説明

太陽電池電極用ペーストおよび太陽電池セル

【課題】良好な印刷性を保持しつつ、体積抵抗率を低く、かつ、アスペクト比を高くすることができ、また、シリコン基板との密着性にも優れる電極を形成することができる太陽電池電極用ペーストおよびそれを用いた太陽電池セルの提供。
【解決手段】銀粉(A)と、所定の式で表される2種の脂肪酸銀塩(B)と、ビヒクル(C)とを含有し、
前記銀粉(A)が、平均粒子径が0.7〜5μmの球状の銀粉末である太陽電池電極用ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池電極用ペーストおよび太陽電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光のような光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池は、地球環境問題に対する関心が高まるにつれ、積極的に種々の構造・構成のものが開発されている。その中でも、シリコンなどの半導体基板を用いた太陽電池は、その変換効率、製造コストなどの優位性により最も一般的に用いられている。
【0003】
このような太陽電池の電極を形成する材料としては、樹脂系のペースト材料が知られている。
例えば、特許文献1には、「銀粉末、ガラスフリット、樹脂および有機溶剤を少なくとも含み、ガラスフリットが、開口径24〜100μmの篩で分級した残留分であることを特徴とする銀電極用ペースト。」が記載されている。
また、特許文献2には、「結晶子径が58nm以上である第1銀粉末、前記銀粉末と結晶子径の異なる第2銀粉末、ガラスフリット、および樹脂バインダーを含む、太陽電池電極用ペースト。」が記載されている。
また、特許文献3には、「比表面積が0.20〜0.60m2/gである銀粒子、ガラスフリット、樹脂バインダー、およびシンナー、を含む、太陽電池受光面電極用ペースト。」が記載されている。
また、特許文献4には、「銀粉と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含んだ、太陽電池用半導体基板に電極を形成するための導電性ペーストであって、上記銀粉は、BET径が0.10μmより大きく、0.50μm以下であり、平均粒子径(D50)が0.2μmより大きく、2.0μm未満であり、平均粒子径(D50)/BET径が10以下であることを特徴とする導電性ペースト。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−146154号公報
【特許文献2】特開2007−194581号公報
【特許文献3】特開2007−235082号公報
【特許文献4】特許第3800108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1〜4に記載されたような樹脂系のペースト材料は、樹脂バインダーやビヒクルが印刷性を高める役割を果たしているが、このような樹脂系のペースト材料を用いて電極を形成すると、焼成温度によっては樹脂バインダーやビヒクル中の樹脂が残存して電極自体の体積抵抗率(比抵抗)が高くなる場合があり、また、電極の断面の高さと幅の比率(高さ/幅)(以下、「アスペクト比」という。)が小さく、電極とシリコン基板との密着性が劣ることが明らかとなった。
【0006】
そこで、本発明は、良好な印刷性を保持しつつ、体積抵抗率を低く、かつ、アスペクト比を高くすることができ、また、シリコン基板との密着性にも優れる電極を形成することができる太陽電池電極用ペーストおよびそれを用いた太陽電池セルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、所定の式で表される2種以上の脂肪酸銀塩を併用し、特定粒径・形状の銀粉末およびビヒクルを用いた太陽電池電極用ペーストが、良好な印刷性を保持しつつ、体積抵抗率を低く、かつ、アスペクト比を高くすることができ、また、シリコン基板との密着性にも優れる電極を形成することができることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記(1)〜(7)を提供する。
【0008】
(1)銀粉(A)と、脂肪酸銀塩(B)と、ビヒクル(C)とを含有し、
上記銀粉(A)が、平均粒子径が0.7〜5μmの球状の銀粉末であり、
上記脂肪酸銀塩(B)が、下記式(I)で表される化合物(B1)および下記式(II)で表される化合物(B2)である太陽電池電極用ペースト。
【化1】

