説明

回転角検出装置

【課題】回転角センサの出力を低回転角領域で増幅して用いる回転角検出装置において、該低回転領域でのセンサ出力−回転角変換特性を高精度に学習する。
【解決手段】ストッパで規制される最小回転角θ1と最大回転角θ2における回転角センサからの増幅しない出力(等倍出力)V1,V2から、第1変換特性におけるゲインdV/dθを学習した後、増幅した出力が選択される領域での小側および大側の回転角θmin、θmaxに対応する第1変換特性における出力Vmin、Vmax、同じく第2変換特性における出力Vnmin、Vnmaxに基づいて、第2変換特性におけるゲインdnV/dnθ{=(Vnmax−Vnmin)/(θmax−θmin)}を学習する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転角を検出する装置に関し、特に、検出精度を向上する学習の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関のスロットル開度を検出するスロットルセンサ(回転角センサ)からの信号を直接第1A/D変換器に入力すると共に、該センサ信号を所定倍増幅して第2A/D変換器に入力し、スロットル低開度時は増幅された第2A/D変換器を経由した信号を使用し、高開度時は第1A/D変換器を経由した信号を使用することで低開度域での検出精度を向上させる技術が開示されている。
【0003】
また、増幅器の増幅率が計算値と異なると、A/D変換器の出力値を切り換える点の低開度側と高開度側とでスロットル開度検出値がずれて不連続となるという課題を解決するため、所定開度における出力値の比を求め、この比に応じて増幅率を補正することにより不連続点を解消できるようにしている。
【特許文献1】特開平9−133039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような増幅率の補正では、増幅器のバラツキについては、学習できるものの、センサ自体のバラツキについては吸収できなかった。
また、特許文献1の図2に示すように、増幅した信号は中間開度で飽和してしまうため、センサ出力と回転角との変換特性(ゲイン)を学習できないという問題があった。
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、センサおよび増幅器のバラツキを合わせて学習できるようにして、回転角検出精度を十分に高めることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのため請求項1記載の発明では、少なくとも2つの基準回転角において、第1変換部によりセンサ部からの回転角信号をそのままの信号値に基づいて変換した回転角検出値と、第2変換部により所定倍増幅した信号値に基づいて変換した回転角検出値と、予め設定されている基準回転角相当値とに基づいて、第1変換部における変換特性を学習する第1の学習を行うと共に、第2変換部の回転角検出値が選択される回転角領域での少なくとも2つの任意の回転角において、第1の学習を行った第1変換部による回転角検出値と所定倍増幅した信号値とに基づいて、第2変換部における変換特性を学習する第2の学習を行うようにした。
【0006】
かかる構成によると、まず、複数の基準回転角における第1の学習によりセンサ出力に対する第1変換部での変換特性が学習され、複数の任意の回転角における第2の学習によりセンサと増幅器を含めたバラツキが学習されて第2変換部の変換特性を学習することができ、全回転角領域にわたって高い回転角検出精度を維持することができる。
また請求項2記載の発明では、前記基準回転角を、前記回転体が機械的に固定される最小回転角および最大回転角とするようにした。
【0007】
かかる構成によると、回転体が固定されてセンサ出力が安定し、かつ相互に最も離れた複数の回転角を用いることにより、第1変換部の変換特性を高精度に学習することができる。
また請求項3記載の発明では、前記第2の学習は、2つの回転角の第1変換部による回転角検出値θmax、θminおよび所定倍増幅した信号値Vnmax、Vnminに基づいて、次式により算出される所定倍増幅された信号値Vnの第2変換部による回転角検出値θnに対するゲインdVn/dθnの学習を含むようにした。
【0008】
dVn/dθn=(Vnmax−Vnmin)/(θmax−θmin
かかる構成によると、第1の学習によって求めた第1変換部の変換特性(ゲイン)dv/dθと、前記任意の回転角におけるセンサ信号値Vmax、Vminを用いて、(θmax−θmin)は次式により求められる。
