説明

基板処理方法および基板処理装置

【課題】基板表面のパターンの倒壊を効果的に抑制することができる基板処理方法および基板処理装置を提供する。
【解決手段】この基板処理方法は、表面に薄膜パターン10が形成された基板Wの表面に、純水の比抵抗以上の比抵抗を有する絶縁液体21を供給する絶縁液体供給工程と、基板Wに電圧を印加することにより薄膜パターン10を帯電させる帯電工程と、帯電工程と並行して、絶縁液体21を基板Wの表面から排除する乾燥工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を処理するための方法および装置に関する。処理の対象となる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
処理液を用いて基板を処理する装置は、枚葉型の装置と、バッチ型の装置に大別される。枚葉型の装置は基板を一枚ずつ処理するのに対して、バッチ型の装置は一組のバッチを構成する複数枚の基板に対して一括して処理を施すように構成されている。
枚葉型の基板処理装置は、たとえば、基板を保持して回転するスピンチャックと、スピンチャックに保持された基板に処理液を供給する処理液ノズルとを含む。スピンチャックに保持された基板に対して薬液が供給され、その後に純水が供給されることにより、基板上の薬液が純水に置換される。その後に、基板上の純水を排除するためのスピン乾燥処理が行われる。
【0003】
バッチ型の基板処理装置は、処理液を貯留した処理液槽と、バッチを構成する複数枚の基板を一括して保持する保持アームと、保持アームを昇降する昇降機構とを備えている。昇降機構によって保持アームを昇降することにより、複数枚の基板が処理液槽内の処理液内に一括して浸漬されたり、その処理液から引き上げられたりする。薬液を用いた処理を基板に施すときは、処理液槽内に薬液が貯留され、この薬液内に基板が浸漬される。薬液処理の後には、純水を貯留した別の処理液槽内に基板を移すか、または、同じ処理槽内の薬液を排出し、そこに純水を貯留して、その純水中に基板が浸漬される。これによって、基板表面の薬液が純水に置換される。その後、純水から基板を引き上げることにより、基板表面の純水が排除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−234882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板の表面には微細な薄膜が形成されている。とくに、半導体基板の表面には、高集積化のために、微細で、かつアスペクト比の高い薄膜パターンが形成されている。具体的には、酸化シリコン等の絶縁膜およびポリシリコン膜等の導電性膜を積層した多層構造の薄膜微細パターンが形成されている場合がある。このような微細で高アスペクト比の薄膜パターンが形成された基板を洗浄するときに、パターンが倒壊するという問題が生じることがある。
【0006】
この問題について本件発明者が詳細に検討したところ、薬液または純水による基板表面の洗浄後に、基板表面から液成分を排除する乾燥処理を行うときに、隣接するパターン同士が引きつけ合って接触し、パターン倒壊に至ることがわかった。この原因の一つは、隣接するパターン間の液による表面張力にあると推定される。すなわち、隣接するパターン間の液が排除されるときに、隣接するパターン同士に表面張力による引力が働き、その結果、パターン倒壊に至ると推定される。
【0007】
そこで、この発明の目的は、基板表面のパターンの倒壊を効果的に抑制することができる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、表面に薄膜パターン(10)が形成された基板(W)の表面に、純水の比抵抗以上の比抵抗を有する絶縁液体(21)を供給する絶縁液体供給工程と、前記基板(W)に電圧を印加することにより、前記薄膜パターン(10)を帯電させる帯電工程と、前記帯電工程と並行して、前記絶縁液体(21)を基板(W)の表面から排除する乾燥工程とを含む、基板処理方法である。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。以下、この項において同じ。
【0009】
この方法によれば、絶縁液体を基板の表面から排除する乾燥工程において、基板に対して電圧が印加される。これにより、薄膜パターンが帯電するので、隣接する薄膜パターンは、互いに相手を遠ざける力、すなわち斥力を生じることになる。その結果、隣接する薄膜パターン同士の引力、とくに絶縁液体により生じる表面張力により生じる引力に抗して、薄膜パターンの倒壊を効果的に抑制することができる。その結果、絶縁液体の表面張力等に起因するパターン倒壊を抑制しながら、絶縁液体を基板の表面から排除することができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記帯電工程は、前記絶縁液体(21)の帯電極性と同極性に前記薄膜パターン(10)を帯電させるように、前記基板(W)に電圧を印加する工程を含む、請求項1記載の基板処理方法である。
この方法によれば、絶縁液体と同極性に薄膜パターンが帯電されるので、薄膜パターンに生じた電荷(とくに分極による電荷)が絶縁液体中の帯電によって中和されることがない。これにより、隣接する薄膜パターンの間に効果的に斥力を作用させることができるから、パターンの倒壊を一層効果的に抑制することができる。
【0011】
絶縁液体がいずれの極性にも帯電していない場合には、薄膜パターンはいずれの極性に帯電されてもよい。
請求項3記載の発明は、前記絶縁液体供給工程は、絶縁液体(21)を一方の極性に帯電させる絶縁液体帯電工程と、帯電された絶縁液体(21)を前記基板(W)の表面に供給する工程とを含む、請求項1または2記載の基板処理方法である。
【0012】
この方法では、絶縁液体が一方の極性(+極性または−極性)に帯電される。したがって、たとえば請求項2の発明の特徴と組み合わせる場合に、絶縁液体の帯電極性と薄膜パターンの帯電極性とを容易に整合させることができる。その結果、隣接する薄膜パターンの間に確実に斥力を生じさせることができる。これにより、一層効果的にパターン倒壊を抑制することができる。
