説明

増強認知訓練

本発明は、精神遅滞に関連した認知障害を治療する方法を提供する。本方法は、認知訓練プロトコルとホスホジエステラーゼ4阻害剤の一般的な投与との組み合わせを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願
本出願は、2003年4月8日に出願された米国出願番号10/410,508の一部継続出願であり、これは2001年8月10日に出願された米国出願番号09/927,914の一部継続出願であり、これは2000年8月10日に出願された米国仮出願番号60/224,227の恩恵を主張している。これらの出願の全教示を参考として明細書中に援用する。
【0002】
発明の背景
推定4〜5百万人のアメリカ人(全年齢の約2%および65歳より老いた人の15%)が、ある型または程度の認知不全を有する。認知不全(知識を習得し、保持し、使用する過程である認知機能の不全または喪失)は、一般に中枢神経系(CNS)の障害または状態と関連して生じ、それは年齢関連記憶欠陥、譫妄(時々急性錯乱状態と呼ばれる)、痴呆(時々アルツハイマー型または非アルツハイマー型に分類される)、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病(舞踏病)、精神遅滞、脳血管の疾患(例えば、脳卒中、虚血)、情動障害(例えば、鬱病)、精神病性障害(例えば、精神分裂病、自閉症(カンナー症候群))、神経症性疾患(例えば、不安症、強迫性障害)、注意欠陥障害(ADD)、硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、頭部または脳の損傷を含む。
【0003】
認知機能障害は典型的には一つ以上の認知障害で示され、それは記憶障害(新しい情報を学習することができないか、または以前に学習した情報を想起できない)、失語症(言語/発語障害)、失行症(完全な運動機能にも関わらず運動活動を実行することができない)、認知不能症(完全な感覚機能にも関わらず対象を認知または同定できない)、実行機能における障害(すなわち、計画、整理、順序付け、抽象)を含む。
【0004】
認知機能障害は、社会的および/または職業的な機能の重大な障害を引き起こし、それは日常生活の活動を行う各個人の能力を妨げ、または個人の自律および生活の質に大きな影響を与え得る。
【0005】
認知訓練プロトコルが、ある型または程度の認知機能障害を有する個人の機能回復訓練において、一般的に使用される。例えば、認知訓練プロトコルは、脳卒中の機能回復訓練および年齢関連記憶欠損の機能回復訓練において、一般的に使用される。特定な面の認知能力(能力または機能)の向上または増強が個人において獲得される前に、多くの訓練セッションをしばしば必要とするので、認知訓練プロトコルは、しばしば非常に費用、および時間がかかる。
【0006】
発明の要旨
本発明は、新規の方法論(本明細書では増強認知訓練(ACT)とも呼ぶ)に関する。それは、(1)いかなる現在の方法よりも効率的に様々な型の認知機能障害を機能回復訓練するか、または(2)正常な認知能力(能力または機能)を増強し得る。ACTは、認知訓練後に永続的な能力の増進を示す任意な面の脳機能に対しても適用され得る。従って、ACTは、ある型または程度の認知機能障害を有する動物を機能回復訓練すること、または動物における正常な認知能力を増強(向上)することにおいて用いられ得る。ACTはまた、適切な神経回路を働かせるのに用いられ得、神経細胞に分化する、新たに獲得され、移植された幹細胞のシナプス結合を微調整する。
【0007】
本明細書に記載するように、ACTは2つに分割できない部分を含む:(1)それぞれの脳(認知)機能に対する特定の訓練プロトコルおよび(2)サイクリックAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与。この組み合わせは、認知訓練のみで得られるものと比べて、能力の増進を生じるのに必要な訓練セッションの数を減少させることにより、または能力の増進を生じるための訓練セッション間の休息期間をより短くするか、または無しにすることにより、認知訓練を増強し得る。この組み合わせはまた、神経活動のパターンの特定な神経回路における誘導に必要な訓練セッションの継続期間および/または数を減らすことにより、または神経回路のシナプス結合の間でCREB依存性の長期間の構造/機能(つまり、長期間続く)変化を誘導するのに必要な、訓練セッションまたは基礎となる神経活動のパターンの継続期間および/または数を減少させることで、認知訓練を増強し得る。この様式で、ACTは既存の認知訓練プロトコルの効率性を改良し得て、その結果、有意な経済的な利得を生み出す。
【0008】
例えば、認知訓練プロトコルは、鬱病(モノポラー(monopolar))および/または恐怖症に関連した病的応答を忘れさせず、適切な振る舞いを学習させることを補助するために、鬱病(モノポラー(monopolar))および/または恐怖症を有する患者を治療するのに使用する。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与が、これらの患者の能力における増進を生じるのに必要な訓練セッションの時間および/または数を減少させる。このように、全体的な治療を短期間で達成する。
【0009】
同様に、認知訓練プロトコルは、病的応答を忘れさせず、適切な振る舞いを学習させることを補助するために自閉症を有する患者の治療に使用する。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与が、これらの患者の能力における増進を生じるのに必要な訓練セッションの時間および/または数を減少させる。
【0010】
認知訓練プロトコル(例えば、物理的治療、バイオ-フィードバック方法)は、脳卒中患者(脳卒中の機能回復訓練)の機能回復訓練をし、特に障害のある、または衰えた感覚-運動機能の機能回復訓練をするのに使用する。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与が、これらの患者の能力における向上を生じるのに必要な訓練セッションの時間および/または数を減少させる。衰えた認知機能のより早いか、または更に効率の良い回復が結果として期待される。
【0011】
認知訓練プロトコル(例えば、集中訓練、分散訓練)は、新しい言語を学習したり、または新しい音楽の楽器を習うのに使用する。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与が、能力における増進を生じるのに必要な訓練セッションの時間および/または数を減少させる。結果として、新しい言語を学習したり、または新しい音楽の楽器を習うのに、より少ない練習(訓練セッション)で済む。
【0012】
認知訓練プロトコルは、学習障害、言語障害または読書障害を有する個体における学習および/または能力を向上するのに使用する。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与が、これらの個体の能力における増進を生じるのに必要な訓練セッションの時間および/または数を減少させる。
【0013】
認知訓練プロトコルは、個体における神経回路を訓練するのに使用され、神経細胞に分化する、新たに獲得した移植幹細胞のシナプス結合を微調整する。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与が、これらの個体における神経活動のパターンの特定の神経回路における誘導に必要な訓練セッションの時間および/または数を減少させる。
【0014】
認知訓練プロトコルは、個体の特定の神経回路の基礎をなす神経活動または神経活動のパターンの繰り返し刺激のために使用する。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与が、神経回路のシナプス結合の間のCREB依存性の長期間の構造/機能(つまり、長期間続く)変化を誘導するのに必要な訓練セッションの時期および/または数、および/または神経活動の基礎となるパターンを減少させる。
【0015】
本発明の結果として、それを必要とする動物(特にヒトもしくは別の哺乳動物または脊椎動物)における認知能力の特定の面を増強する方法が本明細書に提供され、それは(a)CREB経路機能を増強する増強剤を動物に投与すること、および(b)動物による特定の認知課題の能力における向上を生じるのに十分な条件下で動物を訓練することを含む。「増強剤」は、本明細書で「CREB経路増強薬」ともいう。
【0016】
(a)CREB経路機能を増強する増強剤を動物に投与すること、および(b)動物による特定の認知課題の能力における向上を生じるのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、治療を必要とする動物における中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連した認知障害を治療する方法が本明細書中に提供される。CNSの障害または状態は、年齢関連記憶欠損、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病(舞踏病)、別の老年性痴呆)、精神障害(例えば鬱病、精神分裂病、自閉症、注意欠陥障害)、外傷に依存する機能の喪失(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭部または脳損傷)、遺伝的欠損(例えば、ルービンスタイン-テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン-ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィー、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)、ウィリアムズ症候群)および学習障害を含む。
【0017】
特定の態様において、(a)CREB経路機能を増強する増強剤(例えば、ホスホジエステラーゼ4阻害剤)を動物に投与すること、および(b)精神遅滞に関連する欠損を有する認知課題の、動物による能力における向上を生じるのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、治療を必要とする動物において、精神遅滞に関連する認知障害を治療する方法を提供する。本発明は、精神遅滞に関する認知障害の治療で使用する薬の製造のための、CREB経路機能を増強する増強剤(例えば、ホスホジエステラーゼ4阻害剤)の使用を包括する。精神遅滞は、認知過程および認知機能に影響を与え、それらは学習および記憶習得を含む。精神遅滞は、染色体または遺伝的因子、先天的な感染症、催奇物質(薬物または別の化学物質)、栄養失調、放射線または着床および胚発生に影響を与える未知の条件によって、引き起こされ得る。精神遅滞症候群は、ルービンスタイン-テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン-ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィー、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)、ウィリアムズ症候群(Weeber, E.Jら,Neuron, 33:845-848 (2002))を含む。特定の態様において、ホスホジエステラーゼ4阻害剤を、投与につき体重1キログラムあたり約0.05〜約20.0ミリグラムの量で、または好ましくは、体重1キログラムあたり約0.1〜約10.0ミリグラムの量で、精神遅滞に関連した認知障害の治療に対して投与する。ヒトでは、特定の態様において、ホスホジエステラーゼ4阻害剤を、投与につき約3.5〜1,400ミリグラムの総量で、または好ましくは、約7〜700ミリグラムの総量で、精神遅滞に関連した認知障害の治療に対して投与する。
【0018】
