説明

回転ハンドルの圧縮成形方法

【課題】インサート金具を封入した熱硬化性樹脂製回転ハンドルをバリ発生少なく圧縮成形する。
【解決手段】円筒状インサートボス金具90の底部に接触して位置決めする突き出しピン57を下金型中央部に備えるとともに、把手インサート用円筒状ナット金具91底部に接触して位置決めする突き出しピン58を備え、かつ、型窩60につながる樹脂流路溝60dを下金型上表面に備えている下金型50aと、前記円筒状インサートボス金具の上部に接触するボスキャップ67と前記円筒状ナット金具上部に接触するナットキャップ68を備える上金型50bよりなる圧縮金型50を用い、型窩60に熱硬化性樹脂バルクを敷設した後、圧縮成形金型50を加熱しながら型締めを行い、加熱を続行して熱硬化性樹脂を硬化させることにより熱硬化性樹脂環状ハンドル本体が前記円筒状インサートボス金具の外周回りに形成された回転ハンドル40を生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のワークテーブルやツールテーブルを左右または前後に移動させる際、テーブルの送り量を把手付き回しハンドルの回転数で調整するに用いる回転ハンドルの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
把手付き回転ハンドルは、例えば図4、図5および図6に示すように、工作機械のフレ−ム2上に設けられたガイド部4案内面4aを滑走するスライド5とラック6を底部に有する左右移動可能なワークテーブル3を左右に直線移動させる際に使用されている。回転ハンドル10を回転させることにより該回転ハンドル10を軸承するハンドル軸10aの後方に嵌挿された小歯車10jと噛み合う連係大歯車11bを回転させ、この連係大歯車11bを軸承する中間軸受11aの後方にある連係小歯車11cと噛み合う大歯車12bを回転駆動させることにより、この回転駆動する大歯車12bの駆動力を、ワークテーブル3底部に固定したラック6に伝え、ワークテーブルを左右に直線移動させる駆動力に変えている。この把手付き回転ハンドル10は、ハンドル軸10aの前端面に設けた固定キィ10gに締付けボルト10eと締付けナット10fを用いて軸受10hの抑え板10jとの間にはカラー10iが介挿されている。10dは把手である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
把手付き回転ハンドル10の生産は、ハンドル軸10aに挿入可能な円筒状空洞30aとこの空洞内壁にハンドル軸10a前端部外周に突起して設けられた固定キィが内挿できる溝30bを有する略円筒状インサート金具30の外周に環状の金属製ハンドル部を装着固定し、金属製ハンドル部の1箇所に把手10aをネジ止めして行われていた。
【0004】
また、環状の金属製ハンドル部を熱可塑性樹脂に代えて軽量化するため、前記略円筒状インサート金具30を射出成形金型の型窩(キャビティ)内に固定し、ABSやポリアセタ−ル、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を型窩内に射出した後、金型を冷却し、インサート一体型樹脂ハンドルを取り出し、これに把手10aをネジ止めして成形していた。
【0005】
把手付回転ハンドルではなく、自動車の舵取りハンドルを製造するに、射出成形金型の型窩内にインサート金具を固定し、このインサート金具の外周回りにポリアセタールやポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を射出成形して舵取りハンドルを製造する方法は知られている(例えば、特許文献2および特許文献3を参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−238398号公報、図2、図3および図4
【特許文献2】特開2000−72001号公報
