説明

平面ラップ/ポリッシュ盤

【課題】流体軸受けの流体軸受皿の底部や内外周方向にも潤滑油などの流体が確実に流れるようにして、流体軸受皿の底や内外周方向での流体の滞留をなくすとともに流体軸受皿の底に沈降する不純物を除去して清浄な流体とし、長期間にわたり流体軸受けとしての機能を確保して円滑な回転を可能とする平面ラップ/ポリッシュ盤を提供する。
【解決手段】流体軸受皿5の溝部内の下側軸受面51に隣接する内周側底面部52に内周側回収孔27を、また、外周側底面部53に外周側回収孔28を設け、これら内周側回収孔27と外周側回収孔28との間をバイパス回路29により内外で連通させて外周側への偏在をなくし、また、流体軸受皿5内に沈降する不純物を含む流体を回収するような平面ラップ/ポリッシュ盤とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン、ガラス、金属その他種々の材料により形成されたワークの両面にラップ/ポリッシュ加工を行う平面ラップ/ポリッシュ盤に関する。
【背景技術】
【0002】
平面ラップ/ポリッシュ盤は、シリコンウエハ、ガラス板等のワーク(以下、単にワークという)に対して研磨加工を行う装置として用いられている。このような平面ラップ/ポリッシュ盤では、例えば、定盤の軸受けとして流体軸受けが採用されている。
【0003】
このような平面ラップ/ポリッシュ盤の従来技術として、例えば、特許文献1(特許第4169401号公報)に記載の平面ラップ/ポリッシュ盤が知られている。
この平面ラップ/ポリッシュ盤は、流体軸受けの流体が圧力水に関するものであり、上軸受けと対向する下軸受けに平面部と傾斜部とが形成されており、この平面部に設けられたポケットに水圧供給管を介して外部の圧力発生手段が接続されている。このような平面ラップ/ポリッシュ盤によれば、回転始動時に、外部の圧力発生手段から下軸受けのポケットへ圧力水が供給されるため静圧軸受けとして機能して平面部に液膜が形成されて焼き付けが防止され、また、高速回転時に、斜面部に発生する動圧により動圧軸受けとして機能して円滑な回転が実現される、というものである。
【0004】
また、他の従来技術として、例えば、特許文献2(特許第3012224号公報)に記載のラッピング/ポリッシングマシンの下定盤回転装置が知られている。
この下定盤回転装置は、流体軸受けの流体がエアーであるエアー軸受けの例であり、固定体の上端の環状平面に沿って空気溜まり室、および、この空気溜まり室に通じる細孔がともに設けられる。このような下定盤回転装置によれば、固定体の上端の環状平面と回転体の周辺部下面との滑り面でスラスト加重を受け、円滑な回転が実現されるというものである。
【0005】
また、他の従来技術として、例えば、特許文献3(特開平11−13749号公報)に記載の動圧平面軸受が知られている。
この動圧平面軸受は、流体軸受けの流体が一般的な潤滑油の例であり、相対する上部円筒状リング下面または下部の環状油槽の底部上面のいずれか一方に、回転方向に対して左右対称の傾斜方向となる一対の斜面と水平面とを組み合わせてなる動圧発生部を適間隔に形成したものである。このような動圧平面軸受によれば、正逆両方向に回転しても上方向へ作用する動圧が発生して荷重の支持が実現される、というものである。
【0006】
また、他の従来技術として、図11に示すような平面ラップ/ポリッシュ盤が知られている。この平面ラップ/ポリッシュ盤は流体軸受けの流体として一般的な潤滑油を採用する例であり、図11でも示すように、下定盤301に連接する環状の受け部301aが円環状で断面凹字状の流体軸受皿302内に配置されるとともに流体として潤滑油303が流体軸受皿302内に供給される。これにより、受け部301a、流体軸受皿302、潤滑油303は、静圧軸受け又は動圧軸受けである流体軸受けとして機能する。
【0007】
従来技術では潤滑油供給は二方式知られている。第一の方式は静圧発生用の潤滑油供給である。定量式の潤滑油供給ポンプ304は、下定盤301の回転開始時に流体軸受皿302の底に設けられた複数の軸受部(平坦部)の潤滑油供給孔(図示せず)より少量の潤滑油303を同時に供給する。このような構成により、回転開始時の下定盤301の受け部301aを下から供給される潤滑油303が押し上げて浮上を補助し、また、受け部301aと流体軸受皿302との間に潤滑油303が介在して静圧軸受けとして機能させて接触による磨耗を軽減する。また、下定盤301の回転駆動時には動圧軸受けとして機能する。
【0008】
第二の方式は、潤滑油補充用の潤滑油供給である。潤滑油補充ポンプ305は少量の潤滑油を間歇的に供給する。この量は、例えば、1ショットにつき3cc〜10ccという量である。また、この流体軸受けの側面上側にはオーバーフロー回収孔306が設けられており、流体が所定液面を超えないようにしている。そして、オーバーフロー回収タンク307内へ流体を流す。
【0009】
オーバーフロー回収タンク307は回収した潤滑油と不純物(例えば、軸受部の磨耗金属粉、冷却等による結露水等の不純物。以下、本明細書中で単に不純物という。)を分離する。オーバーフロー回収タンク307の底部にはメンテナンス用のドレーン回路308が設けられており、定期的にドレーン回路308の手動コックを開いて劣化した潤滑油や不純物を回収する。不純物が除去された潤滑油は潤滑油タンク309内に回収される。潤滑油タンク309の潤滑油は潤滑油供給ポンプ304や潤滑油補充ポンプ305へ送出されて再度の利用がなされる。
なお、図11では二方式をともに図示しているが、従来技術ではこのいずれか一方の方式のみで流体供給を行っていた。従来技術はこのようなものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4169401号公報
【特許文献2】特許第3012224号公報
【特許文献3】特開平11−13749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような従来技術の流体軸受けでは流体に不純物が混入すると不純物の除去が困難であるという問題があった。
特許文献1に記載の平面ラップ/ポリッシュ盤は、流体軸受けの流体が圧力水に関するものであるが、下軸受の上側から圧力水が溢れる構成であり、比重の大きい摩耗金属粉などの不純物は沈降したままであり、圧力水の汚染が進行するおそれがあった。
【0012】
また、特許文献2に記載のラッピング/ポリッシングマシンは、流体軸受けの流体が空気に関するものであるが、空気溜まりの上側から空気が溢れる構成であり、摩耗金属粉などは空気溜まりに溜まるおそれがあった。
