説明

哺乳動物生物体における哺乳動物乳酸発酵プロセス/好気的グルコース発酵代謝経路を確認および制御する方法

哺乳動物個体における哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路(mam-aGF)の使用の程度および正しいプロセスフローの定性的および定量的検出のための方法は、酵素TKTL1を指示体および標的分子として使用すること、ならびに前記個体(患者)の生体試料中の前記TKTL1の構造的および/または機能的パラメータを、前記個体(患者)の細胞および/または組織におけるmam-aGFの定性的および定量的実行の表示とみなすことを特徴とする。該mam-aGFのインヒビターおよびアクチベーターの使用との組合せにおいて、該方法は、個体(患者)におけるmam-aGFの確認および制御にさらに適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(説明)
本発明は、(1)哺乳動物個体(患者、哺乳動物生物体)における哺乳動物乳酸発酵プロセスまたは哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路、それぞれの定性的および定量的検出のための方法、(2)該プロセス/経路を確認および制御(すなわち阻害または活性化)するための方法、ならびに(3)該プロセス/経路のインヒビターおよびアクチベーターに関する。
【0002】
本発明は、(1)今までに原核細胞から(例えば、乳酸杆菌(lactobacillus)から)のみ知られてきた代謝経路が、哺乳動物生物体、すなわち哺乳動物細胞にも存在し、十分な遊離(分子)酸素が存在しかつ生体利用可能である、すなわち好気的条件が存在するにも関わらず、該代謝経路は、グルコースの乳酸へのエネルギー産生分解を含むという新規科学的発見、および(2)酵素TKTL1が該新規グルコース発酵代謝のトレーサー酵素であるという新規科学的発見に基づいている。
【0003】
哺乳動物細胞は、酸素欠乏の場合においてグルコースを乳酸に分解し得、最終的に筋肉痛を導く。この無酸素グルコース分解は、エムデン−マイヤーホフ経路を介して行われる。1920年代に、Otto Warburgは、十分に利用可能な量の酸素の存在下でも、哺乳動物細胞は、グルコースを乳酸に分解し得るということ、すなわち、哺乳動物細胞は、十分な量の遊離の生体利用可能な酸素の存在下でさえ、グルコースを乳酸に発酵できるということを発見した。彼は、腫瘍組織ならびに網膜および精巣のような特定の健康な組織において酸素の存在下でのこの無酸素グルコース−乳酸分解経路を観察した。歴史的理由のために、酸素の存在下でさえのこの乳酸へのグルコース分解は、好気的解糖またはWarburg効果と命名される。開始点および終点(グルコースおよび乳酸塩)が、エムデン−マイヤーホフ経路を介する酸素の非存在下での乳酸へのグルコース発酵と同じなので、乳酸産生は、エムデン−マイヤーホフ経路の結果として解釈されてきた。しかし、本発明に至る実験の過程において、酸素の存在下であっても乳酸へのグルコース分解またはグルコース発酵、それぞれを可能にするのは、TKTL1トランスケトラーゼであること、およびこのグルコース経路がエムデン−マイヤーホフ経路とかなり異なることが明らかになった。TKTL1トランスケトラーゼ遺伝子は、数年前、すなわち、1996年にCoyら(Genomics 32, 309-316)によって発見された。推定されたコーディングエキソンにおける停止コドンのために、TKTL1トランスケトラーゼ遺伝子は、配列データベースにおいて偽遺伝子として注釈を付けられている。このことにも関わらず、2002年にCoyは、TKTL1遺伝子が酵素的に活性なトランスケトラーゼをコードすることを示した。TKTL1トランスケトラーゼは、他の2つの公知のヒトトランスケトラーゼTKTおよびTKTL2と系統発生的に(phylogentically)同起源である。しかし、3つ全てのトランスケトラーゼ酵素は、異なる遺伝子によってコードされ、それによって、ヒトにおいて、TKTに対する遺伝子は、第3染色体に位置し、TKTL2に対する遺伝子は、第4染色体に位置し、TKTL1に対する遺伝子は、X染色体上のバンドXq28に位置する。
【0004】
哺乳動物細胞における酵素TKTL1の1つの最も重要な機能は、酸素の存在下で、すなわち好気的条件下での、グルコースの乳酸への発酵の間の、その触媒体(catalysator)機能である。TKTL1は、新規の最初に最近発見された(dicovered)いわゆる哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路または哺乳動物乳酸発酵プロセス、それぞれにおけるトレーサー酵素である。以下において、この新規に発見された経路は、哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路または短くしてmam−aGF、それぞれといわれる。
【0005】
該mam−aGFの詳細は、以下のとおりである:
【0006】
TKTL1およびグリセルアルデヒド(glyceraldehyd)−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPD)を含むタンパク質複合体は、非酸化的グルコース分解を可能にする。電子伝達は、ミトコンドリアを必要とせず、TKTL1発現細胞においてミトコンドリア非依存性ATP産生を可能にする。抗−TKTL1化合物、すなわち阻害性チアミンアナログ、すなわちパラベンゾキノン(すなわちベンゾキノン誘導体)の適用は、かかるミトコンドリア非依存性ATP産生(特に、例えば、TKTL1ベースの糖代謝を伴う腫瘍において)の阻害に使用され得る。
【0007】
ヒトTKTL1タンパク質を使用して、本特許出願の発明者は、唯一の炭素源としてX5Pを使用する1基質反応においてグリセルアルデヒド−3−リン酸の形成を確認した。
【0008】
TKTL1を介するX5Pの代謝は、アセチル−CoAの形成をもたらす。好気的条件下での無酸素グルコース分解は、乳酸およびエネルギーリッチ化合物アセチル−CoAの生成を導く。次いで、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体は、例えば、アセチル−CoAによって阻害され、結果として、ピルビン酸は、主に乳酸に還元される。
【0009】
完全なmam−aGFの図式的記載は、図13および図14に与えられる。
【0010】
該mam−aGFのトレーサー酵素TKTL1に関する詳細は、以下のとおりである:
【0011】
本発明に至る実験の間、異なるTKTL1アイソフォームは、TKTL1タンパク質を特異的に検出する新規モノクローナル抗体(Linaris Biologische Produkte GmbH, Wertheim)を使用してタンパク質レベルで同定された。TKTL1タンパク質アイソフォームは、マルチタンパク質複合体の一部である。この複合体内に、TKTL1はまた、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、DNaseX(DNase1様1)、Akt(=プロテインキナーゼB);ヒストン、ヒストンデアセチラーゼ、アミロイド前駆体タンパク質およびアクチン結合タンパク質のようなトランスケトラーゼ非関連タンパク質に結合される。
【0012】
公知のトランスケトラーゼは、全ての典型的な不変のトランスケトラーゼアミノ酸残基を有する2つの全長タンパク質のホモダイマーである。トランスケトラーゼ様遺伝子コードTKTL1タンパク質アイソフォームは、TKTL1ホモ/ヘテロダイマーおよびTKT/TKTL1またはTKTL2/TKTL1ヘテロダイマーを生成する。TKTL1タンパク質アイソフォームの発現は、酵素的に不活性なアイソフォームでさえ、TKT/TKTL1またはTKTL2/TKTL1ヘテロダイマーの一部としてTKTまたはTKTL2タンパク質の酵素活性に影響する。分子スイッチおよびプロトンワイヤは、TKT/TKTL1、TKTL2/TKTL1およびTKTL1/TKTL1ホモ−およびヘテロダイマー中の活性部位と同期する。
【0013】
TKTL1遺伝子(NM_012253;アクセッション番号: X91817; BC025382)が全長トランスケトラーゼタンパク質およびより小さいタンパク質アイソフォームをコードするという証明は、基礎研究および医療健康について重要な含意を有する。
【0014】
その酵素的機能以外に、TKTL1タンパク質は、哺乳動物細胞におけるタンパク質の局在化およびこれらの凝集の状態に依存する種々の異なる機能を示す。哺乳動物細胞において、TKTL1タンパク質は、主に細胞質に位置するが、核にも生じる。細胞質内で、TKTL1の主な機能は、(トランス−)ケトラーゼ反応の触媒である。核内に位置するTKTL1タンパク質の付加的機能は細胞周期および有糸分裂の制御、転写の制御(TKTL1遺伝子それ自体およびその他)、およびアポトーシスの調節に関連する。
【0015】
TKTL1タンパク質(これらの機能は、これらの局在化または凝集の状態に依存する)が、「兼業(moonlighting)」タンパク質と呼ばれるのは、これらが、細胞レベル下(subcellular)局在化、細胞型およびその凝集状態に依存する異なる機能を実行するからである。
【0016】
本発明は、(a)哺乳動物個体における哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路(mam−aGF)の使用の程度(extend)(レベル)および哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路の正しい(正常な、自然な)プロセスフローの定性的および定量的検出(およびモニタリング)のための方法、すなわち、事実がどの程度与えられたとしても、適切な哺乳動物生物体の調査された細胞において代謝/経路/プロセスが実際に進行するかどうか、およびそれがそれぞれ「正常に」もしくは正しくまたは失敗してもしくは正道をはずれて進行するかどうかを制御する方法を利用可能にする目的(object)、ならびに(b)mam−aGFが影響を受け得る、特に増強または阻害され得る手段を利用可能にする目的に基づく。
【0017】
この目的は、哺乳動物個体(患者)における真核生物好気的グルコース発酵代謝経路「mam−aGF」(すなわち哺乳動物乳酸発酵プロセス)の使用の程度(レベル)およびmam−aGFの正しい(正常な、自然な)プロセスフローの定性的および定量的検出(およびモニタリング)のための(インビトロ)方法で達成され、
(a)酵素TKTL1は、指示体および標的分子として使用され
(b)該方法は、以下の工程:
−該個体(患者)の生物学的試料を採取(獲得、回収)する工程、
−該個体(患者)の該試料内および対照試料内のTKTL1タンパク質の活性および/または濃度、および/または細胞局在および/または凝集状態および/または二量体化状態を測定する工程、
−該個体(患者)の該試料から得られた測定データを対照試料から得られたデータと比較する工程、
−(i)哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路「mam−aGF」の使用のそれぞれ増強または減少された程度(レベル)の指標として、個体の該試料中のTKTL1タンパク質の活性および/または濃度の、対照試料に比べて増強または減少されたレベル、
ならびに(ii)異常な(欠損した、乱された、不完全な)哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路の指標として、個体の該試料におけるTKTL1タンパク質の、対照試料に比べて異常な細胞局在および/または異常な凝集状態および/または異常な二量体化状態を取得する工程
を含むことによって特徴付けられる。
【0018】
検出(測定)は、溶液中で、または固相に固定された試薬を使用して実施され得る。ポリペプチドまたは核酸のような1つ以上の分子マーカーの検出は、1つの反応混合物中または2つもしくは別々の反応混合物中で実施され得る。あるいは、いくつかのマーカー分子に対する検出反応は、例えば、マルチウェル反応容器中で同時に実施され得る。TKTL1遺伝子産物に対して特徴的なマーカーは、これらの分子を特異的に認識する試薬を使用して検出され得る。マーカー分子に対する検出反応は、初期マーカー分子を認識するかまたは他の分子を認識するために使用される前の分子を認識するかのいずれかの検出薬剤との1つ以上の反応を含み得る。
【0019】
検出反応は、TKTL1遺伝子マーカーの存在もしくは非存在および/またはレベルを示すレポーター反応をさらに含み得る。レポーター反応は、例えば、色のついた化合物を生成する反応、生物発光反応、蛍光反応、一般的に放射線放出反応などであり得る。好ましい態様において、異なるマーカー分子は、異なるレポーターシグナルを生成する薬剤によって認識され得、その結果、マーカー分子に関連するシグナルは、区別され得る。
【0020】
本発明による検出反応のための適用可能な形式は、ウエスタンブロット、サザンブロット、およびノーザンブロットのようなブロッティング技術であり得る。ブロッティング技術は、当業者に公知であり、例えば、電気ブロット、セミドライブロット、真空ブロットまたはドットブロットとして実施され得る。増幅反応はまた、例えば核酸分子の検出のために適用され得る。さらに、例えば、免疫沈降またはELISA、RIA、ラテラルフローアッセイ、免疫細胞学的方法などのような免疫学的アッセイのような分子の検出のための免疫学的方法が適用され得る。
【0021】
該方法で得られた情報を基にして、開業医は、適切な個体(患者)の健康状態に関する結論を導きかつ必要な場合治療のためのスケジュールを考案することができる。
【0022】
従って、該方法は、増加もしくは減少したおよび/または異常な、すなわち欠損した/不完全な/乱れたmam−aGFに関連する疾患の経過のモニタリング(検出、調査および観察)のために適切であり、それらを意図している。
【0023】
TKTL1活性および/または濃度の測定は、TKTL1遺伝子産物のレベルを測定する工程または試料におけるTKTL1の酵素活性を測定する工程を包含し得る。
【0024】
モニタリングは、異なる時点で採取された試料中のTKTL1遺伝子産物のレベルまたはTKTL1酵素活性を検出する工程および該レベルの変化を決定する工程を包含し得る。該変化に従って、疾患の経過は、追跡され得る。疾患の経過は、特定の個体に対して治療戦略を選択するために使用され得る。