(a)CREB経路機能を増強する増強剤を動物に投与すること、および(b)動物における神経活動または神経活動のパターンを刺激または誘導するのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、神経幹細胞操作をうけた動物におけるCNSの障害または状態に関連する認知障害の治療のための方法もまた本明細書中に提供する。「神経幹細胞操作」とは、(1)外来性の神経幹細胞を動物の脳または脊髄に移植すること、または(2)内在性神経幹細胞を動物内で増殖するために刺激または誘導することを意味する。
【0019】
(a)CREB経路機能を増強する増強剤を動物に投与すること、および(b)動物における神経活動または神経活動のパターンを刺激または誘導するのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、動物における特定の神経回路の基礎となるような神経活動または神経活動のパターンを反復刺激する方法が本明細書中に提供される。
【0020】
発明の詳細な説明
ヒトを含む、多くの種における多くの課題に対して、分散訓練プロトコル(それぞれの間に休息期間を有する多くの訓練セッション)が、集中訓練プロトコル(間に休息期間を有さない多くの訓練セッション)より強く、かつより長期間続く記憶をもたらす。ショウジョウバエでのパブロフの嗅覚学習の行動遺伝学的な研究によって、集中訓練が長期間続く記憶をもたらし、これはそれでも少なくとも4日間で衰え、タンパク質合成依存ではなく、CREBリプレッサー導入遺伝子の過剰発現によって破壊されず、ラディッシュ変異体において破壊されることを立証した(Tully, T. ら, Cell, 79(1):35-47 (1994);およびYin, J.C.ら, Cell, 79(1):49-58 (1994))。対照的に分散訓練は、長期間続く記憶をもたらし、これは少なくとも7日間続き、タンパク質合成依存性であり、CREBリプレッサー導入遺伝子の過剰発現によって破壊され、ラディッシュ変異体において正常である(Tully, T. ら, Cell, 79(1):35-47 (1994);およびYin, J.C. ら, Cell, 79(1):49-58 (1994))。分散訓練の1日後に、記憶の保持は、タンパク質合成およびCREB非依存性の早期記憶(ARM)、ならびにタンパク質合成およびCREB依存性の長期記憶(LTM)の両方からなる。さらなる集中訓練はLTMを誘導するには不十分である(Tully, T. ら, Cell, 79(1):35-47 (1994);およびYin, J.C. ら, Cell, 79(1):49-58 (1994))。
【0021】
増大する一連の証拠が、これらの結果を無脊椎動物から脊椎動物まで拡大している。例えば、アメフラシでの分子的な操作のCREB発現は、ハエと同様に、(i)細胞培養における感覚運動の単シナプスでの促通性の電気生理学的な応答のLTMおよび(ii)促通性刺激の間隔を置いた適用後に正常にもたらされる感覚神経と運動神経の両方との間のシナプス結合を抑制または増強する(Bartsch, D. ら, Cell, 83(6):979-992 (1995))。ラットにおいて、海馬または扁桃体へのアンチセンスRNAオリゴヌクレオチドの注入は、これらの解剖学的な領域それぞれの活動に依存的である2つの異なる課題からのLTM形成を妨げる(Guzowski, J.F. ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94(6):2693-2698 (1997);およびLamprecht, R. ら, J. Neurosci., 17(21):8443-8450 (1997))。マウスにおいて、暗示的および明示的な課題の両方に対するLTMの形成は、CREB変異マウスでは不完全である(Bourtchuladze, R. ら, Cell, 79(1):59-68 (1994))。
【0022】
CRE依存性のレポーター遺伝子(β−ガラクトシダーゼ)を有する、海馬依存性の状況恐怖条件づけ課題または受動性の忌避課題における、トランスジェニックマウスの訓練は、海馬の領域CA1およびCA3でのCRE依存性のレポーター遺伝子の発現を誘導する。扁桃体依存性の恐怖条件づけ課題におけるこれらのマウスの訓練は、海馬ではなく、扁桃体でのCRE依存性のレポーター遺伝子の発現を誘導する。このように、LTM形成を誘導する訓練プロトコルはまた、哺乳動物の脳のうちの特定の解剖学的な領域におけるCRE依存性の遺伝子の転写を誘導する(Impey, Sら, Nat. Neurosci., 1(7):595-601 (1998))。
【0023】
これらの動物のモデルに関して、LTM増強の3つの顕著な例を示す。第一に、CREBアクチベーター導入遺伝子の過剰発現は、複数の、分散訓練セッションの必要性を排除し、その代わりとして1回のみの訓練セッション後、LTM形成を誘導する(それは通常、24時間後にほとんどまたは全く記憶保持をもたらさない(Yin, J.Cら, Cell, 81(1):107-115 (1995))。第二に、ラット扁桃体へのウイルス発現CREBアクチベーター導入遺伝子の注入はまた、恐怖増強した驚愕応答に関する集中訓練の後、記憶を増強するには充分であり、それは分散訓練における休息期間の必要性を排除する(Josselyn, S.Aら,Society for Neuroscience., Vol.24,Abstract 365.10(1998):およびJosselyn, S.Aら,J. Neurosci., 21:2404-2412 (2001))。第三に、変異マウスに異なった分散訓練プロトコル(Kogan, J.Hら, Curr. Biol., 7(1):1-11(1997)) を課す場合、CREB欠損マウス(Bourtchuladze, R.ら,Cell, 79(1):59-68(1994))におけるLTM形成は正常に形成され得る。
【0024】
CREBはまた、脊椎動物の脳で様々な型の発生および細胞の可塑性に関与しているようである。例えば、神経活動は皮質でのCREBの活性を増大させる(Moore, A.Nら, J. Biol. Chem., 271(24):14214-14220 (1996)) 。CREBはまた、海馬(Murphy, D.Dら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94(4):1482-1487 (1997))、体性感覚野(Glazewski, Sら,Cereb. Cortex, 9(3):249-256 (1999))、線条体(Lin, F.Cら,Neuron, 17(6):1133-1144 (1996))、および視覚野(Pham, T.Aら,Neuron, 22(1):63-72 (1999))における発生的な可塑性に影響する。
【0025】
CREBは、ヒトの神経変性疾患および脳損傷に影響するようである。例えば、CREBの活性化および/または発現はアルツハイマー病において阻害される(Ikezu, Tら,EMBO J., 15(10):2468-2475 (1996); Sato, Nら,Biochem. Biophys. Res. Commun., 232(3):637-642 (1997); Yamamoto-Sasaki, Mら,Brain .Res., 824(2):300-303 (1999); Vitolo, O.Vら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 13217-13221 (2002))。CREBの活性化および/または発現もまた、発作または虚血後に上昇する(Blendy, J.Aら,Brain Res., 681(1-2):8-14 (1995);およびTanaka, Kら, Neuroreport, 10(11):2245-2250 (1990))。「環境的富化」は、神経を保護し、CREBを介する作用によって細胞死を防ぐ(Young, Dら, Nat. Med., 5(4):448-453 (1999))。
【0026】
CREBは、薬物の感受性または離脱症状の間に機能する。例えば、CREBはエタノールによって(Pandey, S.Cら, Alcohol Clin. Exp. Res., 23(9):1425-1434 (1999);Constantinescu, Aら, J. Biol. Chem., 274(38):26985-26991 (1999); Yang, Xら, Alcohol Clin. Exp. Res., 22(2):382-390 (1998); Yang, Xら, J. Neurochem., 70(1):224-232 (1998);およびMoore, M.Sら,Cell,93(6):997-1007 (1998))、コカインによって(Carlezon, W.A., Jr ら,Science,282(5397):2272-2275 (1998))、モルフィンによって(Widnell, K.Lら, J. Pharmacol.Exp. Ther., 276(1):306-315 (1996))、メタンフェタミンによって(Muratake, Tら,Ann N. Y. Acad. Sci., 844:21-26(1998))およびカナビノイドによって(Calandra, Bら, Eur. J. Pharmacol., 374(3):445-455 (1999))およびHerring, A.Cら, Biochem. Pharmacol., 55(7):1013-1023 (1998))、影響を受ける。
【0027】
CREB/CRE転写経路を刺激し得るシグナルの誘導経路は、cAMP制御系である。
これと一致して、アデニル酸シクラーゼ1(AC1)およびAC8酵素の両方を欠損するマウスは学習不能である(Wong S.Tら,Neuron, 23(4):787-798 (1999))。これらのマウスにおいて、海馬の領域CA1へのフォルスコリンの投与は、海馬依存の課題からの学習および記憶を保持する。さらに、cAMPのレベル(ロリプラムおよびD1レセプターアゴニストのような)を上昇させる薬物での年老いたラットの治療は、海馬依存性の記憶の年齢依存性喪失および細胞の長期間の相乗を改善する(Barad, Mら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95(25):15020-15025 (1998))。これらの後者のデータは、cAMPのシグナル伝達が学習不能な年老いたマウスで不完全であることを示唆する(Bach, M.Eら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96(9):5280-5285 (1999))。
【0028】
本発明は、新規の方法論に関し、本明細書中では増強認知訓練(ACT)とも呼び、それは(1)様々な型の認知機能障害を機能回復訓練し得、(2)正常な認知能力を増強し得る。ACTは、シナプス可塑性の一般的な分子機構を介して作用し、それは新たに獲得した経験の生化学的な効果をシナプスの長期間永続する構造的な変化へと明らかに変換させる。ACTは、認知訓練後に長期間続く能力の増進を示す脳機能の任意の面に適用し得る。従って、ACTは任意の型の認知機能障害を有する動物を機能回復訓練するか、または動物における任意の面の正常な認知能力を増強または向上するのに用いられ得る。
【0029】
