多層膜反射鏡
【課題】 応力緩和層や反射層の、面内の膜質の差に起因する応力分布を除去する。
【解決手段】 基板10上に応力緩和層12を介して反射層11を積層する。応力緩和層12は、反射層11の内部応力を相殺するための、均一な膜厚分布をもつ応力緩和部12aと、膜厚分布を二次偶関数近似した応力分布除去部12bを有する。応力は膜厚にほぼ比例するので、任意の膜厚分布を形成することで応力分布を制御することができるが、設計値による膜厚分布を変えることは光学特性の劣化につながる。そこで、応力分布を除去するための応力分布除去部12bの膜厚分布を二次偶関数で近似することで、膜厚分布による収差を光学系の調整によって低減可能とする。
【解決手段】 基板10上に応力緩和層12を介して反射層11を積層する。応力緩和層12は、反射層11の内部応力を相殺するための、均一な膜厚分布をもつ応力緩和部12aと、膜厚分布を二次偶関数近似した応力分布除去部12bを有する。応力は膜厚にほぼ比例するので、任意の膜厚分布を形成することで応力分布を制御することができるが、設計値による膜厚分布を変えることは光学特性の劣化につながる。そこで、応力分布を除去するための応力分布除去部12bの膜厚分布を二次偶関数で近似することで、膜厚分布による収差を光学系の調整によって低減可能とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟X線領域の露光装置等に使用される多層膜反射鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路素子の微細化の進展に伴い、従来の紫外線に代わって、さらに波長の短い軟X線(波長11〜14nm程度)のEUV(極端紫外線)領域を使用したリソグラフィー技術が開発されている。この波長領域の光に対して、従来用いられてきた光学材料の屈折率は1に非常に近い上、その吸収も非常に大きい。従って、原理的にレンズによる屈折光学系を利用することができない。以上の理由により、EUVリソグラフィーでは、ミラーによる反射光学系が用いられる。このミラーは、EUV領域で吸収が少なく、互いの屈折率の差が大きい2種類の物質を交互に何層も積層した多層膜で構成されている。EUVリソグラフィー用として広く用いられている多層膜の構成材料としては、MoとSiがあげられる。
【0003】
この多層膜ミラーは、EUVで一般に用いられる波長13.5nmに対して約半分となる、7nm程度をMoとSiの2層を1周期とした、40〜60周期程度の多層膜から構成されている。1周期は、MoとSiを積層して形成される。このような周期構造はブラッグ反射の条件を満たしており、各境界面からの微弱な反射光が同位相で多数重畳されるため、全体として高い反射率を得ることができる。この方法で形成される多層膜ミラーの反射率は、最大で70%を超える。
【0004】
ところで、これら多層膜は一般に内部応力(応力)を有することが知られている。そのため、多層膜に応力が生じるとその応力によって多層膜を積層している基板が変形し、本来所望している多層膜ミラーの形状とずれが生じる。その結果、露光装置の光学系の性能指標である波面収差が悪化するという問題があった。
【0005】
そこで、多層膜の応力を低減するために、これまで色々な手段が試みられてきた。例えば、Si中にドープされているB(ボロン)やC(カーボン)、P(リン)の濃度を変えることで多層膜の応力自体を低減させる方法(特許文献1参照)が知られている。また、多層膜と反対の応力を持つ応力緩和層と呼ばれるバッファー層を基板と多層膜の間に形成することで応力を相殺する方法(特許文献2参照)もある。
【0006】
しかし、これらの技術は、多層膜の応力の低減に有効であるが、その応力を多層膜ミラーの面内全域(ミラーの中心から端まで)に渡って、均一にゼロにすることは困難である。なぜなら、応力は多層膜ミラーの面内で異なる応力値(応力分布)を持っているからである。
【0007】
例えば、応力緩和層によって応力を相殺しようとしても、応力の相殺対象の多層膜である反射層の応力分布と応力緩和層の応力分布が一致するとは限らないので、相殺後の応力がミラー面内で均一にゼロになることはない。応力分布は、ミラー面内における膜質の差に起因しているものと考えられている。
【0008】
一般的に成膜装置にはIBS(イオンビームスパッタ)とMSP(マグネトロンスパッタ)、また蒸着などが用いられるが、そのどの手法も成膜範囲が広く、均質な膜質を得るためにマスクなどで成膜範囲を絞るにしても、限界がある。また、ミラー形状は急峻な凹凸形状を持つものもある。このような場合、成膜粒子はミラー面内でまったく同じエネルギーを持って、同じ角度で基板に到達することはないため、ミラー面内では密度や結合状態などの膜質の異なる部分が生じてしまう。この膜質の分布は制御することが非常に困難であるため、応力分布を制御することも困難であることがわかる。
【0009】
この応力分布は、多層膜の基板の変形をより大きくし、その変形の予測も困難であるから、波面収差の悪化につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6160867号明細書
【特許文献2】特表2002−504715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
多層膜ミラーの内部応力は、特許文献1や特許文献2で示すような、応力自体を低減する方法や、応力緩和層で相殺する方法で一定量低減することはできるものの、応力分布が存在する限り、その内部応力をゼロに近づけることはできない。
【0012】
成膜上は制御できない応力分布を抑える方法としては、ミラー面内における膜厚に分布(異なる厚み)を持たせることがあげられる。膜厚が増減する分だけ、応力も増減するので、ミラー面内で膜厚分布を制御できれば、応力分布も制御できることになる。
【0013】
膜厚分布は、成膜装置内での成膜粒子の放出時間をミラー面内で変えればよいだけなので、制御することは可能であるが、応力分布の除去のために膜厚を設計値から変えてしまうということは、設計で決められた膜厚分布から逸脱することになる。これは、当然、波面収差の悪化につながる。
【0014】
本発明は、波面収差を悪化させることなく、応力分布を低減することのできる多層膜反射鏡を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の多層膜反射鏡は、基板に、多層膜構成を有する応力緩和層と反射層を積層した多層膜反射鏡であって、
