説明

塗布装置および塗布方法

【課題】基板に流動性材料を塗布する塗布装置において、複数の吐出口からの流動性材料の吐出により基板上に塗布された流動性材料の複数のラインの乾燥後における断面形状を均一化する。
【解決手段】塗布装置1は、基板9に有機EL液を吐出する複数のノズル17、および、複数のノズル17よりも基板9の副走査方向における移動方向前側に位置する光照射部19を備える。塗布装置1では、複数のノズル17の主走査方向への移動時に吐出口から吐出されて基板9上に塗布された有機EL液の複数のラインが流動性を有する間に、光照射部19から当該複数のラインの全体に光を照射して乾燥を促進することにより、有機EL液の複数のラインの乾燥速度の均一性を向上することができる。その結果、複数の吐出口からの有機EL液の吐出により基板9上に塗布された有機EL液の複数のラインの乾燥後における断面形状を均一化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に流動性材料を塗布する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機EL(Electro Luminescence)材料を利用した有機EL表示装置の開発が行われており、例えば、高分子有機EL材料を用いたアクティブマトリックス駆動方式の有機EL表示装置の製造では、ガラス基板(以下、単に「基板」という。)に対して、TFT(Thin Film Transistor)回路の形成、陽極となるITO(Indium Tin Oxide)電極の形成、隔壁の形成、正孔輸送材料を含む流動性材料(以下、「正孔輸送液」という。)の塗布、加熱処理による正孔輸送層の形成、有機EL材料を含む流動性材料(以下、「有機EL液」という。)の塗布、加熱処理による有機EL層の形成、陰極の形成、および、絶縁膜の形成による封止が順次行われる。
【0003】
有機EL表示装置の製造において、正孔輸送液または有機EL液を基板に塗布する装置の1つとして、特許文献1に示すように、流動性材料を連続的に吐出する複数のノズルを主走査方向に移動するとともに、主走査方向へのノズルの移動が行われる毎に基板を副走査方向にステップ移動することにより、基板上の塗布領域に形成された複数の隔壁間の溝に流動性材料をストライプ状に塗布する装置が知られている。
【0004】
特許文献1の塗布装置では、基板が載置されるステージにヒータが設けられることにより、基板に塗布された処理液の溶剤の乾燥、蒸発が促進され、処理液が流動しない程度に硬化する。これにより、基板の搬送時に基板上の塗布物の膜厚が変動してしまうことが防止される。
【0005】
一方、特許文献2では、有機EL表示装置用の基板上において格子状の隔壁に囲まれて2次元マトリクス状に配列された微小な矩形状の画素開口部に、溶液化された有機EL材料(以下、「インク」という。)の液滴をインクジェット方式により吐出配置する装置が開示されている。
【0006】
インクジェット方式の装置では、各画素開口部に着弾したインクの表面形状は、インクの表面張力により基板表面に対して凸状(すなわち、インク表面のうち、隔壁と接する周囲の部位よりも中央部が高い状態)となる。そして、インクが自然乾燥して溶媒がインクから次第に蒸発すると、各画素開口部においてメニスカス形状(すなわち、中央部が窪んでいる形状)を有する有機EL材料の膜が形成される、このように、各画素開口部における有機EL材料の膜厚が中央部と周囲とで大きく異なると、基板に電界を印加した場合に膜厚の薄い中央部のみが発光し、周囲では発光が生じない恐れがある。
【0007】
そこで、特許文献2では、インクの液滴を吐出するノズルと共に移動する赤外線ヒータを設け、当該ヒータにより各画素開口部に配置された直後のインクを加熱して迅速に乾燥することにより、各画素開口部の中央部と周囲とにおける有機EL材料の膜厚差を緩和することが図られている。
【特許文献1】特開2006−164905号公報
【特許文献2】特開2004ー165140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1のような塗布装置では、流動性材料が塗布された基板上において、流動性材料の各ラインから溶媒成分が蒸発し、これらのラインが塗布された順に乾燥して画素形成材料が基板上に定着していく。このとき、流動性材料の乾燥に要する時間が他のラインと異なるラインがあると、当該ライン中における画素形成材料の分散状態が他のラインと異なった状態で乾燥が終了するため、当該ラインの乾燥により基板上に定着する画素形成材料の断面形状が、他のラインの乾燥により基板上に定着する画素形成材料の断面形状と異なってしまう。
【0009】
特許文献1の塗布装置では、基板のステップ移動方向の後側には流動性材料が塗布されていないため、複数のノズルのうち、ステップ移動方向(すなわち、副走査方向)に関して最も後側に位置するノズルにより塗布された流動性材料のラインの周囲では、他のノズルにより塗布された流動性材料のラインの周囲に比べて雰囲気中の溶媒成分の濃度が低くなってしまう。
【0010】
このため、最も後側のノズルにより塗布された流動性材料のラインが、他のノズルにより塗布された流動性材料のラインよりも早く乾燥し、これにより、基板上に定着する画素形成材料の断面形状が他のラインと異なってしまう。その結果、基板上に塗布された流動性材料の複数のラインの乾燥後の断面形状が不均一となって塗布ムラが発生し、製品となった後の平面表示装置における表示の質が低下してしまう場合がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、基板上に流動性材料を塗布する塗布装置において、複数の吐出口からの流動性材料の吐出により基板上に塗布された流動性材料の複数のラインの乾燥後における形状を均一化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、基板を保持する基板保持部と、前記基板の主面に平行な副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から前記基板の前記主面に向けて流動性材料を連続的に吐出する吐出機構と、前記吐出機構を前記副走査方向に垂直かつ前記主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動するとともに、前記主走査方向への移動が行われる毎に前記基板を前記吐出機構に対して前記副走査方向に相対的に移動する移動機構と、前記吐出機構に対して前記副走査方向における相対位置が固定され、前記複数の吐出口から吐出された前記流動性材料が流動性を有する間に前記流動性材料に光を照射して前記流動性材料の乾燥を促進する光照射部とを備える。