説明

固定砥粒式ワイヤーソー及びその製造方法

【課題】従来のレジンボンド法や電着法による固定砥粒ワイヤーソーでは、曲げ強度が小さく、ボンド材の剥離や砥粒の脱落を生じ易いとする問題点を解消し、生産性の安定した、長寿命かつ研削性に優れる固定砥粒式ワイヤーソーとその製造方法を提供する。
【解決手段】ろう材の金属粉末と砥粒と有機バインダとを含むペースト状物質を作る工程、該ペースト状物質を金属製芯線の表面に塗布して前記金属粉末と前記砥粒とを金属製芯線の表面に定着させる工程、該金属製芯線の表面に定着された前記金属粉末と前記砥粒とをレーザー光などで加熱して、前記金属粉末を溶融させ、次いで冷却する工程、を含む固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法であり、砥粒が、化学的に結合した合金もしくは金属間化合物の層を介して金属製芯線に固着されてなる固定砥粒式ワイヤーソーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大口径シリコンインゴットのウェハスライシングに代表される太陽電池・電子用基板、砒化ガリウムなど化合物半導体のレーザー用基板、あるいは磁性体、水晶、ガラスなどの磁気・光学用基板等の切断に用いる固定砥粒式ワイヤーソーに関するもので、特に硬く脆い材料における精密切断加工に適したろう(蝋)材を用いた固定砥粒ワイヤーソーとその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
年々大口径化が進むTFT(薄膜トランジスタ)用途や太陽電池用途のシリコンインゴットの切断において、従来用いられてきた内周刃砥石(IDブレード)では、加工効率や生産性の低下、加工変質層の発生、切断寸法精度等の低下、また大型装置が必要などの問題点が指摘されている。そのため、近年ワイヤーソーを用いた切断加工が活発に行われるようになった。ワイヤーソーは、被切削物にワイヤーを切断用砥粒と共に、圧接しながら走行させ切断作業を行うものである。ワイヤーソーを用いた切断加工は、シリコンインゴットの大口径化に対応し易く、かつインゴットから1回の切断で1枚のウエハーしか得られない内周刃砥石とは異なり、同時に複数枚のウエハーを作製するマルチ切断が可能である。
【0003】
こうした切断加工で用いられるワイヤーソーには、遊離砥粒式と固定砥粒式がある。遊離砥粒式ワイヤーソーは、芯材となるピアノ線などのワイヤーに張力を付加しながら走行させ、ダイヤモンドや炭化珪素などの微細な砥粒を水系スラリーや油などに分散させたものを塗布して使用する(例えば、特許文献1参照)。ワイヤーと被削物との隙間に介在する砥粒によって徐々に切断が行われる。これは、ワイヤー径を細くし、微細な砥粒を用いることによって、切り代が少なく、加工変質層を小さくできることから、該ワイヤーソーによる切断法が近年大幅に増加している。
【0004】
しかし、該方法では、切断界面に砥粒を常に適量供給し続ける必要があり、特に微妙な管理を要するスラリーや油等の粘度が温度等により変動するため、ワイヤーが切断されるなどのトラブルも発生する。こうした問題を解決する方法として、ワイヤーにダイヤモンド等を固定した固定砥粒式ワイヤーソーが提案されている。そのダイヤモンドを固定する手段には、レジンボンド法、電着法がある。
【0005】
レジンボンド法は、例えばフェノール樹脂とダイヤモンドの混合物をピアノ線上にコーティングし加熱処理を施す。これにより硬化したフェノール樹脂によって、ダイヤモンドを固定する(例えば、特許文献2、3参照)。この方法は、安価で長尺のワイヤーソーを製作するのに適する。一方で、樹脂による保持力が低いため、切断中にダイヤモンドが次々に脱落し、切れ味の低下や、ワイヤー径の細りなどを生じ易く、寿命の短い点が欠点として指摘される。
【0006】
一方、電着法は、ニッケルメッキなどによりダイヤモンドのピアノ線への固定を行うものである(例えば、特許文献4、5参照)。前記のレジンボンド法に比べれば、大きな切削抵抗や、それに伴うビビリ振動に強い方法として優れる。しかし、ニッケルメッキ液中でピアノ線表面にニッケルを析出させながらダイヤモンドをニッケル膜中に埋設させる方法であることから、ニッケルメッキの工程で、ワイヤーは徐々に太くなる。
【0007】
メッキ層にダイヤモンドを深く埋め込んで物理的にしっかりと固定するには、ダイヤモンド粒径の2/3程度のメッキ層の厚みが要求される。つまりは、メッキの析出速度にダイヤモンドの固着力が支配されるため、非常に生産性が悪く、コスト高になるなどの問題点がある。さらには、ワイヤーの線径が比重8.90のニッケルによって太るため、長尺のワイヤーをプーリーに繰り返し巻き取る際には、荷重による疲労破断を起こし易くなることも考えられる。
【0008】
さらに、ワイヤーにダイヤモンド(砥粒)の粒径の5〜40%の厚さのロー材、半田等による金属層を形成し、その金属層の溶融状態において前記のダイヤモンドを付着固化させたことを特徴とする固定砥粒式ワイヤーソーが開示されている(例えば、特許文献6参照)。しかし、かかる方法では、金属層を構成する半田等の融点が高いと、金属層の溶融によりワイヤーが過度に加熱されワイヤーの焼きなましが生じワイヤーの引っ張り強度が低下する可能性がある。従って、比較的低い温度で芯線の焼きなましによる硬度や引っ張り強さが低下するピアノ線や硬鋼線を芯線として用いることができず、引っ張り強さこそピアノ線に匹敵するものの、脆化により繰り返し曲げに弱いタングステンワイヤー等が用いられた。また、逆に金属層を構成する半田等の融点が低いと、ワイヤーソーによるワークの切断加工時の発熱で金属層が溶融して砥粒ワイヤーから脱落しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