【0025】
疾患経過の検出およびモニタリングの別の局面は、最小後遺疾患の検出を含み得る。これは、例えば、1回または数時点での個体の初期治療の後、1つ以上の体試料におけるTKTL1遺伝子産物レベルまたはTKTL1酵素活性の検出を含み得る。試料において検出されたTKTL1遺伝子産物のレベルに従って、特定の個体に対して適切な治療が選択され得る。
【0026】
試料中のTKTL1遺伝子産物の測定されたレベルまたは測定された酵素活性に基づいて、個体は、部分集団に細分化され得る。これらの部分集団に基づいて、予後の評価がなされ得る。部分集団に従って、種々の疾患によって影響される個体の治療は、調整され得る。例えば、TKTL1遺伝子の過剰発現およびペントース−リン酸回路の増強された活性は、チアミン(ビタミンB1)が核酸リボース合成および増強されたグルコース代謝を促進する機構を示唆する。従って、チアミン取り込みは、トランスケトラーゼ様1遺伝子の過剰発現を伴う疾患に対して直接の結果を有する。このことは、背景情報をまた提供し、臨床状況における抗チアミントランスケトラーゼインヒビターでの代替的処置に対する指針を開発する助けとなる。RNAリボースの分析は、グルコース炭素が、培養された頚癌細胞および膵臓癌細胞において90%超のリボース合成に寄与すること、ならびにリボースがチアミン依存性トランスケトラーゼ経路を介して一次的に合成される(>70%)ことを示す。抗チアミン化合物は、核酸合成を有意に阻害する。チアミンまたはベンフォチアミン処理は、TKTL1およびそれによって糖代謝を活性化し、毒性または所望されない反応(例えば、AGE形成、グリオキサール)を減少する。
【0027】
さらに、該方法は、TKTL1遺伝子によってコードされるポリペプチドに対して指向される自己抗体の検出を含み得る。本発明による方法のために使用されるポリペプチドは、当業者に公知の方法によって、体液中のかかる抗体の存在または非存在を検出するために使用され得る。
【0028】
該方法は、インビボまたはインビトロ分子画像化を実施するためにさらに適切であるので、非常に初期の段階で、理想的には該疾患の典型的に公知の症状の出現の前に、上昇もしくは減少したまたは異常な、すなわち欠損mam−aGFに関連する疾患の同定が可能である。結果として、個体またはその医師は、非常に初期の時点で該疾患に投薬し得、それによって回復の機会が有意に増加する。
【0029】
分子画像化は、特定の遺伝子産物および特定の酵素反応のような細胞内プロセスを同定するので、従来の技術とは異なる。TKTL1酵素の変更された基質特異性および反応様式は、増強または減少されたTKTL1酵素活性を用いる細胞または組織の検出のために使用され得る。TKTL1酵素の変更された基質特異性および反応様式は、3つのトランスケトラーゼ(様)酵素の酵素活性間の区別を可能にし、それによってインビボでのTKTL1酵素活性の測定を可能にする。酵素活性は、例えば、陽電子断層撮影法、化学発光またはX線撮影画像化によって検出され得る。
【0030】
分子画像化は、TKTL1分子による、不活性または標識化合物の分子画像化法の過程において検出され得る分子への酵素的変換に基づき得る。別の態様において、分子画像化法は、放射性同位体、金属イオンなどのようなインビボ分子画像化のために適切な標識を保持する化合物、特にインビボでTKTL1分子に結合する化合物の使用に基づき得る。
【0031】
これらの化合物は、好ましくは非毒性であり、TKTL1遺伝子を過剰発現する組織において蓄積される標識の検出の実施を可能にする期間に、ヒトのような生物体の循環から除去され得る。循環からのクリアランスが関係のない(例えば、循環分子などによって生成される低いバックグラウンドのために)分子画像化の場合において、使用のための化合物は、例えば、他の診断に有用な物質、治療に有用な物質、担体物質などのような任意の他の適切な物質をさらに含み得る組成物中で薬学的に許容され得る形態で投与されるべきである。
【0032】
個体の生物学的試料は、該個体から得られる各組織または液体試料のほとんどであり得る。該個体の単離された細胞、溶解された細胞、細胞破片、ペプチドまたは核酸も、適切な試料である。さらなる適切な試料は、例えば、生検調製物、体液、分泌物、塗抹、血清、尿、精液、便、胆汁、細胞を含む液体である。
【0033】
本発明の方法の工程(b)における測定は、タンパク質レベルで、すなわち標的としてTKTL1タンパク質またはTKTLタンパク質断片を用いて実施され得る。好ましくは、測定は、TKTL1タンパク質に特異的に結合する分子を使用することによって実施される。
【0034】
好ましくは、該分子は、TKTL1に指向される抗体もしくはかかる抗TKTL1抗体の断片または抗原結合エピトープを含むペプチド模倣物またはミニ抗体である。
【0035】
適切な標的分子は、TKTL1タンパク質それ自身もしくはその断片またはTKTL1タンパク質を含む融合タンパク質である。
【0036】
タンパク質レベルでの、すなわちTKTL1遺伝子産物の測定は、例えば、TKTL1タンパク質の検出に特異的な抗体を含む反応において実施され得る。抗体は、例えば、ウエスタンブロット、ELISAまたは免疫沈降のような多くの異なる検出技術において使用され得る。一般的に、抗体ベースの検出は、例えば、免疫組織化学的染色反応の過程において直接インサイチュで実施するのと同様に良好にインビトロで実施され得る。生物学的試料中の特定のポリペプチドの量を決定するための任意の他の方法は、本発明に従って使用され得る。
【0037】
TKTL1遺伝子産物の検出のための試薬は、TKTL1タンパク質分子に結合し得る任意の薬剤を含み得る。かかる試薬は、タンパク質、ポリペプチド、核酸、ペプチド核酸、糖タンパク質、プロテオグリカン、多糖類または脂質を含み得る。
【0038】
本発明に関して使用されるようなTKTL1遺伝子産物は、トランスケトラーゼ様1遺伝子によってコードされるポリペプチドおよび核酸を含み得る。本発明による方法を実施するために使用されるポリペプチドおよびポリヌクレオチド(参考.TKTLl, TKR: NM_012253;アクセッション番号: X91817;BC025382)は、単離される。このことは、分子がそれらの元の環境から除去されることを意味する。天然に存在するタンパク質は、天然の環境で共存するいくつかまたは全ての物質から分離される場合、単離される。ポリヌクレオチドは、例えば、ベクターにクローニングされる場合、単離される。
【0039】
増大または減少されたレベルの酵素活性を有するTKTL1タンパク質バリアントに加えて、細胞内で変更された局在化もしくは凝集および/または二量体化を有するTKTL1タンパク質は、患者において検出され得る。TKTL1タンパク質を特異的に検出するモノクローナル抗体(Linaris Biologische Produkte, Wertheim)を使用して、核内のTKTL1タンパク質は、体液から単離された細胞中で検出され得る。免疫細胞学を使用して、健康個体および患者からの細胞の核および細胞質内のTKTL1の局在が決定され得る。アルツハイマー患者の部分集合において、TKTL1の増強された局在化は、核内に検出され得る。アルツハイマー患者におけるTKTL1の異なる凝集はまた、存在する。この凝集の検出は、2Dゲル電気泳動を使用して実行できる(図15)。さらに、他のタンパク質、例えば、GAPDH、との凝集は、TKTL1およびGAPDHに対する抗体を使用してELISAによって検出され得る。
【0040】
全く同様に、本発明の方法の工程(b)における測定は、核酸レベルで、すなわち標的としてTKTL1核酸またはその断片を使用して実施され得る。本文脈において使用される場合、用語「TKTL1核酸」は、TKTL1遺伝子、TKTL1 mRNAおよびTKTL1コード核酸を含む。
【0041】
好ましい態様において、試料における上記関連TKTL1パラメーターの検出は、TKTL1核酸にハイブリダイズし得る少なくとも1つの核酸プローブを使用することによって実施されるべきである。適切な標的分子は、TKTL1核酸それ自身およびTKTL1コード核酸またはその断片を含むキメラ核酸である。
【0042】
核酸(DNAおよび/またはRNA)の検出のための手順は、例えば、相補的核酸プローブ、核酸に対して結合特異性を有するタンパク質または該核酸を特異的に認識し、それに結合する任意の他の実体への、検出されるべき分子の結合反応によって実施され得る。この方法は、例えば、染色反応を検出する過程において、直接インサイチュで実施されるのと同様にインビトロでも実施され得る。本発明による方法において実施される核酸のレベルにおいて試料中のTKTL1遺伝子産物を検出する別の方法は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応のような定量的様式で実施され得る核酸の増幅反応である。本発明の好ましい態様において、リアルタイムRT PCRは、試料中のTKTL1 RNAのレベルを定量するために使用され得る。
【0043】
陽性対照を実施するためのTKTL1試料は、例えば、溶液もしくは塩のような適用され得る形態のTKTL1核酸もしくはポリペプチドもしくはその断片、適用され得る形態のペプチド、組織切片試料または陽性細胞を含み得る。
【0044】
要約すると、TKTL1酵素活性(正常な、減少されたまたは増強された)の型(様式)は、TKTL1遺伝子変異、単離されたTKTL1タンパク質の減少もしくは増強された酵素活性またはTKTL1酵素反応のインビボ画像化に基づいて個体において同定され得る。診断は、患者(例えば、血清、液、または他の体液)から単離されたTKTL1タンパク質の酵素活性を決定することによってまたはTKTL1酵素活性のインビボ画像化によって実施され得る。
【0045】
本発明の方法を実施するためのキットは、インサイチュで組織を可視化するための生物発光に依存する診断系を含み得る。これらの系は、TKTL1酵素活性によって転換される基質を含む組成物をさらに含み得る。特に、これらの系は、生物発光生成反応を含む組成物を含み得る。組成物の投与は、例えば、外科的除去のために細胞または組織の検出および位置測定を可能にする標的された組織による光の生成を生じる。
【0046】
分子画像化、特に組織のX線撮影画像化の過程において本発明の方法を実施するために、1つの態様において、その機能的または生理学的活性に比例して組織中の細胞内に蓄積する放射線不透過性の画像化剤を使用することが提唱される。1つの態様において、画像化剤は、細胞膜透過性の放射線不透過性な、TKTL1に対して選択的な基質または高い親和性のリガンドである。従って、本発明はまた、標識されたTKTL1基質および画像化剤、例えば、非侵襲性検出のための陽電子断層撮影法(PET)画像化剤または磁気共鳴断層撮影法(thomography)(MRT)画像化剤と同様のものの使用ならびに増強または減少されたTKTL1酵素活性を用いる細胞および組織の位置測定に関する。
【0047】
PETのための画像化剤としての使用のための非常に適切な標識基質は、18F−標識TKTL1である。本発明はさらに、標識された基質を合成する方法およびかかるアナログを含む組成物に関する。
【0048】
本発明に至る実験の過程において、TKTL1の変異(例えば、哺乳動物の進化の間、38アミノ酸をコードするエキソンの欠失がTKTL1において起こった)が基質特異性の低下を生じるだけでなく、さらにチアミンに対するより低い親和性を生じることがさらに見出された。従って、減少されたチアミンレベルは、減少したTKTL1活性に起因する損傷を生じるTKTL1タンパク質のいくつかの増加した欠損を導く。これらの病理学的変化は、この代謝経路の活性化によって避けられ得または少なくとも補正され得る。TKTL1のチアミン親和性またはTKTL1の量もしくはTKTL1の活性の決定は、チアミンまたはより良い生体利用能を有するチアミン誘導体(例えば、ベンフォチアミン)で処置されるべき個体を同定するために活用され得る。
【0049】
かかる個体は、例えば、網膜症、(心臓自律神経)神経障害、または内皮細胞の損傷のような糖尿病関連現象を有する糖尿病患者であり得る。
【0050】
結果として、本発明はさらに、制御が酵素TKTL1の活性または濃度の少なくとも1つのインヒビターまたはアクチベーターの有効量を投与する工程を包含する、かかる制御を必要とする哺乳動物被験体(患者)においてmam−aGFを制御するための方法に関する。
【0051】
言い換えると:本発明はさらに、mam−aGFの阻害または活性化のための、すなわち、減少または増強されたmam−aGFに関連する疾患の治療処置または制御のための医薬組成物を製造するための酵素TKTL1の活性または濃度のインヒビターまたはアクチベーターの使用に関する。
【0052】
この技術的教示は、TKTL1酵素のさらに重要な特性がmam−aGFのインヒビターまたはアクチベーターに対する標的分子として適切であるという科学的発見(mam−aGFの新規かつ驚くべき発見の過程において)に基づく。
【0053】
TKTL1遺伝子の過剰発現に関連する障害の処置は、個体または個体の細胞において、TKTL1ポリペプチドの活性の低下に適切な任意の方法を含み得る。これらの方法は、遺伝子発現の低下によるまたは酵素活性の低下によるTKTL1ポリペプチドの活性の低下を含み得る。実施例は、アンチセンス構築物、リボザイム、酵素インヒビターの投与、例えば、抗チアミン化合物のようなTKTL1ポリペプチドの補因子のアンタゴニストの投与または酵素活性に不可欠な補因子(例えば、チアミン)の減少された投与を含み得る。
【0054】
TKTL1遺伝子の過剰発現に関与する障害の好ましい治療は、TKTL1遺伝子の過剰発現によって特徴付けられる障害を示す個体に対する抗チアミン化合物の投与またはチアミン取り込みの減少を含む。
【0055】
結果として、本発明はまた、酵素TKTL1の活性または濃度のインヒビターまたはアクチベーターの有効量を含む医薬組成物および薬学的に許容され得る担体を含む。
【0056】