前記応力緩和層が、前記反射層に生じる応力と逆方向の応力を発生すると共に前記多層膜反射鏡の光軸の径方向に対して二次の偶関数となる膜厚分布を有することを特徴とする多層膜反射鏡である。
【発明の効果】
【0016】
応力分布を制御するために応力緩和層の膜厚分布を二次の偶関数で近似させる、もしくは二次の偶関数で近似させた膜厚分布を付加する。これにより、膜厚分布による波面収差の悪化を発生させることなく、応力分布を最小限にすることが可能となる。
【0017】
その理由は、二次の偶関数で近似できる膜厚分布が波面収差に与える影響は、露光装置を構成する光学系の調整で除去することができるからである。すなわち、膜厚分布の設計値に対するずれが、二次の偶関数で近似できれば、波面収差の悪化を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1による多層膜反射鏡の膜構成と応力分布を示す図である。
【図2】実施例1で用いたスパッタリング成膜装置を示す模式図である。
【図3】サンプル評価用の模型基板を示す模式図である。
【図4】実施例1による多層膜反射鏡を設計する手順を示すフローチャートである。
【図5】実施例1による多層膜反射鏡の応力分布で、応力分布を除去する前と、応力分布を除去した後を示すグラフである。
【図6】実施例1による多層膜反射鏡の膜厚分布で、応力分布を除去するために作成した狙いの二次偶関数近似の膜厚分布と、それを狙って実際に成膜した膜厚分布を示すグラフである。
【図7】実施例2による多層膜反射鏡の膜構成を示す図である。
【図8】実施例2による多層膜反射鏡の応力分布で、応力分布を除去する前と、応力分布を除去した後を示すグラフである。
【図9】実施例2による多層膜反射鏡の膜厚分布で、応力分布を除去するために作成した狙いの二次偶関数の膜厚分布と、それを狙って実際に成膜した膜厚分布を示すグラフである。
【図10】実施例3による多層膜反射鏡の膜構成を示す図である。
【図11】実施例3による多層膜反射鏡の応力分布で、応力分布を除去する前と、応力分布を除去した後を示すグラフである。
【図12】実施例3による多層膜反射鏡の膜厚分布で、応力分布を除去するために作成した狙いの二次偶関数近似の膜厚分布と、それを狙って実際に成膜した膜厚分布を示すグラフである。
【図13】反射型縮小投影露光装置の反射縮小投影光学系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は一実施形態による多層膜構成の多層膜反射鏡の膜構成と応力分布を示す。
【0021】
この多層膜反射鏡は光軸に対して回転対称となるように作成されている。
基板10に、前記光軸に対して回転対象に形成された反射層11と応力緩和層12を積層した多層膜を有する。この基板の断面形状は、平坦に限らず、凹面、凸面を持つものがある。また、積層される多層膜においても、基板とは別に設計されるため、膜厚は平坦に限らず、傾斜を持つものがある。一方、正面から見た形状は、円に限らず、ドーナツ型、扇型など持つものがある。
【0022】
応力緩和層12は、光軸の径方向に対して二次の偶関数に近似する膜厚分布をもつ。この応力緩和層12は、反射層11に生じる内部応力(応力)と逆方向の応力を発生する。例えば、反射層11が圧縮応力を生じるならば応力緩和層12は引張応力を生じるように設計されている。
【0023】
反射層11は、MoとSiの交互層において、全体が一定膜厚で、1/4波長積層体に似た分布ブラッグ反射構造を持ち、入射角度が0度のときにピーク波長が13.5nmになるような多層膜反射構成を有する。この多層膜反射鏡は光軸に対して回転対称に作成しており、光軸の径方向の膜厚分布はピーク波長が13.5nmで均一であるが、光学設計によっては、ピーク波長は13.5nm以外で均一、もしくは、均一ではなく傾斜膜になることもある。
【0024】
応力緩和層12は、均一な膜厚分布を有する応力緩和部12aと、応力分布除去部12bを備える。応力緩和部12aは、反射層11の内部応力を相殺するように基板10と反射層11の間に介在する多層膜であるが、反射層と同様の均一な膜厚に成膜すると、反射層11の膜質の差による応力分布を解消することはできない。そこで、膜厚分布を二次の偶関数に近似させてこの応力分布を除去する応力分布除去層12bを設ける。この時、応力分布除去層12bは応力緩和部12aと同じく多層膜である必要はなく、単層で形成してもよい。単層にする事により、成膜工程も簡略ができる。
【0025】
図2は、本実施例で用いるスパッタリング成膜装置を示す模式図である。この装置のすべての制御系はコンピューター908に接続されており、一括制御可能である。真空チャンバー901内に基板ホルダ902によって保持された基板Wに、マスク903を介してSi/Moの多層膜を成膜する。
【0026】
ターゲット装置には、直径4インチのBドープした多晶質のSiターゲット905と、金属のMoターゲット906が取り付けられており、ターゲットが回転し、各材料を切り替えて、基板W上に成膜する。このターゲットの材料は交換することも可能である。
【0027】
基板Wは、直径500mm、厚さ300mmのシリコンを用いており、成膜時自転している。
【0028】
基板Wとターゲットの間には、シャッター904と、基板上の膜厚分布を制御するための可動式のマスク903がある。このマスク903には基板W上の成膜面積より小さな開口部が設けられており、成膜時にマスク903と基板Wを相対移動させると共に、相対移動速度を制御することで基板上に膜厚分布を持つ反射膜或いは応力緩和層を形成することができる。しかし、成膜方法については上記の方法に限らない。成膜時はプロセスガスとして、Arガスを30sccm導入する。ターゲットに投入する電力は、RF電源907による、13.56MHzのRF高周波150Wとした。各層の膜厚はコンピューター908により、時間制御している。
【0029】
成膜方法はスパッタを用いたが、製法はこの限りではなく、例えば蒸着法を用いても同様な膜が成膜可能である。また、成膜材料もSi、Moに限らず、目的に応じて、RuやC、B4Cも合わせて使うことがある。
【0030】
