説明

層状表面弾性波センサ

表面弾性波センサは、a)その表面上に交叉指状電極を有する圧電結晶(ニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムのようなもの)と交叉指状電極の上の第2の圧電層(酸化亜鉛のようなもの)とから成る第1の層状SAWデバイスと、b)その表面上に交叉指状電極を有する圧電結晶と、交叉指状電極の上の第2の圧電層と、第2の圧電層の上の検体感応表面(金のようなもの)とから成る第2の層状SAWデバイスとを備える。c)SAWデバイスの両方は、同じ基板上に製作される。表面弾性波センサは、d)SAWデバイスの帯域幅を低減するため各SAWデバイスの交叉指状電極に隣接して配置された反射器を更に備え、e)各SAWデバイスの共振器回路は、従属性の増幅器を組み込んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面弾性波(SAW)デバイスに関し、特に、センサとして用いられる層状SAWデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
SAWデバイスは、通常、発振器を作るため増幅器を有する閉ループに用いられている。電子回路用のクロック・パルスを発生するためSAWデバイスを用いた安定な発振器を組み立てることを記載した特許が存在する。米国特許No.3,979,697は、「タンク回路」又はフィードバック素子が表面弾性波(SAW)バンド・パス・フィルタ(遅延線)である発振器を開示する。米国特許No.4,868,524は、電圧制御SAW発振器を用いて安定な搬送波信号を発生するRF回路を開示する。米国特許No.5,126,694は、SAW安定化発振器であって、SAW発振器の基本周波数に対して奇数次数差を有する比較的低い周波数基準信号にフェーズ・ロック(位相ロック)されるフェーズ・ロック回路を含むSAW安定化発振器を開示する。
【0003】
SAWデバイスは、液体及び気体の環境でセンサとして用いられてきた。米国特許No.4,562,371は、カットされた結晶シリコン基板上にレイリー波を伝搬するZnO圧電層を備えるSAWデバイスを開示する。
【0004】
表面弾性波は、3方向に偏波(polarize)され、そして縦波運動、通常波(Normal wave)、及び剪断水平波として分類することができる。剪断水平(SH)波のクラスは、表面に近い非常に閉じ込められた領域に波動エネルギを集中させる層状デバイスの中を伝搬されるラブ波と呼ばれる。
【0005】
レイリー波センサは、気体環境で有効であるが、しかしそれらは、表面に垂直な変位(surface−normal displacement)が強い輻射損失を液体の中に起こすので液体環境に適していない。液体の中で検知することに対しては、剪断水平(SH)偏波モード(polarized wave modes)が、粒子変位がデバイス表面に対して平行で且つ伝搬方向に対して垂直であるので好まれる。これは、波が過剰な音響エネルギを液体の中に結合することなしに液体と接触した状態で伝搬するのを可能にする。しかしながら、SH波は、基板を通じて分散され、従ってSAWと同じ感度を持たない。感度を増大するために、SH偏波された表面導波(SH−polarized guided surface waves)であるラブ波を用いることができる。その波は、圧電基板と、基板で発生された弾性波をその近表面(near surface)に結合する案内層とから成る層状構造の中を伝搬する。それらは、近表面へのエネルギ閉じ込めに起因した表面の摂動に対して極端に敏感である。摂動の大きさを観測することにより、相互作用の強度を測定することが可能である。この相互作用は、質量密度、弾性剛性(elastic stiffness)、液体の粘性、電気及び誘電特性により引き起こされる。デバイスが敏感になればなる程、測定することができる量は一層小さくなる。
【0006】
米国特許No.5,130,257、No.5,216,312、No.5,283,037及びNo.5,321,331は、液体環境で用いられるラブ・モードSAWセンサを開示する。ラブ波は、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム又は水晶のような圧電材料をカッティングして、エネルギをSAWデバイスの交差指状電極(nterigital ransducer)(IDT)から、波動エネルギを基板表面に閉じ込めることを可能にする剪断横波又はラブ波の中に結合することにより生成される。
【0007】
