説明

差動遅延回路及びDLL回路

【課題】電流制御手段の電流制御用トランジスタに供給されるゲート電圧がトランジスタの閾値Vthに近づいても、出力されるクロック波形に振幅減衰が生じることのない差動遅延回路及びDLL回路を提供すること。
【解決手段】 互いに逆相の差動のクロック信号が入力される一対の差動トランジスタMP2,MP3と、前記差動トランジスタに接続されて、差動のクロック信号が出力される一対の出力ラインと、前記差動トランジスタに接続されて、制御電圧によって前記差動トランジスタに流れる電流の量を制御することによって、前記出力ラインに出力される差動のクロック信号の遅延量を制御することが可能な電流制御手段MP1,MN3〜MN5と、前記差動トランジスタに接続されて、前記差動トランジスタに流れる電流に所定の定電流を供給する電流供給手段MP4と、を具備したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DLL回路の単位遅延回路として用いられる差動遅延回路において生ずるクロック信号の振幅減衰に対して対策を行った差動遅延回路及びDLL回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速データ伝送の要求を満たすため、LVDS回路と呼ばれる小振幅差動信号伝送が注目されている。
【0003】
LVDSは、例えば、パソコンのグラフィックスコントローラから液晶パネルの間を結ぶケーブルに関する規格である。小振幅で差動なので、EMI(電磁気障害、ElectroMagnetic Interferenceの略)ノイズが出にくいとか、外来ノイズに強いという特徴がある。
【0004】
LVDS回路は、パソコン本体側のドライバ(トランシーバとも言われる)と液晶パネル側のレシーバとの間に、例えば4チャンネル分のデータラインと、液晶パネルの1ドットクロック当たりの周期(1ドットクロックの周期は前記データラインを伝送されるデータビットの例えば7個分の時間即ち7周期分に相当する)を有するクロックCKを伝送するクロックラインとが、並行して設けられている。1チャンネル分のデータラインは、互いに逆位相のデータ信号をそれぞれ伝送する2本のラインを1対(ペア)として構成されている。この互いに逆相のデータを伝送する1対の伝送ラインは平衡伝送路と呼ばれる。つまり、LVDS回路では2本の伝送ラインにより1つの信号の伝送を行うようになっている。
【0005】
LVDS回路の受信側であるレシーバには、上記の4チャンネル分のデータラインを通して伝送されてくる4チャンネル分のシリアルデータをそれぞれ受信し、各シリアルデータをパラレルデータに変換する4つのサンプリング回路と、1チャンネル分のクロックラインを通して伝送されてくるクロックCKを入力し、このクロックCKに基づいて前記の4つのサンプリング回路それぞれに入力する各シリアルデータを1クロック(CK)単位(=7データクロック)でパラレルデータに変換するためのデータサンプリング用のサンプリングパルスSP1〜SP7を生成するためのデータクロック生成回路とが設けられている。
【0006】
データクロック生成回路としては、DLL(遅延位相同期ループ、Delay Locked Loop の略)回路が用いられている。サンプリング回路としては、シリアルな入力データを構成する1クロック単位内に有る7つの単位データをサンプリングしてパラレルに取り出すことが可能なシリアル・パラレル変換回路が用いられる。
【0007】
DLL回路は、位相比較回路と、チャージポンプ回路と、ローパスフィルタ(以下、LPF)と、バイアス発生回路と、複数の単位遅延回路からなる遅延回路と、サンプリングパルス生成回路と、を有して構成されている。ここで、複数の単位遅延回路は直列に接続され、前段の少なくとも1つの単位遅延回路は例えばダミーとされ、前段のダミーの少なくとも1つの単位遅延回路にはクロックCKが入力され、ダミーを除く初段の単位遅延回路の入力信号は位相比較回路の一方の入力端に入力し、最終段の単位遅延回路の出力信号は位相比較回路のもう一方の入力端にフィードバックされ、ダミーを除く前記初段から最終段までの複数の単位遅延回路からは多相のクロックが出力される。
【0008】
各単位遅延回路は、制御電圧によって遅延量が変化し、各単位遅延回路から出力される多相クロックCKは、最終段の単位遅延回路の出力信号と初段の単位遅延回路の出力信号との位相が一致するように遅延量が制御される。この結果、位相が1/7周期ずつずれた7相分の多相クロックを生成することができる。そして、サンプリングパルス生成回路によって、この7相分の多相クロックに基づいてノンオーバーラップ(互いに時間的にオーバーラップしない)のサンプリングパルスを生成し、これをデータサンプリング用としてシリアル・パラレル変換回路に供給する。
