説明

圧電材料、圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置

【課題】 配向度の高いニオブ酸バリウムビスマスカルシウム系のタングステンブロンズ構造金属酸化物の圧電材料、それを用いた圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置を提供する。
【解決手段】 そのための本発明は少なくともBa、Bi、Ca、Nbの金属元素を含み、前記金属元素がモル換算で以下の条件を満たすタングステンブロンズ構造金属酸化物を含有する圧電材料であって、前記圧電材料にWが含有されており、前記Wの含有量が前記タングステンブロンズ構造金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.4重量部以上2.0重量部以下であり、前記タングステンブロンズ構造金属酸化物がc軸配向を有することを特徴とする圧電材料。Ba/Nb=aとしたときのaが:0.37≦a≦0.40、Bi/Nb=bとしたときのbが:0.02<b≦0.0650、Ca/Nb=cとしたときのcが:0.007<c≦0.10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電材料に関するものであり、特に鉛を含有しない圧電材料に関する。また、それを用いた圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種圧電デバイスに用いられている圧電材料の大半は、鉛を含有するチタン酸ジルコン酸鉛である。これら鉛含有圧電材料を、鉛を含有しない圧電材料(非鉛圧電材料)で置換しようという試みが行われている。これは、鉛含有圧電デバイスが一旦廃棄され酸性雨を浴びると、圧電材料中の鉛成分が土壌に溶け出し、生態系に害を成す可能性が指摘されているからである。そのため非鉛圧電材料の提案がなされている。
【0003】
非鉛圧電材料としては、例えば、ニオブ酸バリウムビスマスを主成分とするタングステンブロンズ構造の材料がよく知られている。特許文献1にはニオブ酸バリウムリチウムを主成分とし、ニオブ酸ビスマスを副成分として含有する材料系が開示されている。しかしながら、タングステンブロンズ構造は結晶の単位格子が大きな形状異方性を有するため、分極軸方向が短手方向のc軸方向のみに存在する。そのため、圧電に寄与できる有効なドメインが少なく、圧電特性が不十分であった。
【0004】
また、タングステンブロンズ構造の非鉛圧電材料の特性を上げる手段として、圧電材料を磁場配向させる手段が検討されている。磁場配向を用いると、圧電に寄与できる有効なドメインを増やすことが可能となる。特許文献2には磁場配向を行う際に、異方性粒子を出発材料に用いることにより、配向度を向上させる手段が開示されている。しかしながら、この方法は、出発材料として異方性粒子を取りうる圧電材料のみに適用できるため、適用できる圧電材料の組成が限定されてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−72466号公報
【特許文献2】特開2008−208004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は鉛を含まず、配向度の高いニオブ酸バリウムビスマスカルシウム系のタングステンブロンズ構造金属酸化物の圧電材料を提供する。また、それを用いた圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための圧電材料は、少なくともBa、Bi、Ca、Nbの金属元素を含み、前記金属元素がモル換算で以下の条件を満たすタングステンブロンズ構造金属酸化物を含有する圧電材料であって、前記圧電材料にWが含有されており、前記Wの含有量が前記タングステンブロンズ構造金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.40重量部以上2.0重量部以下であり、前記タングステンブロンズ構造金属酸化物がc軸配向を有することを特徴とする。
Ba/Nb=aとしたときのaが : 0.37≦a≦0.40
Bi/Nb=bとしたときのbが : 0.020≦b≦0.065
Ca/Nb=cとしたときのcが : 0.007≦c≦0.10
前記課題を解決するための圧電素子は、第一の電極、前記圧電材料および第二の電極を少なくとも有することを特徴とする。
前記課題を解決するための液体吐出ヘッドは、前記圧電素子を用いることを特徴とする。
前記課題を解決するための超音波モータは、前記圧電素子を用いることを特徴とする。
前記課題を解決するための塵埃除去装置は、前記圧電素子を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、配向度の高いニオブ酸バリウムビスマスカルシウム系のタングステンブロンズ構造金属酸化物の圧電材料を提供することができる。また、本発明の圧電材料は鉛を使用していないため、生態系への負荷が少ない圧電材料を提供することができる。さらに、耐久性のよい圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の圧電材料にかかるθ−2θ測定のX線回折(XRD)の結果を示す。
【図2】本発明の圧電素子を示す概略図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの一実施態様を示す概略図である。
【図4】本発明の超音波モータの一実施態様を示す概略図である。