特許文献1 特開2008−103690号公報
特許文献2 特開2000−263452号号公報
特許文献3 特開2000−271872号公報
特許文献4 特公平4−4105号号公報
特許文献5 特開2003−334763号号公報
特許文献6 特開2006−123024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、被切削物の切断に際して高い張力をかけることができ、反りやソーマークの発生が少なく、切断しろに基づく被切削物の損失が少ないことを特徴とした、ダイヤモンド等の硬質砥粒を固定したワイヤーソーとその製作の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、高張力強度のピアノ線等にダイヤモンド砥粒等を、ろう材を用いて化学的に固着してなるダイヤモンドワイヤーソーが高い荷重に耐えて細線化が可能であり、安定した切削・研削性能を有することを知見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の要旨とするところは、ろう材の金属粉末と砥粒、および有機バインダとを含むペースト状物質を作る工程、該ペースト状物質を金属製芯線の表面に塗布して前記金属粉末と前記砥粒とを金属製芯線の表面に定着させる工程、該金属製芯線の表面に定着された前記金属粉末と前記砥粒とを加熱して、前記金属粉末を溶融させ、次いで冷却する工程、を含む固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法であることにある。
【0013】
前記金属製芯線の表面に定着された前記金属粉末と前記砥粒との加熱は、前記金属製芯線の表面に定着された前記金属粉末と前記砥粒とにレーザー光を照射してなされ得る。
【0014】
前記レーザー光のビーム径は前記金属製芯線の線径の1.5〜2.5倍であり得る。
【0015】
前記砥粒は、ダイヤモンド砥粒、立方晶系BN砥粒、アルミナ砥粒、炭化珪素砥粒から選ばれたものであり得る。
【0016】
前記ろう材は、溶融温度が300℃以下の合金であり得る。
【0017】
前記ろう材は、錫、銀、銅、亜鉛から選択された金属を含み得、さらに、チタン、クロム、ニッケル、アルミニウム、ガリウムから選択される1つ以上の金属が添加されたものであり得る。
【0018】
前記金属製芯線は、ニッケル、銅、錫、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含む金属層で被覆された芯線であり得る。
【0019】
前記砥粒は、ニッケル、銅、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含む被覆層を有する砥粒であり得る。
【0020】
前記固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法においては、前記レーザー光が、照射により前記ろう材が溶融して前記金属層及び/または前記被覆層とで前記砥粒の粒径の5〜40%の厚さの合金もしくは金属間化合物の層を形成するように調整されて照射され得、前記砥粒が化学的に前記金属製芯線に固着され得る。
【0021】
前記ろう材は、0.3〜5重量%のリンもしくはホウ素を添加してなるものであり得る。
【0022】
前記有機バインダは、有機アミン系活性ロジン、ロジン酸から選択されるフラックスを含み得る。
【0023】
また、本発明の要旨とするところは、金属製芯線の外周に、砥粒を固着させてなるワイヤーソーであって、前記砥粒が、化学的に結合した合金もしくは金属間化合物の層を介して前記金属製芯線に固着されてなる固定砥粒式ワイヤーソーであることにある。
【0024】
前記固定砥粒式ワイヤーソーにおいては、前記化学的に結合した合金もしくは金属間化合物の層が錫を含み得る。
【0025】
前記固定砥粒式ワイヤーソーにおいては、前記金属製芯線が、ニッケル、銅、錫、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含み得る。
【0026】
前記固定砥粒式ワイヤーソーにおいては、前記砥粒が、ニッケル、銅、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含む被覆層を有する砥粒であり得る。
【0027】
さらに詳述するならば、本発明に関わる固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法では、前記課題の解決のため、(1)ろう材組成の金属粉末と、ダイヤモンド等の硬質砥粒を有機アミン系活性ロジンなどの有機バインダもしくはターピネオールなどのアルコール系有機溶媒と共に、均一に分散するようにビーズミルなどを用いて混合し、ペースト状物質を作る工程、(2)このペースト状物質をピアノ線等の金属製芯線の表面に、必要に応じて適宜濃淡・粗密をつけるなどをして塗布する工程、(3)有機バインダ、もしくは有機溶媒を用いたペーストを乾燥する工程、(4)ろう材が溶融する所定の温度にて加熱し、化学的に砥粒を、ピアノ線表面に固着させる焼成工程を含んでなり得る。
【0028】
