説明

圧電素子の製造方法、インクジェット式記録ヘッドの製造方法およびインクジェットプリンタの製造方法

【課題】環境に優しく、圧電特性に優れた新規な圧電材料を提供する。
【解決手段】ペロブスカイト型構造を有する圧電材料は,一般式(1)で表される。(Bi1-xBax)(Fe1-xTix)O3・・・(1)但し,0<x<1である。xは、ペロブスカイト型構造のAサイトにおけるBa組成であって、BサイトにおけるTi組成である。圧電材料は、環境上問題となる鉛(Pb)を含まないため、極めて有用である。さらに、鉛フリーでありながら、良好な圧電特性、例えば充分な格子のひずみ量を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料および圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタのヘッド等に用いられる圧電素子は、圧電材料からなる圧電体
層を有する。この圧電材料としては、Pb(Zr,Ti)O3(PZT)などが代表的で
ある(例えば特開2001−223404号公報参照)。しかしながら、PZTなどは鉛
(Pb)を含むため、環境上、非常に問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、環境に優しく、圧電特性に優れた新規な圧電材料、および、該圧電材
料からなる圧電体層を有する圧電素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る圧電材料は、
下記一般式(1)で表される。
(Bi1-xBax)(Fe1-xTix)O3 ・・・(1)
【0006】
但し、0<x<1である。
【0007】
この圧電材料は、環境上問題となる鉛(Pb)を含まないため、極めて有用である。さ
らに、この圧電材料は、鉛フリーでありながら、良好な圧電特性、例えば充分な格子のひ
ずみ量を得ることができる。
【0008】
本発明に係る圧電材料において、
0<x≦0.50であることができる。
【0009】
本発明に係る圧電材料において、
擬立方晶の表示で(100)に配向していることができる。
【0010】
なお、本発明において、例えば、「(100)に配向」とは、(100)にすべての結
晶が配向している場合と、(100)にほとんどの結晶(例えば90%以上)が配向して
おり、(100)に配向していない残りの結晶が(110)等に配向している場合と、を
含む。即ち、「(100)に配向」とは、「(100)に優先配向」ということもできる
。このことは、本発明において、例えば、「(110)に配向」という場合も同様である

【0011】
本発明に係る圧電材料において、
擬立方晶の表示で(110)に配向していることができる。
【0012】
本発明に係る圧電材料において、
分極方向は、擬立方晶の表示で[111]方向であることができる。
【0013】
なお、本発明において、「分極方向は、擬立方晶の表示で[111]方向である」とは
、分極方向が、擬立方晶の表示で、[111]方向に完全に一致している場合と、分極方
向が、擬立方晶の表示で、[111]方向から僅かにずれてはいるが、ほぼ[111]方
向になっている場合と、を含む。分極方向が、擬立方晶の表示で、ほぼ[111]方向に
なっている場合とは、例えば、分極方向が、擬立方晶の表示で、<111>方向と、<1
00>方向との間にあり、分極方向と、<111>方向との成す角が、例えば10°以下
である場合などである。
【0014】
本発明に係る第1の圧電素子は、
基体と、
前記基体の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成された圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された上部電極と、を含み、
前記圧電体層は、下記一般式(1)で表される圧電材料からなる。
(Bi1-xBax)(Fe1-xTix)O3 ・・・(1)
【0015】
但し、0<x<1である。
【0016】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「
A」という)の「上方」に形成された他の特定のもの(以下「B」という)」などと用い
ている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bが形成されている
ような場合と、A上に他のものを介してBが形成されているような場合とが含まれるもの
として、「上方」という文言を用いている。
【0017】
本発明に係る圧電素子において、
前記基体の上方であって、前記下部電極の下方に形成された弾性層を有することができ