かかる医薬組成物の好ましい態様は、オキシチアミン、ベンフォオキシチアミン(=オキシベンフォチアミン)、ヒドロキシピルビン酸、ピルビン酸、p−ヒドロキシフェニルピルビン酸、ピリチアミン、アンプロリウム、2−メチルチアミン、2−メトキシ−p−ベンゾキノン(benzochinon)(2−MBQ)および2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノン(2,6−DMBQ)、ゲニステイン、ならびに例えば、ケルセチン、カテキン類、ニトリロシド(nitriloside)類、アントシアニン類のようなフラボノール類;またはこれらの誘導体からなる群から選択されるTKTL1インヒビターを含む。
【0057】
TKTL1インヒビター効果を有するかかる医薬組成物の好ましい態様は、化学構造(構造式):


を有する1種類以上のアンプロリウム誘導体および/または化学構造(構造式):


を有する少なくとも1種類のフラボノールを含む。
【0058】
TKTL1インヒビター効果を有する医薬組成物の別の好ましい態様は、チアミン誘導体として化学構造(構造式)
(a):


およびベンフォチアミン誘導体として化学構造(構造式):
(b):


を有する1つ以上のチアミン誘導体および/またはベンフォチアミン誘導体を含む。
【0059】
1つの好ましい阻害性ベンフォチアミン誘導体は、化学構造(構造式):


を有するオキシベンフォチアミン(=ベンフォオキシチアミン)である。
【0060】
TKTL1アクチベーター効果を有する医薬組成物の好ましい態様は、チアミンおよび/もしくはベンフォチアミンならびに/または機能的等価物、すなわちその活性化誘導体を含む。
【0061】
活性化チアミン誘導体は、好ましくは化学構造(構造式):


を有する。
【0062】
さらに、活性化ベンフォチアミン誘導体は、好ましくは化学構造(構造式):


を有する。
【0063】
上記のアクチベーターまたはインヒビターの誘導体は、1つ以上の以下の基:
OH、NH2、SHCN、CF3、ハロゲン、CONHR5、COOR5、OR5、SR5、SiOR5、NHR5、脂肪族(C3〜C6)環および芳香族(C3〜C6)環から選択される少なくとも1つの基で置換される直鎖および分枝鎖(C1〜C12)脂肪族アルキル基、ここでR5は、直鎖および分枝鎖(C1〜C4)アルキル基、
アリール基、
天然ポリマー、合成ポリマー、およびコポリマーから選択され、該ポリマーおよびコポリマーは:ヒドロキシル、カルボキシレート、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、チオールおよびアルデヒドから選択される少なくとも2つの基を保持する;
水素原子、ハロゲン原子、CF3、OH、OCF3、COOH、R7、OR7、およびOCOR7、ここでR7は、直鎖および分枝鎖(C1〜C4)脂肪族アルキル基から選択される;
モノハロゲン化およびポリハロゲン化の直鎖および分枝鎖の(C1〜C4)アルキル基およびアリール基、ここでアリール基は、任意にOH、NH2、SH、CN、CF3、ハロゲン、COOH、CONHR8、COOR8、OR8、SR8およびNHR8から選択される少なくとも1つの基で置換され、ここでR8は、直鎖および分枝鎖(C1〜C12)アルキル基から選択される;ならびに
直鎖および分枝鎖(C1〜C4)アルキル基およびCF3
で置換またはそれを付加することによって生成され得る。
【0064】
TKTL1インヒビターまたはアクチベーターはまた、1つ以上の核酸分子、組換えベクター、ポリペプチド、アンチセンスRNA配列、リボザイムおよび/または抗体の形態で実現され得る。
【0065】
従って、変異したTKTL1タンパク質の異常な細胞局在化、凝集状態および/または二量体化状態(対照避妊に比較して)と関連する疾患の予防または処置に適切な、本発明の別の医薬組成物は、有効量の核酸分子、組換えベクター、ポリペプチド、アンチセンスRNA配列、リボザイムまたは抗体を含むことに特徴がある。
【0066】
この医薬組成物は、例えば、機能的TKTL1をコードするDNAを含み得る。DNAは、ポリぺプチドがインサイチュで生成され得る方法で投与され得る。適切な発現系は、当業者に公知である。トランスジェニック哺乳動物細胞は、核酸の送達および/または発現のために使用され得る。適切な方法は、当業者に公知である。
【0067】
あるいは、医薬組成物は、1つ以上のポリペプチドを含み得る。医薬組成物に組み込まれるポリペプチドは、例えば、酵素、抗体、サイクリン、サイクリン依存性キナーゼもしくはCKI類のような調節因子、またはトキシンのような1つ以上の他の公知のポリペプチドと組み合わせたTKTL1ポリペプチドであり得る。
【0068】
血糖値が上昇すると、神経細胞(ニューロン)および眼の網膜の微小血球を構成する細胞および腎臓の濾過単位(糸球体)を含む細胞のいくつかの重要な種類はまた、グルコースであふれている。これらの細胞内で生じた高い糖レベルは、グルコースの正常な細胞代謝において行き詰まりを引き起こす。この備蓄は、グルコース関連細胞損傷を生じ、進行糖化最終生成物(AGE)に導くトリオースリン酸として公知の超反応性グルコース−代謝中間体の細胞内の蓄積を生じる。さらに、一旦それが起こると、過剰なグルコースおよびトリオースリン酸は、細胞内の周囲のタンパク質、脂質およびDNAを攻撃する。TKTL1を活性化することによるmam−aGFの増強は、その状況において調整的かつ予防的であり得る。mam−aGF経路によって、グルコースは、脂肪酸のような非毒性化合物に分解され、従って、進行糖化最終生成物損傷を回避する。
【0069】
従って、本発明は、患者に有効量の少なくとも1つのTKTL1アクチベーターを投与する工程を含む、処置を必要とする患者におけるグルコースおよびトリオースリン酸関連細胞損傷の処置方法ならびにAGE関連細胞損傷の予防方法に関する。
【0070】
言い換えると、従って、本発明はまた、患者におけるAGE関連細胞損傷の処置および予防のための医薬組成物を製造するための少なくとも1つのTKTL1アクチベーターの使用に関する。
【0071】
mam−aGF経路の欠損/乱れは、一般的に深刻な疾患に関連しないが、時々、全く自覚的不快である身体段階の乱れとわずかに関係し、しかし、医療的処置を必要としない。さらに、mam−aGF経路は、TKTL1酵素を活性化または阻害することによってのみでなくこの代謝経路に対する基質(グルコース)を制限することによっても制御され得る。従って、本発明は、低グルコース/炭水化物含量、高油/脂肪含量および適度なタンパク質含量を含み、さらに酵素TKTL1の活性または濃度のインヒビターまたはアクチベーターの有効量および薬学的に許容され得る担体を含む栄養組成物/食事サプリメント(dietary supplement)をさらに提供する。
【0072】
かかる栄養組成物/食事サプリメントの好ましい態様は、オキシチアミン、ベンフォオキシチアミン、ヒドロキシピルビン酸、ピルビン酸、p−ヒドロキシフェニルピルビン酸、ピリチアミン、アンプロリウム、2−メチルチアミン、2−メトキシ−p−ベンゾキノン(2−MBQ)および2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノン(2,6−DMBQ)、ゲニステイン、ならびに例えば、ケルセチン、カテキン類、ニトリロシド類、アントシアニン類のようなフラボノール類;またはこれらの誘導体からなる群から選択されるTKTL1インヒビターを含む。
【0073】
かかる栄養組成物/食事サプリメントの他の好ましい態様は、TKTL1アクチベーター、特にチアミンもしくはベンフォチアミン、または1つ以上のそれらの誘導体を含む。該誘導体は、好ましくは、上記化学構造(構造式)によって特徴付けられる。
【0074】
本発明はまた、対照に比べて、TKTL1タンパク質の増強もしくは減少されたレベルまたは活性、異常な細胞内局在化、凝集状態および/あるいは二量体化状態に関係する疾患の処置のための化合物の使用に関し、該化合物は、以下の工程:
(a)生物学的活性、好ましくはトランスケトラーゼ活性に応答する検出可能なシグナルを提供し得る成分の存在下で、先行する請求項に規定されるTKTL1ポリぺプチドまたは該ポリペプチドを発現する細胞を接触する工程;および
(b)該生物学的活性から生成されるシグナルの存在もしくは非存在またはシグナルの増加を検出する工程、ここでシグナルの非存在、減少または増加は、推定薬物の指標である、
を含む方法によって同定される化合物である。
【0075】
薬物候補は、一つまたは複数の化合物であり得る。用語「複数の化合物」は、同一であり得るか、または同一でなくてもよい複数の物質として解される。前記一つまたは複数の化合物は、化学的に合成され得るかもしくは微生物に産生され得、および/または例えば、植物、動物もしくは微生物等由来の細胞抽出物等の試料中に含まれ得る。さらに、前記(一つまたは複数の)化合物は当該分野に公知であり得るが、従来はTKTL1ポリペプチドを抑制または活性化し得ることは知られていなかった。反応混合物は細胞を含まない抽出物であり得るか、または細胞もしくは組織培養物を含み得る。適切な構成が当業者に公知である。複数の化合物は、例えば反応混合物、培地に添加され得るか、細胞に注入され得るか、さもなければ遺伝子組換え動物に適用され得る。好ましくは、本発明の方法に使用され得る細胞または組織は、本明細書のこれ以前の態様に記載した本発明の宿主細胞、哺乳動物細胞または非ヒト遺伝子組換え動物である。
【0076】
一つまたは複数の化合物を含有する試料が本発明の方法で同定される場合、その後、TKTL1を抑制もしくは活性化し得る化合物を含有するとして同定された起源試料由来の化合物を単離することが可能であるか、または例えば起源試料が複数の異なる化合物からなる場合、試料当りの異なる物質の数を減らすように起源試料の細分化の方法を繰り返して、起源試料をさらに細分化し得る。試料の複雑さに応じて、好ましくは本発明の方法により同定された試料が限られた数の物質のみ、または唯一つの物質のみを含むようになるまで上述の工程は数回実施され得る。好ましくは、前記試料は、同様の化学的性質および/または物理的性質の物質を含み、最も好ましくは、前記物質は同一である。
【0077】
試験および同定され得る化合物は、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体、有機低分子、ホルモン、ペプチド模倣物、PNA等であり得る。これらの化合物はアナログ化合物の開発のためのリード化合物としても作用し得る。アナログは、リード化合物と実質的に同じように、TKTL1に中心的な(key)官能基を与え得る安定な電子配置および分子コンホメーションを有するであろう。特に、アナログ化合物は結合領域に類似の空間的電子特性を有するが、リード化合物よりも小さな分子であり得、しばしば約2kD未満であり、好ましくは約1kD未満の分子量を有する。アナログ化合物の同定は自己無撞着場(Self-consistent field)(SCF)分析、配置間相互作用(CI)分析および通常型ダイナミック分析等の技術によって実施され得る。これらの技術を実行するコンピュータープログラムが利用可能である;例えば、Rein, レセプター-リガンド相互作用のコンピューター補助型モデリング(Alan Liss, New York, 1989)。
【0078】
これまで知られているように、新規の発見されたmam-aGFは通常(正常に、天然に)網膜、内皮細胞、神経組織および精巣等の健康な組織に存在する。
【0079】
本発明に至る実験の過程で、いくつかの腫瘍組織においてmam-aGFは高い代謝回転で進むことが明らかとなった。これらの腫瘍細胞において、TKTL1酵素の過剰発現が検出され、同様に、マトリックス分解を生じさせる大量の乳酸塩が検出された。これらの所見により、酸素の非存在下だけでなく酸素の存在下においても腫瘍組織はグルコースを乳酸塩に分解すること、好気性の発酵性グルコース分解(好気性解糖)、乳酸塩生成および悪性化の程度の間に相関があることを明らかにしたWarburgの研究が確認される。転写産物およびタンパク質に基づいた三つのTKTファミリーのメンバーの分析によって、TKTL1遺伝子が腫瘍中で過剰発現されるトランスケトラーゼ遺伝子/タンパク質であることが明らかにされ得る。
【0080】
従って、本発明はまた、少なくとも一つのTKTL1インヒビターの有効量を患者に投与することを含む処置を必要とする患者の腫瘍細胞におけるTKTL1酵素の過剰発現に関係する癌の処置方法を含む。
【0081】
言い換えると、従って本発明はまた、腫瘍細胞におけるTKTL1酵素の過剰発現に関係する癌の処置のための医薬組成物の製造のための少なくとも一つのTKTL1インヒビターの使用に関する。
【0082】
大量の乳酸塩がマトリックスの分解をもたらすこと、ならびにこれにより組織再構築および傷の治癒が促進されることが公知であるため、本発明に至る実験の過程において得られたデータおよび知識は、本発明のさらなる部分、すなわち、少なくとも一つのTKTL1インヒビターまたはTKTL1アクチベーターの有効量を患者に投与する工程を含む処置の必要な患者における、組織再構築、傷の治癒等の処置の方法(または該プロセスに影響を及ぼすこと)をもたらす。
【0083】
言い換えると、本発明はまた、組織再構築、傷の治癒等のプロセスを増強または減少するための医薬組成物の製造のための、少なくとも一つのTKTL1インヒビターまたはTKTL1アクチベーターの使用に関する。
【0084】
少なくとも一つのTKTL1インヒビターを含むかかる医薬組成物の態様は、心臓弁の再狭窄に適用されて、内皮細胞の増殖を予防するように意図される。
【0085】
数年来、トランスケトラーゼタンパク質およびトランスケトラーゼ酵素活性はヴェルニッケ-コルサコフ症候群、アルツハイマー病患者等の神経変性疾患に関連している。しかし、本発明の完成まで、この関連がどのようなものであるかという疑問は未解決のままであった。
【0086】
本発明に至る実験の過程において、アルツハイマー病の患者およびヴェルニッケ-コルサコフ症候群の患者の両方が、低いTKTL1酵素活性、および異なる等電点またはより小さなサイズのTKTL1タンパク質バリアントを有することが分かった。ヴェルニッケ-コルサコフ症候群の患者において、その細胞がチアミンに対して低い親和性を有するTKTL1タンパク質アイソフォームを有することが明らかにされ得た。グリケーション(例えば、グルコースはタンパク質に共有結合し、該化学反応はシッフ塩基反応として公知である)は、神経変性疾患をもたらすアミロイド形成およびタンパク質プラーク形成に関するプロセスの一つであるため(例えばアルツハイマー病患者中に存在する原線維は糖化タンパク質に共通ないくつかの特性を有し、グリケーションにより、折りたたまれて可溶性の形態からβ原線維への構造の変化が生じる)、低いTKTL1酵素活性はグリケーションの増強をもたらし、最終的には高いアミロイド形成およびタンパク質プラーク形成をもたらす。