【図5】本発明の塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明の圧電材料は、少なくともBa、Bi、Ca、Nbの金属元素を含み、前記金属元素がモル換算で以下の条件を満たすタングステンブロンズ構造金属酸化物を含有する圧電材料であって、前記圧電材料にWが含有されており、前記Wの含有量が前記タングステンブロンズ構造金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.4重量部以上2.0重量部以下であり、前記タングステンブロンズ構造金属酸化物がc軸配向を有する。
Ba/Nb=aとしたときのaが: 0.37≦a≦0.40
Bi/Nb=bとしたときのbが: 0.020≦b≦0.065
Ca/Nb=cとしたときのcが: 0.007≦c≦0.10
【0012】
本発明において「タングステンブロンズ構造」とは、エレクトロクロミック現象で知られるHWO(タングステンブロンズ)や、六方晶タングステンブロンズ構造(Hexagonal Tungsten Bronze、HTB)ではなく、一般にいう正方晶タングステンブロンズ構造(Tetragonal Tungsten Bronze、TTB)を指す。
【0013】
前記圧電材料はタングステンブロンズ構造金属酸化物であり、少なくともBa、Bi、Ca、Nbから構成される。ここでBa、Bi及びCaはAサイトを占有し、NbはBサイトを占有すると考えられる。タングステンブロンズ構造がBa、Bi、CaおよびNbから構成されると、高いキュリー温度と共に、高い機械的品質係数と高い圧電性を有する圧電材料を提供することができる。圧電材料がタングステンブロンズ構造であることは、例えば、X線回折から判断することが出来る。タングステンブロンズ構造は、2θ−θ測定の際に、2θ=22.5°付近に(001)面の回折が、2θ=32.1°付近に(211)面の回折が、46.2°付近に(002)面の回折が、それぞれ現れることが特徴的である。
【0014】
モル換算とは、タングステンブロンズ構造型金属酸化物から蛍光X線分析、ICP発光分光分析、原子吸光分析などにより測定された、Ba、Bi、CaおよびNbといったタングステンブロンズ構造を構成する元素の物質量をモル比に換算することを表す。ここで、モル換算のBaとNbの比であるaは、0.37≦a≦0.40である。モル換算のBaとNbの比であるaは、0.37より小さいとキュリー温度が低くなり室温領域での圧電材料として機能しなくなる恐れがあり、0.40より大きいと圧電特性が低くなる。
【0015】
また、モル換算のBiとNbの比であるbは、0.020≦b≦0.065である。モル換算のBiとNbの比であるbは、0.020より小さいと圧電特性が低くなり、0.065より大きくなるとキュリー温度が低くなり室温領域での圧電材料として機能しなくなる恐れがある。
【0016】
また、モル換算のCaとNbの比であるcは、0.007≦c≦0.10である。モル換算のCaとNbの比であるcは、0.007より小さいとキュリー温度が低くなり室温領域での圧電材料として機能しなくなる恐れがある。また、0.10より大きいと焼結後粒子が異常粒成長をしてしまい圧電材料として機械的強度を失ってしまう恐れがある。ここで言う異常粒成長とは、粒径サイズが200μm以上の大きさとなって、通常の数μmの粒子との混在によりばらつき及び機械的強度が劣化するものである。
【0017】
金属換算とは、タングステンブロンズ構造型金属酸化物から蛍光X線分析、ICP発光分光分析、原子吸光分析などにより測定されたBa、Bi、Ca、NbおよびWの各金属の含有量から、Ba、Bi、Ca、Nbといったタングステンブロンズ構造を構成する元素を酸化物換算し、その総重量に対するW重量の比によって求められた値を表す。
【0018】
結晶を構成する単位格子の辺に沿った三つの軸を、a軸、b軸、c軸と言う。一般に、タングステンブロンズ構造は直方体状の単位格子をもち、三つの軸は互いにほぼ直交する。ここで、各軸の長さを軸長と言う。タングステンブロンズ構造のc軸長はa軸長、b軸長に比べて約3分の1程度と短い。c軸方向に存在する。また、本明細書中における(00l)面とは、c軸を法線とする面のことである。
【0019】
本明細書中における「配向」とは、対象とする結晶面の全部もしくは一部分が、特定の方向に揃っている状態のことを指す。また、本明細書中における「配向度」とは、前記配向の程度を表しており、対象とする結晶面が特定の方向に揃っている部分が多いほど、配向度が高い状態といえる。ここで、c軸配向とはc軸方向に存在する結晶面が揃っていることであり、(00l)面が揃っている状態を指す。すなわち、c軸配向と(00l)面配向とは同義である。また、圧電材料としてのタングステンブロンズ構造の機能発生軸である分極軸方向は、c軸方向に存在する。そのため、タングステンブロンズ構造金属酸化物は、c軸配向することにより圧電特性が増大する。
【0020】
一般に、タングステンブロンズ構造金属酸化物は、A4〜61030の化学式で表現される。前記化学式中のAはAサイトのことであり、A1サイト(12配位であり、c軸方向から眺めて四角形のサイト)とA2サイト(15配位であり、c軸方向から眺めて五角形のサイト)の両者を区別せずに指す。Ba、Biは、酸素八面体の周囲に存在するA1サイトまたはA2サイトと呼ばれる二種類の特定位置のいずれかを主に占める。ここで、A1サイトとA2サイトの和は6が最大値である。
【0021】
また、前記化学式中のBはBサイトのことであり、5価の元素が主に存在する。本発明においてBは主にNbであり、酸素八面体の内部に存在する。
【0022】
