説明

塩化ビニル系中空粒子の製造方法、塩化ビニル系中空粒子、塩化ビニル系樹脂組成物及び塩化ビニル系成形体

【課題】塩化ビニル自体の優れた特性を確保しながら、塩化ビニル系の成形体として軽量化を図ることができるとともに、二次加工性をも確保することができる塩化ビニル系中空粒子、その製造方法、該中空粒子を含有する塩化ビニル系樹脂組成物及び該塩化ビニル系樹脂組成物を用いて得られた塩化ビニルプレートを提供することを目的とする。
【解決手段】(1)主成分としての塩化ビニルと多官能性モノマーとを含むモノマー成分、重合開始剤、分散剤を極性溶媒に混合して懸濁液を調製し、(2)該懸濁液を加熱してモノマー成分を重合し、該モノマー成分の重合率が75%以下の時点で未反応塩化ビニルを除去して、樹脂粒子を形成し、(3)該樹脂粒子を脱水及び乾燥する工程を含む塩化ビニル系中空粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系中空粒子の製造方法、塩化ビニル系中空粒子、塩化ビニル系樹脂組成物及び塩化ビニル系成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂(以下、「PVC」と記載することがある)は、優れた物理化学的性質を有し、かつ、他の樹脂に比べて安価なことから成形品の広い分野で利用されている。しかし、PVCは、比重が1.4と大きいため、他の樹脂、例えば、発泡ポリウレタン(d=0.5〜0.7)と比較すると重いという欠点がある。
そのため、塩化ビニル樹脂成形品の軽量化に対する種々の試みがなされている。
例えば、塩化ビニルプレートのような成形体では、軽量化の目的で化学的に発泡させるなどの試みがなされている(例えば、引用文献1参照)。また、塩化ビニルを高空隙にするために、塩化ビニルモノマーを重合途中で除去する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、中空樹脂微粒子の空隙率と強度とを確保するために、非重合性の有機溶媒を用いる方法が提案されている(例えば、引用文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許公開平11−60868号公報
【特許文献2】特許公開平11−228606号公報
【特許文献3】特許公開2005−54084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、発泡剤をPVCに配合した成形体では、発泡倍率に制限があり、わずかの条件の違いにより、所望の発泡倍率が得られないことがある。また、独立気泡の他に、相当の割合で連続気泡が含まれる。さらに、成形品の部位により、気泡が不均一に分布することもあった。
従って、加熱後の真空成形のような二次加工成形体では、ゲル化したり、そのセルが潰れたり、気泡が変形するなどにより、比重の低減効果がなくなることがあった。
また、非重合性の有機溶媒を用いる場合には、製造コストが増大するという課題もある。
このような状況下、さらに難燃性を向上させるために、塩化ビニルと同一、塩化ビニルに起因する構成単位をその一部に含むなど、塩化ビニルに類似する素材の中空粒子が求められている。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、塩化ビニル自体の優れた特性を確保しながら、塩化ビニル系の成形体として軽量化を図る、つまり空隙率を確保することができるとともに、二次加工性をも確保して強度の向上を図ることができる塩化ビニル系中空粒子の製造方法、塩化ビニル系中空粒子、該中空粒子を含有する塩化ビニル系樹脂組成物及び該塩化ビニル系樹脂組成物を用いて得られた塩化ビニル系成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の塩化ビニル系中空粒子の製造方法は、
(1)主成分としての塩化ビニルと多官能性モノマーとを含むモノマー成分、重合開始剤及び分散剤を極性媒体に混合して懸濁液を調製し、
(2)該懸濁液を加熱してモノマー成分を重合し、該モノマー成分の重合率が75%以下の時点で未反応塩化ビニルを除去して、樹脂粒子を形成し、
(3)該樹脂粒子を脱水及び乾燥する工程を含むことを特徴とする。
【0007】
このような塩化ビニル系中空粒子の製造方法では、
塩化ビニルが全モノマー成分の70重量%以上であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の塩化ビニル系中空粒子は、主成分としての塩化ビニルと多官能性モノマーとを含むモノマー成分と、重合開始剤と、分散剤とを含む系での懸濁重合によって得られ、空隙率が25%以上、75%未満であることを特徴とする。
このような塩化ビニル系中空粒子では、塩化ビニルが、全モノマー成分の70重量%以上であることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、
少なくとも上述した塩化ビニル系中空粒子と、塩化ビニル系樹脂とを含む塩化ビニル系樹脂組成物であって、
