説明

垂直磁気ディスクの製造方法

【課題】補助記録層としての機能を維持しつつ薄膜化を図り、SNRの向上の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる垂直磁気ディスク100の製造方法の構成は、基板110上に、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されたグラニュラ磁性層160を成膜するグラニュラ磁性層成膜工程と、グラニュラ磁性層より上方に、CoCrPtRu合金を主成分とし膜厚が1.5〜4nmである補助記録層180を成膜する補助記録層成膜工程と、補助記録層を成膜した基板を210〜250℃に加熱する加熱工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気ディスクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率50%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、320GByte/プラッタを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには500GBit/Inchを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
垂直磁気ディスクの高記録密度化のために重要な要素としては、トラック幅の狭小化によるTPI(Tracks per Inch)の向上、及び、BPI(Bits per Inch)向上時のシグナルノイズ比(SNR:Signal to Noise Ratio)や、信号の書き込み易さであるオーバーライト特性(OW特性)などの電磁変換特性の確保、さらには、前記により記録ビットが小さくなった状態での熱揺らぎ耐性の確保、などが上げられる。中でも、高記録密度条件でのSNRの向上は重要である。
【0004】
グラニュラ磁性層は酸化物相と金属相が分離し、微細な粒を形成する為、高SNRに有効である。高記録密度のためにはグラニュラ磁性層の粒を微細化する必要があるが、微細化により粒の磁気的エネルギーも小さくなってしまい、熱揺らぎの問題が発生する。一方、熱揺らぎの問題を回避するためには媒体の磁気異方性を高くする必要があるが、磁気異方性とともに保磁力も高くなるため書き込みが困難になってしまう。すなわち、熱揺らぎとオーバーライト特性とを両方高めたいという要請がある。
【0005】
特許文献1には、主記録層の上又は下に該主記録層に接して形成された書き込み補助層(補助記録層に相当する)が提案されている。特許文献1において主記録層はグラニュラ構造を有する磁性層であって、書き込み補助層はCoCr合金(例えばCoCrPtB)である。特許文献1では、書き込み補助層を設けることにより、オーバーライト特性と熱揺らぎ耐性とを両立させることが可能であると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−309922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし補助記録層は、オーバーライト特性と熱揺らぎ耐性を改善する一方、面内方向に磁気的な連続性を持っていることから、ノイズ源でもあり、書きにじみも大きくなり易い。この為、補助記録層の膜厚が厚いほどノイズが大きくなってしまい、高記録密度化を阻害する要因となる。また、補助記録層の膜厚が厚いと磁気ヘッド−軟磁性層間の磁気的スペーシングが増大し、書き込みを補助するはずの層がそれ自身の膜厚により逆に書き込みを阻害する方向へと作用してしまう。そこでノイズの低減とオーバーライト特性の向上を図るために、補助記録層を薄くしたいという要請がある。
【0008】
補助記録層を磁気的な機能を損なうことなく薄くするためには、材料の飽和磁化Msを大きくすることが考えられる。薄膜の磁性層の強さは、飽和磁化・膜厚積(Ms・t)によって決定されるためである。
【0009】
しかし、補助記録層において単純にMsを上げて薄膜化するとSNRが極端に低下するという問題がある。このため従来は、補助記録層のMsを低めに設定し、膜厚を厚めに設定することを余儀なくされていた。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み、補助記録層としての機能を維持しつつ薄膜化を図り、SNRの向上の向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、発明者らが鋭意検討したところ、補助記録層はそもそも面内方向に磁気的に連続し、Coのhcp結晶構造のc軸が垂直方向に配向している必要がある。一方、グラニュラ磁性層は、磁性結晶粒子の周囲に酸化物を主成分とする粒界が形成されている。このため、グラニュラ磁性層の上に補助記録層を成膜すると、粒界の上では補助記録層の初期成長段階の結晶に乱れが生じ、結晶性が低下してしまうのだろうと考えた。結晶性の低下した部分が存在すると、Msの高い材料ほどノイズの増加量は大きくなるため、従来はMsを高くするほどSNRが低下していたものと考えられる。また一般に膜厚を増やすと結晶性は改善する傾向にあるため、従来膜厚を厚くする必要があったのは、初期成長段階の結晶の乱れを補うためであったと考えられる。