米国特許No.5,705,399は、液体と接触する第1の面に接続された電極と液体と接触しない第2の面に接続された電極とを有するATカット水晶圧電基板を有する液体環境用SAWセンサを開示する。このセンサは、抗原のような生物学的種を検出するため用いられ得る。
【0008】
WO02/095940は、圧電水晶結晶板上にZnOの圧電層を用いたラブ・モードSAWセンサを開示する。
センサの感度を改善するため、デバイスの周波数の安定性に対処することが必要である。米国特許No.6,122,954は、200から2000MHzの共振周波数範囲及び温度制御システムを有するSAWセンサを開示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
SAWセンサの信頼性を改善し、そして当該センサの動作性能を最適化することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本発明は、表面弾性波(SAW)センサであって、
a)その表面上に交叉指状電極を有する圧電結晶と前記交叉指状電極上の第2の圧電層とから成る第1の層状SAWデバイスと、
b)その表面上に交叉指状電極を有する圧電結晶と前記交叉指状電極上の第2の圧電層と前記第2の圧電層上の検体感応表面とから成る第2の層状SAWデバイスと、を備え、
c)両方の前記SAWデバイスが、同じ基板上に製作され、
d)前記SAWデバイスの帯域幅を低減するため各SAWデバイスの前記交叉指状電極に隣接して配置された反射器を更に備え、
e)SAWセンサの共振器回路が、従属性の増幅器を組み込んでいる、表面弾性波(SAW)センサを提供する。
【0011】
SAWデバイスが目標の検体と相互作用するとき、動作周波数が変わる。動作周波数の変化は、環境内の目標検体の大きさに比例する。発振システムが、高いQ及び安定な周波数応答を有することが必要である。
【0012】
第1の層状SAWデバイスを基準センサとして用い、そしてそれらを同じ基板上に製作することにより、環境雑音の影響を低減することができる。反射器を用いて帯域幅を低減することにより、第1の層状SAWデバイスのQが増大される。圧電基板は、ラブ・モード波の伝搬用にカットされることが好ましく、そして水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ランガサイト(langasite)又はランガタイト(langatite)であり得る。
【0013】
第2の層は、酸化亜鉛、AIN LiTaO、LiTaO又は水晶である層のような圧電膜であることが好ましい。
第2の層は、非圧電性であることができ、それは、窒化珪素、異なる種類の金属酸化物、ポリマ、又は金属化合物のようなそれ自体で音響エネルギを閉じ込める能力を有する。
【0014】
好適な圧電基板は、5000m/sの伝搬速度を有する90度回転されたSTカット水晶(90° rotated ST−cut quartz crystal)であり、それは、そして基本波は、SSBW(表面スキミング・バルク波(Surface Skimming Bulk Wave))であり、そして他のモードに対してゼロ結合を有する。それは、主に、剪断水平(SH)バルク波であり、そして低い温度係数を有する。その主要な欠点は、それがSSBWからラブ・モードに変わるときの高い挿入損失である。膜材料が表面に被着されるとき、それは、基板をロード(load)すべきであり、それは、当該膜での伝搬速度が基板での伝搬速度より小さいことを意味する。この場合、伝搬モードは、ラブ・モードに変わる。金属酸化膜が基板上に被着されたとき、挿入損失は、動作モードがSSBWからラブ・モードに変わるとき減少する。その主要利点は、それがSSBWからラブ・モードに変わるときの一掃低い挿入損失である。
【0015】
他の適切な基板は、漏洩SAW(漏洩表面弾性波(エネルギの漏れを伴う表面弾性波)(leaky SAW))の発生を可能にする基板である。これらには、LST水晶基板、64YX−LiNbO基板、41YX−LiNbO基板、及び36YX−LiTaOの基板が含まれる。
【0016】
レイリー又は他の種類の波の伝搬を可能にする他の基板カットをガス検知応用のため用いることができる。再び、音響閉じ込め層の追加は、上記デバイスの感度を増大する。
我々が採用してテストした基板は、STカット水晶、XY及びYZ LiNbO、128XLiNbO、110ビスマス・ゲルマニウム酸化物、LiTaOの様々なカット、GaAs、ランガサイト及びランガタイトである。
【0017】
異なる種類の第2の層を用いる。それには、金属化合物、酸化金属、窒化金属、二元化合物、ポリマ、ナノ粒子化合物、及びアモルファス材料がある。