【0013】
また、特許文献3に記載の動圧平面軸受は、流体軸受けの流体が潤滑油に関するものであるが、油槽内の潤滑油の汚染については考慮されておらず、比重の大きい結露水や摩耗金属粉などは沈降したまま潤滑油の汚染が進行するおそれがあった。
【0014】
また、図11を用いて説明した従来技術の平面ラップ/ポリッシュ盤は、流体軸受けの流体が潤滑油に関するものであるが、潤滑油を適宜補充してオーバーフロー回収孔306から回収するため潤滑油303の表面に浮かぶ不純物については除去することが可能である。しかしながら、オーバーフロー回収孔306の位置が流体軸受皿302内の油溜りの上部にあるため、潤滑油303の底付近では入替わりが起きずに長期に滞留する潤滑油が一部存在するおそれがあり、流体軸受皿302内の潤滑油303の汚染が進行して潤滑性能に支障を来すおそれがあった。特に潤滑油の粘度が増したような場合に下側に潤滑油が付着して円滑な動作が確保しにくくなり、下定盤301の浮上量が低下して回転動作が不安定になるおそれもあった。
【0015】
さらに潤滑油303内の不純物である軸受部の金属磨耗粉、冷却等による結露水は比重が潤滑油303より重いため、潤滑油303の底付近に沈降したままとなり、オーバーフロー回収孔306からの不純物の回収は少ない。潤滑油303の底付近では長期に滞留する不純物が沈降したまま存在するおそれがあり、流体軸受皿302内の潤滑油303の汚染が進行するおそれがあった。
【0016】
さらに下定盤301の回転時に潤滑油303が遠心力により内周側から外周側へ移動するため、内周側と外周側とでの不純物の混入量が異なるなど、内周側と外周側とで潤滑油303の性状が異なる傾向がある。また、受け部301aと流体軸受皿302との上下方向の隙間が小さい場合は、外周側の潤滑油303が物理的に内周側へ戻らず、軸受機能が十分発現できずに軸受部の磨耗が進行するおそれがあった。
【0017】
なお、定期的に潤滑油を交換する方法は、装置の停止期間が生じるため通常は困難である。潤滑油の汚染が生じないようにして、流体軸受けの動作性能を長期間にわたり確保したいという要請があった。
【0018】
そこで、本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、流体軸受けの流体軸受皿の底部や内外周方向にも潤滑油などの流体が確実に流れるようにして、流体軸受皿の底や内外周方向での流体の滞留をなくすとともに流体軸受皿の底に沈降する不純物を除去して清浄な流体とし、長期間にわたり流体軸受けとしての機能を確保して円滑な回転を可能とする平面ラップ/ポリッシュ盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の請求項1に係る平面ラップ/ポリッシュ盤は、
遊星歯車を外周に有するワークキャリアが太陽歯車と内歯歯車との間に噛合した状態で太陽歯車と内歯歯車とを相対的に回転駆動させてワークキャリアを遊星運動させ、かつワークキャリアの上下面を上定盤と下定盤とで挟圧しながら両定盤を回転駆動することでワークキャリアに保持されているワークをラッピングまたはポリッシングする平面ラップ/ポリッシュ盤であって、
円環状で断面凹型の溝部を含むとともにこの溝部内底面に下側軸受面が形成される下側の流体軸受皿と、円環状で断面角型の受け部を含むとともにこの受け部下面に上側軸受面が形成される上側の支持部と、下側軸受面に設けられて流体を供給する流体供給孔と、を有し、流体軸受皿の溝部内の下側軸受面と受け部の上側軸受面とが対向するようになされ、垂直軸周りに回転駆動される太陽歯車、内歯歯車、上定盤または下定盤のうちの少なくとも一つに設けられてその垂直荷重を支持する流体軸受けと、
流体軸受皿の溝部内の下側軸受面に隣接する内周側底面部と連通し、円周方向に適間隔に複数個が設けられる内周側回収孔と、
流体軸受皿の溝部内の下側軸受面に隣接する外周側底面部と連通し、円周方向に適間隔に複数個が設けられる外周側回収孔と、
所定の内周側回収孔と外周側回収孔との間を連通させるバイパス回路と、
バイパス回路と連通し、沈降する不純物を含む流体を通流させる循環回収回路と、
循環回収回路と連通し、流体とともに不純物を回収する流体回収部と、
流体供給孔と連通し、流体を供給する流体供給部と、
を備えることを特徴とする。
流体軸受皿の底付近の流体や不純物を、同じく底に設けた内周側回収孔や外周側回収孔から回収するため、沈降していた不純物の除去を実現し、流体軸受皿の底付近の流体を循環させて流体の劣化を防止する。また、内周側と外周側とで連通するバイパス回路を形成し、回転時に外周側へ偏る流体を内周側へ戻し、内外で流体を循環させて流体の劣化を防止する。
【0020】
また、本発明の請求項2に係る平面ラップ/ポリッシュ盤は、
請求項1に記載の平面ラップ/ポリッシュ盤において、
前記流体供給部は、不純物を分離して貯留される流体を前記流体回収部から吸引し、複数の流体供給孔からそれぞれ一定流量の流体を供給する流体供給ポンプであることを特徴とする。
流体供給部では、流体回収部への流体の吸引・回収量と流体供給孔からの流体の供給量とが等しくなり、原理的には流体軸受皿における流体の量は一定に保持される。
【0021】
また、本発明の請求項3に係る平面ラップ/ポリッシュ盤は、
請求項1または請求項2に記載の平面ラップ/ポリッシュ盤において、
前記下側軸受面は軸受部、傾斜部、切込部を繰り返し形成してなる円状の面であって複数の軸受部の面内にそれぞれ複数の流体供給孔が設けられており、
前記流体軸受けは、
所定回転速度以下で受け部が回転するときは、流体供給孔から流体を供給する状態として、複数の軸受部の流体供給孔から噴出する流体の静圧により受け部の上側軸受面を押し上げる静圧平面軸受けとして機能し、
所定回転速度を超えて受け部が回転するときは、流体供給孔から流体を供給する状態か、または、流体の供給を停止する状態として、静圧平面軸受けまたは動圧平面軸受けとして機能する、
ことを特徴とする。
流体軸受けは具体的には下側軸受面に軸受部、傾斜部、切込部を一単位として繰り返し形成することにより静圧平面軸受けと動圧平面軸受けとして機能する軸受けとした。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、流体軸受けの流体軸受皿の底部や内外周方向にも潤滑油などの流体が確実に流れるようにして、流体軸受皿の底や内外周方向での流体の滞留をなくすとともに流体軸受皿の底に沈降する不純物を除去して清浄な流体とし、長期間にわたり流体軸受けとしての機能を確保して円滑な回転を可能とする平面ラップ/ポリッシュ盤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施するための形態の平面ラップ/ポリッシュ盤の側断面図である。
