対象物の物理量測定方法及び制御方法
【課題】ブリルアン散乱現象を利用した光センシング技術により、微細構造物である素子上又は素子中に存在する対象物の物理量を測定する測定方法及び制御方法を提供する。
【解決手段】素子上又は素子中に存在する対象物の物理量を測定する方法であって、光入射端と光出射端を有するとともに該光入射端から該光出射端まで連続した形状を有する光導波路であって、少なくとも一部が対象物に近接するよう素子上又は素子中に配置された光導波路を用意し、光入射端から光導波路内に光を照射するとともに、導波路内を伝搬した後に光出射端から出射された光を検出し、そして、光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した、検出光の特性変化に基づいて、対象物の物理量を間接的に測定する。
【解決手段】素子上又は素子中に存在する対象物の物理量を測定する方法であって、光入射端と光出射端を有するとともに該光入射端から該光出射端まで連続した形状を有する光導波路であって、少なくとも一部が対象物に近接するよう素子上又は素子中に配置された光導波路を用意し、光入射端から光導波路内に光を照射するとともに、導波路内を伝搬した後に光出射端から出射された光を検出し、そして、光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した、検出光の特性変化に基づいて、対象物の物理量を間接的に測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、素子上又は素子中に存在する被測定物の物理量を、光導波路を用いて測定する対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学物質や生体成分などの対象物(被測定物)に対し、混合、反応、分離、抽出、加熱、冷却、検出、検査などの様々な処理を集積して行うため、マイクロチップ技術が注目されている。このマイクロチップ技術では、ガラスなどからなる基板(素子)上に数十〜数百μmの微細な流路(マイクロ流路)が形成され、該マイクロ流路中で上述のような各種処理が行われる。そして、そのような処理を的確に制御するため、マイクロ流路中の物質の物理量を高精度かつ短時間に測定するニーズが高まってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−297198号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K. Y. Song, Z. He, and K. Hotate, “Distributed strain measurement with millimeter−order spatial resolution based on Brillouin optical correlation domain analysis,” Opt. Lett. 31, 2526−2528 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、従来のマイクロチップ技術について検討した結果、以下のような課題を発見した。
【0006】
すなわち、従来のマイクロチップ技術において、基板内における被測定物の温度を分布的に測定する場合、熱電対などの温度センサーを必要な数だけ分布的に基板に貼り付ける必要があった。サーモグラフィにより温度の面分布を測定できるが、表面温度のみ測定可能であった。また、熱電対などの温度センサーは、対象物の内部に設置されれば該対象物の内部温度は測定可能になるが、対象物自体が微小である場合や熱容量が小さい場合の温度測定には適さない。
【0007】
さらに、従来のマイクロチップ技術では、基板内の対象物に対し分布的にその屈折率や吸収損失を測定する手法は無かった。そのため、例えば、抗体や試薬等の試料ごとに流路を形成し、別々の流路で試料それぞれの屈折率や吸収損失を測定する必要があった。また、流体デバイス内の流体の圧力や流速については、これまで有効な計測手段は無かった。
【0008】
例えば特許文献1(特開2006−297198号公報)には、マイクロチップのマイクロ流路を流れる流体(被測定物)に光を照射することで対象物の温度などを測定するため、基板中に光導波路を形成することが開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された技術によれば、マイクロ流路に対しスポット的に光が照射されるため、該照射点(光の通過点)における温度などが測定される。この場合、基板内に存在する対象物の物理量を分布的に測定することはできなかった。
【0010】
一方、光ファイバ中のブリルアン散乱現象を用いて、光ファイバの長手方向に沿った温度分布、歪分布、損失分布などを測定する光センシング技術が従来から知られている。つまり、光ファイバ中を光(ポンプ光)が伝搬するとき、このポンプ光によってファイバ中に音響波が発生する。ブリルアン散乱とは、このようなポンプ光と音響波の相互作用によりポンプ光のパワーの一部が低周波側にシフトされ、後方に散乱光が生じる現象である。なお、ポンプ光と対向する光(プローブ光)がある場合には、この散乱光はプローブ光を増幅する利得となる。
【0011】
ポンプ光とプローブ光の周波数差υを掃引することでブリルアン散乱による利得のスペクトルが得られる。これをブリルアンゲインスペクトル(BGS)といい、BGSの中心周波数とスペクトル形状が温度に依存して、中心周波数が歪に依存して、そして、ゲインが損失に依存して、それぞれ変化する。よって、BGSを測定することで、光ファイバの長手方向に沿った温度、歪、損失を分布測定することができる。BGSの分布測定方式には、BOTDR、BOTDA、BOCDAなどの各種方式があるが、測定精度や測定時間などの点でBOCDA方式が好適である。
【0012】
すなわち、BOCDA方式(連続光波の相関制御法によるブリルアン散乱方式が採用された光ファイバ分布型センシング技術)による光センシング技術では、ポンプ光とプローブ光にυだけ周波数差を持たせて同様の周波数変調が施されることにより、2光波間の相関状態が制御される。光ファイバ中に相関の高い場所と低い場所が意図的に形成されることにより、相関の高い場所のBGS情報を選択的に採取することができる。例えば非特許文献1では、3mmの空間分解能が実現されており、理論的には空間分解能0.2mm程度が可能と考えられている。
【0013】
この発明は上述のような課題を解決するためになされたものであり、ブリルアン散乱現象を利用した光センシング技術により、微細構造物である素子上又は素子中に存在する対象物の物理量を測定する測定方法及び制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の目的を達成するために、この発明に係る測定方法は、微細構造物である素子上又は素子中に存在する対象物(被測定物)の物理量を測定する方法であって、素子上又は素子中に一次元乃至三次元的に配置された光導波路を用意し、そして、光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した、該光導波路中を伝搬する光の特性変化に基づいて、対象物の物理量を測定する。
【0015】
この明細書において、「素子」とは、例えば、化学物質や生体成分などの対象物の流路自体、対象物が充填される複数のセル(凹部)などが所定パターンで形成されたガラスやプラスチックなどの基板、半導体集積回路が形成されたICチップなどの微細構造物が含まれる。マイクロチップ技術では、化学物質や生体成分などの対象物に対し、混合、反応、分離、抽出、加熱、冷却、検出、検査などの様々な処理が行われる。素子の大きさは必ずしも限定されるものではなく、数cm〜数十cmオーダーのサイズが適用可能である。また、マイクロチップのような、数十〜数百μmオーダーのサイズも適用可能である。このようなサイズの素子は、微細な流路、セルなどが形成されたマイクロ化学チップやICチップの分野において好適に用いられる。
【0016】
また、この明細書において、「素子上又は素子中に一次元乃至三次元的に配置された光導波路を準備する」には、例えば、素子上又は素子中に形成された対象物の流路、複数のセル又は半導体集積回路の形成パターンなどに沿って、一次元的、二次元的又は三次元的に、該素子上又は素子中に光導波路が形成される場合、対象物の流路自体が光導波路として利用される場合、対象物自体が光導波路として利用される場合、複数のセル又は半導体集積回路の形成パターンに対し所望の複数箇所にて測定が可能になるよう、一次元的、二次元的又は三次元的に、素子上又は素子中に光導波路が所望のパターンで形成される場合などが含まれる。さらに、素子とは別に用意された基板、チップなどに光導波路が形成された光導波路チップ(別部材)が、素子に取り付けられてもよい。
【0017】
具体的には、この発明に係る測定方法では、光入射端と光出射端を有するとともに該光入射端から該光出射端まで連続した形状を有する光導波路であって、少なくとも一部が対象物に近接するよう素子上又は素子中に配置された光導波路が用意されてもよい。この場合、光導波路は、一端が少なくとも光入射端として機能する一方、他端が少なくとも光出射端として機能する光導波部材であって、少なくとも一部が素子中に埋設された光導波部材を含んでもよい。また、光導波路は、一端が少なくとも光入射端として機能する一方、他端が少なくとも光出射端として機能する該光入射端から該光出射端まで連続した光導波領域が作り込まれた光導波路チップを含んでもよい。光導波路チップが素子に固定されることにより、光導波路を素子上に配置することが可能である。
【0018】
この発明に係る測定方法において、光導波路中を伝搬する光の特性変化は、該光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した利得のスペクトルであるBGSの中心周波数及びスペクトル形状の少なくとも一方の変化である。
【0019】
なお、この明細書において、「スペクトル形状」とは、スペクトル線幅、スペクトル形状の急唆度(テーパ部の角度)又は隣り合うBGSの中心周波数間隔をいい、「スペクトル形状の変化」とは、光導波路の長手方向の変化又は時間的変化の両方を含む。
【0020】
また、この発明に係る測定方法は、BGSの中心周波数及びスペクトル形状の少なくとも一方の変化に基づいて、対象物の温度を測定することができる。この発明に係る測定方法は、BGSの中心周波数及びスペクトル形状の少なくとも一方の変化に基づいて、対象物の屈折率を測定することも可能である。この発明に係る測定方法は、BGSの中心周波数及びスペクトル形状の少なくとも一方の変化に基づき、光導波路に加わる歪を求め、得られた歪みの測定結果に基づいて対象物に加わる圧力をけっていする。