膜厚分布や応力分布の評価方法は、まず、図3に示すように、所望のミラー基板と同形状で、その形状に沿ってサンプル用の小基板(ここでは、SiもしくはSiO2)を貼り付けられる模型(模型基板)を作成する。これらサンプルはミラー基板形状の各半径位置での膜パラメータを持っており、各半径位置での膜厚、応力を評価する工程を繰り返すことで、多層膜反射鏡が有する応力分布を除去し、図1(b)に示すように、ごくわずかな応力分布とすることができる。
【0031】
図4は、光学特性を満足した多層膜反射鏡を作成するまでの手順を示す。ステップS1で所望の反射特性を有する多層構成の多層膜反射鏡を作成し、ステップS2で応力分布を評価し、ステップS3で応力分布を除去するための応力分布除去層の膜厚分布を算出し、それを二次偶関数で近似した膜厚分布を求める。この膜厚分布をもつ応力分布除去層を介在させた多層膜反射鏡を作成し(ステップS4)、応力分布を再評価し(ステップS5)、光学特性を満足するまでステップS3〜S5を繰り返す。
【0032】
この二次偶関数は、以下のように定義する。光学設計に際しては、膜厚分布は何らかの関数形で与えられる事が好適である。EUV投影光学系は全てのミラーが光軸と呼ばれる共通の軸を持ち、光軸に対して回転対称となる共軸系である。ここで、光軸からの距離をrとすると、膜厚分布はf(r)=a+br2+cr4・・・という偶関数の形で表しておくと、元の光学系が持つ光軸に対する回転対称性を保存できるので都合が良い。従って、本件で表記される偶関数とは、この光軸の考え方に基づいて定義している。前記「径方向」は基板の中心からの方向で定義されているわけではなく、光学系における光軸を原点として定義されていて、膜厚分布を表記していることになる。ちなみに、この偶関数、特に二次などの低次の関数で表される時に限り、その膜厚分布は波面収差を悪化させる事はほとんどない。今回の発明者らの研究によって、複数の回転対称の反射鏡からなる光学系においては、基板形状が2次の偶関数に沿って変形した場合、発生する波面収差はフォーカス成分であることが分かった。フォーカス成分は、ミラーを前後に調整する事で除去する事ができるため、本件は、この考え方に基づき、発明されている。
【0033】
さらに、この二次偶関数は、四次、六次など、低次の成分も含む。また、元の平坦なり、傾斜をもった膜厚分布に、二次偶関数成分の膜厚分布を付加したものも、合わせて本件では二次偶関数に近似した膜厚分布とみなしている。これは、最終的に応力分布を除去した状態の膜厚分布の状態は、元の膜厚分布によっては、二次偶関数のみの膜厚分布で構成されているとは限らないからである。
【0034】
一方で、この偶関数に近似する程度は、以下のように定義する。膜厚分布曲線を、その最内径の膜厚で面内全体の膜厚を割って表す百分率表記にしたものと、それを二次偶関数で近似した際に得られる同じく百分率表記された二次偶関数曲線との、両者の差分の絶対値が0.1%以下とする。この差分は、そのまま光学特性に起因する膜厚誤差となるので、光学特性への影響がないよう、0.1%以下と定めた。
【0035】
一般的な成膜装置では、応力の違いの原因である膜質は中心から周辺にかけて、一定方向の変化をするので、二次成分が除去できれば、光学特性に影響を与えるような応力分布は除去することができる。
【0036】
なお、二次偶関数近似の膜厚分布をもたせる層は、応力緩和層全体でもよいし、反射層でもよい。
【実施例1】
【0037】
従来の多層膜反射鏡と本発明による多層膜反射鏡のそれぞれの応力分布に関して、図面を用いながらその違いを以下で論じる。なお各実施例においても同じように論じる。
【0038】
まず、比較例として応力緩和層と反射層からなる従来の多層膜反射鏡についてのべる。多層膜反射鏡において、Si、Moの交互層を40回積層したものを反射層とする。その反射層の応力を緩和するために、同じくSi、Moの交互層を反射層とは成膜条件、膜厚を変えて18回積層したものを応力緩和層(応力緩和部)とし、上記反射層の下にあらかじめ成膜しておいた。これらの膜厚及び成膜時間は、反射層のSiで4.22nm/42秒、Moで2.68nm/13秒、応力緩和層のSiで9nm/178秒、Moで1nm/10秒であった。コンピューターには成膜時間データを入力する。これら成膜と膜厚評価を繰返し、膜厚を所望の膜厚分布、ここでは面内で均一の厚さ(膜厚分布誤差±0.1%以内)になるように追い込んだ。
【0039】
膜厚分布を追い込んだ多層膜反射鏡の各径方向位置での応力値を評価し、応力分布を算出したところ、図5のグラフAで示すように、径方向外側に向かって引張応力が強くなっており、±20MPa超の応力分布が生じていた。
【0040】
次に図1に示す本実施例による多層膜反射鏡について述べる(成膜条件は上に同じ)。上述の応力分布を除去する方向に、Si単層からなる応力分布除去部の膜厚分布を算出し、二次偶関数で近似し、狙う膜厚分布曲線を図6に示すように算出した。ここでは、応力分布が径方向外側に向かって引張応力が強くなっているので、圧縮応力を持つSiの膜厚を径方向外側に向かって厚くする必要がある。
【0041】
この応力分布除去部を、上記応力緩和部を成膜した後に成膜し、その上に反射層を成膜し、図1のように応力緩和層と反射層の積層構成にした。この際、応力分布除去部は一度の成膜では狙い通りの二次偶関数近似の膜厚分布は形成できないため、図4のフローチャートで示すように、繰り返し成膜して、所望の二次偶関数近似の膜厚分布になるよう追い込んでいく。その結果が図6に実際の膜厚分布として示されており、狙うべき二次偶関数膜厚分布との差分、すなわち膜厚分布誤差は±0.1%以内になっていた。また、応力分布を評価したところ、図5のグラフBに示すように、応力分布は±5MPaとなり、10MPa以下に低減することができた。
【0042】
ここで、応力分布が一方向の分布を持っており、かつ所望の値まで低減していなければ、図4のフローチャートに示すとおり、再度、二次偶関数近似の膜厚分布を作成し、繰り返すことができる。
【0043】
本実施例では、応力分布除去部をSiで作成したが、Moでも、Mo/Si多層膜でも作成することができる。引張応力を持つ傾向があるMoであれば、径方向外側に向かって、膜厚を薄くしていけばよい。
【実施例2】
【0044】
図7は、実施例2による多層膜反射鏡の膜構成を示す。この多層膜反射鏡は、基板20上に、応力緩和層22と、所望の反射特性を有する反射層21とを有する。反射層21は、応力緩和層22によって低減することのできない応力分布を除去するために、一定膜厚であった反射層21の膜厚を修正し、その膜厚分布を二次偶関数近似させたものである。
