説明

基板搬送装置及び真空処理装置

【課題】基板を鉛直方向に向けて搬送する場合にも安定した高速搬送が可能な基板搬送装置及び真空処理装置を提供する。
【解決手段】基板3a、3bを保持するトレイ4a、4b、軸受(案内部材)6を介して搬送路7の上を移動するキャリア20、キャリア20を搬送路7に沿って移動させる駆動手段を具備する。駆動手段の駆動により搬送路に沿って基板を搬送路を含む面に対して鉛直方向に向けて搬送する。その際、駆動手段は搬送路に沿って取り付けられたラックギア16を有し、キャリア20とラックギア16との間に搬送路7に沿って防振材8を配置し、キヤリア20の搬送時の振動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板等の基板を搬送する基板搬送装置及びそれを用いた真空処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置やプラズマ表示装置等に用いる大型のガラス基板の成膜処理等には、複数の処理室が連結されたインライン方式の真空処理装置が用いられている。基板を搬送する機能を有し、その基板に対して成膜やエッチング、加熱や冷却等の処理を行う装置は処理室または処理装置と呼ばれ、特に、排気手段を備えたものは真空処理室または真空処理装置と呼ばれている。
【0003】
近年、基板サイズの大型化に伴い、ガラス基板はトレイに保持され、略垂直にして各処理室に順次送られて所定の処理が施される。ここで、トレイの転倒防止のために軸受等の案内部材が搬送路に沿って設けられているが、ガラス基板の大型化が進むと処理室内での搬送距離が延び、単位時間当たりの処理枚数を落とさないために搬送速度の高速化が要求されている。
【0004】
しかし、搬送速度の高速化を行うと、搬送に伴うガラス基板の振動が大きくなるため、処理室内で発生するパーティクルに起因する膜欠陥等の問題点が発生するようになった。この基板搬送時の振動の解決策として、例えば、特許文献1の技術が提案されている。
【0005】
特許文献1のものは、搬送装置に載せられる接地部と板状ワークが載置される載置部との間に防振部材を設けることにより、トレイに載せられる板状ワークに搬送中の振動が伝わるのを抑制するものである。
【特許文献1】特開2006−179690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のものでは、基板処理面を上面に向けて搬送する場合には防振抑制効果があるものの、基板を垂直に近い角度で立てながら搬送する場合には防振抑制効果を十分に得ることができない。
【0007】
本発明の目的は、基板を鉛直方向に向けて搬送する場合にも安定した高速搬送が可能な基板搬送装置及び真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の基板搬送装置は、基板を保持するトレイと、前記トレイが取り付けられ、案内部材を介して搬送路の上を移動するキャリアと、前記キャリアを前記搬送路に沿って移動させる駆動手段とを有し、前記駆動手段の駆動により前記搬送路に沿って、前記基板を、該搬送路を含む平面に対して鉛直方向に立てて搬送する基板搬送装置であって、前記駆動手段は、前記搬送路に沿って該キャリアに取り付けられたラックギアを有し、前記キャリアと前記ラックギアとの間に前記搬送路に沿って防振材が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、搬送路を含む平面に対して基板を鉛直方向に立てて搬送する基板搬送装置であっても、振動を抑制しながら、高速搬送を行うことができる。従って、スループットを低下させることなく、基板の大型化に対応することができる。また、トレイの振動が抑えられ、且つ、振動が起こったとしてもすぐに減衰するためパーティクルの発生が抑えられる。結果として、より高精細の表示装置の製造に適用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明は、特に、複数基の真空処理室を有するインライン方式の真空処理装置内で1m以上の大型ガラス基板をトレイに保持し、高速で搬送する基板搬送装置に好適に用いることができる。
【0011】
図2は、本発明に係る基板搬送装置(真空処理室)を複数備えた真空処理装置の一実施形態を示す模式図である。
【0012】
図1は、図2の真空処理室10を搬送方向(図2中の矢印で示す)から見た真空処理装置内部の模式図である。
【0013】
