説明

工具懸架台

【課題】互換性のある工具に対応する工具懸架台であって、従来の装置にあるような制約のないものを提案する。
【解決手段】
工具200を収納する為の工具懸架台20であり、各工具200は、その座標計測器の可動アームに取り外し可能なように連結可能で、工具200を収納する為の工具懸架部位があって、該懸架部位には、工具200を、第一の方向に沿ってその懸架部位の中に挿入することができ、その第一の方向に沿ってその懸架部位の中から取り除くことができるような複数のガイド60と、その工具200が第二の方向に向かう動きをするのを制限する複数の保持表面とがあり、そのような複数のガイド60と複数の保持表面とが、その工具200に傾きを生じさせるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、接触プローブ、ビデオカメラもしくはその他の機械的あるいは光学的計測工具で、できれば電気信号を送るのが望ましい、座標計測器に連結可能な工具のシステム、並びに、その座標計測器を用いての計測作業中に自動的に工具を交換できるような工具懸架台及びそれに対応する工具、に関するものである。
本発明は、度量衡や寸法の計測の分野に限定されるものではなく、互換性のある工具を備えたロボットや、自動的に相互に交換可能な工具を備えたその他のいかなるシステムにも応用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
自動的に相互に交換可能な工具を備えた座標計測器は、既に数例が知られている。
そのような数例というのは、自動的にロックしたり、ロックを外したりすることが可能で、その計測器の計測ヘッドと、その為に選んだ工具との間の機械的な連結を、非常に精度が高く安定したものとして確立することのできる連結装置が、その計測器の可動ヘッドである計測ヘッドと工具類とに、互いに備わっている計測システムであるのが一般的である。
【0003】
従来のシステムには、計測器の作業空間内に工具懸架台が設置されており、該工具懸架台では、計測作業終了時に計測器が工具を置いて、次の作業に必要な工具を取り出すことができる。
このようにして計測器は一連の複雑な測定を、プログラムされた一連の動作により、あるいは、作業員の手動による指示で、行なうことができる。
【0004】
計測ヘッドと様々な工具類との間の連結の精度を高めることが、測定を精確に行なう為に、最重要事項であることは明らかである。
また、きわめて重要なのが、この連結を再現性の高いものにすることにより、工具を交換する度に較正する手間が掛からないようにすることである。
この為に、多くの場合、計測ヘッドと工具との間を、正確に六つの接点で平衡を保ってつなぐということが行なわれている。
それにより、計測ヘッドに対する工具の位置決めを、正確に決定するようにしている。
欧州特許出願公開第1577050号明細書に記載されているつなぎ方は、計測ヘッド上の、各軸の間隔が120°である三本のピンと、工具の上で対応する位置に置いた三対のボールとを用いるものである。
それにより、平衡を保ったつなぎ方、即ち、工具が本来の位置に、正確に六つの直線上で互いに独立した機械的拘束により、保持されているつなぎ方を実現している。
そのようなシステムでは、その工具の位置と、拘束とが正確に決定される。
【0005】
このタイプのつなぎ方では、その精度が、接触表面の質に左右されることになる。
それゆえ、そのような表面に変更を加えたり、変質させたりしかねない衝撃をなくすか、大きくならないようにすることが、付けたり外したりする作業の最中に重要となる。
【0006】
米国特許第4651405号明細書に記載された計測工具は、その計測ヘッドのカムとかみ合う工具上の付属物を用いて、機械的結合を介して、座標計測器のアームにつながるように構想されている。
その工具は、そのカムを、その為に備えられたもう一つの工具により90°回すと、その座標計測器上でロックされることになる。
この作業を自動的に行なう場合は、その工具懸架台の中に、一つまたは複数の作動部を備え、それにより、そのカムを作動し、ロックした状態からロックを外した状態へ及びその逆へと、必要に応じて、切り換えるようにしなければならない。
【0007】
このような装置には、その工具懸架台の各位置につき、一つの作動部があり、それにより、そのカムを作動して、その工具をロックしたり、ロックを外したりするようになっている。
