、かつ図1に示すように磁場発生用配線31を跨ぐようにして磁気抵抗効果素子2の上方に配設されている。
【0042】
底部磁性体32fは、図17に示すように、下部磁性体32dに接続された状態で下部磁性体32dの下方に配設されている。また、底部磁性体32fは、その磁気抵抗効果素子2方向の端部側が、磁気抵抗効果素子2の上部電極25および下部電極26間にこれらと絶縁された状態で進入すると共に、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21における一方の側面近傍に達している。底部磁性体32gは、下部磁性体32eに接続された状態で下部磁性体32eの下方に配設されている。また、底部磁性体32eも、その磁気抵抗効果素子2方向の端部側が、上部電極25および下部電極26間にこれらと絶縁された状態で進入すると共に、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21における他方の側面近傍に達している。
【0043】
磁気ヨーク32は、上記の構成により、磁場発生用配線31に電流Iが流れたときに磁場発生用配線31の周囲に発生する磁界に対する閉磁路を形成して、図17に示すように、この閉磁路のギャップとなる部位(一対の底部磁性体32f,32g間の隙間)に配設された磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21に対して磁場Hを印加する。なお、磁気抵抗効果素子2の磁化自由層21と上部電極25との間を電気的に接続するためキャップ層25a及び一つのビアが存在し、かつ反強磁性層24と下部電極26との間を電気的に接続するためキャップ層26aともう一つのビアが存在する。また、本例では、上述した磁場印加部3の磁場発生用配線31および磁気ヨーク32は、公知の半導体製造プロセスを利用して、シリコンウエハ上に形成される。同様に、磁気抵抗効果素子2は公知の半導体製造プロセスを利用してシリコンウエハ上に形成されるが、1つの素子ごとに切り出される。磁気抵抗効果素子2は、磁気ヨーク32の底部磁性体32f、32g間の隙間に設置する。図18のθに示すように磁場Hの方向と磁化自由層21の膜面方向の傾き角度θが増減するように回転させることで、相対的な角度に傾けることができる。磁化自由層21に対して、膜面法線方向の磁化成分を与えることで、磁気抵抗効果素子2の持つ共振特性のQ値を高めることができるように設置されている。
【0044】
電流供給部33は、頂部磁性体32aの両側から延出する磁場発生用配線31の各端部に接続されて、磁場発生用配線31に電流Iを供給する。また、電流供給部33は、この電流Iの電流値を変更可能に構成されている。したがって、磁場印加部3は、電流供給部33から出力される電流Iの電流値を変更することにより、磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hの強さを変更することで、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0を変更可能となっている。なお、本例では、磁気ヨーク32内を通過する磁場発生用配線31の数は1つに形成されているが、磁場発生用配線31をコイル状に形成して、磁気ヨーク32内を通過する磁場発生用配線31の数を複数とする構成を採用することにより、磁場Hの強さを強めることもできる。
【0045】
次に、インピーダンス回路4は後述する電圧信号(乗算信号)S4に対するインピーダンス(入出力間のインピーダンス)が信号S1,S2に対するインピーダンス(入出力間のインピーダンス)よりも高く、かつ上記した特性インピーダンスが50Ωに規定された伝送路(入力伝送路)L1と、磁気抵抗効果素子2に接続されて特性インピーダンスが50Ωに規定された伝送路Lmとの間に形成された僅かな長さのギャップを跨ぐようにして両伝送路L1,Lm間に配設されている。この場合、インピーダンス回路4は、伝送路L1を介して伝送された信号S1,S2に対するインピーダンスが伝送路L1の特性インピーダンス(50Ω)よりも低く、その低いインピーダンスを介して伝送路L1から伝送路Lmに信号S1,S2を出力する。つまり、インピーダンス回路4は、信号S1,S2を含む周波数帯域の信号に対しては、入出力間のインピーダンスが低いインピーダンス素子として機能して、これらの信号S1,S2を、その振幅をできる限り減衰させないようにして通過させる。また、インピーダンス回路4は、磁気抵抗効果素子2において発生する2乗検波出力(乗算信号であって、周波数(f1±f2)の電圧信号S4)の信号に対しては、磁気抵抗効果素子2側から見たインピーダンス(入出力間のインピーダンス)が伝送路L1,Lmの特性インピーダンス(50Ω)よりも高いインピーダンス(好ましくは、500Ω以上のインピーダンス)となるように規定されている。