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の塗布装置であって、前記光照射部からの光の前記基板上における照射領域が、前記複数の吐出口よりも前記基板の前記副走査方向への相対移動方向前側において、または、前記副走査方向において前記複数の吐出口と重なる位置にて、前記基板の前記主走査方向の幅全体に亘る。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の塗布装置であって、前記吐出機構が前記主走査方向に1回移動することにより前記基板上に形成される前記流動性材料の複数のラインの全体が、前記基板の前記副走査方向への1回の相対移動が行われることにより前記照射領域に含まれる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の塗布装置であって、前記光照射部が、前記吐出機構に固定される。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の塗布装置であって、前記光照射部が、前記吐出機構の前記主走査方向における両側から前記基板に光を照射する。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の塗布装置であって、前記光照射部からの光の波長が、380nm以上である。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の塗布装置であって、前記光照射部からの光の波長が、780nm以上である。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の塗布装置であって、前記流動性材料が、有機EL表示装置用の有機EL材料または正孔輸送材料を含む。
【0020】
請求項9に記載の発明は、基板に流動性材料を塗布する塗布方法であって、a)基板の主面に平行な副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から前記基板の前記主面に向けて流動性材料を連続的に吐出しつつ、前記複数の吐出口を前記副走査方向に垂直な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動する工程と、b)前記基板を前記副走査方向に前記複数の吐出口に対して相対的に移動する工程と、c)前記a)工程および前記b)工程を繰り返す工程と、d)前記a)工程ないし前記c)工程と並行して、前記複数の吐出口から吐出された前記流動性材料が流動性を有する間に前記流動性材料に光を照射して前記流動性材料の乾燥を促進する工程とを備える。
【0021】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の塗布方法であって、前記d)工程において、前記基板上における前記光の照射領域が、前記複数の吐出口よりも前記基板の前記副走査方向への相対移動方向前側において、または、前記副走査方向において前記複数の吐出口と重なる位置にて、前記基板の前記主走査方向の幅全体に亘る。
【0022】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の塗布方法であって、前記d)工程において、前記複数の吐出口が前記主走査方向に1回移動することにより前記基板上に形成される前記流動性材料の複数のラインの全体が、前記基板の前記副走査方向への1回の相対移動が行われることにより前記照射領域に含まれる。
【0023】
請求項12に記載の発明は、請求項9に記載の塗布方法であって、前記d)工程において、前記基板上における前記光の照射領域が、前記複数の吐出口に対して相対的に固定されている。
【0024】
請求項13に記載の発明は、請求項9ないし12のいずれかに記載の塗布方法であって、前記光の波長が、380nm以上である。
【0025】
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載の塗布方法であって、前記光の波長が、780nm以上である。
【0026】
請求項15に記載の発明は、請求項9ないし14のいずれかに記載の塗布方法であって、前記流動性材料が、有機EL表示装置用の有機EL材料または正孔輸送材料を含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、複数の吐出口からの流動性材料の吐出により基板上に塗布された流動性材料の複数のラインの乾燥後における形状を均一化することができる。また、請求項2および10の発明では、塗布装置の構造を簡素化することができる。さらに、請求項3ないし5、並びに、請求項11および12の発明では、複数の吐出口からの流動性材料の吐出に対する光の影響を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る塗布装置1の構成を示す平面図であり、図2は塗布装置1の正面図(図1中の(−Y)側から(+Y)方向を向いてみた図)である。塗布装置1は、平面表示装置用のガラス基板9(以下、単に「基板9」という。)に、平面表示装置用の画素形成材料を含む流動性材料を塗布する装置である。本実施の形態では、塗布装置1において、アクティブマトリックス駆動方式の有機EL(Electro Luminescence)表示装置用の基板9に、揮発性の溶媒、および、一の色の発光材料として基板9上に付与される有機EL材料を含む流動性材料(以下、「有機EL液」という。)が塗布される。
【0029】
塗布装置1は、図2に示すように、基板9の(−Z)側の主面に当接して基板9を保持する基板保持部11を備え、図1および図2に示すように、基板保持部11を基板9の(+Z)側の主面90に平行な所定の方向(すなわち、図1および図2中のY方向であり、以下、「副走査方向」という。)に水平移動するとともに垂直方向(すなわち、Z方向)に向く軸を中心として回転する基板移動機構12を備える。
【0030】
基板9の(+Z)側の主面90(以下、「上面90」という。)上の塗布領域91(図1中において細線の矩形にて示す。)には、それぞれが図1中のX方向に伸びる複数の隔壁がY方向に一定のピッチ(例えば、100〜150マイクロメートル(μm)のピッチ)にて配列形成されている。
【0031】
