説明

回転電機

【課題】本発明は、爪状の外側磁極間に隙間がないような構造であっても、界磁コイルを十分に冷却することができる回転電機を得ることを目的とするものである。
【解決手段】界磁ヨーク13に対向する内側ヨーク部7aの外周面には、螺旋状の内側溝15が形成されている。また、界磁ヨーク13及び界磁コイル14に対向する外側磁極部7cの内径側の面には、螺旋状の外側溝16が形成されている。内側溝15は、回転子7が回転することにより冷却風を軸方向に移動させるように構成されている。外側溝16は、回転子7の回転により冷却風を内側溝15とは逆方向へ移動させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両用交流発電機や車両用交流電動機などの回転電機に関し、特に界磁コイルを有する回転電機の冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、バスやトラックなどの大型自動車の発電機には、数十年間、大型のランデル型回転子を用いる車両用交流発電機が使用されてきた。このようなランデル型回転子を用いる車両用交流発電機では、スリップリングの寿命等を考慮して、界磁コイルを固定側に取り付け、スリップリングを用いない構造が採られている。
【0003】
また、従来の大型ランデル型車両用交流発電機では、爪状磁極の隙間を流れる冷却風により、界磁コイルが冷却される(例えば、特許文献1参照)。ところが、出力向上のために爪状磁極間にマグネットなどが挿入されると、爪状磁極間を流れる冷却風がなくなり、界磁コイルの冷却性能が低下して、温度上昇を招くことになる(例えば、特許文献2参照)。このような冷却性能の低下は、他のランデル型構造でも同様に見られる(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、冷却性能を向上させる方法として、回転子の内側に遠心ファンを設けて発電コイルを冷却する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−128397号公報
【特許文献2】特開2002−335660号公報
【特許文献3】特開平6−22482号公報
【特許文献4】特開昭59−35547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献2、3に示す従来の回転電機では、爪状磁極間に隙間がないため、爪状磁極間の隙間を流れる冷却風がなくなり、界磁コイルの冷却性能が低下する。これに対して、特許文献4に示すように、回転子の内側に遠心ファンを設けた構造では、冷却性能を十分に向上させることができなかった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、爪状の外側磁極間に隙間がないような構造であっても、界磁コイルを十分に冷却することができる回転電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る回転電機は、ハウジング、円筒状の内側ヨーク部と、内側ヨーク部の外周面に対向する外側磁極部と、内側ヨーク部と外側磁極部との間に設けられている端磁極部とを有し、ハウジング内に回転可能に設けられている回転子、ハウジング内に固定され、回転子を囲繞する固定子、ハウジング内に固定され、内側ヨーク部と外側磁極部との間の空間内に挿入されている界磁ヨーク、及び界磁ヨークに支持され、発生する磁束により外側磁極部に磁極を形成する界磁コイルを備え、内側ヨーク部の外周面には、回転子の回転により冷却風を軸方向に移動させる螺旋状の内側溝が形成されており、外側磁極部の内径側の面には、回転子の回転により冷却風を内側溝とは逆方向へ移動させる螺旋状の外側溝が形成されている。
【発明の効果】
【0009】
この発明の回転電機は、回転子に内側溝と外側溝とを形成し、回転子の回転により界磁コイルの周囲に冷却風を流すようにしたので、爪状の外側磁極間に隙間がないような構造であっても、界磁コイルを十分に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1による回転電機の軸線に沿う断面図である。
【図2】図1の内側ヨーク部の第1例を示す側面図である。
【図3】図1の内側ヨーク部の第2例を示す側面図である。
【図4】この発明の実施の形態2によるランデル型回転電機の軸線に沿う断面図である。