前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、前記中空粒子が3〜50重量部含有されてなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の塩化ビニル系成形体は、上記塩化ビニル系樹脂組成物によって成形されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塩化ビニル自体の優れた特性を確保しながら、空隙率を確保して、塩化ビニル系の成形体として軽量化を図ることができるとともに、強度を向上させて、二次加工性を良好とすることができる塩化ビニル系中空粒子の製造方法、塩化ビニル系中空粒子、該中空粒子を含有する塩化ビニル系樹脂組成物を得ることができる。
【0012】
また、この塩化ビニル樹脂組成物を用いて得られた塩化ビニル系成形体は、塩化ビニル系樹脂が本来有する耐衝撃性、耐熱性等の物理的性質及び耐溶剤性、耐酸性等の化学的性質に優れた物理化学的性質を備えるとともに、従来の塩化ビニル系成形体に比較して軽量化を図ることができ、種々の用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<塩化ビニル系中空粒子の製造方法>
本発明の塩化ビニル系中空粒子の製造方法では、まず、(1)主成分としての塩化ビニル(以下、「塩ビ」と記載する場合がある)と多官能性モノマーとを含むモノマー成分、重合開始剤及び分散剤を極性溶媒に混合して懸濁液を調製する。
【0014】
<モノマー成分>
モノマー成分としては、塩化ビニルと、多官能性モノマーと、任意にその他のモノマー等とからなる混合モノマーを用いることが好ましい。
【0015】
塩化ビニルは、モノマー成分において、主成分として含有されていることが適している。主成分とは、全モノマー成分中に占める重量割合が最も多いことを意味する。その量は、50重量%以上であることが適しており、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上、さらには75重量%以上であることがより好ましい。
【0016】
多官能性モノマーは、塩化ビニル系中空粒子の耐圧縮強度を改善する等の目的で添加するものであり、その種類は、特に限定されない。
例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;
ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、トリアリルイソシアヌレート等のジ又はトリアリル化合物;
ジビニルベンゼン、ブタジエン等のジビニル化合物等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
混合モノマーにおける多官能性モノマーの配合量は、特に限定されないが、0.1重量%以上であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、50重量%以下であることが適しており、30重量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、塩化ビニルの特性を確保しながら、得られる塩化ビニル系中空粒子の耐圧縮強度を十分に確保することができる。
【0018】
その他のモノマーとしては、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーが挙げられる。例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート、フェニルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニルビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド類、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0019】
<重合開始剤>
重合開始剤は、上記モノマー成分に可溶である油溶性のフリーラジカルを発生する化合物であれば、特に限定されない。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジブチルパーオキシジカーボネート、α−クミルパーオキシネオデカノエート等の有機系過酸化物等が挙げられる。なかでも、2種以上を組み合わせて用いることが適している。
重合開始剤の添加量は特に限定されないが、モノマー成分100重量部に対して0.01〜3重量部が好ましい。より好まくは、0.1〜0.5重量部である。
【0020】
<分散剤>
分散剤は、塩化ビニル系中空粒子の製造において、媒体中に、モノマー成分からなる液滴を懸濁/分散させ、その分散を安定化する役割を有するものである。
【0021】
分散剤としては、特に限定されず、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、蓚酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。特に、コロイド状の無機系分散剤(例えば、コライダルシリカ、リン酸カルシウム等)が好ましい。
また、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル等を使用してもよい。
さらに、例えば、中空粒子の製造において用いられる、後述する極性媒体中に溶解することができるもの、以下の1以上の親水基等(水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、アミド基等)の置換基を備えるもの等が挙げられる。