増大する一連の証拠が、神経細胞が成人の脳で増殖し続けること(Arsenijevic, Yら,Exp. Neurol., 170: 48-62 (2001);Vescovi, A.L.ら,Biomed. Pharmacother., 55:201-205 (2001);Cameron, H. A. およびMcKay, R. D., J. Comp. Neurol., 435:406-417 (2001);およびGeuna, S ら,Anat. Rec.,265:132-141 (2001))、および係る増殖は様々な実験に応答すること(Nilsson, Mら,J. Neurobiol., 39:569-578 (1999); Gould,E ら,Trends Cogn.Sci., 3:186-192 (1999); Fuchs, E.および Gould, E., Eur. J. Neurosci.,12: 2211-2214 (2000); Gould, Eら,Biol. Psychiatry, 48:715-720 (2000); および Gould, Eら,Nat. Neurosci., 2:260-265 (1999))を示唆する。今や実験上の戦略は、様々な治療の適用に対して神経幹を成人の脳に移植しようと進行中である(Kurimoto, Yら,Neurosci. Lett., 306:57-60 (2001); Singh, G., Neuropathology, 21:110-114 (2001); およびCameron, H.A.およびMcKay, R.D., Nat. Neurosci., 2: 894-897 (1999))。発生の胚段階における神経発生について、多くのことが既に知られている(Saitoe, M.およびTully, T.,「ショウジョウバエにおけるシナプスと行動的な可塑性の間での結合」,In Toward a Theory of Neuroplasticity, J.McEachern およびC. Shaw, 編(New York: Psychology Press.),193-220ページ (2000))。神経分化、神経突起伸張および初期シナプスの標的認識のすべては、活性化に依存しない様式で生じるようである。しかし、連続的なシナプスの発生およびシナプスの成長は、引き続く神経活動を必要とし、機能的に関係する仕方でシナプス結合を微調整する。これらの知見は、移植された神経幹細胞の機能的な(最終的な)統合には神経活動が必要であることを示唆する。このように、ACTは適切な神経回路を働かせるのに使用され得、神経に分化する、新たに獲得され、移植された幹細胞からのシナプス結合を微調整する。「適切な神経回路を働かせる」とは、神経活動のパターンの適切な神経回路における誘導を意味し、それは特定の認知訓練プロトコルによってもたらされるものに相当する。認知訓練プロトコルはかかる神経活動を誘導するのに用いられ得る。あるいは、神経活動は神経回路の直接的な電気刺激で誘導され得る。「神経活動(neuronal activity)」および「神経活動(neural activity )」は本明細書中では交換可能に使用される。
【0030】
ACTは、各脳機能に対する特定の訓練プロトコル、およびCREB経路増強薬の一般的な投与を含む。訓練プロトコル(認知訓練)は特定の脳領域での神経活動を誘導し、特定の脳(認知)機能の向上した能力をもたらす。CREB経路増強薬、本明細書中では増強剤とも呼び、CREB経路機能を増強し、それは新たに獲得された情報をLTMに固化するのに必要である。「CREB経路機能を増強する」とは、CREB依存性の遺伝子発現を促進または向上することが可能であることを意味する。CREB依存性の遺伝子発現は、内在性のCREBの産生を増大することで、例えば増大した量のCREBを産生するために内在性の遺伝子を直接的または間接的に刺激することで、または機能的な(生物学的に活性)CREBを増やすことで増強または向上し得る。例えば、米国特許第5,929,223号;米国特第6,051,559号;および国際公報第WO9611270号(1996年4月18日公開)を参照、これらの参考文献は参考としてその内容が本明細書中に援用される。CREB経路増強薬の投与は、必要とする訓練を減少させ、訓練のみで生じるのと比べて能力の増進をもたらす。特に、ACTは、認知訓練のみで生ずるものに関する能力の増進を生じるのに必要な多数の訓練セッションを減少させることで、または能力の増進を生じるのに訓練セッション間の休息間隔を短くまたは無しにすることで認知訓練を増強し得る。このように、ACTは認知訓練の技術の効率性を改良し得、その結果、有意な経済的な利得をもたらす。「能力の増進」とは、認知能力の面での向上を意味する。
【0031】
本発明は、(a)CREB経路機能を増強する増強剤を動物に投与すること、および(b)動物による特定の認知課題の能力における向上を生じるのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、それを必要とする動物(特にヒトもしくはは別の哺乳類または脊椎動物)における認知能力の特定な面を増強するための、方法を提供する。
【0032】
訓練は1つ以上の訓練セッションを含み得、関心のある認知課題の能力における向上をもたらすのに適切な訓練である。例えば、言語の獲得における向上が望まれる場合、訓練は言語の獲得に焦点を当てる。楽器の演奏を学習する能力における向上が望まれる場合、訓練は楽器の演奏の学習に焦点を当てる。特定の運動技術における向上が望まれる場合、訓練は特定の運動技術の獲得に焦点を当てる。目的の特定の認知課題を適切な訓練と合わせる。
【0033】
発明はまた、特定な神経回路の基礎となるような、神経活動または神経活動のパターンの繰り返し刺激のための方法を提供し、それは動物において(a)CREB経路機能を増強する増強剤を動物に投与すること、および(b)動物において神経活動または神経活動のパターンを刺激または誘導するのに十分な条件下で動物を訓練することを含む。この場合、訓練は動物における神経活動または神経活動のパターンを刺激または誘導するのに適切な訓練である。
【0034】
「多数の訓練セッション」とは、2つ以上の訓練セッションを意味する増強剤は1つ以上の訓練セッションの前、間、または後に投与し得る。特定の態様において増強剤は各訓練セッションの前、または間に投与する。各訓練セッションと組み合わせた増強剤での治療はまた、「促進治療」と呼ぶ。「訓練」とは、認知訓練を意味する。
【0035】
認知訓練プロトコルは当該分野で公知であり、容易に入手可能である。例えば、Karni, A.およびSagi, D., 「主題の区別においてどの働きが完全になるのか、一次視覚野の可塑性のための証拠」,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:4966-4970 (1991); Karni, A.およびSagi, D.,「視覚技術を学習する時間の進行」,Nature, 365:250-252 (1993); Kramer, A.Fら,「課題協調と年齢:課題切り替え範例における実行制御過程の探索」,Acta Psychol. (Amst.), 101:339-378 (1999); Kramer, A.Fら,「実行制御のための訓練:課題協調の戦略と年齢」,In Agingand Skilled Performance: Advances In Theory and Applications, W. Rogersら,編.(Hillsdale, N.J.:Erlbaum) (1999); Rider, R.A.およびAbdulahad, D.T.,「訓練可能な精神的にハンデキャップを負った青年の全体および細分した運動熟達についての分散対集中した練習の効果」,Percept. Mot. Skills, 73:219-224 (1991); Willis, S.LおよびSchaie, K.W.,「空間的な指向および帰納的推測の能力因子についての成人の訓練」,Psychol. Aging, 1:239-247 (1986); Willis, S.L.およびNesselroade, C.S.,「老年期における流体の能力訓練の長期間の効果」,Develop. Psychol., 26:905-910 (1990); Wek, S.RおよびHusak, W.S.,「自閉症の子供の運動動作および学習についての分配および集中練習の効果」,Percept. Mot. Skills, 68:107-113 (1989); Verhaehen, Pら,「記憶術訓練からの老人における記憶作業の改善:後続分析的な研究」,Psychol. Aging, 7:242-251 (1992); Verhaeghen, P.およびSalthouse, T.A.,「成人における年齢-認知相関性の後続的な分析:線形および非線形な年齢効果および構造的なモデルの推測」,Psychol. Bull., 122:231-249 (1997); Dean, C.Mら,「慢性脳卒中における課題-相関した巡回訓練が移動課題の作業を改善する:無作為化した、制御されたパイロット試験」,Arch. Phys. Med. Rehabil., 81:409-417 (2000); Greener, Jら,「脳卒中後の失語症に対する話法および言語の治療」,CochraneDatabase Syst. Rev., CD000425 (2000);Hummelsheim, HおよびEickhof, C.,「固定化された症候群を有する患者における腕および手に対する集中的な感覚運動訓練」,Scand. J. Rehabil. Med., 31:250-256 (1999); Johansson, B.B.,「脳可塑性および脳卒中の機能回復訓練。ウィリスの講義」,Stroke, 31:223-230 (2000); Ko Ko, C.,「多数の硬化症に対する機能回復訓練の効果」, Clin. Rehabil., 13 (Suppl. 1):33-41 (1999); Lange, Gら,「脳卒中後の視覚記憶作業についての組織的な戦略作用:皮質/副皮質および左/右半球の対称性」,Arch. Phys. Med. Rehabil., 81:89-94 (2000); Liepert, Jら,「ヒトにおける脳卒中後の治療-誘導した皮質の再組織化」,Stroke, 31:1210-1216 (2000); Lotery, A.Jら,「脳卒中の機能回復訓練の患者における正確な視覚障害」,Age Ageing, 29:221-222 (2000);Majid, M.Jら,「脳卒中後の記憶障害のための認知的な機能回復運動」(Cochraneのレビュー),Cochrane Database Syst. Rev., CD002293 (2000); Merzenich, Mら,「知覚、運動、および認知的な技術発達の下における皮質可塑性:神経機能回復運動のための推測」,Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol., 61:1-8 (1996);Merzenich, M.Mら,「言語-学習不能な子供の訓練による一時的な手順障害の改善」,Science, 271:77-81 (1996); Murphy, E.,「脳卒中の機能回復運動」,J. R. Coll. Physicians Lond., 33:466-468 (1999); Nagarajan, S.Sら,「言語学習-不能な子供を訓練するのに用いた話法の修正アルゴリズム」,IEEE Trans. Rehabil. Eng., 6:257-268. (1998); Oddone, Eら,「脳卒中における質的な促進研究の手始め:予防、治療、および機能回復運動」,Med. Care 38:I92-I104 (2000);Rice-Oxley, M およびTurner-Stokes, L.,「脳損傷の機能回復運動の効果」,Clin.Rehabil., 13(Suppl 1):7-24 (1999);Tallal, Pら,「言語学習不能:基礎科学、技術、および治療の統合」,Exp. Brain Res., 123:210-219 (1998);Tallal, Pら,「言語学習不能な子供における言語理解による聴覚的に修正した話法の改善」,Science, 271:81-84(1996); Wingfield, Aら,「損失した時間を回復する:成人の老いおよび時間-圧縮した話法の想起についての時間保持の効果」,Psychol. Aging, 14:380-389 (1999)、これらの参考文献はその全体が参考として本明細書中に援用される。
【0036】
本明細書中で用いるように、用語「動物」は、哺乳動物、ならびに別の動物、脊椎動物および無脊椎動物(例えば、鳥、魚、爬虫類、昆虫(例えば、ショウジョウバエの種)、軟体動物(例えば、アメフラシ))を含む。用語「哺乳動物」および「哺乳類綱」は、本明細書中で用いられる場合、子供に授乳し、子供を生むか(真獣亜綱または有胎盤亜綱)または産卵する(後獣下綱または無胎盤亜綱)任意の脊椎動物(単孔類、有袋類および胎盤類を含む)をいう。哺乳類綱の種の例として、ヒトおよび霊長類(例えば、サル、チンパンジー)、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、モルモット)ならびに反芻動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ)が挙げられる。