【0046】
混合器1では、後述するように、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0をローカル信号S2の周波数f2に一致させ、かつ信号S1の周波数f1は、通常は周波数f2の近傍の周波数に設定される。したがって、インピーダンス回路4は、一例として、図19に示すようなインピーダンス特性を備えた帯域通過型フィルタ(バンドパスフィルタ)、または図20に示すような高周波通過型フィルタ(ハイパスフィルタ)で構成することができる。この場合、この帯域通過型フィルタは、同19または図20に示すように、磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0(ローカル信号S2の周波数f2)、および信号S1の周波数f1を通過帯域に含み、かつ磁気抵抗効果素子2で発生する2乗検波出力としての乗算信号の各周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・を減衰帯域に含むインピーダンス特性に規定されている。また、インピーダンス回路4は、例えば、カップリングコンデンサを有して構成されて、磁気抵抗効果素子2において発生する2乗検波出力の直流成分のアンプ11側や信号生成部12への漏れ出しを阻止する機能も備えている。
【0047】
インピーダンス変換回路5は、一例として演算増幅器5aを用いて構成されている。本例では、演算増幅器5aは、その一方の入力端子が上部電極25に接続され、他方の入力端子がグランドに接続されて、差動増幅器として機能する。これにより、演算増幅器は、コンデンサ4aを介して信号S1およびローカル信号S2が入力されることに起因して磁気抵抗効果素子2の両端間に発生する電圧信号S4を入力し、その電圧信号S4を増幅して出力信号S5として出力伝送路L2(以下では、「伝送路L2」ともいう。例えば、マイクロストリップライン)に出力する。また、演算増幅器5aは、一般的に入力インピーダンスは極めて高く、また出力インピーダンスは十分に低いという特性を有している。したがって、この構成により、演算増幅器5aは、磁気抵抗効果素子2の両端間に発生する電圧信号S4を、出力インピーダンスよりも高い入力インピーダンスで入力し、入力した電圧信号S4を出力信号S5に増幅して、低インピーダンスで出力するため、インピーダンス変換部として機能する。この場合、演算増幅器5aは、出力伝送路L2の特性インピーダンスと整合する出力インピーダンスで出力信号S5を出力する。フィルタ13は、一例として帯域通過型フィルタ(BPF:第2フィルタ)で構成されると共に伝送路L2に配設されて、出力信号S5から所望の周波数の信号のみを通過させることで、乗算信号S3として出力端子14に出力する。具体的には、フィルタ13は、各周波数(f1−f2),(f1+f2)のうちのいずれかの周波数(所望の周波数)の信号を通過させる。
【0048】
次に、混合器1の混合動作および周波数変換装置100の周波数変換動作について説明する。一例として、アンテナ101を介して受信したRF信号SRF(周波数f1=4.05GHz)が入力され、信号生成部12はローカル信号S2(周波数f2=4.0GHz(<f1))を生成するものとする。また、インピーダンス回路4は最もコストの安いチップコンデンサ4aを使用し、その通過帯域内に、両信号S1,S2の周波数f1,f2が含まれているものとする。また、図12に示すように磁気抵抗効果素子2の共振特性は、ローカル信号S2の周波数f2においてピークを示すのが好ましい。このため、電流供給部33から磁場発生用配線31に供給する電流Iの電流値は、共振周波数f0をローカル信号S2の周波数f2に一致させる磁場Hを磁気抵抗効果素子2に印加し得る値に規定されているものとする。また、ローカル信号S2は、磁気抵抗効果素子2に対して共振を発生させ得る電流を供給可能な電力(例えば−15dBm±5dBm)に規定されているものとする。また、混合器1による混合動作によって差動増幅部5から出力される出力信号S5には、各信号S1,S2の周波数成分(f1,f2)、および各乗算信号の周波数成分((f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・)が含まれているが、これらの周波数成分のうちの所望の周波数成分(周波数成分(f1+f2)または周波数成分(f1−f2)。本例では一例として低域の周波数成分(f1−f2))を通過させ、これ以外の周波数の信号の通過を阻止し得るようにフィルタ13が構成されているものとする。この場合、フィルタ13は、帯域通過型フィルタで構成されているが、低域通過型フィルタであってもよい。
【0049】