【0009】
各単位遅延回路は、互いに逆相の差動のクロック信号が入力される一対の差動トランジスタと、前記差動トランジスタに接続されて、差動のクロック信号が出力される一対の出力ラインと、前記差動トランジスタに接続されて、制御電圧としてのバイアス電圧(ゲート電圧)によって前記差動トランジスタに流れる電流の量を制御することが可能な電流制御用トランジスタによって構成され、前記出力ラインに出力される差動のクロック信号の遅延量を制御する電流制御手段と、を備えて構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
従って、単位遅延回路では、入力ラインからクロック波形を入力したとき、電流制御用トランジスタのゲート電圧を変えることで、任意の遅延量を持ったクロック出力波形を出力ラインから取り出すことができる。
【特許文献1】特開2001−209901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、従来の遅延回路を構成する単位遅延回路では、電流制御手段の電流制御用トランジスタに供給されるゲート電圧がトランジスタの閾値Vth(=導通開始電圧)に近づくと、差動トランジスタに流れる電流が減少していくので、出力ラインから出力されるクロック波形に振幅減衰が生じるという問題がある。その結果、複数段の単位遅延回路を縦続接続して構成されるDLL回路では、後段の単位遅延回路にいくほどクロック出力波形の振幅レベルが小さくなりその結果最終段の単位遅延回路から出力が得られなくなる。
【0012】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、電流制御手段の電流制御用トランジスタに供給されるゲート電圧がトランジスタの閾値Vthに近づいても、出力されるクロック波形に振幅減衰が生じることのない差動遅延回路及びこれを用いて構成されるDLL回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による差動遅延回路は、互いに逆相の差動のクロック信号が入力される一対の差動トランジスタと、前記差動トランジスタに接続されて、差動のクロック信号が出力される一対の出力ラインと、前記差動トランジスタに接続されて、制御電圧によって前記差動トランジスタに流れる電流の量を制御することによって、前記出力ラインに出力される差動のクロック信号の遅延量を制御することが可能な電流制御手段と、前記差動トランジスタに接続されて、前記差動トランジスタに流れる電流に所定の定電流を供給する電流供給手段と、を具備したものである。
【0014】
このような構成によれば、電流制御手段の電流制御用トランジスタに供給されるゲート電圧がトランジスタの閾値Vthに近づいても、差動トランジスタに流れる電流の量を該トランジスタをオン状態に維持するだけの量に保つことができ、出力されるクロック波形に振幅減衰が生じるのを防ぐことが可能となる。
【0015】
本発明の上記差動遅延回路において、前記電流制御手段は、前記差動トランジスタを構成する一対のトランジスタの共通接続点と直流電圧源との間にドレイン,ソースが接続され、ゲートに負の制御電圧が供給される遅延量制御用の第1のPチャネルトランジスタと、前記差動トランジスタの一方のトランジスタの出力端と基準電位点との間、前記差動トランジスタのもう一方のトランジスタの出力端と前記基準電位点との間にそれぞれ、ドレイン,ソースが接続され、共通ゲートに正の制御電圧が供給される遅延量制御用の第1,第2のNチャネルトランジスタと、を備えたことを特徴とする。
【0016】
このような構成によれば、遅延量制御用の第1のPチャネルトランジスタと、遅延量制御用の第1,第2のNチャネルトランジスタとを備えたことで、制御電圧の変化に対する出力Nout,Poutの立上り,立下りの傾きの変化幅、即ち遅延量の変化幅を大きく取ることができ、単位遅延回路の接続段数が減ったとしても、各単位遅延回路で必要な遅延量を確保することが可能である。
【0017】
本発明の上記差動遅延回路において、前記電流供給手段は、前記差動トランジスタの共通接続点と直流電圧源との間に、前記第1のPチャネルトランジスタと並列に接続された電流源で構成されることを特徴とする。
【0018】
このような構成によれば、前記遅延量制御用の第1のPチャネルトランジスタと並列に電流源が接続されているので、該第1のPチャネルトランジスタのゲート電圧が閾値Vthに近づいた場合でも、差動トランジスタに流れる電流が前記電流源によって該差動トランジスタをオン状態に維持する量に保たれ、出力クロック波形に振幅減衰が生じるのを防止することができる。