る。
【0018】
なお、本発明に係る記載では、「下方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「
A」という)の「下方」に形成された他の特定のもの(以下「B」という)」などと用い
ている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、Aの下に直接Bが形成されてい
るような場合と、Aの下に他のものを介してBが形成されているような場合とが含まれる
ものとして、「下方」という文言を用いている。
【0019】
本発明に係る第2の圧電素子は、
基体と、
前記基体の上方に形成された圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された第1電極と、
前記圧電体層の上方に形成され、前記第1電極と離間している第2電極と、を含み、
前記圧電体層は、下記一般式(1)で表される圧電材料からなる。
(Bi1-xBax)(Fe1-xTix)O3 ・・・(1)
【0020】
但し、0<x<1である。
【0021】
本発明に係る圧電素子において、
0<x≦0.50であることができる。
【0022】
本発明に係る圧電素子において、
前記圧電材料は、擬立方晶の表示で(100)に配向していることができる。
【0023】
本発明に係る圧電素子において、
前記圧電材料は、擬立方晶の表示で(110)に配向していることができる。
【0024】
本発明に係る圧電素子において、
前記圧電材料の分極方向は、擬立方晶の表示で[111]方向であることができる。
【0025】
本発明に係る圧電素子において、
前記圧電材料は、ロンボヘドラル構造を有することができる。
【0026】
本発明に係る圧電素子において、
前記圧電材料は、モノクリニック構造を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係る第1の圧電素子を示す断面図。
【図2】本実施形態に係る第2の圧電素子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
1.1. まず、本実施形態に係る圧電材料について説明する。本実施形態に係る圧電
材料は、下記一般式(1)で表される。
(Bi,Ba)(Fe,Ti)O3 ・・・(1)
【0030】
本実施形態に係る圧電材料は、ペロブスカイト型構造を有する。該圧電材料は、擬立方
晶の表示で(100)または(110)に配向していることが望ましい。該圧電材料の分
極方向は、擬立方晶の表示で[111]方向であることが望ましい。擬立方晶の表示で(
100)または(110)に配向しており、分極方向が擬立方晶の表示で[111]方向
にある圧電材料は、良好な圧電特性を有することができる。本実施形態に係る圧電材料は
、ロンボヘドラル構造またはモノクリニック構造を有することが望ましい。また、該圧電
材料における各元素の価数は、Biは+3価、Baは+2価、Feは+3価、Tiは+4
価、Oは−2価であることが望ましい。これにより、該圧電材料は、電荷中性であること
ができる。
【0031】
また、前記一般式(1)は、下記一般式(1’)または(1”)で表されることもでき
る。
(Bi1-xBax)(Fe1-xTix)O3 ・・・(1’)
(1−x)BiFeO3−xBaTiO3 ・・・(1”)
【0032】
但し、0<x<1であり、好ましくは、0<x≦0.50である。xは、ペロブスカイ
ト型構造のAサイトにおけるBa組成であって、BサイトにおけるTi組成である。
【0033】
1.2. 本実施形態に係る圧電材料は、環境上問題となる鉛(Pb)を含まないため
、極めて有用である。さらに、本実施形態に係る圧電材料は、鉛フリーでありながら、良
好な圧電特性、例えば充分な格子のひずみ量を得ることができる。このことは、後述する
実験例において確認されている。
【0034】
2.1. 次に、本実施形態に係る第1の圧電素子100について説明する。図1は、
本実施形態に係る圧電材料からなる圧電体層6を有する第1の圧電素子100の一例を模
式的に示す断面図である。
【0035】
圧電素子100は、基体2と、基体2の上方に形成された下部電極4と、下部電極4上
に形成され、上述した圧電材料からなる圧電体層6と、圧電体層6上に形成された上部電
極7と、を含む。圧電素子100は、さらに、基体2の上であって下部電極4の下に形成
された弾性層3を有することができる。下部電極4は、弾性層3上に形成されていること
ができる。なお、圧電素子100は、弾性層3を有しないこともできる。
【0036】
基体2としては、例えば、(110)配向の単結晶シリコン基板などを用いることがで
