微小構造体
【課題】本発明は、熱リソグラフィを用いて簡易に形成することが可能な微小構造体及び該微小構造体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該微小構造体を用いる基板のパターニング方法並びに該微小構造体を有する構造物、情報記録媒体、原盤、光学素子、光通信装置、DNAチップ、発光素子、光電変換素子及び光学レンズを提供することを目的とする。
【解決手段】微小構造体は、硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する。微小構造体の製造方法は、基板上に、硫黄化合物、酸化ケイ素及び光吸収能を向上させる材料を含有する層を形成する工程と、基板上に形成された層にレーザ光を照射する工程と、レーザ光が照射された層をエッチングする工程を有する。
【解決手段】微小構造体は、硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する。微小構造体の製造方法は、基板上に、硫黄化合物、酸化ケイ素及び光吸収能を向上させる材料を含有する層を形成する工程と、基板上に形成された層にレーザ光を照射する工程と、レーザ光が照射された層をエッチングする工程を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小構造体、微小構造体の製造方法、基板のパターニング方法、構造物、情報記録媒体、原盤、光学素子、光通信装置、DNAチップ、発光素子、光電変換素子及び光学レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートル〜マイクロメートルスケールの大きさの微小構造体は、ナノフォトニクス、高密度記録媒体、光学素子、バイオチップ等の多くの分野で研究が進められている。このとき、可視光領域において、光学的に透明な材料は、光損失が少なく、光技術を用いたデバイスには欠かせない。このため、透明材料から微小構造体を作製する技術は、特に盛んに研究が進められている。
【0003】
酸化亜鉛は、可視光領域において、光学的に透明であると共に、紫外光を吸収するため、LED、透明トランジスタ、UVカット材料、電子写真等の用途で用いられている。酸化亜鉛を形成する方法としては、スパッタリング、イオンプレーティング(例えば、特許文献1参照)の他、前駆体の熱分解(例えば、特許文献2参照)が挙げられる。また、一次元又は二次元微細周期構造を有する量子ワイヤー、ドット等を作製する際には、一般的に、電子ビーム露光装置、イオンビーム露光装置やステッパー露光装置が利用されている。しかしながら、これらの装置は、真空を要することや高価であることから、作製に多大なコストを要する。このため、低コストで簡便にパターニングし、微細周期構造を作製することが望まれている。
【0004】
また、微小構造体が規則的に配列した周期性構造物は、光を照射すると、フォトニックバンド効果を始めとする特異な現象が見られるため、光の共振、閉じ込めを利用した光導波路、光フィルタ、光スイッチ、低閾値レーザ等の応用が期待される。また、サブ波長以下の周期で微小構造体が規則的に配列した周期性構造物は、フレネル反射を抑え、モスアイ構造と呼ばれる構造により無反射特性を示すことが知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
一方、バイオテクノロジーの分野では、微小構造体は、DNA等の分子、原子を選択的に結合させたチップとして利用することが強く要望されている。DNAチップは、病気の原因である遺伝子の有無を簡単に調べることができ、遺伝子の研究や病気の診断に利用されている。通常、DNAチップは、シリコンやガラスの薄い基板からなり、病気の原因である遺伝子を構成するDNA(デオキシリボ核酸)が付着している。このため、患者から採った血液を処理した後にDNAチップ上に滴下した場合に、血液中に病気の原因である遺伝子があれば、DNAチップのDNAに血液中のDNAが付着する。このようにして患者が病気かどうかを瞬時に判断することができる。また、遺伝子の働きを調べれば、病気の早期発見や医薬品の副作用の予想も可能になるため、医療現場では、遺伝子検査のニーズが急速に高まっている。
【0006】
また、二次元で規則配列した金属微小構造体等は、表面プラズモン励起による局在した光と分子の相互作用を利用した応用展開が期待されている。
【0007】
微小構造体及び微小構造体が規則的に配列した周期性構造物を作製する方法としては、半導体微細加工の光リソグラフィが利用されてきたが、高価な電子線描画装置を必要とすることから、コストが高いという問題がある。また、作製される微小構造体の大きさも装置の性能に依存する。一方、マスクを作製するため、大量生産に適するという利点もあるが、指針変更に伴う簡易な回路設計や、実験レベルでの簡易な実験には不向きである。
【0008】
また、レーザ光による2光子吸収を利用して、3次元微小構造体、3次元フォトニック結晶を作製する方法も知られている(特許文献3及び4参照)。しかしながら、作製に時間がかかる上、材質も光重合反応により生じる樹脂に限定される。このため、更なる省資源が可能であり、低コストで簡易な微小構造体の作製方法が求められている。
【0009】
また、微小構造体及び微小構造体が規則的に配列した周期性構造物の反転構造を形成する方法としては、射出成形を始めとするエンボス加工が利用されてきたが、近年では、ナノスケールの構造体でも反転構造を正確に転写するナノインプリント技術が開発されている。光重合又は熱重合を用いるナノインプリント技術は、元型の反転構造を精度良く作製することができ、量産に適している。また、フォトニック結晶として、反転構造を利用する場合には、元型とは異なる効果が生じる。
【0010】
一方、光リソグラフィを用いた微細加工と比較して、コストが低い加工法として、熱リソグラフィが近年着目されている。これは、吸熱層(レーザ光を照射する場合は、光吸収層の役割を果たす)に熱を与え、熱を与えられた箇所の特性(光透過率、屈折率、電気伝導度、化学耐食性等)が変化することを利用した技術である。光が照射された領域の温度分布は、ガウス分布となり、その中心となる高温部の領域は、スポット径と比較して10分の1程度であり、その箇所のみ特性が変化するため、微小パターンの形成が可能となる。
【0011】
特許文献5には、支持基板上に第1の誘電体層、光吸収層、第2の誘電体層を順次積層する工程、レーザ光を照射し情報を記録する工程、溶液エッチングにより第2の誘電体層の未記録部分を除去し凸状に加工する工程を少なくとも含む光記録媒体の製造方法が開示されている。このとき、加工された第2の誘電体層の凸状部は、断面が矩形状又は逆テーパ状となり、ガウス分布からなる熱分布の最大値近傍のみでエッチング耐性が強まることから、大きさが光の回折限界以下となる。さらに、レーザ光を吸収した光吸収層上の第2の誘電体層のエッチング耐性が向上して、凸状部を形成しているが、光吸収層の除去を要する用途が多いことから、光吸収層を形成せずに凸状部を形成することが求められている。また、第2の誘電体層に凹状部を形成する場合は、凹状部の端部が荒れるという問題がある。
【0012】
一方、光学素子としては、サブ波長構造やフォトニック結晶といった微細構造をもつものが近年要望されているが、このような微細構造の応用は、光学素子に留まらない。例えば、有機ELディスプレイ(OLED;Organic Light Emitting Diode Display)は、有機化合物を利用した自発光型の新世代ディスプレイであり、従来のディスプレイと比較して、明るく鮮明であり、視野角が広く、薄型であり、動作温度範囲が広範であるため、優れた特徴をもったディスプレイとして注目されている。さらに、2次元フォトニック結晶構造と組み合わせることにより、OLEDの発光効率が向上することが知られている(例えば、非特許文献2〜6参照)。
【0013】
太陽電池等の光電変換装置においても、微細構造の必要性が知られている。太陽電池としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等の乾式の太陽電池の他、スイスのグレツェルらが発表した色素増感型湿式太陽電池が挙げられる。色素増感型湿式太陽電池では、半導体電極として、酸化チタンが用いられているが、理論的には、他の酸化物半導体においても太陽電池としての動作が可能であることから、種々の研究が行われている。
【特許文献1】特開2006−117462号公報
【特許文献2】特開2007−22851号公報
【特許文献3】特開2003−1599号公報
【特許文献4】特開2005−122002号公報
【特許文献5】特開2005−158191号公報
【非特許文献1】OPTICAL REVIEW,Vol.10,No.2,2003,p63−73
【非特許文献2】M.Fujita,T.Ueno,T.Asano,S.Noda,H.Ohata,T.Tsuji,H.Nakada,N.Shimoji,Electron.Lett.39,p.1750(2003)
【非特許文献3】Y.Lee,S.Kim,J.Huh,G.Kim and Y.Lee,Appl.Phys.Lett.82,p.3779(2003)
【非特許文献4】M.Kitamura,S.Iwamoto and Y.Arakawa,Jpn.J.Appl.Phys.44,p.2844(2005)
【非特許文献5】K.Ishihara,M.Fujita,I.Matsubara,T.Asano,S.Noda,Jpn.J.Appl.Phys.7,p.L210 (2006).
【非特許文献6】M.Fujita,K.Ishihara,T.Ueno,T.Asano,S.Noda,H.Ohata,T.Tsuji,H.Nakada,N.Shimoji,Jpn.J.Appl.Phys.44,p.3669(2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、熱リソグラフィを用いて簡易に形成することが可能な微小構造体及び該微小構造体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該微小構造体を用いる基板のパターニング方法並びに該微小構造体を有する構造物、情報記録媒体、原盤、光学素子、光通信装置、DNAチップ、発光素子、光電変換素子及び光学レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、微小構造体において、硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有することを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の微小構造体において、曲面を有する凸形状、円柱状の構造体の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状であることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の微小構造体において、曲面を有する凸形状、円柱状の構造体の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状の断面が連続的に形成されている形状であることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記硫黄化合物は、ZnSを含有することを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記硫黄化合物は、所定の波長の光の吸収能を向上させる硫黄化合物を含有することを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の微小構造体において、前記硫黄化合物は、FeS及びGeS2の少なくとも一方を含有することを特徴とする。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の微小構造体において、所定の波長の光の吸収能を向上させる材料をさらに含有することを特徴とする。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、Al、Ag、Au、Cu、Zn、Pt、Sb、Te、Ge、Si、Bi、Mn、W、Nb、Co、Sr、Fe、In、Sn、Ni、Mo、Mg及びCaの少なくとも一つを含有することを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料の酸化物をさらに含有することを特徴とする。
【0024】
請求項10に記載の発明は、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、第二の硫黄化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有することを特徴とする。
【0025】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、ZnTe、ZnSe及びMnSの少なくとも一つを含有することを特徴とする。
【0026】
請求項12に記載の発明は、請求項7乃至11のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、蛍光物質を含有することを特徴とする。
【0027】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の微小構造体において、前記蛍光物質は、CdSe及びCdTeの少なくとも一方であることを特徴とする。
【0028】
請求項14に記載の発明は、請求項5乃至12のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記酸化ケイ素を10mol%以上30mol%以下含有することを特徴とする。
【0029】
請求項15に記載の発明は、微小構造体の製造方法において、基板上に、硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層を形成する工程と、該硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層にレーザ光を照射する工程と、該レーザ光が照射された硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層をエッチングする工程を有し、該硫黄化合物は、所定の波長の光の吸収能を向上させる硫黄化合物を含有する、又は、該硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層は、光吸収能を向上させる材料をさらに含有することを特徴とする。
【0030】
請求項16に記載の発明は、基板のパターニング方法において、基板上に、請求項5乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を形成する工程と、該基板上に形成された微小構造体をマスクにして該基板をエッチングする工程を有することを特徴とする。
【0031】
請求項17に記載の発明は、構造物において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有することを特徴とする。
【0032】
請求項18に記載の発明は、請求項17に記載の構造物において、前記微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0033】
請求項19に記載の発明は、請求項18に記載の構造物において、前記微小構造体が周期的に配置されている領域は、前記微小構造体が周期的に配列されていない場合より所定の波長域の光の透過率が高いことを特徴とする。
【0034】
請求項20に記載の発明は、情報記録媒体において、基板上に、請求項12又は13に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0035】
請求項21に記載の発明は、原盤において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0036】
請求項22に記載の発明は、原盤において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【0037】
請求項23に記載の発明は、光学素子において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0038】
請求項24に記載の発明は、光学素子において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【0039】
請求項25に記載の発明は、光フィルタ、光スイッチ、光学無反射膜、光導波路、回折格子又は偏光分離素子であることを特徴とする請求項23又は24に記載の光学素子。
【0040】
請求項26に記載の発明は、光通信装置において、請求項23乃至25のいずれか一項に記載の光学素子を有することを特徴とする。
【0041】
請求項27に記載の発明は、基板上に、DNA断片が固定されているDNAチップであって、該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有することを特徴とする。
【0042】
請求項28に記載の発明は、基板上に、DNA断片が固定されているDNAチップであって、該基板は、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【0043】
請求項29に記載の発明は、基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されている発光素子であって、該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0044】
請求項30に記載の発明は、基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されている発光素子であって、該基板は、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【0045】
請求項31に記載の発明は、基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されている光電変換素子であって、該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0046】
請求項32に記載の発明は、基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されている光電変換素子であって、該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0047】
請求項33に記載の発明は、光学レンズにおいて、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体からなることを特徴とする。
【0048】
請求項34に記載の発明は、光学レンズにおいて、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、熱リソグラフィを用いて簡易に形成することが可能な微小構造体及び該微小構造体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該微小構造体を用いる基板のパターニング方法並びに該微小構造体を有する構造物、情報記録媒体、原盤、光学素子、光通信装置、DNAチップ、発光素子、光電変換素子及び光学レンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0051】
本発明の微小構造体の第一の実施形態は、硫黄化合物(以下、材料Aという)及び酸化ケイ素(以下、材料Bという)をそれぞれ一種類以上含有する混合材料からなる。なお、微小構造体を形成する際に、材料Aを含有することから、熱による焼きしめを促進し、材料Bを含有することから、エッチングを利用したパターニングを可能にする。また、微小構造体の形状を反映した光学無反射膜やフォトニック結晶の設計も可能となり、微小構造体の屈折率の調整も容易である。
【0052】
材料Aとしては、ZnS、CaS、BaS、CdS、K2S、Ag2S、GeS、CoS、Bi2S3、PbS、Na2S、Cu2S、CuS、Al2S3、Sb2S3、SmS、PbS、Na2S、LiS、SiS、SiS2等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、材料Bと混合しやすく、スパッタリングターゲットとして比較的安価に入手できることから、ZnSが好ましい。これにより、レーザ光等の光照射又は加熱により、結晶性が向上するため、光照射又は加熱が行われていない領域とのエッチング耐性の差が生じる。これを利用して微小構造体を作製することができる。また、微小構造体の屈折率の調整も可能となる。したがって、熱リソグラフィによる加工を可能とし、十分利用に適した光学特性を有する光学素子、情報記録媒体が得られる。
【0053】
材料Bは、主にSiO2であるが、SiOが含まれてもよい。なお、SiOは、ターゲットを形成する時や混合材料層を形成する時の酸素欠損により生じることがある。
【0054】
本発明の微小構造体の第二の実施形態は、硫黄化合物(以下、材料A'という)、材料B及び所定の波長の光の吸収能を向上させる材料(以下、材料Cという)を含有する混合材料又は所定の波長の光の吸収能を向上させる材料A'及び材料Bを含有する混合材料からなるため、熱リソグラフィを用いて、光吸収層を有さない基板上に形成することができる。微小構造体の大きさは、数十〜数百ナノメートル程度であることが好ましい。この大きさは、高密度記録媒体の記録マークや周期性構造物の構成単位の大きさに対応する。なお、後者の場合、所定の波長の光の吸収能を向上させる材料A'を、材料Cを併用してもよいし、所定の波長の光の吸収能を向上させない材料A'と併用してもよい。
【0055】
ここで、光吸収能について詳細に説明する。光吸収能を有する物質は、光を反射すると同時に、吸収する。また、光の吸収量は、光が物質に侵入する深さzに依存し、消衰係数kによって求められ、以下のベールの法則により関係付けられる。
【0056】
I=I0exp(−αz),α=4πk/λ
ここで、Iは、物質を透過した後の光の強度、I0は、物質を透過する前の光の強度、αは、吸収係数、λは、光の波長である。すなわち、光が物質に侵入する深さ(物質の厚さ)が大きくなれば、物質が光を多く吸収し、物質を透過した光の強度が小さくなる。本発明において、光吸収能を向上させるとは、同じ膜厚で比較した場合の消衰係数kを大きくすることを意味する。
【0057】
消衰係数kの波長依存性は、材料によって異なる。したがって、例えば、可視領域ではkが小さくても紫外領域ではkが大きい材料もある。このようなことも考慮して、混合材料に照射するレーザ光の波長を選定する必要がある。レーザ光としては、特に限定されないが、可視レーザ光の他、深紫外レーザ光、赤外レーザ光等を用いることができる。中でも、多数のパルス光の照射を安価で行えることから、赤色半導体レーザ光や青色半導体レーザ光が好ましい。また、光源としては、可視光レーザ、F2レーザ、ArFレーザ、KrFレーザ等が挙げられるが、安価に入手でき、容易に利用できることから、可視光半導体レーザが好ましい。
【0058】
消衰係数kは、屈折率と共に、分光エリプソメータにより測定することができる。なお、消衰係数kは、波長によって、屈折率nと共に変化する。例えば、ZnS・SiO2(モル比80:20)は、波長が405nmの青色光に対して、nが2.33、kが1×10−3程度、波長が350nmの紫外光に対して、nが2.49、kが1×10−2程度、波長が680nmの赤色光に対して、nが2.16、kが1×10−8程度である。なお、材料Cを添加することにより、屈折率nや消衰係数kを調整することができる。
【0059】
材料A'としては、材料Aの他に、FeS、GeS2等の光吸収能を向上させる材料が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、材料Bと混合しやすく、スパッタリングターゲットとして比較的安価に入手できることから、ZnSが好ましい。また、ZnSは、可視光領域において、ほぼ透明であるため、材料Cを添加することによる可視光の透過性の調整も行いやすい。
【0060】
以下、本発明の微小構造体の一例として、ZnS(材料A')、SiO2(材料B)及び金属材料又は半導体材料(材料C)を含有する混合材料からなる微小構造体について説明する。SiO2は、フッ酸に対するエッチング耐性が無く、反応式
SiO2+6HF→H2SiF6+H2O
で示されるように反応する。このため、混合材料からなる層は、フッ酸中でエッチングされるが、可視レーザ光を吸収し、加熱された混合材料は、フッ酸に対するエッチング耐性が向上するため、微小構造体として、残存する。具体的には、混合材料は、一定出力以上の可視レーザ光を吸収し、加熱されると、ZnSとSiO2が一種の結晶化のような形態で組織化されるため、フッ酸に対するエッチング耐性が向上する。このとき、混合材料中のZnSの含有量が60mol%未満であると、フッ酸に対するエッチング耐性の向上が不十分となることがある。また、SiO2は、混合材料をエッチングするために必要であるが、混合材料中の含有量が10mol%未満であると、可視レーザ光を吸収しなくても、フッ酸に対してエッチング耐性を示すことがあり、30mol%を超えると、微小構造体が残存しないことがある。さらに、ZnS・SiO2は、可視光を透過するため、混合材料が可視光を吸収し、発熱する材料Cを含有しないと、混合材料に可視レーザ光を照射しても、発熱が不十分となる。なお、材料Cとして、有機材料を用いると、発熱が不十分となることがあるが、この原因としては、有機材料を添加しても、消衰係数kが大きくならないことが挙げられる。このため、材料Cは、半導体材料又は金属材料であることが好ましい。また、混合材料からなる層は、スパッタリング法により形成することができるが、同時スパッタの他に、混合ターゲットを用いてスパッタしてもよい。混合ターゲットは、材料A'、材料B及び材料Cの粉末を混合させて焼結させることにより作製できる。
【0061】
材料Cは、材料A'とは異なる硫黄化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有することが好ましい。これにより、材料A'として、ZnSを用いた場合、材料A'に含まれる硫黄及び亜鉛の少なくとも一方が材料Cに含まれるため、微小構造体の端部の形状が滑らかになる。このような材料Cとしては、特に限定されないが、スパッタリングターゲットとして供給を受けることが可能であることから、ZnTe、ZnSe、MnS等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0062】
また、材料Cとしては、Al、Ag、Au、Cu、Zn、Pt、Sb、Te、Ge、Si、Bi、Mn、W、Nb、Co、Sr、Fe、In、Sn、Ni、Mo、Mg、Ca等が挙げられ、二種以上併用してもよい。このような材料Cとしては、InSb、AgInSbTe、GeSbTe、ZnMgTe、CsZnTe、SbZn等の合金、ZnMgSSe、ZnCrO4、ZnZrO3、ZnWO4、ZnTiO3、Zn3N2、ZnF2、ZnSnO3、ZnMoO4等の化合物が挙げられる。このような材料は、スパッタリングターゲットとして容易に入手でき、さらに、微小構造体の屈折率等を調整することができる。
【0063】
さらに、材料Cは、蛍光物質を含有することが好ましい。これにより、紫外光又は可視光を照射して微小構造体から発せられる蛍光を検出することで、微小構造体の位置を確認することができる。このため、蛍光半導体量子ドットの蛍光検出を利用して特定箇所を検知することができ、情報記録媒体としての利用が可能である。なお、蛍光物質としては、CdSe、CdTe等が挙げられ、二種以上併用してもよい。また、このような蛍光物質は、蛍光特性が高く、容易に入手できる。
【0064】
なお、レーザ光を照射する際に、材料Cが酸化される場合がある。材料Cが酸化される程度は、レーザ光の照射条件(パルス光出力、パルス幅)、材料Cの種類、材料A'、材料B及び材料Cの組成等による。しかしながら、Si基板上に材料A'、材料B及び材料Cを多元スパッタリングした後に、電気炉を用いて数百度で30分間程度加熱養生(アニール)すると、斜め入射X線回折実験で、材料Cの酸化物のピークが見られる。例えば、Si基板上に、膜厚が200nmのZnS・SiO2・Zn膜を形成した場合には、ZnOのピークは見られないが、500℃で30分間アニールした場合には、ZnOのピークが見られる。これは、Zn(材料C)の少なくとも一部が酸化されてZnOとなったものと考えられる。同様に、ZnS・SiO2・Mnの場合には、アニール前は、Mn3O4のピークは見られないが、アニール後は、Mn3O4のピークが見られる。このとき、レーザ光を照射した場合に、レーザ光の照射部がどの程度まで加熱されて、どの程度の速さで冷却されるかは明らかではないが、フッ酸によりエッチングされた微小構造体においても、所定量の材料Cが酸化されている場合がある。このため、後述する実施例においては、微小構造体の組成を、レーザ光が照射される前と同様の組成として表記しているが、材料Cの酸化物を含有する場合も含む。このようにして所定量の材料Cが酸化されると、微小構造体の硬度を向上させることができる。具体的には、微小プローブを用いて測定した微小構造体の硬度は、微小構造体を形成する前の薄膜の硬度よりも高くなる。このとき、材料Cの酸化に伴い、透過率、屈折率等の光学特性も変化する。