θmax−θmin=dv/dθ・(Vmax−Vmin
これにより、第2変換部におけるゲインdVn/dθnを、上記の式によって学習することができる。
【0009】
また、請求項4記載の発明では、前記第2変換部の回転角検出値が最大出力値(飽和点)となる回転角よりも小さい予め決められた回転角を、前記第2変換部の回転角検出値が選択される回転領域の上限として設定されるようにした。
また、請求項5記載の発明では、前記第2変換部の回転角検出値が最大出力値(飽和点)となる回転角を、前記第2変換部の回転角検出値が選択される回転領域の上限として設定されるようにした。
【0010】
かかる請求項4,5の構成によると、第2変換部の回転角検出値を、その最大出力値ないしその近くまで選択することができるので、低回転角領域でも最大限に増幅された回転角検出値を用いて高精度な制御および学習を行うことができる。
また、請求項6記載の発明では、当該回転角検出装置が、機関弁の少なくとも作動角およびリフト量を変更する可変動弁機構における制御軸の作動角に対応する回転角を検出する装置であるようにした。
【0011】
かかる構成によると、吸気バルブや排気バルブの作動角を検出する装置に適用して、高精度な作動角検出値を得て、高精度な作動角制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態におけるシステムの概要を示す。
エンジン(ガソリン内燃機関)100は、吸気バルブの作動角及びバルブリフト量を連続的に変更する可変動弁機構101を備え、該可変動弁機構101には、前記作動角を可変動弁機構101の後述する制御軸の回転角によって検出する回転角センサ102が装着されている。
【0013】
前記回転角センサ102で検出された回転角信号は、可変動弁機構101の制御装置103に入力される。
前記制御装置103内において、前記回転角信号をそのままA/D変換する第1A/D変換器104を介してCPU105に入力されると共に、前記回転角信号を増幅器106によって所定倍増幅した回転角信号をA/D変換する第2A/D変換器107介してCPU105に入力される。なお、第1A/D変換器104、第2A/D変換器107は、CPU105内に組み込まれているものであってもよい。
【0014】
CPU105は、前記第1A/D変換器104および第2A/D変換器107からのA/D変換値を処理して回転角検出値を算出し、制御軸の回転角(バルブリフト量)が比較的小さい領域では、前記所定倍増幅した第2A/D変換器107からの回転角検出値を選択し、制御軸の回転角が比較的大きい領域では第1A/D変換器104からの回転角検出値を選択する。そして、このように選択された回転角検出値に基づいて可変動弁機構101の制御信号を生成してアクチュエータ駆動回路108に出力し、該アクチュエータ駆動回路108から出力された駆動信号によって前記可変動弁機構101を駆動し、吸気バルブの作動角及びバルブリフト量を目標値にフィードバック制御する。
【0015】
ここで、前記回転角検出値選択の領域切換点は、後述する図13に示すように、第2A/D変換器107による回転角検出値が最大出力値(飽和点)となる回転角よりも小さく設定した回転角とするか、図14に示すように第2A/D変換器107による回転角検出値が最大出力値(飽和点)となる回転角を設定してもよい。
図2、図3は、可変動弁機構の構成を示す。
【0016】
前記エンジン100には、各気筒に一対の吸気バルブ52が設けられており、これら吸気バルブ52の上方に、図外のクランクシャフトによって回転駆動される吸気駆動軸53が気筒列方向に沿って回転可能に支持されている。
前記吸気駆動軸3には、吸気バルブ52のバルブリフタ52aに当接して吸気バルブ52を開閉駆動する揺動カム54が相対回転可能に外嵌されている。
【0017】
前記吸気駆動軸53と揺動カム54との間には、吸気バルブ2の作動角及びバルブリフト量を連続的に変更する可変動弁機構101が設けられている。
また、前記吸気駆動軸53の一端部には、クランクシャフトに対する前記吸気駆動軸53の回転位相を変化させることにより、吸気バルブ52の作動角の中心位相を連続的に変更する位相変更機構201が配設されており、駆動軸センサ202で検出される駆動軸3の回転位相に基づいて、回転位相を目標値に制御する。
【0018】
これら可変動弁機構101と位相変更機構201とで、バルブタイミングとリフト量(作動角)とを同時かつ独立して可変な可変動弁機構が構成される。
