説明

回転軸支持装置およびその回転軸の製造方法

【課題】ボールねじ軸等の回転軸の製造工程を簡素化すると共に、回転軸支持装置に用いる転がり軸受の適正化を図る手段を提供する。
【解決手段】回転軸支持装置11aが、内周面に外輪軌道15bを形成した外輪15aと、支持部16aの外周面に内輪軌道15cを形成したボールねじ軸3と、外輪軌道15bと内輪軌道15cとの間に配設された複数の玉15dと備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置のボールねじ軸や遊星ローラねじ装置の中央ねじ軸等の回転軸を回転自在に支持する回転軸支持装置およびその回転軸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のボールねじ装置のボールねじ軸を回転支持する回転軸支持装置は、ボールねじ軸の軸端部に形成された支持部に、2つのアンギュラ玉軸受を背面組合せにした転がり軸受の内輪の内周面を嵌合させ、支持部の先端部に設けたねじ部に螺合するロックナットにより支持部の段部との間に内輪を締結して固定している(例えば、特許文献1参照。)。
また、ボールねじ装置のボールねじ軸を回転支持する回転軸支持装置において、ボールねじ軸の軸端部に形成された支持部に、2つの玉軸受で形成された転がり軸受の内輪の内周面を嵌合させ、これらの内輪を支持部の先端部の円周方向に設けた係止溝に嵌合するC型輪止め等により支持部の段部との間に係止すると共に、支持部の半径方向の内側にボールねじ軸の軸芯を中心としたセレーション穴を形成し、このセレーション穴に出力軸のセレーション部を嵌合させて駆動力を伝達しているものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2004−84886号公報(第4頁段落0012−第5頁段落0013、第1図)
【特許文献2】特開2002−98211号公報(第4頁段落0021−0022、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の特許文献1の技術においては、2つのアンギュラ玉軸受の内輪を支持部の先端部に設けたねじ部に螺合するロックナットにより支持部の段部との間に内輪を締結して固定しているため、ロックナットの締結時の引張り力によりねじ部の谷径部に応力集中が生じ、ねじ部が疲労により破損する虞がある。
このため、ボールねじ軸の軸軌道溝の表面硬度を高めるための浸炭焼入または高周波焼入等の表面焼入処理を施すときに、焼入前の防炭材の施工および焼入後の防炭材の除去による防炭処理、または焼入後の焼きなまし処理によりねじ部を形成する領域の硬度を所定の硬さに調整する必要があり、ボールねじ軸の製造工程における作業時間や工数が増大してボールねじ軸の製造コストが増加するという問題がある。
【0004】
また、支持部の軸方向外側に駆動軸とのカップリングを取付けるための取付部を設けると、取付部の外径がロックナットの締結用のねじ部の谷径部の直径より更に小さくなるので、捻り強度が更に不足するという問題がある。
特許文献2の技術においては、内輪を嵌合させる支持部の半径方向の内側にボールねじ軸の軸芯を中心としたセレーション穴を形成し、このセレーション穴に出力軸のセレーション部を嵌合させて駆動トルクを伝達しているため、セレーション穴の穴径は伝達トルクによって決定され、その半径方向の外側に形成される支持部の外径もセレーション穴の穴径を基に軸強度等を考慮して決定され、この支持部に嵌合する転がり軸受の内輪の内径は、支持部の外径に一致させる必要があるために、転がり軸受の選定の余地がなくなり、不必要な負荷容量を有する転がり軸受を用いなければならない場合には、転がり軸受が大型化して回転軸支持装置が大型化するという問題がある。
【0005】
このことは、上記した捻り強度が不足する場合のボールねじ装置のボールねじ軸の支持部に設ける転がり軸受においても同様である。