(4)の工程で芯線に化学的にダイヤモンド砥粒を固着させるためには、好ましくは、ろう材の金属層を適宜選択的、かつ局部的(周囲への熱拡散を最小限に抑える)に加熱できる非接触型のレーザー光を用いる。特に、該方法は、窒素ガスなどを吹き付けながらの作業で、不活性雰囲気を実現したり、急冷による合金相の組織制御を実現できる点で好ましい。ここで、加熱が極小領域である利点から、雰囲気の酸素濃度を下げるなどに特段の注意を払う必要はない。さらには、フラックスとの併用は、ろう材の酸化に対する抑制効果が著しい。808nmや980nm(砒化ガリウム半導体レーザーによる)の波長のレーザー光を用いる製造工程の優位性は、本発明により初めて明らかにされたものである。
【0029】
また、詳述するならば、本発明の固定砥粒式ワイヤーソーは、(1)数ミクロン〜20ミクロンのろう材組成の金属粉末と同程度の粒径を有するダイヤモンド等の硬質砥粒をロジンなどの有機バインダもしくはアルコール系の有機溶媒と共に、均一に分散・混合し、ペースト状物質を作る工程、(2)このペースト状物質を高い張力を有するピアノ線等の金属製芯線の表面に塗布する工程、(3)ろう材が溶融する所定の温度にて加熱され、ピアノ線表面に化学的にダイヤモンド等の砥粒を固着させる焼成工程を含んでなり、特に(3)の工程で、芯線にダイヤモンド等を合金もしくは金属間化合物の生成を伴い化学的に固着させるためには、ろう材を適宜選択、かつ周囲への熱拡散を最小限に抑える目的で、非接触型のレーザー光を照射することによって製造されたワイヤーソーであり得る。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る固定砥粒式ワイヤーソーは、ダイヤモンド粒等の砥粒がろう材等に由来の合金もしくは金属間化合物の層を介して芯線に化学的に固定することができるので、その保持力は従来のレジンボンド法によるものに比べ著しく強固であり、また電着法によるものに比べ、金属の層の太りがなく均一に形成される結果、柔軟性にすぐれ長寿命化できる効果がある。また、前記の金属の層は砥粒の粒径の3〜40%の厚さとすることができ、電着法によるもののように厚い金属の層は不要で、切削液の廻りや切り屑の排出が順調に行われることにより切削性能は特段に向上する。
【0031】
また、その製造方法においては、ピアノ線等のワイヤーを、数ミクロン〜20ミクロンのろう材組成の金属粉末とダイヤモンド等の硬質砥粒を有機バインダもしくは有機溶媒を用いて均一な分散状態になるよう調合、混和したペースト状物質の中を走行させるだけ、あるいはスプレーやディスペンサーなどの装置により塗布することなどの手段で、ダイヤモンド等の砥粒をろう材と共にワイヤー表面に定着させることができるので、極めて生産性の高い効果を有する。
【0032】
また、本発明の製造方法においては、比較的融点の低いろう材を使用しているにもかかわらず、融点の高い合金もしくは金属間化合物の層を介して砥粒を芯線に固定できるので、芯線と砥粒との接合は高温にも耐える強固なものとなる。
【0033】
また、本発明の固定砥粒式ワイヤーソーでは、適当なpHの酸やアルカリをエッチング液として併用することも可能で、追加研磨なくシリコンウェハなどに対し化学的、物理的な切削を実施することができる。さらには、該エッチング液によりワイヤーを移動する際に発生する摺動抵抗が減少し、被研削物表層のクラック深さも減少できる。つまりは、遊離砥粒式ワイヤーソーで問題となるエッチング液とシリコンとが化学反応してケイ塩・シリカを生じ、増粘や砥粒の分散性の悪化等が原因する切削効率の低下、被切削物の歩留まりの低下、ワイヤーの切断等といったものが、該固定砥粒式ワイヤーソーでは、著しく改善する。
【0034】
さらには、本発明の固定砥粒式ワイヤーソーでは、タングステン線やモリブデン線に比べて、酸やアルカリに対する耐食性、引っ張り強さ、疲労強度などの点で優れた前記硬鋼線やピアノ線(ニッケルや真鍮などを被覆したものを含む)、あるいはステンレス等の芯線の材質を選択できる点で、切削工程の管理上優位になる。
【0035】
また、これまでは特に限定しない限り、芯線に素線を使用したが、最近ではφ13μm素線などを撚って可撓性に優れたワイヤーも市販されていることから、本発明においては、ダイヤモンド砥粒などの固着に関して、芯線との接触点が多くなる(ワイヤー表面の凹部への固着で)、ろう材の浸み込み(素線の間のキャピラリー効果により)が大きくなることなどを特徴としたワイヤーソーの実現も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の固定砥粒式ワイヤーソーの態様の一例を示す模式図であり、図1(a)は輪切り断面模式図、図1(b)は要部縦断面模式図である。
【図2】本発明の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法の態様を示す説明図である。
【図3】レーザーを用いた本発明の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法の態様を示す説明図である。
【図4】本発明の固定砥粒式ワイヤーソーの態様の他の一例を示す説明模式図である。
【図5】実施例に用いた固定砥粒式ワイヤーソーの製造装置の態様を示す説明図である。
【図6】実施例に用いた固定砥粒式ワイヤーソーの製造装置におけるV字型ガイドの形状を示す正面模式図である。
