説明

変速機

【課題】変速機の部品点数の削減及び小型化を図りながら、多段化及び高効率化を実現する。
【解決手段】平行軸式の変速機1において、入力軸Mは、同心軸上に設けた第1入力軸M1と第2入力軸M2とを有する二重構造であり、第1入力軸M1と第2入力軸M2との断続を切り替える第1クラッチCHと、入力軸Mとアイドル軸Lとの間に設けた第1歯車組G1のギヤ比を減速又は増速する第2歯車組G2と、第2歯車組G2への駆動力の入力の有無を切り替える第2クラッチCLと、第2入力軸M2及び中間軸Sと出力軸Cとの間に設けた変速用歯車組GT1,GT2からなる変速機構部GTとを備え、変速機構部GTで設定された各変速段に対して、第1、第2クラッチCH,CLの断続を選択的に掛け合わせることで、変速機構部GTで得られる変速段数に対して倍の変速段数が得られるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などに搭載される変速機に関し、詳細には、軸数及び歯車数を少なく抑えて構成を簡素化しながらも、多段の変速段数を有する平行軸式の自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される変速機として、例えば、特許文献1に示すような平行軸式の自動変速機がある。平行軸式の自動変速機は、互いに平行に設置した複数の軸上に互いに噛合するギヤを配置し、軸とギヤとの連結及び解除を行うことにより、軸間に形成される動力伝達経路を切り替えてギヤ比に応じた所望の変速比が得られるように構成されている。なお、このような平行軸式の自動変速機には、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)などと呼ばれるいわゆるセミオートマチック型のトランスミッションも含まれる。
【0003】
そして、このような平行軸式の自動変速機あるいはDCTでは、燃費効率の向上を図るためには、変速段数の多段化が有効である。しかしながら、横置き配置エンジン用の変速機などでは、軸方向の全長の制約もあり、部品点数や重量の増加にもつながるため、現状では6〜8速段が限界となっている。また、エンジンと電動機を併用するハイブリッド駆動装置では、容量の大きな電動機を配置しながら、変速機と電動機を含めた全体の寸法を小さく抑える必要がある。そのため、変速段数を少なく抑えたり、ハイブリッド専用の駆動装置を採用したりすることで、変速機構の小型化を図る必要がある。しかしながら、変速段数を少なく抑えると、駆動力の伝達効率の低下や、単位重量あたりの製造コストの増加が問題となる。
【0004】
さらに、自動変速機やDCTでは、変速段数を少なくすると、エンジン本来の駆動力によって得られる走行効率が低下するため、ハイブリッド化による燃費の改善効果が減少するという問題がある。また、ハイブリッド用の駆動装置とエンジン専用の駆動装置とを別設計にすると、それぞれの駆動装置が異なる構造となるため、並立生産を行う必要がある。そうすると、製造コストの面で不利になってしまう。
【0005】
そこで、特許文献2に記載のように、変速機に電動機を搭載したハイブリッド駆動装置を構成する場合、従来構造の自動変速機にそのまま電動機を付加することも考えられる。しかしながら、特許文献2に記載の従来技術では、変速段数の少ない構造であっても、変速機内には、電動機を追加する十分な空きスペースがない。そのため、変速機の外部に電動機を設置するしかなく、その場合、電動機の出力を入力軸に伝えるためのギヤ列が追加されることで、変速機の構成の複雑化や部品点数の増加につながる。また、電動機を変速機の外部に設置すると、車体の外観を含むレイアウトに大きな制約を受けてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−54958号公報
【特許文献2】特開2009−1234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の平行軸式の変速機と比べて少ない部品点数と小さな外形寸法でありながら、変速段の多段化及び高効率化を図ることができるとともに、電動機を内部に設置して小型のハイブリッド駆動装置を構成できる変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる変速機は、互いに平行に設置した入力軸(M)、中間軸(S)、アイドル軸(L)、出力軸(C)を備え、
入力軸(M)は、駆動源(EG)からの駆動力が入力される第1入力軸(M1)と、第1入力軸(M1)からの駆動力を出力側へ伝達する第2入力軸(M2)と、を有する二軸構造であり、
第2入力軸(M2)上で相対回転不能に設けた第1駆動歯車(GV1)と、アイドル軸(L)上に設けられて第1駆動歯車(GV1)と噛合するアイドル歯車(GL1)と、中間軸(S)上で相対回転不能に設けられてアイドル歯車(GL1)と噛合する第1従動歯車(GN1)と、を有する第1歯車組(G1)と、
第1入力軸(M1)上に設けた第2駆動歯車(GV2)と、アイドル軸(L)上に設けられて第2駆動歯車(GV2)と噛合する第2従動歯車(GN2)とを有する第2歯車組(G2)と、
第1入力軸(M1)に対する第2入力軸(M2)の断続を切り替える第1クラッチ(CH)と、
アイドル軸(L)に対する第2従動歯車(GN2)の断続、又は第1入力軸(M1)に対する第2駆動歯車(GV2)の断続を切り替える第2クラッチ(CL)と、
第2入力軸(M2)上に設けた第1変速用駆動歯車(GTV2又はGTV6)および中間軸(S)上に設けた第2変速用駆動歯車(GTV1又はGTV5)と、出力軸(C)上で相対回転不能かつ第1、第2変速用駆動歯車(GTV1,2又はGTV5,6)の両方と噛合する変速用従動歯車(GTN1又はGTN5)と、第2入力軸(M2)に対する第1変速用駆動歯車(GTV2又はGTV6)の断続、及び中間軸(S)に対する第2変速用駆動歯車(GTV1又はGTV5)の断続を切り替える変速用クラッチ(C1,2又はC5,6)と、からなる一又は複数の変速用歯車組(GT1,GT2)と、を備え、
変速用歯車組(GT1,GT2)で設定された各変速段に対して、第1、第2クラッチ(CH,CL)の断続を選択的に掛け合わせることで、当該変速用歯車組(GT1,GT2)で得られる変速段数に対して倍の変速段数が得られるように構成したことを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる変速機によれば、駆動源からの駆動力が入力される第1入力軸と、該第1入力軸と同心軸上に設けた第2入力軸とを有する二重構造の入力軸と、第1入力軸に対する第2入力軸の断続を切り替える第1クラッチと、第1入力軸とアイドル軸との間に設けた第2歯車組への駆動力の入力の有無を切り替える第2クラッチとを備え、変速用歯車組で設定された各変速段に対して、これら第1、第2クラッチの断続を選択的に掛け合わせることで、変速用歯車組で得られる変速段数に対して倍の変速段数が得られるようにした。これにより、従来の平行軸式の自動変速機と比較して、軸数及び歯車数を少なく抑えることで、大幅に軽量かつコンパクトでありながら、変速段数の多段化による燃費効率の良い変速機を実現できる。この点を具体例で示すと、特許文献1に記載の平行軸式の自動変速機では、軸数=6、歯車数=15で6速段の変速機を構成していたのに対して、本発明の後述する実施形態にかかる変速機では、軸数=4、歯車数=12で8速段の変速機を構成できる。なお、ここでの軸数は、リバース(後進)軸を含む数であり、歯車数は、出力軸上に設けたファイナルギヤを除く数である。
【0010】
また、本発明の変速機では、入力軸及び中間軸と出力軸との間に設けた変速機構部によって設定される変速段数(実施形態では4速段)に対して、第1、第2クラッチの断続を掛け合わせることで、倍の変速段数(実施形態では8速段)が得られるようにしている。ここで、従来の副変速機構を備えた変速機では、副変速機構が作動する全変速段で、副変速機構による歯車の噛合数が増加することにより、駆動力の伝達効率が低下する。これに対して、本発明の変速機では、第2クラッチの接続時に、入力軸の駆動源側に設けた第2歯車組によって駆動力伝達経路上の歯車の噛合数が二噛合い分(第2駆動歯車と第2従動歯車の噛合い分)増加するが、中間軸の駆動源側では、第1、第2クラッチいずれの接続時にも歯車の噛合数が増加しない。したがって、副変速による伝達効率の低下を最小限に抑えることができる。これにより、変速段数の多段化を図りながらも、駆動力の伝達効率及び燃費効率の良い変速機となる。
【0011】
また、上記の効果によって、従来の平行軸式の変速機と比較して、大幅に少ない部品点数と短い全長による外形のコンパクト化及び軽量化と、多段化及び高効率化との両方を実現できる。さらに、トルクコンバータなどを付随することで車両の発進商品性を高めた変速機に本発明を適用しても、コンパクト化及び軽量化が可能となる。
【0012】