【0013】
請求項4記載の発明は、前記絶縁液体(21)は、大気中で純水以上の比抵抗を保持することができる液体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
このような絶縁液体は、充分に高い比抵抗を大気中で維持できるので、薄膜パターンに生じた電荷が当該絶縁液体を通じて除電されることがない。それにより、隣接する薄膜パターンの間に、より一層効果的に斥力を生じさせることができる。しかも、大気中で基板処理を行って差し支えないので、基板の周囲の雰囲気制御が容易である。
【0014】
大気中で純水以上の比抵抗を有する絶縁液体の例としては、HFE(ハイドルフルオロエーテル)、およびIPA(イソプロピルアルコール)を挙げることができる。純水の比抵抗は18MΩ・cmであり、HFEの比抵抗は2×10MΩ・cmであり、IPAの比抵抗は、2×10MΩ・cmである。「大気中で純水以上の比抵抗を保持することができる」とは、具体的には、絶縁液体が基板に供給されてから、絶縁液体を排除するための乾燥工程が終了するまで、純水以上の比抵抗を保持できることをいう。
【0015】
絶縁液体として純水を用いる場合には、基板の周囲の雰囲気を低二酸化炭素濃度雰囲気に制御することが好ましい。低二酸化炭素濃度雰囲気は、窒素ガスその他の不活性ガスの雰囲気であってもよい。すなわち、基板の近傍に不活性ガスを供給して、基板の周囲の雰囲気を不活性ガス雰囲気に制御してもよい。純水は、大気と接触すると、大気中の二酸化炭素を取り込んで、その比抵抗が容易に減少してしまう。そこで、基板の周囲の雰囲気を低二酸化炭素濃度雰囲気に制御しておくことによって、純水の比抵抗の低下を抑制できるので、隣接する薄膜パターン間に確実に斥力を作用させることができる。大気中で純水以上の比抵抗を維持できる絶縁液体を用いる場合には、このような雰囲気制御は不要となる。
【0016】
請求項5記載の発明は、前記薄膜パターンが、少なくとも絶縁層(7,8)を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
薄膜パターンが少なくとも絶縁層を有していることにより、基板に対して電圧を印加することで、薄膜パターンを帯電させることができる。すなわち、基板に電圧を印加すると、絶縁層内で分極が生じ、薄膜パターンは基板に印加した電圧と同極性に帯電する。これにより、隣接する薄膜パターン同士に効果的に斥力を作用させることができる。
【0017】
前記薄膜パターンは、一層または複数層の絶縁層を含んでもよく、さらに、導体層を含んでいてもよい。導体層としては、低抵抗化したシリコン層(たとえばアモルファスシリコン層またはポリシリコン層)および金属層を挙げることができる。絶縁層の一例は、酸化シリコン層である。
請求項6記載の発明は、前記基板(W)は、基板表面全域に電圧を印加させることができる基板である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
【0018】
このような基板は、たとえば、導電性基板、半導体基板、表面に導体膜または半導体膜を有する基板(たとえば絶縁性基板)のいずれであってもよい。表面に導体膜または半導体膜を有する基板は、導体膜および絶縁膜の積層膜が表面に形成された基板であってもよいし、半導体膜および絶縁膜の積層膜が表面に形成された基板であってもよい。
請求項7記載の発明は、表面に薄膜パターン(10)が形成された基板(W)を保持する基板保持手段(11;92)と、前記基板保持手段(11;92)に保持された基板(W)の表面に、純水の比抵抗以上の比抵抗を有する絶縁液体(21)を供給する絶縁液体供給手段(13,20;91,93,104)と、前記薄膜パターン(10)が帯電するように、前記基板保持手段(11;92)に保持された基板(W)に電圧を印加する電圧印加手段(26,27;92,105,106;105,106,110)と、前記基板(W)の表面の絶縁液体(21)を排除する乾燥手段(30;96,97)と、前記電圧印加手段(26,27;92,105,106;105,106,110)および前記乾燥手段(30;96,97)を制御し、前記電圧印加手段(26,27;92,105,106;105,106,110)による基板(W)への電圧印加と、前記乾燥手段(30;96,97)による絶縁液体(21)の排除とを並行して行わせる制御手段(28;107)とを含む、基板処理装置である。
【0019】
この構成により、請求項1の発明に関連して述べた効果と同様の効果を奏することができる。むろん、この基板処理装置の発明に関連しても、基板処理方法と同様の変更を施すことができる。
具体的には、請求項8に記載されているように、前記電圧印加手段(26,27;92,105,106;105,106,110)は、前記絶縁液体(21)の帯電極性と同極性に前記薄膜パターン(10)を帯電させるように、前記基板(W)に電圧を印加するものであってもよい。
【0020】
また、請求項9に記載されているように、前記絶縁液体供給手段(13,20;91,93,104)は、前記絶縁液体(21)を一方の極性に帯電させる絶縁液体帯電手段(24,25)を含み、前記帯電された絶縁液体(21)を前記基板(W)の表面に供給するものであってもよい。
請求項10記載の発明は、前記乾燥手段が、前記基板保持手段(11)に保持された基板(W)を回転させる基板回転手段(30)を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の基板処理装置である。基板保持手段(11)が、1枚の基板を保持するものである場合、基板処理装置は、基板(W)を一枚ずつ処理する枚葉型の装置形態を有することになる。
【0021】