【0087】
これらの事実のために、本発明はまた、少なくとも一つのTKTL1酵素活性のアクチベーターの有効量を患者に投与する工程(例えば、チアミンまたはベンフォチアミンの食事中の適用)を含む処置の必要な患者における、mam-aGFの活性化を介したグリケーションの阻害によるヴェルニッケ-コルサコフ症候群、アルツハイマー病等の神経変性疾患の処置方法を含む。
【0088】
さらに、TKTL1活性を増強させることにより、mam-aGFは、TKTL1のため疾病素質を有する個体におけるアルツハイマー病の発症を予防し得る。従って、本発明はさらに、TKTL1の素因となる変異を有する個体を決定して、予防的なTKTL1治療に適格な個体を同定する方法を含む。
【0089】
これと関連して、本発明による方法で同定された活性化化合物によるTKTL1の処置によって、ニューロン等の細胞における望ましくないアポトーシスが減少または妨害され得ると言えるはずである。
【0090】
真性糖尿病の患者に関して、最近、かかる患者のベンフォチアミン処置は高血糖障害の三つの主要な経路の阻害にもたらし、糖尿病性網膜症を予防するということが示された。ここで、本発明に至る実験の過程において発明者らは、AGE(進行糖化最終生成物)形成または細胞死のために、糖尿病の患者が細胞障害をこうむるこれらの組織(内皮細胞、網膜および神経)におけるベンフォチアミン処置の標的として、TKTL1酵素を同定し得た。
【0091】
AGEは細胞中の過剰なグルコースおよびトリオースリン酸によっても生じる。TKTL1を活性化することによるmam-aGFの増強は、グルコースおよびトリオースリン酸の分解を生じる。
【0092】
これらの事実のために、本発明はまた、少なくとも一つのTKTL1酵素活性のアクチベーター、好ましくはベンフォチアミンの有効量を患者に投与することを含む処置の必要な患者、特に糖尿病患者における、AGEの処置方法を含む。
【0093】
本発明に至る実験の過程において、さらに、TKTL1活性の減少は脂肪組織の成長の遅延および選択的な減少を引き起こし得ることが見出された。脂肪組織におけるTKTL1の阻害によって肥満が処置され得る。
【0094】
全身性(sytemic)エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ、多発性硬化症(MS)、線維筋痛症、クローン病、過敏性腸管症候群(IBS)等の疾患は過去80年間で確実に増加している。TKTL1を標的とすることで、自己免疫疾患の患者における自己抗体のレベルの有意な減少がもたらされる。
【0095】
本発明は以下の実施例および図面によって説明される。
【0096】
実施例に関する一般情報
細胞の起源および培養法
肺癌細胞株A549、乳癌細胞株MCF7、肝臓癌細胞株HepG2、および結腸癌細胞株HCT116およびHT29をATCCから得た。細胞を、10%FCS、ペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したRPMI 1640またはDMEM(Invitrogen)中、37℃、5%CO2で培養した。
【0097】
ノーザンブロット分析
TKTL1転写産物の3’非翻訳領域(残基1627〜2368)由来のDNAプローブ(受託番号X91817)をランダムプライマー反応(FeinbergおよびVogelstein, 1983)において、[[α]-32P]dATPおよび[[α]-32P]dCTP(3000 Ci/mmol)で標識した。0.5 Mリン酸ナトリウム、7%SDS、0.2%ウシ血清アルブミン、0.2%PEG 6000、0.05%ポリビニルピロリドン360000、0.05%フィコール70000および0.5%硫酸デキストラン中で、65℃で一晩、ハイブリダイゼーションを行なった。非特異的に結合したプローブを、40 mMリン酸ナトリウム、pH 7.2、1%SDS中で、65℃ 60分間の洗浄により除去した。フィルターをX線フィルム(Kodak)に1〜5日間、感光させた。複数のヒト成人組織ポリ(A)+RNAノーザンブロットをBD Biosciences Clontechから購入した。
【0098】
ウェスタンブロット分析
ウェスタンブロット分析に関して、細胞を溶解バッファ(50 mM Tris-HCl pH 7.5、150 mM塩化ナトリウム、1%NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、0.02%アジ化ナトリウム、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル)に溶解した。50μgの可溶性タンパク質のアリコートを各ウェルに流し、12.5%SDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、ポリフッ化ビニリデン膜(Millipore)に転写した。TKTL1タンパク質の検出に、HRP結合JFC12T10 MAbを最終濃度1μg/mlで使用した。ECLウェスタンブロット検出システム(Amersham Pharmacia Biotech)でMAbを可視化した。
【0099】
酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)
細胞株からアフィニティー精製したTKTL1タンパク質を一般的な標準ELISA技術を用いて決定した。ELISAプレートのコーティングに三つの異なるアフィニティー精製マウスIgGモノクローナル抗TKTL1抗体(5μg/ml)を用いた。二次試薬としてホースラディッシュペルオキシダーゼ共役抗TKTL1抗体JFC12T10を5μg/mlで用いた。複数タンパク質複合体中の結合したタンパク質を、TKTL1、DNaseX、ph-Akt、GAPDHに対する抗体を用いて細胞株からアフィニティー精製した。特定のタンパク質に対する結合を、例えばTKTL1とGAPDH抗体の組合せ;およびTKTL1とDNaseX抗体の組合せ;およびph-AktとDNaseX抗体の組合せを用いて、ELISA技術により評価した。
【0100】
複数タンパク質複合体の2D分析
高分解能2Dゲル電気泳動(8x7 cm)により試料を分析した。各試料について2.5μgのタンパク質を二つの2Dゲルに載せ、2Dゲルを銀で染色し、二つ目のものを免疫染色のためにセミドライ電気ブロッティングによりPDVF膜に転写した。
【実施例】
【0101】
実施例1:TKTL1 cDNAプローブで分析した、異なるヒト成人組織由来のポリ(A)+ mRNAのノーザンブロットでのヒトTKTL1遺伝子の発現パターン
ヒトTKTL1遺伝子の発現パターンをTKTL1 cDNAプローブを用いて、異なるヒト成人組織由来のポリ(A)+ mRNAのノーザンブロットで分析した。結果を図2(A)に示す。1.4、1.9、2.5、および2.7kbの四つの転写産物が検出できる。ほとんどの組織での主要な転写産物は2.5kbの大きさであるが、心臓では1.4の小さな転写産物が豊富で、2.5および2.7kbの転写産物は失われている。転写産物の大きさはkbで示される。
【0102】
実施例2:TKTL1全長タンパク質の単離および精製
TKTL1全長タンパク質を大腸菌中に発現させ、N末端Hisタグによりアフィニティー精製で単離した。1μgのアフィニティー精製TKTL1タンパク質を4〜20%勾配SDSゲルに流しクマシーで染色した。大きさの異なるタンパク質が検出された。最も大きなタンパク質(66kDa)はN末端Hisタグ化全長TKTL1タンパク質を表し、より小さいTKTL1タンパク質は、単離手順前から既に存在したC末端のタンパク質切断によるものと思われる。組換え66kDa Hisタグ化TKTL1全長タンパク質の移動は75kDaのサイズを示すことに注意されたい。タンパク質マーカーの大きさはkDaで示される。
【0103】
実施例3:TKTL1 mRNAレベルの測定による、組織中のTKTL1遺伝子発現のレベルの決定
生検の切除片を、TKTL1遺伝子のmRNAレベルについてインサイチュ染色反応で半定量的に分析し得る。染色反応は以下のように行なう:組織切除片を100%までの漸増エタノール濃度でインキュベートする。アルコールの蒸発後、組織の前処理のために、切除片を10mMクエン酸バッファ(pH6.0)で煮沸する。50μlの既製のハイブリダイゼーションバッファ(DAKO A/S, Glostrup, Danmark)と約5〜10pmolのプローブを混合してハイブリダイゼーション混合物を調製する。プローブは以下の配列TCTCATCACAAGCAGCACAGGACの蛍光標識オリゴヌクレオチドである。
【0104】
実施例4:天然(A)および組換え(B)TKTL1タンパク質のトランスケトラーゼ活性の測定
天然(A)および組換え(B)TKTL1タンパク質の二基質反応および一基質反応を、340nmでの吸光度の増加により測定されるように、NADHの生成によって測定した。キシルロース-5-リン酸(X5P)およびリボース-5-リン酸(R5P)を用いて二基質反応を測定し、一方で一基質反応にはX5Pのみを用いた。図3に、同様の結果をもたらす三つの独立した酵素アッセイの代表的な一つを示す。
【0105】
実施例5:ELISAによるTKTL1アイソフォームの決定
TKTL1抗体JFC6T8とJFC5T3の組合せにより、神経変性疾患の患者中に特異的に存在するTKTL1タンパク質アイソフォームが決定される。抗体JFC6T8およびJFC5T3をELISAプレートに結合させて、健常なヒトおよび患者由来の試料とインキュベートした。非特異的に結合した物質の除去後、上述のように酵素活性を測定した。健常なヒトの試料では高い酵素活性が得られた。個々の結果を図17(A)に示す。
【0106】
実施例6:2Dゲル電気泳動による高分子量TKTL1タンパク質アイソフォームの同定
神経変性疾患(AD)の患者由来の高分子量TKTL1タンパク質アイソフォームを2Dゲル電気泳動により単離、分析し、免疫染色により同定した。結果を図16に示す。
【0107】
実施例7:TKTL1、DNaseXおよびGAPDHを含む複数タンパク質複合体
TKTL1、DNaseXおよびGAPDHを含む複数タンパク質複合体を、TKTL1抗体JFC12T10結合carbo-linkを用いてヒト慢性骨髄性白血病K562細胞からアフィニティー精製した。複数タンパク質複合体の2次元(2D)ゲル電気泳動を行なった。複合体中に存在するTKTL1タンパク質アイソフォーム(矢印A)および他のタンパク質を免疫染色および配列決定により同定した。結果を図15に示す。
【0108】
実施例8:ELISAで測定した、健常人および患者由来の生検から単離したTKTL1のトランスケトラーゼ活性
TKTL1抗体JFC3T9をELISAプレートに結合させ、健常なヒトおよび患者由来の試料とインキュベートした。非特異的に結合した物質を除去した後、上述のように酵素活性を測定した。健常なヒトの試料では高い酵素活性が得られた。個々の結果を図17(B)に挙げる。
【0109】
実施例9:TKTL1酵素活性を増強または減少させる化合物の検出のためのアッセイ
TKTL1タンパク質アイソフォームは兼業タンパク質を示すので、活性な小化合物を同定するために異なるアッセイを適用する必要がある。TKTL1酵素活性を増強または減少させる化合物の検出のためのアッセイは、組換えタンパク質アイソフォームによってか、またはヒト細胞から単離された天然のタンパク質によって実行され得る。
【0110】
(A)組換えTKTL1タンパク質アイソフォームの提供
これは大腸菌における組換えTKTL1タンパク質アイソフォームの発現によって実現され得る。cDNA配列(受託番号BC025382)のTKTL1オープンリーディングフレーム(MADAE...CMLLN)を、pDEST17ベクター(Invitrogen)にクローニングした。細菌での発現は大腸菌株BL21-AI(Invitrogen)で実施し、21℃で4時間、0.2%アラビノースにより発現を誘導した。凍結(ドライアイス10分)および融解(37℃、5分)を3回行なって、溶解バッファ(20mM Tris[pH7.5]、5mMイミダゾール、5mMβ-メルカプトエタノール、500mM NaCl、および1%Triton X-100)中に粗細胞溶解物を調製した。12.000 xgで4℃、30分間の細胞溶解物の遠心分離により可溶性タンパク質画分を得た。製造業者の指示書に従い200mMイミダゾールを含有する溶出バッファを用いて、Ni-NTA樹脂(Qiagen)によりHis6-TKTL1タンパク質を精製した。イミダゾールおよび塩は、その後、0.1M Tris(pH 7.5)に対する透析により除去した。精製した酵素を、40%グリセロールおよび0.1%ジチオトレイトール(DTT)中で-20℃で保存した。
【0111】
(B)ヒト細胞から単離した天然のタンパク質アイソフォームの提供
ヒト細胞株から回収された天然のTKTL1タンパク質およびTKTL1を含むタンパク質複合体の両方は、例えばアフィニティー精製によって精製されなければならない。これは以下のように実現され得る:
製造業者の指示書(carbo-link;Pierce)に従って、10mgのMAb JFC12T10を2ml carbo-linkに結合させた。細胞を無血清培地(ISF-1、InVivo BioTech Services GmbH)中で培養した。遠心分離後、2.2xl09細胞のペレットを、プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)を含む50mlのPBSに溶解した。フレンチプレスを用いて細胞溶解を行い、次いで50.000 xgで遠心分離を行なった。上清を濾過して(0.2μm)、上清の親和性物質への結合を、4℃で一晩行なった(バッチ方式)。カラムに移した後、150mM PBSバッファpH 7.4で洗浄手順を行った。タンパク質が結合したカラムの溶出に100mMグリシン(Glycin)-HCl pH2.0を用いた。UV 280nmベース検出系を用いて検出された二つのタンパク質のピークを、回収し、Tris pH 7.4で中和した。
【0112】
酵素試験は組換えまたは天然の、アフィニティー精製TKTL1タンパク質で実行され得る。
【0113】
(C)二基質トランスケトラーゼ反応の測定による適切な化合物の検出