本実施形態の真空処理室10としては、例えば、スパッタリングによる成膜室とする。なお、本発明は、基板の搬送機能を有する真空処理室10に関するものであるが、この基板搬送機能を有する真空処理室10を基板搬送装置とする。
【0014】
図2に示す真空処理装置の例では、キャリアの回転機構22を備えた三つの方向転換室18が相互に接続されており、各方向転換室18の周囲には複数の真空処理室10が接続されている。
【0015】
また、三つの方向転換室18のうち、一つに、例えば、予備室としての中間室19が接続され、中間室19には二つのロードロック室21が接続されている。ここで、中間室19もロードロック室21も搬送機構を有する基板搬送室であることには変わりはない。
【0016】
更に、各方向転換室18と接続される各真空処理室10との間、中間室19と接続される方向転換室18との間、及び、中間室19と各ロードロック室21との間にゲートバルブ14が配設されている。9a、9bはガス供給部を示す。
【0017】
次に、図1を用いて本発明の基板搬送装置を詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように真空処理室10は、例えば、不図示のゲートバルブを介して連結された一室のスパッタリング室10であり、2つのトレイ4a、4bを備えたキャリア20を支える案内部材として軸受6が搬送路7に沿って敷設されている。キャリア20とは基板を保持するトレイを搬送するものをいう。トレイ4a、4bには基板(ガラス基板等)3a、3bが保持されている。真空処理室10はスパッタリング室でもよいし、加熱や冷却だけの処理でも構わない。
【0019】
トレイ4a、4bは、鉛直方向に対し所定の角度をもって取り付けてもよい。ここで、基板3a、3bの一辺が1m程度以上の場合には、角度を0.5°以上、3°以下とするのが好ましい。即ち、基板は搬送路を含む面に対する鉛直方向から0.5°〜3°傾斜しているのが良い。これにより搬送中の基板の飛び出しを防止し、安定して高速搬送(例えば、500〜600mm/秒)が可能となる。
【0020】
本発明は、このように基板を鉛直方向に対して所定の角度傾けた場合も鉛直方向に含まれるものとして説明する。なお、トレイ4a、4bには、内側から基板を加熱するために開口(不図示)を設けてもよい。
【0021】
真空処理室10には、それぞれ排気装置11が取り付けられている。これによって、真空処理室は2×10Pa〜2×10-5Pa程度に真空引きされる。また、基板3a、3bと対向するようにターゲット1a、1bがそれぞれ配置され、ターゲット1a、1bはバッキングプレート2a、2bで支持されている。
【0022】
バッキングプレート2a、2bの背面側には、ターゲット1a、1bの表面上に閉じたループ状の磁場を発生させるための不図示の磁石ユニットが設けられている。符号12はシールドである。
【0023】
不図示の準備室において、トレイ4a、4bを傾けてキャリア20に基板3a、3bを2枚取り付ける。基板3a、3bを保持するトレイ4a、4bは、図1ではキャリア20の両側に配置する構成を示したが、片側だけでも構わない。基板3a、3bは、例えば、トレイ4a、4bのそれぞれ4辺に取り付けられた固定治具(不図示)により、4辺で押さえてキャリア20に保持されている。
【0024】
キャリア20には、各トレイ4a、4bの下部に軸受6に係合するように係合部5が形成され、キャリア20はこの係合部5を介して軸受6に支持されている。キャリア20はこの案内部材としての軸受6に支持され、軸受6に案内されながら搬送路7の上を移動する。この時、キャリア20全体の重量は、例えば、約200Kg以上にも達するが、搬送路7に対し対称の自立構造であるため、軸受6により安定に支持されている。
【0025】
キャリア20の下端部の一方又は両側には、キャリア搬送機構としてラックギア16と呼ばれる直線ギアが搬送方向に沿って配置され、これと噛合するピニオンギア17と呼ばれる駆動ギアが真空処理室10に設けられている。ラックギア16は詳しく後述するようにキャリア20の搬送時の振動を抑制する防振材8を介してキャリア20に取り付けられている。
【0026】
ピニオンギア17はピニオン駆動装置15の駆動により回転する。このピニオンギア17の回転によりそれと噛合するラックギアヤ16が搬送方向に駆動され、それに伴ってキャリア20が、例えば、前処理の真空処理室から移動して真空処理室10へ搬送される。
【0027】