【特許文献3】特開2000−301998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂と比較して耐久性、剛性、耐候性に優れる利点がある。本発明は、円筒状金属インサートの外周に熱硬化性樹脂製環状ハンドルが形成された回転ハンドルを生産する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、上金型と下金型とからなる圧縮成形金型の型窩内に円筒状インサート金具を固定し、この円筒状インサート金具の外周回りに熱硬化性樹脂製環状本体を成形して回転ハンドルを圧縮成形する方法において、
前記下金型はハンドル軸に嵌挿する円筒状インサートボス金具の底部に接触して位置決めするボス位置決め突き出しピンを下金型中央部に備えるとともに、把手をインサートする円筒状ナット金具底部に接触して位置決めするナット位置決め突き出しピンを備え、かつ、型窩につながる樹脂流路溝を下金型上表面に備えており、
前記上金型は、前記円筒状インサートボス金具の上部に接触して樹脂の円筒状インサートボス金具内侵入を防ぐボスキャップと前記円筒状ナット金具上部に接触して樹脂の円筒状ナット金具内侵入を防ぐナットキャップを備え、
前記下金型のボス位置決め突き出しピン上に円筒状インサートボス金具を載置するとともに、ナット位置決め突き出しピン上に円筒状ナット金具を載置し、
上金型と下金型とから形成される型窩に熱硬化性樹脂バルクを敷設した後、圧縮成形金型を加熱しながら型締めを行い、加熱を続行して熱硬化性樹脂を硬化させることにより熱硬化性樹脂環状ハンドル本体が前記円筒状インサートボス金具の外周回りに形成された回転ハンドルを生産する方法、を提供するものである。
【0009】
請求項2の発明は、前記上金型の下面部には、熱硬化性樹脂環状ハンドルの外側環状部に把手の重さとバランスする錘が挿入できる空所が形成されるよう突起部が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の回転ハンドルを生産する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
下金型に設けた位置決め突き出しピンと上金型にインサートしたキャップにより円筒状インサート金具が鉛直方向に位置決めシール固定され、加熱溶融した熱硬化性樹脂が円筒状インサート金具内部に侵入することがない。また、型窩に過剰に敷設された熱硬化性樹脂バルクは圧縮成形時、溶融して樹脂流路溝を経由して圧縮金型外へ流出するので、成形された回転ハンドルのバリの量も最低限に抑えられる。さらに、成形された回転ハンドルの空所内に金属粉含有常温硬化性樹脂を挿入し、常温硬化させて錘と成すなり、金属製錘を空所に封入すれば把手の重さとバランスが取れ、工作機械のテパハンドルとして回転ハンドルを取り付けた場合、3時や10時の方向位置に把手が来て回転が停止されても回転ハンドルはその後に自重で回転することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
図1は把手付き回転ハンドルの斜視図、図2は下金型の平面図、図3は圧縮金型の断面図で、図2において切断線I−Iから見た図である。
【0012】
図1に示す把手付き回転ハンドル40は、ハンドル軸に嵌挿する円筒状インサートボス金具の外周側面を熱硬化性樹脂で被覆する円筒被覆部40aと、この円筒被覆部40aより120度の角度で分配されて3方に延びる熱硬化性樹脂製補強リブ40bと、この3本の熱硬化性樹脂製補強連結リブ40bを内側で連結する熱硬化性樹脂製環状ハンドル40cと、この熱硬化性樹脂製環状ハンドル40c上であって前記熱硬化性樹脂製補強連結リブ40bの1つの延長上にある点の位置にある円筒状ナット金具にネジ止めされた把手40dと、前記円筒状インサートボス金具のキィ溝に固定された締め付けキャップ40eより成る。
【0013】
図2および図3に示す圧縮成形金型50は、移動下金型50aと固定上金型50bとからなり、型締めにより型窩60を形成する。移動下金型50aは、固定プレート51、断熱プレート52、スペーサブロック53、エジェクタプレート54、バックプレート54a、投込ヒータ55aと冷却水管55bを備える用役プレート55、型窩形成下金型部材56、ハンドル軸に嵌挿する円筒状インサートボス金具90の底部に段部で接触して位置決めするボス位置決め突き出しピン(段付ノックアウトピン)57、把手40dをインサートする円筒状ナット金具91底部に段部で接触して位置決めするナット位置決め突き出しピン(段付ノックアウトピン)58、前記ボス位置決め突き出しピン57の底部に当接する高さ位置調整ロッド59を有し、型窩形成下金型部材56の表面には熱硬化性樹脂製環状ハンドル10cを形成する型窩60aに繋がる幅0.5〜2mm、深さ0.2〜1mmの3本の樹脂流路溝60dとこれら樹脂流路溝60dを半円弧状の溝60eで連通させる樹脂流路溝60eが設けられ、樹脂流路溝60dを通じて過剰の熱硬化性樹脂は圧縮金型50外部へ流れ出る構造となっている。移動下金型50aは、油圧または空気圧シリンダ83により上下方向に昇降可能である。
