説明

廃棄物弁別処理方法および廃棄物弁別処理装置

【課題】廃棄物における特定の材質部分を迅速かつ分かり易く表示することにより、密閉装置内で行わなければならない有害廃棄物の弁別処理を迅速かつ正確に行うことができるようにする。
【解決手段】被検体に放射線を照射し、透視画像データを撮影する工程と、被検体容器の個体ナンバーと撮影方向とを特定する工程と、前記被検体から除去すべき材質部分を透視画像データより自動的に認識する工程と、前記被検体の撮影方向と測定結果とを同時に保存する工程と、前記被検体の個体ナンバーに対応する測定結果を適宜呼び出し、参照しながら前記被検体を分解処理する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害物質を含む廃棄物処理における特定の材質部分を検出して弁別処理する廃棄物弁別処理方法および廃棄物弁別処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料使用施設で発生する放射性廃棄物やPCB等を含む有害廃棄物には減容化処理が必要とされている。減容化のための処理方法は材質によって異なるため、容器に入れた廃棄物を材質毎に弁別する必要があるが、有害物を含む場合には、グローブボックスなどの密閉装置での作業が必須である。また廃棄物は複数の材質から構成される複合材も多く、これらを完全に分解し、特定の材質を取出すなどの作業は極めて煩雑で危険性を伴う。
【0003】
例えば原子力プラント等で発生する放射性廃棄物においては、そのまま保管される場合と、溶融処理または減容処理後、コンクリートで固化され、保管される場合とがある。保管スペースを少なくするため、および保管し易くするために、放射性廃棄物をドラム缶ごと溶融処理、例えばプラズマ溶融処理する場合、作業員がドラム缶を開缶し、ドラム缶内の放射性廃棄物を取出し、分別する。
【0004】
特に、アルミニウムと鉛は溶融処理に適さないため、溶融処理せずに別途保管する必要がある。これは、アルミニウムを溶融し、コンクリートで固めると、コンクリート内の水分とアルミニウムとが反応し、水素が発生して溶融炉に損傷を与える虞れがあるためである。
【0005】
一方、鉛については、これを溶融すると有毒ガスが発生するため公害防止上好ましくない。ところが、一般に原子力分野では鉛が放射線の遮蔽として広く使用され、またアルミニウムはフィルタ等の複合材として含まれていることも多い。これらの材質を迅速に検出し、作業員に注意を喚起すれば分別作業の効率向上になり、作業員の放射線被曝を低減することができる。
【0006】
また、PCB含有廃棄物処理においては、原則として書類審査と目視検査とが主体となっているが、万一、内容物と表示とが相違し、処理不能な材質が混入した場合には迅速に発見することが困難である。
【0007】
したがって、これら有害廃棄物の分解弁別処理においては、非破壊で内側を透視し、かつ材質を特定することができる技術が極めて有効である。
【0008】
従来の廃棄物の分別処理方法の例として、金属検出装置により廃棄物内に金属があるか否かを分別し、さらにX線検査装置により金属の形状が非定形なものか定形なものかを分別する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。その他、ロ−ラコンベア上を移動する放射性廃棄物の成分を、捕獲γ線分析装置と蛍光X線分析装置を組合わせることにより求める方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
ただし、金属検出装置と蛍光X線装置を用いる際には、被検体の開封や分解が必須であり、有害物を多量に含み、または複雑な構造をした複合材の検査に対しては、適用が困難である。
【0010】
また、材質を識別し、かつ場所を特定する手法も提案されている(例えば、特許文献3)。この方法では、X線管の管電圧をパラメータとしてX線透視画像階調値またはその関数を検出し、これを材質ごとに基準階調とする。この基準階調は、計算からも求められ、データテーブルとして登録しておく。そして、被検体を測定して予めデータベースとしている基準階調と比較して材質を特定する。特に鉛、アルミニウムの識別をX線CTよりも簡便に行うことを方法の特徴としている。