き、特に限定されない。基体2は、基板単体あるいは基板上に他の層が積層された積層体
であってもよい。弾性層3は、例えば、インクジェット式記録ヘッドにおける弾性板とし
て適用されることができる。弾性層3としては、例えば、酸化シリコン、酸化ジルコニウ
ムをこの順に積層した膜などを用いることができ、特に限定されない。弾性層3の膜厚は
、例えば1μm程度である。基体2は、例えば、弾性層3の下であって、基体2に開口さ
れたキャビティ20を有することができる。
【0037】
下部電極4は、圧電体層6に電圧を印加するための一方の電極である。下部電極4の膜
厚は、例えば100nm〜300nmである。下部電極4としては、特に限定されないが
、例えば、白金(Pt)等の金属膜の上にペロブスカイト型構造の導電性酸化物(例えば
LaNiO3、SrRuO3など)を積層した膜などを用いることができる。例えば、この
導電性酸化物からなる膜は、上述した圧電材料からなる圧電体層6と同様に、擬立方晶の
表示で(100)または(110)に配向していることが望ましい。これにより、該導電
性酸化物膜の結晶構造および配向を引き継いで、下部電極4の上に、ペロブスカイト型構
造を有し、擬立方晶の表示で(100)または(110)に配向している圧電材料からな
る圧電体層6を容易に得ることができる。
【0038】
圧電体層6は、上述した本実施形態に係る圧電材料からなる。圧電体層6の膜厚は特に
限定されないが、例えば200nm〜1.5μmである。
【0039】
上部電極7は、圧電体層6に電圧を印加するための他方の電極である。上部電極7とし
ては、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、酸化イリジウム(IrOx)、ペロ
ブスカイト型構造の導電性酸化物(例えばLaNiO3、SrRuO3等)などの単層、あ
るいは、これらの積層体を用いることができ、特に限定されない。上部電極7の膜厚は、
例えば100nm〜200nmである。
【0040】
下部電極4、圧電体層6、および上部電極7は、例えば図1に示すようにパターニング
されて、柱状の堆積体(柱状部)50を構成することができる。
【0041】
2.2. 次に、本実施形態に係る第1の圧電素子100の製造方法について図1を参
照しながら説明する。
【0042】
(A)まず、基体2上に弾性層3を形成する。弾性層3は、例えば、熱酸化法、化学気
相成長(CVD)法、スパッタ法、蒸着法などにより形成されることができる。
【0043】
(B)次に、弾性層3上に下部電極4を形成する。下部電極4は、例えば、スパッタ法
、スピンコート法、CVD法、レーザアブレーション法などにより形成されることができ
る。
【0044】
(C)次に、下部電極4上に、本実施形態に係る圧電材料からなる圧電体層6を形成す
る。圧電体層6は、例えば、ゾルゲル法、MOD(Metal Organic Decomposition)法な
どを用いて形成されることができる。ゾルゲル法やMOD法を用いる場合の圧電体層6の
形成方法は、具体的には以下の通りである。
【0045】
まず、例えば、スピンコート法などを用いて、圧電体層6を形成するための前駆体溶液
を下部電極4上に塗布する(前駆体溶液塗布工程)。前駆体溶液については、例えば、圧
電体層6となる圧電材料の構成金属をそれぞれ含む有機金属化合物を、各構成金属が所望
のモル比となるように混合し、該混合物をアルコールなどの有機溶媒を用いて溶解または
分散させることにより作製できる。圧電材料の構成金属を含む有機金属化合物としては、
例えば、金属アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。圧電
材料の構成金属(Bi、Ba、Fe、Ti)を含む有機金属化合物としては、例えば、以
下のものが挙げられる。
【0046】
ビスマス(Bi)を含む有機金属化合物としては、例えばビスマスイソプロポキシドな
どが挙げられる。バリウム(Ba)を含む有機金属化合物としては、例えばバリウムエト
キシドなどが挙げられる。鉄(Fe)を含む有機金属化合物としては、例えば酢酸鉄など
が挙げられる。チタン(Ti)を含む有機金属化合物としては、例えばチタンイソプロポ
キシドなどが挙げられる。なお、圧電材料の構成金属を含む有機金属化合物としては、こ
れらに限定されるわけではない。
【0047】
前駆体溶液には、必要に応じて安定化剤等の各種添加剤を添加することができる。前駆
体溶液に加水分解・重縮合を起こさせる場合には、前駆体溶液に適当な量の水とともに、
触媒として酸または塩基を添加することができる。前駆体溶液への添加剤としては、例え