【図7】本発明の実施例で用いた水アトマイズ法で作製されたろう(Sn-Ag-Cu)粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例で用いたニッケルを被覆したダイヤモンド砥粒の顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例で示したディスペンサーから芯線に塗布したペーストの顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例で示したワイヤー表面のレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に関わる固定砥粒式ワイヤーソー及びその製造法の代表的な態様について説明する。
【0038】
本発明の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法は、
ろう材の金属粉末と砥粒と有機バインダとを含むペースト状物質を作る工程、
このペースト状物質を金属製芯線の表面に塗布して金属粉末と砥粒とを金属製芯線の表面に定着させる工程、
この金属製芯線の表面に定着された金属粉末と砥粒とを加熱して、金属粉末を溶融させ、次いで凝固冷却する工程、
を含む固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法である。
【0039】
加熱は図2に示すように上記のペースト状物質10が表面に塗布された金属製芯線12を、矢印方向に走行させつつ加熱手段14により加熱することにより行う。ペースト状物質10は、走行する金属製芯線12にディスペンサーなどのペースト状物質付与手段15により、その表面にペースト状物質を均一に薄く、かつ所定の量塗布する。
【0040】
加熱は非接触の加熱であることが好ましい。例えば熱線、誘導加熱、中空熱盤からの輻射などの加熱手段を用いることは可能であるが、図3に示すように、レーザー光照射装置16を用いたレーザー光18の照射による加熱法が最も好ましい。レーザー光の照射による加熱は、局所的加熱がコントロールされた状態でできるため金属製芯線の異常加熱が起こりにくく、均一な溶融状態が得られて好ましい。また、ろう材の溶融状態の調整ができ過度の加熱が生じにくいのでろう材の反応による固着にとっては、最適の溶融状態を容易に実現できるうえで好ましい。
【0041】
レーザー照射のビーム径は金属製芯線の線径の1.5〜2.5倍であることが工程の安定性の点から好ましい。レーザー光の照射は大気中もしくは窒素などの不活性ガス雰囲気で行うことができる。レーザー光は1方向から照射してもよいが、複数方向からワイヤーに対してそれぞれ同時照射してもよい。
【0042】
冷却は自然冷却でよいが、金属間化合物形成の速度や厚みを制御する目的で、送風や窒素ガスの吹き付けなどによる強制冷却を行ってもよい。
【0043】
砥粒としては固定砥粒式ワイヤーソー用の砥粒であれば特に限定されないが、ダイヤモンド砥粒、立方晶系BN砥粒、アルミナ砥粒、炭化珪素砥粒などが例示される。
【0044】
なかでも、ダイヤモンド砥粒は熱伝導率が極めて高いので、ろう材への熱伝達による溶融がすみやかに行われ、近赤外線領域の波長からなるレーザー照射による加熱においては、砥粒の照射の影の部分もすみやかに温度上昇するので、均一な溶融と固着にかかわる化学反応がすみやかに行われる点で好ましい。
【0045】
かかる製造方法により得られる本発明の固定砥粒式ワイヤーソーは、図1に示すように、例えばピアノ線のような金属製芯線1の外周にダイヤモンドのような砥粒2をろう材の溶融により生成された溶融固化層3を介して固着したものである。後述のように、溶融固化層3は砥粒2に被覆されている金属層や金属製芯線1のに被覆されている被覆層との反応で合金もしくは金属間化合物の層を形成する。
【0046】
固定砥粒式ワイヤーソーでは、ワイヤーに負荷する張力が大きいほど切断性能は向上するので、へたりや疲れ強さの向上の期待でき、かつ芯線の引っ張り強さも大きいものほど良好となる。
【0047】
従って、ワイヤーソーとしての金属製芯線には、鋼線が好ましく用いられる。線径は特に限定されないが0.3〜0.05mmのものが好ましい。鋼線には、高炭素鋼や中炭素低合金鋼などの熱処理バネ鋼による線材、硬鋼線、ピアノ線やステンレス線、冷間圧延鋼線やオイルテンパー線などの加工バネ鋼による線材、低合金鋼、中合金鋼や高合金鋼、マルエージング鋼などの高靭性・高疲労強度の鋼線材が挙げられる。
【0048】
伸線されたピアノ線や硬鋼線ワイヤーは、製品や線径によっても変化するが、平均引っ張り強度は、3200〜4000MPaであり引っ張り強度の点で好ましい素材である。
【0049】
しかし、低温焼きなまし温度が、約230℃とされる硬鋼線やピアノ線に比べ、引っ張り強度は劣るものの、250〜350℃の熱処理に曝されても、その引張り強度が2200MPa以下にはならないダイス鋼、ハイス鋼、あるいは冷間加工されたステンレス鋼もまた、合金もしくは金属間化合物の層の析出の温度条件を広範囲に制御できる点で、好適な芯線の候補となる。また、析出硬化型ステンレス鋼もまた、作業温度の影響が析出硬化による強度向上が期待できることや、酸やアルカリ水溶液系の切削液により錆びないことから、好適な芯線と考えて良い。
【0050】
通常、芯線はダイスなどで伸線化するときに残留応力を伴う。その応力を除去し、引っ張り強度に対する弾性限界、降伏点の割合を大きくする目的で、低温焼きなましを施すことがあるが、金属製芯線には加熱による過度の温度上昇をもたらさないよう、ろう材の組成は、溶融温度が300℃以下あるいは同程度の溶融温度となるような設計されたものが好ましい。
【0051】
また、ペーストなどの調整工程を勘案すれば、ろう材の金属粉末の粒径は数ミクロン〜20ミクロンと、砥粒の粒径とほぼ同程度の大きさであることが好ましい。
【0052】
