説明

塗布膜、膜形成方法及び膜形成装置

【課題】膜原料となるダイヤモンド微粒子など微粒子液状組成物は粘度が低く、増粘材なしではスピン塗布機での膜形成が困難である。
【解決手段】ダイヤモンド微粒子や銀微粒子のコロイド状液状組成物を、微細且つ複数あるノズルから液滴状で塗出する方法により、低粘度でも均一膜厚に、しかも重ね塗りにより膜厚を制御して塗布することができた。乾燥させてから重ね塗りするとポーラス構造の密度を低くすることができる。ここではリーク電流、絶縁破壊電圧は十分実用に耐え、比誘電率2.8の低誘電率膜を製造することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状組成物をノズルから塗布して膜厚を制御する方法及び装置に関し、特にダイヤモンド微粒子を分散させた液状組成物を塗布して膜を形成する方法及び前記膜の形成装置に関する。さらに、膜厚を制御したダイヤモンド微粒子膜などに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路素子のうち、特に超LSIデバイスでは、配線の微細化・高集積化に伴い、デバイス中に作られる配線を通る信号の遅延が、消費電力を低下させようという問題とともに大きな課題となっている。特に高速ロジックデバイスでは、配線の抵抗や分布容量によるRC遅延が最大の課題となっており、中でも分布容量を小さくするために、配線間の絶縁材料に低誘電率の材料を用いることが必要とされている。
【0003】
従来、半導体集積回路内の絶縁膜としては、シリカ膜(SiO2)、酸化タンタル膜(Ta)、酸化アルミニウム膜(Al23)、窒化膜(Si34)などが使用され、特に多層配線間の絶縁材料として、窒化膜、有機物やフッ素を添加したシリカ膜が低誘電率膜として使用され、或いは、検討されている。また、さらなる低誘電率化のための絶縁膜として、フッ素樹脂、発泡性有機シリカ膜を焼成したシリカ膜、シリカ微粒子を堆積したポーラスシリカ膜などが検討されている。
【0004】
他方、ダイヤモンドは熱伝導度や機械的強度が、他の材料より優れているため、集積度が高く発熱量の多い半導体デバイスには、放熱に好適な材料として、近年、研究されている。例えば、特開平6−97671号公報では、スパッタ法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法などの製膜法により、厚さ5μmのダイヤモンド膜を提案している。また、特開平9−263488号公報では、ダイヤモンド微粒子を基板上に散布し、これを核にCVD(化学蒸着堆積)法により炭素を供給してダイヤモンド結晶を成長させる製膜法を提案している。
【0005】
本発明者らは、すでに特開2002−110870号公報に提示したように、ポーラス構造のダイヤモンド微粒子膜によって比誘電率2.72を得た。また、特開平2002−289604号公報では、ヘキサクロロジシロキサン処理によりダイヤモンド微粒子間を架橋結合させて強化する方法を提案したが、この処理によっても、同等な比誘電率が得られることを示した。さらに本発明者らは、ダイヤモンド微粒子を精製することにより、比誘電率2.1が得られたことを学会で発表している。
【特許文献1】特開平6−97671号公報
【特許文献2】特開平9−025110号公報
【特許文献3】特開平9−263488号公報
【特許文献4】特開2002−110870号公報
【特許文献5】特開2002−289604号公報
【特許文献6】第50回応用物理学関係連合講演会要旨集N0.2,p193(2003)
【0006】