【図5】この発明の実施の形態3によるランデル型回転電機の軸線に沿う断面図である。
【図6】この発明の実施の形態4によるランデル型回転電機の軸線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるランデル型回転電機の軸線に沿う断面図である。図において、円筒状のフレーム1の軸方向一端部には、円板状の第1のブラケット2が固定されている。フレーム1の軸方向他端部には、円板状の第2のブラケット3が固定されている。これらのフレーム1及びブラケット2,3により、ハウジングが構成されている。
【0012】
第1及び第2のブラケット2,3の中心には、シャフト(回転軸)4が貫通されている。シャフト4は、第1及び第2のブラケット2,3に軸受5,6を介して回転可能に支持されている。
【0013】
シャフト4には、ランデル型の回転子7が固定されている。回転子7は、シャフト4に固定された円筒状の内側ヨーク部7aと、内側ヨーク部7aの第1のブラケット2側の端部から径方向外側へ突出した端磁極部7bと、端磁極部7bの径方向外側端部から第2のブラケット3側へ突出した複数の爪状の外側磁極部7cとを有している。
【0014】
外側磁極部7cは、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。また、周方向に隣接する外側磁極部7c間には、磁極間部材(図示せず)がそれぞれ配置されている。磁極間部材としては、例えば、周方向に着磁された永久磁石(図示せず)、又は非磁性材等が用いられている。
【0015】
外側磁極部7cは、内側ヨーク部7aの外周面に対向している。各外側磁極部7cの第1のブラケット2に対向する端部には、第1の冷却フィン8が固定されている。また、端磁極部7bの第2のブラケット3に対向する面の径方向外側端部には、複数の第2の冷却フィン9が周方向に互いに間隔をおいて固定されている。
【0016】
フレーム1の内周面には、固定子10が固定されている。固定子10は、回転子7の外周面に対して一定のエアギャップを介して対向している。また、固定子10は、回転子7を囲繞する円筒状の固定子鉄心11と、固定子鉄心11に巻装された固定子コイル12とを有している。
【0017】
第2のブラケット3には、磁路となる円筒状の界磁ヨーク13の基端部が固定されている。界磁ヨーク13の先端部は、内側ヨーク部7aと外側磁極部7cとの間の空間に挿入されている。また、界磁ヨーク13の先端部の外周部には、界磁コイル14が固定されている。即ち、界磁コイル14は、界磁ヨーク13により支持され、内側ヨーク部7aと外側磁極部7cとの間に配置されている。
【0018】
外側磁極部7cには、界磁コイル14が発生する磁束によって磁極が形成される。また、固定子コイル12には、回転子7の回転に伴い、界磁コイル14からの磁束の変化で交流が生じる。
【0019】
界磁ヨーク13に対向する内側ヨーク部7aの外周面には、螺旋状の内側溝(第1の溝)15が形成されている。また、界磁ヨーク13及び界磁コイル14に対向する外側磁極部7cの内径側の面には、螺旋状の外側溝(第2の溝)16が形成されている。
【0020】
図2は図1の内側ヨーク部7aの第1例を示す側面図、図3は図1の内側ヨーク部7aの第2例を示す側面図である。第2例では、第1例よりも内側溝15の幅が大きくなっている。内側溝15は、回転子7が回転することにより冷却風を軸方向に移動させるように構成されている。内側溝15を右ネジ方向、又は左ネジ方向に形成することにより、回転子7が同一方向に回転したときの冷却風の流れの向きを変えることができる。
【0021】
外側溝16は、形成位置が異なるだけで構造は内側溝15と同様である。また、外側溝16は、回転子7の回転により冷却風を内側溝15とは逆方向へ移動させるように構成されている。さらに、外側溝16は、磁極間部材の内径側の面にも連続して形成されている。
【0022】
第1のブラケット2には、フレーム1内に冷却風を取り込むための複数の第1のブラケット通気孔2aが設けられている。第1のブラケット通気孔2aは、シャフト4を中心とする同一の円周上に、周方向に所定の間隔をおいて配置されている。
【0023】
第2のブラケット3には、フレーム1内に冷却風を取り込むための複数の第2のブラケット通気孔3aが設けられている。第2のブラケット通気孔3aは、シャフト4を中心とする同一の円周上に、周方向に所定の間隔をおいて配置されている。また、第2のブラケット通気孔3aは、界磁ヨーク13の固定部よりも径方向内側に配置されている。