【0011】
しかし、この方法では異なる材質が透視方向にかけて重なり合っている際には、1つの材質ごとの基準関数からは、判定しにくく、また厚みが基準関数と異なる際にも同様に判定しにくい等の課題がある。さらに、この提案では、パラメータとしてX線の管電圧(エネルギと同じ、厳密には分布を持つので等価ではない)により、物質によるX線透過の厚さ依存性を用いて、得られる輝度値から判定を行っている。
【0012】
なお、管電圧をパラメータとする場合、同時に管電流をパラメータとしなければ、判別可能な輝度データが得られない。例えば、300kVのデータの管電流と100kVの管電流では100kVの管電流を多くしなければ同様な輝度にならない。
【0013】
したがって、材質毎に膨大なデータをテーブルとして持たなければならず、また正確な判定を行なうためには、被検体の測定条件もデータベースを取得した条件と同じにしなければならない。
【0014】
ところが、測定対象が廃棄物の場合、内容物の材質や大きさは様々であり、常に同じ条件で撮影ができるとは限らない。このため。測定条件を変更するたびに、データベースも測定しなおさなければならないという課題がある。よって、この方法では測定対象が複雑な形状をしている場合、空間情報と材質情報を正確に得ることは難しい。
【特許文献1】特開平6−273588号公報
【特許文献2】特開平7−209493号公報
【特許文献3】特許第3193665号公報
【非特許文献1】原題:Development of multi−color scintillator based X−ray image intensifier 著者・所属:K.Nittoh et al. Toshiba Corporation, Japan. 出典: Nuclear Instruments & Methods in Physics Research A535/3 P 686−691(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
有害物を含む廃棄物処理においては、グローブボックスなどの密閉装置を介して行う必要があるため、通常の場合よりも極めて作業性が悪い。したがって、その際には内部に何が挿入されているという情報だけではなく、何がどの場所に如何なる量だけ挿入されているかという情報を、迅速かつ正確に表示する事が重要になる。
【0016】
従来技術における金属検査装置および蛍光X線装置は、未開封で行う配慮がされていないため、有害物の検査には必ずしも好適ではない。X線透視装置は収納状態を確認するには有効な手法であるが、そのままでは材質の特定ができず、また被検体が回転すると情報が変化してしまう難点がある。
【0017】
一方、内部の材質や構造を非破壊で検査する方法として、X線CT法が知られている。X線CT法では、各廃棄物のX線吸収割合、すなわちX線吸収係数を求め、さらに各廃棄物の厚さを求めることにより、各廃棄物の材質を判別することができる。しかし、この方法では、デ−タ収集、画像再構成演算、表示等のため膨大な時間とコストを要し、迅速性を必要とする廃棄物検査には適していない。
【0018】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、廃棄物における特定の材質部分を迅速かつ分かり易く表示することにより、密閉装置内で行わなければならない有害廃棄物の弁別処理を迅速かつ正確に行うことができる廃棄物弁別処理方法および廃棄物弁別処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記の目的を達成するため、本発明では、弁別処理対象の廃棄物である被検体に放射線を照射して透視画像を撮影する工程と、前記被検体を収容する被検体容器の個体ナンバーと撮影方向とを特定する工程と、前記被検体から除去すべき材質部分を透視画像データとして認識させる工程と、前記被検体の撮影方向と測定結果データとを同時に保存する工程と、前記被検体の個体ナンバーに対応する測定結果を呼び出し、参照しながら前記被検体を分解処理する工程とを備えることを特徴とする廃棄物弁別処理方法を提供する。