図1および図2に示す塗布装置1は、また、基板保持部11(図2参照)に保持された基板9の上面90に向けて流動性材料を連続的に吐出する吐出機構である塗布ヘッド14、塗布ヘッド14を基板9の上面90に平行かつ副走査方向に垂直な方向(すなわち、図1および図2中のX方向であり、以下、「主走査方向」という。)に水平移動するヘッド移動機構15、および、塗布ヘッド14の移動方向(すなわち、X方向)に関して基板保持部11の両側に設けられるとともに塗布ヘッド14からの有機EL液を受ける2つの受液部16を備え、ヘッド移動機構15および受液部16は、図示省略のフレームに固定されている。
【0032】
塗布装置1では、ヘッド移動機構15および基板移動機構12が、塗布ヘッド14を基板9に対して主走査方向に相対的に移動する(すなわち、主走査する)とともに基板9を塗布ヘッド14に対して副走査方向に相対的に移動する(すなわち、副走査する)移動機構となる。
【0033】
図1および図2に示すように、塗布ヘッド14は複数(本実施の形態では、4本)のノズル17を備える。各ノズル17の(−Z)側の端面には吐出口(図2中では2つのノズル17の吐出口のみに符号171を付している。)が形成され、複数の吐出口171から同一種類の有機EL液が連続的に吐出される。4本のノズル17は、X方向(すなわち、主走査方向)に略直線状に配列されるとともにY方向(すなわち、副走査方向)に僅かにずれて配置される。塗布装置1では、複数のノズル17のY方向の位置が個別に調整可能とされており、4本のノズル17の吐出口171は副走査方向に関して等間隔にて配列される。互いに隣接する2本のノズル17の吐出口171の副走査方向の中心間距離は、基板9上の隔壁のY方向のピッチの3倍に等しくされる。なお、図1では、図示の都合上、4本のノズル17の副走査方向の間隔を実際よりも大きく描いている(図5.Aおよび図5.Bにおいても同様)。
【0034】
塗布装置1は、さらに、図1および図2に示すように、塗布ヘッド14の複数のノズル17よりも(+Y)側にて上記フレームに固定されるとともに基板9の上面90の一部に光を照射する光照射部19を備え、また、図1に示すように、塗布ヘッド14に流動性材料を供給する流動性材料供給部18、並びに、塗布装置1の各構成を制御する制御部2を備える。上述のように、ヘッド移動機構15および光照射部19は、フレームを介して互いに固定されているため、光照射部19は、塗布ヘッド14に対して副走査方向における相対位置が固定されているといえる。
【0035】
塗布装置1では、光照射部19からの光の基板9上における照射領域が、塗布ヘッド14の複数の吐出口171よりも(+Y)側(すなわち、基板9の副走査方向への相対移動方向前側)において、基板9の主走査方向の幅全体に亘る。本実施の形態では、光照射部19から基板9へと照射される光は、波長が780nm以上である赤外光とされる。
【0036】
図3は、主走査方向に垂直な基板9の断面を示す図である。基板9の上面90に有機EL液が塗布される際には、塗布ヘッド14の各ノズル17(図1および図2参照)から、基板9の上面90上において互いに隣接する2つの隔壁92間の領域93(すなわち、主走査方向に伸びる領域であり、以下、「線状領域93」という。)に有機EL液が吐出されて有機EL液のライン(すなわち、線状要素)94が形成される。
【0037】
塗布装置1では、副走査方向に一定のピッチ(隔壁のピッチに等しいピッチであり、以下、「領域ピッチ」という。)にて配列される複数の線状領域93において、副走査方向に2つおきに存在する線状領域93に有機EL液が塗布される。すなわち、塗布装置1にて有機EL液が塗布される2つの線状領域93の間には、他の塗布装置により他の種類の有機EL液が塗布される2つの線状領域93が挟まれている。
【0038】
次に、塗布装置1による有機EL液の塗布について説明する。図4は、有機EL液の塗布の流れを示す図であり、図5.Aおよび図5.Bは、有機EL液の塗布途上の基板9を塗布ヘッド14と共に示す平面図である。図1および図2に示す塗布装置1では、基板9が基板保持部11に載置されて保持されると、基板移動機構12が駆動されて基板9が移動および回転し、図1中に実線にて示す塗布開始位置に位置する(ステップS11)。このとき、塗布ヘッド14は、副走査方向に関して基板9の(+Y)側の端部近傍であり、主走査方向において、図1および図2中に実線にて示す待機位置(すなわち、図1および図2中の(−X)側の受液部16の上方)に予め配置されている。
【0039】
続いて、制御部2により塗布ヘッド14が制御されて、4本のノズル17から有機EL液の吐出が開始され(ステップS12)、さらに、ヘッド移動機構15が制御されて塗布ヘッド14の主走査方向の移動(すなわち、図2中の(−X)側から(+X)方向への主走査)が開始される。これにより、複数の吐出口171のそれぞれから基板9の上面90に向けて有機EL液を一定の流量にて連続的に(途切れることなく)吐出しつつ、塗布ヘッド14(すなわち、複数の吐出口171)が主走査方向に連続的に一定の速度にて移動し、図3に示すように、基板9の塗布領域91の4個の線状領域93に有機EL液がストライプ状に塗布されて4本のライン94が形成される(ステップS13)。
【0040】
そして、塗布ヘッド14が、図1および図2中に二点鎖線にて示す待機位置(すなわち、(+X)側の受液部16の上方)まで移動することにより、有機EL液によるストライプ状の4本のライン94(図3参照)が基板9上に形成される。なお、図1中における塗布領域91の(+X)側および(−X)側の非塗布領域(並びに、必要に応じて(+Y)側および(−Y)側の非塗布領域)は、図示省略のマスクにより覆われているため、基板9上の非塗布領域に有機EL液は塗布されない。
【0041】
塗布ヘッド14が待機位置まで移動すると基板移動機構12が駆動され、基板9が、図5.A中に二点鎖線にて示す位置から実線にて示す位置へと、(+Y)方向(すなわち、副走査方向)に領域ピッチの12倍に等しい距離だけ移動する(ステップS14)。このとき、塗布ヘッド14では、4本のノズル17から受液部16(図1参照)に向けて有機EL液が連続的に吐出されている。
【0042】
基板9上では、基板9の副走査方向への1回の相対移動が行われることにより、塗布ヘッド14が主走査方向に1回移動することにより基板9上に形成された4本のライン94(すなわち、直前のステップS13において形成された4本のライン94)の全体が、光照射部19(図1および図2参照)から基板9に照射される光の照射領域191(図5.Aにおいて二点鎖線にて示す。)に含まれる。そして、有機EL液の4本のライン94に対して光照射部19からの光が照射されてこれらのライン94が加熱されることにより、流動性を有する有機EL液のライン94の乾燥が促進される(ステップS15)。なお、図5.Aでは、図示の都合上、複数のライン94の副走査方向の間隔を実際よりも大きく描いており、また、隔壁92の図示を省略している(図5.B、図8、図12.Aおよび図12.Bにおいても同様)。