【0037】
動物は、ある型または程度の認知機能障害を有する動物、または正常な認知能力を有する動物(すなわち、任意の型の認知不全(任意の認知機能の機能障害または喪失)を有さない動物)であり得る。
【0038】
認知機能障害は、通常、脳機能不全または中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連し、遺伝、疾患、損傷および/または年齢に起因する。ある型または程度の認知不全(機能障害)と相関するCNSの障害または状態は、以下が挙げられるがこれらに限られない:
1)年齢関連記憶障害;
2)譫妄(急性錯乱状態)のような、神経変性障害;レヴィー小体痴呆、血管性痴呆、ビンスヴァンガー痴呆(皮質下性動脈硬化性脳障害脳症)、パーキンソン病に関連する痴呆、進行性核上性麻痺、ハンチントン病(舞踏病)、ピック病、正常圧水頭症、クロイツフェルト‐ヤーコブ病、ゲルストマン‐シュトロイスラー‐シャインカー症候群、神経梅毒(全身不全麻痺)およびHIV感染、前頭葉痴呆症候群、頭部損傷に相関する痴呆、それはボクシングによる痴呆、脳損傷、硬膜下血腫、脳腫瘍、甲状腺機能低下不全症、ビタミンB12欠乏症、頭蓋内への放射線のような(これらに限定しない)、アルツハイマー病および非アルツハイマー型を含む、痴呆、または別の神経変性疾患;
3)抑鬱性仮性痴呆を含む鬱病のような(これらに限定しない)感情障害(気分障害)を含む精神障害;精神分裂病および自閉症(カンナー症候群)のような(これらに限定しない)精神病性障害;不安症および強迫神経症疾患のような(これらに限定しない)神経症性障害;注意欠陥障害;
4)脳卒中を含む脳血管疾患および虚血性の脳卒中を含む虚血に関連する(による)もののような(これらに限定しない)外傷依存性の認知機能の喪失;硬膜下血腫および脳腫瘍を含む、脳損傷;頭部損傷;
5)ルービンスタイン-テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)、神経線維腫症、コフィン-ローリー症候群、筋緊張性ジストロフィー、レット症候群、ウィリアムズ症候群、クラインフェルター症候群、モザイク現象、トリソミー13(パトー症候群)、トリソミー18(エドワーズ症候群)、ターナー症候群、ネコ鳴き症候群、レッシュ−ナイハン症候群(過塩類血症)、ハンター症候群、ロウ眼脳腎症候群、ゴーシェ病、ハーラー症候群(ムコ多糖体沈着症)、ニーマン−ピック病、テイ−サックス病、ガラクトース血症、カエデシロップ病、フェニルケトン血症、アミノ酸耐性、結節硬化症および原発性小頭症のような(これらに限定しない)遺伝的な障害によって生ずるある型または程度の認知機能障害に関連する障害;
6)特に子供における学習障害、言語障害および読書障害。「学習障害」とは、基本的な精神過程の異常を意味する。その過程は各個人が学習する方法に影響する。学習障害は聴くこと、考えること、話すこと、読むこと、書くこと、文字をつづること、計算または前述の結合における障害をもたらし得る。学習障害は認知的なハンデキャップ、失読症および発生的な失語症を含む。
【0039】
用語「認知能力」および「認知機能」とは、当該分野で認知された語であり、当該分野で受諾された意味と一致して本明細書で用いる。「認知課題」とは、認知機能を意味する。認知機能は記憶獲得、視覚区別、聴覚区別、実行機能、運動技術学習、抽象推理、空間能力、話法あるいは言語技術または言語獲得を含む。「認知能力の特定な面を増強する」とは、例えば、記憶の獲得または学習課題の履行のような、特定の認知または脳機能を増強し、または向上する能力を意味する。「特定の認知課題の能力における向上」とは、訓練前の能力と比べた、特定な認知課題の能力または脳機能の面における向上を意味する。例えば、脳卒中後、患者がつま先をゆすることだけが可能である場合、患者における能力(能力の増進)の向上は、例えば歩くことが可能となり得る。
【0040】
従って、発明はまた、(a)CREB経路機能を増強する増強剤を動物に投与すること;および(b)動物による特定の認知課題の能力における向上をもたらすのに充分な条件下で動物を訓練することを含む、治療を必要とする動物(特にヒトもしくは別の哺乳動物または脊椎動物)におけるCNSの障害または状態に関連する認知障害を治療する方法に関する。
【0041】
ある態様において、本発明は、年齢関連性記憶障害に関連する認知障害の治療を必要とする動物において(a)動物にCREB経路機能を増強する増強剤を投与すること、および(b)喪失が年齢関連性記憶障害に関連する認知課題を有する動物による能力の向上を生み出すのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、該年齢関連性記憶障害に関連する認知障害を治療する方法に関する。
【0042】
第二の態様において、本発明は、神経変性性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病、他の老人性痴呆)に関連する認知障害の治療を必要とする動物において(a)動物にCREB経路機能を増強する増強剤を投与すること、および(b)障害が神経変性性疾患に関連する認知課題を有する動物による能力の向上を生み出すのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、該神経変性性疾患に関連する認知障害を治療する方法に関する。
【0043】
第三の態様において、本発明は、精神医学的疾患(例えば、鬱病、精神分裂病、自閉症、注意欠陥障害)に関連する認知障害の治療を必要とする動物において(a)動物にCREB経路機能を増強する増強剤を投与すること、および(b)障害が精神医学的疾患に関連する認知課題を有する動物による能力の向上を生み出すのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、該精神医学的疾患に関連する認知障害を治療する方法に関する。
【0044】
第四の態様において、本発明は、外傷依存性の認知機能の喪失(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭部または脳の損傷)に関連する認知障害の治療を必要とする動物において(a)動物にCREB経路機能を増強する増強剤を投与すること、および(b)障害が外傷依存性の認知機能の喪失に関連する認知課題を有する動物による能力の向上を生み出すのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、該外傷依存性の認知機能の喪失に関連する認知障害を治療する方法に関する。
【0045】
第五の態様において、本発明は、遺伝的障害(例えば、ルービンスタイン−テービ症候群、ダウン症候群、エンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン−ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)およびウィリアムズ症候群)に関連する認知障害の治療を必要とする動物において(a)動物にCREB経路機能を増強する増強剤を投与すること、および(b)障害が遺伝的障害に関連する認知課題を有する動物による能力の向上を生み出すのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、該遺伝的障害に関連する認知障害を治療する方法に関する。
【0046】
特別な態様において、本発明は、精神遅滞に関連する認知障害の治療を必要とする動物において(a)動物にCREB経路機能を増強する増強剤を投与すること、および(b)障害が精神遅滞に関連する認知課題を有する動物による能力の向上を生み出すのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、該精神遅滞に関連する認知障害を治療する方法に関する。本発明は、精神遅滞に関連する認知障害の治療に用いる医薬の製造のためのCREB経路機能を増強する増強剤の使用を含む。特別な態様において、増強剤はホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤である。PDE4阻害剤の例は、ロリプラムおよび以下の構造式:
【0047】
【化1】

【0048】
を有する化合物を含み、式中「Me」は「メチル」を意味し、「cPent」は「シクロペンチル」を意味する。上記構造式は、そのエナンチオマーおよび混合物両者を含むことが理解される。化合物は米国特許第 6,458,829号に提供される方法論を用いて調製され得、その教示は参照によって本明細書中に援用されている。特別な態様において、この上記構造式の3および5炭素はS配位であり:
【0049】
【化2】

【0050】
式中「Me」は「メチル」を意味し、「cPent」は「シクロペンチル」を意味する。PDE4阻害剤の他の例は、米国公開公報第2002/0028842 A1号(2002年3月7日発行);米国特許第6,458,829B1号;米国特許第6,525,055B1号;米国特許第5,552,438号;米国特許第6,436,965号;および米国特許第6,204,275号に見ることが出来る。さらに他のPDE4阻害剤は当該分野において公知であり、簡単に利用できる。
【0051】
精神遅滞は学習および記憶の獲得を含む認知処理および認知機能に強い影響を与える(Weeber, E. J.ら, Neuron, 33:845-848))。精神遅滞は、染色体因子または遺伝的因子、先天性感染、催奇形物質(薬物および他の化学物質)、栄養失調、被爆、または着床および胚形成に影響する未知の状態によって引き起こされ得る。精神遅滞症候群としては、限定されるものではないが、クラインフェルター症候群、モザイク現象、13トリソミー(パトー症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、ターナー症候群、ネコ鳴き症候群、レッシュ−ナイハン症候群(高尿酸血症)、ハンター症候群、ロウ眼脳腎症候群、ゴーシェ病、ハーラー症候群(ムコ多糖体沈着症)、ニーマン−ピック病、テイ−サックス病、ガラクトース血症、カエデシロップ尿病、フェニルケトン尿症、アミン酸尿症、酸血症、結節硬化症および原発性小頭症が挙げられる。精神遅滞症候群としてはまた、ルービンスタイン−テービ症候群、ダウン症候群、エンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン−ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)およびウィリアムズ症候群(Weeber, E. J.ら, Neuron, 33:845-848 (2002))が挙げられる。
【0052】
本発明はまた、(a)動物にCREB経路機能を増強する増強剤を投与すること、および(b)動物における神経活動または神経活動パターンを刺激または誘導するのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、神経幹細胞のマニプレーションを行なった動物において中枢神経系疾患または状態に関連する認知障害を治療する方法に関する。「神経幹細胞のマニプレーション」により、(1)外因性の神経幹細胞が動物の脳または脊髄(spinal chord)に移植されること、または(2)内因性の神経幹細胞が動物で増殖するよう刺激または誘導されることを意味する。神経幹細胞を動物の脳または脊髄に移植する方法は、当該技術分野において公知であり、簡単に利用できる(例えば、Cameron, H. A. および McKay, R. D., Nat. Neurosci., 2:894-897 (1999); Kurimoto, Y.ら, Neurosci. Lett., 306:57-60 (2001); およびSingh, G., Neuropathology, 21:110-114 (2001)参照)。内因性の神経幹細胞の動物における増殖を刺激または誘導する方法は、当該技術分野において公知であり、簡単に利用できる(例えば、Gould, E.ら, Trends Cogn. Sci,, 3:186-192 (1999); Gould, E.ら, Biol. Psychiatry, 48:715-20 (2000); Nilsson, M.ら, J. Neurobiol., 39:569-578 (1999); Fuchs, E.およびGould, E., Eur. J. Neurosci., 12:2211-2214 (2000); およびGould, E.ら, Nat. Neurosci., 2:260-265 (1999)参照)。神経幹細胞を動物の脳または脊髄に移植する特定の方法および内因性の神経幹細胞の動物における増殖を刺激または誘導する特定の方法は、発明の実施にとって重要ではない。