前記可変動弁機構101は、図2及び図3に示すように、吸気駆動軸53に偏心して固定的に設けられる円形の駆動カム61と、この駆動カム61に相対回転可能に外嵌するリング状リンク62と、吸気駆動軸3と略平行に気筒列方向へ延びる制御軸63と、この制御軸63に偏心して固定的に設けられた円形の制御カム64と、この制御カム64に相対回転可能に外嵌すると共に、一端がリング状リンク62の先端に連結されたロッカアーム65と、このロッカアーム65の他端と揺動カム64とに連結されたロッド状リンク66と、を有している。
【0019】
制御軸63は、電動アクチュエータ67(モータ)によりギヤ列68を介して所定の制御範囲内で回転駆動される。
上記の構成により、クランクシャフトに連動して吸気駆動軸3が回転すると、駆動カム61を介してリング状リンク62がほぼ並進移動するとともに、ロッカアーム65が制御カム64の軸心周りに揺動し、ロッド状リンク66を介して揺動カム54が揺動して吸気バルブ52が開閉駆動される。
【0020】
また、制御軸63の回転角度を電動アクチュエータ67によって変化させることにより、ロッカアーム65の揺動中心となる制御カム64の軸心位置が変化して揺動カム54の姿勢が変化する。
これにより、吸気バルブ52の作動角の中心位相が略一定のままで、吸気バルブ52の作動角及びバルブリフト量が連続的に変化する。
【0021】
図4〜図11は、上記回転角センサ102の構成および作用を示す。
回転角センサの外郭をなすケーシング1は、図4、図5に示すように、樹脂材料等により有底の略筒状体として一体に形成され、略筒状の周壁部1Aと、該周壁部1Aの底面をなす底面部1Bと、周壁部1Aの内周側に位置して該底面部1Bに突設され、後述する信号ヨーク10,11の磁極片部10A,11Aを保持するヨーク保持部1Cと、底面部1Bの外縁側から周壁部1Aと軸方向の反対側に向けて延びる裾筒部1Dと、底面部1Bの中央側に突設された筒状の軸受保持部1Eとによって大略構成されている。
【0022】
ここで、周壁部1Aの内周側には、マグネット9、信号ヨーク10,11、ホール素子12、整流ヨーク16,17、磁性連結板18等を収容する凹状空間2が設けられ、該凹状空間2は板状の蓋体3により閉塞されている。また、周壁部1Aの外周側には、前記制御装置103に接続されるコネクタ4と、外部の取付部位に取付けられる取付フランジ5とが設けられている。コネクタ4の内部には、凹状空間2の内,外にわたって延びる複数本のピン端子4A(1本のみ図示)が設けられている。
【0023】
ケーシング1内に回転可能に設けられた回転軸6は、軸受7を用いて軸受保持部1E内に取付けられ、底面部1Bを貫通して延びると共に、図5中の軸線O−O(軸心O)を中心として回転する。回転軸6の一端側は凹状空間2の外部に突出し、この突出端側にはレバー14が取付けられている。また、回転軸6の他端側は凹状空間2内に突出し、この突出端側には略円板状の回転板8が一体に形成されている。
【0024】
前記マグネット9は、ケーシング1内に位置して回転板8上に固着され、矩形状または小判状の板状体からなり、回転軸6の軸線O−Oに対して径方向の両側に延びると共に、軸方向に所定の厚さをもって形成されている。また、マグネット9は、径方向の両端側が軸心Oを中心として円弧状に延びる円弧面部9A,9Bを備え、例えば一方の円弧面部9AがN極となり、他方の円弧面部9BがS極となっている。
【0025】
前記信号ヨーク10,11は、磁性金属材料等により形成され、ケーシング1の凹状空間2内に位置してマグネット9を直径方向の両側から取囲むように配設され、ホール素子12と協働してマグネット9の回転角を検出する。
ここで、信号ヨーク10は、図6、図7に示す如く、回転軸6の軸心Oを中心として周方向に延びると共に所定の角度(例えば、約90°程度)にわたって円弧状に形成された磁極片部10Aと、該磁極片部10Aから径方向内向きに屈曲して形成され、マグネット9の上側を覆う位置まで延びるオーバーハング部10Bとより構成されている。また、信号ヨーク11も同様に、円弧状の磁極片部11Aと、オーバーハング部11Bとにより構成されている。
【0026】
この場合、磁極片部10A,11Aは、図6中の軸心Oを中心とする円周Cに沿って配置され、その直径方向に離間すると共に、軸方向に所定の寸法をもって延びている。そして、磁極片部10A,11Aは、一方の磁極片部10Aがマグネット9の円弧面部9Aと径方向の隙間をもって対向し、他方の磁極片部11Aが円弧面部9Bと径方向の隙間をもって対向すると共に、これら2箇所の対向面積はマグネット9の回転角θに対して比例的に変化する構成となっている。
【0027】