請求項11記載の発明は、前記絶縁液体供給手段が、前記基板保持手段(92)に保持された基板(W)を絶縁液体(21)中に浸漬させるように構成された処理槽(91)を含み、前記乾燥手段が、前記処理槽内の絶縁液体外へと前記基板を取り出す基板取り出し手段(96,97)を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の基板処理装置である。基板保持手段は、複数枚の基板(W)を一括して処理槽内で保持する保持アーム(92)であってもよい。この場合、基板処理装置は、複数枚の基板を一括して処理するバッチ型の装置形態を有することになる。基板取り出し手段は、基板保持手段を持ち上げることによって、処理槽内の絶縁液体から基板を取り出す昇降機構(97)を含んでいてもよい。また、基板取り出し手段は、処理槽内の絶縁液体を排液することにより処理槽内の液位を下げる排液手段(96)であってもよい。排液手段は、処理槽に接続された排液管(95)に介装された排液バルブ(96)を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、この発明の一実施形態による基板処理装置の構成を説明するための図解的な断面図である。
【図2】前記基板処理装置に備えられたスピンチャックの構成を説明するための図解的な斜視図である。
【図3】スピンチャックの保持ピンの近傍の構成を拡大して示す断面図である。
【図4】図4Aは、処理対象の基板の一例を説明するための図解的な平面図であり、図4Bはその一部の図解的な断面図である。
【図5A】基板に対する処理の流れを説明するための図である。
【図5B】基板に対する処理の流れを説明するための図であり、図5Aの次の工程を示す。
【図5C】基板に対する処理の流れを説明するための図であり、図5Bの次の工程を示す。
【図5D】基板に対する処理の流れを説明するための図であり、図5Cの次の工程を示す。
【図5E】基板に対する処理の流れを説明するための図であり、図5Dの次の工程を示す。
【図5F】基板に対する処理の流れを説明するための図であり、図5Eの次の工程を示す。
【図6】乾燥工程(図5F)における基板の表面状態を説明するための図解的な断面図である。
【図7】この発明の他の実施形態に係る基板処理装置の構成を説明するための図解的な断面図である。
【図8A】図7の実施形態における基板処理の流れを説明するための図解的な断面図である。
【図8B】図7の実施形態における基板処理の流れを説明するための図解的な断面図であり、図8Aの次の工程を示す。
【図8C】図7の実施形態における基板処理の流れを説明するための図解的な断面図であり、図8Bの次の工程を示す。
【図8D】図7の実施形態における基板処理の流れを説明するための図解的な断面図であり、図8Cの次の工程を示す。
【図9】この発明のさらに他の実施形態に係る基板処理装置の構成を説明するための図解的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態による基板処理装置の構成を説明するための図解的な断面図である。この基板処理装置1は、基板Wを1枚ずつ処理する枚葉型の処理ユニットであって、基板に対して処理液を供給することにより、当該基板の表面処理を行うものである。基板Wは、たとえば、半導体基板(半導体ウエハ。ほぼ円形の基板)である。基板Wの表面には、少なくとも絶縁膜を含む薄膜パターンが形成されている。
【0024】
基板処理装置1は、スピンチャック11と、処理液ノズル12と、絶縁液体ノズル13とを備えている。スピンチャック11は、基板Wをほぼ水平に保持するとともに、この保持した基板Wのほぼ中心を通る鉛直な回転軸線11aまわりに回転させる基板保持機構である。処理液ノズル12は、スピンチャック11に保持されて回転されている基板Wの表面に向けて処理液を供給するように構成されている。絶縁液体ノズル13は、大気中における比抵抗が純水の比抵抗以上に保持される絶縁液体21を基板Wの表面に向けて供給するように構成されている。このような絶縁液体の一例は、HFE(ハイドルフルオロエーテル)である。
【0025】
処理液ノズル12は、スピンチャック11の上方に備えられており、基板Wの上面に処理液を供給するようになっている。この処理液ノズル12には、純水供給源からの純水(脱イオン水:リンス液の一例)が純水バルブ15を介して供給でき、また、薬液供給源からの薬液(エッチング液など)を薬液バルブ16を介して供給できるようになっている。処理液ノズル12は、基板Wの上面の回転中心に向けて処理液を供給する。この処理液は、基板W上で遠心力を受けて周縁部へと拡がり、基板Wの上面全域に至る。
【0026】
絶縁液体ノズル13も同様に、スピンチャック11の上方に備えられており、基板Wの上面に絶縁液体21を供給するようになっている。この絶縁液体ノズル13には、絶縁液体供給源20からの絶縁液体21(たとえばHFE)が絶縁液体バルブ17を介して供給できるようになっている。絶縁液体ノズル13は、基板Wの上面の回転中心に向けて絶縁液体21を供給する。この絶縁液体21は、基板W上で遠心力を受けて周縁部へと拡がり、基板Wの上面全域に至る。
【0027】
絶縁液体供給源20は、たとえば、絶縁液体21を貯留するタンク22と、タンク22内の絶縁液体21を汲み出して絶縁液体ノズル13に向けて供給するポンプ23と、タンク22内の絶縁液体21に接するように配置された電極24と、電極24に電圧を印加する電源25(直流電源)とを含む。電源25は、電極24に対して一方の極性(たとえば+極性)の直流電圧を印加する。これにより、絶縁液体21は、当該一方の極性に帯電することになる。したがって、絶縁液体バルブ17が開かれると、その帯電状態の絶縁液体21が、絶縁液体ノズル13から基板Wの表面に供給される。
【0028】
スピンチャック11は、モータ等を含む回転駆動機構30の駆動軸である金属製の回転軸31に結合されて回転されるようになっている。この回転軸31は、中空軸とされていて、その内部には、リンス液(この実施形態では純水)または薬液を供給することができる処理液供給管32が挿通されている。この処理液供給管32の上端には、スピンチャック11に保持された基板Wの下面中央に近接した位置に吐出口33aを有する中心軸ノズル(固定ノズル)33が結合されており、この中心軸ノズル33の吐出口33aから、基板Wの下面の中央に向けて、処理液(薬液またはリンス液)を供給できる。この処理液は、遠心力の働きによって、基板Wの下面全域に広がる。
