説明

小電力無線装置

【課題】 電波法の規制内で限られた出力の無線タグからの電波を効率良く空間に輻射させてその到達距離を伸ばすことができる。
【解決手段】 無線タグ7は、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波をアンテナ7bから送信する。無線タグ7のケースにはアンテナシール9のシール層13が接着されており、その内部には電磁界ループ11が収納されているので、無線タグ7から送信された電磁波は、この電磁波の周波数に共振する電磁界ループアンテナ11に誘起し、電磁界ループアンテナ11から電磁界が2次輻射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体や人体に装着してその存在を検知するために使用する無線タグの通信距離をより拡大することが可能な小電力無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の小電力無線装置としては、図9に示す無線タグシステムが知られている。
【0003】
人体3に装着された名札5に無線タグ7が収納されており、この無線タグ7から定期的にIDコードが付加された電磁波が周囲に送信され、この無線タグ7からの電磁波を受信機1で受信してIDコードを出力するようになっている(特許文献1)。
【0004】
ところで、現在、日本国内で使用できる無線タグは概略して下記の4種類に大別される。
【0005】
(1)124KHz帯無線タグ
(2)13MHz帯無線タグ
(3)2.4GHz帯無線タグ
(4)微弱電波型無線タグ
このうち(1)と(2)は、探索距離が数十cm程度の短距離探索タイプであり、(3)及び(4)は、探索距離が十数m〜数十mの長距離タイプである。
【0006】
また、(3)はマイクロ波帯の性質上、直進性が顕著で通信距離を長くとり易いが、物陰などへ伝搬しにくい特性がある。電池を搭載したアクティブ型無線タグの場合、複雑な無線回路を内蔵しており、マイクロ波帯の電子デバイスは高価であるため、小型、低価格を要求される用途には適さない。
【0007】
さらに、(4)は周波数の制限がないため、反射などの電波伝搬特性とアンテナサイズの点で有利な300MHz帯程度の周波数で用いる長距離通信性に優れたものがあり、UHF帯の電子デバイスを用いるため低コストである。
【特許文献1】特開2005−27104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電波法により規制された微弱電波の制限値は、無線タグから3mの距離において54dBμV/m(500μV/m)以下の電界強度の送信出力でなければならない。このため、この送信出力によって到達距離がほぼ決定されてしまう。
【0009】
また、無線タグは物体や人体に装着して使用するが、無線タグから輻射された電波は物体や人体に吸収されることがあり、理想空間に無線タグを置いた場合の性能に比べて、電波の到達距離が減少するといった問題があった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的としては、電波法の規制内で限られた出力の無線タグからの電波を効率良く空間に輻射させてその到達距離を伸ばすことができる小電力無線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、上記課題を解決するため、電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該無線タグから送信された電磁波の周波数に共振する電磁界ループアンテナを有し、前記電磁界ループアンテナに誘起した電磁界を2次輻射させることを要旨とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、上記課題を解決するため、前記電磁界ループアンテナは、前記無線タグから送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の導体の両端にコンデンサを接続してなる閉ループから形成されることを要旨とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、上記課題を解決するため、前記電磁界ループアンテナは、前記導体とコンデンサとがなすループ面に対して、樹脂からなる1対の薄シールを両面から貼り付けてなる多層シールに収納されることを要旨とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、上記課題を解決するため、前記電磁界ループアンテナは、前記無線タグを収納したケースの一側面に形成された銅製の導体の両端にコンデンサを接続してなり、この導体とコンデンサとがなすループ面に対して、樹脂からなる薄シールを貼り付けて収納されることを要旨とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、上記課題を解決するため、前記電磁界ループアンテナは、前記無線タグを収納したケースの一側面に形成された銅製の導体の両端にコンデンサを接続してなり、この導体とコンデンサとがなすループ面に対して