説明

基板表面の検査方法及び検査装置

【課題】 本発明は、セル検査を用いて、基板表面に存在する欠陥を容易かつ高精度に検出することができる基板表面の検査方法及び検査装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 表面に複数の材料を含む基板10上の欠陥32を検査する基板表面の検査方法であって、
前記複数の材料のうち少なくとも2種類の材料のコントラストが所定範囲内となるようにランディングエネルギーが設定された電子ビームを、前記基板の表面に照射する電子ビーム照射工程と、
前記基板から発生した電子を検出し、前記2種類の材料からなるパターンが消去された又は薄くなった状態で前記基板の表面画像を取得する工程と、
取得された該表面画像において、背景画像と区別できるコントラストを有する対象物の像を、前記欠陥32として検出する工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面の検査方法及び検査装置に関し、特に、基板上の欠陥を検出する基板表面の検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光をフォトマスク等の試料に照射し、試料で反射した反射光と、試料を透過した透過光とを受光して、試料の像を撮像し、異物検出閾値を用いて異物を検出する異物検出方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−96296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の構成では、光を用いているため、レチクル上の異物の検出限界は約50nmであると考えられる。近年、半導体のパターンサイズが細くなるにつれて、レチクルの線幅も細くなり、小さい異物でも重大な欠陥となる。従来の光の検査装置では、50nm以下のサイズの異物の検出は不可能であるという問題があった。
【0004】
また、レチクルのパターン上の異物の場合、パターン形状の一部と異物との判定が難しいという問題もあった。図12は、従来のセル比較検査の模式図である。
【0005】
図12(a)は、被検査ダイの一例を示した模式図である。図12(a)に示したような一定周期のセル領域を含むパターン220を有するレチクル表面210に、電子ビームを照射してレチクル表面210を撮像し、異物の有無の検査をセル比較で行う場合、予め設定されたセルの周期毎に画像を比較し、その差分から異物230や欠陥の有無を判定する。
【0006】
図12(b)は、セル検査で取得された差分画像を示した模式図である。ここで、図12(b)に示すように、繰り返しパターンでない部分、つまりランダムパターン箇所等は、異物以外のパターン(背景)220として画像上に存在し、その箇所総てが擬似欠陥(この場合擬似の異物)として検出されてしまう。
【0007】
図12(c)は、セル比較による欠陥検出の原理図である。セル比較による欠陥検査は、検査エリア内に周期的に繰り返されるパターン220が存在することが前提となる。繰り返されるパターン220の最小単位をセル周期とし、一つ前のセル周期分の信号と検査しているセル周期分の信号との差分をとり、差分が0ならば同じパターン220が繰り返されている事になる。差分が0以外の場合には、繰り返されるパターン220の最小単位以外の形状が存在する事になり、すなわちそれが欠陥信号235として検出される。
【0008】
しかし、前提とされる周期的繰り返しパターン220がなく、不規則なパターン220が存在する箇所ではセル周期を設定することが出来ず、パターン220の変わり目は全て差分0以外となり、擬似欠陥信号225として検出されてしまうという問題があった。
【0009】
このような問題を防ぐ検査方法として、ダイ比較検査を行う検査方法が知られている。図13は、従来から行われているダイ比較検査の模式図である。図13(a)は、参照ダイの模式図であり、図13(b)は、被検査ダイの模式図である。また、図13(c)は、参照ダイと被検査ダイの差分画像を示した図である。
【0010】
一般に繰り返しパターン以外のパターン220におけるパターン欠陥を検査する場合はダイ比較検査を行うが、ダイサイズは一般的にセル周期よりずっと大きいので、その分ステージの移動距離が大きくステージの位置決め精度、スピード精度や回転角制御精度等ステージの機構そのものや制御等に高精度のものが必要となり、装置そのもののコストが高くなってしまう。また画像比較のための画像処理アルゴリズムも複雑になりその分画像処理に時間を有してしまい、異物230の有無判定に多大な時間を要してしまう。
【0011】
このように、ダイ比較検査に比較して、セル比較検査の方がステージ機構そのものや制御アルゴリズム等にコストを掛けずに良い精度の検査が実施でき、検査時間もセル比較検査に比べ短くできるという利点がある。しかしながら、上述のように、セル比較検査を用いて異物を検査する場合には、背景が邪魔になるという問題を解決する必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、セル検査を用いて、50nm以下の基板表面に存在する異物等を含む欠陥を容易かつ高精度に検出することができる基板表面の検査方法及び検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る基板表面の検査方法は、表面に複数の材料を含む基板上の欠陥を検査する基板表面の検査方法であって、
前記複数の材料のうち少なくとも2種類の材料のコントラストが所定範囲内となるようにランディングエネルギーが設定された電子ビームを、前記基板の表面に照射する電子ビーム照射工程と、
前記基板から発生した電子を検出し、前記2種類の材料からなるパターンが消去された又は薄くなった状態で前記基板の表面画像を取得する工程と、
取得した該表面画像において、背景画像と区別できるコントラストを有する対象物の像を、前記欠陥として検出する工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
これにより、電子ビームを用いて基板の表面パターンを消去した表面画像を取得することができ、欠陥が基板上に存在する場合には、欠陥が背景画像から浮き上がるような表面画像を得ることができるので、欠陥の検出を容易かつ高精度に行うことができる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明に係る基板表面の検査方法において、
