説明

回路基板の製造方法

【課題】信頼性の高い回路基板を低コストで供給する。
【解決手段】開口部101を介してチップ取り出し電極2を含む基板1の一部表面が露出するようメタルマスク100を基板1に被せ、イオン化された被着金属に、0.01eVから250eVの被着エネルギを与えるイオンプレーティング法により金属導体を形成した後、メタルマスク100を剥離することによって、基板1の一部表面に形成された金属導体からなる配線層21を形成する。これにより、フォトリソグラフィー法を用いることなく、基板上に配線層21を直接形成することができるため、生産性が高く低コストな回路基板を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路基板及びその製造方法に関し、特に、他の基板と接続するための外部端子電極が形成された回路基板及びその製造方法に関する。さらには、ウエハレベルパッケージ構造およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータや移動体通信機器など半導体チップを用いた回路システムに対しては、小型化の要求が非常に高まっている。このような要求を満たすため、半導体チップはそのチップサイズに近いチップサイズパッケージ(CSP)に実装されることがある。
【0003】
CSPを実現する方法の一つとして、ウエハレベルパッケージ(WLP)と呼ばれるパッケージング方法が知られている(特許文献1,2参照)。WLPは、ダイシングにより個片化する前のシリコンウエハに対して外部端子電極などを形成する方法であり、ダイシングによる個片化は、WLPの後に行われる。WLPを用いれば、多数の半導体チップに対して外部端子電極などの形成を同時に行うことができるため、生産性を高めることができると期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−319792号公報
【特許文献2】特開2007−157879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、WLPは、内部端子電極を有する基板を製造する前工程以後の工程であり、ボンディングワイヤを用いた一般的なパッケージング方法とは異なり、基板を含む最終製品に仕上げる後工程において一般的にフォトリソグラフィー工程(レジスト塗布、露光、現像、レジスト剥離)が含まれるため、製造コストが高いという問題があった。例えば、特許文献1の図9には、フォトリソグラフィー法によって配線層(12)をパターニングし、さらに、フォトリソグラフィー法によって絶縁層(21)をパターニングした後、外部端子電極(31)を形成する方法が記載されている。また、特許文献2の図3〜図4にも、フォトリソグラフィー法によって配線層(13)をパターニングし、さらに、フォトリソグラフィー法によって絶縁層(15)をパターニングした後、外部端子電極(16)を形成する方法が記載されている。
【0006】
このような問題は半導体チップのWLPに限らず、微細な内部回路が形成された各種回路基板に外部端子電極を形成する他のケースにおいても生じる問題である。
【0007】
このため、微細な内部回路が形成された回路基板、特にシリコンウエハにウエハレベルで外部端子電極を形成するより安価な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、回路基板に外部端子電極を形成する安価な方法について鋭意研究を重ねた結果、メタルマスクを介して回路基板上に金属材料をイオンプレーティングし、その後メタルマスクを剥離(リフトオフ)する方法を用いれば、フォトリソグラフィー工程を用いることなく、外部端子電極と接続するための配線層を形成できることを見いだした。イオンプレーティング法自体は広く知られた金属成膜方法であるが、イオンプレーティング法とリフトオフ法を組み合わせることによって、フォトリソグラフィー法を用いることなく配線層を直接形成する方法(イオンプリンティング)は、少なくとも半導体チップのWLPにおいては提案された例がない。その理由として、WLPにおいて膜厚の薄い配線層を形成する方法としては、フォトリソグラフィー法と蒸着やスパッタリングなどの非イオンスピーシーズによる物理被着を用いた方法が確立しており、WLPにおいて膜厚の厚い配線層を形成する方法としては、フォトリソグラフィー法とメッキ法を用いた方法が確立しているためであると考えられる。しかしながら、本発明者らの研究によれば、上記の方法、すなわちイオンプリンティングで回路基板上に配線層を形成する方が、フォトリソグラフィー法を用いた現在のプロセスよりも製造コストが低くなるばかりでなく、形成された配線層の特性も良好となることを見いだした。
【0009】
本発明は、このような技術的知見に基づきなされたものであって、本発明による回路基板の製造方法は、内部端子電極を有する基板に、前記内部端子電極と外部とを電気的に接続する外部端子電極を形成する回路基板の製造方法であって、前記内部端子電極を含む前記基板の表面の一部が露出するような開口部を有する金属性のメタルマスクを前記基板に被せるマスク工程と、前記基板の前記表面の一部及び前記メタルマスク上に、イオンプレーティング法により金属性の導体を形成する成膜工程と、前記メタルマスクを剥離することによって、前記基板の表面の一部に形成された金属性の導体からなる配線層を残存させるリフトオフ工程と、前記配線層に電気的に接続された前記外部端子電極を形成する電極形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明は、このような技術的知見に基づきなされたものであって、本発明による回路基板の製造方法は、内部端子電極を有する基板に、前記内部端子電極と外部とを電気的に接続する外部端子電極を形成する回路基板の製造方法であって、前記内部端子電極を含む前記基板の表面の一部が露出するような開口部を有する金属性のメタルマスクを前記基板に被せるマスク工程と、前記基板に所定の電位を与え、前記所定の電位と異なる電位にイオン化された被着金属に、0.01eVから250eVの被着エネルギを与えることによって、前記基板の前記表面の一部及び前記メタルマスク上に、イオンプレーティング法により金属性の導体を形成する成膜工程と、前記メタルマスクを剥離することによって、前記基板の表面の一部に形成された金属性の導体からなる配線層を残存させるリフトオフ工程と、前記配線層に電気的に接続された前記外部端子電極を形成する電極形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一側面による回路基板は、内部端子電極を有する基板と、前記基板の表面の一部に形成され、前記内部端子電極に電気的に接続する配線層と、前記配線層の表面の第1の部分を覆うことなく、前記配線層の表面の第2の部分を覆う絶縁膜と、前記配線層の第1の部分を覆い、前記配線層に電気的に接続することによって外部と前記内部端子電極とを電気的に接続する外部端子電極と、を備え、前記配線層の第2の部分は、前記基板の表面に垂直な方向から見たエッジ部を含み、前記エッジ部における前記配線層の前記基板の表面と垂直な断面の角度が55°以下である、ことを