(式(I)中、R1は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、R2は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R3は、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。式(II)中、R4は、分岐していてもよい炭素数8〜22のアルキル基を表す。)
【0009】
(2)上記脂肪酸銀塩(B)の含有量が、上記銀粉(A)100質量部に対して1〜100質量部である上記(1)に記載の太陽電池電極用ペースト。
【0010】
(3)上記化合物(B1)と上記化合物(B2)の含有量の比率(B1/B2)が、95/5〜50/50である上記(1)または(2)に記載の太陽電池電極用ペースト。
【0011】
(4)上記化合物(B1)が、2−メチルプロパン酸銀塩および/またはネオデカン酸銀塩である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の太陽電池電極用ペースト。
【0012】
(5)上記ビヒクル(C)が、エチルセルロース樹脂を有機溶剤に溶解させたものである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の太陽電池電極用ペースト。
【0013】
(6)更に、ガラスフリットを含有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の太陽電池電極用ペースト。
【0014】
(7)受光面側の表面電極、半導体基板および裏面電極を具備し、
上記表面電極および/または上記裏面電極が、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の太陽電池電極用ペーストを用いて形成される太陽電池セル。
【発明の効果】
【0015】
以下に示すように、本発明によれば、良好な印刷性を保持しつつ、体積抵抗率を低く、かつ、アスペクト比を高くすることができ、また、シリコン基板との密着性にも優れる電極を形成することができる太陽電池電極用ペーストおよびそれを用いた太陽電池セルを提供することができる。
また、本発明の太陽電池電極用ペーストを用いれば、高温(700〜800℃程度)焼成のみならず、中温(400〜450℃程度)焼成であっても、断線の発生を抑制して配線(電極)を形成することができるため、シリコン基板への熱によるダメージを軽減できる効果も有し、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は太陽電池セルの好適な実施態様の一例を示す断面図である。
【図2】図2は実施例で使用する銀粉(AgC−103、福田金属箔社製)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
【図3】図3は比較例で使用する銀粉(AgC−2011、福田金属箔社製)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の太陽電池電極用ペーストは、銀粉(A)と、脂肪酸銀塩(B)と、ビヒクル(C)とを含有し、上記銀粉(A)が平均粒子径0.7〜5μmの球状の銀粉末であり、上記脂肪酸銀塩(B)が上記式(I)で表される化合物(B1)および上記式(II)で表される化合物(B2)である太陽電池電極用のペーストである。
以下に、銀粉(A)、脂肪酸銀塩(B)およびビヒクル(C)について詳述する。
【0018】
<銀粉(A)>
本発明の太陽電池電極用ペーストで用いる銀粉(A)は、平均粒子径が0.7〜5μmの球状の銀粉末である。
ここで、球状とは、長径/短径の比率が2以下の粒子の形状をいう。
また、平均粒子径とは、球状の銀粉末の粒子径の平均値をいい、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定された50%体積累積径(D50)をいう。なお、平均値を算出する基になる粒子径は、球状の銀粉末の断面が楕円形である場合はその長径と短径の合計値を2で割った平均値をいい、正円形である場合はその直径をいう。
例えば、後述する実施例で使用する銀粉(AgC−103、福田金属箔社製)の写真(図2)で示されるものは球状の銀粉末に該当するが、銀粉(AgC−2011、福田金属箔社製)の写真(図3)で示されるものは球状の銀粉末には該当せず、フレーク(鱗片)状の銀粉末に該当するものである。
【0019】