【0065】
本発明の微小構造体は、特に限定されないが、半球状等の曲面を有する凸形状であってもよい。このような微小構造体は、X線又は光リソグラフィを用いて微細加工すると、高コストとなる構造を、熱リソグラフィを用いて低コストで製造することができ、さらに、光学素子やナノインプリントの元型にも応用することができる。また、微小構造体内に物理的特性又は化学的特性の分布を形成することにより、光学素子が得られる。
【0066】
曲面を有する凸形状の微小構造体は、端部が滑らかになり、曲面を有するが、作製条件によっては、角が鋭利になることや側面が平坦となることもある。なお、微小構造体の形状は、主に、混合材料からなる層に照射するレーザ光の熱分布に従うことから、3次元的には、曲面を有する領域が存在する。また、フッ酸によるウェットエッチングを行うことにより、レーザ光が照射されていない領域が除去されるため、微小構造体は、凸形状となる。このため、光硬化型樹脂等を用いて転写すると、転写された基板には、凹形状のパターンが形成される。
【0067】
また、本発明の微小構造体は、円柱状の構造体の上に、半球状等の曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状であってもよい。このような微小構造体は、二段構造となっていることから、隣接する曲面を有する凸形状の構造体の間隔を保つことができるため、蛍光を利用した情報記録媒体等では、記録マーク同士を明確に分離することができる。さらに、このような形状を反映した光学無反射膜やフォトニック結晶も設計することができ、屈折率を調整することができる。なお、感光部が化学変化するフォトリソグラフィでは、このような形状の微小構造体を作製することができない。
【0068】
さらに、本発明の微小構造体は、円筒状であってもよい。これにより、X線又は光リソグラフィを用いて微細加工すると、高コストとなる構造を、熱リソグラフィを用いて低コストで製造することができ、さらに、光学素子やナノインプリントの元型にも応用することができる。また、このような形状を反映した光学無反射膜やフォトニック結晶も設計することができ、屈折率を調整することができる。なお、感光部が化学変化するフォトリソグラフィでは、このような形状の微小構造体を作製することができない。
【0069】
円筒状の微小構造体が形成されるメカニズムは、以下の通りである。まず、レーザ光のパルス光出力が充分に大きい場合には、混合材料からなる層にレーザ光が照射された時点で、中央部は、気化して穴が開く。さらに、その後、フッ酸中でエッチングを行うことにより、レーザ光が照射されていない領域が除去される。このようにして、2段階的な加工により円筒形状の微小構造体が形成される。このような円筒形状の微小構造体は、熱リソグラフィの特徴と言うことができ、高分子レジストを用いた電子線描画加工では、作製が困難な形状である。なお、パルス光出力が比較的小さい場合には、中央部は、気化されず、エッチング後にレーザ光が照射された領域が残存し、円柱状の構造体の上に、半球状等の曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状の微小構造体になる。
【0070】
本発明において、パルス光出力及びパルス幅(照射時間)を変化させることにより、微小構造体の径は、スポットサイズ程度の大きさからその4分の1程度まで変化させることができる。例えば、波長が405nmのレーザ光をNAが0.85の対物レンズで絞った場合、微小構造体の径は、80〜400nm程度まで変化させることができる。
【0071】
これらの他に、本発明の微小構造体は、前述した曲面を有する凸形状、円柱状の構造の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状の断面が連続的に形成されていてもよい。このような線状の微小構造体は、混合材料からなる層にレーザ光を連続的に照射することにより形成することができ、回折格子、DNAチップ等に応用することができる。
【0072】
微小構造体の端部の滑らかさは、レーザ光を連続照射することにより形成される線状の微小構造体の線端ゆらぎ(LER;Line Edge Roughness)により評価することができる。後述するように、微小構造体をレジストとして利用し、基板をエッチングする場合がある。このとき、本発明の微小構造体は、電子線描画で用いられる高分子レジストとは異なる特性を有する。高分子レジストでは、パターンが微小になるにつれ、高分子自体が少なくとも数nmの大きさを持つことから、レジストのLERも数nmとなる。一方、本発明の微小構造体では、LERは1nm以下となる。LERは、近年、線幅ゆらぎ(LWR;Line Width Roughness)という言葉に半導体国際技術ロードマップ(ITRS;International Technology Roadmap for Semiconductor)で変わりつつある。LERの測定基準は、厳密には定められていないが、本発明においては、計測ライン長を2μm、計測間隔を10nmとして、最小自乗法による直線の3σから求められる。
【0073】
本発明の微小構造体は、情報記録媒体、原盤、光学素子、磁気記録媒体、DNAチップ、バイオセンサ、DNAコンピュータ、DNAメモリ、生体分子統合デバイス等に応用することができる。
【0074】
本発明の微小構造体の製造方法は、基板上に、材料A'、材料B及び材料Cを含有する混合材料からなる層を形成する工程と、混合材料からなる層にレーザ光を局所的に照射する工程と、レーザ光が照射された混合材料からなる層にエッチング加工を施す工程を有する。このため、局所的に加熱されて耐エッチング性が変化した混合材料を湿式又は乾式エッチングすることにより、端部が滑らかな微小構造体を製造することができる。さらに、基板上に、本発明の微小構造体を有する本発明の構造物を製造することができる。なお、レーザ光を局所的に照射する代わりに、局所的に熱を加えてもよいが、レーザ光は、指向性、安定性の点で優れることから、作製精度の点で、レーザ光を用いることが好ましい。
【0075】
本発明の基板のパターニング方法は、基板上に、材料A'、材料B及び材料Cを含有する微小構造体を形成する工程と、微小構造体をマスクにして基板にエッチングを施す工程を有する。このとき、必要に応じて、マスクとして用いた微小構造体を除去してもよい。このようにしてパターンが形成された基板は、原盤、光学素子、DNAチップ、発光素子、光電変換素子等に適用することができる。
【0076】
本発明の構造物は、基板上に、本発明の微小構造体を有するが、微小構造体が周期的に配置されている領域(以下、周期領域という)を有することが好ましい。これにより、周期領域により特定の波長域の光を反射するフォトニックバンドギャップを利用した光フィルタ、光スイッチが得られる。さらに、周期領域は、微小構造体が配置されていない場合より所定の波長域の光の透過率が高いことが好ましい。これにより、所定の波長域の光に対して無反射特性を示す、モスアイ構造による光学無反射膜が得られる。また、本発明の構造物が、微小構造体が配置されていない領域(以下、非周期領域という)を有すると、周期領域と非周期領域の判別を利用した情報記録媒体、周期領域中に非周期領域が存在し、周期領域により特定の波長域の光を反射するフォトニックバンドギャップを利用した光導波路が得られる。なお、情報記録媒体に用いられる本発明の微小構造体は、材料Cとして、蛍光物質を含有する。
【0077】
なお、本発明の基板のパターニング方法により基板に形成されたパターンを転写して複製してもよいし、基板に形成された微小構造体を転写して複製してもよい。複製する際には、ナノインプリント技術を用いて、樹脂を主成分とする材料にパターンや微小構造体を転写することができる。このような方法は、原盤、光学素子、DNAチップ、発光素子、光電変換素子、光学レンズ等を製造する際に用いることができる。
【0078】
本発明の原盤は、基板上に、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する、又は本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されている。このため、従来の光リソグラフィによる原盤よりも低コストで製造することができ、また、記録パターンが明瞭である。このような原盤は、光情報記録媒体等を製造する際に用いることができる。
【0079】
本発明の光学素子は、基板上に、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する、又は本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されている。光学素子としては、光フィルタ、光スイッチ、光学無反射膜、光導波路等の他に、回折格子、偏光分離素子等が挙げられる。
【0080】
本発明の光学素子は、波長多重通信に用いられる波長多重装置等の公知の光通信装置に適用することができる。図31に示すように、1本の光ファイバー301を用いて、異なる複数の波長(λ1、λ2及びλ3)の光を通信する波長多重通信では、波長毎に1セットずつの送信機311、312及び313と、受信機321、322及び323が用いられる。さらに、伝送路を高帯域化させるために、光合波回路331及び光分波回路332が用いられる。このとき、光合波回路331及び光分波回路332は、光スイッチを多数組み合わせることで形成することができる。
【0081】
本発明のDNAチップは、基板上に、DNA断片が固定されており、基板は、本発明の微小構造体を有する、又は基板は、基板上に、本発明の微小構造体を有する構造物を用いて製造されている。このとき、微小構造体は、比表面積が大きいため、検出効率が高くなり、チップ全体の大きさも小さくなる。
【0082】
本発明の発光素子は、基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されており、基板は、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する、又は基板は、基板上に、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されている。このとき、第一の電極、発光層及び第二の電極は、基板の微小構造体が配置されている側及び配置されていない側のいずれに積層されていてもよい。このような発光素子は、微小構造体を含む凹凸構造により、光の取り出し効率が向上し、その結果、発光効率を向上させることができる。
【0083】
本発明の光電変換素子は、基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されており、基板は、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する、又は基板は、基板上に、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されている。このような光電変換素子は、微小構造体を含む凹凸構造により、光電変換効率が高い光電変換素子が得られる。
【0084】
本発明の光学レンズは、本発明の微小構造体からなる、又は基板上に、本発明の微小構造体を有する構造物を用いて製造されている。これにより、信頼性の高い微小な光学レンズが得られる。
【実施例1】
【0085】
図1に示す情報記録媒体を作製した。なお、図1(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。情報記録媒体100Aは、厚さ1mm、10cm角のシリコン基板101上に、厚さ50nmのZnS・SiO2(モル比8:2)からなる誘電体層102、厚さ10nmのAgInSbTeからなる光吸収層103及び微小構造体104が形成されている。微小構造体104は、図1に示すように配置され、微小構造体104の有無により情報が判別される。具体的には、レーザ光が照射された際に、微小構造体104からは蛍光が発光され、微小構造体104が配置されていない領域105からは蛍光が発光されないことにより、情報記録媒体としての機能を果たす。なお、微小構造体104は、半球状であり、底面の直径150nm、高さ30nmであり、200nm周期(マークピッチ)、即ち、50nm間隔で配置されている。また、微小構造体104は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)からなり、蛍光性量子ドットと同様の効果を有する。このとき、図1(b)に示す方向に蛍光検出光学ヘッドを走査することにより、情報が読み出される。蛍光検出光学ヘッドにおいては、発光された蛍光をレンズで集光し、光ファイバー、光フィルタを経由して、光電子増倍管で増幅することにより蛍光が検出される。このとき、光学ヘッド、光フィルタ、光信号の処理方法等により、微弱な蛍光であっても検出することができる。
【0086】
図2に、情報記録媒体100Aの製造方法を示す。まず、シリコン基板101上に、誘電体層102、光吸収層103及び混合材料層106を順に、スパッタリング装置CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて形成した(図2(a)参照)。なお、混合材料層106は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)からなり、厚さが160nmである。次に、得られたシリコン基板101をXYステージに真空吸着させ、波長が405nmのレーザ光107を、半導体レーザ及びNAが0.85の対物レンズ108を用いて、200nm周期でパルス照射した(図2(b)参照)。このとき、レーザ光107の照射箇所は、プログラムにより設定されている。さらに、2重量%フッ酸109を用いて、エッチングを10秒間行った(図2(c)参照)。その後、走査顕微鏡を用いて観察すると、レーザ光107の照射箇所に、微小構造体104が形成されていた(図2(d)参照)。このとき、レーザ光107の照射箇所は、一種の焼きしめ効果により、混合材料層106のフッ酸に対するエッチング耐性が向上するため、半球状のパターンとして残存するものと考えられる。
【0087】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体104を簡易に作製することができる。このとき、混合材料層106中のCdTeの含有量が3重量%であることから、微小構造体104の作製に悪影響を及ぼさずに、蛍光検出を利用した情報記録媒体100Aを作製することができる。なお、得られた情報記録媒体100Aは、微小構造体104の有無により、記録と未記録の箇所が区別されるため、ROM(Read Only Memory)として、用いることができる。また、混合材料層106がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。
【実施例2】
【0088】
図3に示す情報記録媒体を作製した。なお、図3(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。情報記録媒体100Bは、ポリカーボネート基板110上に、厚さ50nmのZnS・SiO2(モル比8:2)からなる誘電体層102、厚さ10nmのGeからなる光吸収層103、厚さ20nmのZnS層111及び微小構造体104が形成されている。ポリカーボネート基板110は、光ディスク用の直径12cm、高さ20nmの円盤状であり、440nm周期(トラックピッチ)の凹凸を有する。微小構造体104は、図3に示すように配置され、微小構造体104の有無により情報が判別される。具体的には、レーザ光が照射された際に、微小構造体104からは蛍光が発光され、微小構造体104が配置されていない領域からは蛍光が発光されない。なお、微小構造体104は、半球状であり、底面の直径が150nm、高さが30〜160nmであり、400nm周期(マークピッチ)で配置されている。また、微小構造体104は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)からなり、蛍光性量子ドットと同様の効果を有する。このとき、図3(b)に示す方向に蛍光検出光学ヘッドを走査することにより、情報が読み出される。さらに、蛍光検出光学ヘッドで、発光された蛍光をレンズで集光し、光ファイバー、光フィルタを経由して、光電子増倍管で増幅することにより蛍光が検出される。このため、光学ヘッド、光フィルタ、光信号の処理方法等により、微弱な蛍光であっても検出することができる。
【0089】
以下に、情報記録媒体100Bの作製方法を説明する。まず、ポリカーボネート基板110上に、誘電体層102、光吸収層103、ZnS層111及び混合材料層を順に、スパッタリング装置CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて形成した。なお、混合材料層は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)からなり、厚さが160nmである。次に、得られたポリカーボネート基板110を、光ディスク評価装置LM330(シバソク社製)を用いて、線速度4.5m/秒で回転させて、フォーカシング、トラッキングを行いながら、NAが0.85の対物レンズを用いて、波長が405nmのレーザ光を400nm周期でパルス照射した(パルス光出力5.0mW)。なお、レーザ光の照射箇所は、プログラムにより設定されている。さらに、2重量%フッ酸を用いて、エッチングを10秒間行った。その後、走査顕微鏡を用いて観察すると、レーザ光の照射箇所に、微小構造体104が形成されていた。このとき、レーザ光の照射箇所は、一種の焼きしめ効果により、混合材料層のフッ酸に対するエッチング耐性が向上するため、半球状のパターンとして残存するものと考えられる。
【0090】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体104を簡易に作製することができる。このとき、混合材料層中のCdTeの含有量が3重量%であることから、微小構造体104の作製に悪影響を及ぼさずに、蛍光検出を利用した情報記録媒体100Bを作製することができる。なお、情報記録媒体100Bは、微小構造体104の有無により記録と未記録の箇所が区別されるため、ROM(Read Only Memory)として、用いることができる。また、混合材料層がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。なお、光ディスク用のランド・グルーブが形成された基板を用いた場合には、フォーカシング、トラッキングを行いながら、レーザ光を照射することができるので、高速で高精度に微小構造体104を作製することができる。
【実施例3】
【0091】
微小構造体の形状のパルス光出力依存性を調べた。なお、パルス光出力は、1.5〜7mWの範囲で変化させた。微小構造体の作製方法は、実施例2と同様であるが、微小構造体の材料としては、ZnS・SiO2(モル比8:2)を用いた。
【0092】
図4〜図9に、作製された微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。なお、電界放射形走査電子顕微鏡FE−SEM S−4100(日立製作所社製)を用いて、観察した。図4〜図9において、(a)及び(b)は、それぞれ上面及び斜めから撮影したものである。これらの走査型電子顕微鏡写真から、パルス光出力の変化に伴って、高さ、幅を含む微小構造体の形状が変化していることがわかる。なお、本実施例では、いずれの形状の微小構造体が形成された場合においても、情報記録媒体として用いることができる。
【0093】
図10に、パルス光出力と微小構造体の最大径の関係を示す。図10から、微小構造体の最大径は、パルス光出力に対して、完全な線形性を示さないことがわかる。なお、凹凸を有するポリカーボネート基板上に形成された微小構造体の形状は、パルス光出力の値により、主にStageI〜IVの形状に分類される(図11参照)。
【0094】
StageI(パルス光出力3.5〜5.2mW):微小構造体104は、非球面であるが、半球状である。パルス光出力の増加に伴って、微小構造体104の最大径が増す(図11(a)参照)。
【0095】
StageII(パルス光出力5.2〜6.8mW):微小構造体104は、円柱状の構造体104aの中央に半球状の構造体104bが形成され、円柱状の構造体104aは、上下2つの構造から構成されている。パルス光出力の増加に伴って、主に下側の構造が大きくなる(図11(b)参照)。
【0096】
StageIII(パルス光出力6.8〜8.0mW):微小構造体104は、円柱状の構造体104aの中央に半球状の構造体104bが形成され、円柱状の構造体104aは、上下2つの構造から構成されているが、主に上側の構造が下側の構造よりも大きい(図11(c)参照)。
【0097】
StageIV(パルス光出力8mW〜):微小構造体104は、円筒形状である(図11(d)参照)。
【0098】
なお、図4及び図5に代表されるStageIでは、微小構造体104は、半球状である(図11(a)参照)。また、図6〜図9に代表されるStageII及びStageIIIでは、微小構造体104は、円柱状の構造体104aと、半球状の構造体104bから構成される。なお、StageIIでは、微小構造体104は、円柱状の構造体104aの下部で最大径を有する(図11(b)参照)。一方、StageIIIでは、微小構造体104は、円柱状の構造体104aの上部で最大径を有する(図11(c)参照)。さらに、StageIVでは、微小構造体104は、中央部に穴が開き、円筒形状となる(図11(d)参照)。
【0099】
混合材料層のエッチング耐性がレーザ光の照射によって向上する理由は、厳密には明らかになっていないが、混合材料層は、光学的にほぼ透明であるため、光吸収層がレーザ光を吸収して発熱し、混合材料層が焼きしめ効果により緻密化するためであると考えられる。
【0100】
微小構造体の形状に関しては、レーザ光を吸収した光吸収層から発光される熱分布がガウス分布であるため、平板基板上を用いた場合には、基本的に半球状になる。しかしながら、凹凸を有する光ディスク用基板を用いた場合には、3次元空間的な熱分布が複雑になるため、StageI〜IVのような形状になると考えられる。
【0101】
StageIは、主に自由空間の中心で熱が発生し、混合材料層の高温となった箇所でエッチング耐性が向上する。StageIIでは、混合材料層の厚さが有限であることから、熱輻射が同心円状にならなくなり、光吸収層に近い箇所が高温になりやすい。StageIIIでは、ポリカーボネート基板の凹凸や、上部が空気層となっていること等のいくつかの要因が影響して、混合材料層の上部が下部よりも放熱が悪く、高温になりやすいものと推測される。StageIVでは、光吸収層の気化が主要因と考えられるが、微小構造体の中央部に穴が開く。
【0102】
StageI〜IVの微小構造体は、いずれも情報記録媒体の他、フォトニック結晶、光学無反射膜、光スイッチ、光フィルタ、プラズモニック結晶等に適した構造である。なお、微小構造体の形状と屈折率は、光学特性に影響するため、各々の形状に対して、大きさや屈折率を調整する必要がある。
【0103】
本実施例では、走査型電子顕微鏡の観察分解能の関係から、ZnS・SiO2を用いて微小構造体を作製している。情報記録媒体の高密度化では、トラックピッチの狭ピッチ化や記録マークの縮小化は必須であるが、本実施例の微小構造体は、直径数十nmのサイズにすることができる。なお、ランド・グルーブのピッチ間隔や、光吸収層の材質、膜厚、ZnS・SiO2の組成比を変えると、微小構造体の形状及びパルス光出力特性も若干変化するが、上記とほぼ同様に形状制御することができる。また、ZnS・SiO2以外の材料を用いたり、ZnS・SiO2に他の物質を混合したり、組成を若干異なるようにしたりしても、微小構造体を作製することができる。
【0104】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体を簡易に作製することができる。なお、混合材料層がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。また、光ディスク用のランド・グルーブが形成された基板を用いた場合には、フォーカシング、トラッキングを行いながら、レーザ光を照射することができるので、高速で高精度に微小構造体を作製することができる。
【実施例4】
【0105】
ZnS・ZnO・SiO2(モル比6:2:2)からなる混合材料層を用いた以外は、実施例1と同様にして、図12に示す光学無反射膜を作製した。なお、図12(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光学無反射膜100Cは、図11のStageII〜IIIの形状を有する微小構造体104が200nm周期で配置されているため、特定波長域(350〜600nm)の光のフレネル反射を抑制し、モスアイ構造による無反射特性を示した。
【0106】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体104を簡易に作製することができる。また、混合材料層がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。
【0107】
光学無反射膜は、微小構造体の形状によらず、図11のStageI〜IVのいずれの形状も適用することができる。なお、微小構造体の形状の違いにより、微小構造体の高さ、屈折率、周期を適宜調整する必要がある。また、材質の屈折率も影響するが、モスアイ構造の反転構造でも、光学無反射膜を形成することができる。さらに、得られた光学無反射膜に、多層膜を形成してもよい。
【実施例5】
【0108】
ZnS・ZnO・SiO2(モル比6:2:2)からなる混合材料層を用いた以外は、実施例1と同様にして、図13に示す光導波路を作製した。なお、図13(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光導波路100Dは、光を反射する領域には、図11のStageII〜IIIの形状を有する微小構造体104が300nm周期で配置されており、光の伝播部分には、微小構造体104が配置されていない。これにより、周期性構造物の平均屈折率と周期間隔に起因する特定波長域(400〜600nm)の光をフォトニックバンドギャップによって反射するため、図13(b)に示すように、光が進行する。フォトニック結晶による光導波路では、反射する光の波長は、入射角度に依存するため、フォトニックバンドギャップ波長域に対応する波長の光を、入射角度を調節して入射させる必要がある。
【0109】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体を簡易に作製することができる。また、混合材料層がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。
【0110】
なお、フォトニックバンドギャップを利用した光導波路は、光フィルタ、光スイッチ、レーザ等に応用することができる。また、フォトニックバンドギャップ近傍の波長域では、光を反射せず、透過するが、フォトニック結晶の特異な性質によりコリメート効果、レンズ効果等の解像限界を超えた光学特性が理論的、現象論的に見られている。このような効果も、本発明の微小構造体を用いて得られる。
【0111】
光導波路は、微小構造体の形状によらず、図11のStageI〜IVのいずれの形状の微小構造体が配置されていてもよい。なお、微小構造体の形状の違いにより、微小構造体の高さ、屈折率、周期を適宜調整する必要がある。
【0112】
また、微小構造体の周期構造の反転構造もインバースオパール構造という形で特性が異なるものの、フォトニックバンド効果が得られる。このため、フォトニック結晶としては、微小構造体の周期構造及びその反転構造のいずれも用いることができる。
【実施例6】
【0113】
10cm角の石英基板112を用い、ZnS・SrS・SiO2(モル比7:1:2)からなる混合材料層を用いた以外は、実施例1と同様にして、図14に示す光フィルタを作製した。なお、図14(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光フィルタ100Eにおける微小構造体104は、半球状であり、底面の直径150nm、高さ30nmであり、200nm周期(マークピッチ)で配置されている。このため、レーザ光が照射された際に、光フィルタ100Eは、サブ波長構造の効果として、入射角度に応じて特定波長域(300〜500nm)の光を反射する。このとき、波長405nmの光を、角度を変えながら微小構造体104が形成されている面に入射すると、特定の角度で入射光が反射される。
【0114】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体104を簡易に作製することができる。また、混合材料層がZnS、SrS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。なお、微小構造体104の周期構造からは、サブ波長構造だけでなく、フォトニック結晶の効果も生じる。これにより、特定波長域の光を反射する光フィルタ又は光スイッチとして機能する。サブ波長構造やフォトニック結晶は、入射角と反射光の波長が互いに依存している。なお、光フィルタと光スイッチは、同様の現象を利用しており、特定の波長域の光を完全に透過させたくない場合には、光フィルタとして機能させる。また、光の透過のONとOFFを制御した光学素子として利用したい場合には、光スイッチとなる。