【0021】
さらに、光導波路中を伝搬する光の特性変化(測定されるべき対象物の物理量)は、BGSの変化であってもよい。このBGSの変化に基づき、この発明に係る測定方法は、対象物の光吸収損失を測定することができる。
【0022】
また、この発明に係る測定方法は、それぞれが、光入射端と光出射端を有する光導波路が配置された複数の素子に対し、一体的に対象物の物理量を測定することも可能である。この場合、複数の素子のうち一の素子に配置された光導波路の光出射端と、別の素子に配置された光導波路の光入射端とを順次光学的に接続していくことにより、全体として、光入射端及び光出射端としてそれぞれ機能する2つの光導波路端部を有する素子群が構成される。当該測定方法は、このように構成された素子群の光入射端として機能する光導波路端部から入射され、複数の素子それぞれに配置された光導波路内を伝搬した後に素子群の光出射端として機能する光導波路端部から出射された光を検出する。この構成によっても、複数の素子それぞれにおける対象物の物理量を測定することができる。
【0023】
この発明に係る制御方法は、上述のように構成された測定方法による対象物の測定結果を基づいて、該対象物の物理量を調整する。
【0024】
なお、この発明に係る各実施例は、以下の詳細な説明及び添付図面によりさらに十分に理解可能となる。これら実施例は単に例示のために示されるものであって、この発明を限定するものと考えるべきではない。
【0025】
また、この発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明及び特定の事例はこの発明の好適な実施例を示すものではあるが、例示のためにのみ示されているものであって、この発明の範囲における様々な変形及び改良はこの詳細な説明から当業者には自明であることは明らかである。
【発明の効果】
【0026】
以上のようにこの発明によれば、素子上又は素子中に一次元乃至三次元的に配置された光導波路をセンサヘッドとして利用し、又は、素子上又は素子中に形成された対象物の流路を光導波路として利用し、該光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因する光の特性変化の分布測定が行われる。これにより、素子上又は素子中における対象物の物理量(例えば、対象物の温度、屈折率、歪み、圧力、流速、光吸収損失など、及びそれらの分布)が分布的に測定可能になる。
【0027】
また、対象物の流路自体が光導波路として利用される場合、この流路に複数の抗体や試薬等の試料を間隔をあけて配置すればよく、複数の流路を形成する必要がなくなる。
【0028】
また、複数の素子を光学的に結合することで、複数の素子上又は素子中における対象物それぞれを単一方法で一括して測定することができる。
【0029】
さらに、上述のように測定された対象物の物理量(測定結果)に基づいて、対象物の物理量を任意に調節することも可能である。
【0030】
したがって、この発明に係る測定方法及び制御方法は、例えば、ガラス製の基板などの素子上又は素子中において、化学物質や生体成分などの対象物に対し、混合、反応、分離、抽出、加熱、冷却、検出、検査などの様々な処理を集積して行うマイクロ化学チップ、マイクロ化学プラント、生体検査や、ICチップにおける導通検査などの、各種微細構造物における測定や制御に好適に応用できるなど、多くの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法の一実施例を実現する概略構成を示す平面図である。
【図2】図1に示された素子の断面図である。
【図3】BOCDA方式の光センシング装置の構成を示す模式図である。
【図4】本発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法の他の実施例を実現する素子構成を示す平面図である。
【図5】本発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法のさらに他の実施例を実現する素子構成を示す平面図及び断面図である。
【図6】吸収損失測定の一方式を説明するための概念図である。
【図7】複数の素子を光学的に結合した場合の測定方法を説明するための平面図である。
【図8】素子とは別に一次元的に配置された光導波路を含む光導波路チップの構造を示す平面図及び側面図である。
【図9】図8の領域(a)中のI−I線に沿った光導波路チップの断面図であって、該光導波路チップと素子の結合状態を示す断面図である。
【図10】素子とは別に二次元的に配置された光導波路を含む光導波路チップの構造を示す平面図及び側面図である。
【図11】図10の領域(a)中のII−II線に沿った光導波路チップの断面図であって、該光導波路チップと素子の結合状態を示す断面図である。
【図12】図10に示された光導波路チップに結合される結合用光導波路チップの平面図及び結合状態を示す平面図である。
【図13】素子とは別に三次元的に配置された光導波路を含む光導波路チップの構造を示す平面図及び側面図である。
【図14】図13の領域(a)中のIII−III線に沿った光導波路チップの断面図であって、該光導波路チップと素子の結合状態を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、この発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法の各実施例を、図1〜図14を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一部位、同一箇所には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0033】
図1〜図3を参照しながら、この発明に係る測定方法及び制御方法の一実施例について説明する。なお、図1は、この発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法の一実施例を実現する概略構成を示す平面図である。図2は、図1に示された素子(光導波路が素子内に配置された構成)の断面図であり、領域(a)は、流路と光導波路が異なる構成を示し、領域(b)は流路が光導波路を兼ねた構成を示す。また、図3は、BOCDA方式の光センシング装置の構成を示す模式図である。
【0034】
図1において、測定/制御対象となる素子1は、ガラス製の基板2中に数十〜数百μm径の流路3がループ状に(二次元的に)形成された微細構造物である。素子1は、その流路3の一端側から流入した対象物としての流動体が他端側から流出させるとともに、流路3中にて所定の化学プロセスが行われるよう、例えば加熱/冷却手段(物理量調整手段50に含まれる)などを備えたマイクロ化学チップである。
【0035】
また、基板2中に二次元的に形成された光導波路4の一端は、接続用の光ファイバ5aを介して測定器本体5と光学的に接続される一方、光導波路4の他端は、測定用の光ファイバ5bを介して測定器本体5と光学的に接続されている。これら接続用の光ファイバ5a、5bは、基板2の外に配置されており、それぞれの一端が測定器本体5に接続されることで、光導波路4が、BOCDA方式(連続光波の相関制御法によるブリルアン散乱方式が採用された光ファイバ分布型センシング技術)のセンサヘッドとして機能するようになっている。
【0036】
光導波路4は、例えば図2中の領域(a)に示されたように、基板2中に埋設された光ファイバであってもよく、また、基板2自体に直接形成されてもよい。光導波路4は、図2中の領域(b)に示されたように、流路3自体が光導波路4として機能してもよい。また、光導波路4は、図2中の領域(a)に示されたように、流路3の下方に沿うように形成されてもよく、また、流路3に沿って該流路3の上方又は側方に形成されてもよい。さらに、流路3は、基板2の表面に形成されてもよい。この場合、光導波路4は、流路3の下方又は側方に形成されるか、あるいは、流路3自体が光導波路4として機能することができる。
【0037】
BOCDA方式の光センシング装置は、図3に示されたように構成されている。すなわち、測定器本体5は、光源としてのレーザダイオード(LD)6を備えるとともに、プローブ光の生成系と、ポンプ光生成系と、測定系から構成される。プローブ光生成系は、3dBカプラ7と、偏波コントローラ8と、マイクロ波発生器により制御される位相変調器(LNmod.)9と、アイソレータ90を備える。ポンプ光生成系は、3dBカプラ7と、偏波コントローラ10と、強度変調器(IM)11と、遅延線12と、光ファイバアンプ(EDFA)13と、アイソレータ130と、サーキュレータ14を備える。測定系は、サーキュレータ14と、光フィルタ15と、フォトダイオード16と、ロックインアンプ(LIA)17と、コンピュータ18を備える。
【0038】
まず、LD6から出力された光は、3dBカップラ7で2光波成分に分岐される。一方の光は、偏波コントローラ(PC)8を介して、位相変調器(LNmod.)9で約11GHz周波数がシフトされる。この周波数シフトされた光が、プローブ光P2として、アイソレータ90、接続用光ファイバ5aを順に伝搬し、光導波路4の一端側に入射する。他方の光は、偏波コントローラ10、強度変調器(IM)11、遅延線12を介して、光ファイバアンプ(EDFA)13で増幅される。この増幅光が、ポンプ光P1として、アイソレータ130、接続用光ファイバ5bを順に伝搬し、光導波路4の他端側に入射する。このように、ポンプ光とプローブ光は光導波路4中を対向伝搬し、誘導ブリルアン散乱(SBS)が発生する。このとき、プローブ光P2は、ストークス光のゲインスペクトル(BGS)に対応したゲインだけ増幅される。増幅されたプローブ光は、サーキュレータ14を介して光フィルタ15に導かれる。光フィルタ15により不要光成分が除去された後、プローブ光P2は、フォトダイオード(PD)16、ロックインアンプ(LIA)17などにより、BGSが検出される。制御部18(コンピュータ)は、このBGSの検出結果に基づいて、素子1中における対象物の物理量を測定する。さらに、制御部18は、対象物の物理量を調整するよう、物理量調整手段50を制御する(この発明に係る対象物の物理量制御方法)。
【0039】
上述のBOCDA方式において、ポンプ光P1及びプローブ光P2の周波数は、LD6の注入電流を正弦波状に変化させることで変調される。このため、光導波路4の長手方向にポンプ光P1及びプローブ光P2の周波数差が一定となる相関の高い位置(相関ピーク)と低い位置が生成され、相関ピークのみで大きなSBSが発生する。
