説明

回転体及びそのコーティング方法

動翼等の回転体と、cBN等の硬質材を含む放電電極とを加工液中又は気中にて、回転体の先端部と放電電極との間に放電用電源によりパルス状の放電を発生させることによって放電電極を溶融し、その一部を回転体の先端部に付着させ、cBN等の硬質材を含むアブレイシブ性被膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
発明の背景
発明の技術分野
本発明は、ガスタービン、蒸気タービン、圧縮機等で用いられる動翼やラビリンス・シール等の回転体及びそのコーティング方法に係わり、特に回転体の一部に硬質材を含む被膜を形成した回転体及びそのコーティング方法に関する。
関連技術の説明
ガスタービンの運転時には、動翼やラビリンス・シール等の回転体は、動翼におけるケーシングやシュラウドとのチップクリアランス、ラビリンス・シールにおけるハニカム・シールとのシール・クリアランスのような回転部と静止部との隙間を適正に保つように設定する必要がある。接触を恐れて隙間を大きくし過ぎるとガスタービンの効率が低下し、逆に小さくし過ぎると回転体の先端部が破損しガスタービンの故障の原因となってしまうからである。
そこで、回転体の囲繞部材(ケーシング、シュラウド、ハニカム・シール等)との接触を考慮して動翼やラビリンス・シールの先端部には、囲繞部材の接触面の材質に対して相対的に硬い材料で接触する相手を削り取るアブレイシブ・コーティング(Abrasive Coating)を施し、囲繞部材側には相対的に削られやすい材料のアブレイダブル・コーティング(Abradable Coating)を施している。これは、コーティングの硬度の違いにより、ガスタービン駆動時に、回転体の先端部で囲繞部材の側を削り取ることによって、チップクリアランスやシール・クリアランスを最小限となるように調整するためのものである。
ここで、図1Aは通常のタービン動翼の斜視図、図1Bはチップシュラウド付タービン動翼の斜視図、図1Cは圧縮機翼の斜視図である。なお、これらの図では、タービンディスク側のプラットホームやダブテールの図は省略してある。図1Aに示すタービン動翼1の場合には、その翼先端部の全面にアブレイシブ・コーティング5aが施されている。また、図1Bに示すチップシュラウド付タービン動翼2では、チップシュラウド3に設けられたチップフィン4の先端部(つまりタービン動翼の先端部)の全面にアブレイシブ・コーティング5bが施されている。さらに、図1Cに示す圧縮機の動翼1の場合にも、その翼先端部の全域(図の裏側も含む)にわたってアブレーシブコーティング5cが施されている。
また、図2はラビリンス・シール先端の一例を示す断面図である。ラビリンス・シールは、回転部と静止部との隙間における空気や燃焼ガスの漏れを防止するために設けられるものであり、ガスタービンや圧縮機には頻繁に使用されているシール構造である。一般に、回転部側に凹凸を持ったリング状のラビリンス・シール6が設けられ、静止部側に削り取られ易い構造をしたハニカム・シール(図示せず)が設けられる。図2はラビリンス・シール6の軸心を含む面で切断したときの断面図であり、このラビリンス・シール6の凸部先端にアブレイシブ・コーティング5dが施されている。
これらのアブレイシブ・コーティングは、従来、溶接・溶射・メッキ等の方法によりコーティングされている(例えば、特許文献1及び2参照)。溶接によりコーティングする場合には、溶接棒や粉体を用いてタービン動翼又はラビリンス・シールの先端部等の所定箇所にコーティングを施している。溶射によりコーティングする場合には、母材との熱膨張差の小さい比較的硬度の高いジルコニア(ビッカース硬さ1300HV)を溶射している。メッキによりコーティングする場合には、硬度の高いcBN(Cubic Boron Nitride)の砥粒(ビッカース硬さ4500HV)をニッケルメッキ等で電着している。
なお、本発明に関連するその他の先行技術として特許文献3、特許文献4に示すものがある。
【特許文献1】 特開平11−286768号公報
【特許文献2】 特開2000−345809号公報
【特許文献3】 特開平7−301103号公報
【特許文献4】 特開平8−319804号公報
しかし、上述した方法では、アブレイシブ・コーティングを密着させるために、コーティングの必要のない箇所にマスキングしたり、密着性を高めるためにコーティングする表面をブラスト処理したりする必要があり、前処理が多く、コストが高いという問題があった。また、従来の溶射又はメッキ方法では、いずれもコーティングの密着性が悪く、駆動時に剥離を生じてしまい、エンジンの故障発生の他にチップクリアランスやシール・クリアランスが適正に保たれないという問題があった。さらに、溶接によりコーティングした場合には、セラミックスに比較してはるかに硬度の低い金属のみしかコーティングできないので、アブレイシブ性能(擦る相手を削り取る性能)が劣るという問題があった。また、作業者の技能により品質がばらついたり、熱伝導の悪い伸びの小さい材料に対しては溶接割れを生じたりしやすいという問題があった。さらに溶接後に要求寸法に加工するための研削という後処理が必要であり、手間がかかるという問題があった。
また、第3および第4の発明によれば、コーティング方法において、電極を消耗させる第1の放電条件にて前記回転体と前記電極の間で放電を行わせ、電極形状を被膜形成部位の形状に倣った形状にして、その後、その電極と前記回転体との間で第2の放電条件にて被膜形成すると、電極を予め製品形状に加工しなくてもコーティング対象部位に適切にコーティングすることができ、電極を消耗させる第1の放電条件を電極をマイナス極性としパルス幅1μs以下電流値10A以下とし、被膜を形成する第2の放電条件を電極マイナス極性としパルス幅2−10μs電流値5−20Aとすることが好ましい。
また、従来のアブレーシブコーティングでは、動翼の先端部全域に施されているため、コーティングする範囲が広く、製品の歩留まりが悪いという問題があった。
さらに、従来は、メッキまたは溶射によってコーティングされているため、ラビリンスシールの生産(製造)にあっては、コーティングする前においてはブラスト処理、マスキングテープの貼り付け処理等のコーティング前処理が必要であって、コーティングした後においてはマスキングテープの除去処理等のコーティング後処理が必要である。そのため、ラビリンスシールの生産(製造)に要する作業時間が長くなって、ラビリンスシールの生産性の向上を図ることが容易でない。
また、同じ理由により、アブレイシブコートをシールフィンの先端縁に強固に結合させることができない。そのため、アブレイシブコートがシールフィンの先端縁から剥離し易く、ラビンリンスシールの品質が安定しないという問題があった。
発明の要約
本発明は、上述した種々の問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の第1の目的は、前処理や後処理が不要で密着性がよく、精密でアブレイシブ性能のよい回転中に接触する相手方の材質に対して相対的に硬い材料(以下、本明細書中では便宜上、硬質材という)のコーティングを施した回転体及びそのコーティング方法を提供することにある。
また、そのアブレイシブ・コーティングされた部品においてHCF(High Cycle Fatigue)又はLCF(Low Cycle Fatigue)の試験で長寿命なコーティング方法を提供することでもある。
また本発明の第2の目的は、硬質材のコーティングの範囲を最適化することによって、歩留まりを向上させることができる回転体及びそのコーティング方法を提供することにある。
さらに本発明の第3の目的は、ラビリンスシールの生産に要する作業時間を短縮して、ラビリンス部品の生産性を向上することができる回転体及びそのコーティング方法を提供することにある。
第1の目的を達成するために、第1の発明によれば、所定の形状に成形された回転体と硬質材又は放電により硬質材になる材料を含む圧粉体または固形のシリコンの放電電極との間に、電気絶縁性の加工液中又は気中にて、パルス状の放電を発生させさせることにより、放電パルス毎に電極材料あるいは電極材料が変化したことでできる硬質材料を回転体側に移行させて硬質の凹凸を形成し、該放電パルスを繰り返すことで該凹凸から構成される硬質被膜を回転体上に形成する、ことを特徴とする回転体のコーティング方法が提供される。