このような作動部並びにそれに関連する制御装置により、その工具懸架台はより複雑で高価なものになり、上記のカム・システムが必要になる。
【0008】
欧州特許出願公開第416524号明細書に記載されているプローブと工具懸架台は、永久磁石と電磁石があり、そのヘッドとその接触プローブとの間で磁力により結合を生じさせるものである。
その工具を交換する際には、その計測ヘッドにある電磁石により磁力を無力化することができ、それにより、その計測ヘッドとその工具とを分離することができる。
米国特許第5028901号明細書に記載されている同様なシステムでは、その電磁石は外付けのもので、その計測ヘッドからは分離されている。
【0009】
このような従来のシステムの限界は、余分な部材が必要になることで、それにより、その計測ヘッドのコストも、複雑さも、寸法も増大してしまうことである。
【0010】
欧州特許出願公開第426492号明細書に記載されている互換可能な接触プローブは、そのプローブ本体に磁石で結合されている。
このプローブには、自動的に工具を取り替えるシステムとの連携をとるように構想された部材がない。
【0011】
米国特許第4604787号明細書に記載されている工業ロボット・アームには、互換性のある工具が付いていて、一つの工具を一つの工具懸架台の一つの懸架部位に置いて、その同じ工具懸架台から新しい工具を掴むことができるようになっている。
その工具懸架台には、工具用の懸架部位があり、そこで、そのような工具を、工具のそれぞれの軸に対して横手方向に沿ってスライドさせ、そして軸方向に保持することができる。
そのアームと、その工具との間の機械的結合は、所定の閾値を越える軸方向の分離力が働くと、その効果で自動的に開くことになる。
【0012】
欧州特許出願公開第566719号明細書(国際公開第93/09398号パンフレットに置換)に記載されている工具システムと工具懸架台では、工具に永久磁石が付いていて、対応する計測ヘッドの上に磁力により保持されている。
その工具懸架台にある工具とその計測ヘッドとを引き離すのは、米国特許第4604787号明細書に記載されたものと似た方法で、磁石の引きつける力を上回る軸方向のもぎ取る力を働かせつつ、行なわれることになる。
【0013】
このようなシステムでは、その工具をもぎ取る為に、軸方向の力が相当に必要であり、それが原因で、高い精度を実現する上での色々な問題が生じる。
それゆえ、その計測システムの精度を保つ為に重要なのは、その工具懸架台、その工具そしてその計測器のアームが、無駄な調節が必要になったり、測定の精度が下がったりする原因となる余りにも高度の機械的応力を受けることがないようにすることである。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1577050号明細書
【特許文献2】米国特許第4651405号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0416524号明細書
【特許文献4】米国特許第5028901号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0426962号明細書
【特許文献6】米国特許第4604787号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第566719号明細書
【特許文献8】米国特許第4604787号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の一つの目標は、互換性のある工具と、それに対応する工具懸架台とであって、従来の装置にあるような制約のないものを提案することである。
【0015】
本発明は、また、工具交換作業の精度と再現性を向上させることも目指す。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの目標は、独立請求項の対象であるこのような装置によって達成され、随意に選択できる特徴は、引用形式の請求項と明細書で取り扱う。
すなわち、本発明の課題を解決するための手段は、次のとおりである。
第1に、
座標計測器の一つまたは複数の工具を収納する為の工具懸架台であり、各工具は、その座標計測器の可動アームに取り外し可能なように連結可能で、工具一つを収納する為の工具懸架部位が少なくとも一つあって、その少なくとも一つの懸架部位には、
