説明

変換機構

【課題】
コンパクトでありながら、高い信頼性を有する変換機構を提供する。
【解決手段】
ねじ軸4のフランジ部4bと、ナット5との間に軸受を介在させることで、ナット5の移動端で当接可能とし、オーバーシュートしたナット5を軸受により係止し且つフランジ部4bに対して相対回転転可能に支持することで、摩耗や騒音等の問題を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変換機構に関し、例えば、汎用昇降機、ジャッキ、車両用電動パーキングブレーキ、電動ディスクブレーキ、ベルトCVTのプーリ駆動機構、4WDの2WD、4WD切り変え機構、変速装置切り替え機構、クラッチ切り替え機構、戸開閉装置等に用いることが出来る電動アクチュエータに適用すると好適な変換機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の省力化が進み、例えば自動車のトランスミッションやパーキングブレーキなどを手動でなく、電動モータの力により行うシステムが開発されている。そのような用途に用いる電動アクチュエータには、電動モータから伝達される回転運動を高効率で軸線方向運動に変換するために、ボールねじ機構が用いられる場合がある。
【0003】
ここで、特許文献1には、モータからの動力をボールねじ機構を介してブレーキパッドに伝達し、ブレーキを動作させるブレーキ装置が開示されている。
【特許文献1】特表2002−506179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に開示されたブレーキ装置においては、その図1に示す構成においては、直動変換装置ナット側にハウジングを設け、一方にスラスト玉軸受を配置したものが示されており、更にその図3に示す構成においては、直動変換装置ねじ軸側と同軸上に別体のフランジを設けその端面にスラストニードル軸受を配置したものが示されている。
【0005】
しかるに、特許文献1の図1に開示された構成では、直動変換装置がブレーキパッドを押し付ける方向へ作動したときにその反力は、直動変換装置ナットに設けられたフランジを介しスラスト玉軸受にて支持される。しかしながら、逆に、反押し付け側ヘ作動させたときに、止まる位置より戻り過ぎ(オーバーシュート)の状況に陥ってしまった場合は、直動変換装置ねじ軸に嵌合されている押し付け棒の嵌合部の軸線方向の規制が不十分な場合、脱落が生じる恐れがある。脱落が生じるとパッドがディスクに引きずられた状態となる場合があり、騒音問題、パッドの早期磨耗、引きずりトルクによる燃費低下をもたらす可能性がある。更に、最悪の場合では、押し付け側ヘ転じた際に駆動力が伝達されず、パッドが押されずブレーキが掛からなくなる可能性も否めない。
【0006】
また、特許文献1の図1に開示された構成では、直動変換装置がブレーキパッドを押付ける方向ヘ作動したとき、その反力は直動変換装置ナット、ねじ軸、ねじ軸と別体のフランジを介してスラストニードル軸受にて支持される。逆に、反押付け側ヘ作動させたとき、戻しきった状態でさらに反押付け側ヘ作動力が発生してまうようなことが生じ、その力が、直動変換装置ねじ軸とスピンドルとの嵌合力より大きくなってしまった場合、それらは外れてしまい、図1の構成と同様な不具合が発生してしまう。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、コンパクトでありながら、高い信頼性を有する変換機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の変換機構は、
ハウジングと、
フランジ部を有しモータの回転軸に連結された回転要素と、被駆動部材に連結された軸線方向移動要素とを含み、前記回転要素の回転運動を前記軸線方向移動要素の軸線運動に変換する伝達手段と、
前記回転要素のフランジ部と、前記軸線方向移動要素との間に介在し、前記軸線方向移動要素の移動端で当接するようになっている軸受と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
前記軸線方向移動要素が軸線方向にオーバーシュートすることを防止するには、係止部材を設ければ良いが、係止部材を設けた場合、そのためのスペースが必要となるから、変換機構のコンパクト化が図れない。一方、前記回転要素に係止部を設ければ、前記軸線方向移動要素のオーバーシュートを阻止できるが、前記回転要素との間で相対回転が生じるので摩耗や騒音の問題が生じる。これに対し、本発明の変換機構によれば、前記回転要素のフランジ部と、前記軸線方向移動要素との間に介在し、前記軸線方向移動要素の移動端で当接するようになっている軸受を設けることにより、オーバーシュートした前記軸線方向移動要素を前記軸受により係止し且つ前記フランジ部に対して相対回転可能に支持することで、摩耗や騒音等の問題を回避することができる。
【0010】
前記伝達手段は、外周面に雄ねじ溝を形成したねじ軸と、前記ねじ軸を包囲するように配置され且つ内周面に雌ねじ溝を形成したナットと、対向する両ねじ溝間に形成された転走路に沿って転動自在に配置された複数のボールとからなるボールねじ機構であると、円滑な動力の伝達を行えるので好ましい。