【0012】
そこでさらに検討したところ補助記録層にRuを添加することによってSNRの低下を抑制することができ、補助記録層を薄くすることが可能となった。これは、Ruによって補助記録層の初期成長段階における結晶性が向上したためと考えられる。そして、さらにSNRを向上させるべく諸条件を検討した結果、補助記録層成膜後に所定範囲の温度で加熱することによりさらにSNRを向上させられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気ディスクの製造方法の代表的な構成は、基板上に、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されたグラニュラ磁性層を成膜するグラニュラ磁性層成膜工程と、グラニュラ磁性層より上方に、CoCrPtRu合金を主成分とし膜厚が1.5〜4nmである補助記録層を成膜する補助記録層成膜工程と、補助記録層を成膜した基板を210〜250℃に加熱する加熱工程と、を含むことを特徴とする。なお、本願で言うところの「主成分」とは、全体組成をat%(もしくはmol%)としたときに、最も多く含まれる成分を指す。
【0014】
上記構成によれば、補助記録層をCoCrPtRu合金を主成分としたことにより、補助記録層の結晶性を改善することができるため、補助記録層としての性能を維持しつつ薄膜化できる。これにより、補助記録層から生じるノイズの低減を図ることができる。そして、補助記録層を成膜した後に上記の温度範囲で加熱することにより、SNRを好適に向上させることができる。これは、薄膜化により、加熱工程における熱の影響が補助記録層によく伝わり、Crの粒界へのはき出しが好適に行われるためと考えられる。また付随的効果として、磁気ヘッド−軟磁性層間の磁気的スペーシングを削減してオーバーライト特性を向上させることができる。
【0015】
なお、補助記録層が4nmより厚いと、上記範囲のように加熱温度を上げてもSNRが向上する効果を得られない。一方、補助記録層が1.5nm未満では、書き込みを補助するという補助記録層本来の機能が発揮されない。また、加熱が210℃未満では、SNR向上の効果を得られない。一方、加熱温度が250℃を超えると、過剰な熱による拡散でグラニュラ磁性層および補助記録層の構造が乱れる。すなわち、グラニュラ磁性層および補助記録層の元素が拡散してグラニュラ同士がくっついたりする等、グラニュラ構造が破壊されるおそれがある。
【0016】
上記の補助記録層の主成分のCrの含有量は、4at%以上8at%以下であるとよい。Crの含有量が8at%を越えると、補助記録層の飽和磁化Msが低下しすぎてしまい補助記録層の本来の機能が発揮されないおそれがある。一方、4at%未満であると、飽和磁化Msが高くなりすぎてノイズ源になってしまう可能性がある。このため、Crの含有量は上記範囲が好適である。
【0017】
上記の補助記録層の主成分のRuの含有量は、3at%以上10at%以下であるとよい。Ruの含有量が3at%未満であると結晶性向上の効果を十分に得ることができない。一方、10at%を越えると補助記録層におけるCoの量が不足してしまい飽和磁化Msが低くなりすぎてしまう。したがって、Ruの含有量は上記範囲が好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、補助記録層をCoCrPtRu合金を主成分とし、所定温度で加熱を行うことにより補助記録層の結晶性を改善することができるため、補助記録層としての性能を維持しつつ薄膜化を図り、SNRの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】垂直磁気ディスクの構成を説明する図である。
【図2】補助記録層にRuを添加した場合としていない場合を比較する図である。
【図3】CoCrPtRu合金からなる補助記録層のCrとRuの含有量を説明する図である。
【図4】加熱温度や膜厚によるSNRの変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
(垂直磁気ディスク)
図1は、第1実施形態にかかる垂直磁気ディスク100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気ディスク100は、基板110、付着層120、軟磁性層130、前下地層140、下地層150、グラニュラ磁性層160、分断層170、補助記録層180、保護層190、潤滑層200で構成されている。
【0022】
基板110は、例えばアモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性の基板110を得ることができる。
【0023】
基板110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行い、保護層190はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層200をディップコート法により形成することができる。以下、各層の構成について説明する。