【0029】
金属製の回転軸31は、スイッチ26を介して電源27(直流電源)に接続されている。電源27は、絶縁液体供給源20の電源25と同極性(たとえば+極性)の直流電圧を回転軸31に印加できるように、スイッチ26に接続されている。
処理液供給管32には、純水供給源に接続された純水バルブ35または薬液供給源に接続された薬液バルブ36を介して、純水または薬液(たとえば、エッチング液)が所要のタイミングで供給されるようになっている。
【0030】
処理液供給管32と回転軸31の内壁との間の空間は、プロセスガス供給路34とされており、このプロセスガス供給路34は、中心軸ノズル33の周囲において、基板Wの下方の空間と連通している。プロセスガス供給路34には、プロセスガス供給源からのプロセスガス(たとえば、窒素等の不活性ガス)が、プロセスガスバルブ37を介して供給されるようになっている。
【0031】
スピンチャック11は、図2に示すように、耐薬品性を有する樹脂材料で構成された円盤状のスピンベース41と、このスピンベース41の上面(基板対向面)の周縁部に間隔をあけて複数箇所(図2の例では等間隔で3箇所)に設けられた基板保持部材としての保持ピン42と、この保持ピン42を駆動するための保持ピン駆動機構43(図1参照)とを備えている。
【0032】
保持ピン駆動機構43は、たとえば、スピンベース41の内部の収容空間45に収容されたリンク機構46と、このリンク機構46を駆動するリンク駆動機構47とを含む。リンク駆動機構47は、回転軸31とともに回転する回転側可動部材48と、この回転側可動部材48の外周側に軸受け49を介して結合された固定側可動部材50と、この固定側可動部材50を昇降させるための保持ピン駆動用昇降駆動機構51とを備えている。
【0033】
保持ピン駆動用昇降駆動機構51によって固定側可動部材50を昇降させると、これとともに回転側可動部材48が昇降し、この昇降運動がリンク機構46に伝達されて、保持ピン42の動作に変換される。これにより、保持ピン42を、基板Wを保持する保持位置と、その保持を解除する解除位置との間で変位させることができる。
基板処理装置の各部を制御するために、制御部28が備えられている。制御部28は、バルブ15,16,35〜36の開閉、スイッチ26の開閉、回転駆動機構30の動作、および保持ピン駆動用昇降駆動機構51の動作を制御するようにプログラムされている。
【0034】
図3は、保持ピン42の近傍の構成を拡大して示す断面図である。個々の保持ピン42は、基板Wに接触する基板接触部材であり、耐薬液性および導電性を有する樹脂材料(たとえば、導電性ETFE(四ふっ化エチレン−エチレン共重合樹脂)または導電性PTFE(四ふっ化エチレン樹脂))で構成されている。この保持ピン42は、基板Wの周縁部の下面を支持する支持部42aと、基板Wの周端面を側方から保持する保持部42bと、支持部42aおよび保持部42bを連結するレバー42c(図2参照)とを有し、支持部42aを中心として鉛直軸線まわりに回動されるようになっている。これにより、保持部42bを基板Wの周端面に対して近接/離反させることができ、基板Wを保持する保持位置と、このような保持を解除した解除位置とに変位させることができる。保持部42bは、基板Wの周端面に対応した内向きのV字状断面を有する基板受け部44を備えており、保持部42bを基板Wの周端面に押し当てると、基板Wは基板受け部44にせり上がることによって、支持部42aから浮き上がった状態となる。
【0035】
スピンベース41は、円板状の上板部55と、円板状の下板部56と、これらを周縁部において連結する側板部57とを備え、これらは、その内部に収容空間45を区画している。この実施形態では、上板部55と側板部57とは一体的に形成されており、側板部57と下板部56とは、Oリング58を介して結合されている。下板部56は、その内方側縁部において、ステンレス鋼(SUS)などの金属材料からなるボルト52によって、回転駆動機構30の回転軸31の上端に結合されている。
【0036】
上板部55の周縁部には、鉛直方向に貫通する貫通孔60が形成されている。この貫通孔60には、ステンレス鋼などの金属材料からなる回動軸61が挿通されている。この回動軸61の上端に保持ピン42が結合されている。
また、貫通孔60の内壁には、シール部材68,69が回動軸61との間に配置されており、これらは、シール押さえ保持段部67に圧入されたシール押さえ部材70によって保持されている。さらに、シール押さえ部材70の下面側に形成された軸受け保持段部66には、回動軸61を回動自在に軸支する軸受け77が圧入されている。
【0037】
一方、回動軸61の下端部63は小径部となっており、この下端部63は、軸受け78によって軸支されている。この軸受け78は、下板部56の内側面(上面)に固定された円筒状の軸受け保持部79に圧入されている。この軸受け保持部79は、たとえばアルミニウム等の金属部材である。この軸受け保持部79は、金属テープ(たとえばアルミニウムテープ)80を介してボルト52に電気的に接続されている(図1参照)。金属テープ80は、収容空間45内において、下板部56の上面に配置され、その一端が軸受け保持部79に接続されているとともに、その他端がボルト52に接続されている。
【0038】
回動軸61の中間部は、リンク機構46に結合されている。これにより、回動軸61は、リンク機構46からの駆動力を得て、その中心軸まわりに回動することになる。
前述のとおり、保持ピン42は導電性樹脂で構成され、回動軸61および軸受け保持部79は金属材料で構成されている。そのため、保持ピン42は、回動軸61、軸受け78、軸受け保持部79、金属テープ80およびボルト52を通る導電経路を介して、回転駆動機構30の回転軸31に電気的に接続されている。そして、図1に示すように、金属製の回転軸31は、スイッチ26を介して電源27に接続されている。したがって、スイッチ26を導通状態とすると、電源27からの電圧が、回転軸31から前記導電経路を介して、保持ピン42から基板Wに印加される。