ば、ジエタノールアミン、酢酸などを挙げることができる。
【0048】
スピンコートにおけるスピンの回転数は、例えば、初期では500rpm程度とし、続
いて塗布ムラが起こらないように回転数を2000rpm程度に上げることができる。
【0049】
次に、大気雰囲気下でホットプレート等を用い、前駆体溶液に用いた溶媒の沸点よりも
例えば10℃程度高い温度で熱処理を行う(乾燥熱処理工程)。
【0050】
次に、前駆体溶液に用いた有機金属化合物の配位子を分解、除去すべく、大気雰囲気下
でホットプレート等を用い、例えば300℃〜400℃程度で熱処理を行う(脱脂熱処理
工程)。
【0051】
なお、上述した前駆体溶液塗布工程、乾燥熱処理工程、脱脂熱処理工程の一連の工程を
所望の膜厚に応じて適宜回数繰り返すことができる。
【0052】
次に、結晶化アニール、即ち結晶化のための焼成工程を行うことで圧電体層6を得る。
結晶化アニールは、例えば、RTA(Rapid Thermal Annealing)等により、酸素雰囲気
中にて、550℃〜650℃程度で行われることができる。
【0053】
なお、圧電体層6は、ゾルゲル法やMOD法の液相法のみならず、例えば、レーザアブ
レーション法やスパッタ法等の気相法などを用いて形成されることもできる。
【0054】
(D)次に、圧電体層6上に上部電極7を形成する。上部電極7は、例えば、スパッタ
法、スピンコート法、化学気相成長(CVD)法、レーザアブレーション法などにより形
成されることができる。
【0055】
(E)次に、必要に応じて、ポストアニールを行うことができる。これにより、圧電体
層6と上下電極との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層6の結晶性を改善
することができる。ポストアニールは、例えば、RTA等により、酸素雰囲気中にて行わ
れることができる。
【0056】
(F)次に、必要に応じて、各部材をエッチングによりパターニングして、例えば、柱
状部50やキャビティ20などを形成することができる。
【0057】
以上の工程によって、本実施形態に係る第1の圧電素子100を製造することができる

【0058】
2.3. 本実施形態に係る第1の圧電素子100では、圧電体層6は、上述した圧電
材料からなる。この圧電材料は、上述したように、鉛フリーでありながら、良好な圧電特
性を有することができる。従って、本実施形態によれば、環境に優しく、圧電特性に優れ
た圧電素子を提供することができる。
【0059】
2.4. 次に、実験例について説明する。
【0060】
以下の方法によって、本実施形態に係る第1の圧電素子100の実験サンプルを得た。
【0061】
まず、(110)配向のシリコン基板(基体2)上に、SiO2膜を500nm、Zr
2膜を500nmの膜厚で積層して弾性層3を得た。SiO2膜を熱酸化法によって形成
し、ZrO2膜をスパッタ法によって形成した。次に、スパッタ法によって、ZrO2膜上
に、下部電極4として、Pt膜を200nm、LaNiO3膜を100nmの膜厚で順に
積層した。Pt膜およびLaNiO3膜のスパッタリングの電力は、200Wとした。得
られたLaNiO3膜の配向は、擬立方晶の表示で(100)に配向していることが確認
された。
【0062】
次に、LaNiO3膜上に、上述した圧電材料からなる圧電体層6を形成した。本実験
例では、圧電材料として、上述した一般式(1’):
(Bi1-xBax)(Fe1-xTix)O3 ・・・(1’)
におけるxを、0.05から、0.05ずつ、0.60まで変化させたものを用いた。
【0063】
圧電体層6は、具体的には、以下のようにして得た。
【0064】
まず、圧電材料の構成金属を含む有機金属化合物(ビスマスイソプロポキシド、バリウ
ムエトキシド、酢酸鉄、チタンイソプロポキシド)の試薬をそれぞれ用意した。次に、所
望の圧電材料の組成に対応したモル比となるようにこれらを混合するとともに、これらを
ブチルセロソルブに溶解(分散)させた。さらに、この溶液の安定化剤としてジエタノー
ルアミンを添加した。このようにして上述した圧電材料の前駆体溶液を調整した。
【0065】
次に、この前駆体溶液をスピンコート法によって下部電極4上に塗布した(前駆体溶液
塗布工程)。次に、溶媒の沸点(ブチルセロソルブの場合、170℃程度)より約10℃
高い温度で熱処理(乾燥)して溶媒を除去しゲル化させた(乾燥熱処理工程)。次に、さ
らに400℃程度に加熱することで膜中に残存している溶媒以外の有機成分を分解/除去
し(脱脂熱処理工程)、膜厚100nmのアモルファス膜を形成した。以上の工程を5回