従来、ダイヤモンド微粒子膜の形成方法として、水性分散媒中にダイヤモンド微粒子を分散させ、得られたコロイド状の液状組成物を適当な粘度に調整して、スピン塗布方法により膜を形成し、乾燥・焼成後、各種膜強化剤で微粒子間を結合させて、絶縁膜として使用可能なダイヤモンド微粒子膜を製造していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のダイヤモンド微粒子膜を製造するために、スピン塗布方法は、高価なダイヤモンド微粒子液状組成物の大部分が飛散して歩留まりが極めてわるく、工業化の面から見ると好ましくない。飛散する前記液状組成物を回収して再利用することも試みたが、コロイド状に再分散することが困難で、且つ、汚染が激しく初期の物性が再現されないため半導体用途としては再利用できず、また、回収率も低かった。
【0008】
また、コロイド状のダイヤモンド微粒子液状組成物は、粘度が低いため増粘剤で粘度を上げなければスピン塗布では所望の膜厚が得られない。この増粘剤の添加量により膜厚を制御するが、塗膜中に残存して膜の電気的物性を低下させるため、増粘剤を使用できない場合がある。また、増粘剤はコロイドの安定性を悪化させる場合もある。
【0009】
さらに、粘度が低いままで公知のナイフコータ法やスクリーン印刷法では、塗布自体が困難であり、例え増粘剤を添加しても300nmから500nmという薄い膜を得ることは困難であり、且つ、得られた塗膜の電気特性は不十分であった。また、スプレー塗布法ではコロイドが破壊され塗布困難となった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ダイヤモンド微粒子液状組成物を低粘度のまま塗布する方法について試行錯誤をかさねて研究した結果、1または2以上の小さなパイプ状のノズルから被塗物上に押し出して塗布する方法が好ましいことを見出した。特に、インクジェット塗布法、即ち、複数のノズルから制御しながら吐出して塗布する方法が最適であることを見出し、本発明に到達した。この際、ダイヤモンド微粒子液状組成物は液滴状に吐出される方法が、ポーラスダイヤモンド薄膜の形成に好ましいことを見出した。
【0011】
ノズルが複数の場合は、これらを整列して並べてヘッドを構成していることが好ましく、このヘッドを被塗物に平行な平面内を非接触で相対的に移動させる。また、被塗物上に複数のノズルの列方向に移動させながら吐出して直線を描画する方法、或いは、前記列方向に直角または斜めの角度をもって相対的移動させながらダイヤモンド微粒子液状組成物を吐出して帯状に描画する方法を実施することもできる。また、ヘッドの移動平面内を任意の方向に移動させて自由な形状に塗布することもできる。
【0012】
本発明では、ダイヤモンド微粒子液状組成物に限らず、少なくとも固形分と分散媒とからなる液状組成物を重ね塗りすることにより固形分からなる塗膜の厚みを制御することができる。即ち、特定のノズルから、被塗物上の一定領域に1回目の液状組成物を連続的に吐出し、好ましくは液滴状にして吐出して塗布し終えた後、一定時間後に、再び同一場所に、または、望むならば一定距離ずらした近傍に、例えば前回吐出した複数の位置の中間点に、液滴を吐出することができる。換言すると、液状組成物を液滴状に吐出する場合、1回目の複数の着弾点と同じ場所、または、各着弾点の中間点に吐出して重ね塗りし、この動作を繰り返すことによって膜厚を制御することができる。
【0013】
ここで、前記重ね塗りの時間的間隔は、塗布された液状組成物が流動性を有している時間以内である場合と、塗布された液状組成物が流動しない程度に乾燥するための時間以上であることの二通りを特徴とする膜形成方法をとることができる。即ち、塗布された液状組成物が乾燥しない間に重ね塗りしても(以後、連続塗布法という)、また、1回塗布毎に乾燥させた後に重ね塗り(以後、不連続塗布法という)してもよい。前記2つの塗布方法によって得られる塗膜は、それぞれ空隙率などの特性が異なるため、所望する塗膜特性によって膜形成方法を選択する。ここで1回塗布ごとに乾燥させる不連続塗布方法では、被塗物上に吐出された液状組成物が乾燥しやすいように、低湿度環境保持手段を有する装置とすることが好ましい。一方、吐出液が乾燥しないうちに重ね塗りする連続塗布法においては、その逆に被塗物上に吐出された液状組成物が高湿度環境に保持される手段を具備する装置とすることが好ましい。前記の連続塗布法、不連続塗布法の区別は塗布環境の条件、即ち、温度、湿度、分散媒雰囲気濃度などの条件をかえて、重ね塗り間隔の時間を制御することにより達成する。