ろう材には錫(Sn)が含まれていることが好ましい。すなわち、ろう材は錫または錫の合金(Sn基合金など)であることが好ましい。金属製芯線表面の金属、あるいは砥粒に被覆された金属が、溶融したろう材にどんどん溶け込み、金属製芯線と砥粒との間に容易に錫を含む合金もしくは金属間化合物の層を形成することによって、化学的に金属製芯線と砥粒とが強固に固着することができる。
【0053】
本発明では、ろう材には錫に加えて銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)から選択された金属、及びそれら合金や金属間化合物の析出・形状、および組織に影響するチタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)などの金属、さらには錫の酸化を抑制するアルミニウム(Al)やガリウム(Ga)、など、ガルバニ電位序列で卑な金属のうち、いずれか1つ以上の金属が添加されていることが好ましい。
【0054】
また、ダイヤモンドとの濡れ性を改善するために、溶融固化層3をNi−Cr−B合金などとすることもあり、前述のようにリン(P)もしくはホウ素(B)を添加することによって、リン化物やホウ化物の微結晶の析出したワイヤーソーとすることもある。
【0055】
ろう材としては、例えば、特許第3027441号、特許第3296289号、米国特許(Patent No.:US6,361,626)などに、高温はんだや半田はんだとして、組成・配合が開示されるものであるが、本発明では、銅や真鍮などを被覆したピアノ線等の芯線とダイヤモンド粒子等の砥粒あるいはニッケル等の金属に被覆された砥粒との間で、ろう材の溶融状態での化学反応を通して安定な合金もしくは金属間化合物の層を形成し、芯線に強固に結合する組成のものとすることができる。
【0056】
金属製芯線表面は、ニッケル、銅、錫、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含む金属層で被覆されていることが好ましい。かかる金属層の存在により、加熱により溶融したろう材を構成する金属と金属製芯線表面の金属層を構成する金属とから化学的に結合した合金もしくは金属間化合物が生成されるものと考えられ、この合金層もしくは金属間化合物を介して金属製芯線と砥粒との強固な固着を得ることができる。さらには、この化学的に結合した合金もしくは金属間化合物は、もとのろう材に比べ融点が高くなることから、出来上がったワイヤーソーが使用時に昇温しても砥粒と芯線との強固な固着を維持することができる。
【0057】
本発明においては、砥粒が、ニッケル、銅、錫、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含む被覆層を有する砥粒であることも好ましい。かかる被覆層の存在により、加熱により溶融したろう材を構成する金属と被覆層を構成する金属とから化学的に結合した合金もしくは金属間化合物が形成され、この合金もしくは金属間化合物の層を介して金属製芯線と砥粒との間に強固な接合を得ることができる。さらには、前記と同様に、この合金もしくは金属間化合物はもとのろう材より融点が高いことが特長となる。
【0058】
図4に示すように
、被覆層5を有する砥粒を用いて得られた本発明の固定砥粒式ワイヤーソー20aにおいては、芯線に塗布されたろう材が加熱されることにより、砥粒2に被覆されている被覆層5の金属と、溶融固化層3の金属とが入り混じって、ろう材を構成する金属と被覆層5を構成する金属とから化学的に結合した合金もしくは金属間化合物の層3aが砥粒2と金属製芯線1との間に生成する。これにより、合金もしくは金属間化合物の層3aを介して砥粒2と金属製芯線1とが強固に結合された状態が実現する。溶融固化層3の、合金もしくは金属間化合物の層3a以外の部分、すなわち、砥粒2に面していない部分7は、ろう材を構成する金属あるいは、ろう材を構成する金属にわずかに被覆層5を構成する金属が混入した状態の層となっている。
【0059】
このように、図4に示す態様にあっては、図1における溶融固化層3が、合金もしくは金属間化合物の層3aと部分7とから構成される構造となっている。
【0060】
これに対して、金属層で被覆された芯線を用いた場合は、芯線に塗布されたろう材が加熱されることにより、芯線に被覆された金属層の金属と、溶融状態のろう材の層の金属とが入り混じって、ろう材を構成する金属と被覆された金属層の金属とから化学的に結合した合金もしくは金属間化合物の層が砥粒2と芯線1との間を含めて芯線の長手方向全体にわたって生成される。すなわち、図1におけるろう材由来の層3が、化学的に結合した合金もしくは金属間化合物の層から構成される構造となる。
【0061】
合金もしくは金属間化合物は、通常合金組成の状態図にあるような包晶あるいは共晶関係から生ずる合金もしくは金属間化合物のいずれかをいう。つまりは、通常の半田等のろう材のような共晶組成域に範囲を限定するもものではなく、凝固過程で形成される結晶相側へ組成をシフトした過共晶組成の合金や金属間化合物をいう。
【0062】
芯線を被覆する溶融固化層3や合金もしくは金属間化合物の層の厚さは、砥粒の粒径の5〜40%であることが砥粒と芯線との強固な固着のうえでは好ましい。この厚さは芯線に塗布するペーストの塗布量により調整される。
【0063】
ペーストに含まれる有機バインダは、有機アミン系活性ロジンあるいはロジン酸から選択されるフラックスを含むことが、芯線の表面を活性化し、ろう材表面の酸化膜層を除去する作用があって好ましい。
【0064】