(C-1)TKTL1のトランスケトラーゼ(二基質)活性を、25℃で、結合酵素アッセイで測定した。(a)試験化合物の存在下および(b)試験化合物の非存在下で、組換えおよび天然のTKTL1タンパク質を添加して反応を開始し、以下の反応順序:キシルロース-5-リン酸(X5P)およびリボース-5-リン酸(R5P)>(TKTL1活性)>グリセルアルデヒド-3-リン酸、セドヘプツロース-7-リン酸>(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ活性 [GAPDH])>NAD+ ->NADH+H+、1,3-ホスホグリセリン酸、におけるNAD+の還元速度によって分光光度法的に測定した。
【0114】
(a)試験化合物の存在下および(b)試験化合物の非存在下で、トランスケトラーゼ二基質活性を以下の反応(最終濃度):1mlの反応体積中4mM X5P、4mM R5P、500μM NAD+、2mM MgCl2、200μMチアミンPP、5μg組換えTKTL1タンパク質または4μg天然TKTL1タンパク質、3U GAPDH、0.15 mol/l TrisバッファpH 7.4で測定した。トランスケトラーゼ一基質活性は、R5Pを省いて、X5Pのみを基質として使用して測定した。GAPDHはSigmaから得た。
【0115】
(C-2)(a)試験化合物の存在下および(b)試験化合物の非存在下で、酵素の結合が制限されない条件下で従来の酵素結合法を用いて、トランスケトラーゼ活性を測定し得る。トランスケトラーゼタンパク質を、別の方法で反応を完了した100mmol/L Tris-HCl(pH7,5)、10mmol/Lリボース5-リン酸、2mmol/Lキシルロース5-リン酸、1,2mmol/L MgCl2、0,1mmol/L NADH、2000U/Lグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼおよびトリオースリン酸イソメラーゼの混合物に添加して反応を開始する。37℃で反応を行なう。トランスケトラーゼ活性に正比例するNADHの酸化の後、340nmでの吸光度の減少をモニターする。
【0116】
(C-3)アクセプターとしてエリトロース-4-リン酸(1mM)を使用する場合、可能性のあるドナーとして(種々の濃度で)基質を試験し得る。かかる反応において、フルクトース-6-リン酸が生成される。酵素グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼおよび6-ホスホグルコースイソメラーゼによりフルクトース-6-リン酸が酸化されて、NADPHの生成をもたらす6-ホスホグルコノラクトンになる。
【0117】
(C-4)ジヒドロキシアセトンを生じるアクセプターとしてホルムアルデヒド(種々の濃度)を用い得る。続くグリセリンデヒドロゲナーゼの反応によって、NADHの酸化を伴い(concomittant)グリセリンが生成される。
【0118】
(D)一基質トランスケトラーゼ反応の測定
(D-1)NADHの酸化経由:
(a)試験化合物の存在下および(b)試験化合物の非存在下で、酵素の結合が制限されない条件下で従来の酵素結合法を用いて、トランスケトラーゼ活性を測定し得る。(a)試験化合物と共に、および(b)試験化合物の非存在下で、トランスケトラーゼタンパク質を、別の方法で反応を完了した100mmol/L Tris-HCl(pH7,5)、5mmol/Lキシルロース5-リン酸、1,2mmol/L MgCl2、3mmol/Lリン酸塩、0,1mmol/L NADH、2000U/Lグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼおよびトリオースリン酸イソメラーゼの混合物に添加して反応を開始する。37℃で反応を行なう。トランスケトラーゼ活性に正比例するNADHの酸化の後、340の吸光度の減少をモニターする。
【0119】
(D-2)NADの還元経由:
(a)試験化合物の存在下および(b)試験化合物の非存在下で、酵素の結合が制限されない条件下で従来の酵素結合法を用いて、トランスケトラーゼ活性を測定する。(a)試験化合物と共に、および(b)試験化合物の非存在下で、トランスケトラーゼタンパク質を、別の方法で反応を完了した100mmol/L Tris-HCl(pH7,5)、5mmol/Lキシルロース5-リン酸、3mmol/Lリン酸塩、1,2mmol/L MgCl2、0,1mmol/L NAD、2000U/Lグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼの混合物に添加して反応を開始する。37℃で反応を行なう。ケトラーゼ活性に正比例するNADの還元の後、340nmでの増加をモニターする。さらに、リン酸アセチルの生成を測定し得る。
【0120】
(E)さらなる基質とのトランスケトラーゼ反応の検出
(a)試験化合物の存在下および(b)試験化合物の非存在下で、酵素の結合が制限されない条件下で従来の酵素結合法を用いて、トランスケトラーゼ活性を測定する。(a)試験化合物と共に、および(b)試験化合物の非存在下で、トランスケトラーゼタンパク質を、別の方法で反応を完了した100mmol/L Tris-Cl(pH7.5)、5mmol/Lアセトアルデヒド、5mmol/Lピルビン酸塩、1,2mmol/L MgCl2の混合物に添加して反応を開始する。反応により3-ヒドロキシブタノン(アセトイン)およびCO2が生じる。37℃で反応を行なう。HPLCクロマトグラフィーでトランスケトラーゼ活性を測定する。
【0121】
さらなる基質は:
(a)ヒドロキシアセトンおよびCO2を生じるホルムアルデヒドおよびピルビン酸塩、
(b)1-デスオキシキシルロースおよびCO2を生じるグリセリンアルデヒドおよびピルビン酸塩
であり得る。
【0122】
(F)乳酸塩の生成に基づいたTKTL1インヒビターの同定のためのインビボアッセイ
試験され得る細胞株は、例えばグリア芽細胞腫細胞株LN18、結腸癌細胞株HT29、乳癌細胞株MCF7である。細胞株は、(a)試験化合物の存在下および(b)試験化合物の非存在下で、2mg/mlグルコースを含有する培地で培養しなければならない。
【0123】
グルコース消費および乳酸塩生成は5日間で測定されなければならない。毎日、培地中のグルコースおよび乳酸塩の含有量は検査される。さらなる対照として、高いグルコース消費速度および高い乳酸塩生成速度を示さないグリア芽細胞腫細胞株LN229を使用し得る。
【0124】
実施例10:薬物候補のスクリーニング方法
(A)単一化合物試験のためのアッセイ
細胞株(例えば上述)は試験される化合物の存在および非存在で培養されるはずである。合成試験化合物、例えばチアミン、オキシチアミン、p-ヒドロキシフェニルピルビン酸、ピリチアミン、アンプロリウム、2-メチルチアミン、ベンフォオキシチアミン、ベンフォチアミン、2-メトキシ-p-ベンゾキノン(2-MBQ)および(und)2,6-ジメトキシ-p-ベンゾキノン(2,6-DMBQ)、ゲニステイン、ならびに例えばケルセチン、カテキン、ニトリロシドおよびアントシアニン等のフラボノールまたはそれらの誘導体が使用され得る。
【0125】
上に挙げられた化合物の誘導体は、一つ以上の以下の基:
OH、NH2、SH、CN、CF3、ハロゲン、CONHR5、COOR5、OR5、SR5、SiOR5、NHR5、脂肪族(C3〜C6)環、および芳香族(C3〜C6)環から選択される少なくとも一つの基で置換された直鎖および分枝(C1〜C12)脂肪族アルキル基、ここで、R5が直鎖および分枝(C1〜C4)アルキル基から選択される、
アリール基、
天然ポリマー、合成ポリマー、およびコポリマーであって、ヒドロキシル、カルボキシレート、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、チオールおよびアルデヒド;
水素原子、ハロゲン原子、CF3、OH、OCF3、COOH、R7、OR7、およびOCOR7、ここで、R7が直鎖および分枝(C1〜C4)脂肪族アルキル基から選択される;
モノハロゲン化およびポリハロゲン化の直鎖および分枝(C1〜C4)アルキル基、ならびにOH、NH2、SH、CN、CF3、ハロゲン、COOH、CONHR8、COOR8、OR8、SR8、およびNHR8から選択される少なくとも一つの基で任意に置換されるアリール基、ここで、R8が直鎖および分枝(C1〜C12)アルキル基から選択される;ならびに直鎖および分枝(C1〜C4)アルキル基およびCF3
から選択される少なくとも二つの基を有するポリマーおよびコポリマー、
の置換または付加により生成され得る。
【0126】
天然産物、またはその抽出物もしくは画分、例えば発酵小麦麦芽抽出物AVEMARまたはリンゴ抽出物を使用しても、TKTL1酵素活性を活性化または抑制する化合物を同定し得る。TKTL1に特異的な基質または基質アナログを用いて、TKTL1酵素活性を増進または抑制し得る。TKTL1タンパク質アイソフォームに特異的な反応を利用してTKTL1酵素活性を抑制または活性化し得る。TKTL1酵素活性を抑制する化合物を用いて肥満を予防し得る。
【0127】
従って、低いグルコース消費または低い乳酸塩生成をもたらす化合物が同定され得る。かかる化合物は、例えば肥満の減少、精子形成、精子中の乳酸塩の生成(子宮内のマトリックス分解を誘導する)の減少または抑制に有用であるので、避妊薬として適用され得る。
【0128】
さらに、高いグルコース消費または高い乳酸塩生成をもたらす化合物が同定され得る。かかる化合物は、例えば傷の治癒および骨の修復の増進、真性糖尿病患者における血糖値の減少および正常化、真性糖尿病患者における小血管および大血管の病変の予防または減少、真性糖尿病患者における網膜症または神経障害の減少、ならびにアルツハイマー病、ヴェルニッケ-コルサコフ症候群、ハンティングトン病、およびパーキンソン病等の神経変性疾患の抑制または予防に使用され得る。
【0129】
(B) 変異TKTL1タンパク質アイソフォームのタンパク質-タンパク質相互作用に影響する化合物を決定するためのアッセイ
タンパク質-タンパク質相互作用は、酵素活性の調節および細胞機能を調節するシグナル伝達経路の両方に役割を果たす。小分子タンパク質-タンパク質相互作用インヒビター(SMPII)の数は、急速に増加している。生細胞は、その微視的環境および巨視的環境からの種々のシグナルに絶えず曝露される。これらのシグナルの多くは、細胞表面上に存在する受容体によって検出され、次いで、細胞内シグナル伝達カスケードによって処理および伝達される。シグナル伝達カスケードにおける最終的な作用部位は、しばしば細胞表面から遠いため、細胞内シグナル伝達経路の固有特性は、タンパク質が、細胞内で1つの位置から別の位置に転位(translocate)するという要件である。これらの転位、したがって細胞シグナル伝達および応答は、細胞内空間を介するタンパク質転位を媒介するタンパク質-タンパク質相互作用に決定的に依存する。
【0130】
タンパク質転位を伴う典型的なシグナル伝達経路の一例として、インスリンなどの増殖因子へのホスファチジルイノシトール3 キナーゼ (PI3K)経路の細胞性応答に関与するシグナル伝達およびタンパク質転位工程が示される。この経路はTKTL1に影響を及ぼし、TKTL1によって影響を受ける。
【0131】
1. インスリンは、細胞表面のその受容体に結合し、それを活性化する。活性化されると、該受容体は、そのアダプタータンパク質を漸増させ、PI3Kを含む細胞内シグナル伝達分子を活性化する。
【0132】
2. 活性化されたPI3Kは、脂質ホスファチジルイノシトール 3,4,5-三リン酸(PIP3)の原形質膜濃度を増加させる。
【0133】
3. 原形質膜内のPIP3は、Aktl/PKBaおよびPDK1を含むタンパク質キナーゼのためのドッキング部位を提供する;Aktは、膜でドッキングした場合のみ、PDK1によって活性化される。この転位工程は、Akt活性化に絶対的な要件である。
【0134】
4. 原形質膜でPDK1によっていったん活性化されたら、Aktは、自由に細胞内部に拡散して戻り、ここで、転写因子Forkhead(FKHR、FOXOAl)などの基質をリン酸化し得る。
【0135】
5. リン酸化されていないFKHRは、通常、核内に存在し、ここで、細胞周期停止およびアポトーシスに関与する遺伝子を調節する。しかしながら、Aktlによっていったんリン酸化されると、FKHRは、細胞質に転位し、ここでは、もはや標的遺伝子を調節し得ない。
【0136】
タンパク質-タンパク質相互作用および転位は、とりわけAktlおよびForkheadで、これらの工程の各々において関与する。したがって、細胞表面受容体へのインスリンの結合によって開始されるシグナルは、タンパク質転位事象の連続したカスケードを介する細胞の増殖および生存に関与する遺伝子の転写を調節する。この治療的関連性は、改変されたシグナル伝達応答が、しばしば正常組織と疾患組織の細胞を識別する重要な特徴であることを考慮した場合、明らかになる。
【0137】
(C) 小分子タンパク質-タンパク質相互作用インヒビターのアッセイ
従来、大きなペプチドおよび天然産物は、タンパク質-タンパク質相互作用を調節することができる主な化合物クラスと考えられている。しかしながら、文献において、およびスクリーニング主導から、小分子もまた、タンパク質-タンパク質複合体の原因となる相互作用を調節し得ることを示す証拠が増えている。 これらの化合物は、タンパク質-タンパク質界面での阻害により直接、またはアロステリック部位への結合および標的タンパク質もしくは会合分子のコンホメーション変化の誘導により間接的にのいずれかで作用し得る。
【0138】
伝統的な小分子薬物の発見は、主に、細胞表面受容体への結合または酵素の触媒活性の阻害などの精製標的に対する化合物の活性に焦点を当てている。これらのアプローチにより、多数の有用な薬物の開発がもたらされたが、これらは、明らかに制限を有する。細胞内シグナル伝達が起こる複雑なネットワーク環境のため、薬物が最終的に作用しなければならない経路およびネットワーク状況を再生させるために、生細胞において化合物をスクリーニングすることが有利である。経路スクリーニングストラテジーの一部として使用する場合、細胞系転位アッセイは、タンパク質相互作用を調節することにより主に作用する全く新しいクラスの化合物を発見し、進歩させる機会を提供する。
【0139】