【0039】
図4Aは、処理対象の基板Wの一例を説明するための図解的な平面図であり、図4Bはその一部の図解的な断面図である。基板Wは、たとえば、シリコン(Si)基板5(半導体基板の一例)の表面に、微細な薄膜パターン10を形成したものである。薄膜パターン10は、たとえば、線幅W1が10nm〜45nm程度、隣接するパターン間の間隔W2が10nm〜数μm程度で形成されていてもよい。なお、実際にはこのように微細な寸法の薄膜パターン10が形成されたシリコン基板5を目視した場合、図4に図示するような寸法で薄膜パターン10が確認できるわけではないが、説明を容易にするため、図4Aでは基板W上に形成された薄膜パターン10を拡大して図示している。
【0040】
薄膜パターン10は、少なくとも絶縁膜を含む。より具体的には、薄膜パターン10は、積層膜6からなっていてもよい。積層膜6は、たとえば、シリコン基板5側から順に、第1絶縁膜7、第2絶縁膜8および導体膜9を積層して構成されていてもよい。第1絶縁膜7および第2絶縁膜8は、酸化シリコン膜であってもよい。また、導体膜9は、低抵抗化のための不純物を導入したアモルファスシリコン膜であってもよいし、金属膜(たとえば金属配線膜)であってもよい。
【0041】
薄膜パターン10を形成する積層膜6の膜厚Tは、たとえば、50nm〜5μm程度である。また、積層膜6は、たとえば、アスペクト比(線幅W1に対する膜厚Tの比)が、たとえば、5〜500程度であってもよい。
図5A〜5Fは、基板Wに対する処理の流れを説明するための図である。まず、未処理の基板Wが、搬送ロボット(図示せず)によって、スピンチャック11に受け渡される(図5A)。このとき、保持ピン42は解除位置とされている。搬送ロボットの基板保持ハンドが退避すると、保持ピン駆動用昇降駆動機構51が駆動されて、保持ピン42が保持位置とされる。
【0042】
次いで、回転駆動機構30によってスピンチャック11が回転軸線11aまわりに回転駆動される。さらに、薬液バルブ16,36が開かれ、処理液ノズル12および中心軸ノズル33から、基板Wの上下面に薬液が供給される(図5B)。ただし、図5Bでは、上面への薬液供給のみを図示してある。
一定時間にわたって薬液処理を行った後に、薬液バルブ16,36が閉じられ、代わって、純水バルブ15,35が開かれる。これにより、基板Wの上下面に対して、純水によるリンス処理が行われ、基板Wの上下面の薬液が純水に置換される(図5C)。ただし、図5Cでは、上面への純水供給のみを図示してある。
【0043】
一定時間にわたって純水リンス処理を行った後に、純水バルブ15,35が閉じられ、代わって、絶縁液体バルブ17が開かれる。これにより、基板Wの上面に対して、絶縁液体21が供給される。これにより、基板Wの上面の純水が絶縁液体21に置換される(図5D:絶縁液体リンス処理)。
次いで、制御部28は、スイッチ26を導通させる。これにより、基板Wに対して、絶縁液体21と同極性の電圧が印加される(図5E)。
【0044】
この状態で、制御部28は、絶縁液体バルブ17を閉じて、スピンチャック11を高速回転(リンス処理時よりも高速回転。たとえば3000rpm程度の回転速度)させる(図5F)。これにより、基板Wの上面の絶縁液体21および下面の水滴を振り切るための乾燥工程が行われる。
この乾燥工程の後には、制御部28は、スピンチャック11の回転を停止させ、スイッチ26を遮断する。さらに、制御部28は、保持ピン駆動用昇降駆動機構51を作動させて保持ピン42を解除位置とする。その後、搬送ロボットの基板保持ハンドによって、処理済みの基板Wが搬出されることになる。
【0045】
図6は、乾燥工程(図5F)における基板Wの表面状態を説明するための図解的な断面図である。薄膜パターン10の間には、絶縁液体21が入り込んでいる。この絶縁液体21が排除される過程では、絶縁液体21の表面張力のために、隣接する薄膜パターン10の間に引力が働く。一方、基板Wに印加された電圧は、薄膜パターン10を構成する絶縁膜7,8に分極を生じさせる。その結果、それらの表面は、基板Wに印加された電圧とは逆極性(たとえば−極性)に帯電する。また、導体膜9の表面には、基板Wに印加された電圧とは逆極性(たとえば−極性)の電荷が誘導される。このような現象が各薄膜パターン10で生じることによって、隣接する薄膜パターン10の間には、クーロン力による斥力が生じることになる。この斥力が絶縁液体21の表面張力による引力を打ち消すことにより、薄膜パターン10の倒壊を抑制または防止できる。
【0046】
しかも、この実施形態では、絶縁液体21は、薄膜パターン10の帯電極性と同極性に帯電しているので、帯電によるクーロン力が中和されない。これにより、隣接する薄膜パターン10の間にクーロン力による斥力を有効に作用させることができるから、薄膜パターン10の倒壊を効果的に抑制できる。
さらに、また、この実施形態において絶縁液体21として用いられるHFEは、純水よりも表面張力が小さい。このような低表面張力の絶縁液体21を用いることによって、薄膜パターン10の倒壊を一層効果的に抑制または防止できる。
【0047】
このように、この実施形態によれば、基板Wの乾燥に先立って基板Wの上面(薄膜パターン10が形成された表面)の純水を絶縁液体21に置換し、基板Wに電圧を印加した状態で基板W表面の絶縁液体21を排除する乾燥工程が行われる。これにより、薄膜パターン10の間にクーロン力による斥力を作用させた状態で絶縁液体21が排除されるので、絶縁液体21の表面張力に起因するパターン倒壊を抑制することができる。こうして、薄膜パターンの倒壊を抑制しつつ、基板Wの表面からリンス液(純水)を排除する乾燥工程を行うことができる。
【0048】
基板Wに対する印加電圧は、薄膜パターン10の絶縁破壊が生じない範囲で定めればよい。たとえば、第1および第2絶縁膜7,8の全体の膜厚Ti(図4B参照)が200nmであり、その絶縁耐圧が10MV/cmであるとすると、第1および第2絶縁膜7,8の全体の絶縁耐圧は、次式より、200Vである。