【0011】
前記フランジ部の両側に軸受が配置されていると好ましい。
【0012】
前記フランジ部は、前記軸受の転動体の軌道面となっていると、軌道輪を不要とでき、よりコンパクトな構成を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、第1の実施の形態である変換機構を備えた電動アクチュエータの断面図である。
【0014】
図1において、ハウジング1に固定された電動モータ2は、中空のねじ軸4を貫通する回転軸2aを有している。回転軸2aの先端に結合され一体的に回転する円板3は、セレーション結合によりねじ軸4の内周に係合しており、従って両者は一体的に回転するようになっている。ねじ軸4の周囲にはナット5が配置されている。
【0015】
軸線方向移動要素であるナット5は、ハウジング1に対して軸線方向にのみ移動するように取り付けられ、且つブッシュ6により移動可能に支持されている。ナット5の内周面には、雌ねじ溝5aが形成されている。回転要素であるねじ軸4は、円板3を介して回転軸2aに取り付けられることで、回転のみ可能となるように支持されており、外周面に雄ねじ溝4aを形成している。複数のボール7が、対向する両ねじ溝間4a、5aに形成された螺旋状の転走路内を転動自在となるように配置されている。ナット5には、ボール7の循環用のコマ(不図示)が設けられている。ねじ軸4と、ナット5と、ボール7とでボールねじ機構(伝達手段)を構成する。
【0016】
ねじ軸4は、電動モータ2側の端部にフランジ部4bを形成している。フランジ部4bの軸線方向両側には、転動体であるころ8が転動可能に配置されており、更にころ8を包囲するようにしてケース9が設けられている。尚、フランジ部4bと、ころ8と、ケース9とで、フランジ部と一体の軸受を構成する。
【0017】
本実施の形態の動作を説明すると、不図示の電源より電力が供給され、電動モータ2の回転軸2aが回転すると、円板3を介してねじ軸4が回転する。ねじ軸4が回転すると、転走路を転動し且つコマを介して循環するボール7により、その回転運動がナット5の軸線方向運動に効率よく変換されるので、ナット5に連結された被駆動部材10を軸線方向(ここでは上方)に移動させることができる。
【0018】
このとき、被駆動部材10から伝達されるスラスト力は、ナット5,ボール7,ねじ軸4を介してフランジ部4bに伝達されるが、フランジ部4bと、電動モータ2のケース(ハウジング1でも良い)に当接したケース9との間で、ころ8が転動することで、ねじ軸4の回転を阻害することなく、そのスラスト力を支持することができる。
【0019】
一方、不図示の電源より逆特性の電力が供給され、電動モータ2の回転軸2aが逆回転すると、円板3を介してねじ軸4が逆回転するので、ナット5に連結された被駆動部材10を軸線方向(ここでは下方)に移動させることができる。このとき、ナット5がオーバーシュートした場合、その端部は、軸受のケース9に当接することとなるが、かかる場合、フランジ部4bとケース9との間で、ころ8が転動することで、ナット5のオーバーシュートを阻止できる。
【0020】
即ち、ねじ軸4のフランジ部4bと、ナット5との間に軸受を介在させることで、ナット5の移動端で当接可能とし、オーバーシュートしたナット5を軸受により係止し且つフランジ部4bに対して相対回転転可能に支持することで、摩耗や騒音等の問題を回避することができる。
【0021】
図2は、第2の実施の形態である変換機構を備えた電動アクチュエータの断面図である。図2において、ハウジング11に固定された電動モータ12の回転軸12aは、ねじ軸14の端部にセレーション結合により係合しており、従って両者は一体的に回転するようになっている。ねじ軸14の周囲にはナット15が配置されている。
【0022】
軸線方向移動要素であるナット15は、ハウジング11に対して軸線方向にのみ移動するように取り付けられ、且つブッシュ16により移動可能に支持されている。ナット15の内周面には、雌ねじ溝15aが形成されている。回転要素であるねじ軸14は、ケース19を介して回転のみ可能となるように支持されており、外周面に雄ねじ溝14aを形成している。複数のボール17が、対向する両ねじ溝間14a、15aに形成された螺旋状の転走路内を転動自在となるように配置されている。ナット15には、ボール17の循環用のコマ(不図示)が設けられている。ねじ軸14と、ナット15と、ボール17とでボールねじ機構(伝達手段)を構成する。
【0023】
ねじ軸14は、電動モータ12側の端部にフランジ部14bを形成している。フランジ部14bの軸線方向両側には、転動体であるころ18が転動可能に配置されており、更にころ18を包囲するようにしてケース19が設けられている。ケース19は、ハウジング11の内周に形成された大径部11aに取り付けられており、電動モータ12のケースと挟持されることで、軸線方向に固定されるようになっている。尚、フランジ部14bと、ころ18と、ケース19とで、フランジ部と一体の軸受を構成する。
【0024】