【0115】
実施例1〜6において、光吸収層として利用される材料は、特に限定されず、AgInSbTe、Geの他、Si、III−V族化合物半導体、4元混晶化合物等が挙げられる。また、熱リソグラフィとしては、レーザ光を照射する方法の他に、局所的に熱を加える方法も可能である。しかしながら、指向性、安定性の点で優れ、微小構造体の作製精度が高いことから、レーザ光を照射することが好ましい。
【実施例7】
【0116】
図15に示す原盤を作製した。原盤200Aは、容量25GBのBD−ROM(Blu−ray Disc−Read Only Memory)用であり、記録ピットのパターン201aが周期的に配置されている領域を有し、トラックピッチが0.32μmである。原盤200Aの材質は、石英であり、原盤200Aを元に、射出成型等の転写工程によってスタンパ及び光情報記録媒体(映画等の記録済みコンテンツ用)を製造することが可能である。
【0117】
図16に、原盤200Aの製造方法を示す。まず、平坦な円盤状の石英基板201に、ZnS・SiO2・ZnTe(モル比70:20:10)からなる厚さ40nmの混合材料層202を、CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて、RFスパッタリングにより形成した。(図16(a)参照)。次に、レーザ光照射装置のNAが0.85の対物レンズ203により集光された波長が405nmの青色レーザ光204を、混合材料層202の表面にフォーカスし、所定の領域にパルス光出力5mWで照射を行った(図16(b)参照)。このとき、ROMの情報からなるストラテジを用いて、パターンが形成できるようにした。その後、2重量%フッ酸205に10秒間浸漬し(図16(c)参照)、乾燥させた。その結果、石英基板201上に、ZnS・SiO2・ZnTe(モル比70:20:10)からなる、ほぼ半球状の微小構造体206が形成された(図16(d)参照)。
【0118】
その後、RIE(Reactive Ion Etching)装置に設置し、CF4ガスによるエッチングを行った。その結果、石英基板201は、微小構造体206をマスクにしてエッチングされた(図16(e)参照)。さらに、微小構造体206を除去すると、マスクの形状を反映したパターン201aが形成された(図16(f)参照)。石英からなるパターン201aの高さは、AFM(原子間力顕微鏡)による測定の結果、約40nmであった。なお、ここでは、点状のパターン201aが形成されるが、青色レーザ光204を連続照射すると、線状のパターン(グルーブ)が形成され、R基板(Recordable基板)用やRW基板(Rewritable基板)用のスタンパを作製することもできる。
【0119】
一方、微小構造体は、ZnS・SiO2・ZnTeの組成比がどのような場合でも形成できるわけではない。パターン形成の可否と組成比の関係について評価したところ、表1に示す結果が得られた。
【0120】
【表1】
表1より、試料1、5、7ではパターンを形成できたが、試料2、3、4、6ではパターンを形成できなかった。パターン形成の可否と組成比の関係について調べるため、試料1〜7に対して、NAが0.85の対物レンズにより集光された、波長が405nmの青色レーザ光をパルス光出力1〜8mWで照射する前後のフッ酸に対するエッチング耐性を評価したところ、表2に示す結果が得られた。
【0121】
【表2】
表2より、パターンを形成できる場合は、レーザ光を照射する前にエッチング耐性がなく、レーザ光を照射した後にエッチング耐性があることがわかる。試料1、3、4を比較すると、レーザ光を照射する前にエッチング耐性が無いためには、SiO2が必要であり、その割合は、10mol%以上と推定される。一方、試料3のようにSiO2の割合が多すぎると、レーザ光を照射した後にエッチング耐性が無い。また、試料2のようにZnTeの割合が少ない場合には、レーザ光を透過する成分(ZnSとSiO2)が多いため、レーザ光の吸収が不十分となる。ZnTeは、光吸収能を向上させるために必要であるが、試料7のように割合が多すぎると、ZnSの割合が不十分となり、レーザ光の吸収に伴う発熱による組織化が促進されない。パターンが形成されている試料1、5、7の組成比も考慮して、ZnSの割合は60mol%以上、ZnTeの割合は30mol%以下と推定される。
【0122】
また、ZnTeの代わりにAgを用いて同様に評価したところ、表3及び表4に示す結果が得られた。
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
表3及び表4より、試料8〜14においては、ZnTeの代わりにAgを用いても、ZnS・SiO2・Agの組成比とパターン形成の可否の関係は同様であると言える。一方、試料16では、パターン形成は可能であったが、試料8の方が鮮明なパターンであった。試料15、試料17は、試料16と近い組成比であるが、パターン形成ができなかった。試料15では、表4に示すようにレーザ光を照射する前からエッチング耐性があることから、パターン形成ができず、SiO2の割合が9mol%では不十分なことを示す。一方、試料17では、レーザ光を照射する前は、エッチング耐性が無いが、Agの割合が9mol%であるため、レーザ光の照射量が不十分であり、パターンを形成できなかったと考えられる。この場合には、高出力のレーザ光を照射すれば、パターンを形成することができると考えられる。
【0125】
なお、材料Cとして添加する材料を変更すると、レーザ光の吸収に伴う発熱量が変化するため、パターン形成に必要なレーザ光の照射条件(パルス光出力、パルス幅)も変化する。同様のことは、材料A'についても言える。なお、フッ酸を用いてエッチングする場合には、パターン形成が可能なSiO2の割合は、10mol%以上であり、SiOが含まれている場合も同様である。また、試料18〜20が示すように、パターン形成が可能なSiO2の割合は、30mol%以下である。試料18のように、SiO2の含有量が30mol%の場合には、パターンは、形成されるが、非常に不鮮明である。また、試料19、20のように、SiO2の含有量が31mol%の場合には、微小構造体がほぼ残存しない。なお、レーザ光のパルス光出力を大きくして、材料Cの割合を少なくし、材料A'の割合を多くしても、パターン形成が可能なSiO2の割合は、30mol%以下である。鮮明なパターンを形成するためには、SiO2が10〜30mol%の範囲内で適度に含まれることが好ましい。
【0126】
また、スパッタリング法により混合材料層を形成する場合には、混合材料からなる一つのスパッタリングターゲットを用いて形成してもよいし、材料毎にスパッタリングターゲットを用意して同時スパッタリングにより形成してもよい。スパッタリングの方法によって、例えば、混合材料層の表面粗さが異なる場合や、SiO2に酸素欠損が生じてSiOx(x=1〜2)になる場合もあるが、混合材料層の膜質は大きく変わらない。なお、レーザ光を混合材料層に照射することよって、混合材料層内で材料が混合する効果もあると考えられる。
【0127】
一方、波長が405nmの青色光に対して、ZnS・SiO2(モル比80:20)の消衰係数kは、ほぼ1×10−3程度であるのに対して、試料5の混合材料層のkは、1×10−1程度である。このようにZnTeを添加することで青色レーザ光の吸収能を向上させることができる。混合材料層における発熱量は、レーザ光のパルス光出力によるため、kの基準値は、特に限定されないが、市販の赤色や青色の半導体レーザ光を照射する場合は、1×10−1程度で十分である。
【0128】
また、厚さ40nmのZnS・SiO2(モル比50:50〜90:10)の可視光領域における透過率は、ほぼ100%であるが、ZnTe又はAgを添加すると、ZnTe又はAgの割合が高くなる程、透過率が低下し、光吸収能が向上する。しかしながら、混合材料層の組成は、微小構造体の作製に重要であり、ZnSを60mol%以上、SiO2を10〜30mol%、ZnTe又はAgを30mol%以下含有することが好ましい。このような条件を満たさないと、エッチングにより滑らかな端部を有するほぼ半球状の微小構造体が形成されないことがある。混合材料層は、10重量%以上のSiO2を含むため、フッ酸中でエッチングされるが、ほぼ半球状の微小構造体が残存するのは、レーザ光の照射を受けており、フッ酸に対するエッチング耐性が向上しているためである。なお、材料Cとして、ZnTeを用いると、ZnSと同一の元素を含むため、Agを用いた場合と比較して、微小構造体の端部がさらに滑らかになる。
【0129】
本実施例においては、微小構造体206がほぼ半球状であるため、原盤200Aを製造することができる。なお、図16(d)に示す微小構造体206の代わりに、青色レーザ光204のパルス光出力を7mWにすると、図17に示すように、ほぼ円柱状の構造の上に半球状の構造体が形成されている形状の微小構造体207が形成される。なお、最終的に石英基板201にエッチングを施すため、微小構造体の形状は、記録ピットのパターン形状に影響を及ぼす。このとき、微小構造体207をマスクにしてエッチングする方が、微小構造体206を用いた場合と比較して、ほぼ垂直にエッチングされるという特長がある。
【実施例8】
【0130】
図18に示す光学無反射膜を作製した。なお、図18(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光学無反射膜200Bは、石英からなり、直径が約150nm、高さが約250nmの円柱状のパターン201bが200nm周期で配置されている。光学無反射膜200Bは、同一の厚さの石英基板201と比較して、波長が400〜600nmの光の透過率を上昇させ、100%に近づける。これは、周期構造がモスアイ構造となり、反射を抑制し、光を透過させるためである。
【0131】
光学無反射膜200Bの製造方法は、青色レーザ光204を200nm周期で照射した以外は、実施例7と同様である。なお、光学無反射膜200Bは、ウェハーで作製した後、ダイシングにより数ミリ角に分割し、不純物を除去するために洗浄することにより得られる。
【0132】
図16(d)に示すように、石英基板201上に微小構造体206が形成されたものも光学無反射膜として利用できるが、微小構造体206の材質が石英と異なるため、光学無反射膜としての効果が薄れたり、ダイシング工程で剥離が生じて歩留まりが低くなったりすることがある。このことから、必要に応じて、石英基板201までエッチングした後に、パターンを転写して複製してもよい。このとき、石英基板201の表面に形成されるパターンの形状は、基本的にマスクとなる微小構造体206に近い形状となる。しかしながら、微小構造体206のCF4に対するエッチングレートが十分小さいため、アスペクト比が高い形状のパターン201bも作製することができる。なお、複製する際には、熱ナノインプリント、光ナノインプリント、ソフトリソグラフィ等のナノインプリント技術を用いて、樹脂を主成分とする材料にパターンを転写することができる。
【実施例9】
【0133】
図19に示す光学無反射膜を作製した。なお、図19(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光学無反射膜200Cは、石英基板201上に、微小構造体208が400nm周期で配置されている。微小構造体208の材質は、ZnS・SiO2・ZnTe・ZnO(モル比64:18:10:8)である。また、微小構造体208は、ほぼ円筒形状であり、外径が300nm、内径が90nm、高さが約50nmである。光学無反射膜200Cは、同一の厚さの石英基板と比較して、波長が400〜600nmの光の透過率を上昇させ、100%に近づける。これは、微小構造体208による周期構造がモスアイ構造となり、反射を抑制し、光を透過させるためである。
【0134】
光学無反射膜200Cの製造方法は、パルス光出力が9mWの青色レーザ光204を400nm周期で照射した以外は、実施例7と同様である(ただし、図16(e)及び(f)を除く)。ZnS・SiO2・ZnTe・ZnO(モル比64:18:10:8)は、透過率が高いため、青色レーザ光204のパルス光出力を大きくする必要がある。
【0135】
なお、青色レーザ光204のパルス光出力を8mWにすると、図20に示すように、空洞部の下側が大きい円筒形状の微小構造体209が形成される。
【実施例10】
【0136】
図21に示す情報記録媒体を作製した。情報記録媒体200Dは、ランドとグルーブの繰り返し凹凸を有する、直径12cmの円盤状のポリカーボネート基板210上に、微小構造体211が基本的には160nm周期で配置されている。微小構造体211は、底面の直径が約90nm、高さが約30nmのほぼ半球状であり、微小構造体211の有無により情報が判別される。具体的には、情報記録媒体200Dにレーザ光が照射された際に、微小構造体211からは蛍光が発光され、微小構造体211が配置されていない領域からは蛍光が発光されない。このため、蛍光検出光学ヘッドを走査させると、蛍光の有無により情報を読み出すことができる。
【0137】
微小構造体211の材質は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)であり、蛍光性量子ドットと同様の効果を有する。情報を読み出す際には、発光した蛍光を光学ヘッド内のレンズで集光し、光ファイバー、光フィルタを経由して光電子増倍管で増幅することにより、蛍光を検出した。これにより、微弱な蛍光でも検出することができる。
【0138】
情報記録媒体200Dの製造方法は、パルス光出力が8mWの青色レーザ光204を照射した以外は、実施例7と同様である(ただし、図16(e)及び(f)を除く)。本実施例では、円盤状のポリカーボネート基板210上に作製したが、XYステージを用いて角状基板に作製することもできる。この場合、XYステージに真空吸着させ、レーザ光をパルス照射すればよい。
【実施例11】
【0139】
図22に示す光導波路を作製した。なお、図22(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光導波路200Eは、シリコン基板212上に、微小構造体213が400nm周期で配置されている周期領域を有し、周期領域の平均屈折率と微小構造体213の間隔に起因するフォトニックバンドギャップにより、波長が780nmの光が反射される。なお、光の伝播部分には、微小構造体213が形成されていない。微小構造体213は、底面の直径が200nm、高さが50nmの円柱状の構造の上に半球状の構造体が形成されており、材質は、ZnS・SiO2・ZnO(モル比65:20:15)である。
【0140】
光導波路200Eの製造方法は、パルス光出力が7mWの青色レーザ光206を照射した以外は、実施例7と同様である(ただし、図16(e)及び(f)を除く)。
【0141】
フォトニックバンドギャップを利用したフォトニック結晶は、光導波路の他に、光フィルタ、光スイッチ等の光学素子に応用することができる。また、フォトニックバンドギャップ近傍の波長域では、光を反射せず、透過するが、フォトニック結晶の特異な性質により、コリメート効果、レンズ効果等の解像限界を超えた光学特性が理論的、現象論的に見られている。このような効果も、本発明の光学素子により得られる。
【実施例12】
【0142】
図23に示す光フィルタを作製した。光フィルタ200Fは、サブ波長構造を利用したものであり、石英基板201上に、微小構造体214が300nm周期で配置されている。微小構造体214は、底面の直径が200nm、高さが50nmの円柱状の構造の上に半球状の構造体が形成されており、材質は、ZnS・SiO2・Au(モル比72:18:10)である。
【0143】
光フィルタ200Fの製造方法は、パルス光出力が8mWの青色レーザ光204を照射した以外は、実施例7と同様である(ただし、図16(e)及び(f)を除く)。なお、図16(e)及び(f)の工程を経て、図24に示すように、石英からなる光フィルタ200Gとしてもよい。なお、光フィルタ200Gは、光フィルタ200Fと同様の周期のパターン201cを有する。
【0144】
光フィルタ200F及び200Gは、レーザ光が照射されると、フォトニックバンドギャップにより、特定波長の光を反射するため、光スイッチとして作用する。例えば、波長が405nmの光を、角度を変えながら、光フィルタ200F及び200Gに入射すると、特定の角度で光を反射する。
【0145】
なお、微小構造体214の代わりに、断面がほぼ長方形である線状の微小構造体を、青色レーザ光204を連続照射することにより周期的に形成しても、光スイッチとしての効果が得られた。線状の微小構造体を形成する場合には、互いに垂直な網目状の構造としても光スイッチとしての効果が得られた。また、LERも、フォトリソグラフィにおけるレジストの値よりも小さく、1nm以下となった。
【0146】
このような光フィルタは、サブ波長構造及びフォトニックバンドギャップ効果により、特定波長の光を反射する光フィルタ又は光スイッチとして機能する。サブ波長構造やフォトニック結晶は、入射角と反射光の波長が互いに依存している。なお、光フィルタと光スイッチは、同様の現象を利用しており、特定波長の光を完全に透過させたくない場合には、光フィルタとして機能する。また、光の透過のONとOFFを制御した光学素子として利用したい場合には、光スイッチとなる。
【実施例13】
【0147】
図25に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。これらの微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がZnS・SiO2・Ag(モル比72:18:10)である。微小構造体の製造方法は、ZnS・SiO2・Ag(モル比72:18:10)からなるスパッタリングターゲットを用いて、青色レーザ光204のパルス光出力を変化させた以外は、実施例7と同様である。図25(a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれパルス光出力が6.5mW、7.0mW、8.0mW及び9.0mWである。図25(a)及び(b)では、半球状の微小構造体、図25(c)では、円柱状の構造体の上に半球状の構造体が形成されている形状の微小構造体、図25(d)では、円筒状の微小構造体が形成されている。なお、微小構造体の形状は、走査型電子顕微鏡の他に、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡を用いて、評価することができる。
【0148】
図26に、これらの微小構造体のパルス光出力に対する外径及び内径の関係を示す。図26より、パルス光出力が大きくなると共に、微小構造体の外径が大きくなり、9mWで微小構造体の中央に空洞部が生じることがわかる。なお、微小構造体の大きさは、レーザ光を照射する際のパルス幅(照射時間)によっても変化させることができる。この場合のパルス幅は、10〜15ナノ秒程度である。組成比、材料等によりパルス光出力に対する微小構造体の大きさは異なるが、Ag以外の材料を用いた場合でも同様のパルス光出力依存性が見られる。
【0149】
図27に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。この微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がZnS・SiO2・ZnTe(モル比68:17:15)である。微小構造体の製造方法は、ZnTeとZnS・SiO2(モル比80:20)の2個のスパッタリングターゲットを用いて、青色レーザ光204のパルス光出力を変化させた以外は、実施例7と同様である。なお、スパッタリング法により形成された膜の組成は、元素分析によって確認した。図27(a)は、パルス光出力が6.0mWであり、図27(b)は、パルス光出力が7.0mWである。
【0150】
図28に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。この微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がZnS・SiO2・Au(モル比72:18:10)である。微小構造体の製造方法は、AuとZnS・SiO2(モル比80:20)の2個のスパッタリングターゲットを用いて、青色レーザ光204のパルス光出力を3.0mWとした以外は、実施例7と同様である。
【0151】
図25、図27及び図28の微小構造体を比較すると、図27の微小構造体の端部が最も滑らかであることがわかる。図25、図27及び図28の微小構造体と同様の材料を用いて、レーザ光を連続照射することにより線状の微小構造体を作製し、LERを比較したところ、図27の微小構造体と同様の材料を用いた場合が最も小さかった。これは、材料A'及び材料Cに同一元素としてZnが含まれるためであると考えられる。
【0152】
材料Cとして、Al、Cu、Pt、Sb、Te、Ge、Si、Bi、Mn、W、Co、Nb及びこれらの合金、例えば、InSb、AgInSbTe、GeSbTe等を用いた場合についても同様に、微小構造体を作製することができた。また、ZnMgTe、CsZnTe、ZnMgSSe、SbZn、ZnCrO4、ZnZrO3、ZnWO4、ZnTiO3、Zn3N2、ZnF2、ZnSnO3、ZnMoO4、GeS2、CoS、SnS等を用いた場合についても同様に、微小構造体を作製することができた。さらに、材料Cとして、ZnOのように青色レーザ光に対する透過率が他の元素と比較して大きい材料を用いる場合には、例えば、ZnS・SiO2・ZnTe・ZnO(64:18:10:8)とすると、端部が滑らかな微小構造体を作製することができた。また、材料Cとして、ZnSe、MnS、SrSを用いた場合についても、端部が滑らかな微小構造体を作製することができた。
【実施例14】
【0153】
図18に示す光学無反射膜を作製した。光学無反射膜200Bは、石英からなり、直径が約150nm、高さが約250nmの円柱状のパターン201bが200nm周期で配置されている。光学無反射膜200Bは、同一の厚さの石英基板と比較して、波長が400〜600nmの光の透過率を上昇させ、100%に近づける。これは、周期構造がモスアイ構造となり、反射を抑制し、光を透過させるためである。
【0154】
光学無反射膜200Bの製造方法は、青色レーザ光204を200nm周期で照射し、FeSとSiO2の2個のスパッタリングターゲットを用いて、FeS・SiO2(モル比80:20)からなる混合材料層202を形成した以外は、実施例7と同様である。なお、光学無反射膜200Bは、ウェハーで作製した後、ダイシングにより数ミリ角に分割し、不純物を除去するために洗浄することにより得られる。
【0155】
ZnS、CaS、SrSが可視領域でほぼ透明であり、光吸収能が小さいのに対して、FeSは、硫黄化合物の中でも光吸収能が大きいため、FeS・SiO2(モル比80:20)は、可視領域発振波長のレーザ光を吸収する。このため、FeSは、光吸収能を向上させる材料として機能する。
【0156】
図16(d)に示すように、石英基板201上に微小構造体206が形成されたものも光学無反射膜として利用できるが、微小構造体206の材質が石英と異なるため、光学無反射膜としての効果が薄れたり、ダイシング工程で剥離が生じて歩留まりが低くなったりすることがある。このことから、必要に応じて、石英基板201までエッチングした後に、パターンを転写して複製してもよい。このとき、石英基板201の表面に形成されるパターンの形状は、基本的にマスクとなる微小構造体206に近い形状となる。しかしながら、微小構造体206のCF4に対するエッチングレートが十分小さいため、アスペクト比が高い形状のパターンも作製することができる。なお、複製する際には、熱ナノインプリント、光ナノインプリント、ソフトリソグラフィ等のナノインプリント技術を用いて、樹脂を主成分とする材料にパターンを転写することができる。
【実施例15】
【0157】
図29に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。これらの微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がFeS・SiO2(モル比80:20)である。微小構造体の製造方法は、FeSとSiO2の2個のスパッタリングターゲットを用いて、FeS・SiO2(モル比80:20)からなる混合材料層202を形成し、青色レーザ光204のパルス光出力を変化させた以外は、実施例7と同様である。図29(a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれパルス光出力が1.5mW、2.0mW、3.0mW及び4.5mWである。図29(a)では、半球状の微小構造体、図29(b)及び(c)では、円柱状の構造体の上に半球状の構造体が形成されている形状の微小構造体、図29(d)では、円筒状の微小構造体が形成されている。なお、微小構造体の大きさは、レーザ光のパルス光出力の他、パルス幅でも変化する。
【0158】
図30に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。これらの微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がFeS・SiO2(モル比76:24)である。微小構造体の製造方法は、FeSとSiO2の2個のスパッタリングターゲットを用いて、FeS・SiO2(モル比76:24)からなる混合材料層202を形成し、青色レーザ光204のパルス光出力を変化させた以外は、実施例7と同様である。図30(a)及び(b)は、それぞれパルス光出力が1.1mW及び1.4mWである。
【0159】
このように青色レーザ光204を照射し、フッ酸205に浸漬してエッチングすることにより、微小構造体206が形成されるのは、青色レーザ光204が照射された領域では、FeSとSiO2が組織化され、フッ酸205に対するエッチング耐性が向上するためである。
【実施例16】
【0160】
図19に示す構造を有する微小構造体208を石英基板201上に形成した。ただし、微小構造体208の材質は、ZnS・SiO2・Au(モル比72:18:10)である。このとき、石英基板201の代わりに、スライドガラスを用いることもできる。なお、微小構造体208の製造方法は、パルス光出力を8mWとした以外は、実施例9と同様である。次に、微小構造体208が形成された石英基板201上に、一万種類以上のDNA断片を微小スポットとして、インクジェット方式により整列固定させることにより、DNAチップを作製した。インクジェット法は、射出孔からの吐出量の制御に有利である。
【0161】
DNAチップと、細胞の発現遺伝子を蛍光色素Cy3(緑)、Cy5(赤)で標識したサンプルDNAを反応(ハイブリダイゼーション)させた。互いに相補的なDNA同士が反応した結果、対応するDNAを有する微小スポットが着色した。この微小スポットの色を、高解像能のDNAチップ解析装置で読み取り、DNAチップ上のDNAから、サンプルDNAの機能情報が得られた。
【0162】
なお、実施例7のように平坦な円盤状の石英基板201を回転させてウェハー内に大面積で製造した後に、ダイシングにより各DNAチップを取り出すと、5mm角程度のDNAチップを大量に作製することができ、低コストとなる。また、XYステージを用いて、DNAチップを作製することもできる。
【0163】
DNAの検出効率を上げるためには、微小スポットにDNA断片をどの程度整列固定させるかが重要であり、本実施例では、比表面積が大きい微小構造体が配置されている。このとき、本実施例のDNAチップは、フォトリソグラフィ等を用いて製造されているDNAチップと比較して低コストで製造することができる。また、図19に示すような円筒形状の微小構造体は、熱リソグラフィ特有であり、比表面積が大きい。
【0164】
なお、本実施例以外の材料や製造方法を用いて、DNAチップを製造してもよい。このとき、SiO2は、酸素欠損が多少生じていてもよい。また、材料Cとしては、単体金属、合金等の光吸収能を向上させる材料であれば、特に限定されず、CdTe、CdSe等の蛍光物質を選定した場合には、蛍光による検出を利用することができる。また、材料Cとして、Au等の金属を用いると、プラズモン効果が期待できる。
【実施例17】
【0165】
図32に示す偏光分離素子を作製した。偏光分離素子300は、ポリカーボネート基板301上に、ZnS層302が形成され、その上に、線状の微小構造体303が周期的に配置されている。このため、偏光分離素子300の特性(周期、屈折率)に応じた特定波長の光310に対して、P偏光311とS偏光312を分離する機能を有する。ここで、P偏光は、光の電場ベクトルの振動面が入射面に対して平行な偏光成分であり、S偏光は、光の電場ベクトルの振動面が入射面に対して垂直である偏光成分である。
【0166】