また第2の発明によれば、回転体のコーティング方法において、前記回転体と擦り合い相手部品を削り取るアブレイシブ性能のある被膜を回転体の一部に形成する。
第1および第2の発明によれば、いわゆる放電コーティング方法を用いていることから、マスキングやブラスト処理等の前処理や研削等の後処理が不要で、密着性のよい被膜又は層を形成することができ、さらにcBN(立方晶窒化硼素)等の極めて硬い硬質材を含む被膜をコーティングすることができるため、硬質の被膜およびアブレイシブ性能のよい被膜を形成することができる。
表面粗さの荒いコーティングにする条件で処理することで、アブレイシブ性を向上させている。
また、第3の発明によれば、回転体のコーティング方法において、前記放電電極を消耗させる第1の放電条件にて前記回転体と前記放電電極の間で放電を行わせ、電極形状を被膜形成部位の形状に倣った形状にして、その後、その放電電極と前記回転体との間で第2の放電条件にて被膜形成すると、電極を予め製品形状に加工しなくてもコーティング対象部位に適切にコーティングすることができる。
また、第4の発明によれば、放電電極を消耗させる第1の放電条件を、放電電極をマイナス極性としパルス幅1μs以下、電流値10A以下とし、被膜を形成する第2の放電条件は、放電電極をマイナス極性としパルス幅2〜10μs、電流値5〜20Aとすることが好ましい。
また、前記皮膜は回転体の先端部に形成されることが好ましく、さらに、前記硬質材は、第8の発明にあるように、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Alのいずれか又はこれらの混合物を含む圧粉体の放電電極を用いて被膜を形成することが好ましい。
また、放電により硬質材になる材料には、Ti、Cr、W、V、Zr、Si、Mo、Nbのいずれか又はこれらの混合物であることが好ましく、これらは油中での放電によって炭化物となり硬質な被膜を形成する。
この方法によれば、いわゆる放電コーティング方法を用いていることから、回転体の先端部に、容易に硬質材のコーティングを施すことができる。また、耐酸化性の点から、低温度で使われる回転体にはTiC、WC又はcBNを含む被膜を、高温で使われる回転体にはcBN又はCrを含む被膜を、さらに高温で使われる回転体にはZrO又はAlを含む被膜を形成することが好ましい。
第5、6、7及び9の発明によれば、コーティングされた面の疲労強度を向上する方法を提供する。
表面に母材よりも伸び難い被膜を作ると、引張り荷重を薄い被膜で負担してしまうために、表面の被膜が割れ易い。放電表面処理によるコーティングでは、硬質な層が強固に母材に溶着しているため被膜の割れは、母材の割れに発展する。それを避けるために、延性のある被膜にするか、母材と被膜の間に割れの進展を防ぐ層を作るか、引張りに強いコーティング層にする必要がある。その方法を提供するものである。
第5の発明では、被膜において、硬質材のコーティングされた面内のコーティングされた面積の割合、すなわちカバレッジを抑え、硬質材のコーティングが無い箇所、つまり延性のある箇所を分散して残すことにより、延性を残す。
第6の発明では、放電電極に炭化物を作り難い金属を含ませることで、硬質材の間に延性のある金属の箇所を分散して作ることにより、延性を残す。
第7の発明では、下地に金属主体のポーラスな被膜を形成し、その後で、ポーラスな被膜の上に硬質材を含む被膜を形成することにより、コーティング層の割れが母材に進展するのを防ぐ。
第9の発明では、コーティング層の表面にピーニングを施し、圧縮の残留応力を残し、母材が伸びても引張りの応力が小さくなるようにする。
これら第5から第7まで、および第9の発明は、硬質材のコーティングに限らず、耐摩耗コーティング等表面に被膜を形成する放電表面処理に有効である。
また、第8の発明によれば、硬質材のコーティングに使える極めて硬いセラミックスを提供することにより、有効な硬質材のコーティング提供を可能にする。
また、第10の発明によれば、回転体と硬質材又は放電により硬質材になる材料を含む圧粉体の放電電極との間で、電気絶縁性の加工液中又は気中にて、パルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーにより前記放電電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質が、該回転体の一部に硬質材を含むアブレシブ性被膜を形成した、ことを特徴とする回転体が提供される。マスキングやブラスト処理等の前処理や研削等の後処理が不要で、密着性のよい被膜又は層が形成されていることが特徴である。さらに前記被膜は回転体の先端部に形成されている、ことが好ましい。
この回転体は、電気絶縁性の加工液中又は気中にて、回転体と放電電極との間で放電させることによって、回転体の一部に硬質材を含むアブレイシブ性被膜を形成するので、アブレイシブ性に優れた回転体にすることができる。
第11から14の発明によれば、延性のある被膜にする、母材と被膜の間に割れの進展を防ぐ層を作る、引張りに強いコーティング層にする、ことにより疲労強度の高い回転体を提供する。
また、第15の発明によれば、硬質材のコーティングに使える極めて硬いセラミックスを提供することにより、アブレイシブ性能のよい回転体を提供する。
第2の目的を達成するために、第16の発明によれば、回転体と対峙する部品に接触可能性のある回転体の部位近傍のみに硬質材のコーティングの施された回転体を提供する。これにより、作業の手間が小さく、電極使用量が少なく、製品の歩留まりのよい、安価な回転体が得られる。
第17の発明では、コーティングする範囲を局所的に絞ることにより、さらに安価な回転体を提供する。
第18の発明は第10から17のアブレイシブ性能を向上させる方法でコーティングされた回転体を提供する。表面粗さを荒くする条件でコーティングしアブレイシブ性を向上させている。
第19の発明は第16の具体例であって、先端部に硬質材のコーティングの施された動翼であって、硬質材のコーティングは、動翼の回転進行方向の角部およびその近傍のみに施されていることを特徴とする動翼が提供される。
硬質材のコーティングの範囲が最適化されていることから歩留まりを向上させることができ、また作業時間の短縮及びコーティング材の節約を図ることができる。
第20の発明は第17の具体例であって、ロータまたはブリスクの全数でなく一部の動翼に被膜を形成した、ことを特徴とする回転体が提供される。コーティングされる翼の数量を最少に抑えることで、作業時間の短縮及びコーティング材の節約をさらに図ることができる。
第3の目的を達成するために、第21の発明は、前記回転体は、静止部品と回転部品との間で気体または液体の漏洩を抑制するラビリンスシール構造の構造要素の一つである回転側ラビリンスシール部品であって、
環状のシール部品本体と、前記シール部品本体の外周面に一体的に形成された環状のシールフィンとを備え、前記シールフィンの先端縁に硬質材のコートを具備し、該硬質材のコートは、消耗性を有したコーティング用電極を用い、電気絶縁性のある液中または気中において前記コーティング用電極と前記シールフィンの先端縁との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーにより前記シールフィンの先端縁に形成された前記コーティング用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質からなる硬質材を含む被膜である、ことを特徴とする。
ここで、「消耗性を有したコーティング用電極」とは、一般には、粉末状の金属(金属化合物を含む)、粉末状の金属と粉末状のセラミックスとの混合材、または通電性を有する粉末状のセラミックスを圧縮成形してなる圧粉体電極(加熱処理した圧粉体電極を含む)のことをいい、固体のシリコンからなるシリコン電極も含まれる。なお、通電性を有するセラミックスには、適宜に表面処理が施されている。
第21の発明によると、前記硬質材のコートは、メッキまたは溶射によることなく、前記コーティング用電極と前記シールフィンの先端縁との間に発生した放電エネルギーにより前記シールフィンの先端縁に前記コーティング用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質からなる硬質材を含む被膜であるため、前記回転側ラビリンスシール部品の生産にあっては、ブラスト処理、マスキングテープの貼り付け処理等のコーティング前処理、マスキングテープの除去処理等のコーティング後処理がそれぞれ不要になる。
