説明

弾性表面波装置およびその製造方法

【課題】電気的接続に用いる電極膜の膜応力を低減して、電極膜剥がれが発生しない信頼性に優れた弾性表面波フィルタを提供する。
【解決手段】圧電基板1上に、励振電極層と、該励振電極層に接続された電極パッド2層と、該電極パッド層上に形成された中間電極7層とを備えた弾性表面波装置であって、前記中間電極層は、下部層3と、不純物含有層5を有したバリア層4と、半田接合用の上部層6とが順次形成されていることを特徴とする弾性表面波装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機器等の無線通信回路に用いられる弾性表面波装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波共振器や弾性表面波フィルタ等の弾性表面波装置は、マイクロ波帯を利用する各種無線通信機器や車載用機器,医療用機器等に幅広く用いられているが、各機器の小型化に伴い、更なる小型化が求められている。
【0003】
従来の代表的な弾性表面波(Surface Acoustic Wave 、以下SAWともいう)装置J1,の概略断面図を図5に示す。図5において、31は圧電基板、32は入出力電極のパッド電極、33はパッド電極32とパッケージの電極パターン34を電気的に接続するバンプ等の接続体、34は基体36の表面に形成され外部の駆動回路,共振回路,接地回路等に接続される電極パターン、35はSAW素子用の圧電基板上に形成された櫛歯状電極のIDT(Inter Digital Transducer)電極、さらに蓋体38をシーム溶接,半田,接着剤等によりパッケージ部材37の上から接着して気密性を保持していた。
【0004】
このように、従来の弾性表面波装置J1は、パッケージ部材36〜38で形成されるキャビティ内に、IDT電極35が設けられた機能面が、基体36の上面に対面させたフェースダウンで載置させたフリップチップ方式を採用している。
【0005】
ここで、図5に示す接続体33は、Au(金)等の金属製のワイヤをボールボンディング法によりバンプとなるように形成するか、半田,Au等からなるバンプを蒸着法,印刷法,転写法,無電解メッキ法,電解メッキ法等により、パッド電極32上に形成して得られる。そして、接続体33を設けた圧電基板31を、接続体33と電極パターン34との間で位置合わせし、導電性接着剤の塗布やはんだのリフロー溶融法により接続し、基体36上に固定している。
【0006】
図2に示すように、弾性表面波装置の圧電基板1に形成された電極パッド12と対向するパッケージの電極又は基板電極と電気的に接続される場合、電極パッド12上の中間電極10(13,14,16)を構成する材料は、Cr(クロム)層13、そのCr層13の表面に形成されたNi(ニッケル)層14が形成され、さらにそのNi電極層14上にAu電極層16が形成された中間電極10が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−234082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、中間電極としてスパッタリング法や蒸着法等によって形成したバリア層として膜厚が厚いNi電極層を用いた場合、Ni膜に強い膜応力が発生して中間電極の接合強度が低下し、特に圧電基板とAl(アルミニウム)合金パッド電極の界面又はCrとNiの界面又はAl合金のパッド電極とCrの界面において剥離してしまうという問題がある。特に、弾性表面波装置の電極層を形成する場合、その作製プロセスにおいてプロセス温度を高温に保持する工程は、圧電基板の焦電性よる電極破壊を防止する点で好ましくない。そのため、電極の密着強度を上げる目的で圧電基板を基板加熱する工程を用いることができない。
【0009】
また、Ni電極層の膜応力を低減するには、Ni電極層の厚みを薄くする方法があるが、Ni電極を極端に薄い膜厚にすると、本来の半田バリアメタルとして充分に機能しなくなる。
【0010】
また、Ni電極層の膜応力が大きくなると圧電基板自体のそりが大きくなり、フォトリソプロセスで用いるステッパー露光におけるパターン精度や圧電基板の搬送・ステージ上への真空吸着に問題が発生する。圧電基板が大きくなるとNi電極層の膜応力によるそりは、プロセスにおいて圧電基板の割れが発生する可能性が大きくなり問題となる。
【0011】