図33に、偏光分離素子300の製造方法を示す。まず、高さ20nm、ピッチ200nmの凹凸(ランド・グルーブ)が同心円状に形成された厚さ0.6mmのポリカーボネート基板301を、原盤及びスタンパと射出成型を利用した一般的な光ディスクのプロセスにより製造した。次に、ポリカーボネート基板301上に、厚さ10nmのZnS層302及びZnS・SiO2・Zn(モル比64:13:33)からなる厚さ200nmの混合材料層304を順に、CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて、RFスパッタリングにより形成した(図33(a)参照)。
【0167】
さらに、レーザ光照射装置(シバソク社製)のNAが0.85の対物レンズ305により集光された波長が405nmの青色レーザ光306を、トラッキングされた混合材料層304の表面にフォーカスし、回転するポリカーボネート基板301に対して、連続光出力3.5mWで連続光を照射した(図33(b)参照)。
【0168】
その後、2重量%フッ酸307に10秒間浸漬してエッチングした後(図33(c)参照)、純水で洗浄して乾燥させ、微小構造体303が周期的に配置されている偏光分離素子300Aを得た(図33(d)参照)。このとき、レーザ光306が十分に照射された混合材料層304が残存して微小構造体303となるが、本実施例では、ランド部(凸部)に形成された混合材料層304が残存し、グルーブ部(凹部)に形成された混合材料層304の一部が除去される。このため、隣接する微小構造体303同士が連結されている。
【0169】
図34に、偏光分離素子300の走査電子顕微鏡写真を示す。図34(a)は、上面図であり、図34(b)は、集束イオンビーム(FIB)を用いて、偏光分離素子300に断面を形成したときの斜視図である。なお、図34(b)では、断面を形成するために微小構造体303の上部にカーボン保護膜308を堆積させている。図34から、偏光分離素子300Aに、線状の微小構造体303が周期的に配置されていることがわかる。なお、このように線状のパターンからなる偏光分離素子は、ワイヤーグリッド偏光子と呼ばれる。
【0170】
偏光分離素子300、ポリカーボネート基板301及びZnS層302と混合材料層304が形成されたポリカーボネート基板301(図33(a)参照)に、P偏光を入射させたところ、図35に示す透過率の波長依存性が得られた。また、偏光分離素子300を90°回転させて、同様にP偏光を入射させた。なお、測定装置としては、高速分光エリプソメータM2000(ジェー・エー・ウーラムジャパン社製)を用い、測定スポット直径を約3mmとし、直線偏光を用いた透過率の測定モードで測定を行った。このとき、偏光分離素子300は、測定スポットよりも十分大きい。図35から、90°回転させていない偏光分離素子300の場合は、747nmを中心波長として、ディップが見られるが、90°回転させた偏光分離素子300の場合は、ディップが見られないことがわかる。また、回転させていない偏光分離素子300にS偏光312を入射した場合も、ディップは見られなかった。したがって、偏光分離素子300は、747nmを中心波長として、ほぼ650〜840nmの波長領域において、偏光分離機能を有する。
【0171】
次に、レーザ光304の連続光出力を3.0mW及び2.5mWとした以外は、上記と同様に偏光分離素子300を作製した。図36に、連続光出力が2.5mWである場合の偏光分離素子300の走査電子顕微鏡写真を示す。図36(a)は、上面図であり、図36(b)は、集束イオンビーム(FIB)を用いて、偏光分離素子300に断面を形成したときの斜視図である。なお、図36(b)では、断面を形成するために微小構造体303の上部にカーボン308を堆積させている。
【0172】
また、図37に、偏光分離素子300のP偏光の透過率の波長依存性を示す。図37から、連続光出力を2.5mWとしても、上記と同様に、90°回転させた偏光分離素子300の場合は、ディップが見られないことがわかる。さらに、90°回転させていない偏光分離素子300の場合は、連続光出力が3.5mW、3.0mW及び2.5mWのいずれにおいてもディップが見られるが、連続光出力が大きい方がディップの深さが深く、低波長側にシフトしていることがわかる。
【0173】
なお、ZnS・SiO2・Zn(モル比64:13:33)の約2重量%フッ酸に対するエッチングレートを調べたところ、アニールしない場合は、5.26nm/秒であったが、500℃で30分間、電気炉(大気雰囲気)でアニールした場合は、0.17nm/秒となった。この結果から、アニールの有無によるエッチングレート選択比(アニールした場合に対するアニールしない場合の比)が約33となり、アニールによりエッチング耐性が急激に向上することがわかる。レーザ光の照射とアニールは、到達温度、最高温度到達時間等が異なるが、熱を供給するという点では一致している。このため、本実施例で、レーザ光306を照射した後、フッ酸307に浸漬してエッチングすることにより、混合材料層304がパターン形成される要因の一つとして、レーザ光306による熱の供給が挙げられる。ZnS・SiO2(モル比80:20)を用いて同様の実験を行った際にもほぼ同様のエッチング選択比が得られており、このようなエッチング耐性の変化は、ZnSの結晶化が大きく起因していると推測される。
【0174】
また、ZnS・SiO2・Znからなる薄膜を大気中、500℃で30分間アニールすると、可視光領域の透過率が上昇し、X線回折からZnOの回折X線ピークが見られた。すなわち、Znの酸化が確認されている。このため、レーザ光306が照射された混合材料層304においても、Znが酸化されていると推測される。すなわち、混合材料層304にレーザ光306を照射すると、光吸収能を有するZnがレーザ光306を吸収すると共に、酸化され、微小構造体306の可視光領域の透過率が上昇する。このとき、ZnS及びSiO2も可視光領域において透明であるため、レーザ光306を照射することにより、透明材料がパターン形成される。
【0175】
さらに、光透過率が93%のガラス基板上に、厚さが100nmのZnS層を形成した試料の光透過率は、波長が300nm、405nm及び550nmにおいて、それぞれ約20%、約60%及び約90%であった。一方、SiO2の光透過率は、200〜1700nmの波長領域において、90%を超える。このとき、ZnS・SiO2(モル比80:20)が吸収する光、例えば、波長が266nmのDUV(深紫外)レーザ光、波長が13.5nmのEUV(極端紫外)レーザ光を照射することにより、ZnS・SiO2(モル比80:20)をパターン形成することもできる。しかしながら、照射するレーザ光の波長が短くなる程、装置が高価になり、照射時間も要する。本実施例においては、混合材料層の光吸収能を向上させているため、真空を要さずに、可視領域、例えば、波長が405nm、650nm、780nmの半導体レーザ光を照射することにより、微小構造体を作製することができる。
【0176】
なお、このような偏光分離素子300は、回折格子としても用いることができる。
【実施例18】
【0177】
図38に示す光フィルタを作製した。光フィルタ400は、ポリカーボネート基板401上に、ZnS層402が形成され、その上に、点状の微小構造体403が周期的に形成されている。このため、光フィルタ400の特性(周期、屈折率)に応じた特定波長の光410に対して、P偏光411又はS偏光412を反射する機能を有する。
【0178】
図39に、光フィルタ400の製造方法を示す。まず、高さ20nm、ピッチ400nmの凹凸(ランド・グルーブ)が同心円状に形成された厚さ0.6mmのポリカーボネート基板401を、原盤及びスタンパと射出成型を利用した一般的な光ディスクのプロセスにより製造した。次に、ポリカーボネート基板401上に、厚さ10nmのZnS層402及びZnS・SiO2・Zn(モル比64:13:33)からなる厚さ200nmの混合材料層404を順に、CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて、RFスパッタリングにより形成した(図39(a)参照)。
【0179】
さらに、レーザ光照射装置(シバソク社製)のNAが0.85の対物レンズ405により集光された波長が405nmの青色レーザ光406を、トラッキングされた混合材料層404の表面にフォーカスし、回転するポリカーボネート基板401に対して、パルス光出力10mWでパルス光照射を行った(図39(b)参照)。
【0180】
その後、2重量%フッ酸407に10秒間浸漬してエッチングした後(図39(c)参照)、純水で洗浄し、乾燥させ、微小構造体403が周期的に配置されている光フィルタ400を得た(図33(d)参照)。このとき、レーザ光406が十分に照射された混合材料層404が残存して微小構造体403となる。なお、トラック方向の微小構造体403の間隔は、約400nmである。
【0181】
図40に、光フィルタ400の走査電子顕微鏡写真を示す。なお、図40(a)及び(b)は、それぞれ上面及び斜めから撮影したものである。
【0182】
光フィルタ400及びポリカーボネート基板401に、P偏光411を入射させたところ、図41に示す波長依存性が得られた。また、光フィルタ400を90°回転させて、同様にP偏光411を入射させた。なお、測定装置としては、高速分光エリプソメータM000(ジェー・エー・ウーラムジャパン社製)を用い、測定スポット直径を約3mmとし、直線偏光を用いた透過率の測定モードで測定を行った。図41から、90°回転させていない光フィルタ400の場合は、674nm及び701nmを中心波長として、比較的線幅の狭いディップが見られ、90°回転させた光フィルタ400の場合は、655nmを中心波長として、ディップが見られることがわかる。したがって、光フィルタ400は、特定の波長領域の偏光をフィルタリングする機能を有する。このとき、反射率測定から、ディップ波長に対応する透過しない光は、反射されることがわかっている。
【0183】
次に、レーザ光406のパルス光出力を変えた以外は、上記と同様に光フィルタ400を作製したところ、パルス光出力が大きい方がディップの深さが深くなる傾向が見られた。
【0184】
なお、この場合も、実施例17と同様に、レーザ光406を照射することにより、透明材料がパターン形成される。
【実施例19】
【0185】
発光素子の一例として、図42に示す無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子500A及び500Bを作製した。なお、EL素子では、正孔と電子の再結合によりルミネッセンスが発生する。また、EL素子では、通常、平坦な基板が用いられるが、凹凸パターンが形成されている基板を用いると、反射防止効果により臨界角未満の入射光を透過すると共に、通常、取り出せない臨界角以上の入射光を回折光として取り出すことができる。その結果、光取り出し効率が1.5倍程度に向上した。
【0186】
無機EL素子500Aは、ポリカーボネート基板301上に、ZnS層302が形成され、その上に、線状の微小構造体303が周期的に形成されている偏光分離素子300(回折格子)を有する。さらに、ポリカーボネート基板301の微小構造体303が形成されていない側に、ITO(Indium tin oxide)からなる陰極501、ZnS・Mn(Mnの濃度は数重量%)からなる発光層502及びアルミニウムからなる陽極503が順次積層されている。一方、無機EL素子500Bは、無機EL素子500Aと同様に、回折格子を有し、微小構造体303の上に、陰極501、発光層502及び陽極503が順次積層されている。このとき、微小構造体303は、可視光領域の透過率が高いため、EL素子を構成する材料として適している。
【0187】
このとき、陰極501及び陽極503の間に、直流電圧又は交流電圧を印加すると、黄橙色の発光(中心波長585nm)が見られ、輝度の電圧依存性から、無機EL素子500A及び500Bのいずれの場合も、微小構造体303が形成されていない場合と比較して、発光効率(光取り出し効率)が向上した。
【0188】
本実施例では、発光層502に、ZnS・Mnを用いたが、特に限定されず、CaSSe・Eu、CaS・Eu、SrS、Cu、SrS・Ce、BaAl2S4・Eu、BaZnS3・Mn、ZnMgO等の発光材料を用いてもよい。
【0189】
さらに、発光層502に、フェニレンビニレン系、アリーレン系等の有機発光材料を用いて、直流電圧を印加する有機EL素子としてもよい。
【実施例20】
【0190】
光電変換素子の一例として、図43に示す色素増感型太陽電池を作製した。光電変換素子は、光を吸収して電気に変換する光電変換層を有するが、光電変換層が厚い方がより多くの光を吸収することができる。Si半導体、有機半導体等からなる光電変換層は、光起電力効果を有し、p−n接合部、あるいはショットキー接合部に励起光が照射されると、発生した電子と正孔が界面の電場により分離され、電位差が生じる。光電変換素子では、通常、平坦な基板が用いられるが、凹凸パターンが形成されている基板を用いると、光電変換層内での多重反射を増大させ、光閉じ込めを強めることができる。その結果、光電変換効率が3〜5%向上した。
【0191】
色素増感型太陽電池600は、平坦なガラス基板601上に、実施例17と同様にして、線状の微小構造体602が形成されており、さらに陰極603が形成されている。さらに、ガラス基板604上に形成された陽極605と、陰極603の間に、光電変換層606が挟持されている。光電変換層606には、色素、チタニア、電解質、酸化還元対が含まれる。
【0192】
色素としては、ルテニウム錯体のRuL2(NCS)2(L=4,4'−dicarboxy−2,2'−bipyridine)を用いたが、特に限定されず、ポルフィリン系、シアニン系等の色素を用いてもよい。
【0193】
チタニアとしては、粒径が10〜30nm程度の微粒子を用いた。X線回折から、チタニア微粒子は、ほぼアナターゼ型であった。チタニアは、スパッタリング法等により形成してもよいが、アモルファスが含まれて、光電変換効率が減少することがあるため、結晶化度の高い微粒子を用いることが好ましい。
【0194】
電解質及び酸化還元対としては、低出力セル用電解液Iodolyte TG 50(分子量220のポリエチレングリコールにヨウ化リチウム(LiI)0.5M、金属ヨウ素(I2)0.05Mを加えたもの)(Solaronix社製)を用いたが、特に限定されない。電解質としては、リチウムイオン等の陽イオンや塩化物イオン等の陰イオン等を用いてもよいし、酸化還元対としては、ヨウ素−ヨウ素化合物、臭素−臭素化合物等を用いてもよい。
【0195】
光電変換層606では、色素が光を吸収して電子を放出し、半導体のチタニア(TiO2)がその電子を受けて陰極603に引き渡す。色素に残ったホール(h+)は、ヨウ化物イオン(I−)を酸化して、三ヨウ化物イオン(I3−)とする。このI3−は、陽極605で還元される。以上のようなサイクルを繰り返すことによって、発電が行われる。
【0196】
陰極603及び陽極605としては、ITO(Indium tin oxide、酸化スズ5%、酸化インジウム95%)を用いたが、特に限定されず、酸化スズにフッ素をドープした膜(FTO)等を用いてもよい。
【0197】
微小構造体602は、石英等のガラス基板601の他に、ポリカーボネート基板等に作製することができる。しかしながら、光電変換素子においては、ITOを形成する際に、500℃程度に達することから、耐熱性が高いガラス基板701が一般的に利用される。また、本実施例においても、微小構造体602には、ZnOが含まれていた。
【0198】
なお、微小構造体602は、Si薄膜太陽電池、CIGS太陽電池(Cu(In1−x,Gax)Se2)、銅−インジウム−ガリウム−セレン系材料を用いた太陽電池等の色素増感型太陽電池以外の太陽電池にも適用することができる。
【実施例21】
【0199】
図44に示す非球面光学レンズを作製した。なお、図44(a)は、斜視図であり、図44(b)は、断面図である。非球面光学レンズ700は、最大直径が約2μm、高さが約2.5μmであり、超半球に近い形状で、石英基板701との接触面のレンズ直径よりも最大直径の方がやや大きい。また、非球面光学レンズ700は、波長が660nmの光の透過率が約90%であり、可視光領域でも十分利用可能な透過率を有する。
【0200】
非球面光学レンズ700は、ポリカーボネート基板401の代わりに、平坦な石英基板701を用い、波長が405nmの青色レーザ光506の代わりに、波長が780nmのレーザ光を用いた以外は、実施例18と同様に製造することができる。粉末X線回折から、非球面光学レンズ700は、Znのピークが極めて弱く、ZnOのピークが強かったため、Znは、ほぼ酸化され、ZnOが形成されたと考えられる。これにより、非球面光学レンズ700の可視光領域の透過率が上昇する。
【0201】
非球面光学レンズ700は、薄膜のアニール実験等の結果から、屈折率が2.2程度であると推測される。非球面光学レンズ700は、石英等と比較して高屈折率であることに加え、無機材料からなることから、信頼性が高い。さらに、非球面光学レンズ700は、石英基板701上に作製することができ、個々に分割することも容易である。
【0202】
なお、非球面光学レンズ700の形状は、特に限定されず、混合材料層504の膜厚やレーザ光506のパルス光強度を変化させることにより、一般的な半球状にすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0203】
【図1】実施例1の情報記録媒体を示す図である。
【図2】実施例1の情報記録媒体の製造方法を示す断面図である。
【図3】実施例2の情報記録媒体を示す図である。
【図4】微小構造体(パルス光出力4.5mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】微小構造体(パルス光出力5.0mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】微小構造体(パルス光出力5.5mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】微小構造体(パルス光出力6.0mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】微小構造体(パルス光出力6.4mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】微小構造体(パルス光出力7.0mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】パルス光出力と微小構造体の最大径の関係を示す図である。
【図11】StageI〜IVの微小構造体を示す断面図である。
【図12】実施例4の光学無反射膜を示す図である。
【図13】実施例5の光導波路を示す図である。
【図14】実施例6の光フィルタを示す図である。
【図15】実施例7の原盤を示す上面図である。
【図16】図15の原盤の製造方法を示す断面図である。
【図17】実施例7の微小構造体の他の例を示す断面図である。
【図18】実施例8の光学無反射膜を示す図である。
【図19】実施例9の光学無反射膜を示す図である。
【図20】実施例9の光学無反射膜の他の例を示す断面図である。
【図21】実施例10の情報記録媒体を示す上面図である。
【図22】実施例11の光導波路を示す図である。
【図23】実施例12の光フィルタを示す断面図である。
【図24】実施例12の光フィルタの他の例を示す断面図である。
【図25】実施例13の微小構造体の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図26】パルス光出力と微小構造体の外径及び内径の関係を示す図である。
【図27】実施例13の微小構造体の他の例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図28】実施例13の微小構造体の他の例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図29】実施例15の微小構造体の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図30】実施例15の微小構造体の他の例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図31】波長多重通信を説明する図である。
【図32】実施例17の偏光分離素子を示す斜視図である。
【図33】実施例17の偏光分離素子の製造方法を示す断面図である。
【図34】実施例17の偏光分離素子(パルス光出力3.5mW)の走査電子顕微鏡写真である。
【図35】実施例17の偏光分離素子のP偏光の透過率の波長依存性を示す図である。
【図36】実施例17の偏光分離素子(パルス光出力2.5mW)の走査電子顕微鏡写真である。
【図37】実施例17の偏光分離素子のP偏光の透過率の波長依存性を示す図である。
【図38】実施例18の光フィルタを示す斜視図である。
【図39】実施例18の光フィルタの製造方法を示す断面図である。
【図40】実施例18の光フィルタの走査電子顕微鏡写真である。
【図41】実施例18の光フィルタのP偏光の透過率の波長依存性を示す図である。
【図42】実施例19の無機EL素子を示す断面図である。
【図43】実施例20の色素増感型太陽電池を示す断面図である。
【図44】実施例21の非球面光学レンズを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小構造体、微小構造体の製造方法、基板のパターニング方法、構造物、情報記録媒体、原盤、光学素子、光通信装置、DNAチップ、発光素子、光電変換素子及び光学レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートル〜マイクロメートルスケールの大きさの微小構造体は、ナノフォトニクス、高密度記録媒体、光学素子、バイオチップ等の多くの分野で研究が進められている。このとき、可視光領域において、光学的に透明な材料は、光損失が少なく、光技術を用いたデバイスには欠かせない。このため、透明材料から微小構造体を作製する技術は、特に盛んに研究が進められている。
【0003】
酸化亜鉛は、可視光領域において、光学的に透明であると共に、紫外光を吸収するため、LED、透明トランジスタ、UVカット材料、電子写真等の用途で用いられている。酸化亜鉛を形成する方法としては、スパッタリング、イオンプレーティング(例えば、特許文献1参照)の他、前駆体の熱分解(例えば、特許文献2参照)が挙げられる。また、一次元又は二次元微細周期構造を有する量子ワイヤー、ドット等を作製する際には、一般的に、電子ビーム露光装置、イオンビーム露光装置やステッパー露光装置が利用されている。しかしながら、これらの装置は、真空を要することや高価であることから、作製に多大なコストを要する。このため、低コストで簡便にパターニングし、微細周期構造を作製することが望まれている。
【0004】
また、微小構造体が規則的に配列した周期性構造物は、光を照射すると、フォトニックバンド効果を始めとする特異な現象が見られるため、光の共振、閉じ込めを利用した光導波路、光フィルタ、光スイッチ、低閾値レーザ等の応用が期待される。また、サブ波長以下の周期で微小構造体が規則的に配列した周期性構造物は、フレネル反射を抑え、モスアイ構造と呼ばれる構造により無反射特性を示すことが知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
一方、バイオテクノロジーの分野では、微小構造体は、DNA等の分子、原子を選択的に結合させたチップとして利用することが強く要望されている。DNAチップは、病気の原因である遺伝子の有無を簡単に調べることができ、遺伝子の研究や病気の診断に利用されている。通常、DNAチップは、シリコンやガラスの薄い基板からなり、病気の原因である遺伝子を構成するDNA(デオキシリボ核酸)が付着している。このため、患者から採った血液を処理した後にDNAチップ上に滴下した場合に、血液中に病気の原因である遺伝子があれば、DNAチップのDNAに血液中のDNAが付着する。このようにして患者が病気かどうかを瞬時に判断することができる。また、遺伝子の働きを調べれば、病気の早期発見や医薬品の副作用の予想も可能になるため、医療現場では、遺伝子検査のニーズが急速に高まっている。
【0006】
また、二次元で規則配列した金属微小構造体等は、表面プラズモン励起による局在した光と分子の相互作用を利用した応用展開が期待されている。
【0007】
微小構造体及び微小構造体が規則的に配列した周期性構造物を作製する方法としては、半導体微細加工の光リソグラフィが利用されてきたが、高価な電子線描画装置を必要とすることから、コストが高いという問題がある。また、作製される微小構造体の大きさも装置の性能に依存する。一方、マスクを作製するため、大量生産に適するという利点もあるが、指針変更に伴う簡易な回路設計や、実験レベルでの簡易な実験には不向きである。
【0008】
また、レーザ光による2光子吸収を利用して、3次元微小構造体、3次元フォトニック結晶を作製する方法も知られている(特許文献3及び4参照)。しかしながら、作製に時間がかかる上、材質も光重合反応により生じる樹脂に限定される。このため、更なる省資源が可能であり、低コストで簡易な微小構造体の作製方法が求められている。
【0009】
また、微小構造体及び微小構造体が規則的に配列した周期性構造物の反転構造を形成する方法としては、射出成形を始めとするエンボス加工が利用されてきたが、近年では、ナノスケールの構造体でも反転構造を正確に転写するナノインプリント技術が開発されている。光重合又は熱重合を用いるナノインプリント技術は、元型の反転構造を精度良く作製することができ、量産に適している。また、フォトニック結晶として、反転構造を利用する場合には、元型とは異なる効果が生じる。
【0010】
一方、光リソグラフィを用いた微細加工と比較して、コストが低い加工法として、熱リソグラフィが近年着目されている。これは、吸熱層(レーザ光を照射する場合は、光吸収層の役割を果たす)に熱を与え、熱を与えられた箇所の特性(光透過率、屈折率、電気伝導度、化学耐食性等)が変化することを利用した技術である。光が照射された領域の温度分布は、ガウス分布となり、その中心となる高温部の領域は、スポット径と比較して10分の1程度であり、その箇所のみ特性が変化するため、微小パターンの形成が可能となる。
【0011】
特許文献5には、支持基板上に第1の誘電体層、光吸収層、第2の誘電体層を順次積層する工程、レーザ光を照射し情報を記録する工程、溶液エッチングにより第2の誘電体層の未記録部分を除去し凸状に加工する工程を少なくとも含む光記録媒体の製造方法が開示されている。このとき、加工された第2の誘電体層の凸状部は、断面が矩形状又は逆テーパ状となり、ガウス分布からなる熱分布の最大値近傍のみでエッチング耐性が強まることから、大きさが光の回折限界以下となる。さらに、レーザ光を吸収した光吸収層上の第2の誘電体層のエッチング耐性が向上して、凸状部を形成しているが、光吸収層の除去を要する用途が多いことから、光吸収層を形成せずに凸状部を形成することが求められている。また、第2の誘電体層に凹状部を形成する場合は、凹状部の端部が荒れるという問題がある。
【0012】
一方、光学素子としては、サブ波長構造やフォトニック結晶といった微細構造をもつものが近年要望されているが、このような微細構造の応用は、光学素子に留まらない。例えば、有機ELディスプレイ(OLED;Organic Light Emitting Diode Display)は、有機化合物を利用した自発光型の新世代ディスプレイであり、従来のディスプレイと比較して、明るく鮮明であり、視野角が広く、薄型であり、動作温度範囲が広範であるため、優れた特徴をもったディスプレイとして注目されている。さらに、2次元フォトニック結晶構造と組み合わせることにより、OLEDの発光効率が向上することが知られている(例えば、非特許文献2〜6参照)。
【0013】
太陽電池等の光電変換装置においても、微細構造の必要性が知られている。太陽電池としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等の乾式の太陽電池の他、スイスのグレツェルらが発表した色素増感型湿式太陽電池が挙げられる。色素増感型湿式太陽電池では、半導体電極として、酸化チタンが用いられているが、理論的には、他の酸化物半導体においても太陽電池としての動作が可能であることから、種々の研究が行われている。
【特許文献1】特開2006−117462号公報
【特許文献2】特開2007−22851号公報
【特許文献3】特開2003−1599号公報
【特許文献4】特開2005−122002号公報
【特許文献5】特開2005−158191号公報
【非特許文献1】OPTICAL REVIEW,Vol.10,No.2,2003,p63−73
【非特許文献2】M.Fujita,T.Ueno,T.Asano,S.Noda,H.Ohata,T.Tsuji,H.Nakada,N.Shimoji,Electron.Lett.39,p.1750(2003)
【非特許文献3】Y.Lee,S.Kim,J.Huh,G.Kim and Y.Lee,Appl.Phys.Lett.82,p.3779(2003)
【非特許文献4】M.Kitamura,S.Iwamoto and Y.Arakawa,Jpn.J.Appl.Phys.44,p.2844(2005)
【非特許文献5】K.Ishihara,M.Fujita,I.Matsubara,T.Asano,S.Noda,Jpn.J.Appl.Phys.7,p.L210 (2006).