水酸基を有するものとして、カルボキシメチルセルロース等、カルボキシル基を有するものとして、ポリ(メタ)アクリル酸等、アミノ基を有するものとして、ゼラチン等、スルホン酸基を有するものとして、ポリスチレンスルホン酸等が挙げられる。
アミド基を有するものとして、ポリアクリルアミド類、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0022】
好ましい分散剤としては、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせが挙げられる。
【0023】
水溶性窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン;ポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキルアクリレート又はポリジアルキルアミノアルキルメタクリレート;ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキルアクリルアミド又はポリジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド;ポリアクリルアミド;ポリカチオン性アクリルアミド;ポリアミンサルフォン;ポリアリルアミンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、コロイダルシリカとポリビニルピロリドンとの組み合わせが適している。コロイダルシリカとポリビニルピロリドンとの添加量によって、得られる中空粒子の粒子径を調整することができる。
特に、コロイダルシリカを使用する場合は、pHを適宜調整することが望ましい。コロイダルシリカは酸性環境である方が好ましい。
【0024】
さらに他の好ましい分散剤としては、水酸化マグネシウムおよび/またはリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせが挙げられる。
ここでの乳化剤としては、例えば、不飽和ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0025】
分散剤の添加量は特に限定されないが、モノマー成分100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましい。より好まくは、1〜20重量部、さらに好ましくは、3〜10重量部が挙げられる。
特に、コロイダルシリカを用いる場合には、その粒子径によって調整されるが、モノマー成分100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは2〜10重量部が挙げられる。無機塩を用いる場合には、モノマー成分100重量部に対して、0重量部〜100重量部が挙げられる。ポリビニリピロリドンを用いる場合には、0.05〜2重量部、好ましくは0.1〜2重量部、より好ましくは0.1〜1重量部が挙げられる。
【0026】
<極性媒体>
モノマー成分を懸濁重合するために、極性媒体を用いることが好ましい。
極性媒体としては、上述したモノマー成分等を含有する溶液と非相溶であれば特に限定されない。例えば、水(脱イオン水等)、メタノール、エタノール、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、取り扱いが容易なことから水が好適である。
【0027】
極性媒体には、分散剤、補助安定剤、pH調整剤、水溶性重合禁止剤、老化防止剤、酸化防止剤、防腐剤等、通常懸濁重合法において用いられる種々の添加剤(例えば、架橋剤等)を含有することができる。これらの添加剤は、当該分野で通常用いられるものを利用することができる。なお、これらの添加剤では、高級脂肪酸(例えば、イソステアリン酸、ステアリン酸、n−ヘプタデカン酸、パルミチン酸、n−ペンタデカン酸、ミリスチン酸、アラギン酸、ノナデカン酸、n−トリデカン酸、ラウリン酸、ウンデシル酸等)、増粘剤等を用いないことが適している。
【0028】
具体的には、極性媒体は分散剤を含有し、pHが調節されることが好ましい。
分散安定剤としてコロイダルシリカなどのシリカを使用する場合には、酸性環境で重合が行われることになるため、塩酸等の酸を必要に応じて加えて、系のpHを3〜4に調整することが適している。
また、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウム等を使用する場合には、アルカリ性環境で重合が行われることになるため、系のpHをアルカリ側に調整することが適している。
【0029】
懸濁液を調製する場合、具体的には、圧力容器(釜)に、極性溶媒(例えば、水)、分散剤、多官能性モノマーを入れた後に、減圧し、減圧の中で、VCMモノマー(液化ガスモノマー)を添加し、撹拌/混合する。モノマー成分等と極性溶媒との混合/攪拌には、ホモミキサー、バイオミキサー、ホモジナイザー等の機械的攪拌機を用いてもよいし、超音波ホモジナイザー等を用いてもよい。得られる中空粒子の粒子径は懸濁液中の油滴径に依存するため、分散安定剤の種類、量又は撹拌の方法、強度等により適宜制御することができる。
【0030】