ワイヤー1の外周に砥粒2の粒径の5〜40%の厚さに形成した溶融固化層3は、焼入れ処理のされている芯材の250℃以上での焼き戻しや焼きなましを避けるため、非接触で加熱し短時間で溶融、冷却固化(凝固)させる方法により形成させる。加熱は上述のように照射面積の小さなレーザー光を用いて行うことが好ましい。
【0065】
溶融固化層3や合金あるいは金属間化合物の層3aの厚さは、芯材に塗布するペーストのろう材金属微粉末、ダイヤモンド等の硬質砥粒の粒度と、それらと有機バインダとの割合によって調整は可能なため、各砥粒2はその一部が溶融固化層3や合金あるいは金属間化合物の層3aに埋まって固着されるが、残りの大部分は溶融固化層3や合金あるいは金属間化合物の層3aから十分露出することができる。露出部分が電着法などに比べて多いため、切削液の廻りや切り屑の排出が容易になり、切削性能が向上した。さらには、ペーストの塗布量分布を調整して粗密をつけながらチップポケット(切り屑のたまる箇所)を積極的に導入することも可能であるため、例えばディスペンサーなどによるペーストの塗布工程によって、ダイヤモンド等の砥粒の集中度を適宜調整することもできる。
【0066】
また、ワイヤーとしては、特に、これまでにも多用されている引っ張り強度の高い硬鋼線やピアノ線の素線を用いることが望ましい。つまり、固定砥粒式ワイヤーソーでは、ワイヤーに負荷する張力が大きければ大きいほど切断性能は向上するので、へたりや疲れ強さの向上が期待でき、かつ芯材の引っ張り強さも大きいほど良好な結果を得ることができる。
【0067】
ピアノ線(JIS G3522)を芯線とした場合について、さらにその具体例を実施例1として説明する。
【実施例】
【0068】
実施例においては図5に示す製造装置50により固定砥粒式ワイヤーソーを製造した。図5においては、芯線(金属製芯線)1が引出しロール42により引出され、V字型ガイド32aで位置決めされて加工ゾーン30に入る。加工ゾーン30には、上流がわから、ペースト39を芯線1に付与するための、シリンジ38、レーザー光線18を照射するレーザー照射装置16、走行する芯線1の位置を検知する位置検知装置36が配置される。加工ゾーン30の出口がわにV字型ガイド32bが配置される。V字型ガイド32a、32bは共通の基盤34に固定され、基盤34は不図示の移動ステージ装置に連結されている。位置検知装置36からの位置情報により移動ステージ装置が駆動されて加工ゾーン30を走行する芯線1が設定された所定の位置を保つように制御されている。これにより、レーザー光線18が常時芯線1に照射されるような状態が保たれる。加工により得られた固定砥粒式ワイヤーソー20が引き取りロール44により引き取られて巻き取りボビン40に巻き取られる。
【0069】
また、芯線1の張力を検知する張力計45が引き取りロール44と引出しロール42の間に設置され、検知された張力が引出しロール42の駆動系にフィードバックされて引出しロール42の引き出し速度が制御され、引き取りロール44と引出しロール42の間で張力が一定となるようコントロールされている。
【0070】
V字型ガイド32a、32bは図6に示すように、V字形の溝が形成されており、芯線1が溝の底部52を通過するように配置される。
【0071】
[実施例1]
ワイヤーの金属製芯線は、所要の柔軟性を確保するために、線径をφ120μmの真鍮によって被覆されたピアノ線とした。
【0072】
ろう材としては、電子情報技術産業協会(JEITA)が標準組成として推奨するSn−3.0%Ag−0.5%Cu(固相線:218℃、液相線:220℃)を用いた。これに、0.2%のアルミニウム(Al)粉末を添加し、溶融した。こうした合金は、図7のSEM(走査型電子顕微鏡)写真に示す、水アトマイズ法によって製造される平均粒径が2μm〜12μmの球状や扁平状粉末として調整された。
【0073】
砥粒2として図8で示すニッケルが被覆されたダイヤモンドの粉末を用いた。砥粒2は、粒径が20〜35μmであり、これを前述のろう材粉末とダイヤモンド粉末に対して有機アミン系活性ロジンフラックスを、70対30(重量%)の割合で混練し、ターピネオールによって粘度を300Pa・sに調整、これをペーストとしてディスペンサー(シリンジ)に充填した。
【0074】
ついで、100μmのノズル径をもつディスペンサーを用いて、図9に示すようにピアノ線芯材上に該ペーストを均質に22〜20μmの膜厚で塗布した。それを出力1W、ビーム径600μmもしくは1300μm、波長:808nmのレーザー光を照射することにより溶融し、その後自然冷却した。
【0075】
溶融状態を判断しながら、ダイヤモンドとろう材との割合は、溶融固化層3の厚さが砥粒2の粒径の5〜40%におさまるように設定した。それは、<5%では砥粒2の保持力が不足し、>40%では、ろう材の量が多くなり、砥粒2の周辺に溶融金属が集まることによって、脆い金属間化合物が砥粒2と芯線との間で成長することになる。
【0076】
このようにして得られた固定砥粒式ワイヤーソー表面のレーザー顕微鏡写真を図10に示す。
【0077】
加熱処理後のワイヤーの電子線回折像や粉末X線回折図形より、(Ni,Cu)Sn相、(Ni,Cu)Sn相および(Ni,Cu)Sn相と同定されるものが得られた。
【0078】
シリコンインゴットに対するマイクロスクラッチ法(ロードセル法)での比較試験をおこなったところ、電着法などに比べ、ロウ材で芯材へ化学的固着を行った実施例1での固着強度は、1.5〜2倍の値(平均)になっていることがわかった。
【0079】