【0043】
副走査方向における基板9のステップ移動が終了すると、基板9が図1中に二点鎖線にて示す塗布終了位置まで移動したか否かが制御部2により確認される(ステップS16)。そして、塗布終了位置まで移動していない場合には、ステップS13に戻って塗布ヘッド14が4本のノズル17から有機EL液を吐出しつつ基板9の(+X)側から(−X)方向(すなわち、主走査方向)に移動することにより、基板9上の線状領域93(図4参照)に有機EL液が塗布される(ステップS13)。
【0044】
塗布装置1では、塗布ヘッド14の2回目の主走査の間(すなわち、上記の(+X)側から(−X)方向への移動と並行して)、1回目の主走査により塗布された図5.Aに示す有機EL液の4本のライン94に対して光照射部19(図1および図2参照)からの光が照射されてこれらのライン94が加熱されることにより、流動性を有する有機EL液のライン94の乾燥が促進され、図6の断面図に示すように、各ライン94から溶媒が蒸発して各ライン94に含まれる有機EL材料が基板9上に定着する。
【0045】
塗布ヘッド14の2回目の主走査が終了すると、基板9が図5.B中に二点鎖線にて示す位置から実線にて示す位置へと副走査方向に移動し、これにより、2回目の主走査により塗布された有機EL液の4本のライン94が、光照射部19から基板9に照射される光の照射領域191に含まれる(ステップS14)。そして、当該4本のライン94に光が照射されてこれらのライン94の乾燥が促進されるとともに基板9が塗布終了位置まで移動したか否かが確認される(ステップS15,S16)。
【0046】
塗布装置1では、基板保持部11および基板9が塗布終了位置に位置するまで、塗布ヘッド14の主走査方向における移動、および、基板9の(+Y)側へのステップ移動が交互に繰り返される(すなわち、塗布ヘッド14の複数の吐出口171の主走査方向への移動が行われる毎に、基板9が塗布ヘッド14の複数の吐出口171に対して副走査方向に相対的に移動される。)。また、塗布ヘッド14の主走査と並行して、直前の主走査により塗布された有機EL液の4本のライン94(すなわち、塗布途上の4本のラインの(+Y)側に隣接する塗布完了後の4本のライン94)に光が照射されて乾燥が促進され、さらに、基板9の副走査と並行して、照射領域191の基板9に対する副走査方向への相対移動が行われる(ステップS13〜S16)。これにより、基板9上にて主走査方向に伸びるとともに副走査方向に一定のピッチ(すなわち、領域ピッチの3倍に等しいピッチ)にて配列された有機EL液の複数のライン94が形成される。
【0047】
そして、基板9が塗布終了位置まで移動すると、4本のノズル17からの有機EL液の吐出が停止され(ステップS17)、塗布装置1による基板9に対する有機EL液の塗布が終了する。なお、塗布装置1では、副走査方向に関し、基板9上において有機EL液の塗布が進行する方向(すなわち、塗布ヘッド14の基板9に対する相対移動方向)は、基板移動機構12による基板9の移動方向とは反対向きとなっている。
【0048】
ところで、基板9上では、4本のノズル17のうち中央近傍の2本のノズル17により塗布された有機EL液のラインの周囲において、雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くなり、(+Y)側のノズル17により塗布された有機EL液のラインの周囲においても、直前の塗布ヘッド14の主走査にて最も(−Y)側のノズル17により塗布された有機EL液のラインの影響により、雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が高くなる。
【0049】
しかしながら、(−Y)側のノズル17(すなわち、副走査方向における基板の相対移動方向後側のノズルであり、以下、「後側ノズル」という。ただし、塗布ヘッドの相対移動方向に着目した場合、前側のノズルとなる。)により塗布された有機EL液のライン(以下、後側ノズルにより形成されるラインを「後側ライン」という。)の(−Y)側には、他の有機EL液のラインは形成されておらず、(+Y)側にのみ、他のノズル17により並行して塗布された有機EL液のラインが配置されることとなる。
【0050】
このため、(−Y)側の後側ノズルにより塗布された後側ラインの周囲では、他の3本のノズル17により塗布されたラインの周囲と比べて有機EL液の溶媒成分の濃度が低くなる。正確には、後側ラインの周囲では、後側ラインの(−Y)側における雰囲気中の有機EL液の溶媒成分の濃度が、後側ラインの(+Y)側における濃度よりも低くなる。
【0051】
ここで、仮に光照射部が設けられない塗布装置を想定すると、このような塗布装置(以下、「比較例の塗布装置」という。)では、有機EL液の4本のラインが自然乾燥する際に、後側ラインの(−Y)側の部位が(+Y)側の部位よりも大幅に早く乾燥してしまう。そして、図7に示すように、半乾燥状態の有機EL材料にて形成される(−Y)側の後側ライン94aにおいて、(−Y)側の部位(角状の突起を含む部位。(+Y)側の部位において同様。)の膜厚と(+Y)側の部位の膜厚との差D1(以下、「縁部膜厚差」という。)が、縁部膜厚差がほぼ0となっている他のライン94bに比べて大きくなり、複数のラインにおいて主走査方向に垂直な断面の形状である有機EL材料の分散状態が一定ではなくなる。
【0052】
このように厚さに偏りがある有機EL材料の後側ライン94aが、塗布領域に周期的に(すなわち、4本毎に)形成された状態の塗布ムラを有する基板を、そのまま後工程において焼結処理して製品に使用すると、製品となった後の有機EL表示装置における表示の質が低下してしまう場合がある。なお、後側ラインでは、必ずしも同時に形成される他のライン側の部位の膜厚が当該部位とは反対側の部位の膜厚よりも小さくなる訳ではなく、比較例の塗布装置において塗布に用いられる有機EL液の種類によっては、同時に形成される他のライン側の部位の膜厚が当該部位とは反対側の部位の膜厚よりも大きくなることもある。
【0053】