次いで、(2)懸濁液を加熱してモノマー成分を重合し、重合の途中の時点で未反応塩化ビニルを除去して、樹脂粒子を形成する。
重合するために、まず、得られた懸濁液を加熱する。
加熱温度は、用いるモノマー成分の組成、分子量、重合開始剤の種類及び量等によって適宜調整することができ、例えば、30〜100℃程度が挙げられ、30〜70℃程度が好ましい。
【0031】
重合の途中の時点としては、例えば、モノマー成分の重合率が75%以下のいずれかの時点、つまり、モノマー成分の重合率が10〜70%±5%程度となった時点とすることが適しており、40〜70%±5%程度となった時点とすることが好ましく、50〜65%±5%程度となった時点とすることがより好ましい。具体的には、モノマー成分の重合率が40%付近(例えば、40±5%)となった時点、50%付近(50±5%)となった時点、60%付近となった時点、70%付近となった時点などが挙げられる。本発明においては、重合率を上げると空隙率が下がるというように、重合率が空隙に比例するため、この範囲とすることにより、中空粒子の空隙率を適切に制御することができ、軽量化等の中空粒子の特性を最大限に発揮させることができる。また、収率が良好となり、生産性を向上させることができる。
【0032】
なお、重合中、触媒量、圧力降下(塩ビモノマーガスがポリマーになると圧力が下がってくる)より逆算して、重合をストップする時期を判断することができる。
【0033】
このような重合の途中の時点で未反応塩化ビニルを除去する方法としては、塩化ビニルモノマーはガス状で存在するために、排ガスする方法又は不活性ガス等の非反応性ガスで塩化ビニルモノマーを置換する方法等が例示される。なかでも、前者が好ましい。
【0034】
この重合途中での未反応塩化ビニルの除去のタイミングを調整することにより、形成された塩化ビニルの重合体からガスが適切に抜け出て、その内部に中空を効率的に形成することができる。
【0035】
さらに、(3)樹脂粒子を脱水及び乾燥する。
そのために、例えば、加熱等する方法が挙げられる。具体的には、得られた樹脂粒子からなるスラリーを、例えば、セントル脱水する、樹脂粒子を蒸気、熱風等により加熱する及び/又は減圧条件下に載置する等の方法が挙げられる。これにより、中空樹脂粒子を得ることができる。
脱水又は乾燥は、例えば、60℃〜160℃程度の温度範囲で行うことが適しており、好ましくは、80℃〜100℃程度である。脱水又は乾燥の時間は、特に限定されず、その方法によって適宜調整することができる。
なお、一般に、塩化ビニル系樹脂の重合方法として、塊状重合方法、溶液重合方法、乳化重合方法、懸濁重合方法等が知られていることから、上述した懸濁重合法を利用するのみならず、その他の方法に準じて塩化ビニル系中空粒子を製造することもできる。
【0036】
<塩化ビニル系中空粒子>
本発明の塩化ビニル系中空粒子(以下、単に「中空粒子」と記載することがある)は、実質的に、主成分としての塩化ビニルと、多官能性モノマーと任意に他のモノマーとの反応によって得られたポリマーによって構成される。この塩化ビニル系中空粒子は、その製造過程において重合開始剤、分散剤、極性溶媒、その他の添加剤等が用いられることから、残留物等として、これらの成分が残留していてもよい。
【0037】
この中空粒子は、例えば、平均粒子径が3〜100μm程度のものが適しており、好ましくは10〜80μm程度である。この範囲とすることにより、ハンドリング性が良好となる。また、この塩化ビニル系中空粒子を用いて成形品を製造した場合に、得られる成形体の物性を良好にすることができる。
中空粒子は、空隙率が20%程度以上、25%程度以上であることが適している。上限は、75%程度以下、70%程度以下が適しており、さらに40%程度以下(又は未満)、38%程度以下、37%程度以下であることが好ましい。この空隙率とすることにより、十分な軽量化とともに強度をも確保することができる。
空隙率は、塩化ビニル系中空粒子の全体積中に占める中空部の体積を百分率(%)で表示したものであり、例えば、アムコ社製ポロシメーター2000を用いて封入水銀圧力2000kg/cm2の条件等にて測定することができる。
【0038】
<塩化ビニル系樹脂組成物>
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、少なくとも塩化ビニル系樹脂と上述した塩化ビニル系中空粒子とを含有する。ここでの塩化ビニル系中空粒子は、懸濁重合法のみならず、他の重合法によって形成されたものでもよい。
【0039】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体(塩化ビニルホモポリマー)、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーと塩化ビニルモノマー(好ましくは、50重量%以上含む)との共重合体、重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体等の塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。これら重合体は単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0040】
塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとしては、上述した多官能性モノマー及びその他のモノマーと同様のものが挙げられる。
【0041】
塩化ビニルをグラフト共重合する重合体としては、塩化ビニルをグラフト重合させるものであれば特に限定されず、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート−一酸化炭素共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0042】
塩化ビニル系樹脂の重合方法は、特に限定されず、従来公知の任意の重合方法を利用することができる。例えば、塊状重合方法、溶液重合方法、乳化重合方法、懸濁重合方法等が挙げられる。
【0043】
塩化ビニル系樹脂の重合度は、小さくなると機械的物性が低下する傾向があり、大きくなると成形性が悪化する傾向があるため、400〜2500程度が好ましく、より好ましくは600〜2000程度、600〜1600程度である。
重合度を調整する方法としては、主に重合温度等が例示される。一般に重合温度が高いほど重合度は低くなる。重合度は、JIS K 6720−2に準拠して測定することができる。
【0044】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物では、上述した塩化ビニル系樹脂(以下、「PVC」と記載することがある)100重量部に対して、上述した塩化ビニル系中空粒子を3〜50重量部配合することが適している。この範囲とすることにより、樹脂組成物の軽量化を十分に図ることができるとともに、これを用いて作成した成形品の外観の損傷等を防止することができる。但し、成形品の外観が重要視されないものであれば、50重量部を超えて使用されていてもよい。
【0045】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、さらに衝撃改質剤と、重量平均分子量が100万〜600万のアクリル系加工助剤とが添加されていることが好ましい。
これらの使用量は、例えば、上述した塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、衝撃改質剤1〜30重量部及び重量平均分子量が100万〜600万のアクリル系加工助剤1〜30重量部であることが適している。
【0046】
この塩化ビニル系樹脂組成物は、特に、成形品を作成する際に、さらに、PVCに通常配合される安定剤、充填剤、滑剤、紫外線吸収剤、顔料等を、本発明の目的を阻害しない範囲で配合してもよい。
【0047】
塩化ビニル系樹脂組成物は、上述した塩化ビニル系樹脂、衝撃改質剤、重量平均分子量が100万〜600万のアクリル系加工助剤、任意に安定剤、充填剤、滑剤、紫外線吸収剤、顔料等を、例えば、リボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー(商標)等の公知の混合装置に投入し、混合する。
混合装置を用いて、塩化ビニル系樹脂組成物を混合する際には、加熱することがあるが、塩化ビニル系中空粒子は、上述した成分を添加して加熱/混合した場合の昇温終了後に又は冷却時、80℃程度以下となった時点で添加して攪拌することが好ましい。加熱による空隙の変形又は損傷を防止するためである。
また、さらに公知の造粒装置を用いて混練造粒してもよい。造粒装置としては、単軸又は二軸押出機等が挙げられる。ロール加工シートからペレット化してもよい。
造粒装置を用いて、塩化ビニル系樹脂組成物を造粒する際には、加熱することがあるが、塩化ビニル系中空粒子は、170℃以下の樹脂温度にて添加、造粒することが好ましい。
【0048】
<成形品の製造>
本発明の成形体は、特に限定されるものではなく、例えば、板状又は波形等のプレート、パイプ、パイプ継手、シート、フィルム等種々の用途及び形状を有することができる。
このような成形体は、通常のPVCの成形によって製造することができる。例えば、単軸型、2軸型等の押出成形機、スクリュー等を用いて、任意の形状に成形することができる。
このように、本発明の塩化ビニル系中空粒子を含む塩化ビニル系樹脂組成物によって成形体を形成することにより、比重値が極めて低く、これまでには無い軽量化された塩化ビニル成形体を得ることができる。また、塩化ビニル本来の特性及び軽量化を維持したまま、最大限の難燃性を期待することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の塩化ビニル系中空粒子、その製造方法、塩化ビニル系樹脂組成物及び成形品について、実施例によって、詳細に説明する。
【0050】
実施例A:塩化ビニル系中空粒子(A1)の製造
攪拌機の備えられたジャケット付25リットルの耐圧重合器に、表1に示すように、イオン交換水7.89kg、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート1.1kg、油溶性ラジカル開始剤としてジsecブチルパーオキシジカーボネート3.7g及びα−クミルパーオキシネオデカノエート5.5g、分散剤として濃度20%のコロイダルシリカ1712g、濃度30%ポリビニルピロリドン30.1g、食塩2790g、塩酸10.9gとを混合した溶液を調製した。得られたモノマー溶液を、溶解した水中に加え、攪拌分散装置を用いて10分間攪拌して、懸濁液を得た。