200×10−7(cm)×10×10(V/cm)=200V
したがって、基板Wに対する印加電圧は、200V未満の範囲で、絶縁液体21の表面張力に起因する引力に対抗し得る斥力(クーロン力)が生じるように定めればよい。
【0049】
図7は、この発明の他の実施形態に係る基板処理装置の構成を説明するための図解的な断面図である。この基板処理装置2は、複数枚(たとえば50枚)の基板Wを一括して処理するバッチ型の形態を有している。基板処理装置2は、処理液を貯留するための処理槽91と、保持アーム92と、処理液供給機構93と、アーム92を処理槽91に対して昇降させるアーム昇降機構97とを備えている。
【0050】
保持アーム92は、バッチを構成する複数枚の基板Wを保持して、処理槽91に対して昇降するように構成されている。これにより、複数枚の基板Wを一括して処理槽91内に配置したり、処理槽91から複数枚の基板Wを一括して取り出したりすることができる。保持アーム92は、鉛直姿勢の板状アーム92aと、板状アーム92aの下部において、板状アーム92aに直交する水平方向に沿って互いに平行に配置された複数本(この実施形態では3本)の棒状の支持部材92bとを備えている。3本の支持部材92bは、鉛直姿勢の複数枚の基板Wを水平方向(支持部材92bの長手方向)に沿って積層した状態で保持できるように構成されている。処理槽91は、保持アーム92に保持された状態の複数枚の基板Wを収容し、その内部に貯留された処理液内に当該複数枚の基板Wを浸漬させることができるように構成されている。
【0051】
処理液供給機構93は、処理槽91の底部において支持部材92bの長手方向に平行に配置された2本の噴出管98を備えている。2本の噴出管98は、平面視において、保持アーム92に保持されたバッチ(複数枚の基板W)の両側から、当該バッチに向けて処理液を噴出するように構成されている。処理液供給機構93は、さらに、噴出管98に接続された処理液供給管100と、薬液バルブ101と、純水バルブ102と、絶縁液体バルブ103とを含む。薬液バルブ101は、薬液供給源からの薬液を処理液供給管100に供給する。純水バルブ102は、純水供給源からの純水(脱イオン水。リンス液の一例)を処理液供給管100に供給する。絶縁液体バルブ103は、絶縁液体供給源104からの絶縁液体21を処理液供給管100に供給する。絶縁液体供給源104は、前述の第1の実施形態における絶縁液体供給源20と同様の構成を有しており、図7では、対応構成要素に図1と同一参照符号を付して示す。絶縁液体21の例は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0052】
このような構成によって、処理液供給機構93は、薬液バルブ101を開くことによって、噴出管98から、処理槽91の内部に薬液を供給できる。また、純水バルブ102を開くことによって、処理槽91の内部に純水を供給できる。さらに、絶縁液体バルブ103を開くことによって、処理槽91の内部に絶縁液体21を供給することができる。
処理槽91の内底面は、幅方向(基板Wの径方向に沿う水平方向)中央に向かって下り傾斜を有しており、その最底部に排液口94が形成されている。この排液口94に排液管95が接続されている。排液管95の途中部には、排液バルブ96が介装されている。この排液バルブ96を開くことによって、処理槽91内の処理液を排出できる。
【0053】
保持アーム92を構成する板状アーム92aおよび支持部材92bは、耐薬液性を有する導電性樹脂で構成されている。このような導電性樹脂としては、導電性ETFE(四ふっ化エチレン−エチレン共重合樹脂)、および導電性PTFE(四ふっ化エチレン樹脂)を例示することができる。保持アーム92は、スイッチ105を介して電源106(直流電源)に接続されている。スイッチ105が閉じられているとき、電源106は、一方の極性(たとえば+極性)の直流電圧を、保持アーム92に印加する。この電圧は、保持アーム92に保持された複数の基板Wに印加される。電源106は、絶縁液体21を帯電させるための電源25と同極性の直流電圧を基板Wに印加するように構成されている。
【0054】
スイッチ105の開閉、アーム昇降機構97による保持アーム92の昇降動作、バルブ96,101〜103の開閉は、制御部107によって制御される。制御部107は、これらの制御対象を制御することによって、予め設定した基板処理を実行するようにプログラムされている。
図8A〜8Dは、基板処理の流れを説明するための図解的な断面図である。基板Wの構成は、前述の第1の実施形態の場合と同様である(図4Aおよび図4B参照)。制御部107は、処理槽91に薬液を貯留する。具体的には、薬液バルブ101を開いて処理液供給管100から薬液を供給させる。この薬液は、噴出管98から噴出される。所定の液位以上の薬液が貯留された状態で、制御部107は、アーム昇降機構97を作動させて、保持アーム92を下降させる。これにより、保持アーム92に保持された複数枚の基板Wが一括して処理槽91内の薬液中に浸漬される(図8A参照)。むろん、これに先だって、保持アーム92には、未処理の基板Wが保持させられる。薬液中に浸漬された基板Wに向けて、噴出管98からの薬液が供給される。処理槽91をオーバーフローした薬液は、図示しない回収機構によって回収され、薬液供給源へと帰還させられて再利用される。
【0055】
所定時間の薬液処理の後には、薬液バルブ101が閉じられ、排液バルブ96が開かれる。これにより、処理槽91内の薬液が排出される。処理槽91内の薬液が完全に排出された後、またはそれ以前の所定のタイミングで、純水バルブ102が開かれる。これにより、保持アーム92に保持された複数枚の基板Wに向けて、噴出管98から純水が供給される。その後、制御部107が排液バルブ96を閉じると、処理槽91内に純水が貯留される(図8B参照)。これにより、保持アーム92に保持された複数枚の基板Wは、純水に浸漬された状態となる。その後も、噴出管98からの純水の供給が継続されると、純水は処理槽91を満たして、オーバーフローする。こうして、処理槽91内の薬液濃度が徐々に低くなっていく。こうして、基板Wの表面の薬液が純水に置換する純水リンス処理が行われる。