また、上記の変速機では、変速用従動ギヤ(GTN1又はGTN5)に対して直接噛合している後進用駆動ギヤ(GR)と、アイドル軸(L)に対する後進用駆動ギヤ(GR)の断続を切り替える後進クラッチ(CR)とをさらに備えてよい。このように、後進用駆動ギヤをアイドル軸に対して断続するように設置すれば、後進段設定用の軸(リバース軸)を別途に設けずに済むので、変速機の軸数を少なく抑えることができる。また、後進段を設定するための機構を簡単かつコンパクトな構成にできる。また、上記の変速機では、アイドル軸(L)上に設けたアイドル歯車(GL1)は、断続機構(CR2)によってアイドル軸(L)に対する相対回転の可能/不可能を切り替えられるように設置されていてもよい。
【0013】
また、上記の変速機では、第1歯車組(G1)の回転数を検出する第1回転検出手段(S1)と、第2歯車組(G2)の回転数を検出する第2回転検出手段(S2)と、変速用歯車組(GT1又はGT2)の回転数を検出する第3回転検出手段(S3)と、第1乃至第3回転検出手段(S1〜S3)で検出された回転数に応じて第1、第2クラッチ(CH,CL)及び変速用クラッチ(C1,C2,C5,C6)の少なくともいずれかの動作を制御する制御手段と、を備えるとよい。
【0014】
本発明にかかる変速機では、変速用クラッチの断続の切り替えと、第1、第2クラッチの断続の切り替えとを組み合わせて行うことで各変速段を設定する。そのため、少なくとも2つのクラッチの断続切替を同時に行う必要がある。したがって、一般的には、変速制御が難しいと考えられる。しかしながら、本発明の変速機では、入力軸、出力軸、中間軸、アイドル軸のいずれかと一体に回転している歯車を有する第1歯車組、第2歯車組、変速用歯車組の回転を検出するための回転検出手段をそれぞれ設けて、各回転検出手段で検出した回転に基づいて各クラッチの動作を制御するように構成できる。これによれば、個別のクラッチを差回転の目標値で制御すれば良いので、スムーズな変速制御が可能となる。
【0015】
上記の変速機では、さらに、第1クラッチ(CH)に電動機(MOT)を取り付けるとよい。この場合、電動機(MOT)のロータ(MR)が第1クラッチ(CH)の第2入力軸(M2)側に固定された部材(CA)に対して同心軸上で一体回転するように取り付けるとよい。
あるいは、上記の変速機では、第1入力軸(M1)上における第1クラッチ(CH)よりも駆動源(EG)に近い位置に電動機(MOT)を取り付けてもよい。この場合、電動機(MOT)のロータ(MR)が第1入力軸(M1)と同心軸上で一体に回転するように取り付けるとよい。
あるいは、上記の変速機では、入力軸(M)と平行に設置したモータ軸(P)と、該モータ軸(P)に取り付けた電動機(MOT)と、モータ軸(P)上で相対回転不能に設置されて第1歯車組(G1)又は第2歯車組(G2)が有するいずれかの歯車(GL1)と噛合するモータ駆動歯車(GP)とを備えてもよい。
これらの場合、上記の電動機(MOT)は、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータであってよい。
【0016】
本発明の変速機は、上記のような電動機を備えることで、従来の平行軸式の変速機、あるいはエンジンなどの駆動源専用の変速機と同様の全長スペースで、かつ同一の骨格をそのまま流用しながらも、変速機の内部に電動機を追加して設置することができる。したがって、エンジンなど駆動源の駆動力と電動機の駆動力との両方を用いることができるので、電動機の駆動力のみのいわゆるEV走行、エンジンなど駆動源の電動機によるアシスト走行、回生走行、エンジンなど駆動源の停止時における電動機によるエアコンプレッサの作動など、高い商品性を有するハイブリッド駆動を行うことが可能となる。したがって、軽量かつコンパクトな構成でありながら、変速段の多段化と電動機による駆動力の補助とによって、高効率かつ低燃費を実現可能なハイブリッド駆動装置を提供できる。
【0017】
また、上記の変速機では、入力軸(M)と平行に設置したエアコン軸(Q)と、該エアコン軸(Q)の回転で駆動するエアコンプレッサ(AC)と、エアコン軸(Q)に対して相対回転不能に設置されて第1歯車組(G1)又は第2歯車組(G2)が有するいずれかの歯車(GL1)と噛合するエアコン駆動用歯車(GQ)とを備えるとよい。これによれば、エンジンなど駆動源の停止時に、電動機の駆動力だけでエアコンプレッサを作動することができる。したがって、エンジンなど駆動源を停止したまま車室内の冷房などを行うことができる。また、この場合、モータ軸(Q)とエアコン軸(P)とを共通の軸としてもよい。これによれば、変速機が備える軸数を少なく抑えることができるので、変速機の構成の簡素化、軽量化を図ることができる。
【0018】
また、上記の変速機では、第1、第2クラッチ(CH,CL)及び変速用クラッチ(C1,C2,C5,C6)の少なくともいずれかを作動するためのオイルポンプ(OP)を備え、オイルポンプ(OP)は、アイドル軸(L)の回転で動作するように構成してよい。これによれば、エンジンなど駆動源が停止した状態でも、電動機だけでオイルポンプを駆動できるので、各クラッチを作動して発進及び変速に必要な変速段の設定を行うことが可能となる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態の対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる変速機によれば、従来の平行軸式の変速機と比べて少ない部品点数及びコンパクトな外形寸法でありながら、変速段の多段化及び高効率化を図ることができる。また、変速機の内部に電動機を設置してなる小型のハイブリッド駆動装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図2】第1実施形態の変速機が備える各軸及びギヤの配置構成を示す概略図である。
【図3】第1実施形態の変速機で各変速段を設定するための各クラッチの係合・解除状態を示す一覧表である。
【図4(a)】1速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図4(b)】2速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図4(c)】3速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図4(d)】4速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図4(e)】5速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図4(f)】6速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図4(g)】7速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図4(h)】8速段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図4(i)】後進段の動力伝達経路を示す変速機のスケルトン図である。
【図5】本発明の第2実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図6】第2実施形態の変速機で各変速段を設定するための各クラッチの係合・解除状態を示す一覧表である。
【図7】本発明の第3実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図8】本発明の第4実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図9】本発明の第5実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図10】本発明の第6実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図11】本発明の第7実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図12】本発明の第8実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図13】本発明の第9実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図14】本発明の第10実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【図15】本発明の第10実施形態にかかる変速機の変形例を示すスケルトン図である。