前記背景画像と前記欠陥とのコントラストは、前記2種類の材料のコントラストの3倍以上であることを特徴とする。
【0016】
これにより、2種類の材料の境界線が完全には消去されなかった場合でも、欠陥を十分なコントラストで背景画像と識別でき、容易に検出することができる。
【0017】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る基板表面の検査方法において、
前記電子ビーム照射工程の前に、前記電子ビーム照射工程と異なるランディングエネルギーの電子ビームを少なくとも1回以上照射するプレ照射工程を有することを特徴とする。
【0018】
これにより、2種類の材料のコントラストを小さくする条件を整えてから電子ビームを照射することができ、材料や基板の性質に適切に応じた柔軟な検査を行うことができる。
【0019】
第4の発明は、第3の発明に係る基板表面の検査方法において、
前記プレ照射工程は、それぞれの電子ビームのランディングエネルギーが異なることを特徴とする。
【0020】
これにより、段階的に基板表面の帯電状態を調整してから、撮像用の電子ビームを照射することができ、表面のパターンを適切に消去した表面画像を取得することができる。
【0021】
第5の発明は、第1〜4のいずれかの発明に係る基板表面の検査方法において、
前記電子ビーム照射工程の電子ビームの前記ランディングエネルギーは、1eV以上50eV以下であることを特徴とする。
【0022】
これにより、低ランディングエネルギーの電子ビームを基板に照射することができ、ミラー電子により基板表面のパターンを適切に消去することができる。
【0023】
第6の発明は、第1〜5のいずれかの発明に係る基板表面の検査方法において、
前記基板は、レチクルであることを特徴とする。
【0024】
これにより、露光に用いるレチクルの欠陥を容易かつ高精度に検出することができる。
【0025】
第7の発明は、第1〜6のいずれかの発明に係る基板表面の検査方法において、
前記欠陥は、異物を含むことを特徴とする。
【0026】
これにより、基板上に存在するゴミ等の異物を容易かつ高精度で検出することができる。
【0027】
第8の発明に係る基板表面の検査装置は、表面に複数の材料を含む基板上の欠陥を検査する基板表面の検査装置であって、
前記複数の材料のうち少なくとも2種類の材料のコントラストが所定範囲内となるようにランディングエネルギーが設定された電子ビームを、前記基板の表面に照射する電子銃と、
前記基板から発生した電子を検出し、前記2種類の材料からなるパターンが消去された又は薄くなった状態で前記基板の表面画像を取得する撮像素子と、
取得された該表面画像において、背景画像と区別できるコントラストを有する対象物の像を、前記欠陥として検出する演算処理手段と、を含むことを特徴とする。
【0028】
これにより、一様な背景画像から欠陥が浮かび上がるように表示された表面画像を取得することができ、欠陥の検出を容易かつ高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、基板上に存在する欠陥の検出を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0031】
図1は、本発明を適用した実施例に係る基板表面の検査方法及び検査装置における加速電圧Vaccとリターディング電圧RTDとランディングエネルギーLEの関係を示した図である。図1において、レチクル等のマスク用の基板10が載置されており、基板10に向けて電子銃40から電子ビームが照射されている。
【0032】
基板10は、様々な種類及び用途の基板が適用され得るが、例えば、露光に利用されるレチクルが適用されてもよい。レチクルが基板10に適用された場合、基板10は、裏面がCrN膜11で覆われたガラス基板12の上に、複数層からなる多層膜13〜16が積層され、レチクルを構成する。基板10の表面は、材料Bからなる最上層膜16で覆われ、その下には、材料Aからなる第2層目の膜15が存在する。最上層膜16には、パターン20が形成され、パターン20が形成された箇所は、材料Aの第2層目の膜15が露出している。よって、基板10の表面は、最上層膜16を構成する材料Bと、露出した第2層目の膜15を構成する材料Aの2種類の材料から構成されている。このように、レチクルにおいては、複数の材料から基板10の表面が構成されているのが一般的である。以下、本実施例においては、基板10にレチクルを適用した例を挙げて説明するが、半導体ウエハや液晶用基板等、他の種類の基板10に対しても本実施例に係る基板表面の検査方法及び検査装置を適用することができる。
【0033】
ここで、電子銃40から発生した電子をグランドに対して加速させるために、例えば、電子銃40に−4000〔V〕から−7000〔V〕の任意の電圧を印加する。この電圧を、加速電圧(Vacc)と言う。また、レチクル表面に、例えば−4000〔V〕を印加すると、グランドに対して加速した電子から見たレチクルの電圧は、加速電圧が−4000〔V〕の場合は0〔V〕であり、加速電圧が−7000〔V〕の場合は−3000〔V〕となる。このレチクルに印加する電圧をリターディング電圧又は基板電圧(RTD)と言う。加速電圧からリターディング電圧RTDを引いた値、つまりグランドに対して加速した電子から見たレチクルの電圧がランディングエネルギーLEである。
【0034】
概ね100V単位でランディングエネルギーLEの調整を行う場合は、加速電圧Vaccによって行う。10V程度の調整の場合は、リターディング電圧RTDを変えることでランディングエネルギーLEの調整を行う場合もある。また、レチクル最表面の電圧がチャージアップ等の影響でリターディング電圧RTDとは別の電圧が重畳されている場合(表面電圧ΔVと称する)には、この表面電圧ΔVの補正をリターディング電圧RTDの調整で行う。
【0035】
ここで、SEM式電子顕微鏡や写像投影型電子顕微鏡等のように、電子ビームを用いてレチクル表面を撮像する場合、照射する電子ビームのランディングエネルギーLEに応じて、レチクル表面を構成している材料の種類によりこれらの材料から返ってくる電子の量が異なり、それが材料の相違に基づく輝度の差(コントラスト)として現れ、レチクル表面の画像を得ることができる。
【0036】