【非特許文献6】M.Fujita,K.Ishihara,T.Ueno,T.Asano,S.Noda,H.Ohata,T.Tsuji,H.Nakada,N.Shimoji,Jpn.J.Appl.Phys.44,p.3669(2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、熱リソグラフィを用いて簡易に形成することが可能な微小構造体及び該微小構造体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該微小構造体を用いる基板のパターニング方法並びに該微小構造体を有する構造物、情報記録媒体、原盤、光学素子、光通信装置、DNAチップ、発光素子、光電変換素子及び光学レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、微小構造体において、硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有することを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の微小構造体において、曲面を有する凸形状、円柱状の構造体の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状であることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の微小構造体において、曲面を有する凸形状、円柱状の構造体の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状の断面が連続的に形成されている形状であることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記硫黄化合物は、ZnSを含有することを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記硫黄化合物は、所定の波長の光の吸収能を向上させる硫黄化合物を含有することを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の微小構造体において、前記硫黄化合物は、FeS及びGeS2の少なくとも一方を含有することを特徴とする。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の微小構造体において、所定の波長の光の吸収能を向上させる材料をさらに含有することを特徴とする。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、Al、Ag、Au、Cu、Zn、Pt、Sb、Te、Ge、Si、Bi、Mn、W、Nb、Co、Sr、Fe、In、Sn、Ni、Mo、Mg及びCaの少なくとも一つを含有することを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料の酸化物をさらに含有することを特徴とする。
【0024】
請求項10に記載の発明は、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、第二の硫黄化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有することを特徴とする。
【0025】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、ZnTe、ZnSe及びMnSの少なくとも一つを含有することを特徴とする。
【0026】
請求項12に記載の発明は、請求項7乃至11のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、蛍光物質を含有することを特徴とする。
【0027】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の微小構造体において、前記蛍光物質は、CdSe及びCdTeの少なくとも一方であることを特徴とする。
【0028】
請求項14に記載の発明は、請求項5乃至12のいずれか一項に記載の微小構造体において、前記酸化ケイ素を10mol%以上30mol%以下含有することを特徴とする。
【0029】
請求項15に記載の発明は、微小構造体の製造方法において、基板上に、硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層を形成する工程と、該硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層にレーザ光を照射する工程と、該レーザ光が照射された硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層をエッチングする工程を有し、該硫黄化合物は、所定の波長の光の吸収能を向上させる硫黄化合物を含有する、又は、該硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層は、光吸収能を向上させる材料をさらに含有することを特徴とする。
【0030】
請求項16に記載の発明は、基板のパターニング方法において、基板上に、請求項5乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を形成する工程と、該基板上に形成された微小構造体をマスクにして該基板をエッチングする工程を有することを特徴とする。
【0031】
請求項17に記載の発明は、構造物において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有することを特徴とする。
【0032】
請求項18に記載の発明は、請求項17に記載の構造物において、前記微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0033】
請求項19に記載の発明は、請求項18に記載の構造物において、前記微小構造体が周期的に配置されている領域は、前記微小構造体が周期的に配列されていない場合より所定の波長域の光の透過率が高いことを特徴とする。
【0034】
請求項20に記載の発明は、情報記録媒体において、基板上に、請求項12又は13に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0035】
請求項21に記載の発明は、原盤において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0036】
請求項22に記載の発明は、原盤において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【0037】
請求項23に記載の発明は、光学素子において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0038】
請求項24に記載の発明は、光学素子において、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【0039】
請求項25に記載の発明は、光フィルタ、光スイッチ、光学無反射膜、光導波路、回折格子又は偏光分離素子であることを特徴とする請求項23又は24に記載の光学素子。
【0040】
請求項26に記載の発明は、光通信装置において、請求項23乃至25のいずれか一項に記載の光学素子を有することを特徴とする。
【0041】
請求項27に記載の発明は、基板上に、DNA断片が固定されているDNAチップであって、該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有することを特徴とする。
【0042】
請求項28に記載の発明は、基板上に、DNA断片が固定されているDNAチップであって、該基板は、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【0043】
請求項29に記載の発明は、基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されている発光素子であって、該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0044】
請求項30に記載の発明は、基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されている発光素子であって、該基板は、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【0045】
請求項31に記載の発明は、基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されている光電変換素子であって、該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0046】
請求項32に記載の発明は、基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されている光電変換素子であって、該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする。
【0047】
請求項33に記載の発明は、光学レンズにおいて、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体からなることを特徴とする。
【0048】
請求項34に記載の発明は、光学レンズにおいて、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、熱リソグラフィを用いて簡易に形成することが可能な微小構造体及び該微小構造体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該微小構造体を用いる基板のパターニング方法並びに該微小構造体を有する構造物、情報記録媒体、原盤、光学素子、光通信装置、DNAチップ、発光素子、光電変換素子及び光学レンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0051】
本発明の微小構造体の第一の実施形態は、硫黄化合物(以下、材料Aという)及び酸化ケイ素(以下、材料Bという)をそれぞれ一種類以上含有する混合材料からなる。なお、微小構造体を形成する際に、材料Aを含有することから、熱による焼きしめを促進し、材料Bを含有することから、エッチングを利用したパターニングを可能にする。また、微小構造体の形状を反映した光学無反射膜やフォトニック結晶の設計も可能となり、微小構造体の屈折率の調整も容易である。
【0052】
材料Aとしては、ZnS、CaS、BaS、CdS、K2S、Ag2S、GeS、CoS、Bi2S3、PbS、Na2S、Cu2S、CuS、Al2S3、Sb2S3、SmS、PbS、Na2S、LiS、SiS、SiS2等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、材料Bと混合しやすく、スパッタリングターゲットとして比較的安価に入手できることから、ZnSが好ましい。これにより、レーザ光等の光照射又は加熱により、結晶性が向上するため、光照射又は加熱が行われていない領域とのエッチング耐性の差が生じる。これを利用して微小構造体を作製することができる。また、微小構造体の屈折率の調整も可能となる。したがって、熱リソグラフィによる加工を可能とし、十分利用に適した光学特性を有する光学素子、情報記録媒体が得られる。
【0053】
材料Bは、主にSiO2であるが、SiOが含まれてもよい。なお、SiOは、ターゲットを形成する時や混合材料層を形成する時の酸素欠損により生じることがある。
【0054】
本発明の微小構造体の第二の実施形態は、硫黄化合物(以下、材料A'という)、材料B及び所定の波長の光の吸収能を向上させる材料(以下、材料Cという)を含有する混合材料又は所定の波長の光の吸収能を向上させる材料A'及び材料Bを含有する混合材料からなるため、熱リソグラフィを用いて、光吸収層を有さない基板上に形成することができる。微小構造体の大きさは、数十〜数百ナノメートル程度であることが好ましい。この大きさは、高密度記録媒体の記録マークや周期性構造物の構成単位の大きさに対応する。なお、後者の場合、所定の波長の光の吸収能を向上させる材料A'を、材料Cを併用してもよいし、所定の波長の光の吸収能を向上させない材料A'と併用してもよい。
【0055】
ここで、光吸収能について詳細に説明する。光吸収能を有する物質は、光を反射すると同時に、吸収する。また、光の吸収量は、光が物質に侵入する深さzに依存し、消衰係数kによって求められ、以下のベールの法則により関係付けられる。
【0056】
I=I0exp(−αz),α=4πk/λ
ここで、Iは、物質を透過した後の光の強度、I0は、物質を透過する前の光の強度、αは、吸収係数、λは、光の波長である。すなわち、光が物質に侵入する深さ(物質の厚さ)が大きくなれば、物質が光を多く吸収し、物質を透過した光の強度が小さくなる。本発明において、光吸収能を向上させるとは、同じ膜厚で比較した場合の消衰係数kを大きくすることを意味する。
【0057】
消衰係数kの波長依存性は、材料によって異なる。したがって、例えば、可視領域ではkが小さくても紫外領域ではkが大きい材料もある。このようなことも考慮して、混合材料に照射するレーザ光の波長を選定する必要がある。レーザ光としては、特に限定されないが、可視レーザ光の他、深紫外レーザ光、赤外レーザ光等を用いることができる。中でも、多数のパルス光の照射を安価で行えることから、赤色半導体レーザ光や青色半導体レーザ光が好ましい。また、光源としては、可視光レーザ、F2レーザ、ArFレーザ、KrFレーザ等が挙げられるが、安価に入手でき、容易に利用できることから、可視光半導体レーザが好ましい。
【0058】
消衰係数kは、屈折率と共に、分光エリプソメータにより測定することができる。なお、消衰係数kは、波長によって、屈折率nと共に変化する。例えば、ZnS・SiO2(モル比80:20)は、波長が405nmの青色光に対して、nが2.33、kが1×10−3程度、波長が350nmの紫外光に対して、nが2.49、kが1×10−2程度、波長が680nmの赤色光に対して、nが2.16、kが1×10−8程度である。なお、材料Cを添加することにより、屈折率nや消衰係数kを調整することができる。
【0059】
材料A'としては、材料Aの他に、FeS、GeS2等の光吸収能を向上させる材料が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、材料Bと混合しやすく、スパッタリングターゲットとして比較的安価に入手できることから、ZnSが好ましい。また、ZnSは、可視光領域において、ほぼ透明であるため、材料Cを添加することによる可視光の透過性の調整も行いやすい。
【0060】
以下、本発明の微小構造体の一例として、ZnS(材料A')、SiO2(材料B)及び金属材料又は半導体材料(材料C)を含有する混合材料からなる微小構造体について説明する。SiO2は、フッ酸に対するエッチング耐性が無く、反応式
SiO2+6HF→H2SiF6+H2O
で示されるように反応する。このため、混合材料からなる層は、フッ酸中でエッチングされるが、可視レーザ光を吸収し、加熱された混合材料は、フッ酸に対するエッチング耐性が向上するため、微小構造体として、残存する。具体的には、混合材料は、一定出力以上の可視レーザ光を吸収し、加熱されると、ZnSとSiO2が一種の結晶化のような形態で組織化されるため、フッ酸に対するエッチング耐性が向上する。このとき、混合材料中のZnSの含有量が60mol%未満であると、フッ酸に対するエッチング耐性の向上が不十分となることがある。また、SiO2は、混合材料をエッチングするために必要であるが、混合材料中の含有量が10mol%未満であると、可視レーザ光を吸収しなくても、フッ酸に対してエッチング耐性を示すことがあり、30mol%を超えると、微小構造体が残存しないことがある。さらに、ZnS・SiO2は、可視光を透過するため、混合材料が可視光を吸収し、発熱する材料Cを含有しないと、混合材料に可視レーザ光を照射しても、発熱が不十分となる。なお、材料Cとして、有機材料を用いると、発熱が不十分となることがあるが、この原因としては、有機材料を添加しても、消衰係数kが大きくならないことが挙げられる。このため、材料Cは、半導体材料又は金属材料であることが好ましい。また、混合材料からなる層は、スパッタリング法により形成することができるが、同時スパッタの他に、混合ターゲットを用いてスパッタしてもよい。混合ターゲットは、材料A'、材料B及び材料Cの粉末を混合させて焼結させることにより作製できる。
【0061】
材料Cは、材料A'とは異なる硫黄化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有することが好ましい。これにより、材料A'として、ZnSを用いた場合、材料A'に含まれる硫黄及び亜鉛の少なくとも一方が材料Cに含まれるため、微小構造体の端部の形状が滑らかになる。このような材料Cとしては、特に限定されないが、スパッタリングターゲットとして供給を受けることが可能であることから、ZnTe、ZnSe、MnS等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0062】
また、材料Cとしては、Al、Ag、Au、Cu、Zn、Pt、Sb、Te、Ge、Si、Bi、Mn、W、Nb、Co、Sr、Fe、In、Sn、Ni、Mo、Mg、Ca等が挙げられ、二種以上併用してもよい。このような材料Cとしては、InSb、AgInSbTe、GeSbTe、ZnMgTe、CsZnTe、SbZn等の合金、ZnMgSSe、ZnCrO4、ZnZrO3、ZnWO4、ZnTiO3、Zn3N2、ZnF2、ZnSnO3、ZnMoO4等の化合物が挙げられる。このような材料は、スパッタリングターゲットとして容易に入手でき、さらに、微小構造体の屈折率等を調整することができる。
【0063】
さらに、材料Cは、蛍光物質を含有することが好ましい。これにより、紫外光又は可視光を照射して微小構造体から発せられる蛍光を検出することで、微小構造体の位置を確認することができる。このため、蛍光半導体量子ドットの蛍光検出を利用して特定箇所を検知することができ、情報記録媒体としての利用が可能である。なお、蛍光物質としては、CdSe、CdTe等が挙げられ、二種以上併用してもよい。また、このような蛍光物質は、蛍光特性が高く、容易に入手できる。
【0064】
なお、レーザ光を照射する際に、材料Cが酸化される場合がある。材料Cが酸化される程度は、レーザ光の照射条件(パルス光出力、パルス幅)、材料Cの種類、材料A'、材料B及び材料Cの組成等による。しかしながら、Si基板上に材料A'、材料B及び材料Cを多元スパッタリングした後に、電気炉を用いて数百度で30分間程度加熱養生(アニール)すると、斜め入射X線回折実験で、材料Cの酸化物のピークが見られる。例えば、Si基板上に、膜厚が200nmのZnS・SiO2・Zn膜を形成した場合には、ZnOのピークは見られないが、500℃で30分間アニールした場合には、ZnOのピークが見られる。これは、Zn(材料C)の少なくとも一部が酸化されてZnOとなったものと考えられる。同様に、ZnS・SiO2・Mnの場合には、アニール前は、Mn3O4のピークは見られないが、アニール後は、Mn3O4のピークが見られる。このとき、レーザ光を照射した場合に、レーザ光の照射部がどの程度まで加熱されて、どの程度の速さで冷却されるかは明らかではないが、フッ酸によりエッチングされた微小構造体においても、所定量の材料Cが酸化されている場合がある。このため、後述する実施例においては、微小構造体の組成を、レーザ光が照射される前と同様の組成として表記しているが、材料Cの酸化物を含有する場合も含む。このようにして所定量の材料Cが酸化されると、微小構造体の硬度を向上させることができる。具体的には、微小プローブを用いて測定した微小構造体の硬度は、微小構造体を形成する前の薄膜の硬度よりも高くなる。このとき、材料Cの酸化に伴い、透過率、屈折率等の光学特性も変化する。
【0065】
本発明の微小構造体は、特に限定されないが、半球状等の曲面を有する凸形状であってもよい。このような微小構造体は、X線又は光リソグラフィを用いて微細加工すると、高コストとなる構造を、熱リソグラフィを用いて低コストで製造することができ、さらに、光学素子やナノインプリントの元型にも応用することができる。また、微小構造体内に物理的特性又は化学的特性の分布を形成することにより、光学素子が得られる。
【0066】
曲面を有する凸形状の微小構造体は、端部が滑らかになり、曲面を有するが、作製条件によっては、角が鋭利になることや側面が平坦となることもある。なお、微小構造体の形状は、主に、混合材料からなる層に照射するレーザ光の熱分布に従うことから、3次元的には、曲面を有する領域が存在する。また、フッ酸によるウェットエッチングを行うことにより、レーザ光が照射されていない領域が除去されるため、微小構造体は、凸形状となる。このため、光硬化型樹脂等を用いて転写すると、転写された基板には、凹形状のパターンが形成される。
【0067】
また、本発明の微小構造体は、円柱状の構造体の上に、半球状等の曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状であってもよい。このような微小構造体は、二段構造となっていることから、隣接する曲面を有する凸形状の構造体の間隔を保つことができるため、蛍光を利用した情報記録媒体等では、記録マーク同士を明確に分離することができる。さらに、このような形状を反映した光学無反射膜やフォトニック結晶も設計することができ、屈折率を調整することができる。なお、感光部が化学変化するフォトリソグラフィでは、このような形状の微小構造体を作製することができない。
【0068】
さらに、本発明の微小構造体は、円筒状であってもよい。これにより、X線又は光リソグラフィを用いて微細加工すると、高コストとなる構造を、熱リソグラフィを用いて低コストで製造することができ、さらに、光学素子やナノインプリントの元型にも応用することができる。また、このような形状を反映した光学無反射膜やフォトニック結晶も設計することができ、屈折率を調整することができる。なお、感光部が化学変化するフォトリソグラフィでは、このような形状の微小構造体を作製することができない。
【0069】
円筒状の微小構造体が形成されるメカニズムは、以下の通りである。まず、レーザ光のパルス光出力が充分に大きい場合には、混合材料からなる層にレーザ光が照射された時点で、中央部は、気化して穴が開く。さらに、その後、フッ酸中でエッチングを行うことにより、レーザ光が照射されていない領域が除去される。このようにして、2段階的な加工により円筒形状の微小構造体が形成される。このような円筒形状の微小構造体は、熱リソグラフィの特徴と言うことができ、高分子レジストを用いた電子線描画加工では、作製が困難な形状である。なお、パルス光出力が比較的小さい場合には、中央部は、気化されず、エッチング後にレーザ光が照射された領域が残存し、円柱状の構造体の上に、半球状等の曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状の微小構造体になる。
【0070】
本発明において、パルス光出力及びパルス幅(照射時間)を変化させることにより、微小構造体の径は、スポットサイズ程度の大きさからその4分の1程度まで変化させることができる。例えば、波長が405nmのレーザ光をNAが0.85の対物レンズで絞った場合、微小構造体の径は、80〜400nm程度まで変化させることができる。
【0071】
これらの他に、本発明の微小構造体は、前述した曲面を有する凸形状、円柱状の構造の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状の断面が連続的に形成されていてもよい。このような線状の微小構造体は、混合材料からなる層にレーザ光を連続的に照射することにより形成することができ、回折格子、DNAチップ等に応用することができる。
【0072】
微小構造体の端部の滑らかさは、レーザ光を連続照射することにより形成される線状の微小構造体の線端ゆらぎ(LER;Line Edge Roughness)により評価することができる。後述するように、微小構造体をレジストとして利用し、基板をエッチングする場合がある。このとき、本発明の微小構造体は、電子線描画で用いられる高分子レジストとは異なる特性を有する。高分子レジストでは、パターンが微小になるにつれ、高分子自体が少なくとも数nmの大きさを持つことから、レジストのLERも数nmとなる。一方、本発明の微小構造体では、LERは1nm以下となる。LERは、近年、線幅ゆらぎ(LWR;Line Width Roughness)という言葉に半導体国際技術ロードマップ(ITRS;International Technology Roadmap for Semiconductor)で変わりつつある。LERの測定基準は、厳密には定められていないが、本発明においては、計測ライン長を2μm、計測間隔を10nmとして、最小自乗法による直線の3σから求められる。
【0073】
本発明の微小構造体は、情報記録媒体、原盤、光学素子、磁気記録媒体、DNAチップ、バイオセンサ、DNAコンピュータ、DNAメモリ、生体分子統合デバイス等に応用することができる。
【0074】
本発明の微小構造体の製造方法は、基板上に、材料A'、材料B及び材料Cを含有する混合材料からなる層を形成する工程と、混合材料からなる層にレーザ光を局所的に照射する工程と、レーザ光が照射された混合材料からなる層にエッチング加工を施す工程を有する。このため、局所的に加熱されて耐エッチング性が変化した混合材料を湿式又は乾式エッチングすることにより、端部が滑らかな微小構造体を製造することができる。さらに、基板上に、本発明の微小構造体を有する本発明の構造物を製造することができる。なお、レーザ光を局所的に照射する代わりに、局所的に熱を加えてもよいが、レーザ光は、指向性、安定性の点で優れることから、作製精度の点で、レーザ光を用いることが好ましい。
【0075】
本発明の基板のパターニング方法は、基板上に、材料A'、材料B及び材料Cを含有する微小構造体を形成する工程と、微小構造体をマスクにして基板にエッチングを施す工程を有する。このとき、必要に応じて、マスクとして用いた微小構造体を除去してもよい。このようにしてパターンが形成された基板は、原盤、光学素子、DNAチップ、発光素子、光電変換素子等に適用することができる。
【0076】
本発明の構造物は、基板上に、本発明の微小構造体を有するが、微小構造体が周期的に配置されている領域(以下、周期領域という)を有することが好ましい。これにより、周期領域により特定の波長域の光を反射するフォトニックバンドギャップを利用した光フィルタ、光スイッチが得られる。さらに、周期領域は、微小構造体が配置されていない場合より所定の波長域の光の透過率が高いことが好ましい。これにより、所定の波長域の光に対して無反射特性を示す、モスアイ構造による光学無反射膜が得られる。また、本発明の構造物が、微小構造体が配置されていない領域(以下、非周期領域という)を有すると、周期領域と非周期領域の判別を利用した情報記録媒体、周期領域中に非周期領域が存在し、周期領域により特定の波長域の光を反射するフォトニックバンドギャップを利用した光導波路が得られる。なお、情報記録媒体に用いられる本発明の微小構造体は、材料Cとして、蛍光物質を含有する。
【0077】
なお、本発明の基板のパターニング方法により基板に形成されたパターンを転写して複製してもよいし、基板に形成された微小構造体を転写して複製してもよい。複製する際には、ナノインプリント技術を用いて、樹脂を主成分とする材料にパターンや微小構造体を転写することができる。このような方法は、原盤、光学素子、DNAチップ、発光素子、光電変換素子、光学レンズ等を製造する際に用いることができる。
【0078】
本発明の原盤は、基板上に、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する、又は本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されている。このため、従来の光リソグラフィによる原盤よりも低コストで製造することができ、また、記録パターンが明瞭である。このような原盤は、光情報記録媒体等を製造する際に用いることができる。
【0079】
本発明の光学素子は、基板上に、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する、又は本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されている。光学素子としては、光フィルタ、光スイッチ、光学無反射膜、光導波路等の他に、回折格子、偏光分離素子等が挙げられる。
【0080】
本発明の光学素子は、波長多重通信に用いられる波長多重装置等の公知の光通信装置に適用することができる。図31に示すように、1本の光ファイバー301を用いて、異なる複数の波長(λ1、λ2及びλ3)の光を通信する波長多重通信では、波長毎に1セットずつの送信機311、312及び313と、受信機321、322及び323が用いられる。さらに、伝送路を高帯域化させるために、光合波回路331及び光分波回路332が用いられる。このとき、光合波回路331及び光分波回路332は、光スイッチを多数組み合わせることで形成することができる。