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の他の側面による回路基板は、内部端子電極を有する基板と、前記基板の表面の一部に形成され、一端が前記内部端子電極に接続する導電性の配線層と、前記配線層の他端に接続され、外部との接続に用いられる外部端子電極と、を備え、前記配線層は、前記基板の表面方向とは異なる方向に対して垂直に伸びる柱状の塊の集合体によって構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の好ましい実施形態においては、複数の半導体回路を形成した前工程完成ウエハ(基板)1の取り出し電極部(内部端子電極)2上とそれに繋がる面にバリア金属4を、メタルマスクを通してパターン被着し、そのパターン上に銅配線5をメタルマスクを通してパターン被着し(リフトオフプロセス)再配線パターンとなし、さらに接続のための電極を形成するため、再配線パターン上にバリア金属6を、メタルマスクを通してパターン被着し、そのパターン上に銅配線7を、メタルマスクを通してパターン被着し(リフトオフプロセス)、ポスト電極となし、ポスト電極部を除いて液状有機保護膜8を印刷で形成する構造を有し、露出ポスト部にはんだボール(外部端子電極)9などを形成した後、ダイシングにより基本回路チップとなす構造を特徴とするウエハレベルパッケージ半導体回路であり、バリア金属および銅配線のパターン被着をイオンプレーティング法により形成したその金属膜の結晶状態が柱状結晶あるいは多結晶であることを特徴とする。
【0014】
金属のパターン被着は、イオンプレーティングのイオン化に高周波高電界によるプラズマ(被着対象イオンエネルギ0.1から1000eV)又は熱電子を利用し、イオン化した被着金属の被着エネルギの主要部分を25±10eV、分布を0.01eVから250eV(5%以下切捨て)の範囲に実質的に押さえることが好ましい。このエネルギ範囲に設定すれば、バリア金属4又は6を省略することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、メタルマスクを用いたイオンプレーティング法とリフトオフ法の組み合わせ(イオンプリンティング)によって基板上に配線層を直接形成していることから、フォトリソグラフィー工程を用いる必要がなくなる。これにより、特にWLPにおける製造コストを大幅に低減することが可能となる。
【0016】
しかも、イオンプリンティングによって形成される配線層のエッジ部は、角度が55°以下となることから、エッジ部における応力が緩和され、配線層と保護絶縁膜との密着性も向上することから、パッケージの信頼性が高められる。さらに、配線層が柱状結晶の集合体によって構成されることから、被着歪みが少なくなり、基板と配線層との密着性が高められる。
【0017】
これにより、信頼性の高い回路基板を低コストで供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好ましい実施形態による回路基板(シリコンウエハ)の構造を示す模式的な断面図である。
【図2】シリコンウエハ10の主要部を拡大して示す断面図である。
【図3】(a)は配線層21の平面形状の一例を示す平面図であり、(b)は配線層22の平面形状の一例を示す平面図である。
【図4】図3(b)に示す直線Bに沿った拡大断面図である。
【図5】縁部22aの幅を説明するための模式図である。
【図6】図3(a)に示す直線Cに沿った拡大断面図である。
【図7】シリコンウエハ10の製造方法を説明するための工程図である。
【図8】シリコンウエハ10の製造方法を説明するための工程図である。
【図9】側面21sが基板に対して斜めとなる原理を説明するための模式図である。
【図10】アディティブ法を用いて形成された配線層21の形状を説明するための関連図である。
【図11】サブトラクティブ法を用いて形成された配線層21の形状を説明するための関連図である。
【図12】アディティブ法を用いて形成された配線層22の形状を説明するための関連図である。
【図13】サブトラクティブ法を用いて形成された配線層22の形状を説明するための関連図である。
【図14】イオンプレーティング法によって形成されたCuの断面を示す図である。
【図15】柱状の塊30の集合体が成長するメカニズムを説明するための図である。
【図16】イオンプレーティング法によって形成されたCu膜のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【図17】本発明の変形例を示す図である。
【図18】本発明の変形例を示す別の図である。
【図19】本実施形態のイオンプレーティング時における被着金属イオンのエネルギの分布を示すグラフである。
【図20】図19を対数表示したグラフである。
【図21】一般的なイオンプレーティングおよび本実施形態におけるイオンプレーティングの被着エネルギの分布を比較するグラフである。
【図22】図21を対数表示したグラフである。
【図23】イオンプレーティング時の被着金属(Cu)の被着エネルギと、成膜されたCu結晶の構造との関係を示す実験結果である。
【図24】図5および図6にて説明した、配線層の断面形状を例示する実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の好ましい実施形態による回路基板(シリコンウエハを含む)の構造を示す模式的な断面図(第3の方向(Z))である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態によるシリコンウエハ10は、ウエハ本体である基板1と、基板1の表面に形成されたチップ取り出し電極(内部端子電極)2と、チップ取り出し電極2に電気的に接続された半田ボール(外部端子電極)9とを備えている。基板1は、その後個片化される複数の半導体チップからなる集合基板である。これら半導体チップに形成されている回路は互いに同一である。
【0022】
基板1の表面は、チップ取り出し電極2が設けられた領域以外のほぼ全面が絶縁性のパッシベーション膜3(第2の絶縁膜)で覆われている。特に限定されるものではないが、チップ取り出し電極2は一般的にAlからなり、パッシベーション膜3は一般的に厚さ5μm程度のポリイミドからなる。チップ取り出し電極2には、後述する配線層と接する表面にメッキ(例えばNi+Au)があらかじめ施されていても構わない。尚、本明細書においては、「基板1」と言うときには、チップ取り出し電極2及びパッシベーション膜3を含むことがある。したがって、「基板1の表面」とは、チップ取り出し電極2の表面や、パッシベーション膜3の表面も指すことがある。
【0023】
これら基板1、チップ取り出し電極2及びパッシベーション膜3からなる部分は、いわゆる前工程(拡散工程)にて作製される部分である。前工程においては、ステッパーなどを用いた極めて高精度なフォトリソグラフィー法によって、極微細な内部配線などが基板上に形成される。これら内部配線の端子となる部分がチップ取り出し電極2である。本実施形態によるシリコンウエハ10は、その表面にウエハレベルで加工を施すことにより、図1に示す配線層21,22及び半田ボール9などを形成するものである。図1に示す破線Aはスクライブラインであり、シリコンウエハ10に対するウエハレベルでの加工(WLP工程)が完了した後、スクライブラインに沿ってシリコンウエハ10をダイシングすることにより、個々の半導体チップに個片化される。