図2は、構成する材料の電子ビーム照射による輝度の差の一例を示した図である。図2(a)は、材料Aと材料Bが輝度差を有する画像として取得された例を示した図である。図2(b)は、図2(a)のA−A断面における位置と断面階調値の関係を示した図である。
【0037】
図2(a)に示されるように、材料の種類の相違により、輝度が異なりコントラストを有する表面画像を取得することができる。
【0038】
また、図2(b)は、図2(a)のコントラストを有する画像を、数値で示した図である。図2(b)において、ピクセル座標170〜250の材料Bの領域は、断面階調値DNが100であり、ピクセル座標0〜140の材料Aの領域は、断面階調値DNが約60である。よって、材料Aと材料Bの輝度差ΔDN(コントラスト)は約40であり、この輝度差により材料Aと材料Bが構成するパターンを認識することができる。なお、ピクセル座標140〜170は、材料Aと材料Bの境界となっている。
【0039】
図3は、ランディングエネルギーLEの変化による材料Aと材料Bの輝度の相違を示した図である。図3(a)は、ランデシィングエネルギーLEと材料A及び材料Bの輝度の関係を、個別に示した図である。図3(a)において、ランディングエネルギーLEの調整は、加速電圧Vaccで行っている。
【0040】
図3(a)において、ランディングエネルギーLEが12〜17〔eV〕の領域付近では、材料Aの輝度の方が材料Bの輝度よりも高い状態となっている。つまり、材料Aの輝度は50を超えているが、材料Bの輝度は50未満である。その後、ランディングエネルギーLEが18〜35〔eV〕付近の領域では、材料Aと材料Bの輝度がほぼ等しく、45程度となっている。次いで、ランディングエネルギーLE25〔eV〕付近から、材料Bの輝度の方が、材料Aの輝度よりも高くなり、600〜800〔eV〕付近でその差がピークとなるが、ランディングエネルギーLEが1000〔eV〕以上となっても、材料Bの輝度の方が、材料Aの輝度よりも高い状態を保っている。
【0041】
図3(b)は、図3(a)における特性図において、材料Bの輝度から材料Aの輝度を控除して輝度差(コントラスト)を算出して示した図である。図3(b)から分かるように、ランディングエネルギーLEを変化させると、例えば材料Aと材料Bでその明るさの差がなくなり、輝度差ΔDN=0となる点が存在する。図3(b)の例においては、ランディングエネルギーLE=33eV付近で、材料A、材料Bともほぼ同じ輝度になることが分かる。このように、事前に材料の種類の相違による輝度の相違とLEの関係を調査することで、材料Aと材料Bの輝度差が無い状態で、レチクル表面の撮像を行うことができる。
【0042】
このような状態では、レチクル上に構成されたパターン20は消去されて表示される事がなく、レチクル上に別の材料Cが存在すれば、それは新たな明るさとして区別され、材料Cの部分だけ認識することが可能となる。
【0043】
図3(c)は、材料Aと材料Bの輝度差がなく、コントラストがほぼ0でパターンが消去された状態で取得された表面画像の例を示した図である。図3(c)に示すように、レチクルの表面のパターンを消去した状態で画像を取得することができれば、画像中に異なる輝度の異物等の欠陥が存在した場合には、容易に欠陥を識別でき、欠陥検出を容易に行うことができる。
【0044】
また、材料A又は材料Bのいずれかが、例えばバリのような状態で欠陥としてレチクル上に存在する場合も、接触抵抗があるので、材料A又は材料Bとは輝度が異なる別の対象物として撮像することができる。
【0045】
特に、レチクルのパターン20が繰り返しパターンの場合、一般的にセル比較検査が行われるが、パターン20は、必ずしも完全に同一の繰り返しパターンのみから構成される訳ではなく、繰り返しパターンとは異なる大きさや形状の不規則パターンを含む場合がある。このような不規則パターンを含む繰り返しパターンを、セル比較検査によりパターン20上の欠陥を検査するときに、背景のパターン20が邪魔になってしまう場合がある。このような場合に、背景のパターン20を消してセル比較検査を行うことができれば、繰り返しパターン又は不規則パターンの如何に関わらず、総てのパターン20を含めて比較を行うダイ比較検査よりも、精度のよい検査を実施することができる。
【0046】
このように、同一装置で、事前に図3(b)の関係が分かっていれば、レチクルパターン20を撮像観測、検査したい場合には、材料Aと材料Bの輝度差が大きいランディングエネルギーLEを用い、材料A、材料B以外に異物等(例えば、材料Cからなるゴミ)の欠陥を検出したい場合には、材料Aと材料Bの輝度差が無い又は極めて小さいランディングエネルギーLEを用いるなど、ランディングエネルギーLEの切り替えを行うことで、幾つかの撮像、検査モードを持つことが可能である。
【0047】
なお、以後本実施例において、欠陥がゴミ等の異物である場合を中心に例を挙げて説明するが、欠陥には、基板10の表面のパターン20を構成する材料A、材料Bと全く材料が異なる材料Cからなる異物の他、上述のような、材料A、材料Bから構成されているが、表面のパターン20から剥離したバリ等の対象物も含まれる。よって、本実施例において説明する異物に対する適用例は、パターン20を構成する材料と同じ材料から構成される物体であっても、基板10の表面上に存在し、パターン20から遊離した物体であれば、異物と同じように適用することができる。上述のように、これらの遊離物体も、パターン20を構成する材料とは輝度が異なり、欠陥として区別することができるからである。本発明においては、欠陥は、基板10の表面上に存在する物体であって、基板表面自体を構成していない物体等は総て含まれる。
【0048】
図4は、具体的なレチクルの構造の一例を示した図である。図4において、レチクルである基板10aは、裏面がCrN膜11で覆われた石英等のガラス基板12の上に、軟X線(EUV:extreme-ultraviolet)を反射させるためモリブデン(Mo)とシリコン(Si)からなる積層ML膜13が形成されている。また、積層ML層13の最上部には、キャッピング層14が設けられている。積層ML膜13及びキャッピング層14の上には、クロムナイトライド(CrN)やルテニウム(Ru)、ルテニウム合金からなるバッファー層15が形成されている。バッファー層15の上には、パターンを形成するタンタルボロンナイトライド(TaBN)層16が形成され、更にTaBN層16の上に、光検査時の光の反射を防止する為のタンタルボロンオキサイド(TaBO)層17が形成されている。