【0014】
このようにして得た本発明の塗膜は、例えば、後述の実施例に示す如く、ダイヤモンド微粒子液状組成物を連続的に重ね塗りして微粒子同士を架橋させる強化処理を施した後、電気物性を測定すると、現在実用的材料として最高と言われるフッ素添加シリカの比誘電率3.7より高性能である比誘電率2.8を示す低誘電率膜を得た。また、絶縁体として必要なリーク電流値と絶縁破壊電圧も、十分実用に供することのできるデータを与えた。ここで1回毎に乾燥させて重ね塗りする方法をとれば、さらに空隙率を高めることができ、改善された比誘電率を発現させることができる。
【0015】
本発明は、少なくともダイヤモンド微粒子と分散媒とからなる液状組成物を複数のノズルから吐出し、且つ、被塗物上の同位置場所またはその近傍に少なくとも1回以上吐出させて塗布する手段を有することを特徴とする、ダイヤモンド微粒子膜の形成装置をも含む。ここで、吐出とはノズルから液状組成物を出すこと、塗布とは吐出された液状組成物が被塗物上に面的に広がること、膜形成とは塗布された液状組成物が物理的処理あるいは化学的処理されて固体の膜となること、と定義する。
2以上のノズルからヘッドを製造する場合は、ノズルを任意の形状に配置できるが、好ましくは、1列に配設することがこのましい。ここでノズルから吐出される液状組成物は液滴状であることが好ましい。
【0016】
一般の印刷装置においてインクを複数のノズルから吐出して印刷するインクジェット装置には、ピエゾ素子を電気的に制御してインクを吐出する方法と、インク配管の一部を局所的に加熱してインク中の溶剤を瞬時に蒸発させインクを吐出させる方法とがある。本発明の各ノズルの吐出液を液滴状に形成する手段を有する装置は、いずれの公知方法を実施する手段を利用してもよいが、これに加えて従来にはなかった重ね塗りのための手段を有する。
【0017】
本発明の装置は、1つのノズルから吐出される液状組成物の一定時間内における吐出量を制御する手段を有してもよい。ここでは、液滴の大きさを変える制御をしてもよいが、一定時間内に吐出する液滴の数を制御してもよい。また本発明の装置は、前記各ノズルから吐出される液状組成物の吐出量制御を全ノズル一斉に行ってもよいが、各ノズルを個別に吐出の有無を制御してもよい。
【0018】
この際、被塗物の表面にX−Y座標軸を設けて場所を特定してもよいし、また、基準線を特定した曲座標を設けて場所を特定してもよい。さらにこれに時間的要素を加えて被塗物の相対的移動速度を特定してもよい。これにより、被塗物とノズルヘッドとの相対的位置関係が決めて機械的手段を制御する。
ついで各ノズルの吐出時期、吐出速度、液滴の大きさを制御する手段を備え、これと前記機械的手段の制御とを連携させて、本発明の吐出液の着弾点をきめる制御手段を構成する。
【0019】
また本発明の方法および装置において、前記被塗物と前記ノズルヘッドが非接触で且つ相対的に移動する方法を説明する。即ち、前記ノズルヘッドを移動させる方法、被塗物を移動させる方法、或いは、双方を移動させる方法があるが、本発明ではいずれの方法をも採用することができる。尚、被塗物がガラス基板やセラミックス基板、シリコンウエハなど硬質材料である場合はこれをX−Yテーブルに載置固定して自在に移動させ、前記ノズルは移動させず基台に固定するなどの方法をとることができる。また、ノズルヘッドとしては公知のインクノズルヘッドが利用できる。
【0020】