これに対し、第1の実施の形態に係る塗布装置1では、複数のノズル17の吐出口171から吐出されて基板9上に塗布された有機EL液の複数のライン94が流動性を有する間に、当該複数のライン94に光を照射して乾燥を促進することにより、塗布ヘッド14の1回の主走査により同時に塗布された有機EL液の複数のライン94の乾燥速度の均一性を向上することができるとともに、(−Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側)のノズル17の吐出口171から吐出された有機EL液の乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができる。その結果、複数の吐出口171からの有機EL液の吐出により基板9上に塗布された有機EL液の複数のライン94の乾燥後における形状(すなわち、主走査方向に垂直な断面形状)を均一化することができる。
【0054】
なお、有機EL液の複数のラインの乾燥を促進するという観点では、基板保持部の内部にヒータを設けることにより基板全体を均一に加熱することも考えられるが、基板保持部は、開放空間に設けられているため周囲の環境からの熱影響を受けやすく、また、副走査方向に移動することにより周囲に生じる空気流の影響を受けるため、基板全体を所定の温度に維持して塗布ムラを防止しようとすると装置の製造コストが増大してしまう。
【0055】
ところで、平面表示装置用の画素形成材料を含む流動性材料の基板に対する塗布では、仮に塗布ムラが発生すると、製品となった後の平面表示装置の表示の質が低下する恐れがある。本実施の形態に係る塗布装置1では、上述のように、流動性材料の複数のライン94の乾燥後における断面形状を均一化することができるため、塗布装置1は、平面表示装置用の画素形成材料を含む流動性材料の塗布に特に適しているといえる。
【0056】
塗布装置1では、光照射部19からの光の基板9上における照射領域191が基板9の主査方向の幅全体に亘っているため、光照射部19を主走査方向に移動する構成が必要なく、塗布装置1の構造を簡素化することができる。さらに、基板9の塗布ヘッド14に対する副走査方向の相対移動が、基板移動機構12による基板9の移動により実現されているため、光照射部19を副走査方向に移動する構成も必要なく、光照射部19をフレームに固定することができ、塗布装置1の構造をより簡素化することができる。
【0057】
また、塗布装置1では、光照射部19からの光の基板9上における照射領域191が、複数のノズル17の吐出口171よりも基板9の副走査方向への相対移動方向前側(すなわち、(+Y)側)にのみ位置することにより、ノズル17に対する光照射部19からの光の照射が防止される。これにより、複数のノズル17の吐出口171からの有機EL液の吐出に対する光照射部19からの光の影響(例えば、ノズル17の温度上昇による有機EL液の粘度変化や吐出口171近傍における有機EL液の硬化)が防止され、有機EL液の塗布の質の低下が防止される。
【0058】
さらに、塗布ヘッド14の1回の主走査により塗布された有機EL液の4本のライン94が、当該1回の主走査の直後に行われる基板9の1回の副走査により光照射部19からの光の照射領域191に含まれることにより、有機EL液の塗布から光の照射による乾燥促進開始までの時間を短くすることができる。その結果、有機EL液の複数のライン94の乾燥後における形状の均一性が向上される。
【0059】
なお、光照射部19からの光が複数のノズル17に照射されたとしても有機EL液の吐出に対する光の影響がほとんどない場合には、光照射部19からの光の基板9上における照射領域191は、図8に示すように、副走査方向において複数の吐出口171と重なる位置に位置してもよい。光照射部19は、例えば、塗布ヘッド14の移動経路の上方(すなわち、(+Z)側)に配置されて(−Z)方向に向けて光を照射する。この場合、有機EL液の塗布から光の照射による乾燥促進開始までの時間をより短くすることができ、その結果、有機EL液の複数のライン94の乾燥後における形状の均一性がさらに向上される。なお、図8では、図の理解を容易とするために、塗布ヘッド14の4本のノズル17の吐出口171のみを示しており、また、図示の都合上、4つの吐出口171の副走査方向の間隔を実際よりも大きく描いている(図12.Aおよび図12.Bにおいても同様)。
【0060】
光照射部19では、基板9に照射される光の波長が780nm以上とされることにより、波長が780nm未満とされる場合に比べて、光照射部19からの熱放射が増大され、また、有機EL液による光の吸収の効率が向上されるため、照射領域191に含まれる有機EL液の複数のライン94が効率良く加熱され、これらのライン94の乾燥がより促進される。その結果、有機EL液の複数のライン94の乾燥後における形状の均一性がより向上される。
【0061】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る塗布装置について説明する。図9は、第2の実施の形態に係る塗布装置1aの平面図であり、図10は、塗布装置1aの正面図である。図9および図10に示すように、塗布装置1aは、図1および図2に示す塗布装置1の光照射部19に代えて、塗布ヘッド14の(+X)側および(−X)側(すなわち、主走査方向の両側)に固定される2つの光照射部19aを備える。塗布装置1aのその他の構成は図1および図2に示す塗布装置1と同様であり、以下の説明において対応する構成に同符号を付す。
【0062】
図9および図10に示す塗布装置1aでは、塗布ヘッド14の主走査方向への移動による有機EL液の塗布の際に、塗布ヘッド14と共にヘッド移動機構15により主走査方向に移動する2つの光照射部19aにより、塗布ヘッド14の主走査方向における両側から、基板9上における複数のノズル17の吐出口171の移動経路に対応する領域の一部に光が照射される。
【0063】
塗布装置1aによる有機EL液の塗布は、第1の実施の形態(図4参照)とほぼ同様であり、図4中のステップS13〜S16に代えて、図11に示すステップS21〜S23が行われる点のみが異なる。以下、塗布装置1aによる有機EL液の塗布の流れについて説明する。図12.Aおよび図12.Bは、有機EL液の塗布途上の基板9を複数のノズル17の吐出口171と共に示す平面図である。
【0064】
図9および図10に示す塗布装置1aでは、第1の実施の形態と同様に、基板9が塗布開始位置に位置し、塗布ヘッド14の4本のノズル17から有機EL液の吐出が開始される(図4:ステップS11,S12)。
【0065】