また、放電エネルギーによりコーティングされた前記硬質材のコートと前記シールフィンの母体との境界部分は、傾斜合金特性を有するので、前記硬質材のコートを前記シールフィンの先端縁に強固に結合させることができる。
また第21の発明において、好ましくは、前記22の発明にあるように前記硬質材のコートは、前記シールフィンの先端縁における周方向の複数の被処理部に局所的に形成した複数の局所的な被膜である。
この構成により、前記硬質材のコートは複数の局所コートからなるようにしたため、換言すれば、前記シールフィンの先端縁全周ではなく、前記シールフィンの先端縁における周方向の複数の被処理部に前記コーティング用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質からなる硬質材を含む被膜を局所的に形成するようにしたため、前記シールフィンの先端縁における被処理部の大きさ・形状に対応して前記コーティング用電極を小さくかつ簡単な形状にすることができると共に、前記コーティング用電極に使用する電極材料の量を少なくすることができる。
なお、前述のように、前記硬質材のコート(前記硬質材の局所コート)を前記シールフィンの先端縁に強固に結合させることができるため、前記シールフィンの先端縁全周に前記硬質材のコートをコーティングしなくても、複数の前記硬質材の局所コートによって前記回転側ラビリンスシール部品全体としての十分なアブレイシブ性を有することができる。
さらに第10の発明において、好ましくは、第15の発明にあるように前記コーティング用電極は、粉末状の金属、粉末状の金属と粉末状のセラミックスとの混合材、または通電性を有する粉末状セラミックスを圧縮成形してなる圧粉体電極、または固体のシリコンの電極であって、更に、前記セラミックスはcBN、Cr、TiC、TiN、TiAlN、TiB、ZrO−Y、ZrC、VC、BC、WC、SiC、Si、Alのいずれか又はこれらの混合物である。
ここで、「粉末状の金属」には、粉末状の金属化合物も含まれる。なお、通電性を有しないセラミックスには、適宜に表面処理が施されて通電性が確保されている。
また、第23の発明は、静止部品と回転部品との間で気体または液体の漏洩を抑制するラビリンスシール構造において、
前記静止部品に一体的に設けられた静止側シール部品と、
前記静止側シール部品の内側に配置され、前記回転部品と一体的に回転可能であって、前記回転部品に一体的に設けられた環状のシール部品本体と、前記シール部品本体の外周面に一体的に形成された環状のシールフィンとを備え、前記シールフィンの先端縁にコーティングされた硬質性のコートを有し、該硬質性のコートは、消耗性を有したコーティング用電極を用い、該コーティング用電極と前記シールフィンの先端縁との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーにより前記シールフィンの先端縁にコーティングされた前記コーティング用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質からなる硬質材を含む被膜である、ことを特徴とする。
ここで、「静止側シール部品」には、ハニカム状の静止側ハニカムシール部品、または内側にアブレイダブルコートがコーティングされた静止側アブレイダブルシール部品が含まれる。
また、「消耗性を有したコーティング用電極」とは、一般には、粉末状の金属(金属化合物を含む)、粉末状の金属と粉末状のセラミックスとの混合材、または通電性を有する粉末状のセラミックスを圧縮成形してなる圧粉体電極(加熱処理した圧粉体電極を含む)のことをいい、固体のシリコンからなるシリコン電極も含まれる。なお、通電性を有しないセラミックスには、通電性のないセラミックス粉末の表面に、通電性被膜をつける処理を行い、適宜に表面処理が施されて通電性が確保されている。
第23の発明によれば、前記回転側ラビリンスシール部品は前記硬質材のコートを備えているため、前記回転側ラビリンスシール部品を前記回転部品と一体的に回転させる際に、前記静止側シール部品が変形して前記回転側ラブリンスシール部品と前記静止側シール部品が接触しても、前記回転側ラビリンスシール部品における前記硬質材のコートによって前記静止側シール部品が削られるだけで、前記回転側ラビリンスシール部品が削られるようなことはほとんど生じない。
これによって、前記回転部品の回転中に前記静止側シールと前記回転側ラビリンスシール部品との隙間が大きくなることを抑制して、前記ラビリンスシール構造のシール効果を適切な状態に保つことができる。また、前記回転部品の初期回転時において前記回転側ラビリンスシール部品と前記静止側シール部品が僅かに接触するように設定しておくことによって、前記初期回転時以降において前記静止側シール部品と前記回転側ラビリンスシール部品との隙間を極力小さくすることができ、前記ラビリンスシール構造のシール効果をより一層高めることができる。
また、前記硬質材のコートはメッキまたは溶射によることなく、前記コーティング用電極と前記シールフィンの先端縁との間に発生した放電エネルギーにより前記シールフィンの先端縁に前記コーティング用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質からなる硬質材を含む被膜であるため、前記回転側ラビリンスシール部品の生産にあっては、ブラスト処理、マスキングテープの貼り付け処理等のコーティング前処理、マスキングテープの除去処理等のコーティング後処理がそれぞれ不要になる。
更に、放電エネルギーによりコーティングされた前記硬質材のコートと前記シールフィンの母材との境界部分は、傾斜合金特性を有しているので、前記硬質材のコートを前記シールフィンの先端縁に強固に結合させることができる。
また第24の発明において、好ましくは、前記硬質材のコートは、前記シールフィンの先端縁における周方向の複数の被処理部に局所的に形成した複数の局所的な被膜である。
この構成により、前記硬質材のコートは複数の硬質材の局所コートからなるようにしたため、換言すれば、前記シールフィンの先端縁全周ではなく、前記シールフィンの先端縁における周方向の複数の被処理部に前記コーティング用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質からなる硬質材を含む被膜を局所的に形成するようにしたため、前記シールフィンの先端縁における被処理部の大きさ・形状に対応して前記コーティング用電極を小さくかつ簡単な形状にすることができると共に、前記コーティング用電極に使用する電極材料の量を少なくすることができる。
なお、前述のように、前記硬質材のコート(前記硬質材の局所コート)を前記シールフィンの先端縁に強固に結合させることができるため、前記シールフィンの先端縁全周に前記硬質材のコートをコーティングしなくても、複数の前記硬質材の局所コートによって前記回転側ラビリンスシール部品全体としての十分なアブレイシブ性を有することができる。
第25の発明は、鍛造素材または鋳造素材を機械加工により所定形状に形成する第一の工程と、
パルス状の放電を利用して、放電パルスを繰り返すことで凹凸から構成される硬質被膜を回転体上に形成する第二の工程と、を備える回転体の製造方法を提供する。
第26の発明は、前記の製造方法において、第二の工程で前記回転体と擦り合い相手部品を削り取るアブレイシブ性被膜を回転体の一部に形成する、ことを特徴とする回転体の製造方法を提供する。
第27の発明は、前記第二の工程において、放電電極の形状を、回転体の所定部位の形状に倣った形状とする、回転体の製造方法を提供する。
第28の発明は、前記の放電電極の形状を回転体の所定部位の形状に倣った形状とする放電条件を提供し、手間をかけずに電極成形する方法を提供する。
第29の発明は、前記第二の工程において被膜形成する際に、放電条件を制御することにより、硬質材を含む被膜が形成された面積の割合であるカバレッジを95%以下にすることにより、疲労破壊し難いを回転体の製造方法を提供する。
第30の発明は、前記カバレッジの割合の制御を示して、疲労破壊し難いを回転体の製造方法を提供する。
第31の発明は、前記第二の工程において、炭化物を作りやすい金属を体積で5%以上含む圧粉体電極を用いて放電を行うことにより、疲労破壊し難いを回転体の製造方法を提供する。