【0014】
前記固定上金型50bは、固定プレート61、断熱プレート62、投込ヒータ65aと冷却水管65bを備える用役プレート65、型窩形成上金型部材66、円筒状インサートボス金具90の頭部に接触して樹脂侵入を防ぐ円筒状ボスキャップ67、把手40dをインサートする円筒状ナット金具91頭部に接触して樹脂侵入を防ぐ円筒状ナットキャップ68および把手40dの重さとのバランスを取るための錘を封入できる空所を形成する突起69を備える。
【0015】
型窩形成下金型部材56および型窩形成上金型部材66の素材は、プリハード鋼HRC40のハードクロム施工のものを、ナット位置決め突き出しピン58、前記ボス位置決め突き出しピン57、円筒状ナットキャップ68および円筒状ボスキャップ67の素材は、SKD−11焼入品を用いる。
【0016】
把手付き回転ハンドル40の把手40dと締め付けキャップ40eを固定する前の回転ハンドルは、図2および図3に示す圧縮成形金型50を用い、次ぎのように圧縮成形することにより生産される。
【0017】
下金型50aを下降させて型開きし、下金型のボス位置決め突き出しピン57上に円筒状インサートボス金具90を載置するとともに、ナット位置決め突き出しピン58上に円筒状ナット金具91を載置する。
【0018】
円筒状インサートボス金具90の高さ位置調整は、下金型を組み立てる前にロッド59を回転することにより上下して型窩60内の円筒状インサートボス金具90の高さ位置を調整する。
【0019】
下金型50aの型窩60内に熱硬化性樹脂バルクを敷設した後、圧縮成形金型を熱硬化性樹脂バルクが溶融する温度80〜200℃に下金型および上金型を予備加熱し、熱硬化性樹脂バルクが流動性を示したなら加熱温度を更に10〜50℃高め下金型50aを上昇しながら型締めを行い、次いで、加熱を続行して熱硬化性樹脂を硬化させることにより熱硬化性樹脂環状ハンドル本体が前記円筒状インサートボス金具90の外周回りに形成された回転ハンドル40を生産する。
【0020】
熱硬化性樹脂の加熱硬化が終了したら硬化樹脂が流動しない温度であって、熱変形しない温度、例えば20〜80℃まで下金型および上金型を水冷し、ついで、下金型50aを下降させ、円筒状インサートボス金具90および円筒状ナット金具91の外周回りに熱硬化性樹脂製本体ハンドルが形成された回転ハンドル40を取り出す。
【0021】
圧縮金型50より取り出された回転ハンドル40のハンドル部外周の3点に残った樹脂流路形跡の樹脂バリを切り落とし、切り跡を研磨して平滑にする。
【0022】
バリを除いた回転ハンドル40の円筒状ナット金具91に把手40dを螺子止めし、空所に錘を封入するか錘を接着剤で空所に充填する。工作機械の回転軸10aに把手付回転ハンドル40を挿着したら締め付けキャップ40eを円筒状インサートボス金具90のキィ溝に固定する。
【0023】
前記熱硬化性樹脂バルクとしては、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシノボラック樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂バルク・モールディング・コンパウンド(BMC)が利用できる。熱硬化性樹脂バルク・モールディング・コンパウンドは、熱硬化性樹脂、硬化剤の他に、顔料、充填剤、硬化促進剤、増粘剤、粘度調整剤、耐候剤などを含有していてもよい。
【0024】
本発明の回転ハンドルの圧縮成形方法として、下金型を固定金型とし、上金型を移動金型とする型締め機構の圧縮金型を用いることは可能である。また、3本の熱硬化性樹脂製補強リブ40bに代えて90度に延びる4本の熱硬化性樹脂製補強リブ構造や外側の環状ハンドルと円筒状インサートボス金具90外周被覆熱硬化性樹脂製円筒体を連絡する部分が全て熱硬化性樹脂製リブで埋まった構造の回転ハンドルでもよい。