また、オーバーハング部10B,11Bは、図5に示す如く、軸方向の隙間をもって互いに重なり合うように配置され、これらの間にはホール素子12が配置されている。これにより、マグネット9のN極とS極との間には、図8、図9に示す如く、信号ヨーク10,11とホール素子12と介した検出用の閉磁路(以下、検出用磁路Hkという)が形成されている。
【0028】
前記ホール素子12は、図4、図5に示す如く、ケーシング1内に設けられた基板13上に搭載され、マグネット9と信号ヨーク10,11との対向面積に応じて検出用磁路Hk中の磁束密度が変化するときに、この磁束密度を検出してコネクタ4から制御装置103に検出信号を出力する。
前記レバーは、回転軸6から径方向に突出し、その突出端側は、前記可変動弁機構101の制御軸63側のレバー(図示せず)と係合されている。また、レバー14には、マグネット9を初期位置(回転角θが零となる位置)に向けて付勢する戻しばね15が取付けられている。
【0029】
そして、前記可変動弁機構101の駆動によって制御軸63が回転するときは、その動作がレバー14を介して回転軸6に伝達され、回転軸6が戻しばね15に抗してマグネット9と一緒に回転することにより、マグネット9と信号ヨーク10,11との間で対向面積(磁束密度)が変化し、この磁束密度の変化はホール素子12により制御軸63の回転角(吸気バルブの作動角)として検出される。
【0030】
磁性金属材料等により形成された一対の整流ヨーク16,17は、マグネット9のうち信号ヨーク10,11と対向していない部位から発生する磁束(漏れ磁束)を吸収することにより、信号ヨーク10,11を通過する磁束を整流するものである。
前記整流ヨーク16,17は、図6、図7に示す如く、ケーシング1内に位置して信号ヨーク10,11の間に配設され、マグネット9を直径方向の両側から取囲むように配置されると共に、磁性連結板18を介してケーシング1内に取付けられている。
【0031】
また、整流ヨーク16は、回転軸6の軸心Oを中心として例えば70〜90°程度の角度(中心角)にわたって円弧状に形成された磁極片部16Aと、該磁極片部16Aの外周側から突出し、磁性連結板18と連結される略L字状の連結部16Bとにより構成されている。また、整流ヨーク17も同様に、円弧状の磁極片部17Aと、連結部17Bとにより構成されている。
【0032】
そして、磁極片部16A,17Aは、図6中の円周C上で信号ヨーク10,11(磁極片部10A,11A)間の隙間を埋める位置に配設され、この位置で円周Cに沿って周方向に延びると共に、軸方向に所定の寸法を有している。これにより、4個の磁極片部10A,11A,16A,17Aは略円筒状に並んで配置され、マグネット9を全周にわたって取囲んでいる。
【0033】
また、磁極片部16A,17Aは、マグネット9が回転するときに、一方の磁極片部16Aがマグネット9の円弧面部9Aと径方向の隙間をもって対向し、他方の磁極片部17Aが円弧面部9Bと径方向の隙間をもって対向すると共に、これら2箇所の対向面積はマグネット9の回転角θに対して比例的に変化する。
ケーシング1の凹状空間2内に設けられた連結部材としての磁性連結板18は、円弧状またはC字状に湾曲した磁性金属板等からなり、樹脂成形等の手段によってケーシング1内に固着されると共に、信号ヨーク11、整流ヨーク16,17等の外周側に沿って周方向に延びている。また、磁性連結板18の両端側には、整流ヨーク16,17の連結部16B,17Bが固着、連結されている。
【0034】
これにより、マグネット9のN極とS極との間には、図8、図9に示す如く、整流ヨーク16,17と磁性連結板18とを介した整流用の閉磁路(以下、整流用磁路Hsという)が形成され、この整流用磁路Hsは、マグネット9に対して検出用磁路Hkと並列に配置されている。
そして、マグネット9から発生する磁束は、信号ヨーク10,11との対向部位で発生する磁束が検出用磁路Hkを通過し、信号ヨーク10,11と対向していない部位で発生する磁束が整流用磁路Hsを通過するようになる。従って、整流ヨーク16,17は、磁性連結板18と協働してマグネット9の磁界を整流し、検出用磁路Hkを通過する磁束の量がマグネット9と信号ヨーク10,11との対向面積に比例して変化するように設定するものである。
【0035】
ここで、検出用磁路Hkおよび整流用磁路Hsを通過する磁束と、マグネット9の回転角θとの関係について述べる。