繰り返して行った。次に、RTAにより酸素雰囲気中にて、600℃で1分間加熱し、結
晶化を行うことで、膜厚500nmの圧電体層6を形成した。
【0066】
得られた圧電体層6を構成する圧電材料の結晶構造は、ペロブスカイト型構造であって
、ロンボヘドラル構造またはモノクリニック構造であることが確認された。従って、該圧
電材料の分極方向は、擬立方晶の表示で[111]方向であることが推測される。該圧電
材料は、擬立方晶の表示で(100)に配向していることが確認された。該圧電材料の結
晶構造、分極方向、および配向の同定には、X線θ−2θ測定およびラマン散乱を用いた

【0067】
次に、スパッタ法によって、圧電体層6上に、上部電極7として、膜厚200nmのP
t膜を形成した。
【0068】
以上のようにして圧電素子100の各実験サンプルを得た。これらの実験サンプルの圧
電体層6に対して、上下電極から100kV/cmの電界を印加したときの圧電材料の格
子のひずみ量を表1に示す。格子のひずみ量は、電界X線によるθ−2θ測定から求めた

【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、Ba組成(Ti組成)xが0.05〜0.50の実験サンプルでは
、格子のひずみ量は、0.15%以上であり、良好な圧電特性が確認された。なお、参考
例として、xが0(ゼロ)の場合の実験サンプルも作製したが、この場合の格子のひずみ
量は、表1に示すように、0.07%であった。
【0071】
以上の実験結果から、本実施形態に係る圧電材料が良好な圧電特性を有することが確認
された。
【0072】
3.1. 次に、本実施形態に係る第2の圧電素子200について説明する。図2は、
本実施形態に係る圧電材料からなる圧電体層6を有する第2の圧電素子200の一例を模
式的に示す断面図である。なお、上述した第1の圧電素子100と同一の部材については
、同一の符合を付し、その詳細な説明を省略する。
【0073】
圧電素子200は、基体2と、基体2の上方に形成され、上述した圧電材料からなる圧
電体層6と、圧電体層6上に形成された第1電極40と、圧電体層6上に形成された第2
電極70と、を含む。圧電素子200は、基体2上に形成されたバッファ層30を有する
ことができる。圧電体層6は、このバッファ層30上に形成されていることができる。
【0074】
バッファ層30は、圧電体層6の結晶配向性を制御する機能を有することができる。な
お、例えば基体2にこの機能がある場合などに、バッファ層30を設けないこともできる
。バッファ層30は、例えば、ペロブスカイト型構造を有し、擬立方晶の表示で(100
)または(110)に配向している酸化物からなることが望ましい。これにより、バッフ
ァ層30の結晶構造および配向を引き継いで、バッファ層30の上に、ペロブスカイト型
構造を有し、擬立方晶の表示で(100)または(110)に配向している圧電材料から
なる圧電体層6を容易に得ることができる。バッファ層30を構成する酸化物としては、
例えば、LaNiO3、SrRuO3などを挙げることができる。
【0075】
第1電極40および第2電極70は、圧電体層6に電圧を印加するための電極である。
第1電極40および第2電極70としては、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)
、酸化イリジウム(IrOx)、ペロブスカイト型構造の導電性酸化物(例えばLaNi
3、SrRuO3等)などの単層、あるいは、これらの積層体を用いることができ、特に
限定されない。第1電極40および第2電極70の膜厚は、例えば100nm〜200n
mである。
【0076】
3.2. 次に、本実施形態に係る第2の圧電素子200の製造方法について図2を参
照しながら説明する。
【0077】
(A)まず、基体2上にバッファ層30を形成する。バッファ層30は、例えば、スパ
ッタ法、スピンコート法、CVD法、レーザアブレーション法などにより形成されること
ができる。
【0078】
(B)次に、バッファ層30上に圧電体層6を形成する。本工程は、上述した第1の圧
電素子100の一製造工程と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0079】
(C)次に、圧電体層6上に、第1電極40および第2電極70を形成する。第1電極
40および第2電極70は、例えば、スパッタ法、スピンコート法、CVD法、レーザア
ブレーション法などにより形成されることができる。第1電極40および第2電極70は
、公知の方法によりパターニングされることができる。
【0080】
(D)次に、必要に応じて、ポストアニールを行うことができる。本工程は、上述した