【図16】本発明の第11実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる変速機の全体構成例を示すスケルトン図である。図1に示す変速機1は、互いに平行に設けた入力軸M、アイドル軸L、中間軸S、出力軸Cを有する平行軸式の自動変速機である。入力軸Mは、エンジン(駆動源)EGからの駆動力が入力される第1入力軸M1と、第1入力軸M1と同心軸上の外側に設けた中空筒状の第2入力軸M2とを有する二重構造になっている。第1入力軸M1は、エンジンEGのクランクシャフトCSに対して、トルクコンバータTCを介して連結されている。そして、第1入力軸M1と第2入力軸M2との間には、第1クラッチ(ハイクラッチ)CHが設置されている。第1クラッチCHは、第1入力軸M1と第2入力軸M2との断続、すなわち第1入力軸M1と第2入力軸M2とが相対回転可能な状態と不可能な状態とを切り替えるための機構である。ここでの第1クラッチCHは、滑らかな係合よりもむしろ断続の切り替えを主体とした動作を行う機構であることが望ましい。第1クラッチCHは、具体的には、湿式クラッチなどであってよい。
【0022】
また、第2入力軸M2とアイドル軸Lと中間軸Sとの間には、第1歯車組G1が設けられている。第1歯車組G1は、第2入力軸M2上で相対回転不能に(固定して)設けた第1駆動ギヤGV1と、中間軸S上で相対回転不能に設けた第1従動ギヤGN1と、アイドル軸L上で相対回転不能に設けたアイドルギヤGL1とを備えて構成されている。そして、アイドル軸Lに固定したアイドルギヤGL1は、第2入力軸M2と中間軸Sにそれぞれ固定した第1駆動ギヤGV1と第1従動ギヤGN1の両方と噛合している。これにより、入力軸Mと中間軸Sを定回転比で駆動するようになっている。
【0023】
また、第1入力軸M1とアイドル軸Lとの間には、第1歯車組G1で得られるギヤ比を減速又は増速するための第2歯車組G2が設けられている。第2歯車組G2は、第1入力軸M1上に相対回転不能に設けた第2駆動ギヤGV2と、アイドル軸L上に相対回転可能に設けた第2従動ギヤGN2とを備え、第2駆動ギヤGV2と第2駆動ギヤGV2とが噛合している。そして、アイドル軸Lに対する第2従動ギヤGN2の断続を切り替える第2クラッチ(ロークラッチ)CLが設置されている。ここでの第2クラッチCLは、第1クラッチCHと同様、滑らかな係合よりもむしろ断続の切り替えを主体とした動作を行う機構であることが望ましい。第2クラッチCLは、具体的には、湿式クラッチなどであってよい。また、本実施形態では、第2歯車組G2が備える第2駆動ギヤGV2と第2従動ギヤGN2は、第1歯車組G1のギヤ列によるギヤ比を減速するように設定されている。
【0024】
また、第2入力軸M2及び中間軸Sと、出力軸Cとの間には、変速段の設定を行うための変速機構部GTが設けられている。変速機構部GTは、第2入力軸M2及び中間軸Sと出力軸Cとの間に設置した第1変速用歯車組GT1と第2変速用歯車組GT2とからなる二組の変速用歯車組を備えている。
【0025】
第1変速用歯車組GT1は、中間軸S上で相対回転可能に設けた1−3速駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)GTV1と、第2入力軸M2上で相対回転可能に設けた2−4速駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)GTV2と、出力軸C上で相対回転不能に設けた1〜4速用従動ギヤ(変速用従動歯車)GTN1とを備えており、2−4速駆動ギヤGTV2と1−3速駆動ギヤGTV1の両方が1〜4速用従動ギヤGTN1に噛合している。そして、中間軸S上には、中間軸Sに対する1−3速駆動ギヤGTV1の断続を切り替える1−3変速用クラッチC1が設置されており、第2入力軸M2上には、第2入力軸M2に対する2−4速駆動ギヤGTV2の断続を切り替える2−4変速用クラッチC2が設置されている。1−3変速用クラッチC1と2−4変速用クラッチC2は、いずれも一般に知られた油圧作動型の摩擦式クラッチである。
【0026】
第2変速用歯車組GT2は、中間軸S上で相対回転可能に設けた5−7速駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)GTV5と、第2入力軸M2上で相対回転可能に設けた6−8速駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)GTV6と、出力軸C上で相対回転不能に設けた5〜8速用従動ギヤ(変速用従動歯車)GTN5とを備えており、5−7速駆動ギヤGTV5と6−8速駆動ギヤGTV6の両方が5〜8速用従動ギヤGTN5に噛合している。そして、中間軸S上には、中間軸Sに対する5−7速駆動ギヤGTV5の断続を切り替えるための5−7変速用クラッチC5が設置されており、第2入力軸M2上には、第2入力軸M2に対する6−8速駆動ギヤGTV6の断続を切り替えるための6−8変速用クラッチC6が設置されている。5−7変速用クラッチC5と6−8変速用クラッチC6は、いずれも一般に知られた油圧作動型の摩擦式クラッチである。
【0027】
すなわち、変速機構部GTは、2組の前進用ギヤ列である第1変速用歯車組GT1と、第2変速用歯車組GT2とを有している。そして、第1変速用歯車組GT1は、中間軸S及び入力軸Mにそれぞれ変速用クラッチC1,C2で断続自在に配置した2つの駆動ギヤGTV1,GTV2が、出力軸Cに固定した1つの従動ギヤGTN1を共用して噛合う構成であり、第2変速用歯車組GT2は、中間軸S及び入力軸Mにそれぞれ変速用クラッチC5,C6で断続自在に配置した2つの駆動ギヤGTV5,GTV6が出力軸Cに固定した1つの従動ギヤGTN5を共用して噛合う構成である。
【0028】
また、変速機1には、アイドル軸L上で相対回転可能に設けた後進用駆動ギヤGRと、アイドル軸Lに対する後進用駆動ギヤGRの断続を切り替えるための後進切替用クラッチCRとが設けられている。後進用駆動ギヤGRは、1〜4速用従動ギヤGTN1と5〜8速用従動ギヤGTN5のいずれかに対して直接に噛合している。
【0029】
また、変速機1には、第1歯車組G1が有するアイドルギヤGL1の回転数を検出するための第1回転検出センサS1と、第2歯車組G2が有する第2従動ギヤGN2の回転数を検出するための第2回転検出センサS2と、第1変速歯車組GT1が有する1〜4速用従動ギヤGTN1の回転数を検出するための第3回転検出センサS3とが設けられている。第1〜第3回転検出センサS1,S2,S3は、いずれも光学式などの非接触式センサである。第1回転検出センサS1は、アイドルギヤGL1の回転外周面に対向する位置に設置されている。第2回転検出センサS2は、第2従動ギヤGN2の回転外周面に対向する位置に設置されている。第3回転検出センサS3は、1〜4速用従動ギヤGTN1の軸方向の側面に対向する位置に設置されている。
【0030】
さらに、変速機1の動作を制御するための制御手段であるECU(図示せず)が設けられている。このECUは、第1乃至第3回転検出センサS1,S2,S3で検出した回転数に基づいて、第1、第2クラッチCH,CL及び変速用クラッチC1,C2,C5,C6それぞれの動作を制御するようになっている。
【0031】
上記の変速機1の構成を各軸上の構成要素で整理すると、入力軸M(第1入力軸M1及び第2入力軸M2)上には、駆動源であるエンジンEGに近い側から、第2歯車組G2の第2駆動ギヤGV2、第1歯車組G1の第1駆動ギヤGV1、第1変速用歯車組GT1の2−4速駆動ギヤGTV2、2−4変速用クラッチC2、6−8変速用クラッチC6、第2変速用歯車組の6−8速駆動ギヤGTV6、第1クラッチCHがこの順で設けられている。また、中間軸S上には、エンジンEGに近い側から、第1歯車組G1の第1従動ギヤGN1、第1変速用歯車組GT1の1−3速駆動ギヤGTV1、1−3変速用クラッチC1、5−7変速用クラッチC5、第2変速用歯車組GT2の5−7速駆動ギヤGTV5がこの順で設けられている。また、アイドル軸L上には、エンジンEGに近い側から、第2クラッチCL、第2歯車組G2の第2従動ギヤGN2、第1歯車組G1のアイドルギヤGL1、後進用駆動ギヤGR及び後進切替用クラッチCRがこの順で設けられている。また、出力軸C上には、エンジンEGに近い側から、図示しないディファレンシャルギヤと噛合するファイナルギヤFG、第1変速用歯車組GT1の1〜4速用従動ギヤGTV1、第2変速用歯車組GT2の5〜8速用従動ギヤGTV5がこの順で設けられている。
【0032】