【0019】
本発明によるDLL回路は、上記差動遅延回路を単位遅延回路として多数段縦続接続して用いられ、入力されたクロックを多数段の単位遅延回路にて順次遅延させることによって、該遅延出力に基づいてロック制御用パルス及び遅延クロックを出力する遅延回路と、前記遅延回路からのロック制御用パルスに基づいて前記制御電圧を生成し、前記遅延回路にフィードバックして前記単位遅延回路の遅延量をフィードバック制御する位相同期手段と、前記多数段の単位遅延回路の初段の入出力クロック及び各段の出力クロックを用いて、サンプリングパルスを生成するサンプリングパルス生成手段と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
このような構成のDLL回路によれば、電流制御手段の電流制御用トランジスタに掛かるゲート電圧がトランジスタの閾値Vthに近づいても、出力クロック波形に振幅減衰が生じない差動遅延回路を用いているので、常に正常な振幅の遅延クロックに基づいたサンプリングパルスを生成可能なDLL回路を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電流制御手段の電流制御用トランジスタに供給されるゲート電圧がトランジスタの閾値Vthに近づいても、出力されるクロック波形に振幅減衰が生じることのない差動遅延回路及びそれを用いたDLL回路を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0023】
図1及び図2で本発明の実施例1の差動遅延回路を説明する前に、図3にて図1の差動遅延回路が用いられるDLL回路及びその出力が供給されるサンプリング回路の構成について説明する。
【0024】
図3は本発明に係るDLL回路及びそれに接続するサンプリング回路の回路図を示している。
【0025】
図3に示す回路は、クロックラインを通して伝送されてくるクロックCK(=7データクロック)を入力し、このクロックCKに基づいて7データクロック(=7サンプリングパルス)を生成するためのデータクロック生成回路として用いられるDLL回路10と、データラインを通して伝送されてくるデータから前記サンプリングパルスを用いて7個のデータを取り出すためのサンプリング回路20と、を備えている。
【0026】
DLL回路10は、具体的には、位相比較回路100と、チャージポンプ回路200と、LPF300と、バイアス発生回路400と、複数の単位遅延回路501〜516からなる遅延回路500と、サンプリングパルス生成回路600と、を備えている。
【0027】
遅延回路500は、制御電圧に基づいて各々の遅延量を制御する遅延量の制御手段をそれぞれ有する、n(nは2以上の整数)個の単位遅延回路501〜516から構成され、入力されるクロック信号(周期T:データクロック7周期分に相当する)を遅延し、n相分の多相クロックを生成する。
【0028】
LVDS回路のドライバ(図示せず)から差動伝送されてくる互いに逆位相(正,負一対)の差動信号は、LVDS回路のレシーバ内の差動回路(図示せず)で差信号として検出され(すなわち、逆位相にした信号の片方を反転し、2つの信号を加算して取り出され)、シングルエンドのフルスイング信号(フルスイング信号とは、ハイレベルH,ローレベルLがそれぞれ2.7V,0Vのように、H,Lレベルが取ることができる最大振幅の信号のことである)となり、DLL回路10へ入力クロック信号CKとして供給される。
【0029】
この入力クロック信号CKが2つのインバータを通して波形整形されて、差動信号のうちの正のクロック信号CK0として単位遅延回路501の一方の入力端に入力し、前記正のクロック信号CK0をインバータ520で反転した負のクロック信号が差動信号のもう一方の信号として単位遅延回路501の他方の入力端に入力する。遅延回路500は、複数の単位遅延回路501〜516が縦続接続された構成となっている。
【0030】
位相比較回路100と、チャージポンプ回路200と、LPF300と、バイアス発生回路400とは、遅延回路500における先頭2段のダミーの単位遅延回路501,502を除いた初段の単位遅延回路503から最終段の単位遅延回路516までの各段の単位遅延回路の出力クロックの位相がT/n周期ずつ遅延し、かつ初段の単位遅延回路の入力クロックと最終段の単位遅延回路の出力クロックの位相が一致するように両者の位相をロックさせる位相同期回路350を構成している。なお、先頭2段のダミー501,502は、上述したフルスイングの信号DL0を平均的なDLL単位遅延回路の振幅へ段階的に移行させるために挿入される回路である。このダミーの段数は1段以上あればよい。
【0031】