【0056】
所定時間の純水処理の後には、純水バルブ102が閉じられ、代わって、絶縁液体バルブ103が開かれる。これにより、保持アーム92に保持された複数枚の基板Wに向けて、噴出管98から絶縁液体21が供給される。噴出管98からの絶縁液体21の供給が継続されると、処理槽91内の液がオーバーフローし、処理槽91内の純水が絶縁液体21に置換されていく。これにより、基板Wを純水中から取り出すことなく、基板Wの周囲の純水を絶縁液体21に置換することができる。こうして、絶縁液体21(たとえばHFE)による基板Wのリンスが行われる(図8C参照。絶縁液体リンス処理)。絶縁液体21は、一方の極性(たとえば+極性)に帯電している。
【0057】
その後、制御部107は、絶縁液体バルブ103を閉じ、複数枚の基板Wを絶縁液体21から引き上げる(図8D)。このとき、制御部107は、アーム昇降機構97を作動させて保持アーム92を上昇させることにより、複数枚の基板Wを絶縁液体21から引き上げてもよい。また、制御部107は、排液バルブ96を開くことによって、処理槽91内の絶縁液体21の液位を下降させることにより、基板Wを絶縁液体21から引き上げてもよい。むろん、絶縁液体21の排液と保持アーム92の上昇とを併せて行ってもよい。
【0058】
こうして、絶縁液体21中から基板Wを引き上げることにより、基板W表面の絶縁液体21が排除されることになる。基板Wを絶縁液体21から引き上げるよりも前に、制御部107は、スイッチ105を導通させる(図8D参照)。これにより、基板Wに一方の極性(たとえば+極性)の直流電圧が印加された状態で、基板Wが絶縁液体21から引き上げられて乾燥させられることになる。
【0059】
したがって、基板Wの表面から液体を排除する乾燥工程において、基板Wに対して一方の極性の電圧が印加されるから、基板Wの表面は、前述の図6に示した状態となる。すなわち、薄膜パターン10の間には絶縁液体21の表面張力に起因する引力が働くものの、薄膜パターン10が帯電しているため、隣接する薄膜パターン10の間にはクーロン力による斥力が働く。この斥力が表面張力による引力を打ち消す。これにより、隣接する薄膜パターン10が互いに引き合うことに起因するパターン倒壊を抑制または防止することができる。
【0060】
図9は、この発明のさらに他の実施形態に係る基板処理装置の構成を説明するための図解的な断面図である。この図9において、前述の図7に示された各部の対応部分には、図7と同一参照符号を付して示す。
この実施形態の基板処理装置3は、電源106が発生する直流電圧を基板Wに印加するための電極110を備えている。すなわち、電極110は、スイッチ105を介して電源106に接続されている。電極110は、支持部材92bと平行な方向(すなわち、基板Wの整列方向)に延びる棒状に形成されており、保持アーム92に保持された複数枚の基板Wに接触できるように構成されている。電極110は、電極移動機構111によって、処理槽91内に収容された状態の基板Wに接触する接触位置と、基板Wから退避した退避位置との間で移動させられる。
【0061】
この基板処理装置3による基板処理は、前述の第2の実施形態の場合とほぼ同様にして行われる。ただし、制御部107は、絶縁液体21から基板Wを引き上げるのに先立って、電極移動機構111を制御して電極110を基板Wに接触させ、さらに、スイッチ105を導通させる。絶縁液体21から基板Wを引き上げるために保持アーム92が上昇させられる場合には、電極移動機構111は、電極110と基板Wとの接触状態を保持しつつ、電極110を上昇させる。
【0062】
このようにして、基板表面から絶縁液体21を排除するときに、基板Wに対して一方の極性(たとえば+極性)の直流電圧を印加し、隣接する薄膜パターン10間にクーロン力による斥力を作用させることができる。したがって、この実施形態によっても、基板表面の薄膜パターンの倒壊を効果的に抑制または防止できる。
なお、この実施形態においては、保持アーム92の構成部品は、導電性の材料で構成されている必要はない。
【実施例】
【0063】
本件発明者による実験結果を以下に示す。
−1.8nCに帯電させた絶縁液体中に基板W(図4Aおよび図4Bに示す構成の基板)を浸漬させ、その基板Wに対して−100Vの電圧を印加した状態で、絶縁液体から引き上げた。この場合に、一辺25μmの正方形領域内を顕微鏡観察したところ、パターン倒壊は見られなかった。
【0064】
比較実験として、純水中に基板W(図4Aおよび図4Bに示す構成の基板)を浸漬させ、その基板Wに電圧を印加することなく、純水から引き上げた。この場合に、一辺25μmの正方形領域内を顕微鏡観察したところ、視野内の50%の薄膜パターンが倒壊していた。
以上、この発明の実施形態および実施例について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することができる。たとえば、前述の実施形態では、絶縁液体としてHFEを用いた例を示したが、IPA(イソプロピルアルコール)を同様の目的のための絶縁液体として用いることもできる。また、基板Wの近傍の雰囲気中を適切に制御すれば、純水を絶縁液体として用いることもできる。大気中においては、二酸化炭素が純水に溶け込むため、純水の比抵抗は容易に減少してしまう。そこで、基板Wの近傍の雰囲気を、大気中よりも二酸化炭素濃度の低い低二酸化炭素濃度雰囲気に制御しておけば、純水の比抵抗を高い値に保持できるから、純水を絶縁液体として適用することができる。低二酸化炭素雰囲気は、たとえば、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気であってもよい。
【0065】
また、前述の実施形態では、絶縁液体として常温のHFEを用いた例を示したが、加熱されたHFE(たとえば、50℃程度)が用いられてもよい。これにより、基板Wから絶縁液体を容易に排除することができ、基板Wの乾燥工程にかかる時間を短縮することができる。これは、IPAが用いられた場合であっても同様である。