【0024】
図2は、シリコンウエハ10の主要部を拡大して示す断面図である。図2においては、半田ボール9が形成された面を下側にして示している。
【0025】
図2に示すように、基板1の表面には、チップ取り出し電極2とパッシベーション膜3が設けられている。上述の通り、パッシベーション膜3は、基板1の表面のうちチップ取り出し電極2が設けられた領域以外のほぼ全面を覆っている。取り出し電極2は、バリア金属配線4及び銅配線5が積層されてなる第1の配線層21に接続されている。特に限定されるものではないが、バリア金属配線4の厚みとしては0.3μm程度、銅配線5の厚みとしては5μm程度とすればよい。
【0026】
第1の配線層21は、チップ取り出し電極2を覆う第1の端部21aと、第2の端部21bと、基板1の表面に沿って延在し端部21aと端部21bとを接続する再配線部21cとを有している。配線層21の平面形状(それは第1の方向(X)及び第2の方向(Y)で示される)の一例は図3(a)に示されており、特に限定されるものではないが、端部21a,21bの径よりも再配線部21cの幅が細く設計される。また、端部21aは、チップ取り出し電極2の全面を覆うよう、チップ取り出し電極2の径よりもやや大きく設計される。配線層21の上面のうち、配線層22によって覆われる部分以外は、全て保護絶縁膜8によって覆われる。本明細書においては、配線層21,22の上面のうち、保護絶縁膜8によって覆われていない部分を「第1の部分」と呼び、保護絶縁膜8によって覆われた部分を「第2の部分」と呼ぶことがある。したがって、配線層21は第1の部分を有していない。
【0027】
さらに、図2に示すように、配線層21の端部21bには、バリア金属配線6及び銅配線7が積層されてなる第2の配線層22に接続されている。特に限定されるものではないが、バリア金属配線6の厚みとしては0.3μm程度、銅配線7の厚みとしては10μm程度とすればよい。第2の配線層22は、半田ボール9の下地となるポスト電極として機能する配線層であり、基板1の表面に対して垂直に設けられている。換言すれば、再配線部21cのように基板1の表面に沿って延在する部分を有していない。配線層22の平面形状の一例は図3(b)に示されており、配線層21の端部21bよりも僅かに小さい径を有している。一方、図3(b)に示すように、配線層22は、半田ボール9の底面9aを全て覆うよう、半田ボール9の底面9aよりもやや大きく設計される。これらは、後述する図5を用いた説明にて詳細に理解できる。特に限定されるものではないが、半田ボール9の径が500μm程度であれば、配線層22の径は400μm程度とすればよい。
【0028】
バリア金属配線4,6としては、Ti、Cr、Ta又はPdからなる単層膜、或いは、TiとNiの積層膜などを用いることができる。本発明においてバリア金属配線4,6を設けることは必須でないが、一般に、パッシベーション膜3の表面に銅配線5を直接形成すると両者の密着性が不足し、一旦大気中に曝された銅配線5の表面に銅配線7を直接形成すると両者の密着性が不足するため、これらを設けることが好ましい。但し、本発明においては銅配線5,7をイオンプレーティング法によって形成するため、被着エネルギを制御することによって密着性や被着応力を調整することが可能である。したがって、本発明においては、従来のWLPに比べると、バリア金属配線4,6を設ける必然性は低い。
【0029】
図2に示すように、基板1の表面のうち半田ボール9が形成される領域を除く全面は、保護絶縁膜8で覆われている。保護絶縁膜8の材料については特に限定されないが、液状の有機絶縁材料をキュアなどで固化した材料を用いることが好ましい。
【0030】
かかる構造により、配線層21の表面のうち、配線層22によって覆われる部分以外は全て保護絶縁膜8によって覆われることになる。同様に、配線層22の表面のうち、半田ボール9の底面9aによって覆われる部分(第1の部分)以外は全て保護絶縁膜8によって覆われることになる(第2の部分)。図3(b)に示すように、配線層22の表面のうち、半田ボール9の底面9aによって覆われる部分は配線層22の中央部であることから、配線層22の表面のうち外周に沿った縁部22aは保護絶縁膜8によって覆われることになる。この様子は、図3(b)に示す直線Bに沿った拡大断面図である図4にも示されており、配線層22の縁部22aの表面が保護絶縁膜8で覆われていることが分かる。
【0031】
かかる構造により、保護絶縁膜8によって配線層22のエッジを含む縁部22aが保護されるため、剥離の発生などを防止することができる。エッジとは、基板1の表面に垂直な方向から見た端部を指す。また、配線層22の縁部22aが保護絶縁膜8によって覆われることにより、配線層22の脱落などが生じなくなる。これらにより、パッケージの信頼性を高めることが可能となる。
【0032】
ここで、配線層22の縁部22aの幅L(図3(b)参照)、つまり、保護絶縁膜8で覆われる幅については、特に限定されるものではないが、1μm以上に設定することが好ましい。これは、縁部22aの幅Lが1μm未満であると上記の効果が十分に得られないおそれがあるからである。縁部22aの幅Lの上限については特に限定されないが、30μm以下とすることが好ましい。これは、縁部22aの幅Lを30μm超としても、上記の効果はそれ以上向上しない反面、半田ボール9との接触面積が必要以上に小さくなるからである。半田ボール9との接触面積を十分に確保しつつ、上記の効果を十分に得るためには、縁部22aの幅Lを15μm程度とすることが好ましい。尚、縁部22aの幅Lとは、図5に示すように、配線層22の側面22sの平均的接線D1と配線層22の上面22uに沿った仮想線D2との交点Pから、保護絶縁膜8の端部8aまでの距離によって定義される。また、図5に示すように、保護絶縁膜8の基板1からの高さは、配線層22の上面22uの基板1からの高さよりも高い。図5に示すように、配線層22の側面22sは垂直ではなく斜めである。この点は配線層21についても同様であり、以下、配線層21を例にその断面構造について説明する。
【0033】
図6は、図3(a)に示す直線Cに沿った拡大断面図である。
【0034】
図6に示すように、配線層21の断面形状は、上面21uが基板1の表面に対してほぼ平行であるのに対し、側面21sは基板1の表面に対して斜めの角度を有している。つまり、配線層21のエッジ部21eが鋭角とされている。その角度θは55°以下であり、好ましくは20°以上40°以下であり、特に好ましくは25°以上35°以下である。本実施形態では配線層21のエッジ部21eがこのような角度を有しているため、エッジ部21eにおける応力が緩和される。しかも、配線層21と保護絶縁膜8との接触面積が増大することから、両者の密着性も向上する。さらに、エッジ部21eが保護絶縁膜8によって上方から覆われるため、配線層21とパッシベーション膜3との密着性も向上する。これらにより、パッケージの信頼性を高めることが可能となる。図5に示したように、上記の角度θを有するエッジ部21eは保護絶縁膜8によって覆われていることから、第1の部分(保護絶縁膜8によって覆われていない部分)とは、配線層21,22の表面のパターン形状から、角度θを有するエッジ部を構成する部分を除く内包領域となる。尚、図5に示したように、配線層21の側面21sは、その断面が必ずしも直線的ではなく、角度が徐々に変化する曲線である場合がある。このような場合における角度θとは、図5に示すエッジ部21e,22eにおける角度によって定義される。エッジ部21eは配線層21がパッシベーション膜3と接する起点であり、エッジ部22eは配線層22が配線層21と接する起点である。