第32の発明は、前記第二の工程において、回転体の所定部位に対してポーラスな被膜を形成した後、該ポーラスな被膜上に硬質材を含む被膜を形成することにより、疲労破壊し難いを回転体の製造方法を提供する。
第33の発明は、前記第二の工程で用いる圧粉体の放電電極材料を提供することにより、アブレイシブ性能の優れた回転体の製造方法を提供する。
第34の発明は、前記第二の工程で形成された被膜上に、ピーニング処理を施す第三の工程を行うことにより、疲労破壊し難いを回転体の製造方法を提供する。
本発明のその他の目的及び有利な特徴は、添付図面を参照した以下の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
図1Aは、通常のタービン動翼の斜視図であり、図1Bは、チップシュラウド付タービン動翼の斜視図であり、図1Cは圧縮機動翼の図である。
図2は、従来のラビリンス・シール先端の一例を示す斜視図である。
図3は、本発明の回転体とコーティング方法の第1実施例を示す図である。
図4は、本発明の回転体とコーティング方法の第2実施例を示す図である。
図5は、本発明の回転体とコーティング方法の第3実施例を示す図である。
図6は、本発明の回転体とコーティング方法の第4実施例を示す図である。
図7A,B,Cは、本発明の回転体の第5実施例である通常のタービン動翼の斜視図である。
図8A,B,Cは、本発明の回転体の第6実施例であるチップシュラウド付タービン動翼の斜視図である。
図9A,Bは、本発明の回転体の第7実施例であるコンプレッサー翼の斜視図である。
図10は、本発明によるコーティング方法の第5実施例を示す図である。
図11は、本発明の回転体の第8実施例であるラビリンスシール構造の模式図である。
図12は、図11のラビリンスシールの正面図である。
図13は、本発明によるコーティング方法の第8実施例を示す放電加工機の模式図である。
好ましい実施例の説明
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
図3は、本発明の回転体とコーティング方法の第1実施例を示す図である。この図は、ガスタービンや圧縮機で用いられる動翼1の先端部に硬質材のコーティングを施す状態を示している。
本発明の方法では、図3に示すように、動翼1とcBN(立方晶窒化硼素)を含む放電電極11とを加工液(油)で満たされた加工槽12の中に浸し、動翼1の先端部と放電電極11との間に放電用電源14によりパルス状の放電を発生させることによって放電電極11を溶融し、その一部を動翼1の先端部に溶着させ、cBNを含む被膜10を形成している。ここで、動翼1及び放電電極11はその断面のみを示し、動翼1は翼固定治具により固定され、放電電極11は図示しない電極固定治具により固定されている。なお、図3において動翼を例示したが、同じ回転体であるラビリンス・シールにも同様の方法で硬質材のコーティングを施すことができる。なおこの図で13は翼固定治具である。
上記説明では、硬質材としてcBNを用いたが、cBNは常温でビッカース硬さが4500HVであり、900℃以上の高温になっても2000HV近いビッカース硬さを維持できる点で、高温に曝されるタービン動翼には最適のコーティング材である。また、それ以外にも、耐酸化性の点から、低温度で使われる回転体にはTiCやWC、高温で使われる回転体にはCr、さらに高温で使われる回転体にはZrOやAlの硬質材を用いることができる。したがって、本発明によれば、低温度で使われる回転体にはTiC、WC又はcBNを含む被膜、高温で使われる回転体にはcBN又はCrを含む被膜、さらに高温で使われる回転体にはZrO又はAlO3を含む被膜が形成される。もちろん、これらの硬質材を混合させることによってより最適な皮膜を形成することもできる。なお、放電コーティング技術に関しては、例えば特開平7−197275号の「液中放電による金属材料の表面処理方法」に開示されているため、その説明を省略する。
ここで、cBN等のセラミックスは絶縁物で硬質の材料であるため、cBN等のセラミックス単体では放電電極に成形することができないが、導電性のバインダーを用いることによってcBN等のセラミックスを含む放電電極を成形することができる。例えば、Co系合金粉末をバインダーとして使用することができ、cBN等のセラミックス粉末とCo系合金粉末とを混合し、プレス金型に入れて圧縮成形すればよい。なお、バインダーの量は体積比で50%程度以上にするのが好ましい。
さらに、cBN等のセラミックスの粉末を、バインダーとなるTi(チタン)、Ni(ニッケル)又はCo(コバルト)で被覆したもので放電電極を成形するようにしてもよい。粉末全体の粒径は、放電表面処理の際の電極とワークとの極間距離よりも小さくする必要があるため、10μm以下程度であることが好ましい。cBN等のセラミックスの粉末にTi、Ni又はCo金属の薄い被膜を被覆するには、蒸着等により容易に行うことができる。
このように、導電性のバインダーを混入してcBN等のセラミックスを含む放電電極を成形することによって、バインダーの部分で放電を発生させることができ、その熱エネルギーにより放電電極を溶融状態にさせ、放電電極の一部を動翼等の回転体の先端部に溶着させることができる。その結果、回転体の先端部にcBN等のセラミックスを含む硬質の被膜をコーティングすることができる。
ここで、表1は、2つの試験片(上部試験片と下部試験片)に本発明のコーティング方法でコーティングを施したものを高温で擦り合わせる摩耗試験をした結果である。
【表1】

上部試験片は、ニッケル系合金であるRENE77、下部試験片は、本発明の被膜であるcBNをコーティングしたものである。試験条件は、温度:800度、面圧:7MPa、サイクル数:10回、振幅:0.35mmである。表1を見ればわかるように、Ni合金は600μm以上の摩耗量が計測されているが、cBNの被膜では摩耗が検知されない。この結果からcBNがいかにアブレイシブ性に優れているかがわかる。なお、このNi合金は、Ni:57%、Cr:15%、Co:15%、Mo:5%、Ti:3.5%、Al:4.4、C:0.1%の成分比からなる合金である。
このように、いわゆる放電コーティング方法を用いて動翼のような回転体の先端部にcBN等のセラミックスを含む被膜をコーティングすることによって、cBN等のセラミックスの特徴を生かした硬質の被膜を容易にコーティングすることができるとともに、溶接や溶射等の従来方法に比べて密着性、品質のよい被膜をコーティングすることができる。また、本発明によれば、数ミクロン〜30μmの薄い被膜(又は層)を形成することができるので被膜割れが生じにくく、精度も数μm単位で制御できるため、動翼やラビリンス・シールのような精密部品に最適なコーティング方法を提供することができる。
擦り合う相手部品を削り取るアブレイシブ性能は、面粗さが荒い方がよい。実施した例では、面粗さは、1.2μmRaより荒い面粗さとなっている。
上述したように、本発明は、いわゆる放電コーティング方法を用いていることから、マスキングやブラスト処理等の前処理が不要で、密着性のよい被膜を容易かつ安価に形成することができ、さらにcBN(立方晶窒化硼素)等のセラミックスを含む被膜をコーティングすることができるため、アブレイシブ性に優れた硬質の被膜を回転体のアブレイシブ性が要求される箇所にコーティングすることができる。
硬質材のコーティング層は硬く延性が小さいので、部品にかかる引っ張り応力を、延性の大きい部品内部の母材で負担せず、表面のコーティング層のみが負担してしまう。そのために、表面に割れが入り、母材に進展する恐れがある。それを避けるため、コーティング層に延性を持たせる方法がとられている。
表2は、丸棒の外径に硬質材のコーティングを施し、軸方向に引っ張り荷重を繰り返しかけたときのHCF(High Cycle Fatigue)試験で破壊に至るサイクル数を示す。
硬質材のコーティングなしでは、100万サイクルまで破断しないが、コーティング面において硬質材のコーティング面の中でのコーティングされた面積の割合、則ちコーティングのカバレッジ(図4参照)が98%のコーティングでは、2万サイクルで破断した。カバレッジを約95%に抑えると、100万サイクルまで破断しなかった。
【表2】