基板3a、3bが保持されたトレイ4a、4bを有するキャリア20は、真空処理室10の定位置で停止し、ターゲット1a、1bの前で停止したままスパッタリングで成膜されることになる。所定の成膜が完了したキャリア20は不図示のゲートバルブを通して次の真空処理室へ移動する。
【0028】
ここで、本実施形態では、上述のようにキャリア20の搬送時の振動を抑えるための防振材8が取り付けられている。
【0029】
図1の例では、防振材8の取り付け箇所はキャリア20とラックギア16との間である。この部分は振動発生原となるラックギア16とキヤリア20の間であるためラックギア16からの振動がキャリア20に伝わりにくく、防振効果は大きい。また、キャリア20の搬送時の安定性を損ねてしまうことがない。防振材8としてはゴム等を採用しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
本実施形態では、このようにキャリア20とラックギア16の間に搬送路に沿って防振材8を配置することにより、軸受6の寿命が延びるのみならず軸受6等からのパーティクルの発生を防止でき、より高品質な処理を行うことが可能となる。また、大型基板の高速搬送が可能であり、トレイの揺れ、或いは発塵を抑えて、雰囲気を汚染することなく安定した高速搬送が可能となる。
【0031】
更に、搬送路を含む平面に対して基板を鉛直方向に立てて搬送する場合であっても、振動を抑制しながら高速搬送を行うことが可能となる。そのため、スループットを低下させることなく、基板の大型化に対応することができる。更に、トレイの振動が抑えられるばかりか、振動が起こったとしても防振材8によりすぐに減衰するためパーティクルの抑制に効果的である。結果として、より高精細の表示装置等の製造に好適に用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る基板搬送装置を備えた真空処理装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る基板搬送装置の一実施形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0033】
1a、1b ターゲット
2a、2b バッキングプレート
3a、3b 基板
4a、4b トレイ
5 係合部
6 軸受
7 搬送路
8 防振材
9a、9b ガス供給部
10 真空処理室(基板搬送装置)
11 排気装置
12 シールド
14 ゲートバルブ
15 ピニオン駆動装置
16 ラックギア
17 ピニオンギア
18 方向転換室
19 中間室
20 キャリア
21 ロードロック室
22 キャリアの回転機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持するトレイと、
前記トレイが取り付けられ、案内部材を介して搬送路の上を移動するキャリアと、
前記キャリアを前記搬送路に沿って移動させる駆動手段とを有し、
前記駆動手段の駆動により前記搬送路に沿って、前記基板を、該搬送路を含む平面に対して鉛直方向に立てて搬送する基板搬送装置であって、
前記駆動手段は、前記搬送路に沿って前記キャリアに取り付けられたラックギアを有し、該キャリアと前記ラックギアとの間に前記搬送路に沿って防振材が配置されていることを特徴とする基板搬送装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記ラックギアに噛合するピニオンギアを含み、前記ピニオンギアを駆動することにより前記キャリアを前記搬送路に沿って移動させることを特徴とする請求項1に記載の基板搬送装置。
【請求項3】
前記基板は、前記搬送路を含む面に対する鉛直方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の基板搬送装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板搬送装置を有し、前記基板搬送装置に排気手段が設けられ、前記排気手段を有する基板搬送装置を少なくとも1つ備えたことを特徴とする真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−1283(P2012−1283A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228342(P2008−228342)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】