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ボールねじ軸等の回転軸の製造工程を簡素化すると共に、回転軸支持装置に用いる転がり軸受の適正化を図る手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、回転軸支持装置が、内周面に外輪転動体ガイド面を形成した外輪と、支持部の外周面に内輪転動体ガイド面を形成した回転軸と、前記外輪転動体ガイド面と内輪転動体ガイド面との間に配設された複数の軸受転動体と備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように、本発明は、支持部の外周面に転がり軸受の内輪転動体ガイド面を形成するので、転がり軸受の内輪を固定するためのロックナットやこれを螺合させるねじ部が不要になり、回転軸の表面硬度を高めるための表面焼入処理を施すときの防炭処理や焼きなまし処理を省略することができ、回転軸の製造工程を簡素化することができると共に、支持部への内輪の嵌合が不要であるので、支持部の強度を確保しながら適正な負荷容量を有する転がり軸受を用いることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、図面を参照して本発明による回転軸支持装置およびその回転軸の製造方法の実施例について説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は実施例1の回転軸支持装置のボールねじ装置への適用例の断面を示す説明図、図2は図1のA方向矢視図である。
なお、図1に示すは回転軸支持装置は、図2のB−O−B断面線に沿った断面で示してある。
図1において、1はボールねじ装置であり、外周面に円弧状断面形状の軸軌道溝2が所定のリードで螺旋状に形成された回転軸としてのボールねじ軸3と、円筒状部材の内周面に軸軌道溝2と対向する円弧状断面形状のナット軌道溝4が軸軌道溝2と同じリードで形成されたボールナット5とを、ボールねじ軸3の軸軌道溝2とこれに対向するボールナット5のナット軌道溝4とにより形成される負荷路を転動する鋼球等のボール6により螺合させて形成される。
【0010】
また、負荷路の両端部はリターンチューブ8により連通されて循環路が形成され、この循環路には、複数のボール6と所定の量の潤滑剤、例えばグリースが封入され、ボールねじ軸3の回転に伴ってボール6が循環路を循環し、負荷路を転動するボール6がボールナット5に加えられた荷重を往復動自在に支持してボールナット5がボールねじ軸3の軸方向に沿った直線往復移動可能に支持される。これによりボールねじ軸3の回転運動がボールナット5の直線運動に変換され、ボールねじ装置1が直動装置として機能する。
【0011】
9はフランジ部であり、ボールナット5の外周部の一方の端部に設けられ、このフランジ部9によりボールナット5が図示しない機械装置の移動台にボルト等で固定される。
本実施例のボールねじ軸3の軸軌道溝2の表面、およびボールナット5のナット軌道溝6の表面には、高周波焼入や浸炭焼入等の表面焼入処理により比較的高い硬度(ロックウェル硬度のCスケールで50(HrC50と記す。)以上)の表面硬度を有する表面硬化層が形成されている。
【0012】
11は回転軸支持装置である。本実施例の回転軸支持装置11は基台12に立設されたハウジング13、14にそれぞれ形成されており、ボールねじ軸3の両方の軸端部にそれぞれ配置されている。
ボールねじ軸3の一方の軸端部(図1の例では右側)に配置された回転軸支持装置11aは、軸方向荷重と半径方向荷重とを同時に回転支持する機能を有しており、本実施例では転がり軸受としてのアンギュラ玉軸受15を2つ正面組合せで配置して形成される。
【0013】
正面組合せに配置されたアンギュラ玉軸受15は、それぞれ外輪15aの内周面に形成された円弧状断面形状の球状凹面である外輪転動体ガイド面としての外輪軌道15bと、ボールねじ軸3の一方の軸端部に形成された支持部16aの外周面に形成された円弧状断面形状の球状凹面である内輪転動体ガイド面としての内輪軌道15cとの間に所定のピッチで転動自在に配設された複数の軸受転動体としての玉15dとを備えており、外輪15aはハウジング13の軸受嵌合穴13aに嵌合し、ハウジング13に取付ボルト17により締結された蓋体18により軸方向に押圧されて固定される。
【0014】
なお、アンギュラ玉軸受15に、玉15dを等角度ピッチで保持する保持器を具備するようにしてもよい。
これにより、正面組合せのアンギュラ玉軸受15に予圧を付与され、玉15dが外輪軌道15bと内輪軌道15cとの間に所定の接触角で挟持され、ボールねじ軸3がその軸方向荷重と半径方向荷重とを支持されながら回転自在に支持される。
【0015】
19はオイルシールであり、正面組合せのアンギュラ玉軸受15の両側に配置され、そのリップ部は、支持部16aの外周面に摺接し、回転軸支持装置11aの内部からの潤滑剤の漏洩を防止すると共に、外部からの異物の侵入を防止する。
ボールねじ軸3の他方の軸端部(図1の例では左側)に配置された回転軸支持装置11bは、主に半径方向荷重を回転支持する機能を有しており、本実施例では転がり軸受としての深溝型の玉軸受21で形成される。