SAWデバイスを動作させる最も単純で最も経済的で最も信頼性のある方法の1つは、それをフィードバック・ループの中に配置することである。これを実行すると、システム(系)は、SAWデバイス・パターンのフィンガ・ペア(一対の指部)の幅と遅延線の伝搬速度との関数である周波数で発振する。システム(系)の動作周波数の変化は、それ自体検体との相互作用を介して変えられる音波伝搬速度の変化から結果として生じる。
【0018】
生物学的に感応する層(biologically sensitive layer)は、第2のSAWデバイスの第2の圧電層上に被着されて、検出されるべき適切な生化学的成分と相互作用する。金の膜が、表面に被着される。金は、タンパク質と高い親和性をもって相互作用する。それは、抗原検出のため特定の抗体と共に用いられることができる。この被着は、多孔質の表面並びに平滑な表面上に作ることができる。単純なSAW発振器は、増幅器、SAWデバイス、出力カプラー、及び、例えば同軸ケーブルを介してループ位相シフトを設定する手段を含み得る。ループ増幅器の飽和は、利得圧縮を与える。発振器に基づいて動作するSAW検知システムの設計及び実現における非常に重要な側面は、周波数の安定性である。異なる種類の現象は、検知システムにおける基本周波数からの周波数偏差を引き起こし得る。それらは、次のようなカテゴリに分けることができる。
【0019】
1.ランダム雑音により発生されるランダム偏差。
2.一定の周波数シフトとしてのドリフト。これは、短期ドリフトか又は長期ドリフトかであることができる。
【0020】
3.電磁影響。遮蔽がこの影響を著しく低減するが、しかし高い誘電率を有するいずれの金属又は材料のシステムに対する親和性は、周波数変化を発生し得る。
4.ポンプ及び検体の注入のようなシステムの機械的構成要素に起因した雑音。
【0021】
5.電子回路をウオームアップすること、及び当該電子回路で発生されるランダム雑音により生じる周波数変化。
SAW発振システムの周波数安定性は、システム的なカテゴリとランダム的なカテゴリとに分けられる。
【0022】
1.システム的なものは、予測可能な影響である。
2.ランダム的なものの影響は、予測及びスペクトル密度に関してシステム的なものの影響と異なる。
【0023】
ランダム雑音は、それらが特定の期間に変化している周波数の状態では無いので、一般的に、定量化することが困難である。更に、ランダム雑音値は、サンプルの数及び測定の合計長さに強く依存する。ランダム雑音の研究のためには、周波数のスペクトルが、通常、検査すべき最も普通のパラメータである。
【0024】
色々のランダム雑音の間では、発振周波数に対して最も重要な影響を与えるパラメータは、温度変化である。それは、SAWデバイスと、ループ増幅器の電子構成要素との両方に影響を与える。周波数の温度係数の特性は、水晶のカットに非常に依存する。一般的に、温度変化により生じた周波数変化は、二重遅延線デバイスを採用し且つ2つの発振器の差を見ることにより著しく抑制されることができる。
【0025】
本発明は、WO02/095940に開示された提案に追加するものであり、当該WO02/095940の内容は、本明細書に援用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、圧電層を圧電基板上に設ける。基板のカットは、液体検知応用のための表面スキミング・バルク波(SSBW)及び漏洩波をサポートする水晶カットのクラス、及びガス検知応用のための他のカットに属する。層は、非常に方向性のある膜として基板上に被着されることができる種々の圧電材料から成り、それは、音波をその環境へ伝搬させるようにする。層の中での音波の伝搬速度は、ラブ・モードの伝搬をサポートするため基板より小さくなければならず、さもなければ、それは、同様に他のモードの伝搬を可能にする。
【0027】
図1において、第1の波発生トランスデューサ3及び第1の受信トランスデューサ4が、圧電基板1の表面に製作される。トランスデューサ(transducers)3及び4は、SAWデバイスで用いられるいずれかの適切な交差指状電極(interdigital transducer)(IDT)である。波伝送層5、即ち、圧電層は、トランスデューサ3及び4が圧電基板1と波伝送層5との間に位置するように圧電基板1上に製作される。検知層6は、波伝搬層5の上に被着されて、当該検知層6が暴露される液体又はガス媒体の中の媒介物(agent)に対して選択的に物理的、化学的又は生物学に活性である表面を形成する。当該表面は、いずれの生物学的目標を検出するよう処理され得る。食料品生産における品質制御のため、当該表面は、サルモネラ菌、大腸菌、又は他の腸内病原菌を定量的に検出するよう処理されることができる。環境モニタリングのため、レジオネラのような病原菌を検出することができる。