【0053】
本発明はさらに、(a)動物にCREB経路機能を増強する増強剤を投与すること、および(b)学習、言語または読解能力の障害に関連する認知課題を有する動物による能力の向上を生み出すのに十分な条件下で動物を訓練することを含む、学習、言語または読解障害または前述のものの任意の組み合わせを有する動物における学習および/または能力を向上または増強する方法に関する。
【0054】
本明細書中で使用される場合、増強剤とは薬理学的活性を有する化合物であり、薬物、化学化合物物、イオン化合物、有機化合物、補因子、糖類を含む有機リガンド、組換えおよび合成ペプチド、タンパク質、ペプトイド、遺伝子を含む核酸配列、核酸産物、ならびに他の分子および組成物を含む。
【0055】
例えば、増強剤は細胞透過性cAMP類似体(例えば、8-ブロモ cAMP);アデニレートシクラーゼ1(AC1)の活性剤(例えば、フォルスコリン);限定するわけではないが、例えばアドレナリン作用性レセプターおよびオピオイドレセプターならびにそれらのリガンド等のGタンパク質結合レセプターに作用する因子(例えば、フェネチルアミン);細胞内カルシウム濃度の調節因子(例えば、タプシガーギン、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)レセプターアゴニスト);cAMP分解の原因であるホスホジエステラーゼの阻害剤(例えば、ホスホジエステラーゼ1 (PDE1) 阻害剤(例えば、イソ−ブト−メト−キサンチン(IBMX))、ホスホジエステラーゼ2 (PDE2) 阻害剤(例えば、イソ−ブト−メト−キサンチン(IBMX))、ホスホジエステラーゼ3 (PDE3) 阻害剤、ホスホジエステラーゼ4 (PDE4) 阻害剤(例えば、ロリプラム、HT0712)、等)(例えば、米国特許第6,458,829B1号;米国公開公報第2002/0028842A1号(2002年3月7日発行)も参照)、およびCREBタンパク質の活性化およびCREB依存性遺伝子発現を媒介するタンパク質キナーゼおよびタンパク質ホスファターゼの調節因子であり得る。増強剤は、外因性CREB、CREB類似体、CREB様分子、生物学的に活性のあるCREBフラグメント、CREB融合タンパク質、外因性CREB、CREB類似体、CREB様分子、生物学的に活性のあるCREBフラグメントまたはCREB融合タンパク質をコードする核酸配列であり得る。
【0056】
増強剤はまた、CREB機能調節因子、またはCREB機能調節因子をコードする核酸配列であり得る。本明細書中で用いられる場合、CREB機能調節因子はCREB経路機能を調節する能力を有する。「調節する」によって、CREB経路機能を変化(増大または減少)、または変更する能力を意味する。
【0057】
増強剤は中枢神経系におけるCREB機能を増強することが出来る化合物であり得る。かかる化合物としては、膜安定性および流動性ならびに特異的な免疫刺激に影響する化合物が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様において、増強剤は中枢神経系におけるCREB経路機能を一過的に増強させることが出来る。
【0058】
CREB類似体、または誘導体は本明細書中では内因性CREBに類似するアミノ酸配列を有するタンパク質として定義される。類似するアミノ酸配列は、本明細書中では、アミノ酸配列において一つ以上の「サイレント」変化を有するが、内因性CREBの生物学的活性を有するのに十分な、内因性CREBのアミノ酸配列を有するアミノ酸配列を意味することと定義される。CREB類似体としては、哺乳動物CREM、哺乳動物ATF-1および他のCREB/CREM/ATF-1サブファミリーメンバーが挙げられる。
【0059】
CREB様分子は、本明細書中で使用される用語としては、CREBに機能的に類似する(模倣する)タンパク質をいう。CREB様分子は内因性CREBに類似するアミノ酸配列を有する必要はない。
【0060】
CREBの生物学的に活性のあるポリペプチドフラグメントはCREBの全長アミノ酸配列の一部分だけを含み得るが、生物学的活性を有する。かかるフラグメントはカルボキシル末端欠失またはアミノ末端欠失ならびに内部欠失によって産生され得る。
【0061】
融合タンパク質は本明細書中で記載されるCREBタンパク質を含み、CREBタンパク質においては生じない第二の部分に結合する第一の部分と呼ばれる。第二の部分は、一つのアミノ酸、ペプチドもしくはポリペプチド、または炭水化物、脂質等の他の有機部分、または無機分子であり得る。
【0062】
核酸配列は、本明細書中では核酸分子のヘテロポリマーとして定義される。核酸分子は二本鎖または一本鎖であり得、cDNAもしくはゲノムDNA等のデオキシリボ核酸(DNA)分子またはリボヌクレオチド(RNA)分子であり得る。このように、核酸配列は、例えば、適当にイントロン有りまたは無しで一つ以上のエキソンを含み得、かつ一つ以上の適切な制御配列を含み得る。一つの例では、核酸分子は所望の核酸産物をコードする一つのオープンリーディングフレームを含む。核酸配列は、適切なプロモーターに「作動可能に結合」する。
【0063】
所望のCREBタンパク質、CREB類似体(CREM, ATF-1を含む)、CREB様分子、生物学的に活性のあるCREBフラグメント、CREB融合タンパク質またはCREB機能調節因子をコードする核酸配列は、例えば、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1998); およびSambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbor University Press, New York. (1989) に記載されるように、天然から単離され、天然の配列から修飾され、デノボから作製され得る。核酸は、適合性のあるクローニング部位または制限酵素認識部位の活用および製造等の当該分野で公知の方法によって単離され融合され得る。
【0064】
典型的に、核酸配列は、所望のCREBタンパク質、CREB類似体、CREB様分子、CREB融合タンパク質またはCREB機能調節因子をコードする遺伝子であろう。かかる遺伝子は典型的に、好ましくは中枢神経系において、CREBタンパク質またはCREB機能調節因子の発現に影響し得る適切な制御配列に作動可能に結合できる。用語「作動可能に結合」は、本明細書中で用いられる場合、遺伝子(または核酸配列)の発現が可能な様式で遺伝子(または核酸配列)が制御配列に結合することを意味すると定義される。一般的に、作動可能に結合できるは連続していることを意味する。
【0065】
制御配列は転写プロモーター、転写を制御する任意のオペレーター配列、適切なメッセンジャーRNA(mRNA)のリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終止を制御する配列を含む。特定の態様において、CREBタンパク質、CREB類似体、CREB様分子、生物学的に活性のあるCREBフラグメント、CREB融合タンパク質またはCREB機能調節因子をコードする組換え遺伝子(または核酸配列)は、誘導または抑制され得るプロモーターの調節制御の下に位置し得、それにより生産物のレベルに関してより大きな程度の制御を提供する。
【0066】
本明細書中で使用される場合、用語「プロモーター」は転写の開始に要求され得るRNAポリメラーゼおよび他の因子に対する認識および結合部位を提供することによって、コード領域の発現を制御する、構造遺伝子のコード領域の通常上流 (5') であるDNAの配列をいう。適切なプロモーターは当該分野で周知である。例示的なプロモーターとしてはSV40およびヒト延長因子(EFI)が挙げられる。他の適切なプロモーターは当該分野において簡単に利用できる(例えば、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York (1998); Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbor University Press, New York (1989); および米国特許第5,681,735号参照)。
【0067】
増強剤はCREB経路機能を種々の機構によって増強出来る。例えば、増強剤はCREB依存性遺伝子発現の誘導をもたらすシグナルトランスダクション経路に影響を及ぼすことが出来る。CREB依存性遺伝子発現の誘導は、例えば、CREB機能のポジティブエフェクターのアップレギュレーションを、および/またはCREB機能のネガティブエフェクターのダウンレギュレーションを介して達成され得る。CREB機能のポジティブエフェクターはアデニレートシクラーゼおよびCREB活性因子を含む。CREB機能のネガティブエフェクターはcAMPホスホジエステラーゼ(cAMP PDE)およびCREB抑制因子を含む。
【0068】
増強剤は、CREBタンパク質の活性因子形態または抑制因子形態、および/または転写複合体を含むCREBタンパク質の上流に生化学的に作用するか、または直接作用することによって、CREB経路機能を増強させることが出来る。例えば、転写における、転写後における、または転写および転写後の両方におけるCREBタンパク質レベルを増加させること、転写複合体の他の必要成分、例えばCREB結合タンパク質(CBPタンパク質)に対するCREBタンパク質の親和性を変化させること、プロモーター領域中のDNA CREB作用性要素のための転写複合体を含むCREBタンパク質の親和性を変化させること、またはCREBタンパク質異性体に対する受動免疫または能動免疫のいずれかを誘導することによって、CREB経路機能は影響を与えられることが出来る。増強剤がCREB経路機能を増強させる特定の機構は、発明の実施にとって重要ではない。
【0069】
増強剤は多様な方法で動物に直接投与され得る。好ましい態様において、増強剤は全身に投与される。他の投与経路は当該分野で一般的に公知であり、輸液、および/またはボーラス注入を含む静脈内経路、脳室内経路、硬膜下腔内経路、腸管外経路、粘膜経路、移植経路、腹腔内経路、経口経路、皮内経路、経皮経路(例えば、緩慢放出ポリマーで)、筋肉内経路、皮下経路、局所経路、硬膜外経路等を含む。他の適切な投与経路もまた、例えば、上皮または粘膜皮膚の内層を通しての吸収を達成させるために使用され得る。特定の増強剤もまた遺伝子治療によって投与され得、ここでは特定の治療タンパク質またはペプチドをコードするDNA分子が動物に例えばベクターを介して投与され、インビボにおける治療レベルでの特定のタンパク質またはペプチドの発現および分泌が引き起こされる。
【0070】