【図2】本発明を実施するための形態の平面ラップ/ポリッシュ盤の上定盤を取り去ったときの平面図である。
【図3】本発明を実施するための形態の平面ラップ/ポリッシュ盤の流体回路ブロック図である。
【図4】流体軸受けの下側軸受面の平面図である。
【図5】流体軸受けの円周方向に沿って切断した断面図であり、図5(a)はE−E断面図、図5(b)は静圧軸受け状態の説明図、図5(c)は動圧軸受け状態の説明図である。
【図6】流体軸受けの半径方向に沿って切断した断面図であり、図6(a)は回路不形成箇所の断面図、図6(b)はA断面図、図6(c)はB断面図である。
【図7】流体軸受けの半径方向に沿って切断した断面図であり、図7(a)はC断面図、図7(b)はD断面図である。
【図8】加工動作のタイムチャートである。
【図9】他の形態の平面ラップ/ポリッシュ盤の流体軸受けの円周方向に沿って切断した断面図であり、図9(a)は静圧軸受け状態の説明図、図9(b)は正回転時の動圧軸受け状態の説明図、図9(c)は逆回転時の動圧軸受け状態の説明図である。
【図10】他の形態の平面ラップ/ポリッシュ盤の流体軸受けの円周方向に沿って切断した断面図であり、図10(a)は一方向型の流体軸受けの動圧軸受け状態の説明図、図10(b)は両方向型の流体軸受けの動圧軸受け状態の説明図、図10(c)は静圧軸受け型の流体軸受けの説明図である。
【図11】従来技術の平面ラップ/ポリッシュ盤の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、本発明を実施するための形態について図を参照しつつ以下に説明する。まず、平面ラップ/ポリッシュ盤100について図1,図2,図3を参照しつつ説明する。平面ラップ/ポリッシュ盤100は、ワーク200を平面加工する装置である。平面ラップ/ポリッシュ盤100の機械駆動系の構成は、図1,図2で示すように、上定盤支持部1、上定盤2、下定盤3、下定盤支持部4、流体軸受皿5、ベース部6、太陽歯車7、内歯歯車8、下定盤駆動軸9、太陽歯車駆動軸10、内歯歯車支持部11、ワークキャリア12、潤滑油13を備える。本形態は下定盤3が取り付けられた下定盤支持部4(支持部の具体例である)のみを流体軸受けが支持する形態である。
【0025】
また、平面ラップ/ポリッシュ盤100の流体回路系は、図3で示すように、潤滑油13、循環回収回路14、分離タンク15、ドレーン回路16、戻し回路17、フィルタ18、流体供給ポンプ19、流体供給回路20、オーバフロー回収回路21、オーバフロー分離タンク22、流体貯蔵タンク23、流体補充ポンプ24、流体補充回路25をそれぞれ備える。
【0026】
続いて各構成について説明する。
上定盤支持部1は、下側の上定盤2を吊り下げて支持する。上定盤支持部1は、図示しない上定盤昇降駆動部により矢印a方向の昇降駆動が行われる。
上定盤2は、環状円板であり、下面にワーク200を研磨するラップ面/ポリッシュ面を有する。上定盤支持部1に支持される環状の上定盤2は、上定盤支持部1とともに昇降駆動が行われ、ワーク200に対して適正圧力で接するような位置に決定される。そして、上定盤2の中央には上定盤駆動ドラム1aが設けられており、上定盤2に設けられた回動式駆動ツメ1bが上定盤駆動ドラム1aに嵌め込まれて連結される。この上定盤駆動ドラム1aは上定盤駆動軸1cと連結されている。図示しない上定盤回転駆動部が上定盤駆動軸1cおよび上定盤駆動ドラム1aを回転させると、回動式駆動ツメ1bを介して上定盤2が回転駆動される。
【0027】
下定盤3は、環状円板であり、上面にワーク200を研磨するラップ面/ポリッシュ面を有する。ここに上定盤2および下定盤3は、共通回転軸の回りを回転するものであり、下定盤3は共通回転軸を回転中心として回転するように支持される。
下定盤支持部4は、環状円板であり、下側に円環状で断面角形のリング体の受け部41が設けられている。下定盤支持部4の上面には下定盤3が固定されており、下定盤支持部4は、下定盤3とともに回転駆動される。
【0028】
流体軸受皿5は、平面視では環状であって円状の溝部が設けられており、断面凹字状に形成されている。下定盤支持部4の受け部41が流体軸受皿5の溝部内に位置しており、流体軸受皿5内には潤滑油(本発明の流体の一具体例である。)13が貯留されている。後述するがこれら受け部41、流体軸受皿5、潤滑油13により流体軸受けを構成する。
【0029】
ベース部6は、図1で示すように、環状の円板体であり、図示しない堅牢な基台等に固定されている。流体軸受皿5は、このベース部6に固定されている。
太陽歯車7は、外周側に歯が形成されており、図2で示すように、下定盤3の内周側に配置されている。
内歯歯車8は、内周側に歯が形成されており、下定盤3の外周側に配置されている。
【0030】
下定盤駆動軸9は、ベース部6に対して軸受け等により回転可能に支持されており、さらに、下定盤支持部4の回転中心で軸支固定されている。下定盤駆動軸9は、図示しない下定盤駆動部により回転力が付与され、下定盤駆動軸9とともに下定盤支持部4および下定盤3が回転駆動される。
太陽歯車駆動軸10は、太陽歯車7の回転中心に軸支固定されており、図示しない太陽歯車回転駆動部により太陽歯車駆動軸10に回転力が付与され、太陽歯車駆動軸10とともに太陽歯車7が回転駆動される。
下定盤駆動軸9内には太陽歯車駆動軸10が配置されており、それぞれ独立して回転する。また、太陽歯車駆動軸10内には上定盤駆動軸1cが配置されており、それぞれ独立して回転する。従って三軸は何れも独立して回転可能であり、上定盤2、下定盤3および太陽歯車7はそれぞれが独立して回転する。
【0031】
内歯歯車支持部11は、概略筒状部材であり、上側に内歯歯車8が固定される。内歯歯車支持部11は、図示しない内歯歯車回転駆動部により回転力が付与され、内歯歯車支持部11とともに内歯歯車8が回転駆動される。
【0032】
ワークキャリア12は、遊星歯車が外周に形成されており、太陽歯車7および内歯歯車8に噛合するようになされている。ワークキャリア12は、図2に示すように複数(図2では例示的に4個)配置されている。複数のワークキャリア12が、下定盤3上に円周方向に等間隔で配設される。