精製タンパク質の結合または触媒活性ではなく標的分子の細胞内挙動をモニターする細胞系アッセイが、ここに、SMPPIIを発見し、プロフィールを得るためのハイスループットスクリーニングにおいて使用され得る。
【0140】
公知のトランスケトラーゼ(TKT)遺伝子は、酵素活性を有する単一のタンパク質をコードするが、大きさが異なるTKTL1転写物およびタンパク質が検出された。さらに、TKTLタンパク質(1つまたは複数)の一部は、細胞の核内に存在する。したがって、1つの遺伝子/1つのタンパク質/1つの機能関係が、TKTL1遺伝子について誤っている。公知のトランスケトラーゼは、すべての典型的な不変のトランスケトラーゼアミノ酸残基を有する2つの完全長タンパク質のホモ二量体である。トランスケトラーゼ様遺伝子コードTKTL1タンパク質アイソフォームは、TKTL1 ホモ/ヘテロ二量体ならびにTKT/TKTL1 (およびTKTL2/TKTL1) ヘテロ二量体を構成する。TKTL1タンパク質アイソフォームの発現は、酵素的に非活性であっても、TKT/TKTL1 ヘテロ二量体の一部としてのTKTタンパク質の酵素活性に影響を及ぼす。また、同じことがTKTL2/TKTL1 ヘテロ二量体にも言える。分子スイッチおよびプロトンワイヤ(proton wire)が、TKT/TKTL1 ヘテロ二量体ならびにTKTL1/TKTL1 ホモ-およびヘテロ二量体における活性部位を同期させる。TKTL1タンパク質アイソフォームは多タンパク質複合体の一部であるため、別の型のタンパク質相互作用が存在する。TKTL1タンパク質は、GAPDH、DNaseX (DNA受託番号X90392;タンパク質受託番号CAA62037)、(リン酸化-)Akt、ヒストン、ヒストンアセチラーゼ、アクチン結合タンパク質、およびアミロイド前駆体タンパク質(APP)などのトランスケトラーゼ非関連タンパク質に結合される。多タンパク質複合体の各メンバーの存在または結合は変化する。この変化は、核への細胞質局在化タンパク質の転位によって影響される。いったん核内に達したら、前者の細胞質タンパク質は、細胞質内の機能と異なる機能を発揮する。本発明者らは、アポトーシス細胞および腫瘍細胞における細胞質から核へのDNaseXの転位を検出した。本発明者らはまた、腫瘍細胞における細胞質から核へのph-Aktの転位を検出した(図6〜8)。GAPDHの転位は、アポトーシス神経細胞において検出された。細胞質の結合部位からの放出または核内に直接転位されるタンパク質の新たな合成は、アポトーシスを誘導する多タンパク質複合体をもたらす。このアポトーシスは、細胞、例えば、神経変性疾患を有する患者の脳内のニューロンの死の基礎である。腫瘍細胞には、自殺(sucide)分子 DNaseXが核内に存在し(しかし、DNase活性は発揮しない)、これは、腫瘍細胞のアポトーシスおよび細胞死をもたらす。その代わり、この多タンパク質複合体への結合は、腫瘍細胞におけるDNaseXの不活性化をもたらす。したがって、アポトーシスがブロックされる。神経変性疾患では、DNaseX、GAPDHおよびTKTL1が、死ぬべきでない細胞のアポトーシスをもたらす。望ましくないアポトーシスは、重症な効果をもたらす。
【0141】
多タンパク質複合体内の結合タンパク質を、TKTL1、DNaseX、ph-AktおよびGAPDHに指向される抗体を用いて細胞株からアフィニティ精製した。ある種のタンパク質への結合を、例えば、TKTL1およびGAPDH抗体の組合せ; TKTL1およびDNaseX抗体の組合せ; TKTL1およびph-Akt抗体の組合せ; TKTL1およびTKT抗体の組合せ; TKTL1およびTKTL2抗体の組合せを用いて、ELISA技術によりアッセイ(assed)した。
【0142】
(D) TKTL1タンパク質アイソフォームのタンパク質-タンパク質相互作用に影響するSMPPIIを発見およびプロフィールを得るためのインビボハイスループットスクリーニング
TKTL1 ホモ/ヘテロ二量体およびTKT/TKTL1 ヘテロ二量体の生成ならびに多タンパク質複合体の他のタンパク質の相互作用に影響するSMPPIIが同定され得る。かかる他のタンパク質、例えば、DNaseX、GAPDHまたはアミロイドβペプチド (Aβ)とのTKTL1タンパク質相互作用への生成に影響するSMPPIIが同定され得る。TKTL1タンパク質凝集物の生成に影響するSMPPIIが同定され得る。
【0143】
他のタンパク質とのタンパク質-タンパク質相互作用および以下のタンパク質凝集物、例えば、GAPDHまたはアミロイドβペプチド(Aβ)の生成に影響するSMPPIIが同定され得る。TKTL1タンパク質アイソフォームの転位、例えば、細胞質から核への転位に影響するSMPPIIが同定され得る。
【0144】
TKTL1酵素の改変された基質特異性および反応様式は、増強されたTKTL1酵素活性を有する細胞または組織の破壊に使用され得る。無毒性基質の適用は、増強されたTKTL1酵素活性を有する患者に適用され得る。増強されたTKTL1の発現を有する細胞は、選択的殺傷のために細胞を標的化する遺伝子産物(TKTL1酵素)を有する。増強されたTKTL1酵素活性を示す細胞は、該細胞を無毒性プロドラッグまたは化学療法剤に感受性にし、それにより不要な細胞を排除することにより、無毒性基質を毒性薬物に変換する。この不要な細胞を殺傷する戦略は、無毒性プロドラッグを、例えば食物中で投与することにより、例えば、上皮細胞 (頭部および頚部、食道、胃、結腸および直腸ならびに尿道細胞)に適用され得る。
【0145】
(E) チアミンに対して異なる等電特性および低減された親和性を有するTKTL1タンパク質アイソフォームをもたらすTKTL1遺伝子内の変異が検出された:
DNA系の方法によって、TKTL1遺伝子内の変異を同定する試験が行なわれ得る。試験は、TKTL1タンパク質(1つまたは複数)に特異的なモノクローナル抗体を用いてTKTL1タンパク質アイソフォームを単離することにより行なわれ得る。抗体は、マイクロタイタープレートに結合され得る。血清または他の試料が解析され得、これらの被検物からTKTL1タンパク質アイソフォームが単離され得る。チアミンに対するトランスケトラーゼ活性またはKm-値の決定を可能にする標準化された酵素的トランスケトラーゼ試験が行なわれ得る。この手順を用い、低減されたTKTL1活性を有する個体が、疾患、例えば、真性糖尿病、ヴェルニッケ‐コルサコフ症候群、ハンティングトン病が発症する前に同定され得る。該患者は、TKTL1アクチベーター化合物で処置されるべきである。
【0146】
例えば、(インビボ) 免疫組織化学的方法によってモニターされる核への転位または核内でのTKTL1タンパク質の凝集を阻害する小分子化合物をスクリーニングするための細胞を用いるインビボアッセイが行なわれ得る。細胞は、TKTL1を有する高分子量複合体の存在または低減された可溶性を有するタンパク質複合体の存在について解析され得る。上記のインビボアッセイはまた、TKTL1-GFP融合タンパク質を用いて行なわれ得る。
【0147】
実施例11:栄養物系治療によるmam-aGFの制御
本発明のさらなる態様は、TKTL1の発現およびその随伴糖代謝に基づく新規な治療アプローチに関する。小分子化合物または阻害性基質によるTKTL1酵素活性の阻害の他、TKTL1酵素活性はまた、標的化された栄養物の適用を介する制限された基質利用可能性によって阻害され得る。標的化された栄養物(nutrition)に基づく治療または予防は、腫瘍または非悪性細胞/組織におけるTKTL1酵素活性の測定のための試験、その後の特定の栄養物からなる。
【0148】
基本栄養物は、好ましくは55〜65%(w/w)の量の選択された脂肪酸組成物;好ましくは5〜15%(w/w) の量の選択された炭水化物組成物、好ましくは、2%(w/w)未満のグルコース(またはデンプン)含量を有し、好ましくは、主に、フルクトース、オリゴフルクトース、ガラクトース、オリゴガラクトースを含む;好ましくは10〜25%(w/w)の量の選択されたタンパク質(アミノ酸)組成物、好ましくは40%(w/w)より多い(リジン、ロイシン)、および好ましくは30%(w/w)より多い(イソロイシン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン)を含む; トコトリエノールならびに電子受容体またはその組合せからなる。
【0149】
好ましい態様は、
a) 脂肪酸の組合せ62% (表1参照);
b) 主にフルクトース、オリゴフルクトース、ガラクトース、オリゴガラクトースからなる2%未満のグルコース(またはデンプン)含量を有する炭水化物12%;
c) 40%より多い(リジン、ロイシン)および30%より多い(イソロイシン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン)を有するタンパク質18%
d) トコトリエノール(例えば、γ-トコトリエノール)
e) 例えば、パラベンゾキノン類、ベンゾキノン類、ヒドロキシキノン類およびその誘導体などの少なくとも1種類の電子受容体
からなる。
【0150】
薬学的に許容され得る担体およびチアミンまたはTKTL1酵素活性を活性化しているチアミン誘導体 (ベンフォチアミンなど)との組合せの基本栄養物は、例えば、網膜細胞、中枢および末梢ニューロン、ならびに内皮細胞などの正常(悪性でない)細胞において、TKTL1活性が、加齢またはラジカル形成をもたらす不充分な糖代謝の損傷性効果から保護するので、神経変性疾患、糖尿病、糖尿病合併症、メタボリック症候群、巨大-および微小血管損傷、加齢、網膜細胞損傷、中枢(central)、内皮細胞の炎症、および末梢神経細胞損傷を予防または処置するために適用される。
【0151】
癌処置のためには、毎日基本栄養物は、好ましくは、最大合計量0.2 mgのチアミンに調整されなければならない。これは、低チアミンレベルを有する栄養物の選択によって、栄養物のチアミナーゼ処理によって、または栄養物の加熱/煮沸によって行われ得る。その腫瘍または転移内で高TKTL1-活性および/または転写物/タンパク質濃度が検出される場合、薬学的に許容され得る担体および低レベルのチアミンを有する基本栄養物または阻害性チアミンアナログ (オキシチアミン、オキシベンフォチアミンなど)を添加した低レベルのチアミンを有する基本栄養物は、癌患者に投与される。この栄養物アプローチは、TKTL1酵素活性(enzymatic)の阻害をもたらし、それにより、グルコース代謝を低下し、腫瘍増殖を阻害する。
【0152】
表1:重量%での脂肪酸混合物の例:
カプリル酸(C8) 46.6
カプリン酸(C10) 28.2
リノール酸(ω6−C 18:2) 3.6
SDA(ω3−C18:4) 0.2
ETA(ω3−C20:4) 0.3
EPA(ω3−C20:5) 5.7
DPA(ω3−C22:5) 0.9
DHA(ω3−C22:6) 4.9
その他 9.6
MCFA合計 74.8
n−3 PUFA合計 12.0
その他合計 13.2
DHA:EPA 0.86
n−3:n−6 3.1
MCFA = 中鎖脂肪酸、すなわち8〜14炭素原子を有する脂肪酸)、PUFA=ポリ不飽和脂肪酸、すなわち1つより多い二重結合を有する脂肪酸)
【0153】
実施例12: 甲状腺、肺および結腸の癌組織および正常(健常)組織のTKTL1-タンパク質-レベルの検出
甲状腺組織、肺組織および結腸組織の5μm厚ヒト癌および正常パラフィン切片を免疫組織化学によって解析した。脱ワックス切片を、10 mMクエン酸ナトリウム(pH 6.0)中、450 Wで1分間、その後100 Wで5分間、抗原アンマスキングのために加熱した。dH2O中でのリンス後、内在性ペルオキシダーゼの阻害を、3%-H2O2との5分間インキュベーションで行なった。次いで、切片をビオチンブロッキングシステム(DAKO)に10分間に曝露し、内在性アビジン-ビオチンをブロックした。Tris/生理食塩水バッファー(TBS)中での2回の洗浄後、スライドを、1%ヤギ血清とともに30分間インキュベートし、非特異的染色をブロックした。続いて、切片をマウス抗TKTL1 (クローンJFC12T10; マウスIgG2b) 抗体(25μg/ml)または抗Ser473 ホスホ-Akt (587F11; マウスIgG2b; Cell Signaling Technology)に一晩4℃で曝露した。次いで、スライドをTBS中で洗浄し、ビオチン化抗マウス免疫グロブリンとともに30分間 室温でインキュベートし、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼ (DAKO) で処理した。染色は、3-アミノ-9-エチルカルバゾール (AEC) 基質を用いて明示した。水性ヘマトキシリンを用いて核対比染色を行なった。
【0154】
該免疫組織化学的染色の結果を図6、7および8に示す。各癌の型について、3つの独立した実験の代表的な1つを示す。TKTL1およびリン酸化d Aktは、甲状腺癌組織において高度に発現される。非小細胞肺癌(NSLC)および結腸癌腫は、高レベルのTKTL1を発現し、Aktをリン酸化する。
【0155】
実施例13: 胃癌腫患者、結腸癌患者ならびに非浸潤および浸潤膀胱癌患者の腫瘍におけるTKTL1-タンパク質-レベルの検出
3名の胃癌患者(図4A-P)、1名の結腸癌患者(図4Q)、1名の非浸潤膀胱癌患者(図4R)および1名の浸潤膀胱癌患者(図4S-T)の腫瘍 におけるTKTL1タンパク質発現を測定し、対応する正常組織と比較した。
【0156】
TkTLlタンパク質測定は、モノクローナル抗TKTL1抗体の補助によって行なった。抗TKTL1抗体は、ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド(DAB; 褐色染色)によって明示させた。ヘマトキシリンを用いて対比色染色を行なった(青色染色)。
【0157】
胃癌患者1の被検物は、腫瘍組織内でTKTL1の強い細胞質発現を示すが、周辺支質細胞では発現はない(図4C〜F)。腫瘍細胞内の異種性発現に注目されたい(図4E〜F)。対応する正常組織はTKTL1の発現を示さない(図4A〜B)。
【0158】
胃癌患者2の被検物は、腫瘍細胞内に強い細胞質発現(図4J〜N)および腫瘍細胞内に異種性発現(図4L)を示す。対応する正常洞組織はTKTL1の発現を示さない(図4G〜I)。
【0159】
胃癌患者3の被検物は、分化が不充分な胃癌腫において核発現を示す(図40〜P)。
【0160】
結腸癌患者の被検物は細胞質染色を示す(図4Q).