【0049】
このように、レチクル基板10aは、ガラス基板12の上に、複数の膜13〜17が積層した多層膜19が形成されて構成される。多層膜19の表面層を構成するTaBO層17及びTaBN層16には、パターン20が形成される。このようなパターン20は、エッチングストップをかけるバッファー層15の深さまで、表面層をエッチングすることにより行われる。図4においては、表面層はTaBO層17とTaBN層16であるから、これらをエッチングしてパターン20は形成される。この場合、レチクル基板10aの表面には、TaBO層17とバッファー層15が露出することになる。よって、レチクル基板10aの表面は、TaBO層17と、CrNからなるバッファー層15とで構成され、2種類の異なる材料から構成されている。
【0050】
ここで、レチクル基板10aにゴミ等の異物30が混在することがあるが、異物30は、パターン20内に存在する場合もあるし、最上層である基板10aの表面上に存在する場合もある。また、図4の右側に示すように、膜中に異物31が存在する場合もある。このように、欠陥となるゴミ等の異物30、31はレチクル基板10aの最表面や積層された各層の間に存在する。最表面や膜中のゴミはパターン転写時に致命的な欠陥となってしまい、それぞれの膜を形成する段階や有る程度膜が形成された時点で、膜上、膜中のゴミを発見しなければならない。
【0051】
このようなレチクル基板10aに対して、図3において説明したように、照射する電子ビームのランディングエネルギーLEを調整し、表面を構成する2種類の材料であるTaBOとCrNとのコントラストを0に近い所定範囲内とし、パターン20を消去するか又は薄くし、異物30が浮き出るような表面画像を取得することができれば、レチクル基板10a上に存在する異物30を容易に検出することができる。
【0052】
なお、図4において、表面層を形成するTaBO層17とTaBN層16の間にも異物31が存在しているが、このような異物31は、TaBO層17が形成されてしまうと、基板10aの表面に電子ビームを照射しただけでは、その像を得ることはできない。しかしながら、例えばTaBN層16が形成された段階で、基板10aの表面の検査を行うようにすれば、TaBN層16上に存在する異物31を検出することができる。この場合、TaBNとCrNの2種類の材料のコントラストが0に近い所定範囲内にあるように電子ビームのランディングエネルギーLEを調整するようにすればよい。
【0053】
図5は、図4とは異なるレチクル基板10bの断面構成の一例を示した図である。図5のレチクル基板10bは、図4のレチクル基板10aで最上層として設けられていた光検査時の光の反射を防止するTaBO層17が存在しない点で、図4に係るレチクル基板10aと異なっている。なお、レチクル基板10bは、他の構成要素については、図4において説明したレチクル基板10aと同様であるので、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0054】
図5に係るレチクル基板10bにおいては、表面を構成する最上層はTaBN層16であり、パターン20が形成された領域には、CrNからなるバッファー層15が露出した部分もレチクル基板10bの表面を構成する。よって、レチクル基板10bの表面を構成する材料は、TaBNとCrNの2種類の異なる材料である。異物30は、レチクル基板10bの最上層であるTaBN層16か、又はパターン20が形成されて表面に露出したバッファー層15の上に存在することになる。よって、レチクル基板10bの表面へ照射する電子ビームのランディングエネルギーLEを調整し、表面の撮像画像において、レチクル基板10bの表面を構成する材料であるTaBNとCrNの輝度差を0に近い所定範囲内とするようにすれば、パターン20を消去又は薄くすることができ、異物30のみが異なる輝度の像として背景画像と区別して表示され、容易に検出することが可能となる。
【0055】
また、TaBN層16中に存在する異物31については、バッファー層15が形成された段階で、基板表面の検査を行うようにすればよい。バッファー層15が形成された段階で、基板表面がCrNから構成されたバッファー層15のみであれば、異物31を検出し易い輝度が得られるランディングエネルギーLEの電子ビームを基板表面に照射すればよい。一方、バッファー層15が形成された段階で、他の材料も基板表面に露出している場合には、その露出した材料と、CrNとのコントラストが0近傍の所定範囲内となるように電子ビームのランディングエネルギーLEを調整し、検査を行うようにすれば、異物31を背景画像と区別して容易に検出することができる。
【0056】
このように、図4及び図5において説明したように、表面が少なくとも2種類以上の材料で構成される基板10a、10bに対して、表面を構成する2種類の材料の輝度差が0に近くなるように照射する電子ビームのランディングエネルギーLEを調整すれば、種々の態様の基板10a、10bに対して、表面に存在する異物30、31を容易に検出することができる。
【0057】
なお、これまでの説明で、レチクル基板10、10a、10bの表面が2種類の異なる材料からなる例を挙げて説明したが、3種類又はそれ以上の異なる材料を含んでいる場合には、基板表面を構成する最も主要な2つの材料のパターンを消去するようにし、他の材料は、例えば、フォーカスでぼかして異物30、31の検出を妨げないように、他の条件で調整を行うようにしてもよい。実質的には、レチクル基板10、10a、10bは、2種類の材料で表面が構成されている場合が多いが、3種類以上含んでいる場合には、それらが異物30、31の検出を妨げないようにフォーカス等の光学的条件でぼかしてしまう等の工夫を行えば、3種類以上の材料を含む基板10、10a、10bにも本実施例に係る基板表面の検査方法及び検査装置を適用することができる。
【0058】
図6は、背景パターンを消した時の欠陥像とその断面階調を示した図である。図6(a)は、基板表面の背景パターンを消去した状態の表面画像を示した図であり、図6(b)は、図6(a)の画像の断面階調を示した図である。
【0059】
図6(a)において、基板表面の2種類の材料の輝度差を無くし、背景パターンを消去した状態で表面画像を取得した結果、背景画像から欠陥32が浮かび上がるように識別でき、欠陥32を容易に発見できることが分かる。