【0035】
次に、本実施形態によるシリコンウエハ10の製造方法について説明する。
【0036】
図7〜図8は、本実施形態によるシリコンウエハ10の製造方法を説明するための工程図である。
【0037】
まず、前工程(拡散工程)が完了した基板1を用意し、図7(a)に示すように、その表面をメタルマスク100で覆う(マスク工程)。メタルマスク100(第1のメタルマスク)には配線層21の平面形状に対応する複数の開口部101が設けられており、基板1の表面のうち、配線層21を形成すべき領域が開口部101を介して露出するよう、メタルマスク100を被せる。配線層21を形成すべき領域とは、図7(a)に示すようにチップ取り出し電極2を含む領域である。メタルマスク100は、フィックスチャーを用いて位置合わせした後、基板1に密着させ、イオンプレーティング装置の陰極側に接続される。メタルマスク100は、温度や被着金属によるひずみによるそりが出ないよう、フィックスチャーの固定部で周辺に多少の張力がかかるように固定される。
【0038】
メタルマスク100の材料については特に限定されないが、金属性であり、好ましくはステンレスなどを用いることが好ましい。メタルマスク100は、フォトリソグラフィー法によってパターニングされたフォトレジストなどとは異なるリジッドなマスクであり、1枚のメタルマスク100をそのままの状態で基板1に被せることが可能であり、且つ、そのままの状態で基板1から剥離することが可能である。この点において、フォトレジストなどの有機マスクとは明確に区別される。
【0039】
次に、図7(b)に示すように、メタルマスク100を被せた状態で、イオンプレーティング法によってバリア金属材料4a及びCu5aをこの順に被着させる(成膜工程)。イオンプレーティング法とは、被着すべき金属材料を真空中で蒸発又は昇華させ、金属蒸気に正の電荷、被着基板に負の電荷を印加することによって、被着基板に金属材料を蒸着する方法である。したがって、図7(b)に示す工程は、基板1を真空チャンバーに収容し、気体状のバリア金属材料及びCuに正の電荷、基板1に負の電荷を印加することによって行う。
【0040】
これにより、メタルマスク100の開口部101を介して露出している基板の表面、並びに、メタルマスク100の上面に、バリア金属材料4a及びCu5aが堆積した状態となる。この時、開口部101を介して露出している部分に形成されるバリア金属材料4a及びCu5aは、図9に示すように、上面21uが基板1の表面に対してほぼ平行となるのに対し、側面21sは基板1の表面に対して斜めとなる。これは、ある程度厚みのあるメタルマスクを介してイオンプレーティングを行った場合の特徴であり、開口部101を介して露出した領域のうち、メタルマスク100の側面100sに近い部分は単位時間当たりの被着量が少なくなるからである。
【0041】
その理由は、基板1に引き寄せられる金属蒸気のうち進行方向がやや斜めである成分は、開口部101の中央においてはメタルマスク100に阻害されることなく基板1に被着する一方(矢印31参照)、開口部101の端部においてはメタルマスク100に阻害されて基板1に到達しないからである(矢印32参照)。また、図9に示すように、メタルマスク100の側面100sにも金属材料がオーバーハング状に被着するため、これがマスクとなって開口部101の端部における被着量が減少する。このような原理により、上面21uについては基板1に対してほぼ平行となるのに対し、側面21sについては基板1に対して斜めとなる。かかる構造によって得られる効果については既に説明したとおりである。
【0042】
これに対し、WLPにおける配線層の一般的な形成方法であるメッキ法(アディティブ法)を用いた場合、図10に示すように、フォトリソグラフィー法によってパターニングされたフォトレジスト41の開口部内に、配線層42が選択的に形成される。この場合、フォトレジスト41の開口部の内壁41sは、フォトリソグラフィー法によってパターニングされた結果、実質的に基板1の表面に対して垂直であることから、開口部内に形成される配線層42の側面も実質的に垂直となる。
【0043】
また、WLPにおける配線層の一般的な形成方法ではないが、サブトラクティブ法を用いた場合、図11(a)に示すように、基板の全面に形成された金属導体51の表面にフォトリソグラフィー法によってパターニングされたフォトレジスト52が形成される。そして、図11(b)に示すように、フォトレジスト52をマスクとして金属導体51をパターニングすると、形成される配線層53の側面は基板1の表面に対して実質的に垂直となる。
【0044】
このように、フォトリソグラフィー法を用いた場合には、形成される配線層の側面は実質的に垂直となることから、上述した効果を得ることはできない。
【0045】
本願の特徴の説明に戻り、このようにしてバリア金属材料4a及びCu5aをこの順に被着させた後、図7(c)に示すように、メタルマスク100を基板1から剥離する(リフトオフ工程)。これにより、開口部101内のバリア金属材料4a及びCu5aが残存することから、フォトリソグラフィー法を用いることなく、リフトオフ法によってバリア金属配線4及び銅配線5からなる第1の配線層21がパターニングされることになる。このように、本発明では、イオンプレーティングとリフトオフプロセスによって、フォトリソグラフィー法を用いることなく配線層21を直接形成することができる。本明細書においては、このような手法をイオンプリンティングと呼ぶことがある。
【0046】
第1の配線層21を形成した後は、引き続き第2の配線層22を形成する。第2の配線層22の形成方法は第1の配線層21の形成方法と同じであり、図8(a)に示すように、配線層22の平面形状に対応する開口部201が設けられたメタルマスク200(第2のメタルマスク)を用意し、基板1の表面のうち、配線層22を形成すべき領域が開口部201を介して露出するよう、メタルマスク200を被せる(マスク工程)。配線層22を形成すべき領域とは、図3(b)に示すように第1の配線層21の端部21bを含む領域である。メタルマスク200の材料については、メタルマスク100と同じ材料を用いればよい。
【0047】
次に、メタルマスク200を被せた状態で、イオンプレーティング法によってバリア金属材料6a及びCu7aをこの順に被着させる(成膜工程)。これにより、メタルマスク200の開口部201を介して露出している基板1の表面(正確には銅配線5の表面)、並びに、メタルマスク200の上面に、バリア金属材料6a及びCu7aが堆積した状態となる。この場合も、開口部201を介して露出している部分に形成されるバリア金属材料6a及びCu7aは、図9に示すように、上面22uが基板に対してほぼ平行となるのに対し、側面22sが基板に対して斜めとなる。