まず、検出用磁路Hkは、図8、図9に示す如く、マグネット9の円弧面部9A(N極)と信号ヨーク10の磁極片部10Aとの間の磁気抵抗R1と、マグネット9の円弧面部9B(S極)と信号ヨーク11の磁極片部11Aとの間の磁気抵抗R2と、ホール素子12の位置におけるオーバーハング部10B,11B間の磁気抵抗Rhとが直列に接続された磁気回路とみなすことができる。
【0036】
そして、信号ヨーク10側の磁気抵抗R1は、円弧面部9Aと磁極片部10Aとの対向面積Aと、これらの間に位置するエアギャップの寸法Gとを用いて、次式(1)で表される。
R1=G/A・・・(1)
また、対向面積Aは、マグネット9の円弧面部9A,9Bの外径をD、マグネット9の軸方向の厚さをt、円弧面部9Aと磁極片部10Aとが軸心Oを中心として対向する角度(中心角)を対向角度θ’とすると、次式(2)で表される。
【0037】
A=π・D・t・θ’/360・・・(2)
この場合、例えばマグネット9の円弧面部9A,9Bと信号ヨーク10,11との対向角度θ’が零となるマグネット9の回転角(例えば、図8中に仮想線で示す位置)をマグネット9の初期位置とすれば、対向角度θ’はマグネット9の回転角θに等しいので、θに置換えて前記式(2)を式(1)に代入すると、次式(3)が得られる。
【0038】
R1=(360・G)/(π・D・t・θ)・・・(3)
また、信号ヨーク10,11は、マグネット9の直径方向両側に配置されているため、信号ヨーク11側の磁気抵抗R2は磁気抵抗R1と等しくなり(R2=R1)、磁気抵抗Rhは回転角θに対して一定値であるから、検出用磁路Hk全体の磁気抵抗Rkは、次式(4)で表される。
【0039】
Rk=R1+R2+Rh
=2・R1+Rh
=720・G/(π・D・t・θ)+Rh・・・(4)
これにより、磁気抵抗Rkの逆数である検出用磁路Hk全体のパーミアンス(1/Rk)は、(4)式から判るように、マグネット9の回転角θに対して1次関数に近い状態で変化し、例えば図10中に実線で示す特性線19のように、回転角θに対してほぼ直線状に変化する。従って、検出用磁路Hkを通過する磁束は、回転角θの変化に伴ってほぼ比例的に増減することが判る。
【0040】
一方、整流用磁路Hsの磁束について述べると、この整流用磁路Hsは、マグネット9の円弧面部9Aと整流ヨーク16の磁極片部16Aとの間の磁気抵抗R3と、マグネット9の円弧面部9Bと整流ヨーク17の磁極片部17Aとの間の磁気抵抗R4とが直列に接続された磁気回路とみなすことができる。
そして、整流ヨーク16側の磁気抵抗R3は、前記式(3)の場合とほぼ同様に、マグネット9の外径Dおよび厚さt、エアギャップの寸法G、円弧面部9Aと磁極片部16Aとの対向角度θ”を用いて、次式(5)で表される。
【0041】
R3=360・G/((π・D・t・θ”) ・・・(5)
ここで、整流ヨーク16の中心角をαとすれば、対向角度θ”は、図8から判るように、この中心角αとマグネット9の回転角θとを用いて、次式(6)で表される。
θ”=α−θ・・・(6)
また、整流ヨーク17側の磁気抵抗R4は、磁気抵抗R3と等しくなるから(R4=R3)、整流用磁路Hs全体の磁気抵抗Rsは次式(7)で表される。
【0042】
Rs=R3+R4
=2・R3
=720・G/{π・D・t・(α−θ)}・・・(7)
これにより、整流用磁路Hs全体のパーミアンス(1/Rs)は、前記式(7)から求めると、図10中に点線で示すように、例えばマグネット9の回転角θ=αとなる位置で折曲がった山形状の特性線20となる。従って、整流用磁路Hsを通過する磁束は、回転角θの変化に伴って山形状に増減することが判る。
【0043】
ここで、例えば信号ヨーク10,11の間に整流ヨーク16,17を配置していない場合には、信号ヨーク10,11の間でマグネット9から発生する漏れ磁束が浮遊状態となって検出用磁路Hkに侵入し易くなり、この侵入現象は、前述した検出用磁路Hkのパーミアンス(1/Rk)に対して、整流用磁路Hsのパーミアンス(1/Rs)が加わった状態に相当する。
【0044】
この結果、整流ヨーク16,17を配置していない場合には、検出用磁路のパーミアンスが、例えば図10中に示す2つの特性線19,20を加算した非線形な特性となるため、このパーミアンス特性に応じて回転角センサから出力される検出信号は、例えば図11中に仮想線で示す特性線100のように、マグネットの回転角に対してS字状に大きく歪んだ非線形な出力特性となり易い。
【0045】
これに対し、本実施形態の回転角センサでは、整流ヨーク16,17と磁性連結板18とによって漏れ磁束を整流用磁路Hsに吸収できるため、漏れ磁束による整流用磁路Hs側のパーミアンス特性(特性線20)と、マグネット9の回転角θに対してリニアな特性をもつ検出用磁路Hk側のパーミアンス特性(特性線19)とを分離することができ、検出用磁路Hkのパーミアンス特性が漏れ磁束によって歪むのを防止することができる。