図3は、変速機1において各変速段を設定するための各クラッチ(第1、第2クラッチCH,CL、変速用クラッチC1,C2,C5,C6)の係合・解放(接続・切断)状態を示す一覧表である。なお、表中の1,2,5,6,R,L,Hは、それぞれ1−3変速用クラッチC1、2−4変速用クラッチC2、5−7変速用クラッチC5、6−8変速用クラッチC6、後進切替用クラッチCR、第2クラッチCL、第1クラッチCHを示している。また、図3における●印は、各クラッチが係合状態にあることを示しており、空欄は、解放状態にあることを示している。また、図4(a)乃至(i)は、各変速段での動力伝達経路を示した変速機1のスケルトン図である。図4(a)乃至(i)では、係合しているクラッチを網掛けで図示しており、かつ、変速機1内の動力伝達経路を太線の矢印で図示している。なお、同図(a),(c),(e),(g)に示す※印は、アイドルギヤGL1から第1従動ギヤGN1への駆動力の伝達経路を示している。また、図4では、第1乃至第3回転検出センサS1〜S3は、図示を省略している。
【0033】
上記構成の変速機1では、第1、第2クラッチCH,CLと4個の変速用クラッチC1,C2,C5,C6とを選択的に係合させることにより、前進8速(LOW〜8TH)および後進1速(RVS)の変速段を設定することができる。以下、各変速段の設定について順に説明する。
【0034】
まず、1速段(LOW)を設定にするには、第2クラッチCLを係合させ、かつ1−3変速用クラッチC1を係合させる。第2クラッチCLの係合で、第2従動ギヤGN2がアイドル軸Lに対して相対回転不能となる。したがって、第1歯車組G1のギヤ比に対して、第2歯車組G2によって減速されたギヤ比で駆動力が伝達される。それと同時に、変速機構部GTでは、1−3変速用クラッチC1の係合で、1−3速駆動ギヤGTV1が中間軸Sに対して相対回転不能となる。したがって、図4(a)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2駆動ギヤGV2→第2従動ギヤGN2→アイドル軸L→アイドルギヤGL1→第1従動ギヤGN1→中間軸S→1−3速駆動ギヤGTV1→1〜4速用従動ギヤGTN1→出力軸Cの経路で伝達される。
【0035】
2速段(2ND)を設定にするには、第2クラッチCLを係合させ、かつ2−4変速用クラッチC2を係合させる。この場合も、第2クラッチCLの係合で、第2従動ギヤGN2がアイドル軸Lに対して相対回転不能となる。また、2−4変速用クラッチC2の係合で、2−4速駆動ギヤGTV2が第2入力軸M2に対して相対回転不能となる。したがって、図4(b)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2駆動ギヤGV2→第2従動ギヤGN2→アイドル軸L→アイドルギヤGL1→第1駆動ギヤGV1→第2入力軸M2→2−4速駆動ギヤGTV2→1〜4速用従動ギヤGTN1→出力軸Cの経路で伝達される。
【0036】
3速段(3ND)を設定にするには、第1クラッチCHを係合させ、かつ1−3変速用クラッチC1を係合させる。第1クラッチCHの係合で、第2入力軸M2が第1入力軸M1に対して相対回転不能となる。したがって、この場合、第2歯車組G2には動力が伝達されず、第1歯車組G1によるギヤ比がそのまま出力される。それと同時に、1−3変速用クラッチC1の係合で、1−3速駆動ギヤGTV1が中間軸Sに対して相対回転不能となる。したがって、図4(c)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2入力軸M2→第1駆動ギヤGV1→アイドルギヤGL1→第1従動ギヤGN1→中間軸S→1−3速駆動ギヤGTV1→1〜4速用従動ギヤGTN1→出力軸Cの経路で伝達される。
【0037】
4速段(4TH)を設定にするには、第1クラッチCHを係合させ、かつ2−4変速用クラッチC2を係合させる。この場合も、第1クラッチCHの係合で、第2入力軸M2が第1入力軸M1に対して相対回転不能となる。また、2−4変速用クラッチC2の係合で、2−4速駆動ギヤGTV2が第2入力軸M2に対して相対回転不能となる。したがって、図4(d)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2入力軸M2→2−4速駆動ギヤGTV2→1〜4速用従動ギヤGTN1→出力軸Cの経路で伝達される。
【0038】
5速段(5TH)を設定にするには、第2クラッチCLを係合させ、かつ5−7変速用クラッチC5を係合させる。第2クラッチCLの係合で、第2従動ギヤGN2がアイドル軸Lに対して相対回転不能となる。また、5−7変速用クラッチC5の係合で、5−7速駆動ギヤGTV5が中間軸Sに対して相対回転不能となる。したがって、図4(e)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2駆動ギヤGV2→第2従動ギヤGN2→アイドル軸L→アイドルギヤGL1→第1従動ギヤGN1→中間軸S→5−7速駆動ギヤGTV5→5〜8速用従動ギヤGTN5→出力軸Cの経路で伝達される。
【0039】
6速段(6TH)を設定にするには、第2クラッチCLを係合させ、かつ6−8変速用クラッチC6を係合させる。第2クラッチCLの係合で、第2従動ギヤGN2がアイドル軸Lに対して相対回転不能となる。また、6−8変速用クラッチC6の係合で、6−8速駆動ギヤGTV6が第2入力軸M2に対して相対回転不能となる。したがって、図4(f)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2駆動ギヤGV2→第2従動ギヤGN2→アイドル軸L→アイドルギヤGL1→第1駆動ギヤGV1→第2入力軸M2→6−8速駆動ギヤGTV6→5〜8速用従動ギヤGTN5→出力軸Cの経路で伝達される。
【0040】
7速段(7TH)を設定にするには、第1クラッチCHを係合させ、かつ5−7変速用クラッチC5を係合させる。第1クラッチCHの係合で、第2入力軸M2が第1入力軸M1に対して相対回転不能となる。また、5−7変速用クラッチC5の係合で、5−7速駆動ギヤGTV5が中間軸Sに対して相対回転不能となる。したがって、図4(g)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2入力軸M2→第1駆動ギヤGV1→アイドルギヤGL1→第1従動ギヤGN1→中間軸S→5−7速駆動ギヤGTV5→5〜8速用従動ギヤGTN5→出力軸Cの経路で伝達される。
【0041】
8速段(8TH)を設定にするには、第1クラッチCHを係合させ、かつ6−8変速用クラッチC6を係合させる。第1クラッチCHの係合で、第2入力軸M2が第1入力軸M1に対して相対回転不能となる。また、6−8変速用クラッチC6の係合で、6−8速駆動ギヤGTV6が第2入力軸M2に対して相対回転不能となる。したがって、図4(h)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2入力軸M2→6−8速駆動ギヤGTV6→5〜8速用従動ギヤGTN5→出力軸Cの経路で伝達される。
【0042】
後進段(RVS)を設定にするには、第1クラッチCHを係合させ、かつ後進用クラッチCRを係合させる。第1クラッチCHの係合で、第2入力軸M2が第1入力軸M1に対して相対回転不能となる。また、後進用クラッチCRの係合で、後進用駆動ギヤGRがアイドル軸Lに対して相対回転不能となる。したがって、図4(i)に示すように、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2入力軸M2→第1駆動ギヤGV1→アイドルギヤGL1→アイドル軸L→後進用駆動ギヤGR→2−4速駆動ギヤGTV2→1〜4速用従動ギヤGTN1→出力軸Cの経路で伝達される。なお、後進段(RVS)の設定は、上記の第1クラッチCHに代えて、第2クラッチCLを係合させるようにしてもよい。この場合、図示は省略するが、エンジンEGから入力された駆動力は、第1入力軸M1→第2駆動ギヤGV2→第2従動ギヤGN2→アイドル軸L→後進用駆動ギヤGR→2−4速駆動ギヤGTV2→1〜4速用従動ギヤGTN1→出力軸Cの経路で伝達される。
【0043】
なお、第1、第1クラッチCH,CL、変速用クラッチC1,C2,C5,C6をすべて解放すれば、ニュートラル(N)の状態となる。これにより、入力軸Mに入力された駆動力が出力軸Cに伝達されない。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の変速機1は、互いに平行に設置した入力軸M、中間軸S、アイドル軸L、出力軸Cを備えている。そして、入力軸Mは、エンジンEGからの駆動力が入力される第1入力軸M1と、第1入力軸M1と同心軸上に設けた第2入力軸M2とを有する二重構造である。また、第2入力軸M2上で相対回転不能に設けた第1駆動ギヤGV1と、アイドル軸L上で相対回転不能に設けられて第1駆動ギヤGV1と噛合するアイドルギヤGL1と、中間軸S上で相対回転不能に設けられてアイドルギヤGL1と噛合する第1従動ギヤGN1とを有する第1歯車組G1を備えている。また、第1入力軸M1上に設けた第2駆動ギヤGV2と、アイドル軸L上に設けられて第2駆動ギヤGV2と噛合する第2従動ギヤGN2とを有する第2歯車組G2を備えている。そして、第1入力軸M1に対する第2入力軸M2の断続を切り替える第1クラッチCHと、アイドル軸Lに対する第2従動ギヤGN2の断続を切り替える第2クラッチCLとを備えている。