さらに、Al合金層からなる電極パッド上にリフトオフ法で中間電極層を形成する場合、図7に示すように、中間電極層26(23,24,25)を形成する領域以外に、逆テーパーでオーバーハング形状のフォトレジスト22を形成し、このフォトレジスト22をマスクとして中間電極層26を形成する。この場合、フォトレジスト22上にもNi電極層24が厚く堆積して、フォトレジスト22にNi電極層24の引張応力が加わり、フォトレジスト22の開口部端部が持ち上がり、パッド電極21の設計面積以上に中間電極層26が付着して、パッド電極21の周囲にバリとなり残る。バリが大きくなると励振電極と短絡したり、バリ自体が極薄い層であるため、アンカー効果が弱く剥がれてきて、周囲の電極と短絡して特性不良が発生するおそれが大きくなる。
【0012】
また、さらに中間電極層としてNi電極を用いた場合、Ni電極の膜応力が大きくなりNi膜より下層の界面において剥離が発生して電気的接続を充分に確保することができなくなり、弾性表面波装置の信頼性の確保に問題が生じる。
【0013】
Ni膜厚が0.5μmより薄いと半田に対する拡散バリア性が落ちる。1.5μmを超えると膜応力が大きくなり膜剥離の問題が発生する。
【0014】
本発明は、このような課題に対処するためになされたものであり、その目的は、中間電極層の膜応力を低減し電極剥離が発生せず、且つ半田に対するバリア性を有する中間電極層を備えた弾性表面波装置を容易に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の弾性表面波装置は、1)圧電基板上に、励振電極層と、該励振電極層に接続された電極パッド層と、該電極パッド層上に形成された中間電極層とを備えた弾性表面波装置であって、前記中間電極層は、下部層と、不純物含有層を有したバリア層と、半田接合用の上部層とが順次形成されていることを特徴とする。
弾性表面波装置。
【0016】
また、2)上記1)において、前記不純物含有層は、C,S,Oのうち1種以上の元素を含むことを特徴とする。
【0017】
また、3)上記1)において、前記励振電極層および前記電極パッド層はAl合金から成り、かつ前記バリア層はNi,Cuのうち1種以上の元素を含むことを特徴とする。
【0018】
また、4)上記1)において、前記下部層は、Cr,Ti,V,Ptのうち1種以上の元素を含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の弾性表面波装置の製造方法は、5)上記1)において、前記圧電基板上に前記電極パッド層を形成する工程、前記電極パッド層上に前記中間電極層の下部層を形成する工程、前記下部層上に前記バリア層を形成する工程および前記バリア層上に前記上部層を形成する工程のうち少なくとも1つ工程の前に、層を形成する面をスパッタリングにより粗面にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の弾性表面波装置によれば、バリア層の膜応力を緩和することが可能となり、半田の拡散バリア層として機能し、電極剥離が発生せず、特性不良が生じず、電気的接続を充分に確保することができ、かつ信頼性に優れた弾性表面波素装置を提供することができる。
【0021】
また、前記中間電極層のバリア層の内部に介在させる不純物含有層は、不純物ドーピングに用いる不純物として、炭素,硫黄,酸素の少なくとも1種を含ませことにより、単層Ni電極膜では引張応力が働くのに対して圧縮応力を発生させることができ、結果としてバリア層の膜応力を低減させることが可能となり、電極剥離が発生せず、特性不良が生じず、電気的接続を充分に確保することができる。
【0022】
また、内部に少なくとも一層以上の不純物含有層を介在させた積層体により形成されるバリア層の厚さが0.5〜1.5μmの範囲とすることにより、接続体として用いる半田に対する拡散バリア性を確保することができ、かつバリア層の膜応力が大きくなり膜剥離の問題が発生せず、電気的接続を充分に確保することができる。
【0023】
また、バリア層が、Ni,Cuのうち何れかであることにより、接続体として用いる半田に対する拡散バリア性を確保することがでる。また、Cr,Ti,V,Ptのうち何れかであることにより、Al合金からなる電極パッドとの密着性を充分に確保することができる。
【0024】
