説明

変速比制御装置及び変速比制御方法

【課題】第1動力源を停止して第2動力源からの動力のみによる走行時に、第1動力源からの動力による走行に備えた変速機構の変速比の変更を、燃費及びドライバビリティを良好な状態に維持しつつ最小限に抑えること。
【解決手段】第1動力源と、第1動力源から駆動輪への動力を伝達する変速機構と、第2動力源とを備えた駆動システムにおいて、変速機構の変速比を制御する変速比制御装置は、第1動力源からの動力による走行時の変速機構に設定され得る変速比の第1範囲、及び第1動力源の始動中に変更可能な変速比の変化量に基づいて、第1動力源が停止した状態で設定される変速機構の変速比の第2範囲を導出する変速比範囲導出部と、車両が第2動力源からの動力のみによる走行中に、変速比範囲導出部が導出した第2範囲内に変速機構の変速比がおさまらないときのみ、変速機構の変速比が第2範囲内となるよう変速機構を制御する変速比制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機構の変速比を制御する変速比制御装置及び変速比制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、エンジン出力を無段変速機を介して車輪に伝達して走行駆動を行うとともに、エンジンと並列に配設された駆動モータによっても走行駆動が可能であり、所定の運転状態においてエンジンを一時的に停止して駆動モータにより車輪を駆動して走行駆動を行うように構成されたハイブリッド車両を開示する。
【0003】
図9は、特許文献1に開示されたハイブリッド車両の動力伝達装置の構成を示す概略図である。図9に示すように、当該ハイブリッド車両は、エンジンEの回転を変速する金属Vベルト式無段変速機構20と、エンジンEと無段変速機20との係脱制御を行う前進クラッチ14及び後進ブレーキ15と、エンジンEと並列に車輪36を駆動可能な第2モータジェネレータ50とから構成され、その制御装置が、エンジン駆動の第1油圧ポンプ3と、ポンプ駆動用電気モータ55により駆動される第2油圧ポンプ56と、前進クラッチ14等への作動油圧供給を切換制御する前後進クラッチコントロールバルブとを有する。制御装置は、エンジンEが停止されて走行するときに、前後進クラッチコントロールバルブにより前進クラッチ14等を解放させ、ポンプ駆動用電気モータ55によって第2油圧ポンプ56を駆動し、その油圧を用いてそのときの運転状態に応じて無段変速機20の変速制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−200920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記説明した特許文献1の制御装置は、ハイブリッド車両がエンジンEを停止した状態での第2モータジェネレータ50からの駆動力による走行中に、エンジンEを停止している間における目標変速比RTを車速Vとアクセル開度APから決定する。さらに、制御装置は、目標変速比RTと実変速比RAとの差分(変速比偏差RE=RT−RA)と所定値の大小関係に応じて、無段変速機20における変速比を制御する。当該制御によって、エンジンEを停止した第2モータジェネレータ50による走行からエンジンEによる走行への切り替わり時における燃費及びドライバビリティの向上を図っている。しかし、変速比偏差REと比較する所定値が固定値であると、運転条件によっては、不要な変速比の変更に伴うエネルギー消費によって燃費が悪化する。
【0006】
本発明の目的は、第1動力源を停止して第2動力源からの動力のみによる走行時に、第1動力源からの動力による走行に備えた変速機構の変速比の変更を、燃費及びドライバビリティを良好な状態に維持しつつ最小限に抑えることができる変速比制御装置及び変速比制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の発明の変速比制御装置は、車両が走行するための動力を発生する第1動力源(例えば、実施の形態での内燃機関103)と、前記第1動力源からの動力を前記車両の駆動輪(例えば、実施の形態での駆動輪119)に伝達する第1変速機と、前記第1変速機と前記駆動輪の間に配置され、前記動力源からの動力のみを前記駆動輪側に伝達可能なワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、を有した、前記第1動力源から前記駆動輪への動力を伝達する変速機構(例えば、実施の形態での無段変速機105)と、車両が走行するための動力を発生する第2動力源(例えば、実施の形態での電動機101)と、を備えた駆動システムにおいて、前記変速機構の変速比を制御する変速比制御装置(例えば、実施の形態でのマネジメントECU115)であって、前記第1動力源からの動力による走行時の前記変速機構に設定され得る変速比の第1範囲、及び前記第1動力源の始動中に変更可能な前記変速比の変化量に基づいて、前記第1動力源が停止した状態で設定される前記変速機構の変速比の第2範囲を導出する変速比範囲導出部(例えば、実施の形態での上下限レシオ算出部151)と、前記車両が前記第2動力源からの動力のみによる走行中に、前記変速比範囲導出部が導出した第2範囲内に前記変速機構の変速比がおさまらないときのみ、前記変速機構の変速比が前記第2範囲内となるよう前記変速機構を制御する変速比制御部(例えば、実施の形態での変速比制御部153)と、を備えたことを特徴としている。