本発明においては、上記銀粉(A)の平均粒子径は、印刷性が良好となる理由から、0.7〜5μmであるのが好ましく、焼結速度が適当となり作業性に優れる理由から、1〜3μmであるのがより好ましい。
また、上記銀粉(A)の含有量は、印刷性が良好となり、比抵抗のより小さい電極を形成することができる理由から、後述するビヒクル(C)中の有機溶媒100質量部に対して300〜700質量部であるのが好ましく、400〜600質量部であるのがより好ましい。
ここで、上記銀粉(A)の含有量は、後述する実施例に示すようにビヒクル以外にも溶媒(以下、「他の溶媒」ともいう。)を用いている場合には、ビヒクル中の有機溶媒および他の溶媒との合計100質量部に対する含有量のことをいう。
【0020】
また、本発明においては、上記銀粉(A)として市販品を用いることができ、その具体例としては、AgC−103(平均粒子径:1.5μm、福田金属箔社製)、AG4−8F(平均粒子径:2.2μm、DOWAエレクトロニクス社製)、AG2−1C(平均粒子径:1.0μm、DOWAエレクトロニクス社製)、AG3−11F(平均粒子径:1.4μm、DOWAエレクトロニクス社製)等が挙げられる。
【0021】
更に、本発明においては、上記銀粉(A)とともに、フレーク状の銀粉末を併用することができる。
ここで、フレーク状の銀粉末を併用する場合の含有量は、上記銀粉(A)との合計の質量に対して50質量%以下であるのが好ましい。
なお、フレーク状の銀粉末を併用する場合、本段落以外で言及する上記銀粉(A)の含有量に関する記載は、上記銀粉(A)とフレーク状の銀粉末との合計の含有量のことをいう。
【0022】
<脂肪酸銀塩(B)>
本発明の太陽電池電極用ペーストで用いる脂肪酸銀塩(B)は、上記式(I)で表される化合物(B1)および上記式(II)で表される化合物(B2)である。
なお、本発明においては、脂肪酸銀塩(B)として、上記化合物(B1)に該当する化合物および上記化合物(B2)に該当する化合物を併用していればよく、例えば、後述する実施例に示すように、上記化合物(B1)に該当する2種の化合物と上記化合物(B2)に該当する1種の化合物を併用する態様であってもよい。また、脂肪酸銀塩(B)の規定は、本発明の太陽電池電極用ペーストとして、上記化合物(B1)および上記化合物(B2)のいずれにも該当しない脂肪酸銀塩の使用を排除するものではない。
これらは、具体的には、以下に示す脂肪酸と酸化銀とを反応させて得られるものである。
【0023】
本発明においては、上記化合物(B1)の反応に用いられる脂肪酸は下記式(1)で表される脂肪酸であり、上記化合物(B2)の反応に用いられる脂肪酸は下記式(2)で表される脂肪酸である。
【0024】
【化2】

【0025】
式(1)中、R1は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、R2は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R3は、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。
式(2)中、R4は、分岐していてもよい炭素数8〜22のアルキル基を表す。
【0026】
上記式(1)中、R1の炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基が挙げられる。R1としては、メチル基、エチル基であるのが好ましい。
また、上記式(1)中、R2の炭素数1〜10のアルキル基としては、上記R1の炭素数1〜6のアルキル基以外に、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基が挙げられる。R2としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基であるのが好ましい。
更に、上記式(1)中、R3の水素原子以外の炭素数1〜6のアルキル基としては、R1と同様、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基が挙げられる。R3としては、メチル基、エチル基であるのが好ましい。
【0027】
本発明においては、上記式(1)で表されるカルボン酸としては、具体的には、例えば、2−メチルプロパン酸(別名:イソ酪酸)、2−メチルブタン酸(別名:2−メチル酪酸)、2−メチルペンタン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルブタン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸等が挙げられる。
