説明

壁材への固定構造、およびアンカーボルト

【課題】施工性に優れる壁材への固定構造の提供を目的とする。
【解決手段】躯体1から離れた位置にある壁材2の表面2aに固定対象物3を固定する壁材への固定構造であって、
躯体1に穿孔された下穴4に挿入される先端部に先端に向かって漸次拡径する拡径部材5を螺着され、壁材2に穿孔された貫通孔6から飛び出す後端部に螺子7aが形成されるピン7と、
拡径部材5の外周面8に圧接して該拡径部材5を回り止めするとともに、拡径部材5により拡開されて下穴4内壁に圧接する拡開部9が形成され、かつ、躯体1に固定された拡開部9に先端を支持され、貫通孔6に挿入されて後端面10aを壁材2表面2aにほぼ合わせられる支持胴体部10を備えるスリーブ11とを有し、
壁材2表面2aに当接する固定対象物3のピン7後端部の螺子7aによるナット12止めによって拡径部材5を後方に引き込み、支持胴体部10によって固定対象物3を支えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は壁材への固定構造、およびアンカーボルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
躯体に対して空気層等を介して壁材を取り付けることは遮音性などを高めるために有効であり、このようなものとして、例えば、いわゆるGL工法がある。このGL工法は、躯体としてのコンクリートに対して壁材としての石膏ボードを団子状の接着剤によって取り付けて中空壁を構築するものであるが、壁材が裏面側から十分に支持されない状態におかれるために、その表面に手摺などを後施工により固定したい場合、荷重負担や壁材の破損防止が大きな問題となる。
【0003】
そして、このような問題を解決するものとして、従来、特許文献1に記載されたものが知られている。この従来例はコンクリート壁に団子状の接着剤等によって取り付けられた化粧板に対してガードレール、すなわちガードレールを支持するブラケットを固定するもので、ブラケットは、コンクリート壁に嵌挿されるパイプ体のねじ部に対してヘッドナットによって固定される。上記パイプ体はコンクリート壁に穿設される孔に対して基端部を嵌挿され、打ち込み軸を内部に打ち込まれることによって拡開外周面を孔内周面に押し付け、さらに接着剤を注入されてコンクリート壁に埋設固定される。
【0004】
また、ブラケットの固定に際しては、パイプ体のねじ部にラウンドナットが螺合され、ラウンドナットの表面を化粧板の表面とほぼ面一に合わせることにより、化粧板表面のみならずラウンドナットに対してもブラケットが当接するようにされる。このラウンドナットは化粧板表面に位置決めしたのち、接着剤を注入することによって不動状態にされる。
【特許文献1】実公平6-48034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例は、その表面が化粧板の表面に揃うようにラウンドナットを回転させて細かな位置調整しなければならない上に、ラウンドナットを位置不動にするために接着剤を用いることから、施工に手間と時間がかかってしまうという欠点がある。
【0006】
また、このような施工の手間等は、パイプ体等を嵌挿させるために躯体に穿設する孔とは別に、ラウンドナットを配置するためのより大径の貫通孔を壁材に穿孔しなければならないことについても同様で、サイズの異なるドリルビットを用いた2回のドリル装置による穿孔作業を必要とする。
【0007】
本発明は、以上の欠点を解消すべくなされたものであって、施工性に優れる壁材への固定構造の提供を目的とする。
【0008】
また、本発明の他の目的は、かかる固定構造を実現できるアンカーボルトの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば上記目的は、
躯体1から離れた位置にある壁材2の表面2aに固定対象物3を固定する壁材への固定構造であって、
躯体1に穿孔された下穴4に挿入される先端部に先端に向かって漸次拡径する拡径部材5を螺着され、壁材2に穿孔された貫通孔6から飛び出す後端部に螺子7aが形成されるピン7と、
拡径部材5の外周面8に圧接して該拡径部材5を回り止めするとともに、拡径部材5により拡開されて下穴4内壁に圧接する拡開部9が形成され、かつ、躯体1に固定された拡開部9に先端を支持され、貫通孔6に挿入されて後端面10aを壁材2表面2aにほぼ合わせられる支持胴体部10を備えるスリーブ11とを有し、