【0008】
さらに、請求項2に記載の発明の変速比制御装置では、前記変速比範囲導出部は、前記車両が前記第1動力源からの動力のみによる走行を行う際の、前記第1動力源の回転数の範囲及び前記変速機構の出力側の回転数の範囲に基づいて、前記第1範囲を導出することを特徴としている。
【0009】
さらに、請求項3に記載の発明の変速比制御装置では、前記第2範囲は、前記第1範囲の上限に前記変化量を減算した下限値から前記第1範囲の下限に前記変化量を加算した上限値までの範囲であることを特徴としている。
【0010】
さらに、請求項4に記載の発明の変速比制御装置では、前記変速比範囲導出部は、前記車両が前記第2動力源からの動力だけによる走行中のとき、前記第2範囲を導出することを特徴としている。
【0011】
さらに、請求項5に記載の発明の変速比制御装置では、前記第1動力源は内燃機関であり、前記第2動力源は電動機であり、前記駆動システムは、前記第2動力源から前記駆動輪までの動力伝達経路を断接する断接部(例えば、実施の形態でのクラッチ109)を備えたことを特徴としている変速比制御装置。
【0012】
さらに、請求項6に記載の発明の変速比制御方法では、車両が走行するための動力を発生する第1動力源(例えば、実施の形態での内燃機関103)と、前記第1動力源からの動力を前記車両の駆動輪(例えば、実施の形態での駆動輪119)に伝達する第1変速機と、前記第1変速機と前記駆動輪の間に配置され、前記動力源からの動力のみを前記駆動輪側に伝達可能なワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、を有した、前記第1動力源から前記駆動輪への動力を伝達する変速機構(例えば、実施の形態での無段変速機105)と、車両が走行するための動力を発生する第2動力源(例えば、実施の形態での電動機101)と、を備えた駆動システムにおける、前記変速機構の変速比を制御する変速比制御方法であって、前記第1動力源からの動力による走行時の前記変速機構に設定され得る変速比の第1範囲、及び前記第1動力源の始動中に変更可能な前記変速比の変化量に基づいて、前記第1動力源が停止した状態で設定される前記変速機構の変速比の第2範囲を導出し、前記車両が前記第2動力源からの動力のみによる走行中に、前記変速比範囲導出部が導出した第2範囲内に前記変速機構の変速比がおさまらないときのみ、前記変速機構の変速比が前記第2範囲内となるよう前記変速機構を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜5に記載の発明の変速比制御装置及び請求項6に記載の変速比制御方法によれば、第1動力源を停止して第2動力源からの動力のみによる走行時に、第1動力源からの動力による走行に備えた変速機構の変速比の変更を、燃費及びドライバビリティを良好な状態に維持しつつ最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】パラレル方式のHEVの内部構成を示すブロック図
【図2】無段変速機105の一部の構成を軸線方向から見た側断面図
【図3】マネジメントECU115が無段変速機105のレシオを制御する際のフローチャート
【図4】マネジメントECU115が内燃機関103が停止中における無段変速機105のレシオの上下限を算出する際のフローチャート
【図5】要求出力Pに対する内燃機関103のBSFC及び回転数NEを示すグラフ
【図6】内燃機関103が停止中における無段変速機105のレシオの上下限と、エンジン走行時に無段変速機105に設定され得るレシオの下限imin及び上限imaxとの関係の一例を示すグラフ
【図7】車両が走行時の、(a)車速、(b)算出された上下限レシオ及び制御された無段変速機105の実レシオ、並びに、(c)内燃機関103の運転状態の一例を示すグラフ
【図8】パラレル方式のHEVの他の形態の内部構成を示すブロック図