【0051】
重合器を密閉して空気を排除した後、塩化ビニルモノマー2.6kgを圧入し、次いで、10分間攪拌後、撹拌しながら、54℃(重合度1300)まで昇温し、重合器内の温度が54℃(重合度1300)に保持しながら水懸濁重合を行った。重合開始1.5時間後(重合率60%となるように設定)経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した。その後、重合スラリーを取り出し脱水装置により脱水した。しかる後、真空乾燥し塩ビモノマーを除くと同時に、多孔性の中空樹脂粒子を得た。得られた収量は、2.8kgとなり、収率は73%となった。
【0052】
実施例B:塩化ビニル系中空粒子(A2)の製造
油溶性ラジカル開始剤のα−クミルパーオキシネオデカノエート4.4g、塩化ビニルモノマー4.1kg、重合開始2時間後(重合率70%となるように設定)経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した事以外は(A1)と同様に行った。得られた収量は、3.8kgとなり、収率は73%となった。
【0053】
実施例C:塩化ビニル系中空粒子(A3)の製造
イオン交換水8.78kg、分散剤としては、濃度10%のポリビニルアルコール558gのみを用い混合、溶液を調製、重合開始1.0時間後(重合率35%となるように設定)経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した事以外は(A1)と同様に行った。得られた収量は、1.3kgとなり、収率は35.5%となった。
【0054】
実施例D:塩化ビニル系中空粒子(A4)の製造
イオン交換水8.78kg、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート0.56kg、分散剤として濃度10%のポリビニルアルコール558gのみを用い、塩化ビニルモノマー3.16kg、重合開始1.0時間後(重合率20%となるように設定)経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した事以外は(A1)と同様に行った。得られた収量は、0.9kgとなり、収率は23.9%となった。
【0055】
実施例E:塩化ビニル系中空粒子(A5)の製造
イオン交換水8.78kg、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート0.56kg、分散剤として濃度10%のポリビニルアルコール558gのみを用い、塩化ビニルモノマー3.16kg、重合開始3.0時間後(重合率65%となるように設定)経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した事以外は(A1)と同様に行った。得られた収量は、2.4kgとなり、収率は65.0%となった。
【0056】
実施例F:塩化ビニル系中空粒子(A6)の製造
イオン交換水8.78kg、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート0.19kg、分散剤として濃度10%のポリビニルアルコール558gのみを用い、塩化ビニルモノマー3.16kg、重合開始1.0時間後(重合率10%となるように設定)経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した事以外は(A1)と同様に行った。得られた収量は、0.4kgとなり、収率は10.0%となった。
【0057】
実施例G:塩化ビニル系中空粒子(A7)の製造
イオン交換水8.78kg、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート0.19kg、分散剤として濃度10%のポリビニルアルコール558gのみを用い、塩化ビニルモノマー3.16kg、重合開始3.0時間後(重合率65%となるように設定)経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した事以外は(A1)と同様に行った。得られた収量は、1.9kgとなり、収率は51.1%となった。
【0058】
比較例:塩化ビニル(B1)の製造
攪拌機の備えられたジャケット付25リットルの耐圧重合器に、表1に示すように、イオン交換水8.56kg、油溶性ラジカル開始剤としてジsecブチルパーオキシジカーボネート1.9g及びα−クミルパーオキシネオデカノエート2.9g、分散剤として濃度3%のポリビニルアルコール126gとを混合した溶液を調製した。得られたモノマー溶液を、溶解した水中に加え、攪拌分散装置を用いて10分間攪拌して、懸濁液を得た。重合器を密閉して空気を排除した後、塩化ビニルモノマー4.21kgを圧入し、次いで、10分間攪拌後、撹拌しながら、57.5℃(重合度1000)まで昇温し、重合器内の温度が57.5℃(重合度1000)に保持しながら水懸濁重合を行った。重合開始5時間後(重合率85%以上)経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した。その後、重合スラリーを取り出し脱水装置により脱水し、塩ビ樹脂粒子を得た。得られた収量は、3.45kgとなり、収率は82%となった。
【0059】
【表1】

【0060】