これら構成のうち、上定盤支持部1、上定盤駆動ドラム1a、上定盤駆動軸1c、上定盤2、下定盤3、下定盤支持部4、流体軸受皿5、ベース部6、太陽歯車7、内歯歯車8、下定盤駆動軸9、太陽歯車駆動軸10、内歯歯車支持部11の中心軸は共通軸となっている。
【0033】
このような平面ラップ/ポリッシュ盤100は、各ワークキャリア12のワーク保持孔に保持されたワーク200を上定盤2と下定盤3との間に挟み込み、各ワークキャリア12を遊星運動させながら上定盤2および下定盤3を互いに逆方向に回転させてワーク200の両面の研磨加工を行い、研磨終了後、上定盤2を上昇させてワーク200を取り出すようになっている。
【0034】
続いて流体軸受けおよび流体回路系について説明する。潤滑油は流体軸受けと流体回路との間を循環する。流体回路は流体軸受けの流体軸受皿5に対して潤滑油の供給および回収を行い、潤滑油内から不純物を除去してから再度供給する。このような流体回路としては、後述するが循環回収用回路と潤滑油補充(供給)用回路とが存在する。
【0035】
まず、流体軸受けの詳細について説明する。本形態の流体軸受けは、回転始動時では、流体軸受けの定盤を浮上させるための圧力流体(潤滑油、水、潤滑用液体など)を軸受平面部に向けて供給する静圧軸受けとして機能させる。そして、定盤の回転時に定盤を浮上させるための動圧を発生させる動圧軸受けとして機能させる。
このような流体軸受けとすることにより、定盤の回転始動時では静圧軸受として作用させて安定した回転立ち上がりとし、また、定盤回転時では動圧軸受として作用させて充分な浮上力を与えることができる。
【0036】
流体軸受けは、図4,図5,図6(特に図6(a))に示すように、受け部41、流体軸受皿5、および、潤滑油13とからなる。さらに図3,図6(a)で示すように、下定盤支持部4の受け部41が流体軸受皿5内に位置しており、流体軸受皿5内には潤滑油13が貯留されている。さらに、受け部41の下側には上側軸受面42が、また、流体軸受皿5の凹部内に下側軸受面51が、それぞれ形成されている。流体軸受けとして機能するとき、図6(a)で示すように、上側軸受面42と下側軸受面51との間には潤滑油13が入り込み、上側軸受面42を円滑に移動させる。
【0037】
下定盤支持部4の受け部41の下面の上側軸受面42は、図5(a)で示すように、平面である。また、流体軸受皿5内の下側軸受面51は、図4,図5で示すように、軸受部51a、傾斜部51b、切込部51cを繰り返し形成してなる平面視円状で円周方向の断面視で多段の面である。軸受部51aは平坦面であり、また、傾斜部51bは正回転方向に沿ってこの平坦面へ向けて上昇するように傾斜する。切込部51cは傾斜部51bの下方よりもさらに下側に底面がある溝として形成されている。
【0038】
流体軸受けの半径方向の断面は、図6(a)で示すように、下側軸受面51を挟んで内周側底面部52、外周側底面部53、内周側壁面部54、外周側壁面部55を備える。内周側底面部52、内周側壁面部54、受け部41の壁面で仕切られる空間により、内周側潤滑油溜り部が形成される。また、外周側底面部53、外周側壁面部55、受け部41の壁面で仕切られる空間により、外周側潤滑油溜り部が形成される。これら内周側底面部52、外周側底面部53、内周側壁面部54、外周側壁面部55、内周側潤滑油溜り部、外周側潤滑油溜り部は平面から見て円状となっている。なお、図6(a)からも明らかなように外周側潤滑油溜り部は内周側潤滑油溜り部よりも半径方向に長くして容積が多くなるように形成しており、外周側では多くの潤滑油が集中しても直ちに液面が高くならないように配慮している。
【0039】
そして、各断面で示すように回路が形成されている。まず、図4,図5、または、図6(b)のA断面図で示すように、下側軸受面51の軸受部51aには流体供給孔26が形成されている。流体供給孔26は、流体軸受皿5の下側に形成された回路を通じて流体供給回路20まで連通する。流体供給孔26は、等角度360°/iにi個(iは2以上の自然数)づつ配設される。このiは軸受部51aの個数と一致する。
【0040】
また、図4や図6(c)のB断面図で示すように、内周側底面部52に内周側回収孔27が形成され、また、外周側底面部53に外周側回収孔28が形成される。この内周側回収孔27および外周側回収孔28はバイパス回路29を介して連通しており、また、バイパス回路29が循環回収回路14と連通する。これら内周側回収孔27、外周側回収孔28およびバイパス回路29は、等角度360°/jに内外でそれぞれj個(jは2以上の自然数)づつ配設される。
【0041】
また、図4や図7(a)のC断面図で示すように、内周側壁面部54に内周側オーバーフロー回収孔30が設けられ、また、外周側壁面部55に外周側オーバーフロー回収孔31が設けられる。この内周側オーバーフロー回収孔30および外周側オーバーフロー回収孔31はオーバーフローバイパス回路32を介して連通しており、また、オーバーフローバイパス回路32がオーバーフロー回収回路21と連通する。これら内周側オーバーフロー回収孔30、外周側オーバーフロー回収孔31およびオーバーフローバイパス回路32は等角度360°/kに内外でそれぞれk個(kは2以上の自然数)づつ配設される。
【0042】
また、図4や図7(b)のD断面図で示すように、内周側壁面部54に補充流体供給孔33が設けられる。回転により潤滑油が減少しやすい内周側に配置している。この補充流体供給孔33は流体補充回路25と連通する。これら補充流体供給孔33は等角度360°/lにl個(lは2以上の自然数)づつ配設される。
なお、図4では時計回りにA断面の流体供給孔26、C断面の内周側オーバーフロー回収孔30および外周側オーバーフロー回収孔31、A断面の流体供給孔26、B断面の内周側回収孔27および外周側回収孔28、A断面の流体供給孔26、D断面の補充流体供給孔33が順次登場するように配置されているが他の配置形態としても良い。
【0043】
続いて流体回路系について説明する。先に説明したが流体回路としては、循環回収用回路と潤滑油補充(供給)用回路とが存在する。まず、循環回収用回路について、動作開始時の流体の流れを考慮しつつ、説明する。循環回収用回路は、流体軸受皿5の潤滑油13内にある不純物を積極的に分離回収する回路である。
【0044】