【0045】
比較例としての応力緩和層と反射層からなる従来の多層膜反射鏡については、実施例1に述べた多層膜反射鏡と同じものである。
【0046】
次に図7に図示された本実施例による多層膜反射鏡について述べる。
【0047】
応力分布を除去するために、本実施例では反射層の膜厚分布を変える。ここでは、応力分布が径方向外側に向かって引張応力が強くなっているので、圧縮応力を持つ反射層の膜厚を径方向外側に向かって厚くする必要がある。従って、応力分布を除去する方向に、反射層中の反射層の膜厚分布を算出し、二次偶関数で近似し、狙う膜厚分布曲線を図9に示すように算出した。
【0048】
上記の二次偶関数近似の膜厚分布の反射層を、応力緩和層を成膜した後に成膜し、図7に示すような膜構成にした。この際、反射層は一度、一定膜厚にする際、膜厚分布を追い込んでいるが、膜厚分布を変えているため、再度、繰り返し成膜して、所望の二次偶関数近似の膜厚分布になるよう追い込んでいる。その反射層の膜厚分布は図9に実際の膜厚分布として示されており、狙うべき二次偶関数膜厚分布との差分、すなわち膜厚分布誤差は±0.1%以内になっていた。また、応力分布を評価したところ、図8のグラフBに示すように、応力分布は±5MPaとなり、10MPa以下に低減することができた。
【0049】
ここで、応力分布が一方向の分布を持っており、かつ所望の値まで低減していなければ、図4のフローチャートに示すとおり、再度、二次偶関数近似の膜厚分布を作成し、繰り返すことができる。
【0050】
本実施例では、反射層に二次偶関数近似の膜厚分布を付けたが、応力緩和層に付けても同様の効果が得られる。特に、応力緩和層では構成するSi、Mo、別々に付けてもよい。引張応力を持つ傾向があるMoであれば、径方向外側に向かって、膜厚を薄くしていけばよい。さらに、これら二次偶関数近似の膜厚分布を付けるのは、一つの層だけに限らず、反射層と応力緩和層全体、反射層と応力緩和層のMoと言ったように組み合わせることもできる。
【実施例3】
【0051】
図10は実施例3による多層膜反射鏡を示す。この多層膜反射鏡は、基板30上に応力分布除去のために膜厚分布を二次偶関数近似させた反射層31を有する。
【0052】
まず、比較例として反射層からなる従来の多層膜反射鏡についてのべる。多層膜反射鏡の所望の反射特性を有するSi、Moの交互層を40回積層したものを反射層とし、成膜した。膜厚及び成膜時間は、反射層のSiで4.22nm/63秒、Moで2.68nm/30秒であった。コンピューターには成膜時間データを入力する。これら成膜と膜厚評価を繰返し、膜厚を所望の膜厚分布、ここでは面内で均一の厚さ(膜厚分布誤差±0.1%以内)になるように追い込んだ。
【0053】
膜厚分布を追い込んだ反射層の各径方向位置での応力値を評価し、図11のグラフAに示すように、応力分布を算出したところ、径方向内側に向かって引張応力が強くなっており、±10MPa超の応力分布が生じていた。
【0054】
次に本実施例による多層膜反射鏡について述べる。上述の応力分布を除去するために、反射層の膜厚分布を変える。ここでは、応力分布が径方向内側に向かって引張応力が強くなっている。この反射層は径方向内側で応力を持ち、外側は応力がほぼない状態なので、反射層の膜厚を径方向内側に向かって薄くすれば、径方向内側の引張応力を完全には0にできないが、小さくする事が可能である。従って、応力分布を除去する方向に、反射層の膜厚分布を算出し、二次偶関数で近似し、狙う膜厚分布曲線を図12に示すように算出した。
【0055】
上記の二次偶関数近似の膜厚分布の反射層を成膜し、図10のような膜構成にした。この際、反射層は一度、均一膜にする際、膜厚分布を追い込んでいるが、膜厚分布を変えているため、再度、繰り返し成膜して、所望の二次偶関数近似の膜厚分布になるよう追い込んでいる。その膜厚分布の結果が図12に示されており、狙うべき二次偶関数膜厚分布との差分、すなわち膜厚分布誤差は±0.1%以内になっていた。また、応力分布を評価したところ、図11のグラフBに示すように、応力分布は±5MPaとなり、10MPa以下に低減することができた。
【0056】
ここで、応力分布が一方向の分布を持っており、かつ所望の値まで低減していなければ、図4のフローチャートに示すとおり、再度、二次偶関数近似の膜厚分布を作成し、繰り返すことができる。
【0057】
図13は、上記実施例1〜3で作成した反射鏡を用いる反射型縮小投影露光装置の反射縮小投影光学系を示す。光源に13.5nmのEUV光を用いて、反射型マスク1107上に形成されたパターンを反射層1101、1102、1103、1104、1105、1106より構成された反射縮小投影光学系により基板1108のレジストに転写した。これにより、例えば、マスク上0.1μmのパターンに対して寸法0.025μmのレジストパタンが正確に得られた。
【0058】
図13の装置では、全ての反射鏡は精度要求が厳しいため、光学特性の優れる上記実施例1〜3のいずれかを用いている。成膜方法にはスパッタを用いたが、製法はこの限りではなく、例えば蒸着法を用いても同様な膜が成膜可能である。
【符号の説明】
【0059】
10、20、30 基板
11、21、31 反射層
12、22 応力緩和層
12a 応力緩和部
12b 応力分布除去部
901 真空チャンバー
903 マスク
904 シャッター
905 Siターゲット
906 Moターゲット
907 RF電源
908 コンピューター
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟X線領域の露光装置等に使用される多層膜反射鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路素子の微細化の進展に伴い、従来の紫外線に代わって、さらに波長の短い軟X線(波長11〜14nm程度)のEUV(極端紫外線)領域を使用したリソグラフィー技術が開発されている。この波長領域の光に対して、従来用いられてきた光学材料の屈折率は1に非常に近い上、その吸収も非常に大きい。従って、原理的にレンズによる屈折光学系を利用することができない。以上の理由により、EUVリソグラフィーでは、ミラーによる反射光学系が用いられる。このミラーは、EUV領域で吸収が少なく、互いの屈折率の差が大きい2種類の物質を交互に何層も積層した多層膜で構成されている。EUVリソグラフィー用として広く用いられている多層膜の構成材料としては、MoとSiがあげられる。