【0046】
これにより、回転角センサから検出用磁路Hkのパーミアンス特性に応じて検出信号が出力されるときには、例えば図8中に実線で示す特性線21のように、検出信号をマグネット9の回転角θに応じてほぼ比例的に変化させることができ、特性線21の歪み、誤差等を小さく抑制できると共に、検出信号に対してほぼリニアに近い出力特性を与えることができる。
【0047】
かかる回転角センサにおいては、製造バラツキや劣化に起因して回転角とセンサ出力の変換特性(ゲイン)が設計値に対し変化してしまい、真の回転角度を検出できなくなるという問題がある。特に、上記実施形態のようなホール素子等を用いた磁電変換効果を用いた非接触型の回転角センサは、ポテンショメータ式等の接触型の回転角センサに比較して、耐久性に優れるものの、マグネットのバラツキ、劣化により、その変化量が接触型の回転角センサより大きくなるから、変換特性を良好に学習する必要がある。
【0048】
また、図1で説明したように、低回転角度域では回転角センサ102からの信号を増幅器106で増幅した信号値を用いて検出する方式では、既述した特許文献1による学習では、増幅器のバラツキは学習できるが低回転域での変換特性の学習を行うことができないという問題がある。
そこで、本実施形態では、前記制御装置において前記CPU108によって、以下のような変換特性の学習を行う。
【0049】
図12は、同上実施形態の学習のフローを示す。
ステップS1では、前記第1A/D変換器104からの信号値、つまり回転角センサ102からの信号を増幅することなくA/D変換した値に基づいて、回転角検出値を変換する第1変換特性の学習が終了したかを判定する。
上記第1変換特性の学習が終了していないと判定されたときは、ステップS2へ進んで、該第1変換特性の学習を実行する。
【0050】
前記第1変換特性の学習は、以下のように行う。
図13を参照して、前記制御軸63の2つの基準回転角での最小回転角θ1と最大回転角θ2における第1A/D変換器104でのA/D変換された信号値V1、V2に基づいて、回転角変化量Δθに対する信号値変化量ΔVのゲインdv/dθを次式(8)のように算出する。
【0051】
dv/dθ=ΔV/Δθ
=(V2−V1)/(θ2−θ1)・・・(8)
ここで、最小回転角θ1は、吸気バルブの作動角およびリフト量の最小値における制御軸63および回転軸6の回転角に相当し、最大回転角θ2は、吸気バルブの作動角およびリフト量の最大値における制御軸63および回転軸6の回転角に相当し、いずれも可変動弁機構101に設けられた図示しないストッパに規制されて機械的に固定される。
【0052】
なお、該学習により最小回転角θ1(および最大回転角θ2)における信号値(A/D変換値)V1(V2)が同時に学習され、任意の信号値Vに対して、回転角検出値θが次式(9)により求められる。
(V−V1)/(θ−θ1)=dv/dθ
→θ=θ1+(V−V1)/(dv/dθ)・・・(9)
このようにして、前記第1変換特性の学習が終了すると、ステップS1の判定がYESとなってステップS3以降へ進み、前記第2A/D変換器107からの信号値、つまり回転角センサ102からの信号を所定倍増幅した後A/D変換した値に基づいて、回転角検出値を変換する第2変換特性の学習を行う。
【0053】
まず、ステップS3では、上記第2変換特性による回転角検出値が選択される回転角領域において、異なる2つの回転角に対し、増幅しない信号値および所定倍増幅された信号値による計測を行ったかを判定し、計測前のときは、ステップS4へ進んで、該2つの回転角における計測を増幅しない信号値および所定倍増幅された信号値による計測を行う。
なお、前記回転角領域の判別は、例えば、第1A/D変換器104(または第2A/D変換器107)で変換された信号値を、領域切換点に相当するしきい値と比較して判別すればよい。
【0054】
ここで、前記領域切換点(しきい値)は、図13に示すように、第2A/D変換器107による回転角検出値が最大出力値(飽和点)となる回転角よりも小さい予め決められた回転角を、該第2A/D変換器107による回転角検出値を選択する上限(領域切換点)として設定するか、または、図14に示すように第2A/D変換器107による回転角検出値が最大出力値(飽和点)となる回転角を、該第2A/D変換器107による回転角検出値を選択する上限(領域切換点)として設定する。また、異なる2つの回転角は、任意であるが、精度上は、第2変換特性による回転角検出値が選択される回転角領域の範囲内で、できるだけ離れた点を設定するのが好ましい。