【0020】
また、本発明では、被検体に装着することで被検体の個体ナンバーと角度を示すタグと、このタグを読み取り認識する装置と、被検体を回転させる回転テーブルと、放射線源と、被検体および回転テーブルを挟んで対向して設置した放射線を検出するセンサと、前記センサの信号を画像に変換する信号処理装置と、得られた画像における濃度値に演算処理を行う画像演算処理装置と、演算処理された結果をデータとして保存する保存装置と、密閉装置内で被検体を分解する際に前記被検体に付されたタグを読み取り、前記被検体の個体ナンバーに対応した測定結果を表示する表示装置と、測定結果に対応する方向に被検体を回転させて角度調節を行う角度調節装置とを備えたことを特徴とする廃棄物弁別処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、廃棄物における特定の材質部分を迅速かつ分かり易く表示することにより、密閉装置内で行わなければならない有害廃棄物の弁別処理を迅速かつ正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る廃棄物弁別処理方法および廃棄物弁別処理装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
[第1実施形態(図1−図5)]
本実施形態では、弁別処理対象の廃棄物である被検体に放射線を照射して透視画像を撮影する工程と、被検体を収容する被検体容器の個体ナンバーと撮影方向とを特定する工程と、被検体から除去すべき材質部分を透視画像データとして認識させる工程と、被検体の撮影方向と測定結果データとを同時に保存する工程と、被検体の個体ナンバーに対応する測定結果を呼び出し、参照しながら被検体を分解処理する工程とを備える廃棄物弁別処理方法について説明する。
【0024】
また、本実施形態では、上記方法を実施する装置として、被検体に装着することで被検体の個体ナンバーと角度を示すタグと、このタグを読み取り認識する装置と、被検体を回転させる回転テーブルと、放射線源と、被検体および回転テーブルを挟んで対向して設置した放射線を検出するセンサと、センサの信号を画像に変換する信号処理装置と、得られた画像における濃度値に演算処理を行う画像演算処理装置と、演算処理された結果をデータとして保存する保存装置と、密閉装置内で被検体を分解する際に被検体に付されたタグを読み取り、被検体の個体ナンバーに対応した測定結果を表示する表示装置と、測定結果に対応する方向に被検体を回転させて角度調節を行う角度調節装置とを備えた廃棄物弁別処理装置を提供する。
【0025】
なお、本実施形態では、透視画像データを撮影する工程として、被検体を密閉容器越しに撮影し、密閉状態のまま搬送し、かつ密閉装置内で分解処理することが望ましい。
【0026】
また、分解処理する機構を複数使用し、被検体における除去すべき材質の有無、または除去すべき材質種類および形状に応じて被検体を分類することが望ましい。
【0027】
図1は本発明の第1実施形態による廃棄物弁別処理装置の全体構成を概略的に示す構成説明図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の廃棄物弁別処理装置101は、廃棄物搬送カート1と、この廃棄物搬送カート1によって搬送できる密閉された容器からなる被検体2と、この被検体2に後述のタグを装着する識別タグ装着装置3と、被検体2を分解処理ラインに輸送するベルトコンベア4(4a‥4h)と、X線エネルギを自在に変更できるX線源および透過したX線を受光するセンサ等を有するX線透過画像撮影装置5とを備えている。
【0029】
また、X線透過画像撮影装置5のコンソール(X線透過画像撮影装置コントローラ)6と、測定された画像データを処理し、かつ保存するデータ処理装置(信号処理および保存装置)7と、データを別の場所へ転送するためのLANケーブル8a,8b‥8eと、データを表示する表示装置(モニタ)9a,9bと、被検体を開封分解するライン(廃棄物開封処理ライン)10(10a,10b,10c)とを備えている。
【0030】