【0048】
そして、図8(b)に示すように、メタルマスク200を基板1から剥離すれば(リフトオフ工程)、フォトリソグラフィー法を用いることなく、バリア金属配線6及び銅配線7からなる第2の配線層22が形成される。
【0049】
次に、図8(c)に示すように、半田ボール9を形成すべき部分を除く基板1の表面に、流動性を有する絶縁材料を選択的に供給し、キュアを行うことにより固化する(保護絶縁膜形成工程)。絶縁材料の選択的な供給は、スクリーン印刷法を用いることが好ましい。絶縁材料を選択的に供給すると、配線層21の全面と配線層22の側面22sが保護絶縁膜8によって覆われることになる。絶縁材料を供給する前の段階では、配線層22が基板から最も突出していることから、配線層22を避けるように絶縁材料を選択的に供給すれば、配線層22の側面によって絶縁材料が堰き止められるため、配線層22の上面の全体が絶縁材料によって覆われることはない。但し、配線層22の上面が絶縁材料によって全く覆われないわけではなく、拡大図である図5に示したように、表面張力によって配線層22の縁部22aが覆われる。かかる構造によって得られる効果については既に説明したとおりである。
【0050】
これに対し、WLPにおける配線層の一般的な形成方法であるメッキ法(アディティブ法)を用いた場合、図12に示すように、フォトリソグラフィー法によってパターニングされた保護絶縁膜60の開口部61内に、ポスト電極となる配線層62が選択的に形成される。この場合、配線層62が保護絶縁膜60よりも後に形成されることから、配線層62の縁部62aが保護絶縁膜60によって覆われることはない。
【0051】
また、サブトラクティブ法を用いた場合も、図13に示すように、保護絶縁膜70の全面に形成された金属導体がパターニングされることになる。この場合も、配線層71が保護絶縁膜70よりも後に形成されることから、配線層71の縁部71aが保護絶縁膜70によって覆われることはない。
【0052】
このように、フォトリソグラフィー法を用いた場合には、配線層62,71の縁部62a,71aが保護絶縁膜60,70で覆われることがないため、上述した効果を得ることはできない。
【0053】
本願の特徴の説明に戻り、その後は、配線層22の露出部分に半田を供給しこれを溶融させれば、図1に示すように半田ボール9が形成される(電極形成工程)。以上により、一連のWLP工程が完了する。その後は、スクライブラインに沿って基板1をダイシングすれば、個々の半導体チップに個片化することができる(切断工程)。尚、基板1のダイシングは、保護絶縁膜8を形成した後、半田ボール9を形成する前に行っても構わない。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によるシリコンウエハ10の製造方法によれば、2回のイオンプリンティングによって、フォトリソグラフィー工程(レジストの塗布、露光、現像、及びレジストの剥離を含む一連の工程)を経ることなく配線層21,22が直接形成される。このため、従来の一般的な方法を用いた場合と比べて、工程数が1/3〜1/4に減少する。しかも、メタルマスク100は安価に大量生産可能であるとともに、被着した金属をエッチングにより除去すればクリーニングされたメタルマスク及びそのエッチングされた金属材料をそれぞれ繰り返し使用することが可能である。本発明者らの実験によれば、5回程度繰り返して使用しても、形成される配線層21,22に品質の低下は見られなかった。これらにより、生産性が高く低コストなシリコンウエハ10を提供することが可能となる。
【0055】
尚、配線層21,22に含まれる銅配線5,7は、膜厚が比較的厚いため(上記の例ではそれぞれ5μm及び10μm)、応力の発生原因となる。しかしながら、上述の通り配線層21,22のエッジが鋭角であり、その角度θが55°以下であることから、エッジ部における応力が緩和される。応力をより緩和するためには、イオンプレーティング時における基板1の温度を低温化するとともに、被着原子エネルギを低い状態とすることによって、ひずみの少ない成膜条件に制御することが好ましい。
【0056】
より具体的には、イオンプレーティング時における被着原子エネルギを5〜100eVの範囲に設定することが好ましい。これは、被着原子エネルギが高すぎると、界面破壊が生じるからである。これに対し、被着原子エネルギを上記の範囲に設定すれば、セカンダリマイグレーションが活発となる結果、被着金属は成長方向に伸びる柱状結晶の集合体となる。
【0057】
図14は、イオンプレーティング法によって形成されたCuの断面を示す図である。
【0058】
図14に示すように、Cuをイオンプレーティング法によって形成すると、Cuは成長方向に伸びる柱状の塊30の集合体となる。柱状の塊30とは、典型的には配線層を構成する金属材料(Cu)の結晶体であり、この場合、隣接する2つの塊30の境界部分は結晶界面となる。また、これら柱状の塊30の少なくとも一部は、互いに結晶方位が異なることがある。柱状の塊30の成長方向は、基板1の表面方向とは異なる方向であり、典型的には基板の表面に対してほぼ垂直な方向である。したがって、イオンプレーティング法によって形成される配線層21,22は、典型的には、基板1の表面に対してほぼ垂直に伸びる柱状結晶の集合体によって構成されることになる。このため、面方向に対しては細分化されたグレインとなることから、被着ひずみが少なく且つ界面においては強固な接着力を得ることが可能となる。
【0059】
図15は、柱状の塊30の集合体が成長するメカニズムを説明するための図である。
【0060】
まず、真空中でイオン化されたスピーシーズ32がクーロン力により基板31に向かって運動し、基板31に付着する(図15(a))。基板31に付着したスピーシーズ32aは、セカンダリマイグレーションによって基板31の表面を移動し、これによって移動したスピーシーズ32b同士が合体する(図15(b))。これを繰り返すことにより、基板31の表面には、スピーシーズの核32cが形成される(図15(c))。図15(d)はスピーシーズの核32cを平面方向から見た図である。イオンプレーティングが進むにつれて、核32cは平面方向及び高さ方向に成長し、島状の塊32dとなる(図15(e))。島状の塊32dは、イオンプレーティングが進むにつれてさらに成長し、基板31の表面が隙間なく島状の塊32dで覆い尽くされた後は、高さ方向に成長を進め、柱状の塊30となる(図15(f))。このようなメカニズムにより柱状の塊30の集合体が成長することから、早期に島状の塊32dが形成された箇所においては柱状の塊30の高さが高くなり、他の箇所においては柱状の塊30の高さがやや低くなる。このため、柱状の塊30の基板31からの高さは互いに僅かに異なることになり、その結果、配線層21,22の表面には、細かな凹凸が現れることになる。
【0061】