、樹脂液を塗布して収納されることを要旨とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、上記課題を解決するため、前記無線タグを収納するとともに、前記電磁界ループアンテナを収納した多層シールからなるカードを収納するカードケースからなることを要旨とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、上記課題を解決するため、電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該無線タグから送信された電磁波の周波数に共振する電磁界ループアンテナを有し、前記電磁界ループアンテナは、前記無線タグから送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の導体の両端にコンデンサを接続してなる閉ループから形成され、前記電磁界ループアンテナに誘起した電磁界を2次輻射させることを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該無線タグから送信された電磁波の周波数に共振する電磁界ループアンテナを有し、電磁界ループアンテナに誘起した電磁界を2次輻射させることで、電波法の規制内で限られた出力の無線タグからの電波を効率良く空間に輻射させてその到達距離を伸ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る実施の形態を図面を参照して説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1に本発明の第1の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。図1(a)にはアンテナに到来する電磁波を受信してこの電磁波に変調されているIDコードを抽出する受信機1を示し、図1(b)にはアンテナシール9が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、図1(c)には図1(b)に示す無線タグ7とアンテナシール9とをA−A線で切断した場合の断面図を示す。
【0021】
図1(c)に示すように、無線タグ7は、集積回路素子を含む電子回路基板7a、アンテナ7b及び電池7cを備え、電子回路基板7a上に設けられた集積回路素子により所定の信号処理を行い、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波をアンテナを介して送信する。アンテナシール9は、片面が無線タグ7のケースに接着面を介して接着するプラスチックの樹脂からなるシール層13と、シール層13の他面に接着させるプラスチックの樹脂からなるラミネート層15と、シール層13とラミネート層15との間に収納された円形状の電磁界ループアンテナ11を備えている。
【0022】
図2(a)にはアンテナシール9の内部構造を示し、図2(b)にはアンテナシール9の上面写真を示す。図2(a)に示すように、アンテナシール9の内部には、無線タグ7から送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の円形状の導体17の両端にコンデンサ19を接続した閉ループからなる電磁界ループアンテナ11が収納されている。
【0023】
次に、図1,2を参照して、小電力無線装置の動作を説明する。
【0024】
まず、無線タグ7は、基本波を定期的に発振してIDコードを変調した電磁波をアンテナ7bから送信する。無線タグ7のケースにはアンテナシール9のシール層13が接着されており、その内部には電磁界ループ11が収納されているので、無線タグ7から送信された電磁波は、この電磁波の周波数に共振する電磁界ループアンテナ11に誘起し、電磁界ループアンテナ11から電磁界が2次輻射される。
【0025】
電磁界ループアンテナ11は、近接された無線タグ7から電磁波が送信された時、すなわち、共振時に導体17とコンデンサ19とがなす閉ループのインピーダンスが非常に低い値(一般的には0.数Ω)となるので、大きな高周波電流が誘起されので、これにより効率良い輻射が行われる。
【0026】
また、電磁界ループアンテナ11のインピーダンスが極めて低くなるので、一般的な動作インピーダンスが高い電界型のアンテナに比べ、近接する物体や人体などによりインピーダンスが乱されにくい特長がある。そのため、小電力無線装置を装着する物体や人体の影響によって送信される電磁波が弱められるのを防止することができる。
【0027】
この結果、従来のように無線タグ7単体を用いる場合よりも、無線タグ7にアンテナシール9を接着した小電力無線装置から送信される電磁波の方が効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0028】
(第2の実施の形態)
図3に本発明の第2の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。図3(a)にはアンテナシール21が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、図3(b)には無線タグ7とアンテナシール21とをB−B線で切断した場合の断面図を示す。