【0060】
図6(b)は、横軸がピクセル座標、縦軸が断面階調値DNを示しているが、ピクセル座標250付近で、異物30を含む欠陥32の信号が高い輝度となり、250を超える階調値を示している。一方、ピクセル座標0〜220付近、270付近〜500においては、背景信号の階調値は0とはなっておらず、階調値100〜140程度であり、背景のパターンは完全には消えていない。この様な場合であっても、図6(a)に示されるように、欠陥32として検出する信号レベルを背景のパターン信号レベルより高くする事で、欠陥32のみを検出することができる。この信号レベルの差は、例えば、S/N(Signal/Noise、信号対雑音比)で3倍以上あれば識別は容易に可能である。つまり、基板表面を構成する2種類の材料間のコントラストに対し、欠陥32と背景画像とのコントラストが2.5倍以上であれば、欠陥32を容易に識別することができ、更に、3倍以上であることが好ましい。
【0061】
図6(b)に示すように、背景画像が完全には消去されず、ある程度の輝度差を有しているとしても、欠陥32の背景画像との輝度差が大きく、欠陥32の検出に何ら問題が無い場合には、電子ビームのランディングエネルギーLEの設定を、そのような設定としてもよい。この場合、図6(a)に示すように、背景パターンは実質的には消去された状態であり、欠陥32の検出は容易である。また、仮に若干の背景パターンが薄く残ったとしても、欠陥32と背景輝度との差が、基板表面の2種類の材料同士の輝度差の3倍以上あれば、薄い背景パターンは欠陥32の検出に何ら障害とはならないので、そのような実施形態であってもよい。
【0062】
次に、図7及び図8を用いて、本実施例に係る基板表面の検査方法を実行するために適用される基板表面の検査装置の例について説明する。
【0063】
図7は、基板表面の検査装置の全体構成の一例を示した図である。図7は、写像投影型電子顕微鏡を応用した基板表面の検査装置の例を示している。本実施例に係る基板表面の検査装置は、主要構成要素として、電子ビームを発生する電子線源45と、電子ビームをレチクル基板10、10a、10bに導くための1次光学系50と、電子線を照射することでレチクル基板10、10a、10bから戻ってくる電子を画像として捉える撮像素子70と、電子線を照射することでレチクル基板10、10a、10bから戻ってくる電子を撮像素子70に導くための2次光学系60と、レチクル基板10、10a、10bを搭載する少なくとも一方向に可動するステージ80とから構成され、それぞれが真空筐体55、65、85の中に収容されている。
【0064】
電子線源45は、熱電子放出型の電子銃40aを用いている。この熱電子放出型電子銃40aは主にLaBを用いているが、タングステンからなるフィラメントや、Th−W、WC等のタングステン系や、(Ba、Sr、Ca)COからなる酸化物陰極等であっても良い。
【0065】
一次光学系50は、電子銃40aで発生した電子ビームを、レチクル基板10、10a、10bに導く手段であり、静電レンズ51とアパーチャ52を備える。
【0066】
電子ビームは一次光学系50でレンズ51やアパーチャ52により円、楕円又は矩形に形成され、レチクル基板10、10a、10bに導かれて照射される。円、楕円又は矩形に形成された電子ビームの大きさは、概ね撮像素子70であるTDI、EB−TDI、CCD、EB−CCD等より若干大きめの広さに成形される。電子ビームの大きさは、撮像素子70毎に調整されたり、一番大きい撮像素子に合わせた大きさに成形されたりすることもある。
【0067】
電子ビームは、一次光学系50で任意のエネルギーに加速する加速電圧Vaccと、基板電圧(リターディング電圧)RTDとの組み合わせで、レチクル基板10、10a、10bに照射される時の電子ビームのランディングエネルギーLEを調整する。加速電圧Vaccは、例えば加速電圧設定手段41により設定されてよく、基板電圧RTDは、例えばステージ80に設けてある基板電圧調整機構81によって設定されてよい。加速電圧Vaccと基板電圧RTDの組み合わせは、レチクル基板10、10a、10bの得たい情報に応じて変えることができる。
【0068】
例えば、レチクル基板10、10a、10bの二次電子像が得たい場合は、加速電圧Vaccを100〔eV〕から数k〔eV〕にし、基板電圧RTDを二次系設定電圧(二次系のE×Bフィルタ56直進条件)にする。照射電子とレチクル基板10、10a、10bを構成する材料との間で起きる完全弾性衝突によって発生する電子(反射電子)像を得たい場合は、基板電圧RTDを調整する。また、レチクル基板10、10a、10bの帯電した表面電位の影響によって、照射電子ビームがレチクル基板10、10a、10bの表面近傍で跳ね返ってくるミラー電子の像を得たい場合には、ランディングエネルギーLEを0〜数10〔eV〕に設定することで得ることができる。
【0069】
つまり、加速電圧Vaccと基板電圧RTDを変えることで、図3(a)、(b)に示したようなランディングエネルギーLEと輝度差の関係を得ることができる。
【0070】
ステージ80は、レチクル基板10、10a、10bを支持する支持台であり、少なくとも水平方向に移動可能である。ステージ80は、防振台82上に支持され、防振台82により、床からの振動がステージ80に伝達されないように構成されている。また、ステージ80は、外部のステージ制御ユニット86にその動作が制御される。ステージ80には、上述のように基板電圧RTDを設定する基板電圧調整機構81が設けられ、基板電圧を調整して加速電圧Vaccとともに電子ビームのランディングエネルギーLEを設定する。
【0071】
二次光学系60は、複数の静電レンズ61から構成されている。図7に示す具体的な実施例の場合、一次光学系50は二次光学系60に対し斜めになっている。電子銃40aから発射した電子ビームは、電界と磁界からなるE×Bフィルタ56でレチクル基板10、10a、10bに垂直又は概ね垂直に照射され、レチクル基板10、10a、10bから発生した電子は、二次光学系60のE×Bフィルタ56を直進し、撮像素子70に導かれるようになっている。なお、E×Bフィルタ56は、一次光学系50と二次光学系60の双方に含まれることになる。
【0072】