また、前記圧電基板上に前記電極パッド層を形成する工程、前記電極パッド層上に前記中間電極層の下部層を形成する工程、前記下部層上に前記バリア層を形成する工程および前記バリア層上に前記上部層を形成する工程のうち少なくとも1つ工程の前に、層を形成する面をスパッタリングにより粗面にし清浄化することにより、前記圧電基板と前記電極パッドとの界面、前記電極パッドと前記中間電極層の界面、及び前記中間電極層における各界面における密着性が向上し、電極剥離が発生せず、特性不良が生じず、電気的接続を充分に確保することができ、かつ信頼性に優れた弾性表面波素装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る弾性表面波装置の実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】従来の弾性表面波装置の例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る弾性表面波装置の実施形態の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る弾性表面波装置の実施形態の他の例を示す平面図である。
【図5】従来の弾性表面波装置を示す断面図である。
【図6】本発明に係る弾性表面波装置の実施形態の一例を示す断面図である。
【図7】従来の弾性表面波装置のリフトオフ工程における一例を示す断面図である。
【図8】本発明の弾性表面波装置のリフトオフ工程における実施形態の一例を示す断面図である。
【図9】従来の弾性表面波装置の中間電極層の金属元素分析結果を示すグラフである。
【図10】本発明の弾性表面波装置の中間電極層の金属元素分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係わる弾性表面波装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
図4に本発明の弾性表面波装置の素子部における平面図を示し、図4におけるA−A’線における電極パッド部Bの拡大断面図としてパッド電極及び電極パッド上の中間電極層の断面図を図1に示す。
【0028】
図4に示すように、弾性表面波素子S1は、例えば、タンタル酸リチウム単結晶、ニオブ酸リチウム単結晶、四ホウ酸リチウム単結晶などの圧電性の単結晶から成る圧電基板1の主面に、弾性表面波を発生させるための励振電極であるIDT電極8と、IDT電極8に接続される複数の引き出し電極9とを形成し、IDT電極8と引き出し電極43を絶縁性の保護膜10で覆ってなり、保護膜10は各引き出し電極8の一端部を露出させる状態で覆っている。引き出し電極8端部の電極パッド2上に、中間電極層7が形成される。
【0029】
図1に示すように、中間電極層7は、電極パッド2上に形成された下部層である密着層3と、密着層3上に積層されたバリア層4,5と、バリア層上に形成された上部層であるAu電極層6から成る。バリア層4,5は、内部に少なくとも一層以上の不純物含有層5を介在させた積層体により形成される。
【0030】
ここで、弾性表面波素子S1は、互いに噛み合うように形成された少なくとも一対の櫛歯状電極のIDT電極8を設けることにより作製する。IDT電極8は、所望の特性を得るために、複数対の櫛歯状電極を、直列接続、並列接続等の方式で接続して構成してもよい。また、ここではラダー型弾性表面波フィルタを示したが、2重モード弾性表面波共振器フィルタで構成されてもよい。
【0031】
また、Alを主成分とするAl合金からなるIDT電極8、引き出し電極9及び電極パッド2はスパッタリング法、蒸着法またはCVD法等の薄膜形成法により形成する。次にフォトリソグラフィ法によりパターニングされ所定の形状となる。IDT電極8の保護膜10としては、CVD法または蒸着法等の薄膜形成法により形成されたSiO2膜,SiN
膜,Si膜等が用いられる。中間電極層7を構成する密着電極層3、内部に少なくとも一層以上の不純物含有層5を介在させた積層体からなるバリア層4,5および最上部のAu電極層6は、スパッタリング法または蒸着法等の薄膜形成法により形成する。中間電極層7の所定の形状を得るには、リフトオフ法、フォトリソグラフィ法またはメタルマスクを用いた薄膜形成法等が用いられる。
【0032】
図6に本発明の弾性表面波装置を実装した後の断面図を示す。以上のように構成した弾性表面波素子S1を、弾性表面波素子S1を構成する圧電基板1の一方主面に形成された中間電極層7と、回路基板61の実装面に形成された接続電極62とを、半田バンプ接続部材63を介して接続する。圧電基板1を載置した回路基板61をリフロー炉にてリフロー溶融することにより、弾性表面波素子S1と回路基板62とが電気的かつ機械的に接続される。同時に、弾性表面波素子S1の一方主面と、回路基板の実装面との間の間隙が気密封止される。そして、ポッティング法又は印刷法により圧電基板1の他方主面及び周囲面に樹脂64が形成され、樹脂を加熱硬化することにより弾性表面波装置S1が完成する。