本発明においてWはBサイトを一部占有することがある。ただし、必ずしもWはサイトを占有しなくても構わない。また、Wの含有形態は酸化物、金属、金属イオンのいずれの状態でも構わない。
【0023】
本発明の圧電材料にWを含有することにより、タングステンブロンズ構造金属酸化物の比誘電率は増大し、それに伴い圧電定数も増大する。また、Wを含有することにより磁気感受性の異方性が増大し、磁場配向した際に配向度が向上する。これは、WがBサイトのNbを部分置換することにより、単位格子の各方位の磁気感受性もしくは磁気モーメントが変化した結果、結晶の各方位間の磁気感受性の差異より、異方性が増大するためであると考えられる。この現象は、6価のWイオンのイオン半径(0.062nm)が、Nbのイオン半径(0.069nm)と似た大きさをもつことが原因であると思われる。すなわち、Wを含有することにより、磁場処理に伴う配向度の向上と共に、比誘電率の増大という2つの効果がある。その結果、本発明の圧電材料の圧電定数は、大幅に増大する。
【0024】
さらに、Wの含有量は、前記タングステンブロンズ構造金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.4重量部以上2.0重量部以下である。Wの含有量が2.0重量部より多いと、キュリー温度が著しく低下する恐れがある。そして、キュリー温度が低下すると、分極処理が困難になり、圧電材料が本来持っている圧電特性を発揮できなくなる恐れがある。また、Wの含有量が0.4重量部より少ないと、Wを含有しないときと特性が変わらない恐れがある。好ましくは、1.0重量部以上1.6重量部以下である。
【0025】
さらに本発明の圧電材料は、X線回折法において、前記タングステンブロンズ構造金属酸化物のc軸配向の度合い(=(00l)面の配向度)を示すロットゲーリングファクターFが0.73以上1.00以下であることが好ましい。
【0026】
配向の程度を示す指標はいくつかあるが、本明細書中では配向度をロットゲーリングファクターFを用いる。ロットゲーリングファクターFは、0より大きければ対象とする結晶面が配向していることを意味する。
【0027】
ロットゲーリングファクターFは0.73より小さいと、圧電に寄与できる有効なドメインが少なく、圧電特性が十分ではない。また、ロットゲーリングファクターFは、F=1に近付くほど、圧電に寄与できる有効がドメインが多くなるので、圧電定数が増大する。ここで、ロットゲーリングファクターFがF=1であるときは、検出されるピークが対象とする結晶面から回折ピークのみであることを示す。つまり、X線回折法で検出できるレベルの結晶の全てが、対象とする方位に揃って、配向していることを示す。
【0028】
ロットゲーリングファクターFは、X線回折の2θ−θ測定により算出される。2θが10°から70°の範囲で、対象とする結晶面から回折されるX線の積分ピーク強度Iを用いて、式1により計算する。
F=(ρ−ρ)/(1−ρ) (式1)
【0029】
ここで、ρは無配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、c軸配向の場合、全回折強度の和とに対する(00l)面(c軸と垂直な全ての面、l=1、2)の回折強度の合計の割合として、式2により求める。
ρ=ΣI(00l)/ΣI(hkl) (式2)
ρは配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、c軸配向の場合は全回折強度の和に対する(00l)面の回折強度の合計の割合として、上式2と同様に式3により求める。
ρ=ΣI(00l)/ΣI(hkl) (式3)
【0030】
本発明の圧電材料は、前記圧電材料にMnが含有されており、前記Mnの含有量が前記タングステンブロンズ構造金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.150重量部以上0.480重量部以下である。
【0031】
本発明の圧電材料は、Mnを含有することにより、ロットゲーリングファクターFを損なうことなく、機械的品質係数Qmを向上させることが出来る。Mnの含有量は0.16重量部以上0.48重量部以下である。Mnの含有量が0.16重量部より少ないと、Mnを含有しないときと特性が変わらない恐れがある。また0.48重量部より多いと、圧電特性が劣化する恐れや、異相が発生する恐れがある。好ましくは0.20重量部以上0.40重量部以下である。ここで、機械的品質係数Qmとは圧電材料を振動子として評価した際に、振動による弾性損失を表す係数であり、機械的品質係数の大きさを電気的に測定すると、共振曲線の鋭さとして観察される。つまり、振動子の共振の鋭さを表す定数である。
【0032】
本発明の圧電材料において、Mnが存在する領域は限定されない。前記Mnがサイトを占有していても、サイトを占有せずに粒界に存在していても構わない。また、Mnの含有形態は酸化物、金属、金属イオンのいずれの状態でも構わない。金属イオンの場合、価数は2価、3価、4価および6価のいずれでも構わない。
【0033】
本発明の圧電材料の製造を容易にしたり、本発明の圧電材料の物性を調整したりする目的で、タングステンブロンズ構造金属酸化物のAサイトにSr、Mgを、BサイトにNb以外の元素を含ませても良い。Bサイトに含ませる元素はTaやVといった5価の金属元素だけでなく、3価もしくは4価の金属元素も好ましい。例えば、Fe、Al、Ti、Zrが挙げられる。Bサイトに含ませる前記元素の含有量は、Bサイト元素のうちの20モル%以下であることが望ましい。更に好ましくは5モル%以下である。Bサイト元素の総価数の減少分は、Aサイト元素量を増やすことで相殺することが望ましい。