【0161】
表在性膀胱癌腫を有する患者の被検物は、TKTL1の発現を示さない(図4R)。
【0162】
浸潤分化が不充分な膀胱癌腫を有する患者の被検物は、強い細胞質発現を示す (図4S〜T)。
【0163】
非浸潤および浸潤膀胱癌腫組織の比較を図5に示す。非浸潤膀胱癌腫組織は染色を全く示さないか、または少しだけ示し、これはTKTL1の発現なしを示すが、浸潤膀胱癌腫組織は強い染色を示し、これは強いTKTL1の発現を示す。
【0164】
実施例14: 4つの異なる腫瘍実体由来の5つの腫瘍細胞株におけるTKTL1タンパク質アイソフォームの発現
4つの異なる腫瘍実体由来の5つの腫瘍細胞株におけるTKTL1タンパク質アイソフォームの発現が、TKTL1タンパク質アイソフォームを特異的に検出するが、他のトランスケトラーゼファミリーメンバーとは反応しないMAbを用いて検出された。結果を図2(B)に示す。各細胞株は、TKTL1タンパク質アイソフォームの特有な発現パターンを示す。分子量標準をkDaで示す。
【0165】
実施例15: 癌および正常組織におけるTKTL1およびリン酸化Akt (ph-Akt)の発現
TKTL1またはph-Aktの免疫組織化学的解析を、正常、乳頭状癌(PTC)、濾胞状癌(FTC)および未分化(UTC)甲状腺癌(図6A〜C)の、正常およびNSLC 組織 (図7D)の、結腸癌(図7E)の、および正常または膀胱および前立腺癌(図8F〜G)のパラフィン包埋切片において、抗TKTL1または抗ph-Aktを用いて行なった。抗TKTL1または抗ph-Aktを、3-アミノ-9-エチルカルバゾールによって明示させた(AEC;赤色染色)。ヘマトキシリンを用いて対比色染色を行なった(青色染色)。陰性対照は、アイソタイプ適合IgGを用いて行なった。
【0166】
TKTL1は、主に細胞質内に局在化されるが、核染色もまた、腫瘍のサブセットにおいて確認され得る。リン酸化Aktは、細胞質および/または核内に局在化される。
【0167】
実施例16: 胃癌腫を有する患者、結腸癌腫を有する患者、非浸潤膀胱癌腫を有する患者および浸潤膀胱癌腫を有する患者におけるTKTL1-レベルの検出
3μm厚パラフィン切片を、抗原アンマスキングのために、10 mMクエン酸ナトリウム(pH 6.0)中にて5分間900 Wで、dH20中にて5分間 900 Wで、および10 mMクエン酸ナトリウム(pH 6.0)中にて5分間 900 Wで加熱した。リン酸塩/生理食塩水バッファー(PBS)中で洗浄後、内在性ペルオキシダーゼの阻害を上記のようにして行なった。次いで、切片を15分間ビオチン-アビジンブロッキングバッファー(Vector Laboratories)に曝露した。上記のヤギ血清を用いて、非特異的染色のブロッキングを行なった。アビジン-ビオチン化ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合体 (ABC)およびジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド(DAB) (Eliteキット; Vector Laboratories)で一次抗体を可視化し、マイアーのヘマトキシリンで対比染色した。
【0168】
免疫組織化学的染色の結果を図4、5および9〜16に示す。
【0169】
実施例17: 胃腺癌腫および肺腺癌腫試料およびその対応する正常組織におけるTKTL1転写物の定量化
15μlのリアルタイムPCR反応物を3%-アガロースゲル上に負荷し、150 bp TKTL1増幅産物を可視化した。腫瘍および対応する正常組織間の発現の差を、リアルタイムデータに基づいて計算し、対応する正常試料と比べた腫瘍試料における誘導倍数として示す。(B) 肺腺癌腫および対応する正常試料におけるTKT、TKTL1、TKTL2およびβ-アクチン遺伝子のリアルタイム転写物定量化。最大発現レベルはβ-アクチンで観察される。トランスケトラーゼ遺伝子ファミリーの中で、TKT遺伝子は、最大発現レベルを示す。正常肺におけるTKTL1およびTKTL2 発現レベルは、TKTおよびβ-アクチンのものと比べて低い。これとは対照的に、肺腺癌腫におけるTKTL1の発現レベルは、対応する正常組織よりも60倍高い。
【0170】
実施例18: 神経変性疾患の診断
健常被験体およびアルツハイマー病または他の神経変性疾患を有する患者由来の線維芽細胞株、包皮線維芽細胞または白血球を、ELISA、焦点電気泳動ゲル解析、2Dゲル電気泳動および免疫染色によってTKTL1異常性について解析した。ELISA実験は、異なる ELISAアプローチによって行なった。ELISAの1つの型は、捕捉または検出抗体が、ある特定のタンパク質に対して指向される典型的なELISAを表す。使用した他の型のELISAは、1つのタンパク質に対して指向される抗体、および別のタンパク質に対する抗体からなるものであった。1型の一例として、ELISAは、TKTL1抗体JFC12T10およびTKTL1抗体JFC10T9の組合せである。JFC12T10は、TKTL1タンパク質のエピトープを検出し、TKTまたはTKTL2と交差反応しない。JFC10T9は、TKTL1の別のエピトープを検出する。ELISAを用い、JFC12T10/JFC10T9 TKTL1タンパク質が検出され、測定され得る。2型の一例として、ELISAは、TKTL1に対して指向される抗体JFC12T10およびDNaseXに対して指向される抗体JFC11D8である。このELISAを用い、TKTL1およびDNaseXのタンパク質相互作用が測定され得る。健常人および患者由来試料を用いて両方の型のELISA反応を行なった。1つの型の試料は血清などの体液からなり、タンパク質の存在およびタンパク質相互作用について直接解析された。別の型の解析は、カルボ結合(carbo-link)にカップリングさせた抗体(例えば、JFC12T10またはJFC11D8)を用いて行なった。アフィニティ精製手順を用い、本発明者らは、細胞 (細胞培養物または天然組織由来)の多タンパク質複合体を単離した。多タンパク質複合体を、焦点電気泳動または2Dゲル電気泳動の後免疫染色または酵素活性の測定(例えば、トランスケトラーゼ2-または1-基質反応; DNase試験、GAPDH活性) によって解析した。これらのアッセイを用い、ADなどの神経変性疾患を有する患者に特異的に存在するタンパク質アイソフォームが同定され得た。AD患者などの神経変性障害を有する患者において、高いアルカリpI、低い2-または1-基質反応および低チアミン親和性を有するTKTL1バリアントが検出された。さらに、標準的なPAGEを用い、完全長TKTL1と比べて、より小さいタンパク質アイソフォームおよびより多量のより小タンパク質が、健常人と比べて該患者由来のインタクト細胞または細胞抽出物において検出された。さらに、TKTL1の低減された2-または1-基質反応、またはTKTL1のより低いチアミン親和性が、後に(数ヶ月〜数年後) ADなどの神経変性疾患を示した健常人において観察された。観察されたTKTL1バリアントは、細胞において低減された糖代謝をもたらした。これらの低減された糖代謝は、増強されたAGE形成をもたらし、AGE形成は、高分子量タンパク質凝集物および細胞死をもたらした。適正な脳機能に必要な細胞のこの不要な細胞死は、これらの神経変性疾患の重要な原因である。2-または1-基質反応が低減されたか、またはチアミン親和性が低いTKTL1バリアントを有する個体を同定するため、試験される試料からTKTL1タンパク質を単離するために使用され得るTKTL1抗体(例えば、JFC12T10)を確立した。該試料は、体液 (例えば、血清)または細胞試料 (例えば、線維芽細胞または白血球のタンパク質)であり得る。ELISAプレートにカップリングされた TKTL1抗体はTKTL1タンパク質を捕捉し、TKTおよびTKTL2タンパク質を洗浄後、(トランス-)ケトラーゼ2-または1基質反応が、例えば、低減されたNADHを構築(build)することにより、カップリングされた酵素反応において酵素的に測定され得る(該酵素アッセイは上記に記載している)。同様に、酵素反応は、チアミンの異なる濃度で行なった。アッセイにおいてチアミンレベルを低下させることにより、チアミン親和性が低減した神経変性疾患を有する患者においてTKTL1バリアントが同定された。ELISAのこのアプローチおよび酵素的解析を用い、神経変性疾患の徴候が存在する前の時点で、神経変性疾患の素因を与えるTKTL1バリアントが同定され得る。これは、例えば、ベンフォチアミンなどのより良好な可溶性チアミン誘導体または低減されたレベルもしくはある種の型の糖(例えば、グルコース)を有する食事の適用(appliccation)により、神経変性疾患の予防に利用され得る。低減された2-または1-基質反応または低いチアミン親和性を有するTKTL1バリアントの同定に加え、低減された可溶性を有するTKTL1バリアント、または高分子量複合体で存在するTKTL1バリアントが、ADなどの神経変性疾患患者において同定された。本発明者らは、AD患者などの神経変性疾患を有する患者の核内に高分子量複合体で存在するTKTL1バリアントと特異的に反応するTKTL1 特異的抗体を確立した(JFC7T4)。ELISA反応または免疫組織化学的染色を用い、該疾患特異的TKTL1バリアントが、体液 (例えば、血清)中、または組織試料 (例えば、白血球、線維芽細胞、生検材料)において同定され得る。さらに、該多タンパク質複合体中に存在する他のタンパク質に対して指向される抗体と組合せて、ELISAが行なわれ得、タンパク質相互作用の存在が検出され得る。TKTL1抗体JFC8T7およびDNaseX 抗体JFC7D4からなるかかる2型のELISAにより、アポトーシスに入る細胞に特異的なTKTL1およびDNaseXのタンパク質相互作用が同定された。TKTL1抗体JFC8T7およびGAPDH 抗体JFC3G6からなる別の2型のELISAにより、アポトーシスに入る細胞に特異的なTKTL1およびGAPDHのタンパク質相互作用が同定された。これらのタンパク質複合体の存在は、神経変性疾患の検出および治療に利用(expoit)され得る。TKTL1ならびにGAPDH、DNaseXおよびph-Aktなどの他のタンパク質間のかかるタンパク質相互作用の同定は、抗アポトーシス性化合物の単離に利用され得る。該化合物は、神経変性疾患の処置のための医薬用薬剤として使用され得る。TKTL1特異的に結合する化合物は、親和性標識によって、および例えばBIAcore技術によって同定され得る。抗アポトーシス効果は、低減されたプログラムされた細胞死(例えば、アポトーシスラダー、カスパーゼ-3、アネキシンによって可視化される)を用いて検出され得る。TKTL1およびGAPDHは、互いに固く結合されている。X5Pなどの糖を切断するTKTL1(トランス-)ケトラーゼ反応は、GAPの生成をもたらす。GAPDHはTKTL1に固く結合されているので、GAPDHから生成されたGAPは直接利用され、NADH + H+へのNAD+の還元に付随する(concomittant)1,3-ホスホグリセレートの生成をもたらした。TKTL1およびGAPDHの相互作用を阻害する小分子化合物の単離には、いくつかの化合物の結合がNAD+の濃度に依存するため、異なるNAD+濃度を使用すべきである。別の型のタンパク質相互作用を、抗体JFC12T10を単独の抗体として用いて検出した。TKTL1タンパク質が単独のタンパク質として存在する場合、1つだけの抗体を捕捉および検出抗体として使用するならば、ELISA反応は機能しないはずである。TKTL1抗体の場合は、JFC12T10が、捕捉および検出抗体として使用され得る。したがって、この抗体を用いて、TKTL1と別のTKTL1タンパク質のタンパク質相互作用が検出され得る。いくつかのTKTL1タンパク質アイソフォームは、N末端タンパク質配列がないため、TKTL1からなる二量体およびTKTL1は、ホモ-およびヘテロTKTL1-二量体に識別され得る。二量体のいくつかは、別の完全長 TKTL1タンパク質に結合された完全長TKTL1タンパク質からなる(TKTL1ホモ二量体)。二量体のいくつかは、完全長TKTL1タンパク質およびN末端がないより小さいTKTL1アイソフォームからなる。識別は、TKTL1タンパク質内の異なる部位に位置するTKTL1抗体を用いて行なわれ得る。例えば、N末端に位置するTKTL1抗体は、C末端に位置する抗体と使用され得、このELISAの結果を、C末端に位置する抗体のみを用いたELISAと比較し得る。該2つのELISA結果の比は、患者の同定および後にTKTL1関連疾患になる健常人の同定ために使用され得る(図11〜12もまた参照)。
【0171】
実施例19:内皮細胞におけるTKTL1の発現
正常な組織および細胞の大部分はTKTL1の発現を示さない。網膜、内皮細胞および神経細胞では、TKTL1の発現が存在する。網膜、内皮細胞および神経細胞は、高グルコースレベルによって損傷を受ける。図9および図10に示すように、TKTL1タンパク質は、内皮細胞 (ならびに網膜および神経細胞; 示さず)の核および/または細胞質内で発現される。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】図1は、(A)胃および肺の腺癌試料ならびにそれらの対応する正常組織におけるTKTL1転写産物の量である。N-正常試料;T-腫瘍試料;M-マーカー、100bpおよび200bpフラグメントを示す。