被検体2は、危険有害物を含むため、廃棄物搬送カート1にて運ばれる。続いて、識別タグ装着装置3にて、密閉された空間にて容器毎に個体を識別するため後述のタグ(ナンバータグ)が装着される。以降の測定および分解処理ラインへの輸送はベルトコンベア4(4a‥4h)にて行われる。ラインには作業員Mが配置される。
【0031】
ベルトコンベア4にて運ばれた被検体2は、X線透過画像装置5にて透過画像を撮影される。X線透過画像撮影装置5は撮影角度を変更できる角度変更機構5aを具備し、自在に角度を変えて撮影できる構成となっている。なお、照射する放射線については、X線のほか、γ線や中性子線等を適用することもできる。
【0032】
撮影されたデータはデータ処理装置7へ送られ、そこでデータ処理を行い、取り除きたい材質部分を画像処理により抽出し、撮影角度と被検体の個体情報とともに保存される。
【0033】
ここで画像処理された結果により、被検体2は例えば開封不要なもの、アルミニウムを含むもの、鉛を含む可能性のあるものというように選別され、ベルトコンベア4c、4d、4eによりそれぞれ別々の廃棄物処理ラインに運ばれる。
【0034】
例えば、開封不要なものは不要ライン10aへ送られ、アルミニウムを含むものは処理用のライン10bにてグローブボックス越しにアルミニウムを取出すものとされる。また、鉛を含むものは処理用のライン10cにおいて鉛の取出しが行われ、分類された廃棄物11a,11b,12a,12b,13a,13bは最終的に再梱包され、それぞれ次の処理(減溶処理など)へ運ばれる。
【0035】
図2(a)〜(d)は被検体2が個体識別タグ14a,14bを装着した様子を示したものである。識別タグ14a,14bは例えば鉛やタングステンなどのX線を透過しにくい材質により構成され、ナンバー刻印が施されており、例えば平面視で0度(図2(a)、(b))と、90度(図2(c)、(d))のような2箇所に角度が区別できるように付けられる。
【0036】
図3(a)、(b)はX線透過画像において角度を認識する必要性を示した図である。すなわち、X線透過画像では、図3(a)には図2(a)に対応した画像S1を示し、図3(b)には図2(b)に対応した画像S2を示している。これらの図に示すように、X線透過画像はX線照射方向に対し積算された結果が白黒の濃淡で表示されることから、例えば図3(a)と図3(b)とに示したように、90度回転しただけで全く異なる画像になる可能性があり、通常の可視画像に比べて内容物が認識しにくい。
【0037】
したがって、どの方向から撮影したのか不明な透過画像を見ながら、グローブボックス越しで何かを探すのは非常に困難である。また、容器に入った廃棄物などは外見が類似であるために、一見してデータを区別することが難しく、誤ったデータを表示してしまう可能性もある。そこで図4に示すように、開封処理するライン10は、予め個体識別ナンバータグ14c,14dにしたがって被検体2の方向を自動的に調整できることが望ましい。
【0038】
図4には開封処理するライン10がより詳しく示してある。開封処理するライン10は例えばグローブボックスなどの密閉装置となっており、内部にはナンバータグ14c、14dを読み取るためのセンサ15が設けられている。
【0039】
ナンバータグ14c、14dを読み取る方法は種々可能であるが、最も容易な方法は、例えばカメラ等で読み取り、パターン認識などの画像処理で識別する方法がある。センサ15でナンバーが識別されると、該当する廃棄物のデータが表示装置9に表示される。この時同時に、廃棄物の撮影方向に合わせてテーブル17が回転し、適切な角度に調整される。別の角度情報を見たい場合には端末コントローラ16により作業員Mが命令を送ると、別の角度の画像S3が表示されるとともに、テーブル17もそれに応じた角度に回転する。
【0040】
図5は以上の処理の流れをフロー図で示したものである。まず、被検体に個体ナンバータグを装着し(S1)、X線透視画像撮影装置へ設置する(S2)。撮影方向確認を行い(S3)、撮影をする(S4)。撮影後、試料テーブルを垂直軸心廻りに90度回転させ(S5)、再度撮影する(S6)。次いで、材質を識別し(S7)、除去対象の有無を判断する(S8)。この判断により除去対象物がない場合(NO)には、未開封のまま焼却処理とし(S9)、除去対象がある場合(YES)には分解機構に移送する(S10)。