コーティングのカバレッジを95%以下に下げることで、コーティング面全体のアブレイシブ性能を少し犠牲にして延性を増す。カバレッジを上げると延性が減り疲労強度が低下するが、95%では、疲労強度は大きく低下せず、アブレイシブ性能の低下が少ない。カバレッジを下げる一手法としては、放電時間を短縮し、放電がおきない範囲を残すことでカバレッジを低く抑えることができる。通常5分/平方cm程度の時間で処理するが、3.8分/平方cm程度に抑えるとよい。
計算式は、95%カバレッジを得る時間
=98%カバレッジを得る時間LOG(1−0.95)/LOG(1−0.98)
である。98%カバレッジは100%カバレッジとみなす。50%カバレッジを得る時間から計算するには、LOG(1−0.98)の0.98を0.5に変更すればよい。
もうひとつの方法は、図5に示すように炭化し難い金属粉末を加えた電極を使用することで、コーティング層に金属の延性のある性質を持たせる。電極に5%以上の炭化し難い金属を含めると、延性のある箇所が5%以上残り、表2と同様の効果が期待できる。この方法も、コーティング面全体のアブレイシブ性能を少し犠牲にする。炭化し難い金属には、コバルト、ニッケル、鉄がある。カバレッジについては、翼一枚について説明したが、翼は多数あるので、カバレッジが低くても、ある翼のある箇所でアブレイシブ性能が無くても、他の翼が性能をカバーできる。リング状のシールにおいても、円周のどこかでアブレイシブ性能があればよいので、同様である。
また、さらに別な方法としては、図6に示すようにコーティング層の割れを母材に進展させないために、硬質材のコーティング層の下地に、ポーラスな層を作る。この下地も放電コーティングで形成する。ポーラスな層は、Stelliteなどの金属の粉末を圧縮成形した電極で0.05mm以上厚く盛ることで、生成できる。その後でポーラスな層の上に硬質材をコーティングする。
また、硬質材のコーティングの表面にピーニングを施し、表面を伸ばすことにより、圧縮応力を残すことで、母材が伸びても引張りの応力が小さくなるようにする。その効果により、疲労強度を向上できる。
図7A〜C、図8A〜C、および図9A,Bは、本発明の回転体の第5〜7実施例を示す斜視図である。なお、これらの図では、ディスク側のプラットホームやダブテールは省略してある。
図7Aのタービン動翼1では、動翼の回転進行方向の角部、すなわち動翼先端部の背側の翼面と先端面に、硬質材のコーティング20が施されている。
図7Bの薄いタービン動翼では、動翼先端部の背側の翼面と先端全面にコーティングを施し、反対の面はコーティング無しでもよい。
図7Cのタービン動翼では、動翼先端部の背側の翼面にコーティングされ、先端全面がコーティング無しである。
図8Aのチップシュラウド付タービン動翼2では、チップフィン4の先端部の回転進行方向の角部に、又は回転進行方向の面すなわち先端部の背側面に、硬質材のコーティング21が施されている。なお、チップシュラウド3は、ガスタービンの高速回転時に動翼2の共振を防止するとともに、高温ガスが動翼2の外側に漏洩するのを防止するために設けられるものである。
図8Bの小さい翼では、先端全面と回転進行方向の面(すなわち先端部の背側面)にコーティングを施し、反対の面はコーティング無しでもよい。
図8Cのタービン動翼では、回転進行方向の面(すなわち先端部の背側面)にコーティングを施し、先端全面がコーティング無しである。
図9Aの圧縮機動翼1では、動翼の回転進行方向の角部、すなわち動翼先端部の腹側の翼面と先端面に、硬質材のコーティング22が施されている。
図9Bの圧縮機動翼では、回転進行方向の面すなわち動翼先端部の腹側の翼面にコーティングを施し、先端全面がコーティング無しである。
図9Aの翼と図9Bの翼で、実機を模擬したアブレイシブ性能試験を行ったところ、性能に差は認められなかった。
上述したように、硬質材のコーティングは、ケーシングやシュラウド側に施されたアブレイダブルコーティングとの硬度の差により、ガスタービン駆動時に動翼1,2の先端部でアブレイダブルコーティングを削り取り、チップクリアランスを最小限に保つようにするために施されるものである。そして、この現象は、動翼1,2の回転進行方向の角部が接触することによって始まり、ケーシングやシュラウドが削り取られることによって終了する。つまり、この角部が接触した後は、同一翼の他の部分がケーシングやシュラウドに接触することはほとんどないのである。この事実に鑑みれば、従来のように翼先端部の全域に渡って硬質材のコーティングを施す必要はなく、本発明が示すように、相手に接触する範囲のみ、すなわち回転進行方向の角部にのみ、又は回転進行方向の面にのみ硬質材のコーティング20、21、22が施されていれば十分である。このようにコーティングする範囲を最適化することにより、コーティングする範囲は狭まり、製品の歩留まりが向上し、作業時間の短縮や高価なコーティング材の節約もすることができ、コストを低減することができる。
図10は、本発明によるコーティング方法の第5実施例を示す図であり、図7A〜Cに示した動翼のコーティング方法を示す図である。本発明のコーティング方法では、動翼1及び放電電極23を加工液(油)で満たされた加工槽12の中に浸し、動翼1の回転進行方向の角部近傍に放電電極23を設置し、これらの間で放電させることによって、動翼1の回転進行方向の角部にのみ硬質材のコーティング20を施している。
この硬質材のコーティング20は、10〜20μmと非常に薄いので(図ではわかり易くするために誇張してある)、従来どおりに動翼1を成形した後に、相手に接触する範囲のみ、すなわち回転進行方向の角部に又は回転進行方向の面にのみ硬質材のコーティング20を施すだけで十分である。もちろん、硬質材のコーティング20の厚み分だけ動翼1の角部を機械加工で削るようにしたり、予めその分を考慮した鋳型を用いて動翼1を成形するようにしたりしてもよい。
また、翼厚の薄い翼では、回転進行方向面と先端面全体に硬質材のコーティングを施すことを含む。ただし進行と反対の面に施す必要はない。
なお、図10に示す動翼1及び放電電極23は、その断面のみを示している。
このコーティング方法では、動翼1の回転進行方向の角部にのみ放電コーティングできるように、動翼先端部の背側の翼面と先端面のみを覆うような形状の放電電極23を用いるのが好ましい。例えば、この放電電極23は、断面が略L字状であって、翼の背側に沿って湾曲した形状をしている。
電極は、予め製品形状に加工してもよいが、製品形状に合わせるため、電極が消耗し易い放電条件で電極を成形することもできる。そのための条件としては、電極をマイナス極性とし、パルス幅1μs以下、電流値10A以下の比較的小さなエネルギー条件で放電を発生させると、製品へのダメージを抑えて電極を製品形状に倣わせることができる。
被膜を形成する際には、電極をマイナス極性で、パルス幅2〜10μs程度、電流値5〜20A程度の比較的大きなエネルギー条件で放電させる。
なお、図示しないが、図8A〜Cに示すチップシュラウド付タービン動翼2の場合には、チップフィン4の回転進行方向の角部を覆うような電極を用いればよい。
放電コーティングでは、加工液中に浸した動翼1と放電電極23とに電圧を印加することによって対峙した面で放電を発生させ、この放電によって放電電極23の表面を溶融し、溶融した元素を動翼1の表面に付着させ合金化させている。放電電極23には、コーティング材を固化したものが用いられる。
放電コーティングは、コーティングの厚さを数μmで制御できるため、動翼1のような精密部品に最適なコーティング方法である。また、放電が発生しない箇所にはコーティングが付かないので、コーティングしたい箇所に局部的にコーティングできるのでマスキング等の前処理が不要であり、入熱が小さくて動翼の熱変形も生じないので後処理も不要である。
上述したように、本発明は、硬質材のコーティングの範囲を最適化しているため、製品の歩留まりを向上させることができ、また、作業時間の短縮及びコーティング材の節約をすることができることからコストの低減を図ることができる。さらに、いわゆる放電コーティングを用いることによって、容易かつ安価に動翼の回転進行方向の角部にのみ又は回転進行方向の面にのみ硬質材のコーティングを施すことができる。
また、ロータに組み付けられる全ての翼に硬質材のコーティングが施されていなくても、一部の翼に硬質材のコーティングを施すことで、効果を得ることも可能である。リング状のシールにおいても、円周のどこかでアブレイシブ性能があればよいので、同様である。