図6(c)に示すように、内周側回収孔27と外周側回収孔28は底部に配置されて底部付近に沈降する不純物を潤滑油13とともに回収する。これら内周側回収孔27と外周側回収孔28とはバイパス回路29により流路が連結され、バイパス回路29には潤滑油13が流れる。このバイパス回路29は、流体軸受けの内周側潤滑油溜り部と外周側潤滑油溜り部とを連結しており、受け部41の回転による遠心力で外周側に押し出される潤滑油13を内周側に戻す回路である。なお、バイパス回路29は何もしないと不純物が溜まりやすいがバイパス回路29内の潤滑油13とともに不純物は循環回収回路14を介して吸引されるためバイパス回路29に不純物が溜まらないように配慮している。このような内周側回収孔27、外周側回収孔28、バイパス回路29は、図4で示すように、等角で複数配置されることとなる。
【0045】
循環回収回路14は、図3で示すように、回収した潤滑油を分離ポンプ15まで通流させる。
分離タンク15は、密閉式であって潤滑油13内の不純物(軸受部の磨耗粉、冷却等による結露水)を比重差と流速差により沈殿濾過する油水分離密閉タンクである。分離タンク15は、配管の一部であり、流速を落として潤滑油から不純物を分離するため容積は大きいほうが効率がよい。
【0046】
ドレーン回路16は、不純物を含む汚れた潤滑油を外部へ除去するための出口として機能する。
戻し回路17は、分離タンク15で不純物が除去された潤滑油を通流させるようになされている。
フィルタ18は、さらに潤滑油に含まれる不純物を除去し、流体供給ポンプ19へ潤滑油を送出する。
【0047】
流体供給ポンプ19は、詳しくは定量式循環ポンプであり、複数の流体供給回路20を介して、図6(b)で示すように、流体供給孔26から潤滑油13を圧力流体として供給する。流体供給ポンプ19は、例えばA1〜Anのように複数(流体供給孔26の個数と同数)備えるものであり、この潤滑油13の供給は複数箇所の流体供給孔26から行われる。潤滑油13は、複数箇所で噴出して受け部41を押し上げて流体軸受けとして機能することとなる。受け部41が回転していないときまたは回転開始から所定速度までは静圧軸受けとして機能し、また、受け部41の回転が所定速度を超えるときは供給を停止するが、後述するように動圧軸受けとして機能するため、問題は生じない。
【0048】
このような流体軸受皿5の軸受部(平坦部)51aより潤滑油13を供給する流体供給孔26は、図4に示すように、円周方向に均等に複数分布し、さらに等量の潤滑油13が同時に供給される。従って、受け部41の全体を確実に持ち上げて支持し、浮上量を均等にする。
【0049】
以上説明した循環回収用回路では、流体軸受皿5のバイパス回路29の下部より潤滑油13を強制的に吸引し、分離タンク15を経由して各流体供給孔26から受け部へ潤滑油13を戻すように供給する。このように定盤回転開始直前から回転中の一定時間まで、流体軸受皿5の複数の軸受部(平坦部)51aから潤滑油を供給することとなり、下定盤支持部4の浮上を補助し流体軸受皿5の磨耗を軽減する。また、流体軸受皿5の最底部から、沈降する不純物や化学変化等により貯留する潤滑油13を積極的に吸引することとなり、流体軸受皿5内の潤滑油13を清浄に保つことができる。また、本回路は閉回路となるので流体供給ポンプ19による供給量が吸引量と略一致することになり、流体軸受皿5内の潤滑油13の量をほぼ一定に保つことができる。
【0050】
続いて潤滑油補充(供給)用回路について説明する。潤滑油補充(供給)用回路は、流体軸受皿5の潤滑油13の油面高さが所定量を超える場合に回収する回路である、なお、潤滑油13の表面に浮かぶ不純物を分離回収する回路としても機能する。オーバーフローにより流れ出た潤滑油13の補充が主目的で、流体軸受皿5の潤滑油13の油量を保証(所定量を維持する)する回路である。このような潤滑油補充(供給)用回路系は以下のようになる。
【0051】
図7(a)で示すように、内周側オーバーフロー回収孔30と外周側オーバーフロー回収孔31は、流体軸受皿5の内周側潤滑油溜り部あるいは外周側潤滑油溜り部の上方に設けられ、所定液面を超えるオーバーフローを回収して潤滑液13の溜り量を一定に保持する。内周側オーバーフロー回収孔30と外周側オーバーフロー回収孔31とはオーバーフローバイパス回路32により流体軸受皿5の底で回路が連結され、オーバーフローバイパス回路32には潤滑油13が流れる。
【0052】
このオーバーフローバイパス回路32は、流体軸受けの内周側潤滑油溜り部と外周側潤滑油溜り部を連結しており、所定高さを超えるオーバーフローを回収する。また、受け部41の回転による遠心力で外周側に押し出される潤滑油13を内周側に戻す回路としても機能する。なお、潤滑油13の油面に浮かぶ不純物を潤滑油13とともに回収して通流させる。このような内周側オーバーフロー回収孔30、外周側オーバーフロー回収孔31、および、オーバーフローバイパス回路32は、図4で示すように、等角で複数配置されることとなる。
【0053】
オーバーフロー回収回路21は、図3で示すように、内周側オーバーフロー回収孔30、外周側オーバーフロー回収孔31から流出してオーバーフローバイパス回路32を流れる潤滑油13をオーバーフロー分離タンク22へ通流させる。
オーバーフロー分離タンク22は、潤滑油13から不純物(結露水や軸受部の磨耗粉)を分離する機能を有する。なお、前述する分離タンク15と比較すると油と不純物を分離する能力が低くなっている。このオーバーフロー分離タンク22に備え付けられた手動コックを定期的に開き、劣化した潤滑油や不純物を一部分のみ回収廃棄する。なお、メンテナンス用に全量回収し交換もできる。
【0054】
流体貯蔵タンク23は、オーバーフロー分離タンク22から通流された潤滑油13を回収し、貯留する。この流体貯蔵タンク23には充分な潤滑油13が貯められる。
流体補充ポンプ24は、流体貯蔵タンク23から潤滑油13を吸引して流体補充回路25へ送出する。
流体補充回路25は、図7(b)で示すように、補充流体供給孔33へ潤滑油13を送出する。
【0055】
補充流体供給孔33は、流体軸受皿5内に潤滑油13を供給する。この潤滑油13は、流体軸受皿5の内周側潤滑油溜り部および外周側潤滑油溜り部へ流れ出て流体軸受皿5に潤滑油13を供給することとなる。
【0056】
このように潤滑油補充(供給)用回路では回収された潤滑油はある程度の不純物除去機能を有するオーバーフロー分離タンク22を経由し、流体貯蔵タンク23に戻る。
オーバーフローにより流れた潤滑油は流体貯蔵タンク23に回収された後、流体補充ポンプ24により潤滑油が流体軸受皿5内に間歇的に供給されるため、流体軸受皿5内の潤滑油13は少量ずつ新しい潤滑油13に更新される。また、流体軸受皿5の潤滑油13に浮かぶ不純物を潤滑油補充(供給)用回路で定期的に回収廃棄して保守すれば、潤滑油13を清浄に保つことができる。