第1の圧電素子100の一製造工程と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0081】
以上の工程によって、本実施形態に係る第2の圧電素子200を製造することができる

【0082】
3.3. 本実施形態に係る第2の圧電素子200は、第1の圧電素子100と同様に
、環境に優しく、優れた圧電特性を有することができる。
【0083】
4. 上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項
および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解
できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【0084】
例えば、上述した本発明の実施形態に係る圧電素子は、例えば、インクジェットプリン
タ等に用いられるインクジェット式記録ヘッド、アクチュエータ、ジャイロセンサ、FB
AR(film bulk acoustic resonator)型やSMR(so lid mounted resonator)型等の
BAW(bulk acoustic wave)フィルタ、SAW(surface acoustic wave)フィルタ、
超音波モータなどに適用されることができる。本発明の実施形態に係る圧電素子は、圧電
特性に優れており、各種の用途に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0085】
2 基体、3 弾性層、4 下部電極、6 圧電体層、7 上部電極、20 キャビテ
ィ、30 バッファ層、40 第1電極、50 柱状部、70 第2電極、100 第1
の圧電素子,200 第2の圧電素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、圧電材料。
(Bi1-xBax)(Fe1-xTix)O3 ・・・(1)
但し、0<x<1である。
【請求項2】
請求項1において、
0<x≦0.50である、圧電材料。
【請求項3】
請求項1または2において、
擬立方晶の表示で(100)に配向している、圧電材料。
【請求項4】
請求項1または2において、
擬立方晶の表示で(110)に配向している、圧電材料。
【請求項5】
基体と、
前記基体の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成された圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された上部電極と、を含み、
前記圧電体層は、下記一般式(1)で表される圧電材料からなる、圧電素子。
(Bi1-xBax)(Fe1-xTix)O3 ・・・(1)
但し、0<x<1である。
【請求項6】
基体と、
前記基体の上方に形成された圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された第1電極と、
前記圧電体層の上方に形成され、前記第1電極と離間している第2電極と、を含み、
前記圧電体層は、下記一般式(1)で表される圧電材料からなる、圧電素子。
(Bi1-xBax)(Fe1-xTix)O3 ・・・(1)
但し、0<x<1である。
【請求項7】
請求項5または6において、
0<x≦0.50である、圧電素子。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかにおいて、
前記圧電材料は、擬立方晶の表示で(100)に配向している、圧電素子。
【請求項9】
請求項5乃至7のいずれかにおいて、
前記圧電材料は、擬立方晶の表示で(110)に配向している、圧電素子。
【請求項10】
請求項5乃至9のいずれかにおいて、
前記圧電材料は、ロンボヘドラル構造を有する、圧電素子。
【請求項11】
請求項5乃至9のいずれかにおいて、
前記圧電材料は、モノクリニック構造を有する、圧電素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−54560(P2012−54560A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191495(P2011−191495)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【分割の表示】特願2006−110033(P2006−110033)の分割
【原出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】