【0033】
このようにして、中間電極層として用いるNi電極層が内部に少なくとも一層以上の不純物含有層を介在させた積層体により形成されることにより、Ni電極層の膜応力を緩和することが可能となり電極剥離が発生せず、電気的接続が取れなくなる特性不良が生じず、かつ信頼性に優れた弾性表面波素装置を提供することが可能となる。
【0034】
また、図3は本発明の第2の実施形態の電極構造を示す断面図である。この電極構成は、図1と同様な構造を有しているが、圧電基板上に前記電極パッド層を形成する工程、前記電極パッド層上に前記中間電極層の下部層を形成する工程、前記下部層上に前記バリア層を形成する工程および前記バリア層上に前記上部層を形成する工程のうち少なくとも1つ工程の前に、層を形成する面をスパッタリング(Arイオン、Oイオン、Nイオンの少なくとも1種により層の上面をボンバード)してその表面を清浄化,粗面化した弾性波表面波装置の製造方法を採用している。
【0035】
本発明において、IDT電極8はAl−Cu系のAl合金からなるが、Cu以外にTi,Ta,W,Mb等を含むAl合金でも構わない。また、それらの合金の積層電極された構造でも適応可能である。また、IDT電極8の形状は、互いに噛み合うように形成された櫛歯状であるが、複数の電極指を平行に配列した反射器のようなスリット型のものにも適用でき、それらを併用したタイプであってよい。
【0036】
そして、IDT電極8の対数は50〜200、電極指の幅は0.1〜10.0m、電極指の間隔は0.1〜10.0μm、電極指の交差幅は10〜80μm、IDT電極8の厚みは0.2〜0.4μmとする
ことが、共振器あるいはフィルタとしの所期の特性を得るうえで好適である。また、IDT電極8のSAWの伝搬路の両端に、SAWを反射し効率よく共振させるための反射器を設けてもよい。
【0037】
圧電基板1としては、36°Yカット−X伝搬のLiTaO3 単結晶,64°Yカット−X伝搬のLiNbO3 単結晶,45°Xカット−Z伝搬のLiB47単結晶は、電気機械結合係数が大きく且つ群遅延時間温度係数が小さいため好ましい。また、圧電基板の厚みは0.3〜0.5mm程度がよく、0.3mm未満では圧電基板が脆くなり、0.5mm超では材料コストが大きくなる。
【0038】
中間電極層7に用いる密着電極層3としては、Cr,Ti,V,Ptの1種以上の元素が用いられるが、特にこのうちCr,Tiが電極パッド2のAl合金との密着性がよいことから好ましい。中間電極層の不純物含有層を介在させたバリア層4,5としては、Ni,Cuの1種以上の元素が用いられるが、バリアメタルとしてCuは、比較的半田の拡散速度が速いため、リフロー時に半田がバリア層4,5や電極パッド2層中に深く拡散する。半田の拡散は、脆い金属間化合物の形成や金属層間の剥離等を引き起こし易く、信頼性を低下させる原因となる。そのため、中間電極層7の不純物含有層5を介在させたバリア層4,5としては、Niが好ましい。Niを用いたバリア層4,5の膜厚が0.5μmより
薄いと半田に対するバリア性が劣り、1.5μmより厚いと膜応力が著しく大きくなるため
膜厚として0.5μm〜1.5μmの範囲であることが好ましい。バリア層4,5に介在させる不純物含有層5に含ませる不純物としては、C(炭素)、S(硫黄)、O(酸素)の1種以上の元素が用いられるが、このうち膜応力を低減させる効果が大きいためC,Oが好ましい。また、Niを用いたバリア層4,5の不純物含有層5として炭素を不純物として用いた場合、電極の電気抵抗を低減することができ、結果として挿入損失を向上させる効果もある。
【実施例】
【0039】
次に、図1と図6に基づいて本発明の具体的な実施例について説明する。図6に示すように、圧電基板1として36°Yカット−X伝搬のLiTaO結晶を用い、そのチップサイズは、1.1mm×1.5mmであった。また、実装基板として70mm×70mm、厚さ250μ
mのアルミナ基板を用いた。アルミナ基板には合計1μm膜厚のAu及びNiを無電解め
っきにて形成した。
【0040】
図6の接続部材63が載置される位置に、図1に示すように圧電基板1のスパッタ法により電極パッド2をAl−Cu電極、中間電極層7における密着電極層3としてCr電極、不純物含有層5が介在するバリア層4,5としてNi電極、最上層をAu電極6で形成した。各電極の層別の厚さは、Al−Cu電極2が1800Å、Cr電極3が200Å、不純物含