【図9】特許文献1に開示されたハイブリッド車両の動力伝達装置の構成を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態の変速比制御装置は、HEV(Hybrid Electrical Vehicle:ハイブリッド電気自動車)に搭載される。HEVは、電動機及び内燃機関を備え、車両の走行状態に応じて電動機及び/又は内燃機関の駆動力によって走行する。HEVには、大きく分けてシリーズ方式とパラレル方式の2種類がある。シリーズ方式のHEVは、電動機の動力によって走行する。内燃機関は発電のためだけに用いられ、内燃機関の動力によって発電機で発電された電力は蓄電器に充電されるか、電動機に供給される。
【0017】
パラレル方式のHEVは、電動機及び内燃機関のいずれか一方又は双方の動力によって走行する。以下、電動機の駆動力だけを利用した走行を「EV走行」といい、内燃機関の駆動力だけを利用した走行を「エンジン走行」といい、電動機の駆動力と内燃機関の駆動力の両方を利用した走行を「パラレル走行」という。
【0018】
図1は、パラレル方式のHEVの内部構成を示すブロック図である。図1に示すように、パラレル方式のHEV(以下、単に「車両」という)は、電動機(Mot)101と、内燃機関(ENG)103と、四節リンク機構の無段変速機105と、ディファレンシャルギア107と、クラッチ109と、車速センサ111と、回転数センサ113と、マネジメントECU(MG ECU)115とを備える。本発明に係る変速比制御装置の一実施形態はマネジメントECU115に対応する。なお、図1中の点線の矢印は値データを示し、実線は指示内容を含む制御信号を示す。
【0019】
電動機101は、車両が走行するための動力を発生する。電動機101の出力は、クラッチ109及びディファレンシャルギア107を介して車軸117に伝達される。内燃機関103は、車両が走行するための動力を発生する。内燃機関103の出力は無段変速機105に入力される。
【0020】
無段変速機105は、入力軸(駆動軸)の回転運動を揺動運動に変換し、更に揺動運動を回転運動に変換して出力軸(被駆動軸)から出力する方式のIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機(以下「BD」とも表記する)である。本実施形態では、無段変速機105と内燃機関103の間にクラッチを必要とせず、無段変速機105の入力軸には内燃機関103の出力がそのまま入力される。また、無段変速機105の出力側には、クラッチ109を介して電動機101が接続されている。
【0021】
図2は、無段変速機105の一部の構成を軸線方向から見た側断面図である。無段変速機105は、内燃機関103の出力軸の回転運動を揺動運動に変換し、更に揺動運動を回転運動に変換する。このため、無段変速機105では、偏心量r1を調整することで変速比を無段階に変更できると共に、変速比の最大値を無限大に設定することができる。なお、無段変速機105において、変速比が無限大に設定されたときの出力回転数はゼロである。図2に示すように、無段変速機105は、入力軸が内燃機関103のクランク軸に直結された偏心体駆動装置と、出力側に設けられたワンウェイクラッチ120と、偏心体駆動装置とワンウェイクラッチ120を結ぶ連結部材130とを備える。
【0022】
偏心体駆動装置は、内燃機関103からの回転動力を受けることで入力中心軸線O1の周りを回転する入力軸102と、入力軸102と一体回転する偏心ディスク104とを有する。ワンウェイクラッチ120の入力部材122から出力部材121への動力の伝達は、入力部材122の正方向(図2中矢印RD1方向)の回転速度が出力部材121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ行われる。つまり、ワンウェイクラッチ120では、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より高くなったときに初めてローラ123を介しての噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。したがって、図1に示した車両では、内燃機関103の出力によるワンウェイクラッチ120における入力部材122の正方向の回転速度が出力部材121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ、内燃機関103からの動力が無段変速機105を介して駆動輪119に伝達される。
【0023】
ディファレンシャルギア107は、電動機101及び/又は内燃機関103から伝達された駆動力を車両左右の車軸117に分配する。クラッチ109は、電動機101からディファレンシャルギア107までの駆動力伝達経路を開閉する。クラッチ109はマネジメントECU115によって制御される。
【0024】