この周波数変換装置100では、電流供給部33から電流Iが供給されている状態(磁気抵抗効果素子2に磁場Hが印加されている状態)において、信号生成部12から混合器1にローカル信号S2(周波数f2)が入力されている。このとき、ローカル信号S2はインピーダンス回路4(コンデンサ4a)を極めて減衰の少ない状態で通過して磁気抵抗効果素子2に出力される。また、ローカル信号S2はその周波数f2が磁気抵抗効果素子2の共振周波数f0と一致させ、且つそのローカル信号S2の電力が磁気抵抗効果素子2に対して最大共振を発生するように設定されている。このとき、アンテナ101からアンプ11にRF信号SRF(周波数f1)が入力され、アンプ11が信号S1の出力を開始すると、磁気抵抗効果素子2は、2つの信号S1,S2に対して2乗検波動作を実行する。このとき、信号S1は、インピーダンス回路4(コンデンサ4a)で反射することなく極めて減衰の少ない状態で通過して磁気抵抗効果素子2に出力される。
【0050】
この場合、磁気抵抗効果素子2は、共振状態において半導体pn接合ダイオードと比較して僅かな順方向電圧で2乗検波動作(整流作用)を発揮するため、磁気抵抗効果素子2は、この順方向電圧を磁気抵抗効果素子2に発生させるためのローカル信号S2の電力が半導体pn接合ダイオードを使用したときに必要とされる電力(例えば10dBm)よりも少ない状態であっても2乗検波動作を実行し、信号S1およびローカル信号S2を乗算して、その両端間に電圧信号S4を発生させる。この際に、磁気抵抗効果素子2において直流電圧が生成されたとしても、コンデンサ4aが、その直流電圧のアンテナや信号生成部12への漏れ出しを阻止して(直流をカットして)、磁気抵抗効果素子2を保護すると共にアンテナや信号生成部12を保護する。
【0051】
また、磁気抵抗効果素子2による2乗検波動作(混合動作)によって生成される電圧信号S4は、上記したように2つの周波数成分(f1+f2,f1−f2)を含む種々の周波数成分で構成されているが、これらの周波数成分はコンデンサ4aの通過帯域を外れた減衰帯域に含まれる周波数成分である。このため、これら周波数成分(f1+f2,f1−f2)についてのコンデンサ4a(つまり、インピーダンス回路4)のインピーダンスは、信号S1(周波数f1)およびローカル信号S2(周波数f2)についてのコンデンサ4aのインピーダンスよりも大きな値となる。特に、本例の周波数変換装置100において出力される乗算信号S3と同じ周波数(f1−f2=50MHz)の周波数成分についてのコンデンサ4aのインピーダンスは、1000Ωを超える高い値となる。また、上記したように、磁気抵抗効果素子2に接続されているインピーダンス変換回路5を構成する演算増幅器5aの入力インピーダンスも極めて高い値(通常は、数百KΩ以上)となっている。したがって、磁気抵抗効果素子2によって電圧信号S4が出力される伝送路Lmのインピーダンスが高い値(1000Ωを超える値)であるため、磁気抵抗効果素子2は、上記したように、レベルの大きな電圧信号S4を発生して伝送路Lmに出力する。
【0052】
このように、この混合器1および周波数変換装置100では、伝送路L1と磁気抵抗効果素子2との間に配設されたインピーダンス回路4が、伝送路L1を介して入力した信号S1(周波数f1)およびローカル信号S2(周波数f2)に対しては伝送路L1の特性インピーダンスよりも低い自身のインピーダンスを介して磁気抵抗効果素子2に出力することで、磁気抵抗効果素子2に減衰の少ない状態で出力すると共に、磁気抵抗効果素子2によって発生される電圧信号(乗算信号)S4の周波数帯域においては、信号S1,S2に対するインピーダンスよりも高い出力インピーダンスとなるように規定されている。したがって、この混合器1および周波数変換装置100によれば、磁気抵抗効果素子2に対して減衰の少ない状態で信号S1およびローカル信号S2を出力することができるため、より少ない電力のローカル信号S2で信号S1とローカル信号S2とを混合(乗算)して、言い換えれば、ローカル信号S2をより少ない電力駆動で信号S1と乗算して、乗算信号S3(周波数成分(f1−f2))を出力することができる結果、一層の省電力化を図ることができる。また、磁気抵抗効果素子2によって発生される電圧信号(乗算信号)S4の周波数帯域においてインピーダンス回路4が高いインピーダンスとなるため、磁気抵抗効果素子2によって発生される電圧信号(乗算信号)S4の低下(減衰)を回避することもできる結果、乗算信号S3の出力の低下も回避することができる。
【0053】