【0016】
玉軸受21は、外輪21aの内周面に形成された円弧状断面形状の球状凹面である外輪転動体ガイド面としての外輪軌道溝21bと、ボールねじ軸3の他方の軸端部に形成された支持部16bの外周面に形成された円弧状断面形状の球状凹面である内輪転動体ガイド面としての内輪軌道溝21cとの間に、所定の角度ピッチで図示しない保持器に転動自在に保持された複数の軸受転動体としての玉21dとを備えており、外輪21aはハウジング14の軸受嵌合穴14aに嵌合して取付けられており、外輪軌道溝21bと内輪軌道溝21cとの間を転動する玉15dによりボールねじ軸3がその半径方向荷重を支持されながら回転自在に支持される。
【0017】
23は取付部であり、支持部16a、16bに配置された回転軸支持装置11a、11bにより回転支持されたボールねじ軸3を回転させるための図示しないモータ等の駆動装置からの駆動軸と連結するためのカップリングを取付けるために、ボールねじ軸3の支持部16aの軸方向の外側に同軸に設けられた円柱状の部位である。
上記のボールねじ軸3は以下のようにして製造される。
【0018】
すなわち、合金鋼等の鋼材で製造された円柱形状の丸棒材、または円筒形状のパイプ材の外周面を軸軌道溝2の仕上げ代、並びに内輪軌道15cおよび内輪軌道溝21cの仕上げ代を残して加工した軸素材を形成し、その軸素材の表面を、浸炭焼入や高周波焼入等の表面焼入処理により硬化させて表面硬度がHrC50以上の表面硬化層を形成し、軸軌道溝2、並びに内輪軌道15cおよび内輪軌道溝21cを切削加工または研削加工により仕上げてボールねじ軸3を形成する。
【0019】
このように、本実施例の内輪軌道15cおよび内輪軌道溝21cをボールねじ軸3に一体に形成する製造工程においては、表面焼入処理後の防炭材の除去または焼きなまし処理を省略することができる他、ボールねじ軸3の軸軌道溝2、並びに内輪軌道15cおよび内輪軌道溝21cをワンチャックで仕上げることが可能になり、内輪を嵌合させる場合に較べて軸軌道溝2に対する内輪軌道15cおよび内輪軌道溝21cの同軸度の精度を向上させることができる。
【0020】
上記のように、本実施例の転がり軸受の内輪転動体ガイド面としてのアンギュラ玉軸受15の内輪軌道15cや玉軸受21の内輪軌道溝21cは、ボールねじ軸3の支持部16a、16bにそれぞれ一体に形成されているので、アンギュラ玉軸受15の内輪を固定するためのロックナットやこれを螺合させるねじ部が不要になり、ボールねじ軸3の軸軌道溝2の表面硬度を高めるための表面焼入処理を施すときの防炭処理や焼きなまし処理を省略することができ、ボールねじ軸3の製造工程における作業時間や工数を低減してその製造コストを削減することができる他、応力集中を生じさせるロックナット締結のためのねじ部がないので、ボールねじ軸3の疲労による破損を防止することができると共にボールねじ軸3の全長を短縮することができる。
【0021】
また、ロックナットが不要であるので、部品点数を削減してボールねじ装置1の信頼性を向上させることができると共に、ボールねじ装置1の製造コストと削減を図ることが可能になる。
更に、ロックナット締結のためのねじ部を形成する必要がないので、支持部16a、16bの外周面をそのまま取付部23の外周面とする、つまり支持部16a、16bに取付部23の機能を兼ねさせることが可能になり、十分な捻り強度を容易に確保することができる他、内輪の内周面が嵌合する支持部16a、16bの強度を確保するために、不必要な負荷容量の転がり軸受を用いていた場合には、支持部16a、16bの外周面に内輪転動体ガイド面を形成することができるので、支持部16a、16bの強度を確保しながら適正な負荷容量を有する転がり軸受を用いることができ、回転軸支持装置11の小型化を図ることが可能になる。
【0022】
なお、回転軸支持装置11bは、ボールねじ軸3を軸方向に拘束する必要がないので、ロックナットが不要であり、このためのねじ部を形成する必要がないため、通常の内輪を有する玉軸受を後付けして用いるようにしてもよい。
以上説明したように、本実施例では、ボールねじ装置のボールねじ軸の回転軸支持装置の内輪軌道や内輪軌道溝を、ボールねじ軸の支持部の外周面に形成するようにしたことによって、転がり軸受の内輪を固定するためのロックナットやこれを螺合させるねじ部が不要になり、ボールねじ軸の軸軌道溝の表面硬度を高めるための表面焼入処理を施すときの防炭処理や焼きなまし処理を省略することができ、ボールねじ軸の製造工程を簡素化することができると共に、支持部への内輪の嵌合が不要であるので、支持部の強度を確保しながら適正な負荷容量を有する転がり軸受を用いることができる。