有層5が介在するNi電極4,5が10000Å、Au電極6が2000Åであった。Cr電極3
は、Al−Cu電極パッド2との密着性を改善させるためのものであり、バリア層Ni電極4,5は、スパッタ成膜中にCとS濃度の高いNiターゲット材に切替えてスパッタリングすることにより、内部に2層のCとS濃度の高い不純物含有層5を介在させた積層体よりなり、半田食われを防止するために設けている。電極パターンは、リフトオフ法により形成した。
【0041】
不純物含有層5が介在するNi電極の形成方法としては、上記の他にスパッタガスとして使うArなどの不活性ガス中にC,S,Oの1種以上の元素を不純物ドーピングガスとして混合する方法等が用いられる。
【0042】
回路基板61には圧電基板1の電極パッド2が当接する位置に、接続部材63となる半田ペーストを予めスクリーン印刷法により塗布した。塗布した半田ペーストの線幅は、約100
μmであった。
【0043】
回路基板61の導体パターンと圧電基板1の電極パッド2が当接するように、フェースダウンで載置した。さらにSAWチップの上部よりエポキシ樹脂64をポッティングにより塗布した後、リフロー炉で240℃,5分間、加熱硬化させた。
【0044】
最後に、回路基板61の裏面より各チップ間の分離位置でダイシングすることにより、個々のチップを形成して2.5mm×2.0mmのサイズの弾性表面波装置を完成した。また、弾性表面波装置の高さは0.7mm程度であった。
【0045】
また、図2に参考例として従来のパッド電極と中間電極構造を有する弾性表面波素子を示す。図2と同様にAlを主成分とするAl合金からなるIDT電極、引き出し電極及び電極パッド2と、中間電極層としてCrからなる密着電極層3と、半田のバリア層4と、その上部に形成されるAu電極層6から構成される。バリア層4はNi電極層が単層で形成されている。
【0046】
図9に、図2の参考例の中間電極層表面から深さ方向の電極を構成する金属元素のSIMS分析結果を示す。同様に図10に本発明の中間電極層表面から深さ方向の電極を構成する金属元素のSIMS分析結果を示す。図9において、Ni電極層はNi単層で形成されていることがわかる。一方、図10において、Ni電極層には炭素と硫黄の不純物ピークが観察され、Ni電極層が2層の不純物含有層が介在した積層体となっていることがわかる。
【0047】
図7は、図2の参考例におけるリフトオフ工程の電極構造の断面図である。参考例において、中間電極層26を形成する領域以外に逆テーパーでオーバーハング形状のレジスト22を形成し、レジスト22をマスクとして中間電極層をリフトオフ工程にて形成する。この場合、レジスト膜上にもNi電極層24が厚く堆積して、レジスト22にNi電極層24の引張応力が加わり、レジスト開口部端部が持上がり、電極パッド21の設計面積以上に中間電極層26が付着し、電極パッド層21の周囲にバリとなり残る。バリが大きくなると励振電極と短絡したり、バリ自体が極薄い層であるため、アンカー効果が弱く剥がれてきて周囲の電極と短絡して特性不良が発生する可能性が大きくなる。
【0048】
一方、図8は本発明のリフトオフ工程の電極構造の断面図である。不純物含有層が介在したNi電極層24を用いているため、中間電極層26形成時のリフトオフ工程においてNi電極24の膜応力が低減されリフトオフに用いるフォトレジストが持ち上がることが無く、そのためバリの発生も無く、バリによる短絡不良も発生せずに歩留りが向上する。
【0049】
【表1】

【0050】
表1は、本発明のパッド電極と電極構造と従来の電極構造の電極の膜応力を測定した結果を示す。表1から明らかなように、図1における中間電極層7のバリア層4,5として内部に少なくとも一層以上の不純物含有層5を介在させた積層体を用いることにより、図2の参考例として示した従来の電極構造の膜応力が882N/mであるのに対して、189N/mと約1/4に膜応力を低減できている。結果として、膜応力に起因する各電極層界面における膜剥離を防止することができ、電気的接続が取れなる特性不良が生じず、かつ弾性表面波装置の信頼性を向上させることができる。
【0051】