【0055】
このようにすれば、第2A/D変換器107によって検出可能な最大出力値ないしこれに近い値まで、増幅された回転角信号検出値を用いることにより、低回転角領域での制御および学習精度が向上する。
前記計測を終了すると、ステップS3の判定がYESとなってステップS5へ進み、前記ステップS4での計測結果に基づいて、以下のように第2変換特性の学習を行う。
【0056】
前記2つの回転角の小さい方をθmin、大きい方をθmaxとし、第1A/D変換器104でA/D変換された信号値をVmin、Vmax、所定倍(n倍)増幅された後の第2A/D変換器107でA/D変換された信号値をVnmin、Vnmax、とすると、
第2変換特性における回転角変化量Δθに対する信号値変化量ΔVのゲインdvn/dθnは、次式(10)で表される。
【0057】
dvn/dθn=(Vnmax−Vnmin)/(θmax−θmin)・・・(10)
ここで、前記(θmax−θmin)は、前記第1変換特性の学習されたゲインdv/dθと、信号値Vmin、Vmaxを用いて、次式(11)で算出される
θmax−θmin=dv/dθ・(Vmax−Vmin)・・・(11)
したがって、(11)式で算出された(θmax−θmin)を、前記(10)式に代入して、第2変換特性におけるゲインdvn/dθnが学習される。
【0058】
このようにして学習されたゲインdvn/dθnを用いて、第2変換特性による回転角検出値θが次式(12)のように算出される。
(Vn−Vnmin)/(θ−θmin)=dnv/dnθ
→θ=θmin+(Vn−Vnmin)/(dnv/dnθ)・・・(12)
あるいは、次式(13)のように算出してもよい。
(Vnmax−Vn)/(θmax−θ)=dnv/dnθ
→θ=θmax−(Vnmax−Vn)/(dnv/dnθ)・・・(13)
さらに、上記とは別に設定したもしくはθminとして選択した前記最小回転角θ1での第2A/D変喚器によるA/D変換値Vn1を用いて、次式(14)のように算出してもよい。
【0059】
θ=θmin+(Vn−Vn1)/(dnv/dnθ)・・・(14)
上記のように、第1変換特性、第2変換特性を定期的に順次学習しつつ、回転角領域毎に第1変換特性、第2変換特性のいずれかを選択して、回転角が検出される。
このようにすれば、第1変換特性の学習後に、増幅された信号値を用いる第2変換特性の学習を、増幅器の増幅特性のバラツキとセンサ出力特性のバラツキとを合わせて正確に学習することができ、全回転角領域にわたって高い回転角検出精度を維持することができる。
【0060】
また、学習された第1変換特性を用いて第2変換特性の学習を行うので、特性の切換点での回転角検出値の連続性も維持できる。
なお、本発明は、上記実施形態のように、磁電変換方式の回転角センサを用いた装置において、センサのマグネットのバラツキ劣化により信号値/回転角変換特性が変化しやすいので、特に、学習の効果が大きいが、ポテンショメータ等の接触型の回転角センサを用いた装置にも適用できることは勿論である。
【0061】
また、回転角として実施形態のような吸気バルブ(または排気バルブ)の作動角に対応する制御軸回転角を検出するものの他、スロットル開度等を検出するなど、所定の回転角範囲で回転するものであれば、どのようなものでも適用できる。
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜3のいずれか1つに記載の回転角検出装置において、
磁力を電力に変換して回転角を検出する非接触型のセンサ部からの信号を入力することを特徴とする。
【0062】
かかる構成によると、上記磁電変換方式のセンサは、マグネットのバラツキ劣化により信号値/回転角変換特性が変化しやすいので、特に、本発明による学習の効果が大きい。
(ロ)請求項1〜3、上記(イ)のいずれか1つに記載の回転角検出装置において、
前記変換特性の学習は、回転角変化量に対する信号値変化量のゲインを学習した後、該ゲインと2点の信号値とに基づいて、信号値を回転角検出値に変換する変換式を学習することを特徴とする。
【0063】
かかる構成によると、該変換式の学習によって、最終的に高精度な回転角検出値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施形態のシステム概要を示す図
【図2】実施形態における可変動弁機構を示す斜視図。
【図3】図2に示す可変動弁機構の断面図。