【0029】
図3(b)に示すように、アンテナシール21は、片面が無線タグ7のケースに接着面を介して接着するプラスチックの樹脂からなるシール層25と、シール層25の他面に接着させるプラスチックの樹脂からなるラミネート層27と、シール層25とラミネート層27との間に収納された正方形状の電磁界ループアンテナ23を備えている。
【0030】
図4(a)にはアンテナシール21の内部構造を示し、図4(b)にはアンテナシール21の上面写真を示す。図4(a)に示すように、アンテナシール21の内部には、無線タグ7から送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の正方形状の導体29の両端にコンデンサ31を接続した閉ループからなる電磁界ループアンテナ23が収納されている。
【0031】
ここで、図4(a)に示す電磁界ループアンテナ23の定量的な数値例を説明する。いま、無線タグ7に近接した導体29のサイズについて、Nをループ状導体29のターン数(回)、Wを導体29の1辺の長さ(m)(形状が正方形の場合を仮定)、aを導体29の半径(m)(導体が線状と仮定)、μsを比透磁率とすると、このインダクタンスは以下の数式で定義される。
【数1】

【0032】
この数式に実際のシステムに適用する各種無線タグサイズを考慮して、適切な値を代入して導体サイズと、コンデンサの容量値を決定すればよい。
【0033】
例えば、L=約40(nH)となるサイズの導体構造とした場合には、C=約7(PF)のコンデンサを接続すれば、
【数2】

【0034】
の関係により無線タグの動作周波数を約300MHzと仮定すれば、この電磁波を効率良く2次輻射できる。
【0035】
次に、図3,4を参照して、小電力無線装置の動作を説明する。
【0036】
電磁界ループアンテナ23は、近接された無線タグ7から電磁波が送信された時、すなわち、共振時に導体29とコンデンサ31とがなす閉ループのインピーダンスが非常に低い値(一般的には0.数Ω)となるので、大きな高周波電流が誘起されので、これにより効率良い輻射が行われる。
【0037】
また、電磁界ループアンテナ23のインピーダンスが極めて低くなるので、一般的な動作インピーダンスが高い電界型のアンテナに比べ、近接する物体や人体などによりインピーダンスが乱されにくい特長がある。そのため、小電力無線装置を装着する物体や人体の影響によって送信される電磁波が弱められるのを防止することができる。
【0038】
この結果、従来のように無線タグ7単体を用いる場合よりも、無線タグ7にアンテナシール21を接着した小電力無線装置から送信される電磁波の方が効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0039】
(第3の実施の形態)
図5に本発明の第3の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。図5(a)にはアンテナシール49が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、図5(b)には無線タグ7とアンテナシール51とをC−C線で切断した場合の断面図を示し、図5(c)にはアンテナシール51が貼り付けられた無線タグ7の上面写真を示す。
【0040】
図5(b)に示すように、アンテナシール51は、片面が無線タグ7のケースに接着面を介して接着するプラスチックの樹脂からなるシール層49と、シール層49と無線タグ7のケースとの間に収納された正方形状の電磁界ループアンテナ43を備えている。
【0041】
図5(a)に示すように、アンテナシール51の内部には、無線タグ7から送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の正方形状の導体45の両端にコンデンサ47を接続した閉ループからなる電磁界ループアンテナ43が収納されている。
【0042】
次に、図5を参照して、小電力無線装置の動作を説明する。
【0043】
電磁界ループアンテナ43は、近接された無線タグ7から電磁波が送信された時、すなわち、共振時に導体45とコンデンサ47とがなす閉ループのインピーダンスが非常に低い値(一般的には0.数Ω)となるので、大きな高周波電流が誘起されので、これにより効率良い輻射が行われる。
【0044】
また、電磁界ループアンテナ45のインピーダンスが極めて低くなるので、一般的な動作インピーダンスが高い電界型のアンテナに比べ、近接する物体や人体などによりインピーダンスが乱されにくい特長がある。そのため、小電力無線装置を装着する物体や人体の影響によって送信される電磁波が弱められるのを防止することができる。
【0045】
この結果、従来のように無線タグ7単体を用いる場合よりも、無線タグ7にアンテナシール51を接着した小電力無線装置から送信される電磁波の方が効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0046】
(第4の実施の形態)