かくして、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板と、該圧電基板上に形成されたAlを主成分とするAl合金層を含む弾性表面波励振電極層と、該励振電極層と接続されたAlを主成分とするAl合金層からなる電極パッドと、前記電極パッド上に形成された中間電極層とを備え、前記中間電極層は、前記電極パッド上に形成された密着電極層と、当該密着電極層上に積層されたバリア層と、当該バリア層上に形成されたAu電極層からなる弾性表面波装置において、前記バリア層が内部に少なくとも一層以上の不純物含有層を介在させた積層体により形成されることにより、バリア層の膜応力を緩和することが可能となり、半田の拡散バリア層として機能し、電極剥離が発生せず、特性不良が生じず、電気的接続を充分に確保することができ、かつ信頼性に優れた弾性表面波素装置を提供することができる。
【0052】
また、前記中間電極層のバリア層の内部に介在させる不純物含有層は、不純物ドーピングに用いる不純物として、炭素,硫黄,酸素の少なくとも1種を含ませことにより、単層Ni電極膜では引張応力が働くのに対して圧縮応力を発生させることができ、結果としてバリア層の膜応力を低減させることが可能となり、電極剥離が発生せず、特性不良が生じず、電気的接続を充分に確保することができる。
【0053】
また、内部に少なくとも一層以上の不純物含有層を介在させた積層体により形成されるバリア層の厚さが0.5〜1.5μmの範囲とすることにより、接続体として用いる半田に対する拡散バリア性を確保することができ、かつバリア層の膜応力が大きくなり膜剥離の問題が発生せず、電気的接続を充分に確保することができる。
【0054】
また、バリア層が、Ni,Cuのうち何れかであることにより、接続体として用いる半田に対する拡散バリア性を確保することができる。また、Cr,Ti,V,Ptのうち何れかであることにより、Al合金からなる電極パッドとの密着性を充分に確保することができる。
【0055】
また、前記圧電基板上に前記電極パッド層を形成する工程、前記電極パッド層上に前記中間電極層の下部層を形成する工程、前記下部層上に前記バリア層を形成する工程および前記バリア層上に前記上部層を形成する工程のうち少なくとも1つ工程の前に、層を形成する面をスパッタリングにより粗面にして清浄化することにより、電極の各界面における密着性が向上し、電極剥離が発生せず、特性不良が生じず、電気的接続を充分に確保することができ、かつ信頼性に優れた弾性表面波素装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1,31:圧電基板
2,21:電極パッド
3,23:密着層(下部層)
4,5,24:バリア層
5:不純物含有層
6,16,25:Au電極層(上部層)
7,17,26:中間電極層
8,35:IDT電極
9:引き出し電極
10:保護膜
22:レジスト
33:接続体
34:電極パターン
36,37:パッケージ部材
38:蓋体
61:回路基板
62:接続電極
63:接続部材
64:樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられた電極パッド層と、
NiまたはCuからなり、前記電極パッド層上に設けられ、CおよびSの少なくとも一方を不純物として含むバリア層と、を備え、
前記バリア層を表面から深さ方向にSIMS分析した際のスペクトルにおいて前記不純物のピークが前記表面および前記電極パッド層との界面より離れた深さ領域に存在することを特徴とする素子基板。
【請求項2】
前記スペクトルが、CおよびSの双方のピークを有する請求項1に記載の素子基板。
【請求項3】
前記Cのピークと前記Sのピークとが同一の深さ領域に存在する請求項2に記載の素子基板。
【請求項4】
前記Cのピークまたは前記Sのピークが、それぞれ複数箇所に存在する請求項1乃至3のいずれかに記載の素子基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の素子基板と、該素子基板が実装され、前記バリア層に半田またはAuで接続される接続電極を有した回路基板と、を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−152626(P2009−152626A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35155(P2009−35155)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【分割の表示】特願2003−304949(P2003−304949)の分割
【原出願日】平成15年8月28日(2003.8.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】