撮像素子70は、TDI(Time Delay Integration、時間遅延積分)によるスキャン撮像も可能としている。TDIの前には、電子を増幅するMCP(Micro-Channel Plate、マイクロチャンネルプレート)、増幅された電子を光に変換する蛍光板及び光をTDIに導く為のFOP(ファイバーオプティックプレート)等が備えられている。また、TDIの代わりに、電子を直接受けて画像に変換できるEB−TDIを用いてもよい。また、スキャン画像以外の静止画像の撮像を行う場合は、TDIの変わりにCCD(Charge Coupled Device)を用い、EB−TDIの代わりにEB−CCDを用いてもよい。更に、TDIの前にEB−CCDを設け、スキャン像はTDIを、スチル像はEB−CCDを用いるようにしてもよい。撮像素子70は、基板表面から発生する電子を複数画素で同時に面として検出できる素子であれば、種々の形態の撮像素子70を適用することができる。
【0073】
撮像素子70は、記憶装置71に接続され、記憶装置71は、演算処理手段72である計算機に接続されている。また、演算処理手段72は、ステージ制御ユニット86に接続されている。
【0074】
記憶装置71は、撮像手段70で取得されたレチクル基板10、10a、10bの表面画像を記憶する手段である。記憶手段71で記憶された表面画像は、演算処理手段72に送られる。演算処理手段72は、異物30を含む欠陥32の検出を行う演算処理を行う。具体的には、基板表面のパターンが消去された又は薄くなった状態の表面画像から、コントラストが異なり、背景画像と識別できる輝度の対象物を、欠陥32と判定する欠陥検出処理を行う。上述のように、背景画像内のコントラストと、背景画像と欠陥32のコントラストが2.5倍以上又は3倍以上程度あれば、必ずしも背景画像において表面のパターンが完全に消滅していなくても、欠陥32を区別して検出することができる。なお、背景画像を構成する2種類の材料からなる表面画像のパターンが完全には消去しておらず、薄くなっていてパターンが残っている場合には、背景画像の輝度が2つ存在し、一意には定まらないが、いずれか一方、例えば欠陥32との輝度差の小さい方の画像を基準としてコントラストを算出し、欠陥検出処理を行うようにしてもよいし、両者の平均で背景画像の輝度を定めてもよい。
【0075】
ステージ制御ユニット86は、演算処理手段72の演算結果に基づいて、ステージ80の駆動を制御し、レチクル基板10、10a、10b上の適切な位置が検査されるようにする。
【0076】
ステージ80を収容する真空筐体85の隣には、ゲート弁100の開閉により連通可能に予備環境室90が配置されている。予備環境室90は、検査前後のレチクル基板10、10a、10bを待機させる仮置場91を備えている。また、予備環境室90には、真空排気が可能なターボ分子ポンプ110とドライポンプ111とが備えられ、真空筐体55、65、85及び予備環境室90内の真空排気が可能に構成されている。なお、ターボ分子ポンプ110及びドライポンプ111は、必要に応じて、各真空筐体55、65、85に更に設けられてもよい。
【0077】
図7に係る基板表面の検査装置においては、写像投影型電子顕微鏡を応用しており、電子ビームを細く絞る必要がなく、ランディングエネルギーLEを高くしなくてもレチクル基板10、10a、10bの表面の撮像が可能である。よって、図7に係る基板表面の検査装置においては、低ランデシィングエネルギーの電子ビームを用いて、レチクル基板10、10a、10bからミラー電子を発生させることが容易に行うことができる。ミラー電子は、レチクル基板10、10a、10bに電子ビームが衝突することなく手前で反射する電子である。図3(b)においては、33〔eV〕のランディングエネルギーLEで材料Aと材料Bの輝度が等しくなったが、ランディングエネルギーLEが−10〔eV〕〜50〔eV〕の領域、より好ましくは1〔eV〕〜50〔eV〕の領域は、ミラー電子が発生し易い領域であり、本実施例に係る基板表面の検査方法を実行し易いランディングエネルギー帯域である。よって、50〔eV〕以下のランディングエネルギーLEでもレチクル基板10、10a、10bの表面の撮像が可能な写像投影型電子顕微鏡を応用した図7に係る基板表面の検査装置は、本実施例に係る基板表面の検査方法に好適に適用され得る。
【0078】
図8は、図7とは異なる基板表面の検査装置の全体構成の例を示した図である。図8に係る基板表面の検査装置は、SEM式電子顕微鏡を応用した基板表面の検査装置の例を示している。
【0079】
図8に係る基板表面の検査装置は、電子ビームを発生する電子線源45aと、発生した電子ビームをレチクル基板10、10a、10bに導き、走査するための1次光学系50aと、電子線を走査して照射することでレチクル基板10、10a、10bから戻ってくる電子を画像として捉える撮像素子70aと、レチクル基板10、10a、10bを搭載する少なくとも一方向に可動するステージ80から構成され、それぞれが真空筐体55a、65a、85の中に納められている。
【0080】
電子線源45aは、熱電子放出型の電子銃40bを用いている。この熱電子放出型電子銃40bは主にLaBを用いているが、タングステンからなるフィラメントや、Th−W、WC等のタングステン系や、(Ba、Sr、Ca)COからなる酸化物陰極等であってもよい。
【0081】
一次光学系50aは、複数の静電レンズ及び/又は電磁レンズ51aから構成されている。
【0082】
撮像素子70aは、二次電子増倍管を主に用いる。
【0083】
電子ビームは一次光学系50aで細い電子ビームに絞られ、電子ビームを走査することで、画像を得ている。つまり、画像の1ピクセル分ずつレチクル基板10、10a、10bに電子ビームを照射して、レチクル基板10、10a、10bから発生した電子を撮像素子70aで取得し、最終的にレチクル基板10、10a、10bの検査領域全体を走査して演算処理手段72で表面画像を完成させ、これにより欠陥32の検出検査を行う。
【0084】
例えば、図8に示したようなSEM式電子顕微鏡を応用した基板表面の検査装置により、本実施例に係る基板表面の検査方法を実行してもよい。
【0085】
なお、他の構成要素については、図7に係る基板表面の検査装置と同様であるので、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0086】
図9は、背景を消した場合のセル比較検査の模式図である。先に説明したように、予め背景が消える電子ビーム照射条件(ランディングエネルギーLE)を求めておけば、セル比較検査にて、レチクル基板10、10a、10b上の異物30等を検出し、欠陥32の有無の検査を実施できる。