位相比較回路100は、図4に示すように、クロック信号DL4をCK端子に入力し、“L”レベルに相当す基準電位点GNDの電位をD端子に入力し、Q端子にアップ信号(以下、UP信号)を出力するDフリップフロップDFF1と、クロック信号DL32をCK端子に入力し、“H”レベルに相当する直流の電源電圧VDDをD端子に入力し、Q端子にダウン信号(以下、DWON信号)を出力するDフリップフロップDFF2と、UP信号とDWON信号との論理積をとり、DフリップフロップDFF1,DFF2のリセット信号(以下、RESET信号)として出力するアンド回路AND1と、を有して構成されている。
【0032】
クロック信号DL4及びクロック信号DL32は、ロック制御用パルスとして用いられる。クロック信号DL4はメイン遅延回路580の初段の単位遅延回路503の入力クロックであり、クロック信号DL32は最終段の単位遅延回路516の出力クロックである。
【0033】
チャージポンプ回路200とLPF300とバイアス発生回路400とは、図5に示すように構成されている。
【0034】
チャージポンプ回路200は、直流の電源電圧VDDと基準電位点GND(電位VSS)間に、PチャネルトランジスタQ11,Q12、NチャネルトランジスタQ13,Q14が直列に接続された構成となっており、PチャネルトランジスタQ11のソースには電源電圧VDDが供給され、そのゲートには前記位相比較回路100から出力されたUP信号をインバータINV11にて反転した信号が供給され、NチャネルトランジスタQ13のゲートには前記位相比較回路100から出力されたDWON信号が供給され,NチャネルトランジスタQ14のソースは基準電位点GNDに接続し、PチャネルトランジスタQ12とNチャネルトランジスタQ13の共通接続点と基準電位点GNDとの間には、LPFを構成するコンデンサC1が接続されている。
【0035】
位相比較回路100からUP信号が出力されている時には、PチャネルトランジスタQ11,Q12が共にオンするので、電源電圧VDDに基づいて充電電流IupがコンデンサC1に流入することによって電荷をチャージする。また、位相比較回路100からDWON信号が出力されている時には、NチャネルトランジスタQ13,Q14が共にオンするので、コンデンサC1から放電電流Idn基準電位点GNDに流入することによって電荷をデスチャージする。
【0036】
位相比較回路100に入力するクロック信号DL4,DL32の位相が一致している場合は、DフリップフロップDFF1,DFF2がリセットされるので、コンデンサC1への充放電は行われず、コンデンサ電圧NBは一定の電圧に保たれる。
【0037】
バイアス発生回路400は、LPFを構成するコンデンサC1の電圧NBに基づいて、前記単位遅延回路(図1参照)の遅延量制御用トランジスタQ1,Q2及びQ3,Q4のゲートに供給する2種類のバイアス電圧PB及びNBを生成するものであり、直流の電源電圧VDDと基準電位点GNDとの間に、PチャネルトランジスタQ21とNチャネルトランジスタQ22を直列に接続し、PチャネルトランジスタQ21のゲートとドレインを共通接続し、Q21のソースを電源電圧VDDに接続し、NチャネルトランジスタQ22のソースを基準電位点GNDに接続し、Q21とQ22のドレインを共通接続し、Q22のゲートにコンデンサC1の電圧を供給する直列回路構成と、直流の電源電圧VDDと基準電位点GNDとの間に、PチャネルトランジスタQ23とNチャネルトランジスタQ24を直列に接続し、PチャネルトランジスタQ23のゲートとQ21のドレインを共通接続し、Q23のソースを電源電圧VDDに接続し、NチャネルトランジスタQ24のゲートとドレインを共通接続し、Q24のソースを基準電位点GNDに接続し、Q21のドレインとQ23のゲートとの共通接続点から遅延量制御用のバイアス電圧PBを出力し、Q24,Q23の共通ドレインから遅延量制御用のバイアス電圧NBを出力する直列回路構成と、を有して構成されている。
【0038】
以上述べた位相比較回路100からチャージポンプ回路200及びLPF300の動作は一般的なPLL(位相同期ループ、Phase Locked Loopの略)もしくはDLLと同様である。クロック信号DL4の立ち上がりエッジが位相比較の基準となる。
【0039】
クロック信号DL32立ち上がりエッジが、クロック信号DL4よりも時間的に早ければ、位相差に応じたDOWNパルスが出力される。DOWNパルスの幅がアクティブ期間、チャージポンプ回路200のDWON電流(Idn)が流れ、LPF300の容量C1を放電する。すると、バイアス電圧NBが下降して、単位遅延回路の遅延量が増加して、クロック信号DL32のエッジが遅れる。
【0040】