【0040】
この結果、特定位置でのストークス光のBGS情報を得ることができ、ポンプ光P1、プローブ光P2の周波数変調パターンを順次変化させることにより、流路3中の流動体(対象物)の温度、屈折率、圧力、流速、光吸収損失などの物理量が、高精度かつ短時間に測定可能になる。
【0041】
また、上述のBOCDA方式では、ポンプ光P1及びプローブ光P2の周波数変調パターンを調整することで、長手方向の空間分解能、測定範囲、測定時間などを自由に調整することができる。すなわち、被測定物における物理量の時間的変化や分布を的確に捉えるためには、対象物における分布変化の位置の面での細かさや広がり、変化の速度と、光導波路4による長手方向の空間分解能、測定範囲、測定時間とが対応していることが重要である。
【0042】
一例を挙げると、典型的な光ファイバ中の群速度2.0×108m/秒、BGS線幅50MHzにおいて、既存のレーザダイオード(LD)で実現可能な周波数変調の振幅2GHz、変調周波数100MHzとすると、長手方向の空間分解能(dz)は約1cmが可能になる。
【0043】
また、BOCDA方式では連続光を使用するため、パルス法に比べてOSNR(光信号と雑音との強度比)が良く、光信号の積算、平均化の必要がない。そのため高速な測定が可能であり、測定点1箇所あたり57Hzでの測定が確認されている。
【0044】
このように得られた対象物の物理量に関する測定データは、測定器本体5に内蔵された、パーソナルコンピュータなどで構成される制御部18に送られ蓄積される。制御部18は、この測定データに基づいて、例えば、素子1が備える加熱/冷却手段(物理量調整手段50に含まれる)を調整することで化学プロセスの制御を行うこともできる。
【0045】
以下、より具体的な測定方法及び制御方法について説明する。
【0046】
(温度の測定)
温度測定では、図1、図2中の領域(a)及び図3に示されたように、素子1の流路3に沿って設けられた光導波路4の一端側からプローブ光P2が入射され、他端側からポンプ光P1が入射される。光導波路4中をポンプ光P1とプローブ光P2が対向伝搬すると、相関ピークでBGSが検出され、この測定データが制御部18に送られる。BGSの中心周波数とスペクトル形状は温度によって変化し、中心周波数、スペクトル形状と温度との対応は、予め制御部18のメモリに蓄積されている。よって、BGSの中心周波数又はスペクトル形状を測定することで、流路3中を流動する被測定物の所望箇所の温度又は流路3の長手方向に沿った温度分布を測定することができる。なお、温度の制御は、得られた測定データに基づいて、制御部18が直接、物理量調整手段50に含まれる加熱/冷却手段を制御することにより行われる。
【0047】
(屈折率の測定)
屈折率測定では、図1、図2中の領域(b)及び図3に示されたように、素子1の流路3自体が光導波路4に設定される。この光導波路4の一端側からプローブ光P2が入射され、他端側からポンプ光P1が入射される。この場合も相関ピークでBGSが検出され、その測定データが制御部18に送られる。この場合、流路3の屈折率制御は、制御部18の指示に従って物理量調整手段50が流路3の温度を調整することにより、間接的に調整可能である。また、流路3内の流動体の屈折率制御では、該流動体に加わる圧力や流速の調整(この場合、物理量調整手段50は、流路3への試薬等の流動体注入量や排出量を調整する)によっても間接的に屈折率制御は可能である。
【0048】
なお、BGSの中心周波数υBは、以下の式(1)で表される。
【0049】
【数1】
【0050】
ただし、nは光導波路4の屈折率、vaは光導波路4の音速、λは真空中での光波長である。屈折率nに比例してBGSの中心周波数υBが変化する。中心周波数と屈折率との対応は、予め制御部18のメモリに蓄積されている。これにより、BGSの中心周波数υBを測定することで、流路3中の対象物(流動体)の屈折率の変化が測定できる。
【0051】
例えば、対象物がガラスの場合、音速5960m/s、屈折率1.44とし、光波長1.55μmにおけるBGSの中心周波数は11.07GHzである。屈折率変化による中心周波数の変化は、屈折率10−4当たり769kHzとなる。
【0052】
一方、対象物(流動体)が水の場合、音速1500m/s、屈折率1.321とし、光波長1.55μmにおけるBGSの中心周波数は2.56GHzである。屈折率変化による中心周波数の変化は、屈折率10−4当たり194kHzとなる。
【0053】
(圧力の測定)
圧力測定では、図1、図2の領域(a)及び図3に示されたように、素子1の流路3に沿って設けられた光導波路4の一端側からプローブ光P2が入射され、他端側からポンプ光P1が入射させる。この場合もBGSが相関ピークで検出され、その測定データが制御部18に送られる。
【0054】
BGSの中心周波数は、光導波路4の長手方向の歪に比例してシフトする。中心周波数と歪み、圧力との対応は、予め制御部18のメモリに蓄積されている。よって、流路3に沿って光導波路4を形成することで、流路3中の対象物(流動体)の圧力を歪として測定することができる。この場合、流動体の圧力制御は、制御部18が、測定データに基づいて物理量調整手段50を制御することにより行われる。すなわち、制御部18の指示に従って、物理量調整手段50が流路3に注入される試薬等の流動体の注入量や排出量を調整することで、流動体の圧力を間接的に調整することが可能になる。
【0055】
なお、この圧力測定の場合、図4に示されたように、光導波路4が流路3に対し、繰り返し直交する方向に交差するよう形成されるのが好ましい。圧力は流路3の径方向に対しセンシティブだからである。
【0056】
(流速の測定)
この流速測定では、図1、図2の領域(b)及び図3に示されたように、流路3内の流動体(対象物)自体が光導波路4として設定される。光導波路となる流路3の一端側からプローブ光P2が入射され、他端側からポンプ光P1が入射される。これによりBGSが相関ピークで検出され、その測定データが制御部18に送られる。なお、流動体の流速制御も、制御部18が、測定データに基づいて物理量調整手段50を制御することにより行われる。すなわち、制御部18の指示に従って物理量調整手段50が流路3に注入される試薬等の流動体の注入量や排出量を調整することで、流動体の流速を間接的に調整することで可能になる。
【0057】
流路3内を流動体が流れている場合、BGSの中心周波数υBは、ドップラー効果により流速に比例して変化する。BGSの中心周波数υBは、流速ゼロのとき、以下の式(2)で表される。
【0058】
【数2】
【0059】
ここで、vaはポンプ光の進行方向が正の値をとる。また、流速をvs(ポンプ光の進行方向が正の値)とすると、中心周波数υBは、以下の式(3)で表される。
【0060】
【数3】
【0061】
ここで、中心周波数υBと被測定物(流体)の流速との対応は予め制御部18に蓄積されている。よって、前記したように流体の中心周波数υBを測定することで、流路3中の流体の流速を測定することができる。
【0062】
例えば、流路3中を水(被測定物)が流れている場合、音速1500m/s、屈折率1.321とすると、光波長1.55μmにおけるBGSの中心周波数υBは流速ゼロの場合2.56GHzで、流速による中心周波数υBの変化は、流速10cm/s当たり170kHzになる。
【0063】
(吸収損失の測定)
吸収損失測定では、図1、図2の領域(a)及び図3に示されたように、流路3に沿って設けられた光導波路4が利用される。なお、図2の領域(b)に示されたように、流路3自体が光導波路4として利用されてもよい。また、図5の領域(a)及び(b)に示されたように、基板2の上面に、対象物が充填される複数のセル(凹部)20が所定の配列パターンで形成され、それぞれのセル20に近接するように形成された光導波路4が利用されてもよい。それぞれのセル20内に充填された対象物自体が光導波路4の一部を構成してもよい。
【0064】
光導波路4の各所で発生するブリルアンゲインは、ポンプ光P1とプローブ光P2のパワーに比例する。ポンプ光P1とプローブ光P2の相互作用によるパワーの増減を無視すれば、各所で発生するブリルアンゲインは一定である。光導波路4上で発生する吸収損失は場所により異なり、分布的にこのブリルアンゲインを測定することで、吸収損失分布を測定することができる。なお、流路3の吸収損失制御は、得られた測定データに基づいて、制御部18が流路3の反応状態を推定し、流路3の反応状態が所望の反応状態になるよう調整することにより、間接的に行われる。すなわち、制御部18の指示に従って物理量調整手段50が加熱、冷却、試薬等の流動体の注入量や排出量(流動体自体の圧力、流速制御)などを調整することにより、流路3の反応状態が意図的に変更され、結果的に、流路3の吸収損失が間接的に制御される。
【0065】
それぞれのセル20が測定点である場合(図5の領域(a)及び領域(b)参照)、図6に示されたように、測定点間のゲインを相関値として比較することにより、測定点で受けた吸収損失を制御部18にて算出することができる。詳しくは、図6において、ポンプ光のパワーがP1、これと対向伝搬するプローブ光のパワーがP2とし、図のように吸収損失α、βが光導波路に分布していると仮定する。この場合、単位長当たりのブリルアンゲインは光導波路のどこでも、δgとなる。この場合、プローブ光P2とともに測定されるブリルアンゲインは、最もプローブ光源に近い(サーキュレータ14から最も遠い)光導波路の箇所で発生したブリルアンゲインがαβδgと測定され、次に近い箇所で発生したブリルアンゲインがαδgと測定され、最も遠い(サーキュレータ14に最も近い)箇所で発生したブリルアンゲインがδgと測定される。これらを基準値と比較することにより、光導波路4の任意の各所の吸収損失α、βが求められる。
【0066】
なお、上述の温度、屈折率、圧力の各測定において、流路3に代えて複数のセル20が適用されてもよい。
【0067】
(複数の素子の場合)
次に、上述のような構造を有する複数の素子について対象物の物理量測定が行われる場合、図7に示されたように、それぞれの素子1の光導波路4を、接続用の光ファイバ5cにより光学的に結合することで1本の光導波路が構成される(素子群を構成)。その両端を接続用の光ファイバ5a、5bを介して測定器本体5に光学的に接続すれば、素子群を構成する素子1それぞれにおける光導波路4において、各種測定を一括して行うことができる。
【0068】