続いて、塗布ヘッド14が基板9の(−X)側から(+X)方向へと連続的に移動することにより、図12.Aに示すように、基板9上に有機EL液がストライプ状に塗布される。このとき、図9および図10に示す2つの光照射部19aは塗布ヘッド14と共に(+X)方向に移動し、塗布ヘッド14の(−X)側の光照射部19a(すなわち、2つの光照射部19aのうち、塗布ヘッド14の主走査方向における相対移動方向の後側の光照射部19a)からの光の照射領域191a(図12.A参照)が、複数のノズル17の吐出口171から吐出されて基板9上に塗布された直後の有機EL液上を走査する。これにより、図12.Aに示すように、塗布途上の有機EL液の4本のライン94において、吐出口171近傍の吐出直後の部位(すなわち、塗布直後の有機EL液)に光が照射されて乾燥が促進される(ステップS21)。
【0066】
そして、塗布ヘッド14および光照射部19aが、図9および図10中に二点鎖線にて示す待機位置まで移動することにより、有機EL液によるストライプ状の4本のライン94(図12.A参照)が基板9上に形成される。次に、基板9が(+Y)方向に領域ピッチの12倍に等しい距離だけステップ移動し(ステップS22)、制御部2により、基板9が図9中に二点鎖線にて示す塗布終了位置まで移動したか否かが確認される(ステップS23)。
【0067】
基板9が塗布終了位置まで移動していない場合には、ステップS21に戻って塗布ヘッド14が4本のノズル17から有機EL液を吐出しつつ基板9の(+X)側から(−X)方向に移動することにより、図12.Bに示すように、基板9上に有機EL液がストライプ状に塗布される。このとき、塗布ヘッド14の(+X)側の光照射部19a(すなわち、2つの光照射部19aのうち、塗布ヘッド14の主走査方向における相対移動方向の後側の光照射部19a)からの光の照射領域191aが、複数のノズル17の吐出口171から吐出されて基板9上に塗布された直後の有機EL液上を走査する。これにより、塗布途上の有機EL液の4本のライン94において、吐出口171近傍の吐出直後の部位(すなわち、塗布直後の有機EL液)に光が照射されて乾燥が促進される(ステップS21)。
【0068】
塗布ヘッド14が(−X)側の待機位置に位置すると、基板9が(+Y)方向にステップ移動し、基板9が塗布終了位置まで移動したか否かが確認される(ステップS22,S23)。塗布装置1aでは、基板9が塗布終了位置に位置するまで、塗布ヘッド14および光照射部19aの主走査方向における移動、並びに、基板9の(+Y)側へのステップ移動が交互に繰り返される(すなわち、塗布ヘッド14の複数の吐出口171、および、2つの光照射部19aの主走査方向への移動が行われる毎に、基板9が塗布ヘッド14の複数の吐出口171、および、2つの光照射部19aに対して副走査方向に相対的に移動される。)(ステップS21〜S23)。これにより、基板9上にて主走査方向に伸びるとともに副走査方向に一定のピッチ(すなわち、領域ピッチの3倍に等しいピッチ)にて配列された有機EL液の複数のラインが形成される。
【0069】
そして、基板9が塗布終了位置まで移動すると、4本のノズル17からの有機EL液の吐出が停止され(図4:ステップS17)、塗布装置1aによる基板9に対する有機EL液の塗布が終了する。
【0070】
塗布装置1aでは、複数のノズル17の吐出口171から吐出されて基板9上に塗布された有機EL液の複数のライン94に対し、当該複数のライン94の塗布直後に(すなわち、有機EL液のライン94が流動性を有する間に)光を照射してこれらのライン94の乾燥が促進される。これにより、第1の実施の形態と同様に、有機EL液の複数のライン94の乾燥速度の均一性を向上することができるとともに、(−Y)側(すなわち、副走査方向における基板9の相対移動方向後側)のノズル17の吐出口171から吐出された有機EL液の乾燥速度を、副走査方向においてほぼ均一とすることができる。その結果、複数の吐出口171からの有機EL液の吐出により基板9上に塗布された有機EL液の複数のライン94の乾燥後における形状(すなわち、主走査方向に垂直な断面形状)を均一化することができる。
【0071】
第2の実施の形態に係る塗布装置1aでは、光照射部19aが塗布ヘッド14に固定されており、塗布ヘッド14と共に移動しつつ有機EL液に光を照射するため、ノズル17に対する光照射部19aからの光の照射が防止される。これにより、複数のノズル17の吐出口171からの有機EL液の吐出に対する光照射部19aからの光の影響(例えば、ノズル17の温度上昇による有機EL液の粘度変化や吐出口171近傍における有機EL液の硬化)が防止され、有機EL液の塗布の質の低下が防止される。
【0072】
また、塗布装置1aでは、塗布ヘッド14の(+X)側および(−X)側(すなわち、主走査方向における両側)に光照射部19aが設けられ、複数の吐出口171の(+X)側および(−X)側において基板9に光が照射される。これにより、塗布ヘッド14の主走査方向における移動方向(すなわち、(+X)方向または(−X)方向)に関わらず、塗布直後の有機EL液(すなわち、塗布途上の有機EL液のライン94の塗布直後の部位)に対して光を照射することができる。その結果、有機EL液の塗布から光の照射による乾燥促進開始までの時間がより短縮され、有機EL液の複数のライン94の乾燥後における形状の均一性がさらに向上される。
【0073】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0074】
第1の実施の形態に係る塗布装置1では、基板9の1回の副走査により、当該副走査の直前の塗布ヘッド14の主走査により塗布された有機EL液の4本のラインに、光照射部19からの光が照射されるが、光照射部19からの光の照射は、複数のノズル17の吐出口171から基板9上に塗布された有機EL液が流動性を有する間に当該有機EL液に対して行われるのであれば、必ずしも塗布直後の有機EL液のライン(すなわち、基板9上における(−Y)側の4本のライン)のみに対して行われる必要はない。
【0075】
例えば、照射領域の副走査方向の幅が有機EL液のラインの8本分にほぼ等しくされ、基板9の1回の副走査により、当該副走査の直前の塗布ヘッド14の主走査、および、その1回前の主走査により塗布された有機EL液の8本のラインに、光照射部19からの光が照射されてもよい。また、基板9の1回の副走査により、当該副走査の1回前の副走査の直前に行われた塗布ヘッド14の主走査により塗布された有機EL液の4本のラインに対して光の照射が行われてもよい。
【0076】
