説明

型締装置の型厚調整ナットの潤滑方法

【課題】型厚調整を行わなくとも型厚調整ナットの潤滑を良好に行い得る方法を提供する。
【解決手段】受圧盤2の裏面に回動自在に取付けられ、固定盤に固着したタイバ3の先端を螺合しつつ回動して前記タイバ3の有効長を変化させることにより型厚調整を行うとともに、トグル式又はクランク式の型締機構を有する型締装置1による型締時に前記受圧盤2に作用する力を受けて前記タイバ3に伝達する型厚調整ナット4を潤滑する方法において、成形運転中に、前記受圧盤2が所定距離を越えて移動しないときの時間か又は、前記受圧盤2が所定距離を越えて移動しないときの生産数を積算し、その積算量が第1の所定値に到達したときに発せられる第1の信号に基づいて、成形運転以外のときに、前記受圧盤2を前記所定距離以上に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型締装置における型厚調整ナットの潤滑方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機等に備える型締装置は、様々な型厚寸法を有する金型に対応しなければならない。特に、トグル式又はクランク式の型締機構を有する型締装置の場合は、受圧盤に設けた型厚調整ナットを型厚寸法に応じて回動させてタイバの有効長を変化させる必要がある。このような型厚調整ナットは、特許文献1に示されるように、受圧盤との押圧面や回転摺動面は十分な給脂が行われるようになっている。ところが、型厚調整ナットのタイバと螺合する部分への給脂は、型厚調整ナットが単独の回転体であることから、直接に実施することが困難である。型厚調整ナットの螺合部への給脂は、実際には、型厚調整の際、型厚調整ナットを回動することによりタイバ上を移動し、型厚調整ナットの両端面のグリスがタイバの雄螺子を介し移送されて行われるのである。
【0003】
しかしながら、金型交換を行わず同じ金型、あるいは金型交換を行っても同じ型厚の金型で長期間、成形運転を継続した場合、型厚調整ナットは殆んど回動せず受圧盤も移動しないため、同じ位置で螺合した型厚調整ナットとタイバとは繰返し型締力を受け、螺合面のグリスの油膜は減少し続け、全く潤滑されない状態にまで陥る。そのような状態で金型交換のため型厚調整を行うと、型厚調整ナットが回動したとき、型厚調整ナットの雌螺子部及び/又はタイバの雄螺子部が損傷する虞がある。
【0004】
【特許文献1】特許第3463265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した問題を解決すべくなされたものであって、型厚調整を行わなくとも型厚調整ナットの潤滑を良好に行い得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、受圧盤の裏面に回動自在に取付けられ、固定盤に固着したタイバの先端を螺合しつつ回動して前記タイバの有効長を変化させることにより型厚調整を行うとともに、トグル式又はクランク式の型締機構を有する型締装置による型締時に前記受圧盤に作用する力を受けて前記タイバに伝達する型厚調整ナットを潤滑する方法において、成形運転中に、前記受圧盤が所定距離を越えて移動しないときの時間か又は、前記受圧盤が所定距離を越えて移動しないときの生産数を積算し、その積算量が第1の所定値に到達したときに発せられる第1の信号に基づいて、成形運転以外のときに、前記受圧盤を前記所定距離以上に移動させる型厚調整ナットの潤滑方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の型締装置における型厚調整ナットの潤滑方法によれば、型厚調整を行わなくとも型厚調整ナットの潤滑を良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、型締装置の要部であって、受圧盤裏面における型厚調整ナットのタイバとの螺合状態を示す縦断面図である。図2は、本発明の型厚調整ナットの潤滑方法を示す流れ図である。
【0009】
型締装置1は、受圧盤2と、受圧盤2に対向して四隅にタイバ3を立設する図示しない固定盤と、受圧盤2と固定盤の間でタイバ3を挿通して移動可能に設けられた図示しない可動盤と、受圧盤2と可動盤の間に設けられたトグル式又はクランク式の型締機構と、受圧盤2の固定盤との対向面の裏面に摺動板5,8を介して回転自在に取付けられタイバ3の端部に刻設された雄螺子14と螺合する雌螺子15を有する型厚調整ナット4とからなる。
【0010】