【0045】
さらに、変速機1は、二組の変速用歯車組GT1,GT2を有してなる変速機構部GTを備えている。第1変速用歯車組GT1は、中間軸S上に設けた変速用駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)GTV1と、第2入力軸M2上に設けた変速用駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)GTV2と、出力軸C上で相対回転不能に設けた変速用従動歯車GTN1とを備えている。変速用従動歯車GTN1は、変速用駆動歯車GTV1,GTV2の両方と噛合している。そして、中間軸Sに対する変速用駆動歯車GTV1の断続を切り替える変速用クラッチC1と、第2入力軸M2に対する変速用駆動歯車GTV2の断続を切り替える変速用クラッチC2とを備えている。また、第2変速用歯車組GT2は、中間軸S上に設けた変速用駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)GTV5と、第2入力軸M2上に設けた変速用駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)GTV6と、出力軸C上で相対回転不能に設けた変速用従動歯車GTN5とを備えている。変速用従動歯車GTN5は、変速用駆動歯車GTV5,GTV6の両方と噛合している。そして、中間軸Sに対する変速用駆動歯車GTV5の断続を切り替える変速用クラッチC5と、第2入力軸M2に対する変速用駆動歯車GTV6の断続を切り替える変速用クラッチC6とを備えている。
【0046】
上記構成の変速機1において、変速機構部GTで設定された各変速段に対して、第1、第2クラッチCH,CLの断続を選択的に掛け合わせることで、変速機構部GTで得られる変速段数に対して倍の変速段数が得られるようにしている。
【0047】
したがって、本実施形態の変速機1は、従来の平行軸式の自動変速機と比較して、軽量・コンパクト化を図りながら、変速段の多段化によって燃費効率の良い変速機となる。すなわち、例えば、特許文献1に記載の平行軸式の自動変速機では、軸数=6、ギヤ数=15で6速段の変速機を構成していたのに対して、本実施形態の変速機1では、軸数=4、ギヤ数=12で8速段の変速機を構成することができる。なお、ここでの軸数は、リバース(後進)軸を含む数であり、ギヤ数は、出力軸上のファイナルギヤを除く数である。
【0048】
また、本発実施形態の変速機1では、二組の変速用歯車組GT1,GT2を有する変速機構部GTで設定される4段の変速段に対して、第1、第2クラッチCH,CLの断続を掛け合わせることで、倍の変速段数である8段の変速段を設定するようになっている。ここで、従来の副変速機構を備えた変速機では、副変速機構が作動する全変速段で、副変速機構による歯車の噛合数が増加する。これにより、駆動力の伝達効率が低下する懸念がある。これに対して、本発明の変速機1では、第2クラッチCLの接続時に、入力軸Mの駆動源側に設けた第2歯車組G2によって駆動力伝達経路上のギヤの噛合数が二噛合い分(第2駆動歯車GV2と第2従動歯車GN2の噛合分)増加するが、中間軸Sの駆動源側では、第1、第2クラッチCH,CLいずれの接続時にもギヤの噛合数が増加しない。したがって、副変速による伝達効率の低下を最小限に抑えることができる。これにより、変速段数の多段化を図りながらも、駆動力の伝達効率及び燃費効率の良い変速機となる。
【0049】
また、本実施形態の変速機1では、後進用駆動ギヤGRをアイドル軸L上に設けており、アイドル軸Lに対して断続するように設置している。したがって、後進段設定用の軸(リバース軸)を別途に設けずに済むので、変速機1の軸数を少なく抑えることができる。また、後進段を設定するための機構を簡単かつコンパクトな構成にできる。
【0050】
また、上記の効果によって、従来の平行軸式の変速機と比較して、少ない部品点数と短い全長による外形のコンパクト化及び軽量化と、変速段数の多段化及び高効率化との両方を実現できる。さらに、変速機1がトルクコンバータを付随することで車両の発進商品性を高めた変速機である場合にも、変速機1のコンパクト化及び軽量化が可能となる。
【0051】
また、本実施形態の変速機1では、変速機構部GTが備える変速用クラッチC1,C2,C5,C6の断続の切り替えと、第1、第2クラッチCH,CLの断続の切り替えとを組み合わせて行うことで、各変速段を設定するように構成している。そのため、各変速段の設定にあたっては、図3の係合表に示すように、少なくとも2つのクラッチの断続切り替えを同時に行う必要がある。したがって、一般的には、変速制御が難しいと考えられる。しかしながら、本実施形態の変速機1では、入力軸M、出力軸C、中間軸Sそれぞれと一体に回転している歯車を有する第1歯車組G1、第2歯車組G2、変速用歯車組GT1の回転を検出するための回転検出センサS1〜S3を設けて、これら回転検出センサS1〜S3で検出した回転に基づいて、各クラッチC1,C2,C5,C6,CH,CLの動作を制御するように構成している。したがって、個別のクラッチを差回転の目標値で制御すれば良いので、スムーズな変速制御が可能となる。
【0052】
なお、本実施形態では、図示は省略するが、クランクシャフトCSと入力軸Mとの間に設けたトルクコンバータTCに代えて、クランクシャフトCSと入力軸Mとの間にトーションダンパーを設けることも可能である。
【0053】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。この点は、他の実施形態においても同様である。
【0054】
図5は、第2実施形態にかかる変速機1−2を示すスケルトン図である。なお、図5では、第1乃至第3回転検出センサS1〜S3は、図示を省略している。この点は、図6以降でも同様である。図5に示す変速機1−2は、アイドル軸L上に設置した後進用駆動ギヤGR2を備えている。そして、アイドルギヤGL1及び後進用駆動ギヤGR2をいずれもアイドル軸Lに対して相対回転可能な状態で設置している。そして、アイドルギヤGL1と後進用駆動ギヤGR2のどちらか一方のみをアイドル軸Lに対して選択的に固定するための前後進切替用クラッチ(断続機構)CR2を備えている。すなわち、前後進切替用クラッチCR2がアイドルギヤGL1側に係合していると、アイドル軸Lに対してアイドルギヤGL1が相対回転不能となり、前進段が構成される。一方、前後進切替用クラッチCR2が後進用駆動ギヤGR2側に係合していると、アイドル軸Lに対して後進用駆動ギヤGR2が相対回転不能となり、第2クラッチCLとで後進段が構成される。また、本実施形態の変速機1−2では、第1実施形態の変速機1に対して、変速機構部GTが備える第1変速用歯車組GT1と第2変速用歯車組GT2との軸方向の配置が入れ替わっている。
【0055】
図6は、本実施形態の変速機1−2で各変速段を設定するための各クラッチの係合・解除状態を示す一覧表である。表中のR/Dは、前後進切替用クラッチCR2であり、Dは、前後進切替用クラッチCR2がアイドルギヤGL1側に係合した状態を示し、Rは、前後進切替用クラッチCR2が後進用駆動ギヤGR2側に係合した状態を示している。同図に示すように、本実施形態の変速機1−2では、前進1速段(LOW)〜8速段(8TH)の各変速段を設定する際には、前後進切替用クラッチCR2(R/D)をアイドルギヤGL1側(D側)に係合させておく。これにより、アイドル軸Lに対してアイドルギヤGL1が固定された状態になるので、他のクラッチC1,C2,C5,C6,CL,CHの係合は、第1実施形態の変速機1における前進1速段(LOW)〜8速段(8TH)と同じ設定でよい。また、後進段(RVS)を設定する際には、前後進切替用クラッチCR2(R/D)を後進用駆動ギヤGR2側(R側)に係合させる。これにより、後進用駆動ギヤGR2がアイドル軸Lに対して相対回転不能となる。そして、第1実施形態の変速機1では、第1クラッチCHを係合させていたのに対して、本実施形態の変速機1−2では、第2クラッチCLを係合させることで、後進段(RVS)を設定する。他のクラッチC1,C2,C5,C6の係合は、第1実施形態の変速機1における後進段(RVS)と同じ設定でよい。
【0056】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図7は、第3実施形態にかかる変速機1−3を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−3は、第1入力軸M1と第2入力軸M2との間に設置した第1クラッチCHに取り付けた電動機MOTを備えている。すなわち、第1クラッチCHは、第1入力軸M1に固定されたクラッチディスク(入力側部材)CBと、第2入力軸M2に固定されたクラッチドラム(出力側部材)CAとを備えている。また、電動機MOTは、ステータMSと、該ステータMSに対して同芯軸上の内側で回転自在に設置されたロータMRとを備えている。そして、電動機MOTのロータMRが、第1クラッチCHのクラッチドラムCAに固定されている。ここでは、ロータMRは円筒形の部品であり、クラッチドラムCAに対して同芯上の外側に配置されており、出力側部材CAの回転外周面に固定されている。