一方、クロック信号DL32の立ち上がりエッジが、クロック信号DL4よりも時間的に遅ければ、位相差に応じたUPパルスが出力される。UPパルスの幅がアクティブ期間、チャージポンプ回路200のUP電流(Iup)が流れ、LPF300の容量C1を充電する。すると、バイアス電圧NBが上昇して、単位遅延回路の遅延量が減少して、クロック信号DL32のエッジが進む。
【0041】
クロック信号DL32のエッジは進み,遅れを繰り返し、漸近的にロック状態へ推移する。
【0042】
次に、図1及び図2を参照して、本発明の実施例1の差動遅延回路を説明する。
【0043】
図1は本発明の実施例1の差動遅延回路を示す回路図であり、図2は図1の回路動作を説明する波形図である。ここでは、複数の単位遅延回路501〜516における各単位遅延回路(例えば、単位遅延回路503)について説明する。
【0044】
単位遅延回路503は、PチャネルトランジスタMP1〜MP6とNチャネルトランジスタMN1〜MN5とインバータINV1を備えた単位遅延素子が2つ縦続接続して構成されている。縦続接続された2つの単位遅延素子を第1,第2の単位遅延素子とする。これは、単位遅延素子2つ分の遅延量ずつ遅延させて生成したクロック信号DL4〜32をサンプリングパルスの生成に用いているためのものである。第1,第2の単位遅延素子とも同じ構成であるので、一方の単位遅延素子(例えば第1の単位遅延素子)の構成のみを説明する。
【0045】
差動対をなすPチャネルトランジスタMP2,MP3のゲートにそれぞれ入力信号Pin1及びその反転信号Nin1が入力されるようになっている。つまり、互いに逆相の差動のクロック信号Pin1,Nin1が入力される。
【0046】
PチャネルトランジスタMP2,MP3のソースは共通接続されてPチャネルトランジスタMP1のドレインに接続され、トランジスタMP1のソースには直流電源から電源電圧VDDが印加される。また、トランジスタMP1のゲートにはバイアス電圧PBが供給される。
【0047】
トランジスタMP2,MP3のドレインはそれぞれNチャネルトランジスタMN1,MN2のドレインに接続されると共に、トランジスタMN2,MN1のゲートにも接続される。
【0048】
トランジスタMN1,MN2のソースは共通接続されて、NチャネルトランジスタMN3のドレインに接続される。トランジスタMN3のゲートにはバイアス電圧NBが供給され、ランジスタMN3のソースは基準電位点GNDに接続される。
【0049】
さらに、PチャネルトランジスタMP2,MP3のドレインはそれぞれNチャネルトランジスタMN4,MN5のドレインに接続され、トランジスタMN4,MN5のゲートにはバイアス電圧NBが供給され、トランジスタMN4,MN5のソースは基準電位点GNDに接続される。
【0050】
そして、以上の単位遅延回路の構成に追加して、PチャネルトランジスタMP4,PチャネルトランジスタMP5,MP6の直列回路,及びインバータINV1で構成される図示点線枠Fで示される部分が設けられている。PチャネルトランジスタMP4は差動トランジスタMP2,MP3のいずれか一方(オンした方のトランジスタ)に流れる電流に所定の定電流を供給する電流源(電流供給手段)として機能し、PチャネルトランジスタMP5,MP6の直列回路,及びインバータINV1は前記PチャネルトランジスタMP4による電流源をイネーブル信号ENにて確実にオン又はオフする機能を有するものである。換言すれば、イネーブル信号ENにて前記PチャネルトランジスタMP4を直接オン,オフさせるように使用すると、トランジスタMP4をオンしたつもりでも完全にはオンしていなかったり、またトランジスタMP4をオフしたつもりでも完全にはオフせず微小電流が流れたりする不具合の発生を防ぐためのものである。
【0051】
点線枠Fの部分については、電源電圧VDDのラインとPチャネルトランジスタMP1のドレインの間には、PチャネルトランジスタMP4のソース・ドレインが接続され、さらにトランジスタMP4のソース・ドレイン間に、NチャネルトランジスタMP5,MP6の直列回路が接続されている。トランジスタMP5のソースが電源電圧VDDラインに接続し、トランジスタMP6のドレインがトランジスタMP1のドレインと共通接続されている。トランジスタMP5のゲートにはHレベル又はLレベルのイネーブル信号ENが入力され、トランジスタMP6のゲートには前記イネーブル信号ENをインバータINV1で反転したLレベル又はHレベルの信号が入力される。
【0052】