【0057】
続いて、本形態の平面ラップ/ポリッシュ盤100の具体的な加工動作について説明する。まず、ワークキャリア12にワーク200を設置する設置工程が行われる。この設置工程については従来技術と同様であり、例えば、図2で示すように、ワークキャリア12に穿設されたワーク保持孔内に、複数枚のワーク200が装着される。この装着はワークハンドリングロボットを用いるなどしてワークキャリア12へのワーク200の装着とワークキャリア12からのワークの取り出しについては自動化しても良い。最終的に下定盤3の上に複数のワークキャリア12が放射状に配置されている。ワークキャリア12に穿設されたワーク保持穴にラッピングまたはポリッシングされる複数のワーク200が保持される。
【0058】
続いて、各部を動作させる。下定盤3は、下定盤回転駆動部から駆動力が伝達され、この駆動力に応じて回転する。後述するが流体軸受けにより円滑に回転動作する。そして、太陽歯車7は太陽歯車回転駆動部により回転駆動され、また、内歯歯車8が内歯歯車回転駆動部により回転駆動される。ワークキャリア12の外周の歯面は太陽歯車7および内歯歯車8と噛合っており、ワークキャリア12は遊星運動を開始する。
【0059】
続いて上定盤2をワーク200に着盤させる着盤工程を行う。ワーク200の着盤時には、上定盤2に設けられた図示しないスラリー供給穴からリンスやスラリーを供給する。続いて、ワークの加工を行う。ワーク200の加工時には、上定盤2に設けられたスラリー供給穴からリンスやスラリーを供給しつつ、上定盤2および下定盤3を回転させる。太陽歯車7および内歯歯車8を回転させることにより上定盤2と下定盤3とにより挟持されるワーク200が装着されたワークキャリア12が自転しつつ公転し、ワーク200の両面が研磨される。
【0060】
これら上定盤2、下定盤3、太陽歯車7、内歯歯車8は、それぞれ、上定盤回転駆動部、下定盤回転駆動部、太陽歯車回転駆動部、内歯歯車回転駆動部により回転が制御されており、例えばこれら各駆動部に接続される制御装置により回転速度を調節して最適なラッピング・ポリッシングを行う。最後に、研磨が終了したワークを取り出す。加工動作はこのようなものである。
【0061】
この加工動作時の流体軸受けおよび流体回路系の動作は以下のようになる。図8の流体供給ポンプの実線(点線ではない)のタイムチャートからも明らかなように、下定盤3が回転開始する数秒前に流体供給ポンプ19を動作させて流体供給孔26から潤滑油を吹き出させる供給を開始して下定盤支持部4の受け部41を上側方向へ持ち上げるように支持し、図5(b)で示すように、下定盤3に黒矢印のような浮上力を加えて下定盤3を浮上させて静圧軸受けとして機能させる。そして図8の流体供給ポンプの実線のタイムチャートのように、下定盤3の回転開始から所定時間が経過して下定盤3の回転が所定速度を超えるときに流体供給ポンプ19を停止させて、静圧軸受けとしての機能を停止させる。
【0062】
しかしながら、回転が所定速度を超えて図5(c)の矢印b方向に正回転するときは流体供給孔26から潤滑油13の供給が停止していても、傾斜部51bが動圧を発生させて黒矢印のような浮上力を下定盤3に加えるため、下定盤支持部4の受け部41を上側方向へ持ち上げるように支持している。したがって、以後下定盤支持部4が停止するまで流体軸受けは下定盤支持部4を浮上させる動圧軸受けとして機能する。この加工時では図8の流体補充ポンプの実線のタイムチャートのように、流体補充ポンプ24が一定時間毎に潤滑油13を補充する。従って、流体軸受皿5にはオーバーフローが確実に起きる多量な潤滑油13が存在するが、流体軸受皿5内を流れているうちに徐々にオーバーフローにより回収されるため、一定時間毎に補充供給することが好ましい。
このような流体軸受けとすることにより、定盤の回転始動時では静圧軸受として作用させて安定した回転立ち上がりとし、また、定盤回転時では動圧軸受として作用させて充分な浮上力を与えることができる。
【0063】
続いて本発明の他の形態について説明する。先の形態の流体軸受けの下側軸受面51は、一方向のみの回転用に構成された形態である。本形態では、流体軸受けは両方向の回転用に構成された形態である。なお、軸受け面以外の構成は先の形態の構成と同じであり、他の構成は先の形態の符号と同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0064】
本形態の流体軸受けは、図9で示すように、下側軸受面56は、下降傾斜部56a、軸受部56b、上昇傾斜部56c、切り込み部56dを一単位とし、複数単位が繰り返し設けられたものである。下降傾斜部56aは正回転方向に沿って下降し、また、上昇傾斜部56cは正回転方向に沿って上昇する。また、下定盤支持部4の受け部41の下面の上側軸受面42は、図9(a)で示すように、平面である。
【0065】
ここに、図9(b)で示すように、静止状態から正回転する場合を想定する。
このような流体軸受けの静止時や正回転で所定速度まで到達した時では、流体供給孔26からは常時流体を供給し、静圧軸受けとして機能させて下定盤支持部4を浮上させる。
さらに、正回転で所定速度を超える時では、流体供給孔26からの流体供給を停止させた状態とし、上昇傾斜部56cでは動圧により浮上力を発生させ、かつ、下降傾斜部56aでは動圧により下降力を発生させて浮上を抑制する動圧軸受けとして機能させる。
【0066】
また、図9(c)で示すように、逆回転する場合を想定する。
このような流体軸受けの静止時や逆回転で所定速度まで到達した時では、流体供給孔26からは常時流体を供給し、静圧軸受けとして機能させて下定盤支持部4を浮上させる。
さらに、逆回転で所定速度を超える時では、流体供給孔26からの流体供給を停止させた状態とし、下降傾斜部56aでは動圧により浮上力を発生させ、かつ、上昇傾斜部56cでは動圧により下降力を発生させて浮上を抑制する動圧軸受けとして機能させる。
【0067】
以上説明した本形態によれば定盤の回転始動時では静圧軸受として作用させて安定した回転立ち上がりとし、また、定盤回転時では動圧軸受として作用させて大型の下定盤に対しても充分な浮上力を与えることができる。さらに正逆回転可能とし、研磨能力を向上させている。
【0068】