車速センサ111は、車両の走行速度(車速)を検出する。車速センサ111によって検出された車速を示す信号は、マネジメントECU115に送られる。回転数センサ113は、内燃機関103の回転数(無段変速機105の入力回転数)NEを検出する。
【0025】
マネジメントECU115は、電動機101、内燃機関103及び無段変速機105等の統括制御を行う。例えば、マネジメントECU115は、車両がEV走行中、AP開度及び車速VPに基づいて内燃機関103を始動する必要があると判断すると、内燃機関103の始動制御を行う。また、マネジメントECU115には、車速センサ111からの信号(車速VPを示す信号)、回転数センサ113からの信号(内燃機関103の回転数NEを示す信号)、及びドライバによって操作されるアクセルペダルの開度(AP開度)を示す信号が入力される。マネジメントECU115は、車速VP及びAP開度に基づいて要求出力Pを導出し、要求出力Pに対応する内燃機関103の状態に応じた無段変速機105の変速比(以下「レシオ」という)を制御する。
【0026】
図1に示すように、マネジメントECU115は、無段変速機105のレシオの制御に関する上下限レシオ算出部151及び変速比制御部153を有する。上下限レシオ算出部151は、内燃機関103が停止中における無段変速機105のレシオの上下限を算出する。変速比制御部153は、上下限レシオ算出部151が算出したレシオの上下限と実レシオに基づいて、無段変速機105のレシオを制御する。
【0027】
図3は、マネジメントECU115が無段変速機105のレシオを制御する際のフローチャートである。図3に示すように、マネジメントECU115は、回転数センサ113からの信号が示す内燃機関103の回転数NEに基づいて、内燃機関103が停止中か否かを判断する(ステップS101)。ステップS101における判断では、回転数NE=0であれば内燃機関103が停止中と判断してステップS103に進み、回転数NE≠0であれば内燃機関103が稼動中と判断してステップS121に進む。
【0028】
ステップS103では、マネジメントECU115の上下限レシオ算出部151は、内燃機関103が停止中における無段変速機105のレシオの上下限を算出する。当該算出方法の詳細は後述する。次に、マネジメントECU115の変速比制御部153は、その時点で設定されているレシオi−1(前回値)がステップS103で算出したレシオの下限(下限レシオ)未満であるか否かを判断し(ステップS105)、レシオi−1<下限レシオであればステップS107に進み、レシオi−1≧下限レシオであればステップS109に進む。なお、レシオi−1は、無段変速機105に取り付けられているレシオセンサ(図示せず)により計測した値を用いる。
【0029】
ステップS107では、変速比制御部153は、無段変速機105のレシオi(今回値)を下限レシオの値に設定する(レシオi=下限レシオ)。一方、ステップS109では、変速比制御部153は、レシオi−1(前回値)がステップS103で算出したレシオの上限(上限レシオ)より大きいか否かを判断し、レシオi−1>上限レシオであればステップS111に進み、レシオi−1≦上限レシオであればステップS113に進む。
【0030】
ステップS111では、変速比制御部153は、無段変速機105のレシオi(今回値)を上限レシオの値に設定する(レシオi=上限レシオ)。一方、ステップS113では、変速比制御部153は、無段変速機105のレシオi(今回値)を前回値であるレシオi−1の値に設定する(レシオi=レシオi−1)。
【0031】
ステップS103で内燃機関103が稼動中と判断した際に進むステップS121では、マネジメントECU115は、内燃機関103が稼動中における無段変速機105のレシオを算出する。当該レシオは、車速VP及びAP開度に基づく要求出力Pに応じた内燃機関103の回転数の目標値を無段変速機105の出力部材121の回転数(=車速VP/駆動輪119の周長L)で除算することによって得られる。なお、内燃機関103の回転数の目標値は、内燃機関103をBSFCボトム運転したときの回転数である。次に、マネジメントECU115は、無段変速機105のレシオi(今回値)をステップS121で算出したレシオに設定する(ステップS123)。
【0032】