【0025】
また、把手付回転ハンドル40は、工作機械のテーブル移動用の駆動手段に用いるばかりではなく、手動エレベータのベルト駆動手段や舞台の幕引きワイヤー駆動手段、車庫シャッターのベルト駆動手段にも利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のインサート金具を圧縮金型の型窩内に位置決め固定し、熱硬化性樹脂バルクを型窩に敷設し、圧縮成形して回転ハンドルを生産する方法は、バリが少なく、成形後のバリ取り、研磨の後加工が容易である。また、熱硬化性樹脂を素材としているので、耐久性、剛性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】把手付き回転ハンドルの斜視図である。
【図2】下金型の平面図である。
【図3】圧縮金型の断面図で、図2において切断線I−Iから見た図である。
【図4】工作機械のテーブルの送り機構を示す部分側面断面図である。(公知)
【図5】工作機械の噛み合せ/噛み外し用レバー部分の正面図である。(公知)
【図6】ワークテーブルの送り機構における図5のA−A断面図である。(公知)
【符号の説明】
【0028】
10 回転ハンドル
40 回転ハンドル
40a 円筒被覆部
40b 熱硬化性樹脂製補強リブ
40c 熱硬化性樹脂製環状ハンドル
40d 把手
40e 締め付けキャップ
50 圧縮成形金型
50a 移動下金型
50b 固定上金型
56 型窩形成下金型部材
57 ボス位置決め突き出しピン
58 ナット位置決め突き出しピン
59 高さ位置調整ロッド
60 型窩
60d 樹脂流路溝
66 型窩形成上金型部材
67 円筒状ボスキャップ
68 円筒状ナットキャップ
69 上金型部材に設けられた突起部
90 円筒状インサートボス金具
91 円筒状ナット金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上金型と下金型とからなる圧縮成形金型の型窩内に円筒状インサート金具を固定し、この円筒状インサート金具の外周回りに熱硬化性樹脂製環状本体を成形して回転ハンドルを圧縮成形する方法において、
前記下金型はハンドル軸に嵌挿する円筒状インサートボス金具の底部に接触して位置決めするボス位置決め突き出しピンを下金型中央部に備えるとともに、把手をインサートする円筒状ナット金具底部に接触して位置決めするナット位置決め突き出しピンを備え、かつ、型窩につながる樹脂流路溝を下金型上表面に備えており、
前記上金型は、前記円筒状インサートボス金具の上部に接触して樹脂の円筒状インサートボス金具内侵入を防ぐボスキャップと前記円筒状ナット金具上部に接触して樹脂の円筒状ナット金具内侵入を防ぐナットキャップを備え、
前記下金型のボス位置決め突き出しピン上に円筒状インサートボス金具を載置するとともに、ナット位置決め突き出しピン上に円筒状ナット金具を載置し、
上金型と下金型とから形成される型窩に熱硬化性樹脂バルクを敷設した後、圧縮成形金型を加熱しながら型締めを行い、加熱を続行して熱硬化性樹脂を硬化させることにより熱硬化性樹脂環状ハンドル本体が前記円筒状インサートボス金具の外周回りに形成された回転ハンドルを生産する方法。
【請求項2】
前記上金型の下面部には、熱硬化性樹脂環状ハンドルの外側環状部に把手の重さとバランスする錘が挿入できる空所が形成されるよう突起部が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の回転ハンドルを生産する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−18648(P2008−18648A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193537(P2006−193537)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(391011102)株式会社岡本工作機械製作所 (161)
【Fターム(参考)】