第2の実施の形態に係る塗布装置1aでは、2つの光照射部19aのうち、塗布ヘッド14の副走査方向における相対移動方向前側の光照射部19a(すなわち、塗布ヘッド14が(+X)方向に移動している場合には、塗布ヘッド14の(+X)側の光照射部19aであり、塗布ヘッド14が(−X)方向に移動している場合には、塗布ヘッド14の(−X)側の光照射部19a)において、基板9に対する光の照射が停止されてもよい。このように、有機EL液の乾燥に寄与しない方の光照射部19aからの光の照射を停止することにより、塗布装置1aの駆動に要するコストを低減することができる。
【0077】
塗布装置1aでは、光照射部19aからの光の照射は、基板9上に塗布された有機EL液が流動性を有する間に当該有機EL液に対して行われるのであれば、必ずしも塗布途上の有機EL液のラインのみに対して行われる必要はない。例えば、2つの光照射部19aに代えて、塗布ヘッド14の(+Y)側(すなわち、基板9の副走査方向における相対移動方向前側)に1つの光照射部が固定され、塗布ヘッド14の1回の主走査により、当該主走査の直前の主走査により塗布された有機EL液の4本のライン上を、光照射部からの光の照射領域が走査されてもよい。
【0078】
また、2つの光照射部19aに代えて、照射領域の副走査方向の幅が有機EL液のラインの8本分にほぼ等しい1つの光照射部が、塗布ヘッド14の(+X)側または(−X)側に固定され、塗布ヘッド14の1回の主走査により、当該主走査の直前の主走査により塗布された有機EL液の4本のライン(および、光照射部が固定される側とは反対方向に塗布ヘッド14が移動している場合には、塗布途上の有機EL液の4本のライン)に光が照射されてもよい。なお、当該光照射部が塗布ヘッド14の(+X)側および(−X)側の双方に固定されることにより、塗布ヘッド14の主走査方向における移動方向に関わらず、塗布途上の有機EL液に対して光を照射することができるため、この場合、有機EL液の複数のライン94の乾燥後における形状の均一性がさらに向上される。
【0079】
第2の実施の形態に係る塗布装置1aでは、塗布ヘッド14の(+X)側および(−X)側に固定される2つの光照射部19aに加えて、第1の実施の形態に係る塗布装置1の光照射部19と同様に、塗布ヘッド14の複数のノズル17の(+Y)側にて、ヘッド移動機構15が固定されたフレームに固定される(すなわち、塗布ヘッド14に対して副走査方向における相対位置が固定されている)光照射部が設けられてもよい。これにより、塗布ヘッド14の主走査による塗布途上の有機EL液の4本のライン、および、当該主走査の直前の主走査により塗布された有機EL液の4本のラインに光が照射される。
【0080】
上記実施の形態に係る塗布装置では、基板9上に塗布された有機EL液の乾燥を促進することができるのであれば、光照射部から基板9上の有機EL液に照射される光の波長は780nm以上には限定されず、例えば、波長が380nm以上780nm以下の可視光が基板9に照射されてもよい。有機EL液に含まれる有機EL材料(特に、分子量が10000以上のいわゆる高分子有機EL材料)は、紫外光(すなわち、波長380nm未満の光)の照射により変質してしまうものが多いため、光照射部19から基板9に照射される光の波長が380nm以上とされることにより、有機EL材料の変質を防止することができる。なお、後述するように、有機EL材料以外の塗布材料を含む流動性材料が基板に塗布される場合等、流動性材料に対する紫外光の影響を考慮する必要がない場合には、光照射部から基板上の流動性材料に照射される光の波長が380nm未満とされてもよい。
【0081】
塗布装置では、例えば、塗布ヘッド14に3本のノズル17が設けられ、これらのノズル17から赤色(R)、緑色(G)、青色(B)と互いに色が異なる3種類の有機EL材料をそれぞれ含む3種類の有機EL液が同時に吐出されて基板9に塗布されてもよい。また、塗布ヘッド14では、流動性材料を吐出するノズル17は2本以上とされるのであれば、他の本数とされてもよい。
【0082】
さらには、これらのノズル17から吐出される有機EL液は、隔壁が設けられていない塗布領域91にストライプ状に塗布されてもよい。この場合、主走査方向に伸びる複数の線状領域が、最終製品である表示装置の画素の間隔に従って副走査方向に一定の領域ピッチにて仮想的に基板9の上面90上に配列設定されていると捉えた上で、塗布装置による流動性材料の塗布が行われる。
【0083】
塗布装置では、正孔輸送材料を塗布材料として含む流動性材料が基板9に塗布されてもよい。ここで、「正孔輸送材料」とは、有機EL表示装置の正孔輸送層を形成する材料であり、「正孔輸送層」とは、有機EL材料により形成された有機EL層へと正孔を輸送する狭義の正孔輸送層のみを意味するのではなく、正孔の注入を行う正孔注入層も含む。
【0084】
また、塗布装置では、基板移動機構12による基板9および基板保持部11の移動に代えて、塗布ヘッド14が副走査方向に移動することにより、副走査方向における基板9の塗布ヘッド14に対する相対移動が行われてもよい。この場合、第1の実施の形態に係る塗布装置1では、光照射部19が塗布ヘッド14と共に副走査方向に移動する。また、ヘッド移動機構15による塗布ヘッド14の移動に代えて、基板9および基板保持部11が主走査方向に移動することにより、主走査方向における塗布ヘッド14の基板9に対する相対移動が行われてもよい。
【0085】
塗布装置は、1枚の基板から複数の有機EL表示装置を製造する(いわゆる、多面取りを行う)場合にも利用できる。また、塗布装置は、必ずしも有機EL表示装置用の有機EL材料または正孔輸送材料を含む流動性材料の塗布のみに利用されるわけではなく、例えば、液晶表示装置やプラズマ表示装置等の他の平面表示装置用の基板に対し、着色材料や蛍光材料等の他の種類の画素形成材料を含む流動性材料を塗布する場合に利用されてもよい。さらには、塗布装置は、平面表示装置用の基板以外に、半導体基板等の様々な基板に対する様々な種類の流動性材料の塗布に利用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】第1の実施の形態に係る塗布装置を示す平面図である。
【図2】塗布装置を示す正面図である。
【図3】基板の断面を示す図である。
【図4】有機EL液の塗布の流れを示す図である。
【図5.A】有機EL液の塗布途上の基板を示す平面図である。
【図5.B】有機EL液の塗布途上の基板を示す平面図である。
【図6】基板の断面を示す図である。
【図7】比較例の塗布装置により有機EL液が塗布された基板の断面を示す図である。
【図8】有機EL液の塗布途上の基板を示す平面図である。
【図9】第2の実施の形態に係る塗布装置を示す平面図である。