そのような工具を、第一の方向に沿ってその懸架部位の中に挿入することができ、その第一の方向に沿ってその懸架部位の中から取り除くことができるような複数のガイドと、
その工具が第二の方向に向かう動きをするのを制限する複数の保持表面とがあり、
そのような複数のガイドと複数の保持表面とが、その工具に傾きを生じさせるように配置されている、工具懸架台。
第2に、
少なくとも一つの懸架部位に、基本的に直線で、前記第一の方向に平行であり、自由空間で隔てられた二つのガイドがあり、それにより、工具を、ガイド相互間の自由空間に挿入することができるようになっていて、そのガイドにはまた、その第二の方向に基本的に直角な平面に広がる保持表面もあって、その工具がその第二の方向に動くのを制限するようになっていて、その少なくとも一つの懸架部位には更に、ガイド相互間に、一つの歯があって、前記保持表面と前記ガイドとは別の平面の中で、その工具がその第二の方向に動くのを制限するようになっていて、それにより、その工具に前記第二の方向に沿った力が加わると、その工具に傾きを生じさせるようになっている、上記第1に記載の工具懸架台。
第3に、
工具が前記第一の方向に動く際には、その工具と前記ガイドとの間に摩擦を生じさせる保持手段があり、それにより、その工具の動きを妨げはするが完全には止めてしまわず、その工具をそれが置かれていた位置と方向づけとに保つようにしている、上記第1に記載の工具懸架台。
第4に、
前記保持手段に、板バネまたは磁力部材がある、上記第1に記載の工具懸架台。
第5に、
座標計測器の可動アームに取り外し可能なように連結することが可能な工具と組合せる上記第1に記載の工具懸架台であり、
その工具には、前記少なくとも一つの懸架部位の複数のガイド及び保持表面と協働可能な複数の噛み合わせ部分である嵌込部分があることを特徴とする、工具懸架台。
第6に、
前記工具の複数の噛み合わせ部分は、一本の対称軸について、対称的であり、その工具を前記工具懸架台の懸架部位の中に挿入すると、その対称軸は、前記第二の方向と平行になる、上記第5に記載の工具懸架台。
第7に、
前記工具と前記計測器の可動アームとの間の連結は、磁力によるものである、上記第5に記載の工具懸架台。
第8に、
前記工具と前記計測器の可動アームとの間の連結は、前記計測器の可動アームに固定された工具と協働可能なアダプターを用いて行なわれる、上記第5に記載の工具懸架台。
第9に、
前記工具と前記可動アームとの、もしくは前記アダプターとの間の連結力は、その工具の傾きにより、減じられる、上記第5に記載の工具懸架台。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施例について述べる説明を図で示すのが添付図面であり、その内訳を以下に述べる。
図1は、本発明の一つの実施例に従った、幾つかの工具用の懸架部位を備えた工具懸架台の斜視図である。
図2は、図1の工具懸架台で、工具懸架部位の一つに工具を一つ置いたところの側面図である。
この場合、懸架した工具は、座標計測器用のプローブである。
図3は、本発明の一つの実施例に従った、本発明の工具懸架台を、折り曲げた状態を示す側面図である。
図4は、本発明の工具懸架台の二つの工具懸架部位細部を、上方から見た斜視図である。
図5は、図4に示す工具懸架部位細部を、下方から見た斜視図である。
図6は、工具を計測ヘッドから外した後、外した工具が工具懸架台の、どの位置にあるかを示す側面図である。
図7は、本発明の一つの実施例に従った、ある装置の中で、工具を取り外す際の磁力を示すグラフである。
【0018】
図1は座標計測器(CMM)の互換性のある工具200を収容できるように特に構想された工具懸架台20を示すものであり、以下の説明は特にこの応用例について述べるものとする。
しかしながら、本発明は、この応用例のみに限定されるものではなく、自動工作機械、工業ロボットまたはその他の互換性のある工具付き機械のための工具懸架台にも応用可能であることを理解されたい。
【0019】
工具懸架台20には、基盤85がある。
該基盤85は、座標計測器の作業空間内で、該座標計測器に工具懸架台20を固定する為のものである。
典型的には、その基盤85は、その座標計測器の基準平面(図示せず)に、しっかりと固定されることになる。
そして、その基準平面には、計測部品も設置される。
しかし、他にも色々な配置にすることが可能である。