【0023】
また、ボールねじ軸をHrC50以上の表面硬度を有する軸素材を素に、切削加工により形成するようにしたことによって、ボールねじ軸の軸軌道溝および転がり軸受の内輪転動体ガイド面をワンチャックで仕上げることが可能になり、軸軌道溝に対する内輪転動体ガイド面の同軸度の精度を向上させることができる。
なお、本実施例においては、リターンチューブによりボールを循環させるチューブ式の循環方式を用いたボールねじ装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、こま式やエンドキャップ式、デフレクタ式等の循環方式のボールねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0024】
図3は実施例2の回転軸支持装置の遊星ローラねじ装置への適用例の断面を示す説明図である。
なお、上記実施例1と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
図3において、31は遊星ローラねじ装置であり、外周面に台形状断面形状のねじ山を有する軸ねじ32が所定のピッチで形成された回転軸としての中央ねじ軸33と、円筒状部材の内周面に軸ねじ32と同様の形状のねじ山で軸ねじ32と反対方向の捩れを有する多条のナットねじ34が軸ねじ32と同じピッチPで形成されたローラナット35とに、外周面に軸ねじ32と同様の形状のねじ山でナットねじ34と同一方向の捩れを有する1条のローラねじ36が軸ねじ32と同じピッチPで形成され、両端部に円柱状の突起軸部37が形成された遊星ローラ38を嵌合させて形成される。
【0025】
また、遊星ローラ38は、その両方の突起軸部37がローラナット35の内周面に係止された止め輪39により軸方向の移動を制限されたローラ保持器40により回転自在に保持され、突起軸部37とローラねじ36との間に遊星ローラ38と同軸に形成された遊星ピニオンギヤ41が、ローラナット35の内側にピン42により固定されたリングギヤ43に噛合っており、中央ねじ軸33を回転させると、ローラ保持器40に保持された遊星ローラ38が、リングギヤ43に噛合った遊星ピニオンギヤ41により中央ねじ軸33の周りを自転しながら公転し、図示しない機械装置の移動台に固定されたローラナット35を軸ねじ32の形成範囲で軸方向に直線往復移動させる。これにより中央ねじ軸33の回転運動がローラナット35の直線運動に変換され、遊星ローラねじ装置31が直動装置として機能する。
【0026】
本実施例の中央ねじ軸33の軸ねじ32およびローラナット35のナットねじ34、遊星ローラ38のローラねじ36の表面には表面焼入処理により比較的高い硬度(HrC50以上)の表面硬度を有する表面硬化層が形成されている。
45は回転軸支持装置である。本実施例の回転軸支持装置45は、図示しない機械装置のフレーム等に固定されたハウジング46に形成されており、中央ねじ軸33の一方の軸端部に配置されている。
【0027】
本実施例の回転軸支持装置45は、上記実施例1の回転軸支持装置11aと同様に、軸方向荷重と半径方向荷重とを同時に回転支持する機能を有しており、本実施例では上記実施例1同様に転がり軸受としてのアンギュラ玉軸受15を2つ正面組合せで配置して形成される。
本実施例のアンギュラ玉軸受15は、その内輪転動体ガイド面としての内輪軌道15cが、軸ねじ32の一方の軸端部に形成された支持部47の外周面に形成されている。
【0028】
また、それぞれの外輪15aはハウジング46の軸受嵌合穴46aに嵌合し、ハウジング46に図示しない取付ボルトにより締結された蓋体48により軸方向に押圧されて固定されることにより、正面組合せのアンギュラ玉軸受15に予圧を付与され、玉15dが外輪軌道15bと内輪軌道15cとの間に所定の接触角で挟持され、中央ねじ軸33がその軸方向荷重と半径方向荷重とを支持されながら回転自在に支持される。
【0029】
この中央ねじ軸33は以下のようにして製造される。
すなわち、合金鋼等の鋼材で製造された円柱形状の丸棒材、または円筒形状のパイプ材の外周面を軸ねじ32の仕上げ代、および内輪軌道15cの仕上げ代を残して加工した軸素材を形成し、その軸素材の表面を、表面焼入処理により硬化させて表面硬度がHrC50以上の表面硬化層を形成し、軸ねじ32および内輪軌道15cを切削加工または研削加工により仕上げて中央ねじ軸33を形成する。
【0030】