【0034】
本発明の圧電材料の製造を容易にしたり、本発明の圧電材料の物性を調整したりする目的で、圧電材料にCu、Zn、Coなどの元素を添加しても良い。添加元素の量は、タングステンブロンズ構造金属酸化物100重量部に対して、5重量部以下であることが望ましい。5重量部よりも多く添加すると、非タングステンブロンズ構造が発生したり、絶縁性が低下したりするからである。
【0035】
本発明の圧電材料の各サイトを占める金属元素は、例えばリートベルト法を用いて判別することができる。リートベルト法では各サイトを占める金属種だけでなく、その割合も特定することができる。
【0036】
上記の圧電材料を構成する金属の酸化物、硝酸塩や蓚酸塩等の原料を用いて作製した粉体やスリップキャスト法を用いた成型体を常圧下で焼結する一般的な方法で行うことができる。これ以外にも通電加熱法やマイクロ波焼結法、ミリ波焼結法、熱間等方圧プレスといった手法も採用することが出来る。磁場配向に適しているという観点では、スラリーを使用するスリップキャスト法を用いた成型体を常圧下で焼結する方法が好ましい。
【0037】
本発明の圧電材料の配向方法は、特定の方法に限定されない。例えば、ドクターブレードを用いた粒子配向法や強磁場を用いた磁場配向法を用いることができる。c軸配向の成型体を得やすいという観点では、磁場配向法が好ましく、回転磁場法による磁場配向がより好ましい。
【0038】
また、WやMn等は前記タングステンブロンズ構造金属酸化物に含まれせる方法は特定の方法に限定されない。例えば、タングステンブロンズ構造金属酸化物を構成する元素のみを混合、仮焼し、反応させた後にWを含有させても構わないし、タングステンブロンズ構造金属酸化物を構成する元素とともにWを混合、仮焼させて同時に反応させても構わない。
【0039】
図2は、本発明の圧電素子を示す概略図である。本発明の圧電材料は圧電素子に設けられた第一の電極、第二の電極からなる。第一、及び第二電極は圧電材料の一つの面にそれぞれ設けても良いし、圧電材料を挟持して備えられていてもよい。
【0040】
図3は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。図1(a)(b)に示すように、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電素子101を有する液体吐出ヘッドである。圧電素子101は、第一の電極1011、圧電材料1012、第二の電極1013を少なくとも有する圧電素子である。圧電材料1012は、図3(b)の如く、必要に応じてパターニングされている。
【0041】
図3(b)は液体吐出ヘッドの模式図である。液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。図において圧電素子101は矩形状だが、その形状は、楕円形、円形、平行四辺形等の矩形以外でも良い。一般に、圧電材料1012は個別液室102の形状に沿った形状となる。
【0042】
本発明の液体吐出ヘッドに含まれる圧電素子101の近傍を図3(a)で詳細に説明する。図3(a)は、図3(b)に示された液体吐出ヘッドの幅方向での圧電素子の断面図である。圧電素子101の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。
【0043】
図中では、第一の電極1011が下部電極、第二の電極1013が上部電極として使用されている。しかし、第一の電極1011と、第二の電極1013の配置はこの限りではない。例えば、第一の電極1011を下部電極として使用しても良いし、上部電極として使用しても良い。同じく、第二の電極1013を上部電極として使用しても良いし、下部電極として使用しても良い。また、振動板103と下部電極の間にバッファ層108が存在しても良い。
【0044】
なお、これらの名称の違いはデバイスの製造方法によるものであり、いずれの場合でも本発明の効果は得られる。
【0045】
前記液体吐出ヘッドにおいては、振動板103が圧電材料1012の伸縮によって上下に変動し、個別液室102の液体に圧力を加える。その結果、吐出口105より液体が吐出される。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンタ用途や電子デバイスの製造に用いる事が出来る。
【0046】
振動板103の厚みは、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。振動板のSiにBやPがドープされていても良い。また、振動板上のバッファ層、電極層が振動板の一部となっても良い。
【0047】
バッファ層108の厚みは、5nm以上300nm以下であり、好ましくは10nm以上200nm以下である。
【0048】
吐出口105の大きさは、円相当径で5μm以上40μm以下である。吐出口105の形状は、円形であっても良いし、星型や角型状、三角形状でも良い。
【0049】
次に、本発明の圧電素子を用いた超音波モータについて説明する。
【0050】
図4は、本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。
【0051】
本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、図4(a)に示す。超音波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成される。
【0052】