なお、上述の例において、基板2、流路3、光導波路4の形状、形態などは図示の形状等に限定されず、用途、被測定物の特性、測定目的などに応じて任意に選択可能であることは言うまでもない。
【0069】
(光導波路を別部材とする場合)
図8〜図14には、上述の光導波路4を素子1とは異なる取付用部材(光導波路チップ30a〜30c)に形成し、該光導波路チップ30a〜30cのいずれかを素子1に取り付ける例が示されている。
【0070】
まず、光導波路4が一次元的に配置された光導波路チップ30aの構造について図8及び図9を参照しながら説明する。図8は、素子1とは別に一次元的に配置された光導波路4を含む光導波路チップ30aの構造を示す平面図(領域(a))及び側面図(領域(b))である。また、図9は、図8の領域(a)中のI−I線に沿った光導波路チップ30aの断面図であって、該光導波路チップ30aと素子1の結合状態を示す断面図である。
【0071】
この光導波路チップ30aは、図8の領域(a)及び領域(b)に示されたように、四角形状のガラス基板33上と、クラッド層31と、該クラッド層31とともに一次元的に形成された光導波路4と、該クラッド層31の上面にカバー部材として形成されたクラッド層32を備える。なお、光導波路4の両端4a、4bは、クラッド層31の端面に位置し、それぞれ拡径処理されている。これにより、端部4a、4bに接続用の光ファイバ5a、5bが結合され、測定器本体5(図3参照)に光学的に接続される。この場合、光導波路4がBOCDA方式のセンサヘッドとして機能する。このように構成された光導波路チップ30aが、光導波路4を備えない通常のマイクロ化学チップやICチップなどの素子1に任意に取り付けて使用される(図9参照)。
【0072】
次に、光導波路4が二次元的に配置された光導波路チップ30bの構造について図10及び図11を参照しながら説明する。図10は、素子1とは別に二次元的に配置された光導波路4を含む光導波路チップ30bの構造を示す平面図(領域(a))及び側面図(領域(b))である。また、図11は、図10の領域(a)中のII−II線に沿った光導波路チップ30bの断面図であって、該光導波路チップ30bと素子1の結合状態を示す断面図である。
【0073】
この光導波路チップ30bも、図10の領域(a)及び領域(b)に示されたように、四角形状のガラス基板33上と、クラッド層31と、該クラッド層31とともに二次元的に形成された光導波路4と、該クラッド層31の上面にカバー部材として形成されたクラッド層32を備える。なお、光導波路4の両端4a、4bは、クラッド層31の端面に位置し、それぞれ拡径処理されている。これにより、端部4a、4bに接続用の光ファイバ5a、5bが結合され、測定器本体5(図3参照)に光学的に接続される。この場合、光導波路4がBOCDA方式のセンサヘッドとして機能する。このように構成された光導波路チップ30bが、光導波路4を備えない通常のマイクロ化学チップやICチップなどの素子1に任意に取り付けて使用される(図11参照)。
【0074】
一方、光導波路チップ30bは、図12の領域(a)に示されたような、接続用の光導波路チップ30b'と連結することにより(図12の領域(b)参照)、図7に示された複数素子それぞれにおける対象物の物理量を測定することも可能である。なお、3枚以上の光導波路チップが連結される場合には、図10に示された、二次元的に光導波路4が配置された光導波路チップ30bと、図12(a)に示された連結用の光導波路チップ30b’を交互に配設すればよい。ここで、図12は、図10に示された光導波路チップ30bに結合される結合用の光導波路チップ30b'の平面図(領域(a))及び結合状態を示す平面図(領域(b))である。
【0075】
さらに、光導波路4が三次元的に配置された光導波路チップ30cの構造について図13及び図14を参照しながら説明する。図13は、素子1とは別に三次元的に配置された光導波路4、4’を含む光導波路チップ30cの構造を示す平面図(領域(a))及び側面図(領域(b)及び領域(c))である。また、図14は、図13の領域(a)中のIII−III線に沿った光導波路チップ30cの断面図であって、該光導波路チップ30cと素子1の結合状態を示す断面図である。
【0076】
具体的に、図13に示された光導波路チップ30cは、複数の光導波路チップ30b(図10参照)同士を多段状に重ねることにより得られる。上下の光導波路チップにおける光導波路4、4’の方向を適宜選択することで、例えば図13に示すような、碁盤目状の光導波路4、4’が実現される。図13に示された光導波路チップ30cによれば、上下の光導波路4,4によって測定点がより多点になるので、より高精度な測定が可能になるなどの効果がある。
【0077】
このような光導波路チップ30cにおいても、チップ形状や光導波路形態は、測定対象としての素子1や流路3の形状、対象物の特性又は測定目的などに応じて適宜に選択可能であることは言うまでもない。
【0078】
なお、図9、図11、及び図14において、素子1は、例えば上述のマイクロ化学チップであって、ガラス製基板の上面に数十〜数百μm径の流路3がループ状に2次元配置されている。素子1と光導波路チップ30(30a〜30c)は、流路3が形成された素子面とクラッド層32とが接するように互いに重ね合わされた状態で、流路3上に光導波路4が位置するように位置調整される。位置合わせは、素子1上に形成された位置合わせマーカー(図示せず)と、光導波路チップ30(30a〜30c)に形成された位置合わせマーカー34を合わせるようにしてもよい。
【0079】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想及び範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
この発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法は、マイクロ化学チップやICチップなどの微細構造物である素子上又は素子中に存在する対象物の物理量を測定する光センシング技術に適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…素子、2…基板、3…流路、4、4’…光導波路、5…測定器本体、5a、5b、5c、5d…接続用光ファイバ、20…凹部(セル)、30a〜30c…光導波路チップ(光導波路を備えた取付用部材)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、素子上又は素子中に存在する被測定物の物理量を、光導波路を用いて測定する対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学物質や生体成分などの対象物(被測定物)に対し、混合、反応、分離、抽出、加熱、冷却、検出、検査などの様々な処理を集積して行うため、マイクロチップ技術が注目されている。このマイクロチップ技術では、ガラスなどからなる基板(素子)上に数十〜数百μmの微細な流路(マイクロ流路)が形成され、該マイクロ流路中で上述のような各種処理が行われる。そして、そのような処理を的確に制御するため、マイクロ流路中の物質の物理量を高精度かつ短時間に測定するニーズが高まってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−297198号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K. Y. Song, Z. He, and K. Hotate, “Distributed strain measurement with millimeter−order spatial resolution based on Brillouin optical correlation domain analysis,” Opt. Lett. 31, 2526−2528 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、従来のマイクロチップ技術について検討した結果、以下のような課題を発見した。
【0006】
すなわち、従来のマイクロチップ技術において、基板内における被測定物の温度を分布的に測定する場合、熱電対などの温度センサーを必要な数だけ分布的に基板に貼り付ける必要があった。サーモグラフィにより温度の面分布を測定できるが、表面温度のみ測定可能であった。また、熱電対などの温度センサーは、対象物の内部に設置されれば該対象物の内部温度は測定可能になるが、対象物自体が微小である場合や熱容量が小さい場合の温度測定には適さない。
【0007】
さらに、従来のマイクロチップ技術では、基板内の対象物に対し分布的にその屈折率や吸収損失を測定する手法は無かった。そのため、例えば、抗体や試薬等の試料ごとに流路を形成し、別々の流路で試料それぞれの屈折率や吸収損失を測定する必要があった。また、流体デバイス内の流体の圧力や流速については、これまで有効な計測手段は無かった。
【0008】
例えば特許文献1(特開2006−297198号公報)には、マイクロチップのマイクロ流路を流れる流体(被測定物)に光を照射することで対象物の温度などを測定するため、基板中に光導波路を形成することが開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された技術によれば、マイクロ流路に対しスポット的に光が照射されるため、該照射点(光の通過点)における温度などが測定される。この場合、基板内に存在する対象物の物理量を分布的に測定することはできなかった。
【0010】
一方、光ファイバ中のブリルアン散乱現象を用いて、光ファイバの長手方向に沿った温度分布、歪分布、損失分布などを測定する光センシング技術が従来から知られている。つまり、光ファイバ中を光(ポンプ光)が伝搬するとき、このポンプ光によってファイバ中に音響波が発生する。ブリルアン散乱とは、このようなポンプ光と音響波の相互作用によりポンプ光のパワーの一部が低周波側にシフトされ、後方に散乱光が生じる現象である。なお、ポンプ光と対向する光(プローブ光)がある場合には、この散乱光はプローブ光を増幅する利得となる。
【0011】
ポンプ光とプローブ光の周波数差υを掃引することでブリルアン散乱による利得のスペクトルが得られる。これをブリルアンゲインスペクトル(BGS)といい、BGSの中心周波数とスペクトル形状が温度に依存して、中心周波数が歪に依存して、そして、ゲインが損失に依存して、それぞれ変化する。よって、BGSを測定することで、光ファイバの長手方向に沿った温度、歪、損失を分布測定することができる。BGSの分布測定方式には、BOTDR、BOTDA、BOCDAなどの各種方式があるが、測定精度や測定時間などの点でBOCDA方式が好適である。