【0024】
フレーム1の第1のブラケット2近傍には、主に第1の通気孔2aから取り込まれた冷却風を吐き出すための複数の第1のフレーム通気孔1aが設けられている。第1のフレーム通気孔1aは、周方向に所定の間隔をおいて配置されている。
【0025】
フレーム1の第2のブラケット3近傍には、主に第2の通気孔3aから取り込まれた冷却風を吐き出すための複数の第2のフレーム通気孔1bが設けられている。第2のフレーム通気孔1bは、周方向に所定の間隔をおいて配置されている。
【0026】
次に、動作について説明する。図1に矢印で示しているのは冷却風の流れである。第1の冷却フィン8によって第1のブラケット通気孔2aからフレーム1内に取り込まれた冷却風は、固定子鉄心11と固定子コイル12とを冷却した後、第1のフレーム通気孔1aを通ってフレーム1外へ放出される。
【0027】
また、第2の冷却フィン9によって第2のブラケット通気孔2aからフレーム1内に取り込まれた冷却風は、内側溝15により、内側ヨーク部7aと界磁ヨーク13との間を図の左方向へ吸い込まれる。このとき、冷却風により界磁ヨーク13が冷却され、熱伝導により界磁コイル14も冷却される。
【0028】
さらに、内側ヨーク部7aと界磁ヨーク13との間に吸い込まれた冷却風は、外側溝16により、界磁ヨーク13及び界磁コイル14と外側磁極部7cとの間を図の右方へ放出される。このとき、冷却風により界磁コイル14と界磁ヨーク13とが冷却される。
【0029】
回転子7と界磁ヨーク13との間から放出された冷却風は、さらに固定子鉄心11と固定子コイル12とを冷却した後、第2のフレーム通気孔1bを通ってフレーム1外へ放出される。
【0030】
このようなランデル型回転電機では、回転子7に内側溝15と外側溝16とを形成し、回転子7の回転により界磁コイル14の周囲に冷却風を流すようにしたので、爪状の外側磁極間に隙間がないような構造であっても、界磁コイル14を十分に冷却することができる。これにより、温度上昇を軽減し、出力を向上させることができる。
【0031】
実施の形態2.
次に、図4はこの発明の実施の形態2によるランデル型回転電機の軸線に沿う断面図である。図において、界磁ヨーク13には、その内外を連通し、内側の空間から外側へ冷却風を通すための複数の界磁ヨーク通気孔13aが設けられている。界磁ヨーク通気孔13aは、周方向に所定の間隔をおいて配置されている。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0032】
次に、動作について説明する。図4に矢印で示しているのは冷却風の流れである。第1の冷却フィン8によって第1のブラケット通気孔2aからフレーム1内に取り込まれた冷却風は、固定子鉄心11と固定子コイル12とを冷却した後、第1のフレーム通気孔1aを通ってフレーム1外へ放出される。
【0033】
また、第2の冷却フィン9によって第2のブラケット通気孔2aからフレーム1内に取り込まれた冷却風は、内側溝15により内側ヨーク部7aと界磁ヨーク13との間に吸い込まれる部分と、界磁ヨーク通気孔13aを通る部分と分けられる。そして、内側ヨーク部7aと界磁ヨーク13との間に吸い込まれた冷却風により、界磁ヨーク13が冷却され、熱伝導により界磁コイル14も冷却される。
【0034】
さらに、内側ヨーク部7aと界磁ヨーク13との間に吸い込まれた冷却風は、外側溝16により、界磁ヨーク13及び界磁コイル14と外側磁極部7cとの間を図の右方へ放出される。このとき、冷却風により界磁コイル14と界磁ヨーク13とが冷却される。
【0035】
さらにまた、界磁ヨーク通気孔13aを径方向外側へ流れる冷却風によっても、界磁ヨーク13が冷却され、熱伝導により界磁コイル14が冷却される。
【0036】
界磁ヨーク13を冷却した冷却風は、さらに固定子鉄心11と固定子コイル12とを冷却した後、第2のフレーム通気孔1bを通ってフレーム1外へ放出される。
【0037】
このような構成によっても、界磁コイル14を十分に冷却することができるとともに、発熱体である固定子鉄心11や固定子コイル12も十分に冷却をすることができ、温度上昇をさらに軽減して、出力を向上させることができる。
【0038】
実施の形態3.