このように、本実施例の内輪軌道15cを中央ねじ軸33に一体に形成する製造工程においては、表面焼入処理後の防炭材の除去または焼きなまし処理を省略することができる他、中央ねじ軸33の軸ねじ32および内輪軌道15cをワンチャックで仕上げることが可能になり、内輪を嵌合させる場合に較べて軸ねじ32に対する内輪軌道15cの同軸度の精度を向上させることができる。
【0031】
上記のように、本実施例のアンギュラ玉軸受15の内輪軌道15cは、中央ねじ軸33の支持部47にそれぞれ一体に形成されているので、アンギュラ玉軸受15の内輪を固定するためのロックナットやこれを螺合させるねじ部が不要になり、中央ねじ軸33の軸ねじ32の表面硬度を高めるための表面焼入処理を施すときの防炭処理や焼きなまし処理を省略することができ、中央ねじ軸33の製造工程における作業時間や工数を低減してその製造コストを削減することができる他、応力集中を生じさせるロックナット締結のためのねじ部がないので、中央ねじ軸33の疲労による破損を防止することができると共に中央ねじ軸33の全長を短縮することができる。
【0032】
また、ロックナットが不要であるので、部品点数を削減して遊星ローラねじ装置31の信頼性を向上させることができると共に、遊星ローラねじ装置31の製造コストと削減を図ることが可能になる。
更に、ロックナット締結のためのねじ部を形成する必要がないので、支持部47の外周面をそのまま取付部23の外周面とする、つまり支持部47に実施例1の取付部23の機能を兼ねさせることが可能になり、十分な捻り強度を容易に確保することができる他、内輪の内周面が嵌合する支持部47の強度を確保するために、不必要な負荷容量の転がり軸受を用いていた場合には、支持部47の外周面に内輪軌道15cを形成することができるので、支持部47の強度を確保しながら適正な負荷容量を有するアンギュラ玉軸受15を用いることができ、回転軸支持装置45の小型化を図ることが可能になる。
【0033】
以上説明したように、遊星ローラねじ装置の中央ねじ軸の回転軸支持装置の内輪軌道を、中央ねじ軸の支持部の外周面に形成するようにしたことによっても、上記実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0034】
図4は実施例3の回転軸支持装置の遊星ローラねじ装置への適用例の断面を示す説明図である。
なお、上記実施例1および実施例2と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
図4において、51は遊星ローラねじ装置であり、実施例2と同様の軸ねじ52が他の軸端部に形成された回転軸としての中央ねじ軸53と、実施例2と同様のナットねじ54が内周面の全長に渡って形成されたローラナット55とに、実施例2と同様のローラねじ56および突起軸部57が形成された遊星ローラ58を嵌合させて形成される。
【0035】
また、遊星ローラ58は、その両方の突起軸部57が中央ねじ軸53の外周面に係止された止め輪59により軸方向の移動を制限されたローラ保持器60により回転自在に保持され、突起軸部57とローラねじ56との間に遊星ローラ58と同軸に形成された遊星ピニオンギヤ61が、中央ねじ軸53の外周面に固定されたリングギヤ63に噛合っており、中央ねじ軸53を回転させると、ローラ保持器60に保持された遊星ローラ58が、リングギヤ63に噛合った遊星ピニオンギヤ61により中央ねじ軸53の周りを自転しながら公転し、図示しない機械装置の移動台に固定されたローラナット55をナットねじ54の形成範囲で軸方向に直線往復移動させる。これにより中央ねじ軸53の回転運動がローラナット55の直線運動に変換され、遊星ローラねじ装置51が直動装置として機能する。
【0036】
本実施例の中央ねじ軸53の軸ねじ52およびローラナット55のナットねじ54、遊星ローラ58のローラねじ56の表面には表面焼入処理により比較的高い硬度(HrC50以上)の表面硬度を有する表面硬化層が形成されている。
65は回転軸支持装置である。本実施例の回転軸支持装置65は、図示しない機械装置のフレーム等に固定されたハウジング66に形成されており、中央ねじ軸53の一方の軸端部に配置されている。
【0037】
本実施例の回転軸支持装置65は、軸方向荷重と半径方向荷重とを同時に回転支持する機能を有しており、本実施例では転がり軸受としてのアンギュラ玉軸受15と中央ねじ軸53の一方の軸端部に形成された支持部67の軸方向の外側の端面、つまり支持部67の軸方向の外側で中央ねじ軸53の半径方向に延在する平面を一方のスラスト受面68aとしたスラスト軸受としてのスラストニードル軸受68とを組合せて形成される。
【0038】