【0087】
図10は、演算処理手段72で実行される、基板表面の背景を消した場合のセル比較による欠陥検出の原理図である。図10(a)は、背景を消した基板表面の信号と、1セル周期分ずれた基板表面の信号との差分信号を示した図である。図10(b)は、1セル周期分ずれた基板表面の信号を示した図である。図10(c)は、背景を消した基板表面の信号と基板断面を示した図である。
【0088】
本実施例に係る基板表面の検査方法によれば、図10(c)に示すように、パターンを消すことで、実際のパターンとは無関係にフラットな面が続く事になるので、セル比較検査が全領域に渡って可能となる。
【0089】
図10(b)は、セル比較検査を行うための、図10(c)で取得された欠陥信号33、34と、1セル周期分ずれた信号である。よって、図10(b)は、図10(c)を、単純に1周期分ずらした信号波形となる。
【0090】
しかし、図10(a)に示すように、単純に一つ前のセル周期との差分をとっただけでは、欠陥有りの信号と欠陥の無い信号が二回比較される事になり、擬似欠陥信号35が生じてしまう。
【0091】
これを防ぐため、本実施例に係る基板表面の検査方法は、例えば、図11に示すようなアルゴリズムで欠陥検出を行う。
【0092】
図11は、背景を消した場合のセル比較(3セル分比較)による欠陥検出の原理図である。図11(a)は、最終的に取得された差分信号を示した図である。図11(b)は、参照画像信号を示した図である。図11(c)は、撮像により取得された欠陥信号及び基板断面を示した図である。
【0093】
図11に示すアルゴリズムにおいては、図10(a)に示した擬似欠陥35を極力少なくするために、3セル周期分を先ず比較し、多数決をとり最も近い2セル分を比較用信号とし、検査部分のセル周期の信号と比較用信号との差分をとり差分が0ならば欠陥なし、差分が0以外ならば欠陥部分として検出することを行う。
【0094】
図11(c)において、異物30に対応する欠陥信号33が2つと、膜中異物31の影響による欠陥信号34が1つ示されている。この撮像された表面画像信号を用いて、これとの比較対象となる参照画像信号をまず作成するが、それは、撮像画像信号の3つのセルの多数決により行う。例えば、前の2つのセルの信号との比較により、自分のセルの参照画像信号を作成するものとすると、セル3においては、セル1、2との比較を行い、双方とも自分と同じ信号なので、セル2の信号を図11(b)の参照画像信号とする。また、図11(c)のセル4においては、前のセル2、3との比較を行い、セル4の欠陥信号33は異物30を示す信号であるが、セル2、3は、欠陥のない状態の等しい信号であるので、セル3の信号を図11(b)の参照画像信号のセル4の参照画像信号とする。同様に、図11(c)のセル10においては、セル8、9が異物30のない状態の信号であるので、セル9の信号を、参照画像信号とする。また、セル11においては、セル9、10との比較を行い、今度は、セル9は異物30の無い状態の信号であるが、セル10、11は異物30が存在する状態の欠陥信号33、34であるので、参照画像信号のセル11は、撮像信号のセル10の欠陥信号を参照画像信号とする。
【0095】
このようにして、3つの連続するセルの多数決により、図11(b)の参照画像信号を作成する。そして、図11(b)の参照画像信号から図11(c)の撮像欠陥信号を控除して差分をとると、図11(c)に示す差分信号が得られる。これは、確かに図11(c)の基板断面の異物30、31による欠陥32を正しく検出している。
【0096】
このように、図11のようなアルゴリズムを用いることにより、異物30及び異物31による欠陥を容易かつ高精度に検出することができる。
【0097】
なお、本実施例に係る基板表面の検査は、パターンの欠陥を検査する場合と、レチクル基板10、10a、10b上の欠陥32の有無を検査する場合とがあり、各々、その検査に適したランデシィングエネルギーLEで検査することが可能である。効率よく欠陥32の有無とパターン欠陥の検査を行うためには、電子ビームの照射が複数回行うことも可能で、その場合はそれぞれの照射において異なるランディングエネルギーLEの電子ビームを照射することも可能である。
【0098】
欠陥32の有無の検査の場合も、複数回、電子ビームのランディングエネルギーLEの違う組み合わせで照射することで、欠陥32の信号強度を向上させ、背景のパターンを完全に消すことも可能である。
【0099】
2回照射する場合、初回がやや大きいランディングエネルギーLE(例えば、28〔eV〕)で照射し、次回は初回より小さいランディングエネルギーLE(例えば15〔eV〕)で照射すると、欠陥32の信号強度を向上させることができる。
【0100】
また、2次光学系50、50aのセッティング(NAの位置)を正規位置よりオフセットさせることで、異物30の信号強度を向上させることが可能である。
【0101】
以上のように、ランディングエネルギーLEを変えた照射と2次光学系50、50aの微調整によって、背景を消し、欠陥32の信号強度を向上させより小さな欠陥32の有無を検査することが可能になる。
【0102】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0103】
特に、本実施例においては、本発明をレチクル基板10、10a、10bの表面上の欠陥検出に適用する例を挙げて説明したが、上述のパターン欠陥及び欠陥検査を含めて、半導体ウエハや、他の基板にも本発明を適用することができる。
【0104】
また、基板10、10a、10bの表面に、3種類以上の材料が含まれている場合であっても、最も主要な部分を占める2種類の材料についてパターンを消去し、他の材料については、フォーカス等の他の光学的条件やその他の条件を用いて異物30、31を含む欠陥32の検出を妨げないようにすれば、3種類以上の材料で基板表面が構成されている基板10、10a、10bについても、好適に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本実施例に係る基板表面の検査方法及び検査装置の加速電圧Vaccとリターディング電圧RTDとランディングエネルギーLEの関係を示した図である。