【0041】
分解機構では、被検体2方向確認を行い(S11)、開封して特定材質を取出す(S12)。材質識別(S7)の後、データベースへの記録を行い(S13)、その後開封して特定材質を取出す(S12)。この後、再梱包等を行い(S14)、終了となる。
【0042】
以上の工程により、廃棄物の内容物を確認しながら開封し、分解することが可能になり、取り除くべき物質を迅速に取出すことができるため、作業の効率向上につながり、被曝などの危険を回避することが可能になる。
【0043】
[第2実施形態]
図6は本発明の第2実施形態を示している。本実施形態では、透視画像データから濃度情報を抽出し、予め定めた単位面積あたりの濃度が、予め定めた範囲を超えているか否かにより除去すべき部分を判定し、表示させる廃棄物弁別処理方法について説明する。
【0044】
X線透過画像は、図6に示すような白黒の濃淡画像で示される。例えばX線センサをX線イメージインテンシファイアとCCDカメラとの組合せとした場合には、X線が透過しないものほど黒色に写る。したがって鉛などのようなX線吸収の大きい材質は黒く、アルミニウムなどのように吸収が少ない材質は白色系に表示される。
【0045】
ここで、例えば鉛を検出したい場合の方法を説明する。まず、標準試料を用いて透過画像を撮影し、単位面積あたりに鉛が一定量以上存在する場合の平均濃度値を求めておく。続いて、同一のX線エネルギを用いて被検体の透過画像を撮影したものが、図6に示してある。
【0046】
図6において、画像を単位面積に分割すると、例えば領域18a、18b、18cのように示される。そこで、それぞれの領域に対して平均濃度を計算し、予め求めておいた鉛における平均濃度値と比較し、超えた場合は鉛を含むものとし判断する。
【0047】
例えば図6では、領域18bが閾値を超えたとすると、図1および図4における表示装置9においては、領域18bを枠で囲むか着色するなどにより強調表示し、作業員に注意を喚起する。
【0048】
本実施形態によれば、取り除くべき物質が鉛などのX線透過率の低い材質である場合、迅速に取出すことができるため、作業の効率向上となり、被曝などの危険を回避することが可能になる。
【0049】
[第3実施形態]
図7は本発明の第3実施形態を示している。本実施形態では、除去すべき材質で構成された標準試料と被検体とを同時に、かつ放射線のエネルギを2種類以上変えて撮影する工程を備え、第1のエネルギで得られた透視画像における標準試料部分の濃度値が、第2のエネルギで得られた透過画像においても実質的に同じ値になる調整を第2の画像全体に施し、それらの画像同士の差分を取ることにより、被検体透視画像から除去すべき材質部分を消去した画像を作成し、元の画像と比較することで除去すべき部分を判定する廃棄物弁別処理方法について説明する。
【0050】
例えば、X線の物質中の透過は、物質に入射する前の強度をIとし、透過後の強度をIとすると、
[数1]
I=I−μρt (1)
で表される。ここで、μ(cm/g)はX線のエネルギに依存した質量エネルギ吸収係数、ρ(g/cm)は透過した物質の密度、t(cm)はX(γ)線が透過する厚さを示している。γ線の場合にはエネルギが単色で表される事が多いため、質量エネルギ吸収係数μは全減衰係数として比較的計算により与えられることができるが、X線の場合には用いるX線管のエネルギ特性が単色ではなく、広い範囲のエネルギ分解能が低い広がったスペクトル(低いエネルギから高いエネルギまで広がった)を持つため、容易に計算で与えられず、実験などにより実効的なエネルギとして求められる。同じ厚さtの物質を測定する場合を想定すると、透過強度は、物質の密度と質量エネルギ吸収係数に依存する。
【0051】
質量エネルギ吸収係数μは照射するX線のエネルギに依存して変化する。例えば、AlであればX線エネルギ100keVに対する質量エネルギ吸収係数はμAl=0.171(cm/g)であり、X線エネルギ200keVに対する質量エネルギ吸収係数はμAl=0.122(cm/g)と小さくなるため(1)式に示したように、X線のエネルギが高い方が透過し易くなる。このX線エネルギと質量エネルギ吸収係数の関係は材質によって異なる。