計測器の座標系における工具懸架台20の位置は、計測を行う前、および工具を交換する前に決定され、この位置決定は、業界では周知の較正作業の間に記録した、一連の予め定義した基準点の座標によって行われる。
【0020】
以下の説明で「垂直方向」というのは、水平な基準平面であることが一般的な、計測器の基準平面と直角な方向という意味で言うことにする。
従来の方向づけについて、このようなことを申し述べるのは、ひたすら読みやすい説明にしたいというだけのことであり、それで本発明に制約を加えるものではなく、本発明は、空間内の任意の方向に沿って向けた工具懸架台にも応用可能なものである。
「上向き」と「下向き」、「高い方」と「低い方」というような用語もまた、このような一般的な方向づけについての説明の為のものであり、制約を加える用語と解してはならない。
【0021】
工具懸架台20には、できれば、複数の工具200を待機させておく為の複数の懸架部位があることが望ましい。
このようにすれば、一つの工具を、その工具懸架台20の一つの空いている懸架部位に設置した上で、一つの懸架部位にあるもう一つの工具を、必要となる度に、引き出すことができるように座標計測器を配置し、様々な工具を用いて複雑な計測を行なうことが可能となる。
有利には、図2及び図6を参照すると、そのような懸架部位は、アーム83で基盤85よりも高いところに位置する、上部本体650で支えるようにする。
このようにすることで、基準表面と接触するおそれなしに、高さが様々に異なる工具を収容できるようになる。
【0022】
図3を参照すると、アーム83は、軸81と軸82によって、関節式に連結されていて、衝突の際には、後ろ向きに折れ曲がるようになっているのが望ましい。
このようにすれば、例えば計測器の操作を誤り、計測ヘッドと工具懸架台との間、ひいては計測工具と工具懸架台との間に衝撃が生じるようなことがあった場合でさえも、損傷するおそれを減じることができる。
正常な状態では、工具懸架台20は図2のような直立した状態に保たれており、そのような状態に保つのは、周知のタイプの精度の高い伸縮装置によるのであるが、その伸縮装置は、図示されてはいない。
緩衝器は、これもまた図示されていないが、衝撃が発生した場合に、工具懸架台が後ろ向きに折れ曲がるのを吸収するものである。
【0023】
各懸架部位には、図4に詳細に示されているような保護カバー50が付いている。
該保護カバー50は、開いた状態では、対応する懸架部位を使用でき、閉じた状態では、懸架部位と、内部にある工具一切とを保護するように構成されている。
保護カバー50の開閉は、水平方向に沿ってスライド式で行なえるようになっていることが望ましい。
保護カバー50は、また、一つの実施例としては、開いた状態でロックできるようにしてもよい。
【0024】
各懸架部位にはまた、ガイド60がある。
該ガイド60により、工具200を水平方向に沿って懸架部位に挿入することができ、そして、同じ方向に沿って懸架部位から取り外すことができるようになっている。
図1に示され、そして、更に詳細に図6に示された本発明の実施例においては、工具懸架台20の上部本体650は、アーム83の上に位置しており、そしてその上を保護カバー50がスライドする。
ガイド60を構成するのは、図5に示すように、上部本体650にねじ止めされた、または固定された金属板630の中を切り抜いた二つの直線的で平行な縁である。
【0025】
工具200には、ガイド60とともに作用する、嵌込部分210がある。
図1に示された例において、嵌込部分210は、工具200の円形の本体の周りで対称をなす、断面が正方形または長方形の環状溝である。
しかしながら、その他の配置もまた可能である。
【0026】
工具と計測器との間を連結するのは、計測器の可動ヘッドである計測ヘッド(図示せず)に固定されるアダプター300を介して行なわれる。
図1に示された実施例においては、そのアダプター300を可動ヘッドである計測ヘッド(図示せず)に固定するには、ネジを切ったロッド330を用いている。
しかしながら、他の固定手段も使用可能であり、本発明に包含されるものである。
工具200とアダプター300とを連結するのは、例えば永久磁石のような磁力部材260と、計測ヘッドの上で軸にそれぞれ120°の間隔をもたせた三本のピン及びその工具200の対応する位置に置いた三対のボールのような、精度の高い接触部材の装置とにより、精確で再現性のあるつなぎかたをして、それにより、その工具の位置決めをその計測ヘッドとの関係において正確に行なえるような平衡を保ったつなぎかたができるようにするのが望ましい。