ベクターは、本明細書中で使用される用語としては、核酸ベクター、例えばDNAプラスミド、ウイルスまたは他の適切なレプリコン(例えば、ウイルス性のベクター)をいう。ウイルス性ベクターとしてはレトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ関連ウイルス)、コロナウイルス、オルトミクソウイルス等の負鎖RNAウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病および水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹およびセンダイ)、ピコルナウイルスおよびアルファウイルス等の陽鎖RNAウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルスを含む二本鎖DNAウイルス(例えば、単純疱疹ウイルス1型および2型、エプスタイン−バーウイルス、サイトメガロウイルス)およびポックスウイルス(例えば、痘疹、鶏痘およびカナリヤポックス)が挙げられる。他のウイルスとしては、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例としては、トリ白血病、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプマウイルスが挙げられる(Coffin, J.M., Retroviridae: The viruses and their replication, In Fundamental Virology, 第三版, B. N. Fields,ら, 編., Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996)。他の例としては、マウス白血病ウイルス、マウス肉腫ウイルス、マウス乳腺癌ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ネコ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒヒ内因性ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、マソンファイザーサルウイルス、シミアン免疫欠損ウイルス、シミアン肉腫ウイルス、ラウス肉腫ウイルスおよびレンチウイルスが挙げられる。ベクターの他の例は、例えば、McVeyらの米国特許第5,801,030号に記載されており、その教示は参照によって本明細書中に援用されている。
【0071】
タンパク質またはペプチド(例えば、CREBタンパク質、CREB類似体(CREM, ATF-1を含む)、CREB様分子、生物学的に活性のあるCREBフラグメント、CREB融合タンパク質、CREB機能調節因子)をコードする核酸配列は核酸ベクター内に当該技術分野で一般的に公知の方法(例えば、Ausubelら, 編, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York (1998); Sambrookら, 編, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbor University Press, New York (1989) 参照)に従って挿入され得る。
【0072】
投与の様式は標的細胞の位置であることが好ましい。特定の態様において、投与の様式はニューロンに対するものである。
【0073】
増強剤は、生物学的に活性のある因子の他の成分、例えば薬学的に許容され得る界面活性剤(例えば、グリセリド類)、賦形剤(例えば、乳糖)、安定剤、防腐剤、湿潤剤、緩和剤、抗酸化剤、キャリアー、希釈剤およびビヒクルと共に投与され得る。所望により、特定の甘味剤、調味剤および/または着色剤もまた添加され得る。
【0074】
増強剤は薬学的に許容され得る非経口ビヒクルと関連して溶液、懸濁液、乳濁液または凍結乾燥粉末として製剤化され得る。かかるビヒクルの例は、水、生理食塩水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、デキストロース溶液および5%ヒト血清アルブミンである。リポソームおよび固定油等の非水性ビヒクルもまた使用され得る。ビヒクルまたは凍結乾燥粉末は、等張性(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール)および化学的安定性(例えば、緩衝液および防腐剤)を保つ添加剤を含み得る。製剤は慣用の技術によって滅菌され得る。適切な薬学的キャリアーはRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載される。
【0075】
動物に投与される増強剤の用量は、特にニューロンにおけるCREB依存性遺伝子発現の変化をもたらすのに必要な量である。投与頻度を含む動物への投与用量は、特定の増強剤の薬力学的特徴、投与の様式および投与経路;受容者の大きさ、年齢、性別、健康、体重および食事;治療される症状の性質および程度または増強されまたは調節される認知機能の性質および程度、併用療法の種類、治療の頻度、ならびに所望の効果を含む様々な要因に依存して変わるであろう。
【0076】
増強剤は、症状の性質および程度、併用療法の種類ならびに所望の効果等の因子に依存して、単回または分割量(例えば、一連の用量が数日間、数週間または数ヶ月間の間隔によって分けられる)、または徐放性形態で投与され得る。他の治療養生法または薬剤が、本発明に関連して使用され得る。
【0077】
本発明は、以下の実施例によって説明されるが、この実施例はいなかる制限もしていると見なされない。
【0078】
実施例
この研究は、精神遅滞に関連した認知障害が、認知訓練プロトコルに関連してホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤を用いて治療され得ることを論証するために行われた。この研究はルービンスタイン−テービ症候群(RTS)の動物モデルを用いて行われた。
【0079】
RTSは精神遅滞ならびに幅の広い親指、大きくて幅の広い爪先、低身長および脳顔面頭蓋奇形を含む身体的異常によって特徴づけられるヒトの遺伝病である(Rubinstein, J. H. およびTaybi, H., Am. J. Dis. Child., 105: 588-608 (1963); Hennekam, R. C.ら, Am. J. Ment. Retard., 96: 645-660 (1992); Levitas, A. S. およびReid, C. S., J. Intellect. Disabil. Res., 42 (Pt 4): 284-292 (1998); およびCantani, A. およびGagliesi, D., Eur. Rev. Med. Pharmacol. Sci., 2: 81-87 (1998) )。RTSは約125,000出生に1人生じ、施設に収容される精神遅滞の人の300件に1件をも占める。多くの患者において、RTSは染色体 16p13.3 (Imaizumi, K. およびKuroki, Y., Am. J. Med. Genet., 38: 636-639 (1991); Breuning, M. H.ら, Am. J. Hum. Genet., 52: 249-254 (1993);およびMasuno, M.ら, Am. J. Med. Genet., 53:352-354 (1994) )、CREB結合タンパク質(CBP)をコードする遺伝子の領域(Petrij, F. ら, Nature, 376: 348-351 (1995) )にマッピングされている。多くのRTS患者はCBPのC末端の切断をもたらすCBP変異に関するヘテロ接合であり、ドミナントネガティブな機構が臨床的な症状に寄与し得ると示唆する(Penrij, F.ら, Am. J. Med. Genet., 92: 47-52 (2000) )。
【0080】
CBPの切断形態を保有するマウスはRTS患者に類似したいくつかの発達異常を示す。RTS患者は精神遅滞を患い、一方変異体CBPマウスでは長期記憶の形成に欠陥がある。CREB依存性の長期記憶の形成の間のcAMPシグナリングに重要な役割は進化において保存されているようである。
【0081】
方法
マウス
CBP+/-マウスの作製はOikeらによって記載された(Human Molecular Genetics, 8: 387-396 (1999) )。CBP+/-マウスは、特に(i)CBP+/-マウスにおける分子の損傷(切断されたタンパク質)は、RTS患者の一部で知られているものと類似しており、(ii)CBP+/-ヘテロ接合のマウスにおけるCBP機能は、減少されるがブロックされず、(iii)学習または短期記憶ではなく、長期記憶の形成は、これらの変異体動物において特に妨害されるようであることから、ルービンスタイン−テービ症候群の一般に容認されたマウスモデルである(Oike, Y. ら, Human Molecular Genetics, 8: 387-396 (1999) )。これらの研究のために、CBP+/-マウスをC57BL/6雌(Jackson laboratory)に交雑させることによって動物を作製した。マウスは前述したPCRプロトコルを用いて遺伝子型を決定した(Oike, Y. ら, Human Molecular Genetics, 8: 387-396 (1999) )。年齢(操作時に12〜14週齢)および性別が対応した変異体マウスおよび野生型同腹子を全ての実験に使用した。
【0082】
マウスは12:12の明暗周期で飼育し、実験は周期の明期の間に行った。訓練および試験の時間を除いて、マウスは食糧および水に自由に接触できた。実験はAnimal Welfare Assurance #A3280-01に従って行われ、動物はAnimal Welfare Actおよび保健福祉省の指針に従って管理された。
【0083】
物体を認識する訓練および試験
マウスを5日間3〜5分間取り扱った。訓練前日、各マウスを訓練装置(薄暗く照明された部屋に置かれている、長さ = 48 cm; 幅 = 38 cmかつ高さ = 20 cmのプレキシグラス箱)に入れ、15分間環境に慣れさせた(Pittenger, C.ら, Neuron, 34: 447-462 (2002) も参照)。慣れの後24時間に訓練を開始した。二つの同じ物体(例えば、小さな円錐型の物体)を含んだ訓練箱にマウスを戻し、これらの物体を探査させた。物体は箱の中心部に置き、物体の空間的位置(左-右側)は課題間で釣り合わせた。実験の間、訓練時間を3.5分〜20分で変動させた。
【0084】
3つに分かれた動物のセット、およびその他の、実験をうけたことがない動物のセットを使用した。第一のセットを、図3および4に要約される実験に使用した(遺伝子型につきn=10)。第二のセットを、図5に要約される実験に使用した(野生型マウス、n=20)。第三のセットを、図6に要約される実験に使用した(遺伝子型につきn=8)。各実験について、動物の同じセットを各繰り返しで異なる(新しい)物体のセットを用いて繰り返し使用した。全ての実験を、均衡のとれた様式、すなわち(i)各実験条件について(例えば、特異的な用量−効果および/または遺伝子型−記憶効果)、2〜6匹の実験マウスおよび2〜6匹の対照マウスを使用し、(ii)HT0712を注射する実験はビヒクルを注射するマウスおよび2〜3の異なる用量のHT0712を注射するマウスからなり、(iii)各実験条件を2〜4の独立した回数繰り返し、繰り返しの日を加えて課題の最終的な数を作る様式で設計し、実施した。
【0085】
マウスの各セットについて5〜8回のセッションを実施した。各マウスを、1週間につきわずかに1回かつ試験間に1週間の間隔をもって訓練し試験した。薬物を注入する実験では(以下参照)、ビヒクルを注入したマウスおよび高/低用量注入したマウスは釣り合っていた。各実験において、実験者は訓練および試験中は被験体の治療に気づいていなかった(知らなかった)。
【0086】
記憶保持の試験のために、マウスを訓練の3時間後および24時間後に10分間観察した。マウスは二つの物体を与えられ、一つの物体は訓練中に使用し、そのため「知っている」ものであり、もう一方は新しいもの(例えば、小さなピラミッド型物体)であった。試験物体は2つの「訓練」物体プラス「試験」物体を有する10セットに分け、新しいセットの物体を各訓練セッションに使用した。各実験課題後、装置および物体を90%エタノールで清浄し、乾燥し、数分間換気した。
【0087】
薬物化合物投与
訓練20分前、マウスに彼らの家用カゴ内でHT0712( ( 3S, 5S)-5-(3-シクロペンチルオキシ-4-メトキシ-フェニル)-3-(3-メチル-ベンジル)-ピペリジン-2-オン; IPL 455,903としても知られている)), ロリプラム (1% DMSO/PBS中)の指示された用量またはビヒクルのみ (1% DMSO/PBS)を注入した。HT0712は以下の構造式を有する:
【0088】
【化3】

【0089】
式中「Me」は「メチル」を意味し、「cPent」は「シクロペンチル」を意味する。HT0712は米国特許第6,458,829B1号に提供される方法論を用いて調製され得、その教示は参照によって本明細書中に援用されている。
【0090】
HT0712を腹腔内(i.p.)に用量:0.001 mg/kg; 0.005 mg/kg; 0.01 mg/kg; 0.05 mg/kg; 0.1 mg/kg; 0.15 mg/kgおよび0.2 mg/kgで投与した。ロリプラム(シグマ)を腹腔内に用量0.1 mg/kgで投与した。薬物化合物は十分な洗い流し時間を与えるために1週間間隔で注射した(HT0712およびロリプラムの半減期は3時間未満)。さらに、ビヒクルを注射したマウスと薬物を注射したマウスは実験間で釣り合っていた。かかる設計は、高用量の反復使用間で少なくとも2週間の洗い流し時間を与えた。用量蓄積性効果は群間/内での反復注射で観察されなかった。
【0091】
データ解析
実験をオーバーヘッドのビデオカメラ系によってビデオテープに録画した。タイプは、何も知らない観察者によって検討され、以下の行動パラメーター、各物体の探査時間;物体の探査の合計時間;物体への接近回数;物体に最初に接近するまでの時間(潜伏)、が測定された。差別化する指標は前述したように決定された(Ennaceur, A. およびAggleton, J. P., Behav. Brain Res., 88: 181-193 (1997) )。データは統計学ソフトウェアパッケージを用いて、スチューデント非対称t検定によって解析された(Statwiew 5.0.1; SAS Institute, Inc)。本文および図の凡例中の全ての値は平均±SEMとして表される。
【0092】
結果
CBPはリン酸化CREB(cAMP反応性要素結合タンパク質)転写因子に結合して遺伝子発現を制御する転写の共活性因子である(Lonze, B. E. およびGinty, D. D., Neuron, 35: 605-623 (2002) )。CREB依存性遺伝子発現は、いろいろな脊椎動物および無脊椎動物種における長期記憶形成の基礎となることが示され(Poser, S. およびStorm, D. R., Int. J. Dev. Neurosci., 19: 387-394 (2001); Bailey, C. H.ら, Nat. Rev. Neurosci., 1: 11-20 (2000); Dubnau, J. およびTully, T., Ann. Rev. Neurosci., 21: 407-444 (1998); およびMenzel, R., Learn Mem., 8: 53-62 (2001))、RTS患者の精神遅滞は、長期記憶の形成中の減少したCBP機能由来であり得るとの興味深い推測を導いた(D' Arcangelo, G. およびCurran, T., Nature, 376:292-293 (1995)。このために、Oikeら(Human Molecular Genetics, 8: 387-396 (1999))はRTS患者で観察される多くの異常を再現するドミナントネガティブな様式で行動すると思われる、マウスCBPのC末端切断変異体を作製した。ホモ接合のCBP-/-変異体は胚性致死であり、一方、ヘテロ接合のCBP+/-マウスは減少した生存能力、成長遅滞、骨成熟遅延および発育不全上顎骨を示す(Oike, Y.ら, Human Molecular Genetics, 8: 387-396 (1999))。重要なことに、CBP+/-マウスは正常な学習および短期記憶を示したが、二つの受動的な嫌悪課題についての長期記憶に欠損があり、記憶形成に正常なCBP機能が要求されるという概念を実証する(Oike, Y.ら, Human Molecular Genetics, 8: 387-396 (1999))。
【0093】
ハイスループットな薬物ふるい分けは、CRE(cAMP反応性要素)プロモーターによって駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子を安定してトランスフェクションした、ヒト神経芽腫細胞を用いて達成された(CREB機能の向上剤に関する薬物ふるい分け)(Scott, R. ら, J. Mol. Neurosci., 19: 171-177 (2002) )。細胞を2時間薬物にさらし、次に別に4時間最適以下の用量のフォルスコリンで刺激した。化合物は、それだけでは細胞自身には効果を示さないがフォルスコリン誘導性CRE−ルシフェラーゼ発現を有意に増加するものが選択された。このふるい分けから同定されるいくつかの分子標的について確認された多くのヒット間では、PDE4阻害剤は非常に多かった。
【0094】
本明細書中に記載されるように、PDE4阻害剤であるHT0712およびロリプラムは、記憶の動物モデルにおける能力に影響を及ぼすことを以前に示されているが(Barad, M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95: 15020-15025 (1998);およびVitolo, O. V.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99: 13217-13221 (2002))、両者はCRE−ルシフェラーゼ発現およびCRE依存性内因性遺伝子、somatostatin(図2)の発現に対して確固とした効果を生み出す。他のPDE4阻害剤は同様の効果を生み出すと期待される。
【0095】
正常な若い成体マウスについての最初の実験は、文脈上の恐怖条件付け後の長期記憶の形成が(i)直接海馬に、(ii)脳室内にまたは(iii)腹腔内に送達されたPDE4阻害剤(例えばHT0712およびロリプラム)によって高められたことを確立した(Scott, R. ら, J. Mol. Neurosci., 19: 171-177 (2002) )。すなわち、これらの薬物は最大の長期記憶を作るために必要である訓練の量を減少することによって記憶形成を増強した。
【0096】
CREB経路における分子欠損によって引き起こされる記憶障害をこれらの薬物が改善できるかどうかを決めるために、とりわけ(i)マウスの分子欠損(切断されたタンパク質)は一部のRTS患者で知られるものと類似しており、(ii)CBP+/-ヘテロ接合のマウスにおけるCBP機能は減少されるがブロックされず、(iii)学習または短期記憶ではなく、長期記憶の形成は、これらの変異体動物において特に妨害されているようであることから、ルービンスタイン−テービ症候群のマウスモデルが使用された(Oike, Y.ら, Human Molecular Genetics, 8: 387-396 (1999))。
【0097】
CBP+/-変異体における長期記憶の障害は恐怖に基づいた課題についてのみ報告されている(Oike, Y.ら, Human Molecular Genetics, 8: 387-396 (1999))。よって、CBP+/-変異マウスもまた異なる型の課題に対して長期記憶の障害を有するかが初めて決定された。物体認識はマウス本来の探査行動による非嫌悪課題である。この課題の訓練の間、マウスは二つの同一の新しい物体を与えられ、物体の方に向くこと、においを嗅ぐことおよび上を這うことによってしばらく探査する。そこでマウスはその物体を探査したことを覚えるだろう。かかる記憶を試験するために、マウスは後に二つの物体を与えられ、一方の物体は訓練中に前もって与えられ、そのため「知っている」ものであり、もう一方は新しいものである。マウスが知っている物体を覚えている場合、より多くの時間をかけて新しい物体を探査する。サルおよびラットでの物体認識を基にした「試料に相当しない」課題に類似して(Mishkin, M., Nature, 273: 297-298 (1978); Mishkin, M. およびAppenzeller, T., Sci. Am., 256: 80-89 (1987); およびWood, E. R. ら, Behav. Neurosci., 107: 51-62 (1993))、この課題は同じ動物に異なるセットの新しい物体を連続してにさらすことによって同じ動物に反復して行い得る。
【0098】
最初、CBP+/-変異体およびそれらの野生型(正常)同腹子は訓練の間新しい物体を探査するために15分間与えられ、次にそれの記憶保持が3時間および24時間後に試験される(図3)。3時間の記憶は正常のようだったが、24時間の記憶はCBP+/-変異体において有意に減少した。これらの結果は、CBP+/-変異体マウスが物体認識に関して欠損した長期記憶を有するが、正常な短期記憶を有することを示唆する。これらの所見によりOikeらの観察(Human Molecular Genetics, 8: 387-396 (1999))は、行動生物学的に関連する非嫌悪行動まで拡張され、CBPにおける機能喪失変異は長期記憶の形成に特別な障害を与え得るという概念を確証する。
【0099】
PDE4阻害剤を評価するために、薬物またはビヒクルのみが15分の訓練セッションの20分前に正常マウスおよびCBP+/-変異体に腹腔内投与された(図4)。前述の実験におけるように、24時間の記憶保持は薬物非存在のCBP+/-変異体では有意に減少した。しかしながら、著しく対照的に、0.10 mg/kg PDE4阻害剤(例えば、HT0712またはロリプラム)の単回の投与によってCBP+/-変異体の24時間の記憶は正常レベルに回復した。
【0100】
薬物の効果がCBPの分子欠損に特異的であるかに取り組むために、訓練プロトコルが変更され、用量感受性曲線が変異体および野生型動物について求められた。ここで使用された野生型のマウスでは15分の訓練プロトコルによって最高24時間の保持が生じる。結果として、野生型マウスにおける薬物誘導による記憶増強は観察されなかった(図4)。3.5分のプロトコルに訓練を減少することによって、野生型マウスにおいて24時間の保持はほぼゼロになり、そこでPDE4阻害剤の増強効果の評価が可能になる。CBP+/-変異体は野生型動物より機能性の低いCBPを有したので、等レベルの記憶増強を生じるために野生型マウスよりも変異体においてより高い薬物濃度が要求され得る。本質において、CBPにおける分子欠損は記憶形成を増強するためにPDE4阻害剤に対する用量感受性をシフトするよう働き得る。
【0101】
最初に野生型マウスの用量反応曲線が定量化された(図5)。ビヒクルのみで処置されたマウスにおいて、3.5分の訓練プロトコルによって、はっきりと認められる24時間の記憶は作製されなかった。0.05 mg/kg以下または0.50 mg/kgの濃度では、HT0712は任意の記憶増強を生じることが出来なかった。しかしながら、HT0712の0.05, 0.10および0.15 mg/kgの濃度では24時間の記憶保持は著しく増加した。次に、HT0712の選択された濃度で、CBP+/-変異体と野生型動物との間で記憶保持が比較された(図6)。最初の有効量は変異体と野生型動物との間で異なることが判明した。HT0712の0.05 mg/kgの用量で、野生型動物は24時間の記憶の有意な増強を示したが、CBP+/-変異体は示さなかった。まず、CBP+/-変異体では次に高い用量のHT0712(0.10 mg/kg)で記憶増強が見られた。同様にピークの有効量は野生型マウス(0.10 mg/kg)より変異体(0.15 mg/kg)においてより高い濃度にシフトするようである。
【0102】
HT0712が訓練情況(物体)の知覚または訓練中もしくは試験中に物体を探査する動機付けに影響することによって、課題における能力を非特異的に増加させているかどうかについても考察している。訓練中に物体に最初に接近するまでの潜伏、物体への接近の合計数および総探査時間が解析された。全ての実験において、遺伝子型および/または薬物治療の間で最初の接近までの潜伏については違いが観察されなかった。CBP+/-変異体マウスは、総探査時間および物体への接近の合計数において増加を示したが、薬物治療はこれらの測定を変化させず、これらの行動反応は差別化指標と相関しなかった。