本発明の圧電素子に位相がπ/2異なる二相の交流電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。
【0053】
圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の超音波モータは、この原理を利用したものである。
【0054】
次に、積層構造を有した圧電素子を含む超音波モータを図4(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料により構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって締結され、圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
【0055】
圧電素子2042に位相の異なる交流電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
【0056】
ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
【0057】
次に、本発明の圧電素子を用いた塵埃除去装置について説明する。
【0058】
図5(a)および図5(b)は本発明の塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。塵埃除去装置310は板状の圧電素子330と振動板320より構成される。振動板320の材質は限定されないが、塵埃除去装置310を光学デバイスに用いる場合には透光性材料や光反射性材料を振動板320として用いることができる。
【0059】
前述したように本発明の圧電素子は、液体吐出ヘッドや、超音波モータ等に好適に用いられる。液体吐出ヘッドとしては、タングステンブロンズ構造金属酸化物を含む非鉛圧電材料により、鉛系と同等以上のノズル密度、吐出力を有するヘッドを提供できる。また、超音波モータとしては、タングステンブロンズ構造金属酸化物を含む非鉛圧電材料により、鉛系と同等以上の駆動力および耐久性のあるモータを提供できる。さらに、塵埃除去装置としては、タングステンブロンズ構造金属酸化物を含む非鉛圧電材料により、鉛系と同等以上の塵埃除去効率を有する塵埃除去装置を提供できる。
【0060】
本発明の圧電材料は、液体吐出ヘッド、モータに加え、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、強誘電体メモリといったデバイスに用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明の圧電材料をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0062】
(実施例1から7)
所定量W添加のタングステンブロンズ構造金属酸化物を作成した。まず原料には、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ粉末を用い、所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。
【0063】
仮焼は、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、950℃、5hの条件で焼成することにより行なった。この後、乳鉢で粉砕した後、再度、アルミナ製の坩堝に前記混合粉と所定量の酸化タングステンを仕込み、電気炉を用いて、大気中、1100℃、5hの条件で焼成を行った。
【0064】
スラリーの調製は、上記の仮焼で得た粉末と純水、ディスパーサントを所定量で混合し、ポットミルを用いて、分散処理を行なった。
【0065】
磁場処理には、超電導マグネット(JMTD−10T180:ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)製)を用いた。超電導マグネットにより10Tの磁場を発生させ、磁界中で回転駆動が可能な非磁性型超音波モータを用いてテーブルを磁界方向に対し、垂直方向に30rpmで回転させた。このテーブル上に石膏を静置し、回転駆動中に、テーブル上の石膏中へスラリーを流し込むことでスリップキャスト法による成形を行ない、円盤の形状の成形体を得た。
【0066】
本焼成は、上記の成形体を用いて、電気炉を用いて、大気中、1300℃から1350℃、6hの条件で焼成を行なった。いずれの焼結体も異常粒成長粒子の無いものであり、機械的強度のあるものであった。ここで、得られた焼結体の密度をアルキメデス法で評価を行なった。また、得られた焼結体は、表面切削後、XRD(X線回折)による構造解析と蛍光X線解析による組成解析を行った。
【0067】
図1にθ−2θ測定のX線回折(XRD)の結果を示す。図1の上段が実施例1の圧電材料の測定結果で、下段が比較例1の材料の測定結果である。この結果より、どちらのプロファイルもタングステンブロンズ構造金属酸化物であることが分かった。更に、実施例1において、(001)に帰属するピーク強度が強く、c軸配向がなされていることが分かった。このXRDの結果から、ロットゲーリングファクターFの算出を行なった。
【0068】
また、組成分析の結果から得られた圧電材料は(1−x)・Ca1.4Ba3.6Nb1030−x・BaBi0.67Nb1030(0.30≦x≦0.95)の式で表されるタングステンブロンズ構造金属酸化物であることが分かった。次に、焼結した円盤形状のタングステンブロンズ構造金属酸化物を厚さ1mmに研磨の後、Au電極をスパッタ装置を用い両面に500μm厚で形成し、切断装置を用いて2.5mm×10mmに切断し、電気特性評価用の圧電素子とした。