【0057】
本実施形態の電動機MOTは、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータである。したがって、電動機MOTをモータとして機能させることで、第2入力軸M2に対して駆動力を付与できる。これにより、エンジンEGの停止時に電動機MOTのみで出力軸Cに駆動力を伝達できる。したがって、車両のEV走行が可能となる。また、電動機MOTの駆動力でエンジンEGの駆動力を補助することができるので、アシスト走行が可能となる。さらに、電動機MOTをジェネレータとして機能させることで、第2入力軸M2の回転による回生や発電を行うことが可能となる。
【0058】
本実施形態の変速機1−3によれば、従来の平行軸式の変速機、あるいはエンジン専用の変速機と同等の全長スペースで、かつ同一の骨格をそのまま流用しながらも、変速機1−3の内部に電動機MOTを設置することができる。したがって、エンジンEGの駆動力と電動機MOTの駆動力との両方を用いることができるので、電動機MOTの駆動力のみのEV走行、エンジンEGに対する電動機MOTによる駆動力のアシスト、回生など高い商品性を有するハイブリッド駆動を行うことが可能となる。また、軽量コンパクトな構成でありながら、変速段の多段化と電動機MOTによる駆動力の補助とにより、高効率かつ低燃費を実現可能なハイブリッド駆動装置を提供できる。
【0059】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図8は、第4実施形態にかかる変速機1−4を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−4は、第1入力軸M1における第2駆動ギヤGV2よりも上流側、すなわち第2駆動ギヤGV2と駆動源であるエンジンEGとの間に設置したメインクラッチCMと、該メインクラッチCMに取り付けた電動機MOTとを備えている。メインクラッチCMは、エンジンEGから延びるクランクシャフトCSに固定されたクラッチディスク(入力側部材)CBと、第1入力軸M1側に固定されたクラッチドラム(出力側部材)CAとを備えている。電動機MOTは、ステータMSと、該ステータMSに対して同芯軸上の内側で回転自在に設置されたロータMRとを備えている。そして、電動機MOTのロータMRが、メインクラッチCMのクラッチドラムCAに固定されている。ロータMRは円筒形の部品であり、クラッチドラムCAに対して同芯上の外側に配置されており、クラッチドラムCAの回転外周面に固定されている。また、電動機MOTは、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータである。
【0060】
本実施形態の変速機1−4によれば、第3実施形態の変速機1−3と同様、電動機MOTをモータとして機能させることで、第2入力軸M2に対して電動機MOTの駆動力を付与できる。これにより、エンジンEGの停止時に電動機MOTのみで出力軸Cに駆動力を伝達できる。したがって、車両のEV走行が可能となる。また、電動機MOTでエンジンEGの駆動力をアシストするアシスト走行が可能となる。さらに、電動機MOTをジェネレータとして機能させることで、第2入力軸M2の回転による回生や発電を行うことが可能となる。なお、本実施形態のように、クランクシャフトCSと入力軸Mとの間にトルクコンバータTCを設けていない場合は、メインクラッチCMの上流側にトーションダンパーを設けることが可能である。
【0061】
〔第5実施形態〕
次に、本発明の第5実施形態について説明する。図9は、第5実施形態にかかる変速機1−5を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−5は、入力軸Mと平行に設置したモータ軸Pと、モータ軸Pに取り付けた電動機MOTと、モータ軸P上で相対回転不能に設置したモータ駆動ギヤGPとを備えている。モータ駆動ギヤGPは、第1歯車組G1のアイドルギヤGL1と噛合している。電動機MOTは、ステータMSと、該ステータMSに対して同芯軸上の内側で回転自在に設置されたロータMRとを備えている。そして、電動機MOTのロータMRが、モータ軸Pに固定されており、該モータ軸Pと同芯上で一体回転するように構成されている。また、電動機MOTは、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータである。
【0062】
本実施形態の変速機1−5によれば、アイドルギヤGL1と噛合するモータ駆動ギヤGPを介して電動機MOTの駆動力を第1歯車組G1に付加するようになっている。したがって、第3、第4実施形態と同様、電動機MOTをモータとして機能させることで、アイドル軸L及び入力軸Mに対して駆動力を付与できる。これにより、エンジンEGの停止時に電動機MOTのみで出力軸Cに駆動力を伝達できる。したがって、車両のEV走行が可能となる。また、電動機MOTの駆動でエンジンEGの駆動力を補助することができるので、アシスト走行が可能となる。さらに、電動機MOTをジェネレータとして機能させることで、入力軸M又はアイドル軸Lの回転による回生や発電を行うことが可能となる。
【0063】
なお、ここでは、モータ駆動ギヤGPは、第1歯車組G1のアイドルギヤGL1と噛合している場合を示したが、モータ駆動ギヤGPは、第1歯車組G1又は第2歯車組G2が有する他のギヤ(第2従動ギヤGN2、第1従動ギヤGN1など)と噛合していてもよい。
【0064】
〔第6実施形態〕
次に、本発明の第6実施形態について説明する。図10は、第6実施形態にかかる変速機1−6を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−6は、図7に示す第3実施形態の変速機1−3の構成に加えて、入力軸Mと平行に設置したエアコン軸Qと、エアコン軸Qの回転で駆動するエアコンプレッサACと、エアコン軸Q上に相対回転不能に設置されたエアコン駆動ギヤGQとを備えている。エアコン駆動ギヤGQは、アイドルギヤGL1と噛合している。
【0065】
本実施形態の変速機1−6によれば、上記アイドルギヤGL1に噛合うエアコン駆動ギヤGQによって、エアコンプレッサACを駆動するようになっている。したがって、第1クラッチCH及び第2クラッチCLを共に解放した状態で、電動機MOTの駆動力が、第2入力軸M2→第1駆動ギヤGV1→アイドルギヤGL1→エアコン駆動ギヤGQ→エアコン軸Q→エアコンプレッサACの経路で伝達される。これにより、電動機MOTのみでエアコンプレッサACを作動することが可能である。したがって、エンジンEGが停止した状態でエアコンプレッサACを作動でき、車室内の冷房などを行うことができる。
【0066】
なお、ここでは、エアコン駆動ギヤGQは、第1歯車組G1のアイドルギヤGL1と噛合している場合を示したが、エアコン駆動ギヤGQは、第1歯車組G1又は第2歯車組G2が有する他のギヤ(第1従動ギヤGN1など)と噛合していてもよい。
【0067】
〔第7実施形態〕
次に、本発明の第7実施形態について説明する。図11は、第7実施形態にかかる変速機1−7を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−7は、図8に示す第4実施形態の変速機1−4の構成に加えて、入力軸Mと平行に設置したエアコン軸Qと、エアコン軸Qの回転で駆動するエアコンプレッサACと、エアコン軸Qに相対回転不能に設置されたエアコン駆動ギヤGQとを備えている。エアコン駆動ギヤGQは、第2歯車組G2の第2従動ギヤGN2と噛合している。
【0068】
本実施形態の変速機1−7によれば、第2従動ギヤGN2と噛合するエアコン駆動ギヤGQによって、エアコンプレッサACを駆動するようになっている。したがって、メインクラッチCMを解放した状態で、電動機MOTの駆動力が、第1入力軸M1→第2駆動ギヤGV2→第2従動ギヤGN2→エアコン駆動ギヤGQ→エアコン軸Q→エアコンプレッサACの経路で伝達される。これにより、電動機MOTの駆動のみでエアコンプレッサACを作動することが可能となる。したがって、エンジンEGが停止した状態で車室内の冷房などを行うことができる。
【0069】
なお、ここでは、エアコン駆動ギヤGQは、第2歯車組G2の第2従動ギヤGN2と噛合している場合を示したが、エアコン駆動ギヤGQは、第1歯車組G1又は第2歯車組G2が有する他のギヤ(アイドルギヤGL1、第1従動ギヤGN1など)と噛合していてもよい。