図6に本発明の第4の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。図6(a)にはアンテナ部61が設けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、図6(b)には無線タグ7とアンテナ部61とをD−D線で切断した場合の断面図を示し、図6(c)にはアンテナ部61の製造方法のフローチャートを示す。
【0047】
図6(b)に示すように、アンテナ部61は、無線タグ7のケースの上ブタAに設けられた正方形状の電磁界ループアンテナ43と、この電磁界ループアンテナ43の上面および上ブタAの一部に塗布されたニス層63を備えている。
【0048】
図6(a)に示すように、アンテナ部61には、無線タグ7から送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の正方形状の導体45の両端にコンデンサ47を接続した閉ループからなる電磁界ループアンテナ43が収納されている。
【0049】
次に、図6(c)を参照して、上ブタAに形成されたアンテナ部61の製造方法を説明する。
【0050】
まず、上蓋A、エッチング液、エッチング袋、マスキングシートを準備する。
【0051】
ステップS10では、正方形状の導体45のパターン図をマスキングシートに描き、不要な部分を切断してマスクパターンを作成する。そして、上蓋Aの銅箔が蒸着された表面にこのマスクパターンを貼り付けてマスキングする。ステップS20では、上蓋Aの銅箔上にパターンが貼り付けられた面をエッチング液に浸け、パターンが貼られた箇所を除く面から銅薄を除去し、上蓋Aを洗浄する。
【0052】
次いで、ステップS30では、上蓋Aに形成された導体45の両端にチップ形状のコンデンサ47を半田付けして取り付ける。ステップS40では、上蓋Aに形成された導体45とコンデンサ47の上面に高周波ニスを塗布する。
【0053】
この結果、上蓋Aの上面に電磁界ループアンテナ43が形成される。なお、電磁界ループアンテナ43にデップメータのコイルを近づけて共振周波数を検査し、例えば、300MHz帯の所望の周波数にデップ点があることを確認する。
【0054】
次に、図6を参照して、小電力無線装置の動作を説明する。
【0055】
電磁界ループアンテナ43は、無線タグ7から電磁波が送信された時、すなわち、共振時に導体45とコンデンサ47とがなす閉ループのインピーダンスが非常に低い値(一般的には0.数Ω)となるので、大きな高周波電流が誘起されので、これにより効率良い輻射が行われる。
【0056】
また、電磁界ループアンテナ43のインピーダンスが極めて低くなるので、一般的な動作インピーダンスが高い電界型のアンテナに比べ、近接する物体や人体などによりインピーダンスが乱されにくい特長がある。そのため、小電力無線装置を装着する物体や人体の影響によって送信される電磁波が弱められるのを防止することができる。
【0057】
この結果、従来のように無線タグ7単体を用いる場合よりも、無線タグ7の上蓋Aに電磁界ループアンテナ43を形成した小電力無線装置から送信される電磁波の方が効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0058】
(第5の実施の形態)
図7に本発明の第5の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す。図7(a)にはアンテナカード71が挿入されたカードケース77を示し、図7(b)にはアンテナカード71とカードケース77とをD−D線で切断した場合の断面図を示し、図7(c)にはアンテナカード71と無線タグ7とがともにカードケース77に挿入されたことを示し、図7(d)にはアンテナカード71と無線タグ7とが挿入されたカードケース77をE−E線で切断した場合の断面図を示し、図7(e)にはアンテナカード71と無線タグ7とが挿入されたカードケース77の上面写真を示す。
【0059】
図7(b)に示すように、アンテナカード71は、透明なプラスチックの樹脂からなるカード形状のカード基台83と、カード基台83上に接着された導体73とコンデンサ75とからなる正方形状の電磁界ループアンテナ79と、カード基台83上に形成された電磁界ループアンテナ79を覆うようにして収納するシール層85を備えている。
【0060】
図7(a)に示すように、アンテナカード71の内部には、無線タグ7から送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の正方形状の導体73の両端にコンデンサ75を接続した閉ループからなる電磁界ループアンテナ79が収納されている。
【0061】
図7(e)にはアンテナカード71と無線タグ7とがカードケース77にともに収納された上面写真を示す。図7(e)に示すように、アンテナカード71の内部には、無線タグ7から送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の正方形状の導体73の両端にコンデンサ81を接続した閉ループからなる電磁界ループアンテナ79が収納されている。
【0062】
次に、図7を参照して、小電力無線装置の動作を説明する。