【0069】
分極処理は、温度100℃、印加電界40kV/cm、印加時間20minの条件で行なった。分極の状態は共振反共振法で確認した。圧電特性はd33メータ(Piezo Meter System:PIEZOTEST社製)を用いて評価した。
【0070】
得られた圧電材料の組成、ロットゲーリングファクターF、d33の結果を、表1に示す。ここでaはモル換算のBaとNbの比、bはモル換算のBiとNbの比、cはモル換算のCaとNbの比の比をそれぞれ表す。ここでロットゲーリングファクターFは、(00l)面の配向度を示すロットゲーリングファクターFである。また、表1内のW重量部とは、Ba、Bi、Ca、Nbといったタングステンブロンズ構造を構成する元素を酸化物換算し、その総重量に対するW金属の重量の比を表す。
【0071】
(比較例1から比較例4)
粉末の秤量から電気特性評価まで、実施例1から7と磁場処理も含めて同様の方法で行い比較例1から4のサンプルを得た。得られた圧電材料の組成、F、d33の結果を、表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1より、本発明の実施例は、比較例に比べて高い配向度と高い圧電定数を得たことが分かる。実施例1〜7に対する比較例1および比較例2からわかるように、Wを含有しない、もしく含有量が少ないと、磁場に対する感受性が乏しくロットゲーリングファクターFの向上、及びd33の向上の効果は見込めないことがわかる。また、Wの含有量が3.0重量部のサンプルの場合は、キュリー温度80℃と著しく低下してしまい、分極処理が困難となり、圧電定数d33は20[pC/N]と十分な圧電特性ではなかった。したがって、Wの含有量は、0.40重量部以上で2.00重量部以下が望ましいことが示唆された。
【0074】
さらに、比較例3、比較例4からは、BiまたはCaがまったく含まれていない場合には、たとえWを十分に含有していたとしても、磁場処理によるロットゲーリングファクターFの向上は見られなかった。
【0075】
(実施例8から実施例10)
以下に説明する圧電材料は、前述した実施例の圧電材料に対して、さらにMnを含有している点が異なる。
【0076】
所定量W添加のタングステンブロンズ構造金属酸化物(1−x)CBN−xBBN(0≦x≦1)x=0.75の圧電材料を作成した。まず原料には、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ、酸化マンガン粉末を用い、所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。
【0077】
仮焼は、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、950℃、5hの条件で焼成することにより行なった。この後、乳鉢で粉砕した後、再度、アルミナ製の坩堝に前記混合粉と所定量の酸化タングステンを仕込み、電気炉を用いて、大気中、1100℃、5hの条件で焼成を行った。
【0078】
スラリーの調製は、上記の仮焼で得た粉末と純水、ディスパーサントを所定量で混合し、ポットミルを用いて、分散処理を行なった。
【0079】
磁場処理には、超電導マグネット(JMTD−10T180:ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)製)を用いた。超電導マグネットにより10Tの磁場を発生させ、磁界中で回転駆動が可能な非磁性型超音波モータを用いてテーブルを磁界方向に対し、垂直方向に30rpmで回転させた。このテーブル上に石膏を静置し、回転駆動中に、テーブル上の石膏中へスラリーを流し込むことでスリップキャスト法による成形を行ない、円盤の形状の成形体を得た。
【0080】
本焼成は、上記の成形体を用いて、電気炉を用いて、大気中、1300℃から1350℃、6hの条件で焼成を行なった。いずれの焼結体も異常粒成長粒子の無いものであり、機械的強度のあるものであった。ここで、得られた焼結体の密度をアルキメデス法で評価を行なった。また、得られた焼結体は、表面切削後、XRD(X線回折)による構造解析と蛍光X線解析による組成解析を行った。
【0081】
X線回折(XRD)の結果より、得られた焼結体はタングステンブロンズ構造金属酸化物であることが分かった。更に、本発明の製造方法である磁場処理を行なった実施例8から10において、(001)に帰属するピーク強度が強く、c軸配向がなされていることが分かった。このXRDの結果から、ロットゲーリングファクターFの算出を行なった。
【0082】
また、組成分析の結果から得られた圧電材料は(1−x)・Ca1.4Ba3.6Nb1030−x・BaBi0.67Nb1030(0.30≦x≦0.95)の式で表されるタングステンブロンズ構造金属酸化物であることが分かった。
【0083】
次に、焼結した円盤形状のタングステンブロンズ構造金属酸化物を厚さ1mmに研磨の後、Au電極をスパッタ装置を用い両面に500μm厚で形成し、切断装置を用いて2.5mm×10mmに切断し、電気特性評価用の圧電素子とした。
【0084】
分極処理は、温度100℃、印加電界40kV/cm、印加時間20minの条件で行なった。分極の状態は共振反共振法で確認した。圧電特性はd33メータ(Piezo Meter System:PIEZOTEST社製)を用いて評価した。
【0085】