タイバ3を遊挿する受圧盤2は、可動盤と固定盤の間に図示しない金型を挟持し、受圧盤2と可動盤の間の型締機構を最大に伸長させた状態の位置から、タイバ3の延びによって所定の型締力が発生するような僅かな距離だけ固定盤側に変位するように、型厚調整ナット4により位置決めされている。そして、このとき発生する型締力は、タイバ3から、その雄螺子14と型厚調整ナット4の雌螺子15との螺合部、型厚調整ナット4、摺動板5を介して受圧盤2に伝達される。
【0011】
摺動板5は、受圧盤2の裏面に固着されている。摺動板8は、受圧盤2の裏面に立設された複数の支持棒12で受圧盤2の裏面と平行に支持された取付板11に固着されている。このように、型厚調整ナット4は、摺動板5と摺動板8に当接する摺動面を有し、摺動板5と摺動板8で摺動可能に挟持されている。摺動板5,8には給油口6,9が穿孔され、それらは型厚調整ナットの摺動板5,8と当接する摺動面に設けた環状溝7,10に連通している。そして、給油口6,9からグリス等が注入され、環状溝7,10から摺動面を経てタイバ3に達するまで給油される。このように構成されているので、外周面に歯合する図示しない駆動歯車により回動される型厚調整ナット4の摺動面は、潤滑される。
【0012】
ところで、型締装置1には、それで成形する成形品の種類に応じて様々な金型が搭載される。そして、金型は、成形品の種類に応じて型厚を変化させる。そのため、型締装置1は、型厚調整機能を備えねばならない。型厚調整は、型厚調整ナット4を回動させて型厚に応じてタイバ3の有効長を変化させることにより実行される。
【0013】
このように、型厚調整時には、型厚調整ナット4の雌螺子15は、タイバ3の雄螺子14と螺合しつつ回動して、型厚調整ナット4はタイバ3上を大きく変位する。そのため、雌螺子15近傍の型厚調整ナット4端面におけるグリスは、雄螺子14により搬送されるようにして型厚調整ナット4の軸方向中央部に達し、雄螺子14と雌螺子15の螺合部が潤滑される。
【0014】
しかしながら、金型交換を行わず同じ金型で長期間成形運転するか又は、金型交換を行っても同じ型厚の金型で長期間成形運転する場合、型厚調整は行われないので、型厚調整ナットは殆んど回動せず受圧盤2も移動しないため、同じ位置で螺合した雄螺子14と雌螺子15とは繰返し型締力を受け、螺合面のグリスの油膜は減少し続け、全く潤滑されない状態にまで陥る。そのような状態で型厚調整を行うと、型厚調整ナット4が回動したとき、雄螺子14と雌螺子15の螺合部が損傷する虞がある。
【0015】
そのような事態を回避するため、雄螺子14と雌螺子15の螺合部における油膜の存在が保証できる範囲を越えた期間、受圧盤2が所定距離以上変位しなかったことを、受圧盤2の位置を監視して検出し、作業者に受圧盤2の強制移動を促す。さらに、その後、受圧盤2の移動が行われなかったときには、再度短期間の間、受圧盤2が所定距離以上変位しなかったことを、受圧盤2の位置を監視して検出し、自動的に成形運転を停止させる。
【0016】
この方法の実施の形態を、図2の流れ図に基づいて詳細に説明する。受圧盤2に設けた位置検出器13又は、型厚調整ナット4を回転駆動するモータの回転角度を検出するエンコーダ(図示せず。)の信号を制御装置(図示せず。)に入力する。制御装置は、そのスキャン時間又は所定の短時間毎に、受圧盤2の位置信号を取り込んで監視する(S1)。そして、取り込んだ位置値と前回取り込んで記憶した位置値との差すなわち受圧盤2の移動量を演算し、その移動量の絶対値が所定距離以内であるか否かを比較演算する(S2)。ここで、所定距離の値は、制御装置に予め入力して記憶させておくものであり、型厚調整ナット4の軸方向厚さの半分以上の値であることが好ましい。移動量の絶対値が所定距離以内でなかった場合には、制御装置の記憶装置に格納されている積算量をリセットしてステップS2に戻る(S3)。移動量の絶対値が所定距離以内であった場合には、その状態が継続している間の成形運転時間又は成形品の生産数を積算量として積算する(S4)。そして、積算量が第1の所定値に到達したか否かを比較演算する(S5)。ここで、第1の所定値は、制御装置に予め入力して記憶させておくものであり、雄螺子14と雌螺子15の螺合部における油膜の存在が保証できる範囲のものとする。積算量が第1の所定値に到達していないときは、ステップS2に戻る。積算量が第1の所定値に到達したときには、制御装置は第1の信号を発する(S6)。第1の信号は、制御装置の液晶パネル等の表示手段に受圧盤2を所定距離以上移動させる必要がある旨の警告及び必要に応じたその警報を発信せしめるものである。制御装置は積算量をリセットし、作業者は、それらに基づいて、型締装置1が成形運転していないときに、受圧盤2を所定距離以上移動させる(S7)。