【0081】
本発明のDNAチップは、基板上に、DNA断片が固定されており、基板は、本発明の微小構造体を有する、又は基板は、基板上に、本発明の微小構造体を有する構造物を用いて製造されている。このとき、微小構造体は、比表面積が大きいため、検出効率が高くなり、チップ全体の大きさも小さくなる。
【0082】
本発明の発光素子は、基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されており、基板は、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する、又は基板は、基板上に、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されている。このとき、第一の電極、発光層及び第二の電極は、基板の微小構造体が配置されている側及び配置されていない側のいずれに積層されていてもよい。このような発光素子は、微小構造体を含む凹凸構造により、光の取り出し効率が向上し、その結果、発光効率を向上させることができる。
【0083】
本発明の光電変換素子は、基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されており、基板は、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する、又は基板は、基板上に、本発明の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されている。このような光電変換素子は、微小構造体を含む凹凸構造により、光電変換効率が高い光電変換素子が得られる。
【0084】
本発明の光学レンズは、本発明の微小構造体からなる、又は基板上に、本発明の微小構造体を有する構造物を用いて製造されている。これにより、信頼性の高い微小な光学レンズが得られる。
【実施例1】
【0085】
図1に示す情報記録媒体を作製した。なお、図1(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。情報記録媒体100Aは、厚さ1mm、10cm角のシリコン基板101上に、厚さ50nmのZnS・SiO2(モル比8:2)からなる誘電体層102、厚さ10nmのAgInSbTeからなる光吸収層103及び微小構造体104が形成されている。微小構造体104は、図1に示すように配置され、微小構造体104の有無により情報が判別される。具体的には、レーザ光が照射された際に、微小構造体104からは蛍光が発光され、微小構造体104が配置されていない領域105からは蛍光が発光されないことにより、情報記録媒体としての機能を果たす。なお、微小構造体104は、半球状であり、底面の直径150nm、高さ30nmであり、200nm周期(マークピッチ)、即ち、50nm間隔で配置されている。また、微小構造体104は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)からなり、蛍光性量子ドットと同様の効果を有する。このとき、図1(b)に示す方向に蛍光検出光学ヘッドを走査することにより、情報が読み出される。蛍光検出光学ヘッドにおいては、発光された蛍光をレンズで集光し、光ファイバー、光フィルタを経由して、光電子増倍管で増幅することにより蛍光が検出される。このとき、光学ヘッド、光フィルタ、光信号の処理方法等により、微弱な蛍光であっても検出することができる。
【0086】
図2に、情報記録媒体100Aの製造方法を示す。まず、シリコン基板101上に、誘電体層102、光吸収層103及び混合材料層106を順に、スパッタリング装置CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて形成した(図2(a)参照)。なお、混合材料層106は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)からなり、厚さが160nmである。次に、得られたシリコン基板101をXYステージに真空吸着させ、波長が405nmのレーザ光107を、半導体レーザ及びNAが0.85の対物レンズ108を用いて、200nm周期でパルス照射した(図2(b)参照)。このとき、レーザ光107の照射箇所は、プログラムにより設定されている。さらに、2重量%フッ酸109を用いて、エッチングを10秒間行った(図2(c)参照)。その後、走査顕微鏡を用いて観察すると、レーザ光107の照射箇所に、微小構造体104が形成されていた(図2(d)参照)。このとき、レーザ光107の照射箇所は、一種の焼きしめ効果により、混合材料層106のフッ酸に対するエッチング耐性が向上するため、半球状のパターンとして残存するものと考えられる。
【0087】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体104を簡易に作製することができる。このとき、混合材料層106中のCdTeの含有量が3重量%であることから、微小構造体104の作製に悪影響を及ぼさずに、蛍光検出を利用した情報記録媒体100Aを作製することができる。なお、得られた情報記録媒体100Aは、微小構造体104の有無により、記録と未記録の箇所が区別されるため、ROM(Read Only Memory)として、用いることができる。また、混合材料層106がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。
【実施例2】
【0088】
図3に示す情報記録媒体を作製した。なお、図3(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。情報記録媒体100Bは、ポリカーボネート基板110上に、厚さ50nmのZnS・SiO2(モル比8:2)からなる誘電体層102、厚さ10nmのGeからなる光吸収層103、厚さ20nmのZnS層111及び微小構造体104が形成されている。ポリカーボネート基板110は、光ディスク用の直径12cm、高さ20nmの円盤状であり、440nm周期(トラックピッチ)の凹凸を有する。微小構造体104は、図3に示すように配置され、微小構造体104の有無により情報が判別される。具体的には、レーザ光が照射された際に、微小構造体104からは蛍光が発光され、微小構造体104が配置されていない領域からは蛍光が発光されない。なお、微小構造体104は、半球状であり、底面の直径が150nm、高さが30〜160nmであり、400nm周期(マークピッチ)で配置されている。また、微小構造体104は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)からなり、蛍光性量子ドットと同様の効果を有する。このとき、図3(b)に示す方向に蛍光検出光学ヘッドを走査することにより、情報が読み出される。さらに、蛍光検出光学ヘッドで、発光された蛍光をレンズで集光し、光ファイバー、光フィルタを経由して、光電子増倍管で増幅することにより蛍光が検出される。このため、光学ヘッド、光フィルタ、光信号の処理方法等により、微弱な蛍光であっても検出することができる。
【0089】
以下に、情報記録媒体100Bの作製方法を説明する。まず、ポリカーボネート基板110上に、誘電体層102、光吸収層103、ZnS層111及び混合材料層を順に、スパッタリング装置CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて形成した。なお、混合材料層は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)からなり、厚さが160nmである。次に、得られたポリカーボネート基板110を、光ディスク評価装置LM330(シバソク社製)を用いて、線速度4.5m/秒で回転させて、フォーカシング、トラッキングを行いながら、NAが0.85の対物レンズを用いて、波長が405nmのレーザ光を400nm周期でパルス照射した(パルス光出力5.0mW)。なお、レーザ光の照射箇所は、プログラムにより設定されている。さらに、2重量%フッ酸を用いて、エッチングを10秒間行った。その後、走査顕微鏡を用いて観察すると、レーザ光の照射箇所に、微小構造体104が形成されていた。このとき、レーザ光の照射箇所は、一種の焼きしめ効果により、混合材料層のフッ酸に対するエッチング耐性が向上するため、半球状のパターンとして残存するものと考えられる。
【0090】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体104を簡易に作製することができる。このとき、混合材料層中のCdTeの含有量が3重量%であることから、微小構造体104の作製に悪影響を及ぼさずに、蛍光検出を利用した情報記録媒体100Bを作製することができる。なお、情報記録媒体100Bは、微小構造体104の有無により記録と未記録の箇所が区別されるため、ROM(Read Only Memory)として、用いることができる。また、混合材料層がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。なお、光ディスク用のランド・グルーブが形成された基板を用いた場合には、フォーカシング、トラッキングを行いながら、レーザ光を照射することができるので、高速で高精度に微小構造体104を作製することができる。
【実施例3】
【0091】
微小構造体の形状のパルス光出力依存性を調べた。なお、パルス光出力は、1.5〜7mWの範囲で変化させた。微小構造体の作製方法は、実施例2と同様であるが、微小構造体の材料としては、ZnS・SiO2(モル比8:2)を用いた。
【0092】
図4〜図9に、作製された微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。なお、電界放射形走査電子顕微鏡FE−SEM S−4100(日立製作所社製)を用いて、観察した。図4〜図9において、(a)及び(b)は、それぞれ上面及び斜めから撮影したものである。これらの走査型電子顕微鏡写真から、パルス光出力の変化に伴って、高さ、幅を含む微小構造体の形状が変化していることがわかる。なお、本実施例では、いずれの形状の微小構造体が形成された場合においても、情報記録媒体として用いることができる。
【0093】
図10に、パルス光出力と微小構造体の最大径の関係を示す。図10から、微小構造体の最大径は、パルス光出力に対して、完全な線形性を示さないことがわかる。なお、凹凸を有するポリカーボネート基板上に形成された微小構造体の形状は、パルス光出力の値により、主にStageI〜IVの形状に分類される(図11参照)。
【0094】
StageI(パルス光出力3.5〜5.2mW):微小構造体104は、非球面であるが、半球状である。パルス光出力の増加に伴って、微小構造体104の最大径が増す(図11(a)参照)。
【0095】
StageII(パルス光出力5.2〜6.8mW):微小構造体104は、円柱状の構造体104aの中央に半球状の構造体104bが形成され、円柱状の構造体104aは、上下2つの構造から構成されている。パルス光出力の増加に伴って、主に下側の構造が大きくなる(図11(b)参照)。
【0096】
StageIII(パルス光出力6.8〜8.0mW):微小構造体104は、円柱状の構造体104aの中央に半球状の構造体104bが形成され、円柱状の構造体104aは、上下2つの構造から構成されているが、主に上側の構造が下側の構造よりも大きい(図11(c)参照)。
【0097】
StageIV(パルス光出力8mW〜):微小構造体104は、円筒形状である(図11(d)参照)。
【0098】
なお、図4及び図5に代表されるStageIでは、微小構造体104は、半球状である(図11(a)参照)。また、図6〜図9に代表されるStageII及びStageIIIでは、微小構造体104は、円柱状の構造体104aと、半球状の構造体104bから構成される。なお、StageIIでは、微小構造体104は、円柱状の構造体104aの下部で最大径を有する(図11(b)参照)。一方、StageIIIでは、微小構造体104は、円柱状の構造体104aの上部で最大径を有する(図11(c)参照)。さらに、StageIVでは、微小構造体104は、中央部に穴が開き、円筒形状となる(図11(d)参照)。
【0099】
混合材料層のエッチング耐性がレーザ光の照射によって向上する理由は、厳密には明らかになっていないが、混合材料層は、光学的にほぼ透明であるため、光吸収層がレーザ光を吸収して発熱し、混合材料層が焼きしめ効果により緻密化するためであると考えられる。
【0100】
微小構造体の形状に関しては、レーザ光を吸収した光吸収層から発光される熱分布がガウス分布であるため、平板基板上を用いた場合には、基本的に半球状になる。しかしながら、凹凸を有する光ディスク用基板を用いた場合には、3次元空間的な熱分布が複雑になるため、StageI〜IVのような形状になると考えられる。
【0101】
StageIは、主に自由空間の中心で熱が発生し、混合材料層の高温となった箇所でエッチング耐性が向上する。StageIIでは、混合材料層の厚さが有限であることから、熱輻射が同心円状にならなくなり、光吸収層に近い箇所が高温になりやすい。StageIIIでは、ポリカーボネート基板の凹凸や、上部が空気層となっていること等のいくつかの要因が影響して、混合材料層の上部が下部よりも放熱が悪く、高温になりやすいものと推測される。StageIVでは、光吸収層の気化が主要因と考えられるが、微小構造体の中央部に穴が開く。
【0102】
StageI〜IVの微小構造体は、いずれも情報記録媒体の他、フォトニック結晶、光学無反射膜、光スイッチ、光フィルタ、プラズモニック結晶等に適した構造である。なお、微小構造体の形状と屈折率は、光学特性に影響するため、各々の形状に対して、大きさや屈折率を調整する必要がある。
【0103】
本実施例では、走査型電子顕微鏡の観察分解能の関係から、ZnS・SiO2を用いて微小構造体を作製している。情報記録媒体の高密度化では、トラックピッチの狭ピッチ化や記録マークの縮小化は必須であるが、本実施例の微小構造体は、直径数十nmのサイズにすることができる。なお、ランド・グルーブのピッチ間隔や、光吸収層の材質、膜厚、ZnS・SiO2の組成比を変えると、微小構造体の形状及びパルス光出力特性も若干変化するが、上記とほぼ同様に形状制御することができる。また、ZnS・SiO2以外の材料を用いたり、ZnS・SiO2に他の物質を混合したり、組成を若干異なるようにしたりしても、微小構造体を作製することができる。
【0104】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体を簡易に作製することができる。なお、混合材料層がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。また、光ディスク用のランド・グルーブが形成された基板を用いた場合には、フォーカシング、トラッキングを行いながら、レーザ光を照射することができるので、高速で高精度に微小構造体を作製することができる。
【実施例4】
【0105】
ZnS・ZnO・SiO2(モル比6:2:2)からなる混合材料層を用いた以外は、実施例1と同様にして、図12に示す光学無反射膜を作製した。なお、図12(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光学無反射膜100Cは、図11のStageII〜IIIの形状を有する微小構造体104が200nm周期で配置されているため、特定波長域(350〜600nm)の光のフレネル反射を抑制し、モスアイ構造による無反射特性を示した。
【0106】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体104を簡易に作製することができる。また、混合材料層がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。
【0107】
光学無反射膜は、微小構造体の形状によらず、図11のStageI〜IVのいずれの形状も適用することができる。なお、微小構造体の形状の違いにより、微小構造体の高さ、屈折率、周期を適宜調整する必要がある。また、材質の屈折率も影響するが、モスアイ構造の反転構造でも、光学無反射膜を形成することができる。さらに、得られた光学無反射膜に、多層膜を形成してもよい。
【実施例5】
【0108】
ZnS・ZnO・SiO2(モル比6:2:2)からなる混合材料層を用いた以外は、実施例1と同様にして、図13に示す光導波路を作製した。なお、図13(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光導波路100Dは、光を反射する領域には、図11のStageII〜IIIの形状を有する微小構造体104が300nm周期で配置されており、光の伝播部分には、微小構造体104が配置されていない。これにより、周期性構造物の平均屈折率と周期間隔に起因する特定波長域(400〜600nm)の光をフォトニックバンドギャップによって反射するため、図13(b)に示すように、光が進行する。フォトニック結晶による光導波路では、反射する光の波長は、入射角度に依存するため、フォトニックバンドギャップ波長域に対応する波長の光を、入射角度を調節して入射させる必要がある。
【0109】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体を簡易に作製することができる。また、混合材料層がZnS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。
【0110】
なお、フォトニックバンドギャップを利用した光導波路は、光フィルタ、光スイッチ、レーザ等に応用することができる。また、フォトニックバンドギャップ近傍の波長域では、光を反射せず、透過するが、フォトニック結晶の特異な性質によりコリメート効果、レンズ効果等の解像限界を超えた光学特性が理論的、現象論的に見られている。このような効果も、本発明の微小構造体を用いて得られる。
【0111】
光導波路は、微小構造体の形状によらず、図11のStageI〜IVのいずれの形状の微小構造体が配置されていてもよい。なお、微小構造体の形状の違いにより、微小構造体の高さ、屈折率、周期を適宜調整する必要がある。
【0112】
また、微小構造体の周期構造の反転構造もインバースオパール構造という形で特性が異なるものの、フォトニックバンド効果が得られる。このため、フォトニック結晶としては、微小構造体の周期構造及びその反転構造のいずれも用いることができる。
【実施例6】
【0113】
10cm角の石英基板112を用い、ZnS・SrS・SiO2(モル比7:1:2)からなる混合材料層を用いた以外は、実施例1と同様にして、図14に示す光フィルタを作製した。なお、図14(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光フィルタ100Eにおける微小構造体104は、半球状であり、底面の直径150nm、高さ30nmであり、200nm周期(マークピッチ)で配置されている。このため、レーザ光が照射された際に、光フィルタ100Eは、サブ波長構造の効果として、入射角度に応じて特定波長域(300〜500nm)の光を反射する。このとき、波長405nmの光を、角度を変えながら微小構造体104が形成されている面に入射すると、特定の角度で入射光が反射される。
【0114】
以上のようにして、熱リソグラフィを用いて、微小構造体104を簡易に作製することができる。また、混合材料層がZnS、SrS及びSiO2を含有することにより、エッチング耐性の変化を利用することができる他に、屈折率を調整することができる。なお、微小構造体104の周期構造からは、サブ波長構造だけでなく、フォトニック結晶の効果も生じる。これにより、特定波長域の光を反射する光フィルタ又は光スイッチとして機能する。サブ波長構造やフォトニック結晶は、入射角と反射光の波長が互いに依存している。なお、光フィルタと光スイッチは、同様の現象を利用しており、特定の波長域の光を完全に透過させたくない場合には、光フィルタとして機能させる。また、光の透過のONとOFFを制御した光学素子として利用したい場合には、光スイッチとなる。
【0115】
実施例1〜6において、光吸収層として利用される材料は、特に限定されず、AgInSbTe、Geの他、Si、III−V族化合物半導体、4元混晶化合物等が挙げられる。また、熱リソグラフィとしては、レーザ光を照射する方法の他に、局所的に熱を加える方法も可能である。しかしながら、指向性、安定性の点で優れ、微小構造体の作製精度が高いことから、レーザ光を照射することが好ましい。
【実施例7】
【0116】
図15に示す原盤を作製した。原盤200Aは、容量25GBのBD−ROM(Blu−ray Disc−Read Only Memory)用であり、記録ピットのパターン201aが周期的に配置されている領域を有し、トラックピッチが0.32μmである。原盤200Aの材質は、石英であり、原盤200Aを元に、射出成型等の転写工程によってスタンパ及び光情報記録媒体(映画等の記録済みコンテンツ用)を製造することが可能である。
【0117】
図16に、原盤200Aの製造方法を示す。まず、平坦な円盤状の石英基板201に、ZnS・SiO2・ZnTe(モル比70:20:10)からなる厚さ40nmの混合材料層202を、CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて、RFスパッタリングにより形成した。(図16(a)参照)。次に、レーザ光照射装置のNAが0.85の対物レンズ203により集光された波長が405nmの青色レーザ光204を、混合材料層202の表面にフォーカスし、所定の領域にパルス光出力5mWで照射を行った(図16(b)参照)。このとき、ROMの情報からなるストラテジを用いて、パターンが形成できるようにした。その後、2重量%フッ酸205に10秒間浸漬し(図16(c)参照)、乾燥させた。その結果、石英基板201上に、ZnS・SiO2・ZnTe(モル比70:20:10)からなる、ほぼ半球状の微小構造体206が形成された(図16(d)参照)。
【0118】
その後、RIE(Reactive Ion Etching)装置に設置し、CF4ガスによるエッチングを行った。その結果、石英基板201は、微小構造体206をマスクにしてエッチングされた(図16(e)参照)。さらに、微小構造体206を除去すると、マスクの形状を反映したパターン201aが形成された(図16(f)参照)。石英からなるパターン201aの高さは、AFM(原子間力顕微鏡)による測定の結果、約40nmであった。なお、ここでは、点状のパターン201aが形成されるが、青色レーザ光204を連続照射すると、線状のパターン(グルーブ)が形成され、R基板(Recordable基板)用やRW基板(Rewritable基板)用のスタンパを作製することもできる。
【0119】
一方、微小構造体は、ZnS・SiO2・ZnTeの組成比がどのような場合でも形成できるわけではない。パターン形成の可否と組成比の関係について評価したところ、表1に示す結果が得られた。
【0120】
【表1】
表1より、試料1、5、7ではパターンを形成できたが、試料2、3、4、6ではパターンを形成できなかった。パターン形成の可否と組成比の関係について調べるため、試料1〜7に対して、NAが0.85の対物レンズにより集光された、波長が405nmの青色レーザ光をパルス光出力1〜8mWで照射する前後のフッ酸に対するエッチング耐性を評価したところ、表2に示す結果が得られた。
【0121】
【表2】
表2より、パターンを形成できる場合は、レーザ光を照射する前にエッチング耐性がなく、レーザ光を照射した後にエッチング耐性があることがわかる。試料1、3、4を比較すると、レーザ光を照射する前にエッチング耐性が無いためには、SiO2が必要であり、その割合は、10mol%以上と推定される。一方、試料3のようにSiO2の割合が多すぎると、レーザ光を照射した後にエッチング耐性が無い。また、試料2のようにZnTeの割合が少ない場合には、レーザ光を透過する成分(ZnSとSiO2)が多いため、レーザ光の吸収が不十分となる。ZnTeは、光吸収能を向上させるために必要であるが、試料7のように割合が多すぎると、ZnSの割合が不十分となり、レーザ光の吸収に伴う発熱による組織化が促進されない。パターンが形成されている試料1、5、7の組成比も考慮して、ZnSの割合は60mol%以上、ZnTeの割合は30mol%以下と推定される。
【0122】
また、ZnTeの代わりにAgを用いて同様に評価したところ、表3及び表4に示す結果が得られた。
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
表3及び表4より、試料8〜14においては、ZnTeの代わりにAgを用いても、ZnS・SiO2・Agの組成比とパターン形成の可否の関係は同様であると言える。一方、試料16では、パターン形成は可能であったが、試料8の方が鮮明なパターンであった。試料15、試料17は、試料16と近い組成比であるが、パターン形成ができなかった。試料15では、表4に示すようにレーザ光を照射する前からエッチング耐性があることから、パターン形成ができず、SiO2の割合が9mol%では不十分なことを示す。一方、試料17では、レーザ光を照射する前は、エッチング耐性が無いが、Agの割合が9mol%であるため、レーザ光の照射量が不十分であり、パターンを形成できなかったと考えられる。この場合には、高出力のレーザ光を照射すれば、パターンを形成することができると考えられる。
【0125】
なお、材料Cとして添加する材料を変更すると、レーザ光の吸収に伴う発熱量が変化するため、パターン形成に必要なレーザ光の照射条件(パルス光出力、パルス幅)も変化する。同様のことは、材料A'についても言える。なお、フッ酸を用いてエッチングする場合には、パターン形成が可能なSiO2の割合は、10mol%以上であり、SiOが含まれている場合も同様である。また、試料18〜20が示すように、パターン形成が可能なSiO2の割合は、30mol%以下である。試料18のように、SiO2の含有量が30mol%の場合には、パターンは、形成されるが、非常に不鮮明である。また、試料19、20のように、SiO2の含有量が31mol%の場合には、微小構造体がほぼ残存しない。なお、レーザ光のパルス光出力を大きくして、材料Cの割合を少なくし、材料A'の割合を多くしても、パターン形成が可能なSiO2の割合は、30mol%以下である。鮮明なパターンを形成するためには、SiO2が10〜30mol%の範囲内で適度に含まれることが好ましい。
【0126】
また、スパッタリング法により混合材料層を形成する場合には、混合材料からなる一つのスパッタリングターゲットを用いて形成してもよいし、材料毎にスパッタリングターゲットを用意して同時スパッタリングにより形成してもよい。スパッタリングの方法によって、例えば、混合材料層の表面粗さが異なる場合や、SiO2に酸素欠損が生じてSiOx(x=1〜2)になる場合もあるが、混合材料層の膜質は大きく変わらない。なお、レーザ光を混合材料層に照射することよって、混合材料層内で材料が混合する効果もあると考えられる。
【0127】
一方、波長が405nmの青色光に対して、ZnS・SiO2(モル比80:20)の消衰係数kは、ほぼ1×10−3程度であるのに対して、試料5の混合材料層のkは、1×10−1程度である。このようにZnTeを添加することで青色レーザ光の吸収能を向上させることができる。混合材料層における発熱量は、レーザ光のパルス光出力によるため、kの基準値は、特に限定されないが、市販の赤色や青色の半導体レーザ光を照射する場合は、1×10−1程度で十分である。
【0128】
また、厚さ40nmのZnS・SiO2(モル比50:50〜90:10)の可視光領域における透過率は、ほぼ100%であるが、ZnTe又はAgを添加すると、ZnTe又はAgの割合が高くなる程、透過率が低下し、光吸収能が向上する。しかしながら、混合材料層の組成は、微小構造体の作製に重要であり、ZnSを60mol%以上、SiO2を10〜30mol%、ZnTe又はAgを30mol%以下含有することが好ましい。このような条件を満たさないと、エッチングにより滑らかな端部を有するほぼ半球状の微小構造体が形成されないことがある。混合材料層は、10重量%以上のSiO2を含むため、フッ酸中でエッチングされるが、ほぼ半球状の微小構造体が残存するのは、レーザ光の照射を受けており、フッ酸に対するエッチング耐性が向上しているためである。なお、材料Cとして、ZnTeを用いると、ZnSと同一の元素を含むため、Agを用いた場合と比較して、微小構造体の端部がさらに滑らかになる。
【0129】
本実施例においては、微小構造体206がほぼ半球状であるため、原盤200Aを製造することができる。なお、図16(d)に示す微小構造体206の代わりに、青色レーザ光204のパルス光出力を7mWにすると、図17に示すように、ほぼ円柱状の構造の上に半球状の構造体が形成されている形状の微小構造体207が形成される。なお、最終的に石英基板201にエッチングを施すため、微小構造体の形状は、記録ピットのパターン形状に影響を及ぼす。このとき、微小構造体207をマスクにしてエッチングする方が、微小構造体206を用いた場合と比較して、ほぼ垂直にエッチングされるという特長がある。