【図2】構成する材料の電子ビーム照射による明るさの相違例を示した図である。図2(a)は、材料Aと材料Bが輝度差を有する画像として取得された例を示した図である。図2(b)は、図2(a)のA−A断面における位置と断面階調値の関係を示した図である。
【図3】ランディングエネルギーLEによる材料Aと材料Bの明るさの相違を示した図である。図3(a)は、ランデシィングエネルギーLEと材料A及び材料Bの輝度の関係を示した図である。図3(b)は、材料Bと材料Aのコントラストを示した図である。図3(c)は、パターンが消去された状態で取得された表面画像の例を示した図である。
【図4】具体的なレチクルの構造の一例を示した図である。
【図5】図4とは異なるレチクル基板10bの断面構成の一例を示した図である。
【図6】背景パターンを消した時の欠陥像とその断面階調を示した図である。図6(a)は、基板表面の背景パターンを消去した状態の表面画像を示した図である。図6(b)は、図6(a)の画像の断面階調を示した図である。
【図7】基板表面の検査装置の全体構成の一例を示した図である。
【図8】図7とは異なる基板表面の検査装置の全体構成の例を示した図である。
【図9】背景を消した場合のセル比較検査の模式図である。
【図10】基板表面の背景を消した場合のセル比較による欠陥検出の原理図である。図10(a)は、差分信号を示した図である。図10(b)は、1セル周期分ずれた基板表面信号を示した図である。図10(c)は、基板表面信号と基板断面を示した図である。
【図11】背景を消した場合のセル比較による欠陥検出の原理図である。図11(a)は、差分信号を示した図である。図11(b)は、参照画像信号を示した図である。図11(c)は、撮像による欠陥信号及び基板断面を示した図である。
【図12】従来のセル比較検査の模式図である。図12(a)は、差分画像を示した模式図である。図12(b)は、差分画像を示した模式図である。図12(c)は、セル比較による欠陥検出の原理図である。
【図13】従来から行われているダイ比較検査の模式図である。図13(a)は、参照ダイの模式図である。図13(b)は、被検査ダイの模式図である。図13(c)は、差分画像を示した図である。
【符号の説明】
【0106】
10、10a、10b 基板
11 CrN膜
12 ガラス基板
13 積層ML膜
14 キャッピング層
15 バッファー層
16 TaBN層
17 TaBO層
19 多層膜
20 パターン
30、31 異物
32 欠陥
33、34 欠陥信号
35 疑似欠陥信号
40、40a、40b 電子銃
41 加速電圧設定手段
45、45a 電子線源
50、50a 一次光学系
51、51a、61 レンズ
52 アパーチャ
55、55a、65、65a、85 真空筐体
60、60a 二次光学系
70、70a 撮像素子
71 記憶装置
72 演算処理手段
80 ステージ
81 基板電圧調整機構
82 防振台
86 ステージ制御ユニット
90 予備環境室
91 仮置場
100 ゲート弁
110 ターボ分子ポンプ
111 ドライポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の材料を含む基板上の欠陥を検査する基板表面の検査方法であって、
前記複数の材料のうち少なくとも2種類の材料のコントラストが所定範囲内となるようにランディングエネルギーが設定された電子ビームを、前記基板の表面に照射する電子ビーム照射工程と、
前記基板から発生した電子を検出し、前記2種類の材料からなるパターンが消去された又は薄くなった状態で前記基板の表面画像を取得する工程と、
取得した該表面画像において、背景画像と区別できるコントラストを有する対象物の像を、前記欠陥として検出する工程と、を含むことを特徴とする基板表面の検査方法。
【請求項2】
前記背景画像と前記欠陥とのコントラストは、前記2種類の材料のコントラストの3倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の基板表面の検査方法。
【請求項3】
前記電子ビーム照射工程の前に、前記電子ビーム照射工程と異なるランディングエネルギーの電子ビームを少なくとも1回以上照射するプレ照射工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の基板表面の検査方法。
【請求項4】
前記プレ照射工程は、それぞれの電子ビームのランディングエネルギーが異なることを特徴とする請求項3に記載の基板表面の検査方法。
【請求項5】
前記電子ビーム照射工程の電子ビームの前記ランディングエネルギーは、1eV以上50eV以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の基板表面の検査方法。
【請求項6】
前記基板は、レチクルであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の基板表面の検査方法。
【請求項7】
前記欠陥は、異物を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の基板表面の検査方法。
【請求項8】
表面に複数の材料を含む基板上の欠陥を検査する基板表面の検査装置であって、
前記複数の材料のうち少なくとも2種類の材料のコントラストが所定範囲内となるようにランディングエネルギーが設定された電子ビームを、前記基板の表面に照射する電子銃と、
前記基板から発生した電子を検出し、前記2種類の材料からなるパターンが消去された又は薄くなった状態で前記基板の表面画像を取得する撮像素子と、
取得された該表面画像において、背景画像と区別できるコントラストを有する対象物の像を、前記欠陥として検出する演算処理手段と、を含むことを特徴とする基板表面の検査装置。


【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図2】
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【図3】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−38853(P2010−38853A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205097(P2008−205097)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】