【0070】
〔第8実施形態〕
次に、本発明の第8実施形態について説明する。図12は、第8実施形態にかかる変速機1−8を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−8は、入力軸Mと平行に設置したエアコン/モータ軸Uと、エアコン/モータ軸Uの回転で駆動するエアコンプレッサACと、エアコン/モータ軸Uに取り付けた電動機MOTと、エアコン/モータ軸Uに相対回転不能に設置されたエアコン/モータ駆動ギヤGUとを備えている。電動機MOTは、ステータMSとロータMRを備えており、ロータMRがエアコン/モータ軸Uに固定されている。エアコン/モータ駆動ギヤGUは、第1歯車組G1のアイドルギヤGL1と噛合している。
【0071】
すなわち、本実施形態の変速機1−8は、第5実施形態の変速機1−5が備えるモータ軸Pと第6実施形態の変速機1−6が備えるエアコン軸Qとを、共通の軸であるエアコン/モータ軸Uで置き換えた構成である。これにより、変速機1内にエアコンプレッサACと電動機MOTの両方を設置しながらも、全体の部品点数を少なく抑えることができる。したがって、変速機1−8の外形寸法の小型化、部品点数の削減による軽量化を図ることができる。
【0072】
なお、ここでは、エアコン/モータ駆動ギヤGUは、第1歯車組G1のアイドルギヤGL1と噛合している場合を示したが、エアコン/モータ駆動ギヤGUは、第1歯車組G1又は第2歯車組G2が有する他のギヤ(第1従動ギヤGN1など)と噛合していてもよい。
【0073】
〔第9実施形態〕
次に、本発明の第9実施形態について説明する。図13は、第9実施形態にかかる変速機1−9を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−9は、第1実施形態の変速機1と比較して、第1クラッチCH、第2クラッチCL、第1歯車組G1、第2歯車組G2の軸方向の設置位置(配置構成)が異なっている。すなわち、第1実施形態の変速機1(図1参照)では、エンジンEGに近い側から、第2クラッチCL、第2歯車組G2、第1歯車組G1、第1クラッチCHの順で設置されていたのに対して、本実施形態の変速機1−9では、エンジンEGに近い側から、第1クラッチCH、第1歯車組G1、第2歯車組G2、第2クラッチCLの順で設置されている。また、本実施形態の変速機1−9では、第1実施形態の変速機1に対して、変速機構部GTが備える第1変速用歯車組GT1と第2変速用歯車組GT2との軸方向の配置が入れ替わっている。
【0074】
本実施形態の変速機1−9の構成を各軸上の構成要素で整理すると、入力軸M(第1入力軸M1及び第2入力軸M2)上には、エンジンEGに近い側から、第1クラッチCH、第1歯車組G1の第1駆動ギヤGV1、第2変速用歯車組の6−8速駆動ギヤGTV6、6速用クラッチC6、2−4変速用クラッチC2、第1変速用歯車組GT1の2−4速駆動ギヤGTV2、第2歯車組G2の第2駆動ギヤGV2がこの順で設けられている。また、中間軸S上には、エンジンEGに近い側から、第1歯車組G1の第1従動歯車GN1、第2変速用歯車組GT2の5−7速駆動ギヤGTV5、5−7変速用クラッチC5、1−3変速用クラッチC1、第1変速用歯車組GT1の1−3速駆動ギヤGTV1がこの順で設けられている。また、アイドル軸L上には、エンジンEGに近い側から、第1歯車組G1のアイドル歯車GL1、後進用駆動ギヤGR及び後進切替用クラッチCR、第2歯車組G2の第2従動ギヤGN2、第2クラッチCLがこの順で設けられている。また、出力軸C上には、エンジンEGに近い側から、ファイナルギヤFG、第2変速用歯車組GT2の5〜8速用従動ギヤGTN5、第1変速用歯車組GT1の1〜4速用従動ギヤGTN1がこの順で設けられている。
【0075】
〔第10実施形態〕
次に、本発明の第10実施形態について説明する。図14は、第10実施形態にかかる変速機1−10を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−10は、第9実施形態の変速機1−9の構成に加えて、入力軸Mと平行に設置したエアコン軸Qと、エアコン軸Qの回転で駆動するエアコンプレッサACと、エアコン軸Qに相対回転不能に設置したエアコン駆動ギヤGQとを備えている。エアコン駆動ギヤGQは、第2従動ギヤGN2と噛合している。
【0076】
また、第1入力軸M1上のエンジンEG(駆動源)と第1クラッチCHとの間には、エンジンEGからの駆動力の第1入力軸M1への入力の有無を切り替えるためのメインクラッチCMが設置されている。そして、メインクラッチCMには、電動機MOTが取り付けられている。メインクラッチCMは、第1クラッチCHのエンジンEG側に隣接する位置に設けられており、エンジンEGから延びるクランクシャフトCSに固定されたクラッチディスク(入力側部材)CB1と、第1クラッチCHのクラッチドラムCB2と一体に固定されたクラッチドラム(出力側部材)CA1とを備えている。電動機MOTは、ステータMSと、該ステータMSに対して同芯軸上の内側で回転自在に設置されたロータMRとを備えている。そして、電動機MOTのロータMRが、メインクラッチCMのクラッチドラムCA1と第1クラッチCHのクラッチドラムCB2とに固定されている。ここでは、ロータMRは円筒形の部品であり、メインクラッチCMのクラッチドラムCA1及び第1クラッチCHのクラッチドラムCB2に対して、同芯上の外側に配置されており、それらの回転外周面に固定されて一体回転するようになっている。また、電動機MOTは、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータである。
【0077】
図14に示す変速機1−10によれば、第2従動ギヤGN2と噛合するエアコン駆動ギヤGQによって、エアコンプレッサACを駆動するようになっている。したがって、メインクラッチCMを解放した状態で、電動機MOTの駆動力が、第1入力軸M1→第2駆動ギヤGV2→第2従動ギヤGN2→エアコン駆動ギヤGQ→エアコン軸Q→エアコンプレッサACの経路で伝達される。これにより、電動機MOTの駆動のみでエアコンプレッサACを作動することが可能である。したがって、エンジンEGが停止した状態で車室内の冷房などを行うことができる。
【0078】
図15は、本実施形態の変速機1−10の変形例を示すスケルトン図である。図14に示す構成例では、エアコン駆動ギヤGQは、第2従動ギヤGN2と噛合していたのに対して、図15に示す構成例では、エアコン駆動ギヤGQは、アイドルギヤGL1と噛合している。この構成では、メインクラッチCMを解放した状態で、第1クラッチCHを係合させることで、電動機MOTの駆動力が、第2入力軸M2→第1駆動ギヤGV1→アイドルギヤGL1→エアコン駆動ギヤGQ→エアコン軸Q→エアコンプレッサACの経路で伝達される。
【0079】
なお、ここでは、エアコン駆動ギヤGQは、第2歯車組G2の第2従動ギヤGN2あるいは第1歯車組G1のアイドルギヤGL1と噛合している場合を示したが、エアコン駆動ギヤGQは、第1歯車組G1又は第2歯車組G2が有する他のギヤ(第1従動ギヤGN1など)と噛合していてもよい。
【0080】
〔第11実施形態〕
次に、本発明の第11実施形態について説明する。図16は、第11実施形態にかかる変速機1−11を示すスケルトン図である。同図に示す変速機1−11は、第3実施形態の変速機1−3(図7参照)の構成に加えて、第1、第2クラッチCH,CL及び変速用クラッチC1,C2,C5,C6の少なくともいずれかを作動するためのオイルポンプ(油圧ポンプ)OPを備えている。また、オイルポンプOPは、アキュームレータ(蓄圧装置)Aを備えている。オイルポンプOPは、アイドル軸Lの回転で動作するように構成されており、図示しない油圧供給ラインを通じて、第1、第2クラッチCH,CL、変速用クラッチC1,C2,C5,C6、メインクラッチCMを作動するための作動油を供給するようになっている。なお、アキュームレータAは、設置を省略することも可能である。
【0081】
本実施形態の変速機1−11では、アイドル軸Lの回転で動作するオイルポンプOPを備えている。したがって、エンジンEGが停止した状態で、電動機MOTの駆動力だけで車両を発進(EV発進)させることができる。すなわち、この場合、電動機MOTの駆動力が、第2入力軸M2→第1駆動ギヤGV1→アイドルギヤGL1→アイドル軸L→オイルポンプOPと伝達されることで、オイルポンプOPが作動する。これにより、例えば、1−3速駆動ギヤに作動油を供給して係合させることで、1速段を設定できる。したがって、電動機MOTの駆動力だけで車両を発進させることが可能となる。つまり、本実施形態の変速機1−11では、エンジンEGが停止した状態でも、電動機MOTだけでオイルポンプOPを駆動できるので、第1、第2クラッチCH,CL及び変速用クラッチC1,C2,C5,C6を作動して、発進及び変速に必要な変速段の設定を行うことが可能となる。