【図10】塗布装置を示す正面図である。
【図11】有機EL液の塗布の流れの一部を示す図である。
【図12.A】有機EL液の塗布途上の基板を示す平面図である。
【図12.B】有機EL液の塗布途上の基板を示す平面図である。
【符号の説明】
【0087】
1,1a 塗布装置
9 基板
11 基板保持部
12 基板移動機構
14 塗布ヘッド
15 ヘッド移動機構
19,19a 光照射部
90 上面
94 ライン
171 吐出口
191,191a 照射領域
S11〜S17,S21〜S23 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、
基板を保持する基板保持部と、
前記基板の主面に平行な副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から前記基板の前記主面に向けて流動性材料を連続的に吐出する吐出機構と、
前記吐出機構を前記副走査方向に垂直かつ前記主面に平行な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動するとともに、前記主走査方向への移動が行われる毎に前記基板を前記吐出機構に対して前記副走査方向に相対的に移動する移動機構と、
前記吐出機構に対して前記副走査方向における相対位置が固定され、前記複数の吐出口から吐出された前記流動性材料が流動性を有する間に前記流動性材料に光を照射して前記流動性材料の乾燥を促進する光照射部と、
を備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布装置であって、
前記光照射部からの光の前記基板上における照射領域が、前記複数の吐出口よりも前記基板の前記副走査方向への相対移動方向前側において、または、前記副走査方向において前記複数の吐出口と重なる位置にて、前記基板の前記主走査方向の幅全体に亘ることを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
請求項2に記載の塗布装置であって、
前記吐出機構が前記主走査方向に1回移動することにより前記基板上に形成される前記流動性材料の複数のラインの全体が、前記基板の前記副走査方向への1回の相対移動が行われることにより前記照射領域に含まれることを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
請求項1に記載の塗布装置であって、
前記光照射部が、前記吐出機構に固定されることを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
請求項4に記載の塗布装置であって、
前記光照射部が、前記吐出機構の前記主走査方向における両側から前記基板に光を照射することを特徴とする塗布装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記光照射部からの光の波長が、380nm以上であることを特徴とする塗布装置。
【請求項7】
請求項6に記載の塗布装置であって、
前記光照射部からの光の波長が、780nm以上であることを特徴とする塗布装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記流動性材料が、有機EL表示装置用の有機EL材料または正孔輸送材料を含むことを特徴とする塗布装置。
【請求項9】
基板に流動性材料を塗布する塗布方法であって、
a)基板の主面に平行な副走査方向に関して等間隔にて配列された複数の吐出口から前記基板の前記主面に向けて流動性材料を連続的に吐出しつつ、前記複数の吐出口を前記副走査方向に垂直な主走査方向に前記基板に対して相対的に移動する工程と、
b)前記基板を前記副走査方向に前記複数の吐出口に対して相対的に移動する工程と、
c)前記a)工程および前記b)工程を繰り返す工程と、
d)前記a)工程ないし前記c)工程と並行して、前記複数の吐出口から吐出された前記流動性材料が流動性を有する間に前記流動性材料に光を照射して前記流動性材料の乾燥を促進する工程と、
を備えることを特徴とする塗布方法。
【請求項10】
請求項9に記載の塗布方法であって、
前記d)工程において、前記基板上における前記光の照射領域が、前記複数の吐出口よりも前記基板の前記副走査方向への相対移動方向前側において、または、前記副走査方向において前記複数の吐出口と重なる位置にて、前記基板の前記主走査方向の幅全体に亘ることを特徴とする塗布方法。
【請求項11】
請求項10に記載の塗布方法であって、
前記d)工程において、前記複数の吐出口が前記主走査方向に1回移動することにより前記基板上に形成される前記流動性材料の複数のラインの全体が、前記基板の前記副走査方向への1回の相対移動が行われることにより前記照射領域に含まれることを特徴とする塗布方法。
【請求項12】
請求項9に記載の塗布方法であって、
前記d)工程において、前記基板上における前記光の照射領域が、前記複数の吐出口に対して相対的に固定されていることを特徴とする塗布方法。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれかに記載の塗布方法であって、
前記光の波長が、380nm以上であることを特徴とする塗布方法。
【請求項14】
請求項13に記載の塗布方法であって、
前記光の波長が、780nm以上であることを特徴とする塗布方法。
【請求項15】
請求項9ないし14のいずれかに記載の塗布方法であって、
前記流動性材料が、有機EL表示装置用の有機EL材料または正孔輸送材料を含むことを特徴とする塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5.A】
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【図5.B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12.A】
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【図12.B】
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【公開番号】特開2009−123585(P2009−123585A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297808(P2007−297808)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】