【0012】
すなわち、BOCDA方式(連続光波の相関制御法によるブリルアン散乱方式が採用された光ファイバ分布型センシング技術)による光センシング技術では、ポンプ光とプローブ光にυだけ周波数差を持たせて同様の周波数変調が施されることにより、2光波間の相関状態が制御される。光ファイバ中に相関の高い場所と低い場所が意図的に形成されることにより、相関の高い場所のBGS情報を選択的に採取することができる。例えば非特許文献1では、3mmの空間分解能が実現されており、理論的には空間分解能0.2mm程度が可能と考えられている。
【0013】
この発明は上述のような課題を解決するためになされたものであり、ブリルアン散乱現象を利用した光センシング技術により、微細構造物である素子上又は素子中に存在する対象物の物理量を測定する測定方法及び制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の目的を達成するために、この発明に係る測定方法は、微細構造物である素子上又は素子中に存在する対象物(被測定物)の物理量を測定する方法であって、素子上又は素子中に一次元乃至三次元的に配置された光導波路を用意し、そして、光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した、該光導波路中を伝搬する光の特性変化に基づいて、対象物の物理量を測定する。
【0015】
この明細書において、「素子」とは、例えば、化学物質や生体成分などの対象物の流路自体、対象物が充填される複数のセル(凹部)などが所定パターンで形成されたガラスやプラスチックなどの基板、半導体集積回路が形成されたICチップなどの微細構造物が含まれる。マイクロチップ技術では、化学物質や生体成分などの対象物に対し、混合、反応、分離、抽出、加熱、冷却、検出、検査などの様々な処理が行われる。素子の大きさは必ずしも限定されるものではなく、数cm〜数十cmオーダーのサイズが適用可能である。また、マイクロチップのような、数十〜数百μmオーダーのサイズも適用可能である。このようなサイズの素子は、微細な流路、セルなどが形成されたマイクロ化学チップやICチップの分野において好適に用いられる。
【0016】
また、この明細書において、「素子上又は素子中に一次元乃至三次元的に配置された光導波路を準備する」には、例えば、素子上又は素子中に形成された対象物の流路、複数のセル又は半導体集積回路の形成パターンなどに沿って、一次元的、二次元的又は三次元的に、該素子上又は素子中に光導波路が形成される場合、対象物の流路自体が光導波路として利用される場合、対象物自体が光導波路として利用される場合、複数のセル又は半導体集積回路の形成パターンに対し所望の複数箇所にて測定が可能になるよう、一次元的、二次元的又は三次元的に、素子上又は素子中に光導波路が所望のパターンで形成される場合などが含まれる。さらに、素子とは別に用意された基板、チップなどに光導波路が形成された光導波路チップ(別部材)が、素子に取り付けられてもよい。
【0017】
具体的には、この発明に係る測定方法では、光入射端と光出射端を有するとともに該光入射端から該光出射端まで連続した形状を有する光導波路であって、少なくとも一部が対象物に近接するよう素子上又は素子中に配置された光導波路が用意されてもよい。この場合、光導波路は、一端が少なくとも光入射端として機能する一方、他端が少なくとも光出射端として機能する光導波部材であって、少なくとも一部が素子中に埋設された光導波部材を含んでもよい。また、光導波路は、一端が少なくとも光入射端として機能する一方、他端が少なくとも光出射端として機能する該光入射端から該光出射端まで連続した光導波領域が作り込まれた光導波路チップを含んでもよい。光導波路チップが素子に固定されることにより、光導波路を素子上に配置することが可能である。
【0018】
この発明に係る測定方法において、光導波路中を伝搬する光の特性変化は、該光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した利得のスペクトルであるBGSの中心周波数及びスペクトル形状の少なくとも一方の変化である。
【0019】
なお、この明細書において、「スペクトル形状」とは、スペクトル線幅、スペクトル形状の急唆度(テーパ部の角度)又は隣り合うBGSの中心周波数間隔をいい、「スペクトル形状の変化」とは、光導波路の長手方向の変化又は時間的変化の両方を含む。
【0020】
また、この発明に係る測定方法は、BGSの中心周波数及びスペクトル形状の少なくとも一方の変化に基づいて、対象物の温度を測定することができる。この発明に係る測定方法は、BGSの中心周波数及びスペクトル形状の少なくとも一方の変化に基づいて、対象物の屈折率を測定することも可能である。この発明に係る測定方法は、BGSの中心周波数及びスペクトル形状の少なくとも一方の変化に基づき、光導波路に加わる歪を求め、得られた歪みの測定結果に基づいて対象物に加わる圧力をけっていする。
【0021】
さらに、光導波路中を伝搬する光の特性変化(測定されるべき対象物の物理量)は、BGSの変化であってもよい。このBGSの変化に基づき、この発明に係る測定方法は、対象物の光吸収損失を測定することができる。
【0022】
また、この発明に係る測定方法は、それぞれが、光入射端と光出射端を有する光導波路が配置された複数の素子に対し、一体的に対象物の物理量を測定することも可能である。この場合、複数の素子のうち一の素子に配置された光導波路の光出射端と、別の素子に配置された光導波路の光入射端とを順次光学的に接続していくことにより、全体として、光入射端及び光出射端としてそれぞれ機能する2つの光導波路端部を有する素子群が構成される。当該測定方法は、このように構成された素子群の光入射端として機能する光導波路端部から入射され、複数の素子それぞれに配置された光導波路内を伝搬した後に素子群の光出射端として機能する光導波路端部から出射された光を検出する。この構成によっても、複数の素子それぞれにおける対象物の物理量を測定することができる。
【0023】
この発明に係る制御方法は、上述のように構成された測定方法による対象物の測定結果を基づいて、該対象物の物理量を調整する。
【0024】
なお、この発明に係る各実施例は、以下の詳細な説明及び添付図面によりさらに十分に理解可能となる。これら実施例は単に例示のために示されるものであって、この発明を限定するものと考えるべきではない。
【0025】
また、この発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明及び特定の事例はこの発明の好適な実施例を示すものではあるが、例示のためにのみ示されているものであって、この発明の範囲における様々な変形及び改良はこの詳細な説明から当業者には自明であることは明らかである。
【発明の効果】
【0026】
以上のようにこの発明によれば、素子上又は素子中に一次元乃至三次元的に配置された光導波路をセンサヘッドとして利用し、又は、素子上又は素子中に形成された対象物の流路を光導波路として利用し、該光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因する光の特性変化の分布測定が行われる。これにより、素子上又は素子中における対象物の物理量(例えば、対象物の温度、屈折率、歪み、圧力、流速、光吸収損失など、及びそれらの分布)が分布的に測定可能になる。
【0027】
また、対象物の流路自体が光導波路として利用される場合、この流路に複数の抗体や試薬等の試料を間隔をあけて配置すればよく、複数の流路を形成する必要がなくなる。
【0028】
また、複数の素子を光学的に結合することで、複数の素子上又は素子中における対象物それぞれを単一方法で一括して測定することができる。
【0029】
さらに、上述のように測定された対象物の物理量(測定結果)に基づいて、対象物の物理量を任意に調節することも可能である。
【0030】
したがって、この発明に係る測定方法及び制御方法は、例えば、ガラス製の基板などの素子上又は素子中において、化学物質や生体成分などの対象物に対し、混合、反応、分離、抽出、加熱、冷却、検出、検査などの様々な処理を集積して行うマイクロ化学チップ、マイクロ化学プラント、生体検査や、ICチップにおける導通検査などの、各種微細構造物における測定や制御に好適に応用できるなど、多くの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法の一実施例を実現する概略構成を示す平面図である。
【図2】図1に示された素子の断面図である。
【図3】BOCDA方式の光センシング装置の構成を示す模式図である。
【図4】本発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法の他の実施例を実現する素子構成を示す平面図である。
【図5】本発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法のさらに他の実施例を実現する素子構成を示す平面図及び断面図である。
【図6】吸収損失測定の一方式を説明するための概念図である。
【図7】複数の素子を光学的に結合した場合の測定方法を説明するための平面図である。
【図8】素子とは別に一次元的に配置された光導波路を含む光導波路チップの構造を示す平面図及び側面図である。
【図9】図8の領域(a)中のI−I線に沿った光導波路チップの断面図であって、該光導波路チップと素子の結合状態を示す断面図である。
【図10】素子とは別に二次元的に配置された光導波路を含む光導波路チップの構造を示す平面図及び側面図である。
【図11】図10の領域(a)中のII−II線に沿った光導波路チップの断面図であって、該光導波路チップと素子の結合状態を示す断面図である。
【図12】図10に示された光導波路チップに結合される結合用光導波路チップの平面図及び結合状態を示す平面図である。
【図13】素子とは別に三次元的に配置された光導波路を含む光導波路チップの構造を示す平面図及び側面図である。
【図14】図13の領域(a)中のIII−III線に沿った光導波路チップの断面図であって、該光導波路チップと素子の結合状態を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、この発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法の各実施例を、図1〜図14を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一部位、同一箇所には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0033】