【0024】
付着層120は基板110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層130と基板110との密着強度を高める機能を備えている。付着層120は、例えばCrTi系非晶質合金、CoW系非晶質合金、CrW系非晶質合金、CrTa系非晶質合金、CrNb系非晶質合金等のアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。付着層120の膜厚は、例えば2〜20nm程度とすることができる。付着層120は単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。
【0025】
軟磁性層130は、垂直磁気記録方式において信号を記録する際、ヘッドからの書き込み磁界を収束することによって、グラニュラ磁性層160への信号の書き易さと高密度化を助ける働きをする。軟磁性材料としては、CoTaZrなどのコバルト系合金の他、FeCoCrB、FeCoTaZr、FeCoNiTaZrなどのFeCo系合金、や、NiFe系合金などの軟磁気特性を示す材料を用いることができる。また、軟磁性層130のほぼ中間にRuからなるスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。こうすることで磁化の垂直成分を極めて少なくすることができるため、軟磁性層130から生じるノイズを低減することができる。スペーサ層を介在させた構成の場合、軟磁性層130の膜厚は、スペーサ層が0.3〜0.9nm程度、その上下の軟磁性材料の層をそれぞれ10〜50nm程度とすることができる。
【0026】
前下地層140は、この上方に形成される下地層150の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備える。前下地層140は、hcp構造であってもよいが、(111)面が基板110の主表面と平行となるよう配向した面心立方構造(fcc構造)であることが好ましい。前下地層140の材料としては、例えば、Ni、Cu、Pt、Pd、Ru、Co、Hfや、さらにこれらの金属を主成分として、V、Cr、Mo、W、Ta等を1つ以上添加させた合金とすることができる。具体的には、NiV、NiCr、NiTa、NiW、NiVCr、CuW、CuCr等を好適に選択することができる。前下地層140の膜厚は1〜20nm程度とすることができる。また前下地層140を複数層構造としてもよい。
【0027】
下地層150はhcp構造であって、この上方に形成されるグラニュラ磁性層160のhcp構造の磁性結晶粒子(以下、磁性粒子と称する)の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備え、グラニュラ構造のいわば土台となる層である。RuはCoと同じhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁性粒子を良好に配向させることができる。したがって、下地層150の結晶配向性が高いほど、グラニュラ磁性層160の結晶配向性を向上させることができる。また、下地層150の粒径を微細化することによって、グラニュラ磁性層160の磁性粒子の粒径を微細化することができる。下地層150の材料としてはRuが代表的であるが、さらにCr、Coなどの金属や、酸化物を添加することもできる。下地層150の膜厚は、例えば5〜40nm程度とすることができる。
【0028】
また、スパッタ時のガス圧を変更することにより下地層150を2層構造としてもよい。具体的には、下地層150の上層側を形成する際に下層側を形成するときよりもArのガス圧を高圧にすると、上方のグラニュラ磁性層160の結晶配向性を良好に維持したまま、磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
【0029】
グラニュラ磁性層160は、Co−Pt系合金を主成分とする強磁性体の磁性粒子の周囲に、酸化物を主成分とする非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラ構造を有している。例えば、CoCrPt系合金にSiOや、TiOなどを混合したターゲットを用いて成膜することにより、CoCrPt系合金からなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiOや、TiOが偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成することができる(グラニュラ磁性層成膜工程)。
【0030】
なお、上記に示したグラニュラ磁性層160に用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。CoCrPt系合金としては、CoCrPtに、B、Ta、Cu、などを1種類以上添加してもよい。また、粒界を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化クロム(Cr)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化コバルト(CoOまたはCo)、等の酸化物を例示できる。また、1種類の酸化物のみならず、2種類以上の酸化物を複合させて使用することも可能である。