これらのうち、2−メチルプロパン酸および/またはネオデカン酸であるのが、得られる化合物(B1)を含有する本発明の太陽電池電極用ペーストの流動性およびチクソ性が良好となるため印刷性がより向上し、また、版離れ性も良好となるため電極(印刷パターン)に断線やニジミが生じにくくなり、更に、スクリーン印刷による目詰まりも生じにくくなる理由から好ましい。
【0028】
また、上記式(2)中、R4の分岐していてもよい炭素数8〜22のアルキル基としては、具体的には、例えば、n−オクチル基、n−ノニル基、イソノニル基(7−メチルオクチル基)、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基等が挙げられる。R4としては、チクソ性の観点から、直鎖状の炭素数10〜18のアルキル基が好ましい。
【0029】
本発明においては、上記式(2)で表されるカルボン酸としては、具体的には、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が好適に挙げられる。
これらのうち、ラウリン酸、ステアリン酸であるのが、入手が比較的容易である理由から好ましい。
【0030】
一方、上記脂肪酸銀塩(B)の反応に用いられる酸化銀は、酸化銀(I)、即ち、Ag2Oである。
【0031】
本発明の太陽電池電極用ペーストで用いる上記化合物(B1)および上記化合物(B2)は、上述した脂肪酸と酸化銀とを反応させて得られるものであり、それぞれ以下に示す反応式中の下記式(I)および(II)で表される化合物である。
この反応は、例えば、以下に示す反応式で表される反応が進行するものであれば特に限定されないが、上記酸化銀を粉砕しつつ進行させる方法や、上記酸化銀を粉砕した後に上記脂肪酸を反応させる方法が好ましい。前者の方法としては、具体的には、上記酸化銀と、溶剤により上記脂肪酸を溶液化したものとを、ボールミル等により混練し、固体である上記酸化銀を粉砕させながら、室温で、1〜24時間程度、好ましくは2〜8時間反応させるのが好ましい。
【0032】
【化3】

【0033】
式(I)中、R1は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、R2は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R3は、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。
式(II)中、R4は、分岐していてもよい炭素数8〜22のアルキル基を表す。
【0034】
上記脂肪酸を溶液化する溶媒としては、具体的には、例えば、ブチルカルビトール、メチルエチルケトン、イソホロン、α−テルピネオール等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明においては、上述した銀粉(A)に対して、脂肪酸銀塩(B)として上記化合物(B1)および上記化合物(B2)を用いることにより、良好な印刷性を保持しつつ、高温(700〜800℃程度)焼成のみならず、中温(400〜450℃程度)焼成であっても、体積抵抗率を低く、かつ、アスペクト比を高くすることができ、また、シリコン基板との密着性にも優れる電極を形成することができる。
これは、脂肪酸銀塩(B)を用いることにより、後述するビヒクル(C)の含有量を軽減することがでるため良好な印刷性を保持することができると考えられる。そして、熱処理により脂肪酸銀塩(B)のうち、特に上記化合物(B1)が分解されやすく、分解された銀が融解する際に銀粉(A)を連結することにより、断線の発生を抑制して高い導電性を発現すると考えられる。また、熱処理により上記化合物(B1)から分解される銀が融解する際にシリコン基板に適度に濡れ広がるため、シリコン基板との密着性が向上すると考えられる。更に、脂肪酸銀塩(B)のうち、特に上記化合物(B2)が適度なチクソ性を付与することで、印刷時の流動性を確保しつつ塗布面の広がりを抑制できるため、アスペクト比を高くすることができると考えられる。
【0036】
本発明においては、上記脂肪酸銀塩(B)の含有量は、印刷性がより良好となり、比抵抗の小さい電極を形成することができる理由から、上記銀粉(A)100質量部に対して1〜100質量部であるのが好ましく、5〜80質量部であるのがより好ましい。