図1〜図3を参照しながら、この発明に係る測定方法及び制御方法の一実施例について説明する。なお、図1は、この発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法の一実施例を実現する概略構成を示す平面図である。図2は、図1に示された素子(光導波路が素子内に配置された構成)の断面図であり、領域(a)は、流路と光導波路が異なる構成を示し、領域(b)は流路が光導波路を兼ねた構成を示す。また、図3は、BOCDA方式の光センシング装置の構成を示す模式図である。
【0034】
図1において、測定/制御対象となる素子1は、ガラス製の基板2中に数十〜数百μm径の流路3がループ状に(二次元的に)形成された微細構造物である。素子1は、その流路3の一端側から流入した対象物としての流動体が他端側から流出させるとともに、流路3中にて所定の化学プロセスが行われるよう、例えば加熱/冷却手段(物理量調整手段50に含まれる)などを備えたマイクロ化学チップである。
【0035】
また、基板2中に二次元的に形成された光導波路4の一端は、接続用の光ファイバ5aを介して測定器本体5と光学的に接続される一方、光導波路4の他端は、測定用の光ファイバ5bを介して測定器本体5と光学的に接続されている。これら接続用の光ファイバ5a、5bは、基板2の外に配置されており、それぞれの一端が測定器本体5に接続されることで、光導波路4が、BOCDA方式(連続光波の相関制御法によるブリルアン散乱方式が採用された光ファイバ分布型センシング技術)のセンサヘッドとして機能するようになっている。
【0036】
光導波路4は、例えば図2中の領域(a)に示されたように、基板2中に埋設された光ファイバであってもよく、また、基板2自体に直接形成されてもよい。光導波路4は、図2中の領域(b)に示されたように、流路3自体が光導波路4として機能してもよい。また、光導波路4は、図2中の領域(a)に示されたように、流路3の下方に沿うように形成されてもよく、また、流路3に沿って該流路3の上方又は側方に形成されてもよい。さらに、流路3は、基板2の表面に形成されてもよい。この場合、光導波路4は、流路3の下方又は側方に形成されるか、あるいは、流路3自体が光導波路4として機能することができる。
【0037】
BOCDA方式の光センシング装置は、図3に示されたように構成されている。すなわち、測定器本体5は、光源としてのレーザダイオード(LD)6を備えるとともに、プローブ光の生成系と、ポンプ光生成系と、測定系から構成される。プローブ光生成系は、3dBカプラ7と、偏波コントローラ8と、マイクロ波発生器により制御される位相変調器(LNmod.)9と、アイソレータ90を備える。ポンプ光生成系は、3dBカプラ7と、偏波コントローラ10と、強度変調器(IM)11と、遅延線12と、光ファイバアンプ(EDFA)13と、アイソレータ130と、サーキュレータ14を備える。測定系は、サーキュレータ14と、光フィルタ15と、フォトダイオード16と、ロックインアンプ(LIA)17と、コンピュータ18を備える。
【0038】
まず、LD6から出力された光は、3dBカップラ7で2光波成分に分岐される。一方の光は、偏波コントローラ(PC)8を介して、位相変調器(LNmod.)9で約11GHz周波数がシフトされる。この周波数シフトされた光が、プローブ光P2として、アイソレータ90、接続用光ファイバ5aを順に伝搬し、光導波路4の一端側に入射する。他方の光は、偏波コントローラ10、強度変調器(IM)11、遅延線12を介して、光ファイバアンプ(EDFA)13で増幅される。この増幅光が、ポンプ光P1として、アイソレータ130、接続用光ファイバ5bを順に伝搬し、光導波路4の他端側に入射する。このように、ポンプ光とプローブ光は光導波路4中を対向伝搬し、誘導ブリルアン散乱(SBS)が発生する。このとき、プローブ光P2は、ストークス光のゲインスペクトル(BGS)に対応したゲインだけ増幅される。増幅されたプローブ光は、サーキュレータ14を介して光フィルタ15に導かれる。光フィルタ15により不要光成分が除去された後、プローブ光P2は、フォトダイオード(PD)16、ロックインアンプ(LIA)17などにより、BGSが検出される。制御部18(コンピュータ)は、このBGSの検出結果に基づいて、素子1中における対象物の物理量を測定する。さらに、制御部18は、対象物の物理量を調整するよう、物理量調整手段50を制御する(この発明に係る対象物の物理量制御方法)。
【0039】
上述のBOCDA方式において、ポンプ光P1及びプローブ光P2の周波数は、LD6の注入電流を正弦波状に変化させることで変調される。このため、光導波路4の長手方向にポンプ光P1及びプローブ光P2の周波数差が一定となる相関の高い位置(相関ピーク)と低い位置が生成され、相関ピークのみで大きなSBSが発生する。
【0040】
この結果、特定位置でのストークス光のBGS情報を得ることができ、ポンプ光P1、プローブ光P2の周波数変調パターンを順次変化させることにより、流路3中の流動体(対象物)の温度、屈折率、圧力、流速、光吸収損失などの物理量が、高精度かつ短時間に測定可能になる。
【0041】
また、上述のBOCDA方式では、ポンプ光P1及びプローブ光P2の周波数変調パターンを調整することで、長手方向の空間分解能、測定範囲、測定時間などを自由に調整することができる。すなわち、被測定物における物理量の時間的変化や分布を的確に捉えるためには、対象物における分布変化の位置の面での細かさや広がり、変化の速度と、光導波路4による長手方向の空間分解能、測定範囲、測定時間とが対応していることが重要である。
【0042】
一例を挙げると、典型的な光ファイバ中の群速度2.0×108m/秒、BGS線幅50MHzにおいて、既存のレーザダイオード(LD)で実現可能な周波数変調の振幅2GHz、変調周波数100MHzとすると、長手方向の空間分解能(dz)は約1cmが可能になる。
【0043】
また、BOCDA方式では連続光を使用するため、パルス法に比べてOSNR(光信号と雑音との強度比)が良く、光信号の積算、平均化の必要がない。そのため高速な測定が可能であり、測定点1箇所あたり57Hzでの測定が確認されている。
【0044】
このように得られた対象物の物理量に関する測定データは、測定器本体5に内蔵された、パーソナルコンピュータなどで構成される制御部18に送られ蓄積される。制御部18は、この測定データに基づいて、例えば、素子1が備える加熱/冷却手段(物理量調整手段50に含まれる)を調整することで化学プロセスの制御を行うこともできる。
【0045】
以下、より具体的な測定方法及び制御方法について説明する。
【0046】
(温度の測定)
温度測定では、図1、図2中の領域(a)及び図3に示されたように、素子1の流路3に沿って設けられた光導波路4の一端側からプローブ光P2が入射され、他端側からポンプ光P1が入射される。光導波路4中をポンプ光P1とプローブ光P2が対向伝搬すると、相関ピークでBGSが検出され、この測定データが制御部18に送られる。BGSの中心周波数とスペクトル形状は温度によって変化し、中心周波数、スペクトル形状と温度との対応は、予め制御部18のメモリに蓄積されている。よって、BGSの中心周波数又はスペクトル形状を測定することで、流路3中を流動する被測定物の所望箇所の温度又は流路3の長手方向に沿った温度分布を測定することができる。なお、温度の制御は、得られた測定データに基づいて、制御部18が直接、物理量調整手段50に含まれる加熱/冷却手段を制御することにより行われる。
【0047】
(屈折率の測定)
屈折率測定では、図1、図2中の領域(b)及び図3に示されたように、素子1の流路3自体が光導波路4に設定される。この光導波路4の一端側からプローブ光P2が入射され、他端側からポンプ光P1が入射される。この場合も相関ピークでBGSが検出され、その測定データが制御部18に送られる。この場合、流路3の屈折率制御は、制御部18の指示に従って物理量調整手段50が流路3の温度を調整することにより、間接的に調整可能である。また、流路3内の流動体の屈折率制御では、該流動体に加わる圧力や流速の調整(この場合、物理量調整手段50は、流路3への試薬等の流動体注入量や排出量を調整する)によっても間接的に屈折率制御は可能である。
【0048】
なお、BGSの中心周波数υBは、以下の式(1)で表される。
【0049】
【数1】
【0050】
ただし、nは光導波路4の屈折率、vaは光導波路4の音速、λは真空中での光波長である。屈折率nに比例してBGSの中心周波数υBが変化する。中心周波数と屈折率との対応は、予め制御部18のメモリに蓄積されている。これにより、BGSの中心周波数υBを測定することで、流路3中の対象物(流動体)の屈折率の変化が測定できる。
【0051】
例えば、対象物がガラスの場合、音速5960m/s、屈折率1.44とし、光波長1.55μmにおけるBGSの中心周波数は11.07GHzである。屈折率変化による中心周波数の変化は、屈折率10−4当たり769kHzとなる。
【0052】
一方、対象物(流動体)が水の場合、音速1500m/s、屈折率1.321とし、光波長1.55μmにおけるBGSの中心周波数は2.56GHzである。屈折率変化による中心周波数の変化は、屈折率10−4当たり194kHzとなる。
【0053】
(圧力の測定)
圧力測定では、図1、図2の領域(a)及び図3に示されたように、素子1の流路3に沿って設けられた光導波路4の一端側からプローブ光P2が入射され、他端側からポンプ光P1が入射させる。この場合もBGSが相関ピークで検出され、その測定データが制御部18に送られる。
【0054】
BGSの中心周波数は、光導波路4の長手方向の歪に比例してシフトする。中心周波数と歪み、圧力との対応は、予め制御部18のメモリに蓄積されている。よって、流路3に沿って光導波路4を形成することで、流路3中の対象物(流動体)の圧力を歪として測定することができる。この場合、流動体の圧力制御は、制御部18が、測定データに基づいて物理量調整手段50を制御することにより行われる。すなわち、制御部18の指示に従って、物理量調整手段50が流路3に注入される試薬等の流動体の注入量や排出量を調整することで、流動体の圧力を間接的に調整することが可能になる。
【0055】