【0003】
この多層膜ミラーは、EUVで一般に用いられる波長13.5nmに対して約半分となる、7nm程度をMoとSiの2層を1周期とした、40〜60周期程度の多層膜から構成されている。1周期は、MoとSiを積層して形成される。このような周期構造はブラッグ反射の条件を満たしており、各境界面からの微弱な反射光が同位相で多数重畳されるため、全体として高い反射率を得ることができる。この方法で形成される多層膜ミラーの反射率は、最大で70%を超える。
【0004】
ところで、これら多層膜は一般に内部応力(応力)を有することが知られている。そのため、多層膜に応力が生じるとその応力によって多層膜を積層している基板が変形し、本来所望している多層膜ミラーの形状とずれが生じる。その結果、露光装置の光学系の性能指標である波面収差が悪化するという問題があった。
【0005】
そこで、多層膜の応力を低減するために、これまで色々な手段が試みられてきた。例えば、Si中にドープされているB(ボロン)やC(カーボン)、P(リン)の濃度を変えることで多層膜の応力自体を低減させる方法(特許文献1参照)が知られている。また、多層膜と反対の応力を持つ応力緩和層と呼ばれるバッファー層を基板と多層膜の間に形成することで応力を相殺する方法(特許文献2参照)もある。
【0006】
しかし、これらの技術は、多層膜の応力の低減に有効であるが、その応力を多層膜ミラーの面内全域(ミラーの中心から端まで)に渡って、均一にゼロにすることは困難である。なぜなら、応力は多層膜ミラーの面内で異なる応力値(応力分布)を持っているからである。
【0007】
例えば、応力緩和層によって応力を相殺しようとしても、応力の相殺対象の多層膜である反射層の応力分布と応力緩和層の応力分布が一致するとは限らないので、相殺後の応力がミラー面内で均一にゼロになることはない。応力分布は、ミラー面内における膜質の差に起因しているものと考えられている。
【0008】
一般的に成膜装置にはIBS(イオンビームスパッタ)とMSP(マグネトロンスパッタ)、また蒸着などが用いられるが、そのどの手法も成膜範囲が広く、均質な膜質を得るためにマスクなどで成膜範囲を絞るにしても、限界がある。また、ミラー形状は急峻な凹凸形状を持つものもある。このような場合、成膜粒子はミラー面内でまったく同じエネルギーを持って、同じ角度で基板に到達することはないため、ミラー面内では密度や結合状態などの膜質の異なる部分が生じてしまう。この膜質の分布は制御することが非常に困難であるため、応力分布を制御することも困難であることがわかる。
【0009】
この応力分布は、多層膜の基板の変形をより大きくし、その変形の予測も困難であるから、波面収差の悪化につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6160867号明細書
【特許文献2】特表2002−504715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
多層膜ミラーの内部応力は、特許文献1や特許文献2で示すような、応力自体を低減する方法や、応力緩和層で相殺する方法で一定量低減することはできるものの、応力分布が存在する限り、その内部応力をゼロに近づけることはできない。
【0012】
成膜上は制御できない応力分布を抑える方法としては、ミラー面内における膜厚に分布(異なる厚み)を持たせることがあげられる。膜厚が増減する分だけ、応力も増減するので、ミラー面内で膜厚分布を制御できれば、応力分布も制御できることになる。
【0013】
膜厚分布は、成膜装置内での成膜粒子の放出時間をミラー面内で変えればよいだけなので、制御することは可能であるが、応力分布の除去のために膜厚を設計値から変えてしまうということは、設計で決められた膜厚分布から逸脱することになる。これは、当然、波面収差の悪化につながる。
【0014】
本発明は、波面収差を悪化させることなく、応力分布を低減することのできる多層膜反射鏡を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の多層膜反射鏡は、基板に、多層膜構成を有する応力緩和層と反射層を積層した多層膜反射鏡であって、
前記応力緩和層が、前記反射層に生じる応力と逆方向の応力を発生すると共に前記多層膜反射鏡の光軸の径方向に対して二次の偶関数となる膜厚分布を有することを特徴とする多層膜反射鏡である。
【発明の効果】
【0016】
応力分布を制御するために応力緩和層の膜厚分布を二次の偶関数で近似させる、もしくは二次の偶関数で近似させた膜厚分布を付加する。これにより、膜厚分布による波面収差の悪化を発生させることなく、応力分布を最小限にすることが可能となる。
【0017】
その理由は、二次の偶関数で近似できる膜厚分布が波面収差に与える影響は、露光装置を構成する光学系の調整で除去することができるからである。すなわち、膜厚分布の設計値に対するずれが、二次の偶関数で近似できれば、波面収差の悪化を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1による多層膜反射鏡の膜構成と応力分布を示す図である。
【図2】実施例1で用いたスパッタリング成膜装置を示す模式図である。
【図3】サンプル評価用の模型基板を示す模式図である。
【図4】実施例1による多層膜反射鏡を設計する手順を示すフローチャートである。
【図5】実施例1による多層膜反射鏡の応力分布で、応力分布を除去する前と、応力分布を除去した後を示すグラフである。
【図6】実施例1による多層膜反射鏡の膜厚分布で、応力分布を除去するために作成した狙いの二次偶関数近似の膜厚分布と、それを狙って実際に成膜した膜厚分布を示すグラフである。
【図7】実施例2による多層膜反射鏡の膜構成を示す図である。
【図8】実施例2による多層膜反射鏡の応力分布で、応力分布を除去する前と、応力分布を除去した後を示すグラフである。
【図9】実施例2による多層膜反射鏡の膜厚分布で、応力分布を除去するために作成した狙いの二次偶関数の膜厚分布と、それを狙って実際に成膜した膜厚分布を示すグラフである。
【図10】実施例3による多層膜反射鏡の膜構成を示す図である。