本発明では、このような被塗場所間距離の制御手段と重ね塗り手段が必要であり、これら手段に加えて、例えば、全ノズルから連続的に前記液状組成物を吐出させながらこれを相対的に一方向に移動させて帯状に塗布する方法、各ノズルを1つおき、或いは2つおきにそれぞれ時間差をおきながら吐出して千鳥模様に塗布し、2回目の重ね塗りに置いては1回目に塗布しなかった場所に吐出し、これを繰り返して所望する膜厚まで塗布する方法など、ソフトウエア的に制御する手段を有してもよい。
【0021】
本発明では、固形分と分散剤とからなる液状組成物において、固形分としてはダイヤモンド微粒子に限るものではない。例えば、金ナノ粒子コロイドや銀ナノ粒子液状組成物など導電性を必要とする配線を塗布によって形成することも出来る。通常の半導体プロセスにおける配線のみならず、液晶ディスプレーやプラズマディスプレイの製造において、数マイクロメートルから数ミリメートル幅の電気配線にも応用できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によって得られるダイヤモンド微粒子膜は、重ね塗りによって膜厚を自由に制御できることに利点がある。一般に、インクジェット方式は小さなノズルから吐出するため、低粘度であることが好ましく、一方、ダイヤモンド微粒子コロイドを安定化させた液状組成物は数センチポイズ前後或いはそれ以下の粘度となり、この方法に最適である。本発明の装置は、ダイヤモンド微粒子コロイドの液滴の大きさを制御でき、且つ、ジェット間隔も自由に制御できるので単位面積当りの塗布量を制御でき、従って、1回の塗布による厚みが規定でき、所望の厚みまで重ね塗りして膜形成することができる。
【0023】
前述の重ね塗りの方法において、例えば、本発明は重ね塗りの間隔を短く、即ち、吐出した前記液状組成物が乾燥しない間に次の重ね塗りをする連続法と、ポーラスダイヤモンド微粒子膜など膜の密度を比較的高くすることができる。他方、重ね塗りの間隔を長く、即ち、吐出した前記液状組成物が乾燥してから次の重ね塗りをする不連続法と、膜の密度を比較的低くすることができ、膜の密度制御をすることができるのである。
【0024】
本発明では、ノズルから液状組成物を連続的に吐出してもよいが、液滴状に不連続に吐出することが好ましい。微細な液滴状に吐出することにより、細い線や任意の図形を描画できる利点がある。さらに、従来のリソグラフィーによる造形法では、スピン塗布機により被塗物全面に塗布して膜形成した後、不要部分をエッチングして廃棄するが、このような従来の方法に比べ、大幅に液状組成物の歩留まりが向上する。
【0025】
従来のスピン塗布機では、まず塗布できる液状組成物とするために、次に膜厚を制御するために、元来粘度の低いダイヤモンド微粒子コロイド液など液状組成物に不純物である増粘剤を添加しなければならない。しかし、本発明の膜形成方法では、そのような不純物の添加は不要であり、或いは添加したとしても微量であり、純粋な膜を形成するには最も好ましい。
【0026】
このため、本発明では、市販品であるフッ素化シリカ膜の比誘電率3.7を大きく下回る良好な比誘電率2.8を達成し、絶縁材料としての要求リーク電流値と絶縁破壊電圧も、ほぼ実用基準を達成した。
また、塗布したダイヤモンド微粒子を樹脂で固めて研磨紙などに利用することもできる。
【実施例1】
【0027】
図1に、本発明のダイヤモンド微粒子膜形成装置(1)を示す。机状の架台(5)の上に、それぞれ高精度エンコーダ(13)と原点センサ(不図示)を備えたX−Yテーブル(4)を設置し、その上に被塗物(10)である、表面を親水性シリカに処理した清浄な6インチシリコンウエハを載置固定する。架台(5)に柱で固定した梁材(11)の中央に、複数のノズルを有するノズルヘッド(2)とこれにダイヤモンド微粒子液状組成物を供給する塗布液タンク(3)を固定する。ここでノズルヘッド(2)は内径20μmのノズルが直線状に180個、100μm間隔で並べてある。コントローラ(7)には塗布制御回路基板(PC104デバイス)が格納され、電源ボックス(9)にはトランスなどの電源機器を格納してある。