点線枠Fの部分の動作を簡単に説明すると、イネーブル信号ENがHレベルのときは、トランジスタMP5がオフ、MP6がオンし、その結果トランジスタMP4がオンして電源電圧VDDの直流電源から一定の電流が流れる電流源としての動作を行い、差動トランジスタMP2,MP3のいずれか一方のオンしている方のトランジスタに流れ込む。つまり、制御電圧であるバイアス電圧PBに応じた電流量を流す電流制御用トランジスタMP1の電流に対して、前記トランジスタMP4を流れる定電流が付加(加算)された状態で差動トランジスタMP2,MP3の一方のオンしている方のトランジスタに流れ込むことになる。
【0053】
次に、図1の回路動作を詳しく説明する。
【0054】
図1の回路で、PチャネルトランジスタMP1及びNチャネルトランジスタMN3,MN4,MN5はいずれのトランジスタも、各トランジスタの導通開始電圧である閾値Vthと飽和領域との間で動作させる。換言すれば、各トランジスタが閾値Vthと飽和領域との間で動作(つまり可変抵抗として動作)するように、遅延量制御用のバイアス電圧PB,NBを可変制御すれば、差動トランジスタMP2又はMP3を流れる電流の量をバイアス電圧PB,NBに応じて変化させることができる。なお、バイアス電圧PBとバイアス電圧NBとは、互いに逆向きに変化するようになっていて、例えばバイアス電圧PBが高くなればバイアス電圧NBは低くなるように変化するようになっている。
【0055】
これに対して、PチャネルトランジスタMP2,MP3,MP4,MP5,MP6及びNチャネルトランジスタMN1,MN2は常時飽和領域で使用するように、これらのトランジスタのゲートには常にフルスイングのレベル又はそれに近いレベルの信号が入力されて、オン又はオフの動作が確実に行われることが必要となる。
【0056】
前述したように、電流源用のPチャネルトランジスタMP4を含む点線枠Fにて示す部分に、Hレベルのイネーブル信号ENを供給すると、PチャネルトランジスタMP5はオフ、MP6はオンする結果、電流源用のPチャネルトランジスタMP4はオンして一定電流を供給する電流源として機能する一方、Lレベルのイネーブル信号ENを供給すると、PチャネルトランジスタMP5はオン、MP6はオフする結果、電流源用のPチャネルトランジスタMP4はオフして電流源としての機能を停止する。
【0057】
先ず、図1の単位遅延素子が正常に動作している状態について説明する。
【0058】
ここで、トランジスタMP1のゲートには適正な遅延量制御用のバイアス電圧PBが供給され、トランジスタMN3,MN4,MN5のゲートには適正な遅延量制御用のバイアス電圧NBが供給されているものとする。従って、トランジスタMP1 ,トランジスタMN3,MN4,MN5はバイアス電圧PB,NBに応じた導通状態で導通しているものとする。このとき仮に、イネーブル信号ENはLレベルとしてトランジスタMP4の電流源としての機能を停止しておくものとする。
【0059】
直流電源電圧VDDを例えば2.7Vとし、入力信号Pin1として図2(a) に示すようなクロック信号を入力する。このとき、その反転信号である入力信号Nin1としては図示しないが図2(a) のクロック波形を反転した波形が入力される。
【0060】
入力信号PinがLレベル、従って入力信号NinがHレベルにあるときは、PチャネルトランジスタMP2はオン、MP3はオフする。トランジスタMP2がオンすると、電源電圧VDDの直流電源からトランジスタMP1とMP2を通り、さらにトランジスタMN4を通って基準電位点GNDへ電流が流れる。このとき、トランジスタMP2のドレイン電圧は電源電圧2.7Vから0.1V降下した2.6Vの電圧となる。この状態は、電流制御用トランジスタMP1が適正なバイアス電圧PBにてバイアスされており、差動トランジスタMP2のゲートにはフルスイング(Hレベルが2.7V、Lレベルが0V)のHレベルが入力されている場合である。
【0061】
この状態においては、図2(a)の入力信号Pinに対して、図2(b)又は(c)に示すように出力信号Pout1はHレベルとなる一方、NチャネルトランジスタMN2がオン(トランジスタMN1はオフ)するので、トランジスタMN2のドレイン電位に相当する出力信号Nout1はLレベルとなる(トランジスタMN3はバイアス電圧NBに応じた導通状態であるので)。
【0062】
また一方、入力信号PinがHレベル、従って入力信号NinがLレベルにあるときは、PチャネルトランジスタMP2はオフ、MP3はオンする。トランジスタMP3がオンすると、電源電圧VDDからトランジスタMP1とMP3を通り、さらにトランジスタMN5を通って基準電位点GNDへ電流が流れる。このとき、トランジスタMP3のドレイン電圧は電源電圧2.7Vから0.1V降下した2.6Vの電圧となる。この状態は、電流制御用トランジスタMP1が適正なバイアス電圧PBにてバイアスされており、差動トランジスタMP3のゲートにはフルスイング(Hレベルが2.7V、Lレベルが0V)のHレベルが入力されている場合である。