(重合率の測定)
上記実施例A〜G及び比較例での重合率は、予め重合を行い、重合時間と重合率との関係を求めた結果を基準として表した。
つまり、内容積2m3のステンレス製重合器内に、所定量の脱イオン水、所定の種類及び量の分散剤、所定の種類及び量の油溶性ラジカル開始剤、所定量の多官能モノマーを仕込んだ後、重合器の内圧が8kPa・abs(60mmHg)となるまで脱気し、所定量の塩化ビニル単量体を仕込んだ。その後、攪拌しながら所定の種類及び量の重合開始剤を仕込み、同時に昇温を開始し、重合器内温度が57.0℃に達した段階で、その温度を保ち重合を続けた。昇温開始1時間後に冷却を開始し、重合を完全に停止させ、未反応単量体を回収した。重合体スラリーを脱水、乾燥して得られた塩化ビニル重合体の全量を秤量し、下記式により昇温開始1時間後における重合率を求めた。
昇温開始1時間後における重合率(%)=(乾燥後塩化ビニル系重合体量/仕込み多官能モノマー及び塩化ビニル単量体量)×100
同様にして、昇温開始の後、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5及び5時間後の30分毎の各々の重合率を算出して、重合時間と重合率の関係を求めた。この重合時間と重合率の関係は、所要の重合開始剤の種類及び添加量並びに所定の重合温度について毎々作成した。
【0061】
(空隙率の測定)
得られた塩化ビニル系中空粒子について、中空粒子の全体積中に占める中空部体積を測定した。測定は、アムコ社製ポロシメーター2000を用いて封入水銀圧力2000kg/cm2の条件で行った。その結果を百分率(%)で表2に示す。
【0062】
【表2】

表2中の塩化ビニルの割合は、全モノマー成分(塩化ビニル+多官能性モノマー)との合計重量)に対する重量%である。
【0063】
実施例及び比較例:塩化ビニル系樹脂組成物の調製
塩化ビニル樹脂(商品名「TS800E」、徳山積水工業社製)100重量部に対して、熱安定剤として有機錫系安定剤(オクチル錫メルカプト、商品名「TVS #1380」、日東化成工業社製)2.0重量部、滑剤として商品名「Wax−OP」(ヘキスト社製)2.0重量部をスーパーミキサー(100L、カワタ社製)に、表2に示す実施例A及びBで得られた所定の塩化ビニル系中空粒子を攪拌混合して塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を、8インチロール成形機にて、190℃×3分間混練し、厚さ1.5mmのシートとし、塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形体を得た。
【0064】
(比重の測定)
成形した試料片から40×50mmの試験片を切り取り、JISK 7112に従って
、比重を測定した。この結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

表3の結果から、本発明によれば、高い空隙率と強度とを両立した中空塩ビ粒子とその成形体を得ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の塩化ビニル系中空粒子、その製造方法、塩化ビニル系樹脂組成物及び塩化ビニル系成形体は、従来用いられていた塩化ビニル樹脂組成物及び成形体の全てにおいて代替として、さらには、より軽量化、機能化が要求される新たな分野への用途、例えば、建材、乗り物の内装等への応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)主成分としての塩化ビニルと多官能性モノマーとを含むモノマー成分、重合開始剤及び分散剤を極性媒体に混合して懸濁液を調製し、
(2)該懸濁液を加熱してモノマー成分を重合し、該モノマー成分の重合率が75%以下の時点で未反応塩化ビニルを除去して、樹脂粒子を形成し、
(3)該樹脂粒子を脱水及び乾燥する工程を含む塩化ビニル系中空粒子の製造方法。
【請求項2】
塩化ビニルが全モノマー成分の70重量%以上である請求項1に記載の塩化ビニル系中空粒子の製造方法。
【請求項3】
主成分としての塩化ビニルと多官能性モノマーとを含むモノマー成分と、重合開始剤と、分散剤とを含む系での懸濁重合によって得られ、
空隙率が25%以上、75%未満であることを特徴とする塩化ビニル系中空粒子。
【請求項4】
塩化ビニルが、全モノマー成分の70重量%以上である請求項3に記載の塩化ビニル系中空粒子。
【請求項5】
少なくとも請求項3又は4に記載の塩化ビニル系中空粒子と、塩化ビニル系樹脂とを含む塩化ビニル系樹脂組成物であって、
前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、前記中空粒子が3〜50重量部含有されてなることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の塩化ビニル系樹脂組成物によって成形されてなることを特徴とする塩化ビニル系成形体。

【公開番号】特開2011−144342(P2011−144342A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47313(P2010−47313)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】