電源スイッチ(12)から電力を投入し、制御装置(6)でのコマンド入力と、これに組み込んだ塗布プログラムと別に設けたコントローラ(7)により、ノズルヘッド(2)からの液滴塗出のタイミングとX−Yテーブル(4)の移動開始点、移動開始時期、移動方向、移動速度とを制御する。同時に制御装置(6)とコントローラ(7)からの指令により、X−Yテーブルサーボアンプ(8)の出力が制御されてX−Yテーブル(4)を塗布プログラム通りに稼動させる。尚、塗布プログラムは、塗布制御回路基板のアクセス、塗布プログラムのエントリーポイント、コマンドラインオプションの処理、X−Yテーブル駆動処理、記憶領域、ノズルヘッド制御処理、シリアル信号通信の7つのモジュールから成り立っている。この装置で幅18mm長さ60mmを、1回当たり3秒で塗布、元の位置に帰るために1秒、即ち、最低1サイクル4秒で重ね塗りできるようにした。
【実施例2】
【0028】
図2に本発明の塗布方法の一例をフローチャートにより説明する。ステップ1(S1)で開始のコマンドを入力すると、塗布制御回路基板(PC104規格準拠の拡張基板)のシリアルポードが開き(S2)、正常な信号か否かをチェックし(S3)、エラーがあればエラー表示(S3−2)し、終了する(S3−3)。(S3)でエラーがなければコマンドラインを解析し(S4)、塗布し方のオプションを処理設定する(S5)。乾燥防止のためノズルヘッド(2)の塗出口にかぶせられていた乾燥防止用キャップを自動的にはずし(S6)、X−Yテーブル(4)を駆動するためのサーボアンプソフトを初期化し(S7)、塗布装置全体の初期化を行い(S8)、5インチのシリコンウエハ(10)の塗布原点をX−Yテーブル(4)を移動させてノズルヘッド(2)の下にセットする(S9)。前回使用した論理座標ソフトをクリアし(S10)、今回の塗布用データを生成し(S11)、塗布ループ(S12)に入り、網目状塗布の位置座標を計算し(S13)、その座標位置へノズルから塗布して行く(S14)。1回目の塗布が終わると、乾燥防止キャップ位置であるホームへ戻り(S15)、重ね塗りする場合は塗布ループの(S16)から(S12)に帰って同様に繰り返す。これで塗布を終える場合は、塗布ループ(S16)から出て、乾燥防止キャップをかぶせ(S17)、終了する(S18)。
【0029】
図3に、シリコン基板上に100μm間隔で約10pLの小さい液滴を、複数のノズルから同時に塗出して1回目の塗布している状態を拡大して模式的に示した。液状組成物のシリコン基板への接触角が小さい場合は、各液滴がシリコン基板上で広がってやがてすべて合体し一層の塗布膜となる。接触角が大きい場合は、塗布液滴間に隙間ができる場合があるが、この場合は、図4のように2回目は千鳥格子状に塗布すれば、ほぼ均一の厚みに塗布することができる。これを繰り返して重ね塗りすれば、制御された均一の厚みのダイヤモンド微粒子塗布膜が得られる。
【実施例3】
【0030】
本実施例では、本発明の塗布装置(1)を用いて製造した低誘電率膜について述べる。
<原料ダイヤモンドの精製>
爆発法で製造した市販のクラスタダイヤモンド(ラマンスペクトル法測定:ダイヤモンド80%、グラファイト6%、非晶質炭素約10%、炭素一重結合成分4%)6gを10%濃硝酸−濃硫酸550mlとともに石英製フラスコに入れ、300から310℃で2時間煮沸した。室温に冷却した後、多量の水を加えて遠心分離しそれに続くデカンテーションを繰り返して、PHが3を超えるまで精製すると、特に分散剤を加えなくとも沈殿しない灰色の分散液を得た。これを乾燥して精製ダイヤモンド微粒子とした。これの純度を測定したところ、ダイヤモンド96.5%、グラファイト1.5%、非晶質炭素約0%、炭素一重結合成分2.0%であった。
【0031】
<液状組成物の調製>