さらに、前述の実施形態では、絶縁液体を一方の極性に帯電させているが、絶縁液体がいずれの極性にも帯電していないのであれば、絶縁液体を帯電させる必要はない。また、絶縁液体は、積極的に帯電させなくても、一方の極性に帯電している場合もある。この場合には、絶縁液体を帯電させるための構成を省き、基板Wに対して絶縁液体の帯電極性と同極性の電圧を印加すればよい。
【0066】
また、前述の第1の実施形態では、処理液ノズル12のほかに絶縁液体ノズル13を備えているが、処理液ノズル12を絶縁液体の供給のために兼用することもできる。
また、前述の第2および第3の実施形態では、一つの処理槽91内で薬液処理、純水リンス処理および絶縁液体リンス処理を行っているが、たとえば、薬液処理を第1の処理槽で行い、純水リンス処理および絶縁液体リンス処理を別の第2の処理槽で行う構成としてもよい。
【0067】
さらに、前述の実施形態では、シリコンウエハ(半導体基板)に対する処理を例にとったが、この発明は、液晶表示装置用ガラス基板その他の基板の処理に対しても同様に適用することができる。
その他、特許請求の範囲に記載した事項の範囲で、種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0068】
1 基板処理装置(第1の実施形態)
2 基板処理装置(第2の実施形態)
3 基板処理装置(第3の実施形態)
5 シリコン基板
6 積層膜
7 第1絶縁膜
8 第2絶縁膜
9 導体膜
10 薄膜パターン
11 スピンチャック
12 処理液ノズル
13 絶縁液体ノズル
15 純水バルブ
16 薬液バルブ
17 絶縁液体バルブ
20 絶縁液体供給源
21 絶縁液体
24 電極
25 電源
26 スイッチ
27 電源
28 制御部
30 回転駆動機構
31 回転軸
35 回転駆動機構
41 スピンベース
42 保持ピン
80 金属テープ
91 処理槽
92 保持アーム
93 処理液供給機構
94 排液口
95 排液管
96 排液バルブ
97 アーム昇降機構
98 噴出管
100 処理液供給管
101 薬液バルブ
102 純水バルブ
103 絶縁液体バルブ
104 絶縁液体供給源
105 スイッチ
106 電源
107 制御部
110 電極
111 電極移動機構
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に薄膜パターンが形成された基板の表面に、純水の比抵抗以上の比抵抗を有する絶縁液体を供給する絶縁液体供給工程と、
前記基板に電圧を印加することにより、前記薄膜パターンを帯電させる帯電工程と、
前記帯電工程と並行して、前記絶縁液体を基板の表面から排除する乾燥工程とを含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記帯電工程は、前記絶縁液体の帯電極性と同極性に前記薄膜パターンを帯電させるように、前記基板に電圧を印加する工程を含む、請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記絶縁液体供給工程は、絶縁液体を一方の極性に帯電させる絶縁液体帯電工程と、帯電された絶縁液体を前記基板の表面に供給する工程とを含む、請求項1または2記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記絶縁液体は、大気中で純水以上の比抵抗を保持することができる液体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記薄膜パターンが、少なくとも絶縁層を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記基板は、基板表面全域に電圧を印加させることができる基板である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
表面に薄膜パターンが形成された基板を保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持された基板の表面に、純水の比抵抗以上の比抵抗を有する絶縁液体を供給する絶縁液体供給手段と、
前記薄膜パターンが帯電するように、前記基板保持手段に保持された基板に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記基板の表面の絶縁液体を排除する乾燥手段と、
前記電圧印加手段および前記乾燥手段を制御し、前記電圧印加手段による基板への電圧印加と、前記乾燥手段による絶縁液体の排除とを並行して行わせる制御手段とを含む、基板処理装置。
【請求項8】
前記電圧印加手段は、前記絶縁液体の帯電極性と同極性に前記薄膜パターンを帯電させるように、前記基板に電圧を印加するものである、請求項7記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記絶縁液体供給手段は、前記絶縁液体を一方の極性に帯電させる絶縁液体帯電手段を含み、前記帯電された絶縁液体を前記基板の表面に供給するものである、請求項7または8記載の基板処理装置。
【請求項10】
前記乾燥手段が、前記基板保持手段に保持された基板を回転させる基板回転手段を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項11】
前記絶縁液体供給手段が、前記基板保持手段に保持された基板を絶縁液体中に浸漬させるように構成された処理槽を含み、
前記乾燥手段が、前記処理槽内の絶縁液体外へと前記基板を取り出す基板取り出し手段を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−124383(P2011−124383A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280863(P2009−280863)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】