【0028】
移行層(transitional layer)9は、SiOのような音響感応層であることが好ましく、その層は、速度シフトを増大し、その結果として電気機械結合係数を増大する。移行層9は、波伝送層5と圧電基板1との間に位置し、それにより第1のIDTと波伝送層5との間の距離が、増大して、より高い結合係数を得ることを容易にし、そしてさもなければ生じる音波伝送エネルギ損失を低減する。保護層10が、圧電層5を損傷から保護するため検知層6と圧電層5との間に配置される。保護層10は、SiO、他の金属酸化物、金属化合物、又はポリマであり得る。
【0029】
図2には、本発明のSAWデバイスが検出器デバイスとして示されている。図2において、第2の波発生トランスデューサ7及び第2の受信トランスデューサ8は、基板層より上及び波伝達層より下に、そして第1の波発生トランスデューサ3及び第1の受信トランスデューサ4の近くに配置されている。2組のトランスデューサは、同じ基板上に配置されている。検知層は、第2の組のトランスデューサ7及び8の上方には配置されて無く、それによりこの第2の組のトランスデューサ7及び8は、基準センサとして機能することができる。
【0030】
周波数カウンタ11は、出力信号の周波数を決定し、そして計算装置12は、液体又は気体媒体の中の検出可能な成分の濃度を計算する。第1の受信トランスデューサ4からの出力は、検知層と目標分子との間の相互作用の結果である検知信号を含む。第2の受信トランスデューサ8からの出力は、その第2の受信トランスデューサ8の上方には検知層6が存在しないので、検知デバイスの動作特性のみを含む。これは、アナライザが目標分子の濃度を示す信号を正確に計算することを可能にする。
【0031】
長期安定性をもたらす多くのパラメータが存在する。一般的に、デバイスの最終焼成が、SAWデバイスをより安定にする。金属の結晶中への拡散がそのような焼成でもって適時に低減されると考えられる。この焼成は、室温拡散を低減する飽和した拡散レベルを発生し得る。
【0032】
周波数揺らぎのスペクトル密度S(f)は、1Hz帯域幅での自乗平均周波数揺らぎの大きさである。ランダム周波数揺らぎを定量化するため用いられる別のパラメータは、アラン分散(Allan variance)である。アラン・パラメータは、2つの隣接周波数測定値間の周波数の分数変化率(fractional change)の二乗の半分の平均値である。
【0033】
SAWセンサの周波数偏差の問題は、調査されてきた。SAW検知システムに関する差異は、次のとおりである。
1.システムが、検体に接触している。この検体は、気体でも液体でもよい。そのような物質との接触は、余分の雑音をシステムの中に発生する。それは、システムの一層予測不能な挙動をもたらす。
【0034】
2.一般的に、層状SAWデバイスは、液体検知応用に用いられる。使用可能な研究の大部分は、これまで、ブランクSAWデバイスに対して行われている。
ブランク・デバイスに対してさえ、SAW発振器における周波数雑音の源は、一般的に十分理解されていない。種々の検体との接触は、システムの複雑さを著しく増大させる。
【0035】
本発明においては、次の方法が、システムの雑音を低減し、そして発振周波数の周波数安定性を増大するため採用された。
1. 回折格子をトランスデューサ間に追加
層状SAWデバイスは、表面横波(STW)の伝搬を可能にする結晶カット上に製作される(漏洩SAW及びSSBWは、STWのファミリである。)。SAWデバイスは、
・低いデバイス損失
・高い固有のQ
・低い1/f雑音、及び
・低い振動感度
現在、STWベース共振器は、最近の通信、無線リモート・センシング、及び兵器誘導システムに広く用いられている。
【0036】
案内膜(guiding film)の被着により、層状SAWデバイスは、製作される。安定なセンサを製作する方法は、高いQのSH共振器を設計することである。
SH型音波は、IDTにより、圧電基板上で、選択された温度が補償された回転されたY軸の向き上でX軸に対して垂直の方向に励振される。複数のIDTが互いに自由表面により分離される場合、SH波は、SSBW(表面スキミング・バルク波)又は漏洩波である。これらの伝搬モードに対して、パワーは、結晶のバルク(bulk)の中に放射される。IDTの周期に等しい周期を有する金属ストリップ回折格子がIDT同士の間に被着される場合、それは、SSBW及び漏洩波の速度を遅くし、それらをSTWに変える。波動エネルギは、表面上に閉じ込められ、そしてデバイスのバルクの中に放散しない。