壁材2表面2aに当接する固定対象物3のピン7後端部の螺子7aによるナット12止めによって拡径部材5を後方に引き込み、支持胴体部10によって固定対象物3を支える壁材への固定構造を提供することにより達成される。
【0010】
本発明によれば、固定対象物3の壁材2への固定は躯体1に支持されたピン7とスリーブ11とを用いてなされ、ピン7に形成される螺子7aに固定対象物3をナット12止めした状態でピン7のみならずスリーブ11によっても固定対象物3が支えられ、荷重負担が図られるとともに壁材2の破損が防止される。躯体1に穿孔される下穴4、壁材2に穿孔される貫通孔6は、いずれもスリーブ11が挿入できるサイズであれば足り、単一のドリルビットを用いて一度に穿孔作業を行うことができ、穿孔作業を迅速に済ませることができる。荷重負担を考慮して、基本的にスリーブ11には壁材2よりも高強度の材料で形成されたものが用いられ、また、径の太いものが用いられる。
【0011】
ピン7の躯体1への固定は、躯体1に固定されたスリーブ11に嵌合することによりなされ、このためピン7には、スリーブ11に形成される拡開部9に嵌合する拡径部材5が螺着されるとともに、拡径部材5の反対端にはナット12止めのための螺子7aが形成される。拡開部9は拡径部材5の外周面8に圧接することにより拡径部材5を回り止めし、ナット12の締め付けに伴って回り止めされた拡径部材5が螺子7aによって運ばれてピン7に対して相対移動し、拡開部9にしっかりと嵌合する。
【0012】
スリーブ11の躯体1への固定、および拡径部材5の回り止めは、躯体1に穿孔された下穴4に拡径部材5を装着したピン7を予め挿入した状態でスリーブ11を打ち込むことによりなされる。打ち込みにより拡径部材5の外周面8に衝接する拡開部9は、拡開して下穴4の内壁、および拡径部材5の外周面8のそれぞれに表裏が圧接する。このスリーブ11は、拡開部9の後方に配置される支持胴体部10を備え、拡開部9が拡開して躯体1に固定された状態でその後端面10aを壁材2の表面2aにほぼ合わせられることにより、壁材2表面に固定される固定対象物3を支える。
【0013】
したがって本発明によれば、まず最初にドリル装置によって壁材2を貫通して躯体1にスリーブ11が通る程度の下穴4を穿孔し、次いで、ピン7、スリーブ11の順に下穴4内に挿入する。未だ拡開していない拡開部9の先端が拡径部材5に接触して下穴4内への挿入を阻まれる状態において、スリーブ11の後端が壁材2の貫通孔6からやや飛び出す程度にしておき、次いで、飛び出す後端を壁材2の表面2aとほぼ同一面に達するまで打ち込めば、拡開部9が拡開してスリーブ11が躯体1に固定され、また、拡径部材5が回り止めされる。この後、スリーブ11の後端面10aに固定対象物3を当接させるようにし、固定対象物3に適宜形成されるピン孔にピン7を通すなどしてナット12止めするだけで作業が終了する。
【0014】
ナット12の回転操作は、回り止めされた拡径部材5との間に配置されるスリーブ11が躯体1に固定されていることにより、支持胴体部10後端面10aである壁材2表面を越えた躯体1側へのナット12の移動が規制されることで、拡径部材5を壁材2表面2a側に引き寄せるのみで、壁材2に荷重が加わることはない。この回転操作が進むにつれてピン7のスリーブ12、躯体1との固定強度が高まり、ピン7およびスリーブ11が固定対象物3を極めてしっかりと躯体1に固定する。
【0015】
また、上述したように下穴4等に挿入されるスリーブ11によって固定対象物3を支えるため、躯体1に不陸があっても固定対象物3の支持が不安定になることはなく、作業が繁雑になることはない。すなわち、固定対象物3の裏面側の支持強度の向上は、例えば、躯体1表面との間に適宜のバックアップ材等を配置して実現することもできるが、躯体1の表面ではなく下穴4を利用することで、このような場合に煩雑な不陸との調整を省くことができる。
【0016】
さらに、上述したナット12の回転操作は、拡径部材5をピン7に進退自在に螺着するこの発明において、拡径部材5を伴うピン7の躯体1側への移動のほか、ピン7の共回りによる拡径部材5のみの躯体1側への移動によっても実現される。すなわち、支持胴体部10が固定対象物3と拡径部材5との間で挟まれると、ナット12に対して固定対象物3を介して後端側への押圧力が作用する。この押圧力はナット12とピン7の螺子山同士の噛み合いを生じさせ、この状態でナット12に回転力を加えると、ナット12にピン7との間でネジ山同士をより強く圧接させる反力Rが働き、ピン7の共回りが生じる。