本実施例のアンギュラ玉軸受15は、その外輪転動体ガイド面としての外輪軌道15bがハウジング66の内周面に形成され、その内輪転動体ガイド面としての内輪軌道15cが軸ねじ52の一方の軸端部に形成された支持部67の外周面に形成されている。
また、蓋体69には、支持部67の端面に形成されたスラスト受面68aに対向する他方のスラスト受面68bが形成され、これらスラスト受面68a、68bの間には所定のピッチでニードル保持器68cに転動自在に保持された複数のニードル68dが配設されており、ハウジング66に図示しない取付ボルトにより蓋体69を締結したときに、アンギュラ玉軸受15に予圧を付与され、玉15dが外輪軌道15bと内輪軌道15cとの間に所定の接触角で挟持されると共に、スラスト受面68a、68bの間にニードル68dが予圧によって挟持され、中央ねじ軸53がその軸方向荷重と半径方向荷重とを支持されながら回転自在に支持される。
【0039】
このように、本実施例の回転軸支持装置65は、アンギュラ玉軸受15とスラストニードル軸受68とが組合されて形成されているので、電動射出成形機の型締めに用いる遊星ローラねじ装置51のように、片方向(図4において右から左に向かう、スラストニードル軸受68を押圧する方向)に大きな軸方荷重が加えられ、逆方向の軸方向荷重がそれほど大きくない場合に、荷重方向に適合した構成とすることができる。
【0040】
また、アンギュラ玉軸受15の軸方向剛性は、スラストニードル軸受68の軸方向剛性に較べて小さいので、適正な予圧を付与するための間隔設定が両側にスラストニードル軸受68を配置した場合に較べて容易に行うことが可能になる。
このことは、本実施例の回転軸支持装置65を、実施例1のボールねじ装置1のボールねじ軸3や実施例2の遊星ローラねじ装置31の中央ねじ軸33に適用した場合においても同様である。
【0041】
上記の中央ねじ軸53は以下のようにして製造される。
すなわち、合金鋼等の鋼材で製造された円柱形状の丸棒材の外周面を軸ねじ52の仕上げ代、並びに内輪軌道15cおよびスラスト受面68aの仕上げ代を残して加工した軸素材を形成し、その軸素材の表面を、表面焼入処理により硬化させて表面硬度がHrC50以上の表面硬化層を形成し、軸ねじ52並びに内輪軌道15cおよびスラスト受面68aを切削加工または研削加工により仕上げて中央ねじ軸53を形成する。
【0042】
このように、本実施例の内輪軌道15cおよびスラスト受面68aを中央ねじ軸53に一体に形成する製造工程においては、表面焼入処理後の防炭材の除去または焼きなまし処理を省略することができる他、中央ねじ軸53の軸ねじ52、並びに内輪軌道15cおよびスラスト受面68aをワンチャックで仕上げることが可能になり、内輪を嵌合させる場合に較べて軸ねじ52に対する内輪軌道15cの同軸度の精度を向上させることができると共に、軸ねじ52に対するスラスト受面68aの直角度の精度を向上させることができる。
【0043】
上記のように、本実施例のアンギュラ玉軸受15の内輪軌道15cは、中央ねじ軸53の支持部67に一体に形成されているので、アンギュラ玉軸受15の内輪を固定するためのロックナットやこれを螺合させるねじ部が不要になり、中央ねじ軸53の軸ねじ52の表面硬度を高めるための表面焼入処理を施すときの防炭処理や焼きなまし処理を省略することができ、中央ねじ軸53の製造工程における作業時間や工数を低減してその製造コストを削減することができる他、応力集中を生じさせるロックナット締結のためのねじ部がないので、中央ねじ軸53の疲労による破損を防止することができると共に中央ねじ軸53の全長を短縮することができる。
【0044】
また、ロックナットが不要であるので、部品点数を削減して遊星ローラねじ装置51の信頼性を向上させることができると共に、遊星ローラねじ装置51の製造コストと削減を図ることが可能になる。
更に、内輪の内周面が嵌合する支持部67の強度を確保するために、不必要な負荷容量の転がり軸受を用いていた場合には、支持部67の外周面に内輪軌道15cを形成することができるので、支持部67の強度を確保しながら適正な負荷容量を有するアンギュラ玉軸受15を用いることができ、回転軸支持装置65の小型化を図ることが可能になる。
【0045】
以上説明したように、本実施例では、上記実施例2と同様の効果に加えて、中央ねじ軸の軸端部に、スラストニードル軸受のスラスト受面を形成したことによって、片方向に大きな軸方荷重が加えられ、逆方向の軸方向荷重がそれほど大きくない場合に、荷重方向に適合した構成を得ることができる。
このことは、電動射出成形機等の片方向にのみ大きな軸方向荷重が加わる機械装置の場合に特に有効である。