使用するイオンプレーティング装置としては、市販のイオンプレーティング装置を用いることができるが、被着金属イオンのエネルギを制御することによって、密着力を確保しつつひずみの発生しにくい成膜条件とすることができる。イオン源は電子ビーム法で蒸発させ、蒸発した金属原子を高周波コイルの中で発生しているArプラズマに浸入させ、イオン化させる。イオン化された金属原子はマイナス電極に設置されたウエハにクーロン力で引き付けられ、被着する。
【0062】
その被着エネルギはイオンの平均自由工程と電圧に関与する。イオンの有効面積をσ2とすると、平均自由工程λ[m]はArガス温度T[K]およびガス圧P[Pa]で決まり、次式で表すことができる。
【数1】

【0063】
また、イオン質量をm[g]とすると、加速される速度vは、次式で表すことができる。
【数2】

【0064】
したがって、イオン加速エネルギUは、次式で表すことができる。
【数3】

【0065】
当然、平均自由工程λはボルツマン分布をしているため、0から1000倍以上という広がりを持つが、平均自由行程で被着層の性質が異なることになる。
【0066】
上式から明らかなようにイオン加速エネルギUは平均自由工程λと同一次元であるため、ボルツマン分布をする。図19は、本実施形態のイオンプレーティング時における被着金属イオンのエネルギの分布を示すグラフである。図20は図19を対数表示したグラフである。エネルギ分布を視認しやすい図20を用いて説明すると、本実施形態のイオンプレーティングでは、主要部分を25±10eVとする0.01eVから250eVの被着エネルギを与える。
【0067】
ここで「主要部分」とは、ボルツマン分布する被着エネルギのピークを意味する。図19に示すように、本実施形態では、被着エネルギのピークは25±10eV、すなわち15eV〜35eVの範囲にあればよい。図19では15eV、25eV、35eVをそれぞれピークとする3通りのエネルギ分布f1(u)、f2(u)、f3(u)を例示している。
【0068】
次に、ピークを中心とした被着エネルギの範囲(上下限)を上記の0.01eVから250eVと定めた理由について説明する。本来、ボルツマン分布する被着エネルギに上下限はない。しかし、本実施形態の被着エネルギを一般的なイオンプレーティングのそれと差別化するため、図20の縦軸に示す、頻度が5%(値0.05)以下の、ほとんど利用されないエネルギ値を一応の目安として切り捨てた。するとエネルギの範囲0.8〜250eVが得られる。ただし本実施形態では下限値をより小さくし、被着エネルギの範囲を0.01〜250eVとした。これは、被着エネルギが低い分子・原子は空間を飛程中に衝突し易く、これによってエネルギが減少すると見たからである。
【0069】
図21は一般的なイオンプレーティングおよび本実施形態におけるイオンプレーティングの被着エネルギの分布を比較するグラフである。図22は図21を対数表示したグラフである。本実施形態におけるイオンプレーティングの特徴は、被着エネルギのピーク(図22に代表として示すエネルギ分布f1(u)のピーク15eV)が、一般的なイオンプレーティングの被着エネルギのピーク(図22のエネルギ分布f0(u)のピーク1keV)より格段に小さく、2桁もの差があることである。
【0070】
ピークにこれだけ明確な差がありながら、既に述べたように上下限のないボルツマン分布同士であるために、本実施形態におけるイオンプレーティングと一般的なイオンプレーティングの被着エネルギの分布曲線は、ほとんど使用されない裾野の部分(0.05=5%以下の部分)でオーバーラップしている。そこで一般的なイオンプレーティングについても、本実施形態と同様に頻度が5%以下のエネルギ値を一応の目安として切り捨てる。これによって本実施形態の被着エネルギの範囲0.01〜250eVは、一般的なイオンプレーティングの被着エネルギの範囲とオーバーラップしなくなる。したがって両者を明確に差別化することができる。
【0071】
なお、イオンプレーティングの被着原子エネルギの範囲を上記の0.01〜250eVからさらに限定し、5〜100eVにすることが好ましいことは既に述べた通りである。
【0072】
図5および図6に示した、配線層21、22のエッジ部21e、22eの角度が55°以下となる構造、および、図14に示した、Cuが柱状の塊30の集合体となる構造は、本実施形態に特有の構造である。すなわち、ある程度の厚みのメタルマスクを用い、主要部分を25±10eVとする0.01eVから250eVの被着エネルギでイオンプレーティングを行うことにより、かかる構造の配線層が得られる。
【0073】
ボルツマン分布からCu2+イオンの粒子エネルギの平均値15.5eVとすると、分布はおおむね200eV(0.01%以下を切捨て)で収まる。この値は原子結合エネルギの約5から10倍であり、被着後再配列するエネルギを持っているが、被着された状態を乱す値ではないことから、被着膜の応力が発生しない条件である。この条件で被着したCu膜のX線回折によるピークを圧延銅箔と比較した測定結果を図16に示す。図16は、上記の件で被着したCu膜80と、標準Cu板81とを比較した図である。最大ピーク(2θ=69°)と2θ=33°のピークはSUS板に貼り付けたための、SUSを表すピークであり、これを除外してみる必要があるが、全体として強度が強い方が標準Cu板81であり、それと同じ場所にピーク値が一致していることから、ひずみのないCu結晶となっていることが分かる。
【0074】
以上の説明で明らかなように、ひずみの少ない厚いCu配線をフォトリソグラフィー法を用いることなく形成することができる。
【0075】
図23はイオンプレーティング時の被着金属(Cu)の被着エネルギと、成膜されたCu結晶の構造との関係を示す実験結果である。同図は結晶をFIB(Focused Ion Beam)で切断した断面である。バイアス電圧およびCuイオンエネルギは4通りに変化させている。その値は図23(a)においてバイアス10V、Cuイオンエネルギ1.825eV+α(条件1)、図23(b)においてバイアス55V、Cuイオンエネルギ10.038eV+α(条件2)、図23(c)においてバイアス200V、Cuイオンエネルギ36.503eV+α(条件3)および図23(d)においてバイアス300V、Cuイオンエネルギ54.754eV+α(条件4)である。それぞれ被着エネルギに「+α」としているのは、これらの被着エネルギの値には、原料基板へのイオンビーム加熱の運動エネルギ(1〜5eV)を加算すべきだからである。
【0076】
条件1〜条件4は、すべて、0.01eVから250eVという本発明が推奨する範囲の被着エネルギの範囲にある。したがって、Cuの大部分が柱状結晶となっていて、図15で説明したセカンダリマイグレーションが起こっている良好な結果と見える。条件1〜4の柱状結晶の成長の様子の相違を、以下、考察する。
【0077】
図23(b)に示す条件2、すなわち被着エネルギが10.038eV+α=11〜15eVの場合が、4条件のなかで、最も、全体にわたって微細できれいな柱状結晶ができていることが分かる。条件2における被着エネルギは、上記の0.01eVから250eVという範囲のなかでも本発明が主要部分としてとりわけ推奨する25±10eVに最も近い値である。
【0078】