【実施例8】
【0130】
図18に示す光学無反射膜を作製した。なお、図18(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光学無反射膜200Bは、石英からなり、直径が約150nm、高さが約250nmの円柱状のパターン201bが200nm周期で配置されている。光学無反射膜200Bは、同一の厚さの石英基板201と比較して、波長が400〜600nmの光の透過率を上昇させ、100%に近づける。これは、周期構造がモスアイ構造となり、反射を抑制し、光を透過させるためである。
【0131】
光学無反射膜200Bの製造方法は、青色レーザ光204を200nm周期で照射した以外は、実施例7と同様である。なお、光学無反射膜200Bは、ウェハーで作製した後、ダイシングにより数ミリ角に分割し、不純物を除去するために洗浄することにより得られる。
【0132】
図16(d)に示すように、石英基板201上に微小構造体206が形成されたものも光学無反射膜として利用できるが、微小構造体206の材質が石英と異なるため、光学無反射膜としての効果が薄れたり、ダイシング工程で剥離が生じて歩留まりが低くなったりすることがある。このことから、必要に応じて、石英基板201までエッチングした後に、パターンを転写して複製してもよい。このとき、石英基板201の表面に形成されるパターンの形状は、基本的にマスクとなる微小構造体206に近い形状となる。しかしながら、微小構造体206のCF4に対するエッチングレートが十分小さいため、アスペクト比が高い形状のパターン201bも作製することができる。なお、複製する際には、熱ナノインプリント、光ナノインプリント、ソフトリソグラフィ等のナノインプリント技術を用いて、樹脂を主成分とする材料にパターンを転写することができる。
【実施例9】
【0133】
図19に示す光学無反射膜を作製した。なお、図19(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光学無反射膜200Cは、石英基板201上に、微小構造体208が400nm周期で配置されている。微小構造体208の材質は、ZnS・SiO2・ZnTe・ZnO(モル比64:18:10:8)である。また、微小構造体208は、ほぼ円筒形状であり、外径が300nm、内径が90nm、高さが約50nmである。光学無反射膜200Cは、同一の厚さの石英基板と比較して、波長が400〜600nmの光の透過率を上昇させ、100%に近づける。これは、微小構造体208による周期構造がモスアイ構造となり、反射を抑制し、光を透過させるためである。
【0134】
光学無反射膜200Cの製造方法は、パルス光出力が9mWの青色レーザ光204を400nm周期で照射した以外は、実施例7と同様である(ただし、図16(e)及び(f)を除く)。ZnS・SiO2・ZnTe・ZnO(モル比64:18:10:8)は、透過率が高いため、青色レーザ光204のパルス光出力を大きくする必要がある。
【0135】
なお、青色レーザ光204のパルス光出力を8mWにすると、図20に示すように、空洞部の下側が大きい円筒形状の微小構造体209が形成される。
【実施例10】
【0136】
図21に示す情報記録媒体を作製した。情報記録媒体200Dは、ランドとグルーブの繰り返し凹凸を有する、直径12cmの円盤状のポリカーボネート基板210上に、微小構造体211が基本的には160nm周期で配置されている。微小構造体211は、底面の直径が約90nm、高さが約30nmのほぼ半球状であり、微小構造体211の有無により情報が判別される。具体的には、情報記録媒体200Dにレーザ光が照射された際に、微小構造体211からは蛍光が発光され、微小構造体211が配置されていない領域からは蛍光が発光されない。このため、蛍光検出光学ヘッドを走査させると、蛍光の有無により情報を読み出すことができる。
【0137】
微小構造体211の材質は、ZnS・SiO2・CdTe(モル比77:20:3)であり、蛍光性量子ドットと同様の効果を有する。情報を読み出す際には、発光した蛍光を光学ヘッド内のレンズで集光し、光ファイバー、光フィルタを経由して光電子増倍管で増幅することにより、蛍光を検出した。これにより、微弱な蛍光でも検出することができる。
【0138】
情報記録媒体200Dの製造方法は、パルス光出力が8mWの青色レーザ光204を照射した以外は、実施例7と同様である(ただし、図16(e)及び(f)を除く)。本実施例では、円盤状のポリカーボネート基板210上に作製したが、XYステージを用いて角状基板に作製することもできる。この場合、XYステージに真空吸着させ、レーザ光をパルス照射すればよい。
【実施例11】
【0139】
図22に示す光導波路を作製した。なお、図22(a)及び(b)は、それぞれ断面図及び上面図である。光導波路200Eは、シリコン基板212上に、微小構造体213が400nm周期で配置されている周期領域を有し、周期領域の平均屈折率と微小構造体213の間隔に起因するフォトニックバンドギャップにより、波長が780nmの光が反射される。なお、光の伝播部分には、微小構造体213が形成されていない。微小構造体213は、底面の直径が200nm、高さが50nmの円柱状の構造の上に半球状の構造体が形成されており、材質は、ZnS・SiO2・ZnO(モル比65:20:15)である。
【0140】
光導波路200Eの製造方法は、パルス光出力が7mWの青色レーザ光206を照射した以外は、実施例7と同様である(ただし、図16(e)及び(f)を除く)。
【0141】
フォトニックバンドギャップを利用したフォトニック結晶は、光導波路の他に、光フィルタ、光スイッチ等の光学素子に応用することができる。また、フォトニックバンドギャップ近傍の波長域では、光を反射せず、透過するが、フォトニック結晶の特異な性質により、コリメート効果、レンズ効果等の解像限界を超えた光学特性が理論的、現象論的に見られている。このような効果も、本発明の光学素子により得られる。
【実施例12】
【0142】
図23に示す光フィルタを作製した。光フィルタ200Fは、サブ波長構造を利用したものであり、石英基板201上に、微小構造体214が300nm周期で配置されている。微小構造体214は、底面の直径が200nm、高さが50nmの円柱状の構造の上に半球状の構造体が形成されており、材質は、ZnS・SiO2・Au(モル比72:18:10)である。
【0143】
光フィルタ200Fの製造方法は、パルス光出力が8mWの青色レーザ光204を照射した以外は、実施例7と同様である(ただし、図16(e)及び(f)を除く)。なお、図16(e)及び(f)の工程を経て、図24に示すように、石英からなる光フィルタ200Gとしてもよい。なお、光フィルタ200Gは、光フィルタ200Fと同様の周期のパターン201cを有する。
【0144】
光フィルタ200F及び200Gは、レーザ光が照射されると、フォトニックバンドギャップにより、特定波長の光を反射するため、光スイッチとして作用する。例えば、波長が405nmの光を、角度を変えながら、光フィルタ200F及び200Gに入射すると、特定の角度で光を反射する。
【0145】
なお、微小構造体214の代わりに、断面がほぼ長方形である線状の微小構造体を、青色レーザ光204を連続照射することにより周期的に形成しても、光スイッチとしての効果が得られた。線状の微小構造体を形成する場合には、互いに垂直な網目状の構造としても光スイッチとしての効果が得られた。また、LERも、フォトリソグラフィにおけるレジストの値よりも小さく、1nm以下となった。
【0146】
このような光フィルタは、サブ波長構造及びフォトニックバンドギャップ効果により、特定波長の光を反射する光フィルタ又は光スイッチとして機能する。サブ波長構造やフォトニック結晶は、入射角と反射光の波長が互いに依存している。なお、光フィルタと光スイッチは、同様の現象を利用しており、特定波長の光を完全に透過させたくない場合には、光フィルタとして機能する。また、光の透過のONとOFFを制御した光学素子として利用したい場合には、光スイッチとなる。
【実施例13】
【0147】
図25に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。これらの微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がZnS・SiO2・Ag(モル比72:18:10)である。微小構造体の製造方法は、ZnS・SiO2・Ag(モル比72:18:10)からなるスパッタリングターゲットを用いて、青色レーザ光204のパルス光出力を変化させた以外は、実施例7と同様である。図25(a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれパルス光出力が6.5mW、7.0mW、8.0mW及び9.0mWである。図25(a)及び(b)では、半球状の微小構造体、図25(c)では、円柱状の構造体の上に半球状の構造体が形成されている形状の微小構造体、図25(d)では、円筒状の微小構造体が形成されている。なお、微小構造体の形状は、走査型電子顕微鏡の他に、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡を用いて、評価することができる。
【0148】
図26に、これらの微小構造体のパルス光出力に対する外径及び内径の関係を示す。図26より、パルス光出力が大きくなると共に、微小構造体の外径が大きくなり、9mWで微小構造体の中央に空洞部が生じることがわかる。なお、微小構造体の大きさは、レーザ光を照射する際のパルス幅(照射時間)によっても変化させることができる。この場合のパルス幅は、10〜15ナノ秒程度である。組成比、材料等によりパルス光出力に対する微小構造体の大きさは異なるが、Ag以外の材料を用いた場合でも同様のパルス光出力依存性が見られる。
【0149】
図27に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。この微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がZnS・SiO2・ZnTe(モル比68:17:15)である。微小構造体の製造方法は、ZnTeとZnS・SiO2(モル比80:20)の2個のスパッタリングターゲットを用いて、青色レーザ光204のパルス光出力を変化させた以外は、実施例7と同様である。なお、スパッタリング法により形成された膜の組成は、元素分析によって確認した。図27(a)は、パルス光出力が6.0mWであり、図27(b)は、パルス光出力が7.0mWである。
【0150】
図28に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。この微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がZnS・SiO2・Au(モル比72:18:10)である。微小構造体の製造方法は、AuとZnS・SiO2(モル比80:20)の2個のスパッタリングターゲットを用いて、青色レーザ光204のパルス光出力を3.0mWとした以外は、実施例7と同様である。
【0151】
図25、図27及び図28の微小構造体を比較すると、図27の微小構造体の端部が最も滑らかであることがわかる。図25、図27及び図28の微小構造体と同様の材料を用いて、レーザ光を連続照射することにより線状の微小構造体を作製し、LERを比較したところ、図27の微小構造体と同様の材料を用いた場合が最も小さかった。これは、材料A'及び材料Cに同一元素としてZnが含まれるためであると考えられる。
【0152】
材料Cとして、Al、Cu、Pt、Sb、Te、Ge、Si、Bi、Mn、W、Co、Nb及びこれらの合金、例えば、InSb、AgInSbTe、GeSbTe等を用いた場合についても同様に、微小構造体を作製することができた。また、ZnMgTe、CsZnTe、ZnMgSSe、SbZn、ZnCrO4、ZnZrO3、ZnWO4、ZnTiO3、Zn3N2、ZnF2、ZnSnO3、ZnMoO4、GeS2、CoS、SnS等を用いた場合についても同様に、微小構造体を作製することができた。さらに、材料Cとして、ZnOのように青色レーザ光に対する透過率が他の元素と比較して大きい材料を用いる場合には、例えば、ZnS・SiO2・ZnTe・ZnO(64:18:10:8)とすると、端部が滑らかな微小構造体を作製することができた。また、材料Cとして、ZnSe、MnS、SrSを用いた場合についても、端部が滑らかな微小構造体を作製することができた。
【実施例14】
【0153】
図18に示す光学無反射膜を作製した。光学無反射膜200Bは、石英からなり、直径が約150nm、高さが約250nmの円柱状のパターン201bが200nm周期で配置されている。光学無反射膜200Bは、同一の厚さの石英基板と比較して、波長が400〜600nmの光の透過率を上昇させ、100%に近づける。これは、周期構造がモスアイ構造となり、反射を抑制し、光を透過させるためである。
【0154】
光学無反射膜200Bの製造方法は、青色レーザ光204を200nm周期で照射し、FeSとSiO2の2個のスパッタリングターゲットを用いて、FeS・SiO2(モル比80:20)からなる混合材料層202を形成した以外は、実施例7と同様である。なお、光学無反射膜200Bは、ウェハーで作製した後、ダイシングにより数ミリ角に分割し、不純物を除去するために洗浄することにより得られる。
【0155】
ZnS、CaS、SrSが可視領域でほぼ透明であり、光吸収能が小さいのに対して、FeSは、硫黄化合物の中でも光吸収能が大きいため、FeS・SiO2(モル比80:20)は、可視領域発振波長のレーザ光を吸収する。このため、FeSは、光吸収能を向上させる材料として機能する。
【0156】
図16(d)に示すように、石英基板201上に微小構造体206が形成されたものも光学無反射膜として利用できるが、微小構造体206の材質が石英と異なるため、光学無反射膜としての効果が薄れたり、ダイシング工程で剥離が生じて歩留まりが低くなったりすることがある。このことから、必要に応じて、石英基板201までエッチングした後に、パターンを転写して複製してもよい。このとき、石英基板201の表面に形成されるパターンの形状は、基本的にマスクとなる微小構造体206に近い形状となる。しかしながら、微小構造体206のCF4に対するエッチングレートが十分小さいため、アスペクト比が高い形状のパターンも作製することができる。なお、複製する際には、熱ナノインプリント、光ナノインプリント、ソフトリソグラフィ等のナノインプリント技術を用いて、樹脂を主成分とする材料にパターンを転写することができる。
【実施例15】
【0157】
図29に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。これらの微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がFeS・SiO2(モル比80:20)である。微小構造体の製造方法は、FeSとSiO2の2個のスパッタリングターゲットを用いて、FeS・SiO2(モル比80:20)からなる混合材料層202を形成し、青色レーザ光204のパルス光出力を変化させた以外は、実施例7と同様である。図29(a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれパルス光出力が1.5mW、2.0mW、3.0mW及び4.5mWである。図29(a)では、半球状の微小構造体、図29(b)及び(c)では、円柱状の構造体の上に半球状の構造体が形成されている形状の微小構造体、図29(d)では、円筒状の微小構造体が形成されている。なお、微小構造体の大きさは、レーザ光のパルス光出力の他、パルス幅でも変化する。
【0158】
図30に、微小構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。これらの微小構造体は、トラックピッチが400nm(ライン幅200nm、溝幅200nm)であるランド・グルーブを有するポリカーボネート基板上に形成されており、材質がFeS・SiO2(モル比76:24)である。微小構造体の製造方法は、FeSとSiO2の2個のスパッタリングターゲットを用いて、FeS・SiO2(モル比76:24)からなる混合材料層202を形成し、青色レーザ光204のパルス光出力を変化させた以外は、実施例7と同様である。図30(a)及び(b)は、それぞれパルス光出力が1.1mW及び1.4mWである。
【0159】
このように青色レーザ光204を照射し、フッ酸205に浸漬してエッチングすることにより、微小構造体206が形成されるのは、青色レーザ光204が照射された領域では、FeSとSiO2が組織化され、フッ酸205に対するエッチング耐性が向上するためである。
【実施例16】
【0160】
図19に示す構造を有する微小構造体208を石英基板201上に形成した。ただし、微小構造体208の材質は、ZnS・SiO2・Au(モル比72:18:10)である。このとき、石英基板201の代わりに、スライドガラスを用いることもできる。なお、微小構造体208の製造方法は、パルス光出力を8mWとした以外は、実施例9と同様である。次に、微小構造体208が形成された石英基板201上に、一万種類以上のDNA断片を微小スポットとして、インクジェット方式により整列固定させることにより、DNAチップを作製した。インクジェット法は、射出孔からの吐出量の制御に有利である。
【0161】
DNAチップと、細胞の発現遺伝子を蛍光色素Cy3(緑)、Cy5(赤)で標識したサンプルDNAを反応(ハイブリダイゼーション)させた。互いに相補的なDNA同士が反応した結果、対応するDNAを有する微小スポットが着色した。この微小スポットの色を、高解像能のDNAチップ解析装置で読み取り、DNAチップ上のDNAから、サンプルDNAの機能情報が得られた。
【0162】
なお、実施例7のように平坦な円盤状の石英基板201を回転させてウェハー内に大面積で製造した後に、ダイシングにより各DNAチップを取り出すと、5mm角程度のDNAチップを大量に作製することができ、低コストとなる。また、XYステージを用いて、DNAチップを作製することもできる。
【0163】
DNAの検出効率を上げるためには、微小スポットにDNA断片をどの程度整列固定させるかが重要であり、本実施例では、比表面積が大きい微小構造体が配置されている。このとき、本実施例のDNAチップは、フォトリソグラフィ等を用いて製造されているDNAチップと比較して低コストで製造することができる。また、図19に示すような円筒形状の微小構造体は、熱リソグラフィ特有であり、比表面積が大きい。
【0164】
なお、本実施例以外の材料や製造方法を用いて、DNAチップを製造してもよい。このとき、SiO2は、酸素欠損が多少生じていてもよい。また、材料Cとしては、単体金属、合金等の光吸収能を向上させる材料であれば、特に限定されず、CdTe、CdSe等の蛍光物質を選定した場合には、蛍光による検出を利用することができる。また、材料Cとして、Au等の金属を用いると、プラズモン効果が期待できる。
【実施例17】
【0165】
図32に示す偏光分離素子を作製した。偏光分離素子300は、ポリカーボネート基板301上に、ZnS層302が形成され、その上に、線状の微小構造体303が周期的に配置されている。このため、偏光分離素子300の特性(周期、屈折率)に応じた特定波長の光310に対して、P偏光311とS偏光312を分離する機能を有する。ここで、P偏光は、光の電場ベクトルの振動面が入射面に対して平行な偏光成分であり、S偏光は、光の電場ベクトルの振動面が入射面に対して垂直である偏光成分である。
【0166】
図33に、偏光分離素子300の製造方法を示す。まず、高さ20nm、ピッチ200nmの凹凸(ランド・グルーブ)が同心円状に形成された厚さ0.6mmのポリカーボネート基板301を、原盤及びスタンパと射出成型を利用した一般的な光ディスクのプロセスにより製造した。次に、ポリカーボネート基板301上に、厚さ10nmのZnS層302及びZnS・SiO2・Zn(モル比64:13:33)からなる厚さ200nmの混合材料層304を順に、CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて、RFスパッタリングにより形成した(図33(a)参照)。
【0167】
さらに、レーザ光照射装置(シバソク社製)のNAが0.85の対物レンズ305により集光された波長が405nmの青色レーザ光306を、トラッキングされた混合材料層304の表面にフォーカスし、回転するポリカーボネート基板301に対して、連続光出力3.5mWで連続光を照射した(図33(b)参照)。
【0168】
その後、2重量%フッ酸307に10秒間浸漬してエッチングした後(図33(c)参照)、純水で洗浄して乾燥させ、微小構造体303が周期的に配置されている偏光分離素子300Aを得た(図33(d)参照)。このとき、レーザ光306が十分に照射された混合材料層304が残存して微小構造体303となるが、本実施例では、ランド部(凸部)に形成された混合材料層304が残存し、グルーブ部(凹部)に形成された混合材料層304の一部が除去される。このため、隣接する微小構造体303同士が連結されている。
【0169】
図34に、偏光分離素子300の走査電子顕微鏡写真を示す。図34(a)は、上面図であり、図34(b)は、集束イオンビーム(FIB)を用いて、偏光分離素子300に断面を形成したときの斜視図である。なお、図34(b)では、断面を形成するために微小構造体303の上部にカーボン保護膜308を堆積させている。図34から、偏光分離素子300Aに、線状の微小構造体303が周期的に配置されていることがわかる。なお、このように線状のパターンからなる偏光分離素子は、ワイヤーグリッド偏光子と呼ばれる。
【0170】
偏光分離素子300、ポリカーボネート基板301及びZnS層302と混合材料層304が形成されたポリカーボネート基板301(図33(a)参照)に、P偏光を入射させたところ、図35に示す透過率の波長依存性が得られた。また、偏光分離素子300を90°回転させて、同様にP偏光を入射させた。なお、測定装置としては、高速分光エリプソメータM2000(ジェー・エー・ウーラムジャパン社製)を用い、測定スポット直径を約3mmとし、直線偏光を用いた透過率の測定モードで測定を行った。このとき、偏光分離素子300は、測定スポットよりも十分大きい。図35から、90°回転させていない偏光分離素子300の場合は、747nmを中心波長として、ディップが見られるが、90°回転させた偏光分離素子300の場合は、ディップが見られないことがわかる。また、回転させていない偏光分離素子300にS偏光312を入射した場合も、ディップは見られなかった。したがって、偏光分離素子300は、747nmを中心波長として、ほぼ650〜840nmの波長領域において、偏光分離機能を有する。
【0171】
次に、レーザ光304の連続光出力を3.0mW及び2.5mWとした以外は、上記と同様に偏光分離素子300を作製した。図36に、連続光出力が2.5mWである場合の偏光分離素子300の走査電子顕微鏡写真を示す。図36(a)は、上面図であり、図36(b)は、集束イオンビーム(FIB)を用いて、偏光分離素子300に断面を形成したときの斜視図である。なお、図36(b)では、断面を形成するために微小構造体303の上部にカーボン308を堆積させている。
【0172】
また、図37に、偏光分離素子300のP偏光の透過率の波長依存性を示す。図37から、連続光出力を2.5mWとしても、上記と同様に、90°回転させた偏光分離素子300の場合は、ディップが見られないことがわかる。さらに、90°回転させていない偏光分離素子300の場合は、連続光出力が3.5mW、3.0mW及び2.5mWのいずれにおいてもディップが見られるが、連続光出力が大きい方がディップの深さが深く、低波長側にシフトしていることがわかる。
【0173】
なお、ZnS・SiO2・Zn(モル比64:13:33)の約2重量%フッ酸に対するエッチングレートを調べたところ、アニールしない場合は、5.26nm/秒であったが、500℃で30分間、電気炉(大気雰囲気)でアニールした場合は、0.17nm/秒となった。この結果から、アニールの有無によるエッチングレート選択比(アニールした場合に対するアニールしない場合の比)が約33となり、アニールによりエッチング耐性が急激に向上することがわかる。レーザ光の照射とアニールは、到達温度、最高温度到達時間等が異なるが、熱を供給するという点では一致している。このため、本実施例で、レーザ光306を照射した後、フッ酸307に浸漬してエッチングすることにより、混合材料層304がパターン形成される要因の一つとして、レーザ光306による熱の供給が挙げられる。ZnS・SiO2(モル比80:20)を用いて同様の実験を行った際にもほぼ同様のエッチング選択比が得られており、このようなエッチング耐性の変化は、ZnSの結晶化が大きく起因していると推測される。
【0174】
また、ZnS・SiO2・Znからなる薄膜を大気中、500℃で30分間アニールすると、可視光領域の透過率が上昇し、X線回折からZnOの回折X線ピークが見られた。すなわち、Znの酸化が確認されている。このため、レーザ光306が照射された混合材料層304においても、Znが酸化されていると推測される。すなわち、混合材料層304にレーザ光306を照射すると、光吸収能を有するZnがレーザ光306を吸収すると共に、酸化され、微小構造体306の可視光領域の透過率が上昇する。このとき、ZnS及びSiO2も可視光領域において透明であるため、レーザ光306を照射することにより、透明材料がパターン形成される。
【0175】
さらに、光透過率が93%のガラス基板上に、厚さが100nmのZnS層を形成した試料の光透過率は、波長が300nm、405nm及び550nmにおいて、それぞれ約20%、約60%及び約90%であった。一方、SiO2の光透過率は、200〜1700nmの波長領域において、90%を超える。このとき、ZnS・SiO2(モル比80:20)が吸収する光、例えば、波長が266nmのDUV(深紫外)レーザ光、波長が13.5nmのEUV(極端紫外)レーザ光を照射することにより、ZnS・SiO2(モル比80:20)をパターン形成することもできる。しかしながら、照射するレーザ光の波長が短くなる程、装置が高価になり、照射時間も要する。本実施例においては、混合材料層の光吸収能を向上させているため、真空を要さずに、可視領域、例えば、波長が405nm、650nm、780nmの半導体レーザ光を照射することにより、微小構造体を作製することができる。
【0176】
なお、このような偏光分離素子300は、回折格子としても用いることができる。
【実施例18】
【0177】
図38に示す光フィルタを作製した。光フィルタ400は、ポリカーボネート基板401上に、ZnS層402が形成され、その上に、点状の微小構造体403が周期的に形成されている。このため、光フィルタ400の特性(周期、屈折率)に応じた特定波長の光410に対して、P偏光411又はS偏光412を反射する機能を有する。
【0178】
図39に、光フィルタ400の製造方法を示す。まず、高さ20nm、ピッチ400nmの凹凸(ランド・グルーブ)が同心円状に形成された厚さ0.6mmのポリカーボネート基板401を、原盤及びスタンパと射出成型を利用した一般的な光ディスクのプロセスにより製造した。次に、ポリカーボネート基板401上に、厚さ10nmのZnS層402及びZnS・SiO2・Zn(モル比64:13:33)からなる厚さ200nmの混合材料層404を順に、CFS−8EP(芝浦メカトロニクス社製)を用いて、RFスパッタリングにより形成した(図39(a)参照)。
【0179】
さらに、レーザ光照射装置(シバソク社製)のNAが0.85の対物レンズ405により集光された波長が405nmの青色レーザ光406を、トラッキングされた混合材料層404の表面にフォーカスし、回転するポリカーボネート基板401に対して、パルス光出力10mWでパルス光照射を行った(図39(b)参照)。
【0180】
その後、2重量%フッ酸407に10秒間浸漬してエッチングした後(図39(c)参照)、純水で洗浄し、乾燥させ、微小構造体403が周期的に配置されている光フィルタ400を得た(図33(d)参照)。このとき、レーザ光406が十分に照射された混合材料層404が残存して微小構造体403となる。なお、トラック方向の微小構造体403の間隔は、約400nmである。
【0181】
図40に、光フィルタ400の走査電子顕微鏡写真を示す。なお、図40(a)及び(b)は、それぞれ上面及び斜めから撮影したものである。
【0182】
光フィルタ400及びポリカーボネート基板401に、P偏光411を入射させたところ、図41に示す波長依存性が得られた。また、光フィルタ400を90°回転させて、同様にP偏光411を入射させた。なお、測定装置としては、高速分光エリプソメータM000(ジェー・エー・ウーラムジャパン社製)を用い、測定スポット直径を約3mmとし、直線偏光を用いた透過率の測定モードで測定を行った。図41から、90°回転させていない光フィルタ400の場合は、674nm及び701nmを中心波長として、比較的線幅の狭いディップが見られ、90°回転させた光フィルタ400の場合は、655nmを中心波長として、ディップが見られることがわかる。したがって、光フィルタ400は、特定の波長領域の偏光をフィルタリングする機能を有する。このとき、反射率測定から、ディップ波長に対応する透過しない光は、反射されることがわかっている。