【0046】
なお、本実施例においては、スラスト軸受はスラストニードル軸受であるとして説明したが、スラスト軸受は前記に限らず、スラストころ軸受やスラスト玉軸受等であってもよい。
【実施例4】
【0047】
図5は実施例3の回転軸支持装置の遊星ローラねじ装置への適用例の断面を示す説明図である。
なお、上記実施例1および実施例2と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施例の遊星ローラねじ装置および回転軸支持装置は、上記実施例2の遊星ローラねじ装置31および回転軸支持装置45と同様であるが、その中央ねじ軸33一方の軸端部の端面に中央ねじ軸33の軸芯を中心とし、支持部47に形成された内輪軌道15cの半径方向の内側に至るカップリング取付穴71が形成されている点が異なる。
【0048】
このカップリング取付穴71内には、カップリング取付穴71の底面に一端を固定され、複数の板バネ73を介して連結された他端をクランプボルト74で図5に2点鎖線で示す相手軸75(例えば、モータ等の駆動装置からの駆動力が伝達される駆動軸)に固定されたフレキシブルカップリング76が収容されている。
このようなフレキシブルカップリング76としては、例えば三木プーリ株式会社製サーボフレックスカップリングSFC−SA2等の板バネ73のたわみを利用したフレキシブルカップリングを用いることができる。
【0049】
上記のように、本実施例の中央ねじ軸33と相手軸75とはフレキシブルカップリング76を介して連結されているので、中央ねじ軸33と相手軸75との芯ズレを吸収することが可能になる。
また、本実施例の内輪軌道15cは、中央ねじ軸33の支持部47の外周面に直接形成されているので、支持部47の直径を内輪軌道15cの底径まで拡大することが可能になり、フレキシブルカップリング76のように比較的大きな外径を有するカップリングを支持部47の半径方向内側に設けたカップリング取付穴71内に収容することができ、遊星ローラねじ装置31を装備する機械装置の駆動軸等との連結に要するスペースを縮小して当該機械装置の小型化を図ることができる。
【0050】
更に、機械装置の駆動軸との連結を比較的外径の小さいセレーションにより行う場合は、小径にしたカップリング取付穴71の内面にセレーションを形成し、そこにセレーション軸を嵌合させることが可能になり、セレーション軸の強度および支持部47の強度を確保するために不必要な負荷容量の転がり軸受を用いていた場合に、支持部47の強度を確保しながら適正な負荷容量を有する転がり軸受を用いることができ、回転軸支持装置31の小型化を図ることが可能になる。
【0051】
なお、本実施例の中央ねじ軸33の製造方法は、上記実施例2の場合と同様であるのでその説明を省略する。
以上説明したように、本実施例では、上記実施例2と同様の効果に加えて、中央ねじ軸の軸端部の端面に、中央ねじ軸の軸芯を中心とし、内輪軌道の半径方向の内側に至るカップリング取付穴を形成するようにしたことによって、拡大された支持部を利用して比較的大径のカップリングをカップリング取付穴内に収容することができ、遊星ローラねじ装置を装備する機械装置の小型化を図ることができる他、比較的大径のカップリングを用いる場合には、転がり軸受の負荷容量を適正化して、回転軸支持装置の小型化を図ることができる。
【0052】
なお、上記実施例1、実施例2および実施例4においてはアンギュラ玉軸受15は正面組合せで配置するとして説明したが、図6に示すように背面組合せで配置するようにしてもよい。この場合に実施例1の回転軸支持装置11aは以下のように形成する。
すなわち、支持部16aの外周面に両側の側壁に内輪軌道15cを形成した円周溝81を設け、2つの外輪軌道15bを背面合せの形成した外輪82を形成し、外輪82を円周溝81とを偏心させて配置し、偏心により拡大した内輪軌道15cと外輪軌道15bとの間に両側から所定数の玉15dをそれぞれ挿入し、挿入後に外輪82を円周溝81とを同芯に戻し、軸受保持器83を組付け、背面組合せで配置したアンギュラ玉軸受15を形成する。実施例2および実施例4の中央ねじ軸33の場合も同様である。
【0053】
上記各実施例においては、転がり軸受は軸受転動体として玉を用いたアンギュラ玉軸受や深溝型の玉軸受であるとして説明したが、転がり軸受は前記に限らず、軸受転動体としてころを用いた円筒ころ軸受や円錐ころ軸受であってもよい。この場合に内輪転動体ガイド面は、円筒ころ軸受の内輪軌道円筒面であり、円錐ころ軸受の内輪軌道円錐面である。