【図11】実施例3による多層膜反射鏡の応力分布で、応力分布を除去する前と、応力分布を除去した後を示すグラフである。
【図12】実施例3による多層膜反射鏡の膜厚分布で、応力分布を除去するために作成した狙いの二次偶関数近似の膜厚分布と、それを狙って実際に成膜した膜厚分布を示すグラフである。
【図13】反射型縮小投影露光装置の反射縮小投影光学系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は一実施形態による多層膜構成の多層膜反射鏡の膜構成と応力分布を示す。
【0021】
この多層膜反射鏡は光軸に対して回転対称となるように作成されている。
基板10に、前記光軸に対して回転対象に形成された反射層11と応力緩和層12を積層した多層膜を有する。この基板の断面形状は、平坦に限らず、凹面、凸面を持つものがある。また、積層される多層膜においても、基板とは別に設計されるため、膜厚は平坦に限らず、傾斜を持つものがある。一方、正面から見た形状は、円に限らず、ドーナツ型、扇型など持つものがある。
【0022】
応力緩和層12は、光軸の径方向に対して二次の偶関数に近似する膜厚分布をもつ。この応力緩和層12は、反射層11に生じる内部応力(応力)と逆方向の応力を発生する。例えば、反射層11が圧縮応力を生じるならば応力緩和層12は引張応力を生じるように設計されている。
【0023】
反射層11は、MoとSiの交互層において、全体が一定膜厚で、1/4波長積層体に似た分布ブラッグ反射構造を持ち、入射角度が0度のときにピーク波長が13.5nmになるような多層膜反射構成を有する。この多層膜反射鏡は光軸に対して回転対称に作成しており、光軸の径方向の膜厚分布はピーク波長が13.5nmで均一であるが、光学設計によっては、ピーク波長は13.5nm以外で均一、もしくは、均一ではなく傾斜膜になることもある。
【0024】
応力緩和層12は、均一な膜厚分布を有する応力緩和部12aと、応力分布除去部12bを備える。応力緩和部12aは、反射層11の内部応力を相殺するように基板10と反射層11の間に介在する多層膜であるが、反射層と同様の均一な膜厚に成膜すると、反射層11の膜質の差による応力分布を解消することはできない。そこで、膜厚分布を二次の偶関数に近似させてこの応力分布を除去する応力分布除去層12bを設ける。この時、応力分布除去層12bは応力緩和部12aと同じく多層膜である必要はなく、単層で形成してもよい。単層にする事により、成膜工程も簡略ができる。
【0025】
図2は、本実施例で用いるスパッタリング成膜装置を示す模式図である。この装置のすべての制御系はコンピューター908に接続されており、一括制御可能である。真空チャンバー901内に基板ホルダ902によって保持された基板Wに、マスク903を介してSi/Moの多層膜を成膜する。
【0026】
ターゲット装置には、直径4インチのBドープした多晶質のSiターゲット905と、金属のMoターゲット906が取り付けられており、ターゲットが回転し、各材料を切り替えて、基板W上に成膜する。このターゲットの材料は交換することも可能である。
【0027】
基板Wは、直径500mm、厚さ300mmのシリコンを用いており、成膜時自転している。
【0028】
基板Wとターゲットの間には、シャッター904と、基板上の膜厚分布を制御するための可動式のマスク903がある。このマスク903には基板W上の成膜面積より小さな開口部が設けられており、成膜時にマスク903と基板Wを相対移動させると共に、相対移動速度を制御することで基板上に膜厚分布を持つ反射膜或いは応力緩和層を形成することができる。しかし、成膜方法については上記の方法に限らない。成膜時はプロセスガスとして、Arガスを30sccm導入する。ターゲットに投入する電力は、RF電源907による、13.56MHzのRF高周波150Wとした。各層の膜厚はコンピューター908により、時間制御している。
【0029】
成膜方法はスパッタを用いたが、製法はこの限りではなく、例えば蒸着法を用いても同様な膜が成膜可能である。また、成膜材料もSi、Moに限らず、目的に応じて、RuやC、B4Cも合わせて使うことがある。
【0030】
膜厚分布や応力分布の評価方法は、まず、図3に示すように、所望のミラー基板と同形状で、その形状に沿ってサンプル用の小基板(ここでは、SiもしくはSiO2)を貼り付けられる模型(模型基板)を作成する。これらサンプルはミラー基板形状の各半径位置での膜パラメータを持っており、各半径位置での膜厚、応力を評価する工程を繰り返すことで、多層膜反射鏡が有する応力分布を除去し、図1(b)に示すように、ごくわずかな応力分布とすることができる。
【0031】
図4は、光学特性を満足した多層膜反射鏡を作成するまでの手順を示す。ステップS1で所望の反射特性を有する多層構成の多層膜反射鏡を作成し、ステップS2で応力分布を評価し、ステップS3で応力分布を除去するための応力分布除去層の膜厚分布を算出し、それを二次偶関数で近似した膜厚分布を求める。この膜厚分布をもつ応力分布除去層を介在させた多層膜反射鏡を作成し(ステップS4)、応力分布を再評価し(ステップS5)、光学特性を満足するまでステップS3〜S5を繰り返す。
【0032】
この二次偶関数は、以下のように定義する。光学設計に際しては、膜厚分布は何らかの関数形で与えられる事が好適である。EUV投影光学系は全てのミラーが光軸と呼ばれる共通の軸を持ち、光軸に対して回転対称となる共軸系である。ここで、光軸からの距離をrとすると、膜厚分布はf(r)=a+br2+cr4・・・という偶関数の形で表しておくと、元の光学系が持つ光軸に対する回転対称性を保存できるので都合が良い。従って、本件で表記される偶関数とは、この光軸の考え方に基づいて定義している。前記「径方向」は基板の中心からの方向で定義されているわけではなく、光学系における光軸を原点として定義されていて、膜厚分布を表記していることになる。ちなみに、この偶関数、特に二次などの低次の関数で表される時に限り、その膜厚分布は波面収差を悪化させる事はほとんどない。今回の発明者らの研究によって、複数の回転対称の反射鏡からなる光学系においては、基板形状が2次の偶関数に沿って変形した場合、発生する波面収差はフォーカス成分であることが分かった。フォーカス成分は、ミラーを前後に調整する事で除去する事ができるため、本件は、この考え方に基づき、発明されている。