【0063】
電磁界ループアンテナ79は、無線タグ7から電磁波が送信された時、すなわち、共振時に導体73とコンデンサ75とがなす閉ループのインピーダンスが非常に低い値(一般的には0.数Ω)となるので、大きな高周波電流が誘起されので、これにより効率良い輻射が行われる。
【0064】
また、電磁界ループアンテナ79のインピーダンスが極めて低くなるので、一般的な動作インピーダンスが高い電界型のアンテナに比べ、近接する物体や人体などによりインピーダンスが乱されにくい特長がある。そのため、小電力無線装置を装着する物体や人体の影響によって送信される電磁波が弱められるのを防止することができる。
【0065】
この結果、従来のように無線タグ7単体を用いる場合よりも、無線タグ7とこれに近接した電磁界ループアンテナ79を収納するアンテナカード71とで形成した小電力無線装置から送信される電磁波の方が効率的に空間に輻射されるので、空間を伝搬した電磁波が受信機1まで到達するときの到達距離を伸ばすことができる。
【0066】
(実験結果)
図8に示す比較表を参照して、上述した第1乃至第5の実施の形態に係る小電力無線装置の到達距離について説明する。
【0067】
図8において、番号1〜3は第1乃至第5の実施の形態に係る小電力無線装置、すなわち、電磁界ループアンテナを無線タグに近接した小電力無線装置に関する実験結果であり、番号4〜6は従来のように無線タグのみに関する実験結果であり、それぞれの実験において、受信機1が受信可能な距離を比較した結果である。
【0068】
なお、受信機1に接続されている受信アンテナは、1波長のエレメント長を有する長方形状のQUADアンテナ、1波長のエレメント長を有する円形状のループアンテナ、0.5波長以下のエレメント長を有する電磁界ループアンテナであり、それぞれ300MHz帯に共振周波数を有している。受信可能距離は、小電力無線装置または無線タグから受信アンテナまでの距離を示すこととする。
【0069】
図8に示すように、番号1は、本発明の小電力無線装置から出力された電磁波をQUADアンテナで受信した場合であり、例えば6個の小電力無線装置からの電磁波が約20m離れた場所で検知できていることを示す。一方、番号4は従来の無線タグを使用して、他の条件は番号1と同様にした場合であり、この場合は約7mの距離が無線タグからの電磁波を受信できる限界距離であった。
【0070】
以下、番号2,3は、本発明の小電力無線装置を用いて実験した場合であり、一方、番号5,6は同じ条件下で従来の無線タグを用いて実験した場合である。いずれの場合も、本発明の小電力無線装置を用いた方が無線タグのみの場合と比較すると、本発明の小電力無線装置を用いた方が受信可能距離が約2倍程度まで向上することが実験的にも検証できた。
【0071】
(発明の効果)
本発明によれば、電磁波の送信電力が規制されている無線タグを物体や人体といった、電磁波を吸収し弱めてしまうものへ装着した場合でも、無線タグから輻射される電磁波が近接された電磁界ループアンテナにより効率良く空間へ2次輻射されるので、その受信可能距離は無線タグのみを自由空間に置いたような理想的な場合に近い性能を維持することができる。
【0072】
しかも、電磁界ループアンテナはその動作インピーダンスが極めて低く小型であるため、直近周囲の物体や人体によりインピーダンスが乱されたり、アンテナ上の分布電流が乱されにくい。従って、電磁界ループアンテナが無線タグとともに一体になって物体や人体に装着されても、その性能が劣化しにくく、特に、人体に装着した場合など、人が手で触れたり、ポケットへ入れたりしても、その影響を受けにくいという利点もある。
【0073】
また、非常に小型の電磁界ループアンテナを無線タグに近接する場合、無線タグの内部回路と物理的あるいは電気的に接続することがなく、単純に無線タグの直近に置くだけでよいため、非常に簡単に本発明の小電力無線装置を実現することができ、しかも、対象とする無線タグの形状、サイズ、製造メーカー、種類などを問わず、様々な対象に対して適用が可能である。
【0074】
しかも、電磁界ループアンテナの構成要素は導体とコンデンサのみであり、能動部品を必要としないため、原理的には機器寿命は無限長であり、極めて信頼性が高く、しかも安価で経済性にも優れている。
【0075】
この電磁界ループアンテナを薄い銅箔などの導体で形成し、全体をシード状に薄く、コンパクトに製作することで、簡単に無線タグ本体ケースの表面などへ取り付けることができる。これより短時間で容易に加工でき、出来上がりも極めて単純である。
【0076】