【0103】
本明細書中のデータは、物体認識課題でのCBP+/-変異体について観察された記憶欠損がPDE4の阻害剤によって改善され得ることを示唆する。これらのPDE阻害剤は、神経活動における経験依存性変化に反応してcAMPレベルを増加させることによって、記憶形成中のCREB/CBPへのシグナリングを増強させるようである(Barad, M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95: 15020-15025 (1998); およびNagakura, A.ら, Neuroscience, 113: 519-528 (2002) )。これらCBP+/-マウスおよびルービンスタイン−テービ症候群の患者の間で分子および病理学の類似性があるので、本明細書中の所見はPDE4阻害剤が長期記憶の形成における機能的障害を救出または認知訓練および経験から患者が利益を得られるようにすることによる、この遺伝性条件と関連する精神遅滞に対する有効な治療を表すと示唆する。本明細書中の所見はまた、PDE4阻害剤が精神遅滞に関連した認知機能障害または認知障害を治療すること、および認知訓練および経験から患者が利益を得られるようにすることによる、エンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン−ローリー症候群、ダウン症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)およびウィリアムズ症候群を含むその他の精神遅滞症候群に対する有効な治療を表すことを含意する。
【0104】
本明細書中に挙げられた全ての出版物、特許および特許出願は、それぞれの出版物、特許または特許出願が詳細かつ個々に参照によって援用される場合と同じ程度、参考によって明細書中に援用されている。
【0105】
本発明はその好ましい態様に関して特に示され記載されているが、形態および詳細における様々な変更は添付の特許請求の範囲に含まれる発明の範囲を逸脱することなくここではなされ得ることが当業者には理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、脳可塑性の神経機構を示す概略図であり、それは増強認知訓練に対する神経学的基礎を形成している。特定の認知訓練プロトコルは、特定の基礎となる神経回路の神経活動の(経験依存性)変化をもたらす。この神経活動は、CREB依存性の遺伝子発現を調節する生化学過程を活性化する。この転写因子カスケードの下流エフェクターが次に、回路のシナプス結合内における長期間続く構造/機能の変化(例えば、長期記憶)(Dubnau J. ら, Current Biology, 13: 286-296 (2003))をもたらす。この経験依存性のシナプス修飾の過程は、正常な動物でずっと継続されており、通常、大半の課題に対して多数の訓練セッションを必要とする。訓練の間のCREB経路の促進が、シナプス構造および/または機能における経験依存性の変化をもたらすのに必要な訓練セッションの数(またはそれらの間の休息期間を短くする)を減少させる。
【図2】図2Aは、PDE4阻害剤ロリプラムおよびHT0712がヒト神経芽細胞腫の細胞においてフォルスコリン誘導性遺伝子発現を増強することを示す結果を描写した棒グラフの表示である。ルシフェラーゼから発した相対光ユニット(RLU)を、CREルシフェラーゼレポーター遺伝子で安定にトランスフェクトし、フォルスコリンの任意な量による刺激の2時間前に、ビヒクルのみまたは薬剤(HT0712 またはロリプラム)に供したヒト神経芽細胞腫の細胞において定量した。結果は、フォルスコリンの刺激4時間後に定量した場合、両薬剤によってフォルスコリンのみよりフォルスコリン誘導性CREルシフェラーゼ発現が1.9倍増大することを示している。図2Bは、PDE4阻害剤ロリプラムおよびHT0712がヒト神経芽細胞腫の細胞においてフォルスコリン誘導性の遺伝子発現を増強することを示す結果を描写した棒グラフの表示である。リアルタイムPCRを、ソマトスタチン、内在性cAMP応答遺伝子の発現を定量するのに使用した。フォルスコリンまたはフォルスコリン+薬剤によって誘導された発現レベルは、ビヒクルのみの対照群より上の閾値サイクル数(△Ct)における差として定量された。結果は、HT0712およびロリプラムがフォルスコリン誘導性のソマトスタチンの発現においてそれぞれ4.6倍および2.3倍の増大をもたらしたことを示している。
【図3】図3は、CBP+/-マウスが物体認識課題において長期記憶を減じたことを示す結果を描写した棒グラフの表示である。野性型マウスまたはCBP+/-変異マウスを15分間訓練し、および3時間または24時間後に検査した。記憶保持を、識別インデックス、新規対慣れた物体を探索するのに要した時間の分数、として定量した。3時間の記憶レベルは正常マウスおよびCBP+/-変異体(p=0.76; それぞれの遺伝子型に対してn=6)について同様であったが、24時間の記憶は変異マウスにおいて正常よりも有意に低かった(p<0.01;それぞれの遺伝子型に対してn=10)。
【図4】図4は、PDE4阻害剤HT0712またはロリプラムがCBP+/-変異体マウスにおいて長期記憶の欠陥を改善することを示す結果を描写した棒グラフの表示である。野性型マウスまたはCBP+/-変異マウスに、訓練の20分前に0.1 mg/kgのHT0712を与えるか、またはロリプラムを腹腔内に注射した。動物を15分の訓練セッションに供し、記憶保持を24時間後に検査した。ビヒクル注入したCBP+/-変異体において、ビヒクル注入した野性型マウスよりも記憶は有意に低かった(p<0.01; それぞれn=12およびn=6)。薬剤注入したCBP+/-変異体において、ビヒクル注入した変異体よりも記憶は非常に高かった(p<0.05; HT0712に対してそれぞれN=10およびN=12; p<0.05,ロリプラムに対してそれぞれN=8およびN=2)。記憶の保持は、薬物処理したCBP+/-変異体と薬物処理したの野性型マウスとの間での有意に差は無かった(p=0.78; HT0712に対する各群に対してN=10; p=0.19,ロリプラムに対してそれぞれN=8およびN=2)。
【図5】図5は、野性型マウスにおけるHT0712に対する量応答曲線を示す結果を描写した棒グラフの表示である。訓練の20分前に、マウスに薬物またはビヒクルのみの単一の腹腔内注射を与えた。0.001mg/kg、 0.005 mg/kg、 0.01 mg/kg、 0.05 mg/kg、 0.10 mg/kg、 0.15 mg/kg、 0.20 mg/kgおよび0.50 mg/kgの量を使用した。動物を3.5分間の訓練プロトコルに供し、24時間後に検査した。0.05 mg/kg(N=20; p<0.05)、0.10 mg/kg(N=22; p<0.0001)および0.15 mg/kg(N=18; p<0.001)の量で、薬物注入した動物における記憶保持は、ビヒクルのみの動物(N=35)よりも有意に高かった。
【図6】図6はCBP+/-変異体および野性型マウスがHT0712に対して異なる用量の感受性を示す結果を描写したグラフ表示である。CBP+/-変異体および野性型マウスに、訓練の20分前に、ビヒクルまたは薬物の単一の腹腔内注射を与えた。それらを3.5分間の訓練プロトコルに供し、24時間後に検査した。野性型において、0.05 mg/kg(N=12; p<0.005)、0.10 mg/kg(N=8; p<0.0001)、0.15 mg/kg(N=18; p<0.005)および0.20 mg/kg(N=14; p<0.005)の用量で、薬物処理した群での記憶保持は、ビヒクルのみ(N=26)の群よりも高かった。CBP+/-変異体において、0.10 mg/kg(N=8; p<0.0001)、0.15 mg/kg(N=10; p<0.0001)、および0.20 mg/kg(N=14; p<0.0001)の用量で、薬物処理した群での記憶保持は、ビヒクルのみ(N=26)の群よりも高かった。野性型マウスは対照的に、0.05 mg/kg用量のHT0712は、CBP+/-変異体(N=26; p=0.79)における記憶を増強しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精神遅滞に関連する認知障害の治療に用いる医薬の製造のためのホスホジエステラーゼ4阻害剤の使用であって、ここで該治療が
a)該治療を必要とする動物にホスホジエステラーゼ4阻害剤を投与すること;および
b)障害が精神遅滞に関連する認知課題を有する該動物による動作の向上を生み出すのに十分な条件下で該動物を訓練すること
によって該認知障害を治療することを含む、使用。
【請求項2】
訓練のみによって達成される該認知課題の動作に関して動作の増大が達成される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
該精神遅滞がルービンスタイン−テービ症候群、ダウン症候群、エンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン−ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X-1症候群、ぜい弱X-2症候群およびウィリアムズ症候群からなる群から選択される障害に関連する、請求項1記載の使用。
【請求項4】
工程(b)において訓練が複数の訓練期間を含む、請求項1記載の使用。
【請求項5】
該ホスホジエステラーゼ4阻害剤が体重1kgあたり約0.05〜約10.0 mgの用量で投与される、請求項1記載の使用。
【請求項6】
該ホスホジエステラーゼ4阻害剤が各訓練期間前および期間中に投与される、請求項1記載の使用。
【請求項7】
該ホスホジエステラーゼ4阻害剤がロリプラムおよびHT0712からなる群から選択される、請求項1記載の使用。
【請求項8】
該ホスホジエステラーゼ4阻害剤が各訓練期間後に投与される、請求項1記載の使用。
【請求項9】
該動物が哺乳動物である、請求項1記載の使用。
【請求項10】
該哺乳動物がヒトである、請求項9記載の使用。
【請求項11】
ルービンスタイン−テービ症候群に関連する認知障害の治療に用いる医薬の製造のためのホスホジエステラーゼ4阻害剤の使用であって、ここで該治療は
a)該治療を必要とする動物に該ホスホジエステラーゼ4阻害剤を投与すること;および
b)障害がルービンスタイン−テービ症候群に関連する認知課題を有する該動物による動作の向上を生み出すのに十分な条件下で該動物を訓練すること
によって該認知障害を治療することを含む、使用。
【請求項12】
訓練のみによって達成される該認知課題の動作に関して動作の増大が達成される、請求項11記載の使用。
【請求項13】
工程(b)において訓練が複数の訓練期間を含む、請求項11の使用。
【請求項14】
該ホスホジエステラーゼ4阻害剤が各訓練期間前および期間中に投与される、請求項11記載の使用。
【請求項15】
該ホスホジエステラーゼ4阻害剤が体重1kgあたり約0.05〜約10.0 mgの用量で投与される、請求項11記載の使用。
【請求項16】
該ホスホジエステラーゼ4阻害剤が各訓練期間後に投与される、請求項11記載の使用。
【請求項17】
該ホスホジエステラーゼ4阻害剤がロリプラムおよびHT0712からなる群から選択される、請求項11記載の使用。
【請求項18】
該動物が哺乳動物である、請求項11記載の使用。
【請求項19】
該哺乳動物がヒトである、請求項18記載の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−524243(P2006−524243A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509825(P2006−509825)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/010876
【国際公開番号】WO2004/091609
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(501449388)コールド スプリング ハーバー ラボラトリー (1)
【Fターム(参考)】