【0027】
ネジ止め可能なアダプターを図示した事例では、環状のまたは少なくとも軸方向に対称的な嵌込部分210が特に適している。
保持力と表面相互間の摩擦とに左右されるので、そのアダプターの、計測ヘッドでの所定の角位置を確保することはまことに難しい。
環状溝である嵌込部分210には、特に望ましい方向づけがあるわけではなく、垂直軸に対するその工具200の相対的な角度や位置決めとは無関係に、独自の機能を果たすことができるというのは、以下に後述する。
【0028】
工具200を工具懸架台20に設置するとき、計測器は、アダプター300及び工具200と共に、その工具懸架台20の懸架部位の向かい側に計測ヘッドを動かし、溝状の嵌込部分210はガイド60と一線に揃う。
計測ヘッドは、それからガイド60と平行な方向に沿って水平に、ガイド60が溝状の嵌込部分210に嵌まるまで、移動する。
溝状の嵌込部分210の内径は、ガイド60の相互間の距離に対応したものではあるが、十分な遊びをもたせており、その遊びは例えば、コンマ数ミリメートルはあって、側面からの応力を受けることなく容易に挿入できるようになっている。
【0029】
保護カバー50がある場合には、それはバネもしくはその他の適切な伸縮部材により閉じた状態にしてあるのが正常である。
上記の水平移動の最中に、アダプター300は保護カバー50と接触して、そのカバーをスライドさせ、その工具懸架台の懸架部位に達するようにする。
【0030】
図4を参照すると、各懸架部位には、ガイド60相互間に歯100がある。
ガイド60相互間に工具200を挿入するのは、その歯100が溝状の嵌込部分210の中に、少なくとも部分的に噛み合わさった時点で終了する。
本発明の一つの実施例においては、その歯100の下表面120が、ガイド60の下表面110の水平面と揃わないこともある。
例えば、その歯100の下表面120が、そのガイド60の下表面110の面に対して0.10から0.50mmほど下向きにずれている場合である。
【0031】
工具200をアダプター300から取り外すのは、次のように行なう。
まず、計測器を作動して、その計測ヘッドが上向きの垂直運動を起こすようにする。
この運動の最中に、その歯100の下表面120(図5を参照)は、溝状の嵌込部分210の下の内表面と接触する。
この時点から、その工具はもはや、アダプターの垂直運動に追随することはできなくなるが、それは、その歯100の保持表面である下表面120が歯止めになって工具が引き留められているからである。
その時、以下の様な二つの効果が生じる。
第1に、磁力によってつなぎ止める力と歯100が加える力とが揃わないので、アダプター300と工具200との間に分離が生じる。
この工具が角度α(図6を参照)だけ傾き、その結果、その工具の溝状の嵌込部分210がガイド60の下表面110と接触するようになる。
梃子の原理により、その歯100が加える力は、磁石の引きつける力を総合したものよりも、相当に小さいものである。
第2に、その傾きにより、工具200に付いた磁力部材260とアダプター300との間の空隙が増大する。
磁力は、その空隙に大きく左右されるものであり、その傾きにより引きつける力が相当に減少して、その工具は外れやすくなる。
【0032】
その傾きは、ガイド60の下部保持表面である下表面110(図5を参照)が、溝状の嵌込部分210の下表面と接触することにより制約を受ける。
この時点から、その工具懸架台20が工具200に働きかける垂直の力は、ガイド60の二つの下部保持表面である110と歯100の下部保持表面である下表面120との間で分割される。
この力が、そのような傾きに伴って減少した磁力を上回ると、工具200はアダプター300から完全に分離する。
【0033】
本発明の配置により、分離中にガイド60に加わる機械的応力を相当に減少させることが可能になる。
この減少は、その工具の傾きと、その磁力による残存保持力がガイド60の二つの下部保持表面である下表面110と歯100の下部保持表面である下表面120との間で分割されるという事実とから、もたらされる。
三つの接点あるいは接触領域に加わる力をこのように分割することが、連結の際の精度を高める上でプラスの効果をもつ。
【0034】
例えば、歯100の下部保持表面である下表面120とガイド60の下部保持表面である下表面110との間の間隔が0.25mmあれば、それで約2°の傾き角度をもたらすには十分なのであって、その角度が非常に効率がいい。