また、上記各実施例においては、回転軸はボールねじ装置のボールねじ軸や遊星ローラねじ装置の中央ねじ軸であるとして説明したが、回転軸は前記に限らず、滑りねじ装置の滑りねじ軸、プーリや歯車等を回転支持するセレーション軸やスプライン軸等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1の回転軸支持装置のボールねじ装置への適用例の断面を示す説明図
【図2】図1のA方向矢視図
【図3】実施例2の回転軸支持装置の遊星ローラねじ装置への適用例の断面を示す説明図
【図4】実施例3の回転軸支持装置の遊星ローラねじ装置への適用例の断面を示す説明図
【図5】実施例4の回転軸支持装置の遊星ローラねじ装置への適用例の断面を示す説明図
【図6】実施例1の回転軸支持装置に用いるアンギュラ玉軸受の他の形態を示す説明図
【符号の説明】
【0055】
1 ボールねじ装置
2 軸軌道溝
3 ボールねじ軸
4 ナット軌道溝
5 ボールナット
6 ボール
8 リターンチューブ
9 フランジ部
11、11a、11b、45、65 回転軸支持装置
12 基台
13、14、46、66 ハウジング
13a、14a、46a、66a 軸受嵌合穴
15 アンギュラ玉軸受
15a、21a、82 外輪
15b 外輪軌道
15c 内輪軌道
15d、21d 玉
16a、16b、47、67 支持部
17 取付ボルト
18、48、69 蓋体
19 オイルシール
21 玉軸受
21b 外輪軌道溝
21c 内輪軌道溝
23 取付部
31、51 遊星ローラねじ装置
32、52 軸ねじ
33、53 中央ねじ軸
34、54 ナットねじ
35、55 ローラナット
36、56 ローラねじ
37、57 突起軸部
38、58 遊星ローラ
39、59 止め輪
40、60 ローラ保持器
41、61 遊星ピニオンギヤ
42 ピン
43、63 リングギヤ
68 スラストニードル軸受
68a、68b スラスト受面
68c ニードル保持器
68d ニードル
71 カップリング取付穴
73 板バネ
74 クランプボルト
75 相手軸
76 フレキシブルカップリング
81 円周溝
83 軸受保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪転動体ガイド面を形成した外輪と、支持部の外周面に内輪転動体ガイド面を形成した回転軸と、前記外輪転動体ガイド面と内輪転動体ガイド面との間に配設された複数の軸受転動体と備えたことを特徴とする回転軸支持装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記回転軸が、ボールねじ装置のボールねじ軸であることを特徴とする回転軸支持装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記回転軸が、遊星ローラねじ装置の中央ねじ軸であることを特徴とする回転軸支持装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記回転軸の軸端部に、前記回転軸の半径方向に延在するスラスト軸受のスラスト受面を形成したことを特徴とする回転軸支持装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記回転軸の軸端部の外周面に、前記内輪転動体ガイド面を形成すると共に、前記軸端部の端面に、前記回転軸の軸芯を中心とし、前記内輪転動体ガイド面の半径方向の内側に至るカップリング取付穴を形成したことを特徴とする回転軸支持装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記回転軸を、HrC50以上の表面硬度を有する前記回転軸の軸素材を素に、切削加工により形成したことを特徴とする回転軸支持装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の回転軸支持装置の回転軸の製造方法であって、
前記回転軸の軸素材に、表面硬度をHrC50以上とする表面焼入処理を行う工程と、
該表面焼入処理を施した軸素材に、切削加工により前記内輪転動体ガイド面を形成する工程とを備えることを特徴とする回転軸支持装置の回転軸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−285480(P2007−285480A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116179(P2006−116179)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】