なお、この圧力測定の場合、図4に示されたように、光導波路4が流路3に対し、繰り返し直交する方向に交差するよう形成されるのが好ましい。圧力は流路3の径方向に対しセンシティブだからである。
【0056】
(流速の測定)
この流速測定では、図1、図2の領域(b)及び図3に示されたように、流路3内の流動体(対象物)自体が光導波路4として設定される。光導波路となる流路3の一端側からプローブ光P2が入射され、他端側からポンプ光P1が入射される。これによりBGSが相関ピークで検出され、その測定データが制御部18に送られる。なお、流動体の流速制御も、制御部18が、測定データに基づいて物理量調整手段50を制御することにより行われる。すなわち、制御部18の指示に従って物理量調整手段50が流路3に注入される試薬等の流動体の注入量や排出量を調整することで、流動体の流速を間接的に調整することで可能になる。
【0057】
流路3内を流動体が流れている場合、BGSの中心周波数υBは、ドップラー効果により流速に比例して変化する。BGSの中心周波数υBは、流速ゼロのとき、以下の式(2)で表される。
【0058】
【数2】
【0059】
ここで、vaはポンプ光の進行方向が正の値をとる。また、流速をvs(ポンプ光の進行方向が正の値)とすると、中心周波数υBは、以下の式(3)で表される。
【0060】
【数3】
【0061】
ここで、中心周波数υBと被測定物(流体)の流速との対応は予め制御部18に蓄積されている。よって、前記したように流体の中心周波数υBを測定することで、流路3中の流体の流速を測定することができる。
【0062】
例えば、流路3中を水(被測定物)が流れている場合、音速1500m/s、屈折率1.321とすると、光波長1.55μmにおけるBGSの中心周波数υBは流速ゼロの場合2.56GHzで、流速による中心周波数υBの変化は、流速10cm/s当たり170kHzになる。
【0063】
(吸収損失の測定)
吸収損失測定では、図1、図2の領域(a)及び図3に示されたように、流路3に沿って設けられた光導波路4が利用される。なお、図2の領域(b)に示されたように、流路3自体が光導波路4として利用されてもよい。また、図5の領域(a)及び(b)に示されたように、基板2の上面に、対象物が充填される複数のセル(凹部)20が所定の配列パターンで形成され、それぞれのセル20に近接するように形成された光導波路4が利用されてもよい。それぞれのセル20内に充填された対象物自体が光導波路4の一部を構成してもよい。
【0064】
光導波路4の各所で発生するブリルアンゲインは、ポンプ光P1とプローブ光P2のパワーに比例する。ポンプ光P1とプローブ光P2の相互作用によるパワーの増減を無視すれば、各所で発生するブリルアンゲインは一定である。光導波路4上で発生する吸収損失は場所により異なり、分布的にこのブリルアンゲインを測定することで、吸収損失分布を測定することができる。なお、流路3の吸収損失制御は、得られた測定データに基づいて、制御部18が流路3の反応状態を推定し、流路3の反応状態が所望の反応状態になるよう調整することにより、間接的に行われる。すなわち、制御部18の指示に従って物理量調整手段50が加熱、冷却、試薬等の流動体の注入量や排出量(流動体自体の圧力、流速制御)などを調整することにより、流路3の反応状態が意図的に変更され、結果的に、流路3の吸収損失が間接的に制御される。
【0065】
それぞれのセル20が測定点である場合(図5の領域(a)及び領域(b)参照)、図6に示されたように、測定点間のゲインを相関値として比較することにより、測定点で受けた吸収損失を制御部18にて算出することができる。詳しくは、図6において、ポンプ光のパワーがP1、これと対向伝搬するプローブ光のパワーがP2とし、図のように吸収損失α、βが光導波路に分布していると仮定する。この場合、単位長当たりのブリルアンゲインは光導波路のどこでも、δgとなる。この場合、プローブ光P2とともに測定されるブリルアンゲインは、最もプローブ光源に近い(サーキュレータ14から最も遠い)光導波路の箇所で発生したブリルアンゲインがαβδgと測定され、次に近い箇所で発生したブリルアンゲインがαδgと測定され、最も遠い(サーキュレータ14に最も近い)箇所で発生したブリルアンゲインがδgと測定される。これらを基準値と比較することにより、光導波路4の任意の各所の吸収損失α、βが求められる。
【0066】
なお、上述の温度、屈折率、圧力の各測定において、流路3に代えて複数のセル20が適用されてもよい。
【0067】
(複数の素子の場合)
次に、上述のような構造を有する複数の素子について対象物の物理量測定が行われる場合、図7に示されたように、それぞれの素子1の光導波路4を、接続用の光ファイバ5cにより光学的に結合することで1本の光導波路が構成される(素子群を構成)。その両端を接続用の光ファイバ5a、5bを介して測定器本体5に光学的に接続すれば、素子群を構成する素子1それぞれにおける光導波路4において、各種測定を一括して行うことができる。
【0068】
なお、上述の例において、基板2、流路3、光導波路4の形状、形態などは図示の形状等に限定されず、用途、被測定物の特性、測定目的などに応じて任意に選択可能であることは言うまでもない。
【0069】
(光導波路を別部材とする場合)
図8〜図14には、上述の光導波路4を素子1とは異なる取付用部材(光導波路チップ30a〜30c)に形成し、該光導波路チップ30a〜30cのいずれかを素子1に取り付ける例が示されている。
【0070】
まず、光導波路4が一次元的に配置された光導波路チップ30aの構造について図8及び図9を参照しながら説明する。図8は、素子1とは別に一次元的に配置された光導波路4を含む光導波路チップ30aの構造を示す平面図(領域(a))及び側面図(領域(b))である。また、図9は、図8の領域(a)中のI−I線に沿った光導波路チップ30aの断面図であって、該光導波路チップ30aと素子1の結合状態を示す断面図である。
【0071】
この光導波路チップ30aは、図8の領域(a)及び領域(b)に示されたように、四角形状のガラス基板33上と、クラッド層31と、該クラッド層31とともに一次元的に形成された光導波路4と、該クラッド層31の上面にカバー部材として形成されたクラッド層32を備える。なお、光導波路4の両端4a、4bは、クラッド層31の端面に位置し、それぞれ拡径処理されている。これにより、端部4a、4bに接続用の光ファイバ5a、5bが結合され、測定器本体5(図3参照)に光学的に接続される。この場合、光導波路4がBOCDA方式のセンサヘッドとして機能する。このように構成された光導波路チップ30aが、光導波路4を備えない通常のマイクロ化学チップやICチップなどの素子1に任意に取り付けて使用される(図9参照)。
【0072】
次に、光導波路4が二次元的に配置された光導波路チップ30bの構造について図10及び図11を参照しながら説明する。図10は、素子1とは別に二次元的に配置された光導波路4を含む光導波路チップ30bの構造を示す平面図(領域(a))及び側面図(領域(b))である。また、図11は、図10の領域(a)中のII−II線に沿った光導波路チップ30bの断面図であって、該光導波路チップ30bと素子1の結合状態を示す断面図である。
【0073】
この光導波路チップ30bも、図10の領域(a)及び領域(b)に示されたように、四角形状のガラス基板33上と、クラッド層31と、該クラッド層31とともに二次元的に形成された光導波路4と、該クラッド層31の上面にカバー部材として形成されたクラッド層32を備える。なお、光導波路4の両端4a、4bは、クラッド層31の端面に位置し、それぞれ拡径処理されている。これにより、端部4a、4bに接続用の光ファイバ5a、5bが結合され、測定器本体5(図3参照)に光学的に接続される。この場合、光導波路4がBOCDA方式のセンサヘッドとして機能する。このように構成された光導波路チップ30bが、光導波路4を備えない通常のマイクロ化学チップやICチップなどの素子1に任意に取り付けて使用される(図11参照)。
【0074】
一方、光導波路チップ30bは、図12の領域(a)に示されたような、接続用の光導波路チップ30b'と連結することにより(図12の領域(b)参照)、図7に示された複数素子それぞれにおける対象物の物理量を測定することも可能である。なお、3枚以上の光導波路チップが連結される場合には、図10に示された、二次元的に光導波路4が配置された光導波路チップ30bと、図12(a)に示された連結用の光導波路チップ30b’を交互に配設すればよい。ここで、図12は、図10に示された光導波路チップ30bに結合される結合用の光導波路チップ30b'の平面図(領域(a))及び結合状態を示す平面図(領域(b))である。
【0075】
さらに、光導波路4が三次元的に配置された光導波路チップ30cの構造について図13及び図14を参照しながら説明する。図13は、素子1とは別に三次元的に配置された光導波路4、4’を含む光導波路チップ30cの構造を示す平面図(領域(a))及び側面図(領域(b)及び領域(c))である。また、図14は、図13の領域(a)中のIII−III線に沿った光導波路チップ30cの断面図であって、該光導波路チップ30cと素子1の結合状態を示す断面図である。
【0076】
具体的に、図13に示された光導波路チップ30cは、複数の光導波路チップ30b(図10参照)同士を多段状に重ねることにより得られる。上下の光導波路チップにおける光導波路4、4’の方向を適宜選択することで、例えば図13に示すような、碁盤目状の光導波路4、4’が実現される。図13に示された光導波路チップ30cによれば、上下の光導波路4,4によって測定点がより多点になるので、より高精度な測定が可能になるなどの効果がある。
【0077】
このような光導波路チップ30cにおいても、チップ形状や光導波路形態は、測定対象としての素子1や流路3の形状、対象物の特性又は測定目的などに応じて適宜に選択可能であることは言うまでもない。
【0078】
なお、図9、図11、及び図14において、素子1は、例えば上述のマイクロ化学チップであって、ガラス製基板の上面に数十〜数百μm径の流路3がループ状に2次元配置されている。素子1と光導波路チップ30(30a〜30c)は、流路3が形成された素子面とクラッド層32とが接するように互いに重ね合わされた状態で、流路3上に光導波路4が位置するように位置調整される。位置合わせは、素子1上に形成された位置合わせマーカー(図示せず)と、光導波路チップ30(30a〜30c)に形成された位置合わせマーカー34を合わせるようにしてもよい。
【0079】