【0183】
次に、レーザ光406のパルス光出力を変えた以外は、上記と同様に光フィルタ400を作製したところ、パルス光出力が大きい方がディップの深さが深くなる傾向が見られた。
【0184】
なお、この場合も、実施例17と同様に、レーザ光406を照射することにより、透明材料がパターン形成される。
【実施例19】
【0185】
発光素子の一例として、図42に示す無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子500A及び500Bを作製した。なお、EL素子では、正孔と電子の再結合によりルミネッセンスが発生する。また、EL素子では、通常、平坦な基板が用いられるが、凹凸パターンが形成されている基板を用いると、反射防止効果により臨界角未満の入射光を透過すると共に、通常、取り出せない臨界角以上の入射光を回折光として取り出すことができる。その結果、光取り出し効率が1.5倍程度に向上した。
【0186】
無機EL素子500Aは、ポリカーボネート基板301上に、ZnS層302が形成され、その上に、線状の微小構造体303が周期的に形成されている偏光分離素子300(回折格子)を有する。さらに、ポリカーボネート基板301の微小構造体303が形成されていない側に、ITO(Indium tin oxide)からなる陰極501、ZnS・Mn(Mnの濃度は数重量%)からなる発光層502及びアルミニウムからなる陽極503が順次積層されている。一方、無機EL素子500Bは、無機EL素子500Aと同様に、回折格子を有し、微小構造体303の上に、陰極501、発光層502及び陽極503が順次積層されている。このとき、微小構造体303は、可視光領域の透過率が高いため、EL素子を構成する材料として適している。
【0187】
このとき、陰極501及び陽極503の間に、直流電圧又は交流電圧を印加すると、黄橙色の発光(中心波長585nm)が見られ、輝度の電圧依存性から、無機EL素子500A及び500Bのいずれの場合も、微小構造体303が形成されていない場合と比較して、発光効率(光取り出し効率)が向上した。
【0188】
本実施例では、発光層502に、ZnS・Mnを用いたが、特に限定されず、CaSSe・Eu、CaS・Eu、SrS、Cu、SrS・Ce、BaAl2S4・Eu、BaZnS3・Mn、ZnMgO等の発光材料を用いてもよい。
【0189】
さらに、発光層502に、フェニレンビニレン系、アリーレン系等の有機発光材料を用いて、直流電圧を印加する有機EL素子としてもよい。
【実施例20】
【0190】
光電変換素子の一例として、図43に示す色素増感型太陽電池を作製した。光電変換素子は、光を吸収して電気に変換する光電変換層を有するが、光電変換層が厚い方がより多くの光を吸収することができる。Si半導体、有機半導体等からなる光電変換層は、光起電力効果を有し、p−n接合部、あるいはショットキー接合部に励起光が照射されると、発生した電子と正孔が界面の電場により分離され、電位差が生じる。光電変換素子では、通常、平坦な基板が用いられるが、凹凸パターンが形成されている基板を用いると、光電変換層内での多重反射を増大させ、光閉じ込めを強めることができる。その結果、光電変換効率が3〜5%向上した。
【0191】
色素増感型太陽電池600は、平坦なガラス基板601上に、実施例17と同様にして、線状の微小構造体602が形成されており、さらに陰極603が形成されている。さらに、ガラス基板604上に形成された陽極605と、陰極603の間に、光電変換層606が挟持されている。光電変換層606には、色素、チタニア、電解質、酸化還元対が含まれる。
【0192】
色素としては、ルテニウム錯体のRuL2(NCS)2(L=4,4'−dicarboxy−2,2'−bipyridine)を用いたが、特に限定されず、ポルフィリン系、シアニン系等の色素を用いてもよい。
【0193】
チタニアとしては、粒径が10〜30nm程度の微粒子を用いた。X線回折から、チタニア微粒子は、ほぼアナターゼ型であった。チタニアは、スパッタリング法等により形成してもよいが、アモルファスが含まれて、光電変換効率が減少することがあるため、結晶化度の高い微粒子を用いることが好ましい。
【0194】
電解質及び酸化還元対としては、低出力セル用電解液Iodolyte TG 50(分子量220のポリエチレングリコールにヨウ化リチウム(LiI)0.5M、金属ヨウ素(I2)0.05Mを加えたもの)(Solaronix社製)を用いたが、特に限定されない。電解質としては、リチウムイオン等の陽イオンや塩化物イオン等の陰イオン等を用いてもよいし、酸化還元対としては、ヨウ素−ヨウ素化合物、臭素−臭素化合物等を用いてもよい。
【0195】
光電変換層606では、色素が光を吸収して電子を放出し、半導体のチタニア(TiO2)がその電子を受けて陰極603に引き渡す。色素に残ったホール(h+)は、ヨウ化物イオン(I−)を酸化して、三ヨウ化物イオン(I3−)とする。このI3−は、陽極605で還元される。以上のようなサイクルを繰り返すことによって、発電が行われる。
【0196】
陰極603及び陽極605としては、ITO(Indium tin oxide、酸化スズ5%、酸化インジウム95%)を用いたが、特に限定されず、酸化スズにフッ素をドープした膜(FTO)等を用いてもよい。
【0197】
微小構造体602は、石英等のガラス基板601の他に、ポリカーボネート基板等に作製することができる。しかしながら、光電変換素子においては、ITOを形成する際に、500℃程度に達することから、耐熱性が高いガラス基板701が一般的に利用される。また、本実施例においても、微小構造体602には、ZnOが含まれていた。
【0198】
なお、微小構造体602は、Si薄膜太陽電池、CIGS太陽電池(Cu(In1−x,Gax)Se2)、銅−インジウム−ガリウム−セレン系材料を用いた太陽電池等の色素増感型太陽電池以外の太陽電池にも適用することができる。
【実施例21】
【0199】
図44に示す非球面光学レンズを作製した。なお、図44(a)は、斜視図であり、図44(b)は、断面図である。非球面光学レンズ700は、最大直径が約2μm、高さが約2.5μmであり、超半球に近い形状で、石英基板701との接触面のレンズ直径よりも最大直径の方がやや大きい。また、非球面光学レンズ700は、波長が660nmの光の透過率が約90%であり、可視光領域でも十分利用可能な透過率を有する。
【0200】
非球面光学レンズ700は、ポリカーボネート基板401の代わりに、平坦な石英基板701を用い、波長が405nmの青色レーザ光506の代わりに、波長が780nmのレーザ光を用いた以外は、実施例18と同様に製造することができる。粉末X線回折から、非球面光学レンズ700は、Znのピークが極めて弱く、ZnOのピークが強かったため、Znは、ほぼ酸化され、ZnOが形成されたと考えられる。これにより、非球面光学レンズ700の可視光領域の透過率が上昇する。
【0201】
非球面光学レンズ700は、薄膜のアニール実験等の結果から、屈折率が2.2程度であると推測される。非球面光学レンズ700は、石英等と比較して高屈折率であることに加え、無機材料からなることから、信頼性が高い。さらに、非球面光学レンズ700は、石英基板701上に作製することができ、個々に分割することも容易である。
【0202】
なお、非球面光学レンズ700の形状は、特に限定されず、混合材料層504の膜厚やレーザ光506のパルス光強度を変化させることにより、一般的な半球状にすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0203】
【図1】実施例1の情報記録媒体を示す図である。
【図2】実施例1の情報記録媒体の製造方法を示す断面図である。
【図3】実施例2の情報記録媒体を示す図である。
【図4】微小構造体(パルス光出力4.5mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】微小構造体(パルス光出力5.0mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】微小構造体(パルス光出力5.5mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】微小構造体(パルス光出力6.0mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】微小構造体(パルス光出力6.4mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】微小構造体(パルス光出力7.0mW)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】パルス光出力と微小構造体の最大径の関係を示す図である。
【図11】StageI〜IVの微小構造体を示す断面図である。
【図12】実施例4の光学無反射膜を示す図である。
【図13】実施例5の光導波路を示す図である。
【図14】実施例6の光フィルタを示す図である。
【図15】実施例7の原盤を示す上面図である。
【図16】図15の原盤の製造方法を示す断面図である。
【図17】実施例7の微小構造体の他の例を示す断面図である。
【図18】実施例8の光学無反射膜を示す図である。
【図19】実施例9の光学無反射膜を示す図である。
【図20】実施例9の光学無反射膜の他の例を示す断面図である。
【図21】実施例10の情報記録媒体を示す上面図である。
【図22】実施例11の光導波路を示す図である。
【図23】実施例12の光フィルタを示す断面図である。
【図24】実施例12の光フィルタの他の例を示す断面図である。
【図25】実施例13の微小構造体の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図26】パルス光出力と微小構造体の外径及び内径の関係を示す図である。
【図27】実施例13の微小構造体の他の例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図28】実施例13の微小構造体の他の例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図29】実施例15の微小構造体の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図30】実施例15の微小構造体の他の例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図31】波長多重通信を説明する図である。
【図32】実施例17の偏光分離素子を示す斜視図である。
【図33】実施例17の偏光分離素子の製造方法を示す断面図である。
【図34】実施例17の偏光分離素子(パルス光出力3.5mW)の走査電子顕微鏡写真である。
【図35】実施例17の偏光分離素子のP偏光の透過率の波長依存性を示す図である。
【図36】実施例17の偏光分離素子(パルス光出力2.5mW)の走査電子顕微鏡写真である。
【図37】実施例17の偏光分離素子のP偏光の透過率の波長依存性を示す図である。
【図38】実施例18の光フィルタを示す斜視図である。
【図39】実施例18の光フィルタの製造方法を示す断面図である。
【図40】実施例18の光フィルタの走査電子顕微鏡写真である。
【図41】実施例18の光フィルタのP偏光の透過率の波長依存性を示す図である。
【図42】実施例19の無機EL素子を示す断面図である。
【図43】実施例20の色素増感型太陽電池を示す断面図である。
【図44】実施例21の非球面光学レンズを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有することを特徴とする微小構造体。
【請求項2】
曲面を有する凸形状、円柱状の構造体の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状であることを特徴とする請求項1に記載の微小構造体。
【請求項3】
曲面を有する凸形状、円柱状の構造体の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状の断面が連続的に形成されている形状であることを特徴とする請求項1に記載の微小構造体。
【請求項4】
前記硫黄化合物は、ZnSを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項5】
前記硫黄化合物は、所定の波長の光の吸収能を向上させる硫黄化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項6】
前記硫黄化合物は、FeS及びGeS2の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項5に記載の微小構造体。
【請求項7】
所定の波長の光の吸収能を向上させる材料をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項8】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、Al、Ag、Au、Cu、Zn、Pt、Sb、Te、Ge、Si、Bi、Mn、W、Nb、Co、Sr、Fe、In、Sn、Ni、Mo、Mg及びCaの少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項7に記載の微小構造体。
【請求項9】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料の酸化物をさらに含有することを特徴とする請求項8に記載の微小構造体。
【請求項10】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、第二の硫黄化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項11】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、ZnTe、ZnSe及びMnSの少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項10に記載の微小構造体。
【請求項12】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、蛍光物質を含有することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項13】
前記蛍光物質は、CdSe及びCdTeの少なくとも一方であることを特徴とする請求項12に記載の微小構造体。
【請求項14】
前記酸化ケイ素を10mol%以上30mol%以下含有することを特徴とする請求項5乃至12のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項15】
基板上に、硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層を形成する工程と、
該硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層にレーザ光を照射する工程と、
該レーザ光が照射された硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層をエッチングする工程を有し、
該硫黄化合物は、所定の波長の光の吸収能を向上させる硫黄化合物を含有する、又は、該硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層は、光吸収能を向上させる材料をさらに含有することを特徴とする微小構造体の製造方法。
【請求項16】
基板上に、請求項5乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を形成する工程と、
該基板上に形成された微小構造体をマスクにして該基板をエッチングする工程を有することを特徴とする基板のパターニング方法。
【請求項17】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有することを特徴とする構造物。
【請求項18】
前記微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする請求項17に記載の構造物。
【請求項19】
前記微小構造体が周期的に配置されている領域は、前記微小構造体が周期的に配列されていない場合より所定の波長域の光の透過率が高いことを特徴とする請求項18に記載の構造物。
【請求項20】
基板上に、請求項12又は13に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする情報記録媒体。
【請求項21】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする原盤。
【請求項22】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする原盤。
【請求項23】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする光学素子。
【請求項24】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする光学素子。
【請求項25】
光フィルタ、光スイッチ、光学無反射膜、光導波路、回折格子又は偏光分離素子であることを特徴とする請求項23又は24に記載の光学素子。
【請求項26】
請求項23乃至25のいずれか一項に記載の光学素子を有することを特徴とする光通信装置。
【請求項27】
基板上に、DNA断片が固定されているDNAチップであって、
該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有することを特徴とするDNAチップ。
【請求項28】
基板上に、DNA断片が固定されているDNAチップであって、
該基板は、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とするDNAチップ。
【請求項29】
基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されている発光素子であって、
該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする発光素子。
【請求項30】
基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されている発光素子であって、
該基板は、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする発光素子。
【請求項31】
基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されている光電変換素子であって、
該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項32】
基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されている光電変換素子であって、
該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項33】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体からなることを特徴とする光学レンズ。
【請求項34】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする光学レンズ。
【請求項1】
硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有することを特徴とする微小構造体。
【請求項2】
曲面を有する凸形状、円柱状の構造体の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状であることを特徴とする請求項1に記載の微小構造体。
【請求項3】
曲面を有する凸形状、円柱状の構造体の上に曲面を有する凸形状の構造体が形成されている形状又は円筒形状の断面が連続的に形成されている形状であることを特徴とする請求項1に記載の微小構造体。
【請求項4】
前記硫黄化合物は、ZnSを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項5】
前記硫黄化合物は、所定の波長の光の吸収能を向上させる硫黄化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項6】
前記硫黄化合物は、FeS及びGeS2の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項5に記載の微小構造体。
【請求項7】
所定の波長の光の吸収能を向上させる材料をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項8】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、Al、Ag、Au、Cu、Zn、Pt、Sb、Te、Ge、Si、Bi、Mn、W、Nb、Co、Sr、Fe、In、Sn、Ni、Mo、Mg及びCaの少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項7に記載の微小構造体。
【請求項9】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料の酸化物をさらに含有することを特徴とする請求項8に記載の微小構造体。
【請求項10】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、第二の硫黄化合物及び亜鉛化合物の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項11】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、ZnTe、ZnSe及びMnSの少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項10に記載の微小構造体。
【請求項12】
前記所定の波長の光の吸収能を向上させる材料は、蛍光物質を含有することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項13】
前記蛍光物質は、CdSe及びCdTeの少なくとも一方であることを特徴とする請求項12に記載の微小構造体。
【請求項14】
前記酸化ケイ素を10mol%以上30mol%以下含有することを特徴とする請求項5乃至12のいずれか一項に記載の微小構造体。
【請求項15】
基板上に、硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層を形成する工程と、
該硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層にレーザ光を照射する工程と、
該レーザ光が照射された硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層をエッチングする工程を有し、
該硫黄化合物は、所定の波長の光の吸収能を向上させる硫黄化合物を含有する、又は、該硫黄化合物及び酸化ケイ素を含有する層は、光吸収能を向上させる材料をさらに含有することを特徴とする微小構造体の製造方法。
【請求項16】
基板上に、請求項5乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を形成する工程と、
該基板上に形成された微小構造体をマスクにして該基板をエッチングする工程を有することを特徴とする基板のパターニング方法。
【請求項17】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有することを特徴とする構造物。
【請求項18】
前記微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする請求項17に記載の構造物。
【請求項19】
前記微小構造体が周期的に配置されている領域は、前記微小構造体が周期的に配列されていない場合より所定の波長域の光の透過率が高いことを特徴とする請求項18に記載の構造物。
【請求項20】
基板上に、請求項12又は13に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする情報記録媒体。
【請求項21】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする原盤。
【請求項22】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする原盤。
【請求項23】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする光学素子。
【請求項24】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする光学素子。
【請求項25】
光フィルタ、光スイッチ、光学無反射膜、光導波路、回折格子又は偏光分離素子であることを特徴とする請求項23又は24に記載の光学素子。
【請求項26】
請求項23乃至25のいずれか一項に記載の光学素子を有することを特徴とする光通信装置。
【請求項27】
基板上に、DNA断片が固定されているDNAチップであって、
該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有することを特徴とするDNAチップ。
【請求項28】
基板上に、DNA断片が固定されているDNAチップであって、
該基板は、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とするDNAチップ。
【請求項29】
基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されている発光素子であって、
該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする発光素子。
【請求項30】
基板上に、第一の電極、発光層及び第二の電極が順次積層されている発光素子であって、
該基板は、基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする発光素子。
【請求項31】
基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されている光電変換素子であって、
該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項32】
基板上に、第一の電極、光電変換層及び第二の電極が順次積層されている光電変換素子であって、
該基板は、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体が周期的に配置されている領域を有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項33】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体からなることを特徴とする光学レンズ。
【請求項34】
基板上に、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の微小構造体を有する構造物を用いて製造されていることを特徴とする光学レンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図26】
【図31】
【図32】
【図33】
【図35】
【図37】
【図38】
【図39】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図25】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図34】
【図36】
【図40】
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【図11】
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【図7】
【図8】
【図9】
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【図28】
【図29】
【図30】
【図34】
【図36】
【図40】
【公開番号】特開2008−290227(P2008−290227A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276730(P2007−276730)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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