【0017】
加えて、上述したようにスリーブ11を打ち込む場合、ピン7を予め下穴4の底面に突き当てておけば、作業を簡単に行うことができる。一般的に後施工アンカーにおける下穴4の穿孔は、壁材2表面からの深さを厳密に管理して行われるが、拡径部材5がピン7に螺着される本発明において、拡径部材5をピン7の長手方向に螺子7aにより位置調整すれば、穿孔深さの管理をより柔軟にすることができる。すなわち、この場合、ピン7の先端面が下穴4の底面に接するときに、スリーブ11の後端面10aが壁材2の表面2aに位置するようにピン7における拡径部材5の位置を調整すればよい。
【0018】
以上の壁材への固定構造を実現するアンカーボルトは、
先端部に先端に向かって漸次拡径する拡径部材5が、後端部にナット12が螺着されるピン7と、
前記拡径部材5の外周面8に圧接して拡開する拡開部9を先端に備えるとともに、後端に鍔部13が形成されて拡径部材とナットとの間に挟まれるスリーブ11とを有して構成することができる。
【0019】
この発明において、スリーブ11の後端に形成される鍔部13は、打ち込み時にスリーブ11の後端面10aを容易に壁材2表面に合わせることを可能にする。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、施工性に優れる壁材への固定構造を提供することができ、かかる固定構造を実現できるアンカーボルトを提供することができるために、いわゆるGL工法壁などへの手摺等の設置作業性を極めて高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1ないし図5に本発明の実施の形態を示す。この実施の形態はGL工法壁に固定対象物3としての手摺装置を固定するもので、図1に示すように、壁材2としての石膏ボードは躯体1としてのコンクリート壁に対して団子状にした所定の接着剤20を介して直張りされる。石膏ボード2の張り付け位置は予め床躯体等に墨出しされ、コンクリート壁1に付着させた団子状の接着剤20が石膏ボード2との間に挟まれて固化することにより、石膏ボード2とコンクリート壁1との間に遮音性を高める空気層が形成され、コンクリート壁1に石膏ボード2が固定される。
【0022】
手摺装置3は、手摺体21をブラケット22に装着して形成され、ブラケット22には、石膏ボード2表面2aに適宜の面積で支持される平坦な取り付け面を備えた設置基部22aが形成される。このブラケット22はアルミニウムの一体成型品であり、上記設置基部22aには石膏ボード2表面2a側へのナット12止めによって固定するための取付孔23が開設される。手摺体21は、芯材21aを笠木材21bで被覆して形成され、石膏ボード2表面2aに固定されたブラケット22に対して芯材21aがねじ止めされることにより、石膏ボード2表面2aから所定間隔離れた位置に配置される。以上の手摺装置3は、上述した取付孔23に挿通されるアンカーボルトAによって石膏ボード2表面2aに固定される。なお図1において24は、アンカーボルトAとの締結部を隠すためのブラケットカバーである。
【0023】
アンカーボルトAは、図1および図2に示すように、外形が略錐体形状からなる拡径部材5が螺着されたピン7と、拡開方向に変形容易な拡開部9が形成されたスリーブ11とを有し、ピン7をスリーブ11内に挿通させ、拡径部材5で拡開部9を拡開させることによって抜け止めできるように形成される。上記ピン7は、図2(a)に示すように、ステンレス等の金属材料からなる寸切りボルト25の一端部に拡径部材5を螺着して形成され、拡径部材5は、ステンレス等の金属材料により外形が略円錐形状をなすように一体成形され、中心部を貫通する雌ねじ5bを寸切りボルト25に螺合させることにより、寸切りボルト25の周りに全周に渡って錐面を形成する。この拡径部材5には、図2(c)に示すように、錐面に拡開部9との圧接による空転止めを促す溝5aが形成される。また、上記寸切りボルト25の他端部には、平ワッシャー26およびナット12が螺着される。
【0024】