【0031】
分断層170は、グラニュラ磁性層160と補助記録層180の間に設けられ、これらの層の間の交換結合の強さを調整する作用を持つ。これによりグラニュラ磁性層160と補助記録層180の間、およびグラニュラ磁性層160内の隣接する磁性粒子の間に働く磁気的な相互作用の強さを調節することができるため、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hnといった熱揺らぎ耐性に関係する静磁気的な値は維持しつつ、オーバーライト特性、SNR特性などの記録再生特性を向上させることができる。
【0032】
分断層170は、結晶配向性の継承を低下させないために、hcp結晶構造を持つRuやCoを主成分とする層であることが好ましい。Ru系材料としては、Ruの他に、Ruに他の金属元素や酸素または酸化物を添加したものが使用できる。また、Co系材料としては、CoCr合金などが使用できる。具体例としては、Ru、RuCr、RuCo、Ru−SiO、Ru−WO、Ru−TiO、CoCr、CoCr−SiO、CoCr−TiOなどが使用できる。なお分断層170には通常非磁性材料が用いられるが、弱い磁性を有していてもよい。また、良好な交換結合強度を得るために、分断層170の膜厚は、0.2〜1.0nmの範囲内であることが好ましい。
【0033】
また分断層170の構造に対する作用としては、上層の補助記録層180の結晶粒子の分離の促進である。例えば、上層が酸化物のように非磁性物質を含まない材料であっても、磁性結晶粒子の粒界を明瞭化させることができる。
【0034】
なお、本実施形態においては、グラニュラ磁性層160と補助記録層180との間に分断層170を設ける構成としたが、これに限定するものではない。したがって、分断層170を設けずに、補助記録層180をグラニュラ磁性層160の直上に成膜する構成としてもよい。
【0035】
補助記録層180は基板主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層180は、グラニュラ磁性層160に対して磁気的相互作用(交換結合)を有するため、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hn等の静磁気特性を調整することが可能であり、これにより熱揺らぎ耐性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。
【0036】
なお、「磁気的に連続している」とは、磁性が途切れずにつながっていることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層180全体で観察すれば必ずしも単一の磁石ではなく、部分的に磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。すなわち補助記録層180は、複数の磁性粒子の集合体にまたがって(かぶさるように)磁性が連続していればよい。この条件を満たす限り、補助記録層180において例えばCrが偏析した構造であっても良い。
【0037】
本実施形態では、補助記録層180として、CoCrPtRu合金を主成分とする厚さ1.5〜4nmの膜を成膜する(補助記録層成膜工程)。このようにRuを含有させることにより、補助記録層180の結晶性を向上させることができる。そして、補助記録層180の結晶性を向上させたことにより、グラニュラ磁性層160の粒界(酸化物)の上においても、補助記録層180の初期成長段階の結晶の乱れを低減させることができる。したがってMsを高くしても増加するノイズを抑えることができると共に、膜厚を薄くすることも可能となる。
【0038】
また上述したように補助記録層180を1.5nm〜4.0nm程度の薄膜とすることにより、補助記録層180から生じるノイズの低減を図ることができると共に、磁気ヘッド−軟磁性層間の磁気的スペーシングを削減してオーバーライト特性を向上させることができる。なお1.5nm未満とすると、SNRが不足したり、書き込みを補助するという補助記録層本来の機能が発揮されなくなったりしてしまう。これは、補助記録層180を上記材料としても初期成長段階の結晶性の乱れの影響が大きくなってしまうためと考えられる。また4.0nmより厚くなると、後述する加熱工程時の熱が補助記録層180にうまく伝わらないためSNRが向上する効果を得られず、また磁気的スペーシングを削減する効果も得られない。
【0039】
補助記録層180の主成分であるCoCrPtRu合金のCrの含有量は、4at%以上8at%以下であるとよい。Crの含有量が、8at%を越えると、補助記録層180の飽和磁化Msが低下しすぎてしまい補助記録層本来の機能が発揮されないおそれがあり、4at%未満であると、飽和磁化Msが高くなりすぎてノイズ源になってしまう可能性がある。
【0040】
また補助記録層180の主成分であるCoCrPtRu合金のRuの含有量は、3at%以上10at%以下であることが好ましい。Ruの含有量が、3at%未満であると結晶性向上の効果を十分に得ることができず、10at%を越えると補助記録層180におけるCoの量が不足してしまい飽和磁化Msが低くなりすぎてしまうためである。