石英製ビーカに、精製ダイヤモンド微粒子を5重量%、ポリエチレングリコール600を1重量%、モノエタノールアミンを1重量%とそれぞれなるように添加し、0.5mmφのボールとともにボールミルに仕込み3日間混練した。得られたダイヤモンド微粒子液状組成物は黒色の粘度の低いコロイド液で、E型粘度計(東京計器製、25.0℃)で、10rpmから100rpmまで回転数を上昇させて粘度を測定したところ、1から1.5mPa・secとほぼ一定であった。この低粘度液状組成物を、図1の塗布装置で、よく洗浄し表面をUV処理した表面酸化処理済シリコンウエハに、乾燥しない間に100μmの着弾点間距離で3回塗布した。これを乾燥してジクロロテトラメチルジシロキサン(DCTMDS)蒸気で処理し干渉色がある低誘電率膜を得た。
【0032】
<電流−電圧特性の測定>
大気中で水銀電極を膜上に置きシリコン基板との間に電圧をかけ、電圧、電流値、絶縁破壊電圧を測定し、予め測定していた膜厚で割って電界強度を算出したところ、膜厚は520nmほぼ均一で比誘電率は2.8であった。図5に、ここで得たポーラスダイヤモンド微粒子膜を測定した電流−電圧特性を示す。DCTMDS処理した本発明のポーラスダイヤモンド微粒子膜は、絶縁破壊電圧は1.95MV/cmで要求実用絶縁破壊電圧1.0MV/cm以上を達成している。絶縁抵抗を表すリーク電流は、同様に比較して電圧が0.8MV/cm以下で要求実用絶縁リーク電流1×10−6A/cm以下を満たしており、十分実用に耐える。また、本実施例のポーラスダイヤモンド微粒子膜は、電気特性測定用プローブを接触させて測定する際や、指触摩擦しても粒子間結合が破壊するなどの不都合はなく、十分な強度を保持していた。
【実施例4】
【0033】
酸化処理を施しUV洗浄機にて十分に洗浄したシリコン基板上に、20重量%濃度に調整した銀微粒子インキ(住友電気工業株式会社製SEITRNICS
INK)を塗布間隔50μm、液滴の量を約10ピコリットルとなるように実施例1の装置を制御し、乾燥しない間に5回重ね塗りした。その後、80℃にて30分間乾燥させ、さらに250℃にて60分間焼成を行った。厚さは表面粗さ計(ミツトヨ株式会社製SURFPAK−TC)で測定すると2.0μmであった。配線として幅2.5mm、長さ3mmとなるように切り出し、その抵抗値をマルチメーター(Agilent Technorogies社製 Digital Multimeter 34401A)にて測定すると2.3μΩ・cmであった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のダイヤモンド微粒子膜形成装置の斜視図である。
【図2】本発明の塗布方法の1例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の装置による1回目の塗布例を表す斜視図である。
【図4】本発明の装置による2回目の塗布例を表す斜視図である。
【図5】本発明の膜形成装置で塗布した低誘電率膜の電流・電圧特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 塗布装置
2 ノズルヘッド
3 塗布液タンク
4 X−Yテーブル
5 架台
6 制御装置
7 コントローラ
8 X−Yテーブルサーボアンプ
9 電装ボックス
10 被塗物
11 梁材
12 電源スイッチ
13 エンコーダ























【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともダイヤモンド微粒子と分散媒とからなる液状組成物が、1又は2以上のノズルから吐出されて被塗物上に塗布されることを特徴とする、ダイヤモンド微粒子膜形成方法。
【請求項2】
前記ノズルから吐出される前記液状組成物が、液滴状であることを特徴とする、請求項1記載のダイヤモンド微粒子膜形成方法。
【請求項3】
前記分散媒の主成分が水であることを特徴とする、請求項1または2いずれかに記載のダイヤモンド微粒子膜形成方法。