【0082】
なお、図16では、オイルポンプOP及びアキュームレータAを、図7に示す構成の変速機1−3におけるアイドル軸L上に設置した場合を示したが、オイルポンプOP及びアキュームレータAは、他の構成の変速機に設置することも可能である。例えば、図14又は図15に示す構成の変速機1−10のアイドル軸L上、あるいは第1入力軸M1上などに設置することも可能である。
【0083】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、第1実施形態の変速機1が備える第2クラッチCHは、アイドル軸Lに対する第2従動ギヤGN2の断続を切り替えるものである。しかしながら、本発明に係る変速機1が備える第2クラッチは、第2歯車組への動力伝達の有無を切り替えることが出来るものであればよいので、上記以外にも、第1入力軸M1に対する第2駆動ギヤGV2の断続を切り替えるクラッチであってもよい。
【符号の説明】
【0084】
1〜1−11 変速機
M 入力軸
M1 第1入力軸
M2 第2入力軸
S 中間軸
C 出力軸
L アイドル軸
C1 1−3変速用クラッチ
C2 2−4変速用クラッチ
C5 5−7変速用クラッチ
C6 6−8変速用クラッチ
GTN1 1〜4速用従動ギヤ(変速用従動歯車)
GTN5 5〜8速用従動ギヤ(変速用従動歯車)
GTV1 1速駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)
GTV2 2速駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)
GTV5 5速駆動ギヤ(第2変速用駆動歯車)
GTV6 5速駆動ギヤ(第1変速用駆動歯車)
MOT 電動機(モータ・ジェネレータ)
GV1 第1駆動ギヤ
GV2 第2駆動ギヤ
C1 変速用クラッチ
C2 変速用クラッチ
C5 変速用クラッチ
C6 変速用クラッチ
CH 第1クラッチ(ハイクラッチ)
CL 第2クラッチ(ロークラッチ)
CM メインクラッチ
AC エアコンプレッサ
CR 後進切替用クラッチ
EG エンジン(駆動源)
FG ファイナルギヤ
G1 第1歯車組
G2 第2歯車組
GL1 アイドルギヤ
GN1 第1従動ギヤ
GN2 第2従動ギヤ
GP モータ駆動ギヤ
GQ エアコン駆動ギヤ
GU エアコン/モータ駆動ギヤ
GR 後進用駆動ギヤ
GT 変速機構部
GT1 第1変速用歯車組
GT2 第2変速用歯車組
OP オイルポンプ
P モータ軸
Q エアコン軸
U エアコン/モータ軸
S1,S2,S3 回転検出センサ(回転検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に設置した入力軸、中間軸、アイドル軸、出力軸を備え、
前記入力軸は、駆動源からの駆動力が入力される第1入力軸と、前記第1入力軸からの駆動力を出力側へ伝達する第2入力軸と、を有する二軸構造であり、
前記第2入力軸上で相対回転不能に設けた第1駆動歯車と、前記アイドル軸上に設けられて前記第1駆動歯車と噛合するアイドル歯車と、前記中間軸上で相対回転不能に設けられて前記アイドル歯車と噛合する第1従動歯車と、を有する第1歯車組と、
前記第1入力軸上に設けた第2駆動歯車と、前記アイドル軸上に設けられて前記第2駆動歯車と噛合する第2従動歯車とを有する第2歯車組と、
前記第1入力軸に対する前記第2入力軸の断続を切り替える第1クラッチと、
前記アイドル軸に対する前記第2従動歯車の断続、又は前記第1入力軸に対する前記第2駆動歯車の断続を切り替える第2クラッチと、
前記第2入力軸上に設けた第1変速用駆動歯車および前記中間軸上に設けた第2変速用駆動歯車と、前記出力軸上で相対回転不能かつ前記第1、第2変速用駆動歯車の両方と噛合する変速用従動歯車と、前記第2入力軸に対する前記第1変速用駆動歯車の断続、及び前記中間軸に対する前記第2変速用駆動歯車の断続を切り替える変速用クラッチと、からなる一又は複数の変速用歯車組と、を備え、
前記変速用歯車組で設定された各変速段に対して、前記第1、第2クラッチの断続を選択的に掛け合わせることで、前記変速機構部で得られる変速段数に対して倍の変速段数が得られるように構成した
ことを特徴とする変速機。
【請求項2】
前記変速用従動歯車に対して直接噛合している後進用駆動ギヤと、前記アイドル軸に対する前記後進用駆動ギヤの断続を切り替える後進用クラッチと、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
前記アイドル軸上に設けた前記アイドル歯車は、断続機構によって前記アイドル軸に対する相対回転の可能/不可能を切り替えられるように設置されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の変速機。
【請求項4】
前記第1歯車組の回転数を検出する第1回転検出手段と、前記第2歯車組の回転数を検出する第2回転検出手段と、前記変速用歯車組の回転数を検出する第3回転検出手段と、前記第1乃至第3回転検出手段で検出された回転数に応じて前記第1、第2クラッチ及び前記変速用クラッチの少なくともいずれかの動作を制御する制御手段と、を備える
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項5】
前記第1クラッチに取り付けた電動機を備え、
前記電動機は、ロータとステータを有し、前記ロータが前記第1クラッチにおける前記第2入力軸側に固定された部材に対して、同心軸上で一体回転するように取り付けられている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項6】
前記第1入力軸上で前記第1クラッチよりも前記駆動源に近い位置に取り付けた電動機を備え、
前記電動機は、ロータとステータを有し、前記ロータが前記第1入力軸と同心軸上で一体に回転するように取り付けられている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項7】
前記入力軸と平行に設置したモータ軸と、該モータ軸に取り付けた電動機と、前記モータ軸上で相対回転不能に設置されて前記第1歯車組又は前記第2歯車組が有するいずれかの歯車と噛合するモータ駆動歯車と、を備える
ことを特徴とする請求項1乃至6の少なくともいずれか1項に記載の変速機。
【請求項8】
前記電動機は、モータとしての機能と発電機としての機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータである
ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項9】
前記入力軸と平行に設置したエアコン軸と、該エアコン軸の回転で駆動するエアコンプレッサと、前記エアコン軸に対して相対回転不能に設置されて前記第1歯車組又は前記第2歯車組が有するいずれかの歯車と噛合するエアコン駆動歯車と、を備える
ことを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項に記載の変速機。
【請求項10】
前記モータ軸と前記エアコン軸とは、共通の軸である
ことを特徴とする請求項9に記載の変速機。
【請求項11】
前記第1、第2クラッチ及び前記変速用クラッチの少なくともいずれかを作動するためのオイルポンプを備え、
前記オイルポンプは、前記アイドル軸の回転で動作するように構成した
ことを特徴とする請求項5乃至10のいずれか1項に記載の変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図4(d)】
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【図4(e)】
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【図4(f)】
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【図4(g)】
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【図4(h)】
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【図4(i)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−133040(P2011−133040A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293494(P2009−293494)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】