【0035】
図7は、工具を外す際の磁力の垂直成分を示している。
曲線402は、取り外しに応じて工具を傾けるように配置された保持表面を含む工具懸架台に関するものである。
一方、曲線410は、工具を傾けない従来の事例に関するものである。
最初の接点405では、傾ける事例で、上記の梃子の原理により、引き離す力が目に見えて低下していることが読み取れる。
点410は、工具の最大傾斜、即ち、工具が工具懸架台の保持表面及びガイドと三点で接触し、それ以上はもう傾けることができない時点に対応している。
この点から先はもう、梃子の原理による減少はなくなるが、磁力は、傾けない事例による曲線401における最大磁力よりも目に見えて低下している。
【0036】
平バネ150(図1及び4を参照)が溝状の嵌込部分210の表面に当接し、それにより、ある程度の摩擦を生じさせて、例えば、振動によって、懸架部位で工具が余計な動きをしないようにしている。
一方で、工具200を完全にロックしてしまったり、あるいは、その工具を交換する際に、計測ヘッドに多大な応力を生じさせたりすることはない。
このようにして、その工具をまた取り出す時に、計測ヘッドで、その工具を正確に同じ位置で、そして取り外された時点で向けられたままの同じ方向づけで、また見つけ出すことができることになる。
一つの実施例としては、平バネ150の代わりに、その工具懸架台20の中に一つまたは複数の永久磁石または磁力部材を設置してもよい。
【0037】
工具をもう一つ載せる為に、その計測器を作動して、選んだ懸架部位にある工具の既に分かっている位置の真上に狙いを定めるようにする。
その時、保護カバー50が掛かっている場合には、それを移動させる。
それから、その工具200がアダプター300と連結するまで、そして、その溝状の嵌込部分210が、歯100の下部保持表面である下表面120及びガイド60の下部保持表面である下表面110と接触しなくなるようになるまで、計測ヘッドは、垂直に下に向かって降りていく。
最後に、その計測ヘッドは、その工具200がその工具懸架台20から完全に外れるまで、ガイド60によって定められた方向を水平移動していく。
【0038】
工具200の連結を精確でしかも再現可能なように行なう上で決定的に重要なのは、その工具を工具懸架台20のどの位置におくかということである。
とりわけ重要なのは、その工具が、その懸架部位における位置も、その方向づけも、計測器がその工具をその懸架部位に置いていった時と同じ状態にあることで、更にこれを機械的拘束は最小限にして行なうことである。
このようにして、連結を精確に行なうことができる。
平バネ150は、工具の動きを、連結作業用の僅かなものにすることができ、それによって、平衡手段の位置決めを精確に行なえるようなものであることが望ましい。
工具200や工具懸架台20の座標計測器での位置決めに不手際があると、つなぎ直す際に衝撃が生じて、較正や計測を行なう上での精度を損ない、接触表面に取り返しのつかない変化を生じさせてしまうことになりかねない。
【0039】
力強く移動している最中でも、アダプター300での工具200の安定性を確保する為に、このような二つの部材の間での磁石の引きつける力は、10N以上の、十分に大きい量であるのが一般的であり、それにより機械の作動時における工具の紛失を防止することができる。
取り外しの際に余計なずれや振動を生じさせることなく、一息に、アダプター300から工具200をもぎ取ることは難しい。
本発明の装置を用いれば、このような取り外しを緩やかに、かつ、そのような欠点を生じさせることなく行なえる。
それは、三つの保持表面に機械的応力を分散させ、工具を傾けることにより磁石の引きつける力を減少させ、そして、工具に取り外しやすいような方向づけを与えるからである。
そうすれば、工具を特に好ましい状態に傾斜させたりしない場合に見られるような乱雑な取り外しをしなくてすむ。
【0040】
有利には、本発明の装置を用いて、工具200とアダプター300との間の接触部材を、互いに接触させたり引き離したりするのは、引っかけるときも外すときも、常に同じ順序で行なうことを徹底する。
これにより、連結の際の精度と再現性を相当に改善することができる。
【0041】