実施例1においては芯線のレーザー光照射内の移動時間を50mm/秒以内で適宜調整することによって、ろう材の溶融・凝固状態に変化が認められた。この際、付属する非接触赤外線表面温度計からの溶融温度は、220℃以上270℃以下の範囲とすることが好ましいことがわかった。220℃未満ではろう材が十分に溶融し切れず、メタライジングが均一にはおこなわれない。逆に、270℃を越えると芯線の焼きもどし温度を越えてしまう可能性が高く、引っ張り強度がウェハ切断時における負荷(20〜27N)に対して、ワイヤーとして必要な2200MPaを下回る値(芯線の切断)になることがわかった。
【0080】
[実施例2]
実施例2の固定砥粒式ワイヤーソーは、前記の実施例1において、ホウ素(B)を0.1%添加したろう材を用いた場合の結果である。この場合、あらかじめ砥粒2に錫もしくは銅等のろう材に対する濡れ性をよくするためのニッケルにより被覆したダイヤモンド砥粒を用いた。その他の構成は、実施例1の場合と同様である。Ni(もしくはCu)−B合金等の金属間化合物が形成すると予測されたが、粉末X線回折法では、特に該合金と同定するものは確認できなかった。しかし、スクラッチテストの結果から、ホウ素の添加によって、固着力は数〜10%程度増加することがわかった。
【0081】
[実施例3]
実施例3は、ろう材粉末とダイヤモンド砥粒、および有機アミン系活性ロジンを57.1:4.9:38(重量%)で含むものを、エタノールにより粘度を100〜1000Pa・sに調整したペーストを用いて実施した結果である。ペーストの分散混合には円筒容器の内壁及びブレードがジルコニア等のセラミックス材で作製されたプラネタリーミキサーを用いた。次いで、ワイヤー表面に均一に塗布するよう、該ペーストをディスペンサーによって20〜22μmの厚さになるよう塗布した。ピアノ線には銅を鍍金した市販のφ120μmのものを用いた。ろう材としては、ダイヤモンド砥粒と化学的に結合し易いTi成分を含む合金、つまりSn−3.9Ag−0.6Cu−0.1Ti合金を実施例1の水アトマイズ法を用いて作製した。Tiは、酸素が存在すると酸化し、酸化チタンを析出し易く、そのために接着強度が低下する。従って、例えペースト内にロジンなどのフラックスが含まれていても、できる限り窒素などの不活性ガス中での作業が好ましいことがわかった。レーザー光照射による加熱操作については、実施例1と同様にした。得られた結果は、実施例1と同程度の引っ張り強度(2920MPa)を有するワイヤーソーとなることがわかった。
【0082】
芯線に被覆した前記ペーストを照射するためのレーザー照射装置は、ペーストを塗布するためにディスペンサー装置、ならびに雰囲気や冷却条件を制御するための窒素ガスの噴射装置が付置される。ワイヤー表面に被覆される活性ろう材金属層に、808nmの波長のレーザー光を集中させ、溶融温度以上あるいは同等の温度で加熱・溶融する。このようにして製造された固定砥粒式ワイヤーソーは、50mm/秒の速度でボビンに巻き取った。
【0083】
非接触型レーザー光による局部的加熱で瞬時に溶融したろう材の温度は、表面と内部とは異なることから、赤外線温度計によっても正確に求めることはできない。しかし、ワイヤーの巻き取り(送り)速度との組み合わせで、溶融固化層の厚さを適宜変化させることができた。従って、ダイヤモンド砥粒の保持力や付着量については、所定の数値の範囲にあるスクラッチテストの結果を踏まえて、逐次調整した。
【0084】
上記の非接触型のレーザー加熱法によると、各工程は短時間に完了するため、従来の電着法等に比べ固定砥粒式ワイヤーソーの圧倒的な高速生産が可能であった。
【0085】
[実施例4]
実施例3と相違する点は、アビエチン酸、パラストリン酸などのロジン酸からなるフラックスに対して5〜7重量%のエタノールで希釈したものを混和する点にある。この場合、フラックスは実施例3に比べて、ニッケルを被覆したダイヤモンド粒子の表面に付着し易くなり、フラックスが熱分解を開始する220〜300℃の温度域では、高い耐酸化性でのあることが確認された。その他の構成は前記の実施の形態と同様である。しかしながら、ろう付け後にフラックスを除去するという作業が必要になるため、フラックスの溶ける40〜60℃の温水処理を行った。よって、作業性から、レーザー照射位置と巻き取りボビンとの間にフラックスの洗浄装置を設けた。
【0086】
該固定砥粒式ワイヤーソーは、周面に溝を切ったプーリーに巻回されてループを形成した切断装置に設備され、156mm×156mm×540mmの大きさからなるシリコンブロックに、26N(ニュートン)の荷重にて押しつけた状態で、プーリー回りに大きく曲げられ、600m/分の速度で走行させた。従来のレジンボンド法や電着法によるワイヤーソーに比べて曲げ強度を大幅に向上させることができ、プーリーの周面や被切削物の表面を曲がっても砥粒が脱落したり、芯線が断線したりするということなどはなかった。したがって、安定した切削性とシリコンウェハに良好な面粗度(Ra=0.1μm)を得ることができた。
【0087】
なお、本願発明は必ずしも上記実施例に限定されるものではなく、上記実施例に示した以外の砥粒、例えば、立方晶系BN砥粒、アルミナ砥粒、SiC砥粒などにも用いることができる。特に、ニッケルあるいは、銅、亜鉛、銀などの金属によって被覆されたものは、該ろう材との反応性および析出合金相が、おおよそ同じものとなることが、粉末X線回折法による相同定、レーザー顕微鏡によるワイヤー表面の凹凸観察(面粗さ測定)、走査型電子顕微鏡による観察結果から確認されたことにより、容易に芯線への固着が可能であると考えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により得られる固定砥粒式ワイヤーソーは、シリコン、砒化ガリウム、銅・インジュウム・セレン(CIS)などの単結晶ないしは多結晶インゴットからTFT用基板、太陽電池用基板や化合物半導体レーザー用基板、あるいは磁性体、水晶、ガラスなどから光学・磁気用基板などとして、たとえば100〜200μmの厚みからなる複数枚のウエハーを同時に効率良く切り出すために必要不可欠なツールである。