【0037】
本発明においては、回折格子は、案内層(guiding layer)同士の間か又はSAWセンサの表面上かのいずれかにパターン形成され得る。両方の場合、挿入損失は、15dB以上減少される。
【0038】
2. 材料の選定の最適化(例えば、酸化亜鉛の使用)
案内層及び基板としての異なる材料の組み合わせは、デバイスの感度を設計する際に重要な役割を果たす。基板の剪断水平伝搬速度より小さい剪断水平伝搬速度を有する層は、通常、音波のエネルギを当該層の中に閉じ込める。この近表面のエネルギが、感応層及び目標検体の中への音波の貫入を増大させる。その結果、デバイスの感度が増大する。
【0039】
SSBW又は漏洩波の伝搬を可能にするSAWウエーハが、そのようなデバイスの製作のため採用されなければならない。案内層は、ZnOのような圧電材料、又はSiO及びSiのような非圧電材料であることができる。
【0040】
3. 反射器(reflectors)の数
反射器を追加することによりSAWデバイスの帯域幅が低減される。これは、デバイスのQを増大し、それは、動作システム(operating system)の信号対雑音比に対して著しい影響を与える。反射器の追加は、デバイスの帯域幅を減少させる。LiTaO及びLiNbO基板に基づくSAWデバイスに対して50より多くの反射器を追加したことにより、デバイスのQが大きさで最高100のオーダまで増大した。STカット水晶ベースのデバイスに対して、150より多くの反射器が、要求されるが、それは、デバイスのQを最高15倍増大させる。
【0041】
4. 空洞長さを変えることによりデバイスのQを変える
空洞長さは、デバイスのQを増大させる。より良好な周波数安定性のため、遅延線は、できるだけ長い遅延時間を有するべきである。唯1つの周波数が発振条件を所与の時間に満足することができることを保証するため、2つのトランスデューサの組み合わされた長さは、当該2つのトランスデューサの中心間距離のほぼ90パーセントより短く無くすべきである。各トランスデューサにおけるフィンガの数は、ほぼ120に制限され得る。追加のフィンガを用いて、より低い挿入損失を達成することができるが、しかしこれは、ターンオーバー温度(turnover temperature)及び三重遷移反射(triple transit reflections)に対して金属の望ましくない影響を増大させる。
【0042】
伝搬損失、物理的サイズ、及びフィンガのグループ間の位相誤差のような多数の要因が、SAWトランスデューサの長さを制限することに寄与する。400MHzでは、単一モードの遅延線に対して達成可能な遅延時間は、約4マイクロ秒である。
【0043】
大きい空洞サイズの別の利点は、それが共振器のパワー取り扱い能力を増大させることである。
5. 両方のデバイス(基準及びセンサ)を同一基板上に製作する
これは、環境の影響を著しく減少させるであろう。雑音は、一般的に、センサ及び基準の両方の発振周波数に対して同じ影響を及ぼし、それらの発振周波数を等しい大きさでシフトさせる。これら2つの周波数を差し引くことにより、システムに対する環境雑音の影響が抑圧される。
【0044】
6. 従属性の増幅器(dependant amplifiers)を採用する
基準及びセンサは、従属性の増幅器により動作される方が良い。本発明者は、トランジスタのアレイを用いて、トランジスタの利得及び環境雑音に対する温度の影響を低減した。トランジスタが同じ基板上に製作されるとき、トランジスタは、特に温度ドリフトと同じそれらの利得の変化を示す。
【0045】
SAWデバイスは発振器の全ての部品のうちで明らかに最大の遅延時間を有するにも拘わらず、他の部品は、発振器の周波数安定性で重要な役割を果たす。
BAW共振器と比較して、SAWデバイスは、1桁又は2桁小さい大きさのQを有し、その結果として、電子機器の周波数安定性の影響が、一層大きい。ループ増幅器の安定性の影響を低減することにより、帯域幅が大きくなるであろう。負のフィードバックの採用が役立つ。また、50オーム環境を用いることが都合良い。
【0046】
最良の性能は、バイポーラ・シリコン・トランジスタがFETより低いフリッカ雑音を与えるのでそのバイポーラ・シリコン・トランジスタを用いる場合得られる。それらの性能は、殆どの場合、SAWデバイスを設計したときのインピーダンスとは異なるインピーダンスを示すので正確に50オームでない源(ソース)又は負荷に対して敏感であるべきでない。