【0041】
なお、主成分であるCoCrPtRu合金に、さらにB、Ta、Cu等の添加物を加えてもよい。具体的には、補助記録層180を、CoCrPtRu、CoCrPtRuB、CoCrPtRuTa、CoCrPtRuCu、CoCrPtRuCuBなどとすることができる。
【0042】
さらに本実施形態の特徴的な要素として、補助記録層成膜工程の後に、補助記録層180を成膜した基板を210〜250℃に加熱する(加熱工程)。上述したように本実施形態にかかる補助記録層180は膜厚1.5nm〜4.0nm程度の薄膜であるため、加熱工程時の熱が効果的に伝わる。これにより、Crの粒界へのはき出しが好適に行われるためSNRを好適に向上させることができる。
【0043】
なお、加熱温度が210℃未満であると、熱が不足しSNR向上の効果を十分に得られないため好ましくない。一方、加熱温度が250℃を超えると、過剰な熱により元素の拡散が生じ、グラニュラ磁性層160および補助記録層180の構造が乱れるおそれがあるため好適ではない。
【0044】
保護層190は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気ディスク100を防護するための層である。保護層190は、カーボンを含む膜をCVD法により成膜して形成することができる。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気ディスク100を防護することができるため好適である。保護層190の膜厚は、例えば2〜6nmとすることができる。
【0045】
潤滑層200は、垂直磁気ディスク100の表面に磁気ヘッドが接触した際に、保護層190の損傷を防止するために形成される。例えば、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により塗布して成膜することができる。潤滑層200の膜厚は、例えば0.5〜2.0nmとすることができる。
【0046】
(実施例)
上記構成の垂直磁気ディスク100の有効性を確かめるために、以下の実施例と比較例を用いて説明する。
【0047】
実施例として、基板110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行った。なお、断らない限り成膜時のArガス圧は0.6Paである。付着層120はCr−50Tiを10nm成膜した。軟磁性層130は、0.7nmのRu層を挟んで、92(40Fe−60Co)−3Ta−5Zrをそれぞれ20nm成膜した。前下地層140はNi−5Wを8nm成膜した。下地層150は0.6PaでRuを10nm成膜した上に5PaでRuを10nm成膜した。グラニュラ磁性層160は、3Paで90(70Co−10Cr−20Pt)−10(Cr)を2nm成膜した上に、さらに3Paで90(72Co−10Cr−18Pt)−5(SiO)−5(TiO)を12nm成膜した。分断層170はRuを0.3nm成膜した。補助記録層180は下記に示すように実施例と比較例を製作して比較した。保護層190はCVD法によりCを用いて4.0nm成膜し、表層を窒化処理した。補助記録層180の成膜後に、下記のように温度を変えて加熱工程を行って比較した。潤滑層200はディップコート法によりPFPEを用いて1.0nm形成した。
【0048】
図2は、補助記録層180にRuを添加した場合としていない場合を比較する図である。Ruを添加した例として、CoCrPtRu合金(68Co−6Cr−15Pt−6Ru−5B)を、膜厚を変えて成膜した。Ruを添加しない例としては、CoCrPt合金(62Co−18Cr−15Pt−5B)を膜厚を変えて成膜した。なお、このときの加熱工程の温度は230℃である。
【0049】
図2を参照すれば、CoCrPtRu合金からなる補助記録層180は、CoCrPt合金と比較して、膜厚が薄い範囲からSNRが高くなっていることがわかる。全体的に観察すれば、SNRの動きを示すカーブが1.5nm程度薄い膜厚に推移していて、さらにSNRが向上している。このことから、補助記録層180の薄膜化を図れることがわかる。さらに具体的には、CoCrPtRu合金からなる補助記録層180では、膜厚1.5nm〜4.0nmの範囲において極めて高いSNRを得られることがわかる。一方、CoCrPt合金からなる補助記録層180(Ruを含有させない場合)では、膜厚が5nm程度と厚い領域で最も良好なSNRが得られるものの、CoCrPtRu合金からなる補助記録層180と同程度のSNRを得ることができない。これらのことから、単に加熱のみを行うだけではSNRの著しい向上を図ることは難しく、CoCrPtRu合金を用いて加熱を行い、且つ膜厚を1.5nm〜4.0nmの範囲とすることにより、補助記録層180としての性能を維持しつつ薄膜化でき、補助記録層180から生じるノイズの低減を図ることができることがわかる。
【0050】