【図4】同上実施形態における回動角センサを一部破断して示す正面図。
【図5】図4中の矢示II−II方向からみた回動角センサの縦断面図。
【図6】マグネット、信号ヨーク、整流ヨーク等を図5中の矢示III−III方向からみた部分拡大断面図。
【図7】信号ヨーク、整流ヨークおよび磁性連結板を示す斜視図。
【図8】マグネット、信号ヨーク、整流ヨーク、ホール素子等の配置関係を示す模式的構成図である。
【図9】回動角センサの検出用磁路と整流用磁路とを等価的な磁気回路として示す回路図である。
【図10】マグネットの回動角と検出用磁路、整流用磁路のパーミアンスとの関係を示す特性線図である。
【図11】マグネットの回動角とセンサの検出信号との関係を示す特性線図である。
【図12】実施形態における学習制御のフローチャート。
【図13】同上学習制御の方式を説明するための線図。
【図14】同上学習制御の方式の別の設定例を説明するための線図。
【符号の説明】
【0065】
2…吸気バルブ、3…吸気駆動軸、4…揺動カム、63…制御軸、64…制御カム、65…ロッカアーム、66…ロッド状リンク、67…電動アクチュエータ、68…ギヤ列、100…エンジン、101…可変動弁機構、102…角度センサ、103…制御装置、104…第1A/D変喚器、105…CPU、106…増幅回路、107…第2A/D変喚器、108…アクチュエータ駆動回路、201…位相変更機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の回転角に応じてセンサ部から出力された回転角信号をそのままの信号値に基づいて回転角検出値に変換する第1変換部と、前記回転角信号を所定倍増幅した信号値に基づいて回転角検出値に変換する第2変換部と、を備え、回転角領域に応じて、前記第1変換部と第2変換部とによる回転角検出値のいずれかを選択する回転角検出装置であって、
少なくとも2つの基準回転角での回転角検出信号を前記第1変換部で変換した回転角検出値と、予め設定されている基準回転角相当値とに基づいて、前記第1変換部における変換特性を学習する第1の学習を行うと共に、
前記第2変換部の回転角検出値が選択される回転角領域での少なくとも2つの任意の回転角での、前記第1の学習を行った第1変換部による回転角検出値と、前記所定倍増幅した信号値とに基づいて、第2変換部における変換特性を学習する第2の学習を行うことを特徴とする回転角検出装置。
【請求項2】
前記基準回転角は、前記回転体が機械的に固定される最小回転角および最大回転角であることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記第2の学習は、2つの回転角の第1変換部による回転角検出値θmax、θminおよび所定倍増幅した信号値Vnmax、Vnminに基づいて、次式により算出される所定倍増幅された信号値Vnの第2変換部による回転角検出値θnに対するゲインdVn/dθnの学習を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回転角検出装置。
dVn/dθn=(Vnmax−Vnmin)/(θmax−θmin
【請求項4】
前記第2変換部の回転角検出値が最大出力値(飽和点)となる回転角よりも小さい予め決められた回転角を、前記第2変換部の回転角検出値が選択される回転領域の上限として設定されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の回転角検出装置。
【請求項5】
前記第2変換部の回転角検出値が最大出力値(飽和点)となる回転角を、前記第2変換部の回転角検出値が選択される回転領域の上限として設定されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の回転角検出装置。
【請求項6】
当該回転角検出装置が、機関弁の少なくとも作動角およびリフト量を変更する可変動弁機構における制御軸の作動角に対応する回転角を検出する装置であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の回転角検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−322800(P2006−322800A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145913(P2005−145913)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】