図11は、本発明の回転体の第8実施例であるラビリンスシール構造の模式図、図12は、図11のラビリンスシールの正面図である。また、図13は本発明によるコーティング方法の第8実施例を示す放電加工機の模式図である。
図11及び図12に示すように、本発明の実施の形態に係わるラビリンスシール構造31は、ジェットエンジン等のガスタービンに用いられるものであって、エンジン静止部品33とエンジン回転部品35との間で燃焼ガスの漏洩を抑制するものである。そしてラビリンスシール構造31は、エンジン静止部品33に一体的に設けられたハニカム状の静止側ハニカムシール部品37と、この静止側ハニカムシール部品37の内側に配置されかつエンジン回転部品35に一体的に回転可能な回転側ラビリンスシール部品39とを構成要素としている。なお、静止側ハニカムシール部品37の代わりに、内側にアブレイダブルコートがコーティングされた静止側アブレイタブルシール部品を用いてもよい。
本発明の実施の形態の要部である回転側ラビリンスシール部品39の具体的な構成は、以下のようになる。
即ち、エンジン回転部品35には、回転側ラビリンスシール部品39の本体である環状のシール部品本体41が一体的に設けられており、このシール部品本体41の外周面には、複数の環状のシールフィン43が一体的に形成されている。また、各シールフィン43の先端縁には、硬質材のコート45がそれぞれコーティングされている。更に、各硬質材のコート45は、消耗性を有したコーティング用電極47(図13参照)を用い、コーティング用電極47とシールフィン43の先端縁との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーによりシールフィン43の先端縁における複数の被処理部にコーティング用電極47の構成材料またはこの構成材料の反応物質が硬質材を含む被膜を形成することによって等間隔にコーティングされた複数(本発明の実施の形態にあっては4つ)の硬質材の局所コート45aからなる。
ここで、本発明の実施の形態にあっては、「消耗性を有したコーティング用電極」とは、一般には、粉末状の金属(金属化合物を含む)、粉末状の金属と粉末状セラミックスとの混合材、または通電性を有する粉末状のセラミックスを圧縮成形してなる圧粉体電極(加熱処理した圧粉体電極を含む)のことをいい、固体のシリコンからなるシリコン電極も含まれる。なお、通電性を有するセラミックスには、セラミック粉末に通電性被膜をつける表面処理が施されてから圧縮成形されて、通電性が確保されている。特に、「粉末状の金属」には、例えばTi、Co等が含まれ、「粉末状セラミックス」には、例えばcBN、TiC、TiN、TiAlN、AlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO−Y、Al等が含まれる。
放電エネルギーにより反応して硬質材を含む被膜を形成する材料には、Ti、W、Cr、Zr、Si、V、Mo、Nbがある。
更に、コーティング電極47はシールフィン43の先端縁における被処理部に近似した形状を呈している。
次に、図13を参照して、硬質材のコート45をコーティングする際に用いる放電加工機49の具体的な構成、及び硬質材のコート45をコーティングするためのコーティング方法について説明する。
即ち、本発明の実施の形態に係わる放電加工機49はベッド51を加工機ベースとしており、このベッド51には、テーブル53が設けられてあって、このテーブル53はX軸サーボモータ(図示省略)の駆動によってX軸方向(図13において左右方向)へ移動可能かつY軸サーボモータ(図示省略)の駆動によってY軸方向(図13において紙面に向かって表裏方向)へ移動可能である。
テーブル53には、電気絶縁性のある加工油等の加工液Lを貯留する加工槽55が設けられており、この加工槽55内には、支持プレート57が設けられている。この支持プレート57には、シール部品本体41を固定する保持具59が設けられている。
ベッド51の上方(図13において上方)には、加工ヘッド61がコラム(図省略)を介して設けられており、この加工ヘッド61はZ軸サーボモータ(図示省略)の駆動によってZ軸方向(図13において上下方向)へ移動可能である。そして、加工ヘッド61には、コーティング用電極47を保持する電極保持部材63が設けられている。
なお、電極保持部材63及び保持具69は電源65に電気的に接続されている。
従って、シールフィン43の先端縁における周方向に適宜の被処理部が加工槽55内において真上を向くような状態の下で、保持具59によってシール部品本体41を固定する。次にX軸サーボモータ、Y軸サーボモータの駆動によってテーブル53をX軸方向、Y軸方向(少なくともいずれかの方向)へ移動させることにより、一方のシールフィン43の先端縁における適宜の被処理部とコーティング用電極47に対向するように一方のシールフィン43の位置決めを行う。
そして、Z軸サーボモータの駆動によってコーティング用電極47を加工ヘッド51と一体的にZ軸方向へ移動させつつ、電気絶縁性のある加工液L中においてコーティング用電極47と一方のシールフィン43の先端縁における適宜の被処理部との間にパルス状の電圧を発生させる。これにより、放電エネルギーによって一方のシールフィン43の先端縁における適宜の被処理部にコーティング用電極47の電極材料を局所的に拡散及び/または溶着させて、一方のシールフィン43の先端縁における適宜の被処理部に硬質材の局所コート45aを局所的にコーティングすることができる。
更に、Y軸サーボモータの駆動によってテーブル53をY軸方向へ移動させることにより、別のシールフィン43の先端縁における適宜の被処理部とコーティング用電極47に対向するように他方のシールフィン43の位置決めを行う。そして、前述のように、放電エネルギーによって他方のシールフィン43の先端縁における適宜の被処理部にコーティング用電極47の電極材料を局所的に拡散及び/または溶着させて、他方のシールフィン43の先端縁における適宜の被処理部に硬質材の局所コート45aを局所的にコーティングする。
複数のシールフィン43の先端縁における適宜の被処理部に硬質材の局所コート45aを局所的にコーティングした後に、同様の操作を繰り返すことにより、複数のシールフィン43の先端縁における他の被処理部に対しても硬質材の局所コート45aをそれぞれ局所的にコーティングをする。
次に、本発明の実施の形態の作用について説明する。
回転側ラビリンスシール部品39は硬質材のコート45を備えているため、回転側ラビリンスシール部品39をエンジン回転部品35と一体的に回転させる際に、エンジン静止部品が変形して回転側ラビリンスシール部品39と静止側ハニカムシール部品37が接触しても、回転側ラビリンスシール部品39における硬質材のコート45によって静止側ハニカムシール部品37が削られるだけで、回転側ラビリンスシール部品39が削られるようなことはほとんど生じない。
これによって、エンジン回転部品35の回転中に静止側ハニカムシール部品37と回転側ラビリンスシール部品39との隙間が大きくなることを抑制して、ラビリンスシール構造31のシール効果を適切な状態の保つことができる。また、エンジン回転部品35の初期回転時において回転側ラビリンスシール部品39と静止側ハニカムシール部品37が僅かに接触するように設定しておくことによって、初期回転時以降において静止側ハニカムシール部品37と回転側ラビリンスシール部品39との隙間を極力小さくすることができ、ラビリンスシール構造31のシール効果をより一層高めることができる。
また、硬質材のコート45は、メッキまたは溶射によることなく、コーティング用電極47とシールフィン43の先端縁との間に発生した放電エネルギーによりシールフィン43の先端縁にコーティング用電極47の電極材料を拡散及び/または溶着させることによってコーティングされるため、回転側ラビリンスシール部品39の生産にあっては、ブラスト処理、マスキングテープの除去処理等のコーティング後処理がそれぞれ不要になる。
更に、放電エネルギーによりコーティングされた硬質材のコート45とシールフィン43の母材との境界部分は、傾斜合金特性を有してあって、硬質材のコート45をシールフィン43の先端縁に強固に結合させることができる。