以下、図3のステップS103に示した、内燃機関103が停止中における無段変速機105のレシオの上下限を算出する方法について、図4及び図5を参照して詳細に説明する。図4は、マネジメントECU115が内燃機関103が停止中における無段変速機105のレシオの上下限を算出する際のフローチャートである。図5は、要求出力Pに対する内燃機関103のBSFC(Brake Specific Fuel Consumption)及び回転数NEを示すグラフである。なお、図5に示す実線が内燃機関103のBSFCを示し、点線が内燃機関103の回転数を示す。本実施形態の車両は、図5のグラフの横軸に示す下限〜上限の間の要求出力Pのときに、内燃機関103の駆動力だけを利用したエンジン走行を行う。但し、エンジン走行時の内燃機関103の回転数NEは、図5のグラフの右縦軸に示すNEmin〜NEmaxの間に限定される。マネジメントECU115は、図5に示すグラフを示すテーブルを図示しないメモリから読み出し可能である。
【0033】
マネジメントECU115の上下限レシオ算出部151は、メモリに設定されたエンジン走行時の車速範囲VPmin〜VPmaxを読み出す(ステップS201)。次に、上下限レシオ算出部151は、車速範囲VPmin〜VPmax及び駆動輪119の周長Lに基づいて、無段変速機105の出力部材121の回転数の範囲VPmin/L〜VPmax/Lを算出し、車速センサ111から得られた車速VP及び駆動輪119の周長Lに基づいて、無段変速機105の出力部材121の現在の回転数VP/Lを算出する(ステップS203)。次に、上下限レシオ算出部151は、エンジン走行時に無段変速機105に設定され得るレシオの下限iminと上限imaxを、ステップS203で導出した無段変速機105の出力部材121の現在の回転数及び図5のグラフが示すNEmin,NEmaxから算出する(ステップS205)。なお、imin=NEmin/(VP/L)であり、imax=NEmax/(VP/L)である。また、VP/Lは、ステップS203で算出されたVPmin/L〜VPmax/Lの範囲内の値が用いられる。
【0034】
次に、上下限レシオ算出部151は、内燃機関103の始動に要する時間Tesの間に変更可能な無段変速機105のレシオの変化量icを、レシオの最大変更速度viを用いて、ic=vi×Tesの計算式から求める(ステップS207)。次に、上下限レシオ算出部151は、ステップS205で算出したレシオの下限imin,上限imaxと、ステップS207で算出したレシオの変化量icとから、内燃機関103が停止中における無段変速機105のレシオの上下限(上限レシオ及び下限レシオ)を算出する(ステップS209)。なお、上限レシオ=imin+icであり、下限レシオ=imax−icである。
【0035】
図6は、内燃機関103が停止中における無段変速機105のレシオの上下限と、エンジン走行時に無段変速機105に設定され得るレシオの下限imin及び上限imaxとの関係の一例を示すグラフである。また、図7は、車両が走行時の、(a)車速、(b)算出された上下限レシオ及び制御された無段変速機105の実レシオ、並びに、(c)内燃機関103の運転状態の一例を示すグラフである。
【0036】
以上説明したように、本実施形態では、電動機101からの駆動力だけによるEV走行時に、マネジメントECU115が内燃機関103の稼働に備えた無段変速機105のレシオを導出する際、マネジメントECU115は、エンジン走行時のレシオの上下限imin,imaxと内燃機関103の始動中に変更可能なレシオの変化量icとに基づいて、内燃機関103が停止中における無段変速機105の上限レシオ及び下限レシオを算出する。さらに、マネジメントECU115は、無段変速機105の実レシオが上記算出した下限レシオ〜上限レシオの範囲内におさまるよう、無段変速機105を制御する。このとき、マネジメントECU115は、レシオが当該範囲内であればレシオを変更しない。
【0037】
このように、本実施形態のマネジメントECU115は、EV走行中の無段変速機105を、内燃機関103の稼働に備えたレシオとしつつも、頻繁なレシオの変更や変化量の大きいレシオの変更は行わない。その結果、燃費及びドライバビリティを良好な状態に維持しつつ、レシオの変更に伴う燃費の悪化を抑止できる。また、レシオの頻繁な変更がないため、無段変速機105の耐久性を向上できる。
【0038】
さらに、エンジン走行時のレシオの上下限imin,imaxは、内燃機関103の回転数(無段変速機105の入力側の回転数)の範囲と無段変速機105の出力側の回転数の範囲に基づいて導出されるため、マネジメントECU115は、内燃機関103が停止中における無段変速機105の上限レシオ及び下限レシオを精度良く算出することができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、車両の構成として、内燃機関103と無段変速機105が一組と電動機101の組み合わせの構成の場合を例に説明したが、図8に示すように、電動機101及びクラッチ109の代わりに、内燃機関103と同様の内燃機関203及び無段変速機105と同様の無段変速機205をもう一組備えた構成の車両にも本発明を適用できる。但し、この場合、EV走行を「いずれか一方の内燃機関からの駆動力による走行」と読み替え、エンジン走行を「もう一方の内燃機関からの駆動力による走行」と読み替える。