スリーブ11は、図2(b)に示すように、鉛により形成される拡開部9と、ポリカーボネートにより形成される支持胴体部10とを有し、これら拡開部9と支持胴体部10を接着等により一体に連結して形成される。上記拡開部9は、円筒状に一体成形した鉛の一端から他端近傍に至るまで複数のスリット9aを入れることにより形成され、該スリット9aにより周方向に区画された複数の拡開片9b、この実施の形態においては4枚の拡開片9b、9b、・・を備える。各拡開片9bの外周面には滑り止め9cが形成される。この拡開部9の拡開片9bの基端部側には、支持胴体部10との連結を強固にするために径方向に段部9dが形成される。
【0025】
また、支持胴体部10は、硬質樹脂であるポリカーボネートを円筒状にして形成され、拡開部9と連結される一端には、拡開部9の段部9dと径方向に係合する係合部10aが形成される。また、支持胴体部10の他端には、厚さが1mm以内の薄い鍔部13が全周に渡って形成される。
【0026】
以上のアンカーボルトAによる手摺装置3の石膏ボード2表面への固定作業について、図3ないし図5を用いて説明する。固定作業は、まず最初に図3(a)に示すように、ドリルビット27によって石膏ボード2を貫通してコンクリート壁1に下穴4を設けることから始まる。ドリル装置に取り付けるドリルビット27のサイズを選定することにより、下穴4はスリーブ11の外径よりもひとまわり大きいものにされる。また、下穴4がアンカーボルトAをしっかりと固定できる程度の深さ以上になるように、ドリルビット27には、石膏ボード2の厚さや、石膏ボード2とコンクリート壁1との間の隙間を考慮して図示しない目印が付けられ、これにしたがって一定以上の深さを備えた下穴4の穿孔作業が行われる。
【0027】
穿孔作業後には、穿孔作業に伴って発生したコンクリート壁1の粉や石膏ボード2の粉が下穴4内等から除去される。除去作業は、下穴4や石膏ボード2に穿孔された貫通孔6内にブラシを入れるなどして行うことができる。
【0028】
以上のようにして形成された貫通孔6、下穴4に対し、次に、アンカーボルトAを挿入する。挿入作業は、ピン7からナット12や平ワッシャー26を取り外した状態で行われ、また、図3(b)に示すように、拡開部9を拡径部材5の外周面8に対して特段圧接させない状態、言い換えれば、スリーブ11がピン7に対してその長手方向に自由に相対移動できる状態を維持して行われる。
【0029】
また、この実施の形態においては、ピン7の寸切りボルト25の長さが石膏ボード2表面2aから下穴4の底面までの距離よりもやや長寸になる程度に設定され、さらに、スリーブ11の長さについては、寸切りボルト25の先端を下穴4の底面に突き当てたときに、寸切りボルト25の先端部に螺着される拡径部材5の錐面の基端部近傍から石膏ボード2表面2aまでの距離よりも例えば5mm程度などやや長くなる程度に設定される。したがってアンカーボルトAを単に指などで下穴4内等に挿入しても、図3(b)に示すように、スリーブ11の後端部が石膏ボード2の表面からやや突出した状態でそれ以上の挿入が難しくされる。
【0030】
アンカーボルトAの挿入作業は、この後、図4(a)に示すように、円筒状の治具28によってスリーブ11を打ち込むことにより完了する。この治具28は支持胴体部10とほぼ同じ程度の断面形状で、打ち込みによって、上述したようにナット12が取り外されたピン7には直接触れることなく、スリーブ11のみに下穴4側への押圧力を加えることができる。治具28による打ち込みは、スリーブ11の後端面10aが石膏ボード2表面2aにほぼ位置するまで行われ、後端に形成される鍔部13を石膏ボード2表面2aに係止させることで打ち込みストロークの深さが適正に維持しやすくされる。なお、図4(a)においては、鍔部13が石膏ボード2の表面2a側にやや埋設されてスリーブ11の後端面10aと石膏ボード2表面2aが完全に面一になった状態を示すが、鍔部13を石膏ボード2表面2aに係止させたとしても、上述したようにその厚さは極めて薄いため、スリーブ11の後端面10aと石膏ボード2表面2aはほぼ同一面をなすことができる。
【0031】