続いて本発明の他の形態について説明する。先の形態の流体軸受けは、所定速度まで流体を供給し、所定速度を超えるときには流体の供給を停止する形態である。しかしながら、近年のワークの大型化に伴って定盤も大型化により重量が増大したため、定盤の回転時でも動圧軸受けに発生する動圧が小さく、また、発生した動圧が変動する場合があり、定盤の位置が不安定になって、加工ワークの精度悪化を生じたり、流体軸受けの構成部の磨耗が増加するという問題があった。また、下定盤等各部材の形状が大きくなることに伴って加工精度や部材の撓みなどの影響により、上下の軸受面がそもそも均一に当たっていることを保証できなくなってきた。そこで、本形態では、流体軸受けは、回転速度によらず常時流体を供給して静圧軸受けとして機能させ、回転時では動圧による浮上力を加えて供給する形態である。なお、流体供給の点以外は先の形態と同じ構成となり、他の構成は先の形態の符号と同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0069】
この加工動作時の流体軸受けおよび流体回路系の動作は以下のようになる。図8の点線(実線ではない)のタイムチャートからも明らかなように、下定盤3が回転開始する数秒前に流体供給ポンプ19を動作させて流体供給孔26から潤滑油を吹き出させる供給を開始して下定盤支持部4の受け部41を上側方向へ持ち上げるように支持し、図5(b)で示すように、下定盤3に黒矢印のような浮上力を加えて下定盤3を浮上させて静圧軸受けとして機能させる。そして図8の流体供給ポンプの点線のタイムチャートのように流体供給を続けて、静圧軸受けとしての機能を維持させる。
【0070】
そして、回転が所定速度を超えて図10(a)の正回転方向に回転すると、傾斜部51bでも動圧を発生させて黒矢印のような浮上力を下定盤3に加えるため、下定盤支持部4の受け部41をさらに上側方向へ持ち上げるように支持する。したがって、以後下定盤支持部4が停止するまで流体軸受けは下定盤支持部4を浮上させるように機能する。この加工時では図8の流体補充ポンプの実線のタイムチャートのように、流体補充ポンプ24が一定時間毎に潤滑油13を補充する。従って、流体軸受皿5にはオーバーフローが確実に起きる多量な潤滑油13が存在するが、流体軸受皿5内を流れているうちに徐々にオーバーフローにより回収されるため、一定時間毎に補充供給することが好ましい。
このような流体軸受けとすることにより、定盤の回転始動時では静圧軸受として作用させて安定した回転立ち上がりとし、また、定盤回転時では流体供給による浮上力に対して動圧変動による浮上力も加えた静圧軸受として作用させるため、大型の下定盤に対しても充分な浮上力を与えることができる。また下降力により過度の浮上を抑える。
【0071】
また、正逆回転可能にした流体軸受けでも同様に機能する。
ここに、図10(b)で示すように、正回転する場合を想定する。
このような流体軸受けの静止時や正回転で所定速度まで到達した時では、流体供給孔26からは常時流体を供給し、静圧軸受けとして機能させて下定盤支持部4を浮上させる。
さらに、正回転で所定速度を超える時でも流体供給孔26からの流体供給を維持した状態として浮上力を与え、上昇傾斜部56cでは動圧変動による浮上力を発生させ、かつ、下降傾斜部56aでは動圧変動による下降力を発生させて浮上量を減少させ、且つ安定させるような静圧軸受けとして機能させる。なお、逆回転時も同様に流体供給孔26から流体供給を行いつつ静圧軸受けとして機能させるというものであり、重複する説明を省略する。
【0072】
以上説明した本形態によれば定盤の回転始動時では静圧軸受として作用させて安定した回転立ち上がりとし、また、定盤回転時では流体供給による浮上力に対して動圧変動による浮上力を加えた静圧軸受として機能させるため、大型の下定盤に対しても充分な浮上力を与えることができる。また下降力により過度の浮上を抑える。さらに正逆回転可能とし、研磨能力を向上させている。
【0073】
続いて本発明の他の形態について説明する。先の形態の流体軸受けは、下側軸受け面が動圧軸受けとして機能するものであった。しかしながら、定盤が比較的小型な場合では動圧発生が不要な場合もある。そこで、図10(c)で示すように、下側軸受け面57および上側軸受け面42をともに平面として両者を平行とし、下側軸受け面の流体供給孔26からの流体のみで浮上力を与える構成としても良い。停止時は静圧軸受けであるのは勿論であるが、また、回転時でも圧力変動がなく、静圧軸受けと同様に機能する。このような構成を採用しても上記したような不純物回収についての効果を発揮しうる。
【0074】
以上本発明の平面ラップ/ポリッシュ盤について説明した。本発明では流体として潤滑油に限定したが、圧力水や軸受けとして利用できる他の液体を採用することが可能である。このような流体は適宜選択される。
【0075】
また、本形態では下定盤3が取り付けられた下定盤支持部4(支持部の具体例である)のみを流体軸受けが支持する形態として説明した。しかしながら、垂直軸周りに回転駆動される太陽歯車、内歯歯車、上定盤または下定盤に対して本形態で説明した流体軸受けを採用することができる。例えば太陽歯車、内歯歯車、上定盤または下定盤をそれぞれ支持する支持部を設け、これら支持部のうちの一つに流体軸受けを採用した構成、これらのうちから選択した2個か3個に流体軸受けを採用した構成、または、これら全てに流体軸受けを採用した構成としても本発明の効果を奏しうる。
【0076】
また、本形態では上記したような下軸受け面・上軸受け面を有するものとして説明した。しかしながら、下軸受け面・上軸受け面に他の形状を採用しても良い。このような流体軸受けを採用しても本発明の効果を奏しうる。
【0077】
このような本発明の平面ラップ/ポリッシュ盤は以下のような利点がある。
例えば、従来技術では構造的に流体軸受皿内に結露水や金属研磨粉などの不純物が溜まりやすく、結露水が潤滑油に混入して潤滑性能に支障を来たすようになったり、発生する動圧性能が低下して定盤の浮上量が低下したり不安定になっていたが、本発明では特に受け部41で仕切られた内周側潤滑油溜り部と外周側潤滑油溜り部とのそれぞれの底面に潤滑油13を回収する内周側回収孔27と外周側回収孔28とを設けた。これにより、内周側潤滑油溜り部と外周側潤滑油溜り部との底に沈降した不純物を回収することができるようになり、また、潤滑油13を確実に循環させて流動性・清浄性を確保した潤滑油とすることができる。その結果として発生する動圧性能を安定化させ、浮上量を一定に保つことができるようになる。
【0078】
加えて流体軸受皿5の底部にて内周側潤滑油溜り部と外周側潤滑油溜り部とを連結するバイパス回路29を設け、潤滑油13が外周側から内周側へ流れるようにしたため、遠心力により外周側に偏在しやすい潤滑油13を内周側に戻すことができる。