また、硬質材のコート45は複数の硬質材の局所コート45aからなるようにしたため、換言すれば、シールフィン43の先端縁全周ではなく、シールフィン43の先端縁における周方向の複数の被処理部にコーティング用電極47の電極材料を局所的に拡散及び/または溶着させるようにしたため、シールフィン43における先端縁における被処理部の大きさ・形状に対応してコーティング用電極47を小さくかつ簡単な形状にすることができると共に、コーティング用電極47に使用する電極材料の量を少なくすることができる。
なお、前述のように、硬質材のコート45(硬質材の局所コート45a)をシールフィン43の先端縁に強固に結合させることができるため、シールフィン43の先端縁全周に硬質材のコート45をコーティングしなくても、複数の硬質材の局所コート45aによって回転側ラビリンスシール部品39全体としての十分なアブレイシブ性能を有することができる。
以上の如き本発明の実施の形態によれば、回転側ラビリンスシール部品39の生産にあっては、ブラスト処理、マスキングテープの貼り付け処理等のコーティング前処理、マスキングテープの除去処理等のコーティング後処理がそれぞれ不要になるため、回転側ラビリンスシール部品39の生産に要する作業時間を短縮して、回転側ラビリンスシール部品39の生産性の向上を容易に図ることができる。
また、硬質材のコート45をシールフィン43の先端縁に強固に結合させることができるため、硬質材のコート45がシールフィン43の先端縁から剥離し難くなって、回転側ラビリンスシール部品39の品質が安定する。
更に、回転側ラビリンスシール部品39全体としての十分なアブレイシブ性能を有しつつ、シールフィン43における先端縁の被処理部の大きさ・形状に対応してコーティング用電極47を小さくかつ簡単な形状にすることができると共に、コーティング用電極47に使用する電極材料の量を少なくすることができるため、回転側ラビリンスシール部品39の生産コストの低減を図ることができる。
なお、本発明は、前述の発明の実施の形態の説明に限るのではなく、例えば電気絶縁性のある加工液L中において放電させる代わりに、電気絶縁性のある気中で放電させる等、適宜の変更を行うことにより、その他種々の態様で実施可能である。
上述したように本発明によれば、回転側ラビリンスシール部品の生産にあっては、ブラスト処理、マスキングテープの貼り付け処理等のコーティング前処理、マスキングテープの除去処理等のコーティング後処理がそれぞれ不要になるため、回転側ラビリンスシール部品生産に要する作業時間を短縮して、回転側ラビリンスシール部品の生産性の向上を容易に図ることができる。
また、硬質材のコートをシールフィンの先端縁に強固に結合させることができるため、硬質材のコートがシールフィンの先端縁から剥離し難くなって、ラビリンスシールの品質が安定する。
また、前述の効果の他に、回転側ラビリンスシール部品全体としての十分なアブレイシブ性能を有しつつ、シールフィンの先端縁における被処理部の大きさ・形状に対応してコーティング用電極を小さくかつ簡単な形状にすることができると共に、コーティング用電極に使用する電極材料の量を少なくすることができるため、回転側ラビリンスシール部品の生産コストの低減を図ることができる。
なお、本発明をいくつかの好ましい実施例により説明したが、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施例に限定されないことが理解されよう。反対に、本発明の権利範囲は、添付の請求の範囲に含まれるすべての改良、修正及び均等物を含むものである。

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】




【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状に成形された回転体と、硬質材又は放電により硬質材になる材料を含む圧粉体または固形のシリコンの放電電極との間に、電気絶縁性の加工液中又は気中にて、パルス状の放電を発生させることにより、放電パルス毎に電極材料あるいは電極材料が変化したことでできる硬質材料を回転体側に移行させて硬質の凹凸を形成し、該放電パルスを繰り返すことで該凹凸から構成される硬質被膜を回転体上に形成する、ことを特徴とする回転体のコーティング方法。
【請求項2】
回転体のコーティング方法において、前記回転体と擦り合い相手部品を削り取るアブレイシブ性被膜を回転体の一部に形成する、ことを特徴とする請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項3】
回転体のコーティング方法において、前記放電電極を消耗させる第1の放電条件にて前記回転体と前記放電電極の間で放電を行わせ、電極形状を被膜形成部位の形状に倣った形状にする工程と、
その後、その放電電極と前記回転体との間で第2の放電条件にて被膜形成する工程とを有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング方法。
【請求項4】
前記の放電条件において、放電電極を消耗させる第1の放電条件は、放電電極をマイナス極性としパルス幅1μs以下、電流値10A以下であり、
被膜を形成する第2の放電条件は、放電電極をマイナス極性としパルス幅2〜10μs、電流値5〜20Aである、ことを特徴とする請求項1から3に記載のコーティング方法。
【請求項5】
前記被膜において、コーティングされた面内のコーティングされた面積の割合であるカバレッジを95%以下にする、ことを特徴とする請求項1から4いずれかに記載のコーティング方法。
【請求項6】
前記被膜において、炭化物を作り難い金属を体積割合で5%以上含む放電電極を用いて被膜形成する、ことを特徴とする請求項1から4いずれかに記載のコーティング方法。
【請求項7】
前記被膜形成に際し、下地にポーラスな被膜を形成し、その後で、ポーラスな被膜の上に硬質材を含む被膜を形成する、ことを特徴とする請求項1から4いずれかに記載のコーティング方法。
【請求項8】
cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Alのいずれか又はこれらの混合物を含む圧粉体の放電電極を用いて被膜を形成する、ことを特徴とする請求項1から7いずれかに記載のコーティング方法。
【請求項9】
前記被膜にピーニングを施す、ことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のコーティング方法。
【請求項10】
回転体と硬質材又は放電により硬質材になる材料を含む圧粉体の放電電極との間で、電気絶縁性の加工液中又は気中にて、パルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーにより前記放電電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質が、該回転体の一部に硬質材を含むアブレシブ性被膜を形成した、ことを特徴とする回転体。
【請求項11】
前記被膜において、コーティングのカバレッジを95%以下にした被膜を形成した、ことを特徴とする請求項10に記載の回転体。
【請求項12】
前記被膜において、硬質材又は放電により硬質材になる材料と炭化物を作り難い金属とを含む圧粉体の放電電極を使用し、
炭化物を作り難い金属を体積割合で5%以上含む放電電極で被膜を形成した、ことを特徴とする請求項10に記載の回転体。
【請求項13】
前記被膜において、回転体と炭化物を作り難い金属主体の圧粉体の放電電極との間で、電気絶縁性の加工液中又は気中にて、パルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーにより、回転体の一部に前記放電電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質からなるポーラスな第1の層を形成し、
第1の層と硬質材又は放電により硬質材になる材料を含む圧粉体の放電電極との間で、電気絶縁性の加工液中又は気中にて、パルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーにより、前記ポーラスな第1の層の上に硬質材の電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質が硬質材を含む第2の層を形成した、ことを特徴とする請求項10に記載の回転体。
【請求項14】