更に、この電磁界ループアンテナを一般に広く使用されているカードケース、或いは名札ケースの表面や、内面に取り付ければ、このケースに様々なタイプ(ただし電磁界ループアンテナと共振周波数が一致していることが条件)の無線タグを入れるだけで、極めて簡単に、装着物体の影響によって電磁波の到達距離が低下しにくい、無線タグシステムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)は受信機1を示し、(b)はアンテナシール9が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、(c)は(b)に示す無線タグ7とアンテナシール9との断面図を示す。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)はアンテナシール9の内部構造を示し、(b)はアンテナシール9の上面写真を示す。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)はアンテナシール21が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、(b)は無線タグ7とアンテナシール21との断面図を示す。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)はアンテナシール21の内部構造を示し、(b)はアンテナシール21の上面写真を示す。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)はアンテナシール49が貼り付けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、(b)は無線タグ7とアンテナシール51との断面図を示し、(c)はアンテナシール51が貼り付けられた無線タグ7の上面写真を示す。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、 (a)はアンテナ部61が設けられた無線タグ7からなる小電力無線装置を示し、(b)は無線タグ7とアンテナ部61との断面図を示し、(c)はアンテナ部61の製造方法のフローチャートを示す。
【図7】本発明の第5の実施の形態に係る小電力無線装置の構成を示す図であり、(a)はアンテナカード71が挿入されたカードケース77を示し、(b)はアンテナカード71とカードケース77との断面図を示し、(c)はアンテナカード71と無線タグ7とがともにカードケース77に挿入されたことを示し、(d)はアンテナカード71と無線タグ7との断面図を示し、(e)はアンテナカード71と無線タグ7とが挿入されたカードケース77の上面写真を示す。
【図8】上述した第1乃至第5の実施の形態に係る小電力無線装置の到達距離について説明するための比較表を示す。
【図9】従来の無線タグシステムであり、(a)は受信機1を示し、(b)は人体に装着された無線タグを示し、(c)は無線タグが挿入された名札ケースを示す。
【符号の説明】
【0078】
1 受信機
7 無線タグ
9,21,51 アンテナシール
11,23,43,79 電磁界ループアンテナ
61 アンテナ部
71 アンテナカード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該無線タグから送信された電磁波の周波数に共振する電磁界ループアンテナを有し、
前記電磁界ループアンテナに誘起した電磁界を2次輻射させることを特徴とする小電力無線装置。
【請求項2】
前記電磁界ループアンテナは、
前記無線タグから送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の導体の両端にコンデンサを接続してなる閉ループから形成されることを特徴とする請求項1記載の小電力無線装置。
【請求項3】
前記電磁界ループアンテナは、
前記導体とコンデンサとがなすループ面に対して、樹脂からなる1対の薄シールを両面から貼り付けてなる多層シールに収納されることを特徴とする請求項2記載の小電力無線装置。
【請求項4】
前記電磁界ループアンテナは、
前記無線タグを収納したケースの一側面に形成された銅製の導体の両端にコンデンサを接続してなり、この導体とコンデンサとがなすループ面に対して、樹脂からなる薄シールを貼り付けて収納されることを特徴とする請求項2記載の小電力無線装置。
【請求項5】
前記電磁界ループアンテナは、
前記無線タグを収納したケースの一側面に形成された銅製の導体の両端にコンデンサを接続してなり、この導体とコンデンサとがなすループ面に対して、樹脂液を塗布して収納されることを特徴とする請求項2記載の小電力無線装置。
【請求項6】
前記無線タグを収納するとともに、
前記電磁界ループアンテナを収納した多層シールからなるカードを収納するカードケースからなることを特徴とする請求項3記載の小電力無線装置。
【請求項7】
電磁波を送信するアンテナを内蔵した無線タグに近接し、当該無線タグから送信された電磁波の周波数に共振する電磁界ループアンテナを有し、
前記電磁界ループアンテナは、
前記無線タグから送信された電磁波の波長に対して、全周が0.5波長以下の導体の両端にコンデンサを接続してなる閉ループから形成され、
前記電磁界ループアンテナに誘起した電磁界を2次輻射させることを特徴とする小電力無線装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−270448(P2006−270448A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84896(P2005−84896)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】