【0079】
また、このバイパス回路29から流体軸受皿5の底部に溜まった不純物(結露水や金属研磨粉等)を回収すると同時に再使用可能な潤滑油13を分離タンク15で分離するようにしたため、潤滑油13を再利用することができ、潤滑油13の節約が可能である。また、この分離タンク15に貯留された潤滑油13を流体供給ポンプ19が流体供給孔26を介して供給する。この際、流体供給ポンプ19は、フィルタ18、戻し回路17、分離タンク15、および循環回収回路14、バイパス回路29を経て内周側回収孔27や外周側回収孔28から潤滑油13を吸引する。この際、途中のフィルタ18や分離タンク15で不純物が除去される。このような回路では回収量と供給量とを一致させて、潤滑油13が不足する事態を防止する。
【0080】
また、オーバーフローした潤滑油13をオーバーフロー分離タンク22に回収し不純物を分離した潤滑油13を流体軸受皿5内へ供給しており、潤滑油13が溢れ出る事態や潤滑油13が不足する事態の発生を防止し、流体軸受皿5内で常時所定量の潤滑油13が存在するように維持する。特にオーバーフローした潤滑油13の回収時に液面を浮いている不純物を回収できるため、潤滑油13の底の不純物回収と合わせると潤滑油のより一層の清浄化を可能とする。
【0081】
また、各々の流体供給孔26に対しては、定量式循環ポンプである流体供給ポンプを用いて潤滑油13の供給量を一定となるように配慮しており、流体軸受けとしての機能が定盤の円周上で均一に発現するようにしており、下定盤支持部4および下定盤3の安定的な回転を可能としている。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のような本発明に係る平面ラップ/ポリッシュ盤は、ワークに対して、ラッピング、ポリッシング等の精度の高い平面加工を行う装置に適している。
【符号の説明】
【0083】
100:平面ラップ/ポリッシュ盤
1:上定盤支持部
1a:上定盤駆動ドラム
1b:回動式駆動ツメ
1c:上定盤駆動軸
2:上定盤
3:下定盤
4:下定盤支持部
41:受け部
42:上側軸受面
5:流体軸受皿
51:下側軸受面
51a:軸受部
51b:傾斜部
51c:切込部
52:内周側底面部
53:外周側底面部
54:内周側壁面部
55:外周側壁面部
56:下側軸受面
56a:下降傾斜部
56b:軸受部
56c:上昇傾斜部
56d:切込部
57:下側軸受面
6:ベース部
7:太陽歯車
8:内歯歯車
9:下定盤駆動軸
10:太陽歯車駆動軸
11:内歯歯車支持部
12:ワークキャリア
13:潤滑油
14:循環回収回路
15:分離タンク
16:ドレーン回路
17:戻し回路
18:フィルタ
19:流体供給ポンプ
20:流体供給回路
21:オーバフロー回収回路
22:オーバフロー分離タンク
23:流体貯蔵タンク
24:流体補充ポンプ
25:流体補充回路
26:流体供給孔
27:内周側回収孔
28:外周側回収孔
29:バイパス回路
30:内周側オーバーフロー回収孔
31:外周側オーバーフロー回収孔
32:オーバーフローバイパス回路
33:補充流体供給孔

200:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車を外周に有するワークキャリアが太陽歯車と内歯歯車との間に噛合した状態で太陽歯車と内歯歯車とを相対的に回転駆動させてワークキャリアを遊星運動させ、かつワークキャリアの上下面を上定盤と下定盤とで挟圧しながら両定盤を回転駆動することでワークキャリアに保持されているワークをラッピングまたはポリッシングする平面ラップ/ポリッシュ盤であって、
円環状で断面凹型の溝部を含むとともにこの溝部内底面に下側軸受面が形成される下側の流体軸受皿と、円環状で断面角型の受け部を含むとともにこの受け部下面に上側軸受面が形成される上側の支持部と、下側軸受面に設けられて流体を供給する流体供給孔と、を有し、流体軸受皿の溝部内の下側軸受面と受け部の上側軸受面とが対向するようになされ、垂直軸周りに回転駆動される太陽歯車、内歯歯車、上定盤または下定盤のうちの少なくとも一つに設けられてその垂直荷重を支持する流体軸受けと、
流体軸受皿の溝部内の下側軸受面に隣接する内周側底面部と連通し、円周方向に適間隔に複数個が設けられる内周側回収孔と、
流体軸受皿の溝部内の下側軸受面に隣接する外周側底面部と連通し、円周方向に適間隔に複数個が設けられる外周側回収孔と、
所定の内周側回収孔と外周側回収孔との間を連通させるバイパス回路と、
バイパス回路と連通し、沈降する不純物を含む流体を通流させる循環回収回路と、
循環回収回路と連通し、流体とともに不純物を回収する流体回収部と、
流体供給孔と連通し、流体を供給する流体供給部と、
を備えることを特徴とする平面ラップ/ポリッシュ盤。
【請求項2】
請求項1に記載の平面ラップ/ポリッシュ盤において、
前記流体供給部は、不純物を分離して貯留される流体を前記流体回収部から吸引し、複数の流体供給孔からそれぞれ一定流量の流体を供給する流体供給ポンプであることを特徴とする平面ラップ/ポリッシュ盤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の平面ラップ/ポリッシュ盤において、
前記下側軸受面は軸受部、傾斜部、切込部を繰り返し形成してなる円状の面であって複数の軸受部の面内にそれぞれ複数の流体供給孔が設けられており、
前記流体軸受けは、
所定回転速度以下で受け部が回転するときは、流体供給孔から流体を供給する状態として、複数の軸受部の流体供給孔から噴出する流体の静圧により受け部の上側軸受面を押し上げる静圧平面軸受けとして機能し、
所定回転速度を超えて受け部が回転するときは、流体供給孔から流体を供給する状態か、または、流体の供給を停止する状態として、静圧平面軸受けまたは動圧平面軸受けとして機能する、
ことを特徴とする平面ラップ/ポリッシュ盤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−131289(P2011−131289A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290636(P2009−290636)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000236366)浜井産業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】