【0063】
この状態においては、入力信号Ninに対して、出力信号Nout1はHレベルとなる一方、NチャネルトランジスタMN1がオン(MN2はオフ)するので、トランジスタMN1のドレイン電位に相当する出力信号Pout1はLレベルとなる。
【0064】
ここで、バイアス電圧NBを高く(即ち、バイアス電圧PBを低く)すると、図2(b)に示すように差動トランジスタMP2又はMP3を通して流れる電流は増加する結果、出力クロック信号Pout1の立上り,立下りが急峻(即ち、立上り,立下りが速い傾き)となる。反対に、バイアス電圧NBを低く(即ち、バイアス電圧PBを高く)すると、図2(c)に示すように差動トランジスタMP2又はMP3を通して流れる電流は減少する結果、出力クロック信号Pout1の立上り,立下りがなだらか(即ち、立上り,立下りが遅い傾き)となる。
【0065】
出力クロック信号Pout1は入力信号Pin2として次段の第2の単位遅延素子の一方の差動トランジスタMP2のゲートに供給され、また出力クロック信号Nout1は入力信号Nin2として次段の第2の単位遅延素子の他方の差動トランジスタMP3のゲートに供給されことになる。
【0066】
従って、同じレベルに立ち上がる時間、即ち遅延量は、バイアス電圧NB(及びPB)に応じて、図2(b),(c)それぞれの符号A,Bのように異なってくる結果、次段の第2の単位遅延素子における差動トランジスタMP2又はMP3でオンするタイミングがずれ、その結果として多段の単位遅延回路で構成されるメイン遅延回路580(図1参照)での初段の入力クロックDL4と最終段の出力クロックDL32間の遅延量を、バイアス電圧NB(及びPB)の設定によって所望の遅延量に設定することができる。
【0067】
尚、図1に示す単位遅延素子で、NチャネルトランジスタMN4,MN5を削除しても動作可能である。しかしながら、図1に示すように、PチャネルトランジスタMP2のドレインと基準電位点GND間にNチャネルトランジスタMN4を接続し、PチャネルトランジスタMP3のドレインと基準電位点GND間にNチャネルトランジスタMN5を接続し、各トランジスタMN4,MN5のゲートにバイアス電圧NBを印加する構成とし、PチャネルトランジスタMP2,MP3のゲートに入力信号としてフルスイング若しくはそれに近いクロック信号を入力することで、トランジスタMN4又はMN5に電流を流すと、出力クロック信号Pout,Noutの立上り,立下りの傾きの変化幅を大きくできる利点がある。
【0068】
次に、トランジスタMP4の電流源としての機能について説明する。
【0069】
点線枠Fにて示すPチャネルトランジスタMP4の電流源としての機能を停止した状態で、PチャネルトランジスタMP1及びNチャネルトランジスタMN3〜MN5にかけるゲート電圧PB,NBが何らかの理由で閾値Vthに近づくと、可変抵抗として働いている各トランジスタMP1、MN3〜MN5の導通抵抗が高くなり、差動トランジスタMP2,MP3のうちのオンしているトランジスタに流れる電流が減少していき、出力クロック信号Pout1,Nout1の波形に振幅減衰が生じてしまう。即ち、出力信号Pout1,Nout1の最大電圧が2.6Vよりかなり低い電圧に下がってしまう。(なお、2.6Vは差動トランジスタMP2,MP3をオンさせるのに十分高い電圧である。)例えば2.0Vに下がると、差動トランジスタMP2,MP3のオンしている方のトランジスタは正確には最早オン状態ではなくそのゲート電圧が閾値Vthに近い電圧となっている。その結果、次段の入力信号Pin2,Nin2(=Pout1,Nout1)は最早フルスイング信号ではないので、次段の第2の単位遅延素子のPチャネルトランジスタMP2,MP3を完全にオン,オフさせることができず、第2の単位遅延素子の出力信号Pout2,Nout2は最大値が2.0Vよりさらに下がることになる。
【0070】
このような振幅減衰は、メイン遅延回路580(図1参照)が多段に縦続接続されているので、多段接続された単位遅延素子の後段にいくほど振幅レベルが小さくなり、差動トランジスタをオンするに至らなくなって、動作が停止する。
【0071】