【請求項4】
1又は2以上のノズルが、固形分と分散媒とからなる液状組成物を被塗物上の一定領域に塗布した後、さらに1回以上重ね塗りして膜を形成する方法であって、
前記被塗物上の前回吐出した場所と同一場所または近傍の一定場所に吐出して塗布することによって前記固形成分からなる膜の厚みを制御することを特徴とする、膜形成方法。
【請求項5】
前記重ね塗りの時間的間隔は、塗布された液状組成物が流動しない程度に乾燥するための時間以上であることを特徴とする、請求項4記載の膜の形成方法。
【請求項6】
前記重ね塗りの時間的間隔は、塗布された液状組成物が流動性を有している時間以内であることを特徴とする、請求項4記載の膜の形成方法。
【請求項7】
前記ノズルから吐出される前記液状組成物が、液滴状であることを特徴とする、請求項4から6いずれかに記載の膜形成方法。
【請求項8】
前記固形分が少なくともダイヤモンド微粒子を含むことを特徴とする、請求項4から7いずれかに記載の膜の形成方法。
【請求項9】
1又は2以上のノズルが、固形分と分散媒とからなる液状組成物を被塗物上の一定領域に塗布した後、さらに1回以上重ね塗りして形成したことを特徴とする、液状組成物の固形成分からなる塗布膜。
【請求項10】
1又は2以上のノズルが、少なくともダイヤモンド微粒子と分散媒とからなる液状組成物を吐出して塗布したことを特徴とする、ダイヤモンド微粒子塗布膜。
【請求項11】
固形分と分散媒とからなる液状組成物を被塗物上の一定領域に塗布した後、さらに複数回重ね塗りして膜を形成する装置であって、少なくとも、
1又は2以上のノズルと、
被塗物と前記ノズルとが互いに非接触で且つ相対的に移動させる機械的手段と、
前記被塗物上の前回吐出して一定領域に塗布した後、前記吐出場所と同一場所またはその近傍の一定場所に吐出して複数回重ねて塗布させる制御手段と、
を有することを特徴とする、膜形成装置。
【請求項12】
前記1又は2以上のノズルが、少なくとも、
各ノズルの吐出液を液滴状に形成する手段を有することを特徴とする、請求項11に記載の膜形成装置。
【請求項13】
前記制御手段が、
重ね塗りの時間的間隔を制御する手段を有することを特徴とする、請求項11または12のいずれかに記載の膜形成装置。
【請求項14】
前記制御手段が、
前記機械的手段の動作を少なくともX軸とY軸と時間軸に対して制御する手段と、
これに連動して前記各ノズルの吐出時刻を制御する手段と、
を有することを特徴とする、請求項11から13のいずれかに記載の膜形成装置。
【請求項15】
前記固形分が、ダイヤモンド微粒子を含有していることを特徴とする、請求項11から14のいずれかに記載の膜形成装置。
【請求項16】
1つのノズルから吐出される液状組成物の液滴1滴の大きさ、及び又は液滴の数を制御する手段を有することを特徴とする、請求項15記載の膜形成装置。
【請求項17】
前ノズルが複数であって、各ノズルから吐出される液状組成物の吐出量を、ノズル毎に制御する手段を有することを特徴とする、請求項15または16のいずれかに記載の膜形成装置。
【請求項18】
前記被塗物上に塗布された前記液状組成物の環境条件を制御する手段を有する、請求項11から17いずれかに記載の膜形成装置。














【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−159094(P2006−159094A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354740(P2004−354740)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(591213232)ローツェ株式会社 (33)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】