【0052】
図7(a)における画像1と図7(b)における画像2とは、それぞれX線管電圧100kVと150kVで撮影した場合のX線透過画像を示している。X線の管電圧が異なるということは、照射するX線のエネルギが実効的に異なるということである。したがって上述のように、管電圧が異なれば質量エネルギ吸収係数も変化するため、材質の厚みに対するX線吸収特性が異なってくる。ここで内容物21、22は同材質、内容物23は異なる材質とする。ここでは同時に撮影した標準試料20と同じ材質を検出したいものとし、内容物21と22を検出する場合について説明する。
【0053】
まず、内容物21と内容物22の厚みが同等である場合、単純に画像1と画像2を減算することにより、画像3のような内容物21,22を消去した画像が得られる。図7(d)に示した画像3と同図(a)に示した画像1あるいは同図(b)に示した画像2を比較することにより、消去された対象である画像21と画像22が検出対象であることが分かる。
【0054】
ここで、廃棄物検査においては、内容物の厚さが常に一定とは限らない。例えば画像21と画像22が同一材質であるが、厚さが著しく異なる場合、単純に減じただけでは画像21と画像22は消去することができない。この場合には、標準試料20の濃度が画像1と画像2とで同じになるように全体の濃度を調整し、図7(c)の画像2aを作成する。
【0055】
この時、例えば内容物21と内容物22とが試料20と同一材質なので明るさの変化量も同じになり、画像1における21a,22aと輝度が一致することになる。したがって、変換後の画像2aと画像1との差分をとることにより、試料20と同一材質のみが消去された図7(d)の画像3が得られる。内容物23cは材質が異なるため、同様の変換をしても輝度が一致せず、差分画像からは消去されない。
【0056】
このような処理を行えば、標準試料20と同一材質のものだけが消去された画像が得られる。この方法では、内容物22と内容物23のように重なってしまっている場合でも、重なり部分の痕跡が画像上に残るため、二つの材質が重なっていたという判断が可能になる。
【0057】
得られた画像を元の画像1あるいは画像2と比較することにより検出したい対象を見つけることが可能になる。したがって、図1および図4における表示装置9においては、図7における画像1あるいは画像2と画像3とを比較表示し、画像3にて消去された部分を枠で囲むか着色するなどにより強調表示させることで、作業員に注意を喚起する。
【0058】
本実施形態によれば、取り除きたい材質を迅速に識別し、取出すことができるため作業の効率向上につながり、被曝などの危険を回避することが可能になる。
【0059】
[第4実施形態]
図8および図9は本発明の第4実施形態を示している。本実施形態では、既知の材質からなる標準試料と前記被検体とを同時に、かつ放射線のエネルギを2種類以上変えて撮影する工程を備え、第1のエネルギで得られた透視画像における標準試料部分の濃度値が、第2のエネルギで得られた透過画像においても実質的に同じ値になるような輝度調整を第2の画像全体に施し、それらの画像同士の差分を取ることにより標準試料部分の濃度値をゼロとし、得られた画像における未知の材質部分の濃度値がプラスの値になるかマイナスの値になるかを判定し、いずれか一方を除去すべき部分とする廃棄物弁別処理方法について説明する。
【0060】
図8(a),(b)には、厚さ1〜5mmの鉛と、厚さ20〜40mmの鉄と、厚さ60〜100mmのアルミニウムのX線吸収特性を実験的に求めたものを示してある。(a)はX線管電圧445kV、(b)は200kVで撮影した。図示のように、三つの試料はほぼ同じ濃度領域に存在するため一見して材質の違いは判別し難い。
【0061】
ここで、それぞれのグラフの鉄に着目し、鉄の各厚みにおける濃度が同じになるような関数を計算し、例えば(a)のデータに適用する。適用後のデータから(b)のデータを減算すると図9のようになる。鉄の厚みが同じになるように濃度調整をしているため、図9では鉄のデータがいずれの厚みでも0となる。