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想及び範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
この発明に係る対象物の物理量測定方法及び対象物の物理量制御方法は、マイクロ化学チップやICチップなどの微細構造物である素子上又は素子中に存在する対象物の物理量を測定する光センシング技術に適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…素子、2…基板、3…流路、4、4’…光導波路、5…測定器本体、5a、5b、5c、5d…接続用光ファイバ、20…凹部(セル)、30a〜30c…光導波路チップ(光導波路を備えた取付用部材)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子上又は素子中に存在する対象物の物理量を測定する方法であって、
光入射端と光出射端を有するとともに該光入射端から該光出射端まで連続した形状を有する光導波路であって、少なくとも一部が前記対象物に近接するよう前記素子上又は素子中に配置された光導波路を用意し、
前記光入射端から前記光導波路内に光を照射するとともに、前記導波路内を伝搬した後に前記光出射端から出射された光を検出し、そして、
前記光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した、検出光の特性変化に基づいて、前記対象物の物理量を間接的に測定する対象物の物理量測定方法。
【請求項2】
前記光導波路は、一端が少なくとも前記光入射端として機能する一方、他端が少なくとも前記光出射端として機能する光導波部材であって、少なくとも一部が前記素子中に埋設された光導波部材を含むことを特徴とする請求項1記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項3】
前記光導波路は、一端が少なくとも前記光入射端として機能する一方、他端が少なくとも前記光出射端として機能する該光入射端から該光出射端まで連続した光導波領域が作り込まれた光導波路チップを含み、そして、
前記光導波路チップを前記素子に固定することにより、前記光導波路を前記素子上に配置することを特徴とする請求項1記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項4】
前記光導波路中を伝搬する光の特性変化は、前記光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した利得のスペクトルであるブリルアンゲインスペクトルの中心周波数及び形状の少なくとも一方の変化であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項5】
前記ブリルアンゲインスペクトルの中心周波数及び形状の少なくとも一方の変化に基づき、前記対象物の温度を測定することを特徴とする請求項4記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項6】
前記ブリルアンゲインスペクトルの中心周波数及び形状の少なくとも一方の変化に基づき、前記対象物の屈折率を測定することを特徴とする請求項4記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項7】
前記ブリルアンゲインスペクトルの中心周波数及び形状の少なくとも一方の変化に基づき、前記光導波路に加わる歪を測定し、そして、得られた歪みの測定結果に基づいて前記対象物へ加わる圧力を決定することを特徴とする請求項4記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項8】
前記光導波路中を伝搬する光の特性変化は、前記光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した利得であるブリルアンゲインの変化であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項9】
前記ブリルアンゲインの変化に基づき、前記対象物における光吸収損失を測定することを特徴とする請求項8記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項10】
それぞれが、光入射端と光出射端を有する光導波路が配置された複数の素子を用意し、前記複数の素子のうち一の素子に配置された光導波路の光出射端と、別の素子に配置された光導波路の光入射端とを順次光学的に接続していくことにより、全体として、光入射端及び光出射端としてそれぞれ機能する2つの光導波路端部を有する素子群を構成し、そして、
前記素子群の光入射端として機能する光導波路端部から入射され、前記複数の素子それぞれに配置された光導波路内を伝搬した後に前記素子群の光出射端として機能する光導波路端部から出射された光を検出することで、前記複数の素子それぞれにおける対象物の物理量を測定する請求項1〜9のいずれか一項記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項記載の測定方法による対象物の測定結果を基づいて、前記対象物の物理量を調整する対象物の物理量制御方法。
【請求項1】
素子上又は素子中に存在する対象物の物理量を測定する方法であって、
光入射端と光出射端を有するとともに該光入射端から該光出射端まで連続した形状を有する光導波路であって、少なくとも一部が前記対象物に近接するよう前記素子上又は素子中に配置された光導波路を用意し、
前記光入射端から前記光導波路内に光を照射するとともに、前記導波路内を伝搬した後に前記光出射端から出射された光を検出し、そして、
前記光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した、検出光の特性変化に基づいて、前記対象物の物理量を間接的に測定する対象物の物理量測定方法。
【請求項2】
前記光導波路は、一端が少なくとも前記光入射端として機能する一方、他端が少なくとも前記光出射端として機能する光導波部材であって、少なくとも一部が前記素子中に埋設された光導波部材を含むことを特徴とする請求項1記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項3】
前記光導波路は、一端が少なくとも前記光入射端として機能する一方、他端が少なくとも前記光出射端として機能する該光入射端から該光出射端まで連続した光導波領域が作り込まれた光導波路チップを含み、そして、
前記光導波路チップを前記素子に固定することにより、前記光導波路を前記素子上に配置することを特徴とする請求項1記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項4】
前記光導波路中を伝搬する光の特性変化は、前記光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した利得のスペクトルであるブリルアンゲインスペクトルの中心周波数及び形状の少なくとも一方の変化であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項5】
前記ブリルアンゲインスペクトルの中心周波数及び形状の少なくとも一方の変化に基づき、前記対象物の温度を測定することを特徴とする請求項4記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項6】
前記ブリルアンゲインスペクトルの中心周波数及び形状の少なくとも一方の変化に基づき、前記対象物の屈折率を測定することを特徴とする請求項4記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項7】
前記ブリルアンゲインスペクトルの中心周波数及び形状の少なくとも一方の変化に基づき、前記光導波路に加わる歪を測定し、そして、得られた歪みの測定結果に基づいて前記対象物へ加わる圧力を決定することを特徴とする請求項4記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項8】
前記光導波路中を伝搬する光の特性変化は、前記光導波路中で発生するブリルアン散乱に起因した利得であるブリルアンゲインの変化であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項9】
前記ブリルアンゲインの変化に基づき、前記対象物における光吸収損失を測定することを特徴とする請求項8記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項10】
それぞれが、光入射端と光出射端を有する光導波路が配置された複数の素子を用意し、前記複数の素子のうち一の素子に配置された光導波路の光出射端と、別の素子に配置された光導波路の光入射端とを順次光学的に接続していくことにより、全体として、光入射端及び光出射端としてそれぞれ機能する2つの光導波路端部を有する素子群を構成し、そして、
前記素子群の光入射端として機能する光導波路端部から入射され、前記複数の素子それぞれに配置された光導波路内を伝搬した後に前記素子群の光出射端として機能する光導波路端部から出射された光を検出することで、前記複数の素子それぞれにおける対象物の物理量を測定する請求項1〜9のいずれか一項記載の対象物の物理量測定方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項記載の測定方法による対象物の測定結果を基づいて、前記対象物の物理量を調整する対象物の物理量制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−247427(P2012−247427A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−147865(P2012−147865)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【分割の表示】特願2008−552086(P2008−552086)の分割
【原出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【分割の表示】特願2008−552086(P2008−552086)の分割
【原出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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