【0033】
さらに、この二次偶関数は、四次、六次など、低次の成分も含む。また、元の平坦なり、傾斜をもった膜厚分布に、二次偶関数成分の膜厚分布を付加したものも、合わせて本件では二次偶関数に近似した膜厚分布とみなしている。これは、最終的に応力分布を除去した状態の膜厚分布の状態は、元の膜厚分布によっては、二次偶関数のみの膜厚分布で構成されているとは限らないからである。
【0034】
一方で、この偶関数に近似する程度は、以下のように定義する。膜厚分布曲線を、その最内径の膜厚で面内全体の膜厚を割って表す百分率表記にしたものと、それを二次偶関数で近似した際に得られる同じく百分率表記された二次偶関数曲線との、両者の差分の絶対値が0.1%以下とする。この差分は、そのまま光学特性に起因する膜厚誤差となるので、光学特性への影響がないよう、0.1%以下と定めた。
【0035】
一般的な成膜装置では、応力の違いの原因である膜質は中心から周辺にかけて、一定方向の変化をするので、二次成分が除去できれば、光学特性に影響を与えるような応力分布は除去することができる。
【0036】
なお、二次偶関数近似の膜厚分布をもたせる層は、応力緩和層全体でもよいし、反射層でもよい。
【実施例1】
【0037】
従来の多層膜反射鏡と本発明による多層膜反射鏡のそれぞれの応力分布に関して、図面を用いながらその違いを以下で論じる。なお各実施例においても同じように論じる。
【0038】
まず、比較例として応力緩和層と反射層からなる従来の多層膜反射鏡についてのべる。多層膜反射鏡において、Si、Moの交互層を40回積層したものを反射層とする。その反射層の応力を緩和するために、同じくSi、Moの交互層を反射層とは成膜条件、膜厚を変えて18回積層したものを応力緩和層(応力緩和部)とし、上記反射層の下にあらかじめ成膜しておいた。これらの膜厚及び成膜時間は、反射層のSiで4.22nm/42秒、Moで2.68nm/13秒、応力緩和層のSiで9nm/178秒、Moで1nm/10秒であった。コンピューターには成膜時間データを入力する。これら成膜と膜厚評価を繰返し、膜厚を所望の膜厚分布、ここでは面内で均一の厚さ(膜厚分布誤差±0.1%以内)になるように追い込んだ。
【0039】
膜厚分布を追い込んだ多層膜反射鏡の各径方向位置での応力値を評価し、応力分布を算出したところ、図5のグラフAで示すように、径方向外側に向かって引張応力が強くなっており、±20MPa超の応力分布が生じていた。
【0040】
次に図1に示す本実施例による多層膜反射鏡について述べる(成膜条件は上に同じ)。上述の応力分布を除去する方向に、Si単層からなる応力分布除去部の膜厚分布を算出し、二次偶関数で近似し、狙う膜厚分布曲線を図6に示すように算出した。ここでは、応力分布が径方向外側に向かって引張応力が強くなっているので、圧縮応力を持つSiの膜厚を径方向外側に向かって厚くする必要がある。
【0041】
この応力分布除去部を、上記応力緩和部を成膜した後に成膜し、その上に反射層を成膜し、図1のように応力緩和層と反射層の積層構成にした。この際、応力分布除去部は一度の成膜では狙い通りの二次偶関数近似の膜厚分布は形成できないため、図4のフローチャートで示すように、繰り返し成膜して、所望の二次偶関数近似の膜厚分布になるよう追い込んでいく。その結果が図6に実際の膜厚分布として示されており、狙うべき二次偶関数膜厚分布との差分、すなわち膜厚分布誤差は±0.1%以内になっていた。また、応力分布を評価したところ、図5のグラフBに示すように、応力分布は±5MPaとなり、10MPa以下に低減することができた。
【0042】
ここで、応力分布が一方向の分布を持っており、かつ所望の値まで低減していなければ、図4のフローチャートに示すとおり、再度、二次偶関数近似の膜厚分布を作成し、繰り返すことができる。
【0043】
本実施例では、応力分布除去部をSiで作成したが、Moでも、Mo/Si多層膜でも作成することができる。引張応力を持つ傾向があるMoであれば、径方向外側に向かって、膜厚を薄くしていけばよい。
【実施例2】
【0044】
図7は、実施例2による多層膜反射鏡の膜構成を示す。この多層膜反射鏡は、基板20上に、応力緩和層22と、所望の反射特性を有する反射層21とを有する。反射層21は、応力緩和層22によって低減することのできない応力分布を除去するために、一定膜厚であった反射層21の膜厚を修正し、その膜厚分布を二次偶関数近似させたものである。
【0045】
比較例としての応力緩和層と反射層からなる従来の多層膜反射鏡については、実施例1に述べた多層膜反射鏡と同じものである。
【0046】
次に図7に図示された本実施例による多層膜反射鏡について述べる。
【0047】
応力分布を除去するために、本実施例では反射層の膜厚分布を変える。ここでは、応力分布が径方向外側に向かって引張応力が強くなっているので、圧縮応力を持つ反射層の膜厚を径方向外側に向かって厚くする必要がある。従って、応力分布を除去する方向に、反射層中の反射層の膜厚分布を算出し、二次偶関数で近似し、狙う膜厚分布曲線を図9に示すように算出した。
【0048】
上記の二次偶関数近似の膜厚分布の反射層を、応力緩和層を成膜した後に成膜し、図7に示すような膜構成にした。この際、反射層は一度、一定膜厚にする際、膜厚分布を追い込んでいるが、膜厚分布を変えているため、再度、繰り返し成膜して、所望の二次偶関数近似の膜厚分布になるよう追い込んでいる。その反射層の膜厚分布は図9に実際の膜厚分布として示されており、狙うべき二次偶関数膜厚分布との差分、すなわち膜厚分布誤差は±0.1%以内になっていた。また、応力分布を評価したところ、図8のグラフBに示すように、応力分布は±5MPaとなり、10MPa以下に低減することができた。
【0049】
ここで、応力分布が一方向の分布を持っており、かつ所望の値まで低減していなければ、図4のフローチャートに示すとおり、再度、二次偶関数近似の膜厚分布を作成し、繰り返すことができる。
【0050】
本実施例では、反射層に二次偶関数近似の膜厚分布を付けたが、応力緩和層に付けても同様の効果が得られる。特に、応力緩和層では構成するSi、Mo、別々に付けてもよい。引張応力を持つ傾向があるMoであれば、径方向外側に向かって、膜厚を薄くしていけばよい。さらに、これら二次偶関数近似の膜厚分布を付けるのは、一つの層だけに限らず、反射層と応力緩和層全体、反射層と応力緩和層のMoと言ったように組み合わせることもできる。