なお、上記の構成に限定されず、種々の構成を採用することもできる。例えば、磁気抵抗効果素子2としてMgO−TMR素子などのTMR素子を使用した例について上記したが、CPP−GMR(Current-Perpendicular-to-Plane giant magnetoresistance)素子などの他の磁気抵抗効果素子を使用することもできる。スペーサー層22の材料として絶縁体や金属や半導体を用いることができる。例えば、絶縁体としてMgO、Al2O3、TiOを用いることができる。又、金属としてはCu、Ag、Au、Cr又はこれらのうち少なくとも1つ以上の元素を含む合金材料を用いることもできる。又、半導体として酸化物半導体が上げられるが、一例として酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)を用いることもできる。なお、半導体を用いたスペーサー層の膜は、第1と第2の非磁性膜(Cu、Ag、Au、Cr、Znのいずれか1つの金属またはその合金からなる)の間に上記酸化物半導体を挟んで構成される。
【0054】
また、上記の例では、磁場印加部3から磁気抵抗効果素子2に印加される磁場Hの強さを変更可能な構成を採用しているが、ローカル信号S2の周波数f2が固定であるときには、磁場印加部3が発生させる磁場Hの強さも固定でよいため、例えば永久磁石などで構成して磁場の強さを一定に維持する構成を採用することもできる。この構成によれば、磁場印加部3を簡易な構造とすることができるため、製品コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 混合器
2 磁気抵抗効果素子
3 磁場印加部
4 インピーダンス回路
4a コンデンサ
5 インピーダンス変換回路
5a 演算増幅器
6 磁気抵抗効果素子の共振特性
6a 膜面方向の磁場Hの印加による磁気抵抗効果素子の共振特性
6b 膜面法線方向の磁場Hの印加による磁気抵抗効果素子の共振特性
7 バンドパスフィルタ
8 混合器
11 RFアンプ
12 ローカル用の信号生成部
13 フィルタ
21 磁化自由層
22 スペーサー層
23 磁化固定層
100 周波数変換装置
H 磁場
SRF RF信号
S1 信号
S2 ローカル信号
S3 乗算信号
S4 磁気抵抗効果素子より出力された乗算信号
S5 磁気抵抗効果素子より出力され、後段アンプで電力増幅された乗算信号
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化固定層、磁化自由層、および前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、第1高周波信号S1(周波数f1)およびローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)を入力したときに、磁気抵抗効果によって当該両高周波信号を乗算して乗算信号を生成する磁気抵抗効果素子と、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部とを備えるとともに、前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0をローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2に一致させ、かつ第1高周波信号S1の周波数f1は、周波数f2の近傍に設定されたときの前記乗算信号の最大強度と、周波数f2から離れたときの前記乗算信号の減衰域とを用いることによって、前記乗算信号に対する周波数選択性を有する、周波数選択性減衰器を備えることを特徴とする混合器。
【請求項2】
前記磁場印加部より一定磁場を印加することで前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0を固定し、ローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2を前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0の近傍に設定するとともに、第1高周波信号S1の周波数f1が周波数f2の近傍に設定されたときの前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0から当該高周波信号の周波数f1かつ周波数f2が離れる際に、前記乗算信号の減衰域を用いて、前記乗算信号に対する周波数選択性を有する、周波数選択性減衰器を備えることを特徴とする請求項1に記載の混合器。
【請求項3】
前記磁場印加部より発生する磁場が前記磁化自由層の膜面に対して膜面方向から膜面法線方向に5°〜175°傾けた角度の範囲になるように磁気抵抗効果素子と磁場印加部とが配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の混合器。
【請求項4】