【0062】
この時、鉄より原子番号の大きい鉛はプラスの値となり、鉄より原子番号の小さいアルミニウムはマイナスの値となる。この理由は、X線エネルギに対する質量吸収係数の変化の割合はPb>Fe>Alのように、原子番号が大きい元素程大きくなるためである。
【0063】
このことを利用し、図1および図4における表示装置9においては、プラスの値となった部分とマイナスの値となった部分を色分けすることなどにより、作業員に注意を喚起する。
【0064】
本実施形態によれば、取り除きたい材質を迅速に識別し、取出すことができるため作業の効率向上につながり、被曝などの危険を回避することが可能になる。
【0065】
[第5実施形態]
図10は本発明の第5実施形態を示している。本実施形態では、透過画像を撮影するセンサとして、カラー発光するシンチレータとカラーカメラの組合わせ、その他複数の画像を同時に撮影可能な機構を適用して、標準試料を複数種類具備して同時に撮影し、得られた透過画像のそれぞれの色成分に対して異なる材質を消去するための輝度調整を施すことにより複数の材質を色別に表示する廃棄物弁別処理装置について説明する。
【0066】
例えば被検体をAl、SUS等で製作された内容物を入れた鋼製缶とし、標準試料としてAlステップゲージを同時に撮影した場合を想定する。センサとしてはカラーX線イメージインテンシファイア(非特許文献1参照)を用いるものとする。
【0067】
カラーイメージインテンシファイアは赤、緑、青の3成分をもつ。したがって実施形態3に述べたような特定の材質を消去した画像と、通常の透過画像が同時に撮影できることになる。例えばここでアルミニウムを消去対象画像とし、赤色成分でアルミニウムを消去した画像を作成する。続いて緑成分では鉄を消去対象画像とし、鉄を消去した画像を作成する。
【0068】
二つの成分を同時に重ね合わせて表示することにより、図10に示すようなアルミニウムと鉄(SUS)を色分けした画像が瞬時に得られる。
【0069】
本実施形態によれば、取り除きたい材質を迅速に識別し、取出すことができるため作業の効率向上につながり、被曝などの危険を回避することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態による廃棄物弁別処理装置の基本的な構成図。
【図2】(a)〜(d)は本発明の第1実施形態による被検体を識別するタグの設置図。
【図3】(a)、(b)は本発明の第1実施形態による被検体のX線透過画像撮影図。
【図4】本発明の第1実施形態による被検体を開封処理するラインの構成図。
【図5】本発明の第1実施形態による廃棄物弁別処理方法の流れを示すフロー図。
【図6】本発明の第2実施形態による被検体のX線透過画像濃度から材質検出する場合の説明図。
【図7】(a)〜(d)は本発明の第3実施形態による被検体のX線透過画像から特定の材質を消去処理する場合の説明図。
【図8】(a)、(b)は本発明の第4実施形態による鉛、鉄、アルミニウムのX線吸収特性測定図。
【図9】本発明の第4実施形態による鉛、鉄、アルミニウムのX線吸収特性から鉄を消去した演算図。
【図10】本発明の第5実施形態によるアルミニウムと鉄の例示図。
【符号の説明】
【0071】
1 廃棄物搬送カート
2 被検体
3 識別タグ装着装置
4a−4h ベルトコンベア
5 X線透過画像撮影装置
6 X線透過画像撮影装置コントローラ
7 信号処理および保存装置
8a−8e LANケーブル
9,9a,9b モニタ
10,10a,10b,10c 廃棄物開封処理ライン
11a,11b 開封不要な廃棄物
12a,12b 再梱包後の廃棄物
13a,13b 再梱包後の廃棄物
14a−14d 被検体個体識別タグ
15 識別タグ読み取りセンサ
16 端末コントローラ
17 回転テーブル
18a,18b,18c 画像における分割された領域
19a,19b,19c X線透過画像における被検体部分
20a,20b,20c X線透過画像における標準試料部分
21a,21b,21c 被検体が内包する内容物
22a,22b,22c 被検体が内包する内容物