また、上記化合物(B1)と上記化合物(B2)との含有量の比率(B1/B2)は、得られる本発明の太陽電池電極用ペーストの流動性およびチクソ性がより良好となり、印刷性がより向上する理由から、95/5〜50/50であるのが好ましく、95/5〜70/30であるのがより好ましく、95/5〜85/15であるのが更に好ましい。
【0037】
また、本発明においては、太陽電池電極用ペーストのチクソ性がより良好となり、アスペクト比をより高くすることができる理由から酸化銀の含有量は後述するビヒクル(C)中の有機溶媒100質量部に対して10質量部以下であるのが好ましく、5質量部以下であるのがより好ましく、1質量部以下であるのが更に好ましく、実質的に酸化銀を含有していない態様が最も好ましい。
ここで、上記酸化銀の含有量は、後述する実施例に示すようにビヒクル以外にも溶媒(以下、「他の溶媒」ともいう。)を用いている場合には、ビヒクル中の有機溶媒および他の溶媒との合計100質量部に対する含有量のことをいう。
【0038】
<ビヒクル(C)>
本発明の太陽電池電極用ペーストで用いるビヒクル(C)は、バインダー機能を有する樹脂を有機溶剤に溶解したものであり、導電性ペーストに印刷性を付与できるものであれば特に限定されない。
上記樹脂としては、具体的には、例えば、エチルセルロース樹脂、ニトロセルロース樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのうち、熱分解性の観点から、エチルセルロース樹脂を用いるのが好ましい。
また、上記有機溶剤としては、具体的には、例えば、α−テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0039】
<ガラスフリット>
本発明の太陽電池電極用ペーストは、形成される電極とシリコン基板との密着性がより良好となる理由から、ガラスフリットを含有するのが好ましい。
【0040】
本発明においては、上記ガラスフリットを配合する場合、軟化温度が300℃以上で、焼成温度(熱処理温度)以下のものを用いるのが好ましい。
このようなガラスフリットとしては、具体的には、例えば、軟化温度300〜800℃のホウケイ酸ガラスフリット等が挙げられる。
【0041】
本発明においては、上記ガラスフリットの形状は特に限定されず、球状でも破砕粉状でもよい。
また、球状のガラスフリットの平均粒子径(D50)は、0.1〜20μmであることが好ましく、1〜3μmであることがより好ましい。
更に、10μm以上の粒子を除去した、シャープな粒度分布を持つガラスフリットを用いることが好ましい。
【0042】
本発明においては、上記ガラスフリットを配合する場合、その含有量は、上記銀粉(A)100質量部に対して0.1〜10質量部であるのが好ましく、1〜5質量部であるのがより好ましい。
【0043】
本発明の太陽電池電極用ペーストは、必要に応じて、上述したビヒクル(C)中の有機溶媒以外の他の溶媒を含有していてもよい。
上記他の溶媒としては、上述したビヒクル(C)中の有機溶媒と同様、具体的には、例えば、α−テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明の太陽電池電極用ペーストは、必要に応じて、上述した銀粉(A)以外の金属粉、還元剤等の添加剤を含有していてもよい。
上記金属粉としては、具体的には、例えば、銅、アルミニウム等が挙げられ、中でも、銅であるのが好ましい。また、0.01〜10μmの粒径の金属粉であるのが好ましい。
上記還元剤としては、具体的には、例えば、エチレングリコール類等が挙げられる。
【0045】
本発明の太陽電池電極用ペーストの製造方法は特に限定されず、上記銀粉(A)、上記脂肪酸銀塩(B)および上記ビヒクル(C)ならびに所望により含有していてもよい他の溶媒や添加剤を、ロール、ニーダー、押出し機、万能かくはん機等により混合する方法が挙げられる。
【0046】
本発明の太陽電池セルは、受光面側の表面電極、半導体基板および裏面電極を具備し、上記表面電極および/または上記裏面電極が、上述した本発明の太陽電池電極用ペーストを用いて形成される太陽電池セルである。
ここで、本発明の太陽電池セルは、上述した本発明の太陽電池電極用ペーストが全裏面電極型(いわゆるバックコンタクト型)太陽電池の裏面電極の形成にも適用することができるため、全裏面電極型の太陽電池にも適用することができる。
以下に、本発明の太陽電池セルの構成について図1を用いて説明する。
【0047】