図23(a)に示す条件1、すなわち低い被着エネルギ1.825eV+α=2.8〜6.8eVの場合は、領域A1に示すように、粗大結晶になってしまっている領域がある。これは、図15で説明したセカンダリマイグレーションが不足し、安定して成長していない柱状結晶が、隣で成長している柱状結晶からの侵食を受けたためと考えられる。したがって柱状にならず、横の広がりができ、上記のような粗大結晶ができている。また、その他の3つの領域A2、A3、A4にも見られるように、かかる侵食は、柱状結晶の途中でも起こっている。条件1よりさらに低エネルギにした場合には、かかる粗大化が顕著になり、さらに低エネルギにすれば、結晶はアモルファスに近付くと考えられる。
【0079】
図23(c)に示す条件3、すなわち被着エネルギを高くした36.503eV+α=37〜41eVの場合、被着当初(おおよそラインL1より下方の層)は、微細柱状結晶の傾向が見られる。しかしおおよそラインL1より上の中盤以降、スピーシーズ衝突時に既に生成した結晶の乱れが生じ、セカンダリー・サーダリマイグレーションで柱状結晶の連続性が阻害される傾向にあり、結晶粒が次第に粗大化されて成長してゆく。
【0080】
図23(d)に示す条件4、すなわち被着エネルギをさらに高くした54.754eV+α=55〜60eVの場合、おおよそラインL2より上の層において、条件3と同様の粗大化成長とともに、さらに柱状結晶の連続性がなくなり、乱れが大きくなっている。そのきっかけは、既結晶の乱れによる枝別れの箇所が多いことから判断できる。さらに本実験結果には含まれていないが、被着エネルギを100eVレベルにすると、柱状結晶ではなく、粒状結晶が生じてくる可能性が示唆される。
【0081】
以上の条件1〜4の比較をまとめると、最も柱状結晶の成長が理想的なものから順に、条件2>条件3>条件1>条件4の順位が付けられる。概ね、本発明がとりわけ推奨する25±10eVの被着エネルギに近い値でイオンプレーティングを行ったものから順番に良好な柱状結晶を形成している。
【0082】
なお条件1より低い被着エネルギや条件4より高いエネルギなど、より広範囲の被着エネルギを用いて実験すれば、結晶の成長の差がより顕著に現れたと考えられる。
【0083】
原子の並びが500〜800個程度という超微細な柱状結晶(ほぼ50nm径)では粒界が極端に多いことから、粒界の変位能の高さから成膜ひずみが小さくなり、被着厚みが厚くても、残留応力の小さな安定膜が形成される。
【0084】
イオンプレーティングによる被着金属は、通常の金属結合エネルギの数倍のエネルギで被着するため、界面接着強度も大きく、ひずみが小さいことから柱状結晶は最適な成膜条件である。
【0085】
図24は、図5および図6にて説明した、配線層21の断面形状を例示する実験結果である。図24(a)は成膜された配線層21の結晶構造を示している。図24(b)は、配線層21の成膜時における配線層21とメタルマスク100との位置関係を模式的に示す図である。図24(c)は、図24(a)と比較対象となる、図10に示したメッキ法にて配線層42を形成した場合の実験結果を例示する図である。図24(a)では、メタルマスクを用いたイオンプレーティングによって配線層(Cu)を成膜していて、その被着エネルギは18.25eV(バイアス100v)である。
【0086】
図24(a)には、図24(b)で位置関係を模式的に示したメタルマスク100の影響でエネルギが弱く、柱状結晶がうまくできていない領域A5があるものの、エッジ部の角度が55°以下となる配線層21が形成されている。
【0087】
一方、図24(c)に比較例として示すメッキ法にて配線層を形成した場合には、エッジ部A6の形状が基板1に対してほぼ90°になっていて、エッジ部A6の応力は緩和されないし、配線層42と保護絶縁膜との密着性も向上させることができず、パッケージの信頼性が高められない。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0089】
例えば、本発明において基板上に2層の配線層21,22を設けることは必須でなく、模式図である図17に示すように、チップ取り出し電極2の上部に配線層22を直接形成しても構わない。つまり、再配線部を有する配線層21を省略することも可能である。このような構造は、チップ取り出し電極2の電極ピッチが十分に広く、再配線を行う必要がないケースにおいて好適である。この場合、図18に示すように、配線層22の側面22sは斜め(55°以下)であり、配線層22の上面22uのうち外周に沿った縁部22aは保護絶縁膜8によって覆われる。
【0090】
また、上記実施形態においては、配線層21,22をバリア金属配線と銅配線の2層構造としたが、本発明がこれに限定されるものではない。したがって、バリア金属配線を省略しても構わないし、銅配線の代わりに他の金属材料からなる配線を用いても構わない。Cu以外の好ましい他の金属材料としては、Al、Ti、Cr及びNiを挙げることができる。特に、Alは一般的なWLPにて用いられるメッキ法では形成することができない金属材料であるが、イオンプレーティング法によれば、金属の種類にかかわらず成膜可能である。また、銅配線の代わりにAl配線を用いた場合、バリア金属配線は不要である。さらに、銅配線の代わりに、複数の金属材料からなる多元合金を含む配線を用いても構わない。多元合金は、その種類によってはメッキ法で形成することが困難であるが、イオンプレーティング法によれば、任意の種類の金属を任意の比率で混合させることが可能となる。多元合金を使用したイオンプレーティング法によって、さらに製造コストが低減できる。
【0091】
また、上記実施形態においては、おなじメタルマスクを用いてバリア金属配線(第1の金属性の導体)と銅配線(第2の金属性の導体)の複数の配線層を連続的に形成している(一回の前記マスク工程、連続する複数回の前記成膜工程、及び前記一回のマスク工程に対応する一回の前記リフトオフ工程からなる一連の工程群)が、本発明がこれに限定されるものではなく、メタルマスクを用いてバリア金属配線を形成した後このメタルマスクを剥離し、別のメタルマスクを用いて銅配線を形成しても構わない。
【0092】
さらに、本発明の対象がシリコンウエハに限定されるものではなく、種々の回路基板に適用することが可能である。
【0093】
さらに、本願の権利対象である回路基板が、シリコンウエハ及び半導体チップに限定されるものではなく、シリコンウエハ、半導体チップを封止した最終製品としての電子デバイス(単一の半導体チップまたは複数の半導体チップがモールディング等で封止された半導体装置、単一または複数の前記半導体装置を含むカード、単一または複数の半導体チップを含むカード、コンピュータや移動体通信機器などの電子機器に含まれるシステムとしてのマザーボード等)とすることが可能である。この場合、回路基板の外部端子電極は、最終製品が有する外部端子電極となる。本願の一つの技術思想(フォトリソグラフィー工程を経て作成された基板に、フォトリソグラフィー工程を使用せずにメタルマスクを基板に被せるマスク工程、イオンプレーティング法により金属性の導体を形成する成膜工程、及びメタルマスクを剥離するリフトオフ工程、並びに外部端子電極を形成する電極形成工程)と何ら矛盾するものではない。
【0094】