また、上記のように、CoCrPtRu合金からなる補助記録層180では膜厚が薄くても高いSNRが得られるため、補助記録層180をより薄くすることができ、付随的効果として、磁気ヘッド−軟磁性層間の磁気的スペーシングを削減してオーバーライト特性を向上させることができる。なお、CoCrPtRu合金では、5nmの厚みを成膜すると、かえってSNRが低下してしまうことがわかる。これは、補助記録層180の飽和磁化・膜厚積が大きくなりすぎて、ノイズ源となってしまうためと考えられる。
【0051】
図3はCoCrPtRu合金からなる補助記録層のCrとRuの含有量を説明する図である。なお、このときの加熱工程の温度も上記と同様に230℃である。Crの含有量に着目すると、実施例1は2at%、実施例2は4at%、実施例3は5at%、実施例4は8at%、実施例5は10at%である。これらを比較すると、実施例2〜4において実施例1および5よりも良好なSNRが得られることがわかる。また、実施例1では飽和磁化Msが著しく高く、実施例5では飽和磁化Msが極めて低い。このため、実施例1では飽和磁化Msが高すぎてノイズ源となる可能性があり、実施例5では飽和磁化Msが低すぎて補助記録層本来の機能が発揮されないおそれがある。これらのことから、Crの含有量は4at%〜8at%がよいことがわかる。
【0052】
次に、Ruの含有量に着目すると、実施例6は2at%、実施例7は3at%、実施例8は5at%、実施例9は8at%、実施例10は10at%、実施例11は12at%である。これらを比較すると、実施例7〜10のようにRuの含有量が3〜10at%の範囲において、実施例6および11よりも高いSNRが得られることがわかる。また実施例6では飽和磁化Msが著しく高く、実施例11では飽和磁化Msが極めて低く、上述したような不都合が生じるおそれがある。これらのことから、Ruの含有量は3〜10at%がよいことがわかる。したがって、CrとRuはいずれもその添加量が飽和磁化Msに影響を及ぼすが、上記範囲とすることにより、高いMsと高い結晶性のバランスを得ることができ、結果として高いSNRを得ることができる。
【0053】
図4は、加熱温度や膜厚によるSNRの変化を説明する図であり、図4(a)は加熱温度によるSNRを変化を示す図であり、図4(b)は膜厚によるSNRの変化を示す図である。なお、補助記録層180としてはCoCrPtRu合金(67Co−5Cr−15Pt−8Ru−5B)を用いた。また図4では比較しやすいように、保磁力Hcが同程度になるようにグラニュラ磁性層160の膜厚を調節している。
【0054】
図4(a)に示すように、加熱温度の上昇に伴って200℃を超えたあたりからSNRが急激に向上する。そして、更に加熱温度を上昇させ250℃を超えるとSNRが低下し始める。すなわち、加熱温度210℃〜250℃の範囲において最も良好なSNRを得ることができる。このことから、加熱工程において基板を210〜250℃に加熱することにより、高いSNRが得られることが理解できる。
【0055】
図4(b)を参照すると、上述した実施形態における加熱工程の範囲内の温度である230℃で加熱したときに、範囲外の温度(190℃)で加熱したときよりも高いSNRが得られ、2.5nmあたりにピークが存在することがわかる。これに対し、比較例のように低温度(190℃)で加熱した場合、膜厚が厚くなるにつれてSNRがある程度まで向上する傾向が見られるものの、230℃で加熱した場合には及ばない。これらのことから、補助記録層180を1.5〜4.0nmの薄膜にしたことと、高温(210℃〜250℃)の加熱工程の相乗効果により、高いSNRを得られることが確認できた。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される垂直磁気ディスクの製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
100…垂直磁気ディスク、110…基板、120…付着層、130…軟磁性層、140…前下地層、150…下地層、160…グラニュラ磁性層、170…分断層、180…補助記録層、190…保護層、200…潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されたグラニュラ磁性層を成膜するグラニュラ磁性層成膜工程と、
前記グラニュラ磁性層より上方に、CoCrPtRu合金を主成分とし膜厚が1.5〜4nmである補助記録層を成膜する補助記録層成膜工程と、
前記補助記録層を成膜した基板を210〜250℃に加熱する加熱工程と、
を含むことを特徴とする垂直磁気ディスクの製造方法。
【請求項2】
前記補助記録層の主成分のCrの含有量は、4at%以上8at%以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスクの製造方法。
【請求項3】
前記補助記録層の主成分のRuの含有量は、3at%以上10at%以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216141(P2011−216141A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82385(P2010−82385)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】