【0047】
7. 開口サイズの最適化
開口サイズは、センサが液体と接触状態で動作しているとき重要な役割を有する。120個のフィンガが各トランスデューサで用いられ、そして音響開口がほぼ200波長である場合、典型的な遅延線は、空気中で、ほぼ20dBの挿入損失を有するであろう。
【0048】
液体と接触している状態では、SAWデバイスの位相シフトは、減少する。大きい開口は、そのような減少を補償する。
8. 溝が形成された回折格子
溝が形成された回折格子は、通常、金属の回折格子より良い周波数安定性を与える。それは、アクティブな音響範囲内の金属のみがトランスデューサから生じるからである。そのような利点にも拘わらず、より大きいコストは、この方法の魅力を低減する。
【0049】
9. デバイスのパッケージング及び振動に対する感度
長期周波数安定性は、SAWデバイスの表面に対する検体の影響と関連付けられる。超清浄な液体は、長期SAW安定性の試験がなされるとき必要とされる。さもなければ、連続的ドリフトが、観測される。
【0050】
振動の感度は、SAWデバイスが取り付けられ、パッケージングされる仕方の詳細に強く依存する。そうはいっても、通常では、振動の大きさは、温度の影響及び長期ドリフトと比較して小さい。液体セルの圧力変化は、デバイスに対して著しい影響を及ぼす。圧力さえ、液体供給システムの出口から少しずつ流れる液体の小滴により変えられることができる。
【0051】
本発明のセンサの挙動が、図3から図9にグラフで示されている。図3は、本発明の増強を適用した場合としない場合のSAW検知システムのウオームアップを示す。ランダム雑音はより小さく、そしてドリフトがより小さい。システムは、安定な状態に一層短時間に達する。図4は、本発明の増強されたシステムのランダム雑音を示す。
【0052】
図5は、変化を導入する前後でのSAWデバイスの帯域幅の低減を示す。図5Aは、増強を導入する前のSAWデバイスの挿入損失を示す。図5Bは、増強を導入した後のSAWデバイスの挿入損失を示す。帯域幅は、少なくとも10倍小さい。
【0053】
図6は、層状SAWセンサ(構造:LiTaO/ZnO/WO/Au)の水素ガスに対する応答を示す。
図7は、層状SAWセンサ(構造:LiTaO/ZnO/WO/Au)のCOガスに対する応答を示す。
【0054】
図8は、層状SAWセンサ(構造:LiNbO/ZnO/InO(20nm))のNOガスに対する応答を示す。
図9は、液体の中の生化学物に対する本発明のセンサの応答を示す。システムは、500ngより少ない質量のIgNARに関して溶液の中へ追加した検体の質量に対して線形の周波数応答を示す。100ng、200ng、200ng及び500ngのIgNARが、セルに導入され、次いで完全に洗浄された。
【0055】
比較事例
SiO薄膜のような受動層は、36LiTaOに関して非効率であり、そしてZnOのような圧電薄膜は、一層良好な性能を有する。
【0056】
SiO層の質量感度を示すため、異なる厚さのSiO層が、被着された。周波数シフトが、測定された。
ほぼ100MHzデバイスに関して、周波数シフトは、図10に示されるようにSiOの各μmに対して僅か600kHzである。
【0057】
図10で分かることができるように、周波数シフトは、1.5μmZnO/36LiTaOデバイスに関してほぼ3MHzであるが、しかし3μmSiOデバイスに関しては、ほぼ1.2MHzである。1.5μmSiOデバイスに関しては、周波数シフトは、ほぼ900kHzである。測定値によると、ZnO/36LiTaOデバイスは、層の厚さ及び追加される質量のタイプに応じて、質量感度がSiO/36LiTaOデバイスより2.5倍から6倍大きい。
【0058】
層状SAWデバイスの製作用の2つの典型的な基板としてのZnO/64°LiNbOとZnO/36°LiTaOとの間の質量感度比較が、提示された。
図11で分かることができるように、64°LiNbOについて最適質量感度を得るための厚さは、36°LiTaOより小さい。この最適厚さで、64°LiNbOは、約2.5倍以上の質量感度である。
【0059】
36°LiTaOを超える64°LiNbOの利点は、次のとおりである。
1.ZnO層がより小さい。
2.質量感度がより大きい。
【0060】
3.それは、圧電定数係数がより大きくそして構造をより小さくするので、より小さいウエーハ面積上に製作することができる。
しかしながら、周波数の温度係数は、LiNbOの方が大きい。両方の面上のZnO層は、温度変化の影響を排除するため正確な厚さを持たなければならない。