次に、図5はこの発明の実施の形態3によるランデル型回転電機の軸線に沿う断面図である。図において、界磁ヨーク13の内周面(内側ヨーク部7aに対向する面)には、良熱伝導部材17が配置されている。良熱伝導部材17は、例えば銅又はアルミニウムなど、界磁ヨーク13よりも熱伝導率の高い材料により構成されている。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0039】
このようなランデル型回転電機では、冷却風の流れは実施の形態1と同様であるが、界磁ヨーク13の内周面に良熱伝導部材17が設けられているため、熱伝導がより促進され、界磁コイル14を効率良く冷却することができる。これにより、温度上昇をさらに軽減して、出力を向上させることができる。
【0040】
なお、図5では、良熱伝導部材17が界磁ヨーク13の内周面の全体に設けられているが、例えば軸方向の一部に設けるなど、部分的に設けてもよい。この場合も、良熱伝導部材17を設けない場合に比べて、温度上昇を低減でき、出力を向上させることができる。
また、実施の形態3の界磁ヨーク13に実施の形態2で示した界磁ヨーク通気孔13aを設けてもよい。
【0041】
実施の形態4.
次に、図6はこの発明の実施の形態4によるランデル型回転電機の軸線に沿う断面図である。図において、内側ヨーク部7aの第2のブラケット3に対向する端面には、複数の補助フィン18が設けられている。補助フィン18は、内側ヨーク部7aの端面の径方向外側端部近傍に、周方向に所定の間隔をおいて配置されている。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0042】
このようなランデル型回転電機では、冷却風の流れは実施の形態1と同様であるが、補助フィン18によって、内側ヨーク部7aと界磁ヨーク13との間に冷却風が押し込まれる。このため、内側ヨーク部7aと界磁ヨーク13との間に流入される冷却風の量が増加し、界磁コイル14を効率良く冷却することができる。これにより、温度上昇をさらに軽減して、出力を向上させることができる。
【0043】
なお、実施の形態4の界磁ヨーク13に、実施の形態2で示した界磁ヨーク通気孔13aを設けたり、実施の形態3で示した良熱伝導部材17を設けたりしてもよい。
また、実施の形態1〜4では、界磁ヨーク13を第2のブラケット3に固定したが、フレーム1に固定してもよく、同様の効果を奏する。
さらに、実施の形態1〜4では、ランデル型回転電機について説明したが、同様の構造を有する回転電機であれば他のタイプの回転電機にもこの発明は適用でき、同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0044】
1 フレーム(ハウジング)、2 第1のブラケット(ハウジング)、3 第2のブラケット(ハウジング)、7 回転子、7a 内側ヨーク部、7b 端磁極部、7c 外側磁極部、10 固定子、13 界磁ヨーク、13a 界磁ヨーク通気孔、14 界磁コイル、15 内側溝、16 外側溝、17 良熱伝導部材、18 補助フィン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング、
円筒状の内側ヨーク部と、上記内側ヨーク部の外周面に対向する外側磁極部と、上記内側ヨーク部と上記外側磁極部との間に設けられている端磁極部とを有し、上記ハウジング内に回転可能に設けられている回転子、
上記ハウジング内に固定され、上記回転子を囲繞する固定子、
上記ハウジング内に固定され、上記内側ヨーク部と上記外側磁極部との間の空間内に挿入されている界磁ヨーク、及び
上記界磁ヨークに支持され、発生する磁束により上記外側磁極部に磁極を形成する界磁コイル
を備え、
上記内側ヨーク部の外周面には、上記回転子の回転により冷却風を軸方向に移動させる螺旋状の内側溝が形成されており、
上記外側磁極部の内径側の面には、上記回転子の回転により冷却風を上記内側溝とは逆方向へ移動させる螺旋状の外側溝が形成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
上記界磁ヨークには、その内外を連通する複数の界磁ヨーク通気孔が設けられていることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項3】
上記界磁ヨークの上記内側ヨーク部に対向する面には、上記界磁ヨークよりも熱伝導率の高い材料からなる良熱伝導部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
上記内側ヨーク部の端面の径方向外側端部近傍には、上記内側ヨーク部と上記界磁ヨークとの間に冷却風を押し込む複数の補助フィンが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−250500(P2011−250500A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118094(P2010−118094)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発 要素技術開発 次世代自動車用高性能モータ蓄電パワエレシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】