説明

外輪回転用軸受およびそれを用いたプーリ

【課題】特に高速で外輪回転する外輪回転用軸受のグリース漏れを防止して寿命を延長する。
【解決手段】外輪2内周面の環状溝7に嵌め込まれるシール6のゴム製取付部9を、外輪2の環状溝7の軸方向中央側の溝縁部12よりも径方向内側に突出しないようにするとともに、外輪2の内径を従来レベルよりも小さくした。これにより、シール取付部9がグリースに軸方向外側へ押圧されないようになり、また、グリースに作用する遠心力が小さくなって、グリースがシール6を軸方向外側へ押圧する力が小さくなるので、シール取付部9と環状溝7との間からのグリース漏れを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速で外輪回転する外輪回転用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
外輪回転用軸受は、通常、図7に示す玉軸受の例のように、内輪51と外輪52との間の環状空間53の軸方向両側が外輪52内周面の両端部に取り付けられた一対のシール54で塞がれており、そのシール54で密封された環状空間53にグリース(図示省略)が封入され、内輪51が固定されて外輪52が回転可能な状態で使用される。そして、従来は、外輪52の内径を大きくして環状空間53の容積を増やし、グリースの封入量を増やすことによって寿命延長を図ってきた。例えば、図7のような玉軸受で呼び番号6203のものでは、そのボール55の直径をd、内輪51の外径をD1、外輪52の内径をD2とするとき、D1+1.23×d≦D2≦D1+1.34×dとなるようにすることが多い。
【0003】
ところが、このような外輪回転用軸受では、外輪の内径を大きくしてグリースの封入量を増やすと、かえって短寿命となることがある。すなわち、図7の玉軸受の要部を拡大した図8に示すように、外輪52の両端部に取り付けられるシール54は、通常、ゴム製の環状の取付部56が外輪52の環状溝57に嵌め込まれており、その取付部56が外輪52の内周面から突出している。このため、外輪52の内径が大きいと、遠心力を受けたグリースが外輪52内周面に沿ってシール取付部56の突出部分を軸方向外側へ押圧する力が大きくなり、シール取付部56の変形が大きくなって、シール取付部56と環状溝57との間からグリースが漏れてしまうことがある。
【0004】
また、グリースの封入量を増やすと、グリースの撹拌抵抗も大きくなって軸受温度が高くなり、グリースの軟化が進むので、この点でもグリース漏れが生じやすくなる。
【0005】
上記のようなグリース漏れに対しては、一般に、シール取付部を変形しにくいゴムで形成したり、発熱の少ないグリースを選定したりする対策がとられている。また、軸受の温度上昇を抑える方法も種々提案されており、例えば、特許文献1では、外輪に嵌め込まれる樹脂製のプーリ本体が外輪の両端面および外周面の両端部を覆わないようにすることにより、軸受の放熱性を高めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−174588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特に、エンジン用プーリ軸受等、軸受の限界回転数に近い高速条件で使用される外輪回転用軸受では、グリースに作用する遠心力が大きく、また、軸受温度が高くなりやすいために、上述したような従来の対策では十分に対応できず、グリース漏れによって短寿命となりやすい。
【0008】
そこで、本発明は、特に高速で外輪回転する外輪回転用軸受のグリース漏れを防止して寿命を延長すること、および長寿命の外輪回転用軸受を用いたプーリを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、内輪と外輪との間に配される複数の転動体と、前記内輪と外輪との間の環状空間の軸方向両側を塞ぐ一対のシールとを備え、前記各シールは弾性部材で形成された環状の取付部を有し、その取付部が前記外輪の内周面に設けられた環状溝に嵌め込まれており、前記シールで密封された環状空間に潤滑剤が封入され、前記内輪が固定されて外輪が回転可能な状態で使用される外輪回転用軸受において、前記外輪の環状溝に嵌め込まれたシールの取付部を、外輪の環状溝の軸方向中央側の溝縁部よりも径方向内側に突出しないようにした構成を採用した。
【0010】
すなわち、弾性部材で形成されたシール取付部を、外輪の環状溝の軸方向中央側の溝縁部よりも径方向内側に突出しないようにすることにより、シール取付部がグリースに軸方向外側へ押圧されないようにして、シール取付部と環状溝との間からのグリース漏れを生じにくくしたのである。
【0011】