【0017】
その後、再び成形運転に戻り、取り込んだ位置値と前回取り込んで記憶した位置値との差すなわち受圧盤2の移動量を演算し、その移動量の絶対値が所定距離以内であるか否かを比較演算する(S8)。移動量の絶対値が所定距離以内でなく、受圧盤2移動の実施が確認された場合には、ステップS1に戻る。移動量の絶対値が所定距離以内であった場合には、受圧盤2移動が実施されなかったと判断し、ステップS8と同様に、受圧盤2の移動量を演算し、その移動量の絶対値が所定距離以内であるか否かを比較演算する(S9)。移動量の絶対値が所定距離以内でなかった場合には、制御装置の記憶装置に格納されている積算量をリセットしてステップS9に戻る(S10)。移動量の絶対値が所定距離以内であった場合には、その状態が継続している間の成形運転時間又は成形品の生産数を積算量として積算する(S11)。そして、積算量が第2の所定値に到達したか否かを比較演算する(S12)。ここで、第2の所定値は、制御装置に予め入力して記憶させておくものであり、雄螺子14と雌螺子15の螺合部における油膜が不足した状態の範囲のものであって、通常第1の所定値より小さい値に設定される。積算量が第2の所定値に到達していないときは、ステップS9に戻る。積算量が第2の所定値に到達したときには、制御装置は第2の信号を発する(S13)。このとき、制御装置は型締装置1の成形運転を停止させるとともに、受圧盤2を自動的に所定距離以上移動させる(S14,S15)。なお、制御装置は、第2の信号を発信したとき、即座に成形運転を停止させるのではなく、型締装置1の制御モードを自動から半自動、さらに半自動から手動へと段階的に行うか又は、所定の時間や所定のショット数の後に停止させるか又は、型開完了等の所定の工程まで継続運転後停止させる等により実施してもよい。また、受圧盤2を自動的に所定距離以上移動させた後、成形運転再開に備えて、自動的に型厚調整を行うことも有効である。
【0018】
この発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を付加して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】型締装置の要部であって、受圧盤裏面における型厚調整ナットのタイバとの螺合状態を示す縦断面図である。
【図2】本発明の型厚調整ナットの潤滑方法を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0020】
1 型締装置
2 受圧盤
3 タイバ
4 型厚調整ナット
5,8 摺動板
6,9 給油口
7,10 環状溝
11 取付板
12 支持棒
13 位置検出器
14 雄螺子
15 雌螺子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受圧盤の裏面に回動自在に取付けられ、固定盤に固着したタイバの先端を螺合しつつ回動して前記タイバの有効長を変化させることにより型厚調整を行うとともに、トグル式又はクランク式の型締機構を有する型締装置による型締時に前記受圧盤に作用する力を受けて前記タイバに伝達する型厚調整ナットを潤滑する方法において、
成形運転中に、前記受圧盤が所定距離を越えて移動しないときの時間か又は、前記受圧盤が所定距離を越えて移動しないときの生産数を積算し、その積算量が第1の所定値に到達したときに発せられる第1の信号に基づいて、成形運転以外のときに、前記受圧盤を前記所定距離以上に移動させることを特徴とする型厚調整ナットの潤滑方法。
【請求項2】
前記第1の信号が発せられた後、前記積算量をリセットし、再度、成形運転中に、前記受圧盤が所定距離を越えて移動しないときの時間か又は、前記受圧盤が所定距離を越えて移動しないときの生産数を積算し、その積算量が第2の所定値に到達したときに発せられる第2の信号に基づいて、成形運転を停止させ、自動的に前記受圧盤を前記所定距離以上に移動させる請求項1に記載の型厚調整ナットの潤滑方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−23312(P2009−23312A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191626(P2007−191626)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000155159)株式会社名機製作所 (255)
【Fターム(参考)】