以上の治具28によるスリーブ11の打ち込みによって、スリーブ11はピン7に対して相対移動し、スリーブ11先端の拡開部9がピン7の拡径部材5の錐面に衝接する。拡開部9の各拡開片9bは、拡径部材5の錐面に衝接すると、錐面への圧接状態を維持しながら錐面に沿うように外方に向かって変形する。この状態で拡径部材5のスリーブ11に対する相対回転は滑り止め9cの噛み込みにより禁止され、後述するようにスリーブ11が下穴4内でほぼ固定状態に置かれていることで、拡径部材5の下穴4に対する相対回転が禁止される。
【0032】
また、外方に向かって変形した拡開片9bは、拡径部材5の錐面と下穴4の内壁面との間に圧入し、これにより、スリーブ11が下穴4内に固定される。このスリーブ11によって同様に下穴4開口方向の移動を規制される拡径部材5は、寸切りボルト25とのネジ山のかみ合いによって寸切りボルト25の下穴4開口方向への移動についても規制するが、上述したようにスリーブ11の打ち込み深さは小さいため、この状態におけるピン7の引き抜きに対する抵抗力は、手摺装置3の荷重負担に十分に耐えられるものまではなく、すなわち、この状態においてアンカーボルトAは下穴4に仮固定されるに過ぎない。
【0033】
以上の挿入作業が完了すると、この後、石膏ボード2表面2aから突出するピン7の後端部を取付孔23に挿入させて手摺装置3をナット12止めする締結作業を行う。上述したように寸切りボルト25の先端を下穴4の底面に突き当てて位置決めし、これによってスリーブ11のあまり深くない打ち込みストロークを確保するこの実施の形態において、拡径部材5よりも先端側に突出する寸切りボルト25の突出部分は、寸切りボルト25よりも大径の拡径部材5を下穴4の底面に突き当てて位置決めすることによる位置決め精度の低下を防止するものとして機能するとともに、この実施の形態においては、手摺装置3のナット12止め代としても機能する。
【0034】
すなわち、締結作業に先立って、図4(b)に示すように、石膏ボード2表面2aから突出する部分を操作して寸切りボルト25を回転させ、仮固定された拡径部材5に対してネジ山を利用して寸切りボルト25を相対移動させることにより、石膏ボード2表面にナット12止めに十分な螺子7aの余長が表れる。この後、図5(a)に示すように、寸切りボルト25の石膏ボード2表面2aから突出する部分を取付孔23に挿通させ、ブラケット22の設置基部22aをスリーブ11後端面10aおよび石膏ボード2表面2aに当接させても、寸切りボルト25の後端部は取付孔23から突出し、ここに螺着させることによりナット12を締め付けることができる。
【0035】
ナット12の締結作業は、ナット12が設置基部22aの表面に当接するまでは寸切りボルト25に対して空転することで進行するが、設置基部22aに当接した状態でさらにナット12を締め付けると、回り止めされた拡径部材5とナット12との間に挟まれたスリーブ11に圧縮方向の力を与えることになり、図5(b)に示すように、その反力Rによってナット12には設置基部22aを介してねじ締め方向と反対側、すなわち後方への力が作用する。これに対し、拡径部材5には、拡開部9によって外周面8への押圧力Fが働くに過ぎないため、拡径部材5には先端側にあまり大きな力が作用することはない。
【0036】
したがって上述の反力Rは、寸切りボルト25とナット12との互いに噛み合うネジ山間に大きな摩擦力、圧接力を発生させ、これに対し、寸切りボルト25と拡径部材5との間にはこれに比して小さな摩擦力しか作用しないため、以後ナット12を回転させると、その回転力が寸切りボルト25にも作用して寸切りボルト25も共回りしやすいようになる。この寸切りボルト25の回転は、ネジ山同士の噛み合いによって、回り止めされた拡径部材5との間での相対移動を生じさせる。寸切りボルト25は、下穴4に固定されたスリーブ11によって先端側への移動を規正されたナット12とのネジ山同士の噛み合いによって先端側への移動が規制されるため、この相対移動は拡径部材5の後端側への移動を生じさせることになる。
【0037】
これにより、拡径部材5の外周面8に圧接する拡開部9は下穴4内でさらに拡開し、拡径部材5が下穴4内に強固に保持される。この拡径部材5の強固な保持により、寸切りボルト25は、手摺装置3に求められる荷重負担を満たすことができる程度に強固に支持される。また、スリーブ11も下穴4に強固に保持され、その後端面10aはしっかりと設置基部22aの裏面に圧接し、拡径部材5を支点とした寸切りボルト25の設置基部22aを伴う揺動はスリーブ11によって規制され、かかる揺動による石膏ボード2の破損が防止される。