上記の構成において、前記転動体がボールである玉軸受の場合は、そのボールの直径をd、前記内輪の外径をD1、前記外輪の内径をD2とするとき、D1+d≦D2≦D1+1.2×dとなるようにすることが望ましい。すなわち、外輪の内径を前述した従来のレベルよりも小さくすることにより、グリースに作用する遠心力が小さくなって、グリースがシールを軸方向外側へ押圧する力が小さくなるので、グリース漏れが生じにくくなる。また、外輪の両端面の面積が増えることにより、軸受の放熱性が向上して、グリースの軟化を抑えられるので、この点でもグリース漏れを生じにくくすることができる。
【0012】
さらに、前記外輪の内周面に、前記転動体に対向する段差面を設けて、グリースがシールを軸方向外側へ押圧する力を小さくしたり、前記外輪の環状溝の軸方向中央側の溝縁部を、前記シールの取付部の一部を覆うように張り出させて、グリースがシール取付部と環状溝との間に入り込みにくくしたりすることにより、グリース漏れをより確実に防止することができる。
【0013】
また、前記外輪が樹脂製回転部材の内周に嵌め込まれた状態で使用される場合は、前記外輪の外周面に前記回転部材との滑りを防止する溝を設けたり、ローレット加工を施したりすることにより、樹脂製回転部材のクリープによる軸方向位置ずれを防止することが望ましい。
【0014】
そして、本発明のプーリは、樹脂で形成されたプーリ本体の内周に上記構成の外輪回転用軸受を嵌め込んだり、プーリ本体を上記構成の外輪回転用軸受の外輪と一体に形成したりすることにより、長寿命のものとすることができる。また、その外輪回転用軸受の内輪を固定軸と一体に形成することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上述したように、外輪回転用軸受の外輪に取り付けられるシールの取付部を、外輪の環状溝の軸方向中央側の溝縁部よりも径方向内側に突出しないようにして、シール取付部がグリースに軸方向外側へ押圧されないようにしたので、シール取付部と環状溝との間からのグリース漏れを防止して軸受寿命の延長を図ることができ、この構成の外輪回転用軸受を用いたプーリも長寿命のものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態の外輪回転用軸受の要部の正面断面図
【図2】図1のシール取付部付近の拡大断面図
【図3】第2実施形態の外輪回転用軸受のシール取付部付近の拡大断面図
【図4】第3実施形態の外輪回転用軸受を用いたプーリの一部切欠き斜視図
【図5】第4実施形態の外輪回転用軸受を用いたプーリの一部切欠き斜視図
【図6】第5実施形態の外輪回転用軸受を用いたプーリの要部の正面断面図
【図7】従来の外輪回転用軸受の要部の正面断面図
【図8】図7のシール取付部付近の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1および図2は第1実施形態の外輪回転用軸受を示す。この外輪回転用軸受は、図1に示すように、内輪1と外輪2との間に配される複数の転動体としてのボール3と、ボール3を転動自在に保持する保持器4と、内輪1と外輪2との間の環状空間5の軸方向両側を塞ぐ一対のシール6とを備え、両シール6で密封された環状空間5に潤滑剤としてのグリース(図示省略)が封入され、内輪1が固定されて外輪2が回転可能な状態で使用される呼び番号6203の玉軸受である。そのシール6は、外輪2内周面の両端部に設けられた環状溝7に取り付けられ、内輪1外周面の両端部に設けられたシール摺接面8に摺接している。
【0018】
前記内外輪1、2およびボール3は、ボール3の直径をd、内輪1の外径をD1、外輪2の内径をD2とするとき、D1+d≦D2≦D1+d×1.2となるように形成されている。すなわち、図7に示した従来の軸受と比べて、ボール3の直径dおよび内輪1の外径D1を同じとすると、外輪2の内径D2が小さく設計されている。
【0019】
前記各シール6は、外輪2の環状溝7に嵌め込まれる環状の取付部9と、内輪1のシール摺接面8に摺接する二股のリップ部10とがゴム製部材(弾性部材)によって形成されており、そのゴム製部材が芯金11で補強されている。
【0020】
そして、図2に示すように、前記シール6の取付部9は、その内周面が外輪2の環状溝7の軸方向中央側の溝縁部12よりも径方向外側に位置し、外輪2の溝縁部12よりも径方向内側に突出しないようになっている。
【0021】
この外輪回転用軸受は、上記の構成であり、シール6の取付部9が外輪2の環状溝7の軸方向中央側の溝縁部12よりも径方向内側に突出せず、グリースに軸方向外側へ押圧されないようになっているので、外輪2が高速回転しても、シール取付部9と外輪2の環状溝7との間からグリースが漏れにくい。
【0022】
また、外輪2の内径を従来レベルよりも小さくしたことにより、グリースに作用する遠心力が小さくなって、グリースがシール6を軸方向外側へ押圧する力が小さくなるうえ、外輪2の両端面の面積が増えて軸受の放熱性が向上し、グリースの軟化が抑えられるので、これらの点でもグリース漏れが生じにくくなっている。その放熱性向上の効果は、外輪2に樹脂製回転部材が嵌め込まれるような場合に大きくなる。