【符号の説明】
【0089】
1、12:金属製芯線
2:砥粒
3:溶融固化層
3a:合金もしくは金属間化合物の層
5:被覆層
10:ペースト状物質
14:加熱手段
16:レーザー光照射装置
18:レーザー光
20、20a:固定砥粒式ワイヤーソー



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろう材の金属粉末と砥粒、および有機バインダとを含むペースト状物質を作る工程、該ペースト状物質を金属製芯線の表面に塗布して前記金属粉末と前記砥粒とを金属製芯線の表面に定着させる工程、該金属製芯線の表面に定着された前記金属粉末と前記砥粒とを加熱して、前記金属粉末を溶融させ、次いで冷却する工程、を含む固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項2】
前記金属製芯線の表面に定着された前記金属粉末と前記砥粒との加熱が、前記金属製芯線の表面に定着された前記金属粉末と前記砥粒とにレーザー光を照射してなされる請求項1に記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光のビーム径が前記金属製芯線の線径の1.5〜2.5倍である請求項1または2に記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項4】
前記砥粒が、ダイヤモンド砥粒、立方晶系BN砥粒、アルミナ砥粒、炭化珪素砥粒から選ばれたものである請求項1から3のいずれかに記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項5】
前記ろう材が、溶融温度が300℃以下の合金である請求項1から4のいずれかに記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項6】
前記ろう材が、錫、銀、銅、亜鉛から選択された金属を含み、さらに、チタン、クロム、ニッケル、アルミニウム、ガリウムから選択される1つ以上の金属が添加されたものである請求項5に記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項7】
前記金属製芯線が、ニッケル、銅、錫、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含む金属層で被覆された芯線である請求項5または6に記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項8】
前記砥粒が、ニッケル、銅、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含む被覆層を有する砥粒である請求項5から7のいずれかに記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項9】
前記レーザー光が、照射により前記ろう材が溶融して前記金属層及び/または前記被覆層とで前記砥粒の粒径の5〜40%の厚さの合金もしくは金属間化合物の層を形成するように調整されて照射され、前記砥粒が化学的に前記金属製芯線に固着される請求項7または8に記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項10】
前記ろう材が、0.3〜5重量%のリンもしくはホウ素を添加してなるものである請求項1から9のいずれかに記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項11】
前記有機バインダが、有機アミン系活性ロジン、ロジン酸から選択されるフラックスを含む請求項1から10のいずれかに記載の固定砥粒式ワイヤーソーの製造方法。
【請求項12】
金属製芯線の外周に、砥粒を固着させてなるワイヤーソーであって、前記砥粒が、化学的に結合した合金もしくは金属間化合物の層を介して前記金属製芯線に固着されてなる固定砥粒式ワイヤーソー。
【請求項13】
前記化学的に結合した合金もしくは金属間化合物の層が錫を含む請求項12に記載の固定砥粒式ワイヤーソー。
【請求項14】
前記金属製芯線が、ニッケル、銅、錫、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含む金属層で被覆された芯線である請求項12または13に記載の固定砥粒式ワイヤーソー。
【請求項15】
前記砥粒が、ニッケル、銅、真鍮、銀から選択された1種以上の金属を含む被覆層を有する砥粒である請求項12から14のいずれかに記載の固定砥粒式ワイヤーソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−201602(P2010−201602A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52810(P2009−52810)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000133685)株式会社TKX (8)
【Fターム(参考)】