そこで、本発明の実施例では、各単位遅延素子において、イネーブル信号ENをHレベルとすることによって、点線枠Fにて示すPチャネルトランジスタMP4をオンして電流源として動作させると、MP1→MP2→MN4と流れる電流に対して、或いは、MP1→MP3→MN5と流れる電流に対して、PチャネルトランジスタMP4のソース・ドレイン路を通して流れる一定の定電流を付加してやる。これにより、仮に電流制御用のPチャネルトランジスタMP1及びNチャネルトランジスタMN3〜MN5に掛かるゲート電圧が閾値Vthに近づきトランジスタMP2又はMP3に流れ込む電流の量が減少したとしても、直流電源電圧VDDからトランジスタMP4を通してトランジスタMP2又はMP3に流れ込む電流の量を常に一定以上に保つことが可能となる。その結果、出力信号Pout1,Nout1(=Pin2,Nin2)を常に最大2.6Vに保って出力することが可能となり、次段の差動トランジスタの一方を完全にオンさせることができる。このように、出力クロック信号Pout,Noutの振幅レベルを常に常に一定以上(例えば2.6V)に保つことが可能となる結果、多段接続された単位遅延素子の後段にいくほど振幅レベルが減少することが無くなり、どの単位遅延素子の出力信号Pout,Noutであっても常に振幅レベルを2.6Vとして次段の単位遅延素子の差動トランジスタの一方を完全にオンさせ、遅延クロックを生成するメイン遅延回路580を精度良く動作させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の差動遅延回路及びそれを用いたDLL回路は、小振幅で伝送されてくるクロックから必要な多相クロックを生成するのに有用であり、液晶表示装置やプリンタ装置などのほか、小型で携帯性のある電子機器に用いて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例1の差動遅延回路を示す回路図。
【図2】図1の回路動作を説明する波形図。
【図3】図3は本発明に係るDLL回路及びそれに接続するサンプリング回路を示す回路図。
【図4】位相比較回路の構成例を示す回路図。
【図5】チャージポンプ回路とLPFとバイアス発生回路の構成例を示す回路図。
【符号の説明】
【0074】
MP1,MN3〜MN5…電流制御手段、MP2,MP3…差動トランジスタ、MP4…電流供給手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに逆相の差動のクロック信号が入力される一対の差動トランジスタと、
前記差動トランジスタに接続されて、差動のクロック信号が出力される一対の出力ラインと、
前記差動トランジスタに接続されて、制御電圧によって前記差動トランジスタに流れる電流の量を制御することによって、前記出力ラインに出力される差動のクロック信号の遅延量を制御することが可能な電流制御手段と、
前記差動トランジスタに接続されて、前記差動トランジスタに流れる電流に所定の定電流を供給する電流供給手段と、
を具備したことを特徴とする差動遅延回路。
【請求項2】
前記電流制御手段は、
前記差動トランジスタを構成する一対のトランジスタの共通接続点と直流電圧源との間にドレイン,ソースが接続され、ゲートに負の制御電圧が供給される遅延量制御用の第1のPチャネルトランジスタと、
前記差動トランジスタの一方のトランジスタの出力端と基準電位点との間、前記差動トランジスタのもう一方のトランジスタの出力端と前記基準電位点との間にそれぞれ、ドレイン,ソースが接続され、共通ゲートに正の制御電圧が供給される遅延量制御用の第1,第2のNチャネルトランジスタと、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の差動遅延回路。
【請求項3】
前記電流供給手段は、前記差動トランジスタの共通接続点と直流電圧源との間に、前記第1のPチャネルトランジスタと並列に接続された電流源で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の差動遅延回路。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の差動遅延回路を単位遅延回路として多数段縦続接続して用いられ、入力されたクロックを多数段の単位遅延回路にて順次遅延させることによって、該遅延出力に基づいてロック制御用パルス及び遅延クロックを出力する遅延回路と、
前記遅延回路からのロック制御用パルスに基づいて前記制御電圧を生成し、前記遅延回路にフィードバックして前記単位遅延回路の遅延量をフィードバック制御する位相同期手段と、
前記多数段の単位遅延回路の初段の入出力クロック及び各段の出力クロックを用いて、サンプリングパルスを生成するサンプリングパルス生成手段と、
を備えたことを特徴とするDLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−101091(P2006−101091A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283649(P2004−283649)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】