得られた圧電材料の組成、ロットゲーリングファクターF、d33、Qmの結果を、表2に示す。ここでaはモル換算のBaとNbの比、bはモル換算のBiとNbの比、cはモル換算のCaとNbの比をそれぞれ表す。ここでロットゲーリングファクターFは、(00l)面の配向度を示すロットゲーリングファクターFである。また、表2内のW重量部とは、Ba、Bi、Ca、Nbといったタングステンブロンズ構造を構成する元素を酸化物換算し、その総重量に対するW金属の重量の比を表す。また、表2内のMn重量部とは、Ba、Bi、Ca、Nbといったタングステンブロンズ構造金属酸化物を構成する元素を酸化物換算し、その総重量に対するMn金属の重量の比を表す。
【0086】
(比較例5から比較例7)
粉末の秤量から電気特性評価まで、実施例8から10と同様の方法で行い比較例5から7のサンプルを得た。得られた圧電材料の組成、F、d33、Qmの結果を、表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2より、本発明の実施例において、比較例と比べ高い配向度と高い圧電定数を得たことが分かる。
【0089】
また、機械的品質係数Qmにおいては、実施例8から10のサンプルの機械的品質係数Qmが1800以上であることが分かる。一方、対応するMnを含まない系である実施例3の機械的品質係数Qmは1513であった。また比較例においても、比較例6の機械的品質係数Qmは732であるが、対応するMnを含まない系である比較例3の機械的品質係数Qmが521であった。比較例5及び7についても同様に、それぞれの機械的品質係数Qmが1748及び2110であるのに対し、対応するMnを含まない系である比較例1及び比較例4の機械的品質係数Qmは1456及び1854であった。これらのことから、Mnを含む材料系は、Mnを含まない材料系に比べて機械的品質係数Qmが優れることが分かる。
【0090】
(実施例11)
タングステンブロンズ構造金属酸化物(1−x)CBN−xBBN(0≦x≦1)x=0.75の圧電材料を作成した。CBNはCa1.4Ba3.6Nb1030、BBNはBaBi0.67Nb1030である。原料には、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ粉末を用い、所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。
【0091】
またさらに、Mn添加のタングステンブロンズ構造金属酸化物(1−x)CBN−xBBN(0≦x≦1)x=0.75の圧電材料を作成した。原料には、酸化マンガン、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ粉末を用い、所定の混合比で乳鉢を用いた乾式混合を行った。酸化マンガン量は好ましくは、金属マンガン換算で0.1重量部以上10重量部以下であることが好ましい。より好ましくは、金属マンガン換算で0.3重量部以上5重量部以下であることが好ましい。
【0092】
仮焼は、上記2種の組成について同様に行なった。
【0093】
まず、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、950℃、5hの条件で焼成することにより行なった。この後、乳鉢で粉砕した後、再度、アルミナ製の坩堝に前記混合粉を仕込み、電気炉を用いて、大気中、1100℃、5hの条件で焼成を行った。
【0094】
スラリーの調製は、記2種の仮焼粉について同様に行なった。
【0095】
まず、上記の仮焼で得た粉末と純水、分散剤を所定量で混合し、ポットミルを用いて、24時間以上の分散処理を行なった。ここで、分散状態の確認にはダイナミック光散乱光度計(Zeta Sizer:シスメックス(株)製)を用いて、粒径を測定した。測定の結果、粒径は2種のスラリー共に、およそ950nmであった。このとき粒径は100nm以上2μm以下が好ましい。
【0096】
磁場処理には、超電導マグネット(JMTD−10T180:ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー(株)製)を用いた。超電導マグネットにより10Tの磁場を発生させ、磁界中で回転駆動が可能な非磁性型超音波モータを用いてテーブルを磁界方向に対し、垂直方向に30rpmで回転させた。
【0097】
まず、磁場装置のテーブル上に基材となる石膏を静置し、回転駆動中に、テーブル上の石膏中へMn添加のスラリーを少量流し込み、ある程度凝固させることでスリップキャスト法による下引き層の成形を行なった。
【0098】
次に、下引き層を有する石膏内へMn添加ではない第2のスラリーを流し込むことでスリップキャスト法による成形を行なった。
【0099】
成形体の形成は、実施例1同様の条件で、スリップキャスト法処理後、一昼夜石膏内乾燥し、石膏より型抜きを行なった。その後、密閉容器内で45℃で24時間加熱処理を行なった。その後大気中で一週間乾燥させた。
【0100】
乾燥させた成形体は、実施例1同様の条件で、ブレードソーを用い、表面及び下引き層を除去し、円盤状の成形体を得た。
【0101】
本焼成は、実施例1同様の条件で、上記の成形体を用いて、電気炉を用いて、大気中、1300℃から1350℃、6hの条件で焼成を行なった。ここで、得られた焼結体の密度をアルキメデス法で評価を行なった。また、得られた焼結体は、表面切削後、XRD(X線回折)による構造解析と蛍光X線解析による組成解析を行った。
【0102】
また、構造解析および組成分析の結果から得られた圧電材料は(1−x)・Ca1.4Ba3.6Nb1030−x・BaBi0.67Nb1030(0.30≦x≦0.95)の式で表されるタングステンブロンズ構造金属酸化物であることが分かった。