【実施例3】
【0051】
図10は実施例3による多層膜反射鏡を示す。この多層膜反射鏡は、基板30上に応力分布除去のために膜厚分布を二次偶関数近似させた反射層31を有する。
【0052】
まず、比較例として反射層からなる従来の多層膜反射鏡についてのべる。多層膜反射鏡の所望の反射特性を有するSi、Moの交互層を40回積層したものを反射層とし、成膜した。膜厚及び成膜時間は、反射層のSiで4.22nm/63秒、Moで2.68nm/30秒であった。コンピューターには成膜時間データを入力する。これら成膜と膜厚評価を繰返し、膜厚を所望の膜厚分布、ここでは面内で均一の厚さ(膜厚分布誤差±0.1%以内)になるように追い込んだ。
【0053】
膜厚分布を追い込んだ反射層の各径方向位置での応力値を評価し、図11のグラフAに示すように、応力分布を算出したところ、径方向内側に向かって引張応力が強くなっており、±10MPa超の応力分布が生じていた。
【0054】
次に本実施例による多層膜反射鏡について述べる。上述の応力分布を除去するために、反射層の膜厚分布を変える。ここでは、応力分布が径方向内側に向かって引張応力が強くなっている。この反射層は径方向内側で応力を持ち、外側は応力がほぼない状態なので、反射層の膜厚を径方向内側に向かって薄くすれば、径方向内側の引張応力を完全には0にできないが、小さくする事が可能である。従って、応力分布を除去する方向に、反射層の膜厚分布を算出し、二次偶関数で近似し、狙う膜厚分布曲線を図12に示すように算出した。
【0055】
上記の二次偶関数近似の膜厚分布の反射層を成膜し、図10のような膜構成にした。この際、反射層は一度、均一膜にする際、膜厚分布を追い込んでいるが、膜厚分布を変えているため、再度、繰り返し成膜して、所望の二次偶関数近似の膜厚分布になるよう追い込んでいる。その膜厚分布の結果が図12に示されており、狙うべき二次偶関数膜厚分布との差分、すなわち膜厚分布誤差は±0.1%以内になっていた。また、応力分布を評価したところ、図11のグラフBに示すように、応力分布は±5MPaとなり、10MPa以下に低減することができた。
【0056】
ここで、応力分布が一方向の分布を持っており、かつ所望の値まで低減していなければ、図4のフローチャートに示すとおり、再度、二次偶関数近似の膜厚分布を作成し、繰り返すことができる。
【0057】
図13は、上記実施例1〜3で作成した反射鏡を用いる反射型縮小投影露光装置の反射縮小投影光学系を示す。光源に13.5nmのEUV光を用いて、反射型マスク1107上に形成されたパターンを反射層1101、1102、1103、1104、1105、1106より構成された反射縮小投影光学系により基板1108のレジストに転写した。これにより、例えば、マスク上0.1μmのパターンに対して寸法0.025μmのレジストパタンが正確に得られた。
【0058】
図13の装置では、全ての反射鏡は精度要求が厳しいため、光学特性の優れる上記実施例1〜3のいずれかを用いている。成膜方法にはスパッタを用いたが、製法はこの限りではなく、例えば蒸着法を用いても同様な膜が成膜可能である。
【符号の説明】
【0059】
10、20、30 基板
11、21、31 反射層
12、22 応力緩和層
12a 応力緩和部
12b 応力分布除去部
901 真空チャンバー
903 マスク
904 シャッター
905 Siターゲット
906 Moターゲット
907 RF電源
908 コンピューター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、多層膜構成を有する応力緩和層と反射層を積層した多層膜反射鏡であって、
前記応力緩和層が、前記反射層に生じる応力と逆方向の応力を発生すると共に前記多層膜反射鏡の光軸の径方向に対して二次の偶関数となる膜厚分布を有することを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項2】
前記応力緩和層は、
応力緩和部と、
前記径方向に対して二次の偶関数となる膜厚分布をもつ応力分布除去部とを有することを特徴とする請求項1に記載の多層膜反射鏡。
【請求項3】
基板に、多層膜構成の反射層を積層した多層膜反射鏡であって、
前記反射層は、前記多層膜反射鏡の光軸の径方向に対して二次の偶関数となる膜厚分布を有することを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項4】
前記基板と反射層の間には、前記反射層に生じる応力と逆方向の応力を発生する応力緩和層が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の多層膜反射鏡。
【請求項1】
基板に、多層膜構成を有する応力緩和層と反射層を積層した多層膜反射鏡であって、
前記応力緩和層が、前記反射層に生じる応力と逆方向の応力を発生すると共に前記多層膜反射鏡の光軸の径方向に対して二次の偶関数となる膜厚分布を有することを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項2】
前記応力緩和層は、
応力緩和部と、
前記径方向に対して二次の偶関数となる膜厚分布をもつ応力分布除去部とを有することを特徴とする請求項1に記載の多層膜反射鏡。
【請求項3】
基板に、多層膜構成の反射層を積層した多層膜反射鏡であって、
前記反射層は、前記多層膜反射鏡の光軸の径方向に対して二次の偶関数となる膜厚分布を有することを特徴とする多層膜反射鏡。
【請求項4】
前記基板と反射層の間には、前記反射層に生じる応力と逆方向の応力を発生する応力緩和層が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の多層膜反射鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−272618(P2009−272618A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92310(P2009−92310)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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