23a,23b,23c 被検体が内包する内容物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁別処理対象の廃棄物である被検体に放射線を照射して透視画像を撮影する工程と、前記被検体を収容する被検体容器の個体ナンバーと撮影方向とを特定する工程と、前記被検体から除去すべき材質部分を透視画像データとして認識させる工程と、前記被検体の撮影方向と測定結果データとを同時に保存する工程と、前記被検体の個体ナンバーに対応する測定結果を呼び出し、参照しながら前記被検体を分解処理する工程とを備えることを特徴とする廃棄物弁別処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の廃棄物弁別処理方法において、前記透視画像データを撮影する工程として、前記被検体を密閉容器越しに撮影し、密閉状態のまま搬送し、密閉装置内で分解処理する廃棄物弁別処理方法。
【請求項3】
請求項1記載の廃棄物弁別処理方法において、前記分解処理する機構を複数使用し、被検体における除去すべき材質の有無、または除去すべき材質種類および形状に応じて前記被検体を分類する廃棄物弁別処理方法。
【請求項4】
請求項1記載の廃棄物弁別処理方法において、前記透視画像データから濃度情報を抽出し、予め定めた単位面積あたりの濃度が予め定めた範囲を超えているか否か判断し、除去すべき部分を設定して表示を行う廃棄物弁別処理方法。
【請求項5】
請求項1記載の廃棄物弁別処理方法において、除去すべき材質で構成された標準試料と前記被検体とを同時に、かつ放射線のエネルギを2種類以上変えて撮影する工程を備え、第1のエネルギで得られた透視画像における標準試料部分の濃度値が、第2のエネルギで得られた透過画像においても実質的に同じ値になる調整を第2の画像全体に施し、それらの画像同士の差分を取ることにより、被検体透視画像から除去すべき材質部分を消去した画像を作成し、元の画像と比較することにより除去すべき部分を判定する廃棄物弁別処理方法。
【請求項6】
請求項1記載の廃棄物弁別処理方法において、既知の材質からなる標準試料と前記被検体とを同時に、かつ放射線のエネルギを2種類以上変えて撮影する工程を備え、第1のエネルギで得られた透視画像における標準試料部分の濃度値が、第2のエネルギで得られた透過画像においても実質的に同じ値になる輝度調整を第2の画像全体に施し、それらの画像同士の差分を取ることにより標準試料部分の濃度値をゼロとし、得られた画像における未知の材質部分の濃度値がプラスの値になるかマイナスの値になるかを判定し、いずれか一方を除去すべき部分とする廃棄物弁別処理方法。
【請求項7】
被検体に装着することで被検体の個体ナンバーと角度を示すタグと、このタグを読み取り認識する装置と、被検体を回転させる回転テーブルと、放射線源と、被検体および回転テーブルを挟んで対向して設置した放射線を検出するセンサと、前記センサの信号を画像に変換する信号処理装置と、得られた画像における濃度値に演算処理を行う画像演算処理装置と、演算処理された結果をデータとして保存する保存装置と、密閉装置内で被検体を分解する際に前記被検体に付されたタグを読み取り、前記被検体の個体ナンバーに対応した測定結果を表示する表示装置と、測定結果に対応する方向に被検体を回転させて角度調節を行う角度調節装置とを備えたことを特徴とする廃棄物弁別処理装置。
【請求項8】
請求項7記載の廃棄物弁別処理装置において、前記透過画像を撮影するセンサとして、カラー発光するシンチレータとカラーカメラとの組合わせ、その他複数の画像を同時に撮影可能な機構を備え、前記標準試料を複数種類同時に撮影し、得られた透過画像のそれぞれの色成分に対して異なる材質を消去する輝度調整を施すことにより、複数の材質を色別に表示することを特徴とする廃棄物弁別処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−22894(P2009−22894A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189193(P2007−189193)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】