図1に示すように、本発明の太陽電池セル1は、受光面側の表面電極4と、p層5およびn層2が接合したpn接合シリコン基板7と、裏面電極6とを具備するものである。
また、図1に示すように、本発明の太陽電池セル1は、反射率低減のため、例えば、ウェハー表面にエッチングを施して、ピラミッド状のテクスチャを形成し、反射防止膜3を具備するのが好ましい。
【0048】
<表面電極/裏面電極>
本発明の太陽電池セルが具備する表面電極および裏面電極は、いずれか一方または両方が本発明の太陽電池電極用ペーストを用いて形成されていれば、電極の配置(ピッチ)、形状、高さ、幅等は特に限定されない。なお、電極の高さは、通常、数〜数十μmに設計されるが、本発明の太陽電池電極用ペーストを用いて形成した電極のアスペクト比は、0.4以上となる。
ここで、表面電極および裏面電極は、図1に示すように、通常、複数個有するものであるが、本発明においては、例えば、複数の表面電極の一部のみが本発明の太陽電池電極用ペーストで形成されたものであってもよく、複数の表面電極の一部と複数の裏面電極の一部が本発明の太陽電池電極用ペーストで形成されたものであってもよい。
【0049】
<反射防止膜>
本発明の太陽電池セルが具備していてもよい反射防止膜は、受光面の表面電極が形成されていない部分に形成される膜(膜厚:0.05〜0.1μm程度)であって、例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、酸化チタン膜、これらの積層膜等から構成されるものである。
【0050】
<シリコン基板>
本発明の太陽電池セルが具備するシリコン基板は特に限定されず、太陽電池を形成するための公知のシリコン基板(板厚:100〜450μm程度)を用いることができ、また、単結晶または多結晶のいずれのシリコン基板であってもよい。
【0051】
また、上記シリコン基板はpn接合を有するが、これは、第1導電型の半導体基板の表面側に第2導電型の受光面不純物拡散領域が形成されていることを意味する。なお、第1導電型がn型の場合には、第2導電型はp型であり、第1導電型がp型の場合には、第2導電型はn型である。
ここで、p型を与える不純物としては、ホウ素、アルミニウム等が挙げられ、n型を与える不純物としては、リン、砒素等が挙げられる。
【0052】
本発明の太陽電池セルは、表面電極および/または裏面電極が本発明の太陽電池電極用ペーストを用いて形成されているため、電極のアスペクト比が0.4以上となり、受光により発生した起電力を電流として効率良く取り出すことができる。
【0053】
本発明の太陽電池セルの製造方法は特に限定されないが、本発明の太陽電池電極用ペーストをシリコン基板上に塗布して配線を形成する配線形成工程と、得られた配線を熱処理して電極(表面電極および/または裏面電極)を形成する電極形成工程とを有する方法が挙げられる。
なお、本発明の太陽電池セルが反射防止層を具備する場合、反射防止膜は、プラズマCVD法等の公知の方法により形成することができる。
以下に、配線形成工程、熱処理工程について詳述する。
【0054】
<配線形成工程>
上記配線形成工程は、本発明の太陽電池電極用ペーストをシリコン基材上に塗布して配線を形成する工程である。
ここで、塗布方法としては、具体的には、例えば、インクジェット、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷等が挙げられる。
【0055】
<熱処理工程>
上記熱処理工程は、上記配線形成工程で得られた塗膜を熱処理して導電性の配線(電極)を得る工程である。
配線を熱処理することにより、脂肪酸銀塩(B)から分解される銀が融解する際に銀粉(A)が連結され、電極(銀膜)が形成される。
【0056】
本発明においては、上記熱処理は特に限定されないが、400〜800℃の温度で、数秒〜数十分間、加熱(焼成)する処理であるのが好ましい。温度および時間がこの範囲であると、シリコン基板上に反射防止膜を形成した場合であっても、ファイヤースルー法により容易に電極を形成することができる。
また、本発明においては、本発明の太陽電池電極用ペーストを用いているため、高温(700〜800℃程度)のみならず、中温(400〜450℃程度)であっても、良好な熱処理(焼成)を施すことができる。
【0057】
なお、本発明においては、上記配線形成工程で得られた配線は、紫外線または赤外線の照射でも電極を形成することができるため、上記熱処理工程は、紫外線または赤外線の照射によるものであってもよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて、本発明の太陽電池電極用ペーストについて詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