【図2】図2Aは、(A)TKTL1 cDNAプローブで分析した、異なるヒト成人組織由来のポリ(A)+ mRNAのノーザンブロットでのヒトTKTL1遺伝子の発現パターンである。図2Bは、(B)四つの異なる腫瘍実体由来の五つの腫瘍細胞株におけるTKTL1タンパク質アイソフォームの発現である。図2Cは、(C)大腸菌で発現されたTKTL1全長タンパク質である。
【図3】図3は、天然(A)および組換え(B)TKTL1タンパク質のトランスケトラーゼ活性の測定である。
【図4】図4は、A〜B:胃癌患者1の正常組織体;C〜F:胃癌患者1の腫瘍組織;G〜I:胃癌患者2の正常洞組織、J〜N:患者2の胃癌細胞、O、P:完全には分化していない胃癌;Q:結腸癌;R:表在性膀胱癌;S、T:侵襲性の完全には分化していない膀胱癌におけるTKTL1タンパク質発現である。倍率は、G x50;C、HおよびJ x100;A、B、D、E、I、K、M、OおよびS x200;F、L、N、P、Q、RおよびT x400である。
【図5】図5は、非侵襲性および侵襲性膀胱癌のTKTL1染色である。
【図6】図6は、A〜C:正常、乳頭上(PTC)、濾胞(FTC)、および未分化(UTC)甲状腺癌のパラフィン封入切片のTKTL1およびリン酸化Akt(ph-Akt)の発現である。AEC=赤色染色;ヘマトキシリンを用いた交差染色=青色染色、黄色矢印は核ph-AKT染色を示す。
【図7】図7は、D:正常組織およびNSLC組織、E:結腸癌のパラフィン封入切片のTKTL1およびリン酸化Akt(ph-Akt)の発現である。AEC=赤色染色;ヘマトキシリンを用いた交差染色=青色染色、黄色矢印は核ph-AKT染色を示す。
【図8】図8は、F:正常膀胱;G:前立腺癌のパラフィン封入切片のTKTL1およびリン酸化Akt(ph-Akt)の発現である。AEC=赤色染色;ヘマトキシリンを用いた交差染色=青色染色、黄色矢印は核ph-AKT染色を示す。
【図9】図9は、内皮細胞におけるTKTL1の発現である。
【図10】図10は、内皮細胞におけるTKTL1の発現である。
【図11】図11は、神経細胞におけるTKTL1の発現である。
【図12】図12は、神経細胞におけるTKTL1の発現である。
【図13】図13は、mam-aGF経路の模式図である。
【図14】図14は、mam-aGF経路の模式図である。
【図15】図15は、TKTL1タンパク質アイソフォーム(矢印A)、DNaseXおよびGAPDHを含む複数タンパク質複合体の2次元(2D)ゲル電気泳動。
【図16】図16は、免疫染色により同定された高分子量TKTL1タンパク質アイソフォーム(矢印)の2Dゲル電気泳動である。
【図17】図17は、(A)TKTL1タンパク質アイソフォームおよび(B)単離されたTKTL1タンパク質のトランスケトラーゼ活性のELISA測定である。値は、(A)A1〜A5:健常ヒト由来の白血球、(A)A6〜A10:健常ヒト由来の線維芽細胞、(A)B1〜B5:健常ヒト由来の血清、(A)B6〜B10:健常ヒト由来の脳細胞、(A)A11〜A12:プローブ物質無し(バックグラウンドレベル)、(A)B11〜B12:プローブ物質無し(バックグラウンドレベル)、(A)C1〜C3: AD患者由来の白血球、(A)C4〜C6:AD患者由来の線維芽細胞、(A)C7〜C9:AD患者由来の血清、(A)C10〜C12:AD患者由来の脳細胞、(A)D1〜D3:パーキンソン病患者由来の白血球、(A)D4〜D6:パーキンソン病患者由来の線維芽細胞、(A)D7〜D9:パーキンソン病患者由来の血清、(A)D10〜D12:パーキンソン病患者由来の脳細胞、(A)E1〜E3:ハンティングトン病患者由来の白血球、(A)E4〜E6:ハンティングトン病患者由来の線維芽細胞、(A)E7〜E9:ハンティングトン病患者由来の血清、(A)E10〜E12:ハンティングトン病患者由来の脳細胞、(A)F1〜F3:SLE患者由来の白血球、(A)F4〜F6:SLE患者由来の線維芽細胞、(A)F7〜F9:SLE患者由来の血清、(A)F10〜F12:SLE病患者由来の腎臓細胞、(A)G1〜G3:パーキンソン病患者由来の白血球、(A)G4〜G6:パーキンソン病患者由来の線維芽細胞、(A)G7〜G9:パーキンソン病患者由来の血清、(A)G10〜G12:パーキンソン病患者由来の腎臓細胞、(A)H1〜H3:II型糖尿病パーキンソン病患者由来由来の白血球、(A)H4〜H6:II型糖尿病患者由来の線維芽細胞、(A)H7〜H9:II型糖尿病患者由来の血清、(A)H10〜H12:II型糖尿病患者由来の腎臓細胞、(B)A1〜A5:健常ヒト由来の白血球、(B)A6〜A10:健常ヒト由来の線維芽細胞、(B)B1〜B5:健常ヒト由来の血清、(B)B6〜B10:健常ヒト由来の脳細胞、(B)A11〜A12:プローブ物質無し(バックグラウンドレベル)、(B)B11〜B12:プローブ物質無し(バックグラウンドレベル)、(B)C1〜C3:健常ヒト、(B)C4〜C6:健常ヒト由来の神経細胞、(B)C7〜C9:健常ヒト由来の腎臓細胞、(B)C10〜C12:健常ヒト由来の結腸細胞、(B)D1〜D3:AD患者由来の(B)白血球、(B)D4〜D6:AD患者由来の線維芽細胞、(B)D7〜D9:AD患者由来の血清、(B)D10〜D12:AD患者由来の脳細胞、(B)E1〜E3:パーキンソン病患者由来の白血球、(B)E4〜E6:パーキンソン病患者由来の線維芽細胞、(B)E7〜E9:パーキンソン病患者由来の血清、(B)E10〜E12:パーキンソン病患者由来の脳細胞、(B)F1〜F3:SLE患者由来の白血球、(B)F4〜F6:SLE患者由来の線維芽細胞、(B)F7〜F9:SLE患者由来の血清、(B)F10〜F12:SLE病患者由来の腎臓細胞、(B)G4〜G6:多発性硬化症患者由来の線維芽細胞、(B)G7〜G9:多発性硬化症患者由来の血清、(B)G10〜G12:多発性硬化症患者由来の腎臓細胞、(B)H1〜H3:II型糖尿病患者由来の白血球、(B)H4〜H6:II型糖尿病患者由来の線維芽細胞、(B)H7〜H9:II型糖尿病患者由来の血清、(B)H10〜H12:II型糖尿病患者由来の腎臓細胞から得られたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物個体(患者)における哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路(mam-aGF)の使用の程度および正確なプロセスフローの定性的および定量的検出のための方法において、
(a) 酵素TKTL1を、指示体および標的分子として使用する、ならびに
(b) 以下の工程:
- 前記個体(患者)の生物学的試料を採取する工程、
- 前記個体(患者)の前記試料内およびコントロール試料内のTKTL1タンパク質の活性および/または濃度および/または細胞局在化および/または凝集状態および/または二量体化状態を測定する工程
- 前記個体(患者)の前記試料から得られた測定データを、コントロール試料から得られたデータと比較する工程、
- ならびに (i)コントロール試料と比較した個体の前記試料中のTKTL1タンパク質の活性および/または濃度の増強または低減されたレベルを、それぞれ、
哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路の増強もしくは低減された使用の程度の表示、および(ii)コントロール試料と比較した個体の前記試料中のTKTL1タンパク質の異常な細胞局在化および/または異常な凝集状態および/または異常な二量体化状態を、異常な哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路の表示とみなす工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
増強もしくは低減された、および/または異常な哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路と関連する疾患を検出およびモニタリングするための方法である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
インビボまたはインビトロ分子画像化の過程で使用されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
生物学的試料が、組織試料、生検材料、体液、分泌物、スメア、血清、尿、精液、糞便、胆汁、細胞含有液、溶解細胞、細胞残屑、ペプチドまたは核酸である、請求項1〜3いずれか記載の方法。
【請求項5】
工程(b)における測定が、タンパク質レベルで、すなわち、標的としてTKTL1タンパク質またはTKTL1タンパク質断片を用いて行なわれる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
タンパク質レベルの工程(b)における測定が、TKTL1タンパク質に特異的に結合する分子を用いることにより行なわれる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記分子が、TKTL1に指向される抗体もしくはかかる抗TKTL1抗体の断片または抗原結合エピトープを含むペプチド模倣物、あるいはミニ抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
工程(b)における測定が、核酸レベルで、すなわち、標的としてTKTL1遺伝子もしくはTKTL1 mRNAまたはその断片を用いて行なわれる、請求項4記載の方法。
【請求項9】
TKTL1遺伝子またはTKTL1 mRNAにハイブリダイズできる少なくとも1つの核酸プローブが測定に使用される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
TKTL1核酸またはその断片を含むキメラ核酸が測定に使用される、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物好気的グルコース発酵代謝経路の制御を、かかる制御を必要とする哺乳動物個体(患者)において行なう方法であって、該制御は、酵素TKTL1の活性または濃度の少なくとも1種類のインヒビターまたはアクチベーターの有効量を投与することを含む、方法。
【請求項12】
酵素TKTL1の活性または濃度のインヒビターまたはアクチベーターの有効量ならびに薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物。
【請求項13】
インヒビターが、オキシチアミン、ベンフォオキシチアミン (=オキシベンフォチアミン(benfotiamin))、ヒドロキシピルビン酸、ピルビン酸、p-ヒドロキシフェニルピルビン酸、ピリチアミン、アンプロリウム、2-メチルチアミン、2-メトキシ-p-ベンゾキノン (2-MBQ)および(und)2,6-ジメトキシ-p-ベンゾキノン (2,6-DMBQ)、ゲニステイン、ならびに、例えば、ケルセチン、カテキン類、ニトリロシド類、アントシアニン類などのフラボノール類; またはその誘導体からなる群より選択される、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記アクチベーターが、チアミンもしくはベンフォチアミンまたはその機能的に等価な誘導体である、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項15】
有効量の核酸分子、組換えベクター、ポリペプチド、アンチセンスRNA配列、リボザイムまたは抗体を含む、変異TKTL1タンパク質の異常な細胞局在化、凝集状態および/または二量体化状態(コントロール避妊(contraception)と比べ)と関連する疾患の予防または処置のための医薬組成物。
【請求項16】
酵素TKTL1の活性または濃度のインヒビターまたはアクチベーターの有効量および薬学的に許容され得る担体を含む、栄養組成物または食事サプリメント。
【請求項17】
インヒビターが、オキシチアミン、ベンフォオキシチアミン (=オキシベンフォチアミン)、ヒドロキシピルビン酸、ピルビン酸、p-ヒドロキシフェニルピルビン酸、ピリチアミン、アンプロリウム、2-メチルチアミン、2-メトキシ-p-ベンゾキノン (2-MBQ)および2,6-ジメトキシp-ベンゾキノン (2,6-DMBQ)、ゲニステイン、ならびに、例えば、ケルセチン、カテキン類、ニトリロシド類、アントシアニン類などのフラボノール類; またはその誘導体からなる群より選択される、請求項16記載の栄養組成物/食事サプリメント。
【請求項18】
前記アクチベーターが、チアミンもしくはベンフォチアミンまたはその誘導体である、請求項16記載の栄養組成物/食事サプリメント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2008−531065(P2008−531065A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500098(P2008−500098)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001951
【国際公開番号】WO2006/094716
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(505228257)
【Fターム(参考)】