【0103】
得られた圧電材料の組成、ロットゲーリングファクターF、d33の結果を、表3に示す。
【0104】
また、実施例1と同様に、焼結した円盤形状のタングステンブロンズ構造金属酸化物を厚さ1mmに研磨の後、Au電極をスパッタ装置を用い両面に500μm厚で形成し、切断装置を用いて2.5mm×10mmに切断し、電気特性評価用の圧電素子とした。
【0105】
分極処理は、温度160℃、印加電界20kV/cm、印加時間10minの条件で行なった。分極の状態は共振反共振法で確認した。圧電特性はd33メータ(Piezo Meter System:PIEZOTEST社製)を用いて評価した。
【0106】
得られた配向したそのタングステンブロンズ構造金属酸化物の相対密度、d33、サンプル均一性、外観の結果を、表3に示す。ここでaはモル換算のBaとNbの比、bはモル換算のBiとNbの比、cはモル換算のCaとNbの比をそれぞれ表す。ここでロットゲーリングファクターFは、(00l)面の配向度を示すロットゲーリングファクターFである。また、表3内のW重量部とは、Ba、Bi、Ca、Nbといったタングステンブロンズ構造を構成する元素を酸化物換算し、その総重量に対するW金属の重量の比を表す。
【0107】
【表3】

【0108】
表3より、本発明の実施例において高い配向度と高い圧電定数を得たことが分かる。
【0109】
(実施例11による液体吐出ヘッドおよび超音波モータ)
実施例11、図3に示される液体吐出ヘッド、図4に示される超音波モータおよび図5に示される塵埃除去装置を作製した。液体吐出ヘッドでは、入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。超音波モータでは、交番電圧の印加に応じたモータの回転挙動が確認された。塵埃除去装置では、プラスチック製ビーズを散布し、交番電圧を印加したところ、良好な塵埃除去率が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、環境に有害な成分を含まずに高い圧電性を有する圧電材料を提供することができる。また、本発明は、前記圧電材料を用いた圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0111】
101 圧電素子
102 個別液室
103 振動板
104 液室隔壁
105 吐出口
106 連通孔
107 共通液室
108 バッファ層
1011 第一の電極
1012 圧電セラミックス
1013 第二の電極
201 振動子
202 ロータ
203 出力軸
204 振動子
205 ロータ
206 バネ
2011 弾性体リング
2012 圧電素子
2013 有機系接着剤
2041 金属弾性体
2042 積層圧電素子
310 塵埃除去装置
330 圧電素子
320 振動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともBa、Bi、Ca、Nbの金属元素を含み、前記金属元素がモル換算で以下の条件を満たすタングステンブロンズ構造金属酸化物を含有する圧電材料であって、
前記圧電材料にWが含有されており、前記Wの含有量が前記タングステンブロンズ構造金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.4重量部以上2.0重量部以下であり、前記タングステンブロンズ構造金属酸化物がc軸配向を有する圧電材料。
Ba/Nb=aとしたときのaが: 0.37≦a≦0.40
Bi/Nb=bとしたときのbが: 0.020≦b≦0.065
Ca/Nb=cとしたときのcが: 0.007≦c≦0.10
【請求項2】
X線回折法において、前記圧電材料のc軸配向の度合いを示すロットゲーリングファクタFが0.73以上1.00以下である請求項1記載の圧電材料。
【請求項3】
前記タングステンブロンズ構造金属酸化物が(1−x)・Ca1.4Ba3.6Nb1030−x・BaBi0.67Nb1030(0.30≦x≦0.95)からなる請求項1または2に記載の圧電材料。
【請求項4】
前記圧電材料にMnが含有されており、前記Mnの含有量が前記タングステンブロンズ構造金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.16重量部以上0.48重量部以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の圧電材料。
【請求項5】
第一の電極、圧電材料および第二の電極を少なくとも有し、前記圧電材料が請求項1乃至4のいずれかに記載の圧電材料であることを特徴とする圧電素子。
【請求項6】
請求項5に記載の圧電素子を用いた液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項5に記載の圧電素子を用いた超音波モータ。
【請求項8】
請求項5に記載の圧電素子を用いた塵埃除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−17250(P2012−17250A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115838(P2011−115838)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度文部科学省元素戦略プロジェクトの委託研究の成果で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】