ボールミルに、下記第1表に示す銀粉等を下記第1表中に示す組成比となるように添加し、これらを混合することにより太陽電池電極用ペーストを調製した。
調製した太陽電池電極用ペーストをシリコン基板(単結晶シリコンウェハー、LS−25TVA、156mm×156mm×200μm、信越化学工業社製)上に、スクリーン印刷で塗布して配線を形成した。
【0060】
<印刷性>
スクリーン印刷で形成した乾燥(焼成)前の配線の線部を光学顕微鏡で観察した。
その結果、断線がなく、カスレやニジミもない配線が形成されている場合を印刷性が良好なものとして「○」と評価し、断線またはカスレやニジミが確認できる場合を印刷性が劣るものとして「×」と評価した。
これらの結果を下記第1表に示す。
【0061】
<体積抵抗率(比抵抗)>
スクリーン印刷で配線を形成した後、オーブンにて700℃および450℃の2つの条件で10分間乾燥し、導電性の配線(電極)を形成させた太陽電池セルのサンプルを作製した。
作製した各太陽電池セルのサンプルについて、電極の体積抵抗率を抵抗率計(ロレスターGP、三菱化学社製)を用いた4端子4探針法により測定した。その結果を下記第1表に示す。
【0062】
<アスペクト比>
上記と同様に作製した各太陽電池セルのサンプルについて、電極をレーザー顕微鏡で観察し、高さと幅とを測定し、アスペクト比(高さ/幅)を求めた。
アスペクト比0.6以上を、アスペクト比が十分に高い(十分満足できる)として「◎」と評価し、0.4以下を、アスペクト比が低い(満足できない)として「×」と評価した。
これらの結果を下記第1表に示す。
【0063】
<密着性>
上記と同様に作製した各太陽電池セルのサンプルの表面上にセロハン粘着テープ(幅18mm)を完全に付着させた後、直ちにテープの一端を直角に保ち、瞬間的に引き離し、電極(印刷パターン)が剥がれるか否かを調べた。
電極に剥がれが確認できたものを密着性に劣るものとして「×」と評価し、電極に剥がれが確認できなかったものを密着性に優れるものとして「○」と評価した。その結果を下記第1表に示す。
【0064】
<光電変換効率>
作製した各太陽電池セルのうち、実施例1〜3について、光源としてソーラーシミュレーターを用い、AM1.5の擬似太陽光を100mW/cm2の光強度で光電極側から照射し、電流電圧測定装置(ケースレーインスツルメンツ社製デジタルソースメーター2400)を用いて変換効率を求めた。その結果を下記第1表に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
第1表中の各成分は、以下のものを使用した。
・銀粉1:AgC−103(形状:球状、平均粒子径:1.5μm、福田金属箔社製)
・銀粉2:Ag−4−8F(形状:球状、平均粒子径:2.2μm、DOWAエレクトロニクス社製)
・銀粉3:Ag−2−1C(形状:球状、平均粒子径:1.0μm、DOWAエレクトロニクス社製)
・銀粉4:AgC−2011(形状:フレーク状、平均粒子径:2〜10μm、福田金属箔社製)
【0067】
・2−メチルプロパン酸銀塩:まず、酸化銀(東洋化学工業社製)50g、2−メチルプロパン酸(関東化学社製)38gおよびメチルエチルケトン(MEK)300gをボールミルに投入し、室温で24時間撹拌させることにより反応させた。次いで、吸引ろ過によりMEKを取り除き、得られた粉末を乾燥させることにより、白色の2−メチルプロパン酸銀塩を調製した。
・ネオデカン酸銀塩:まず、酸化銀(東洋化学工業社製)50g、ネオデカン酸(東洋合成社製)74.3gおよびMEK300gをボールミルに投入し、室温で24時間撹拌させることにより反応させた。次いで、吸引ろ過によりMEKを取り除き、得られた粉末を乾燥させることにより、白色のネオデカン酸銀塩を調製した。
・ステアリン酸銀塩:まず、酸化銀(東洋化学工業社製)50g、ステアリン酸(関東化学社製)123gおよびMEK300gをボールミルに投入し、室温で24時間撹拌させることにより反応させた。次いで、吸引ろ過によりMEKを取り除き、得られた粉末を乾燥させることにより、白色のステアリン酸銀塩を調製した。
・ラウリル酸銀塩:まず、酸化銀(東洋化学工業社製)50g、ラウリル酸(関東化学社製)86.6gおよびMEK300gをボールミルに投入し、室温で24時間撹拌させることにより反応させた。次いで、吸引ろ過によりMEKを取り除き、得られた粉末を乾燥させることにより、白色のステアリン酸銀塩を調製した。