本実施の形態の動作を説明すると、不図示の電源より電力が供給され、電動モータ12の回転軸12aが回転すると、ねじ軸14が回転する。ねじ軸14が回転すると、転走路を転動し且つコマを介して循環するボール17により、その回転運動がナット15の軸線方向運動に効率よく変換されるので、ナット15に連結された被駆動部材(不図示)を軸線方向(ここでは上方)に移動させることができる。
【0025】
このとき、被駆動部材から伝達されるスラスト力は、ナット15,ボール17,ねじ軸14を介してフランジ部14bに伝達されるが、フランジ部14bと、電動モータ12のケース(ハウジング11でも良い)に当接したケース19との間で、ころ18が転動することで、ねじ軸14の回転を阻害することなく、そのスラスト力を支持することができる。
【0026】
一方、不図示の電源より逆特性の電力が供給され、電動モータ12の回転軸12aが逆回転すると、ねじ軸14が逆回転するので、ナット15に連結された被駆動部材を軸線方向(ここでは下方)に移動させることができる。このとき、ナット15がオーバーシュートしようとした場合、その端部は、軸受のケース19に当接することとなり、且つフランジ部14bに対してケース19が軸線方向におけるストッパとなるため、ナット15のオーバーシュートを阻止すると共にねじ軸の抜けを防止することができる。
【0027】
図3は、比較例にかかる電動アクチュエータの断面図である。本比較例が、図2に示す実施の形態と異なる点は、軸受の構成である。即ち、ねじ軸14のフランジ部14aに当接させる形で、スラスト軸受20が圧入固定されている。図2,3を比較して明らかであるが、スラスト軸受20を圧入固定した比較例と、フランジ部14aに軸受を直接設けた本実施の形態とでは、ハウジングの大きさが異なる。より具体的には、比較例におけるハウジング11’の内径φ1’は、第2の実施の形態におけるハウジング11の内径φ1より大きく、且つ比較例におけるハウジング11’のフランジ部14aまでの距離L1’は、第2の実施の形態におけるハウジング11のフランジ部14aまでの距離L1より大きくなっている。特に、軸受20の圧入力は、軸受20の幅に応じて変わるため、圧入力を大きくするには、軸受20の幅を大きくする必要があり、それにより距離L1’は増大する傾向がある。
【0028】
本実施の形態によれば、フランジ部4aに軸受を一体的に形成することで、従来技術のように嵌合やカシメなどを用いる必要がなく、組付性も向上し、よりコンパクトな構成を提供できる。
【0029】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。尚、回転要素をナットとし、軸線方向移動要素をねじ軸としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の実施の形態である変換機構を備えた電動アクチュエータの断面図である。
【図2】第2の実施の形態である変換機構を備えた電動アクチュエータの断面図である。
【図3】比較例の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ハウジング
2 電動モータ
2a 回転軸
3 円板
4 ねじ軸
4a フランジ部
4a 雄ねじ溝
4b フランジ部
5 ナット
5a 雌ねじ溝
6 ブッシュ
7 ボール
9 ケース
10 被駆動部材
11 ハウジング
11a 大径部
12 電動モータ
12a 回転軸
14 ねじ軸
14a 雄ねじ溝
14b フランジ部
15 ナット
15a 雌ねじ溝
16 ブッシュ
17 ボール
19 ケース
20 スラスト軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
フランジ部を有しモータの回転軸に連結された回転要素と、被駆動部材に連結された軸線方向移動要素とを含み、前記回転要素の回転運動を前記軸線方向移動要素の軸線運動に変換する伝達手段と、
前記回転要素のフランジ部と、前記軸線方向移動要素との間に介在し、前記軸線方向移動要素の移動端で当接するようになっている軸受と、を有することを特徴とする変換機構。
【請求項2】
前記伝達手段は、外周面に雄ねじ溝を形成したねじ軸と、前記ねじ軸を包囲するように配置され且つ内周面に雌ねじ溝を形成したナットと、対向する両ねじ溝間に形成された転走路に沿って転動自在に配置された複数のボールとからなるボールねじ機構であることを特徴とする請求項1に記載の変換機構。
【請求項3】
前記フランジ部の両側に軸受が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の変換機構。
【請求項4】
前記フランジ部は、前記軸受の転動体の軌道面となっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の変換機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−71007(P2006−71007A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255444(P2004−255444)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】