尚、本願の技術思想及び請求項においては、後工程においてワイヤボンディングを行うことを排除するものではないし、回路基板又は最終製品がボンディングワイヤを含むことを何ら制約するものでもない。よって、実施形態における半田ボール9に替えてボンディングワイヤまたはTAB(tape automated bonding)を外部端子電極に含めてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 基板
2 チップ取り出し電極(内部端子電極)
3 パッシベーション膜
4,6 バリア金属配線
4a,6a バリア金属材料
5,7 銅配線
8 保護絶縁膜
8a 保護絶縁膜の端部
9 半田ボール
9a 半田ボールの底面
10 シリコンウエハ
21 配線層(第1の配線層)
22 配線層(第2の配線層)
21a 第1の端部
21b 第2の端部
21c 再配線部
21e,22e エッジ部
21s,22s 側面
21u,22u 上面
22a 縁部
30 柱状の塊
31 基板
32,32a,32b スピーシーズ
32c スピーシーズの核
32d 島状の塊
100,200 メタルマスク
101,201 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部端子電極を有する基板に、前記内部端子電極と外部とを電気的に接続する外部端子電極を形成する回路基板の製造方法であって、
前記内部端子電極を含む前記基板の表面の一部が露出するような開口部を有する、陰極側に接続される金属性のメタルマスクを前記基板に被せるマスク工程と、
前記基板に所定の電位を与え、前記所定の電位と異なる電位にイオン化された被着金属に、0.01eVから250eVの被着エネルギを与えることによって、前記基板の表面の一部及び前記メタルマスク上に、イオンプレーティング法により正の電荷を有するイオンの粒子から金属性の導体を形成する成膜工程と、
前記メタルマスクを剥離することによって、前記基板の表面の一部に形成された前記内部端子電極と電気的に接続する金属性の導体からなる配線層を残存させるリフトオフ工程と、
前記配線層に電気的に接続された前記外部端子電極を形成する電極形成工程と、
を備えることを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記イオン化された被着金属に、5〜100eVの被着エネルギを与えることを特徴とする請求項1に記載の回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記基板は、フォトリソグラフィー法により形成され前記内部端子電極に電気的に接続された内部配線を有することを特徴とする請求項1に記載の回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記基板は、同一の回路が繰り返し形成された集合基板であり、
少なくとも前記リフトオフ工程を行った後、前記集合基板を切断することによって個々の単位基板を取り出す切断工程をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記切断工程を前記電極形成工程の後に行うことを特徴とする請求項4に記載の回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記集合基板は半導体ウエハであり、前記単位基板は半導体チップであることを特徴とする請求項4又は5に記載の回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記リフトオフ工程を行った後、前記電極形成工程および前記切断工程を行う前に、前記外部端子電極を形成すべき部分を除く前記基板の表面に流動性を有する絶縁材料を選択的に供給する絶縁膜形成工程をさらに備えることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁膜形成工程においては、前記配線層の上面の周縁部を前記絶縁材料で覆うことを特徴とする請求項7に記載の回路基板の製造方法。
【請求項9】
一回の前記マスク工程、連続する複数回の前記成膜工程、及び前記一回のマスク工程に対応する一回の前記リフトオフ工程からなる一連の工程群によって、複数の前記配線層を形成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項10】
前記連続する複数回の成膜工程は、第1の金属性の導体を形成する第1の前記成膜工程と、第2の金属性の導体を形成する第2の前記成膜工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の回路基板の製造方法。
【請求項11】
第1の前記メタルマスクを使用した前記マスク工程、少なくとも一回の前記成膜工程、及び前記マスク工程に対応する前記リフトオフ工程からなる第1の工程群と、
更に、前記外部端子電極を形成すべき第1の領域が露出するような開口部を有する金属性の第2のメタルマスクを前記基板に被せる第2のマスク工程、
前記第1の領域及び前記第2のメタルマスク上に、イオンプレーティング法により金属性の導体を形成する少なくとも一回の第2の成膜工程、及び
前記第2のメタルマスクを剥離することによって、前記第1の領域に形成された金属性の導体からなる第2の配線層を残存させる第2のリフトオフ工程からなる第2の工程群を備え、
前記第1と第2の工程群により、複数の配線層を形成する、ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項12】
前記複数の配線層は、
前記内部端子電極を覆う第1の端部と、前記外部端子電極を形成すべき領域である第2の端部と、前記基板の表面に沿って延在し前記第1の端部と前記第2の端部とを接続する再配線部とを有する第1の配線層と、
前記第1の配線層の前記第2の端部を覆い、前記第1の配線層と接する第2の配線層と、を含み、
前記電極形成工程においては、前記第2の配線層と接するように前記外部端子電極を形成することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項13】
前記配線層の形成に関連して、レジストの塗布、露光、現像、及び前記レジストの剥離の各工程を含まない、ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項14】
前記基板は、半導体基板である、ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の回路基板の製造方法。
【請求項15】
前記被着エネルギは、主要部分を25±10eVとする、ことを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−61193(P2011−61193A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181464(P2010−181464)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(709006507)株式会社SKLink (14)
【Fターム(参考)】