前記乗算信号に対するインピーダンスが前記第1高周波信号およびローカル用の前記第2高周波信号に対するインピーダンスよりも高く、かつ前記第1高周波信号およびローカル用の前記第2高周波信号を伝送する入力伝送路と前記磁気抵抗効果素子との間に配設されたインピーダンス回路とを備え、前記インピーダンス回路は、前記第1高周波信号およびローカル用の前記第2高周波信号の各周波数を通過帯域に含み、かつ前記乗算信号の周波数を減衰帯域に含む第1フィルタで構成され、前記第1フィルタは、自己共振周波数帯域が前記通過帯域に規定されている容量性素子またはアクティブ素子で構成され、前記乗算信号を入力して出力伝送路に当該出力伝送路の特性インピーダンスと整合する出力インピーダンスで出力すると共に、入力インピーダンスが当該出力インピーダンスよりも高い値に規定されたインピーダンス変換回路を備えている請求項1乃至3記載の混合器。
【請求項1】
磁化固定層、磁化自由層、および前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、第1高周波信号S1(周波数f1)およびローカル用の第2高周波信号S2(周波数f2)を入力したときに、磁気抵抗効果によって当該両高周波信号を乗算して乗算信号を生成する磁気抵抗効果素子と、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部とを備えるとともに、前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0をローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2に一致させ、かつ第1高周波信号S1の周波数f1は、周波数f2の近傍に設定されたときの前記乗算信号の最大強度と、周波数f2から離れたときの前記乗算信号の減衰域とを用いることによって、前記乗算信号に対する周波数選択性を有する、周波数選択性減衰器を備えることを特徴とする混合器。
【請求項2】
前記磁場印加部より一定磁場を印加することで前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0を固定し、ローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2を前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0の近傍に設定するとともに、第1高周波信号S1の周波数f1が周波数f2の近傍に設定されたときの前記磁気抵抗効果素子の共振周波数f0から当該高周波信号の周波数f1かつ周波数f2が離れる際に、前記乗算信号の減衰域を用いて、前記乗算信号に対する周波数選択性を有する、周波数選択性減衰器を備えることを特徴とする請求項1に記載の混合器。
【請求項3】
前記磁場印加部より発生する磁場が前記磁化自由層の膜面に対して膜面方向から膜面法線方向に5°〜175°傾けた角度の範囲になるように磁気抵抗効果素子と磁場印加部とが配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の混合器。
【請求項4】
前記乗算信号に対するインピーダンスが前記第1高周波信号およびローカル用の前記第2高周波信号に対するインピーダンスよりも高く、かつ前記第1高周波信号およびローカル用の前記第2高周波信号を伝送する入力伝送路と前記磁気抵抗効果素子との間に配設されたインピーダンス回路とを備え、前記インピーダンス回路は、前記第1高周波信号およびローカル用の前記第2高周波信号の各周波数を通過帯域に含み、かつ前記乗算信号の周波数を減衰帯域に含む第1フィルタで構成され、前記第1フィルタは、自己共振周波数帯域が前記通過帯域に規定されている容量性素子またはアクティブ素子で構成され、前記乗算信号を入力して出力伝送路に当該出力伝送路の特性インピーダンスと整合する出力インピーダンスで出力すると共に、入力インピーダンスが当該出力インピーダンスよりも高い値に規定されたインピーダンス変換回路を備えている請求項1乃至3記載の混合器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15a】
【図15b】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15a】
【図15b】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−65986(P2013−65986A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202507(P2011−202507)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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