【0038】
図2(d)に上述した支持胴体部10の変形例を示す。この変形例において、支持胴体部10は全長に渡ってスリーブ11後端側に行くに従って漸次拡径して形成される。また、鍔部13も後端に行くに従って緩やかに漸次拡径し、下穴4打ち込み方向への移動に伴って石膏ボード2を破損しない程度に貫通孔6周りに圧縮できるようにされる。したがってスリーブ11後端面10aの面積を同程度確保しつつ、荷重負担による鍔部13の損傷のおそれが低減される。
【0039】
なお、以上の実施の形態においては下穴4の底面にピン7の先端を突き当てる場合を示したが、ピン7の下穴4等への挿入方向の移動を規制することにより、コンクリート壁1に形成された貫通孔6に対しても抜け止めを図ることができる。また、以上においてはスリーブ11の支持胴体部10のみを硬質のポリカーボネートで形成する場合を示したが、拡径部材5についても硬質のポリカーボネートで形成することが可能で、この場合、コンクリート壁1から寸切りボルト25への伝熱効率をより抑えることができ、寸切りボルト25の防露、防錆効果を高めることができる。また、支持胴体部10は、その先端部が拡開部9によって十分に支持されていれば、拡開部9と別体で構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】手摺装置の壁材への取り付け構造を示す要部縦断面図である。
【図2】アンカーボルトを説明する図で、(a)はピンの側面図、(b)はスリーブの半断面図、(c)は(a)の2C-2C線断面図、(d)は支持胴体部の変形例で、側面図である。
【図3】施工作業を説明する図で、(a)は穿孔作業を説明する要部縦断面図、(b)は挿入作業の第一段階を説明する要部縦断面図である。
【図4】施工作業を説明する図で、(a)は挿入作業の第二段階を説明する要部縦断面図、(b)は締結作業の初期段階を説明する要部縦断面図である。
【図5】施工作業を説明する図で、(a)は締結作業の中間段階を説明する要部縦断面図、(b)は締結作業の終期段階を説明する要部縦断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 躯体
2 壁材
2a 表面
3 固定対象物
4 下穴
5 拡径部材
6 貫通孔
7 ピン
7a 螺子
8 外周面
9 拡開部
10 支持胴体部
10a 後端面
11 スリーブ
12 ナット
13 鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体から離れた位置にある壁材の表面に固定対象物を固定する壁材への固定構造であって、
躯体に穿孔された下穴に挿入される先端部に先端に向かって漸次拡径する拡径部材を螺着され、壁材に穿孔された貫通孔から飛び出す後端部に螺子が形成されるピンと、
拡径部材の外周面に圧接して該拡径部材を回り止めするとともに、拡径部材により拡開されて下穴内壁に圧接する拡開部が形成され、かつ、躯体に固定された拡開部に先端を支持され、貫通孔に挿入されて後端面を壁材表面にほぼ合わせられる支持胴体部を備えるスリーブとを有し、
壁材表面に当接する固定対象物のピン後端部の螺子によるナット止めによって拡径部材を後方に引き込み、支持胴体部によって固定対象物を支える壁材への固定構造。
【請求項2】
前記ピンには、下穴底面に先端を突き当てたときに、後端面を壁材表面にほぼ合わせられたスリーブの拡開部を拡開させる位置に拡径部材を位置調整可能に螺子が形成される請求項1記載の壁材への固定構造。
【請求項3】
先端部に先端に向かって漸次拡径する拡径部材が、後端部にナットがそれぞれ螺着されるピンと、
前記拡径部材の外周面に圧接して拡開する拡開部を先端に備えるとともに、後端に鍔部が形成されて拡径部材とナットとの間に挟まれるスリーブとを有するアンカーボルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−215730(P2009−215730A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58092(P2008−58092)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000110479)ナカ工業株式会社 (125)
【Fターム(参考)】