【0068】
・ビヒクル:EC−100FTP(エチルセルロース樹脂固形分:9%、日新化成社製)
・α−テルピネール:溶媒
・ガラスフリット:硼珪酸鉛ガラス粉末
・銀ペースト:樹脂系銀ペースト(DWP−025、東洋紡績社製)
【0069】
第1表に示す結果から、従来公知の樹脂系の銀ペーストで調製した比較例1は、印刷性は良好であるが、アスペクト比が低く、また、中温焼成では電極の体積抵抗率も高くなることが分かった。
また、フレーク状の銀粉を用いて調製した比較例2は、印刷性が劣り、アスペクト比も低くなり、更に、中温および高温のいずれの焼成によっても電極の体積抵抗率が高くなることが分かった。
また、脂肪酸銀塩(B)として化合物(B1)のみを用いて調製した比較例3は、電極の体積抵抗率が低く、シリコン基板との密着性にも優れるものの、チクソ性が不十分であるため、印刷性が劣り、アスペクト比も低くなることが分かった。
これに対し、銀粉(A)を用い、脂肪酸銀塩(B)として化合物(B1)および化合物(B2)を併用して調製した実施例1〜5は、印刷性が良好で、アスペクト比も高く、また、高温のみならず中温の焼成によっても電極の体積抵抗率が十分に低くなり、更にシリコン基板との密着性にも優れることが分かった。特に、実施例1および2と比較例3との対比からも分かるように、化合物(B2)の添加量が少なくても印刷性とアスペクト比を改善できることが分かる。また、実施例1〜3の光電変換効率の結果から、いずれも太陽電池電極用途に十分な変換効率を示すことが分かった。
【符号の説明】
【0070】
1 太陽電池セル
2 n層
3 反射防止膜
4 表面電極
5 p層
6 裏面電極
7 シリコン基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉(A)と、脂肪酸銀塩(B)と、ビヒクル(C)とを含有し、
前記銀粉(A)が、平均粒子径が0.7〜5μmの球状の銀粉末であり、
前記脂肪酸銀塩(B)が、下記式(I)で表される化合物(B1)および下記式(II)で表される化合物(B2)である太陽電池電極用ペースト。
【化1】

(式(I)中、R1は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、R2は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R3は、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。式(II)中、R4は、分岐していてもよい炭素数8〜22のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記脂肪酸銀塩(B)の含有量が、前記銀粉(A)100質量部に対して1〜100質量部である請求項1に記載の太陽電池電極用ペースト。
【請求項3】
前記化合物(B1)と前記化合物(B2)との含有量の比率(B1/B2)が、95/5〜50/50である請求項1または2に記載の太陽電池電極用ペースト。
【請求項4】
前記化合物(B1)が、2−メチルプロパン酸銀塩および/またはネオデカン酸銀塩である請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池電極用ペースト。
【請求項5】
前記ビヒクル(C)が、エチルセルロース樹脂を有機溶剤に溶解させたものである請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池電極用ペースト。
【請求項6】
更に、ガラスフリットを含有する請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池電極用ペースト。
【請求項7】
受光面側の表面電極、半導体基板および裏面電極を具備し、
前記表面電極および/または前記裏面電極が、請求項1〜6のいずれかに記載の太陽電池電極用ペーストを用いて形成される太陽電池セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−146591(P2011−146591A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7184(P2010−7184)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】