本発明の工具懸架台20には、更に利点があって、それは、そのような工具を取り外したり、取り付けたりすることを、受動的な部材と、計測器の動きのみで行なえることであり、その工具をロックしたり、そのロックを外したりする為に余分な作動装置を用いる必要がないことである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の工具懸架台の斜視図
【図2】図1の工具懸架台に工具を一つ置いたところの側面図
【図3】本発明の工具懸架台を折り曲げた状態を示す側面図である。
【図4】本発明の工具懸架台の二つの工具懸架部位細部を上方から見た斜視図
【図5】図4に示す工具懸架部位細部を下方から見た斜視図
【図6】工具を計測ヘッドから外した後の側面図
【図7】図7は、本発明の実施例による工具を取り外す際の磁力を示すグラフ
【符号の説明】
【0043】
20 工具懸架台
50 保護カバー
60 ガイド
81 軸
82 軸
83 アーム
85 基盤
100 歯
110 下表面
120 下表面
150 平バネ
200 工具
210 嵌込部分
260 磁力部材
300 アダプター
330 ロッド
401 曲線
402 曲線
405 接点
410 点
630 金属板
650 上部本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座標計測器の一つまたは複数の工具を収納する為の工具懸架台であり、
各工具は、座標計測器の可動アームに取り外し可能なように連結可能なものであり、
工具一つを収納する為の工具懸架部位があって、
該工具懸架部位には、工具を、第一の方向に沿って工具懸架部位の中に挿入でき、第一の方向に沿って工具懸架部位の中から取り除くことができるようなガイドと、
工具が第二の方向に向かう動きをするのを制限する保持表面とがあり、
ガイドと保持表面とが、工具に傾きを生じさせるように配置されている、工具懸架台。
【請求項2】
工具懸架部位に、直線で、前記第一の方向に平行であり、自由空間で隔てられた、二つのガイドがあり、工具を、ガイド相互間の自由空間に挿入することができるようになっていて、
ガイドには、第二の方向に直角な平面に広がる保持表面もあって、工具が第二の方向に動くのを制限するようになっていて、
工具懸架部位には、ガイド相互間に、一つの歯があって、前記保持表面と前記ガイドとは別の平面で、工具が第二の方向に動くのを制限するようになっていて、工具に前記第二の方向に沿った力が加わると、工具に傾きを生じさせるようになっている、請求項1に記載の工具懸架台。
【請求項3】
工具が前記第一の方向に動く際には、工具と前記ガイドとの間に摩擦を生じさせる保持手段があり、工具の動きを妨げはするが完全には止めてしまわず、工具をそれが置かれていた位置と方向づけとに保つようにしている、請求項1に記載の工具懸架台。
【請求項4】
前記保持手段が、板バネまたは磁力部材がある、請求項1に記載の工具懸架台。
【請求項5】
座標計測器の可動アームに取り外し可能なように連結することが可能な工具と組合せる請求項1に記載の工具懸架台であり、
工具には、前記懸架部位のガイド及び保持表面と協働可能な噛み合わせ部分である嵌込部分があることを特徴とする、工具懸架台。
【請求項6】
前記工具の嵌込部分は、一本の対称軸について、対称的であり、
工具を前記工具懸架台の懸架部位の中に挿入すると、対称軸は、前記第二の方向と平行になることを特徴とする、請求項5に記載の工具懸架台。
【請求項7】
前記工具と前記計測器の可動アームとの間の連結は、磁力によるものである、請求項5に記載の工具懸架台。
【請求項8】
前記工具と前記計測器の可動アームとの間の連結は、前記計測器の可動アームに固定された工具と協働可能なアダプターを用いて行なわれる、請求項5に記載の工具懸架台。
【請求項9】
前記工具と前記可動アームとの、もしくは前記アダプターとの間の連結力は、その工具の傾きにより、減じられる、請求項5に記載の工具懸架台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−145433(P2008−145433A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305551(P2007−305551)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(507391292)ヘキサゴン メトロロジー エービー (7)
【氏名又は名称原語表記】HEXAGON METROLOGY AB
【Fターム(参考)】