【0061】
層の厚さの導電率の変化に対する影響が、図12に示されている。基板は、36LiTaOであり、層は、ZnOである。WOは、Hガスに対する選択層として用いられた。空気の中の0.5%と1%のHガスが、測定で用いられた。
【0062】
図12は、Hに暴露されたときの周波数シフトの大きさ対ZnO厚さを示す。デバイスの構造は、ZnO/36LiTaOである。動作周波数は、ほぼ200MHzである。図12は、層の厚さがデバイスの導電率及び電荷応答に対して著しい影響を与えることを示す。この例がガス検知にも拘わらず、その結果はまた、バイオセンシング(bio−sensing)応用で起こり得る表面導電率の変化に対して適用可能である。バイオセンシング状況における応答は、質量及び導電率寄与の幾らかの未知の組み合わせであろう。
【0063】
当業者は、本発明の核心的教示から逸脱することなしに、記載された発明に対して変化及び変更を行い得ることを認めるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明が適用可能であるSAWセンサの断面図である。
【図2】図2は、本発明の好適なセンサ及びアナライザの概略図である。
【図3】図3は、本発明の周波数シフト性能を示す。
【図4】図4は、本発明のSAWデバイスのランダム雑音を示す。
【図5A】図5Aは、本発明により達成された帯域幅低減を示す。
【図5B】図5Bは、本発明により達成された帯域幅低減を示す。
【図6】図6は、本発明のセンサの水素ガスに対する応答を示す。
【図7】図7は、本発明のセンサの一酸化炭素ガスに対する応答を示す。
【図8】図8は、本発明のセンサの二酸化窒素ガスに対する応答を示す。
【図9】図9は、液体中の生化学物に対する本発明のセンサの応答を示す。
【図10】図10は、ZnO SiO層の周波数シフトに対する影響を示す。
【図11】図11は、36LiTaO及び64LiNbOに基づく層状SAWデバイスであってZnO案内層を有する層状SAWデバイスの質量感度を示す。
【図12】図12は、層の厚さによる導電率への影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)その表面上に交叉指状電極を有する圧電結晶と前記交叉指状電極の上の第2の圧電層とから成る第1の層状SAWデバイスと、
b)その表面上に交叉指状電極を有する圧電結晶と前記交叉指状電極の上の第2の圧電層と前記第2の圧電層の上の検体感応表面とから成る第2の層状SAWデバイスと、を備え、
c)両方の前記SAWデバイスが、同じ基板上に製作されており、
d)前記SAWデバイスの帯域幅を低減するため各SAWデバイスの前記交叉指状電極に隣接して配置された反射器を更に備え、
e)各SAWセンサの共振器回路が、従属性の増幅器を組み込んでいる、生物学的センサ。
【請求項2】
前記第2の層状デバイスが、その表面上に交叉指状電極を有する薄膜層と、前記交叉指状電極の上の第2の圧電層と、前記第2の圧電層上の検体感応表面とから成る請求項1記載の生物学的センサ。
【請求項3】
前記圧電結晶が、ニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムであり、前記第2の圧電層が、酸化亜鉛である請求項1記載の生物学的センサ。
【請求項4】
前記検体感応表面が金である請求項2又は3記載の生物学的センサ。
【請求項5】
2つの前記SAWデバイスの空洞長さが、当該2つのSAWデバイスの中心間距離の90%より短くない請求項2又は3記載の生物学的センサ。
【請求項6】
開口サイズが、ほぼ200波長である請求項2又は3記載の生物学的センサ。
【請求項7】
溝を形成された回折格子が用いられている請求項2又は3記載の生物学的センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−524853(P2007−524853A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500004(P2007−500004)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000244
【国際公開番号】WO2005/083882
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(506290453)エム・エヌ・ティー・イノベイションズ・プロプライエタリー・リミテッド・ (2)
【Fターム(参考)】