【符号の説明】
【0040】
102 入力軸
104 偏心ディスク
120 ワンウェイクラッチ
121 出力部材
122 入力部材
123 ローラ(係合部材)
130 連結部材
101 電動機(Mot)
103 内燃機関(ENG)
105 無段変速機(BD)
107 ディファレンシャルギア
109 クラッチ
111 車速センサ
113 回転数センサ
115 マネジメントECU(MG ECU)
117 車軸
119 駆動輪
151 上下限レシオ算出部
153 変速比制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行するための動力を発生する第1動力源と、
前記第1動力源からの動力を前記車両の駆動輪に伝達する第1変速機と、前記第1変速機と前記駆動輪の間に配置され、前記動力源からの動力のみを前記駆動輪側に伝達可能なワンウェイクラッチと、を有した、前記第1動力源から前記駆動輪への動力を伝達する変速機構と、
車両が走行するための動力を発生する第2動力源と、を備えた駆動システムにおいて、前記変速機構の変速比を制御する変速比制御装置であって、
前記第1動力源からの動力による走行時の前記変速機構に設定され得る変速比の第1範囲、及び前記第1動力源の始動中に変更可能な前記変速比の変化量に基づいて、前記第1動力源が停止した状態で設定される前記変速機構の変速比の第2範囲を導出する変速比範囲導出部と、
前記車両が前記第2動力源からの動力のみによる走行中に、前記変速比範囲導出部が導出した第2範囲内に前記変速機構の変速比がおさまらないときのみ、前記変速機構の変速比が前記第2範囲内となるよう前記変速機構を制御する変速比制御部と、
を備えたことを特徴とする変速比制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速比制御装置であって、
前記変速比範囲導出部は、前記車両が前記第1動力源からの動力のみによる走行を行う際の、前記第1動力源の回転数の範囲及び前記変速機構の出力側の回転数の範囲に基づいて、前記第1範囲を導出することを特徴とする変速比制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変速比制御装置であって、
前記第2範囲は、前記第1範囲の上限に前記変化量を減算した下限値から前記第1範囲の下限に前記変化量を加算した上限値までの範囲であることを特徴とする変速比制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の変速比制御装置であって、
前記変速比範囲導出部は、前記車両が前記第2動力源からの動力だけによる走行中のとき、前記第2範囲を導出することを特徴とする変速比制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の変速比制御装置であって、
前記第1動力源は内燃機関であり、前記第2動力源は電動機であり、
前記駆動システムは、前記第2動力源から前記駆動輪までの動力伝達経路を断接する断接部を備えたことを特徴とする変速比制御装置。
【請求項6】
車両が走行するための動力を発生する第1動力源と、
前記第1動力源からの動力を前記車両の駆動輪に伝達する第1変速機と、前記第1変速機と前記駆動輪の間に配置され、前記動力源からの動力のみを前記駆動輪側に伝達可能なワンウェイクラッチと、を有した、前記第1動力源から前記駆動輪への動力を伝達する変速機構と、
車両が走行するための動力を発生する第2動力源と、を備えた駆動システムにおける、前記変速機構の変速比を制御する変速比制御方法であって、
前記第1動力源からの動力による走行時の前記変速機構に設定され得る変速比の第1範囲、及び前記第1動力源の始動中に変更可能な前記変速比の変化量に基づいて、前記第1動力源が停止した状態で設定される前記変速機構の変速比の第2範囲を導出し、
前記車両が前記第2動力源からの動力のみによる走行中に、前記変速比範囲導出部が導出した第2範囲内に前記変速機構の変速比がおさまらないときのみ、前記変速機構の変速比が前記第2範囲内となるよう前記変速機構を制御することを特徴とする変速比制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−18465(P2013−18465A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155919(P2011−155919)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】