【0023】
図3は第2実施形態の外輪回転用軸受を示す。この第2実施形態は、上述した第1実施形態をベースとし、外輪2の内周面にボール3に対向する段差面13を設けるとともに、外輪2の環状溝7の軸方向中央側の溝縁部12をシール取付部9の一部を覆うように張り出させたものである。これにより、グリースがシール6を軸方向外側へ押圧する力がさらに小さくなるとともに、グリースがシール取付部9と環状溝7との間に入り込みにくくなるので、第1実施形態よりも確実にグリース漏れを防止することができる。
【0024】
図4および図5は、それぞれ第3および第4実施形態の外輪回転用軸受14、15を樹脂製のプーリ本体(樹脂製回転部材)16の内周に嵌め込んだプーリを示す。各軸受14、15の基本的な構成は第1実施形態のものと同じであり、第3実施形態の軸受14は外輪2の外周面に螺旋溝17が設けられている点、第4実施形態の軸受15は外輪2の外周面にローレット加工が施されている点のみが、第1実施形態と異なる。従って、各プーリは、軸受14、15のグリース漏れが生じにくいうえ、プーリ本体16が軸受外輪2の外周面の螺旋溝17またはローレット加工部18に食い込んでクリープを生じにくいものとなっている。
【0025】
図6は、第5実施形態の外輪回転用軸受を用いたプーリを示す。このプーリは、第1実施形態の軸受をベースとし、その外輪2をプーリ本体19と一体に形成するとともに、内輪1を固定軸20と一体に形成したものである。従って、軸受のグリース漏れが生じにくいうえ、プーリ本体や固定軸のクリープによる軸方向位置ずれの心配がない。
【符号の説明】
【0026】
1 内輪
2 外輪
3 ボール
5 環状空間
6 シール
7 環状溝
9 取付部
12 溝縁部
13 段差面
14、15 外輪回転用軸受
16 プーリ本体
17 螺旋溝
18 ローレット加工部
19 プーリ本体
20 固定軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に配される複数の転動体と、前記内輪と外輪との間の環状空間の軸方向両側を塞ぐ一対のシールとを備え、前記各シールは弾性部材で形成された環状の取付部を有し、その取付部が前記外輪の内周面に設けられた環状溝に嵌め込まれており、前記シールで密封された環状空間に潤滑剤が封入され、前記内輪が固定されて外輪が回転可能な状態で使用される外輪回転用軸受において、前記外輪の環状溝に嵌め込まれたシールの取付部を、外輪の環状溝の軸方向中央側の溝縁部よりも径方向内側に突出しないようにしたことを特徴とする外輪回転用軸受。
【請求項2】
前記転動体がボールであり、そのボールの直径をd、前記内輪の外径をD1、前記外輪の内径をD2とするとき、D1+d≦D2≦D1+1.2×dであることを特徴とする請求項1に記載の外輪回転用軸受。
【請求項3】
前記外輪の内周面に、前記転動体に対向する段差面を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の外輪回転用軸受。
【請求項4】
前記外輪の環状溝の軸方向中央側の溝縁部を、前記シールの取付部の一部を覆うように張り出させたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の外輪回転用軸受。
【請求項5】
前記外輪が樹脂製回転部材の内周に嵌め込まれた状態で使用され、前記外輪の外周面に前記回転部材との滑りを防止する溝を設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の外輪回転用軸受。
【請求項6】
前記外輪が樹脂製回転部材の内周に嵌め込まれた状態で使用され、前記外輪の外周面にローレット加工を施したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の外輪回転用軸受。
【請求項7】
樹脂で形成されたプーリ本体の内周に請求項1乃至6のいずれかに記載の外輪回転用軸受を嵌め込んだプーリ。
【請求項8】
プーリ本体を請求項1乃至4のいずれかに記載の外輪回転用軸受の外輪と一体に形成したプーリ。
【請求項9】
前記外輪回転用軸受の内輪を固定軸と一体に形成したことを特徴とする請求項7または8に記載のプーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−72813(P2012−72813A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217022(P2010−217022)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】