前記被膜において、被膜を形成後ピーニングを施すことによってピーニング層を持つ、ことを特徴とする請求項10から13のいずれかに記載の回転体。
【請求項15】
前記放電電極は、金属粉末、金属の化合物の粉末、セラミックスの粉末、またはそれらの混合した粉末を圧縮成形した圧粉体、もしくは、該圧粉体を加熱処理した圧粉体、または固体のシリコンの電極であって、
前記セラミックスは、cBN、Cr、TiC、TiN、TiAlN、TiB、ZrO−Y、ZrC、VC、BC、WC、SiC、Si、Alのいずれか又はこれらの混合物である、ことを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載の回転体。
【請求項16】
前記被膜は、回転体と対峙する部品への対向部もしくは接触部に形成されている、ことを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載の回転体。
【請求項17】
前記被膜は、回転体と対峙する部品への対向部もしくは接触部の一部に形成されている、ことを特徴とする請求項10から16のいずれかに記載の回転体。
【請求項18】
回転体と回転体を覆う静止したケース部品から構成される回転体において、回転体に放電パルス毎に電極材料あるいは電極材料が変化したことでできる硬質材料を回転体側に移行させて硬質の凹凸を形成し、該放電パルスを繰り返すことで該凹凸から構成される硬質被膜を形成し、該ケース部品は該硬質被膜材料よりも硬さの低い材料から構成される、ことを特徴とする請求項10から17記載の回転体。
【請求項19】
前記回転体は、動翼及び放電電極を電気絶縁性の加工液中又は気中に浸し、動翼先端の回転進行方向の角部の近傍、又は/及び動翼先端の回転進行方向の面近傍、又は/及び動翼先端面近傍に放電電極を設置し、これらの間で放電させることによって、硬質材を含むコーティングが、動翼先端の回転進行方向の角部に、又は動翼先端の回転進行方向の面に、又は動翼先端面、又は動翼先端面と動翼先端の回転進行方向の面に施されている動翼である、ことを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載の回転体。
【請求項20】
ロータまたはブリスクの全数でなく一部の動翼に硬質材を含むアブレイシブ性被膜を形成した、ことを特徴とする請求項10から16、18又は19に記載の回転体。
【請求項21】
前記回転体は、静止部品と回転部品との間で気体または液体の漏洩を抑制するラビリンスシール構造の構造要素の一つである回転側ラビリンスシール部品であって、
環状のシール部品本体と、
前記シール部品本体の外周面に一体的に形成された環状のシールフィンとを備え、
前記シールフィンの先端縁に硬質材を含むコートを具備し、
該硬質材を含むコートは、消耗性を有したコーティング用電極を用い、電気絶縁性のある液中または気中において前記コーティング用電極と前記シールフィンの先端縁との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーにより前記シールフィンの先端縁に形成された前記コーティング用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質からなる硬質材を含むアブレイシブ性被膜である、ことを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載の回転体。
【請求項22】
前記硬質材を含むコートは、前記シールフィンの先端縁における周方向の複数の被処理部に局所的に形成した複数の局所的な被膜である、ことを特徴とする請求項21に記載の回転体。
【請求項23】
静止部品と回転部品との間で気体または液体の漏洩を抑制するラビリンスシール構造において、
前記静止部品に一体的に設けられた静止側シール部品と、
前記静止側シール部品の内側に配置され、前記回転部品と一体的に回転可能であって、前記回転部品に一体的に設けられた環状のシール部品本体と、前記シール部品本体の外周面に一体的に形成された環状のシールフィンとを備え、
前記シールフィンの先端縁にコーティングされた硬質性を含むコートを有し、
該硬質性を含むコートは、消耗性を有したコーティング用電極を用い、該コーティング用電極と前記シールフィンの先端縁との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーにより前記シールフィンの先端縁にコーティングされた前記コーティング用電極の構成材料またはこの構成材料の反応物質からなる硬質材を含む被膜である、ことを特徴とするラビリンスシール構造。
【請求項24】
前記硬質材を含むコートは、前記シールフィンの先端縁における周方向の複数の被処理部に局所的に形成した複数の局所的な被膜である、ことを特徴とする請求項23に記載のラビリンスシール構造。
【請求項25】
動翼或いはラビリンス部材の回転体を、鍛造品または鋳造品を機械加工により所定形状に形成する第一の工程と、
この回転体に対して、硬質材または放電により硬質材になる材料を含む圧粉体または固形のシリコンの放電電極との間に、電気絶縁性の加工液中又は気中にて、パルス状の放電を発生させることにより、放電パルス毎に電極材料あるいは電極材料が変化したことでできる硬質材料を回転体側に移行させて硬質の凹凸を形成し、該放電パルスを繰り返すことで該凹凸から構成される硬質被膜を回転体上に形成する第二の工程と、を備える回転体の製造方法。
【請求項26】
第二の工程において、前記回転体と擦り合い相手部品を削り取るアブレイシブ性被膜を回転体の一部に形成する、ことを特徴とする請求項25に記載の回転体の製造方法。
【請求項27】
第二の工程において、放電電極の形状を、回転体の所定部位の形状に倣った形状とすべく、第一の放電条件にて前記回転体と前記放電電極間で放電を行わせ、その後、該電極と前記回転体との間で第二の放電条件にて被膜形成することを特徴とする請求項25又は26に記載の回転体の製造方法。
【請求項28】
電極を消耗させる第一の放電条件は、放電電極をマイナス極性とし、パルス幅1μs以下、電流値10A以下であり、
被膜を形成する第二の放電条件は、電極をマイナス極性とし、パルス幅2〜10μs、電流値5〜20Aであることを特徴とする請求項27に記載の回転体の製造方法。
【請求項29】
第二の工程において被膜形成する際に、放電条件を制御することにより、被膜形成される所定部位に対して、硬質材を含む被膜が形成された面積の割合であるカバレッジを95%以下にすることを特徴とする請求項25から28のいずれかに記載の回転体の製造方法。
【請求項30】
カバレッジの割合の制御は、処理時間をカバレッジ100%の処理時間の76%以下に下げることにより行うことを特徴とする請求項29に記載の回転体の製造方法。
【請求項31】
第二の工程において被膜形成する際に、炭化物を作りやすい金属を体積で5%以上含む圧粉体電極を用いて放電を行うことを特徴とする請求項25から28のいずれかに記載の回転体の製造方法。
【請求項32】
第二の工程において被膜形成する際に、回転体の所定部位に対してポーラスな被膜を形成した後、該ポーラスな被膜上に硬質材を含む被膜を形成することを特徴とする請求項25から28のいずれかに記載の回転体の製造方法。
【請求項33】
第二の工程で用いる圧粉体の放電電極は、cBN、TiC、TiN、TiAlN、TiB、WC、Cr、SiC、ZrC、VC、BC、Si、ZrO、Alの何れか又はこれらの混合物を圧縮形成した圧粉体放電電極である請求項25〜29何れかに記載の回転体の製造方法。
【請求項34】
第二の工程で形成された被膜上に、ピーニング処理を施す第三の工程を行うことを特徴とする請求項25から33のいずれかに記載の回転体の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/033755
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501022(P2005−501022)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012945
【国際出願日】平成15年10月9日(2003.10.9)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】